目次
第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 保険法の規定1 支払期限を定めた場合(保険法21条1項)2 支払期限を定めなかった場合(21条2項)3 調査を妨げた場合(21条3項)4 被保険者に不利な特約は無効(26条)5 生命保険・傷害疾病定額保険(52条,81条)6 施行日と経過措置第3 約款の支払時期の定め1 請求完了日から30日以内の原則2 特別な照会・調査が必要な場合の延長3 約款の期限と保険法21条1項の関係第4 裁判例1 最高裁平成9年3月25日判決(ただし書では履行期は延びない)2 最高裁平成20年2月28日判決(合意による履行期の延期)3 最高裁平成24年4月27日判決(無保険車傷害保険金)4 名古屋高裁平成26年1月23日判決(30日・180日型の約款)第5 遅延損害金の利率と計算1 利率は遅滞の最初の時点の法定利率2 計算例第6 実務上の確認事項第7 関連記事第8 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 公表資料
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象
本記事は,被保険者や保険金受取人が自分の保険会社に請求する保険金(車両保険,人身傷害保険,火災保険,傷害保険,生命保険等)の支払が遅れた場合に,保険会社に対していつから遅延損害金を請求できるかを扱う。
交通事故の加害者に対する損害賠償債務は事故日から遅滞となるが(不法行為・交通事故の遅延損害金はいつから発生するか―事故日起算,弁護士費用及び損害費目ごとの起算日),保険会社の保険金支払債務は保険契約に基づく債務であり,遅滞となる時期の決まり方が異なる。
自賠責保険の被害者請求については,自動車損害賠償保障法16条の9に別の定めがあるので,自賠責保険の被害者請求と遅延損害金―自賠法16条の9の「必要な期間」,利率及び訴訟提起の実益を参照されたい。
本記事は,令和8年10月18日時点の法令及び公表資料に基づいている。
2 結論
① 約款で保険金の支払期限を定めていても,その期限が,保険事故・損害額等の確認をするための「相当の期間」を経過する日より後であるときは,相当の期間を経過する日が支払期限となる(保険法21条1項,52条1項,81条1項)。
② 支払期限を定めなかったときは,保険会社は,請求後,保険事故等の確認をするために必要な期間を経過するまでは遅滞の責任を負わない(同法21条2項,52条2項,81条2項)。
③ 被保険者等が正当な理由なく保険会社の調査を妨げ,又はこれに応じなかった場合は,それによって支払が遅れた期間について,保険会社は遅滞の責任を負わない(同法21条3項,52条3項,81条3項)。
④ ①と③に反する特約で被保険者等に不利なものは無効となる(同法26条,53条,82条)。
⑤ 損害保険会社の約款には,請求完了日からその日を含めて30日以内の支払を原則とし,警察等への照会が必要な場合等に期間を延長するものがある。
⑥ 保険法の制定前にも,最高裁平成9年3月25日判決は,30日の猶予期間の経過により履行期が到来するとし,必要な調査を終えた後に遅滞なく支払うというただし書によって履行期は延びないとしていた。
⑦ 遅延損害金の利率は,保険会社が遅滞の責任を負った最初の時点の法定利率によるので,令和2年4月1日以後に遅滞となった保険金は年3%である。
第2 保険法の規定
1 支払期限を定めた場合(保険法21条1項)
損害保険契約について,保険法21条1項は次のとおり定めている。
「保険給付を行う期限を定めた場合であっても、当該期限が、保険事故、てん補損害額、保険者が免責される事由その他の保険給付を行うために確認をすることが損害保険契約上必要とされる事項の確認をするための相当の期間を経過する日後の日であるときは、当該期間を経過する日をもって保険給付を行う期限とする。」
約款の支払期限が長すぎる場合でも,その期限がそのまま通用するのではなく,確認に必要な「相当の期間」を経過する日が期限となる。
期限を経過すれば,保険会社は遅滞の責任を負う。
2 支払期限を定めなかった場合(21条2項)
保険法21条2項は,「保険給付を行う期限を定めなかったときは、保険者は、保険給付の請求があった後、当該請求に係る保険事故及びてん補損害額の確認をするために必要な期間を経過するまでは、遅滞の責任を負わない。」と定めている。
期限の定めのない債務は請求を受けた時から遅滞となるのが民法の原則であるが(民法412条3項),保険金については,確認に必要な期間が経過するまで遅滞にならない。
3 調査を妨げた場合(21条3項)
保険法21条3項は,保険会社が確認に必要な調査を行うに当たり,「保険契約者又は被保険者が正当な理由なく当該調査を妨げ、又はこれに応じなかった場合には、保険者は、これにより保険給付を遅延した期間について、遅滞の責任を負わない。」と定めている。
保険会社から求められた書類の提出や調査への協力に正当な理由なく応じないと,その期間の遅延損害金は請求できない。
4 被保険者に不利な特約は無効(26条)
保険法26条は,「第十五条、第二十一条第一項若しくは第三項又は前二条の規定に反する特約で被保険者に不利なものは、無効とする。」と定めている。
21条1項と3項は,被保険者に不利な方向に約款で変えることができない片面的強行規定である。
(続きを読む...)保険会社の保険金の支払が遅れたときの遅延損害金―保険法21条の履行期,約款の30日条項及び調査が長引く場合(AI作成)