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労働・社会保険

決算賞与の支給日在籍要件と税務―退職者への支給義務,未払賞与の損金算入及び源泉徴収(AI作成)

目次

第1 支給条件と税務上の計上条件を一緒に確認する第2 退職者への賞与支給義務をどう判断するか1 賞与の具体的な根拠と通知の意味2 在籍要件の合理性と個別の適用第3 使用人賞与の損金算入時期1 支給予定日が到来した賞与2 翌期1か月以内に支払う決算賞与3 その他の賞与第4 社員の収入年分と会社の源泉徴収時期第5 通知を出す前と決算・支払時の確認第6 関連記事と出典1 関連記事2 法令・行政資料と確認範囲
第1 支給条件と税務上の計上条件を一緒に確認する

決算前に社員へ賞与の金額を知らせ,翌期に支払う場合,支給日に在籍する社員だけに払うという条件があると,翌期1か月以内に支払う方法で通知年度の損金に算入するための通知要件を満たさない。労働法上の支給条件として在籍要件を設けることと,法人税上の通知要件を満たすことは,別の問題である。
人事担当が作った賞与規程と,経理担当が使う支給通知書が食い違うと,退職者との支給紛争と申告上の誤りが同時に生じる。人事・経理・決裁者は,支給対象者,金額,条件,支給予定日,決算日及び実際の支払日を同じ資料で確認する必要がある。
本稿は令和8年10月10日に確認した法令・国税庁の説明を基準とし,一般の使用人に対する賞与を中心に扱う。役員としての職務に対する賞与は,役員給与の損金算入要件も別途問題となる。

第2 退職者への賞与支給義務をどう判断するか
1 賞与の具体的な根拠と通知の意味

賞与は,評価対象期間に働いたという一点だけで,予定額全額の請求権が当然に生じるものではない。就業規則,労働協約,個別合意,確立した慣行等から,支給対象者,計算方法,金額決定手続及び在籍条件を確認する。
金額を記載したメールでも,「見込額」「最終査定で変更」「支給日在籍者に限る」という留保がある場合と,条件を付けず確定額を支払う個別合意が成立している場合とでは意味が異なる。文書の表題だけで判断せず,規程と通知文面を合わせて読む。

2 在籍要件の合理性と個別の適用

厚生労働省の大和銀行事件の紹介によれば,支給日に在籍する者だけに賞与を払う従来の慣行を就業規則に明文化した事案で,最高裁昭和57年10月7日判決は,その内容の合理性を認め,支給日前に退職した者の請求を認めなかった。この紹介から,退職・解雇・死亡の全事案で不支給が有効になると一般化することはできない。
任意退職,定年,整理解雇,懲戒解雇,死亡では,退職日を選べるか,雇用終了の原因,賞与制度の目的及び例外条項が異なる。規定自体の合理性と,その人への適用を分けて検討する。解雇の有効性が争われている場合には,支給日の在籍という前提も確定していない。
茨城労働局の相談資料は,支給が遅れた場合の支給予定日と現実の支払日の区別にも注意を促している。会社が支払を遅らせた後,その間に退職したことだけを理由に,予定日に在籍していた者の権利が失われたと扱うことは避けるべきである。
在籍要件を外すと税務上有利になるとしても,税務担当だけで既存の労働条件を変更してはならない。規程の変更,個別合意,労使手続及び周知の要否を,変更内容に応じて検討する。

第3 使用人賞与の損金算入時期
1 支給予定日が到来した賞与

法人税法施行令72条の3第1号は,労働協約又は就業規則で定められた支給予定日が到来し,使用人に支給額を通知し,所定の年度に損金経理した賞与について,支給予定日と通知日のうち遅い日の属する事業年度に算入する扱いを定めている。支給予定日,通知及び経理の条件をそれぞれ確認する。

2 翌期1か月以内に支払う決算賞与

同条第2号の方法では,①各人別に,同時期に支給を受ける全使用人へ金額を通知すること,②通知した全使用人へ,通知年度終了日の翌日から1か月以内に通知どおりの金額を支払うこと,③通知年度に損金経理することが必要である。
国税庁の法人税基本通達9-2-43は,支給日に在職する使用人だけに払う条件付きの支給額通知について,「支給額の通知には該当しない」としている。この通知要件は,同条第2号イの要件である。未払賞与を計上したことや,支払までが1か月以内だったことだけで足りるわけではない。
例えば3月決算法人が3月25日に各人へ金額を通知し,4月20日に支払う計画でも,通知に「4月20日在籍者のみ」との条件があれば,第2号の方法で3月期の損金にできる通知とは扱われない。これは退職者分の金額だけの問題ではなく,同時期の賞与の通知・支払要件全体を点検する契機となる。
計算式だけの周知では,各人別の具体額を通知したかが不明確になる。対象者別の確定額,通知日,到達を確認できる記録,退職者への扱い及び実際の振込額を残す。

3 その他の賞与

第1号・第2号の方法に当たらない賞与は,同条第3号により,支払った日の属する事業年度に損金算入する。条件付き通知が第2号を満たさないからといって,支払後も永久に損金にできないという意味ではない。

第4 社員の収入年分と会社の源泉徴収時期

給与所得の収入すべき時期と,会社が源泉徴収する時期も分ける。所得税基本通達36-9は,支給日が定められた一般の給与等について,その支給日を収入すべき時期としている。他方,所得税法183条1項は源泉徴収について「その支払の際」と定める。
国税庁は,給与等が未払の場合,原則として実際に払う際に源泉徴収すると説明している。会社側の未払計上年度,社員側の収入年分,実際の支払日及び源泉徴収時期が常に一致すると考えてはならない。
ただし,具体的な支給額・請求権の存否自体が未確定な見込通知を,確定した給与と同様に扱うこともできない。後の合意・判決で賞与の支払が決まった場合は,元の支給義務を確認したものか,新たに支給内容を定めたものか等を資料で確認して年分を判断する。
役員賞与には,支払確定後1年を経過しても未払の場合の源泉徴収のみなし規定がある。一般社員の未払賞与の説明を,役員賞与へそのまま適用しない。

第5 通知を出す前と決算・支払時の確認

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ストライキ不参加者への慰労金・弁当代は不当労働行為か―支配介入・不利益取扱い,救済命令の限界及び給与課税(AI作成)

目次

第1 この記事の対象と結論1 対象とする場面2 結論の要旨第2 ストライキ中の操業継続と,事後の慰労金の支給は別の問題である第3 支配介入(労働組合法7条3号)に当たるか1 判断の枠組み2 支配介入を認めた例3 判断に使われる事情第4 不利益取扱い(労働組合法7条1号)に当たるか第5 労働委員会が命じる救済とその限界1 命令例2 救済命令の裁量とその限界3 申立ての期間第6 支給した金銭の課税(給与課税と源泉徴収)1 現金の「弁当代」は原則として給与になる2 残業時の食事の非課税と,深夜勤務の夜食代の例外3 実務上の対応第7 会社・組合が確認すべき事項1 会社側2 組合側第8 関連記事第9 出典1 法令・通達等2 裁判例・労働委員会命令3 司法試験の公式資料4 確認状態
第1 この記事の対象と結論
1 対象とする場面

労働組合がストライキを行った日に,非組合員や応援の従業員が代わりに働き,業務が深夜に及ぶことがある。
その後,会社が感謝の気持ちとして,当日働いた従業員に慰労金や「弁当代」を配ることは珍しくない。
本記事は,この支給が労働組合法7条の不当労働行為(1号の不利益取扱い,3号の支配介入)に当たるか,労働委員会がどのような救済を命じ得るか,及び支給した金銭が所得税法上どう課税されるかを,労働委員会命令・裁判例と国税庁の通達等に基づいて整理するものである。
法令・通達は令和8年10月10日時点のものを確認している。

2 結論の要旨

①ストライキ中も操業を続けるための対策を講じることは使用者の自由であるが,ストライキの代替勤務に就いた者だけに後日特別な金員を支給することは,争議行為の効果を減殺し,今後の争議行為をけん制するものとして,支配介入と評価されることがある。
②支配介入に当たるかは,支給の名目・時期・方法・金額・前例の有無,時間外割増賃金との関係,同時期の使用者の言動等を総合して判断される。
③不利益取扱いに当たるかは命令例でも結論が分かれ,支給基準が組合活動と無関係に引かれているか(組合員でない者にも支給対象外の者がいるか)が分かれ目になる。
④救済としては,ポストノーティスや,今後の同種の支給を禁じる不作為命令のほか,ストライキ参加者への金銭の支払を命じた例もある。
⑤税務上は,「弁当代」の名目でも,現金で一律に支給すれば原則として給与として課税され,源泉徴収の対象となる。

第2 ストライキ中の操業継続と,事後の慰労金の支給は別の問題である

最高裁平成4年10月2日判決(集民166号1頁,御國ハイヤー事件)は,ストライキの本質は労働者が労務の提供をしないことにあるとした上で,使用者はストライキの期間中であっても業務の遂行を停止しなければならないものではなく,操業を継続するために必要とする対抗措置を採ることができると述べている。
したがって,非組合員や管理職で操業を続けること,応援の従業員に時間外勤務を命じること自体は,原則として問題とならない。

他方,ストライキが終わった後に,代わりに働いた従業員だけに特別な金員を配ることは,操業の継続そのものではない。
中央労働委員会平成17年9月7日命令(東日本旅客鉄道(千葉動労褒賞金)事件)は,会社がストライキによる影響を最小限に抑えるために対策を講じることは自由であるとしつつ,代替の臨時勤務に就いた者に褒賞金等を支給して会社の方針に協力した者を優遇することは,ストライキの権利行使の効果を減殺するものといわざるを得ないとした。
同命令は,支給がストライキの終了後であっても,今後のストライキに対する抑止力となり得ることも理由に挙げている。

第3 支配介入(労働組合法7条3号)に当たるか
1 判断の枠組み

労働組合法7条3号は,労働者が労働組合を結成し,若しくは運営することを支配し,若しくはこれに介入することを不当労働行為として禁止している。
最高裁昭和29年5月28日判決(民集8巻5号990頁,山岡内燃機事件)は,客観的に組合活動に対する非難と組合活動を理由とする不利益取扱いの暗示とを含む発言により組合の運営に影響を及ぼした事実がある以上,発言者に主観的な認識や目的がなかったとしても,組合の運営に対する介入があったものと解するのが相当であるとした。
慰労金の支給でも,会社が組合を弱めるつもりはなかったと述べるだけでは足りず,支給の客観的な意味が問われる。

2 支配介入を認めた例

青森県地方労働委員会平成3年7月10日命令(陸奥製菓事件)は,冬期一時金をめぐる24時間ストライキの当日に勤務した従業員のうち75名に対し,後日,取締役生産部長が現金入りの封筒(感謝金。1人当たり2,000円又は1,000円)を手渡した事案である。
会社は,深夜まで働いた従業員への感謝であり,金額も弁当代相当額にすぎないと主張した。
しかし,命令は,ストライキ時の時間外労働には時間外割増賃金が支払われていたこと,時間外労働をした従業員に割増賃金以外の金員を支給した前例がないこと,ストライキの翌日に社長が組合を誹謗・中傷し社長名の文書で抗議したことを併せ考えて,会社の主張を採用せず,不利益取扱い(1号)と支配介入(3号)に当たると認定した。
会社は社長個人の行為であるとも主張したが,命令は,原資の出所いかんにかかわらず会社の行為とみなさざるを得ないとした。

東日本旅客鉄道(千葉動労褒賞金)事件では,ストライキの当日及びその前後に臨時の勤務に就いた社員に1日3,000円又は5,000円の褒賞金が支給された。

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民事再生の再生計画案が否決されたとき―再生手続廃止の確定前後の破産手続への移行,給料・租税・開始前借入れの扱い及び再度の再生手続開始の申立て(AI作成)

目次

第1 この記事の対象第2 否決から再生手続廃止の決定まで1 否決されると職権で廃止決定がされる2 可決要件と棄権の効果3 書面投票では続行期日がなく,決議に付した後は修正できない第3 廃止決定の確定前後と破産手続への移行1 廃止決定は確定するまで効力を生じない2 確定前にできること3 確定後は「職権で開始することができる」第4 破産手続に移った後の調整1 否認・相殺禁止の基準時2 共益債権は財団債権となる3 給料の財団債権の範囲は「再生手続開始前3月間」に読み替わる4 租税は「破産手続開始当時」を基準に財団債権かどうかが決まる5 再生債権の届出を破産債権の届出として扱う決定第5 再度の再生手続開始の申立て1 禁止規定はなく,25条3号・4号で判断する2 判断の視点第6 実務上の確認事項1 再生債務者の代理人2 債権者・スポンサー・労働者側3 税理士第7 関連記事第8 出典
第1 この記事の対象

本記事は,法人の通常再生で再生計画案が否決されたときに,その後の手続がどう進むかを,民事再生法及び破産法の条文に沿って整理するものである。
扱うのは,①否決から再生手続廃止の決定まで,②廃止決定の確定前と確定後の破産手続への移行(いわゆる牽連破産),③破産手続に移った後の給料・租税・開始前借入れ等の扱い,④廃止後の再度の再生手続開始の申立てである。

条文は,令和8年10月時点でe-Gov法令検索に掲載されている民事再生法及び破産法により確認した(本記事で引用した条文は,令和7年1月1日時点の版と文言が同じであることも確認している。)。
本記事の素材は,令和7年司法試験の倒産法第2問の検討の過程で確かめた条文である。

第2 否決から再生手続廃止の決定まで
1 否決されると職権で廃止決定がされる

再生計画案が否決されたときは,裁判所は,職権で,再生手続廃止の決定をしなければならない(民事再生法191条3号)。
同号は,債権者集会の続行期日が定められた場合に,所定の期間内に可決されないときも廃止事由としている。

2 可決要件と棄権の効果

再生計画案の可決には,次の二つの同意がいずれも必要である(民事再生法172条の3第1項)。
①議決権者(債権者集会に出席し,又は書面等投票をしたものに限る。)の過半数の同意
②議決権者の議決権の総額の2分の1以上の議決権を有する者の同意

①の頭数は,出席又は投票をした議決権者を分母とするが,②の金額は,議決権者全体の議決権の総額を分母とする。
そのため,投票を棄権した債権者は,①の分母からは外れるが,②では同意に数えられないまま分母に残り,結果として反対と同じ方向に働く。
反対する債権者の比率が2分の1に届かなくても,棄権が多ければ②を満たさずに否決されることがある。

3 書面投票では続行期日がなく,決議に付した後は修正できない

議決権行使の方法は,裁判所が,再生計画案を決議に付する旨の決定の中で,①債権者集会の期日で行使する方法,②書面等投票による方法,③議決権者が①②のいずれかを選ぶ方法のどれかに定める(民事再生法169条2項)。
債権者集会の続行期日の制度(同法172条の5第1項)は,①又は③が定められた場合に限られる。
②の書面等投票だけの方法で否決されたときは,続行期日で再び可決を目指すことはできない。

また,再生計画案は,裁判所の許可を得て修正できるが,決議に付する旨の決定がされた後は修正できない(民事再生法167条)。
書面投票の結果を見てから条件を改めることはできないので,再生債務者の代理人としては,計画案を提出して決議の方法について裁判所と協議する段階で,主要債権者の賛否の見込みと,否決された場合に続行期日を使えるかを比べておく必要がある。

第3 廃止決定の確定前後と破産手続への移行
1 廃止決定は確定するまで効力を生じない

再生手続廃止の決定は,確定しなければその効力を生じない(民事再生法195条5項)。
廃止決定は公告され(同条1項),即時抗告ができ(同条2項),公告があった場合の即時抗告期間は,公告が効力を生じた日(官報に掲載された日の翌日)から2週間である(同法9条,10条1項・2項)。

確定するまでは再生手続が続いているので,原則として,破産手続開始の申立てはできない(民事再生法39条1項)。
同項は再生手続開始の申立ても禁じているから,前の再生手続の廃止決定が確定する前に再度の再生手続開始の申立てをすることもできない(第5参照)。

2 確定前にできること

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外国企業に雇われて日本で働く人の労働紛争―管轄条項の効力(民訴法3条の7第6項),準拠法と日本の強行規定(通則法12条),国外払い給与の確定申告(AI作成)

目次

第1 この記事の対象と結論の要約1 対象とする場面2 結論の要約第2 どこの国の裁判所に訴えることができるか1 労務の提供の地による管轄2 外国の裁判所だけを指定する管轄条項の効力3 特別の事情による却下第3 どの国の法律が適用されるか1 準拠法条項があっても日本の強行規定が適用される場合2 労務を提供すべき地の判断3 どの規定が「特定の強行規定」に当たるか4 意思表示をしないと適用されない5 不法行為として請求する場合第4 税務の注意点1 国外払いの給与と確定申告2 損害賠償金・保険金は非課税になり得る第5 相談を受けたときの確認事項第6 関連記事第7 出典1 法令2 行政資料3 司法試験の公式資料
第1 この記事の対象と結論の要約
1 対象とする場面

本記事は,外国の会社に雇われて日本で働いている人(外国の本社から日本へ赴任している人,日本に住んで外国の会社の業務を遠隔で行っている人等)と,その雇主との間で,賃金,解雇,労働災害,安全配慮義務等をめぐる紛争が起きた場合に,①どこの国の裁判所に訴えることができるか,②どの国の法律が適用されるか,③給与や損害賠償金の税務をどう扱うか,を整理するものである。
雇用契約書には,「一切の紛争は本国の裁判所で解決する」という管轄条項や,「準拠法は本国法とする」という準拠法条項が置かれていることが多いが,日本の民事訴訟法と法の適用に関する通則法は,労働者を守るための特則を置いている。
本記事は令和8年10月10日現在の法令によっている。

2 結論の要約

①労働者から雇主への訴えは,労務の提供の地が日本国内にあれば,日本の裁判所に提起することができる(民事訴訟法3条の4第2項)。
②雇用契約の締結時に定めた「本国の裁判所でだけ裁判をする」という条項は,将来の個別労働関係民事紛争を対象とする合意であり,労働契約の終了時の合意であるか,労働者自身がその合意に基づいて合意された国で訴えるか,雇主から訴えられた労働者がその合意を援用する場合でない限り,効力を有しない(同法3条の7第6項)。
③準拠法条項で外国法が選ばれていても,労働者が,その労働契約に最も密接な関係がある地の法(日本で継続して働いていれば,通常は日本法と推定される。)の特定の強行規定を適用すべき旨の意思を雇主に表示すれば,その強行規定も適用される(法の適用に関する通則法12条1項・2項)。
もっとも,表示をしなければ適用されないので,訴状等で適用を求める規定を特定して主張することが重要である。
④日本の居住者が,源泉徴収義務のない者から給与の支払を受けている場合は,確定申告が必要になる(国税庁タックスアンサーNo.1900)。
心身に加えられた損害についての損害賠償金は,どの国の法律に基づいて支払われるかにかかわらず,所得税の非課税規定の対象になり得る(所得税法9条1項18号,同法施行令30条1号)。

第2 どこの国の裁判所に訴えることができるか
1 労務の提供の地による管轄

民事訴訟法3条の4第2項は,「労働契約の存否その他の労働関係に関する事項について個々の労働者と事業主との間に生じた民事に関する紛争」(個別労働関係民事紛争)に関する労働者からの事業主に対する訴えは,「労務の提供の地(その地が定まっていない場合にあっては、労働者を雇い入れた事業所の所在地)」が日本国内にあるときは,日本の裁判所に提起することができると定めている。
外国の会社が日本に事務所や営業所を持っていなくても,この規定によって日本の裁判所に訴えることができる。
管轄の有無は,訴えの提起の時を標準として判断される(同法3条の12)。

労働者が日本で継続して働いていれば,短期間の海外出張があっても,労務の提供の地は日本にあると考えるのが自然である。
また,日本に住んで,外国にあるシステムや外国の顧客の業務を遠隔で行っている場合も,条文に明示の定めはないが,労務を現実に提供しているのは労働者が働いている日本であると考えられる。
逆に,外国で働いている人が日本の顧客のために遠隔で仕事をしているだけなら,労務の提供の地が日本にあるとはいいにくい。

なお,雇主から労働者に対する訴えには,契約上の債務の履行地等による管轄の規定(同法3条の3)が適用されない(同法3条の4第3項)。
雇主が労働者を訴えるときは,原則として,労働者の住所地の国の裁判所によることになる(同法3条の2第1項)。

2 外国の裁判所だけを指定する管轄条項の効力

民事訴訟法3条の7は,当事者が合意によりいずれの国の裁判所に訴えを提起できるかを定めることを認めているが,同条6項は,「将来において生ずる個別労働関係民事紛争を対象とする」合意は,次のいずれかの場合に限って効力を有するとしている。
①労働契約の終了の時にされた合意であって,その時における労務の提供の地がある国の裁判所に訴えを提起することができる旨を定めたもの(その国の裁判所にのみ訴えを提起できる旨の合意は,原則として,他の国の裁判所にも訴えを提起することを妨げない旨の合意とみなされる。)
②労働者が当該合意に基づき合意された国の裁判所に訴えを提起したとき,又は事業主が日本若しくは外国の裁判所に訴えを提起した場合において,労働者が当該合意を援用したとき

したがって,雇用契約の締結時に置かれた「一切の紛争は本国の裁判所で解決し,他の国の裁判所では裁判をしない」という条項は,労働者が日本の裁判所に訴えた場合には,雇主がこれを援用しても効力がなく,日本の管轄は否定されない。
令和7年司法試験の国際関係法(私法系)第1問は,まさにこの場面を出題しており,出題の趣旨は,労働契約の終了時の合意でなく,労働者が合意された国の裁判所に訴えを提起したものでもないから,同項1号・2号のいずれの要件も満たさず,合意の効力は認められないとしている。

なお,同条は平成23年法律第36号による改正で設けられた規定であり,同法の附則2条2項により,その施行前にされた合意には適用されない。

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倒産実務と労働法の交錯―雇用・労働債権・労働組合・事業譲渡の実務(AI作成)

目次

第1 倒産処理では労働法を後回しにできない1 手続開始だけでは雇用契約は終了しない2 最初に固定すべき三つの時点第2 破産・民事再生・会社更生で労働債権の扱いは異なる1 破産手続における給料・退職手当2 民事再生手続における労働債権3 会社更生手続における労働債権4 優先されることと現実に支払えることは別である第3 解雇・事業休止をどの時点で行うか1 倒産は解雇を当然に有効にしない2 解雇予告と解雇予告手当を分けて検討する3 大量離職の届出等も確認する第4 未払賃金立替払制度を早期に準備する1 制度の対象2 破産申立代理人・管財人の実務第5 労働組合と従業員代表への対応1 法的倒産手続にも通知・意見聴取の場面がある2 団体交渉義務は別に残る第6 事業継続・事業譲渡と雇用の処理1 事業譲渡では個別承諾が原則である2 会社分割・合併とはルールが異なる3 スポンサー選定と雇用維持を同時に設計する第7 受任から事業譲渡までの実務チェックリスト1 申立前2 手続開始直後3 事業譲渡・終結局面第8 まとめ

会社が倒産局面に入ると、雇用の終了、未払賃金の順位、労働組合対応及び事業譲渡後の雇用承継を同時に処理する必要がある。本稿は、破産・民事再生・会社更生の違いを踏まえ、受任から事業譲渡・終結までの確認順序を整理するものである。

第1 倒産処理では労働法を後回しにできない
1 手続開始だけでは雇用契約は終了しない

会社が破産手続開始決定を受けても、それだけで従業員との労働契約が一律に終了するわけではない。事業を直ちに停止するのか、管財人が一定期間継続するのか、スポンサーへの事業譲渡を目指すのかにより、必要な雇用処理は変わる。

破産の場合、民法631条は、使用者が破産手続開始決定を受けたときは、雇用期間の定めの有無にかかわらず、労働者又は破産管財人が民法627条により解約を申し入れられると定める。ただし、管財人による労働契約の終了を検討するときも、労働契約法16条・17条、労働基準法19条・20条その他の強行法規との関係を、雇用形態と事案に応じて確認する必要がある。

民法:https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089

労働契約法:https://laws.e-gov.go.jp/law/419AC0000000128

労働基準法:https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049

2 最初に固定すべき三つの時点

倒産実務と労働法が交錯する案件では、少なくとも次の三つの時点を固定する必要がある。

① 各賃金・退職手当・解雇予告手当等の発生日及び支払期日
② 破産等の申立日及び手続開始決定日
③ 休業日、解雇日、退職日及び事業譲渡日

同じ「未払賃金」でも、手続開始前の給料か、開始後に事業を継続した期間の給料かにより、手続上の順位が変わる。弁済の可否を検討する際には、債権名だけでなく、発生日、支払期日、労務提供期間、退職日、支払原資を一覧化することが重要である。

第2 破産・民事再生・会社更生で労働債権の扱いは異なる
1 破産手続における給料・退職手当

破産法149条1項は、破産手続開始前3か月間の破産者の使用人の給料請求権を財団債権とする。民事再生手続が廃止等で終了して破産手続に移った場合には、この「破産手続開始前三月間」は、破産手続開始の日前に再生手続開始の決定があるときは「再生手続開始前三月間」と読み替えられる(民事再生法252条5項)ので、再生手続開始日から3か月さかのぼって数える(詳しくは、民事再生の再生計画案が否決されたとき―再生手続廃止の確定前後の破産手続への移行,給料・租税・開始前借入れの扱い及び再度の再生手続開始の申立て(AI作成)で整理している。)。破産法149条2項は、退職手当請求権のうち同項所定の上限額までを財団債権とする。手続開始後、労働契約が終了するまでの間に生じた使用人の請求権は、破産法148条1項8号の財団債権となる。

それ以外の雇用関係に基づく給料等については、民法306条2号及び308条の一般先取特権により、破産法98条の優先的破産債権となる範囲がある。財団債権となる部分、優先的破産債権となる部分、一般破産債権となる部分を一つの残高として扱ってはならない。

破産法:https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000075

2 民事再生手続における労働債権

民事再生では、一般先取特権で保護される雇用関係の請求権は、民事再生法122条の一般優先債権として、再生手続によらず随時弁済される。手続開始後の事業継続に必要な給料等は、同法119条の共益債権に該当し得て、同法121条により再生債権に先立って弁済される。

もっとも、「随時弁済できる」という法的地位と、資金繰り上実際に弁済できることは同じではない。再生計画の前提となる運転資金に給料・社会保険料・税を織り込み、日次の資金繰りで確認する必要がある。

民事再生法:https://laws.e-gov.go.jp/law/411AC0000000225

3 会社更生手続における労働債権

会社更生法130条は、手続開始前6か月間の給料請求権及び退職手当請求権のうち同条所定の範囲を共益債権とする。手続開始後の事業経営に必要な費用は、同法127条の共益債権となる。

破産法の「開始前3か月」と会社更生法の「開始前6か月」を混同してはならない。退職手当についても条文上の計算方法が異なるため、金額表を手続別に作成する必要がある。

会社更生法:https://laws.e-gov.go.jp/law/414AC0000000154

4 優先されることと現実に支払えることは別である

財団債権又は共益債権であっても、手続財産が不足すれば全額回収が保証されるわけではない。破産法152条は、財団不足時の弁済順位と按分を定め、同条所定の一部の財団債権を他の財団債権より優先させる。

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出向中の社員が定年を迎える場合の再雇用―出向継続・業務変更・内示書・条件不合意の実務(AI作成)

目次第1 最初に雇用主体と契約の組合せを確定する1 出向元が再雇用し,出向を継続する場合2 出向先が直接雇用する場合第2 定年前の内示書が定年後にもつ意味1 記載された業務は予測可能性を支える資料になる2 旧内示書だけを根拠にしない第3 再雇用時に業務を変更できるか1 定年前と異なる業務を提示すること自体は可能である2 賃金率を先に決めて仕事を後付けしない3 作業の安全性と適性を確認する第4 提示条件に本人が同意しない場合1 合理的な条件の提示と十分な話合いを分けて考える2 複数の選択肢は常に法的義務ではない3 行政法上の違反と個別契約の成否は同じではない第5 実務で作成・更新する書類第6 関連記事第7 出典・参考資料
第1 最初に雇用主体と契約の組合せを確定する

出向中の社員が定年を迎える場合は,定年前の出向をそのまま延長すると考えるのではなく,定年後に誰が雇用主となり,どの契約に基づいて出向先で働くのかを先に確定する必要がある。
同じ職場で同じ上司の指示を受け続ける場合でも,契約の組合せによって必要書類,労働条件の決定主体及び高年齢者雇用安定法上の位置付けが異なるからである。

1 出向元が再雇用し,出向を継続する場合

出向元が定年退職者と再雇用契約を締結し,出向元との労働契約を存続させたまま出向先で勤務させる場合は,在籍出向が継続する。
この場合は,①出向元と本人との再雇用契約,②定年後の出向条件を示す書面,③出向元と出向先との出向契約を整合させる必要がある。

再雇用によって契約期間,賃金,勤務日数又は業務が変わるときは,定年前の出向命令だけで処理せず,新しい契約期間に対応する労働条件を明示するべきである。
令和6年4月1日以後の労働条件明示では,雇入れ直後の就業場所・業務だけでなく,契約期間中における就業場所・業務の変更の範囲も書面等で示す必要があり,厚生労働省の解説は在籍型出向先の場所及び業務も変更の範囲に含まれ得るとしている。

2 出向先が直接雇用する場合

出向先が定年退職者と直接に再雇用契約を締結し,出向元との雇用関係が終了する場合は,定年前と同じ職場で働いても,定年後の関係は在籍出向ではない。
高年齢者雇用安定法9条2項の特殊関係事業主による継続雇用制度を利用するのであれば,元の事業主と特殊関係事業主との間で,対象者を定年後に引き続いて雇用することを約する契約が必要である。

特殊関係事業主が提示する労働条件も,関係法令を守り,労働時間,賃金及び待遇について本人と十分に話し合って決める必要がある。
出向継続と直接雇用を曖昧にしたまま,給与の支払者,社会保険手続,指揮命令,懲戒,安全配慮及び退職金負担だけを個別に決めるべきではない。

第2 定年前の内示書が定年後にもつ意味
1 記載された業務は予測可能性を支える資料になる

定年前の出向内示書に複数の作業が記載され,その中に定年後に予定する作業も含まれている場合,その記載は,当該作業が従来の出向で予定され得た業務であることを説明する資料にはなる。
本人がその作業を実際に担当した経験,必要な教育,作業環境及び出向規程の内容も併せて確認すれば,業務変更の予測可能性を検討しやすい。

もっとも,「旧内示書に記載があるから,定年後も当然に同じ命令ができる」と説明するのは適切でない。
内示書が示すのは,原則として当時の労働契約及び出向期間における人事上の予定であり,定年によって終了する契約の後に新たに成立する再雇用契約の労働条件を自動的に確定するものではないからである。

2 旧内示書だけを根拠にしない

旧内示書に予定作業が含まれていても,①当初の出向期間,②出向延長に関する規程,③業務を変更できる範囲,④再雇用契約の業務・勤務地,⑤出向元と出向先との契約を改めて確認する必要がある。
定年前の出向命令が有効であることと,定年後の新しい有期労働契約が同じ条件で成立することは別問題である。

実務上は,旧内示書を廃棄又は無視するのではなく,新しい書面の前提資料として保存する。
その上で,再雇用契約書又は労働条件通知書に,雇入れ直後の業務,変更の範囲,就業場所,契約期間,更新基準,勤務日数・時間,賃金及び退職に関する事項を記載し,必要に応じて定年後の出向辞令又は出向条件通知書を別に交付するのが分かりやすい。

第3 再雇用時に業務を変更できるか
1 定年前と異なる業務を提示すること自体は可能である

厚生労働省の高年齢者雇用安定法Q&Aは,継続雇用後の労働条件を定年前から変更すること自体を否定していない。
ただし,高年齢者の安定した雇用を確保するという法の趣旨を踏まえ,各種労働法令を守った上で,労働時間,賃金及び待遇について十分に話し合うことが重要であるとしている。

したがって,減産,業務量の減少,組織変更,安全性,技能,身体的負担及び他の社員との分担を踏まえ,定年後の担当業務を見直すことは可能である。

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法人破産申立前の労働債権弁済と申立代理人の責任―東京地裁平成26年8月22日判決(AI作成)

目次第1 結論第2 東京地裁平成26年8月22日判決の事案1 申立前日に行われた支払2 管財人の請求第3 労働債権かどうかを名目だけで決めない1 役員兼務者の労働者性2 退職金と解雇予告手当3 特別功労加算金と日割計算4 調整手当・残業代第4 申立代理人の財産散逸防止義務1 預り金を管理する弁護士の義務2 不明確な支払は手続内の判断に委ねる3 受領者への否認と弁護士の責任は別問題第5 公租公課と財団不足を同じ箱に入れない1 租税等は税目・年度・納期限ごとに分類する2 財団不足時の按分と例外3 破産法101条は開始後の制度第6 弁護士・税理士・司法書士の引継ぎ第7 申立前の支払チェックリスト第8 関連記事第9 出典と確認状態
第1 結論

法人破産の申立前に労働債権を支払うときは,「従業員への支払だから安全」とも,「公租公課が残っているから必ず違法」とも一律にはいえない。支払対象者が労働者か,支払に就業規則・労働時間・平均賃金等の根拠があるか,支払額が適正か,破産財団と競合する財団債権の全体を把握できているかを,支払時点の資料で確認する必要がある。

東京地方裁判所平成26年8月22日判決(平成24年(ワ)第16147号,判例時報2242号96頁,判例秘書L06930547)は,破産申立代理人が管理する預り金から取締役・従業員へ退職金,解雇予告手当,給与等を支払った事案で,申立代理人の財産散逸防止義務と過失を認めた。同判決は下級審判決であり,あらゆる労働債権弁済を禁止するものではないが,申立前の支払判断と記録化に直接役立つ。

第2 東京地裁平成26年8月22日判決の事案
1 申立前日に行われた支払

破産会社は,全従業員を解雇した翌日,受領した保険金を申立代理人の預り金口座へ移した。申立代理人は,その金銭から,取締役又は従業員であった者へ,基本退職金,特別功労加算金,解雇予告手当,給与及び調整手当を支払った。その翌日,破産申立てと開始決定が行われた。

この時系列では,支払時に破産申立ての方針が確定し,管財人への財産引継ぎの準備も相当程度進んでいたと認定された。受任日,方針確定日,預り金への入金日,各支払日,申立日及び開始決定日を分単位まで固定することが,後日の検証に重要である。

2 管財人の請求

管財人は,受領者らに対する否認請求訴訟を提起して確定判決を得たものの,十分に回収できなかった。そのため,申立代理人らに対し,根拠のない支払等によって破産財団を毀損したとして共同不法行為に基づく損害賠償を請求した。さらに,代表弁護士が受領した報酬のうち相当額を超える部分についても否認を主張した。

裁判所は,申立代理人らによる支払のうち合計2259万6954円が破産財団を毀損したと認定し,回収済額を遅延損害金に充当した上で損害賠償を命じた。また,代表弁護士の報酬のうち500万円について原状回復を命じた。

第3 労働債権かどうかを名目だけで決めない
1 役員兼務者の労働者性

同判決は,同じ「常務取締役」の肩書を持つ2人について異なる結論を出した。一方は重要部門の経営を委ねられ,会社の重要方針の決定に関与し,勤務時間管理の程度も弱かったとして労働者性を否定した。他方は重要な経営会議への参加が認められず,残業手当等が1円単位で計算されるなど比較的厳格な勤務時間管理を受けていたとして労働者性を肯定した。

役員登記,役職名,雇用保険への加入又は税務上の「役員報酬」という一つの表示だけでは決まらない。職務権限,指揮命令,重要な意思決定への関与,勤務時間・場所の拘束,時間外手当,株式保有及び報酬決定過程を総合して確認する必要がある。

2 退職金と解雇予告手当

労働者性を否定された取締役への基本退職金と解雇予告手当は,根拠を欠き,破産財団を害する支払と判断された。他方,労働者性を肯定された者への基本退職金は,破産法149条2項の限度内の財団債権であり,破産財団を害しないとされた。

労働者性を肯定された者への解雇予告手当も,計算上の30日分を超えず,優先的に弁済することが許される債権であるとして,開始前の支払が破産財団を害するとはされなかった。したがって,同判決は解雇予告手当の開始前支払を一律に否定したものではない。

3 特別功労加算金と日割計算

特別功労加算金は,「取締役またはこれに準ずる地位にあったもの」を対象とし,基本退職金を大きく上回る1000万円を基準としていた。過去の支給実績がなく,他の従業員にも知らせず役員だけへ支払われた事情から,労働者としての退職金ではなく取締役報酬と評価され,株主総会決議等の根拠もない支払とされた。

また,事業停止後の期間を含む月例給与について,実際に稼働していない日数を控除せず満額を支払った部分も問題となった。即時解雇に伴う解雇予告手当と,同じ期間の月例給与を重ねて支払うことが就業規則等に照らして正当化できるかを確認する必要がある。

4 調整手当・残業代

「調整手当」名目の70万円について,申立代理人らは未払残業代であると説明したが,既に毎月残業手当等が支給されており,追加の時間外労働を裏付ける証拠がなかったため,合理的な根拠のない支払とされた。支払名目ではなく,対象期間,労働時間,計算式,既払額及び賃金台帳との整合を確認すべきである。

第4 申立代理人の財産散逸防止義務
1 預り金を管理する弁護士の義務

同判決は,破産申立ての委任を受けた弁護士が,管財人へ財産を引き継ぐまで散逸を防止するために必要な措置をとる義務を負うとした。とりわけ,申立代理人の預り金口座へ会社資金を受け入れて管理する状況では,破産手続開始後に財団債権となるべき債権等,他の債権者を害しないと認められる債権を除き,弁済をしないよう十分に注意する義務があるとした。

所属弁護士も,破産会社の事務を担当し,各支払に関与した以上,代表弁護士の指示に従ったというだけで当然に責任を免れるものではないとされた。担当者ごとに調査項目,検討資料,助言内容及び決裁者を記録する必要がある。

2 不明確な支払は手続内の判断に委ねる

申立ての前日で,翌日に管財人が選任されることが予定されているような段階では,支払の適否に疑義がある債務は原則として弁済せず,破産手続内の判断に委ねるべきであると判示された。他の債権者を害しないと確信したことにやむを得ない事情がある場合などでなければ,注意義務違反が問題となる。

緊急の生活保障という目的だけで結論を出さず,労働者性,債権の発生根拠,順位,適正額,財団充足見込み及び競合債権を短時間でも確認し,確認できない点は保留して管財人又は裁判所に引き継ぐのが安全である。

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海外で高額な医療費を請求されたとき―海外療養費・旅行保険・医療費控除と必要書類(AI作成)

目次第1 請求額,保険給付及び税の控除を分ける第2 病院で確認し,持ち帰る資料1 治療内容の説明と費用の説明2 領収書だけでなく診療明細も取得する3 請求と支払を照合する第3 日本の公的医療保険の海外療養費1 海外で支払えばすべて給付されるわけではない2 現地の請求額の7割が戻るという計算ではない3 換算日,申請期限及び入金までの時間第4 海外旅行保険・カード付帯保険第5 海外で支払った医療費と医療費控除1 外国の医師への支払も対象になり得る2 外貨で支払った医療費の円換算3 補填金を差し引き,控除額と還付額を区別する4 申告時に保険金が未確定の場合第6 相談・申請前の確認順序第7 出典
第1 請求額,保険給付及び税の控除を分ける

海外旅行中に病気やけがで入院し,高額な請求を受けたときは,①病院への支払,②日本の公的医療保険からの海外療養費,③海外旅行保険等の保険金,④日本の所得税の医療費控除を分けて確認する必要がある。
海外療養費は現地の請求額をそのまま払い戻す制度ではなく,医療費控除も支払額をそのまま還付する制度ではない。
本記事は,令和8年10月8日現在の法令と公表資料に基づき,海外での急な受診後に行う費用精算を整理する。海外療養費の具体的な書類・為替・時効の説明は協会けんぽの案内によるものであり,国民健康保険・健康保険組合等の加入者は自分の保険者の手続も確認する必要がある。

日本からの短期旅行と,海外移住・長期赴任とは,公的医療保険の加入資格や所得税の居住者判定が異なり得る。海外にいる日本人であることだけから,日本の各制度を利用できると判断してはならない。

第2 病院で確認し,持ち帰る資料
1 治療内容の説明と費用の説明

まず診療の必要性と安全を確認し,治療内容,予定される検査・処置,費用の概算,含まれない費用,追加費用が生じる条件を,可能な範囲で医療機関に確認する。
病院費用,医師の手術料,麻酔料,検査料,薬代,個室料等が別々に請求されることがあるため,総額だけでなく請求主体と費目を記録することが有用である。
治療の説明を受けたことと,料金・個室等の追加サービスに同意したことを一つの署名だけから同一視せず,見積書,同意書,請求書,説明時のメール等を保存する。これは費用の確認と証拠整理の提案であり,外国の医療機関の説明義務や請求の適法性を日本法だけで判定するものではない。

2 領収書だけでなく診療明細も取得する

協会けんぽの海外療養費では,申請書のほか,医科の場合の診療内容明細書(様式A),領収明細書(様式B),領収書原本と日本語訳,明細書の日本語訳,渡航期間を確認できる書類及び同意書等が必要となる。歯科の場合には様式Cを用いる。
様式A~Cは,月,受診者,医療機関,入院・外来ごとに分け,担当医に記入・署名を依頼する。申請者自身による記入で代用しない。同じ項目・内容が記載されていれば独自様式も使用できると案内されている。
翻訳文には翻訳者の署名,住所及び電話番号を記載する。退院・帰国後に遠隔で書類を集める負担を減らすため,可能であれば受診中に保険者の様式を病院へ示しておくとよい。

3 請求と支払を照合する

請求書の総額,患者の実際の支払,保険会社による病院への直接支払,保証金・前払金とその返還を区別する。明細と支払記録が対応するかを確認し,同じ治療費を重複して精算表へ載せない。
外貨の領収書には通貨単位,支払日,支払者が分かる資料を添え,カード明細や送金控えも保存する。公的給付の為替換算と所得税の換算は,次に述べるとおり基準が異なる。

第3 日本の公的医療保険の海外療養費
1 海外で支払えばすべて給付されるわけではない

協会けんぽは,海外旅行中や海外赴任中の急な病気・けが等で,やむを得ず現地の医療機関を受診した場合に,申請によって一部の医療費の払い戻しを受けられる制度と説明している。
対象は日本国内で保険診療として認められる医療行為に限られ,治療を目的として海外へ渡航した場合は支給対象とならないと案内されている。保険の加入資格,診療内容及び渡航目的を最初に確認する必要がある。

2 現地の請求額の7割が戻るという計算ではない

給付額は,日本国内で同じ傷病を治療した場合にかかる治療費を基準に計算した額と,実際に海外で支払った額を比べ,低い方から自己負担相当額を差し引いて計算される。
例えば,現地で200万円を支払い,日本の基準による額が30万円,自己負担相当額がその3割となるという仮定であれば,給付は21万円となり,現地支払額の7割である140万円にはならない。この数値は制度の違いを示す仮定であり,実際の診療の査定額を示すものではない。
加入者の年齢等によって自己負担割合も異なる。国内の高額療養費の上限額を,海外の請求総額にそのまま当てはめて最終負担を見積もってはならない。

3 換算日,申請期限及び入金までの時間

協会けんぽは,外貨で支払った医療費について,支給決定日の外国為替換算率(売レート)を用いると説明している。
また,治療費を支払った翌日から2年を経過すると時効により申請できなくなると案内している。審査に通常数か月を要するため,返金予定を直近の生活資金と同じに扱わず,書類がそろい次第手続を進めることが有用である。
提出先や電子申請の対応状況は変わり得るので,申請時に加入保険者の公式案内を確認する必要がある。

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過重労働・過労自殺と使用者の安全配慮義務―電通事件・東芝事件と予見可能性・過失相殺(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 2つの最高裁判決が扱った問題2 責任の成立と減額を分けて検討する第2 安全配慮義務の法的根拠1 現在の労働契約法5条2 電通事件の請求構成第3 電通事件―長時間労働の認識と業務量の調整1 最高裁が重視した事情2 本人の裁量や意欲だけでは業務管理の問題を解消しない第4 東芝事件―健康情報の不申告と素因減額1 過重な業務と体調悪化を認識できた状況2 精神的健康に関する情報の不申告3 通常の個性の範囲を超える事情があるか4 破棄差戻しの意味と給付の控除第5 予見可能性と因果関係の調べ方1 何を,いつ認識できたか2 保存・照合する資料第6 関連記事第7 出典・参考資料
第1 本記事の対象と結論
1 2つの最高裁判決が扱った問題

長時間労働や強い心理的負荷によって労働者が心身の健康を損なった場合,使用者が業務量や労働環境をどのように管理していたかが問題となる。本記事は,電通事件の最高裁第二小法廷平成12年3月24日判決と,東芝事件の最高裁第二小法廷平成26年3月24日判決を中心に,安全配慮義務,因果関係,予見可能性及び損害額の減額を整理する。

電通事件は従業員の過労自殺について会社の使用者責任を判断した事件である。東芝事件は,過重な業務によってうつ病を発症・増悪させた従業員の解雇無効確認等請求事件であり,最高裁で中心となったのは,健康情報の不申告や個体側の事情を理由とする減額と,保険給付の控除である。東芝事件は,従業員が自殺した事案ではない。

2 責任の成立と減額を分けて検討する

過重労働が認められることだけで,すべての疾病や死亡について直ちに使用者の責任が決まるわけではない。業務の負荷,使用者・上司の認識,実施できた負担軽減措置,疾病の発症・増悪との因果関係を検討した上で,過失相殺や素因減額の可否を別に検討する必要がある。

一方,真面目さや責任感の強さが通常想定される労働者の個性の範囲内にある場合,その性格を理由に損害額を減らすことはできない。また,過重な業務が続き体調悪化が認識できる状況では,労働者が精神科等への通院や病名を申告しなかったことだけを重視して使用者の責任を軽くすることもできない。

第2 安全配慮義務の法的根拠
1 現在の労働契約法5条

労働契約法5条は,使用者に対し,労働者が生命・身体等の安全を確保しながら働くことができるよう,必要な配慮をする義務を定めている。身体的な事故の防止だけでなく,業務の管理による心身の健康への配慮も問題となる。

具体的な義務の内容は,仕事の内容,労働時間,職責,支援体制,健康状態及び使用者が知り得た事情によって定まる。健康診断を実施したことや,就業規則に相談窓口を設けたことだけで,実際の業務を軽減する必要がなくなるわけではない。

2 電通事件の請求構成

電通事件で最高裁が是認したのは,上司の過失を前提とする民法715条の使用者責任である。現在の労働契約法5条が施行される前の事案であり,同条を直接適用して責任を認めた判決ではない。

安全配慮義務違反による債務不履行責任と,上司等の不法行為を前提とする使用者責任は,請求の法的構成が異なる。実際の訴訟では,義務違反の内容と因果関係を具体化し,適用法及び時効を確認して構成を選ぶ。時効の詳細は,安全配慮義務違反による損害賠償請求権の消滅時効で説明している。

第3 電通事件―長時間労働の認識と業務量の調整
1 最高裁が重視した事情

最高裁平成12年3月24日判決(平成10年(オ)第217号・第218号,民集54巻3号1155頁)は,日中の連絡・打合せ等に加えて,終業後に企画書や資料を作成する業務構造の下で,従業員が恒常的に長時間労働をしていた事案である。

会社では残業時間の過少申告が常態化していることが認識され,上司は当該従業員が徹夜で働く状態にあることを知り,健康状態の悪化にも気付いていた。それにもかかわらず,期限どおりに仕事を終えることを前提に睡眠や時間配分を指導するだけで,業務量を適切に調整しなかった。

最高裁は,これらの事情と,疲労・睡眠不足,うつ病の発症及び自殺に至る経過を踏まえ,業務と自殺との相当因果関係及び上司の過失を認めた原審の判断を是認した(判決本文7〜8頁)。

2 本人の裁量や意欲だけでは業務管理の問題を解消しない

仕事への意欲が高いことや,作業の時間配分に一定の裁量があることは,使用者の管理責任を当然に否定する事情ではない。同判決は,所定の期限までに業務を完了すべきことを求める包括的な指揮命令の下で,長時間の残業をせざるを得ない状態となっていた点を重視した。

実務上は,「早く帰るよう注意した」という説明だけでなく,担当案件,納期,人員配置,代替担当者及び実際の業務削減がどう変わったかを確認する必要がある。これは判決の判断から導かれる業務管理上の着眼点である。

第4 東芝事件―健康情報の不申告と素因減額
1 過重な業務と体調悪化を認識できた状況

最高裁平成26年3月24日判決(平成23年(受)第1259号,民集68巻3号261頁)では,製造ラインの立上げの工程責任者となった従業員が,日程の短縮,厳しい督促,支援の不足,担当者の減員及び新たな業務の追加等によって大きな負担を負っていた。

健康診断で頭痛・めまい・不眠等を申告し,体調不良を上司に伝えて欠勤を繰り返し,業務の軽減も申し出ていた。最高裁は,使用者が,その状態が過重な業務によって生じていることを認識し得て,業務軽減等の措置を取ることも可能な状況にあったと判断した(判決本文9〜11頁)。

2 精神的健康に関する情報の不申告

労働者が申告していなかったのは,神経科への通院,病名及び処方薬等の情報であった。最高裁は,これらが本人のプライバシーに属し,人事考課等にも影響し得るため,職場に知られずに働き続けようとすることが想定される性質の情報であることを考慮した。

その上で,過重な業務が続き体調悪化が認識できる場合には,積極的な申告が期待し難いことを前提に,必要な業務軽減等を行うべきであり,本件の情報不申告を理由とする過失相殺はできないとした。これは,労働者によるあらゆる情報不申告について,一律に過失相殺を禁止した判断ではない。判決が挙げた業務負荷と体調悪化の認識可能性を併せて読む必要がある。

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退職代行から通知が届いた会社の対応―権限確認,退職日・年休,最終給与,引継ぎ及び退職書類(AI作成)

目次第1 通知を受けた会社が最初に整理する事項1 到達した通知と本人の意思を保存する2 社内窓口と処理担当者を決める第2 退職の伝達,団体交渉及び個別の処分権限1 相手方の肩書と求めている行為を確認する2 交渉する権限と本人の権利を処分する権限は別である3 権限の確認を必要な範囲に絞る第3 退職日と最終出勤日を確定する1 期間の定めのない契約の解約2 有期契約では同じ説明をそのまま使わない第4 年休残数を勤務日ごとに配分する1 休日を除き,半日分の取扱いまで確認する2 引継ぎの必要性と時季変更権を分ける第5 最終給与と会社の返還請求を分ける1 争いのない賃金を支払う2 返還義務があることだけでは給与から控除できない3 代行者の返信だけで自由な相殺同意を認定しない第6 引継ぎは対象と履行状況を具体化する1 大阪地裁令和7年1月27日判決の判断2 引継ぎ依頼と完了確認を項目ごとに行う3 年休中でも雇用契約が続いている点に注意する第7 傷病手当金の申請・取下げと退職日の関係1 本人の給付を会社だけで処分しない2 退職日の実際の勤務を確認する第8 退職書類は種類ごとの期限で処理する1 退職証明書,離職票及び源泉徴収票を区別する2 離職理由は事実を記載する第9 最初の回答書と完了確認の組み立て方1 回答書に記載する事項2 合意後も実行と完了を確認する第10 出典と判断の範囲1 法令2 裁判例3 行政機関の案内等
第1 通知を受けた会社が最初に整理する事項

退職代行から連絡が来たときは,退職の意思が会社に届いたか,誰がどこまで本人を代理するか,退職日までの勤務と年休をどう扱うかを順に確認する必要がある。
会社に未返還の定期代や貸与品がある場合でも,その精算を理由に最終給与と退職書類を一括して留保する処理は避けるべきである。
本記事は,会社の人事担当者と会社側の弁護士が,通知を受けてから手続を終えるまでに確認する事項を,法令,裁判所公表判決及び行政機関の案内に基づいて整理する。

1 到達した通知と本人の意思を保存する

最初に,通知の原本,受信日時,送信元,対象従業員,退職希望日,年休取得の指定,連絡先及び添付された委任状を保存する。
電話だけの連絡であれば,担当者が日時と内容を記録し,重要な事項を文書で確認する。
民法97条1項は,相手方への通知が到達した時から意思表示が効力を生ずると定めているため,会社内で担当者が処理した日だけで到達日を決めてはならない。

本人が作成した退職届を運んだだけなのか,代行者自身が代理人として解約を申し入れたのかも区別する。
民法99条1項により,代理人の意思表示が本人に直接効力を生ずるには,代理権の範囲内で,本人のためにすることを示している必要がある。
退職届や通知の表現が曖昧な場合は,既に退職を確定的に通知しているのか,会社との合意による退職を申し込んでいるのかを確認する。

2 社内窓口と処理担当者を決める

人事,給与,社会保険及び所属部署が別々に回答すると,退職日や支払額に食い違いが生じやすい。
対外的な窓口を決めた上で,社内では年休残数,最終給与,健康保険・雇用保険,貸与品及び引継ぎの担当者を割り当てる。
回答書には,確定した事項,計算中の事項及び本人側への確認事項を分けて記載すると,単なる希望や予定が合意済みの条件として扱われることを防げる。

第2 退職の伝達,団体交渉及び個別の処分権限
1 相手方の肩書と求めている行為を確認する

退職代行の窓口には,弁護士,労働組合及び民間業者がある。
名称だけで一律に適法又は違法と決めるのではなく,退職意思の伝達なのか,労働組合による団体交渉なのか,個別の紛争について代理交渉や和解をするのかを確認する必要がある。
弁護士法72条は,弁護士等でない者が,報酬を得る目的で法律事件に関する法律事務の取扱いや周旋を業とすることを原則として禁止する一方,法律に別段の定めがある場合を除外している。

労働組合法6条は,労働組合の代表者又はその委任を受けた者に,労働組合又は組合員のために労働協約の締結その他の事項について交渉する権限を認めている。
同法7条2号は,使用者が雇用する労働者の代表者との団体交渉を正当な理由なく拒むことを不当労働行為としている。
労働組合からの申入れについて,退職代行という名称だけを理由に団体交渉を全面的に拒否する対応には危険がある。

2 交渉する権限と本人の権利を処分する権限は別である

最高裁平成31年4月25日第一小法廷判決(平成29年(受)第1889号)は,労働組合との合意によって組合員の既発生賃金債権が放棄されたといえるためには,合意の効果が本人に帰属することを基礎付ける事情を要するとした。
また,既に具体的に発生した賃金請求権の支払を,後から締結した労働協約で猶予することについても,本人による特別の授権がない限り認められないとした(判決4,PDF4・5頁)。
したがって,組合が交渉の窓口であることだけで,未払賃金の放棄,相殺への同意又は包括的な清算条項への同意まで本人に帰属すると扱ってはならない。

実務上は,次の事項を個別に確認するのが適切である。
①退職の意思と退職日を伝える権限。

(続きを読む...)退職代行から通知が届いた会社の対応―権限確認,退職日・年休,最終給与,引継ぎ及び退職書類(AI作成)

選択定年制・早期退職優遇制度の申出を会社は承認しないことができるか―最高裁平成19年1月18日判決と割増退職金(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論の要旨第2 事案の概要1 選択定年制の定め2 退職の申出と不承認第3 原審の判断第4 最高裁の判断1 承認がなければ割増退職金を伴う退職の効果は生じない2 不承認の理由について第5 実務上の確認事項1 会社が制度を設けるとき2 従業員が申し出るとき3 国家公務員の早期退職募集との違い第6 関連記事第7 出典1 裁判例2 法令
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,定年前に退職する従業員を定年退職の扱いとし,割増退職金を支給する選択定年制(早期退職優遇制度)について,従業員が退職を申し出たのに使用者が承認しなかった場合に,割増退職金を受け取れるかを判断した最高裁平成19年1月18日判決(平成16年(受)第380号・集民223号5頁)を紹介するものである。
判決の内容は,裁判所HPの裁判例検索に掲載されている判決全文によっている。

2 結論の要旨

①選択定年制による退職が,従業員の申出に対する使用者の承認によって効果を生ずるものとされ,承認をするかどうかに関し就業規則等で特段の制限が設けられていない場合,使用者が承認しなければ,割増退職金債権の発生を伴う退職の効果は生じない。
②割増退職金は,従業員の申出と使用者の承認とを前提に,早期の退職の代償として特別の利益を付与するものである。
③承認されなかった従業員も,選択定年制によらない退職を申し出ることは妨げられないから,退職の自由を制限されるものではない。
④この事件で,経営悪化から事業譲渡及び解散が不可避となったとの判断の下に,事業を譲渡する前に退職者の増加によりその継続が困難になる事態を防ぐために承認しなかったことは,理由が不十分であるというべきものではないとされた。

第2 事案の概要
1 選択定年制の定め

上告人は,農業協同組合法に基づいて設立された信用農業協同組合である。
上告人の就業規則13条は,従業員は満60歳をもって定年とし,定年に達した日の属する事業年度末をもって退職とすると定めた上,本人の希望により定年前の年齢で退職する者は,選択定年制実施要項の規定により定年扱いとし,特別処置を講ずると定めていた。

選択定年制実施要項は,次のように定めていた。
①対象者は,退職時点において48歳以上の職員でかつ勤続年数が15年以上の職員のうち,所定の手続によりこの制度による退職を選択し,組合が認めたものとする(2条)。
②この制度による退職は,定年扱いとし,別表の割増退職金を支給する(3条)。
③この制度による退職を希望する職員は,退職を希望する6か月前までに組合長に申し出るものとし,事業年度末をもって退職とする(4条)。

判決によれば,選択定年制を設けた趣旨は,組織の活性化,従業員の転身の支援及び経費の削減にあり,事業上失うことのできない人材の流出をとどめることができるようにすることなどを考慮して,上告人の承認を必要とすることとされたものである。

2 退職の申出と不承認

被上告人らは,平成13年7月と9月に,選択定年制により,平成14年3月31日付けで退職することを希望する旨の申出をした。

上告人は,平成13年7月に神奈川県から資産査定状況の検査において自己資本比率の低下等を指摘されて指導を受け,他の信用農業協同組合との合併の道を探ったが,同年8月,経営悪化から事業譲渡及び解散が不可避となったと判断し,事業を譲渡する前に退職者の増加によりその継続が困難になる事態を防ぐため,選択定年制を廃止する方針を立てた。
上告人は,同年9月,申出の資格を有する者全員に対し,既にされた申出についても今後される申出についても承認をしない趣旨の説明をし,同月18日の理事会で,申出を承認しないこと及び選択定年制を廃止することを決定し,同月27日,被上告人らを含む申出者に承認しない旨を告げた。

上告人は,平成14年1月23日の総会で事業の全部を譲り渡して解散することを決議し,同年3月31日,全従業員を解雇した。
被上告人らは,選択定年制により退職したものと取り扱われるべきであるとして,割増退職金債権を有することの確認を求めた。

第3 原審の判断

原審の東京高等裁判所は,上告人は申出に対して承認をするかどうかの裁量権を有するが,不承認とすることが従業員の退職の自由に対する制限となることなどからすれば,その裁量権の行使は選択定年制の趣旨目的に沿った合理的なものでなければならず,不合理な裁量権の行使により不承認とした場合には,申出のとおり選択定年制による退職の効果が生ずるとした。
その上で,不承認により被上告人らの受ける不利益は受忍し得る程度のものとはいい難く,従業員個々の具体的事情にかかわらない事由に基づいて不承認とするのは理由が不十分であるとして,被上告人らの請求を認容すべきものとした。

第4 最高裁の判断
1 承認がなければ割増退職金を伴う退職の効果は生じない

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平成27年10月の厚生労働省制度変更―被用者年金一元化,派遣法改正,労働契約申込みみなし制度及び医療事故調査制度のその後(AI作成)

目次第1 対象資料と12項目の現在1 資料の性質と確認日2 12項目の一覧第2 年金関係の3項目1 被用者年金の一元化2 厚生年金保険料率は18.3%で固定3 5年後納制度は平成30年9月で終了第3 労働者派遣法の平成27年改正1 施行日と許可制への一本化2 事業所単位と個人単位の期間制限3 雇用安定措置とキャリアアップ4 その後の改正第4 労働契約申込みみなし制度1 平成27年10月1日施行の民事的な効果2 対象となる5つの行為と善意無過失3 承諾の期間と労働条件4 裁判例第5 医療関係の3項目1 医療事故調査制度2 看護師等の届出制度3 特定行為研修第6 その他の4項目1 特定配偶者等支援金2 最低賃金3 若者雇用促進法とユースエール認定4 ジョブ・カード第7 確認の範囲1 確認した資料2 本記事で扱わない事項第8 出典1 厚生労働省資料2 法令3 裁判例4 関連記事
第1 対象資料と12項目の現在
1 資料の性質と確認日

厚生労働省の「厚生労働省関係の主な制度変更(平成27年10月)について」は,平成27年9月30日に政策統括官付社会保障担当参事官室が公表した一覧である。
平成27年(2015年)10月に実施される制度変更のうち,特に国民生活に影響を与える事項を,年金,医療,疾病対策及び雇用・労働の4分野に分けて掲げている。
この記事では,掲載された12項目について,その後の改正と現在の運用を一次資料で確かめ,相談や訴訟で古い資料を使うときに取り違えやすい点を整理する。
確認日は令和8年(2026年)10月4日である。
一覧は当時の制度の説明であり,その後に終了し,又は改正された制度が含まれる。
本文の条文は,確認日にe-Gov法令検索で取得した現行の条文による。

2 12項目の一覧
項目平成27年10月の変更確認日現在の状況被用者年金の一元化公務員・私学教職員も厚生年金に加入一元化後の制度が続く。職域部分は廃止され,年金払い退職給付を創設厚生年金保険料率9月分から17.828%平成29年9月分以後は18.3%で固定国民年金の5年後納時効消滅した過去5年分の納付を可能に平成30年9月30日で終了医療事故調査制度予期しなかった死亡・死産の報告と院内調査令和8年8月末までの医療事故報告は累計3,907件看護師等の届出制度免許保持者によるナースセンターへの届出努力義務のまま。届出サイトで受付特定行為研修手順書による特定行為の研修制度を創設令和8年3月現在,指定研修機関505,修了者14,266名特定配偶者等支援金退所者給与金受給者の遺族に月額12万8千円根拠はハンセン病問題基本法15条2項。現行の月額は未確認最低賃金全国加重平均798円令和8年度の改定額の全国加重平均は1,177円ユースエール認定若者の雇用管理が優良な中小企業を認定常時雇用300人以下の事業主が対象ジョブ・カードキャリア・プランニングと職業能力証明の道具に令和4年にウェブサイト「マイジョブ・カード」を公開労働者派遣法の改正許可制への一本化,期間制限の見直し等旧特定派遣の経過措置は平成30年9月29日まで。その後も改正が続く労働契約申込みみなし制度違法派遣の受入れで労働契約の申込みを擬制大阪高裁令和3年11月4日判決が契約の成立を認めた
第2 年金関係の3項目
1 被用者年金の一元化

被用者年金制度の一元化等を図るための厚生年金保険法等の一部を改正する法律(平成24年法律第63号)は,附則1条で「この法律は、平成二十七年十月一日から施行する。」と定めている。
同日から,公務員と私立学校教職員も厚生年金保険に加入し,共済年金は厚生年金に統一された。
日本年金機構の解説によれば,統一後の厚生年金に関する届書等は,日本年金機構又は各共済組合等のどの窓口でも受け付けるワンストップサービスとなり,共済年金にあった公的年金としての3階部分(職域部分)は廃止され,新たに「年金払い退職給付」が創設された。
厚生年金の事務は,被保険者の種別に応じて,厚生労働大臣(第1号厚生年金被保険者),国家公務員共済組合等(第2号),地方公務員共済組合等(第3号)及び日本私立学校振興・共済事業団(第4号)が実施している。
厚生労働省の資料は,平成27年9月30日までの共済年金の加入期間分については,同年10月以後も加入期間に応じた職域加算部分を支給するとしている。
離婚時の年金分割や遺族年金の相談では,公務員・私学教職員としての期間を含むかどうか,その期間が一元化の前か後かを分けて,各実施機関の記録を確かめる必要がある。

2 厚生年金保険料率は18.3%で固定

一覧は,厚生年金保険料率が平成27年9月分から0.354%引き上げられ,17.828%になると説明している。
厚生年金保険法81条4項の表は,平成27年9月から平成28年8月までの月分を「千分の百七十八・二八」とし,最終行で「平成二十九年九月以後の月分」を「千分の百八十三・〇〇」としている。
したがって,平成29年9月分以後の保険料率は18.3%で固定されている。
過去の未払保険料や損害額を計算するときは,対象となる月分の率を同条の表で確かめる必要がある。
保険料は月分ごとに率が決まるので,「納付した月」ではなく「何月分の保険料か」で率を選ぶ。

3 5年後納制度は平成30年9月で終了

一覧の5年後納制度は,政府管掌年金事業等の運営の改善のための国民年金法等の一部を改正する法律(平成26年法律第64号)附則10条1項による時限措置である。
同項は,「平成二十七年十月一日から平成三十年九月三十日までの間」に限り,承認の日の属する月前5年以内の期間で,保険料を徴収する権利が時効によって消滅したものについて,後納保険料を納付できるとしていた。
この期間は終了しており,確認日現在,時効で消滅した国民年金保険料を後から納める一般的な制度はない。
日本年金機構も,「「10年後納制度」は、平成27年9月30日をもって、「5年後納制度」は、平成30年9月30日をもって終了しています。」と案内している。

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個人宅で働く家政婦の労災―家事使用人の適用除外,家事支援従事者の特別加入と東京高裁令和6年9月19日判決(AI作成)

目次第1 家事使用人には労働基準法が適用されない1 労働基準法116条2項2 労災保険も適用されない第2 平成30年4月からの家事支援従事者の特別加入1 制度の新設2 加入の方法と保険料3 紹介所と訪問介護事業所を兼ねる事業者に登録している人第3 東京高裁令和6年9月19日判決1 事案2 第一審は請求を棄却した3 控訴審は家事業務も会社の業務と認めた4 判決の射程第4 家庭・事業者・働く人が確認すること1 契約の相手方と業務指示2 家庭が直接雇う場合3 事故が起きたとき第5 確認の範囲第6 出典
第1 家事使用人には労働基準法が適用されない
1 労働基準法116条2項

労働基準法116条2項は,「この法律は、同居の親族のみを使用する事業及び家事使用人については、適用しない。」と定める。
個人の家庭に直接雇われて家事を行う家政婦(家政夫)は,原則としてこの「家事使用人」に当たる。

厚生労働省の報道発表「「家事使用人の雇用ガイドライン」を策定しました」(令和6年2月8日)は,個人宅に出向き,家庭と直接労働契約を結び,その指示のもと家事一般に従事する家事使用人は,労働契約法の適用は受けるが,労働基準法が適用除外とされていると説明している。
労働契約法21条が適用除外とするのは,国家公務員・地方公務員と,同居の親族のみを使用する場合の労働契約であり,家事使用人は除かれていない。
そのため,家庭は,使用者として,労働者がその生命,身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう必要な配慮をする義務を負う(同法5条)。

2 労災保険も適用されない

労災保険の給付も,家事使用人には及ばないというのが行政の取扱いである。
厚生労働省労働基準局長の平成30年2月8日付け基発0208第1号「労働者災害補償保険法施行規則等の一部を改正する省令の施行について」は,「家政婦紹介所の紹介等により個人家庭に使用されるために家事使用人として労働基準法及び労災法が適用されない者」がいることを前提に,後記の特別加入制度を設けた理由を説明している。
後記第3の事件でも,労働基準監督署長は,家政婦が「家事使用人」に該当するので労働基準法及び労災保険法は適用されないという理由で,遺族補償給付等を不支給とした。

家庭で働く人がけがをし,又は過労で倒れたときに,労災保険の給付を受けられるかどうかは,①その人が誰に雇われていたか(家庭か,会社か),②家庭に雇われていたなら特別加入をしていたか,の2点で大きく分かれる。

第2 平成30年4月からの家事支援従事者の特別加入
1 制度の新設

厚生労働省の「厚生労働省関係の主な制度変更(平成30年4月)について」(平成30年3月23日)は,平成30年4月1日から,個人家庭に雇用され,家事,育児等の作業に従事する者を特別加入制度の対象とすると記載していた。
それまでは,家事使用人のうち介護サービスを提供する者(介護作業従事者)だけが特別加入の対象であった。
同じ時期の制度変更全体と現在の数値は,平成30年4月の厚生労働省制度変更で整理している。

前記の平成30年通達は,その理由として,家事,育児等の支援サービスの需要の増大が見込まれること,家事使用人は介護サービスと家事,育児等の作業を同時に行うことが多く,就労形態や災害の発生状況が介護作業従事者と類似していることを挙げている。

現行の労働者災害補償保険法施行規則46条の18第5号ロは,特別加入の対象となる作業として,「炊事、洗濯、掃除、買物、児童の日常生活上の世話及び必要な保護その他家庭において日常生活を営むのに必要な行為」を掲げている。
平成30年通達によれば,掃除には家具等の清掃が,児童の世話には送迎が,日常生活に必要な行為には裁縫,荷造り,荷物の受取り,寝具の整備,庭の手入れ等が含まれる。
報酬を得ないボランティアは対象とならず,交通費等の実費弁償は報酬に含まれない。

2 加入の方法と保険料

一人親方等と同様に,特別加入は団体を通じて行う。
労働者災害補償保険法35条1項は,特定作業従事者の団体が申請をして政府の承認があったときは,その団体を適用事業及び事業主とみなし,構成員を労働者とみなすと定めている。
平成30年通達によれば,第2種特別加入保険料率は1000分の5(作業の種類の番号は特18)で,介護作業と家事支援作業の両方に従事する人が別々に保険料を負担することはない。
同通達は,保険料は特別加入者自身が負担するのが原則であるが,家事支援従事者については,使用している個人家庭が実質的に負担する場合があるとしている。

特別加入団体の選び方,給付基礎日額及び保険料率の現在の一覧は,労災保険の特別加入制度で整理している。

3 紹介所と訪問介護事業所を兼ねる事業者に登録している人

平成30年通達は,有料職業紹介事業と介護保険法の指定居宅サービス事業を併せて行う事業者について,次のとおり説明している。

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国民健康保険の加入者が転居した場合の高額療養費―同一都道府県内の多数回該当の引継ぎ,転居月の限度額2分の1と令和8年8月の見直し(AI作成)

目次第1 平成30年4月の国保改革と転居1 都道府県が市町村とともに国民健康保険を行う2 保険給付と保険料の事務は市町村に残る第2 多数回該当の回数の引継ぎ1 多数回該当の仕組み2 同一都道府県内の転居では回数を引き継ぐ3 引き継がれない場合第3 転居した月の自己負担限度額の2分の11 趣旨2 条文3 計算例(本記事の試算)4 75歳到達月の特例との違い第4 令和8年8月からの見直しとの関係1 月額の限度額は引き上げられ,多数回該当は据え置かれた2 年間上限が新設された3 令和9年8月からの所得区分の細分化第5 相談を受けたときに確認すること第6 出典
第1 平成30年4月の国保改革と転居
1 都道府県が市町村とともに国民健康保険を行う

厚生労働省の「厚生労働省関係の主な制度変更(平成30年4月)について」(平成30年3月23日,政策統括官付社会保障担当参事官室)は,平成30年4月1日から,国民健康保険の財政運営の都道府県単位化を柱とする国保改革を施行するとしていた。
同じ資料は,この改革に伴う高額療養費の取扱いとして,①同一都道府県内の他の市町村へ住所を移した場合の多数回該当の回数の引継ぎと,②転居した月の自己負担限度額を転出元と転入先でそれぞれ2分の1にする取扱いを挙げている。
この記事は,その2点について,資料の記載と確認日(令和8年10月4日)現在の条文とを分けて整理するものである。
平成30年4月の制度変更全体と現在の数値は,平成30年4月の厚生労働省制度変更で扱っている。

現行の国民健康保険法3条1項は,「都道府県は、当該都道府県内の市町村(特別区を含む。以下同じ。)とともに、この法律の定めるところにより、国民健康保険を行うものとする。」と定める。
同法5条は,「都道府県の区域内に住所を有する者は、当該都道府県が当該都道府県内の市町村とともに行う国民健康保険の被保険者とする。」と定める。
資格の取得は「都道府県の区域内に住所を有するに至つた日」等からであり(同法7条),喪失も「都道府県の区域内に住所を有しなくなつた日の翌日」等からである(同法8条1項)。

そのため,同一都道府県内で市町村を移っても,国民健康保険の被保険者の資格は失われない。
栃木県の「制度の変更点」も,県内の他の市町村に転居した場合でも資格は継続するが,被保険者証は転居後の市町村が改めて交付すると説明している。
これに対し,他の都道府県へ転居すると,転出元の都道府県の国保の資格を失い,転入先の都道府県の国保の資格を取得することになる。

2 保険給付と保険料の事務は市町村に残る

もっとも,保険給付が都道府県単位でまとめて行われるようになったわけではない。
厚生労働省の「国保制度改革の概要(運営の在り方の見直し)」は,都道府県が財政運営の責任主体となる一方,市町村が資格管理,保険料率の決定,賦課・徴収,保険給付及び保健事業を引き続き担うとしている。
高額療養費も,「市町村及び組合は、……世帯主又は組合員に対し、高額療養費を支給する。」と定められている(国民健康保険法57条の2第1項)。

このため,同じ都道府県の国保の被保険者であり続けても,支給の事務は転居の前後で別の市町村が行う。
平成30年3月までは,市町村を移ると多数回該当の回数が数え直しになり,転居した月には転出元と転入先の両方で満額の自己負担限度額が適用されていた。
平成30年4月の取扱いは,この2つの不利益を同一都道府県内の転居に限って解消したものである。

第2 多数回該当の回数の引継ぎ
1 多数回該当の仕組み

国民健康保険法施行令29条の3第1項は,70歳未満の世帯の高額療養費算定基準額(自己負担限度額)を所得区分ごとに定めている。
例えば,区分ウ(基礎控除後の所得の合算額が210万円超600万円以下)に当たる同項1号は,令和8年8月以後,「八万五千八百円」と,医療費が28万6000円を超える部分の1%との合算額としている。
同号ただし書は,「当該療養のあつた月以前の十二月以内に既に高額療養費……が支給されている月数……が三月以上ある場合」を「高額療養費多数回該当の場合」とし,その場合の限度額を4万4400円としている。

厚生労働省の「高額療養費の多数回該当に係る該当回数の引継ぎについて」は,多数回該当を,同一保険者から過去12月以内に高額療養費が支給されている月数が3月以上ある世帯について,4月目以降の自己負担限度額を引き下げるものと説明している。
長期にわたって治療を続ける人の負担を抑えるための仕組みである。

2 同一都道府県内の転居では回数を引き継ぐ

国民健康保険法施行令29条の3第1項1号ただし書の括弧書は,支給月数について「市町村による高額療養費の支給にあつては、当該市町村の属する都道府県内の他の市町村から支給されている月数を含む。」と定めている。
この定義は,同項2号から5号まで(区分ア,イ,エ及びオ)のただし書でも用いられている。

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平成30年4月の厚生労働省制度変更―国保の都道府県単位化,障害者雇用率,労災の介護給付・家事支援従事者の特別加入と現在の数値(AI作成)

目次第1 資料の位置付けと現在との違い第2 年金と手当1 国民年金保険料と年金額2 物価スライドの手当第3 医療保険1 国民健康保険の都道府県単位化2 転居したときの高額療養費3 国民健康保険と後期高齢者医療の保険料の上限4 後期高齢者医療の保険料軽減特例と診療報酬第4 雇用・労働1 障害者の法定雇用率2 労災保険の介護(補償)給付3 家事支援従事者の特別加入4 労災保険率等の改定第5 子ども・子育て,福祉及び疾病対策第6 確認の範囲第7 出典
第1 資料の位置付けと現在との違い

厚生労働省の「厚生労働省関係の主な制度変更(平成30年4月)について」は,政策統括官付社会保障担当参事官室が平成30年(2018年)3月23日に公表した資料である。
同年4月に実施された変更のうち,国民生活に影響を与える事項として,年金,医療,介護,子ども・子育て,福祉,疾病対策,雇用・労働及び各種手当の8分野を挙げている。

この記事では,そのうち弁護士の相談で問題になりやすい項目について,資料の記載と確認日現在の制度とを分けて整理する。
確認日は令和8年(2026年)10月4日である。
平成30年当時の数字は,過去の保険料,給付額又は雇用義務を計算し直す場面ではそのまま使えるが,現在の相談に当てはめることはできない。

項目平成30年4月の資料の記載令和8年10月4日現在国民年金保険料(月額)1万6340円1万7920円(令和8年度)老齢基礎年金(満額・月額)6万4941円(据置き)7万608円(昭和31年4月2日以後生まれ)国民健康保険財政運営を都道府県単位化都道府県が市町村とともに行う(国民健康保険法3条1項)国保の賦課限度額93万円113万円(子ども・子育て支援納付金分3万円を含む)障害者の法定雇用率(民間)2.2%(精神障害者を雇用義務の対象に)2.7%(令和8年7月から)労災の介護(補償)給付(常時介護の最高限度額)10万5290円18万6050円家事支援従事者労災保険の特別加入の対象に追加現行の労災保険法施行規則46条の18第5号ロ児童扶養手当(第1子・全部支給)4万2500円4万8050円(令和8年度)
第2 年金と手当
1 国民年金保険料と年金額

資料によれば,平成30年度の国民年金保険料は月額1万6340円であった。
これは,法律に規定された保険料額1万6900円(平成16年度価格)に,平成16年度以降の物価や賃金の変動を反映した率0.967を乗じたものである。
同年度の年金額は,平成29年の物価変動率がプラス0.5%,名目手取り賃金変動率がマイナス0.4%であったため,法律の規定により前年度から据え置かれ,老齢基礎年金(満額)は月額6万4941円とされた。

厚生労働省の「令和8年度の年金額改定について」(令和8年1月23日)によれば,令和8年度の国民年金保険料は月額1万7920円であり,法律に規定された保険料額(平成16年度水準)は1万7000円である。
平成30年度の1万6900円から100円上がったのは,平成31年4月に国民年金第1号被保険者の産前産後期間の保険料免除制度が施行され,令和元年度分から保険料が月額100円引き上げられたためである(同資料4頁)。
令和8年度の老齢基礎年金(満額)は,昭和31年4月2日以後生まれの人が月額7万608円,同年4月1日以前生まれの人が月額7万408円である(同資料1頁)。

過去の未納期間の保険料を追納する場合や,過去の年度の年金額を基に計算する場合は,その年度の額を使う必要がある。
国民年金保険料の免除・納付猶予・追納は,国民年金保険料の免除・納付猶予・追納で整理している。

2 物価スライドの手当

資料は,児童扶養手当等の手当額を,平成29年の全国消費者物価指数の上昇(0.5%)を踏まえて0.5%引き上げるとしていた。
平成30年度と令和8年度の主な月額は次のとおりである。

手当平成30年度令和8年度児童扶養手当(第1子・全部支給)4万2500円4万8050円特別児童扶養手当(1級)5万1700円5万8450円特別児童扶養手当(2級)3万4430円3万8930円特別障害者手当2万6940円3万450円特別障害給付金(1級)5万1650円5万8650円

平成30年度の額は資料のリンク先「児童扶養手当等の手当額について」により,令和8年度の額は前記「令和8年度の年金額改定について」の5頁による。
所得制限,支給制限及び認定要件は,各手当の現行の案内で別に確認する必要がある。

第3 医療保険
1 国民健康保険の都道府県単位化

資料は,平成30年4月1日から,国民健康保険の財政運営の都道府県単位化と財政支援の拡充による財政基盤の強化を柱とする国保改革を施行するとしていた。
現行の国民健康保険法3条1項は,「都道府県は、当該都道府県内の市町村(特別区を含む。以下同じ。)とともに、この法律の定めるところにより、国民健康保険を行うものとする。」と定める。
被保険者も,「都道府県の区域内に住所を有する者」とされている(同法5条)。

平成30年3月以前の制度を前提にした書籍や記事には,国民健康保険の被保険者を「市町村の区域内に住所を有する者」と説明するものがある。

(続きを読む...)平成30年4月の厚生労働省制度変更―国保の都道府県単位化,障害者雇用率,労災の介護給付・家事支援従事者の特別加入と現在の数値(AI作成)

自己都合退職の給付制限―1か月・3か月の区別,重責解雇の認定基準,教育訓練による解除と退職合意書(AI作成)

目次第1 給付制限の仕組み1 条文の定め2 給付制限は給付日数を減らさない第2 給付制限の期間の区別1 退職日と回数による区別2 期間を決めるのは退職日第3 「正当な理由」があれば給付制限はかからない1 判断の基準2 事実の細部で結論が変わる例第4 重責解雇の認定基準1 懲戒解雇なら当然に重責解雇となるわけではない2 離職票の記載と解雇の性質は別の問題である第5 離職理由の認定と争い方1 ハローワークは離職者の申立ても聴く2 審査請求と取消訴訟第6 教育訓練による給付制限の解除1 令和7年4月からの新しい解除事由2 解除される期間3 申出の期限を過ぎると遡って解除されない第7 退職合意書と退職勧奨で確認すること1 合意書の離職理由はハローワークを拘束しない2 代理人が確認する事項第8 本記事で扱わない事項第9 出典・関連記事1 検討した資料2 法令3 裁判例4 関連記事
第1 給付制限の仕組み
1 条文の定め

雇用保険法33条1項本文は,被保険者が「自己の責めに帰すべき重大な理由によつて解雇され、又は正当な理由がなく自己の都合によつて退職した場合」には,待期期間(同法21条の7日間)の満了後「一箇月以上三箇月以内の間で公共職業安定所長の定める期間」は,基本手当を支給しないと定めている。
これが,いわゆる給付制限である。

条文が定めているのは1か月以上3か月以内という幅だけである。
給付制限に当たるかどうかの認定は,公共職業安定所長が厚生労働大臣の定める基準に従って行う(同条2項)。
具体的に何か月とするかは,厚生労働省の「雇用保険に関する業務取扱要領」(以下「要領」という。)の運用で決まる。
本記事は,令和8年10月4日に公表されていた要領(令和8年8月1日以降版。給付制限の部分の改訂表示は令和8年4月)を確認して整理する。

2 給付制限は給付日数を減らさない

要領52205-1イは,給付制限は所定給付日数の短縮ではないとしている。
給付制限の期間中は基本手当が支給されず,失業の認定も行われないが,その分の日数が失われるわけではない。

ただし,基本手当を受けられる期間(受給期間)は原則として離職日の翌日から1年であるため,給付制限が長いと期間内に受け切れないことがある。
雇用保険法33条3項は,給付制限の期間等を加えると1年を超える場合に,その超える期間だけ受給期間を延ばすと定めている。

第2 給付制限の期間の区別
1 退職日と回数による区別

要領52205-1ロ・ハによれば,給付制限の期間は次のとおりである。

離職の理由給付制限の期間正当な理由なく自己都合で退職し,退職日が令和7年4月1日以降原則1か月正当な理由なく自己都合で退職し,退職日が令和7年3月31日以前原則2か月退職日から遡って5年間に2回以上,正当な理由なく自己都合で退職して求職申込みをしていた場合(令和2年10月1日以降の退職に限って数える。)3か月自己の責めに帰すべき重大な理由による解雇(重責解雇)3か月

要領の「当該退職した日から遡って5年間のうちに2回以上」は,今回の退職を数えずに過去の自己都合退職を数える趣旨である。
令和2年10月に給付制限を3か月から2か月へ短縮したときの厚生労働省のリーフレットは,5年間のうち2回までは短縮後の期間とし,3回目の離職以降は,その離職から遡って5年間に2回以上の自己都合による離職があるかを確認すると説明していた。
したがって,5年以内に3回目となる自己都合退職から3か月になる。

2 期間を決めるのは退職日

給付制限が1か月か2か月かは,求職申込みの日ではなく退職日で決まる。
令和7年3月31日に退職して4月に求職申込みをした者は,原則2か月である。
相談を受けた時点で過去の退職歴を聴き取らないと,3か月になるかどうかを見誤る。

第3 「正当な理由」があれば給付制限はかからない
1 判断の基準

要領52203は,「正当な理由」とは,被保険者の状況(健康状態,家庭の事情等)や事業所の状況(労働条件,雇用管理の状況,経営状況等)からみて,その退職が真にやむを得ないことが客観的に認められる場合をいい,被保険者の主観的判断は考慮されないとしている。

同要領が正当な理由があるとする場合には,例えば次のものがある。
①倒産手続の申立てや不渡り等により事業所の倒産がほぼ確実となった場合,大量の人員整理が行われた場合,事業所が廃止された場合

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令和7年4月の厚生労働省制度変更―雇用保険,育児・介護休業法,年金・手当の実務確認(AI作成)

目次第1 対象資料と確認日1 資料の性質2 実務で使う変更の一覧第2 雇用保険の給付の変更1 自己都合退職の給付制限の短縮と解除2 出生後休業支援給付金3 育児時短就業給付金4 高年齢雇用継続給付の給付率の引下げ5 雇用保険料率第3 育児・介護休業法と次世代法の改正1 育児期の働き方2 育児休業取得状況の公表義務3 介護離職防止のための措置4 次世代法の一般事業主行動計画5 令和7年10月施行分との関係第4 年金・手当の金額は年度で読み替える1 令和7年度と令和8年度の比較2 金額を使うときの注意第5 医療・健康,福祉及び援護1 予防接種と医療費助成2 住居確保給付金の転居費用補助3 戦没者等の遺族に対する第十二回特別弔慰金第6 確認の範囲第7 出典・関連記事1 検討した資料2 法令3 関連記事
第1 対象資料と確認日
1 資料の性質

厚生労働省の「厚生労働省関係の主な制度変更(令和7年4月)について」は,令和7年(2025年)4月に実施された厚生労働省関係の制度変更のうち,特に国民生活に影響を与える事項をまとめた一覧である。
医療,健康・衛生,雇用・労働,福祉,年金,薬事,援護及び各種手当の分野ごとに,項目名,内容,主な対象者,担当部局及びリンク先が並んでいる。

一覧の項目のうち「※1」が付いたものは,作成時点では予算案が成立した場合の内容として記載されていた。
一覧は制度の要点だけを示すものであり,要件や例外は根拠法令とリンク先の案内で確かめる必要がある。

本記事の確認日は令和8年(2026年)10月4日である。
一覧から1年半が経過しているため,当時の金額と現在の金額を分け,現在も効力を持つ変更と,期間が終わった措置を区別して整理する。
なお,一覧の「出生後休業支援給付」と「育児時短就業給付」の行にあるリーフレットへのリンクは,確認日には開けなかった(HTTP 404)。
これらの給付は,厚生労働省の育児休業等給付の案内ページとQ&Aで確認した。

2 実務で使う変更の一覧
分野令和7年4月の主な変更実務での確認事項雇用保険の給付自己都合退職の給付制限を原則1か月に短縮,教育訓練による解除,出生後休業支援給付金・育児時短就業給付金の創設,高年齢雇用継続給付の最大給付率の引下げ退職日,受講開始日,申出の期限,休業・時短の開始日雇用保険料率一般の事業で14.5/1000に引下げ適用される年度と事業の種類育児・介護休業法子の看護等休暇の拡大,残業免除の対象拡大,育児休業取得状況の公表義務の拡大,介護の個別周知・意向確認等就業規則,労使協定,面談記録次世代法一般事業主行動計画の策定時に状況把握・数値目標の設定を義務付け常時雇用する労働者の数,計画期間年金・手当年金額1.9%の引上げ,各種手当の引上げ支給月がどの年度の額か医療・健康・福祉・援護帯状疱疹ワクチンの定期接種化,住居確保給付金の転居費用補助,第十二回特別弔慰金対象年齢,自治体の要件,請求期限
第2 雇用保険の給付の変更
1 自己都合退職の給付制限の短縮と解除

雇用保険法33条1項は,被保険者が自己の責めに帰すべき重大な理由によって解雇され,又は正当な理由がなく自己の都合によって退職した場合,待期期間の満了後「一箇月以上三箇月以内の間で公共職業安定所長の定める期間」は基本手当を支給しないと定めている。
期間を1か月とするか3か月とするかは,法律ではなく,厚生労働省の「雇用保険に関する業務取扱要領」の運用基準で定められている。

同要領によれば,令和7年4月1日以降に正当な理由なく自己都合で退職した場合の給付制限は原則1か月であり,同年3月31日以前の退職では原則2か月である。
退職日から遡って5年間に2回以上,正当な理由なく自己都合で退職して求職申込みをしていた場合と,重責解雇の場合は3か月となる。

令和6年改正により,雇用保険法33条1項ただし書に2号と3号が加わった。
令和7年4月1日以降に受講を開始した教育訓練給付金の対象講座等を,離職日前1年以内に受けたか,離職日以後に受ける場合には,重責解雇の場合を除き,給付制限が解除される。
解除を受けるには,受給資格決定日又は初回の失業認定日等までにハローワークへ申し出る必要がある。
申出の期限と数え方,重責解雇の認定基準及び退職合意書との関係は,自己都合退職の給付制限で詳しく整理する。

2 出生後休業支援給付金

出生後休業支援給付金は,被保険者が子の出生後の対象期間内に通算14日以上の育児休業(産後パパ育休を含む。)をし,配偶者も一定期間内に通算14日以上の育児休業をした場合に支給される(雇用保険法61条の10第1項)。
配偶者がいない場合,配偶者が雇用される労働者でない場合,配偶者が産後休業をした場合等は,配偶者の育児休業の要件が外れる(同条2項)。

支給額は,休業開始時賃金日額に出生後休業の日数(28日が上限)を乗じた額の100分の13である(同条6項)。
厚生労働省の育児休業等給付のQ&A(Q40)は,育児休業給付の67%と合わせて80%となり,社会保険料の免除や非課税を加味すると手取りで10割相当になると説明している。
一覧の「手取り10割相当」は,この合計と負担の軽減を合わせた説明であり,出生後休業支援給付金だけで賃金の全額が出るわけではない。

令和7年4月より前から続けて育児休業をしている場合は,同年4月1日に休業を開始したものとみなして要件を確認する(同Q&A・Q42)。

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平成29年10月の厚生労働省制度変更―育児休業の2歳までの延長,厚生年金保険料率の固定,療養病床の光熱水費及び最低賃金の現在(AI作成)

目次第1 資料の位置付けと現在との違い第2 厚生年金保険料率は18.3%で固定されている1 平成29年9月分で引上げが終了した2 料率が同じでも保険料額は変わる第3 療養病床に入院する65歳以上の人の光熱水費1 入院時生活療養費の対象者2 平成29年10月と平成30年4月の見直し3 令和8年6月から1日430円第4 育児休業の2歳までの延長と現在の手続1 平成29年10月の改正の内容2 育児休業給付の延長は令和7年4月から審査が厳格化された3 早期の職場復帰を促すこととハラスメント4 個別周知は令和4年4月から義務になった5 育児目的休暇は努力義務のまま,式典への参加は子の看護等休暇の対象になった第5 最低賃金は「当時の額」と「現在の額」を分ける1 平成29年度と令和8年度の地域別最低賃金2 過去の未払賃金の計算と時効第6 確認の範囲第7 出典
第1 資料の位置付けと現在との違い

厚生労働省の「厚生労働省関係の主な制度変更(平成29年10月)について」は,政策統括官付社会保障担当参事官室が平成29年(2017年)9月27日に公表した資料である。
同年10月に実施された変更のうち,国民生活に影響を与える事項として,年金,医療,雇用・労働の4項目を挙げている。

この記事では,4項目のそれぞれについて,資料の記載と確認日現在の制度とを分けて整理する。
確認日は令和8年(2026年)10月4日である。
資料からリンクされた厚生労働省・日本年金機構のページには,既に削除されたものがある。
平成29年当時の数字は,過去の保険料・賃金・入院費を計算し直す場面ではそのまま使えるが,現在の相談に当てはめることはできない。

項目平成29年10月の資料の記載令和8年10月4日現在厚生年金保険料率平成29年9月分から18.3%となり,引上げは終了18.3%のまま。ただし標準報酬月額の上限は令和9年9月から段階的に引上げ療養病床の光熱水費65歳以上の医療療養病床の入院患者の負担を1日370円(医療区分2・3は200円)へ平成30年4月に医療区分を問わず370円となり,令和8年6月から430円育児・介護休業法育児休業を最長2歳まで延長,個別周知と育児目的休暇の努力義務を創設2歳までの延長は維持。個別周知は義務化され,給付の延長は令和7年4月から審査が厳格化地域別最低賃金全国加重平均848円(22円~26円の引上げ)令和8年度は全国加重平均1,177円。大阪府は令和8年10月1日から1,231円
第2 厚生年金保険料率は18.3%で固定されている
1 平成29年9月分で引上げが終了した

厚生年金保険法81条4項は,保険料率を月分ごとに表で定めている。
この表は,平成16年10月分の1000分の139.34から始まり,平成28年9月分まで毎年9月分から1000分の3.54ずつ引き上げ,最後の行で「平成二十九年九月以後の月分」を「千分の百八十三・〇〇」としている。
資料が「0.118%引上げ」とするのは,平成28年9月分からの1000分の181.82と比べた差である。

保険料は,被保険者と事業主が半額ずつ負担する(同法82条1項)。
したがって,平成29年9月分以後の通常の厚生年金保険料は,本人負担と事業主負担がそれぞれ標準報酬月額等の9.15%である。
過去の保険料を計算し直す場面では,月分ごとに81条4項の表のどの行に当たるかを確認する。
引上げ途中の年度の料率と,給与から前月分の保険料を控除する取扱いは,平成26年10月の厚生労働省制度変更で整理している。

2 料率が同じでも保険料額は変わる

保険料額は,標準報酬月額及び標準賞与額に保険料率を掛けて計算する(同法81条3項)。
料率が固定されていても,標準報酬月額が変われば保険料額は変わる。

厚生労働省の「厚生年金等の標準報酬月額の上限の段階的引上げについて」によれば,令和7年の年金制度改正により,標準報酬月額の上限は65万円から,令和9年(2027年)9月に68万円,令和10年9月に71万円,令和11年9月に75万円へと段階的に引き上げられる。
上限に当たる高所得の役員・従業員は,料率が変わらなくても保険料が増えることになる。
「料率の引上げは終わった」という説明を,「保険料は増えない」と言い換えてはならない。

保険料の折半,給与からの控除及び令和8年度の健康保険料率は,社会保険の加入・保険料・資格取得喪失と士業の適用で整理している。
短時間労働者の本人負担を軽減する制度は,保険料調整制度の実務を参照されたい。

第3 療養病床に入院する65歳以上の人の光熱水費
1 入院時生活療養費の対象者

健康保険法63条2項は,療養病床に入院する人のうち,65歳に達する日の属する月の翌月以後である被保険者を「特定長期入院被保険者」とし,その食事の提供と,温度・照明・給水に関する療養環境の形成を「生活療養」としている。
特定長期入院被保険者の食費と光熱水費は,療養の給付ではなく入院時生活療養費の対象となる(同法85条の2第1項)。

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平成28年4月の厚生労働省制度変更―当時の金額・基準と令和8年の現行制度(AI作成)

目次第1 資料の性質と本記事の使い方第2 20項目の当時と現在1 一覧表第3 年金・医療保険の保険料と上限額1 国民年金保険料と老齢基礎年金の額2 標準報酬月額と標準賞与額の上限3 国民健康保険の賦課限度額と後期高齢者医療の保険料第4 医療の給付と受診の仕組み1 紹介状なしの大病院受診時の定額負担2 入院時の食費3 患者申出療養と診療報酬改定第5 雇用・労働1 雇用保険料率2 障害者雇用促進法の差別禁止と合理的配慮3 女性活躍推進法4 キャリアコンサルタントの登録制度5 労災保険の介護(補償)給付第6 子育て・福祉・援護・手当・旅館業1 認可外保育施設の届出2 社会福祉法人と退職手当共済3 戦傷病者等の妻に対する特別給付金4 児童扶養手当等5 簡易宿所の客室延床面積第7 古い制度変更一覧を使うときの注意第8 確認の範囲第9 出典
第1 資料の性質と本記事の使い方

厚生労働省「厚生労働省関係の主な制度変更(平成28年4月)について」は,平成28年3月29日に政策統括官付社会保障担当参事官室が公表した一覧である。
同年4月に実施される変更のうち国民生活に影響を与える事項として,年金,医療,子ども・子育て,福祉,援護,雇用・労働,各種手当・手数料及びその他の8分野にわたり,20項目を掲げている。
本記事は,令和8年10月4日に同ページ及びリンク先の資料を確認し,各項目の当時の内容と,同日時点の現行の金額・条文とを対照するものである。

この一覧は10年前の資料であり,金額,対象範囲及び条番号の多くはその後に改められている。
他方で,過去の一定期間の保険料や給付額を計算し直す場面,例えば社会保険の資格を遡って精算する場合,平成28年度から平成29年度にかけての損害額を算定する場合又は当時の行政の取扱いが争点になる場合には,当時の額と基準を使う必要がある。
そこで本記事では,①当時の値,②現行の値,③両者の間で変わった根拠の順に整理する。
金額は,原則として,令和8年10月4日にe-Gov法令検索,厚生労働省・こども家庭庁等の公表資料で確認したものである。

元の一覧からリンクされた資料には,消えたもの,同じURLのまま現行の内容に差し替えられたもの及び当時の内容のまま残るものが混在している。
例えば,平成28年度の年金額改定の報道発表ページと後期高齢者医療の保険料率の報道発表ページは確認日には表示されなかった。
戦傷病者等の妻に対する特別給付金のページは,同じURLで令和8年の給付金の案内に差し替えられていた。
リンク先の記載を当時の資料として引用する前に,その資料の作成日を確認する必要がある。

本記事の姉妹記事として,令和8年4月の厚生労働省制度変更及び令和7年10月の厚生労働省制度変更がある。

第2 20項目の当時と現在
1 一覧表

次の表は,元の一覧の20項目について,当時の変更内容と令和8年10月時点の内容を並べたものである。
金額は1か月当たり又は1食当たり等の単位が項目ごとに異なるので,各節の説明と併せて読む必要がある。

項目平成28年4月の変更令和8年10月時点国民年金保険料月額1万6260円令和8年度は月額1万7920円,令和9年度は月額1万8290円年金額前年度から据置き。老齢基礎年金の満額は月額6万5008円令和8年度は月額7万608円(昭和31年4月1日以前生まれは7万408円)診療報酬改定本体0.49%の引上げ令和8年度改定は3.09%の引上げ(令和8・9年度の平均)。令和8年6月施行紹介状なしの大病院受診特定機能病院と一般病床500床以上の地域医療支援病院で,初診5000円以上・再診2500円以上の徴収を責務化令和4年10月から一般病床200床以上の地域医療支援病院等に拡大。初診7000円以上・再診3000円以上(医科)患者申出療養創設健康保険法63条2項4号の保険外併用療養として存続入院時の食費1食260円から360円へ。平成30年4月から460円令和8年6月1日から1食550円(一般)標準報酬月額の上限健康保険は第47級121万円から第50級139万円へ。標準賞与額の年間上限は540万円から573万円へ健康保険は第50級139万円・年間573万円のまま。厚生年金は第32級65万円で,令和9年9月から段階的に引上げ予定後期高齢者医療の保険料率広域連合ごとに2年ごとに改定令和8・9年度の医療分の全国平均は月額7989円の見込み国民健康保険の賦課限度額85万円から89万円へ令和8年度は合計113万円(子ども・子育て支援納付金分3万円を含む)認可外保育施設の届出1日に保育する乳幼児が6人以上から1人以上へ児童福祉法59条の2。届出不要の施設は同法施行規則49条の2に列挙社会福祉法人制度改革地域における公益的な取組の責務,特別の利益供与の禁止,閲覧対象の拡大等社会福祉法24条2項,27条,45条の32第4項等社会福祉施設職員等退職手当共済支給乗率の見直し,合算できる期間を2年以内から3年以内へ等社会福祉施設職員等退職手当共済法11条8項の「三年以内」戦傷病者等の妻に対する特別給付金平成28年4月1日時点の妻が対象。請求期間は平成31年4月15日まで令和8年の戦傷病者等妻給付金の請求期間は令和9年2月28日まで雇用保険料率失業等給付の料率を1.0%から0.8%へ。一般の事業の合計は11/1000令和8年度の一般の事業は合計13.5/1000(労働者負担5/1000)障害者雇用促進法差別禁止と合理的配慮の提供義務の施行同法34条~36条の3。民間企業の法定雇用率は令和8年7月から2.7%キャリアコンサルタント登録制度の創設職業能力開発促進法30条の19。登録は5年ごとの更新制女性活躍推進法全面施行。常時雇用301人以上の事業主に行動計画の策定・届出・情報公表を義務付け令和4年4月から101人以上に拡大。令和8年4月から101人以上にも男女間賃金差異と女性管理職比率の公表義務。法の期限は令和18年3月31日労災保険の介護(補償)給付常時介護の最高限度額10万4950円・最低保障額5万7030円等常時介護の最高限度額18万6050円・最低保障額9万790円等児童扶養手当等前年比0.8%の引上げ。児童扶養手当(全部支給)は月額4万2330円令和8年4月からの見込額で月額4万8050円(全部支給)旅館業法施行令簡易宿所の客室延床面積の基準に,宿泊者10人未満の場合の特例を新設現在は同令1条2項1号に規定
第3 年金・医療保険の保険料と上限額
1 国民年金保険料と老齢基礎年金の額

平成28年度の国民年金保険料は月額1万6260円であった。
元の一覧は,法律に定める平成28年度の保険料額1万6660円に,物価と賃金の変動を反映した率0.976を乗じた額と説明している。
厚生労働省が平成28年1月29日に公表した資料にも,同年度の保険料額1万6260円と老齢基礎年金の満額の月額6万5008円が記載されている。

国民年金法87条3項は,表に定める額に保険料改定率を乗じて保険料額を定める仕組みであり,同項の表の最後の区分は令和元年度以後の月分の1万7000円である。
厚生労働省「令和8年度の年金額改定についてお知らせします」によれば,令和8年度の保険料は月額1万7920円,令和9年度は月額1万8290円である。
同資料によれば,令和8年度の老齢基礎年金の満額(1人分)は月額7万608円であり,昭和31年4月1日以前生まれの者は月額7万408円である。
基礎年金は前年度比1.9%の引上げとされている。
平成28年度に据え置かれた年金額は,その後の改定を経て,令和8年度には月額で5600円高くなっている。
もっとも,実際の受給額は納付済期間等によって異なるので,満額を個人の受給額として扱ってはならない。

(続きを読む...)平成28年4月の厚生労働省制度変更―当時の金額・基準と令和8年の現行制度(AI作成)

平成26年4月の厚生労働省制度変更―父子家庭の遺族基礎年金,未支給年金,育児休業給付,医療保護入院及び指定薬物の実務確認(AI作成)

目次第1 対象資料と古い制度変更一覧の使い方1 対象資料2 古い一覧は「基準日」を探すために使う第2 年金関係は死亡日で適用が分かれる1 遺族基礎年金の父子家庭への支給2 未支給年金を請求できる遺族の範囲3 産前産後休業中の保険料免除と繰下げ第3 雇用保険は暫定措置の期限を確認する1 育児休業給付の67%2 再就職手当の上乗せ3 特定理由離職者の暫定措置第4 医療・介護・障害福祉の変更1 70歳~74歳の窓口負担2 国民健康保険・後期高齢者医療の保険料3 介護報酬・障害福祉第5 精神保健福祉法:保護者制度の廃止と医療保護入院1 平成26年4月の改正2 確認日現在の条文第6 指定薬物の所持・使用は平成26年4月1日から処罰対象第7 厚生年金基金と当時の金額1 厚生年金基金2 当時の金額第8 確認の範囲第9 出典
第1 対象資料と古い制度変更一覧の使い方
1 対象資料

厚生労働省の「厚生労働省関係の主な制度変更(平成26年4月)について」は,平成26年3月31日付けで政策統括官付社会保障担当参事官室が公表した一覧である。
平成26年4月に実施される厚生労働省関係の制度変更のうち,国民生活に影響を与える事項を,雇用・労働,年金,医療保険,介護保険,障害者福祉,薬事,各種手当・手数料の7分野に分けて掲げている。
この記事では,一覧本文と,一覧からリンクされた説明資料7点(育児休業給付等,保険料軽減,手当額,検疫法施行令等,障害者総合支援法,介護納付金の告示,平成24年の年金改正法の概要)を確認した。
確認日は令和8年(2026年)10月4日である。

2 古い一覧は「基準日」を探すために使う

12年前の制度変更一覧は,現在の制度の説明には使えない。
他方で,弁護士の実務では,死亡日,離職日,行為日又は入院日によって適用される法律が分かれる場面が多い。
平成26年4月1日は,消費税率の8%への引上げと同時に,社会保障・税一体改革の一部が施行された日であり,遺族年金,未支給年金,精神科病院への入院手続及び指定薬物の処罰の範囲について,前後で結論が変わり得る。
この記事では,各項目について,①当時の変更内容,②施行日前の事案に旧法が適用されるかどうか,③確認日現在の条文を分けて整理する。

分野平成26年4月の変更確認日現在の状況と実務上の注意遺族基礎年金支給対象を「妻」から「配偶者」へ広げ,父子家庭にも支給平成26年4月1日以後の死亡に適用。令和10年4月から子の支給停止の規定が変わる未支給年金請求できる遺族を生計同一の3親等内の親族まで拡大平成26年4月1日以後の死亡に適用。相続財産ではない産休中の保険料厚生年金・健康保険の保険料を産前産後休業中は免除事業主の申出が必要。国民年金第1号被保険者には別の規定育児休業給付休業開始後6か月(180日)の給付率を50%から67%へ67%の部分は現行法でも維持。その後,出生後休業支援給付等が加わった雇用保険の暫定措置特定理由離職者の給付日数の拡充等を3年間延長その後も延長され,現行法では令和9年3月31日までの離職が対象70歳~74歳の窓口負担新たに70歳になる人から段階的に法定の2割負担へ現行法でも原則2割(現役並み所得者は3割)医療保護入院保護者制度を廃止し,「家族等」のいずれかの同意で入院令和6年4月から入院期間の定めと市町村長同意の範囲拡大指定薬物所持,使用,購入及び譲受けも禁止平成26年4月1日前の所持等は処罰されない。現行の法定刑は拘禁刑厚生年金基金新設を認めず,特例解散制度等を見直し当時の5年間の時限措置の対象かどうかを時期で確認手当額児童扶養手当等を0.3%引下げ当時の月額は過去の受給額の確認に限って使う
第2 年金関係は死亡日で適用が分かれる
1 遺族基礎年金の父子家庭への支給

平成26年3月までの遺族基礎年金は,子のある妻又は子に支給する制度であり,妻を亡くした夫には支給されなかった。
平成24年法律第62号(公的年金制度の財政基盤及び最低保障機能の強化等のための国民年金法等の一部を改正する法律)は,これを「配偶者」に改め,社会保障・税一体改革の消費税率引上げと同じ平成26年4月1日から施行した。
現行の国民年金法37条は,遺族基礎年金を死亡した者の「配偶者又は子」に支給すると定め,37条の2第1項1号は,配偶者について,死亡当時に生計を維持され,かつ,要件を満たす子と生計を同じくすることを求めている。

(1) 施行日前の死亡には旧法が適用される

平成24年法律第62号附則8条は,改正後の遺族基礎年金の規定を,施行日以後に死亡した被保険者等について適用し,施行日前の死亡については支給要件について「なお従前の例による」と定めている。
したがって,平成26年3月31日以前に妻が死亡した父子家庭では,その後に法律が改正されても,夫が遺族基礎年金を受けることはできない。
相談では,受給できるかどうかを現在の条文だけで判断せず,死亡日を最初に確認する必要がある。

(2) 令和10年4月からの変更

令和7年法律第74号による改正後の国民年金法41条2項(令和10年4月1日施行)は,子に対する遺族基礎年金の支給停止事由から,「生計を同じくするその子の父若しくは母があるとき」を削っている(e-Govの未施行版で確認)。
確認日現在の41条2項では,生計を同じくする父又は母があるときは,子に対する遺族基礎年金の支給が停止される。
離婚後に子と同居していた親が死亡し,子がもう一方の親に引き取られる場合等は,施行日の前後で結論が変わり得るため,請求の時期と経過措置を個別に確認する必要がある。
同じ改正法による遺族厚生年金の見直し(厚生年金保険法59条等)の経過措置は,この記事では検討していない。

(3) 男女差が残る制度との比較

遺族基礎年金では男女差が解消されたが,公務災害の遺族補償年金のように,妻以外の遺族にだけ年齢等の要件を課す制度は残っている(確認日現在の地方公務員災害補償法32条1項ただし書)。
最高裁平成29年3月21日第三小法廷判決(平成27年(行ツ)第375号,集民255号55頁)は,地方公務員災害補償法32条1項ただし書及び附則7条の2第2項のうち,死亡した職員の夫について一定の年齢に達していることを遺族補償年金の受給要件とする部分は,憲法14条1項に違反しないと判断した(裁判所ウェブサイト)。

(続きを読む...)平成26年4月の厚生労働省制度変更―父子家庭の遺族基礎年金,未支給年金,育児休業給付,医療保護入院及び指定薬物の実務確認(AI作成)

裁量労働制の令和6年4月改正―本人同意と撤回,労使委員会,健康・福祉確保措置及び継続導入の手続(AI作成)

目次第1 改正の概要と効力への影響1 改正の根拠と施行日2 改正後の要件を満たさない協定・決議は無効になる第2 専門業務型裁量労働制1 労使協定に加わった事項2 同意の取り方3 同意の撤回4 対象業務に加わったM&Aアドバイザーの業務第3 企画業務型裁量労働制1 決議に加わった事項2 労使委員会の運営3 定期報告第4 両制度に共通する運用上の留意点1 時間配分の裁量2 みなし労働時間と処遇3 健康・福祉確保措置第5 弁護士が確認する資料と論点1 使用者側の点検2 労働者側から残業代を請求する場面第6 本記事で扱わない事項第7 出典・関連記事
第1 改正の概要と効力への影響
1 改正の根拠と施行日

裁量労働制には,労使協定で定める専門業務型裁量労働制(労働基準法38条の3)と,労使委員会の決議で定める企画業務型裁量労働制(同法38条の4)がある。
どちらも,要件を満たせば,対象業務に就いた労働者は協定又は決議で定めた時間労働したものとみなされる。
令和6年4月1日,労働基準法施行規則等を改正する令和5年厚生労働省令第39号と,企画業務型の指針及び専門業務型の対象業務を定める告示を改正する令和5年厚生労働省告示第115号が施行・適用された(厚生労働省「裁量労働制の概要」)。
法律の条文は改正されておらず,協定事項・決議事項の具体化,労使委員会の運営及び対象業務の追加が省令と告示で行われた。

本記事は,令和8年10月4日にe-Gov法令検索の現行の労働基準法及び労働基準法施行規則,施行通達(令和5年8月2日基発0802第7号。以下「施行通達」という。)及び厚生労働省のリーフレットを確認して,改正の内容と,弁護士が使用者側・労働者側の相談で確認する事項を整理するものである。
令和6年4月の厚生労働省関係の制度変更の全体は,令和6年4月の厚生労働省制度変更―労働条件明示,裁量労働制,時間外労働の上限規制及び医療保護入院の実務確認で扱っている。

2 改正後の要件を満たさない協定・決議は無効になる

施行通達18頁は,令和6年4月1日を有効期間に含む専門業務型の労使協定及び企画業務型の決議は,改正後の省令及び告示に適合したものでない場合には,同日以降無効となるとしている。
厚生労働省のリーフレット「裁量労働制の導入・継続には新たな手続きが必要です」も,新たに又は継続して裁量労働制を導入するには,専門業務型の労使協定と企画業務型の運営規程・決議に新しい事項を加え,導入・適用までに(継続導入する事業場では令和6年3月末までに)労働基準監督署へ協定届・決議届を届け出る必要があるとしていた。

改正前から裁量労働制を続けている事業場では,令和6年4月以降の協定・決議に新しい事項が入っているかを確認しないと,みなし労働時間制が適用されているという前提自体が崩れることがある。
なお,令和6年3月31日以前に改正後の内容で協定・決議をして新様式で届け出た場合は,施行時に改めて届け出る必要はないとされた(施行通達19頁)。

第2 専門業務型裁量労働制
1 労使協定に加わった事項

労働基準法38条の3第1項6号は,同項1号から5号までの事項のほか厚生労働省令で定める事項を協定で定めるとしている。
これを受けた現行の労働基準法施行規則24条の2の2第3項は,次の事項を定めている。

①使用者は,労働者を対象業務に就かせたときは協定で定める時間労働したものとみなすことについて当該労働者の同意を得なければならないこと及び当該同意をしなかった当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないこと(1号)
②同意の撤回に関する手続(2号)
③労使協定の有効期間の定め(3号)
④労働時間の状況並びに健康及び福祉を確保するための措置の実施状況,苦情の処理に関する措置の実施状況並びに同意及びその撤回について,労働者ごとの記録を有効期間中及びその満了後に保存すること(4号)

使用者は,④の記録を作成して保存しなければならない(同規則24条の2の2の2)。
保存期間は,条文上は有効期間中及び満了後5年間であるが,同規則71条により当分の間は3年間とされている。

2 同意の取り方

施行通達2頁~3頁は,同意は労働者ごとに,かつ,労使協定の有効期間ごとに得る必要があるとしている。
また,制度の概要,同意した場合に適用される評価制度とこれに対応する賃金制度の内容,同意しなかった場合の配置及び処遇を,使用者が労働者に明示したうえで説明して同意を得ることを協定で定めることが適当であるとしている。
さらに,処遇等について十分な説明がなされなかったこと等により,同意が労働者の自由な意思に基づくものとは認められない場合には,労働時間のみなしの効果が生じないことがあるとしている。

この記載からすると,使用者側の点検では,同意書が存在するかだけでなく,同意を得た時期が協定の有効期間ごとになっているか,同意の前に評価・賃金制度と不同意の場合の処遇を書面で示したかを確認することになる。
労働者側からみなしの効果を争う場面では,同意書の日付,同意の前に交付された説明資料及び同意を求められた際の状況が検討の対象になる。

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令和6年4月の厚生労働省制度変更―労働条件明示,裁量労働制,時間外労働の上限規制及び医療保護入院の実務確認(AI作成)

目次第1 資料の性質と本記事の確認範囲第2 労働条件の明示と裁量労働制1 労働条件明示事項の追加2 裁量労働制の手続の見直し第3 時間外労働の上限規制と改善基準告示1 適用が猶予されていた事業・業務2 改善基準告示の改正第4 障害者の法定雇用率第5 精神保健福祉法の改正1 医療保護入院の入院期間と更新2 市町村長の同意による医療保護入院3 虐待の通報,入院者訪問支援事業及び措置入院者の退院支援4 成年後見人・保佐人が関与する場面第6 医療・年金・給付に関する変更1 新型コロナウイルス感染症の治療薬とワクチン2 難病法の改正3 医療保険の負担と財政の変更4 令和6年度の金額第7 出典・関連記事
第1 資料の性質と本記事の確認範囲

厚生労働省「厚生労働省関係の主な制度変更(令和6年4月)について」は,令和6年4月に実施される厚生労働省関係の制度変更のうち,特に国民生活に影響を与える事項を,医療,健康・衛生,雇用・労働,福祉,年金,薬事,各種手当・手数料及びその他の区分ごとに一覧にしたものである。
掲載ページに作成日又は更新日の表示はない。
一部の項目に「予算案が成立した場合」という注記が付いていることから,令和6年度予算の成立前に作られた一覧と考えられる。

本記事は,令和8年10月4日に同ページ,そのリンク先の厚生労働省資料及びe-Gov法令検索の法令を確認し,令和6年4月の変更のうち,労働相談,企業法務,成年後見及び家族からの相談で確認する機会が多い事項を整理するものである。
法令は現行の版を基本とし,改正の前後を確かめる必要がある条文は,令和6年3月31日時点と同年4月1日時点の版を比べた。
一覧の掲載から2年半が経過しており,年度ごとに改定される金額や,その後さらに引き上げられた率は,令和6年4月時点の値と現在の値が異なる。
そこで,以下では,①令和6年4月に何が変わったか,②令和8年10月時点で何が適用されているか,③実務で何を確認するかを分けて書く。

令和8年度の金額・料率は,令和8年4月の厚生労働省制度変更―雇用,年金,医療・福祉給付の実務確認で扱っている。
令和7年10月の変更は,令和7年10月の厚生労働省制度変更―育児,教育訓練,最低賃金,生活保護及び医療の実務確認で扱っている。

第2 労働条件の明示と裁量労働制
1 労働条件明示事項の追加

令和5年厚生労働省令第39号による労働基準法施行規則の改正が令和6年4月1日に施行され,労働基準法15条1項により明示すべき労働条件が追加された。
厚生労働省の案内ページ「令和6年4月から労働条件明示のルールが改正されます」は,根拠として同省令と令和5年厚生労働省告示第114号を掲げている。

現行の労働基準法施行規則5条1項1号の3は,明示事項を「就業の場所及び従事すべき業務に関する事項(就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲を含む。)」と定めている。
同項1号の2は,有期労働契約を更新する場合の基準に関する事項について,通算契約期間又は更新回数に上限の定めがある場合には当該上限を含むと定めている。
無期転換申込権が発生する有期労働契約の締結の場合には,同条5項により,労働契約法18条1項の無期転換申込みに関する事項と,無期転換後の労働条件も明示事項となり,そのうち書面等で明示すべき事項は同条6項が定めている。
e-Gov法令検索で令和6年3月31日時点と同年4月1日時点の版を比べると,同規則5条は同日に改められている。

配転命令の可否を検討する場面では,令和6年4月以降に締結された労働契約であれば,労働条件通知書等に記載された就業場所・業務の変更の範囲が,職種又は勤務地の限定合意の有無を判断する資料になる。
他方,それより前に締結された労働契約では,変更の範囲の記載がないことだけから限定合意の有無を判断することはできない。
配転命令の判断枠組みは配転命令(転勤命令)の有効性―就業規則の根拠,職種・勤務地の限定合意と東亜ペイント事件の判断枠組みで,更新上限・無期転換申込権と雇止めの関係は有期労働契約の期間・更新・雇止め・無期転換ルールで扱っている。

2 裁量労働制の手続の見直し

裁量労働制についても,令和5年厚生労働省令第39号と令和5年厚生労働省告示第115号が令和6年4月1日から施行・適用された(厚生労働省「裁量労働制の概要」)。
専門業務型裁量労働制では,本人の同意を得ること,同意をしなかった労働者に不利益な取扱いをしないこと,同意の撤回の手続等が労使協定で定める事項に加わった(労働基準法施行規則24条の2の2第3項)。
企画業務型裁量労働制では,同意の撤回の手続と,評価制度・賃金制度を変更する場合の労使委員会への説明が決議事項に加わり(同規則24条の2の3第3項),労使委員会の運営規程の記載事項と定期報告の頻度も改められた。
専門業務型の対象業務には,銀行又は証券会社におけるいわゆるM&Aアドバイザーの業務が加わった。

施行通達(令和5年8月2日基発0802第7号)は,令和6年4月1日を有効期間に含む労使協定及び決議は,改正後の省令及び告示に適合したものでない場合には同日以降無効となるとしている。
したがって,残業代請求でみなし労働時間制の適用が争われる事件では,令和6年4月以降の期間について,協定・決議に新しい必要事項が定められていたかをまず確認する。
改正の内容と確認資料は,裁量労働制の令和6年4月改正―本人同意と撤回,労使委員会,健康・福祉確保措置及び継続導入の手続で詳しく扱う。

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令和6年10月の厚生労働省制度変更―被用者保険の51人以上適用,長期収載品の選定療養,コロナ定期接種,教育訓練給付及び最低賃金のその後(AI作成)

目次第1 提供資料と5項目の現在第2 被用者保険の適用拡大1 令和6年10月の企業規模要件の引下げ2 令和8年10月1日の賃金要件の撤廃3 企業規模要件の段階的縮小と個人事業所第3 長期収載品の選定療養1 令和6年10月1日に始まった仕組み2 令和8年6月1日から価格差の2分の13 公費負担医療・生活保護の扱い第4 新型コロナワクチンの定期接種1 特例臨時接種からB類の定期接種へ2 健康被害救済の水準が変わったこと第5 教育訓練給付の拡充1 令和6年10月1日の給付率の引上げ2 現在の給付率と上限額3 同時期の別の改正との区別第6 最低賃金1 令和6年度から令和8年度までの推移2 未払賃金の計算と給与の点検第7 確認の範囲1 確認した範囲2 本記事で扱わない事項第8 出典1 提供資料2 法令3 厚生労働省・日本年金機構の資料
第1 提供資料と5項目の現在

厚生労働省の「厚生労働省関係の主な制度変更(令和6年10月)について」は,令和6年(2024年)10月に実施された制度変更のうち,国民生活に特に影響を与える事項を,医療,健康・衛生,雇用・労働及び年金の4分野に分けて一覧にした資料である。
ページに作成日・更新日の表示はない。
掲載項目は,被用者保険の適用拡大(医療関係と年金関係に再掲),長期収載品の選定療養,新型コロナワクチンの定期接種,教育訓練給付の拡充及び最低賃金額の改定の5項目である。

この記事では,5項目それぞれについて,①一覧の記載,②根拠となる法令・告示・公的資料で確認した内容,③令和8年(2026年)10月4日現在までの変化を区別して整理する。
一覧は令和6年10月時点の説明であり,その後に割合・金額・要件が改められた項目がある。
令和6年10月の一覧を,そのまま現在の相談の根拠に使うことはできない。

項目令和6年10月の変更令和8年10月4日現在被用者保険の適用拡大短時間労働者の企業規模要件を従業員数100人超から50人超へ引下げ令和8年10月1日に月額8万8000円の賃金要件を撤廃。企業規模要件は令和9年10月から段階的に縮小長期収載品の選定療養後発医薬品のある先発医薬品を患者が希望した場合に,価格差の4分の1を「特別の料金」として負担令和8年6月1日から価格差の2分の1に引上げ新型コロナワクチン全額公費の特例臨時接種が終わり,65歳以上等を対象とするB類の定期接種として開始令和8年度も10月1日から翌年3月31日まで定期接種を実施(原則有料)教育訓練給付専門実践は最大80%,特定一般は最大50%へ追加給付同じ給付率が続いている最低賃金全国加重平均1,055円令和8年度の全国加重平均1,177円。10月1日から12月2日までに順次発効
第2 被用者保険の適用拡大
1 令和6年10月の企業規模要件の引下げ

一覧は,短時間労働者への被用者保険(健康保険・厚生年金保険)の適用について,企業規模要件を従業員数100人超から50人超へ引き下げると説明し,根拠として年金制度改正法(令和2年法律第40号)を挙げている。
同法は,企業規模要件を令和4年10月に101人以上,令和6年10月に51人以上の企業へ段階的に広げたものである。

ここでいう「従業員数」は,雇用する全員の数ではない。
日本年金機構の案内では,1年のうち6か月以上,厚生年金保険の被保険者(短時間労働者は含まず,共済組合員を含む。)の総数が51人以上となることが見込まれる企業等を特定適用事業所とし,法人は法人番号が同じ全事業所の合計で,個人事業主は事業所ごとに数える。
パート・アルバイトの頭数で数えて対象外と判断すると,加入漏れが生じる。

令和6年10月当時,特定適用事業所で働く短時間労働者が加入する要件は,①週の所定労働時間が20時間以上,②所定内賃金が月額8万8000円以上,③2か月を超える使用の見込み,④学生でないことの4つであった。

2 令和8年10月1日の賃金要件の撤廃

令和7年の年金制度改正法(令和7年法律第74号)は,②の賃金要件の撤廃の施行日を政令に委ねた。
令和8年9月11日に公布された令和8年政令第275号は,同法附則1条1項9号に基づき,この施行日を令和8年10月1日と定めた。
現在の厚生年金保険法12条5号と健康保険法3条1項9号は,4分の3未満の短時間労働者のうち「一週間の所定労働時間が二十時間未満であること」又は学生等に当たる者だけを被保険者から除く形になっている。

厚生労働省は,令和7年度の地域別最低賃金が全都道府県で時給1,016円を超え,週20時間働けば月額8万8000円に達することを撤廃の理由として説明している。
いわゆる「106万円の壁」は,この賃金要件から生じた通称であった。

例外として,最低賃金法7条の減額特例の許可を受けた短時間労働者で,報酬が月額8万8000円未満の者は,原則として被保険者とならない(厚生年金保険法附則4条の6第1項,健康保険法附則8条の3の2第1項)。
この者は,本人の申出により被保険者となることができ,厚生労働省は申出に事業主の同意は不要と案内している。

事業主は,令和8年10月1日から加入対象となった短時間労働者について,資格取得届の提出漏れがないかを確認する必要がある。
新たに加入した短時間労働者の保険料負担を3年間軽減する保険料調整制度は,保険料調整制度の実務で整理している。

3 企業規模要件の段階的縮小と個人事業所

厚生労働省の資料では,企業規模要件は,令和9年10月に36人以上,令和11年10月に21人以上,令和14年10月に11人以上へ縮小され,令和17年10月に撤廃される。
人数の数え方は,上記1の厚生年金保険の被保険者の総数である。

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平成26年10月の厚生労働省制度変更―教育訓練給付,最低賃金,厚生年金保険料率及び中国残留邦人等の配偶者支援の現在(AI作成)

目次第1 対象資料と4つの変更第2 教育訓練給付は率と期限が変わった1 平成26年改正の内容2 現在の給付率と上限3 教育訓練支援給付金は「半額」ではない4 受給要件で誤りやすい点5 期限後の取扱いと受講中の離職・就職第3 最低賃金は年度と発効日で確認する1 平成26年度の改定2 令和8年度の改定と発効日3 過去の未払賃金を計算するとき4 平成26年度以降の推移と発効日の確認表第4 厚生年金保険料率は18.3%で固定された1 段階的引上げの終了2 前月分の保険料を控除する3 令和7年改正で変わる標準報酬月額の上限4 上限引上げによる保険料の試算と役員報酬への影響第5 中国残留邦人等の特定配偶者に対する支援1 平成25年の議員立法2 特定配偶者と配偶者支援金3 相談で確認すること4 収入認定と配偶者支援金の請求手続第6 確認の範囲第7 出典1 法令2 公的資料
第1 対象資料と4つの変更

厚生労働省の「厚生労働省関係の主な制度変更(平成26年10月)について」は,平成26年9月26日に政策統括官付社会保障担当参事官室が公表した資料である。
同年10月に実施される変更のうち,国民生活に影響を与える事項として,雇用・労働関係2項目,年金関係1項目,援護関係1項目の計4項目を掲げている。
本記事は,令和8年(2026年)10月4日に,この資料の全項目とリンク先の資料を確認し,現在の法令及び公的資料と照合したものである。

約12年前の資料なので,掲げられた率や金額の多くは現在と異なる。
過去の賃金・保険料・給付を計算するときは当時の資料を使い,現在の相談では現行の条文と最新の公表資料を使う,という区別が実務上の出発点となる。

制度平成26年10月の内容令和8年10月4日現在教育訓練給付専門実践教育訓練の受講費用の4割,就職等で2割追加(年48万円上限)。教育訓練支援給付金を創設(基本手当の半額,平成30年度までの暫定措置)専門実践は基本5割(年40万円),資格取得・就職で7割(年56万円),賃金上昇で8割(年64万円)。支援給付金は基本手当日額相当額の6割で,令和9年3月31日までに受講を開始した者が対象最低賃金全都道府県で13円~21円の引上げ。全国加重平均780円令和8年度の答申では54円~65円の引上げ。全国加重平均1177円。令和8年10月1日から12月2日まで順次発効厚生年金保険料率9月分から0.354%引上げ,17.474%平成29年9月分以後18.3%で固定中国残留邦人等の支援特定配偶者に対する配偶者支援金の創設支援法15条。令和8年度の月額は4万6938円
第2 教育訓練給付は率と期限が変わった
1 平成26年改正の内容

提供資料は,平成26年3月に成立した改正雇用保険法により,同年10月1日から教育訓練給付制度が拡充されると説明している。
根拠となったのは雇用保険法の一部を改正する法律(平成26年法律第13号,同年3月31日公布)であり,雇用保険法60条の2の改正と附則11条の2の新設は,同法附則1条2号により同年10月1日に施行された。

当時の内容は,厚生労働大臣が指定する専門的・実践的な教育訓練(専門実践教育訓練)を受けた場合に受講費用の4割を給付し,資格取得等の上で就職したときは2割を追加する(給付上限は年間48万円)というものであった。
一般教育訓練給付金は受講費用の2割,上限10万円と紹介されている。
また,45歳未満の離職者が専門実践教育訓練を受講する場合に,訓練中,基本手当の半額を支給する教育訓練支援給付金が平成30年度までの暫定措置として創設された。

2 現在の給付率と上限

現行の雇用保険法60条の2第4項は,教育訓練給付金の額を,受講費用に「百分の二十以上百分の八十以下の範囲内において厚生労働省令で定める率」を乗じた額としている。
具体的な率と上限は雇用保険法施行規則101条の2の7及び101条の2の8が定めている。

専門実践教育訓練は,基本が受講費用の5割(年間上限40万円)である。
資格取得等の上で就職した場合は7割(年間上限56万円)となり,さらに賃金が5%以上上昇した場合は8割(年間上限64万円)となる。
8割の区分は令和6年法律第26号による改正で設けられ,令和6年10月1日以後に受講を開始した者に適用される。
一般教育訓練は2割(上限10万円),特定一般教育訓練は4割(上限20万円)で,資格取得等の上で就職した場合は5割(上限25万円)である。

平成26年当時の4割と2割(年48万円)という説明は,現在の給付額の計算には使えない。
受講者が給付を見込んで講座を選ぶ場合は,受講開始日を基準に,どの区分の率と上限が適用されるかを厚生労働省の教育訓練給付制度の案内で確認する必要がある。

3 教育訓練支援給付金は「半額」ではない

教育訓練支援給付金の額は,平成26年の創設時は基本手当日額に相当する額の5割であった。
その後,平成29年法律第14号による改正で平成30年1月1日から8割に引き上げられ,期限も延長された。
さらに,令和6年法律第26号による改正で,令和7年4月1日から6割に改められた。
同日より前に受講を開始した者には,従前の8割が適用される。

現行の雇用保険法附則11条の2第1項は,対象を「令和九年三月三十一日以前に」専門実践教育訓練等を開始した者で,「当該教育訓練を開始した日における年齢が四十五歳未満であるものに限る」としている。

(続きを読む...)平成26年10月の厚生労働省制度変更―教育訓練給付,最低賃金,厚生年金保険料率及び中国残留邦人等の配偶者支援の現在(AI作成)

トラックの荷役作業の墜落防止―昇降設備・保護帽の対象車両,テールゲートリフターの特別教育と白ナンバー(AI作成)

目次第1 改正の経緯と施行日1 令和5年の安衛則改正2 施行日は二段階第2 昇降設備(安衛則151条の67)1 最大積載量2トン以上の車両が対象2 昇降設備に当たるもの3 2トン未満の車両第3 保護帽(安衛則151条の74)1 対象となる3類型2 平ボディ車・ウイング車とバン3 テールゲートリフター設置車4 2トン未満の車両と高さ2メートル以上の作業第4 テールゲートリフターの特別教育(安衛則36条5号の4)1 対象となる業務2 教育の科目と時間3 科目の省略4 記録の保存と罰則第5 運転位置から離れる場合と作業開始前点検第6 白ナンバーのトラックと荷主の現場第7 荷役中の墜落事故が起きたときの確認事項第8 調査範囲第9 出典
第1 改正の経緯と施行日
1 令和5年の安衛則改正

トラックの荷台への昇り降りや荷の積み卸しの際の墜落・転落を防ぐため,労働安全衛生規則(以下「安衛則」という。)が令和5年に改正された。
施行通達(令和5年3月28日基発0328第5号)によれば,労働安全衛生規則の一部を改正する省令(令和5年厚生労働省令第33号)と,安全衛生特別教育規程の一部を改正する件(令和5年厚生労働省告示第104号)が同日公布された。

施行通達は,改正の趣旨について,陸上貨物運送事業における労働災害の発生件数が増加傾向にあり,特に荷役作業に係る労働災害が多発していることを挙げている。
この記事は,厚生労働省の「厚生労働省関係の主な制度変更(令和5年10月)」に掲載された項目のうち,トラックの荷役作業を掘り下げるものであり,同月の他の変更は令和5年10月の厚生労働省制度変更で整理している。
確認日は令和8年(2026年)10月4日であり,条文はe-Gov法令検索の現行条文によった。

2 施行日は二段階

施行日は項目によって異なる。

改正項目条文施行日昇降設備の設置義務の対象を最大積載量2トン以上へ拡大安衛則151条の67令和5年10月1日保護帽の着用義務の対象を一部の2トン以上5トン未満の車両へ拡大安衛則151条の74令和5年10月1日運転位置から離れる場合の措置の一部改正安衛則151条の11令和5年10月1日テールゲートリフターの操作の業務を特別教育の対象に追加安衛則36条5号の4令和6年2月1日
第2 昇降設備(安衛則151条の67)
1 最大積載量2トン以上の車両が対象

安衛則151条の67第1項は,事業者は,最大積載量が2トン以上の貨物自動車に荷を積む作業(ロープ掛けの作業及びシート掛けの作業を含む。)又は荷を卸す作業(ロープ解きの作業及びシート外しの作業を含む。)を行うときは,「床面と荷台との間及び床面と荷台上の荷の上面との間を安全に昇降するための設備を設けなければならない」と定めている。
同条2項は,作業に従事する者に,昇降の際にその設備を使用する義務を課している。

改正前の対象は最大積載量5トン以上の車両であり,2トン以上5トン未満の車両が加わった。
施行通達は,荷台からの墜落・転落が多いことを踏まえて「床面と荷台との間」を明記したものであり,荷台には昇るが荷の上には昇らない場合は荷台への昇降設備だけで足りるとしている。

2 昇降設備に当たるもの

施行通達によれば,昇降設備には,踏み台等の可搬式のもののほか,車両に設置された昇降用のステップ等が含まれる。
テールゲートリフターを中間位置で停止させてステップとして使用する場合も,昇降設備として認められる。
もっとも,製造者が動作時の搭乗を認めていないテールゲートリフターに労働者を乗せて昇降させることは,車両系荷役運搬機械等を主たる用途以外に使用することを禁じた安衛則151条の14に当たる場合があるとされている。

施行通達は,昇降設備の構造として,手すりのあるもの,踏板に一定の幅や奥行きのあるもの,車両のステップであれば乗降グリップがあり三点支持等で安全に昇降できる形式のものが望ましいとしている。
令和5年8月1日付けの事務連絡(問答)は,あおりの内側に回転してステップとなる部分がある「あおり内側回転式ステップ」は昇降設備に含まれるとし,運転席後方のタラップは乗降を前提に安全に昇降できるものなら昇降設備として扱ってよいとする一方,巻き込み防止柵は原則として昇降設備と認められないとしている(問10・問11)。

3 2トン未満の車両

最大積載量2トン未満の車両は安衛則151条の67の対象ではない。
しかし,施行通達は,高さが1.5メートルを超える箇所で作業を行うときは安衛則526条が適用されることに留意すべきであるとしている。
同条1項は,高さ又は深さが1.5メートルを超える箇所で作業を行うときは,安全に昇降するための設備等を設けなければならないと定めている(作業の性質上著しく困難なときを除く。)。

第3 保護帽(安衛則151条の74)
1 対象となる3類型

安衛則151条の74第1項は,次のいずれかに該当する貨物自動車で荷を積み卸す作業を行うときは,墜落による危険を防止するため,労働者に保護帽を着用させなければならないと定めている。

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令和5年10月の厚生労働省制度変更―難病・小児慢性特定疾病の助成開始日,最低賃金,トラック荷役の墜落防止及び生活扶助の実務確認(AI作成)

目次第1 対象時点と5つの変更第2 指定難病・小児慢性特定疾病の医療費助成の開始日1 申請日から診断日へ遡る仕組み2 遡りの日を具体的に数える3 軽症高額の基準を満たした人4 診断年月日とやむを得ない理由第3 最低賃金は年度と発効日で確認する第4 トラック荷役作業の墜落防止第5 生活扶助基準の見直しと特例加算第6 確認の範囲第7 出典
第1 対象時点と5つの変更

厚生労働省の「厚生労働省関係の主な制度変更(令和5年10月)について」は,令和5年(2023年)10月に実施された制度変更のうち,健康・衛生,雇用・労働及び福祉の5項目をまとめた一覧である。
同ページには更新日の記載がなく,掲載されたリーフレットも令和5年当時のものである。

この記事では,5項目それぞれについて,当時の変更内容を一次資料で確かめた上で,確認日である令和8年(2026年)10月4日現在の数値や運用と区別して整理する。
対象読者としては,医療費助成の申請を支える家族・成年後見人,賃金の点検をする使用者,荷役作業のある事業者,生活保護の相談を受ける支援者を想定している。

制度令和5年10月の変更現在の確認事項指定難病の医療費助成助成の開始日を申請日から「重症度分類を満たしていることを診断した日」等へ前倒し診断日と申請日の間隔,1か月・3か月の遡り期間,軽症高額の基準日小児慢性特定疾病の医療費助成助成の開始日を申請日から「疾病の状態の程度を満たしていることを診断した日」へ前倒し医療意見書の診断年月日,遡り期間,やむを得ない理由地域別最低賃金39円~47円の引上げ,全国加重平均1,004円当時の額と令和8年度の額,都道府県ごとの発効日トラックの荷役作業昇降設備・保護帽の義務の対象を最大積載量2トン以上へ拡大車両の最大積載量と荷台の構造,テールゲートリフターの特別教育生活扶助基準検証結果の反映,月額1,000円の特例加算,従前額保障令和7年10月の1,500円,令和8年10月からの2,500円との区別
第2 指定難病・小児慢性特定疾病の医療費助成の開始日
1 申請日から診断日へ遡る仕組み

令和5年10月1日から,指定難病の特定医療費の支給認定は,申請日ではなく,指定医が病状の程度を満たしていると診断した日に遡って効力を生ずるようになった。
難病の患者に対する医療等に関する法律(以下「難病法」という。)7条5項1号は,支給認定は,指定医が「当該者の病状の程度が同号の厚生労働大臣が定める程度であると診断した日」又は「当該支給認定の申請のあった日から当該申請に通常要する期間を勘案して政令で定める一定の期間前の日のいずれか遅い日」に遡って効力を生ずると定めている。

この「一定の期間」は,難病法施行令3条1項本文により1か月である。
ただし,指定医が診断書の作成に期間を要したことその他のやむを得ない理由により,診断した日から1か月以内に申請しなかったときは,同項ただし書により3か月となる。

小児慢性特定疾病医療費についても,児童福祉法19条の3第8項が同じ構造の規定を置いている。
「一定の期間」は,児童福祉法施行令22条の2により原則1か月,やむを得ない理由があるときは3か月である。

これらの改正は,障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律等の一部を改正する法律(令和4年法律第104号)によるもので,難病・小慢合同委員会の令和5年7月10日の資料1(2頁~3頁)は,この部分の施行日を令和5年10月1日としている。
厚生労働省のリーフレットは,令和5年10月1日以降の申請から適用し,同日より前の医療費は対象にできないと説明している。

2 遡りの日を具体的に数える

遡る日は,診断した日と,申請日の1か月前(やむを得ない理由があれば3か月前)の日のうち遅い方である。
例えば,6月1日に指定医が重症度分類を満たすと診断し,6月20日に申請した場合は,1か月前の日が5月20日なので,遅い方の6月1日から助成の対象となる。
同じ診断で8月15日に申請した場合は,1か月前の日である7月15日が遅い方となり,6月1日から7月14日までの医療費は対象外となる。
この場合でも,やむを得ない理由があれば3か月前の日(5月15日)と比べることになり,遅い方の6月1日まで遡る。

このように,遡りは最長3か月に限られ,申請が遅れるほど対象外の期間が生ずる。
日の数え方の細部と,やむを得ない理由の認定は申請先の都道府県・指定都市(小児慢性特定疾病では中核市・児童相談所設置市を含む。)が行うため,具体的な事案では申請窓口に確認する必要がある。

3 軽症高額の基準を満たした人

重症度分類を満たさない場合でも,医療費が高額な状態が続くときは支給認定の対象となる。
難病法7条1項2号の政令で定める基準について,難病法施行令2条は,指定難病に係る医療の費用の額が「三万三千三百三十円を超えた月数が当該支給認定の申請を行った日の属する月以前の十二月以内に既に三月以上ある」ことを挙げている。

この類型では,難病法7条5項2号により,遡る日は「同号の政令で定める基準に該当することとなった日の翌日」と申請日の1か月前(やむを得ない理由があれば3か月前)の日のいずれか遅い日である。
診断日ではなく,基準を満たした日の翌日が起点になる点が重症度分類の場合と異なる。

4 診断年月日とやむを得ない理由

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令和5年4月の厚生労働省制度変更―中小企業の月60時間超割増賃金,賃金のデジタル払い,繰下げみなし増額及び医療保護入院の「家族等」(AI作成)

目次第1 制度変更一覧を過去の事案に当てはめる際の確認順序1 資料の性質2 過去の事案では「いつの制度か」を先に確定する第2 雇用・労働関係1 中小企業の月60時間超の時間外労働の割増賃金率2 賃金のデジタル払い3 男性労働者の育児休業取得状況の公表4 雇用保険料率5 労災保険給付の額と第14次労働災害防止計画第3 年金関係1 特例的な繰下げみなし増額2 保険料と年金額第4 医療・福祉関係1 出産育児一時金2 物価に連動する給付額3 医療保護入院の「家族等」からの虐待等の加害者の除外4 措置入院の告知事項第5 援護関係第6 確認の範囲第7 出典
第1 制度変更一覧を過去の事案に当てはめる際の確認順序
1 資料の性質

厚生労働省「厚生労働省関係の主な制度変更(令和5年4月)について」は,令和5年4月に実施される制度変更のうち国民生活に影響を与える事項を,医療・健康,雇用・労働,子ども・子育て,福祉,年金及び援護の6分野に分けて列挙した資料である。
各項目には内容,主な対象者,担当部局及び関連ページへのリンクが記載されている。
もっとも,同資料は令和5年4月の実施に先立って公表された予告的な一覧であり,給付額の引上げ等の多くの項目には「予算案が成立した場合」という注記が付されている。

本記事は,令和8年10月4日に同資料と関連する公開資料を確認し,同年4月の変更のうち,未払残業代,賃金の支払方法,企業の情報公表,年金の請求,精神科医療への入院及び給付額の年度管理について,現在の相談でも確認が必要になる事項を整理するものである。
法令の条文は,同日にe-Gov法令検索の法令APIで取得した現行条文及び施行日別の条文により確認した。
一覧に掲載された項目のうち,HPVワクチンの定期接種,薬価改定及びオンライン資格確認の原則義務化は,本記事では制度の現状まで検討していない。

2 過去の事案では「いつの制度か」を先に確定する

令和5年4月の一覧は,公表から3年以上が経過している。
保険料率,年金額及び各種手当の額は毎年度改定されているため,一覧の数値を現在の相談にそのまま用いることはできない。
逆に,令和5年度の事案(例えば同年度中の未払賃金,同年度分の給付の遡及請求)では,現在の額ではなく当時の額を用いる必要がある。

実務では,①問題となる行為又は給付の対象期間,②その期間に適用される条文の版,③その期間の金額・料率,④経過措置の有無,⑤現在の手続の窓口の順に確認する。
令和8年4月の変更は令和8年4月の厚生労働省制度変更で,令和7年10月の変更は令和7年10月の厚生労働省制度変更で整理しているので,年度ごとの比較に用いられたい。

第2 雇用・労働関係
1 中小企業の月60時間超の時間外労働の割増賃金率

労働基準法37条1項ただし書は,延長した労働時間が1か月について60時間を超えた場合には,その超えた時間の労働について通常の労働時間の賃金の計算額の5割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならないと定める。
令和4年6月17日施行時点の同法には,中小事業主の事業については当分の間この37条1項ただし書を適用しないとする138条があったが,令和5年4月1日施行時点の版では同条が削除されていることを,e-Govの施行日別条文で確認した。

(1) 引上げの対象となる時間

厚生労働省のリーフレット「2023年4月1日から月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます」は,令和5年4月1日から労働させた時間について引上げの対象となると説明している。
したがって,中小企業の未払残業代を計算する場合,令和5年3月31日以前の時間外労働については,月60時間を超えた部分も25%以上の割増率で計算し,同年4月1日以後の時間外労働について50%以上の割増率を用いることになる。
中小企業に当たるかは,業種ごとの資本金の額若しくは出資の総額又は常時使用する労働者数のいずれかを満たすかにより,事業場単位ではなく企業単位で判断される。

(2) 60時間の数え方

同リーフレットによれば,月60時間の算定には法定休日に行った労働時間は含まれないが,それ以外の休日に行った労働時間は含まれる。
月60時間を超える時間外労働を深夜に行わせた場合は,深夜割増25%と時間外割増50%を合わせて75%となる。
また,1か月の起算日からの時間外労働時間数を累計して60時間を超えた時点から50%以上の率で計算するとされているので,就業規則等で1か月の起算日を確認する必要がある。

令和8年10月時点では,賃金請求権の消滅時効との関係で,令和5年3月以前の分が請求対象に残る事案は限られる。
もっとも,時効の完成が猶予されている事案や,既に係属している訴訟では,令和5年4月の前後で割増率を分けた計算書になっているかを確認する必要がある。
時効期間の詳細は賃金・残業代の消滅時効は3年か5年かを,割増賃金の計算方法と代替休暇は時間外労働,休日労働及び深夜労働と残業代請求を参照されたい。

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教育訓練休暇給付金の実務―無給休暇,加入5年以上,就業規則と失業給付への影響(AI作成)

目次第1 在職したまま学ぶための生活保障第2 休暇開始前に確認する支給要件1 一般被保険者と2つの期間要件2 自発的な連続30日以上の無給休暇3 対象となる教育訓練第3 給付日数と受給期間第4 受給後の失業給付への影響第5 就業規則と取得合意で確認する事項第6 事業主と本人の手続を分ける第7 関連制度と本記事の範囲
第1 在職したまま学ぶための生活保障

教育訓練休暇給付金は,令和7年10月に始まった雇用保険の給付である。
一定の一般被保険者が離職せず,自発的に教育訓練へ専念するために取得する無給休暇中の生活を支える。
休暇を取る権利が一律に新設されたと理解するのではなく,社内の休暇制度,事業主との合意,雇用保険の給付要件をそれぞれ確認する必要がある。

この記事は,令和8年10月4日に確認した厚生労働省の公式案内と「教育訓練休暇給付金のご案内」(表示番号PL080801保07,本文1頁~10頁)に基づき,取得前の説明,規程と手続を整理する。

第2 休暇開始前に確認する支給要件
1 一般被保険者と2つの期間要件

雇用保険の一般被保険者であることが必要であり,高年齢被保険者,短期雇用特例被保険者及び日雇労働被保険者は対象外である。
その上で,①休暇開始前2年間に12か月以上の被保険者期間があること,②休暇開始前の雇用保険加入期間が5年以上あることの両方を満たす必要がある。

単に現在の会社で5年間勤務したかどうかでは決まらない。離職期間や,基本手当,過去の休暇給付,育児休業給付等の受給歴によって通算できない期間が生じることがある。
会社の勤続年数の記録と雇用保険の算定は区別し,休暇開始前にハローワークで加入・受給歴を確認する。

2 自発的な連続30日以上の無給休暇

休暇は,就業規則,労働協約等に規定された制度に基づき,本人が取得を希望して事業主の承認を受ける,連続30日以上の無給休暇であることを要する。
会社から制度の案内を受けたこと自体は妨げにならないが,業務命令による研修にこの給付を利用することは認められない。
事業主の合意が得られない場合には,この制度による給付を受けられないと公式Q&Aは説明している。

会社が週1回の出勤を予定しながら,30日間の教育訓練休暇として申請する運用は認められない。
予期しない事情で就労した場合の扱いと,最初から出勤を組み込んだ休暇制度とは区別する必要がある。
収入を伴う就労を行った日や,有給休暇,育児休業等の別の休暇・休業の日については支給を受けられない。副業で就労した日も同様である。

無給の休暇中に受講費用等の補助が支給された場合でも,就労の対価としての賃金ではないものは,その支給だけで不支給になるわけではないと案内されている。
手当という名称だけで判断せず,支払目的と就労の実態を確認する。

3 対象となる教育訓練

大学・大学院等の教育訓練,教育訓練給付金の指定講座を有する法人等が提供する教育訓練,職業安定局長が定める職業上の教育訓練等が対象となる。
公式案内は司法修習,語学留学,海外大学院での修士号取得等も掲げている。
ただし,司法修習生であることだけで給付対象となるわけではなく,在職,雇用保険,休暇と加入期間等の要件も満たす必要がある。
受講費用を支援する教育訓練給付金の対象講座を受講する場合は,その給付を併せて利用できることがある。各給付の要件は別に確認する。

第3 給付日数と受給期間

所定給付日数は,算定対象となる雇用保険加入期間が5年以上10年未満なら90日,10年以上20年未満なら120日,20年以上なら150日である。
受給期間は原則として休暇開始日から1年間である。
日数が残っていても受給期間を過ぎれば支給を受けられない。妊娠,出産,育児,疾病等による延長が可能な場合には,ハローワークに相談する。

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令和7年10月の厚生労働省制度変更―育児,教育訓練,最低賃金,生活保護及び医療の実務確認(AI作成)

目次第1 対象時点と7つの変更第2 育児期の柔軟な働き方と個別対応1 会社が2つ以上の措置を用意する2 制度の利用意向と勤務条件の希望を分けて聴く第3 教育訓練休暇給付金と融資を使い分ける1 在職中の教育訓練休暇給付金2 雇用保険給付の対象外となる人への融資第4 最低賃金は地域と発効日で確認する第5 生活扶助の特例加算は適用月を区別する第6 就労選択支援と本人の意思第7 後期高齢者医療の配慮措置の終了第8 確認の範囲
第1 対象時点と7つの変更

厚生労働省の「令和7年10月」制度変更一覧は,令和7年(2025年)10月に実施された変更をまとめた資料である。
この記事では,掲載された7項目について,企業の就業規則の見直し,労働者への説明,後見・生活支援の相談で確認すべき事項を整理する。
確認日は令和8年(2026年)10月4日である。制度開始当時の金額と現在の金額は区別し,リンク先が更新されている場合には,対象年度と適用日を確認する必要がある。

制度令和7年10月の変更実務での確認事項育児との両立柔軟な働き方の措置,個別周知・意向確認,意向聴取・配慮子の年齢,会社の選択措置,面談の時期と記録教育訓練休暇給付金在職中の無給休暇に対する給付を創設被保険者区分,加入期間,自発性,連続30日以上の休暇リ・スキリング融資雇用保険給付の対象外となる人への融資を開始求職・訓練の要件,申込前の費用,金融機関審査と返済地域別最低賃金令和7年度の改定を地域ごとに順次実施就業地域,発効日,対象となる賃金,時間額への換算生活扶助特例加算を月額1,500円/人へ見直し当時の基準と現行の基準,従前額保障,入院・入所の例外就労選択支援就労先・働き方の選択を支えるサービスを開始本人の希望,支給決定,利用順序,地域の事業所後期高齢者医療2割負担に伴う外来の負担増への配慮措置を終了対象者,受診月,通常の高額療養費との区別
第2 育児期の柔軟な働き方と個別対応
1 会社が2つ以上の措置を用意する

令和7年10月1日から,事業主は,3歳から小学校就学前の子を養育する労働者に対し,始業時刻等の変更,テレワーク等,保育施設の設置運営等,養育両立支援休暇,短時間勤務制度の5つから2つ以上を選択して講ずる必要がある。
労働者は,会社が講じた措置の中から1つを選択して利用する。会社が措置を選択する際には,過半数労働組合又は過半数代表者の意見を聴く必要がある(育児・介護休業法23条の3)。
テレワーク等は月10日以上,養育両立支援休暇は年10日以上利用できる制度とし,いずれも原則として時間単位で利用できるようにする。適用除外を設ける場合には,法律・省令と労使協定の内容を別途確認する。

これに対し,3歳未満の子を養育する労働者のためのテレワーク導入は,令和7年4月からの努力義務である。
対象年齢と施行時期を混同して,全員にテレワークを選択させる義務があると説明してはならない。
令和7年4月に施行された段階の改正内容は,令和7年4月の厚生労働省制度変更で整理している。

2 制度の利用意向と勤務条件の希望を分けて聴く

子が3歳になる前の所定の期間に,会社が選択した制度の内容,申出先,残業免除等の制度を個別に周知し,利用意向を確認する必要がある。
さらに,本人又は配偶者の妊娠・出産等の申出時と子が3歳になる前に,勤務時間帯,勤務地,制度の利用期間,業務量その他の就業条件に関する意向を聴き,その意向に配慮する必要がある(同法21条2項・3項,23条の3第5項・第6項)。

厚生労働省の改正ポイントのリーフレット4頁・5頁は,周知・聴取の時期を,3歳の誕生日の1か月前までの1年間と示している。
制度の利用を控えさせるための周知・意向確認は認められない。
実務上は,対象者の抽出,面談日程,説明した制度,本人の希望,検討した対応,回答内容を記録することが有用である。これは義務を実行し,後日の説明を可能にするための実務上の整理である。

第3 教育訓練休暇給付金と融資を使い分ける
1 在職中の教育訓練休暇給付金

教育訓練休暇給付金は,雇用保険の一般被保険者が,離職せず,自発的に教育訓練へ専念するために取得する休暇中の生活を支える制度である。
就業規則等に基づき,事業主と合意して連続30日以上の無給休暇を取得することに加え,休暇開始前2年間に12か月以上の被保険者期間があること,休暇開始前の雇用保険加入期間が5年以上あること等を要する。
会社の業務命令による研修や,有給休暇をそのまま給付対象にする制度ではない。

受給すると,休暇開始前の被保険者期間等が基本手当などの算定で通算できなくなる。他方,育児休業等給付・介護休業給付のみなし被保険者期間と,教育訓練給付金の支給要件期間には影響しないと案内されている。
休暇を申し込む前に,過去の受給歴,加入期間,対象訓練,他の給付への影響をハローワークで確認する必要がある。
手続,規程と失業給付への影響は,教育訓練休暇給付金の実務解説で詳しく整理する。
受講費用を支援する教育訓練給付金について,令和6年10月から専門実践教育訓練の給付率が最大80%となった経緯と現在の上限額は,令和6年10月の厚生労働省制度変更で整理している。

2 雇用保険給付の対象外となる人への融資

(続きを読む...)令和7年10月の厚生労働省制度変更―育児,教育訓練,最低賃金,生活保護及び医療の実務確認(AI作成)

勤務弁護士の労働者性と社会保険―契約名,勤務実態と裁判例から考える加入判断(AI作成)

目次第1 勤務弁護士の労働者性と社会保険は制度ごとに確認する1 委任契約という名称だけで労働者性は決まらない2 最初に区別する5つの制度第2 労働者性を判断するために確認する勤務実態1 案件を断る自由と業務遂行上の指揮監督2 勤務時間・場所とタイムシートの目的3 報酬,自己の顧客,費用及び危険負担第3 勤務弁護士の労働者性を否定した令和7年の裁判例1 東京地裁令和7年2月13日判決の事案と結論2 東京高裁令和7年9月25日判決で重視された事情3 組織への組入れに関する控訴審の説示4 この裁判例から導けない結論第4 労働者性を検討した後の保険別の確認1 健康保険・厚生年金は適用事業所と使用関係を確認する2 弁護士国保への加入は労働者性の結論ではない3 雇用保険では雇用関係と適用基準を確認する4 労災保険では通常の労働者と特別加入を区別する第5 勤務弁護士本人と法律事務所が保存すべき資料1 契約時の説明と勤務実態を対応させる2 肩書や未加入の結果から逆算しない3 確認先と請求の目的を分ける第6 労働組合法の労働者性と一次資料の読み方1 団体交渉の問題は別に検討する2 確認済みの資料と未確認の事項
第1 勤務弁護士の労働者性と社会保険は制度ごとに確認する
1 委任契約という名称だけで労働者性は決まらない

法律事務所に所属する弁護士が労働者に当たるかどうかは,「イソ弁」「アソシエイト」「カウンセル」という呼称だけでは決まらない。
契約書が委任契約又は業務委託契約という表題になっていても,実際に誰の指揮監督の下で働き,何に対して報酬を受けているかを検討する必要がある。

労働基準法9条は職業の種類を問わず,事業又は事務所に使用され,賃金を支払われる者を労働者とし,労働契約法2条1項・6条も使用されて労働することと賃金の支払を基礎にしている。
弁護士資格があることや法律業務に専門的な裁量があることだけで,これらの法律の適用が一律に排除されるとはいえない。

2 最初に区別する5つの制度

「社会保険に入れるか」という相談では,労働契約上の地位と各保険の資格を分けて整理する必要がある。
健康保険・厚生年金の事業所適用と個人の資格,雇用保険の資格,労災保険の保護範囲は,それぞれ根拠と追加要件が異なる。

制度・問題判断の出発点別に確認すること労働基準法・労働契約法指揮監督の下での労務提供と報酬の労務対償性労働時間,賃金,解雇・雇止め,無期転換など,求める保護の要件健康保険健康保険法3条の適用事業所に使用される者に当たるか勤務条件,法定の適用除外,弁護士国保継続の適用除外承認厚生年金厚生年金保険法9条の適用事業所に使用される者に当たるか年齢,勤務条件,法定の適用除外。健康保険の適用除外承認とは別の問題である雇用保険適用事業に雇用される労働者に当たるか所定労働時間,雇用見込み,法定の適用除外労災保険通常の労働者として保護されるか業務・通勤との関係。労働者でない者の特別加入は別に確認する

この表は相談事項を分けるためのものであり,各制度の加入要件をすべて列挙したものではない。
事務所の形態別の加入義務は,弁護士・法律事務所の社会保険で整理している。

第2 労働者性を判断するために確認する勤務実態
1 案件を断る自由と業務遂行上の指揮監督

厚生労働省の労働者性の説明は,使用従属性を個別の事情から総合判断する立場を示している。
勤務弁護士の相談では,案件の割当てについて承諾が必要なのか,断った場合に報酬減額や評価上の不利益があるのか,実際に断った例があるのかを確認する。

書面で「受諾は自由」と定めるだけでは,運用を確認したことにはならない。
反対に,依頼された仕事をいつも受けていたという事実だけでも,拒否する自由がなかったと直ちに決まるわけではない。

業務上の指示については,成果物の品質確認や依頼者との調整と,日常の業務配分,作業方法,優先順位,報告方法に対する具体的な命令を区別する。
専門職であるため法的判断を自ら行う場面があっても,それ以外の勤務管理まで独立していたかは別に確認する必要がある。

2 勤務時間・場所とタイムシートの目的

出退勤時刻,事務所への出勤,外出,在宅勤務,休暇に関する定めが,実際にどのように運用されているかを確認する。
休暇について連絡するだけなのか,承認が必要なのか,無断で休んだ場合にどのような取扱いを受けるのかが重要である。

タイムシートは,依頼者への請求のために案件別の作業時間を記録するものと,勤務時間を管理するものとで意味が異なる。
記録の名称だけで判断せず,入力対象,承認者,訂正指示,目標時間,報酬や評価との関係を調べるべきである。

3 報酬,自己の顧客,費用及び危険負担

固定報酬,出来高報酬,欠勤控除,時間外の手当,売上げによる増減について,契約上の定めと実際の支払を照合する。
固定報酬であることだけで労働者性が確定するわけではなく,高額報酬であることだけで否定されるわけでもない。

自己の顧客を自由に受任できるか,受任契約の当事者は誰か,報酬を誰が決定し回収するか,事務所への経費負担や業務上の損失負担があるかも確認する。

(続きを読む...)勤務弁護士の労働者性と社会保険―契約名,勤務実態と裁判例から考える加入判断(AI作成)

令和8年4月の厚生労働省制度変更―雇用,年金,医療・福祉給付の実務確認(AI作成)

目次第1 制度変更一覧を実務で使う際の確認順序第2 企業の情報公表と雇用保険料1 女性活躍推進法の情報公表2 令和8年度の雇用保険料率第3 年金相談で確認する年度別の金額1 保険料,年金額及び年金生活者支援給付金2 在職老齢年金の支給停止基準第4 医療・介護関係では施行日と手続の対象を分ける1 診療報酬本体と薬価の施行日は異なる2 RSウイルス母子免疫ワクチンの定期接種3 生活保護法の指定介護機関の手続第5 福祉・援護給付の金額と請求期限1 手当と給与金の改定2 医薬品副作用被害救済の給付額3 戦傷病者等妻給付金第6 確認の範囲
第1 制度変更一覧を実務で使う際の確認順序

厚生労働省「厚生労働省関係の主な制度変更(令和8年4月)について」は,雇用,年金,医療,福祉等の変更をまとめた資料である。
一覧には実施予定という表現や改定前の説明も残るため,相談を受けた時点の制度別の案内と照合する必要がある。
本記事は,令和8年10月4日に確認した公開資料に基づき,同年4月の変更のうち,企業法務,年金相談,給付申請及び医療・介護事業者の相談で確認すべき事項を整理するものである。
令和6年4月の変更(労働条件明示,裁量労働制,時間外労働の上限規制及び医療保護入院等)は,令和6年4月の厚生労働省制度変更―労働条件明示,裁量労働制,時間外労働の上限規制及び医療保護入院の実務確認で扱っている。
平成28年4月の変更(国民年金保険料,標準報酬月額の上限,紹介状なしの大病院受診時の定額負担等)と現在の値との対照は,平成28年4月の厚生労働省制度変更―当時の金額・基準と令和8年の現行制度で扱っている。
平成30年4月の変更(国保の都道府県単位化,障害者雇用率,労災の介護給付及び家事支援従事者の特別加入)と現在の数値の比較は,平成30年4月の厚生労働省制度変更―国保の都道府県単位化,障害者雇用率,労災の介護給付・家事支援従事者の特別加入と現在の数値で扱っている。

実務では,①対象制度,②対象者,③適用される年月,④改定額の単位,⑤申請・届出先,⑥経過措置の順に確認する。
金額が変わったことだけから,従前の対象者全員が当然に同額の給付を受けるとは判断できない。
以下の実務上の確認事項は,公的資料の制度説明を踏まえたものであり,個別の受給資格や処分の適法性を判定したものではない。

第2 企業の情報公表と雇用保険料
1 女性活躍推進法の情報公表

令和8年4月1日から,常時雇用する労働者が101人以上の一般事業主は,男女間賃金差異と女性管理職比率を公表する対象となる。
もっとも,最初の公表対象となる事業年度と公表時期には経過措置があるため,施行日と公表期限を区別する必要がある。
厚生労働省「女性活躍推進法特集ページ」及び同ページ掲載の女性管理職比率の算出・公表に関する令和8年2月18日通知で確認できる。

女性管理職比率の「管理職」は,役員を除く課長級とそれより上位の役職にある労働者である。
課長級に相当するかは,名称だけでなく組織の構成,職務内容及び責任に照らして判断する。
労働基準法上の管理監督者の判定に,この定義をそのまま流用してはならない。
具体的な算定方法と事業年度別の公表時期は,令和8年4月施行の改正女性活躍推進法を参照されたい。

2 令和8年度の雇用保険料率

厚生労働省「令和8年度雇用保険料率のご案内」によれば,適用期間は令和8年4月1日から令和9年3月31日までである。
一般の事業の合計料率は13.5/1000で,労働者負担は5/1000,事業主負担は8.5/1000である。
農林水産・清酒製造の事業は合計15.5/1000,建設の事業は合計16.5/1000である。
園芸サービス,酪農,養鶏等には一般の事業の料率を適用する例外があるため,業種名の印象だけで料率を決めないことが必要である。

給与計算を確認する際は,総料率と労働者から控除する料率を区別し,前年度の設定が残っていないかを確認する。
加入手続,年度更新及び給付との関係は,労働保険の加入・保険料・労災給付・雇用保険の手続を参照されたい。

第3 年金相談で確認する年度別の金額
1 保険料,年金額及び年金生活者支援給付金

厚生労働省年金局「令和8年度の年金額改定について」は,令和8年1月23日付けの公表資料である。

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勤務弁護士・法律事務所職員の社会保険未加入―資格確認請求,遡及加入と証拠の集め方(AI作成)

目次第1 未加入を疑ったら制度と時期を分ける1 給与控除と資格記録を照合する2 まず加入要件を確認する第2 健康保険・厚生年金の資格確認請求1 本人から年金事務所へ請求できる2 提出資料と事務所への調査3 原則2年間の調査と本人負担第3 2年以上前の厚生年金記録1 年金記録の訂正請求を別に検討する2 保険料を控除されたのに記録がない場合第4 雇用保険の照会と遡及1 加入の照会と資格確認の請求2 2年を超える場合の給与明細第5 労災保険の未手続と証明拒否1 未手続でも労働者の給付請求はできる2 事業主証明が得られないとき第6 証拠の集め方と是正後の精算1 月別一覧と使用関係の資料2 資格が確定してから保険料と給付を調整する第7 出典・関連記事
第1 未加入を疑ったら制度と時期を分ける
1 給与控除と資格記録を照合する

給与明細に保険料の控除があることと,被保険者資格が正しく登録されていることは別である。
勤務弁護士又は法律事務所職員が未加入や届出の誤りを疑った場合は,健康保険・厚生年金,雇用保険,労災保険を分け,加入すべき時期と現在の記録を確認する。
事務所が小規模であることだけを理由に,すべての保険が適用されないと判断してはならない。

2 まず加入要件を確認する

法律事務所が法人か個人か,個人であれば常時使用する人数と任意適用の有無,本人の使用関係と勤務条件を確認する。
「業務委託」「アソシエイト」等の契約名だけでは加入の要否は決まらない。
過去の未加入を検討する場合は,現在の要件を過去の全期間に適用せず,その時点の法令,事務所形態及び勤務条件を調べる。
個人経営の法律事務所への士業適用拡大は令和4年10月1日であり,それ以前の期間との区別が必要である。
全体の判断順序は,弁護士の社会保険を参照されたい。

勤務弁護士の使用関係が争われる場合の判断要素と裁判例は,勤務弁護士の労働者性と社会保険で説明している。
加入義務を判断する前提となる勤務実態の確認と,資格確認請求・遡及加入の手続を分けて検討すると整理しやすい。

第2 健康保険・厚生年金の資格確認請求
1 本人から年金事務所へ請求できる

健康保険法51条及び厚生年金保険法31条は,被保険者又は被保険者であった者による資格の確認請求を認める。
事業主の資格取得届が未提出又は事実と異なる場合には,対象事務所を管轄する年金事務所へ確認請求書と証拠資料を提出する。
健康保険組合が管掌する場合は,当該保険者の手続も確認する。

2 提出資料と事務所への調査

日本年金機構の確認請求案内は,雇用契約書,給与明細,出勤状況及び退職日が分かる資料等の提出を求めている。
同案内は,請求者の氏名を事業所に示して調査すると説明している。
匿名の情報提供と本人の確認請求を混同せず,勤務先への照会が行われることを見込んで,提出資料の控えを確保する。

3 原則2年間の調査と本人負担

同案内では,確認請求に基づく調査は受付日から原則として2年間を遡る範囲とされ,資格が確認された期間について,保険料の半額を遡って負担する義務が生じると説明されている。
これは確認請求の調査に関する行政案内であり,あらゆる過去の年金記録の回復を2年に限定するという意味ではない。
既に給与から控除されていた保険料があれば,月別の控除額と対象月を示し,既払額と追加負担の精算を確認する。
事業主負担まで本人に負担させる取扱いとは区別する。

第3 2年以上前の厚生年金記録
1 年金記録の訂正請求を別に検討する

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弁護士国保を続けるための健康保険適用除外承認―法人化,職員採用と申請手続(AI作成)

目次第1 健康保険の適用除外と厚生年金の関係1 弁護士国保を継続しても厚生年金は別に加入する2 本人ごとに事由と資格を確認する第2 法人化と新規採用を区別する1 従前からの国保組合加入者2 適用除外を受けた者のいる事務所の新規採用者3 勤務状態の変更と70歳以上の者第3 14日と5日の期限を混同しない1 健康保険の適用除外承認は原則14日以内2 厚生年金の資格取得届は原則5日以内3 期限を過ぎた場合は理由書の要否を確認する第4 申請から承認後までの手順1 事前確認と国保組合の証明2 年金事務所への提出と電子申請の注意3 承認通知と組合への返送第5 資格が変わるときの追加確認1 別法人,転職,所属会又は住所の変更2 国民年金基金と家族の手続第6 事務所で保存する書類1 日付と根拠を一つの時系列にする2 未承認・資格の不一致が判明した場合第7 出典
第1 健康保険の適用除外と厚生年金の関係
1 弁護士国保を継続しても厚生年金は別に加入する

弁護士法人の設立や個人の法律事務所の強制適用化により,健康保険の対象となる者が弁護士国保を継続したい場合は,健康保険被保険者適用除外承認の要件と手続を確認する必要がある。
健康保険法3条1項8号の承認を受ける制度であり,厚生年金の適用除外ではない。
厚生年金の加入要件を満たす者は,健康保険について弁護士国保に残っても,厚生年金の被保険者となる。

2 本人ごとに事由と資格を確認する

法人又は事務所全体に一度承認があれば,以後の全職員が当然に弁護士国保へ加入できるわけではない。
東京都弁護士国民健康保険組合の加入資格,現在の保険資格,使用関係及び本人の適用除外該当事由を確認する。
以下は令和8年10月3日に確認した公式案内に基づく手続の整理であり,具体的な書類の組合せは発生する事由に応じて組合及び管轄年金事務所で確定する。
加入義務の入口は弁護士の社会保険,費用・給付の比較は弁護士国保と協会けんぽの違いを参照されたい。

第2 法人化と新規採用を区別する
1 従前からの国保組合加入者

日本年金機構の国民健康保険組合の加入手続に関する資料は,国保組合加入者を使用する事業所が法人化等により適用事業所となる場合など,適用除外の4類型を示している。
事務所が適用事業所となる日に現に国保組合の被保険者であるか,国保組合加入者が事業所を設立する場合か,加入者が別の適用事業所へ勤務する場合かを分ける。
事務所の新規適用日,本人の採用日及び国保組合の資格取得日を同じ日と決めつけないことが重要である。

2 適用除外を受けた者のいる事務所の新規採用者

一定の適用除外該当事由による承認を受けた者を使用する事業所に,新たに使用されることとなった者も対象となり得る。
一方,組合の適用除外案内は,従来から協会けんぽを適用している個人の法律事務所の新規採用者等では,該当事由を満たさず承認を受けられない場合を説明している。
「法律事務所の職員だから申請できる」と一括して説明せず,その事務所の従前の適用状況を確認する。

3 勤務状態の変更と70歳以上の者

以前は社会保険の対象でなかった所属者が,勤務時間や所属形態の変更により対象となる場合も,変更時点の手続を確認する。
70歳以上75歳未満の場合は,原則として厚生年金の被保険者でなくなることと,健康保険の適用除外承認が必要となることを区別する。
年齢だけを理由に健康保険の承認手続も不要と扱ってはならない。

第3 14日と5日の期限を混同しない
1 健康保険の適用除外承認は原則14日以内

適用除外承認申請は,該当事由が発生した日から14日以内の提出を前提に準備する。
国保組合の証明を受ける期間も見込み,法人化や採用の前に組合へ相談して書類をそろえる。
組合へ書類を送った日だけで,年金事務所への申請期限を守ったことにはならない。

2 厚生年金の資格取得届は原則5日以内

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弁護士国保と協会けんぽの違い―加入条件,保険料,家族と休業時の給付を比較(AI作成)

目次第1 比較の前に加入できる制度を確認する1 保険料だけで自由に選べるわけではない2 本記事で扱う弁護士国保の範囲第2 本人と家族の加入条件1 所属弁護士会,住所及び現在の医療保険2 国保の家族と健康保険の被扶養者第3 保険料の比べ方1 本人負担と事務所負担を分ける2 令和8年度の定額保険料と家族の計算例3 子ども・子育て支援金と賞与を忘れない第4 休業時の給付と保険料軽減1 傷病手当金と出産手当金2 産前産後の軽減と国民年金の免除第5 切替え前に残す確認記録1 資格,費用及び給付の三つの資料をそろえる2 承認と資格日を確認してから切替える第6 出典・関連記事
第1 比較の前に加入できる制度を確認する
1 保険料だけで自由に選べるわけではない

弁護士国保と協会けんぽを比べるときは,まず本人の加入資格と法律事務所の適用関係を確認する必要がある。
弁護士法人又は強制適用となる個人経営の法律事務所に使用され,法定要件を満たす者は,原則として健康保険及び厚生年金保険の対象となる。
国民健康保険組合の加入資格を満たすことだけで,健康保険の加入義務を免れるわけではない。

健康保険の適用除外承認を受けられる場合には,弁護士国保と厚生年金保険の組合せが可能である。
個人開業弁護士の国保と国民年金の組合せとは年金の前提が異なるため,医療保険の比較に年金保険料の差を混ぜないことが大切である。
加入義務の全体像は弁護士の社会保険,承認手続は弁護士国保を続けるための健康保険適用除外承認を参照されたい。

2 本記事で扱う弁護士国保の範囲

本記事の弁護士国保とは,東京都弁護士国民健康保険組合を指す。
令和8年10月3日に確認した同組合,協会けんぽ及び日本年金機構の公式資料に基づく説明であり,別の国保組合又は健康保険組合の保険料・独自給付にそのまま当てはめることはできない。

第2 本人と家族の加入条件
1 所属弁護士会,住所及び現在の医療保険

組合の加入案内によれば,対象は東京三弁護士会,神奈川県・千葉県・埼玉県の各弁護士会に所属する弁護士・外国法事務弁護士及びその法律事務所等で勤務し業務に従事する者で,組合の地区内に住所を有する者である。
登録又は在職の証明に加え,現在の医療保険資格を確認する。
他の健康保険の被保険者又は被扶養者,後期高齢者医療の被保険者等は,原則として加入できない。

2 国保の家族と健康保険の被扶養者

弁護士国保では,家族も被保険者であり,年齢区分に応じて一人ずつ保険料を負担する。
同一世帯で市町村国保に加入する家族の一部だけを残して,組合員本人だけ弁護士国保へ移るという取扱いはできない。
一方,勤務先の健康保険に加入している家族等を重ねて加入させることもできない。

協会けんぽでは,家族が被扶養者の認定を受ければ,その家族について個別の健康保険料はかからない。
ただし,家族であることだけで認定されるわけではなく,続柄,生計維持,収入等の条件を確認する必要がある。
配偶者の年金第3号被保険者への該当は,医療保険の被扶養者認定と分けて確認する。

第3 保険料の比べ方
1 本人負担と事務所負担を分ける

協会けんぽの保険料は,標準報酬月額及び標準賞与額と適用される保険料率を基礎として計算し,原則として被保険者と事業主が折半する。
弁護士国保は年齢区分による定額であり,健康保険法上の労使折半の制度ではない。
事務所が国保の保険料相当額を補助する契約があれば,法定負担とは別に,その補助額及び給与・税務上の取扱いを確認する。

比較項目弁護士国保協会けんぽ算定の基礎加入者ごとの年齢区分標準報酬月額・標準賞与額家族被保険者ごとに定額被扶養者には個別保険料なし事業主負担健康保険法上の折半なし原則として折半介護分40歳から64歳の区分に含む対象者の介護保険料率を加える

(続きを読む...)弁護士国保と協会けんぽの違い―加入条件,保険料,家族と休業時の給付を比較(AI作成)

不正調査中の職場・研究室・サーバーの利用制限―決裁権限,緊急性と暫定措置の見直し(AI作成)

目次第1 調査の必要性と利用制限の相当性を分ける第2 暫定措置,懲戒処分及び対象者の身分1 危険を止める措置と制裁を区別する2 企業の社員と大学の教員・学生を分ける第3 長野地裁令和8年3月27日判決から分かること1 判決の対象と資料の範囲2 疑いが生じた後も反対資料を検討する3 委員会の開催と不利益措置の権限は別である4 停止の緊急性と学生への影響が検討された第4 決裁権限を措置ごとに確認する1 調査,利用停止,予算及び人事を一括しない2 システム操作ができることと決定権は違う第5 防ぐべき危険と緊急性を具体化する第6 部分制限,証拠保全及び代替手段1 問題のある操作だけを止められるか2 停止操作で証拠を消さない第7 期間,説明機会及び第三者への影響1 「調査終了まで」だけで長期化させない2 本人が何を説明すればよいかを示す3 学生,同僚及び取引先の不利益も調べる第8 業務の受入れ,賃金及び解除後の対応第9 相談・決定時に残す事項第10 関連記事と出典・確認範囲1 関連記事2 裁判例3 法令及び公的資料
第1 調査の必要性と利用制限の相当性を分ける

不正の疑いが生じたとき,職場への立入り,研究室の使用,サーバーへの接続又は予算の執行を一時的に制限することがある。しかし,調査する必要があることから,その人の全ての利用を止めてよいという結論は導かれない。何を守るために,誰が,どの権限を使い,どこまで,いつまで止めるのかを,措置ごとに確かめる必要がある。

長野地裁令和8年3月27日判決は,公立大学法人の教授が学部長兼情報システムセンター長当時に行った事務処理について,減給処分の有効性等を判断した事件である。不正を疑った当初の判断が不合理とはいえなくても,その後の説明や資料を踏まえない予算の保留,教育用サーバーの停止及び共同利用室の使用停止を主導したことが問題となった。

本記事は,令和8年10月3日現在の確認資料を基に,企業と大学の違いを踏まえて,調査中の利用制限を検討する順序を整理する。以下の範囲・期間・再評価等の確認方法は,判決及び公的資料を参考にした実務上の提案であり,全項目が判決の明示する一般的な法的要件という意味ではない。

第2 暫定措置,懲戒処分及び対象者の身分
1 危険を止める措置と制裁を区別する

暫定的な利用制限は,情報の外部流出,証拠の消失,不適正な支出又は関係者への働き掛け等を防ぐための措置である。これに対し,懲戒処分は,認定された企業秩序違反に対する制裁である。目的,根拠及び手続を分け,調査中の制限を既に有罪と判断したかのような説明にしないことが重要である。

労働契約法3条4項・5項は,契約の遵守,信義に従った権利行使及び義務履行並びに権利濫用の禁止を定める。懲戒であれば同法15条による審査が問題となる。施設やシステムを組織が所有・管理していること,あるいは「調査目的」と名付けたことだけで,対象者との契約関係や措置の相当性の検討を終えることはできない。

身体への危険や関係者への威迫が問題となる場合には,使用者の安全配慮も検討する必要がある(同法5条)。ただし,安全配慮という抽象的な説明だけで,全施設からの排除や無期限の停止を正当化することもできない。防ぐべき危険を具体化した上で,対応方法を選ぶことになる。

2 企業の社員と大学の教員・学生を分ける

企業では,雇用契約,就業規則,職務権限規程,施設利用規程及び情報セキュリティ規程を確認する。派遣社員,委託先又は外部研究者については,組織との契約関係や指揮命令の範囲も異なる。社員向けの規程を示すだけで全員について同じ権限があるとは限らない。

大学では,設置者,雇用主,教員の身分及び各委員会の権限を先に確かめる。長野事件は,公立大学法人と雇用契約を結んだ教授に関する事件であり,労働契約法15条により処分が審査されている。労働契約法は国家公務員・地方公務員には適用しないため(同法21条),「公立」の名称だけで公務員の懲戒制度と同じものとして説明すべきではない。

学生については,教員の雇用関係とは別に,学則,施設・設備の利用条件,学生の教育上の利益及び大学との関係を検討する。教員の行為を調査しているという理由だけで,その教員のゼミに所属する学生全員の不正や利用資格の喪失まで認定したことにはならない。

第3 長野地裁令和8年3月27日判決から分かること
1 判決の対象と資料の範囲

長野地裁令和8年3月27日判決(令和5年(ワ)第149号,給料等請求事件,判例秘書番号L08150326)は,教授に対する減給処分について,ゼミ費の配分保留,教育用サーバー停止,危機管理委員会の開催及び共同利用室の使用停止を主導した経緯等を検討し,給与及び損害賠償の請求を棄却した。

本記事では,判例秘書に掲載された判決本文の事実関係及び判断理由を用いる。上訴・確定の状況は確認できていない。また,この事件は,利用制限を受けた全ての学生等の個別請求を判断したものではない。調査措置全般を一律に違法又は適法と決める判決として扱わない。

2 疑いが生じた後も反対資料を検討する

学生サークルの納品書等から収益事業の疑いを持った当初の判断について,裁判所は不合理とはしなかった。他方,学生・顧問による費用支出の説明や,監事である公認会計士の指摘等を踏まえ,収益事業に当たらない可能性を慎重に検討すべきだったとした。

この判断を「学生の活動なら収益事業にならない」「少額なら問題はない」という税務の一般則に置き換えることはできない。実務上の示唆は,当初の疑いを固定せず,説明や新しい資料によって前提が変わったかを確認し,制限を続ける理由も更新する点にある。

3 委員会の開催と不利益措置の権限は別である

危機管理委員会の規程には,個別の調査・事実認定・不利益措置の権限がなかった。ただし,過去にも個別事案を扱っていたため,裁判所は開催したことだけを直ちに懲戒事由とはしていない。別の調査委員会による対応方針が示されていた中で,強引に取り上げさせ,使用停止を主導した経緯が問題となった。

委員会が議論したこと,委員長が対応を求めたこと,最終決裁者が承認したことを,それぞれ分けて記録すべきである。最終決定者が学長であることから,措置を主導した者の責任が当然に消えるわけでもない。

4 停止の緊急性と学生への影響が検討された

教育用サーバー内の対象写真は,大量の画像から特定語で検索する必要があるなどの事情があり,裁判所は,直ちに全体を停止すべき緊急性を認めなかった。学生の作品・論文等の膨大なデータが一定期間利用できなくなったことも重視した。データが消去・喪失したと認定した事件として説明してはならない。

また,ゼミ費の保留について,当時のメールが示した調査未了という理由と,訴訟での申請方法に関する説明との整合性が検討された。当時の通知,申請書及び決裁メールを残し,後から考えた理由を当初からの理由として記録し直さないことが重要である。

(続きを読む...)不正調査中の職場・研究室・サーバーの利用制限―決裁権限,緊急性と暫定措置の見直し(AI作成)

保険料調整制度の実務―対象事業所,申出期限,給与控除と事業主への還付(AI作成)

目次第1 社会保険加入の判定と保険料調整を分ける第2 対象事業所と申出期限1 制度の利用対象となる4類型2 任意適用と任意特定適用は異なる3 2年の期限と遡及できないこと第3 対象となる従業員と対象外の保険料1 短時間労働者で標準報酬月額12万6000円以下2 対象者全員への適用と除外第4 利用期間と給与控除の計算1 事業所単位の通算3年間2 軽減割合は保険料全額に対する割合である3 厚生年金の具体例第5 事業主の一時負担と3か月後の還付1 給与控除を減らし,追加負担分も納付する2 納付と還付の対応を記録する第6 申出方法,自動停止及び再開1 開始申出書を提出する2 申出期限内に対象者が0人となった場合3 申出期限後に対象者が0人となった場合第7 事業所が最初にそろえる資料第8 出典
第1 社会保険加入の判定と保険料調整を分ける

令和8年10月1日から,社会保険の適用拡大に伴う短時間労働者の負担を支援する保険料調整制度が始まった。
対象事業所が期限内に申し出ることで,一定の短時間労働者の健康保険・厚生年金保険料の本人負担が軽減される。
本記事は令和8年10月3日現在の日本年金機構の制度案内を基に,利用可否,給与控除,納付及び還付の実務を説明する。

短時間労働者の月額8万8000円の賃金要件が同日から原則として撤廃されたことと,この保険料調整制度を利用できることは別の問題である。
社会保険への加入要件を満たす者について,保険料調整を利用しないことを理由に資格取得の届出をしないという対応はできない。
加入関係の前提は,社会保険の加入・保険料・資格取得喪失と士業の適用を参照されたい。

第2 対象事業所と申出期限
1 制度の利用対象となる4類型

日本年金機構の対象事業所・申出期限の案内は,次の4類型を掲げている。
「従業員数」は,フルタイム及び4分の3基準を満たす厚生年金被保険者を基にした数であり,単純に全在籍者を数えるものではない。

① 令和8年10月1日から令和17年9月30日までの間に,新たに任意特定適用事業所となった事業所
② 令和9年10月以後の企業規模要件の段階的な引下げにより,新たに特定適用事業所となった事業所
③ 任意適用事業所である個人事業所が,令和9年10月1日から令和17年9月30日までの間に,従業員数51人以上となったことによって特定適用事業所となる場合
④ 令和17年10月1日以後,新たに任意適用事業所となった個人事業所

②の企業規模は,令和9年10月が36人以上,令和11年10月が21人以上,令和14年10月が11人以上となり,令和17年10月には企業規模要件が撤廃される。
施行前から既に短時間労働者が社会保険の加入対象になっている事業所,又は上記の類型に該当する前に従業員数が常時51人以上となった事業所については,対象外となる条件に注意する必要がある。
具体的な適用開始日及び経過措置は,届出履歴と機構の対象例を照合して確認する。

2 任意適用と任意特定適用は異なる

任意適用事業所とは,強制適用ではない事業所が,労使合意と認可により健康保険・厚生年金に加入する場合の事業所である。
これに対して任意特定適用は,既に社会保険の適用事業所となっている50人以下の企業等で,短時間労働者も加入対象とする取扱いであり,同じ手続ではない。

小規模な個人法律事務所についても,事務所の適用関係,通常の労働者の人数,短時間労働者への適用開始時期を順に確認する必要がある。
法律事務所であること,法人であること又は従業員が少ないことだけで,本制度の利用可否を決めることはできない。
弁護士及び法律事務所の加入区分については,弁護士の社会保険も参照されたい。

3 2年の期限と遡及できないこと

申出期限は,事業所が制度を利用できるようになった日から2年を経過した日が属する月の前月までである。
例えば令和8年10月1日から対象となった事業所については,令和10年9月30日が期限となる。
複数の対象類型に該当した場合には,最初に該当した条件が期限の基準となるため,後の類型への該当によって期限が当然に延びるとは扱わない。

制度の開始月は開始申出書が受け付けられた日の属する月であり,過去の月に遡って利用することはできない。

(続きを読む...)保険料調整制度の実務―対象事業所,申出期限,給与控除と事業主への還付(AI作成)

人事評価・能力等級の引下げと賃金減額―懲戒降格との違い,根拠規程と裁量審査(AI作成)

目次第1 賃金を下げる前に,何を変更するのかを分ける1 本記事の対象と結論2 四つの類型と賃金へのつながり第2 等級と給与を結び付ける根拠を確認する1 契約,等級規程,給与規程を一緒に読む2 制度の新設・改定と個別査定を分ける3 組合の同意と変更の合理性は別に検討する第3 低評価を裏付ける事実と手続を確認する1 評価結果から元の業務記録へ戻る2 説明・意見提出・再評価の機会を設ける3 再評価と改善指導を混同しない第4 野村総合研究所事件が示す評価降格の検討1 規程と評価の運用を合わせて判断した事案2 判決の時点と,当事者の主張に注意する第5 懲戒降格と減給制裁を評価降給から分ける1 処分名ではなく,措置の実質を見る2 減給額の上限と処分全体の相当性を分ける第6 決裁前・異議申出時にそろえる資料1 会社側が減額前に確認すること2 労働者側が争う点を具体化すること第7 関連記事・出典1 関連記事2 法令・行政資料・裁判例
第1 賃金を下げる前に,何を変更するのかを分ける
1 本記事の対象と結論

「評価が低いので給与を下げたい」「管理職を外れたので基本給も下がる」「降格に納得できない」という相談では,まず,評価,能力等級・職能資格,役職及び懲戒処分のうち,何が変更されたのかを特定する必要がある。

同じ「降格」という言葉でも,既存の評価制度に従って等級を下げること,部長等の役職を解くこと,非違行為の制裁として資格や役職を下げることでは,根拠と審査する事情が異なる。人事措置が有効であることと,その措置によって賃金の特定の項目を減額できることも,分けて検討する必要がある。

本記事の結論は,規程と契約を確認し,評価を裏付ける資料を検証した上で,変更される等級・職務と賃金との関係をたどることである。制度自体の不利益変更と,既存制度に基づく個別査定を混同せず,労働基準法91条の減給制裁の問題と,評価降給の問題も分ける。

調査基準日は令和8年10月3日である。本記事は,民間企業の労働契約を主な対象とする。地方公務員の降任・降給・懲戒は,地方公務員法や条例等による別の検討を要する。

2 四つの類型と賃金へのつながり

人事評価では,目標,成果,行動等についての評価結果を確認する。賃金との関係では,低評価を賞与や昇降給に反映する規程があるかを確認する。

能力等級・職能資格の引下げでは,資格・等級制度における位置付けの変更を確認する。賃金との関係では,引下げの権限・条件と等級別給与の定めが結び付くかを確認する。

役職の解任では,部長・課長等の職務,権限及び責任の変更を確認する。賃金との関係では,役職手当の支給要件と基本給の決め方を別に確認する。

懲戒降格では,非違行為に対する制裁としての資格・役職の変更を確認する。賃金との関係では,懲戒の種別・事由,処分の相当性及び減給制裁の実質を確認する。

これらは常に別々に行われるとは限らない。役職解任に等級引下げが伴う場合も,懲戒と人事上の措置が同じ時期に行われる場合もある。その場合でも,各措置の根拠と効果を一つずつ示すべきである。

例えば,役職手当が当該役職を担うことを支給要件としている場合と,基本給が役職とは別の職能資格によって決まる場合とでは,役職を外したときの給与への影響が違う。「役職を外す権限がある」という説明だけで基本給の引下げまで導くことはできない。名称ではなく,実際の職務と契約・規程の内容を確認することが出発点となる。

第2 等級と給与を結び付ける根拠を確認する
1 契約,等級規程,給与規程を一緒に読む

労働契約法7条は,合理的な労働条件を定めた就業規則を労働者に周知させていた場合に,その内容が労働契約の内容となることを定めている。個別に異なる労働条件を合意した部分についてのただし書もあるため,就業規則だけでなく,雇用契約書や採用時の条件を確認する必要がある。

同法8条は,「労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。」と定める。ただし,既存の契約上の制度に従って給与を決定する場面と,その制度や契約上の給与額を新たに変更する場面とを先に見分けなければならない。

等級を下げれば給与も下がると説明する場合は,少なくとも,①どの労働者にどの制度を適用するか,②どの条件で誰が等級を変更できるか,③変更後の等級から基本給・手当等をどう計算するか,④いつから適用するか,を確認する。等級規程に引下げの定めがあっても,給与規程との接続が明らかでなければ,予定する減額の根拠は別に検討する必要がある。

給与明細の支給総額だけを見ると,基本給の変更,役職手当の終了,賞与査定,欠勤控除等が混ざることがある。人事担当者は,各項目について変更前後の額,計算式及び根拠条項を一覧にし,決裁前に法務担当者と確認することが考えられる。

2 制度の新設・改定と個別査定を分ける

従来から年1回の評価で等級を見直し,その等級に対応する給与を支払う制度がある場合には,制度の拘束力と,今回の評価・等級決定がその制度に従っているかが問題となる。

これに対し,降格を予定していなかった制度に新たな引下げ条項を加える場合や,同じ等級でも基本給が低くなる給与表へ改める場合は,制度自体の変更による不利益を検討する必要がある。「査定」と呼んでいても,実際には給与制度を変更していれば,既存制度の運用として説明するだけでは足りない。

実務では,評価対象期間,評価基準の制定・改定日,周知日,等級決定日及び賃金への適用日を日付順に並べる方法が有用である。特定の社員の評価に合わせて後から基準を作ったのか,評価期間開始時に示された基準を適用したのかによって,説明すべき問題が変わる。複数の規程の版がある場合は,対象年度の規程を保存する。

3 組合の同意と変更の合理性は別に検討する

労働契約法9条は,合意のない就業規則による不利益変更を原則として禁止し,10条の場合を例外とする。10条による変更には,変更後の規則の周知と,労働者の不利益の程度,変更の必要性,内容の相当性,労組等との交渉状況その他の事情に照らした合理性が必要である。

労働基準法90条が定める過半数労組又は過半数代表者の意見聴取は,個々の労働者の同意とも,労働契約法10条の合理性判断とも異なる。意見書を添えて届け出たことだけで,不利益変更の効力まで確定するわけではない。

厚生労働省の労働契約法施行通達は,合理性を基礎付ける事実の主張立証責任を使用者側が負うと説明している。また,労組が同意していても,特定の層の労働者が大きな不利益を受けることや,経過措置・救済の有無を検討する必要があることを,関連する最高裁判例とともに示している。

会社が制度を改める場合は,全体の平均的な減額率だけでなく,対象層ごとの減額幅,続く期間,代償措置及び経過措置を確認すべきである。組合の同意書は交渉経過を示す資料の一つとなるが,その一枚で検討を終えない。

第3 低評価を裏付ける事実と手続を確認する

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開業弁護士・フリーランスの国民年金育児免除―対象月,届出と前納保険料の還付(AI作成)

目次第1 令和8年10月から利用できる育児免除第2 対象となる親と子1 第1号被保険者であること2 養子,里親及び同一住所の確認第3 免除される月を確認する1 産前産後免除のある実母2 実父,養父母及び産前産後免除のない実母3 令和8年10月より前に生まれた子第4 届出が必要な場合と不要な場合1 原則として該当後速やかに届け出る2 一部の実母は届出が不要である3 確認資料と外国籍・養子関係の添付第5 納付済み保険料,通常免除及び基金との関係1 前納又は納付済みでも届出の意味がある2 免除・猶予・学生納付特例の承認済み期間3 付加保険料と国民年金基金第6 途中終了と実務上の確認順序第7 出典
第1 令和8年10月から利用できる育児免除

令和8年10月1日から,1歳になるまでの子を養育する国民年金第1号被保険者について,国民年金保険料の育児免除が始まった。
開業弁護士,フリーランス,自営業者,学生又は無職の者であっても,第1号被保険者として要件を満たす場合は対象となる。
本記事は令和8年10月3日現在の日本年金機構の手続案内を基に,対象月,届出要否,納付済み保険料及び終了時の確認を説明する。

この制度には所得要件及び仕事を休業する要件がない。
保険料が免除された期間も,保険料を納付した期間として老齢基礎年金額に反映されるため,所得を理由とする通常の免除又は納付猶予とは効果が異なる。

第2 対象となる親と子
1 第1号被保険者であること

対象は20歳以上60歳未満の第1号被保険者である実父母・養父母等であり,子との親子関係及び同一住所の要件を満たす必要がある。
父母の双方が第1号被保険者であって要件を満たすときは,双方が免除を受けられる。
配偶者の所得が高いこと又は仕事を継続していることだけで対象外になる制度ではない。

勤務弁護士など厚生年金に加入する第2号被保険者には,産前産後休業・育児休業等期間の別の保険料免除制度がある。
第3号被保険者及び任意加入被保険者は,この国民年金育児免除の対象ではない。
開業・就職・退職等で資格が変わった場合は,職業名だけで判断せず,免除を受けようとする各月の加入区分を年金記録で確認する必要がある。

2 養子,里親及び同一住所の確認

法律上の実子及び養子のほか,特別養子縁組の監護期間にある子,養子縁組里親に委託されている子等も,機構の案内に掲げられる範囲で対象となる。
里親であることだけで全ての養育が対象になるわけではないため,委託の種類及び証明書を確認する。

制度の実体要件は子と同一住所であることである。
後記の届出不要の取扱いでは,機構がマイナンバーによる情報連携で親子関係及び同一世帯を確認できることが必要であり,実体要件と自動確認の条件を分けて考える必要がある。

第3 免除される月を確認する
1 産前産後免除のある実母

産前産後免除期間を有する実母については,その期間に引き続く9か月間が育児免除期間となる。
ただし,この制度による免除は令和8年10月以後の月分に限られる。

日本年金機構は,出産予定日が令和9年5月1日の例について,育児免除を同年8月から令和10年4月までとしている。
実母の対象月を確認する際は,子の誕生日だけで機械的に12か月を数えず,産前産後免除の対象期間及び通知内容を確認する必要がある。

2 実父,養父母及び産前産後免除のない実母

実父,養父母及び産前産後免除期間を有しない実母については,子を養育することとなった月から,1歳の誕生日の前月までの最大12か月間が対象となる。
途中から養育を始めた場合は出生月から当然に免除されるのではなく,養育開始日を確認する。

日本年金機構は,出産日が令和9年5月1日の例について,同年5月から令和10年4月までとしている。

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懲戒解雇と退職金全額不支給の手続―弁明機会・決裁・通知到達と接見禁止中の対応(AI作成)

目次第1 懲戒事由が明白でも,処分前に分けて確認する事項1 懲戒解雇,退職金及び解雇予告は別の問題である2 最初に確保する資料と担当者第2 規程の根拠と社内手続を確認する1 懲戒規定の事前整備と周知2 委員会,労働組合及び決裁権者3 処分時に認定する理由を特定する第3 本人が実際に利用できる弁明の機会を設ける1 弁明条項がある場合と,ない場合2 質問事項,回答方法及び期限3 回答がない場合の評価第4 接見禁止付きで勾留されている社員への対応1 禁止決定の内容と施設の取扱い2 刑事弁護人と会社側弁護士の役割3 勾留中の弁明を扱った裁判例の射程第5 退職金全額不支給の判断と決裁を明確にする1 不支給条項と功労抹消の程度2 別の評価を残すことと,別決議が必須であることは異なる3 退職後に発覚した非違行為と不支給条項4 支給済み退職金の返還は別に検討する5 退職後発覚・返還を明記した条項の類型別判断第6 解雇予告と解雇通知の到達を確認する1 懲戒解雇でも解雇予告が原則必要である2 施設の受領と本人への到達を混同しない3 接見禁止中の通知を扱う裁判例の確認範囲第7 支払,証明書及び処分記録を仕上げる1 退職金の支払時期と争いのない金額2 通知書と証明書を区別して保存する第8 関連記事第9 出典・参考資料1 法令及び行政資料2 裁判例と確認範囲3 引用した判決の上訴経過と未確認部分4 追加調査の出典
第1 懲戒事由が明白でも,処分前に分けて確認する事項
1 懲戒解雇,退職金及び解雇予告は別の問題である

懲戒解雇事由に明らかに該当する社員であっても,社内の手続を省略し,退職金を当然に全額不支給としてよいとは限らない。
人事・法務担当者は,①懲戒の根拠と処分の相当性,②本人の弁明と社内決裁,③退職金の不支給・減額,④解雇予告又は予告手当,⑤解雇通知の到達を分けて確認する必要がある。

労働契約法15条は懲戒権の濫用,同法16条は解雇権の濫用を規制する。
非違行為の存在が明白であることと,その社員に対する懲戒解雇や長年の勤続に対応する退職金の全額不支給が相当であることは,同じ判断ではない。
本記事は,令和8年10月3日現在の法令及び確認した判決本文を基に,会社側の手続上の留意点を説明するものである。

2 最初に確保する資料と担当者

人事担当者は,行為時・処分時の就業規則,退職金規程,懲戒委員会規程,労働協約,雇用契約書及び各規程の周知資料を確保する。
調査担当者は,認定する行為,日時,関係者,証拠,争いのある点を一覧にし,法務担当者は適用条項,決裁権者,弁明方法,解雇予告及び通知方法を確認するという分担が考えられる。

勾留中であれば,現在の収容先,移送・釈放の可能性,刑事弁護人との適法な連絡経路及び接見等禁止決定の具体的な範囲も確認する。
逮捕情報だけを根拠とする処分や,連絡不能を本人の自認とみなす処理は避ける。

第2 規程の根拠と社内手続を確認する
1 懲戒規定の事前整備と周知

最高裁判所第二小法廷平成15年10月10日判決(フジ興産事件)(平成13年(受)第1709号)は,懲戒の種別・事由の事前の定めと,就業規則の周知を必要とした(判決理由4,2頁)。
労働基準監督署への届出を済ませたことだけで,社員への周知が確認されたことにはならない。

適用対象,施行日,改定履歴,閲覧・交付の実態を確認し,問題行為の後に新設した懲戒条項を当然に適用しない。
退職金規程が就業規則と別冊になっている場合も,不支給条項の内容と周知を確認する。

2 委員会,労働組合及び決裁権者

自社の規程・労働協約が定める委員構成,利害関係者の除外,定足数,弁明,補助者,組合との協議又は同意,決裁権者を確認する。
これらが全企業に一律に法律上要求されるわけではないが,自社に適用される手続を,行為が明白であることだけを理由に省略しない。

東京地方裁判所平成17年1月31日判決(平成15年(ワ)第20194号)は,当該規程に合議の形式の定めがなかったことを踏まえ,電話や持回りによる意思決定も許されるとした(第3の3(2)エ,7頁)。
この判断から,委員会が必要な会社でも常に委員会を省略できる,又は全ての会社で持回り決裁が可能であるとはいえない。

3 処分時に認定する理由を特定する

最高裁判所第一小法廷平成8年9月26日判決(山口観光事件)(平成8年(オ)第752号)は,処分当時に使用者が認識していなかった非違行為について,特段の事情がない限り,その懲戒を根拠付ける理由にできないとした(1頁)。
調査報告,委員会資料,決裁書及び通知書において,対象行為と適用条項を対応させ,後から別の行為を付け足せば当初の処分が有効になるという前提で進めない。

第3 本人が実際に利用できる弁明の機会を設ける
1 弁明条項がある場合と,ない場合

就業規則等に弁明の機会を与える定めがあれば,その内容に従って実施する。

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会社備品を盗んで転売した社員への対応―証拠保全,懲戒解雇と預金仮差押えを並行して進める方法(AI作成)

目次第1 最初に分けるべき3つの判断1 逮捕と,会社が証明できる行為を分ける2 懲戒,損害賠償及び仮差押えを別々に検討する第2 発覚直後に確保する証拠と被害品の台帳1 会社所有と持出し・転売の対応を確認する2 原資料を残し,調査権限の限界を守る第3 懲戒解雇の根拠,手続及び重さを確認する1 行為時の就業規則と周知を確認する2 拘禁中でも,可能な弁明方法を検討する第4 解雇予告除外認定と本人への通知1 懲戒解雇でも解雇予告の問題は残る2 通知の到達と未払賃金を別に管理する第5 品物ごとの損害額と回収済み部分を整理する1 帳簿価額,転売代金及び新品価格を混同しない2 返還,弁償及び保険金の二重回収を避ける第6 預金仮差押えの申立てを準備する1 請求権と保全の必要性を疎明する2 銀行,取扱店舗及び対象債権を特定する3 申立先と提出資料を確認する第7 発令後の送達,本訴及び回収1 銀行への送達と2つの期間を混同しない2 仮差押えは回収完了ではない3 刑事手続中の被害弁償と示談第8 出典・確認範囲1 法令2 公的資料
第1 最初に分けるべき3つの判断
1 逮捕と,会社が証明できる行為を分ける

会社の工場から備品が繰り返し持ち出され,転売の疑いで社員が逮捕された場合,会社は,証拠保全,雇用上の処分及び損害回収を並行して検討することになる。
しかし,逮捕の事実だけで,その社員が全ての在庫不足を生じさせたこと,懲戒解雇が有効であること,又は預金の仮差押えが認められることまで決まるわけではない。
本記事は,令和8年10月3日時点の法令と公的資料に基づき,会社が確認すべき事実と手続を一般向けに整理するものである。

2 懲戒,損害賠償及び仮差押えを別々に検討する

懲戒解雇では,就業規則上の根拠,周知,処分対象行為の証拠,処分の重さ及び所定の手続を確認する。
損害賠償では,本人の行為,会社の権利侵害,故意・過失,品物ごとの損害額及び因果関係を確認する。
仮差押えでは,その賠償請求権に加え,将来の強制執行ができなくなり,又は著しく困難になるおそれと,差し押さえる預金債権の特定が必要となる。

会社が民法709条に基づく損害賠償請求権を有する場合,その保全を検討するために,懲戒解雇の完了を待つ必要はない。
資産処分の危険が具体的であれば,処分の検討や本人の弁明の確認と並行して,証拠のそろった範囲で保全申立てを準備することが考えられる。

第2 発覚直後に確保する証拠と被害品の台帳
1 会社所有と持出し・転売の対応を確認する

被害品の品名,型番,製造番号,取得日,保管場所,管理担当者,最終確認日及び不足が判明した日を記録する。
購入資料,固定資産台帳,棚卸記録,写真,入退室記録,防犯カメラ映像,持出し承認及び廃棄・払下げの記録を突き合わせ,会社の物であることと,無断で持ち出されたことを分けて確認する。
古い備品であっても,帳簿価額が零であることだけで会社所有ではなくなったり,損害が零になったりするわけではない。

転売先の取引記録と会社の備品を結び付けるには,製造番号,特徴,数量,売却日及び持込み人物等の対応が重要である。
在庫不足の総額を,逮捕された社員1人の被害額として直ちに扱うべきではない。
他の持出し,記帳漏れ,正規の廃棄・譲渡等の可能性も確認し,本人の行為と結び付く品物を特定する。

原材料や薬品については,倉庫から担当者への払出しと,機台・工程への実投入を区別する。
払出し時点で使用済みと記帳している場合,帳簿と倉庫在庫が合っていても,その後の持出しを把握できない可能性があるが,実際の記帳方法と担当者の説明による確認が必要である。
長期間発覚しなかったというだけで,大量購入していたはずと説明する必要が常にあるわけではない。

会社が提供できる購入・実在庫・工程投入・回収・製品検査の資料と,その依頼理由は,工場の原材料が長期間盗まれていたときの被害立証―購入・在庫・工程使用量・売却記録から数量と損害額を組み立てる(AI作成)で整理している。
社外の買取台帳や本人の口座明細が会社にあるとは限らないため,会社保有資料の依頼と,社外資料の取得手続を分ける。

2 原資料を残し,調査権限の限界を守る

防犯カメラは自動上書きの期限を確認し,必要な期間の原映像と日時設定を保全する。
ログやメールも取得者,取得日時,取得元及び複製の方法を記録し,調査用のコピーと原資料を区別する。
私物端末や個人アカウントについて,会社が当然に強制調査できると考えてはならない。

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会社の破産と解雇予告手当―財団債権か優先的破産債権か,東京地裁・大阪地裁の運用と申立前の支払(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 解雇予告手当の基本1 労働基準法20条2 予告なしに解雇した場合の効力3 付加金第3 破産手続での位置づけ1 関係する条文2 二つの考え方3 全国の運用第4 東京地方裁判所の運用第5 大阪地方裁判所の運用第6 破産手続開始後に解雇した場合第7 申立前に支払う場合1 未払賃金立替払制度の対象にならない2 滞納税金がある場合3 付加金の危険を避ける意味4 東京地裁平成26年判決が示す限界第8 実務で確認する事項第9 関連記事第10 出典1 法令2 裁判例3 文献第11 確認状態
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,会社が破産するに当たって従業員を解雇する場合に,解雇予告手当が破産手続でどう扱われるか,破産手続開始の申立ての前に支払ってよいかを整理する。
法令は,判例秘書の現行法令アーカイブ(令和8年8月1日現在の法令データ)で条文を確認し,最高裁判所の判決は裁判所ウェブサイトで確認した。
裁判所ごとの運用は,裁判官等が執筆した実務書の原本で確認した。
東京地方裁判所の運用は『破産管財の手引〔第2版〕』(平成27年)で確認しており,その後の版は確認していない。

2 結論

①予告期間を置かず予告手当も支払わない解雇は,即時解雇としては効力を生じないが,使用者が即時解雇に固執する趣旨でない限り,通知後30日を経過するか予告手当を支払った時に効力を生ずる(最高裁昭和35年3月11日判決)。
②破産手続開始前に解雇した従業員の解雇予告手当が,財団債権となる「給料」(破産法149条1項)に当たるか,優先的破産債権となる「雇用関係に基づいて生じた債権」(民法308条)にとどまるかは争いがあり,裁判所ごとに運用が分かれている。
③東京地方裁判所は,破産管財人が「給料」に当たるとして財団債権の承認許可を申し立てれば,これを適法なものと認める運用をしている。
④大阪地方裁判所は,解雇予告手当は「給料」に当たらないとしつつ,破産法101条1項(労働債権の弁済許可)を類推適用して,配当手続によらずに弁済できるとしている。
⑤破産手続開始後に破産管財人が解雇した場合の解雇予告手当は,財団債権(破産法148条1項8号)となる。
⑥解雇予告手当は未払賃金立替払制度の対象にならない。
そのため,申立前に労働債権の一部しか支払えない場合には,解雇予告手当から支払うことが望ましいとする実務書がある。
⑦滞納公租公課が残る場合でも解雇予告手当の先行支払に不当性・有害性がないとする実務上の考え方はあるが,無条件の安全港ではない。労働者性,支払根拠・適正額,財団充足見込み及び判断資料を支払前に確認する必要がある。

第2 解雇予告手当の基本
1 労働基準法20条

労働基準法20条1項は,「使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。」と定めている。
ただし書は,天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合又は労働者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇する場合を除外している。
会社の資金繰りが行き詰まって破産を申し立てる場合は,通常この例外には当たらないと考えられるため,即時に解雇するなら解雇予告手当の支払が問題になる。

2 予告なしに解雇した場合の効力

最高裁判所第二小法廷昭和35年3月11日判決(昭和30年(オ)第93号,民集14巻3号403頁)は,使用者が予告期間を置かず,予告手当の支払もしないで解雇の通知をした場合,その通知は即時解雇としては効力を生じないが,使用者が即時解雇を固執する趣旨でない限り,通知後30日の期間を経過するか,又は予告手当の支払をしたときに解雇の効力を生ずるとした。
破産を申し立てる状況では,従業員は解雇の効力を争わず,解雇予告手当を請求するのが通常であるとされている(『破産管財の手引〔第2版〕』210頁)。

3 付加金

労働基準法114条は,裁判所が,同法20条等に違反した使用者に対し,労働者の請求により,未払金のほかこれと同一額の付加金の支払を命ずることができ,この請求は違反のあった時から5年以内にしなければならないと定めている。
前記の最高裁判所昭和35年3月11日判決は,付加金の支払義務は労働者の請求により裁判所が支払を命ずることによって初めて発生するものであるから,使用者が予告手当に相当する金額の支払を完了した後は,労働者は付加金の請求をすることができないとした。

第3 破産手続での位置づけ
1 関係する条文

破産法149条1項は,「破産手続開始前三月間の破産者の使用人の給料の請求権は、財団債権とする。」と定めている。

(続きを読む...)会社の破産と解雇予告手当―財団債権か優先的破産債権か,東京地裁・大阪地裁の運用と申立前の支払(AI作成)

国税職員の身上把握とは―国税庁の手引書「的確な身上把握のために」(平成26年7月)と大阪国税局の事務運営指針(令和元年7月31日)(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 対象とする2つの資料2 結論第2 身上把握の根拠と目的1 手引書が挙げる根拠2 手引書が引く政府答弁書は警察職員に関するもの3 身上把握の目的第3 「身上」の範囲と種類1 範囲は私生活と心身の両面に及ぶ2 身上の種類第4 身上把握の方法1 方法の全体像と前提となる信頼関係2 個別面談3 家計の状況の聴取4 他の職員からの情報収集5 動向把握(観察)の着眼点第5 大阪国税局の事務運営指針(令和元年7月31日)1 基本的な考え方2 対象者と実施者3 時期と方法4 場所,意識の醸成,留意事項及び情報の管理5 手引書との対応関係第6 情報の取扱い,引継ぎ及び監督責任1 報告と自ら調査をしないこと2 情報の引継ぎと引受け3 監督責任第7 プライバシーとの関係1 手引書が示す限界2 手引書が挙げる裁判例3 現在の法令から見た留意点第8 実務上の意味1 国税職員やその家族から相談を受けたとき2 民間企業の人事管理への応用と限界3 情報公開請求で得られる資料第9 関連記事第10 本記事で扱わない事項第11 出典1 本記事で読んだ資料2 法令3 公的資料4 裁判例
第1 本記事の対象と結論
1 対象とする2つの資料

本記事は,国税庁及び国税局が「身上把握」と呼んでいる職員の人事管理の仕組みについて,次の2つの資料を読んで整理するものである。
基準日は令和8年10月1日である。

①国税庁長官官房人事課・監察官室「的確な身上把握のために」(平成26年7月)
②大阪国税局長「職員の身上の的確な把握について(事務運営指針)」(令和元年7月31日付け大局総人二(服)第255号)

①は,表紙,はじめに,目次,本文23頁及び参考文献から成る全27頁の冊子であり,管理者に対する研修の資料として作られたものである(はじめに)。
②は,大阪国税局の各部長及び各税務署長に宛てた全2頁の事務運営指針である。
いずれも当ブログに掲載しているPDFであり,表紙等に,①は「共通(研修関係)」「各種手引書(正本)」,②は「共通(法令・通達)」「事務運営指針及び事務運営指針関係書類(正本)」という行政文書の分類が記載されている。
以下,①を「手引書」,②を「大阪国税局指針」と呼び,手引書の頁は冊子に印字された頁で示す。

2 結論

結論は次のとおりである。
①国税組織では,身上把握は上司である管理者の「当然の職務」とされ,非行防止だけでなく,職員の能力や適性に応じた配置及び業務配分にも使う人事管理の手段と位置付けられている。
②把握の対象は,勤務時間外の私生活と心身の状態にまで及び,特に家計の状況(借財)は,重大な職務関連非行を防ぐために積極的に聴き取るべき事項とされている。
③大阪国税局指針は,人事評価の評価者等が,定期人事異動後と身上申告書の提出時期の年2回,非常勤職員を除く全職員と個室等で個別面談をするよう定めている。
④他方で,人種・本籍・思想・信条等のいわゆるセンシティブ情報は,特段の事由がない限り聴き取らず,把握した情報は厳格に管理することとされている。
⑤部下職員の非行の兆候を知った管理者は,自ら調査をせず,直ちに上司等へ報告すべきものとされ,報告を怠ったり身上把握が不十分であったりした管理者自身も,監督責任を問われ得る。

第2 身上把握の根拠と目的
1 手引書が挙げる根拠

手引書は,身上把握を直接定めた法律は無いとした上で,国家行政組織法10条を根拠に挙げる(1頁)。
手引書は,同条を「各省大臣,各委員会及び各庁の長官は,その機関の事務を統括し,職員の服務について,これを統督する。」と引用している。
もっとも,法務省の日本法令外国語訳データベースに収録された同条の日本語本文は「各省大臣、各委員会の委員長及び各庁の長官は、その機関の事務を統括し、職員の服務について、これを統督する。」であり,手引書の引用には「の委員長」が欠けている。
国税庁では,国税庁長官が国税組織全体の職員の服務を統督し,実際の運用では,各階層の管理・監督の地位にある者がこれに当たるという説明である。
その上で,手引書は,部下職員の服務を監督することは管理者の当然の職務であり,その手段の一つとして身上把握が行われていると述べる。

手引書は,「服務」の意味について,日本人事行政研究所編『服務・勤務時間・休暇関係質疑応答集(第8次改訂版)』3頁の説明を引いている。
それによれば,服務とは,組織の秩序を維持し,その目的を統一的・能率的に達成するために組織の構成員に求められる規律であり,必要に応じて勤務時間外,職場外で守るべきものまで含むとされている。

2 手引書が引く政府答弁書は警察職員に関するもの

手引書は,身上把握が「職員の指導監督上,必要な人事管理」の一環として行われることの出典として,平成19年の2つの政府答弁書を挙げている(2頁の注2)。
しかし,衆議院ウェブサイトで原文を確認すると,これらは,鉢呂吉雄衆議院議員が提出した「警察職員の不祥事に関する質問主意書」及び同再質問主意書に対する答弁書であった。

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大学教員の有期雇用と無期転換―大学教員任期法の10年特例と最高裁令和6年10月31日判決(AI作成)

目次
第1 結論とこの記事の対象

1 結論
2 最高裁令和6年10月31日判決の位置付け

第2 無期転換の原則と大学教員任期法の特例

1 労働契約法18条の5年ルール
2 大学教員任期法7条の10年特例
3 大学教員であれば一律に10年ではない

第3 最高裁令和6年10月31日判決の事案

1 採用及び契約更新の経過
2 原審の判断
3 最高裁の判断

第4 判決の射程と誤解しやすい点

1 実務家教員なら必ず10年となるわけではない
2 10年特例と雇止めは別問題である
3 5年を超えた後の申込みが常に無効とは限らない

第5 大学側の実務対応

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トランスジェンダー職員の職場トイレ利用―最高裁令和5年7月11日判決と使用者の対応(AI作成)

目次

第1 本判決の位置付け第2 事案と最高裁の結論第3 最高裁が重視した具体的事情第4 民間企業で判決を使うときの注意第5 使用者側の対応手順第6 記録に残す事項第7 ハラスメントとプライバシー第8 判決の射程を超えないための注意第9 出典と確認範囲

トランスジェンダー職員から,性自認に沿った職場トイレの利用を希望されたとき,使用者は「戸籍」「手術の有無」「他の職員が不安に思うかもしれない」といった一つの事情だけで結論を固定すべきではありません。最高裁令和5年7月11日第三小法廷判決は,国家公務員についての人事院判定を違法とした事例判決ですが,具体的な支障と本人の不利益を調査し,暫定措置を定期的に見直すという実務上の考え方を示しています。

第1 本判決の位置付け

最高裁令和5年7月11日第三小法廷判決(令和3年(行ヒ)第285号)は,一般職の国家公務員が国家公務員法86条に基づいてした行政措置要求について,人事院の判定のうち職場トイレの利用に関する部分を取り消した判決です。

したがって,この判決は,民間企業に対し,性自認に沿ったトイレ利用をあらゆる場合に無条件で認めることを直接命じたものではありません。他方で,抽象的な不安だけを重く見て本人の具体的な不利益を長期間固定することの危険は,民間企業の人事労務対応でも重要な示唆になります。

第2 事案と最高裁の結論

上告人は,性同一性障害である旨の医師の診断を受け,女性ホルモンの投与等を受けていましたが,健康上の理由から性別適合手術を受けていませんでした。経済産業省は,上告人が執務する階とその上下の階の女性トイレの利用を認めず,それ以外の階の女性トイレの利用を認める取扱いをしました。

最高裁は,人事院の判定には裁量があるとしつつ,本件の具体的事情を踏まえないまま他の職員への配慮を過度に重視し,上告人の不利益を不当に軽視したとして,裁量権の範囲を逸脱・濫用した違法があると判断しました。

第3 最高裁が重視した具体的事情

本人の日常的な不利益:自認する性別と異なる男性用トイレを使うか,執務階から離れた女性トイレ等を使わざるを得ず,相応の不利益が続いていました。
実際のトラブルの有無:説明会後,女性の服装等で勤務し,離れた階の女性トイレを使用しても,トラブルは生じていませんでした。
他の職員の意思の確認:説明会では,数名が違和感を抱いているように見えたにとどまり,明確に反対した職員がいたとは認められませんでした。
再調査と見直し:説明会から人事院判定まで約4年10か月,特段の配慮を要する他の職員がいるかを改めて調査し,取扱いの見直しを検討した形跡がありませんでした。
具体的危険の評価:医師の診断,勤務状況及び利用実績に照らし,判定時にトラブルが生ずることは想定し難い状態でした。

要点は,利益衡量を感覚的・抽象的に行わず,その時点の客観的事実で行うことです。導入時に暫定的な制限が必要であったとしても,時間の経過と実績に応じて見直す必要があります。

第4 民間企業で判決を使うときの注意

民間企業では,雇用契約,就業規則,施設管理,安全配慮,ハラスメント防止及びプライバシー保護の観点から対応を検討します。本判決の直接の審査対象は人事院判定であり,民間企業の個別措置の有効性を一律に決めたものではありません。

そのため,「最高裁判決があるから直ちに全面利用を認める」又は「戸籍上の性別が変わるまで一切認めない」という二者択一を避け,職場の設備,利用人数,個室化の状況,勤務場所,本人の希望,他の利用者に具体的な配慮を要する事情があるか,代替措置による負担及び見直し時期を個別に確認します。

第5 使用者側の対応手順

本人の希望を確認する:希望する利用方法,避けたい開示範囲,通称名・服装・更衣室等の関連事項を,本人の同意を得て必要最小限の担当者で確認します。
事実と推測を分ける:実際に生じた支障,設備上の制約,具体的な申出と,「問題が起きるかもしれない」という推測を区別します。

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年休・産前産後休業等を稼働率に算入する賃上げ条項の効力―最高裁平成元年12月22日判決(AI作成)

目次

第1 判決の結論
第2 事案と80%条項
第3 制度目的の合理性と権利行使の抑制を分ける
第4 対象となった休暇・休業等
第5 一部無効と残部の効力
第6 不利益は一年度で終わらないことがある
第7 就業規則・労働協約の点検方法
第8 現在の実務での使い方
第9 関連する山中弁護士ブログ記事
第10 参考資料

年間稼働率が80%以下の従業員を翌年度の賃上げ対象から除外する条項について、法が保障する休暇・休業等を欠勤として算入する部分の効力を判断した最高裁平成元年12月22日第二小法廷判決を基に、制度設計と訴訟実務の要点を整理する。

第1 判決の結論

最高裁平成元年12月22日第二小法廷判決(昭和59年(オ)第303号)は、年間稼働率80%以下の従業員を翌年度の賃上げ対象から除外する条項について、年次有給休暇、生理休暇、産前産後休業、育児時間、業務上災害による休業及び正当な争議行為等を欠勤として算入する部分は、公序に反し無効であるとした。

他方、稼働率制度全体を当然に無効とはせず、無効部分を除いた残部は、当事者の合理的意思に反しない限り有効であるとした。その上で、各労働者の稼働率と賃金額を再計算させるため原判決を破棄し、事件を差し戻した。

第2 事案と80%条項

会社と労働組合の間では、一定期間の稼働率が80%以下の従業員について翌年度の賃上げを行わない旨の取扱いが定められていた。稼働率の計算では、現実に勤務しなかった日を広く欠勤として扱い、法令上保障された休暇・休業や正当な組合活動に伴う不就労も算入されていた。

争点は、稼働率という勤務実績を賃上げ条件に用いること自体が許されるかだけではない。どの不就労原因を同じ「欠勤」として扱うか、その結果として法定権利の行使を抑制する効果が生じるか、違法部分を除いた残部を維持できるかが中心となった。

第3 制度目的の合理性と権利行使の抑制を分ける
1 稼働率基準に一定の合理性があり得る

最高裁は、従業員の出勤率又は勤務実績を賃上げの条件とする制度について、企業の経済的観点から一定の合理性を有する場合があることを否定していない。したがって、稼働率を用いたという一事だけで制度全体を無効とする判決ではない。

2 保護された休暇等を一律に不利益算入できない

しかし、法律が労働者に保障する休暇・休業等を取得した日を欠勤として算入し、その結果として翌年度の賃上げ対象から外すことは、権利行使に大きな経済的不利益を結び付ける。権利を形式上残しても、行使すれば継続的な賃金差が生じるなら、その行使を抑制し、法の趣旨を実質的に失わせるおそれがある。

第4 対象となった休暇・休業等

本判決が問題としたのは、年次有給休暇、生理休暇、産前産後休業、育児時間、業務上災害による休業及び正当な争議行為等である。

これらは根拠法、要件、賃金支払の有無及び保護目的が同一ではない。実務では、「勤務しなかった日」という一つの列にまとめず、休暇・休業・休職・遅刻早退・争議行為等を根拠別に分類し、それぞれについて不利益取扱いを禁ずる法令、制度目的及び裁判例を確認する。

第5 一部無効と残部の効力

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不当労働行為救済申立書の作り方―団交拒否・賞与差別・組合施設利用の請求趣旨と証拠(AI作成)

目次第1 救済申立てで最初に決めること第2 不当労働行為の類型を事実に結び付ける第3 請求する救済の内容の書き方第4 申立書の事実欄は時系列で書く第5 証拠説明書と立証趣旨第6 賞与差別における金銭救済第7 組合ニュースの回収と掲示板停止第8 申立て前後の実務上の確認第9 申立書作成のチェックリスト第10 関連記事第11 出典・参考資料

不当労働行為の救済申立てでは,「会社の対応が不当だった」という評価だけでは足りない。使用者のどの行為について,労働組合法7条のどの類型を主張し,何を命じてもらうのかを分ける必要がある。団交拒否,賞与の不支給,組合ニュースの回収及び組合掲示板の停止を例に,申立書と証拠説明書の組み立て方を整理する。

以下の請求文言は事案に応じた検討例であり,そのまま提出できる定型文ではない。事実,申立先の運用及び求める救済の必要性を確認して調整する。

第1 救済申立てで最初に決めること

救済申立ては,使用者による不当労働行為について,労働者又は労働組合が管轄の労働委員会に申立書を提出する手続である。中央労働委員会の案内によれば,原則として不当労働行為があった日から1年以内に申し立てる。管轄は,申立人の住所・主たる事務所,被申立人の主たる事務所,又は行為地などを手掛かりに確認する。複数の行為があるときは各行為の日付を特定し,期間の判断を先送りしない。

大阪府労働委員会の申立書記載例は,「請求する救済の内容」を具体的かつ簡潔な箇条書きにし,その後に当事者,背景,具体的事実を時系列で記載する構成を示す。組合が申立人となるときは,労働組合法上の手続に必要な組合資格審査の資料も確認する。様式,提出部数及び提出方法は管轄委員会の最新案内に合わせる。

第2 不当労働行為の類型を事実に結び付ける

労働組合法7条1号は組合員であることなどを理由とする不利益取扱い,同条2号は正当な理由のない団体交渉拒否,同条3号は組合の運営等に対する支配介入を問題にする。同じ経過から複数の類型を主張するときも,それぞれについて「行為・理由又は効果・証拠・必要な救済」を対応させる。

例えば,賞与交渉の申入れに別制度への同意を条件として応じない行為は2号,非組合員には賞与を支給し組合員に支給しない行為は1号と3号,組合掲示板の利用を停止して組合の情報伝達を妨げる行為は3号の問題として整理する。ただし,申立書には結論だけでなく,要求の内容,会社回答,支給又は停止の対象と時期,会社が示した理由及び組合活動への影響を書く。

ストライキを指揮した組合役員への懲戒処分を1号・3号で争うときは,そのストライキが「労働組合の正当な行為」であることを,主体,目的,手続及び態様に分けて主張する。事前の予告に関する取決めに反したといった手続上の問題があれば,取決めの目的,使用者がストライキを予測できたか及び違反による具体的な影響に当たる事実を挙げ,ピケッティングがあれば,説得の範囲にとどまり入構や操業を妨げなかったことを具体的に書く。懲戒処分の当否を労働契約法15条の懲戒権濫用の問題としてだけ論じると,7条1号の要件との対応が不明確になる。

現場監督者等の職制の発言を支配介入として主張するときは,その者が使用者の利益代表者に近接する職制上の地位にあり,使用者の意を体して発言したことを書く。最高裁平成18年12月8日判決(JR東海事件)は,このような場合には使用者との具体的な意思の連絡がなくても使用者の不当労働行為と評価できるとした。もっとも,令和7年司法試験の採点実感(労働法)は,職制が使用者のように振る舞ったというだけで帰責するのではなく,前提として使用者に反組合的意図ないし組合嫌悪をうかがわせる行為があり,その思いを汲み取った行為と評価できる実態が必要であることを指摘している。申立書には,発言の内容・日時・聴衆に加え,同じ時期の懲戒処分や特定の従業員への金員の支給など,会社自身の反組合的な言動を並べる。

第3 請求する救済の内容の書き方

請求趣旨は,後に主文として履行できる程度に対象と行為を特定する。事案と立証に応じて,次のように分けて検討する。

①団交拒否については,議題を特定し,資料提示や理由説明を含む誠実な団体交渉を求める。単に特定の労働協約の締結を命じるよう求めることとは区別する。最高裁令和4年3月18日判決(山形大学事件)は,合意の見込みがないことだけを理由に誠実団交命令を排斥しない。

②賞与差別については,対象者,対象期間,算定基礎,既払額を明らかにして金銭救済を求める。交渉未妥結で最終額を確定できない場合は,現に生じた不利益を埋める仮支給と妥結後の精算を検討する。確定的な差額支払を求めるなら,不当労働行為がなかった場合の額と個々の対象者への適用を証拠で説明する。

③施設利用については,協約・許可に基づく掲示板利用の回復,現に保管されている回収物の返還,又は過度の回収・利用停止を繰り返さないことを,確認できた事実に応じて求める。回収物の所在や返還の有無を未確認のまま,現物返還を当然の前提にしない。

④必要性があれば,違法行為を繰り返さない旨の文書交付・掲示も検討する。どの媒体に,誰へ,どの内容を示すかは,認定を求める行為との対応が必要である。

⑤懲戒処分の救済は,処分の撤回(処分がなかったものとしての取扱い)と文書の交付・掲示を求めるのが基本である。懲戒処分の無効確認,受け取った者からの金員の返還,既にされた支給の差止めといった民事訴訟と混同した内容や実現の可能性に乏しい内容は,令和7年司法試験の採点実感(労働法)でも不適切な例として挙げられている。

⑥金銭の支払を求める場合は,救済命令が不当労働行為による被害の救済としての性質を持つものでなければならないこと(最高裁昭和52年2月23日大法廷判決,第二鳩タクシー事件)を踏まえ,支払が認められない場合に備えて,同種の行為をしてはならない旨の命令や文書の掲示を併せて求めることを検討する。ストライキの代替勤務に就いた従業員だけに慰労金を支給した事案では,組合員への同額の支払を命じた労働委員会命令と,今後の同種の支給を禁じる命令にとどめた命令があり,ストライキ不参加者への慰労金・弁当代は不当労働行為か―支配介入・不利益取扱い,救済命令の限界及び給与課税で整理している。

第4 申立書の事実欄は時系列で書く

大阪府労働委員会の記載例は,「いつ,どこで,誰が,誰に対して,何を,どのようにしたか」を明確に書くよう求める。背景事情と不当労働行為を構成する具体的事実を混ぜず,日付ごとに整理する。

賞与事案なら,団交申入れ,会社回答,組合の承諾又は対案,会社が付した条件,非組合員への支給,組合員への不支給,その後の交渉申入れと回答を並べる。施設利用事案なら,従前の許可・黙認,投函又は掲示の態様,現実の業務支障,回収・停止の範囲,会社の通知,回収物の保管・返還状況を並べる。分からない事項は不存在と断定せず,確認すべき事項として残す。

第5 証拠説明書と立証趣旨

書証を集めるだけでなく,一つずつ「どの事実を証明するか」を付ける。大阪府労働委員会の証拠説明書案内は,書証番号,標題,作成年月日,作成者及び立証趣旨の記載を求める。申立人側の書証には甲号証番号を付け,立証趣旨を申立書の事実欄と対応させる。

団交拒否には団交申入書,要求書,会社回答書,議事録及び当事者のメモを対応させる。賞与差別には就業規則,労働協約,会社回答,妥結通告,支給明細,対象者・勤務実績の資料を対応させる。施設利用には利用許可や協約,投函した文書,回収・停止通知,ケースや掲示板の写真,保管・返還の記録を対応させる。これらは事案に応じた証拠候補であり,存在しない資料をあるものとして記載しない。

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育児・介護中の転勤・出向命令を争う初動―発令前の申出、証拠保全、仮処分と解雇後の請求(AI作成)

目次第1 発令前から解雇後までの見取り図第2 まず配転・在籍出向・転籍を分ける第3 命令権の根拠を確認する第4 育児・介護の不利益を具体化する第5 内示・発令前に申し出ること第6 発令後の証拠と労務提供第7 仮処分と本案訴訟第8 解雇された場合第9 裁判例から分かることと限界第10 実務上のチェックリスト第11 関連記事第12 出典・参考資料

育児・介護中に転勤又は出向を告げられたときは,「子どもがいるから無効」と即断するのも,「就業規則に転勤条項があるから従うしかない」と即断するのも適切ではない。命令の種類と根拠を確かめ,養育・介護への影響を発令前から具体的に伝え,会社の回答を記録することが重要である。本記事は,労働者側が発令前,発令後,解雇後の各段階で確認する資料と,取り得る請求を整理する。個別事件の結論は契約内容と事実関係による。

第1 発令前から解雇後までの見取り図

内示の段階では,異動先・業務・開始日・期間・賃金等の提示を求め,育児・介護の具体的事情を文書で申し出る。発令後は,命令の有効性を検討するとともに,就労する意思と可能な労務提供の内容を明確にする。赴任日が迫り回復し難い損害が見込まれるなら,弁護士と仮処分を検討する。解雇された場合は,命令の効力と解雇の効力を分けて検討する。

本記事は令和8年10月1日までに確認した法令,厚生労働省の資料及び裁判例を基礎とする。裁判例の事実と結論を別の事案へそのまま移すものではない。

第2 まず配転・在籍出向・転籍を分ける

配転・転勤は,同じ使用者との労働契約の下で勤務場所や職務を変える場合である。在籍出向は出向元との労働契約を残して別の会社で働く場合であり,出向先の指揮命令や処遇の確認が必要になる。転籍は元の会社との労働契約を終了させる別の問題である。通知に「異動」としか書かれていないときは,雇用契約の相手方,賃金の支払者,指揮命令者,復帰予定を確認する。

配転の権利濫用は東亜ペイント事件の判断枠組み,在籍出向は労働契約法14条の必要性・人選その他の事情を中心に検討する。双方とも命令権の有無を先に確かめる。配転命令の記事と在籍出向命令の記事で各判断枠組みを詳述した。

第3 命令権の根拠を確認する

労働条件通知書・雇用契約書,就業規則,労働協約,出向規程,採用時の説明,過去の異動実績を集める。勤務地又は職種を限定する合意があるか,出向については出向先,期間,地位,賃金,手当,評価及び復帰条件などがどこまで定められているかを確認する。規程があることと,その命令が有効であることは別である。

最高裁平成15年4月18日判決は,就業規則,労働協約,詳細な社外勤務協定が存在した事案で,個別同意のない在籍出向命令を認めた。具体的な規程のない事案にも当然に同じ結論が及ぶわけではない。職種・業務を限定する合意に反する配転については,最高裁令和6年4月26日判決も個別同意なしの命令権を否定している。

第4 育児・介護の不利益を具体化する

育児介護休業法26条は,就業場所の変更を伴う配置変更により,就業しながら子を養育し又は家族を介護することが困難になる労働者について,事業主にその状況への配慮を求める。厚生労働省の解説は,家族の状況・本人の意向の把握や代替手段の確認を配慮の例とする一方,希望どおりの配置結果や特定の積極的措置まで一律に義務付けるものではないとしている。26条違反を主張する場合も,家庭の事情だけで命令が当然に無効になるとはいえない。

会社へは,子の年齢,保育所の送迎時刻,延長保育の可否,配偶者の勤務・収入,代わりに世話を担える人の有無,介護を要する家族の状況,通院・介護サービスの予定,転居や単身赴任で生じる具体的な支障を伝える。必要な範囲で保育園の利用書類,勤務表,介護保険関係書類などを用意する。家族の医療情報は必要部分を選んで提出し,提出日と宛先を残す。

金銭手当の有無だけでなく,赴任延期,異動先・担当業務・人選の再検討,出向期間の短縮,帰宅頻度,時差勤務,テレワーク,住居支援など,実行可能な代替案を具体的に示す。ただし,これら全てを採用する法的義務が常にあるという意味ではない。候補ごとの実現可能性を検討する資料になる。

第5 内示・発令前に申し出ること

内示を受けたら,日時,発言者,異動先,開始日,回答期限を記録し,通知書や条件表を求める。育児・介護の事情を口頭で述べた場合も,後日メール等で「いつ,誰に,何を伝えたか」を確認しておく。会社が発令前に事情を認識できたかは,後の紛争で重要となる。

申出書には,①現在の養育・介護の分担,②異動で不可能又は困難となる具体的作業と時間帯,③本人・家族への影響,④希望する代替案,⑤回答を求める期限を書き,資料を添える。感情的な拒絶だけを伝えるより,現行勤務地での就労意思と代替的な働き方を明記する方が,争点を整理しやすい。

会社から「全員が転勤に応じている」と説明されたら,個人情報を求めるのではなく,人選基準,代替候補・勤務方法を検討したか,その労働者を選ぶ業務上の理由を尋ねる。出向では,出向先での仕事内容と指揮命令関係も確認する。

第6 発令後の証拠と労務提供

発令書,就業規則・出向規程,条件表,面談メモ,会社とのメール,保育・介護の資料,通勤経路・所要時間,住居費・交通費の見積りを時系列に整理する。原本や受信日時の分かるデータを保存し,後から作った説明資料と当時の記録を区別する。

命令に疑義があっても,無断欠勤を重ねれば別の争点が生じる。発令前後に弁護士へ相談し,現行勤務地でいつ・どの業務に従事できるか,出向元での就労を求めるのか,会社が受領を拒むのかを文書に残す。出向先への就労拒否と,労働契約上の労務提供意思の放棄を混同しないためである。個々の事案で,命令に従いながら争うか,仮処分を求めるか,拒否するかは,解雇・賃金不払の危険も踏まえて判断する。

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休業診断書をどう読むか――作成日,療養期間,専門科検査,復職可能日及び産業医意見の区別(AI作成)

目次

第1 結論第2 最初に区別する日付1 作成日・診察日・療養期間2 検査日・結果判明日・再評価日3 復職判定日・休職満了日第3 連続する診断書の比較方法1 原本を時系列に並べる2 確定事項・暫定事項・未確認事項を分ける第4 主治医に提供する情報と尋ねる事項1 仕事内容を具体化する2 回答を求める事項第5 主治医・産業医等・事業主の役割第6 照会同意と健康情報の共有範囲1 照会先が変わる場合2 現場に伝える情報を限定する第7 休職通知・復職判断との接続第8 実務チェックリスト第9 関連記事第10 出典・参考資料
第1 結論

休業診断書は,診断書の作成時点で医師が把握した医学的事項を示す重要な資料であるが,診断名又は「療養を要する期間」だけで復職日や配置を自動的に決めるものではない。
会社は,診断書の作成日,診察日,療養期間,今後の検査,医師が想定した仕事及び再評価時期を分けて確認し,必要な勤務情報を主治医に提供した上で,産業医等の意見,本人の意向,職場の状況及び就業規則を踏まえて判断する。

特に,診断書の作成後に専門科の受診又は検査が予定されている場合,その結果は原則として当該診断書に反映されていない。
また,「○日まで休業を要する」との記載は,翌日から従前業務に制限なく復職できるとの意見と同じではない。

第2 最初に区別する日付
1 作成日・診察日・療養期間

最初に,①診断書の作成日,②医師が本人を診察した日,③療養を要する期間の始期と終期を区別する。
作成日と診察日が異なる場合や,診断書が過去の期間を含んでいる場合には,どの時点の症状と検査結果を前提とした意見かを確認する。

療養期間の終期は,その期間中は就業を避けるべきであるとの医学的意見を示すのが通常である。
しかし,終期の翌日に復職可能であること,従前業務を制限なく行えること又は通勤を含めて安全であることまで当然に示すものではない。

2 検査日・結果判明日・再評価日

診断書の作成後に専門科の受診,画像検査その他の検査が予定されているときは,検査日,結果が判明する見込みの日及び医師が就業可否を再評価できる時期を確認する。
診断書の記載と後日の検査予定を一つの結論として扱わず,「現在の判断」と「今後確認される事項」を分けて記録する。

主治医が結果判明後に改めて意見を述べる予定であるなら,会社は回答期限を一方的に固定するのではなく,休職期間,就業規則上の手続及び安全上の必要性を踏まえて,追加資料の提出時期を本人と調整する。

3 復職判定日・休職満了日

復職の可否を判断する日は,診断書の療養期間末日と一致するとは限らない。
会社が勤務情報を主治医に提供し,主治医の意見書,産業医等の意見,本人との面談及び職場の受入条件を確認するための期間も考慮する必要がある。

就業規則上の休職満了日も,医学上の療養期間とは別の基準である。
診断書の提出だけで休職期間が当然に延長されるわけではなく,会社は適用条項,延長の可否,復職手続及び満了時の取扱いを別に判断し,必要な通知を行う。

第3 連続する診断書の比較方法
1 原本を時系列に並べる

診断書が複数提出された場合は,要約又は口頭説明だけでなく,各診断書の原本又は真正な写しを時系列に並べる。
比較する事項は,作成日,診断名,療養期間,症状又は機能制限の記載,治療・検査の予定,仕事に関する記載及び再評価時期である。

診断名の表現が変わった場合は,病状が悪化したと直ちに推測せず,診療科の変更,検査の進行又は診断書の目的の違いを確認する。
療養期間が延びた場合も,その理由が症状の継続,検査結果待ち,治療計画の変更又は安全な復職条件の未確定のいずれであるかを分けて確認する。

専門科の検査で「現時点では特定の病気と断定できない」と説明された場合,それを「その病気の可能性が完全に否定された」「症状が消失した」「従前業務を制限なく安全に行える」という結論へ置き換えてはならない。診断名の確定・除外と,現在の症状,機能制限及び具体的な仕事への適性は別の確認事項である。

反対に,病名が未確定であることだけで就業不能とも判断できない。会社は,実際の症状の仕事への影響,避けるべき作業,可能な勤務条件,措置を要する期間及び再評価時期について医学的意見を求め,実施可能な配慮と照合する。経過観察の検査予定がある場合も,次の検査日まで一律に就業を禁止するのではなく,その間の就業可否と必要な制限を別に確認する。

この区別は,病名を会社が診断するためではなく,厚生労働省の治療と就業の両立支援指針5(1)~(3)が示す,勤務情報を主治医へ提供し,医学的意見と職場の条件を照合して就業上の措置を判断する流れを実践するためのものである。

2 確定事項・暫定事項・未確認事項を分ける

診断書と面談記録を読むときは,医師が書面で示した事項,本人が医師から聞いたと説明する事項,会社が観察した事項及び今後の検査で確認される事項を混在させない。
本人又は担当者から「主治医が復職は無理と言った」「検査後なら判断できると言った」と報告を受けた場合は,重要な職場情報として記録しつつ,最終的な就業判断の根拠に用いる部分は書面又は本人同意のある照会で確認する。

口頭説明と診断書の文言が異なるときは,どちらかを直ちに誤りと決めず,医師が把握した勤務内容,説明の対象となった業務及び説明時点を確認する。

第4 主治医に提供する情報と尋ねる事項
1 仕事内容を具体化する

厚生労働省の治療と就業の両立支援指針は,労働者が勤務情報を主治医に提供し,主治医の意見を得た上で,事業主が産業医等の意見も踏まえて就業上の措置を判断する流れを示している。
会社は職種名だけでなく,勤務時間,通勤方法,立位・座位・歩行,重量物,反復動作,暑熱・寒冷,高所,車両運転,危険機械,単独作業及び緊急時の対応を記載する。

通常業務だけでなく,現実に実施できる短時間勤務,作業量の軽減,危険作業の除外,休憩,補助具又は一時的な配置も示す。
実在しない「軽作業」を前提に意見を求めたり,医学的に安全かを医師に尋ねる前に危険作業を試させたりしない。

2 回答を求める事項

主治医には,少なくとも次の事項を尋ねる。

(続きを読む...)休業診断書をどう読むか――作成日,療養期間,専門科検査,復職可能日及び産業医意見の区別(AI作成)

雇用保険(失業給付)の不正受給と自己破産―返還命令・納付命令は財団債権か,優先的破産債権か,免責されるか(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 返還命令と納付命令1 雇用保険法10条の4の内容2 徴収の方法3 納入の告知と督促第3 破産法上の「租税等の請求権」に当たる理由1 破産法97条4号の定義2 文言の違いは区分を左右しないと考えられる第4 財団債権か,優先的破産債権か1 破産法148条1項3号の基準2 区分の分かれ目3 財団債権になった場合4 優先的破産債権になった場合第5 免責されない1 破産法253条1項1号2 相談を受けたときの見通しの示し方第6 労災保険の不正受給との違い1 準用される規定の範囲2 破産手続での扱い第7 受任時に確認する資料第8 関連記事第9 出典1 法令2 通達・答申・公的資料第10 確認状態
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,雇用保険の失業等給付を偽りその他不正の行為により受給した人が,公共職業安定所から返還命令や納付命令を受けた後に自己破産を考える場合,又は破産手続中にこれらの請求が破産管財人に届いた場合に,その請求権が破産手続でどう扱われるかを整理する。
法令は,令和8年9月29日現在の条文をe-Gov法令検索(法令API)で確認した。
国税徴収法基本通達は,国税庁ウェブサイトの本文を確認した。

2 結論

①不正受給について政府が命じる返還金と納付金(雇用保険法10条の4第1項)は,同条3項が準用する労働保険の保険料の徴収等に関する法律(以下「徴収法」という。)27条3項により,「国税滞納処分の例」で徴収される。
②そのため,これらの請求権は,破産法97条4号の「租税等の請求権」に当たると考えられる。
③破産手続開始前の原因に基づくもので,破産手続開始の時に納期限が到来していないか,納期限から1年を経過していないものは財団債権(破産法148条1項3号),それ以外は優先的破産債権となる。
④いずれの区分になっても,免責許可決定によって支払義務はなくならない(財団債権は免責の対象である破産債権ではなく,破産債権となる部分も同法253条1項1号の非免責債権である)。
⑤不正受給の返還金は常に財団債権であるとも,破産すれば免責されるとも言えない。
区分を決めるのは,返還命令・納付命令の納期限と破産手続開始の日の前後関係である。

第2 返還命令と納付命令
1 雇用保険法10条の4の内容

雇用保険法10条の4第1項は,「偽りその他不正の行為により失業等給付の支給を受けた者がある場合には、政府は、その者に対して、支給した失業等給付の全部又は一部を返還することを命ずることができ、また、厚生労働大臣の定める基準により、当該偽りその他不正の行為により支給を受けた失業等給付の額の二倍に相当する額以下の金額を納付することを命ずることができる。」と定める。
つまり,不正受給が発覚すると,受け取った給付の返還(返還命令)と,受け取った額の2倍以下の金額の納付(納付命令)の二つが命じられ得る。
同条2項は,事業主,職業紹介事業者等が偽りの届出,報告又は証明をしたために給付がされた場合に,これらの者にも受給者と連帯して納付を命じることができると定めている。

2 徴収の方法

同条3項は,「徴収法第二十七条及び第四十一条第二項の規定は、前二項の規定により返還又は納付を命ぜられた金額の納付を怠つた場合に準用する。」と定める。
徴収法27条3項は,督促を受けた者が指定の期限までに納付しないときは,「政府は、国税滞納処分の例によつて、これを処分する。」と定める。
したがって,返還金・納付金を納めないと,政府は裁判を経ずに,国税の滞納処分と同じ方法で財産を差し押さえることができる。
また,徴収法41条2項は,政府が行う徴収の告知又は督促が時効の更新の効力を生ずると定めている。

3 納入の告知と督促

雇用保険法施行規則17条の5は,返還又は納付を命じられた金額を徴収する場合には,都道府県労働局の歳入徴収官が納期限を指定して納入の告知をしなければならないと定めている。
同規則17条の6は,督促状を発するときは,14日以内の期限を指定しなければならないと定めている。
したがって,第4で問題になる「納期限」は,納入の告知で指定された納期限である。
督促状で指定された期限までに納めなければ,国税滞納処分の例による差押えに進み得る。
行政不服審査会の令和8年度答申第14号(令和8年6月26日,雇用保険法10条の4第3項に基づく督促処分に関する件)は,督促処分の違法を主張する審査請求について,督促処分は雇用保険法及び徴収法の関係規定に従ってされたものとして,審査請求を棄却すべきとした審査庁の判断を妥当とした。
同答申によれば,督促処分には,徴収法37条により行政手続法第3章(理由の提示等)の規定が適用されない。

(続きを読む...)雇用保険(失業給付)の不正受給と自己破産―返還命令・納付命令は財団債権か,優先的破産債権か,免責されるか(AI作成)

最低賃金の引上げと固定残業代―最低賃金の計算から除かれる賃金,基本給への振替と不利益変更(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象とする場面2 結論の要点第2 最低賃金を満たしているかの計算1 算入する賃金と算入しない賃金2 月給制の時間換算3 改定の効力発生日と違反した場合第3 固定残業代が最低賃金の判断に与える影響1 固定残業代を含めて最低賃金を満たすとはいえない2 基本給が最低賃金を下回る場合の固定残業代(東京地裁令和6年5月17日判決)第4 基本給への振替と労働条件の変更1 総額を変えない振替が不利益になりうる理由2 個別の同意による場合(最高裁平成28年2月19日判決)3 就業規則の変更による場合4 総額を維持した組替えと割増賃金(最高裁令和5年3月10日判決)5 東京地裁令和6年5月17日判決の組替え部分第5 最低賃金の改定前に点検すること1 計算の点検2 下回る場合の対応第6 関連記事第7 出典1 法令2 裁判例3 所管行政機関の資料
第1 この記事の対象と結論
1 対象とする場面

地域別最低賃金は毎年改定され,改定のたびに,月給のうち基本給を時間額に直すと最低賃金を下回る,という問題が生じることがある。
固定残業代(定額残業代)を支払っている会社では,「固定残業代を含めれば最低賃金を上回っている」「総額を変えずに固定残業代の一部を基本給へ振り替えればよい」と考えられることがある。
本記事は,最低賃金法の計算方法と,固定残業代の有効性及び労働条件の変更の観点から,これらの対応の問題点を整理する。

固定残業代が有効になる要件そのもの(判別可能性・対価性)は,固定残業代が有効になる要件―判別可能性・対価性と最高裁7判決で扱っている。
本記事の条文は,令和8年9月28日時点の現行法をe-Gov法令検索で確認した。
都道府県ごとの最低賃金額と発効年月日は,厚生労働省の地域別最低賃金の全国一覧で確認する必要がある。

2 結論の要点

①時間外労働,休日労働及び深夜労働に対して支払われる賃金は,最低賃金を満たしているかの計算に算入しない(最低賃金法4条3項2号,最低賃金法施行規則1条2項)。
固定残業代を含めて最低賃金を満たしていると考えることはできない。
②基本給等を時間額に直して最低賃金を下回ると,その部分は無効となり,最低賃金と同様の定めをしたものとみなされる(最低賃金法4条2項)。
③基本給等が最低賃金を下回る状態で「固定残業代」とされていた手当について,通常の労働時間の賃金に当たる部分が含まれているとして,固定残業代としての効力を認めなかった裁判例がある(東京地裁令和6年5月17日判決)。
④総額を変えずに固定残業代を減らして基本給を増やす振替は,労働者にとって不利益な変更になりうる。
そのため,労働者の自由な意思に基づく同意か,合理的な就業規則の変更が必要になる。
⑤賃金総額を維持したまま手当を組み替えた賃金体系について,割増賃金の支払を認めなかった最高裁判決がある(最高裁令和5年3月10日判決)。

第2 最低賃金を満たしているかの計算
1 算入する賃金と算入しない賃金
(1) 最低賃金法4条

最低賃金法4条1項は「使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない。」と定める。
同条3項は,次の賃金を最低賃金を満たしているかの計算に算入しないとする。
①「一月をこえない期間ごとに支払われる賃金以外の賃金で厚生労働省令で定めるもの」(1号)
②「通常の労働時間又は労働日の賃金以外の賃金で厚生労働省令で定めるもの」(2号)
③「当該最低賃金において算入しないことを定める賃金」(3号)

(2) 最低賃金法施行規則1条

最低賃金法施行規則1条1項は,4条3項1号の賃金を「臨時に支払われる賃金及び一月をこえる期間ごとに支払われる賃金」とする。
同条2項は,4条3項2号の賃金を次のとおりとする。
①「所定労働時間をこえる時間の労働に対して支払われる賃金」(1号)
②「所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金」(2号)

(続きを読む...)最低賃金の引上げと固定残業代―最低賃金の計算から除かれる賃金,基本給への振替と不利益変更(AI作成)