第1 業者からの要求は内容ごとに分けて判断する第2 共有持分買取業者の目的と取得できる権利1 持分だけの売却と業者の回収方法2 使用と管理を自由に決められるか第3 共有物分割請求を受けた場合の選択肢1 現物分割,価格賠償及び競売2 住み続けるための価格と支払能力3 相続した不動産では手続を分ける第4 令和8年8月28日最高裁判決と借地上建物の持分1 建物持分に14条の買取請求権は成立しない2 土地所有者の不利益と共有物分割3 補足意見が示した射程第5 借地上建物を売買する前の承諾確認1 通常売買は譲渡前の手続を検討する2 競売・公売には別の申立期限がある第6 強引な勧誘と売買・訴訟の違法性1 勧誘規制とクーリング・オフ2 弁護士法73条と権利の実行第7 通知を受けた共有者と売却予定者の初動1 まず手元の書面と登記を照合する2 価格調査と専門家への相談を絞る第8 出典1 法令2 裁判例3 公的機関の資料4 文献
第1 業者からの要求は内容ごとに分けて判断する
他の共有者が持分を業者に売却しても,残った共有者が直ちに自分の持分を売り,又は業者の持分を買い取る義務を負うわけではない。
ただし,持分を取得した業者も共有者としての権利を持つため,使用の対価や共有物分割の請求まで一括して拒めるわけではない。
届いた書面が,任意の売買の提案なのか,使用料の請求なのか,裁判所からの訴状なのかを分けて確認する必要がある。
本記事は,令和8年8月31日現在の法令及び公表裁判例に基づき,不動産の持分を取得した業者への対応と,持分売却前の確認事項を扱う。
借地上建物については,最高裁令和8年8月28日第二小法廷判決(令和6年(受)第2169号)が,建物の持分に借地借家法14条の建物買取請求権は成立しないと判断したため,第4でその範囲を説明する。
第2 共有持分買取業者の目的と取得できる権利
1 持分だけの売却と業者の回収方法
共有持分とは,不動産全体の所有権に対する割合であり,建物の特定の部屋や土地の特定の区画そのものではない。
共有者は,原則として他の共有者の同意を得ずに自己の持分を売却できるが,他の共有者の持分まで自分の意思だけで移転することはできない(民法176条・206条,工藤寛太ほか共編『共有不動産をめぐるトラブル対応の手引』146頁~148頁)。
持分を取得した業者が資金を回収する方法としては,他の共有者への持分売却,残りの持分の取得後の一括売却,共有者全員による一括売却への合意,共有物分割による清算などが考えられる。
どの方法を予定しているかは業者ごとに異なるため,「持分を買った」という事実だけから特定の目的や違法性を決め付けることはできない。
もっとも,借地上建物の売買に伴う土地賃借権の譲渡には,民法612条等による別の検討が必要となる。
建物の持分を取得することと,土地所有者との土地利用関係を確保することは同じではない。
また,マンションの共用部分の持分や敷地利用権には,区分所有法15条・22条の分離処分に関する規律がある。
専有部分自体の共有持分を売る場合と,専有部分から共用部分の持分等を切り離して売る場合とを区別しなければならない。
2 使用と管理を自由に決められるか
民法249条1項は,各共有者が持分に応じて共有物の全部を使用できると定めている。
そのため,業者が持分を取得しただけで,居住する他の共有者の使用権限が当然に消滅するわけではない。
他方,同条2項は,別段の合意がある場合を除き,自己の持分を超える使用の対価を他の共有者に償還する義務を定めている。
使用料を請求された場合は,従前の無償使用の合意,使用の範囲,請求期間及び金額の算定根拠を確認することになり,これらによって請求の当否や金額が変わり得る。
共有物の形状又は効用を著しく変える変更は原則として他の共有者の同意を要し,管理に関する事項は持分の価格の過半数で決する(民法251条1項・252条1項)。
2分の1の持分だけでは過半数に達せず,過半数を有していても,共有者間の決定に基づいて使用する共有者に特別の影響を及ぼす決定には,その者の承諾が必要である(同条3項)。
第3 共有物分割請求を受けた場合の選択肢
1 現物分割,価格賠償及び競売
民法256条1項は,各共有者に原則としていつでも分割を請求できる権利を認める一方,5年を超えない期間の不分割合意を認めている。
協議が調わず,又は協議ができないときは,同法258条1項により裁判所へ分割を請求できるため,業者からの連絡を拒むだけでは共有関係は解消しない。
裁判による分割方法は,民法258条2項・3項により,次のように整理できる。
分割方法内容確認する点現物分割土地等を現物で分ける分割の物理的・経済的な実現可能性価格賠償による分割共有者に金銭債務を負担させ,他の共有者の持分を取得させる取得の相当性,評価額,支払能力等競売による分割競売して代金を分ける前二者による分割ができないか,分割で価格が著しく減少するおそれがあるか