第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象と基準日
本記事は,裁判所がどのような訴えについて判断し,どのような訴えについて判断しないのかを,裁判所法3条1項の「法律上の争訟」と,いわゆる司法権の限界に分けて整理する。
法令は,令和8年9月27日現在の条文をe-Gov法令検索で確認した。
裁判例は,裁判所ウェブサイト又は判例秘書で判決・決定の全文を確認したものに限って紹介しており,網羅的なものではない。
2 結論
①裁判所が固有の権限として裁判できるのは,「法律上の争訟」,すなわち当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって,法令の適用により終局的に解決することができるものに限られる。
②具体的な紛争を離れて法令の合憲性だけを判断することはできず,最高裁判所も抽象的な違憲審査の権限を持たない。
③宗教上の教義に関する判断が訴訟の帰すうを左右する必要不可欠のものであるときや,国家試験の合否の判定そのものの当否を争うときのように,法令の適用によって解決できない問題についても,裁判所は判断しない。
④もっとも,選挙無効訴訟や住民訴訟のように,法律が特に認めた訴え(民衆訴訟)は,法律上の争訟でなくても裁判の対象となる。
⑤国の支出の違法を理由に,納税者が納付済みの税金の一部の返還を国に求めた訴えについて,納税義務と国費の支出は法的根拠を異にするとして,請求を棄却した下級審判決がある。
⑥また,訴えそのものは裁判の対象となる場合でも,衆議院の解散のような高度に政治性のある国家行為や,国会の両院の議事手続については,裁判所はその有効無効を審査しないとされてきた。
⑦ただし,地方議会の議員に対する出席停止の懲罰が令和2年の大法廷判決で司法審査の対象とされたように,審査が及ばない領域は判例によって見直されることがある。
⑧事件の解決に必要のない憲法判断はおこなうべきでないとした下級審判決もある。
第2 司法権と「法律上の争訟」
1 憲法と裁判所法の規定
憲法76条1項は,「すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。」と定める。
これを受けて,裁判所法3条1項は,「裁判所は、日本国憲法に特別の定のある場合を除いて一切の法律上の争訟を裁判し、その他法律において特に定める権限を有する。」と定める。
裁判所の権限は,前段の「法律上の争訟」の裁判と,後段の「その他法律において特に定める権限」の二つに分かれる。
2 法律上の争訟の2つの要件
最高裁判所第三小法廷昭和56年4月7日判決(昭和51年(オ)第749号,民集35巻3号443頁,いわゆる板まんだら事件)は,裁判所がその固有の権限に基づいて審判することのできる対象は,「当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であつて、かつ、それが法令の適用により終局的に解決することができるもの」に限られるとした。
したがって,法律上の争訟に当たるには,①具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であることと,②法令の適用により終局的に解決できることの2つが必要である。
それより前の最高裁判所第一小法廷昭和29年2月11日判決(昭和26年(オ)第584号,民集8巻2号419頁)も,「法律上の争訟」を「法令を適用することによつて解決し得べき権利義務に関する当事者間の紛争」と定義していた。
3 付随的違憲審査制
憲法81条は,「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。」と定める。
最高裁判所大法廷昭和27年10月8日判決(昭和27年(マ)第23号,民集6巻9号783頁,いわゆる警察予備隊違憲訴訟)は,「司法権が発動するためには具体的な争訟事件が提起されることを必要とする。」とした。
同判決は,裁判所が具体的事件を離れて抽象的に法律命令等の合憲性を判断する権限を有するとの見解には,憲法上及び法令上何らの根拠も存しないとして,訴えを却下した。
同判決は,最高裁判所の違憲審査権についても,「この権限は司法権の範囲内において行使されるもの」であるとしている。
第3 具体的な紛争がない訴え
1 法令や議決の効力そのものを争う訴え
前記の警察予備隊違憲訴訟判決は,「特定の者の具体的な法律関係につき紛争の存する場合においてのみ裁判所にその判断を求めることができる」とした。
したがって,特定の者の権利義務と結び付かないまま,法令が憲法に違反することの確認や法令の無効の宣言を求める訴えは,法律上の争訟に当たらない。
前記の最高裁判所昭和29年2月11日判決は,村議会の予算議決の無効確認を求める訴えについて,「予算議決があつたというだけでは、未だ行政処分はないのであり具体的な権利義務に関する争訟があるとはいえず」として,法律上の争訟に当たらないとした。
2 法律が特に認めた訴え(民衆訴訟)
行政事件訴訟法5条は,民衆訴訟を,「国又は公共団体の機関の法規に適合しない行為の是正を求める訴訟で、選挙人たる資格その他自己の法律上の利益にかかわらない資格で提起するもの」と定義する。
同法42条は,「民衆訴訟及び機関訴訟は、法律に定める場合において、法律に定める者に限り、提起することができる。」と定める。
最高裁判所第二小法廷平成26年7月9日決定(平成26年(行ツ)第96号等,集民247号39頁)は,公職選挙法204条の選挙無効訴訟について,民衆訴訟は裁判所法3条1項の「法律上の争訟」ではなく,同項の「その他法律において特に定める権限」に含まれるものとして,法律に定める場合に法律に定める者に限り提起できるとした。
法律が民衆訴訟を認めている例には,公職選挙法204条の国政選挙の選挙無効訴訟,最高裁判所裁判官国民審査法36条の審査無効訴訟及び地方自治法242条の2の住民訴訟がある。
最高裁判所第一小法廷昭和53年3月30日判決(昭和51年(行ツ)第120号,民集32巻2号485頁)は,住民訴訟の訴権について,「住民全体の利益を保障するために法律によつて特別に認められた参政権の一種」であり,原告は「いわば公益の代表者として地方財務行政の適正化を主張するもの」であるとした。
3 国の支出を国民として争う訴え
住民訴訟は,普通地方公共団体の住民が,その団体の違法な財務会計上の行為等を争う制度である(地方自治法242条の2第1項)。
東京地方裁判所令和4年9月9日判決(令和4年(行ウ)第386号・第417号)は,元首相の国葬儀の実施とこれに伴う国費の支出の差止めを求めた訴えについて,これらの行為はそれ自体で国民の権利義務を形成するものではなく,処分性を欠くとして,訴えを却下した。
同判決は,なお書きで,納税者又は主権者としての国民の人格権を根拠とする差止めの訴えは,その実質において「国民一般の地位に基づいて本件国葬儀に係る国費の支出の差止めを求めるもの」であり,民衆訴訟に当たるとした。
その上で,同判決は,「政府が行う国費の支出につき、その違法を理由として国民に対し納税者ないし主権者としての資格でその支出を差し止める訴訟の提起を認める法律の規定は存在しない」とした。
湾岸戦争の際の資金拠出と掃海艇の派遣について違憲・違法の確認と国家賠償を求めた訴訟で,東京地方裁判所平成8年5月10日判決(平成3年(ワ)第2611号等,判例秘書の判例番号 L05130178)は,「現行法の下においては、政府の採った行為、措置あるいは国費の支出等について具体的な権利又は法律関係についての紛争を離れて裁判所が憲法及び法律に適合するかどうかを判断することは予定されているとは認められない」とした。
同判決は,原告らが主張する納税者基本権について,「憲法上、国民の納税義務と予算及び国費支出とは、その形式、実質ともにその法的な根拠及び手続を異にしているのであり、両者に直接的、具体的な関連性を認めることはできない」とした上で,これに基づいて国費の支出の違法是正を求める訴訟は,法律に定める場合に限って提起できる「民衆訴訟(納税者訴訟)と同様のものを主観訴訟の形式で提起するもの」であるとした。
同判決は,違憲・違法の確認を求める訴えを却下し,国家賠償請求を棄却した。
4 税金や罰金の返還を求める形の訴え
次の2件は,法律上の争訟に当たらないことを理由とした判決ではないが,違憲・違法を理由に金銭の支払を求める形をとった訴えがどう扱われたかを示している。
名古屋地方裁判所昭和55年11月19日判決(昭和47年(行ウ)第29号等,行集31巻11号2408頁)は,納税者らが,自衛隊法の違憲確認,税金の支払停止権の確認,自衛隊費に使用してはならない義務の確認,納付済みの税金のうち自衛隊費に使用された割合に相当する額の国家賠償又は不当利得としての返還等を求めた事件である。
同判決は,自衛隊法の違憲確認を求める部分について,裁判所は「具体的事件を離れて抽象的に法令等の合憲性を判断する権限を有しない」として,訴えを却下した。
同判決は,「憲法上国民の納税義務と予算及び国費支出とは、形式実質共にその法的根拠を異にし全く別個なものであり、両者は、直接的、具体的な関連性を有しないのである。」とした。
その上で,同判決は,納付済みの税金の一部の賠償又は返還を求める請求について,「国費の一部が自衛隊費に支出されているからといつて、それが国会の議決に基づくものである以上、納税者たる国民に、その是正を求めて出訴する途はなく、また納税義務と国家予算とは直接の関連性を有しないことは、先に説示したとおりであるから、これと異なる見解に立つ原告らの本請求は理由がないものというべきである。」として,これを棄却した。
他方,同判決は,自衛隊費に使用してはならない義務の確認を求める部分については,「現行法上認められていない納税者訴訟としての本請求は、もとより不適法として却下さるべきである」とした。
東京高等裁判所令和7年1月31日判決(令和6年(ネ)第599号)は,砂川事件の上告審判決と差戻し後の第一審判決が無効であるとして,納付した罰金の不当利得としての返還を求めた訴えについて,「民事訴訟等において、有罪判決の効力を争い、刑の執行として徴収された罰金額相当額の金員を不当利得として返還を求めることは、現行法上想定されていないものであって、控訴人らの不当利得返還請求に係る訴えは、許されないと解するのが相当である。」として,この部分の訴えを却下した。
同判決は,その理由として,確定した有罪判決に対する救済方法としては刑事訴訟法の再審手続があることや,刑事補償法の定めがあることを挙げている。
第4 法令の適用では解決できない紛争
1 信仰の対象の価値や宗教上の教義
前記の板まんだら事件は,宗教団体に対する寄付について,錯誤による贈与の無効を原因として不当利得の返還を求めた訴訟であった。
同判決は,錯誤の有無を判断するには信仰の対象の価値や宗教上の教義に関する判断が必要であり,本件訴訟は具体的な権利義務に関する紛争の形式をとっているものの,「その実質において法令の適用による終局的な解決の不可能なもの」であるとして,法律上の争訟に当たらないとした。
最高裁判所第二小法廷平成元年9月8日判決(昭和61年(オ)第943号,民集43巻8号889頁)は,寺院の建物明渡し等が求められた事件で,宗教団体内部でされた懲戒処分の効力が請求の当否を決する前提問題となっており,その効力の有無が紛争の本質的争点をなすとともに,宗教上の教義,信仰の内容に深くかかわっているため,その内容に立ち入らなければ判断できず,しかもその判断が訴訟の帰趨を左右する必要不可欠のものである場合には,その訴訟は法律上の争訟に当たらないとした。
最高裁判所第三小法廷平成5年9月7日判決(昭和61年(オ)第531号,民集47巻7号4667頁)は,宗教法人の代表役員の地位の存否を判断するには法主の地位にあるか否かを判断する必要があり,そのためには血脈相承の意義を明らかにしなければならない事案で,代表役員の地位の存否の確認を求める訴えは,裁判所が法令の適用によって終局的な解決を図ることができない訴訟として,法律上の争訟に当たらないとした。
もっとも,宗教上の地位が問題となるときでも,裁判所が常に判断を避けるわけではない。
最高裁判所第三小法廷昭和55年1月11日判決(昭和51年(オ)第958号,民集34巻1号1頁)は,寺院の住職たる地位の確認を求める訴えについて,「単に宗教上の地位についてその存否の確認を求めるにすぎないものであつて、具体的な権利又は法律関係の存否について確認を求めるものとはいえないから、かかる訴は確認の訴の対象となるべき適格を欠くものに対する訴として不適法である」とした。
他方,同判決は,所有権に基づく不動産等の引渡請求の当否を判断する前提問題として住職たる地位の存否が争われる場合には,「その判断の内容が宗教上の教義の解釈にわたるものであるような場合は格別、そうでない限り、その地位の存否、すなわち選任ないし罷免の適否について、裁判所が審判権を有する」とした。
最高裁判所第一小法廷昭和55年4月10日判決(昭和52年(オ)第177号,集民129号439頁)も,住職が規則上当然に代表役員となる寺院で代表役員の地位が争われた事件で,裁判所は代表役員であるかどうかを判断する前提として,「その者が右の規則に定める宗教活動上の地位を有する者であるかどうかを審理、判断することができるし、また、そうしなければならない」とした。
板まんだら事件判決,平成元年9月8日判決及び平成5年9月7日判決は,いずれも教義等に関する判断が訴訟の帰すうを左右する必要不可欠のものであることなどを理由としており,宗教団体が当事者であることだけで法律上の争訟でなくなるわけではない。
2 学問・技術上の知識や能力の判定
最高裁判所第三小法廷昭和41年2月8日判決(昭和39年(行ツ)第61号,民集20巻2号196頁)は,技術士国家試験の合格不合格の判定が争われた事件で,「国家試験における合格、不合格の判定も学問または技術上の知識、能力、意見等の優劣、当否の判断を内容とする行為であるから、その試験実施機関の最終判断に委せられるべきもの」であるとした。
同判決は,その判断の当否を審査し具体的に法令を適用して争いを解決調整できるものとはいえないとして,上告人の請求は「裁判所の審査できない事項について救済を求めるもの」であるとした。
採点内容そのものではなく,手続の違法等を争う場合の扱いは,司法修習生の罷免・修習停止等に対する不服申立方法で紹介している。
第5 裁判所の審査が及ばない領域(司法権の限界)
1 高度に政治性のある国家行為
最高裁判所大法廷昭和35年6月8日判決(昭和30年(オ)第96号,民集14巻7号1206頁,いわゆる苫米地事件)は,衆議院の解散が無効であるとして議員資格と歳費を請求した事件である。
同判決は,「直接国家統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為のごときはたとえそれが法律上の争訟となり、これに対する有効無効の判断が法律上可能である場合であつても、かかる国家行為は裁判所の審査権の外にあり」とした。
そして,この制約は,特定の明文による規定はないものの,「司法権の憲法上の本質に内在する制約」であるとした。
同判決は,解散の効力が訴訟の前提問題として主張されている場合でも裁判所の審査権の外にあるとして,上告を棄却した。
このように,同判決は法律上の争訟に当たる事件の中で審査が及ばない領域を示したものであり,法律上の争訟の範囲そのものを定めたものではない。
最高裁判所大法廷昭和34年12月16日判決(昭和34年(あ)第710号,刑集13巻13号3225頁,いわゆる砂川事件)は,旧日米安全保障条約について,「主権国としてのわが国の存立の基礎に極めて重大な関係をもつ高度の政治性を有するもの」であるとした。
その上で,同判決は,その内容が違憲かどうかの判断は,「一見極めて明白に違憲無効であると認められない限りは、裁判所の司法審査権の範囲外のもの」であるとした。
同判決は条約についての判断であり,苫米地事件判決と異なり,一見極めて明白に違憲無効であれば審査が及ぶ余地を残している。
2 自衛隊の憲法適合性が争われた訴訟
長沼ナイキ基地訴訟の控訴審である札幌高等裁判所昭和51年8月5日判決(昭和48年(行コ)第2号)は,住民らが当事者適格又は訴えの利益を欠くとして訴えを却下した。
同判決は,その上で,「結局自衛隊の存在等が憲法第九条に適反するか否かの問題は、統治行為に関する判断であり、国会及び内閣の政治行為として窮極的には国民全体の政治的批判に委ねらるべきものであり、これを裁判所が判断すべきものではないと解すべきである。」とも述べた。
上告審の最高裁判所第一小法廷昭和57年9月9日判決(昭和52年(行ツ)第56号,民集36巻9号1679頁)は,一定範囲の地域に居住する住民の原告適格を認めた上で,代替施設の設置によって洪水や渇水の危険が解消されたことから訴えの利益は失われたとして,上告を棄却した。
同判決の判決文には,自衛隊の憲法適合性についての判断はない。
前記の名古屋地方裁判所昭和55年11月19日判決も,「自衛隊法ないしこれに基づく自衛隊の存在が憲法九条に違反するか否かの判断は、極めて高度な政治的判断であり、裁判所の司法審査の対象とはなり得ないものというべきである。」としている。
3 国会の両院の議事手続
最高裁判所大法廷昭和37年3月7日判決(昭和31年(オ)第61号,民集16巻3号445頁)は,警察法の改正の議事手続が無効であるとして,地方自治法に基づいて警察予算の支出の禁止が求められた事件である。
同判決は,「同法は両院において議決を経たものとされ適法な手続によつて公布されている以上、裁判所は両院の自主性を尊重すべく同法制定の議事手続に関する所論のような事実を審理してその有効無効を判断すべきでない。」とした。
4 団体の内部の問題
最高裁判所第三小法廷昭和52年3月15日判決(昭和46年(行ツ)第52号,民集31巻2号234頁)は,裁判所法3条1項にいう一切の法律上の争訟とは「あらゆる法律上の係争を意味するものではない」とした。
同判決は,「一般市民社会の中にあつてこれとは別個に自律的な法規範を有する特殊な部分社会における法律上の係争のごときは、それが一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる限り、その自主的、自律的な解決に委ねるのを適当とし、裁判所の司法審査の対象にはならない」とした。
その上で,同判決は,大学の授業科目の単位授与(認定)行為は,一般市民法秩序と直接の関係を有するものであることを肯認するに足りる特段の事情のない限り,司法審査の対象にならないとした。
最高裁判所第三小法廷昭和63年12月20日判決(昭和60年(オ)第4号,集民155号405頁)は,政党が除名した党員に家屋の明渡し等を求めた事件で,「政党が党員に対してした処分が一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる限り、裁判所の審判権は及ばない」とした。
同判決は,処分が一般市民としての権利利益を侵害する場合であっても,「右処分の当否は、当該政党の自律的に定めた規範が公序良俗に反するなどの特段の事情のない限り右規範に照らし、右規範を有しないときは条理に基づき、適正な手続に則つてされたか否かによつて決すべきであり、その審理も右の点に限られる」とした。
地方議会の議員に対する出席停止の懲罰について,最高裁判所大法廷昭和35年10月19日判決(昭和34年(オ)第10号,民集14巻12号2633頁)は,法律上の係争の中には「司法裁判権の対象の外におくを相当とするもの」があり,自律的な法規範をもつ団体の内部規律の問題である出席停止の懲罰はこれに当たるとしていた。
これに対し,最高裁判所大法廷令和2年11月25日判決(平成30年(行ヒ)第417号,民集74巻8号2229頁)は,「普通地方公共団体の議会の議員に対する出席停止の懲罰の適否は,司法審査の対象となるというべきである。」として,昭和35年の大法廷判決その他の判例を変更した。
団体の内部の問題として審査が及ばないとされる範囲は,このように判例変更によって見直されることがある。
5 事件の解決に必要のない憲法判断
札幌地方裁判所昭和42年3月29日判決(昭和38年(わ)第193号,下刑集9巻3号359頁,判例秘書の判例番号 L02250148,いわゆる恵庭事件)は,演習場内の自衛隊の通信線を切断した行為が自衛隊法121条違反として起訴された刑事事件である。
同判決は,通信線は同条の「その他の防衛の用に供する物」に該当しないとして,被告人らを無罪とした。
その上で,同判決は,違憲審査権を行使できるのは「具体的争訟の裁判に必要な限度にかぎられる」とし,これは「当該事件の裁判の主文の判断に直接かつ絶対必要なばあいにだけ、立法その他の国家行為の憲法適否に関する審査決定をなすべきことを意味する」とした。
そして,同判決は,構成要件に該当しないとの結論に達した以上,「弁護人ら指摘の憲法問題に関し、なんらの判断をおこなう必要がないのみならず、これをおこなうべきでもないのである」とした。
第6 訴えを起こす前の確認事項
①求める判決が,自分の具体的な権利義務や法律関係の存否を確定するものになっているかを確かめる。
②請求の当否が,宗教上の教義や学問上の評価のように,法令の適用で判断できない事柄に左右されないかを確かめる。
③自己の権利利益にかかわらない資格で行政の是正を求めるときは,それを認める法律の規定(公職選挙法204条,地方自治法242条の2等)があるかを確かめる。
④国や地方公共団体の行為を争うときは,その行為が処分に当たるか,当たらないなら当事者訴訟や国家賠償請求で争えるかを検討する。
⑤相手方が統治行為や団体の内部問題を主張しそうなときは,その領域についての最新の判例で審査の範囲が見直されていないかを確かめる。
第7 関連記事
衆議院解散の司法審査――苫米地事件判決の射程
外国の司法制度と比べた日本の司法制度の特徴
第1号法定受託事務である国政選挙事務と選挙無効訴訟
住民訴訟とは
最高裁判所裁判官国民審査に関する内閣答弁書と政府見解
故安倍晋三国葬儀―決定,法的根拠,費用及び裁判例
行政事件訴訟の主要論点
在日米軍基地の法的根拠,施設数,日米地位協定及び主要裁判例
検察官と裁判官の法廷外での面談
第8 出典・参考資料
1 法令
①日本国憲法(e-Gov法令検索)76条,81条
②裁判所法(e-Gov法令検索)3条
③行政事件訴訟法(e-Gov法令検索)5条,42条
④公職選挙法(e-Gov法令検索)204条
⑤最高裁判所裁判官国民審査法(e-Gov法令検索)36条
⑥地方自治法(e-Gov法令検索)242条の2
⑦自衛隊法(e-Gov法令検索)121条
2 裁判例
①最高裁判所大法廷昭和27年10月8日判決(昭和27年(マ)第23号,民集6巻9号783頁,裁判所ウェブサイト)
②最高裁判所第一小法廷昭和29年2月11日判決(昭和26年(オ)第584号,民集8巻2号419頁,裁判所ウェブサイト)
③最高裁判所大法廷昭和34年12月16日判決(昭和34年(あ)第710号,刑集13巻13号3225頁,裁判所ウェブサイト)
④最高裁判所大法廷昭和35年6月8日判決(昭和30年(オ)第96号,民集14巻7号1206頁,裁判所ウェブサイト)
⑤最高裁判所大法廷昭和35年10月19日判決(昭和34年(オ)第10号,民集14巻12号2633頁,裁判所ウェブサイト)
⑥最高裁判所大法廷昭和37年3月7日判決(昭和31年(オ)第61号,民集16巻3号445頁,裁判所ウェブサイト)
⑦最高裁判所第三小法廷昭和41年2月8日判決(昭和39年(行ツ)第61号,民集20巻2号196頁,裁判所ウェブサイト)
⑧札幌地方裁判所昭和42年3月29日判決(昭和38年(わ)第193号,下刑集9巻3号359頁,判例秘書の判例番号 L02250148で全文確認)
⑨札幌高等裁判所昭和51年8月5日判決(昭和48年(行コ)第2号,裁判所ウェブサイト)
⑩最高裁判所第三小法廷昭和52年3月15日判決(昭和46年(行ツ)第52号,民集31巻2号234頁,裁判所ウェブサイト)
⑪最高裁判所第一小法廷昭和53年3月30日判決(昭和51年(行ツ)第120号,民集32巻2号485頁,裁判所ウェブサイト)
⑫最高裁判所第三小法廷昭和55年1月11日判決(昭和51年(オ)第958号,民集34巻1号1頁,裁判所ウェブサイト)
⑬最高裁判所第一小法廷昭和55年4月10日判決(昭和52年(オ)第177号,集民129号439頁,裁判所ウェブサイト)
⑭名古屋地方裁判所昭和55年11月19日判決(昭和47年(行ウ)第29号等,行集31巻11号2408頁,裁判所ウェブサイト)
⑮最高裁判所第三小法廷昭和56年4月7日判決(昭和51年(オ)第749号,民集35巻3号443頁,裁判所ウェブサイト)
⑯最高裁判所第一小法廷昭和57年9月9日判決(昭和52年(行ツ)第56号,民集36巻9号1679頁,裁判所ウェブサイト)
⑰最高裁判所第三小法廷昭和63年12月20日判決(昭和60年(オ)第4号,集民155号405頁,裁判所ウェブサイト)
⑱最高裁判所第二小法廷平成元年9月8日判決(昭和61年(オ)第943号,民集43巻8号889頁,裁判所ウェブサイト)
⑲最高裁判所第三小法廷平成5年9月7日判決(昭和61年(オ)第531号,民集47巻7号4667頁,裁判所ウェブサイト)
⑳東京地方裁判所平成8年5月10日判決(平成3年(ワ)第2611号等,判例秘書の判例番号 L05130178で全文確認)
㉑最高裁判所第二小法廷平成26年7月9日決定(平成26年(行ツ)第96号等,集民247号39頁,裁判所ウェブサイト)
㉒最高裁判所大法廷令和2年11月25日判決(平成30年(行ヒ)第417号,民集74巻8号2229頁,裁判所ウェブサイト)
㉓東京地方裁判所令和4年9月9日判決(令和4年(行ウ)第386号・第417号,裁判所ウェブサイト)
㉔東京高等裁判所令和7年1月31日判決(令和6年(ネ)第599号,裁判所ウェブサイト)
3 調査範囲
裁判例は,令和8年9月27日に裁判所ウェブサイトの裁判例検索で事件番号又は裁判年月日により検索し,判決・決定の全文を確認したものである。
判例秘書では,同日に「自衛隊法」と裁判年月日(昭和42年3月29日)の組合せ(1件),「平和的生存権」及び「納税者」の組合せ(19件),「湾岸戦争」及び「不当利得」の組合せ(8件)等で検索し,裁判所ウェブサイトに掲載されていない2件の判決の全文を確認した。
判例秘書で本文を確認した裁判例には,出典欄に判例秘書の判例番号を付した。
自衛隊の憲法適合性や国の支出を争った下級審の裁判例は網羅していない。
その他の商用データベースは検索していない。