第1 外部経験制度の目的と資料の読み方1 制度の目的2 年度別資料3 予定人数と実績人数の区別第2 令和7年4月現在の外部経験コース1 コースの全体像2 訟務検事及び法務省3 弁護士職務経験4 行政官庁,在外公館及び法整備支援5 民間企業,日本銀行及びシンクタンク6 海外留学その他第3 外部経験中の身分と判事任命資格1 裁判所法42条の基本構造2 弁護士職務経験中の身分3 資格算入されないことが明記されたコース第4 選考と復帰後の異動1 弁護士職務経験の選考2 復帰後の異動方針第5 人数と実績の読み方1 令和6年度の外部研修実績2 国会答弁で示された規模3 短期派遣研修との違い第6 制度の意義と評価上の限界1 公式の位置付け2 異なる評価3 公表資料から確認できない点第7 関連記事第8 出典・参考資料1 法令2 最高裁判所資料3 国会会議録4 文献
第1 外部経験制度の目的と資料の読み方
1 制度の目的
判事補の外部経験は,裁判所の外で多様で豊かな知識,経験及び感覚を得る機会を設け,裁判官の能力及び資質の向上を図る制度である。最高裁判所は,平成16年6月23日の裁判官会議で「判事補の経験の多様化についての基本方針」を定め,原則としてすべての判事補に,判事補在職中に外部経験の機会を与えることとした。もっとも,外部経験は一つの法律で統一的に定められた単一制度ではなく,訟務検事,法務省,行政官庁,弁護士職務経験,在外公館,法整備支援,民間企業,海外留学その他の各コースで,外部経験中の身分,期間及び判事任命資格への算入方法が異なる。
判事補の官職,職権及び任官後の流れの基本は「判事補とは」を参照してください。
2 年度別資料
本記事は,最高裁判所人事局が作成した「判事補の外部経験について」(令和7年4月)を中心に,令和7年4月現在の制度を整理したものである。平成26年度から令和7年度までの新任判事補研修資料は,新任判事補研修の資料にまとめているが,派遣先及び運用は年度によって変わるため,古い年度の資料を現行制度の説明として読むべきではない。
3 予定人数と実績人数の区別
令和7年4月資料に記載された「予定人数」は,原則として制度設計上の年間予定数であり,その年度に実際に派遣された人数を意味しない。また,弁護士職務経験の資料に掲載された法律事務所一覧は,令和3年度から令和7年度までの受入実績であり,同一覧に掲載された全事務所が令和7年度の受入先であるという意味ではない。したがって,予定人数,単年度実績,複数年度の受入先一覧及びある時点の在籍者数は,区別して読む必要がある。
第2 令和7年4月現在の外部経験コース
1 コースの全体像
令和7年4月資料が示す主なコースは,次のとおりである。
コース主な派遣先標準的な期間外部経験中の主な身分年間予定数等訟務検事法務局及び法務省訟務局等原則2年検事10人法務省民事局及び刑事局等2年又は3年検事10人弁護士職務経験法律事務所原則2年裁判所事務官兼弁護士10人行政官庁金融庁,公正取引委員会及び各省庁等原則2年検事又は派遣先職員全体概要では30人在外公館日本国大使館及び政府代表部2年程度外務事務官等若干名法整備支援インドネシア及びカンボジア1年又は2年検事又はJICA長期専門家若干名民間企業長期研修民間企業1年判事補10人日本銀行日本銀行1年判事補1人シンクタンク21世紀政策研究所1年判事補1人海外留学海外の大学院等1年又は2年判事補30人衆議院法制局衆議院法制局2年衆議院法制局参事1人国立国会図書館国立国会図書館2年国立国会図書館参事1人預金保険機構預金保険機構2年預金保険機構職員若干名
行政官庁の30人は全体概要に示された計画数であり,個別派遣先の欄には「若干名」と記載されている。民間企業,日本銀行及びシンクタンクについても,資料の総括欄と個別欄の区分が異なるため,各欄の数字を機械的に合計してはならない。
2 訟務検事及び法務省
訟務検事は,国を当事者とする訴訟等を担当する法務局又は法務省訟務局等で勤務し,原則として2年間,検事の身分となるが,法務省訟務局で勤務する場合は2年又は3年とされている。法務省では,民事局及び刑事局等で2年又は3年間勤務し,検事の身分となる。いずれも,検事としての在職は,裁判所法42条1項が判事任命資格について掲げる在職期間に含まれる。
3 弁護士職務経験
弁護士職務経験は,東京,大阪,名古屋,福岡及び札幌を中心とする法律事務所で,原則として2年間,弁護士として勤務するコースである。令和7年4月資料の年度別欄では,令和7年度の実績として東京8人,大阪1人,名古屋1人及び福岡1人の合計11人が掲載されており,同資料の制度概要にある年間予定数10人とは一致しないが,これは予定数と実績数の違いによるものであり,矛盾ではない。弁護士職務経験の法律関係及び手続は,判事補及び検事の弁護士職務経験制度で詳しく説明している。
4 行政官庁,在外公館及び法整備支援
行政官庁の派遣先には,金融庁,証券取引等監視委員会,総務省行政不服審査会,公害等調整委員会,国税不服審判所,文部科学省原子力損害賠償紛争和解仲介室及び中央労働委員会のほか,各省庁が含まれる。行政機関等への出向では,判事補の身分のまま勤務するとは限らず,検事又は派遣先の職員となる場合があり,その仕組みは,行政機関等への出向裁判官―身分・人数・判検交流を解説(AIリライト)で整理している。
在外公館の派遣先として,令和7年4月資料は,中国,米国及びカナダの日本国大使館,在ストラスブール日本国総領事館,国際連合日本政府代表部並びに在ジュネーブ国際機関日本政府代表部を掲げており,赴任前には約3か月の研修が予定されている。法整備支援の派遣先は,インドネシアのジャカルタ及びカンボジアのプノンペンであり,赴任前には約6か月の研修が予定されているため,古い資料に掲載された国又は機関を現在の派遣先として記載し続けないよう注意が必要である。
5 民間企業,日本銀行及びシンクタンク
民間企業長期研修は1年間であり,資料には商社,金融機関,製造業,運輸業,情報通信業その他の受入先例が掲載され,日本銀行及び21世紀政策研究所への派遣も1年間である。これらのコースでは,判事補の身分を保ったまま派遣先で勤務するため,判事補としての在職期間が継続する。企業内での経験には,意思決定の過程,事業部門との調整,費用及び顧客への説明を組織の内部から理解する意義がある一方,受入企業の慣行又は価値判断を無批判に裁判実務へ持ち込まないことも重要である。
受入先の選定について,平成27年5月14日の参議院法務委員会では,最高裁判所長官代理者が,経団連等の理解を得て受入先を確保し,製造業,運輸業,商社,金融機関等の業種についてバランスを考慮していると説明した(同日の発言92)。また,裁判官として公平・中立な立場を取る点について,研修先の変更や特定の業種への偏りを避けることを考慮していると説明した(発言94)。
これらは平成27年当時の制度運用に関する説明であり,現在の全受入先に適用される具体的な選定基準や,個別事件に対する影響の有無を証明するものではない。年度別の受入実績と,当時の制度説明を区別して確認する必要がある。名簿・覚書の原資料は,民間企業長期研修等の年度別名簿・原資料一覧,受入先と延べ人数の集計は,民間企業長期研修等の受入先一覧と受入人数を参照されたい。
6 海外留学その他
海外留学は1年又は2年であり,判事補の身分を保ったまま海外の大学,ロースクール又は裁判所等で外国の法制度及び司法実務を研究するコースで,年度別の状況は,判事補の海外留学状況に掲載している。衆議院法制局では2年間,衆議院法制局参事として勤務し,判事補の職権の特例等に関する法律3条の3は,裁判所法41条,42条及び44条の適用について,その在職を法務事務官等の在職とみなしている。国立国会図書館及び預金保険機構への派遣はいずれも2年間であるが,令和7年4月資料は,国立国会図書館参事及び預金保険機構職員としての在職期間を判事任命資格に算入しないことを明記している。
海外留学の応募条件を調べる際には,令和7年4月の外部経験概要と令和8年1月20日付の選考通知を区別する必要がある。後者は裁判所制度の令和9年開始,人事院制度の令和10年開始の研究を対象とし,両制度合わせて30人程度を募集する。人事院制度にも1年間のコースがあるため,期間だけで制度を特定することはできない。
国・大学・予定期間の年度別比較は,判事補の海外留学先を名簿から分析―平成27年度~令和7年度の国・大学・研究期間を参照されたい。名簿の命令行は実出国・修了人数ではなく,国名のみの記載又は黒塗りから大学名を推測することもできない。学位取得を予定する制度内容と個人の取得実績を分け,留学国又は大学名だけで裁判官の能力や将来の職位を判断しないことが重要である。
第3 外部経験中の身分と判事任命資格
(続きを読む...)判事補の外部経験の概要―派遣先・身分・期間・判事任命資格(AIリライト)