目次第1 この記事の対象と結論第2 膝関節脱臼で区別すべき血管障害1 急性の膝窩動脈損傷2 遅発性の狭窄・閉塞及び仮性動脈瘤3 深部静脈血栓症等の静脈障害第3 急性期に最初に行う評価1 整復前後の神経血管診察2 足関節上腕血圧比(ABI)3 反復診察第4 動脈障害を評価する画像検査1 動脈の血管エコー2 CT angiography(CTA)3 カテーテル血管撮影4 正常なCTAの意味第5 静脈障害とCT venography1 深部静脈血栓症を疑う場合の初期画像2 CT venographyの役割第6 慢性期・手術前に再検査を検討する条件1 慢性虚血を疑う所見2 仮性動脈瘤を疑う所見3 靱帯再建術等の手術計画第7 造影CTの負担と安全確認1 腎機能及びヨード造影剤への反応歴2 被ばく及び反復検査3 緊急時の利益と危険第8 後遺障害等級との関係1 画像上の血管損傷と後遺障害は別の命題であること2 症状固定時に確認する残存障害3 事故との因果関係を示す時系列4 等級のためだけに造影CTを行わないこと第9 後遺障害申請で確保する資料1 急性期資料2 治療期資料3 症状固定時資料第10 検査を選ぶ実務上の順序第11 関連する記事第12 出典・参考資料1 法令・行政資料2 画像診断・造影剤の指針3 医学文献
第1 この記事の対象と結論
膝関節脱臼では,膝の後方を走る膝窩動脈が損傷し,早期の血行再建を要することがある。
外傷時の転位が受診前に自然整復されていることもあるため,診察時の外形だけで血管損傷の危険を否定することはできない。
急性期の中心課題は,脈拍,皮膚色・温度,毛細血管再充満,運動・知覚所見及び足関節上腕血圧比(ABI)を確認し,緊急の血管外科的対応又は追加画像が必要かを判断することである。
米国放射線医学会の下肢血管外傷に関する画像選択基準は,下肢血管外傷の初期画像として造影CTによるCT angiography(CTA)を通常適切とし,血管超音波を場合により適切としている。
もっとも,動脈損傷の評価と深部静脈血栓症等の静脈障害の評価では,第一に選択される検査が異なる。
また,事故直後の血管損傷を示す画像と,症状固定時に残る後遺障害を示す資料も同じではない。
結論として,造影CTは医学的な疑い及び治療上の必要性がある場合に行う検査であり,後遺障害等級を取得する目的だけで一律に反復する検査ではない。
第2 膝関節脱臼で区別すべき血管障害
1 急性の膝窩動脈損傷
膝関節が大きく転位すると,固定性の高い膝窩動脈に伸展,圧迫又は剪断力が加わり,内膜損傷,血栓性閉塞,断裂又は仮性動脈瘤等を生じることがある。
足背動脈又は後脛骨動脈の脈拍が触知できても,側副血行により末梢の血流が一時的に保たれる場合があるため,脈拍だけで重大な動脈損傷を除外することはできない。
膝関節脱臼後の脈拍診察を検討したメタアナリシスでは,異常な足部脈拍だけを指標とした場合の感度が十分でないことが示されている。
したがって,脈拍所見,ABI,受傷機転,神経症状及び経時的変化を組み合わせて評価する必要がある。
2 遅発性の狭窄・閉塞及び仮性動脈瘤
受傷直後に明らかな虚血がなくても,内膜損傷に伴う血栓の進行,狭窄又は仮性動脈瘤が後から明らかになる場合がある。
遅れて出現する冷感,間欠性跛行,足部脈拍の左右差,腫瘤,拍動感,雑音又は急な疼痛増悪がある場合は,受傷時検査が正常であったことだけで血管障害を否定せず,再評価を検討する。
もっとも,遅発性病変が報告されていることは,全例に定期的な造影CTを反復する根拠とはならない。
症状,診察所見,ABI又は血管エコーの変化があるか,手術計画上の血管走行確認が必要かを先に確認する。
3 深部静脈血栓症等の静脈障害
外傷,手術,固定及び活動量低下の後には,深部静脈血栓症が別の問題となることがある。
片側下肢の腫脹,疼痛,熱感又は周径差は動脈虚血の典型像とは異なり,静脈血栓症,感染,術後変化又は複合性局所疼痛症候群等も含めて原因を分ける必要がある。
動脈のCTAと静脈のCT venographyは,同じ造影CT装置を用いる場合があっても,造影のタイミング及び評価対象が異なる。
動脈障害を疑って実施したCTAが,静脈血栓症の標準的な初期検査を当然に代替するものではない。
第3 急性期に最初に行う評価
1 整復前後の神経血管診察
膝関節脱臼が疑われる場合は,可能な範囲で整復前後の足背動脈・後脛骨動脈の脈拍,ドプラ信号,皮膚色・温度,毛細血管再充満,運動及び知覚を記録する。
脈拍消失,進行する虚血,活動性出血,拡大する血腫その他の強い血管損傷所見がある場合は,画像検査の完了を待つことが適切かを含め,救急医及び血管外科医が緊急に判断する事項となる。
膝関節が自然整復されている場合もあるため,事故現場又は救急搬送時の変形,整復操作及び整復前の神経血管所見を診療録で確認する。
(続きを読む...)膝関節脱臼後の血管障害――ABI・血管エコー・造影CT・CT venographyの使い分けと後遺障害(AI作成)