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医療機関の宿日直許可―当直・非常勤医師の労働時間,通常勤務と同態様の業務及び割増賃金(AI作成)

第1 宿日直許可を検討する順序

1 医療法上の宿直と労働基準法上の許可は別制度である

医療法16条は,医業を行う病院の管理者に対し,原則として病院に医師を宿直させることを求める。これは,入院患者の病状が急変した場合に診療できる体制を確保するための医療提供体制上の規定である。

これに対し,労働基準法上の宿日直許可は,断続的な宿直又は日直の勤務について,労働基準監督署長の許可を受けた場合に,許可の範囲で労働時間,休憩及び休日に関する規定の適用を除外する制度である。

したがって,医療法上,病院に医師を宿直させる必要があることから,当然に労働基準法上の労働時間規制が適用除外になるわけではない。また,病院が一つの宿日直許可を受けていることから,その病院における全ての当直,職種,診療科又は時間帯が適用除外になるわけでもない。

2 確認すべき四つの資料

令和8年9月20日現在,宿日直勤務を検討するときは,少なくとも次の四つを照合する必要がある。
①労働基準監督署長が交付した宿日直許可書及びその条件。
②対象者の労働条件通知書,雇用契約書,勤務表及び院内の当直規程。
③電子カルテ,救急受入れ,電話・呼出し,入退室,業務日誌等の実際の勤務記録。
④賃金台帳,給与明細及び時間外・休日・深夜割増賃金の計算資料。

許可があるかどうかだけでなく,許可された対象と実際の勤務が一致しているかを一勤務ごとに確認することが重要である。

第2 労働基準法上の法的枠組み

1 許可がなければ待機時間も原則として労働時間になり得る

宿直又は日直という名称であっても,労働者が病院の指揮命令下に置かれ,場所的・時間的に拘束されている時間は,原則として労働時間に当たり得る。当直料だけを定額で支払うことや,診療がなかったことだけで,当然に労働時間でなくなるわけではない。

労働基準法41条3号は,監視又は断続的労働に従事する者で,使用者が行政官庁の許可を受けたものについて,労働時間,休憩及び休日の規定を適用しないとする。労働基準法施行規則23条は,宿直又は日直の勤務で断続的な業務について,様式第10号による所轄労働基準監督署長の許可を受けた場合に,法定労働時間を超えて労働させることができると定める。

2 許可の効果は労働時間規制の全部を消すものではない

宿日直許可の対象となる勤務は,許可の範囲で,労働基準法32条の労働時間,34条の休憩及び35条の休日に関する規定の適用が除外される。しかし,深夜業の割増賃金に関する規定まで一律に除外されるものではない。

また,許可中に通常の勤務時間と同じ態様の業務に従事した時間は,許可された断続的勤務として扱うことができない。その時間について,通常の労働時間として把握し,必要な時間外・休日労働の手続及び割増賃金の支払を行う必要がある。

第3 医師等の宿日直許可基準

1 通常勤務から完全に解放されていること

厚生労働省の「医師、看護師等の宿日直許可基準について」(令和元年7月1日基発0701第8号)は,医療機関の医師,看護師等について,通常の勤務時間の拘束から完全に解放された後の勤務であることを前提とする。

外来診療の延長,予定手術,通常の病棟業務その他の日中と同じ密度の業務を継続して行う時間を,名目上「宿直」と呼ぶだけでは足りない。

2 業務が軽度又は短時間であること

許可対象となるのは,一般の宿日直許可基準を満たし,特殊な措置を必要としない軽度又は短時間の業務に限られる。具体例として,医師が少数の要注意患者の状態変動に対応するため,問診等による診察,必要な看護師等への指示又は確認を行うことなどが示されている。

実際の患者数だけでなく,診療内容,処置時間,呼出頻度,連続する対応時間,業務間の休息可能性を確認する必要がある。

3 宿直では十分な睡眠が確保できること

宿直については,夜間に十分な睡眠を取り得ることが必要である。宿直室やベッドが存在するだけでは足りず,実際の呼出し,電話,救急搬送及び病棟対応によって睡眠が継続的に妨げられていないかを確認する。

短い対応が断続的に多数発生し,実質的に睡眠できない勤務であれば,個々の対応時間だけでなく勤務全体の実態が許可基準と整合するかが問題になる。

4 宿日直手当と回数の基準

許可基準では,宿日直手当について,原則として,同種労働者に支払われる賃金の一人一日平均額の3分の1以上とすることが示されている。また,原則として宿直は週1回,日直は月1回を限度とするが,勤務の労働密度が特に薄く,勤務場所が複数ある等の事情により例外が認められる場合がある。

実際の許可条件は許可書で確認すべきであり,通達上の一般論だけから個別医療機関の許可範囲を推測してはならない。

第4 限定許可と通常勤務と同態様の業務

1 診療科,職種,時間帯及び業務を限定した許可

宿日直許可は,医療機関全体について一括して与えられる場合だけでなく,診療科,職種,時間帯又は業務の種類を限定して与えられる場合がある。

例えば,同じ病院内でも,ある診療科の医師は許可対象である一方,別の診療科は対象外ということがあり得る。また,準夜帯は通常勤務と同態様の業務が多いため対象外とし,深夜帯だけを許可対象とすることもあり得る。

許可番号の有無だけでなく,許可書に記載された職種,人数,場所,時間帯,業務内容及び回数を読み,対象医師の実際の勤務と一致するかを確認する。

2 救急又は産科という名称だけでは決まらない

厚生労働省の「医療機関の宿日直許可に関するFAQ」は,救急や産科であることだけで宿日直許可の対象外になるわけではないと説明する。

重要なのは診療科の名称ではなく,勤務時間中にどの程度の頻度と密度で通常勤務と同態様の業務が発生するかである。二次救急の指定,分娩の可能性又は入院患者数は重要な背景事情であるが,個々の勤務実態を具体的資料で確認する必要がある。

3 通常勤務と同態様の業務が稀に発生した場合

許可された宿日直中に,突発的な事故による応急患者の診療又は入院,患者の死亡,出産等への対応など,通常勤務と同態様の業務が稀に発生しても,直ちに許可を取り消す必要があるとは限らない。

ただし,その業務に実際に従事した時間は通常の労働時間として扱う。時間外又は休日労働に当たる場合は,労働基準法36条の手続を整え,同法37条に基づく割増賃金を支払う必要がある。

4 通常勤務と同態様の業務が常態化した場合

通常勤務と同態様の業務が恒常的又は高頻度に発生し,ほとんど労働することがない断続的勤務とはいえない実態になれば,許可基準を満たさない可能性がある。

FAQは,許可後に勤務環境が変化し,許可内容と勤務実態が乖離した場合,宿日直許可の効力が及ばなくなる可能性があることを示している。この場合,通常勤務と同態様の業務を行った時間だけでなく,当該宿日直時間全体が労働時間として扱われる可能性もあるため,医療機関は実態の変化を放置してはならない。

第5 許可取得後の労務管理

1 一勤務ごとの記録を残す

許可取得は労務管理の終点ではない。医療機関は,宿日直中の業務を一勤務ごとに記録し,許可基準との整合性を継続的に確認する必要がある。

少なくとも,勤務開始・終了,診療開始・終了,患者又は案件ごとの業務内容,電話・呼出し,救急搬送,入院・死亡・出産への対応,休憩及び睡眠可能時間を記録することが望ましい。

2 勤怠記録と診療記録を突き合わせる

自己申告による勤怠記録だけでなく,電子カルテのログ,救急受入台帳,ナースコール・電話記録,入退室記録等と突き合わせる。各システムの時刻にはずれがあり得るため,機械的に一致しないことだけで申告を否定せず,業務の時系列を復元する。

病院側が客観的資料を保有している場合,保存期間が過ぎる前に保全する。医師側も,勤務直後に業務内容と時刻を記録し,給与明細及び勤務表とともに保存することが望ましい。

3 実態が変わったときは許可内容を見直す

救急受入件数,病床数,診療科,人員配置又は勤務時間帯の変更により業務密度が上がった場合,従前の許可が現在の実態を覆うとは限らない。所轄労働基準監督署に相談し,必要に応じて許可の変更又は再申請を検討する。

第6 非常勤医師及び兼業医師の留意点

1 非常勤医師も許可対象になり得る

FAQは,常勤か非常勤かを問わず,宿日直許可の対象となり得ることを示している。したがって,スポット勤務又は非常勤勤務というだけで許可の対象外になるわけではなく,逆に非常勤だから労働時間管理が不要になるわけでもない。

許可は勤務する個人に対する包括的な免除ではなく,医療機関における特定の宿日直業務について与えられる。派遣元又は主たる勤務先で許可対象となっていることから,他院の当直にも同じ許可が及ぶわけではない。

2 副業・兼業先を含む労働時間管理

医師が複数の医療機関で雇用される場合,副業・兼業における労働時間通算の問題が生じる。宿日直許可の範囲内の時間と,通常勤務と同態様の業務を行った時間を区別し,各勤務先の始終業時刻と合わせて把握する必要がある。

医師の時間外労働上限規制,勤務間インターバルその他の健康確保措置との関係では,単に「許可あり」と登録するのではなく,許可書の範囲と実際の業務時間を正確に管理することが前提となる。

第7 紛争時の証拠チェックリスト

1 医療機関側に求める資料

①宿日直許可申請書,添付資料,許可書及び変更・再申請資料。
②宿日直規程,当直マニュアル,緊急時対応手順及び診療科別の役割分担。
③勤務表,タイムカード,自己申告記録,賃金台帳及び給与計算資料。
④電子カルテログ,救急受入記録,入退院記録,電話・呼出記録及び業務日誌。
⑤許可取得後の実態確認,院内監査,労基署相談及び是正対応の記録。

2 医師側で保存する資料

①労働条件通知書,雇用契約書,求人票及びシフト確定通知。
②勤務ごとの診療,処置,電話,呼出し,休憩及び睡眠の時刻メモ。
③給与明細,当直料・割増賃金の内訳及び振込記録。
④病院への申告,未払賃金の照会,業務負担の改善要請及び病院の回答。
⑤他の勤務先を含む勤務予定及び実績。

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第9 主要な一次資料

e-Gov法令検索・労働基準法(32条,35条,36条,37条及び41条3号)
e-Gov法令検索・労働基準法施行規則(23条)
e-Gov法令検索・医療法(16条)
厚生労働省「医師、看護師等の宿日直許可基準について」(令和元年7月1日基発0701第8号)
厚生労働省「医療機関の宿日直許可に関するFAQ」(令和6年8月6日版)

個別の医療機関における許可の有無及び範囲は,公開されている一般資料だけでは確認できない。必ず当該医療機関の許可書と勤務実態を照合する必要がある。