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未登記建物は誰のものか――固定資産課税台帳の名義,遺言の対象,遺産分割及び表題登記(AI作成)

第1 結論

相続の場面では,登記記録に現れない建物が出てくることがある。
古い母屋,増築した離れ,作業場,倉庫,農機具小屋などである。

未登記であることは,所有者がいないことを意味しない。
建物は,建築によって誰かが所有権を原始取得しており,登記はその公示にすぎない。
したがって,未登記建物についても,①誰が原始取得したか,②その後に贈与,売買又は相続で移転したか,③遺言の対象に含まれるか,を順に確定する必要がある。

固定資産課税台帳(家屋補充課税台帳)に誰の名義で登録されているかは,手掛かりにはなるが,所有権の帰属を決めるものではない。
遺言の物件の表示と実際の建物が合わないことも多い。
本記事では,条文に即して確認の順序を示す。

第2 未登記建物とは何か

1 表題登記の申請義務

不動産登記法47条1項は,「新築した建物又は区分建物以外の表題登記がない建物の所有権を取得した者は,その所有権の取得の日から一月以内に,表題登記を申請しなければならない。」と定めている。

この申請を正当な理由なく怠ったときは,同法164条1項により十万円以下の過料に処せられる。
もっとも,実際には表題登記がされないまま何十年も経過している建物がある。

2 表題部所有者と所有権の登記名義人

不動産登記法27条は,建物の表示に関する登記の登記事項を定めており,その3号は,「所有権の登記がない不動産…については,所有者の氏名又は名称及び住所並びに所有者が二人以上であるときはその所有者ごとの持分」を掲げている。
この欄に記録された者が表題部所有者である。

表題部所有者は,権利部に記録される所有権の登記名義人とは別の概念である。
表題登記だけがされている建物は,権利部が存在しない状態であり,所有権の移転の登記をすることができない。

3 所有権の保存の登記

不動産登記法74条1項は,所有権の保存の登記を申請できる者を,①表題部所有者又はその相続人その他の一般承継人,②所有権を有することが確定判決によって確認された者,③収用によって所有権を取得した者に限っている。

そのため,表題登記がない建物について権利の登記をするには,まず表題登記をして表題部所有者を記録し,その上で保存の登記を申請するという二段階の手続を踏む。
相続人が申請するときは,被相続人を表題部所有者とする表題登記をした上で,相続を原因として保存の登記をする方法が採られることが多い。

第3 固定資産課税台帳の名義は所有権の証明ではない

1 地方税法の定め

地方税法343条1項は,固定資産税を「固定資産の所有者」に課するとしている。
同条2項は,その「所有者」について,「土地又は家屋については,登記簿又は土地補充課税台帳若しくは家屋補充課税台帳に所有者…として登記又は登録がされている者をいう。」と定めている。

未登記の建物は登記簿に記録がないため,家屋補充課税台帳に登録された者が「所有者」として扱われる。
これは課税のための擬制であって,私法上の所有権の帰属を決めるものではない。

2 死亡した者の名義が残っている場合

同条2項後段は,所有者として登記又は登録がされている個人が賦課期日前に死亡しているときは,「同日において当該土地又は家屋を現に所有している者」をいうとしている。

そのため,被相続人の死亡後に課税台帳の名義が相続人の一人に変わっていても,それは市町村がその者を現に所有している者として扱ったにとどまる。
相続人間の帰属を決めた資料にはならない。

3 使用者を所有者とみなす場合

同条4項は,所有者の所在が不明である場合に,同条5項は,相当な努力を払っても所有者の存在が不明である場合に,それぞれ使用者を所有者とみなして課税台帳に登録し,その者に課税することができると定めている。

この規定によって登録された名義は,所有権の帰属とさらに離れる。
課税台帳の記載を資料として使うときは,どの規定によって登録された名義かを確かめる。

なお,同条7項は,土地区画整理事業の施行地区内の土地について,仮換地の指定があった場合の納税義務者を定めている。
換地処分の前後で誰が納税義務者になるかも,同項で決まる。

4 名義・台帳・登記の対応

同じ建物について,複数の「名義」が並存する。
それぞれの意味は次のとおりである。

名義の所在根拠意味
登記記録の表題部不動産登記法27条3号所有権の登記がない建物について記録される所有者。表題部所有者という
登記記録の権利部不動産登記法74条所有権の保存又は移転の登記を受けた者。所有権の登記名義人という
家屋補充課税台帳地方税法343条2項未登記の家屋について固定資産税を課する相手として登録された者
使用者としての登録地方税法343条4項・5項所有者が不明な場合に,課税のため使用者を所有者とみなして登録したもの

未登記建物では,権利部が存在せず,家屋補充課税台帳の登録だけがあることが多い。
この登録は課税のための擬制であるから,所有権の帰属は別に立証する。

第4 誰が原始取得したか

1 自分の費用と材料で建てた場合

建物を新築した場合,その所有権は,原則として,建築を注文して費用を負担した者が原始取得する。
建築請負契約の内容,材料の提供者,代金の支払方法によって結論が変わることがあるため,請負契約書,工事代金の領収証及び資金の出所を確認する。

自分で建てた作業場,農機具小屋のようなものは,資料が残っていないことが多い。
そのときは,建築の時期,資金の出所,誰が使ってきたか,固定資産税を誰が払ってきたかという間接的な事実を積み上げる。

もっとも,材料を提供した者と所有者とが当然に一致するわけではなく,当事者間の約定が結論を左右する。
最高裁判所第三小法廷平成5年10月19日判決(平成元年(オ)第274号,建物明渡等,民集第47巻8号5061頁)は,「建物建築工事の注文者と元請負人との間に,請負契約が中途で解除された際の出来形部分の所有権は注文者に帰属する旨の約定がある場合には,元請負人から一括して当該工事を請け負った下請負人が自ら材料を提供して出来形部分を築造したとしても,注文者と下請負人との間に格別の合意があるなど特段の事情のない限り,右契約が中途で解除された際の出来形部分の所有権は注文者に帰属する。」とした。

同判決は,請負契約が中途で解除された際の出来形部分についての判断であるが,材料を提供した者が所有権を取得するという出発点が当事者間の約定によって動くことを示している。
相続の場面で建物の所有者を確定するときも,誰が材料と費用を出したかだけでなく,請負契約書に所有権の帰属についての条項があるかどうかを読む必要がある。

2 親が資金を出した場合

子が居住する建物の建築資金を親が出した場合は,①親が建物を取得して子に使わせているのか,②親が子に金銭を贈与して子が建物を取得したのか,で法律関係が異なる。

この区別は,特別受益の対象が金銭か建物かを決め,評価額も変える。
詳しくは,親が負担した建築資金は金銭贈与か建物贈与か―特別受益の認定・評価・証拠で説明している。

3 増築及び改築

既存の建物に増築をした場合,増築部分が既存の建物と一体となって独立性を失えば,民法242条本文により,既存の建物の所有者が増築部分の所有権を取得する。
同条ただし書は,「権原によってその物を附属させた他人の権利を妨げない。」としている。
増築部分が構造上及び利用上の独立性を備えていれば,別の建物として扱われる余地がある。

資金を出した者と建物の所有者が異なるときは,付合による所有権の帰属と,費用を出した者の償金請求とを分けて検討する。
民法248条は,付合等の規定の適用によって損失を受けた者が,不当利得の規定に従って償金を請求できることを定めている。

4 借地の上にある建物

借地の上に建物がある場合は,土地の賃借権又は使用借権の帰属も確認する。
建物が未登記であると,借地権の対抗要件としての建物の登記を備えられない。

被相続人の土地の上に相続人が建物を建てて住んでいる例では,土地の使用関係が使用貸借であることが多い。
使用貸借と課税の関係は,親族間で土地を使わせる場合の課税-使用貸借と相当の地代で説明している。

第5 未登記建物を譲渡した場合

1 対抗要件

民法177条は,「不動産に関する物権の得喪及び変更は,不動産登記法…その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ,第三者に対抗することができない。」と定めている。

未登記の建物は,そもそも登記がないから,第三者に対して所有権の取得を対抗することができない。
当事者の間では贈与又は売買の効力が生じていても,第三者との関係では別の問題になる。

2 贈与又は売買をしたまま登記をしていない場合

未登記のまま建物を贈与し又は売買した場合は,贈与契約書,売買契約書,代金の領収証及び引渡しの時期を確認する。
表題登記をして所有権の保存の登記をするときに,誰を表題部所有者とするかが問題になる。

相続の場面では,被相続人が生前に建物を子へ贈与していたのか,被相続人の所有のまま子が使っていたのかで,遺産の範囲が変わる。

第6 遺言の対象に含まれるか

1 「その余の不動産」型の条項

遺言に「第一条記載の不動産を除く一切の不動産を相続させる」という包括的な条項があるときは,未登記建物も,遺言者が所有していた限り,その条項の対象に含まれると解する余地がある。

もっとも,遺言者が当該建物を自分の所有と認識していなかった場合には,そもそも遺言の対象となる財産ではない。
建物が誰のものであるかを先に決めなければ,条項の当てはめができない。

2 物件の表示と実際の建物の食い違い

遺言に物件の表示が書かれている場合,家屋番号,種類,構造及び床面積が,現地の建物及び課税台帳の記載と一致しないことがある。
増築によって床面積が変わっている場合,従前の地番のまま書かれている場合,同一敷地に複数の建物がある場合が典型である。

この場合は,遺言作成時の課税台帳の記載,建築確認の資料,航空写真及び測量図を突き合わせて,どの建物を指しているかを特定する。

3 付言事項が手掛かりになること

遺言の付言事項に,誰にどの財産を与える趣旨かが書かれていることがある。
例えば,「現に居住している家の敷地を相続させる」と書かれていれば,遺言者が建物そのものは既に受益者のものと認識していた可能性がある。

付言事項に法的な効力はないが,本文の条項の解釈の資料にはなる。
「相続させる」旨の遺言の効力については,相続させる遺言と特定財産承継遺言――違い,効力,登記及び遺言執行者の権限で説明している。

第7 遺産分割及び遺留分での扱い

1 遺産に属するかどうかを先に決める

未登記建物が被相続人の所有であったのであれば,遺産分割の対象になり,遺留分を算定するための財産にも入る。
他の相続人の所有であったのであれば,どちらにも入らず,建築資金の援助があった場合に特別受益の問題になるにとどまる。

争いがあるときは,遺産確認の訴えによって遺産に属することの確認を求める方法がある。
遺産確認の訴えとは――当事者・確認の利益・対象財産・主張立証を参照されたい。

2 評価

未登記建物は,課税台帳上の評価額が付されていることも,付されていないこともある。
古い建物では,解体の費用が建物の価値を上回ることがある。

このような建物について「価値がない」と主張するのであれば,相続税の申告で貸家として評価減を受けていないか,他の資料で収益物件として扱っていないかを先に確認する。
資料の間で扱いが食い違っていると,評価全体の信用を損なう。
相続税の申告書の読み方は,相続税の申告書を遺留分の基礎財産表に使えない理由―相続時精算課税,農地等の納税猶予,小規模宅地等の特例及び債務控除の読み替えで説明している。

3 相続登記の申請義務との関係

不動産登記法76条の2第1項は,「所有権の登記名義人について相続の開始があったときは,当該相続により所有権を取得した者は,自己のために相続の開始があったことを知り,かつ,当該所有権を取得したことを知った日から三年以内に,所有権の移転の登記を申請しなければならない。」と定めている。
同項後段は,相続人に対する遺贈により所有権を取得した者についても同様としている。

この義務は「所有権の登記名義人」についての相続を対象としている。
所有権の登記がない未登記建物は,この規定の直接の対象ではなく,同法47条1項の表題登記の申請義務の問題になる。

なお,同法76条の3第1項は,登記官に対して相続人である旨を申し出ることができるとし,同条2項は,期間内に申出をした者が76条の2第1項の義務を履行したものとみなすとしている。

第8 登記の手続

未登記建物を登記するときの手順は,次のとおりである。

①建物の所有権を取得した者を確定する。相続の場合は,被相続人が所有していたことを示す資料(建築確認の資料,工事の請負契約書,領収証,課税台帳の記録等)を集める。

②土地家屋調査士に依頼して建物の調査及び測量を行い,建物図面及び各階平面図を作成する。

③不動産登記法47条1項の表題登記を申請する。

④表題部所有者又はその相続人が,同法74条1項1号により所有権の保存の登記を申請する。

⑤相続人が複数いる場合は,遺産分割協議書又は遺言に基づいて,誰の名義で保存の登記をするかを決める。

なお,所有権の帰属について相続人間に争いがあるときは,表題登記を急ぐより先に,遺産の範囲を確定する手続を検討する。
建物を取り壊した場合は,滅失の登記が別に必要になる。

表題登記の申請に添付する情報は,不動産登記令別表十二の項が定めている。
同項の添付情報欄は,イ 建物図面,ロ 各階平面図,ハ 表題部所有者となる者が所有権を有することを証する情報,ニ 表題部所有者となる者の住所を証する市町村長,登記官その他の公務員が職務上作成した情報を掲げている。

ハの「所有権を有することを証する情報」に当たるのは,工事の請負契約書,工事代金の領収証,建築確認済証,検査済証,工事施工者の証明書等である。
古い建物ではこれらが残っていないことが多く,固定資産課税台帳の記載事項証明書,納税証明書,近隣者の証明書等を組み合わせることになる。

費用は,二つに分けて考える。
表示に関する登記は,登録免許税法2条が課税の対象とする別表第一に掲げられていないから,登録免許税はかからない。
これに対し,所有権の保存の登記には,同法別表第一の一の(一)により,不動産の価額の千分の四の登録免許税がかかる。

このほか,建物の調査及び測量並びに建物図面・各階平面図の作成を土地家屋調査士に依頼する報酬と,保存の登記を司法書士に依頼する報酬が必要になる。
報酬は事務所ごとに異なるので,建物の規模と資料の残り方を伝えて見積りを取る。

第9 実務の確認手順

未登記建物が出てきたときは,次の順序で資料を集める。

①市町村の名寄帳及び固定資産課税台帳の記載事項証明書を取り,家屋補充課税台帳に登録された名義,登録の時期及び評価額を確認する。

②登記記録を確認し,表題登記の有無を確かめる。同一敷地上の他の建物の登記記録も取る。

③建築確認済証,検査済証,工事の請負契約書,領収証及び借入れの資料を集め,誰が費用を負担したかを確かめる。

④遺言がある場合は,本文の条項と付言事項の双方を原本で読み,物件の表示と実際の建物を突き合わせる。

⑤相続税の申告書がある場合は,当該建物が財産の明細に載っているか,取得者欄に誰が書かれているかを確認する。載っていることと,遺言の条項とが食い違うことがある。

⑥現地を確認し,建物の位置,構造,使用の状況及び敷地との関係を写真に残す。

⑦以上を一覧表にして,所有権の帰属について当事者の主張が分かれる点を特定する。

財産の調査方法の全体は,被相続人の財産を調べる方法―相続人が被相続人の死亡後に行う財産・債務調査で整理している。

第10 出典・参考資料

1 法令

①不動産登記法27条,47条,74条,76条の2,76条の3,164条(e-Gov法令検索

②地方税法343条(e-Gov法令検索

③民法177条,242条,248条,1043条,1044条(e-Gov法令検索

④不動産登記令別表十二の項(e-Gov法令検索

⑤登録免許税法2条,別表第一の一(e-Gov法令検索

2 裁判例

①最高裁判所第三小法廷平成5年10月19日判決(平成元年(オ)第274号,建物明渡等,民集第47巻8号5061頁)。裁判所ウェブサイト

3 公的資料

①法務省「不動産登記のABC」(法務省