目次
第1 結論第2 換価か現物承継かを判断する順序1 遺言書の文言を確認する2 金融商品の種類と取扱金融機関を確認する3 受取人の希望と遺言執行者の権限を分ける第3 有価証券を換価する場合の注意点1 売却時期と売却価格は別問題である2 換価代金の受領方法を確認する3 市場変動の負担者を確認する第4 有価証券を現物で承継する場合の注意点1 受入れ可能な証券口座を準備する2 商品ごとの移管可否を確認する3 配当金等の帰属を確認する第5 相続税評価と売却時の税務1 相続税評価額と実際の売却代金は一致しない2 取得費は原則として被相続人から引き継ぐ3 税務申告の担当者を明確にする第6 遺言執行者と相続人等の役割分担1 遺言執行者が行うこと2 相続人又は受遺者が行うこと3 弁護士・税理士等へ確認すること第7 金融商品の確認書を読むチェックリスト1 書面の目的を確認する2 期限と不利益を確認する3 価格・費用・税務を確認する第8 よくある質問1 信託銀行が遺言執行者なら株式は必ず売却されるのか2 相続人全員が同意すれば受取方法を変更できるのか3 相続人が売却日又は価格を指定できるのか4 現物承継には証券口座が必要か5 相続税は実際の売却代金を基準に計算するのか第9 関連記事第10 出典・参考資料
第1 結論
信託銀行が遺言執行者になる場合でも,株式,投資信託その他の有価証券が常に売却されるわけではない。
最初に確認すべきなのは,遺言書が有価証券を換価して代金を交付する内容か,有価証券そのものを特定の相続人又は受遺者に取得させる内容かである。
換価して分配する遺言であれば,原則として遺言執行者は売却又は解約を進める。
現物で取得させる遺言であれば,原則として取得者名義の証券口座等へ振り替えるための手続を進める。
相続人又は受遺者が遺言と異なる受取方法を希望しても,その希望だけで換価を現物承継へ,又は現物承継を換価へ変更できるわけではない。
金融機関から確認書その他の書面が示された場合は,遺言内容の確認にとどまる書面か,受取方法の変更申出を含む書面かを区別し,提出期限,必要口座,費用,撤回の可否及び金融機関が申出を受け入れない場合を確認する必要がある。
第2 換価か現物承継かを判断する順序
1 遺言書の文言を確認する
出発点は,商品名や担当者の説明ではなく,遺言書の条項である。
「換価して代金を交付する」,「売却代金を分配する」などの文言があれば,通常は換価処分を予定している。
これに対し,「甲に株式を相続させる」,「乙に投資信託を遺贈する」など,金融商品そのものを取得させる文言であれば,通常は現物承継を予定している。
同じ遺言書でも,預貯金,有価証券及び不動産で処分方法が異なることがある。
残余財産を換価して分配する条項の対象に有価証券が含まれるか,個別の承継条項が優先するかも確認する必要がある。
遺言執行者は,自己の判断で有利と思う方法を選ぶのではなく,遺言の内容を実現するために必要な行為を行う立場にある。
2 金融商品の種類と取扱金融機関を確認する
「有価証券」と一括りにしても,上場株式,投資信託,国債,社債,外国証券及び非上場株式では,換価又は振替の方法が異なる。
同一の商品でも,口座管理機関,販売会社,信託銀行又は証券会社の事務手続が異なることがある。
口座の所在が分からない振替株式等については,証券保管振替機構の登録済加入者情報の開示手続が手掛かりになることがある。
もっとも,開示で口座管理機関が判明しても,残高,取得価額及び承継方法は別に確認する必要がある。
3 受取人の希望と遺言執行者の権限を分ける
相続人全員が現物で受け取りたい,又は早く売却してほしいと希望しても,遺言執行者は遺言に従って職務を行う必要がある。
遺言と異なる処理を希望する場合は,遺言の解釈,受益者全員の同意の効力,遺言執行者の権限及び金融機関の約定を別々に検討しなければならない。
信託銀行に受取方法の変更制度がある場合でも,それは民法上当然に認められる権利ではなく,商品約定又は個別運用に基づく手続であることが多い。
そのため,所定書面を提出すれば必ず希望どおりになるとは限らない。
第3 有価証券を換価する場合の注意点
1 売却時期と売却価格は別問題である
遺言が換価を命じていても,いつ,どの価格で売却するかまで定めていないことが多い。
市場性のある商品は価格が変動するため,死亡時,相続税評価時,売却注文時,約定時及び受渡時の価格が一致しない。