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地方公共団体の公債権と私債権の違い―滞納処分・時効の援用・民事訴訟の可否(AI作成)

第1 本記事の対象と結論

1 対象と基準日

本記事は,市町村や都道府県(普通地方公共団体)が住民等に対して有する金銭債権について,滞納処分による強制徴収ができるか,督促にどのような効果があるか,消滅時効をどう考えるか,民事訴訟で請求できるかを整理する。
令和8年10月17日にe-Gov法令検索で確認した地方自治法,地方自治法施行令,地方税法その他の法令と,裁判所ウェブサイト及び判例秘書で確認した裁判例に基づく。
地方税そのものの徴収手続,国の債権及び土地改良区等の公共組合の賦課金は,比較に必要な範囲で触れるにとどめる。

「公債権」「私債権」は,地方自治法や地方自治法施行令の条文で定義された用語ではなく,両法令の条文にもこの語は用いられていない。
本記事では,法令に基づく公法上の原因で生じる債権を公債権,契約,不法行為その他の私法上の原因で生じる債権を私債権と呼び,公債権を,法律で強制徴収が認められるものと,認められないものとに分けて説明する。

2 結論

①分担金,加入金,過料及び法律で定める使用料その他の歳入は,督促をしても指定期限までに納付されなければ,地方税の滞納処分の例により処分できる(地方自治法231条の3第3項)。
②強制徴収が認められていない債権は,督促をした後,担保の実行,強制執行又は訴訟手続により履行を求めることになる(地方自治法施行令171条の2)。
③法律が強制徴収の手段を定めている債権について,その手段によらずに民事訴訟で請求することは,最高裁大法廷昭和41年2月23日判決の考え方からすると許されないと考えられる。
④普通地方公共団体の金銭債権の消滅時効は,他の法律に定めがない限り5年であり,援用を要しない(地方自治法236条1項・2項)。
ただし,公立病院の診療報酬のような私法上の債権には,民法の時効が適用されると解されている(最高裁平成17年11月21日判決)。

第2 債権の種類を分ける基準

1 強制徴収できる債権

地方自治法231条の3第1項は,分担金,使用料,加入金,手数料,過料その他の歳入を納期限までに納付しない者があるときは,長が期限を指定して督促しなければならないと定める。
同条3項は,このうち分担金,加入金,過料又は法律で定める使用料その他の歳入(同項にいう「分担金等」)について,督促を受けた者が指定された期限までに納付しないときは,手数料及び延滞金を含めて,地方税の滞納処分の例により処分できるとする。
この場合の徴収金の先取特権の順位は,国税及び地方税に次ぐものとされている。

同条3項にいう「法律で定める使用料その他の普通地方公共団体の歳入」は,他の法律で定めるもののほか,地方自治法附則6条に列挙されている。
同条は,港湾法の入港料等,土地改良法の規定により土地改良事業の施行に伴い徴収すべき清算金・仮清算金等,下水道法18条から20条までの規定による損傷負担金・汚濁原因者負担金・工事負担金及び使用料,漁港及び漁場の整備等に関する法律の利用の対価等を挙げている。
個別の法律が滞納処分の例による徴収を定めている例として,児童福祉法56条の費用の徴収もある。

下水道使用料について,さいたま地方裁判所平成25年9月25日判決(平成23年(行ウ)第46号)は,地方自治法231条の3第3項及び附則6条3号により,支払を怠った者に対して滞納処分の例に従った強制徴収の手段をとることができる点を,下水道使用料の性質として指摘している。
東京地方裁判所平成27年10月27日判決(平成26年(行ウ)第147号)も,「前提となる法律関係」の項で,下水道使用料の納入通知によって具体的な額が明らかにされ,納入しなければ督促・滞納処分の手続がされることから,納入通知を取消訴訟の対象と解している(控訴審の東京高等裁判所平成28年3月9日判決(平成27年(行コ)第414号)はこの部分を引用して控訴を棄却した)。

2 強制徴収が認められていない公法上の歳入

地方自治法231条の3第1項の歳入であっても,同条3項の「分担金等」に当たらないもの,例えば法律に強制徴収の定めがない使用料や手数料は,督促をすることはできるが,滞納処分の例による処分はできない。
督促をした場合には,条例で定めるところにより,手数料及び延滞金を徴収することができる(同条2項)。

これらの債権は,地方自治法施行令171条の2の「強制徴収により徴収する債権」に当たらないため,督促の後は,同条による強制執行や訴訟手続の対象となる。
法律上の性質は公法上の歳入であっても,回収の方法は私債権と同じ経路をたどることになる。

3 私債権

地方公共団体が契約その他の私法上の原因で取得する債権,例えば貸付金,損害賠償金,公立病院の診療報酬等は,私債権として扱われる。
これらの債権の督促は,地方自治法231条の3第1項の歳入に当たらない限り,地方自治法施行令171条による。

公立病院の診療報酬について,最高裁判所第二小法廷平成17年11月21日判決(平成17年(受)第721号,民集59巻9号2611頁)は,公立病院における診療は私立病院における診療と本質的な差異はなく,その診療に関する法律関係は本質上私法関係であるとして,消滅時効期間を地方自治法236条1項の5年ではなく,改正前民法170条1号の3年と判断した。
地方公共団体が債権者であることだけで,地方自治法の時効や強制徴収の規定が適用されるわけではない。

4 三つの区分の比較

区分根拠と例督促督促後の回収
強制徴収できる公債権地方自治法231条の3第3項,附則6条(下水道使用料等),個別法の定め同条1項地方税の滞納処分の例による処分
強制徴収できない公債権法律に強制徴収の定めがない使用料・手数料等同条1項地方自治法施行令171条の2による強制執行・訴訟手続
私債権貸付金,損害賠償金,公立病院の診療報酬等地方自治法施行令171条同上

第3 督促・延滞金と不服申立て

1 督促と延滞金

地方自治法231条の3第1項の督促は,長が期限を指定してしなければならないものである。
督促をした場合には,条例で定めるところにより手数料及び延滞金を徴収できる(同条2項)。
地方自治法236条4項は,法令の規定により普通地方公共団体がする納入の通知及び督促に,時効の更新の効力を認めている。

2 強制徴収の処分に対する審査請求

地方自治法231条の3第1項から第4項までの規定による処分についての審査請求がされた場合,長は,不適法な審査請求を却下するときを除き,議会に諮問した上で裁決をしなければならず(同条7項),議会は諮問を受けた日から20日以内に意見を述べなければならない(同条8項)。
同条10項は,この審査請求に対する裁決を経た後でなければ,同条1項から4項までの規定による処分について裁判所に出訴することができないとしている。
長以外の機関がした処分についての審査請求は長に対してするものとされ(同条5項),滞納処分の例によりした処分についての審査請求には地方税法19条の4が準用される(同条6項)。
同条11項は,差押物件の公売は処分が確定するまで執行を停止すると定めている。

第4 民事訴訟で請求できるか

1 法律が強制徴収の手段を定めている債権

最高裁判所大法廷昭和41年2月23日判決(昭和38年(オ)第797号,民集20巻2号320頁)は,当時の農業災害補償法87条の2が農業共済組合の共済掛金・賦課金等について督促,市町村への徴収請求,地方税の滞納処分の例による処分等の特別の徴収手続を定めていたことを前提に,その履行を民事訴訟で請求することも,民事訴訟法上の強制執行の手段をとることも許されないとした。
同判決は,独自の強制徴収の手段を与えられながら,その手段によらずに訴えを提起することは,「前示立法の趣旨に反し、公共性の強い農業共済組合の権能行使の適正を欠くものとして、許されない」としている。

同判決は農業共済組合の債権に関するものであるが,地方自治法231条の3第3項も,督促と地方税の滞納処分の例による処分という同じ構造の手段を定めている。
同判決の考え方からすると,強制徴収できる公債権は,民事訴訟ではなく,督促と滞納処分の手続で回収するのが原則になると考えられる。

2 行政上の義務の履行を求める訴え

最高裁判所第三小法廷平成14年7月9日判決(平成10年(行ツ)第239号,民集56巻6号1134頁)は,宝塚市が,条例に基づく建築工事の中止命令に従わない事業者に対し,工事の続行の禁止を求めた訴えを不適法として却下した。
同判決は,国又は地方公共団体が財産権の主体として自己の財産上の権利利益の保護救済を求める訴えは法律上の争訟に当たるが,専ら行政権の主体として国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟は,「法律に特別の規定がある場合に限り,提起することが許される」とした。

この判決は金銭債権の回収に関するものではないが,地方公共団体が訴訟を利用できるかを,地方公共団体がどの立場で何を求めるかによって区別している。
私債権のように財産権の主体として金銭の支払を求める場合は,民事訴訟によることになる。

3 強制徴収できない債権の回収手続

地方自治法240条2項は,長は,債権について,政令の定めるところにより,督促,強制執行その他その保全及び取立てに関し必要な措置をとらなければならないとする。
これを受けた地方自治法施行令171条の2は,強制徴収により徴収する債権以外の債権について,督促の後相当の期間を経過してもなお履行されないときは,担保の付された債権では担保の処分や保証人への請求を,債務名義のある債権では強制執行を,それ以外の債権では訴訟手続(非訟事件の手続を含む。)による履行の請求をしなければならないと定める。
同令171条の4は,債務者が強制執行や破産手続開始の決定を受けたことを知った場合の配当要求等の債権の申出と,必要な場合の担保の提供の要求や仮差押え等の手続を定めている。

第5 消滅時効

1 地方自治法236条

金銭の給付を目的とする普通地方公共団体の権利は,時効に関し他の法律に定めがあるものを除くほか,これを行使することができる時から5年間行使しないときは,時効によって消滅する(地方自治法236条1項)。
同条2項は,法律に特別の定めがある場合を除くほか,時効による消滅について援用を要せず,その利益を放棄することもできないとする。
完成猶予・更新等について適用すべき法律の規定がないときは民法が準用され(同条3項),法令の規定による納入の通知及び督促には時効の更新の効力がある(同条4項)。

2 私法上の債権と民法

前記第2の3の最高裁平成17年11月21日判決のとおり,私法上の債権には,地方公共団体が債権者であっても,民法の時効が適用されると解されている。
改正後の民法では短期消滅時効が廃止されたため,令和2年4月1日以後に生じた債権の期間は,原則として民法166条1項による。
民法の時効は,当事者が援用しなければ裁判所がこれによって裁判をすることができない(民法145条)から,私債権では,地方自治法236条2項の援用不要の規定との違いが実務上大きい。
時効期間の全体像は,債権の消滅時効は何年かで説明している。

3 地方税と公共組合の賦課金

地方税の徴収権は,法定納期限の翌日から起算して5年間行使しないことによって時効により消滅し,援用を要しない(地方税法18条1項・2項)。
督促による時効の完成猶予と更新は,地方税法18条の2第1項2号が定めている。

土地改良区のような公共組合の賦課金は,普通地方公共団体の権利ではないから,地方自治法236条が当然に適用されるものではない。
土地改良法39条7項は,同条4項・5項の規定による徴収金の時効について国税及び地方税の例によるとし,同条8項は同条1項・2項の督促に時効の更新の効力を認めている。
土地改良区の賦課金については,土地改良区からの賦課金請求は払う必要があるかで説明している。

第6 徴収停止・履行延期・免除

地方自治法240条3項は,長は,政令の定めるところにより,債権について徴収停止,履行期限の延長又は債務の免除ができるとする。
ただし,地方税法の規定に基づく徴収金に係る債権,過料に係る債権その他同条4項各号の債権には,同条2項・3項は適用されない。

地方自治法施行令171条の5は,強制徴収により徴収する債権を除く債権について,法人の事業休止,債務者の所在不明又は少額で取立費用に満たない場合等で,履行させることが著しく困難又は不適当と認めるときに,以後の保全及び取立てをしないことができるとする。
同令171条の6は,債務者が無資力又はこれに近い状態にあるとき等に,分割を含めて履行期限を延長する特約又は処分をすることを認めている。
同令171条の7は,無資力等を理由に履行延期の特約等をした債権について,当初の履行期限等から10年を経過した後もなお無資力等で弁済の見込みがないときは,議会の議決を要せずに免除できるとする。

第7 滞納者・代理人が確認すること

1 債権の種類と根拠を特定する

通知書や督促状に記載された根拠法令・条例を確認し,地方自治法231条の3第3項又は個別法により強制徴収できる債権か,それ以外の公債権か,私債権かを特定する。
督促の日付,指定された期限及び延滞金の根拠となる条例も,あわせて確認する。
強制徴収できる債権では,訴訟を経ずに差押え等が行われ得ることを前提に対応する必要がある。

2 時効と納付の判断

地方自治法236条2項が適用される債権では援用を要しないが,納入の通知や督促によって時効が更新されている場合がある。
私債権では援用が必要であり,一部の支払や分割の申出が権利の承認と評価されると時効が更新される(民法152条)。
承認と時効の更新は債務の承認による時効の更新で,時効完成後の承認は時効完成後に債務を承認・一部弁済したら時効を援用できないかで説明している。

3 争う手続を選ぶ

強制徴収の処分を争う場合は,地方自治法231条の3第7項から第10項までの審査請求と議会への諮問の手続を経る必要がある。
地方税の徴収金は地方税法の手続によるため,同じ地方公共団体の請求でも,根拠法令ごとに不服申立ての方法と期間を確認する。
審査請求の一般的な期間と手続は行政不服審査法の審査請求で,訴訟の対象となる処分かどうかは行政処分の処分性とはで説明している。

第8 関連記事と出典

1 関連記事

法律上の争訟と訴えの適否:「法律上の争訟」と司法権の限界
時効期間の一覧:債権の消滅時効は何年か
公共組合の賦課金:土地改良区からの賦課金請求は払う必要があるか

2 出典

①e-Gov法令検索「地方自治法」231条の3,236条,240条,附則6条。
https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000067

②e-Gov法令検索「地方自治法施行令」171条,171条の2,171条の4から171条の7まで。
https://laws.e-gov.go.jp/law/322CO0000000016

③e-Gov法令検索「地方税法」18条,18条の2。
https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000226

④e-Gov法令検索「民法」145条,152条,166条。
https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089

⑤e-Gov法令検索「児童福祉法」56条,「下水道法」20条,「土地改良法」39条。
https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000164
https://laws.e-gov.go.jp/law/333AC0000000079
https://laws.e-gov.go.jp/law/324AC0000000195

⑥裁判所HP「最高裁判所大法廷昭和41年2月23日判決(昭和38年(オ)第797号)」。
https://www.courts.go.jp/hanrei/53878/detail2/index.html

⑦裁判所HP「最高裁判所第三小法廷平成14年7月9日判決(平成10年(行ツ)第239号)」。
https://www.courts.go.jp/hanrei/52246/detail2/index.html

⑧裁判所HP「最高裁判所第二小法廷平成17年11月21日判決(平成17年(受)第721号)」。
https://www.courts.go.jp/hanrei/52430/detail2/index.html

⑨裁判所HP「さいたま地方裁判所平成25年9月25日判決(平成23年(行ウ)第46号)」。
https://www.courts.go.jp/hanrei/83948/detail4/index.html

⑩裁判所HP「東京地方裁判所平成27年10月27日判決(平成26年(行ウ)第147号)」及び「東京高等裁判所平成28年3月9日判決(平成27年(行コ)第414号)」。
https://www.courts.go.jp/hanrei/85813/detail5/index.html
https://www.courts.go.jp/hanrei/86631/detail5/index.html