第1 この記事の対象と要点
1 対象と基準日
本記事は,結婚式場・披露宴会場を予約し,申込金を支払った後に解約を考えている方,式場側でキャンセル規定を作る事業者及び相談を受ける弁護士を対象に,キャンセル料をどこまで支払う必要があるかを整理するものである。
基準日は令和8年9月20日であり,法令の条文はe-Gov法令検索で同日に確認した現行の本文による。
裁判例は,裁判所ウェブサイトに掲載された判決の全文,判例秘書(LLI/DB)の判決全文及び適格消費者団体である特定非営利活動法人京都消費者契約ネットワーク(以下「KCCN」という。)がウェブサイトで公開している判決書等の写しに基づいて記載した。
飲食店の無断キャンセル(ノーショー)については無断キャンセルのキャンセル料と平均的な損害で,格安プランの広告表示の問題については格安葬儀の広告と見積もりの記事で扱っているので,本記事では取り上げない。
2 要点
①申込書を出して申込金を払えば,料理や衣装の内容と金額が決まっていなくても,挙式・披露宴の日時と会場が決まった時点で契約が成立したとされることがある(東京地方裁判所平成17年9月9日判決)。
②キャンセル料の条項は,消費者契約法9条1項1号により,同じ時期区分で解約した場合に式場に生ずべき「平均的な損害」を超える部分が無効となる。
③ただし,平均的な損害を超えることの主張立証責任は,基本的に消費者側にあるとされている(最高裁平成18年11月27日判決)。
④挙式の1年以上前の解約で申込金の返還を認めた裁判例がある一方,時期に応じて段階的に上がるキャンセル料条項の差止めを適格消費者団体が求めた2件の訴訟は,いずれも請求棄却で終わっている。
⑤新型コロナウイルス感染症の緊急事態宣言の翌日にされた解約について,取消料条項の適用自体を否定した判決がある(名古屋地方裁判所令和4年2月25日判決)が,これは消費者契約法9条1項1号を判断したものではない。
⑥結婚式は特定商取引法の特定継続的役務に当たらないので,同法の中途解約の規定は使えない。
第2 申込み・「仮予約」で契約は成立するか
1 東京地方裁判所平成17年9月9日判決の事案
(1) 予約から6日後の解除
この判決は,東京簡易裁判所の判決(平成16年(ハ)第9186号)に対する控訴審として東京地方裁判所が言い渡したものである(平成17年(レ)第67号,判例時報1948号96頁,裁判所ウェブサイトに掲載)。
消費者は,平成16年5月8日に式場を訪れ,平成17年5月28日(約1年後)の挙式・披露宴を申し込んで申込金10万円を支払ったが,その6日後の平成16年5月14日に予約を解除し,申込金の返還を求めた。
申込書の裏面には,申込日から挙式等の90日前までに取り消した場合には,実費総額に加えて取消料として申込金10万円を支払う旨の条項があった。
(2) 第一審は請求棄却,控訴審で9条1号の主張を追加
消費者は,第一審では契約が成立していないこと及び取消料条項が消費者契約法10条に反することを主張したが,請求は棄却された。
控訴審で,取消料条項が同法9条1号に違反して無効であるとの主張を追加し,これが認められて原判決が取り消され,10万円の返還が命じられた。
2 契約の成立についての判断
(1) 重要部分が決まれば契約は成立する
消費者は,料理,引出物,サービス等の内容と対価が確定していない以上,契約は成立していないと主張した。
判決は,「契約の成立に当たっては契約内容の全てが確定している必要はなく、契約の重要部分が確定していれば契約は有効に成立すると解するのが相当である」とした。
その上で,結婚式・披露宴の契約では,「特定の日時及び会場において、結婚式という儀式及び結婚の披露宴を開催するというサービスを提供することが、その契約の重要な部分であると解すべきである」として,日時と会場が合意で確定した予約の時点で契約の成立を認めた。
(2) 「仮予約」という呼び方との関係
この判決で問題となったのは,申込書を提出して申込金を支払った「予約」であり,「仮予約」という言葉の意味を判断したものではない。
もっとも,判決の考え方からすれば,式場が「仮予約」「仮押さえ」と呼んでいても,日時と会場が決まり,申込金を受け取っているのであれば,契約が成立していると評価される可能性があると考えられる。
逆に,一定の期限まで無料で取り消せる,申込金を受け取らない等の取扱いが書面で明らかであれば,その期間は契約前の段階と扱われる余地がある。
「仮」という言葉だけで判断せず,何を約束し,何を支払ったかで見る必要がある。
第3 消費者契約法9条による制限
1 条文
(1) 9条1項1号
消費者契約法9条1項は,「次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。」と定め,同項1号は,「当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分」と定めている。
キャンセル料条項そのものが全部無効になるのではなく,平均的な損害を超える部分だけが無効になる。
(2) 9条2項(算定根拠の説明)
同条2項は,「事業者は、消費者に対し、消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項に基づき損害賠償又は違約金の支払を請求する場合において、当該消費者から説明を求められたときは、損害賠償の額の予定又は違約金の算定の根拠(第十二条の四において「算定根拠」という。)の概要を説明するよう努めなければならない。」と定める。
消費者庁の逐条解説は,この規定は努力義務であり,違反を理由に意思表示の取消しや損害賠償責任といった私法上の効力が直ちに生ずるものではないとしている(同解説166頁)。
(3) 12条の4(適格消費者団体の説明要請)
同法12条の4第1項は,「適格消費者団体は、消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項におけるこれらを合算した額が第九条第一項第一号に規定する平均的な損害の額を超えると疑うに足りる相当な理由があるときは、内閣府令で定めるところにより、当該条項を定める事業者に対し、その理由を示して、当該条項に係る算定根拠を説明するよう要請することができる。」と定める。
同条2項により,事業者は,営業秘密が含まれる場合その他の正当な理由がある場合を除き,この要請に応じるよう努めなければならない。
2 平均的な損害の意味と立証責任
(1) 消費者庁の逐条解説による説明
消費者庁「消費者契約法 逐条解説」(令和5年9月)は,「平均的な損害の額」を,同一事業者が締結する多数の同種契約について類型的に考察した場合に算定される平均的な損害の額であり,解除の事由,時期等により同一の区分に分類される複数の同種契約の解除に伴い,その事業者に生ずべき損害の額の平均値を意味すると説明している(同解説155頁)。
また,それは個々の事業者について算定された平均値であって,業界の水準を指すものではないとしている(同頁)。
「他の式場も同じ料率だから」という説明は,それだけでは平均的な損害の根拠にならないことになる。
(2) 最高裁平成18年11月27日判決(立証責任)
最高裁判所第二小法廷平成18年11月27日判決(平成17年(受)第1158号・第1159号,民集60巻9号3437頁,裁判所ウェブサイトに掲載)は,大学の入学辞退と学納金の不返還特約に関する事件で,平均的な損害を「一人の学生と大学との在学契約が解除されることによって当該大学に一般的,客観的に生ずると認められる損害をいう」とした。
その上で,「上記平均的な損害及びこれを超える部分については,事実上の推定が働く余地があるとしても,基本的には,違約金等条項である不返還特約の全部又は一部が平均的な損害を超えて無効であると主張する学生において主張立証責任を負うものと解すべきである。」と判示した。
結婚式場の事件でも,この判断を前提に,キャンセル料が平均的な損害を超えることは消費者側が主張立証することになる。
逐条解説は,平均的な損害の額は事業者に固有の事情であり,資料は主として事業者が持っているため,消費者による立証が困難な場合もあるとし,9条2項及び12条の4の説明の仕組みが立証の負担の軽減につながると説明している(同解説166頁~167頁)。
3 逐条解説にある結婚式場の設例
(1) 事例9-3(1年以上前の解約と前日の解約)
逐条解説は,結婚式場等の契約の例として,実際に使用される日から1年以上前の解約で契約金額の80%を解約料とするA社と,前日の解約で契約金額の80%を解約料とするB社を挙げている(同解説158頁~159頁)。
A社については,1年後に使用するのに80%を請求するのは通常は平均的な損害の額を超えると考えられ,仮に平均的な損害が契約金額の5%であれば,80%のうち75%の部分が無効となり,5%分しか請求できないとしている。
他方,B社のように前日の解約で80%を請求しても,通常は平均的な損害の額を超えるとはいえず,無効とはならないと考えられるとしている。
(2) 事例9-6(算定根拠の説明例)
逐条解説は,9条2項の説明の具体例として,挙式1か月前の解除で見積額の35%のキャンセル料を定める結婚式場利用契約を挙げる(同解説166頁)。
そこでは,会場の装飾品の仕入れや司会者等の人員の手配を挙式の1か月前までに通常は完了させており,挙式が中止になってもその費用が発生するため,その人件費等を含めてキャンセル料を設定している,という趣旨の回答をすれば,算定根拠の概要を説明したことになり,努力義務を履行したことになるとしている。
逐条解説は,事業者に求められるのは算定根拠の「概要」であり,費用の具体的な数字まで説明する必要はなく,考慮した費用項目などを説明すれば足りるとしている(同頁)。
4 東京地方裁判所平成17年9月9日判決の9条1号の判断
(1) 式場側の主張
式場側は,1組当たりの平均利益額を59万4367円とし,挙式予定日の90日以上前に解除された151組のうち再受注できなかった57組分の利益を151組で割った22万4364円が平均的な損害であると主張した。
また,9条1号は契約条項で定めた時期の区分を前提とするから,消費者が自分に有利な区分を設定し直すことはできないと主張した。
(2) 判決の判断
判決は,式場の予約データから,「挙式予定日の1年以上前から被控訴人店舗での挙式等を予定する者は予約全体の2割にも満たない」ことを認定した。
そして,その時期に予約が解除されても,その後1年以上の間に新たな予約が入ることも十分期待できるとして,得べかりし利益を失うことは「そのような事態はこの時期に平均的なものとして想定し得るものとは認め難い」とし,平均的な損害に当たらないとした。
また,予約後に履行に備えた出捐をしたことや,予約があるために他の予約を断ったことも認められないとした。
結論として,「本件取消料条項は、本件予約の解除に対する関係において、法9条1号により無効である」と判断した。
この判決は,挙式の約1年前,予約からわずか6日後の解除であったことが結論を大きく左右している。
挙式が近づいた時期の解除にそのまま当てはまるものではない。
第4 適格消費者団体による差止訴訟(京都の2件)
1 差止請求の仕組みとKCCNの取組み
消費者契約法12条3項は,適格消費者団体が,事業者が不特定かつ多数の消費者との間で同法8条から10条までに規定する条項を含む契約の申込み又は承諾の意思表示を現に行い又は行うおそれがあるときに,その停止若しくは予防等を請求できると定めている。
KCCNのウェブサイトによれば,同団体は結婚式場のキャンセル料条項について,平成19年から式場事業者や業界団体への照会・申入れを行い,株式会社Plan・Do・Seeとの間では平成22年に差止請求訴訟を提起して同年7月28日に和解している(同団体はこれを勝訴的和解と説明している)。
その後,平成23年10月11日に,株式会社ベストブライダルと株式会社Plan・Do・Seeを相手に,それぞれ京都地方裁判所へ差止請求訴訟を提起した。
2 ベストブライダル事件
(1) 京都地方裁判所平成25年4月26日判決
京都地方裁判所平成25年4月26日判決(平成23年(ワ)第3426号,結婚式場解約金条項使用差止等請求事件)は,KCCNの請求を棄却した。
判決は,まず,解約の際に申込金を返還しないとする部分について,申込金は解約されなければ挙式披露宴代金の一部に充てられ,解約されればキャンセル料となる金員であるとして,9条1号の対象となる条項に当たるとし,申込金は会場の利用権を確保する対価(権利金)又は事務処理手数料であるという式場側の主張を採用しなかった。
次に,平均的な損害について,「本件契約の解約に伴う被告の平均的損害は,解約に伴う逸失利益(得べかりし利益)から,再販売により填補される利益及び解約により支出を免れる経費を控除することにより算定すべきである。」とした。
挙式の91日以前の解約では逸失利益を基礎にすべきでないというKCCNの主張は,再販売がされた場合を除けば,解約時期にかかわらず式場は挙式が実施されていれば得られた利益を失うとして,採用しなかった。
また,逸失利益は解約時の見積額ではなく実際に挙式が実施された場合の平均実施金額を基礎にすべきであるとし,挙式予定日の4日前以降の解約では,発注済みの食材や手配済みの人員の支出を免れることはできないとした。
その結果,各時期区分のキャンセル料は平均的な損害を超えないとされた。
(2) 控訴審・上告審
KCCNが公開している判決書・調書の写しによれば,大阪高等裁判所平成26年2月21日判決(平成25年(ネ)第1867号)は控訴を棄却し,最高裁判所第二小法廷平成27年2月13日決定(平成26年(受)第940号)は上告審として受理しない旨の決定をした。
3 Plan・Do・See事件
(1) 京都地方裁判所平成26年8月7日判決
京都地方裁判所平成26年8月7日判決(平成23年(ワ)第3425号,結婚式場解約金条項使用差止等請求事件,判例時報2242号107頁,裁判所ウェブサイト未掲載,判例秘書で全文確認)も,KCCNの請求をいずれも棄却した。
この事件の式場は開催日の1年以上前から契約を締結し,申込金は10万円であった。
判決は,時期区分ごとに,解除時の見積額の平均に粗利率と非再販率を乗じる計算式で平均的な損害を算定した。
粗利率は,総売上高から,婚礼飲食料原価,衣装・写真・ビデオ・司会・装花・引出物等の婚礼付帯原価及び雑給から成る総直接費を控除した粗利益の割合とされた。
その上で,各時期区分のキャンセル料はいずれも「損益相殺後の本件逸失利益を下回っている」とし,当日の解除について解除時見積額の全額とする条項も平均的な損害を超えるとは認められないとした。
(2) 控訴審・上告審
KCCNが公開している判決書・調書の写しによれば,大阪高等裁判所平成27年1月29日判決(平成26年(ネ)第2494号)は控訴を棄却し,最高裁判所第二小法廷平成27年9月2日決定(平成27年(受)第897号)は上告審として受理しない旨の決定をした。
4 2件から読み取れること
2件の判決は,挙式の日時と会場を一定期間押さえること自体に,再販売で埋まらなかった場合の逸失利益という損害の可能性があることを前提に,平均的な損害を算定している。
そのため,式場側が時期区分ごとの再販率や粗利率のデータを持っていれば,時期に応じて段階的に上がるキャンセル料条項は,平均的な損害を超えないと判断されやすいと考えられる。
他方,東京地方裁判所平成17年9月9日判決のように,挙式の約1年前という早い時期で,その時期の予約が少なく再販売が十分期待できることが示された事案では,申込金の没収すら認められていない。
結局,キャンセル料の有効性は,条項の料率そのものよりも,その時期区分でどれだけ再販売ができているかという式場固有のデータに左右されることになる。
第5 新型コロナウイルス感染症による解約
1 名古屋地方裁判所令和4年2月25日判決の事案
(1) 取消料条項の内容
名古屋地方裁判所令和4年2月25日判決(令和2年(ワ)第3686号・令和3年(ワ)第4026号,取消料支払請求事件・取消料支払請求承継参加事件,裁判所ウェブサイトに掲載)は,名古屋市内のホテルで令和2年6月14日に予定された出席者130名の披露宴の契約に関する事件である。
消費者は,令和元年9月16日に見積書を確認し,規約に同意して申込金20万円を支払った。
規約の取消料条項は,披露宴の取消し又は期日変更の場合について,365日以前は申込金の20%と実費,180日以前は申込金の50%と実費,150日以内は申込金の全額と見積金額の10%と実費,90日以内は申込金の全額と見積金額の30%と実費というように,時期に応じて段階的に負担を定め,前日・当日は見積金額の全額としていた。
他方,規約には,天災その他やむを得ない事由で宴会場等を使用できなくなった場合にホテル側が契約を解約できる旨の条項があったが,利用者側についての同様の定めはなかった。
(2) 解約の経緯と請求
令和2年4月7日に7都府県を対象とする緊急事態宣言が発令され,消費者はその翌日の4月8日に解約を申し出た。
招待客には,東海地区だけでなく九州から東北までの各地の居住者が含まれていた。
ホテル側(訴訟係属中に事業を承継した会社を含む。)は,見積金額の30%に当たる取消料の残金150万0803円を請求した。
2 判決の判断
(1) 帰責事由のない解約には取消料条項が適用されない
判決は,天災等のやむを得ない事由で利用者が解約した場合にも取消料条項がそのまま適用されると,利用者に帰責事由がないのに事業者が通常どおり損害の補填を得ることになり,損害の衡平な分担の観点から妥当でないとした。
その上で,「利用者による契約の解約等について利用者側に帰責事由がないと認められる場合は,本件取消料条項の想定する場面ではなく,その適用の対象にならないと解するのが相当である。」とした。
(2) 本件の解約はやむを得ない事由によるもの
判決は,解約申出の時点では,感染が収束に向かうとの具体的な見通しを一般の国民が持ち得ない状況であったこと,披露宴は密閉・密集・密接が生じやすく,遠方の招待客に都府県をまたぐ移動を求めることになること,同じ宴会場で同年5月から7月までに予定されていた他の17組の披露宴が全て延期又は取消しになっていたことなどを挙げた。
そして,その後2,3か月内の披露宴の開催は現実的に不可能であると一般的に認識されていたとして,解約はやむを得ない事由によるもので,消費者に帰責事由があるとは認められないとした。
ホテル側が延期を勧めたのに応じなかったという主張については,取消料条項は期日変更の場合にも適用されるものであるから,判断を左右しないとした。
結論として,取消料の請求を棄却した。
(3) 申込金と招待状の実費
判決は,申込金については,希望する日時・会場で「披露宴を開催し得る地位を取得するための対価としての性質を有する」として,解約しても原則として返還請求権はないとし,既に支払われた招待状の実費相当額についても返還請求権はないとした。
消費者側が申込金と実費の返還を求める反訴を起こしていたわけではなく,ホテル側の請求が取消料の残金に限られていたことに注意を要する。
3 この判決の位置付け
この判決は,取消料条項が本件の解約に適用されないとした結果,「その余の争点について判断するまでもなく」請求を棄却しており,取消料条項が消費者契約法9条1号により無効かどうかは判断していない。
したがって,9条1号の平均的な損害に関する先例として引用することはできない。
また,やむを得ない事由の有無は解約時点の具体的な状況で判断されており,感染症を理由とする解約であれば常に取消料が不要となるという趣旨ではない。
地方裁判所の判決であり,控訴の有無は確認できていない。
第6 特定商取引法・割賦販売法との関係
1 特定商取引法の特定継続的役務には当たらない
特定商取引法41条2項は,「特定継続的役務」を,役務の提供を受ける者の身体の美化又は知識若しくは技能の向上その他の心身又は身上に関する目的を実現させることをもって誘引が行われ,その目的が実現するかどうかが確実でないものとして,政令で定めるものとしている。
これを受けた同法施行令25条及び別表第四は,①エステティック,②美容医療,③語学の教授,④家庭教師等,⑤学習塾等,⑥パソコン教室,⑦結婚を希望する者への異性の紹介の7つを定めている。
結婚相手紹介サービスは⑦に当たるが,結婚式・披露宴の実施は含まれていない。
そのため,特定継続的役務の中途解約の規定や損害賠償額の上限の規定は,結婚式場の契約には使えず,キャンセル料の問題は主に消費者契約法9条で扱うことになる。
2 互助会の積立で挙式する場合
冠婚葬祭互助会の積立金で結婚式を挙げる場合は,事情が異なる。
割賦販売法2条6項は,政令で定める役務(指定役務)の提供に先立って,その対価の全部又は一部を2か月以上の期間にわたり,かつ,3回以上に分割して受領する取引を「前払式特定取引」としている。
同法施行令1条4項及び別表第二第一号は,指定役務として「婚礼(結婚披露を含む。)のための施設の提供、衣服の貸与その他の便益の提供及びこれに附随する物品の給付」を定めている。
互助会の解約手数料をめぐる裁判例と注意点は,互助会の解約手数料の記事で扱う。
各法律の違いの全体像は,消費者契約法・特定商取引法・割賦販売法等の違いと主な制度を参照されたい。
第7 実務上の対応
1 申込金を払う前に確認すること
(1) 見積もりの前提
最初の見積もりが,料理,衣装,装花,写真等をどのランクで,何名の出席を前提にしているかを確認し,書面で受け取っておく。
名古屋地方裁判所令和4年2月25日判決の事件でも,取消料の基礎となる見積金額が申込時の概算見積りか解約時の見積りかが争点として主張されていた。
取消料が見積額の一定割合で決まる条項では,どの時点の見積額が基礎になるかによって負担額が変わるためである。
(2) 解約料表と「仮予約」の意味
時期区分ごとの解約料表(何日前までなら申込金の何割か,見積額の何%か)を,申込前に書面で受け取る。
期日変更にも取消料がかかるか,天災や感染症の流行等で開催できなくなった場合の定めがあるかも確認する。
「仮予約」「仮押さえ」と言われた場合は,いつまでなら無料で取り消せるのか,申込金を支払えばその時点で契約が成立するのかを,書面で確かめておく。
第2で見たとおり,日時と会場が決まって申込金を払えば,名目にかかわらず契約が成立したと評価されることがある。
2 解約するとき
(1) 時期と事由の記録
キャンセル料は解約の時期区分で決まるので,解約の意思表示はメール等の記録が残る方法で行い,到達した日を明らかにしておく。
感染症の流行や災害等のやむを得ない事由がある場合は,解約した時点の状況(行政の要請,招待客の居住地,会場の他の予約の状況等)を記録しておく。
名古屋地方裁判所令和4年2月25日判決では,解約申出の時点の事情で判断され,その後に緊急事態宣言が解除されたことは判断を左右しないとされた。
(2) 算定根拠の説明と資料の求め方
キャンセル料を請求されたら,消費者契約法9条2項に基づき算定根拠の概要の説明を求める。
平均的な損害を超えることの立証責任は基本的に消費者側にあるので,説明を求める際は,その時期区分で解約された件数,そのうち同じ日時・会場が再販売された割合,解約によって支出を免れる費用の扱いなど,平均的な損害の算定に関わる事項を具体的に尋ねるのがよいと考えられる。
東京地方裁判所平成17年9月9日判決では,式場側が提出した予約時期のデータ自体から,1年以上前の予約が2割に満たないことが認定されている。
事業者が説明に応じない場合や,同様の相談が多い式場については,消費生活センターや適格消費者団体への情報提供も考えられる。
3 式場側がキャンセル規定を作るときの注意
(1) 時期区分と算定根拠の用意
逐条解説は,事業者が違約金等を定める際にあらかじめ平均的な損害の額を十分算定していれば,算定根拠を示した説明も容易となり,トラブルを回避できるとし,合理的な根拠を持って平均的な損害の額を算定しておくことが期待されているとしている(同解説167頁)。
京都の2件の判決は,時期区分ごとの平均実施金額又は見積額,粗利率,再販率のデータに基づいて平均的な損害が算定され,キャンセル料条項が維持された例である。
逆に,東京地方裁判所平成17年9月9日判決のように,早い時期の区分について再販売の見込みを考慮しない料率を定めると,その区分では平均的な損害が認められないおそれがある。
申込から挙式まで1年以上ある契約を受け付ける式場では,早い時期の区分を細かく分けることが考えられる。
(2) 申込金の性格と不可抗力の定め
京都地方裁判所平成25年4月26日判決では,約款上,申込金が代金に充当され,解約時にはキャンセル料となると定められていたことから,申込金を権利金又は事務処理手数料とする主張が退けられた。
申込金に独自の性格を持たせるのであれば,約款の定め方と実際の取扱いを一致させておく必要がある。
また,名古屋地方裁判所令和4年2月25日判決は,事業者側の解約権だけを定めた不可抗力条項を手がかりに,利用者に帰責事由がない解約には取消料条項が適用されないと判断した。
天災や感染症等で開催が困難になった場合の延期・解約の扱いは,利用者側についても明示的に定めておくことが望ましいと考えられる。
9条2項の説明に備えて,逐条解説の事例9-6のような説明文を時期区分ごとに用意しておくことも有益である。
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第9 出典
法令(e-Gov法令検索,令和8年9月20日確認)
①消費者契約法9条,12条3項,12条の4
②特定商取引に関する法律41条
③特定商取引に関する法律施行令25条,別表第四
④割賦販売法2条6項
⑤割賦販売法施行令1条4項,別表第二
裁判例(裁判所ウェブサイト掲載)
①最高裁判所第二小法廷平成18年11月27日判決(平成17年(受)第1158号・第1159号,民集60巻9号3437頁)裁判所ウェブサイト
②東京地方裁判所平成17年9月9日判決(平成17年(レ)第67号,判例時報1948号96頁。掲載誌は判例秘書で確認)裁判所ウェブサイト
③名古屋地方裁判所令和4年2月25日判決(令和2年(ワ)第3686号・令和3年(ワ)第4026号)裁判所ウェブサイト
裁判例(裁判所ウェブサイト未掲載)
①京都地方裁判所平成25年4月26日判決(平成23年(ワ)第3426号。KCCN公開の判決書の写し及び判例秘書で確認)
②大阪高等裁判所平成26年2月21日判決(平成25年(ネ)第1867号。KCCN公開の判決書の写しで確認)
③最高裁判所第二小法廷平成27年2月13日決定(平成26年(受)第940号。KCCN公開の調書の写しで確認)
④京都地方裁判所平成26年8月7日判決(平成23年(ワ)第3425号,判例時報2242号107頁。判例秘書で全文確認)
⑤大阪高等裁判所平成27年1月29日判決(平成26年(ネ)第2494号。KCCN公開の判決書の写しで確認)
⑥最高裁判所第二小法廷平成27年9月2日決定(平成27年(受)第897号。KCCN公開の調書の写しで確認)
所管行政機関の解説
消費者庁「消費者契約法 逐条解説(令和5年9月)」第9条(冊子154頁~167頁,PDFの1頁~14頁)消費者庁
適格消費者団体の公開資料
特定非営利活動法人京都消費者契約ネットワーク「結婚式場関連-申し入れ・差止請求」KCCN