行政事件に関するメモ書き


目次

1 原告適格
2 行政処分該当性
3 行政処分に対する司法審査の範囲
4 行政処分の適法性の基準時
5 訴えの利益
6 行政手続法
7 情報公開請求訴訟
8 住民訴訟
9 関連記事その他

1 原告適格
(1) 一般論
ア 最高裁大法廷平成17年12月7日判決は以下の判示をしています。
    行政事件訴訟法9条は,取消訴訟の原告適格について規定するが,同条1項にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは,当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり,当該処分を定めた行政法規が,不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には,このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり,当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は,当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。
イ 行政事件訴訟法9条(原告適格)2項は以下のとおりです。
    裁判所は、処分又は裁決の相手方以外の者について前項に規定する法律上の利益の有無を判断するに当たつては、当該処分又は裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとする。この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たつては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌するものとし、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たつては、当該処分又は裁決がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案するものとする。
ウ 処分の名宛人以外の者が処分の法的効果による権利の制限を受ける場合には,その者は,処分の名宛人として権利の制限を受ける者と同様に,当該処分により自己の権利を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者として,当該処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に当たり,その取消訴訟における原告適格を有します(最高裁平成25年7月12日判決)。
エ 行政事件訴訟法36条は,無効等確認の訴えの原告適格について規定していますところ,同条にいう当該処分の無効等の確認を求めるにつき「法律上の利益を有する者」についても,取消訴訟の原告適格の場合と同義に解されています(最高裁平成26年7月29日判決)。
(2) 原告適格の肯定例

ア 農業用水の確保を目的とし,洪水予防,飲料水の確保の効果をも配慮して指定された保安林の指定解除により洪水緩和,渇水予防上直接の影響を被る一定範囲の地域に居住する住民は,森林法27条1項にいう「直接の利害関係を有する者」として,右解除処分取消訴訟の原告適格を有します(最高裁昭和57年9月9日判決)。
イ  定期航空運送事業免許に係る路線を航行する航空機の騒音によって社会通念上著しい障害を受けることとなる飛行場周辺住民は,当該免許の取消しを訴求する原告適格を有します(最高裁平成元年2月17日判決)。
ウ 設置許可申請に係る電気出力28万キロワットの原子炉(高速増殖炉)から約29キロメートルないし約58キロメートルの範囲内の地域に居住している住民は,右原子炉の設置許可処分の無効確認を求めるにつき,行政事件訴訟法36条にいう「法律上の利益を有する者」に該当します(最高裁平成4年9月22日判決)。
エ  第一種市街地再開発事業の施行地区内の宅地の所有者は,その宅地上の借地権者に対する権利変換に関する処分につき,右借地権の不存在を主張して取消訴訟を提起することができます(最高裁平成5年12月17日判決)。
オ 最高裁平成6年9月27日判決は,風俗営業の地域的制限の根拠となる診療所等の施設を設置する者が風俗営業の許可の取消しを求める訴訟において原告適格が認められた事例です。
カ 開発区域内の土地が都市計画法33条1項7号にいうがけ崩れのおそれが多い土地等に当たる場合には,がけ崩れ等により生命,身体等に直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に居住する者は、開発許可の取消訴訟の原告適格を有します(最高裁平成9年1月28日判決)。
キ  土砂の流出又は崩壊,水害等の災害により生命,身体等に直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に居住する者は,森林法10条の2による開発許可の取消訴訟の原告適格を有します(最高裁平成13年3月13日判決)。
ク 建築基準法59条の2第1項に基づくいわゆる総合設計許可に係る建築物の倒壊,炎上等により直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に存する建築物に居住し又はこれを所有する者は,同許可の取消訴訟の原告適格を有します(最高裁平成14年1月22日判決)。
ケ 建築基準法59条の2第1項に基づくいわゆる総合設計許可に係る建築物により日照を阻害される周辺の他の建築物に居住する者は,同許可の取消訴訟の原告適格を有します(最高裁平成14年3月28日判決)。
コ 都市計画事業の事業地の周辺に居住する住民のうち同事業が実施されることにより騒音,振動等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある者は,都市計画法59条2項に基づいてされた同事業の認可の取消訴訟の原告適格を有します(最高裁大法廷平成17年12月7日判決)。
サ 国税徴収法39条所定の第二次納税義務者は,本来の納税義務者に対する課税処分につき国税通則法75条に基づく不服申立てをすることができます(最高裁平成18年1月19日判決)。
シ 自転車競技法4条2項に基づく設置許可がされた場外車券発売施設の設置,運営に伴い著しい業務上の支障が生ずるおそれがあると位置的に認められる区域に文教施設又は医療施設を開設する者は,自転車競技法施行規則15条1項1号所定のいわゆる位置基準を根拠として上記許可の取消訴訟の原告適格を有します(最高裁平成21年10月15日判決)。
ス 滞納者と他の者との共有に係る不動産につき滞納者の持分が国税徴収法47条1項に基づいて差し押さえられた場合における他の共有者は,その差押処分の取消訴訟の原告適格を有します(最高裁平成25年7月12日判決)。
セ 産業廃棄物の最終処分場の周辺に居住する住民のうち,当該最終処分場から有害な物質が排出された場合にこれに起因する大気や土壌の汚染,水質の汚濁,悪臭等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある者は,当該最終処分場を事業の用に供する施設としてされた産業廃棄物処分業及び特別管理産業廃棄物処分業の許可処分及び許可更新処分の取消訴訟及び無効確認訴訟につき,これらの取消し及び無効確認を求める法律上の利益を有する者として原告適格を有します(最高裁平成26年7月29日判決)。
ソ   墓地,埋葬等に関する法律10条の規定により大阪市長がした納骨堂の経営又はその施設の変更に係る許可について,当該納骨堂の所在地からおおむね300m以内の場所に敷地がある人家に居住する者は,その取消しを求める原告適格を有します(最高裁令和5年5月9日判決)。
(3) 原告適格の否定例
ア  農地の所有者から賃借権等の設定を受け現に当該農地を耕作している者であっても,右賃借権等の設定について農業委員会の許可を受けていない場合,当該農地の所有権移転につき知事が第三者に与えた許可処分の無効確認を求める原告適格を有しません(最高裁昭和41年12月23日判決)。
イ  農地法80条に基づき農地の売払いを受けられる場合には,当該農地の旧所有者は,行政事件訴訟法36条により,当該農地の売渡処分の無効確認を求める原告適格を有しません(最高裁昭和50年6月27日判決)。
ウ 農地法5条所定の許可がされた農地上に建物が築造されることにより右農地に隣接する農地の日照,通風等が阻害されて農作物の収穫が激減し,その農地としての効用が失われるおそれがあるとしても,右隣接農地の所有者は,右許可の取消しを求める原告適格を有しません(最高裁昭和58年9月6日判決)。
エ 入会林野等に係る権利関係の近代化の助長に関する法律11条に基づく入会林野整備計画の認可の対象となつた入会林野につき入会権を主張する者は,右認可処分の無効確認を求める訴えの原告適格を有しません(最高裁昭和60年9月6日判決)。
オ 最高裁昭和60年11月14日判決は,建築基準法48条1項ただし書の許可に係る建築物の敷地の隣接居住者が当該許可の取消しを求める原告適格を有しないとされた事例です。
カ 土地区画整理組合の事業施行地区内の宅地の所有者は,右事業施行に伴う処分を受けるおそれのあるときは,同組合の設立認可処分の無効確認訴訟につき原告適格を有します(最高裁昭和60年12月17日判決)。
キ  公有水面埋立法2条の埋立免許及び同法22条の竣功認可の取消訴訟につき,当該公有水面の周辺の水面において漁業を営む権利を有するにすぎない者は,原告適格を有しません(最高裁昭和60年12月17日判決)。
ク 里道の近くに居住し,その通行による利便を享受することができる者であっても,当該里道の用途廃止により各方面への交通が妨げられるなどその生活に著しい支障が生ずるような特段の事情があるといえないときは,右用途廃止処分の取消しを求めるにつき原告適格を有しません(最高裁昭和62年11月24日判決)。
ケ 地方鉄道法21条による地方鉄道業者の特別急行料金の改定(変更)の認可処分の取消訴訟につき,当該地方鉄道業者の路線の周辺に居住し通勤定期券を購入するなどしてその特別急行旅客列車を利用している者は,原告適格を有しません(最高裁平成元年4月13日判決)。
コ 静岡県指定史跡を研究対象としている学術研究者は,当該史跡の指定解除処分の取消しを訴求する原告適格を有しなません(最高裁平成元年6月20日判決)。
サ  風俗営業等の規則及び業務の適正化等に関する法律施行令6条1号イの定める基準に従って規定された都道府県の条例所定の風俗営業制限地域に居住する者は、同地域内における風俗営業許可処分の取消しを求める原告適格を有しません(最高裁平成10年12月17日判決)。
シ  都市計画事業の事業地の周辺地域に居住し又は通勤,通学しているが事業地内の不動産につき権利を有しない者は,都市計画法59条2項に基づく同事業の認可処分又は同条3項に基づく同事業の承認処分の取消しを求める原告適格を有しないと解されていた(最高裁平成11年11月25日判決)ものの,最高裁大法廷平成17年12月7日判決による判例変更がありました。
ス 知事が墓地,埋葬等に関する法律10条1項に基づき大阪府墓地等の経営の許可等に関する条例7条1号の基準に従ってした墓地の経営許可の取消訴訟につき,墓地から300メートルに満たない地域に敷地がある住宅等に居住する者は,原告適格を有しません(最高裁平成12年3月17日判決)。
セ 医療法7条に基づく病院の開設許可の取消訴訟につき,同病院の開設地の市又はその付近において医療施設を開設し医療行為をする医療法人,社会福祉法人及び医師並びに同市内の医師等の構成する医師会は,原告適格を有しません(最高裁平成19年10月19日判決)。
ソ  自転車競技法4条2項に基づく設置許可がされた場外車券発売施設の周辺において居住し又は事業(文教施設又は医療施設に係る事業を除く。)を営む者や,周辺に所在する文教施設又は医療施設の利用者は,自転車競技法施行規則15条1項1号所定のいわゆる位置基準を根拠として上記許可の取消訴訟の原告適格を有するということはできません(最高裁平成21年10月15日判決)。

2 行政処分該当性
(1) 肯定例

・ 都市再開発法51条1項,54条1項に基づき地方公共団体により定められ公告された第二種市街地再開発事業の事業計画の決定は、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たります(最高裁平成4年11月26日判決)。
・  医療法30条の7の規定に基づき都道府県知事が病院を開設しようとする者に対して行う病院開設中止の勧告は,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たります(最高裁平成17年7月15日判決)。
・ 市町村の施行に係る土地区画整理事業の事業計画の決定は,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たります(最高裁大法廷平成20年9月10日判決)。
(2) 否定例
・  都市計画法8条1項1号の規定に基づく工業地域指定の決定は,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たりません(最高裁昭和57年4月22日判決)。
・ 都市計画法12条の4第1項1号の規定に基づく地区計画の決定,告示は,区域内の個人の権利義務に対して具体的な変動を与えるという法律上の効果を伴うものではなく,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たりません(最高裁平成6年4月22日判決)。
    そして,最高裁大法廷平成20年9月10日判決が出た後となる東京高裁令和2年7月2日判決(判例秘書に掲載)は,以下の判示をしています。
    地区計画に関する都市計画の決定がされ,その都市計画が市町村による告示によって効力を生じた場合,区域内における土地の区画形質の変更等について届出が必要となり,建築物の建築等が地区計画に適合していないときは勧告がされるものの,勧告を受けた者がそれに従わない場合の措置についての法令の定めはないことからすると,法的強制力を伴うものとはいえず,また,区域内における開発行為が一定程度の制約を受けることは否定できないとはいえ,その制約は,新たに法令が制定された場合と同様の不特定多数の者に対する一般的,抽象的なものであって,個人の法的地位に直接具体的な影響を与えるものということはできない(したがって,争訟としての成熟性が認められるともいえない。)から,本件地区計画変更決定は,直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものとはいえず,抗告訴訟の対象となる処分には当たらないものと解するのが相当である。

3 行政処分に対する司法審査の範囲
(1) 裁判所が都市施設に関する都市計画の決定又は変更の内容の適否を審査するに当たっては,当該決定又は変更が裁量権の行使としてされたことを前提として,その基礎とされた重要な事実に誤認があること等により重要な事実の基礎を欠くこととなる場合,又は,事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと,判断の過程において考慮すべき事情を考慮しないこと等によりその内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限り,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法となるとすべきものと解されています(最高裁平成18年11月2日判決)。
(2) 公立学校の学校施設の目的外使用を許可するか否かの管理者の判断の適否に関する司法審査は,その判断が裁量権の行使としてされたことを前提とした上で,その判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くところがないかを検討し,その判断が,重要な事実の基礎を欠くか,又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限って,裁量権の逸脱又は濫用として違法となります(最高裁平成18年2月7日判決)。
(3) 弁護士法人ベリーベスト法律事務所代理人の阿部泰隆弁護士が東京地裁に提出した,「意見の要旨-本件のポイント-」(令和4年9月20日付)には「(山中注:裁量(要件を満たしたときに処分をすることができるという効果裁量)が認められる場合でも、最近の判例は、考慮すべき事項を適切に考慮したか、考慮すべきでない事項を考慮していないかについて、行政の判断過程を審理するのが主流です(最判平成19年12月7日判決民集61巻9号3290頁最判平成18年2月7日民集60巻2号401頁、最判平成18年9月8日判時1948号26頁等)。」と書いてあります。
(4) 最高裁令和5年6月27日判決は,酒気帯び運転を理由とする懲戒免職処分を受けて公立学校教員を退職した者に対してされた一般の退職手当等の全部を支給しないこととする処分に係る判断が、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとはいえないとされた事例です。

4 行政処分の適法性の基準時 
(1) 行政処分は原則として処分時の法令に準拠してされるべきものであり,このことは許可処分においても同様であって,法令に特段の定めのないかぎり,許可申請時の法令によって許否を決定すべきものではなく,許可申請者は,申請によって申請時の法令により許可を受ける具体的な権利を取得するものではありません(最高裁大法廷昭和50年4月30日判決)。
(2) 那覇地裁平成30年10月31日判決(判例秘書掲載)は,「裁判所における行政処分の違法判断は,当該行政処分がされた当時を基準とすべきものである(最高裁昭和26年(オ)第412号昭和28年10月30日第二小法廷判決・行裁集4巻10号2316頁参照)」と判示しています。

5 訴えの利益
(1) 行政処分が存在することによって名誉毀損の可能性が認められるとしても,それは当該行政処分がもたらす事実上の効果にすぎないものであり,これをもって取消訴訟によって回復すべき法律上の利益があるとはいえません(最高裁昭和55年11月25日判決参照)。
(2) 最高裁昭和57年4月8日判決は,「本件各検定不合格処分が取り消されても、被上告人は本件内容の記述の自由を法律上保障される可能性を回復するわけではなく、右記述が今後の検定において合格とされる可能性は単なる事実上のそれにとどまるのであつて、このような事実上の利益だけでは本件訴えの利益を基礎づけるに足りるものとすることはできない。」と判示しています。
(2) 行政手続法12条1項の規定により定められ公にされている処分基準において,先行の処分を受けたことを理由として後行の処分に係る量定を加重する旨の不利益な取扱いの定めがある場合には,上記先行の処分に当たる処分を受けた者は,将来において上記後行の処分に当たる処分の対象となり得るときは,上記先行の処分に当たる処分の効果が期間の経過によりなくなった後においても,当該処分基準の定めにより上記の不利益な取扱いを受けるべき期間内はなお当該処分の取消しによって回復すべき法律上の利益を有します(最高裁平成27年3月3日判決)。

6 不利益処分の理由の提示
(1) 行政手続法14条(不利益処分の理由の提示)の条文
① 行政庁は、不利益処分をする場合には、その名あて人に対し、同時に、当該不利益処分の理由を示さなければならない。ただし、当該理由を示さないで処分をすべき差し迫った必要がある場合は、この限りでない。
② 行政庁は、前項ただし書の場合においては、当該名あて人の所在が判明しなくなったときその他処分後において理由を示すことが困難な事情があるときを除き、処分後相当の期間内に、同項の理由を示さなければならない。
③ 不利益処分を書面でするときは、前二項の理由は、書面により示さなければならない。
(2) 最高裁判例
ア  一般旅券発給拒否処分の通知書に,発給拒否の理由として,「旅券法一三条一項五号に該当する。」と記載されているだけで,同号適用の基礎となつた事実関係が具体的に示されていない場合には,理由付記として不備であって,右処分は違法です(最高裁昭和60年1月22日判決)。
 最高裁平成23年6月7日は,「行政手続法14条1項本文が,不利益処分をする場合に同時にその理由を名宛人に示さなければならないとしているのは,名宛人に直接に義務を課し又はその権利を制限するという不利益処分の性質に鑑み,行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,処分の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものと解される。そして,同項本文に基づいてどの程度の理由を提示すべきかは,上記のような同項本文の趣旨に照らし,当該処分の根拠法令の規定内容,当該処分に係る処分基準の存否及び内容並びに公表の有無,当該処分の性質及び内容,当該処分の原因となる事実関係の内容等を総合考慮してこれを決定すべきである。」と判示しています。
(3) 下級審判例
・ 東京高裁平成25年6月20日判決(担当裁判官は26期の園尾隆司41期の吉田尚弘及び48期の森脇江津子)(判例秘書掲載)は,「区長による区会議員に対する政務調査費返還命令処分につき,住民からの監査請求における監査委員の監査結果に基づいてされたものであり,同処分書の記載(山中注:「平成19年4月27日付けで目黒区監査委員から違法・不当な支出であるとされたため」」との記載)のほか,処分を受けた者の監査請求の手続における回答,公表されている監査請求の記載内容からすれば,同処分書の理由の記載により,処分を受けた者において,処分の基礎となった事実関係及び適用法令を知ることができるものと認められるから,同処分が理由の提示について違法なものということはできないとされた事例」です。

7 情報公開請求訴訟
(1)  情報公開法に基づく行政文書の開示請求に対する不開示決定の取消訴訟において,不開示とされた文書を目的とする検証を被告に受忍義務を負わせて行うことは,原告が検証への立会権を放棄するなどしたとしても許されず,上記文書を検証の目的として被告にその提示を命ずることも許されません(最高裁平成21年1月15日決定)。
(2) 開示請求の対象とされた行政文書を行政機関が保有していないことを理由とする不開示決定の取消訴訟においては,その取消しを求める者が,当該不開示決定時に当該行政機関が当該行政文書を保有していたことについて主張立証責任を負います(最高裁平成26年7月14日判決)。

8 住民訴訟

(1) 最高裁昭和53年3月30日判決は以下の判示をしています。
    住民の有する右訴権は、地方公共団体の構成員である住民全体の利益を保障するために法律によつて特別に認められた参政権の一種であり、その訴訟の原告は、自己の個人的利益のためや地方公共団体そのものの利益のためにではなく、専ら原告を含む住民全体の利益のために、いわば公益の代表者として地方財務行政の適正化を主張するものであるということができる。
(2)ア 津地鎮祭訴訟に関する最高裁大法廷昭和52年7月13日判決の事案は以下のとおりですから,特定の団体に対する1万円未満の金銭支出も住民訴訟の対象となっています。
    津市体育館の起工式(以下「本件起工式」という。)が、地方公共団体である津市の主催により、同市の職員が進行係となつて、昭和四〇年一月一四日、同市船頭町の建設現場において、宗教法人D神社の宮司ら四名の神職主宰のもとに神式に則り挙行され、上告人が、同市市長として、その挙式費用金七六六三円(神職に対する報償費金四〇〇〇円、供物料金三六六三円)を市の公金から支出したことにつき、その適法性が争われたものである。
イ 大阪市の令和6年3月8日付の住民監査請求の結果通知の場合,請求人が原告となっている訴訟に関する弁護士費用の支出の是非も含めて住民監査請求の対象外と判断しました。
(3) 東京地裁平成9年4月21日判決(担当裁判官は21期の細川清36期の阿部正幸及び47期の菊地浩明)(判例秘書掲載)は以下の判示をしています(改行を追加しています。)。
    国家賠償法一条は、公権力の行使により個人の私的な権利、利益が侵害された場合に、これを賠償することを目的としている。
    これに対し、住民監査請求の請求人は、住民全体の利益のために、公益の代表者としての公法上の立場において右請求をするものであるから、請求人である住民が、監査委員に対して監査及び必要な措置等を求めうる地方自治法上の地位は、請求人の私的な権利、利益の保護を目的とするものではなく、公益的かつ公法的なものであって、国家賠償法上の保護の対象にはならないというべきである。

9 関連記事その他
(1) 処分に対する取消訴訟に,当該処分の違法を理由とする国家賠償を請求する訴訟を併合して提起することはできます(行政事件訴訟法13条1号及び16条参照)。
(2)ア 最高裁平成17年7月15日判決及び最高裁大法廷平成17年9月14日判決は,地裁及び高裁で訴えが不適法として却下すべきものとされたのが,最高裁判所において,行政通則法について新しい解釈と適用がされ,適法な訴えであると認められたものです。
イ 法定受託事務に係る申請を棄却した都道府県知事の処分がその根拠となる法令の規定に違反するとして,これを取り消す裁決がされた場合において,都道府県知事が上記処分と同一の理由に基づいて上記申請を認容する処分をしないことは,地方自治法245条の7第1項所定の法令の規定に違反していると認められます(最高裁令和5年9月4日判決)。
(3)ア 福井地裁令和元年5月29日判決(判例秘書に掲載)は,「被推薦者等には公平性及び透明性が確保された過程のもと,推薦等を尊重して任命の可否が決せられることについて利害関係があるといえ,これを単なる期待権にすぎないというのは相当ではない。」などと判示して,農業委員会の委員に応募したがこれに任命されなかった者に,他者に対してされた同委員に任命する旨の処分の取消しを求める原告適格があると判示しました。
イ 弁護士江木大輔のブログ「他者に対してされた農業委員に任命する旨の処分の取消しを求める原告適格の有無」で福井地裁令和元年5月29日判決が紹介されています。
(4)ア 総務省HPに「行政不服審査法事務取扱ガイドライン」(令和4年6月の総務省行政評価局の文書)が載っています。
イ 行政不服審査裁決・答申検索データベースでは,行政不服審査法等に基づいてされた不服申立てについて、審査庁が行った裁決内容や行政不服審査会等が行った答申内容等を検索・閲覧できます。
(5) 行政処分は,原則として,それが相手方に告知された時にその効力を発生します(最高裁昭和50年6月27日判決)。
(6)ア 以下の資料も参照してください。
・ 行政事件訴訟法の改正に伴う書記官事務の留意点,及び行政事件訴訟法の特則を定める規定例(平成17年3月の最高裁判所事務総局行政局の文書)
イ 以下の記事も参照してください。
・ 地方裁判所の専門部及び集中部


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