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がん保険の放射線治療と「50グレイ以上」要件―旧約款の由来,既契約への適用,短期照射及び給付金が支払われないときの対応(AI作成)

第1 本記事の対象と結論

1 対象と基準日

本記事は,がん保険や医療保険の手術給付金・放射線治療給付金について,放射線の総線量が50グレイ以上であることを支払要件とする約款の定めを扱う。
乳がんの術後照射などで回数を減らした照射(寡分割照射)を受けると総線量が50グレイに届かないことがあり,加入している保険の約款にこの要件があると,給付金が支払われるかどうかが問題になる。
記載は,令和8年9月20日時点で確認できた保険会社の公表資料,生命保険協会の裁定概要,裁判例及び法令に基づく。
個々の保険の支払可否は,契約日,特約の種類及び適用される約款の版によって異なる。

2 結論

(1) 要件の有無は約款の版と特約で決まる

「50グレイ以上の照射」を条件とする定めは,旧来の手術給付表にあった文言であり,現在も一部の特約や契約時期の約款に残っている。
他方で,公的医療保険の放射線治療料の算定対象となる治療であれば線量を問わない型の約款も増えており,同じ保険会社でも契約の時期によって扱いが異なる。
既存の契約にまで撤廃を及ぼした保険会社もあるが,新しい契約だけに撤廃を適用した例も多い。

(2) 「相当」の診断書と約款の文言

主治医が「50グレイ相当の効果がある」と診断書に書いても,約款が総線量の数値を条件としている限り,支払われるとは限らない。
生命保険協会の裁定審査会でも,この種の申立てで保険会社に支払を求めなかった事案がある。
支払を受けられないときは,約款の版と保険会社の改定のお知らせを確認した上で,保険会社への再請求,生命保険相談所・裁定審査会又は訴訟を検討し,その間に保険金請求権の消滅時効(原則3年)が進むことに注意する。

第2 「50グレイ以上」要件の内容と由来

1 旧来の手術給付表の文言

(1) 手術給付表の「新生物根治放射線照射」

明治安田生命保険の手術保障特約の手術給付表(別表)は,改定前,「88.新生物根治放射線照射(50グレイ以上の照射で,施術の開始日から60日の間に1回の給付を限度とする。)」と定めていた。
同社の説明によれば,「50グレイ以上の照射」には「5,000ラド以上の照射」の場合を含む。
このように,放射線治療を手術給付表の一項目として給付の対象とし,その中で総線量の下限を定める形が旧来の典型である。

(2) 他社の約款の例

かんぽ生命保険が公表している簡易生命保険の特約約款(抜粋)の別表では,91番の「新生物根治放射線照射」に「一連の照射をもって50グレイ以上の照射を受けた場合に限ります。」との限定が付されている。
東京海上日動あんしん生命保険の「がん治療支援保険」(平成25年10月改定のご契約のしおり・約款)のがん手術特約条項の別表にも,「悪性新生物根治放射線照射(悪性新生物の治療を目的とした50グレイ以上の照射で,施術の開始日から60日の間に1回の給付を限度とする。)」とある。
番号や文言の細部は会社と商品によって異なるので,手元の約款の別表を直接確認する必要がある。

2 要件が置かれた経緯と見直しの動き

(1) 昭和56年の統一約款

順天堂大学の放射線治療医による調査研究(生命保険論集222号所収)は,この規定について,昭和56年(1981年)に「疾病・手術に関する全社統一約款」が作成された際,悪性腫瘍への放射線治療を手術の代替治療として手術等級表の一項目に加えたことに由来すると説明している。
同研究は,多くの民間医療保険会社及び共済で,放射線治療に対する給付を総線量50グレイ以上とする規定の商品が過去にあり,総線量が50グレイ未満となる寡分割照射に給付が行われない実態が問題となっていたとも述べている。

(2) 学会の要望と撤廃商品の登場

同じ調査研究によれば,日本放射線腫瘍学会は,平成20年9月に生命保険協会へ,平成22年7月に内閣府特命担当大臣へ,それぞれ文書で50グレイの線量規定の撤廃を要望した。
その後,平成23年に線量規定を撤廃した商品が初めて発表されたとされる。
同研究が調べた民間医療保険会社及び共済17社のうち,最新のご契約のしおり・約款で線量規定を撤廃していたのは15社であった。
もっとも,同研究は,過去に販売された商品の約款まで遡れない例が複数あったことを限界として挙げており,撤廃の時期や既存契約への適用の有無は会社ごとに確認する必要がある。

第3 短期照射(寡分割照射)では50グレイに届かないこと

乳房温存手術後の全乳房照射は,従来,50グレイを25回に分けて約5週間で照射する方法が標準とされてきた。
これに対し,1回の線量を増やして回数を減らす寡分割照射では,42.5グレイを16回(カナダの無作為化比較試験),40グレイを15回(英国の無作為化比較試験)で照射する方法が,通常の分割照射と同等の成績を示した。
国内でも,42.56グレイを16回で照射する方法の多施設共同試験の最終結果が令和3年に報告されている。
さらに,26グレイを5回で照射する方法が40グレイ15回に劣らないとする海外の試験結果もある。

日本乳癌学会の「乳癌診療ガイドライン2022年版」は,全乳房照射において通常分割照射と同等の治療として寡分割照射を勧めるかという問いについて,50歳以上で乳房部分切除術後のpT1−2N0であり,全身化学療法を行っていない患者には「強く勧められる」とし,それ以外の患者でも同様に強く推奨している。
このため,標準的な治療を受けた結果として総線量が50グレイ未満となる場面は珍しくない。
通院の回数と期間を減らせる治療を選んだことで,旧来の約款の給付要件を満たさなくなるという食い違いが,この問題の中心である。

第4 保険会社ごとの扱いと既契約への適用

1 既存の契約にも撤廃を及ぼした例

明治安田生命保険は,放射線技術の進展により50グレイ未満の照射で治療できる例や再発防止目的の放射線治療が増えたことを理由に,手術保障特約の手術給付表等にある「新生物根治放射線照射」の支払事由から「根治」と「50グレイ以上」の条件を撤廃した。
改定後の文言は「新生物放射線照射(施術の開始日から60日の間に1回の給付を限度とする。)」である。
同社は,この改定を既に加入している契約にも適用し,特別な手続は不要であるとしており,2022年(令和4年)6月2日以降に支払事由に該当した場合に適用されるとしている。
対象となる普通保険約款及び特約条項は,同社が一覧を公表している。

2 契約の時期によって要件が残る例

保険会社の公表資料からは,新しい商品では線量を問わない一方,以前の商品には50グレイ以上の要件が残る例が確認できる。
主な例は次のとおりである。

保険会社公表資料で確認できる扱い
オリックス生命保険CURE Next等の現行商品は照射量を問わないが,医療保険(2007)「CURE」等は新生物の治療を目的とした50グレイ以上の照射,Believe新がん保険(2010)は悪性新生物の治療を目的とした50グレイ以上の照射を支払対象とする(よくあるご質問)。
東京海上日動あんしん生命保険放射線治療料の算定対象となる放射線治療を支払対象とするが,契約の時期により,悪性新生物根治放射線照射の総線量を50グレイ以上としている場合があるとする(よくあるご質問)。
メットライフ生命保険新生物根治放射線照射の支払には線量が50グレイ以上の照射の要件があるが,放射線技術の進展を踏まえ,50グレイ未満の照射も支払対象となる場合があるとする(請求の案内)。
かんぽ生命保険公表している簡易生命保険の特約約款(抜粋)の別表91番に「一連の照射をもって50グレイ以上の照射を受けた場合に限ります。」とある。
朝日生命保険医療保険(返戻金なし型)(2010)等の現行商品は点数表連動で線量の下限を設けていないが,保険金・給付金ご請求のしおり(2026年4月作成)の手術の表では,手術給付金付疾病入院特約,総合医療保険,新総合医療保険及び新医療保険(手術給付金)の「新生物根治放射線照射(50グレイ以上)」を対象とし,医療保険(2010),医療保険L(2011)及び引受基準緩和型医療保険は「50グレイ未満でも給付の対象となります」とする。
SOMPOひまわり生命保険「照射量の合計が50グレイ以上であることが,お支払条件となります」としつつ,契約日が平成26年5月2日以降の医療保険,ホッとメディカル及びガンマナイフ等による放射線施行には照射量の条件がないとする(よくあるご質問)。
ジブラルタ生命保険保険又は特約によっては,放射線の総線量が合算して50グレイ(5000ラド)に達することが条件となるとする(契約者向けのセルフチェックのページ)。

これらは各社のよくあるご質問や約款の抜粋であり,個々の契約の約款そのものではない。
日本生命保険及びアフラック生命保険の現行商品の約款は,放射線治療の支払対象を点数表の放射線治療料の算定対象とする診療行為としており,線量の下限の記載はないが,以前の商品に50グレイ以上の要件があるかどうかは,公表資料では確認できなかった。
自分の契約がどの商品・版に当たるかは,保険証券の特約名と契約日で特定し,その版の約款で確認する必要がある。

3 点数表連動型でも線量要件が残る例

最近の約款では,支払対象を「医科診療報酬点数表に放射線治療料の算定対象として列挙されている放射線治療」と定め,公的医療保険の点数表に連動させる型が多い。
しかし,この型であれば常に線量を問わないとは限らない。
第一生命保険の新総合医療特約D「医のいちばん」の支払事由の説明は,点数表の放射線治療料の算定対象となる放射線治療を対象としつつ,「放射線の照射を行うものについては,その総量が50グレイ以上となる場合に限ります」と明記している。
約款の型だけで判断せず,支払事由の条文の括弧書きまで読む必要がある。

4 撤廃の広がりと給付の実情

前記の調査研究は,令和3年8月から令和4年4月までに同じ病院で乳がん術後の寡分割照射(42.56〜43.2グレイ/16回)を受けた45名を対象に,保険金の給付状況を調べた。
給付金の申請があった40件のうち給付が行われたのは32件(80%)で,同じ病院の平成22年度の調査の24件中9件(37%)から大きく改善していた。
他方で,線量規定を撤廃していない2社の6件では,給付は3件にとどまった。
この結果は一つの病院の患者を対象とした調査であり,保険会社名は匿名化されているため,特定の会社の現在の扱いを示すものではない。

第5 「50グレイ相当」の診断書で支払われるか

1 裁定審査会で支払が認められなかった事案

(1) 事案の内容

生命保険協会の裁定審査会の事案28−241(平成29年6月28日裁定終了)は,事案28−237から28−240までと同一の被保険者の同一の手術に関する手術給付金支払請求である。
事案28−241の概要によれば,被保険者は平成28年7月に多発性骨髄腫の放射線治療を受け,平成18年10月に契約したがん保険に基づいて手術給付金を請求したが,約款所定の支払事由に当たらないとして支払われなかった。
申立人は,診断書に「30グレイの照射ではあるが50グレイ相当の効果があると考えられる」旨の記載があること,他社では同じ約款文言で支払われていることを主張した。
保険会社は,約款の支払事由(5,000ラド=50グレイ以上)に該当しないと主張した。

(2) 裁定の結果

裁定審査会は,書面審理と申立人からの事情聴取を行った上で,保険会社が手術給付金を支払うべき事情は認められず,和解による解決の見込みがないとして手続を終了した。
裁定概要には詳しい理由は示されていないが,約款が総線量の数値を条件としている場合に,「相当」という医学的評価だけでは支払事由を満たすと扱われなかった例である。

2 調査研究で報告された支払例

前記の調査研究では,給付金の申請に必要な診断書に,線量は50グレイ相当の治療である旨を記載しており,線量規定の撤廃前の加入と考えられるか加入時期が不明であった18件のうち13件で給付が行われていた。
同研究は,撤廃前の商品でも,この記載によって給付が可能となる場合があると述べ,撤廃前の加入であっても40グレイ以上であれば給付する会社があったことも報告している。
もっとも,同研究自身が,撤廃前の商品で給付が行われた理由と行われなかった理由は明らかでないとしている。
したがって,「相当」の記載は保険会社の任意の取扱いを引き出す材料にはなり得るが,約款上の権利として支払を求める根拠になるとまでは言えない。

第6 約款の文言を広げて読ませることはできるか

1 別表の医学用語を通常の意味で読んだ最高裁判決

最高裁判所第一小法廷平成21年10月1日判決(平成21年(受)第540号,集民232号1頁)は,簡易生命保険の特約約款の別表に手術保険金の支払対象として掲げられた「子宮観血手術」の意味が争われた事案である。
同判決は,別表にいう「子宮観血手術」は,切開,切除の操作によるものか否かにかかわりなく,子宮に関する手術のうち一般に出血を伴う手術を指すとした。
別表に書かれた医学用語は,保険者が主張する狭い意味ではなく,その用語の通常の医学的な意味で読まれることを示した判断である。

2 術式の変遷を理由とする拡張を退けた裁判例

(1) 事案と判断

東京地方裁判所平成18年3月8日判決(平成17年(ワ)第14648号,裁判所HP未掲載,判例秘書登載)は,医療特約の別表に掲げられた「乳房切断術」に乳房部分切除術が含まれるかが争われた事案である。
原告は,乳がんの手術は切除範囲を狭める方向へ変わり,旧式の乳房切断術は早期乳がんではほとんど行われなくなっているから,別表の乳房切断術も部分切除を含むと解すべきであると主張した。
同判決は,別表の用語は当時の医療水準を前提とするものであり,乳房切断術とは全乳房を切除する術式を指すとして,部分切除はこれに当たらないとした。
乳房温存療法が増えているとの報告があることは認めつつ,病期によっては温存術の割合が高くないことなどから,手術法が根本的に変化したとまではいえないとして,原告の主張を採用しなかった。

(2) 担当者の誤った案内についての判断

同判決は,保険会社の担当者が「前回の手術後の経過を診断書に書いてあれば手術給付金は下りる」と誤って回答し,原告が無駄な費用と労力をかけて診断書を取得した点を不法行為とし,慰謝料2万円と弁護士費用3万円の支払を命じた。
給付金自体は認められなくても,保険会社の説明や案内に誤りがあった場合には,別の責任が問題になり得ることを示している。

3 本記事の調査で見当たらなかった裁判例

本記事の作成にあたり,裁判所HPの裁判例検索と判例秘書で,放射線治療給付金の50グレイ要件そのものが争われた裁判例を探したが,見当たらなかった。
上記の二つの判断を踏まえると,医療技術の進歩を理由に「50グレイ以上」という数値の要件を広げて読ませる主張は,裁判でも容易ではないと考えられる。
争う場合は,約款の文言そのもの(「一連の照射」「総量」の数え方),改定の既契約への適用の有無,募集時や請求時の説明・案内の内容に焦点を当てることになる。

4 点数表上の分類が決め手となった裁定例

生命保険協会の裁定審査会の事案2025−39(令和8年1月6日裁定終了)では,前立腺がんの密封小線源療法について,保険会社が「新生物根治放射線照射」として手術給付金7万5千円を支払ったのに対し,申立人が「悪性新生物根治手術」として25万円との差額を求めた。
保険会社は,密封小線源治療は医科診療報酬点数表では手術ではなく放射線治療に分類されていると主張し,裁定審査会は申立人の請求を認めず,和解による解決の見込みがないとして手続を終了した。
放射線治療が手術給付表のどの項目に当たるかという争いでも,点数表上の分類が重視されることが分かる。

第7 給付金が支払われないときの確認と手続

1 約款の版と特約を特定する

最初に,保険証券で主契約と特約の名称,契約日(更新や転換があればその日)を確認し,その時点の約款とご契約のしおりを保険会社から取り寄せる。
保険会社のウェブサイトに掲載されている約款は現在販売中の商品のものであることが多く,古い契約の約款とは限らない。
保険約款の解釈の進め方一般は,保険約款の文言の解釈方法で扱っている。

2 改定のお知らせを確認する

次に,保険会社が約款の改定を既存の契約にも適用していないかを確認する。
明治安田生命保険のように,支払事由を広げる改定を既契約に適用し,手続を要しないとしている例があるので,保険会社のウェブサイトの「約款の改定について」等の案内を探し,見当たらなければ保険会社に照会する。

3 線量の記載と数え方を確認する

(1) 診断書の記載

約款が総線量を条件としている場合は,診断書に照射部位,照射方法,照射期間及び総線量が正確に記載されているかを確認する。
「50グレイ相当」の記載は,第5で見たとおり,それだけで約款の要件を満たすとは扱われない場合がある。

(2) 数え方が問題になる場面

旧来の約款は,「50グレイ以上の照射で,施術の開始日から60日の間に1回の給付を限度とする」又は「一連の照射をもって50グレイ以上の照射を受けた場合に限ります」と定めるだけであり,両側の乳房など複数の部位への照射や,追加照射(ブースト)の線量を合算するかどうかは,文言上明らかではない。
保険会社の案内にも,「合算して」(ジブラルタ生命保険)や「照射量の合計」(SOMPOひまわり生命保険)という表現はあるが,何と何を合算するのかまでは書かれていない。
また,生命保険協会の裁定概要(平成24年度から令和8年度第1四半期まで)を調べた範囲では,部位ごとの線量や追加照射の合算,60日をまたぐ照射の扱いが争点となった事案は見当たらなかった。

生命保険協会の「診断書様式作成にあたってのガイドライン」(平成31年3月20日改正)は,放射線治療について,実施した部位,施行開始日,施行終了日及び総線量(単位はグレイ)を証明項目として挙げている。
手術の項目には左右の別や「両側」を選ぶ欄が設けられているのに対し,放射線治療の項目にはそのような欄はない。
このガイドラインは会員各社の診断書様式の参考とされるもので,強制力・拘束力はないとされているが,実際の診断書でも部位ごとの線量が分かるとは限らないので,部位・期間ごとの線量の内訳を主治医に確認し,約款の数え方について保険会社の回答を書面で得ておくのがよい。

4 生命保険相談所・裁定審査会と訴訟

保険会社の結論に納得できないときは,生命保険協会の生命保険相談所へ苦情を申し出ることができ,解決しない場合には裁定審査会へ裁定を申し立てることができる。
生命保険協会の案内によれば,裁定審査会は,生命保険に関するADR機関として金融庁の指定を受けており,委員は弁護士,消費生活相談員及び生命保険相談所の職員で構成される。
裁定審査会の結論に不服がある場合や,法的な争点について判断を求める場合は,訴訟を検討することになる。

5 消滅時効に注意する

(1) 保険法95条1項

保険法95条1項は,「保険給付を請求する権利、保険料の返還を請求する権利及び第六十三条又は第九十二条に規定する保険料積立金の払戻しを請求する権利は、これらを行使することができる時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。」と定める。
がん保険や医療保険の給付金請求権もこれに当たるが,平成22年3月31日以前に締結された契約には改正前の商法が適用されるなど,契約の時期と約款の定めによって期間の確認が必要になる。
起算点と支払拒絶後の管理は,保険金請求権の消滅時効の起算点で扱っている。

(2) 裁定手続と時効の完成猶予

保険業法308条の14第1項は,指定紛争解決機関の紛争解決手続によっては和解が成立する見込みがないことを理由に手続が終了した場合に,申立てをした当事者がその旨の通知を受けた日から1月以内にその請求について訴えを提起したときは,時効の完成猶予に関しては,紛争解決手続における請求の時に訴えの提起があったものとみなすと定める。
裁定の申立て中に時効期間が経過しそうな場合でも,手続終了の通知から1月以内に提訴すれば,この規定による保護を受けられる。
逆に,通知から1月を過ぎると,この規定による完成猶予は受けられないので,通知を受けた日を記録しておく必要がある。

6 公的医療保険の高額療養費

(1) 令和8年8月からの月の上限額

給付金の支払の有無とは別に,がんの治療費のうち公的医療保険の自己負担分には,高額療養費による月ごとの上限がある。
70歳未満の健康保険の被保険者・被扶養者について,健康保険法施行令42条1項1号は,標準報酬月額が28万円以上53万円未満の者など同項2号から5号までに当たらない者の上限を,8万5,800円と,療養に要した費用の額から28万6,000円を控除した額の100分の1との合算額とし,過去12か月以内に既に3か月以上高額療養費が支給されている場合(多数回該当)は4万4,400円としている。
この額は,健康保険法施行令等の一部を改正する政令(令和8年政令第219号及び同第240号)により,令和8年8月1日から引き上げられたもので,同日前は8万100円と,療養に要した費用の額から26万7,000円を控除した額の100分の1との合算額であった。

(2) 年単位の上限額と確認先

同日からは,同条11項が年単位の高額療養費算定基準額を定めており,同項1号の者は53万円,標準報酬月額83万円以上の被保険者は168万円,53万円以上83万円未満の被保険者は111万円,市町村民税非課税者等は29万円とされている。
同政令第240号には令和9年8月1日に施行される改正も含まれている。
国民健康保険,70歳以上の者及び後期高齢者医療には別の定めがあるので,具体的な上限額は加入している保険者に確認する必要がある。

7 これから加入し,又は見直す場合の確認事項

これから保険に加入し,又は見直す場合は,放射線治療の支払事由が点数表の放射線治療料の算定対象となる治療を対象としているか,その括弧書きに線量の下限がないか,支払の回数の限度(60日に1回等)がどうなっているかを,約款又はご契約のしおりで確認するとよい。
線量の要件は保障内容の一部にすぎないので,保険料や他の保障内容とあわせて,各社のご契約のしおり等で比較する必要がある。

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第9 出典・参考資料

1 法令

①保険法(平成20年法律第56号)95条(e-Gov法令APIで取得した現行条文により確認)
②保険業法(平成7年法律第105号)308条の14(e-Gov法令APIで取得した現行条文により確認)
③健康保険法施行令(大正15年勅令第243号)42条1項・11項(e-Gov法令APIで取得した令和8年7月31日時点及び同年8月1日時点の条文により確認)

2 裁判例・裁定

①最高裁判所第一小法廷平成21年10月1日判決(平成21年(受)第540号,集民232号1頁)
裁判所HP
②東京地方裁判所平成18年3月8日判決(平成17年(ワ)第14648号,裁判所HP未掲載,判例秘書登載〔L06130150〕)
③生命保険協会裁定審査会 事案28−241(平成29年6月28日裁定終了。事案28−237〜28−240と同一の被保険者の同一の手術に関するもの)
生命保険協会「裁定概要」
④生命保険協会裁定審査会 事案2025−39(令和8年1月6日裁定終了)
生命保険協会「裁定概要(令和7年度第4四半期)」39頁~40頁(PDF43頁~44頁)

3 保険会社の公表資料

明治安田生命保険「『新生物根治放射線照射』の支払事由拡大について」
明治安田生命保険「改定対象となる普通保険約款・特約条項一覧」
かんぽ生命保険「簡易生命保険特約簡易生命保険約款《抜粋》」3頁
東京海上日動あんしん生命保険「がん治療支援保険(2013.10改定)ご契約のしおり・約款」がん手術特約条項別表2(約款27頁)
東京海上日動あんしん生命保険「よくあるご質問(放射線治療)」
オリックス生命保険「よくあるご質問(放射線治療)」
メットライフ生命保険「お支払いの対象とならない主な事例(手術)」
第一生命保険「新総合医療特約D『医のいちばん』」
朝日生命保険「保険金・給付金ご請求のしおり」(2026年4月作成)手術の表(PDF9頁)
朝日生命保険「ご契約のしおり・約款」(種類番号28,2025年4月作成)
SOMPOひまわり生命保険「よくあるご質問(がんの放射線治療は手術給付金の支払い対象ですか?)」
ジブラルタ生命保険「手術・放射線治療を受けていませんか?」
日本生命保険「ニッセイみらいのカタチ 約款」(2026年4月改訂)
アフラック生命保険「がん保険2025(ミライト)ご契約のしおり・約款」

4 職能団体・業界団体の資料

生命保険協会「裁定審査会のご案内」
日本乳癌学会「乳癌診療ガイドライン2022年版」放射線療法CQ1
生命保険協会「診断書様式作成にあたってのガイドライン」(平成31年3月20日改正)PDF12頁~13頁

5 文献

川本晃史「コロナ禍における乳癌術後寡分割照射を受ける患者の生命保険加入と生命保険金の給付状況に関する前向き調査」生命保険論集222号(2023年)349頁~374頁
②Whelan TJ, et al. Long-term results of hypofractionated radiation therapy for breast cancer. N Engl J Med. 2010;362(6):513-520. PMID 20147717
③START Trialists’ Group. The UK Standardisation of Breast Radiotherapy (START) Trial B of radiotherapy hypofractionation for treatment of early breast cancer: a randomised trial. Lancet. 2008;371(9618):1098-1107. PMID 18355913
④Murray Brunt A, et al. Hypofractionated breast radiotherapy for 1 week versus 3 weeks (FAST-Forward): 5-year efficacy and late normal tissue effects results from a multicentre, non-inferiority, randomised, phase 3 trial. Lancet. 2020;395(10237):1613-1626. PMID 32580883
⑤Nozaki M, et al. Final analysis of a Multicenter Single-Arm Confirmatory Trial of hypofractionated whole breast irradiation after breast-conserving surgery in Japan: JCOG0906. Jpn J Clin Oncol. 2021;51(6):865-872. PMID 33728450