目次第1 本記事の対象と結論1 三つの手続を区別すること2 結論第2 免責許可・免責不許可決定への即時抗告1 即時抗告ができる裁判と通常の抗告人2 抗告期間3 抗告状と相手方の住所第3 破産事件記録で債権者の住所を確認する1 破産者本人は利害関係人であること2 電話照会では記録内容を確認できないこと3 確認すべき記録と限界第4 免責確定後の請求異議の訴え1 免責許可決定の効力2 非免責債権の確認3 一つの債務名義に複数の債権が含まれる場合4 請求異議の訴え5 執行停止の申立て第5 請求異議で被告の住所が不明な場合1 被告表示と送達先2 住所調査の順序3 公示送達は最後の手段であること第6 戸籍の附票・附票の除票で分かる住所1 同じ本籍と同じ戸籍は異なること2 相手方が別戸籍になった後の住所3 誰が交付を請求できるか4 附票の住所と実際の居所,DV等支援措置第7 実務チェックリスト第8 関連記事出典
第1 本記事の対象と結論
1 三つの手続を区別すること
破産者又は破産債権者が転居した場合,①免責許可又は免責不許可の裁判に対する即時抗告,②破産事件記録の閲覧・謄写,③免責許可決定の確定後に提起する請求異議の訴えを区別する必要がある。
即時抗告は係属中の破産・免責事件における不服申立てであるのに対し,請求異議の訴えは債務名義の執行力を排除するための新しい訴訟であり,相手方住所の扱いも異なる。
本記事は,令和8年9月10日現在の法令及び裁判所の公開案内に基づき,住所が分からない場合の確認順序を整理するものである。
個別事件では,裁判書の内容,事件番号,公告日,債務名義の種類,破産債権の発生原因及び裁判所からの補正指示を確認する必要がある。
2 結論
免責の裁判に対する即時抗告では,抗告人の住所,事件番号,原裁判及び抗告の趣旨・理由を明らかにする必要があるが,破産者が抗告する際に個々の破産債権者を被告として,その全員の現住所を調査・記載する手続ではない。
他方,免責許可決定の確定後に破産債権者を被告として請求異議の訴えを提起する場合,訴状の被告表示と送達先を定めるため,原則として被告の住所調査が必要となる。
相手方の現住所が分からないときは,まず自分の破産事件記録に提出された債権者一覧表,債権届出書,名義変更届その他の書類を確認するのが合理的である。
裁判所が別事件の記録に新住所を保有しているからといって,新しい訴訟で裁判所が当然にその住所を探索し,訴状の被告表示を補ってくれるわけではない。
かつて同じ本籍であっただけでは,自己の戸籍の附票又は附票の除票から,別戸籍となった相手方の現在住所が分かるとは限らない。
同じ本籍と同じ戸籍は別の概念であり,古い戸籍の附票に記録されるのは,原則としてその戸籍に在籍していた期間中の住所履歴までである。
第2 免責許可・免責不許可決定への即時抗告
1 即時抗告ができる裁判と通常の抗告人
破産法252条5項は,免責許可の申立てについての裁判に対して即時抗告をすることができると定める。
通常は,免責不許可決定に対して破産者が,免責許可決定に対して不服の利益を有する破産債権者が即時抗告をすることになる。
免責許可決定を得た破産者又は免責不許可を求めていた債権者には,通常,その結論を自己に有利に変更する不服の利益がない。
もっとも,誰に抗告権があるかは原裁判の内容と抗告によって求める結論に即して判断する必要がある。
2 抗告期間
免責許可決定は公告されるため,即時抗告期間は公告が効力を生じた日から2週間である(破産法9条,10条及び252条7項)。
官報への掲載日の翌日に公告の効力が生じ,その日から2週間を計算する。
免責不許可決定は公告されないため,破産法13条によって準用される民事訴訟法の規定により,裁判の告知を受けた日から1週間が即時抗告期間となる。
許可と不許可とで期間が異なるので,決定正本の受領日だけを見て一律に2週間と扱ってはならない。
3 抗告状と相手方の住所
抗告状には,抗告人を特定する氏名・住所,原事件の裁判所・事件番号,原裁判の表示,抗告の趣旨及び理由を記載する。
提出先は原裁判所であり,免責事件の記録と結び付けて処理される。
この手続は,破産者が各破産債権者を被告として提起する新しい訴訟ではない。
したがって,破産者が免責不許可決定を抗告する場合,個々の債権者の現在住所を一から調査して抗告状に列挙することが通常の出発点にはならない。