行政事件に関するメモ書き


目次
1 行政処分の範囲
2 行政処分に対する司法審査の範囲
3 情報公開請求訴訟
4 行政処分の適法性の基準時
5 関連記事その他

第1 行政処分の範囲
1 処分性の肯定事例
(1) 都市再開発法51条1項,54条1項に基づき地方公共団体により定められ公告された第二種市街地再開発事業の事業計画の決定は、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たります(最高裁平成4年11月26日判決)。
(2)  医療法30条の7の規定に基づき都道府県知事が病院を開設しようとする者に対して行う病院開設中止の勧告は,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たります(最高裁平成17年7月15日判決)。
(3)  市町村の施行に係る土地区画整理事業の事業計画の決定は,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たります(最高裁大法廷平成20年9月10日判決)。
(4)   墓地,埋葬等に関する法律10条の規定により大阪市長がした納骨堂の経営又はその施設の変更に係る許可について,当該納骨堂の所在地からおおむね300m以内の場所に敷地がある人家に居住する者は,その取消しを求める原告適格を有します(最高裁令和5年5月9日判決)。
2 処分性の否定事例

(1)  都市計画法8条1項1号の規定に基づく工業地域指定の決定は,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たりません(最高裁昭和57年4月22日判決)。
(2)ア 都市計画法12条の4第1項1号の規定に基づく地区計画の決定,告示は,区域内の個人の権利義務に対して具体的な変動を与えるという法律上の効果を伴うものではなく,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たりません(最高裁平成6年4月22日判決)。
イ 最高裁大法廷平成20年9月10日判決が出た後となる東京高裁令和2年7月2日判決(判例秘書に掲載)は,以下の判示をしています。
    地区計画に関する都市計画の決定がされ,その都市計画が市町村による告示によって効力を生じた場合,区域内における土地の区画形質の変更等について届出が必要となり,建築物の建築等が地区計画に適合していないときは勧告がされるものの,勧告を受けた者がそれに従わない場合の措置についての法令の定めはないことからすると,法的強制力を伴うものとはいえず,また,区域内における開発行為が一定程度の制約を受けることは否定できないとはいえ,その制約は,新たに法令が制定された場合と同様の不特定多数の者に対する一般的,抽象的なものであって,個人の法的地位に直接具体的な影響を与えるものということはできない(したがって,争訟としての成熟性が認められるともいえない。)から,本件地区計画変更決定は,直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものとはいえず,抗告訴訟の対象となる処分には当たらないものと解するのが相当である。

2 行政処分に対する司法審査の範囲
(1) 裁判所が都市施設に関する都市計画の決定又は変更の内容の適否を審査するに当たっては,当該決定又は変更が裁量権の行使としてされたことを前提として,その基礎とされた重要な事実に誤認があること等により重要な事実の基礎を欠くこととなる場合,又は,事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと,判断の過程において考慮すべき事情を考慮しないこと等によりその内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限り,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法となるとすべきものと解されています(最高裁平成18年11月2日判決)。
(2) 公立学校の学校施設の目的外使用を許可するか否かの管理者の判断の適否に関する司法審査は,その判断が裁量権の行使としてされたことを前提とした上で,その判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くところがないかを検討し,その判断が,重要な事実の基礎を欠くか,又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限って,裁量権の逸脱又は濫用として違法となります(最高裁平成18年2月7日判決)。
(3) 弁護士法人ベリーベスト法律事務所代理人の阿部泰隆弁護士が東京地裁に提出した,「意見の要旨-本件のポイント-」(令和4年9月20日付)には「(山中注:裁量(要件を満たしたときに処分をすることができるという効果裁量)が認められる場合でも、最近の判例は、考慮すべき事項を適切に考慮したか、考慮すべきでない事項を考慮していないかについて、行政の判断過程を審理するのが主流です(最判平成19年12月7日判決民集61巻9号3290頁最判平成18年2月7日民集60巻2号401頁、最判平成18年9月8日判時1948号26頁等)。」と書いてあります。
(4) 最高裁令和5年6月27日判決は,酒気帯び運転を理由とする懲戒免職処分を受けて公立学校教員を退職した者に対してされた一般の退職手当等の全部を支給しないこととする処分に係る判断が、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとはいえないとされた事例です。

3 情報公開請求訴訟
(1)  情報公開法に基づく行政文書の開示請求に対する不開示決定の取消訴訟において,不開示とされた文書を目的とする検証を被告に受忍義務を負わせて行うことは,原告が検証への立会権を放棄するなどしたとしても許されず,上記文書を検証の目的として被告にその提示を命ずることも許されません(最高裁平成21年1月15日決定)。
(2) 開示請求の対象とされた行政文書を行政機関が保有していないことを理由とする不開示決定の取消訴訟においては,その取消しを求める者が,当該不開示決定時に当該行政機関が当該行政文書を保有していたことについて主張立証責任を負います(最高裁平成26年7月14日判決)。

4 行政処分の適法性の基準時 
・ 行政処分は原則として処分時の法令に準拠してされるべきものであり,このことは許可処分においても同様であって,法令に特段の定めのないかぎり,許可申請時の法令によって許否を決定すべきものではなく,許可申請者は,申請によって申請時の法令により許可を受ける具体的な権利を取得するものではありません(最高裁大法廷昭和50年4月30日判決)。


5 関連記事その他
(1) 最高裁平成17年7月15日判決及び最高裁大法廷平成17年9月14日判決は,地裁及び高裁で訴えが不適法として却下すべきものとされたのが,最高裁判所において,行政通則法について新しい解釈と適用がされ,適法な訴えであると認められたものです。
(2) 法定受託事務に係る申請を棄却した都道府県知事の処分がその根拠となる法令の規定に違反するとして,これを取り消す裁決がされた場合において,都道府県知事が上記処分と同一の理由に基づいて上記申請を認容する処分をしないことは,地方自治法245条の7第1項所定の法令の規定に違反していると認められます(最高裁令和5年9月4日判決)。
(3) 以下の記事も参照してください。
・ 地方裁判所の専門部及び集中部


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