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労働・社会保険

スポット勤務医師の労働契約は一勤務ごとか―定期非常勤との区別,確定シフトの取消し・雇止め・証拠(AI作成)

目次第1 問題の所在1 四つの論点を分けて検討する2 契約名より合意と運用を見る第2 労働契約の成立と労働条件の明示1 署名押印がなくても労働契約は成立し得る2 労働条件明示と契約成立は別問題である第3 一勤務ごとの契約か継続契約か1 一勤務ごとの契約を示す事情2 継続契約を示す事情3 求人票と実際の合意が違う場合第4 確定シフトの取消し,解雇及び雇止め1 確定済みの一勤務を取り消す場合2 未確定の将来勤務を依頼しない場合3 反復更新と雇止め法理第5 証拠収集の実務1 契約成立と契約単位に関する資料2 メッセージの意味を前後関係から読む第6 病院側と医師側の予防策1 病院側の対応2 医師側の対応第7 宿日直及び労働時間との関係第8 関連記事第9 主要な一次資料
第1 問題の所在
1 四つの論点を分けて検討する

スポット勤務医師をめぐる紛争では,次の四つを分けて検討する必要がある。
①実際に勤務した時間について,医師が労働基準法及び労働契約法上の「労働者」に当たるか。
②個々の勤務日について,労働契約が成立したか。
③個々の勤務とは別に,将来の勤務枠まで含む包括的・継続的な労働契約が成立したか。
④確定済みの勤務を取り消し,又は継続的な勤務を終了させた場合に,解雇又は雇止めの規制が適用されるか。

医師が病院の指揮命令を受けて診療し,病院から賃金を受ける個々の勤務について労働者性が認められても,そのことだけで将来の勤務枠を含む継続契約が成立するわけではない。他方,「スポット」という呼称だけで,確定済みの勤務についての労働契約や賃金請求権が消えるわけでもない。

本記事は,令和8年9月20日現在の現行法令に基づき,契約単位の確定方法と実務上の証拠を整理するものである。

2 契約名より合意と運用を見る

求人票に「スポット」と記載されていても,毎週同じ曜日の勤務が自動的に割り当てられ,将来分を自由に断れない運用であれば,継続契約を基礎付ける事情になり得る。反対に,求人票に「定期非常勤」とあっても,勤務のたびに空き枠が提示され,病院と医師の双方が自由に承諾又は拒絶していた場合,各勤務日ごとの契約と評価される余地がある。

したがって,契約書の題名だけでなく,求人から勤務終了までのメール,チャット,シフト表,賃金処理及び拒否・代替の実例を時系列で確認する必要がある。

第2 労働契約の成立と労働条件の明示
1 署名押印がなくても労働契約は成立し得る

労働契約法6条は,労働者が使用者に使用されて労働し,使用者がこれに対して賃金を支払うことについて,当事者が合意することによって労働契約が成立すると定める。

一般に,雇用契約書への署名押印は労働契約の成立要件ではない。口頭の合意,メール又はチャットによる応募と承諾,勤務の実施,賃金の支払等から,契約の成立及び内容が認定されることがある。

未署名の契約書は無意味ではない。その文書が示す契約期間,固定曜日,更新条件,業務内容等について当事者の意思が一致したかを判断する重要な証拠である。しかし,「署名・返送がないから,実施済みの勤務についても労働契約がない」と一般化することはできない。

2 労働条件明示と契約成立は別問題である

労働基準法15条及び労働基準法施行規則5条により,使用者は,労働契約の締結に際し,契約期間,就業場所・業務,始業・終業時刻,休日,賃金,退職等の労働条件を明示しなければならない。主要事項は書面の交付等による明示が必要である。

労働条件通知書を交付しなかったことと,私法上の労働契約が成立しなかったことは,同じ問題ではない。紛争処理では,①契約が成立したか,②どのような内容で成立したか,③法定の明示義務が履行されたかを順に分けて検討する。

第3 一勤務ごとの契約か継続契約か
1 一勤務ごとの契約を示す事情

次の事情は,各勤務について個別に契約が成立するという評価を支えやすい。
①各回について,病院が空き枠を提示し,医師がその都度応募又は承諾する。
②病院と医師の双方が,将来回を理由なく断ることができ,実際の拒否例がある。
③勤務日,勤務時間,診療科,報酬その他の条件が回ごとに異なる。
④他の医師が先に決まった場合,病院が依頼をしない,又は取り下げる運用である。
⑤特定曜日の勤務が自動的に割り当てられず,シフト確定前には勤務義務がない。
⑥各回の終了後に,次回勤務の保証や最低勤務回数が残らない。

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医療機関の宿日直許可―当直・非常勤医師の労働時間,通常勤務と同態様の業務及び割増賃金(AI作成)

目次第1 宿日直許可を検討する順序1 医療法上の宿直と労働基準法上の許可は別制度である2 確認すべき四つの資料第2 労働基準法上の法的枠組み1 許可がなければ待機時間も原則として労働時間になり得る2 許可の効果は労働時間規制の全部を消すものではない第3 医師等の宿日直許可基準1 通常勤務から完全に解放されていること2 業務が軽度又は短時間であること3 宿直では十分な睡眠が確保できること4 宿日直手当と回数の基準第4 限定許可と通常勤務と同態様の業務1 診療科,職種,時間帯及び業務を限定した許可2 救急又は産科という名称だけでは決まらない3 通常勤務と同態様の業務が稀に発生した場合4 通常勤務と同態様の業務が常態化した場合第5 許可取得後の労務管理1 一勤務ごとの記録を残す2 勤怠記録と診療記録を突き合わせる3 実態が変わったときは許可内容を見直す第6 非常勤医師及び兼業医師の留意点1 非常勤医師も許可対象になり得る2 副業・兼業先を含む労働時間管理第7 紛争時の証拠チェックリスト1 医療機関側に求める資料2 医師側で保存する資料第8 関連記事第9 主要な一次資料
第1 宿日直許可を検討する順序
1 医療法上の宿直と労働基準法上の許可は別制度である

医療法16条は,医業を行う病院の管理者に対し,原則として病院に医師を宿直させることを求める。これは,入院患者の病状が急変した場合に診療できる体制を確保するための医療提供体制上の規定である。

これに対し,労働基準法上の宿日直許可は,断続的な宿直又は日直の勤務について,労働基準監督署長の許可を受けた場合に,許可の範囲で労働時間,休憩及び休日に関する規定の適用を除外する制度である。

したがって,医療法上,病院に医師を宿直させる必要があることから,当然に労働基準法上の労働時間規制が適用除外になるわけではない。また,病院が一つの宿日直許可を受けていることから,その病院における全ての当直,職種,診療科又は時間帯が適用除外になるわけでもない。

2 確認すべき四つの資料

令和8年9月20日現在,宿日直勤務を検討するときは,少なくとも次の四つを照合する必要がある。
①労働基準監督署長が交付した宿日直許可書及びその条件。
②対象者の労働条件通知書,雇用契約書,勤務表及び院内の当直規程。
③電子カルテ,救急受入れ,電話・呼出し,入退室,業務日誌等の実際の勤務記録。
④賃金台帳,給与明細及び時間外・休日・深夜割増賃金の計算資料。

許可があるかどうかだけでなく,許可された対象と実際の勤務が一致しているかを一勤務ごとに確認することが重要である。

第2 労働基準法上の法的枠組み
1 許可がなければ待機時間も原則として労働時間になり得る

宿直又は日直という名称であっても,労働者が病院の指揮命令下に置かれ,場所的・時間的に拘束されている時間は,原則として労働時間に当たり得る。当直料だけを定額で支払うことや,診療がなかったことだけで,当然に労働時間でなくなるわけではない。

労働基準法41条3号は,監視又は断続的労働に従事する者で,使用者が行政官庁の許可を受けたものについて,労働時間,休憩及び休日の規定を適用しないとする。労働基準法施行規則23条は,宿直又は日直の勤務で断続的な業務について,様式第10号による所轄労働基準監督署長の許可を受けた場合に,法定労働時間を超えて労働させることができると定める。

2 許可の効果は労働時間規制の全部を消すものではない

宿日直許可の対象となる勤務は,許可の範囲で,労働基準法32条の労働時間,34条の休憩及び35条の休日に関する規定の適用が除外される。しかし,深夜業の割増賃金に関する規定まで一律に除外されるものではない。

また,許可中に通常の勤務時間と同じ態様の業務に従事した時間は,許可された断続的勤務として扱うことができない。その時間について,通常の労働時間として把握し,必要な時間外・休日労働の手続及び割増賃金の支払を行う必要がある。

第3 医師等の宿日直許可基準
1 通常勤務から完全に解放されていること

厚生労働省の「医師、看護師等の宿日直許可基準について」(令和元年7月1日基発0701第8号)は,医療機関の医師,看護師等について,通常の勤務時間の拘束から完全に解放された後の勤務であることを前提とする。

外来診療の延長,予定手術,通常の病棟業務その他の日中と同じ密度の業務を継続して行う時間を,名目上「宿直」と呼ぶだけでは足りない。

2 業務が軽度又は短時間であること

許可対象となるのは,一般の宿日直許可基準を満たし,特殊な措置を必要としない軽度又は短時間の業務に限られる。具体例として,医師が少数の要注意患者の状態変動に対応するため,問診等による診察,必要な看護師等への指示又は確認を行うことなどが示されている。

実際の患者数だけでなく,診療内容,処置時間,呼出頻度,連続する対応時間,業務間の休息可能性を確認する必要がある。

3 宿直では十分な睡眠が確保できること

宿直については,夜間に十分な睡眠を取り得ることが必要である。宿直室やベッドが存在するだけでは足りず,実際の呼出し,電話,救急搬送及び病棟対応によって睡眠が継続的に妨げられていないかを確認する。

短い対応が断続的に多数発生し,実質的に睡眠できない勤務であれば,個々の対応時間だけでなく勤務全体の実態が許可基準と整合するかが問題になる。

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社内で窃盗・横領が疑われたときの社内調査-初動,証拠保全,事情聴取及び調査の限界(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 発覚直後の初動1 被害拡大と証拠消失を防ぐ2 「疑い」を複数の仮説に分ける第3 証拠別の保全と確認1 現金,商品及び会計資料2 防犯カメラと入退室記録3 メール,操作ログ及び会社端末4 私物端末と個人アカウント第4 事情聴取の順序と方法1 客観証拠と周辺者を先に確認する2 従業員はいつでも調査に協力する義務を負うわけではない第5 所持品,ロッカー及び机の調査1 所持品検査には厳しい条件がある2 拒否された場合の限界第6 調査結果から次の対応へ進む1 調査報告書は事実,推認及び未確認を分ける2 懲戒・解雇は調査と別に判断する3 損害回収と賃金支払は分ける4 警察相談は社内調査の「最後」とは限らない第7 内部通報から発覚した場合1 通報者の特定と不利益取扱いを防ぐ2 令和8年12月1日施行の改正と区別する第8 社内調査の実務チェックリスト第9 関連する山中弁護士ブログの記事第10 出典・確認状況1 法令2 裁判例3 法令上の指針4 行政機関等の解説及び実務資料
第1 本記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,令和8年9月19日現在,従業員が会社の現金,商品,備品その他の財物を持ち出した疑い,又は業務上占有する会社の金銭を私的に流用した疑いが生じたときに,会社が行う社内調査の標準的な手順と限界を整理するものである。

調査の対象は「犯罪があったか」だけではない。被害額及び期間,関与者,会計処理,保管・承認手続,内部統制上の不備並びに再発防止策も含む。

役員自身の不正,粉飾決算,賄賂,キックバック,反社会的勢力及び国外拠点を含む大規模不祥事は,調査主体,公表,金融商品取引法上の開示その他の論点が加わるため,別途の検討を要する。

2 結論

最初に行うべきことは,本人を問い詰めることではなく,被害の拡大を止め,客観証拠の消失を防ぐことである。

その後,①調査する事実と期間を仮に定める,②会計資料,防犯カメラ,入退室記録,メール及び操作ログ等の客観証拠を保全する,③通報者及び周辺者から聴取する,④客観証拠と供述の不一致を整理した上で本人を聴取する,⑤本人の説明及び反証を検証する,という順序が基本形となる。

会社は企業秩序違反の事実を調査できるが,警察のような強制捜査権限を有しない。調査の目的,必要性,対象,方法及び程度を絞り,従業員のプライバシー,名誉,私物の所有権及び通報者の保護と均衡させる必要がある。

第2 発覚直後の初動
1 被害拡大と証拠消失を防ぐ
(1) 本人に知らせる前に保全する

現金の不足,棚卸差異,不自然な振込み又は経費精算が見つかった場合,その場で本人へ電話したり,職場の一斉メールで事情を尋ねたりすると,データ削除,帳票差替え,共犯者への連絡又は供述の口裏合わせの機会を与えることがある。

先に,当該時期の金種表,レジ及び金庫記録,会計伝票,預金取引明細,在庫データ,稟議・承認履歴,防犯カメラ映像,入退室記録,業務用アカウントのログ及びバックアップの保存期間を確認する。

被害継続の現実的な危険があるときは,業務継続への影響を考慮しつつ,決済権限,倉庫への入場権限,金庫の鍵,カード,業務用アカウント及びデータ削除権限を見直す。ただし,アカウント停止や端末の電源操作そのものが証拠を変化させることがあるため,情報システム担当者又はデジタル・フォレンジックの専門家と方法を選ぶ。

(2) 調査チームと情報共有範囲を決める

調査の責任者,証拠の取得担当者,会計・システムの分析担当者,事情聴取者及び最終判断者を決める。一人に取得,保管,分析及び判断を集中させず,誰が,いつ,何を,どの状態で受け取り,どこに保管したかを記録する。

疑われている者の直属上司,会計処理を承認した者又は通報の対象とされた幹部を,そのまま調査の指揮者にしてはならない。調査の秘密性は必要であるが,「他の部門に知らせない」ことと,利益相反のある人物に調査を任せることは別問題である。

2 「疑い」を複数の仮説に分ける
(1) 事実を日時,金額及び行為に置き換える

「横領したらしい」という評価のままでは調査対象として粗い。①いつ,②どの口座,金庫,店舗又は倉庫で,③いくら又は何が減少し,④どの伝票,承認,出庫又は送金操作が対応し,⑤誰がその操作及び財物にアクセスできたか,という命題に分解する。

調査範囲は,被害が疑われる期間とその前後,同じ手口が可能な取引類型,同じ権限を持つ者とする。最初から全社員のメール,全期間の端末及び全ての私生活情報へ広げるのではなく,新たな根拠が出たときに範囲を更新する。

(2) 不正以外の説明も残す

現金不足や使途不明金の原因には,①窃盗又は横領,②会計又は棚卸しのミス,③承認済み支出の未記帳,④仮払金又は立替金の未精算,⑤システムの反映遅延,⑥権限共有・代理操作による操作者誤認等があり得る。

調査は,不利益な仮説を裏付ける資料だけでなく,それを弱める資料も集める。本人の弁明を後から「新しい言い訳」と扱わないため,事情聴取前に会社が確認していた資料と仮説を日付付きで残す。

第3 証拠別の保全と確認
1 現金,商品及び会計資料
(1) 現物の状態を複数人で固定する

現金,商品,回収物又は証票類は,保管場所及び施錠状況を撮影し,複数人で数量,金種,製造番号,日付,文書の種類及び欠番を確認する。コピーや写真を取る場合も,原本の保管者,取得日時,取得方法及び保管場所を記録する。

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安全配慮義務違反による損害賠償請求権の消滅時効―10年・20年とじん肺の起算点(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 安全配慮義務と消滅時効期間1 昭和50年判決2 改正後の時効期間3 改正前民法が適用される場合第3 じん肺の起算点1 平成6年判決―最終の行政上の決定の時2 平成16年判決―死亡の時3 現行法の下での意味第4 不法行為構成との比較1 時効期間2 時効以外の点第5 労災保険給付の請求権の時効1 労働者災害補償保険法42条2 損害賠償請求権との関係3 令和9年4月1日施行の改正第6 時効管理の実務1 起算点の把握2 時効の完成を止める手段第7 関連記事第8 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 公的資料
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,使用者(国を含む。)の安全配慮義務違反によって労働者が死傷し,又は疾病にかかった場合の損害賠償請求権の消滅時効を扱うものである。
安全配慮義務を認めた最高裁判所第三小法廷昭和50年2月25日判決,じん肺の起算点に関する最高裁判所第三小法廷平成6年2月22日判決及び同平成16年4月27日判決,改正後の民法166条・167条,不法行為構成との比較,並びに労災保険給付の請求権の時効(労働者災害補償保険法42条)を説明する。
調査基準日は令和8年9月19日であり,令和9年4月1日に施行が予定されている労災保険給付等の時効期間の改正にも触れる。

人身損害の特則(民法167条・724条の2)の全体像と構成の選び方は人身損害の消滅時効の特則―民法167条・724条の2と債務不履行構成・不法行為構成の選び方で,消滅時効全体の見取り図は消滅時効に関するメモ書きで扱っている。

2 結論

安全配慮義務違反による損害賠償請求権は,債務不履行に基づく損害賠償請求権であり,令和2年4月1日以後に締結された労働契約に基づくものであれば,権利を行使することができることを知った時から5年,権利を行使することができる時から20年で時効によって消滅する(民法166条1項,167条)。
令和2年3月31日以前に締結された労働契約に基づくものは,事故や発症が令和2年4月1日以後であっても改正前民法が適用され,権利を行使することができる時から10年である(民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)附則10条1項・4項)。

じん肺の損害賠償請求権の消滅時効は,じん肺法所定の管理区分についての最終の行政上の決定を受けた時から進行し(平成6年判決),じん肺によって死亡した場合の損害については,死亡の時から進行する(平成16年判決)。
労災保険給付の請求権は,療養補償給付・休業補償給付等が2年,障害補償給付・遺族補償給付等が5年であり(労働者災害補償保険法42条),使用者に対する損害賠償請求権とは別に時効が進行する。
令和9年4月1日からは,政令で定める疾病(脳・心臓疾患,精神疾患及び石綿関連疾病が想定されている。)について,療養補償給付・休業補償給付等の時効が2年から5年に延長される(令和8年法律第60号)。
ただし,同日前に生じた疾病による事故を原因とする給付には,従前の2年が適用される(同法附則5条)。

第2 安全配慮義務と消滅時効期間
1 昭和50年判決

最高裁判所第三小法廷昭和50年2月25日判決(昭和48年(オ)第383号,民集29巻2号143頁)は,自衛隊員の死亡事故について遺族が国に損害賠償を請求した事案で,国は国家公務員に対し,公務遂行のための場所,施設若しくは器具等の設置管理又は公務の管理にあたって,国家公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務を負っていると判示した。
同判決は,安全配慮義務は,ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において,当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められるべきものであると述べている。

消滅時効期間について,同判決は,会計法30条が国の権利及び国に対する権利につき5年の消滅時効期間を定めたのは主として行政上の便宜を考慮したことに基づくものであり,安全配慮義務違反による損害賠償の関係は私人相互間の損害賠償の関係とその目的性質を異にするものではないとして,国に対する損害賠償請求権の消滅時効期間は,会計法30条所定の5年ではなく,改正前民法167条1項により10年と解すべきであると判示した。
当時の不法行為の時効は損害及び加害者を知った時から3年であったから,安全配慮義務違反という債務不履行構成を採ることで,時効期間は10年となった。
平成6年判決は,雇用契約上の付随義務としての安全配慮義務の不履行に基づく損害賠償請求権の消滅時効期間についても,昭和50年判決を参照して10年と解している。

2 改正後の時効期間

令和2年4月1日施行の改正民法により,債権一般の消滅時効は,権利を行使することができることを知った時から5年,権利を行使することができる時から10年となった(民法166条1項)。
さらに,人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権については,民法167条が166条1項2号の「十年間」を「二十年間」と読み替えている。
安全配慮義務違反による損害賠償請求権は,通常,労働者の生命又は身体の侵害によるものであるから,改正後の民法が適用される場合は「知った時から5年・行使することができる時から20年」となる。
改正前は10年の間であればいつでも請求できたのに対し,改正後は,損害と使用者の義務違反を知った時から5年という短い期間が加わった点に注意を要する。

3 改正前民法が適用される場合

附則10条4項は,施行日前に債権が生じた場合におけるその債権の消滅時効の期間について,なお従前の例によると定め,同条1項の括弧書は,施行日以後に債権が生じた場合であっても,その原因である法律行為が施行日前にされたときを「施行日前に債権が生じた場合」に含めている。
法務省の経過措置の説明資料は,平成31年4月に雇用契約を締結し,令和2年4月に勤務先の安全管理体制の不備による事故で傷害を負い,令和8年4月に安全配慮義務違反を理由に損害賠償を請求した事例について,債権発生の原因である法律行為(雇用契約)が施行日前にされているから,改正前の民法が適用され,権利を行使することができる時から10年間で消滅時効が完成すると説明している。
長年勤務した労働者の労災事故や職業病では,労働契約の締結が令和2年3月31日以前であることが多く,現在でも改正前民法の10年が適用される場面は多い。

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賃金・残業代の消滅時効は3年か5年か―労働基準法115条・附則143条の読替えと撤廃論議(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 労働基準法115条と附則143条の読替え1 115条の本則2 附則143条による「当分の間」の読替え3 起算点は賃金の支払期日第3 請求権ごとの時効期間1 一覧2 退職手当3 年次有給休暇4 災害補償その他の請求権5 付加金と記録の保存第4 適用開始と経過措置1 令和2年4月1日以後に支払期日が到来する賃金2 付加金の経過措置3 民法の経過措置との違い第5 「当分の間」の3年を撤廃すべきかという議論1 労働政策審議会の報告と建議2 施行後5年の検討規定3 日本弁護士連合会の意見書と会長声明4 調査基準日の状況第6 請求と時効管理の実務1 時効の完成を止める手段2 労働基準監督署への申告と時効3 証拠の確保4 労働基準法の賃金に当たらない債権第7 関連記事第8 出典・参考資料1 法令2 公的資料
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,未払の賃金・残業代(割増賃金)を請求できる期間,すなわち労働基準法の規定による賃金の請求権の消滅時効について,労働基準法115条と同法附則143条の関係を中心に説明するものである。
あわせて,退職手当,年次有給休暇,災害補償,付加金及び記録の保存期間の扱い,令和2年4月1日の改正の適用開始,「当分の間」の3年を撤廃すべきかという議論の経過,請求と時効管理の実務を扱う。
調査基準日は令和8年9月19日であり,条文はe-Gov法令検索で取得した同日時点の現行条文(令和9年4月1日施行予定の改正後の条文を含む。)と照合した。

債権の消滅時効の一般原則(民法166条)は債権の消滅時効は何年か―5年・10年の原則,短期消滅時効の廃止及び分野別の時効期間で,消滅時効全体の見取り図は消滅時効に関するメモ書きで扱っている。

2 結論

未払の賃金・残業代の消滅時効期間は,調査基準日現在,賃金の支払期日から3年である。
労働基準法115条の本則は5年と定めているが,同法附則143条3項が「当分の間」これを3年と読み替えており,この読替えは調査基準日現在も削除されていない。
退職手当(退職金)の請求権は5年,年次有給休暇の請求権と災害補償の請求権は2年である(ただし,令和9年4月1日以後,政令で定める疾病に係る災害補償の請求権は5年となる。)。
付加金の請求は違反の時から3年以内にしなければならず,賃金台帳等の記録の保存期間も当分の間3年とされている。

3年の期間が適用されるのは,令和2年4月1日以後に支払期日が到来した賃金であり,それより前に支払期日が到来した賃金には改正前の2年が適用される。
もっとも,改正前の2年が適用される賃金は既に全て2年を経過しているから,現在請求を検討する賃金は,事実上全て3年の対象である。
3年の経過が近い賃金については,内容証明郵便による催告(民法150条)で6か月の完成猶予を得た上で,その間に労働審判の申立て又は訴えの提起をするのが基本である。

第2 労働基準法115条と附則143条の読替え
1 115条の本則

労働基準法115条は,「この法律の規定による賃金の請求権はこれを行使することができる時から五年間、この法律の規定による災害補償その他の請求権(賃金の請求権を除く。)はこれを行使することができる時から二年間行わない場合においては、時効によつて消滅する。」と定める。
この規定は,労働基準法の一部を改正する法律(令和2年法律第13号)によって改められたものであり,改正前の115条は,退職手当を除く賃金,災害補償その他の請求権を2年,退職手当の請求権を5年としていた。

改正の契機は,民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)が,月又はこれより短い時期によって定めた使用人の給料に係る債権の1年の短期消滅時効(改正前民法174条1号)を含む職業別の短期消滅時効を廃止し,一般の債権の消滅時効期間を「知った時から5年・行使することができる時から10年」(民法166条1項)に改めたことである。
労働基準法の旧2年の規定は,民法の1年の短期消滅時効では労働者の保護に欠ける一方,民法の一般原則の10年では使用者に酷にすぎるという考慮から設けられた特則であり,基礎となった民法の短期消滅時効がなくなったことから,その在り方が見直された。

2 附則143条による「当分の間」の読替え

労働基準法附則143条3項は,115条の適用について,当分の間,同条中「賃金の請求権はこれを行使することができる時から五年間」とあるのを「退職手当の請求権はこれを行使することができる時から五年間、この法律の規定による賃金(退職手当を除く。)の請求権はこれを行使することができる時から三年間」と読み替えると定める。
その結果,退職手当以外の賃金の請求権は3年,退職手当の請求権は5年となる。
同条1項は記録の保存期間(109条)の「五年間」を「三年間」と,同条2項は付加金の請求期間(114条ただし書)の「五年」を「三年」と,それぞれ当分の間読み替えている。

「当分の間」の終期は法律に定められていないから,附則143条が法律の改正によって削除されない限り,3年の期間が続く。
調査基準日現在の現行条文には附則143条がそのまま置かれており,令和9年4月1日に施行が予定されている労働者災害補償保険法等の一部を改正する法律(令和8年法律第60号)による改正後の条文でも,附則143条3項は「第百十五条第一項」を読み替える形に改められた上で維持されている。

3 起算点は賃金の支払期日

115条の起算点は「これを行使することができる時」であり,民法166条1項1号のような「知った時」を起算点とする定め(主観的起算点)は置かれていない。
厚生労働省労働基準局の「改正労働基準法等に関するQ&A」(令和2年4月1日)は,起算点について現行の取扱いからの変更はなく,改正後の115条の「これを行使することができる時」は従来と同様に賃金支払期日が起算点であることを示していると説明している。

(続きを読む...)賃金・残業代の消滅時効は3年か5年か―労働基準法115条・附則143条の読替えと撤廃論議(AI作成)

産休・育休からの復職時の降格・役職外し―均等法9条3項・育児介護休業法10条と「特段の事情」(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論の要旨1 本記事が扱う場面2 結論の要旨第2 禁止規定と強行規定であることの意味1 二つの禁止規定2 強行規定であることの意味第3 「理由として」の判断――契機と原則・例外1 行政解釈(平成27年1月23日通達)2 最高裁平成26年10月23日判決の判断枠組み第4 育休復帰時の降格に関する津地裁令和8年3月27日判決1 事案2 判断枠組み3 特段の事情を否定した事情4 認められた請求第5 降格を伴わない配置も不利益取扱いになり得ること(東京高裁令和5年4月27日判決)1 事案と判断枠組み2 当てはめと認められた請求第6 請求の立て方と会社の側の対応1 社員の側の請求2 会社の側で整えておくこと第7 関連する山中弁護士ブログの記事第8 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 判例秘書で確認した裁判例(裁判所ウェブサイト未掲載)4 行政解釈
第1 本記事の対象と結論の要旨
1 本記事が扱う場面

本記事は,産前産後休業や育児休業を終えて職場に戻る社員を,休業前より低い役職や職位で復職させる場面を扱う。
店長や課長の役職を外し,それに伴って役職手当や基本給が下がる扱いが典型であり,会社の側からは「休業中に後任を置いたので空きがない」という事情が主張されることが多い。
基準日は令和8年9月19日であり,条文はe-Gov法令検索で,裁判例は裁判所ウェブサイト又は判例秘書の判決全文で,行政解釈は厚生労働省の法令等データベース又は同省ウェブサイト掲載の通達で確認したものに限っている。

2 結論の要旨

①妊娠・出産や産前産後休業を理由とする不利益取扱いは男女雇用機会均等法9条3項が,育児休業を理由とする不利益取扱いは育児・介護休業法10条が禁止しており,いずれも強行規定と解されている。
②休業を契機として降格させた場合は,原則として禁止される不利益取扱いに当たり,例外は,本人の自由な意思に基づく承諾があったといえる合理的な理由が客観的に存在する場合か,業務上の必要性から降格しないことに支障があり,法の趣旨・目的に実質的に反しないといえる特段の事情がある場合に限られる(最高裁平成26年10月23日判決)。
③育児休業からの復帰時の降格については,本人に利益がないのでむしろ厳格に判断すべきだとして,「後任がいてポストに空きがない」という事情だけでは特段の事情を認めず,差額賃金と慰謝料の支払を命じた裁判例がある(津地裁令和8年3月27日判決)。
④基本給や役職の等級が下がらない配置でも,業務の内容の質が著しく下がり,将来のキャリア形成に影響を及ぼしかねないものは不利益な取扱いに当たり得るとして,部下を付けない業務への配置を違法とした裁判例がある(東京高裁令和5年4月27日判決)。

第2 禁止規定と強行規定であることの意味
1 二つの禁止規定
(1) 均等法9条3項

男女雇用機会均等法9条3項は,事業主が,女性労働者が妊娠したこと,出産したこと,労働基準法65条1項の産前休業を請求し,又は同条1項・2項の休業をしたことその他の妊娠・出産に関する事由で厚生労働省令で定めるものを理由として,解雇その他不利益な取扱いをすることを禁止している。
妊娠中の女性が請求した場合の軽易な業務への転換(労働基準法65条3項)を契機とする降格も,この規定の問題として扱われた(第3の2)。

(2) 育児・介護休業法10条

育児・介護休業法10条は,事業主が,労働者が育児休業の申出をし,又は育児休業をしたこと等を理由として,解雇その他不利益な取扱いをすることを禁止している。
男性が育児休業を取得した場合もこの規定の対象であり,産前産後休業に続けて育児休業を取った女性が復職する場面では,均等法9条3項と育児・介護休業法10条の両方が問題になる。

2 強行規定であることの意味
(1) 均等法9条3項と育児・介護休業法10条の性質

最高裁平成26年10月23日第一小法廷判決は,均等法9条3項を強行規定とし,これに反する不利益取扱いは違法であり無効であるとした。
育児・介護休業法10条については最高裁の判断はないが,津地裁令和8年3月27日判決は,同条の文言や趣旨,同法に基づく指針(平成21年厚生労働省告示第509号)が降格を不利益な取扱いの例に挙げていること等から,同条も強行規定と解するのが相当であるとした。

(2) 無効であることの帰結

強行規定に反する降格は無効であるから,社員は,降格がなかったものとして,本来の役職・職位を前提とする賃金を請求することができる。
差額分を損害賠償として請求する構成に限られないことは,請求の立て方を考えるうえで重要である(第6の1)。

第3 「理由として」の判断――契機と原則・例外
1 行政解釈(平成27年1月23日通達)
(1) 契機としたときは原則として「理由として」に当たる

厚生労働省は,平成27年1月23日付け雇児発0123第1号通達で,均等法と育児・介護休業法の解釈通達を改め,妊娠・出産等や育児休業の申出・取得を契機として不利益取扱いが行われた場合は,原則としてそれを理由として不利益取扱いがなされたと解されるとした。

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退職後の競業避止義務と退職金の減額・不支給―誓約書・就業規則の有効性と返還請求(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論の要旨1 本記事が扱う場面2 結論の要旨第2 退職後の競業避止義務の合意の有効性1 合意の根拠と形式2 有効性の判断要素3 保険会社の執行役員の事案(東京高裁平成24年6月13日判決)4 合意が有効とされた例5 裁判例の分かれ目第3 同業他社へ転職した社員の退職金の減額・不支給条項1 半額とする規定(三晃社事件)2 全額を支給しない規定(中部日本広告社事件)3 業績退職金の不支給が認められた例(日本産業パートナーズ事件)4 労働基準法24条(全額払)との関係第4 支払済みの退職金の返還請求と,会社が整えておくこと1 返還請求の組み立て方2 規程・誓約書で確認しておく事項第5 関連する山中弁護士ブログの記事第6 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 判例秘書で確認した裁判例(裁判所ウェブサイト未掲載)
第1 本記事の対象と結論の要旨
1 本記事が扱う場面

本記事は,社員が退職した後に同業他社へ就職し,又は同業の事業を始めた場面で,会社が①退職後の競業を禁じる合意を根拠に責任を問えるか,②同業他社へ転職した社員の退職金を減額し,又は支給しない就業規則の条項を適用できるかを扱う。
基準日は令和8年9月19日であり,条文はe-Gov法令検索で,裁判例は裁判所ウェブサイト又は判例秘書の判決全文で確認したものに限っている。

この二つは,同じ転職を材料にしていても別の問題である。
①は競業を禁じる合意そのものが公序良俗に反しないかという問題であり,②はその会社の退職金制度の中で減額・不支給の条項が合理的か,またその社員に適用してよいかという問題である。
①の合意が有効でも②の条項がそのまま適用できるとは限らず,逆に②の検討だけで①を飛ばすこともできない。

2 結論の要旨

①退職後の競業避止の合意は,会社の正当な利益の保護を目的とするか,在職中の地位,禁止される業務・期間・地域の範囲,代償措置の有無等を考慮し,合理性を欠いて職業選択の自由を不当に害する場合には公序良俗に反して無効となる(東京高裁平成24年6月13日判決)。
②同業他社へ転職した社員の退職金を自己都合退職の半額とする規定は,退職金が功労報償的な性格を併せ持つ場合には合理性を否定されず,退職金の権利がその限度でしか発生しないという趣旨と解されるから,労働基準法24条(全額払)にも反しない(最高裁昭和52年8月9日判決)。
③もっとも,退職金の全額を支給しない条項については,単に競業に携わったというだけでは足りず,労働の対償を失わせることが相当といえる顕著な背信性がある場合に限って適用できるとした高裁判決がある(名古屋高裁平成2年8月31日判決)。
④他方で,競業避止の合意を有効とし,転職前に大量の資料を持ち出して転職先で同じ案件を担当した社員について,業績に連動する部分の退職金の不支給を認めた裁判例もある(東京高裁令和5年11月30日判決)。

第2 退職後の競業避止義務の合意の有効性
1 合意の根拠と形式
(1) 誓約書・労働契約で定めた場合

在職中の社員は,労働契約上の信義則(労働契約法3条4項)により,会社と競合する行為を控える義務を負うと一般に理解されている。
これに対し,退職後の競業を禁じるには,誓約書,労働契約書又は退職時の合意書等で,禁止の内容を明確に定めておく必要がある。
退職後の社員は会社との労働契約から離れており,憲法22条1項が保障する職業選択の自由を直接に制約する合意になるためである。

(2) 就業規則で定めた場合

就業規則に退職後の競業避止を定めた場合は,その条項が労働契約の内容になるかについて,労働契約法7条により,合理的な労働条件であることと社員への周知が問われる。
誓約書の条項と就業規則の条項は,有効性を検討する枠組みが違うので,紛争になったときは,まず会社が根拠とする条項がどちらに書かれているかを確認することになる。
両方に定めがある場合は,それぞれの文言と,社員が個別に同意したかどうかを分けて見る必要がある。

2 有効性の判断要素
(1) 判断枠組み

退職後の競業避止義務について,一般的な判断枠組みを示した最高裁判例は,裁判所ウェブサイトで確認した範囲では見当たらない。
東京高裁平成24年6月13日判決(平成24年(ネ)第920号,退職金請求控訴事件)は,職業選択の自由(憲法22条1項)を踏まえ,退職後の競業を避止すべき義務を定める合意は,会社の正当な利益の保護を目的とすること,契約期間中の地位,競業が禁止される業務・期間・地域の範囲,代償措置の有無等の諸事情を考慮し,合理性を欠き自由を不当に害すると判断される場合には,公序良俗(民法90条)に反して無効となるとした。

(2) 各要素の見方

目的については,営業秘密,顧客情報,独自のノウハウ等,会社が守る必要のある利益が具体的に特定できるかが問われる。
単に競争相手を増やしたくない,人材の流出を防ぎたいという目的だけでは,正当な利益の保護とは評価されにくい。

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固定残業代が有効になる要件―判別可能性・対価性と最高裁7判決,職務手当型の規程の点検(AI作成)

目次第1 固定残業代の有効性を決める二つの要件第2 判別可能性1 歩合給や基本給に含めただけでは判別できない2 高額の年俸でも同じ(最高裁平成29年7月7日判決)第3 対価性1 対価性の判断要素(最高裁平成30年7月19日判決)2 判別の前提としての対価性と賃金体系全体(最高裁令和2年3月30日判決)3 賃金体系を変えて手当を新設した場合(最高裁令和5年3月10日判決)第4 差額の支払と,無効とされた場合の計算1 固定残業代を超える割増賃金は別途支払う2 無効とされると手当は計算の基礎に入る第5 求人・募集の段階で求められる表示1 職業安定法と施行規則の定め2 指針が求める3点の明示3 明示を怠った場合の行政上の措置4 求人時の表示と固定残業代の有効性の関係第6 就業規則・雇用契約書を点検するときの着眼点1 職務手当に割増賃金を含める型の規程2 確認する資料と事実3 請求の期間第7 出典1 法令2 法律に基づく指針3 所管行政機関の広報資料4 裁判例
第1 固定残業代の有効性を決める二つの要件

基本給や手当に残業代をあらかじめ含めて支払う方法(固定残業代)は,それだけで労働基準法37条に違反するものではない。
最高裁平成29年7月7日判決は,基本給や諸手当に「あらかじめ含めることにより割増賃金を支払うという方法自体が直ちに同条に反するものではない。」とした。

もっとも,固定残業代の支払で割増賃金を支払ったといえるためには,次の要件がある。
①通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別できること(判別可能性)
②その手当が時間外労働等に対する対価として支払われるものとされていること(対価性)
③割増賃金に当たる部分が法定の計算額を下回るときは,差額を支払うこと

本記事は,令和8年9月19日を基準に,これらの要件を示した最高裁の7判決の全文を基に,要件の中身と,求人・募集の段階で求められる表示,就業規則や雇用契約書の定めを点検するときの着眼点を説明する。
残業代の計算方法と請求手続の全体は時間外労働,休日労働及び深夜労働と残業代請求で,休憩時間中の電話番が労働時間になるかは昼休みの電話番・来客対応は労働時間になるか―休憩と残業代の判断・立証で扱っている。

第2 判別可能性
1 歩合給や基本給に含めただけでは判別できない
(1) 歩合給の事案(最高裁平成6年6月13日判決)

タクシー乗務員の賃金が月間水揚高に一定の歩合を乗じた歩合給だけで,時間外・深夜労働をしても増額されない事案で,会社は歩合給に割増賃金も含まれていると主張した。
最高裁平成6年6月13日判決は,歩合給が時間外・深夜労働によって増額されず,「通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分とを判別することもできないものであったことからして、この歩合給の支給によって、上告人らに対して法三七条の規定する時間外及び深夜の割増賃金が支払われたとすることは困難なものというべき」とした。

(2) 基本給の事案(最高裁平成24年3月8日判決)

派遣労働者の基本給を月額41万円とし,月間総労働時間が180時間を超えた分だけ1時間当たりの額を加算する契約について,会社は180時間以内の時間外労働分は基本給に含まれていると主張した。
最高裁平成24年3月8日判決は,月額41万円の全体が基本給とされ,その一部が割増賃金として区別されていた事情はなく,時間外労働の時間も月によって大きく変動し得ることから,「通常の労働時間の賃金に当たる部分と同項の規定する時間外の割増賃金に当たる部分とを判別することはできないものというべきである。」とした。
同判決は,労働者が180時間以内の時間外労働の割増賃金の請求権を放棄したという原審の見方も,自由な意思に基づく放棄の意思表示が明確でないとして退けた。

同判決の補足意見は,一定時間分の残業手当を毎月の給与に含める場合には,その旨が雇用契約上明確にされ,支給時に時間数と金額が明示され,その時間を超えた残業には別途上乗せして支払う旨もあらかじめ明らかにされていなければならないと解すべきと思われる,と述べた。
これは補足意見であり法廷意見ではないが,固定残業代の定め方を検討する際の目安になる。

2 高額の年俸でも同じ(最高裁平成29年7月7日判決)

医師の年俸を1700万円とし,時間外勤務給与規程で支払う分以外の割増賃金は年俸に含めるという合意があった事案で,原審は,医師の業務の特質や給与の高さから,判別できなくても不都合はないとした。
最高裁平成29年7月7日判決は,割増賃金をあらかじめ基本給等に含める方法で支払う場合には,「通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要であり」,割増賃金に当たる部分が法定の計算額を下回るときは,使用者が差額を支払う義務を負うとした。
本件の合意では年俸のうち割増賃金として支払われた金額を確定できないから,判別できないとして,原判決の割増賃金と付加金の部分を破棄して差し戻した。

第3 対価性
1 対価性の判断要素(最高裁平成30年7月19日判決)

薬剤師の賃金が基本給46万1500円と業務手当10万1000円で,契約書,採用条件確認書及び賃金規程に業務手当は時間外手当に当たる旨の記載があった事案である。
最高裁平成30年7月19日判決(一般に日本ケミカル事件と呼ばれる)は,対価性について次のとおり述べた。
「雇用契約においてある手当が時間外労働等に対する対価として支払われるものとされているか否かは,雇用契約に係る契約書等の記載内容のほか,具体的事案に応じ,使用者の労働者に対する当該手当や割増賃金に関する説明の内容,労働者の実際の労働時間等の勤務状況などの事情を考慮して判断すべきである。」

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社会保険の資格を遡って喪失した場合の精算-保険料,給付返還及び医療費の保険者間調整(AI作成)

目次第1 資格の遡及訂正後に分けて処理する事項1 資格記録,保険料及び給付は別々に確認する2 資格喪失日の訂正と資格取得記録の取消しを区別する第2 旧制度の健康保険料及び厚生年金保険料1 事業主を通じて保険料を精算する2 同月得喪には限定的な取扱いがある第3 本来加入すべき制度への遡及切替え1 社会保険資格を遡って失った場合の国民健康保険2 社会保険へ遡って加入した場合の国保保険料3 厚生年金資格を遡って失った場合の国民年金第4 資格喪失後に受診した医療費の原則的な精算1 旧保険者から保険給付相当額の返還を求められる2 現保険者へ療養費等を請求する3 資格喪失後受診の返還を認めた裁判例第5 保険者間調整による医療費の精算1 本人の一時的な立替えを避ける仕組みである2 申出,申請到達及び精算完了を区別する3 保険者間調整と返還債務に関する裁判例第6 傷病手当金等の現金給付1 資格喪失後の給付であることだけでは返還対象とならない2 資格取得記録が取り消された場合は要件を再判定する第7 時効及び期間制限1 保険料,給付及び返還金は同じ時効ではない2 国保保険料の賦課期間制限は消滅時効と分ける第8 国保資格喪失届を長期間提出しなかった裁判例1 東京地裁令和3年10月21日判決2 資格喪失と賦課決定の効力を分ける第9 実務上の確認手順1 最初に集める資料2 資格記録から精算完了までの順序3 保険者へ確認する事項第10 判断上の注意点1 返還通知は不正の認定と同じではない2 返還額と最終負担額は同じとは限らない第11 出典1 法令2 裁判例3 厚生労働省及び保険者の資料4 自治体の実務案内
第1 資格の遡及訂正後に分けて処理する事項
1 資格記録,保険料及び給付は別々に確認する

健康保険又は厚生年金保険の資格が過去に遡って訂正された場合,金銭の精算を一つの問題として処理してはならない。
本記事では,①資格取得日及び資格喪失日の訂正,②旧制度で徴収された保険料の精算,③本来加入すべき医療保険及び年金制度への遡及加入,④旧制度から支給された医療費その他の給付の精算という四つに分けて説明する。

本記事の基準日は令和8年9月16日である。
資格の遡及訂正は個別の事実関係,保険者の確認,自治体の賦課方式及び処分時期によって結果が変わるため,実際の通知書及び対象日を確認する必要がある。

2 資格喪失日の訂正と資格取得記録の取消しを区別する

健康保険法36条は,被保険者が適用事業所に使用されなくなった場合などには,原則としてその翌日に資格を喪失すると定めている。
退職日その他の基礎事実が後から訂正された場合には,資格喪失日も過去に遡って訂正されることがある。

これに対し,後日の調査で実態上の使用関係が当初から存在しなかったと判断された場合には,単なる退職後の資格喪失ではなく,資格取得記録自体が過去に遡って訂正されることがある。
本人及び事業主は,通知書に記載された名称だけでなく,①訂正前後の資格取得日,②訂正前後の資格喪失日,③訂正理由,④対象期間及び⑤不服申立ての教示を確認する必要がある。

被保険者資格の実態判断については,関連記事である「「国保逃れ」と社会保険料削減ビジネス―名目的役員・短時間勤務の被保険者資格と資格喪失後の対応(AI作成)」で詳しく説明している。

第2 旧制度の健康保険料及び厚生年金保険料
1 事業主を通じて保険料を精算する

健康保険料及び厚生年金保険料は,事業主が被保険者負担分と事業主負担分を合わせて納付する仕組みである(健康保険法161条,厚生年金保険法82条)。
資格記録が遡って訂正された場合の保険者又は日本年金機構との精算は通常は事業主単位で行われ,その後に事業主と本人との間で給与から控除済みの本人負担分を精算することになる。

健康保険法164条及び厚生年金保険法83条2項は,納付済みの保険料が本来の額を超えるときに,将来の保険料へ充当する取扱いを定めている。
このため,本人へ直ちに保険者から同額の現金が支払われるとは限らず,事業所に届いた通知,事業所の保険料納付記録及び給与上の返金を照合する必要がある。

2 同月得喪には限定的な取扱いがある

日本年金機構は,厚生年金保険の資格を取得した月にその資格を喪失し,同じ月に別の厚生年金保険又は国民年金の資格を取得した場合には,先に喪失した厚生年金保険料の納付が不要となると案内している。
この場合,日本年金機構から対象事業所へ還付に関する通知が送られ,事業所から本人へ被保険者負担分が返還される。

もっとも,同月得喪の取扱いを複数月に及ぶ資格取消し又は全ての遡及訂正へそのまま当てはめることはできない。
対象月ごとに,訂正後の健康保険及び年金の資格並びに保険料納付義務を確認する必要がある。

第3 本来加入すべき制度への遡及切替え
1 社会保険資格を遡って失った場合の国民健康保険

国民健康保険法7条によれば,被用者保険の被保険者等に該当しなくなった者は,市町村の区域内に住所を有するなどの要件を満たせば,その日に国民健康保険の資格を取得する。
届出によって初めて資格が発生する制度ではないため,健康保険の資格が遡って訂正された結果,空白期間について国民健康保険の資格及び保険料負担が遡って問題となる。

自治体が保険料方式を採るか国民健康保険税方式を採るかにより,期間制限その他の取扱いは同一ではない。
資格訂正を知った時点で,住所地の自治体へ訂正通知を示し,資格取得日,賦課可能期間,保険料額及び既受診分の取扱いを確認する必要がある。

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採用時の年齢制限と人材紹介会社への指示-「35歳以下」等の条件が許される場合と許されない場合(AI作成)

目次

第1 この記事の対象と結論1 この記事の対象2 先に押さえるべき結論第2 年齢制限禁止の原則1 求人広告だけでなく実際の選考にも適用される2 人材紹介会社を利用する場合にも適用される3 行政上の対応と私法上の問題は分ける第3 年齢制限が認められる六つの例外1 「定年を上限」-定年年齢を上限とする場合2 「法令の規定により年齢制限がある」場合3 「キャリア形成」-長期勤続によるキャリア形成を図る場合4 「技能・ノウハウの継承」が必要な場合5 「芸術・芸能の分野」で表現の真実性が求められる場合6 「高年齢者等の特定年齢層の雇用促進」を図る場合第4 「35歳以下」等の条件をどう評価するか1 「35歳以下」は自動的に適法になる数字ではない2 経験者のヘッドハンティングでは原則に戻る3 年齢を別の言葉で隠しても結論は変わらない第5 人材紹介会社へ指示するときの実務1 紹介会社も例外事由を確認する2 探索条件と選考条件を区別する3 契約書には法令遵守と条件変更の手順を置く第6 年齢条件を職務基準へ置き換える方法1 学習可能性は具体的な能力で示す2 定着可能性は意思と条件の一致で確認する3 職位と賃金は年齢でなく職務内容から示す4 紹介会社への依頼文の例第7 紹介会社との契約紛争での注意点1 年齢条件の適法性を先に確認する2 年齢以外の役務は別に検証する3 改善催告は適法な基準で行う第8 実務チェックリスト1 求人企業側2 人材紹介会社側第9 関連記事第10 出典
第1 この記事の対象と結論
1 この記事の対象

本記事は,事業主が中途採用,ヘッドハンティング又は人材紹介を行う際に,「35歳以下」,「40歳未満」又は「若手中心」などの年齢条件を設け,又は人材紹介会社にそのような条件で候補者を探索するよう指示できるかを整理するものである。
法令及び行政資料の基準日は令和8年9月16日である。

2 先に押さえるべき結論

労働施策総合推進法9条により,事業主は,募集及び採用について,原則として年齢にかかわりなく均等な機会を与えなければならない。
求人票を「年齢不問」としながら,人材紹介会社だけに年齢による足切りを指示することも,この原則を免れる方法にはならない。

年齢制限が許されるのは,同法施行規則1条の3第1項各号の例外に該当する場合である。
なかでも「長期勤続によるキャリア形成」を理由とする例外は,期間の定めのない労働契約であることに加え,職業経験を条件とせず,新卒者と同等の訓練・育成体制,配置及び処遇で育成することを要する。
したがって,他社で就業中の経験者を即戦力として採用するヘッドハンティングに「35歳以下」という上限を設けることは,通常,この例外によって正当化しにくい。

募集条件を決める際は,「新しい仕事を覚えられること」,「長く勤務できること」,「管理職でない職位から勤務できること」などの目的を,年齢ではなく,職務内容,必要な能力,経験,技能,勤務条件及び本人の意思に置き換える必要がある。

第2 年齢制限禁止の原則
1 求人広告だけでなく実際の選考にも適用される

労働施策総合推進法9条は,募集及び採用の両方を対象としている。
求人票に年齢条件を書かなければよいというものではなく,応募受付,書類選考,面接及び採否判断のいずれにおいても,法定の例外がないまま年齢を理由に候補者を排除することは許されない。

厚生労働省のリーフレットは,求人票を年齢不問としながら年齢を理由に応募を断り,又は採否を決めることも法の規定に反すると説明している。
「35歳未満歓迎」のように歓迎条件として表現しても,実際に一定年齢以上を採用しないのであれば,実質的な年齢制限として扱われる。

2 人材紹介会社を利用する場合にも適用される

年齢制限禁止は,事業主による直接募集だけでなく,公共職業安定所,民間の職業紹介事業者及び求人広告を通じた募集・採用にも広く適用される。
ヘッドハンティング会社に対し,「求人票には書かないが,実際は35歳以下に限る」,「同業者なら40歳未満までよい」などと指示しても,適法な例外がなければ,年齢による実質的な選別であることに変わりはない。

人材紹介会社が候補者の年齢情報を保有し,又は検索条件に年齢項目を設けることと,求人企業が年齢を理由に候補者を排除することは区別する必要がある。
厚生労働省のQ&A(Q1-26)は,求職者情報をどの範囲で開示するか及び年齢で検索できる機能を設けるかは労働施策総合推進法の問題とならない一方,求人事業主が例外事由に該当しないにもかかわらず求職者情報に基づいて年齢で求職者を選別する行為は同法に反すると説明している。

3 行政上の対応と私法上の問題は分ける

厚生労働大臣は,法の施行に必要な限度で,事業主に対して助言,指導又は勧告をすることができ(同法33条1項),必要な資料の提出及び説明を求めることができる(同法35条)。
具体的な相談窓口は,都道府県労働局又はハローワークである。

他方,求人企業と人材紹介会社との契約上,年齢条件に従わなかったことが債務不履行になるかは,行政法上の適法性とは別の私法上の問題である。
法令に反する年齢による足切りを実施しなかったことを,そのまま契約違反と評価することは相当でない。
もっとも,人材紹介会社が,適法な求人要件の確認,候補者探索,面接調整,フォロー又は報告を怠ったかは,別に検討できる。

第3 年齢制限が認められる六つの例外

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非正規社員から待遇差の説明を求められたときの回答手順と想定問答(AI作成)

第1 この記事の対象と結論1 対象と基準時2 最初にすべきこと3 令和8年10月1日前後の区別第2 説明請求を受けた後の七段階1 請求内容をそのまま記録する2 適用法条と雇用区分を確定する3 待遇を一項目ずつ分ける4 比較対象となる通常の労働者を選ぶ5 待遇の性質・目的を確定する6 相違を証拠に接続する7 回答を承認し,説明後も記録する第3 回答前に確認する資料第4 待遇差に関する想定問答1 契約書に署名しているから,待遇差を承諾したのではないか2 同じ仕事をしているのに,なぜ賃金が違うのか3 基本給が低い理由はどう説明すべきか4 非正規社員には賞与を支給しなくてもよいか5 非正規社員には退職手当を支給しなくてもよいか6 家族手当は正社員だけでよいか7 住宅手当は転勤のある正社員だけでよいか8 夏季冬季休暇は同じ日数を与える必要があるか9 例外的に仕事の少ない正社員と比べればよいか10 有期契約だから待遇が低くてもよいか11 定年後再雇用者は定年前の本人と比べればよいか12 正社員の待遇を下げて差をなくしてよいか第5 回答書の組み立て1 結論から断定しない2 基本給の回答例3 説明できないときの回答第6 主要な最高裁判例第7 一次資料と未確認資料の区別出典・参考資料1 法令・行政資料2 裁判例3 文献
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準時

本記事は,令和8年9月16日現在,直接雇用の短時間労働者又は有期雇用労働者から,正社員との基本給,賞与,退職手当,各種手当又は休暇の相違について説明を求められた場合の対応手順を整理するものである。
派遣労働者については,派遣先均等・均衡方式と労使協定方式で確認事項が異なるため,別途の検討を要する。

2 最初にすべきこと

説明請求を受けたときは,人事担当者がその場で「正社員とは責任が違う」「契約で決まっている」などと回答せず,質問の対象となる待遇,比較対象となる通常の労働者,制度決定時の目的及び現在の運用実態を確定する必要がある。
説明できない待遇差は,説明文だけを整えるのではなく,追加調査又は制度見直しへ戻すべきである。

3 令和8年10月1日前後の区別

短時間・有期雇用労働法14条2項に基づく説明請求権及び事業主の説明義務は,令和8年10月1日に初めて生じるものではなく,基準日現在も存在する。
令和8年10月1日に追加されるのは,雇入れ時に,通常の労働者との待遇の相違の内容及び理由等について説明を求めることができる旨を明示する義務である。
同日から適用される改正同一労働同一賃金ガイドラインは,退職手当,無事故手当,家族手当,住宅手当,夏季冬季休暇及び褒賞を新たに明記し,説明不足等が「その他の事情」として考慮され得ることなどを明確にしている。

第2 説明請求を受けた後の七段階
1 請求内容をそのまま記録する

請求日,請求者,質問された待遇,比較対象として挙げられた正社員,回答希望時期及び請求方法を記録する。
口頭の質問であっても無視せず,質問の意味が曖昧な場合は,対象となる賃金項目,期間及び比較対象を確認する。
説明を求めたことを理由とする不利益取扱いは禁止されているため,請求後の配置,評価,更新及び雇止めは,通常の人事判断と説明請求への対応を分けて記録する。

2 適用法条と雇用区分を確定する

パート,アルバイト,契約社員,嘱託社員等の名称ではなく,所定労働時間と契約期間によって短時間労働者又は有期雇用労働者に該当するかを確認する。
無期雇用のフルタイム労働者は,原則として短時間・有期雇用労働法8条・9条の直接の対象ではないが,労働契約法3条2項による均衡の考慮は別に残る。

3 待遇を一項目ずつ分ける

月例賃金を総額だけで比べず,基本給,職務手当,役職手当,精皆勤手当,家族手当,住宅手当,通勤手当等に分ける。
一時金についても,賞与,慰労金,褒賞及び退職手当を区別し,休暇は年次有給休暇,夏季冬季休暇,病気休暇等を区別する。
短時間・有期雇用労働法8条の不合理性は,個々の待遇ごとに判断されるからである。

4 比較対象となる通常の労働者を選ぶ

比較対象は,会社に雇用される通常の労働者のうち,問題となる待遇に対応する者又は雇用管理区分である。
能力不足,休職復帰直後又は健康上の配慮等により標準的な職務から一時的に外れた正社員だけを選び,特定の非正規労働者と比べるべきではない。
同職種,同等級,同勤務地,同じ上司の下で働く者その他の候補を挙げ,誰を選んだかだけでなく,なぜその者又は区分を選んだかも記録する。

5 待遇の性質・目的を確定する

就業規則の名称だけでなく,支給要件,算定方法,制度導入時の資料,実際の支給実績及び労使協議から,待遇の性質及び目的を認定する。
基本給,賞与及び退職手当は複数の目的を持つことが多いため,一つの目的だけで全額の差を説明しない。
制度目的が現在の運用と合っていない場合は,現在の実態に即した説明と制度改定の要否を分けて検討する。

6 相違を証拠に接続する

職務内容については,作業項目だけでなく,責任,権限,事故・苦情対応,部下指導,決裁及び成果指標を比べる。
職務内容及び配置の変更範囲については,規程上の転勤,配置転換,職種変更,昇進及び管理職登用の可能性だけでなく,過去の人事発令及び実績を確認する。
「将来の期待が違う」「正社員には転勤がある」という抽象的な説明は,実際の制度及び運用の資料へ置き換える必要がある。

7 回答を承認し,説明後も記録する

回答案は,人事,法務及び必要な決裁者が,規程,実績及び給与資料との整合性を確認する。
説明日,説明者,交付資料,労働者の質問,即答できなかった事項及び追加回答日を記録し,回答によって新たに判明した制度上の問題を待遇別検討票へ戻す。
説明請求への対応は,一度きりの答弁ではなく,待遇制度を継続的に監査する入口である。

第3 回答前に確認する資料

確認分野
主な資料
確認する事実

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「国保逃れ」と社会保険料削減ビジネス―名目的役員・短時間勤務の被保険者資格と資格喪失後の対応(AI作成)

第1 この記事の対象と結論1 「国保逃れ」という呼び方と法的な問題2 被保険者資格は二段階で判断する第2 厚生労働省の調査と令和8年9月14日通知1 調査で確認された数値2 数値から読み取れないこと第3 役員型の被保険者資格1 経営参画を内容とする経常的な労務2 労務の対価としての経常的な報酬3 資格を否定する方向だけに読まない第4 勤務時間が短い正規型労働者の被保険者資格1 令和8年9月14日通知の判断枠組み2 報酬の対価性が疑われる事情3 経常的な労務と認められにくい事情第5 事業所側及び加入者側が確保すべき資料1 事業所側の資料2 加入者側の資料第6 資格喪失後に分けて検討すべき問題1 資格喪失日と医療保険・年金の切替え2 保険料・給付・契約責任等は別問題である3 確認請求及び不服申立て第7 裁判例から分かる実態判断1 東京地裁平成28年6月17日判決2 東京地裁平成28年11月1日判決3 東京地裁平成27年3月20日判決第8 よくある誤解第9 関連記事第10 出典
第1 この記事の対象と結論
1 「国保逃れ」という呼び方と法的な問題

本記事は,個人事業主又はフリーランス等が,法人の名目的な役員又は勤務時間が極端に短い正規型労働者となり,健康保険及び厚生年金保険の被保険者資格を取得する仕組みについて,令和8年9月16日現在の法令,行政通知及び裁判例に基づいて整理するものである。
厚生労働省の資料は「いわゆる社会保険料削減ビジネス」と表現しており,本記事で「国保逃れ」という場合も,報道又はSNSで用いられる通称を示すにすぎない。

事業所に使用されている実態があり,法定要件を満たす者が健康保険及び厚生年金保険に加入すること自体は適法である。
問題は,役員又は労働者という契約上の肩書だけを作り,事業所との実質的な使用関係,経常的な労務又はその対価としての経常的な報酬を欠くのに,被保険者資格を取得する場合である。

2 被保険者資格は二段階で判断する

被保険者資格は,次の二段階を分けて検討する必要がある。
① 契約名ではなく,事業所との間に実態上の使用関係又は常用的使用関係があるか。
② ①を満たす者について,健康保険法及び厚生年金保険法の適用除外又は短時間労働者に関する加入要件を満たすか。

したがって,所定労働時間,所定労働日数又は月額賃金を数値要件に合わせただけでは,第一段階の使用関係を代替できない。
反対に,勤務時間が短いこと又は役員が定期的に出勤しないことだけで,当然に資格が否定されるわけでもない。

第2 厚生労働省の調査と令和8年9月14日通知
1 調査で確認された数値

第85回社会保障審議会年金事業管理部会資料4によれば,令和8年8月31日現在,いわゆる社会保険料削減ビジネスを行っていると疑われるため調査を実施した事業所は45社であった。
このうち38社は,事業所調査による指導後に対象者全員の被保険者資格喪失届を提出し,指導により資格を喪失した人数は1万1610人であり,その余の事業所は調査継続中とされた。

厚生労働省は,同年9月14日,役員型について同年3月18日通知を改正し,これとは別に,勤務時間が短い正規型労働者に関する通知を発出した。
短時間正規型の通知は,報道発表を含む5頁版と,第85回部会参考資料3の4頁版があるが,通知本文の内容は同じである。

2 数値から読み取れないこと

前記数値は,日本年金機構による行政調査及び指導の集計である。
「38社について違法が裁判で確定した」「1万1610人全員に故意があった」「資格喪失届を提出した者は刑事責任を負う」といった意味ではない。

行政指導に応じた資格喪失届の提出,行政処分,加入者本人の故意又は不正,事業者との契約責任及び刑事責任は,それぞれ根拠と要件が異なる。
具体的案件では,通知の文言と事実を対応させ,問題ごとに分けて判断する必要がある。

第3 役員型の被保険者資格
1 経営参画を内容とする経常的な労務

令和8年3月18日通知及び同年9月14日改正後の全文は,法人役員である個人事業主等について,法人の経営に対する参画を内容とする経常的な労務の提供と,その対価として経常的に支払われる報酬を基本とする。
単なる自己研さん,活動報告又は情報共有,事業紹介への協力,役員相互の研さん又は互助的な紹介だけでは,経営参画を内容とする経常的な労務とは認められにくい。

他方,出勤回数だけで結論を出すべきではない。
決裁権のある担当業務,職員に対する指揮監督,役員間の取りまとめ,代表者への報告,事業計画又は予算への関与等を,実際の資料により確認する必要がある。

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ヘッドハンティング・人材スカウト契約の中途解約と返金-成果が出ない場合の確認事項(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 この記事の対象2 先に押さえるべき結論第2 人材スカウト契約の法的な位置付け1 スカウト行為も職業紹介に含まれ得る2 契約全体は一つの典型契約とは限らない3 成果非保証と役務義務を混同しない第3 報酬と採用人数の数え方1 金銭を四つに分ける2 内定と入社を区別する3 内定辞退と早期離職を区別する4 採用予定人数三名の計算例第4 成果が出ない場合の債務不履行の見方1 担当者の力量不足という評価を事実へ置き換える2 過去の実績は参考資料であって保証ではない3 求人企業側の協力義務も確認する4 定期報告不足と探索業務の不履行を分ける5 候補者の経歴及び適性は調査分担を確認する6 候補者の年齢条件は適法性を先に確認する第5 終了原因の区別と返金・損害賠償1 契約上の中途解約2 民法651条の任意解除3 債務不履行解除4 合意解約5 返金と損害賠償は根拠が異なる6 定型約款又は一方的な規約の確認第6 返金額を検討する手順1 契約上の計算式を再現する2 約定額を上回る精算を求める方法第7 月間報告書と証拠の読み方1 活動量だけでなく工程を確認する2 面接後のフォローを時系列化する3 保存すべき資料第8 通知と交渉の進め方1 最初の照会で確認する事項2 是正要求と解約協議を分ける3 解約通知に記載する事項第9 今後の契約条項で定める事項1 役務仕様と報告2 報酬の発生時点と辞退・離職3 期間,更新,中途解約及び精算第10 関連記事第11 出典
第1 この記事の対象と結論
1 この記事の対象

本記事は,求人企業がヘッドハンティング会社又は人材スカウト会社に対し,現に他社で就業している人材の探索,転職勧奨,面接設定及び入社までの支援を委託したものの,期待した採用成果が出ない場合を対象とする。
一般の登録型人材紹介と異なり,契約締結時にコンサルティング料又は活動費を支払い,内定,入社又は一定期間の在籍時に別の報酬を支払う契約を念頭に置く。

本記事の法令・行政資料の基準日は令和8年9月15日である。
個別の返金額は,契約書,確認書,申込書,手数料表,候補者ごとの経過及び解約時点によって変わるため,以下の計算例だけで確定することはできない。

2 先に押さえるべき結論

採用成果が出ないことだけで,直ちに人材スカウト会社の債務不履行となるわけではない。
しかし,成果を保証しない契約であっても,合意した探索,候補者への接触,面接後のフォロー,求人企業への報告その他の役務まで免除されるものではない。

検討の順序は,①契約上の成果と役務を分けること,②前払報酬と成功報酬の性質を分けること,③「内定」「内定確定」「採用」「入社」及び「在籍」の定義を確認すること,④候補者の内定辞退と入社後の早期離職を分けること,⑤契約上の中途解約,民法651条の任意解除,債務不履行解除及び合意解約を分けること,⑥月間報告書と個別連絡から実施済みの役務と未実施の役務を特定することである。

返金条項がある場合も,その条項だけで直ちに結論を出すのではなく,契約上の中途解約,民法651条の任意解除,債務不履行解除及び合意解約を区別し,各終了原因に精算条項が適用されるか,同法648条3項の割合報酬が生じるか,及び同法651条2項の損害賠償が生じるかを順に確認する。
もっとも,契約どおりの返金額に納得できないという事情だけでは増額請求の根拠にならず,より多い返金又は損害賠償を求めるには,条項解釈,未履行部分,債務不履行,説明内容との不一致又は合意による精算のいずれを根拠とするかを明らかにする必要がある。

第2 人材スカウト契約の法的な位置付け
1 スカウト行為も職業紹介に含まれ得る

職業安定法4条1項は,職業紹介を,求人及び求職の申込みを受け,求人者と求職者との間の雇用関係の成立をあっせんすることと定義している。
サービス名が「ヘッドハンティング」「人材スカウト」「採用コンサルティング」であっても,実際に雇用成立へ向けたあっせんを行う場合には,有料職業紹介事業の規制を検討する必要がある。

最高裁平成6年4月22日第二小法廷判決(平成3年(オ)第1943号,民集48巻3号944頁)は,求人者に紹介する人材を探索し,求人者に就職するよう勧奨するスカウト行為も,職業安定法上の職業紹介におけるあっせんに含まれると判断した。
求職の申込みはあっせんに先立つ必要はなく,紹介者の勧奨に応じて求職の申込みがされる場合も含まれるとした点も重要である。

2 契約全体は一つの典型契約とは限らない

人材スカウト契約には,採用方針の助言,人材の探索,候補者への接触,転職意思の形成支援,面接調整,条件交渉及び入社確認など,性質の異なる役務が含まれる。
契約全体を一律に請負又は準委任と決めるのではなく,報酬ごとに,何の対価であり,どの時点で発生し,途中終了時にどのように精算する合意であるかを確認する。

民法656条は,法律行為でない事務の委託に委任の規定を準用している。
準委任に当たる部分については,善管注意義務を定める同法644条,報告義務を定める同法645条,報酬を定める同法648条及び648条の2,解除を定める同法651条等が問題となるが,実際の契約文言による修正も含めて判断する必要がある。

3 成果非保証と役務義務を混同しない

候補者が転職に応じるか,求人企業が内定を出すか,候補者が内定を承諾して入社するかは,契約当事者だけでは支配できない。
そのため,採用人数を保証しない旨の条項には合理性がある。

しかし,成果非保証条項は,契約で具体的に約束した活動を行わなくてよいという条項ではない。
求人要件の聞取り,対象市場の設計,候補者への接触,面接設定,面接後の連絡,求人企業へのフィードバック依頼,進捗報告等が合意された役務であれば,その実施状況を別に検証する。

第3 報酬と採用人数の数え方

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在宅勤務の退勤打刻は残業時間の証拠になるか―残業許可制・PCログ・中抜けの判断と立証(AI作成)

目次

第1 結論と本記事の対象1 結論2 資料の範囲と基準日第2 労働時間の法的な判断基準1 使用者の指揮命令下に置かれている時間2 在宅勤務にも労働基準法が適用されること第3 退勤打刻は何を証明するか1 打刻が示す事実2 事業場勤務と在宅勤務の違い3 位置情報付き打刻の限界第4 残業許可制がある場合1 無許可残業が当然に無償となるわけではないこと2 厚生労働省Q&Aが示す確認事項3 残業許可制を実効的に運用する方法第5 打刻と照合する証拠1 勤怠記録・修正履歴・承認履歴2 パソコン・VPN・業務システムの記録3 メール・チャット・電話・会議記録4 成果物・ファイル更新・予定表・業務量5 休憩・中抜け第6 勤務日ごとの証拠整理表第7 労働者側と会社側の実務対応1 労働者側の確認事項2 会社側の確認事項3 紛争になった後の証拠保全第8 関連記事第9 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 厚生労働省資料4 検討の端緒となった二次資料
第1 結論と本記事の対象
1 結論

在宅勤務の退勤打刻は,労働者が申告した終業時刻を示す重要な資料である。
しかし,自宅にいたことと業務に従事していたことが一致するとは限らないため,退勤打刻だけで,始業から退勤まで継続して労働したことが常に認められるわけではない。
反対に,在宅勤務であること又は残業の事前許可がないことだけで,打刻された時間帯の労働時間該当性が一律に否定されるわけでもない。

労働時間に当たるかは,使用者の指揮命令下に置かれていたかという客観的な基準により判断される。
実務では,勤怠打刻,パソコン・VPNの記録,メール・業務チャット・電話,予定表,ファイル更新・成果物,上司の指示・認識,業務量・期限及び休憩・中抜けを勤務日ごとに照合する必要がある。

2 資料の範囲と基準日

本記事は,令和8年9月15日現在の労働基準法,最高裁判例及び厚生労働省の公表資料を基礎とし,在宅勤務の退勤打刻,残業許可制及び周辺記録の証拠上の位置付けを整理するものである。
実際の残業代計算では,労働契約,就業規則,テレワーク勤務規程,適用される労働時間制度,休憩時間,法定休日及び既払賃金も個別に確認する必要がある。

本記事の検討の端緒となった二件のX投稿は,東京地裁令和7年9月3日判決に関する二次的な紹介である。
同判決は裁判所ウェブサイトでは確認できず,判決全文も確認できていないため,本記事の法的結論の根拠には用いていない。
裁判所ウェブサイトに掲載されていないことは,裁判例が存在しないことを意味しない。

第2 労働時間の法的な判断基準
1 使用者の指揮命令下に置かれている時間

最高裁平成12年3月9日第一小法廷判決は,労働基準法上の労働時間を,労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間であるとした。
労働時間に当たるかは,就業規則や社内制度の名称だけで決まるのではなく,労働者の行為を使用者の指揮命令下に置かれたものと客観的に評価できるかによって決まる。

したがって,「在宅勤務中であった」,「勤怠システム上は退勤前であった」又は「残業許可を得ていなかった」という一つの事実だけで結論を出すのは相当でない。
当日の具体的な業務,指示,成果及び時間の使い方を証拠に即して検討する必要がある。

2 在宅勤務にも労働基準法が適用されること

厚生労働省のテレワークの場合,労働時間管理や残業代はどうなりますかは,使用者が労働時間を適正に把握・管理する責務はテレワークでも同じであり,残業を行わせる場合には36協定と割増賃金の支払が必要であると説明している。
在宅勤務で使用者が現認できないことは,労働時間管理をしなくてよい理由にはならない。

テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドラインは,使用者が在宅勤務の労働時間管理方法をあらかじめ明確にすること,情報通信機器の使用時間等の客観的記録又は適正な自己申告を利用することを示している。
制度設計と個別紛争における事実認定は区別しつつ,平時の管理方法が実態を反映していたかを確認することが重要である。

第3 退勤打刻は何を証明するか
1 打刻が示す事実

退勤打刻は,原則として,労働者が勤怠システムに終業時刻として入力又は送信した時刻を示す。
打刻方法がICカード,パソコン,携帯電話又は自己申告のいずれであるか,修正履歴,承認履歴及び位置情報が保存されるかによって,記録から分かる事実は異なる。

本記事では,打刻を労働時間認定の出発点となる資料と整理する。

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労働審判か民事訴訟か―復職希望・金銭解決・証拠量から選ぶ実務(AI作成)

目次第1 手続選択は解決目標から始める第2 労働審判の基本構造第3 労働審判と民事訴訟の比較第4 復職希望と金銭解決の意向を具体化する第5 争点と証拠の量を見積もる1 最初に主要争点を一覧化する2 証拠を時系列と争点の両方で整理する第6 労働審判を選ぶ場合の準備第7 民事訴訟を選ぶ場合と保全手続第8 統計と裁判例の扱い第9 出典
第1 手続選択は解決目標から始める

労働事件で労働審判と民事訴訟のどちらを選ぶかは,短期間で終わる可能性だけでは決められない。
まず,依頼者が復職を望むのか,金銭解決を望むのか,地位確認と賃金支払を最後まで判決で求めるのかを確認する。

令和8年2月の令和7年度実務協議会(冬季)資料は,裁判所,弁護士会,労働局等が各手続の特徴について認識を共有し,適切な手続選択を促す必要性を挙げている(PDF実頁11頁)。
同資料は司法行政上の課題認識を示すものであり,個別事件について特定の手続を選ぶ基準を法的に定めるものではない。

第2 労働審判の基本構造

労働審判手続は,個々の労働者と事業主との間の労働関係民事紛争を対象とする非公開の手続である。
労働審判官1人と,労使双方の実情に関する知識経験を有する労働審判員2人で構成する労働審判委員会が審理し,まず調停による解決を試みる。

期日は原則として3回以内であるため,申立段階から主張と証拠を集中的に準備する必要がある。
調停が成立しないときは,認められた権利関係と手続の経過を踏まえて労働審判が行われることがあり,2週間以内に適法な異議が申し立てられると労働審判は効力を失って訴訟へ移行する。

労働審判員の任命,役割,権限及び関連裁判例は,既存記事「労働審判員の任命,役割,権限及び裁判例(AI作成)」も参照されたい。

第3 労働審判と民事訴訟の比較

確認項目労働審判を検討しやすい事情民事訴訟を検討しやすい事情解決目標早期の金銭解決を含む調整の余地がある地位確認等について判決による終局的判断を重視する争点・証拠主要な争点と証拠を申立時に集約できる多数の争点,関係者又は証拠について段階的な審理を要する相手方の対応出席と具体的な協議が見込める異議申立てが強く見込まれ,訴訟移行を前提に準備する必要がある公開性非公開の手続による解決が適する公開法廷での判決を求める必要性が高い時間・費用原則3回以内の期日に主張立証を集中できる争点整理,証拠調べ等に時間をかける必要がある緊急性早期期日の中で解決可能性を探る仮処分等の保全手続を含む別の対応を要する

この表は法定の振分け基準ではなく,相談時の検討項目である。
一つの事情だけで結論を出さず,証拠の準備状況,相手方の交渉姿勢,移行後の訴訟費用及び依頼者の負担を総合して選ぶ。

第4 復職希望と金銭解決の意向を具体化する

復職希望がある場合は,「元の職場へ戻りたい」という表現だけでなく,職務内容,勤務地,指揮命令関係,休職・配置転換の可能性,職場での関係及び就労可能時期を確認する。
復職後の労務提供が具体的に想定できるかによって,調停条項の設計や訴訟上の主張立証も変わる。

金銭解決を検討する場合は,解決金の総額だけでなく,未払賃金,バックペイ,退職日,離職理由,秘密保持,会社物品の返還,社会保険・税務上の取扱い及び支払期限を分ける。
金額だけを先に決めると,依頼者が重視する非金銭条件を見落とすことがある。

第5 争点と証拠の量を見積もる

1 最初に主要争点を一覧化する

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採用内定取消し・試用期間・本採用拒否の判例法理―三菱樹脂事件,大日本印刷事件及び下級審裁判例の法律事務所への射程(AI作成)

第1 最初に区別すべき三つの段階1 採用選考中,採用内定後及び試用開始後を分ける2 この記事の結論第2 三菱樹脂事件が示した試用期間の法理1 本採用拒否は留保解約権の行使である2 客観的合理性と社会通念上の相当性が必要である3 思想・信条に関する判示と現在の採用実務を分ける第3 大日本印刷事件及びオプト事件が示す内定取消しの限界1 採用内定による契約成立は事実関係から判断する2 既に知っていた印象を後から取消事由にできない3 伝聞的な悪評だけで内定を取り消さない第4 神戸弘陵学園事件が示す有期契約と試用期間の区別1 適性評価のための期間は試用期間と解され得る2 契約書の名称だけで当然終了にはならない第5 下級審裁判例にみる能力・協調性評価1 EC委員会駐日代表部事件―具体的な成果物と指示対応2 ライトスタッフ事件―短い観察期間と使用者側の対応3 246設計事件―指示不足と改善経過4 三事件を比較した実務上の軸第6 法律事務所の採用評価への射程1 直接の法律事務所事案は確認できていない2 「自走性」は権限の境界を守る能力として評価する3 起案能力は完成物と修正過程の双方で見る4 協調性は異論の有無ではなく業務行動で見る第7 採用から本採用判断までの記録方法1 募集前に職務要件と評価尺度を決める2 内定前に確認できる事項を後回しにしない3 試用開始時に期待と支援を共有する4 事実,指導,本人の説明及び改善を一組で残す5 本採用拒否前により軽い対応を検討する第8 関連記事第9 出典・確認状況1 判例秘書で全文を確認した裁判例2 裁判所及び厚生労働省の公開資料3 法令4 調査範囲の限界
第1 最初に区別すべき三つの段階
1 採用選考中,採用内定後及び試用開始後を分ける

採用をめぐる紛争では,①労働契約が成立する前の不採用,②採用内定によって労働契約が成立した後の内定取消し,③試用を目的とする労働契約が始まった後の本採用拒否を分ける必要がある。
同じ「採用しない」という言葉が用いられても,契約締結前の選考と,成立済みの労働契約を終了させる行為とでは,法的な出発点が異なる。

採用内定によって労働契約が成立したかは,内定通知の名称だけでなく,募集,応募,採用通知,誓約書,入所予定日,労働条件及びその後に別の契約締結行為が予定されていたかによって判断される。
試用期間も,通常は労働契約が成立した後に適格性を観察する期間であり,本採用拒否を新規の不採用と同じように扱うことはできない。

2 この記事の結論

採用内定取消し又は本採用拒否の適法性は,「能力が足りない」,「協調性がない」,「自走できない」等の抽象的な人物評価だけでは決まらない。
採用時に何を職務要件として示したか,問題となる事実をいつ知ることができたか,実際にどの業務をどの程度観察したか,指示・教育・支援が十分であったか,本人に説明及び改善の機会を与えたか,より軽い対応が可能でなかったかを具体的に検討する必要がある。

判例秘書で全文を確認した裁判例を比較すると,職務上の成果物,誤り,報告,指示への対応及び改善経過が具体的に立証された事案と,短い観察期間,伝聞的な悪評又は使用者側の指示不足に依拠した事案との違いが重要である。
法律事務所でも,期限管理,起案,法令・判例調査,依頼者対応,守秘,所内連携等を観察可能な行動へ分解し,採用時の説明から試用期間中の記録まで一貫させる必要がある。

第2 三菱樹脂事件が示した試用期間の法理
1 本採用拒否は留保解約権の行使である

最高裁判所大法廷昭和48年12月12日判決(昭和43年(オ)第932号,民集27巻11号1536頁,三菱樹脂事件)は,当該事案の試用契約を,労働契約の成立と同時に雇用の効力が確定する一方,試用期間中に不適格と認めた場合の解約権を留保した労働契約と捉えた。
したがって,本採用拒否は,契約締結前の不採用ではなく,成立した労働契約について留保された解約権を行使する解雇に当たる。

試用の趣旨は,採否決定時には十分に調査できない資質,性格,能力その他の適格性を,採用後の調査又は観察によって判断することにある。
そのため,通常の解雇より広い範囲で解約権の行使が認められ得るが,無制限ではない。

2 客観的合理性と社会通念上の相当性が必要である

同判決は,採用後の調査又は試用期間中の勤務状態等により,当初知ることができず,又は知ることを期待できない事実を知った場合に,その事実に照らして引き続き雇用することが相当でないと判断することが,解約権留保の趣旨及び目的から客観的に相当と認められるときに解約権を行使できるとした。
判決は,留保解約権の行使について,客観的に合理的な理由があり,社会通念上相当として是認できることを要求している。

法律事務所でいえば,採用前に確認できた単なる印象を後から言い換えるだけでは足りず,入所後のどの業務で,どのような事実が新たに分かり,職務又は依頼者への影響がどの程度であったかを示す必要がある。
もっとも,最高裁判決は本採用拒否を最終的に有効と確定したものではなく,原判決を破棄して東京高等裁判所へ差し戻した判決である。

3 思想・信条に関する判示と現在の採用実務を分ける

三菱樹脂事件は,学生運動歴等に関する身上書及び面接回答をめぐって,私企業の採用の自由,憲法の私人間効力及び労働基準法3条の適用範囲を判示した歴史的事件でもある。
しかし,昭和48年当時の判示を,現在の採用担当者が思想・信条その他の職務と関係のない情報を自由に収集できる根拠として用いるべきではない。

現在は,職業安定法5条の5により,求職者等の個人情報は業務目的の達成に必要な範囲内で目的を明らかにして収集することが原則とされ,厚生労働省は本人の適性及び能力に基づく公正な採用選考を求めている。
本籍,家族,宗教,支持政党,人生観,労働組合活動等を把握しないという現在の行政指針及び個別法上の差別禁止と,三菱樹脂事件の歴史的判示は,時間層を分けて理解する必要がある。

第3 大日本印刷事件及びオプト事件が示す内定取消しの限界
1 採用内定による契約成立は事実関係から判断する

(続きを読む...)採用内定取消し・試用期間・本採用拒否の判例法理―三菱樹脂事件,大日本印刷事件及び下級審裁判例の法律事務所への射程(AI作成)

AI上司が採用・賃金・シフトを決める場合の日本法-アルゴリズム管理と使用者責任(AI作成)

第1 結論と本記事の対象

1 AIが判断しても使用者の責任はAIへ移らない

2 本記事の基準日と資料の位置付け

第2 AI上司の機能と権限を分解する

1 補助・支援と依拠・代替を分ける

2 入力から外部結果までの連鎖を記録する

第3 採用選考をAIに支援させる場合

1 適性・能力と関係のない情報を使わせない

2 予測スコアも管理対象にする

3 人による再審査の入口を置く

第4 賃金・評価をAIに算定させる場合

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法律事務所で「自走できる人」をどう採用するか-職務要件・構造化面接・試用期間評価への落とし込み(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論第2 「自走」を独断や無確認と混同しない1 自分で進める作業と確認を要する事項を分ける2 法律実務における「結果」を定義する第3 抽象的な人物ラベルを観察可能な行動へ変換する1 「評論家」を問題発見後の行動に分解する2 「前の職場ではこうだった」を適応行動に分解する3 「仕組みがない」を仕組み化の初動に分解する4 「確認が多い」を確認の質に分解する第4 構造化面接で確認する1 全候補者に共通する中核質問を用意する2 自走と確認の境界を尋ねる質問3 問題指摘と改善行動を尋ねる質問4 前職の方法を適応させた経験を尋ねる質問5 評価記録は事実と印象を分ける第5 公正採用と取得情報の限界1 職務遂行に必要な適性・能力を基準にする2 職務と関係のない事項を尋ねない3 障害を推測せず合理的配慮と職務遂行能力を区別する4 AI又は適性検査のスコアを結論にしない第6 採用面接と試用期間をつなぐ1 採用時の期待を入社後の評価項目にする2 行動と影響を記録する3 本採用拒否は新規の不採用ではない第7 法律事務所の採用チェックリスト1 募集前2 面接時3 採否決定時4 入所後第8 既存記事との関係第9 『ベンチャーの作法』及びX投稿の位置付け第10 出典・参考資料1 法令・行政資料2 書籍・公開資料
第1 この記事の対象と結論

本記事は,法律事務所が弁護士又は事務職員を採用する際に,「自走できる人」,「確認が多い人」,「評論家」,「前職の方法に固執する人」といった抽象的な人物評価を,職務要件,面接質問及び試用期間中の評価へ落とし込む方法を整理するものである。
基準日は令和8年9月15日である。

結論として,「自走できる人」とは,何でも独断で進める人ではない。
法律事務所における自走とは,依頼者の利益,守秘義務,期限及び弁護士の監督を守りながら,自分で進めてよい可逆的な作業を進め,重要な判断だけを必要な材料とともに適時に上げ,最後まで確認して完了させる行動を意味する。

抽象的な人物像だけで採否を決めると,面接者の好悪を職務能力と取り違えやすく,応募者間の比較も難しくなる。
採用前に職務と権限の境界を定め,全候補者に共通する中核質問と評価尺度を準備し,回答中の具体的な事実を記録する必要がある。

第2 「自走」を独断や無確認と混同しない
1 自分で進める作業と確認を要する事項を分ける

法律事務所の業務には,資料の所在確認,文書の並べ替え,時系列表の下書き,法令・裁判例の検索及び誤記候補の抽出のように,通常は結果を読み戻して修正できる作業がある。
他方,裁判所又は相手方への提出・送信,依頼者への確定的な法的助言,期限の設定又は変更,守秘情報の外部サービスへの入力,原本の廃棄,データの上書き及び事件方針の変更は,弁護士その他の権限者による判断を要する。

採用面接で確認すべきなのは,「上司に質問しないか」ではなく,候補者が両者をどのような基準で区別し,不明点をどの時点で,どの資料と選択肢を添えて確認したかである。
確認回数の多寡だけでは,慎重さ,経験不足,指示の不明確さ又は合理的配慮の必要性を区別できない。

2 法律実務における「結果」を定義する

法律実務では,短時間に大量の文書を作成しただけでは結果を出したことにならない。
依頼者の正当な利益を守り,法令及び職業倫理に反せず,期限と守秘を守り,一次資料及び証拠に遡って検証でき,反対材料を落とさず,提出物又は保存物を読み戻せる状態にして初めて成果となる。

したがって,営業件数,処理速度又は売上だけを「結果」として示す質問は十分でない。
候補者が品質,期限,リスク及び関係者への影響をどのように両立させたかを確認する必要がある。

第3 抽象的な人物ラベルを観察可能な行動へ変換する
1 「評論家」を問題発見後の行動に分解する

問題点を発見して指摘する能力は,法律実務に必要である。
問題なのは批判それ自体ではなく,根拠を確認せず,影響を整理せず,自分の権限内でできる改善又は次の一手を示さないまま,仕事を止める行動である。

評価項目は,①問題を具体的事実に結び付けたか,②放置した場合の影響を説明したか,③最小限の改善案又は調査方法を示したか,④自分でできる範囲を実行したか,⑤結果を確認したか,に分けることができる。

2 「前の職場ではこうだった」を適応行動に分解する

前職で得た知識や成功例を説明すること自体は,消極評価の理由にならない。
確認すべきなのは,候補者が過去の方法をそのまま押し付けたか,現在の組織の規模,使用システム,依頼者層,権限及びリスクに合わせて検証し,残す部分と変える部分を区別したかである。

法律事務所でも,過去の事件,書式又は作業手順は出発点として有用であるが,現行法,手続段階,本件資料及び依頼者の目的に適合するかを確認しなければならない。

3 「仕組みがない」を仕組み化の初動に分解する

小規模な法律事務所では,大企業と同じマニュアル,専門部署又は教育制度が存在しないことがある。

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復職審査における診療情報提供への同意拒否・条件付き同意と休職期間満了―協成事件(東京地裁令和6年5月28日判決)(AI作成)

目次

第1 最初に確認する結論と資料の限界

1 復職可診断書だけで結論は決まらない
2 協成事件について確認できた資料

第2 協成事件の概要

1 休職と復職申出
2 診療情報提供への条件付き同意
3 休職期間満了とその後の対応

第3 休職期間満了時に分けて考える問題

1 休職制度は就業規則等に基づく
2 休職事由が消滅したか
3 雇用終了の法的性質

第4 主治医,産業医等及び事業主の役割

1 主治医の役割
2 産業医等の役割
3 事業主が行う最終判断

第5 診療情報提供への同意を求める場合

1 健康情報は必要な範囲に限定する
2 依頼書に記載する事項

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就業規則による定年制の新設――既存の従業員に適用できるか,労働契約法10条と合理性の判断要素(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 対象2 結論第2 定年制の新設と就業規則の拘束力1 秋北バス事件2 労働契約法との関係3 定年の新設は不利益といえるか第3 合理性の判断1 考慮要素2 定年制の新設に当てはめる場合3 個別の同意と,賃金・退職金に波及する場合第4 法令上の制約1 高年法2 男女で異なる定年第5 手続1 作成・届出と意見聴取2 過半数代表者の選出3 周知第6 定年制を新設する前に確認する事項第7 関連記事第8 出典1 法令(e-Gov法令検索)2 裁判例(裁判所HPの裁判例検索)3 行政通達・行政資料
第1 本記事の対象と結論
1 対象

本記事は,これまで定年の定めがなかった会社が,就業規則で定年制を新しく設け,既に働いている従業員にも適用しようとする場面を扱う。
常時10人以上の労働者を使用する使用者は,退職に関する事項について就業規則を作成して届け出なければならないが(労働基準法89条柱書・3号),それより小さな会社では,就業規則がなく,定年の定めもないまま年月が経っていることがある。
その会社が就業規則を初めて作り,あわせて定年を定める場合には,施行の時点で定年年齢に近い従業員や,既に定年年齢を超えている従業員がいることが少なくない。

本記事は,最高裁判例,労働契約法とその施行通達,高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(以下「高年法」という。)及び厚生労働省の資料を,e-Gov法令検索,裁判所HPの裁判例検索及び厚生労働省の法令等データベースで確認して整理したものである。
基準日は2026年9月13日である。

2 結論

結論を先に示すと,次のとおりである。
①定年の定めがないことは終身雇用を保障するものではなく,就業規則で新たに定年を定めても既得権の侵害にはならない(最高裁大法廷昭和43年12月25日判決)。
②もっとも,既存の従業員に定年の定めを及ぼすには,その就業規則の条項が合理的なものであることを要し,就業規則が既にある会社で定年の条項を加える場合は労働契約法10条の問題となる。
③合理性は,不利益の程度,必要性,内容の相当性,経過措置や代償措置,労働組合等との交渉の経緯などを総合して判断され,施行後すぐに定年に達する者への配慮を欠いたり,特定の者を退職させる狙いがうかがわれたりすると,否定される方向に働くと考えられる。
④定年は60歳を下回ることができず(高年法8条),65歳未満の定年とする場合は65歳までの雇用確保措置が必要である(同法9条1項)。
⑤過半数代表者からの意見聴取と周知の手続も,合理性の判断で考慮され得る。

第2 定年制の新設と就業規則の拘束力
1 秋北バス事件
(1) 事案

最高裁大法廷昭和43年12月25日判決(昭和40年(オ)第145号,民集22巻13号3459頁,秋北バス事件)は,定年制の新設を正面から扱った最高裁判例である。
会社には一般の従業員について50歳の停年の定めがあったが,主任以上の職にある者には停年の定めが適用されていなかった。
会社は,昭和32年4月1日に就業規則を改正して主任以上の職にある者の停年を55歳と定め,既に55歳に達していた従業員に対し,同月25日付で解雇を通知した。

(2) 判断

同判決は,就業規則は合理的な労働条件を定めている限り法的規範としての性質を持つとした上で,次のように述べた。
「新たな就業規則の作成又は変更によつて、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として、許されないと解すべきであるが、労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいつて、当該規則条項が合理的なものであるかぎり、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されないと解すべきであり、これに対する不服は、団体交渉等の正当な手続による改善にまつほかはない。」
さらに,「新たな停年制の採用のごときについても、それが労働者にとつて不利益な変更といえるかどうかは暫くおき、その理を異にするものではない。」とした。

同判決は,定年の定めがないことの意味について,「労働契約に停年の定めがないということは、ただ、雇用期間の定めがないというだけのことで、労働者に対して終身雇用を保障したり、将来にわたつて停年制を採用しないことを意味するものではなく」と述べ,新たに停年を定めても既得権侵害の問題は生じないとした。
また,定年制は,人事の刷新や経営の改善等のために行われるものであって,「一般的にいつて、不合理な制度ということはできず」とした。
その上で,再雇用の特則が設けられて苛酷な結果を緩和する途が開かれていたこと,現にその従業員にも嘱託として再雇用する旨の意思表示がされていたこと等を総合して,改正後直ちに適用されて解雇される者との関係でも条項は不合理ではなく,信義則違反や権利濫用にも当たらないとした。
なお,同判決は,この条項を定年に達したことを理由とする解雇の定めと解し,これに基づく解雇は労働基準法20条の解雇の制限に服するとも述べている。

(3) 現在の目で読むときの注意

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社員のミスやAIの使いすぎで会社が損害を受けたとき,本人に請求できるか―茨石事件・福山通運事件と労働基準法16条・24条(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論の要旨1 本記事が扱う場面2 結論の要旨第2 あらかじめ賠償額を決めておくことはできない(労働基準法16条)1 条文と行政解釈2 社内規程と誓約書の点検3 研修費用・留学費用の返還の約束第3 給料から差し引くことも原則としてできない(労働基準法24条1項)1 全額払の原則と控除の例外2 損害賠償債権で相殺することもできない3 社員の同意がある場合4 業務の費用を社員に負担させる合意第4 現実の損害の請求は信義則上相当な限度に制限される(茨石事件)1 事案と判断2 考慮要素の読み方3 下級審での使われ方4 請求できる期間第5 社員が被害者に賠償した場合(福山通運事件)1 事案と判断2 補足意見3 茨石事件との関係第6 生成AIの利用料が高額になった場合への当てはめ1 報道された事例2 考慮要素との対応3 会社が先に整えておくこと第7 懲戒処分・退職金との関係1 懲戒処分2 退職金の減額・不支給第8 身元保証人への請求1 身元保証法の定め2 裁判例第9 関連する山中弁護士ブログの記事第10 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 判例秘書で確認した裁判例(裁判所ウェブサイト未掲載)4 行政解釈5 報道・公表資料
第1 本記事の対象と結論の要旨
1 本記事が扱う場面

本記事は,社員が業務の遂行中にミスをして会社に損害を与えた場合に,会社がその社員に賠償を求めることができるか,できるとしてどの範囲かを,労働基準法16条・24条1項と最高裁判例に沿って説明するものである。
典型的な場面は,社用車の事故,機械や商品の破損及び取引上の損失であるが,本記事では,業務で使う生成AIの利用料が社員の使い方によって高額になった場面も取り上げる。
本記事の記載は,令和8年9月13日時点の法令,裁判例及び公表資料に基づく。

本記事は,主として過失による損害を対象とする。
故意による加害の場合も損害の公平な分担という同じ枠組みで判断されることがあるが,社員側に重い負担が認められやすく,横領の事案では全額の請求が認められた例もある(第4の3の故意による加害の項)。
あわせて,研修費用の返還の約束(第2の3),業務の費用を社員に負担させる合意(第3の4),退職金の減額・不支給(第7の2)及び身元保証人への請求(第8)も取り上げる。

2 結論の要旨

①あらかじめ「損害は本人負担」「超過分は自己負担」のように賠償額を決めておくことはできない(労働基準法16条)。
②損害の賠償を理由に,給料から一方的に差し引くこともできない(同法24条1項)。
③現実に生じた損害の賠償を求めること自体はできるが,最高裁昭和51年7月8日第一小法廷判決(いわゆる茨石事件)により,信義則上相当と認められる限度に制限され,下級審には損害の4分の1程度に制限した例や請求を全部認めなかった例がある。
④社員が被害者に賠償した場合には,逆に社員から会社へ求償できることがある(最高裁令和2年2月28日第二小法廷判決,いわゆる福山通運事件)。
⑤懲戒処分は,損害の賠償とは別に,就業規則上の根拠と労働契約法15条の枠組みで判断される。
⑥研修費用を退職時に返還させる約束は,研修が業務としての性質を持つ場合などには労働基準法16条に反し無効とされる一方,社費留学の費用を貸付けとして扱う合意の効力を認めた裁判例もある。
⑦退職金の全額不支給は,勤続の功を抹消するほどの重大な不信行為がある場合に限られるとした裁判例がある。
⑧身元保証人の責任は,身元保証法5条によって軽減され,全部免責された例もある。

第2 あらかじめ賠償額を決めておくことはできない(労働基準法16条)
1 条文と行政解釈

労働基準法16条は,「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。」と定めている。
同法の施行時の通達である「労働基準法の施行に関する件」(昭和22年9月13日発基第17号)は,同条について,「本条は、金額を予定することを禁止するのであつて、現実に生じた損害について賠償を請求することを禁止する趣旨ではないこと。」としている。

したがって,同条が禁止しているのは,損害が生じる前に賠償の額を決めておく契約であり,実際に生じた損害の賠償を後から求めることまでは禁止されていない。
後から請求する場合の範囲の問題は,第4で説明する茨石事件の枠組みで判断される。

2 社内規程と誓約書の点検
(1) 予定に当たるおそれがある定め

「社用車を破損した場合は1回につき〇万円を負担する」「ミス1件につき〇円を支払う」のように金額を決めておく定めは,同条の「損害賠償額を予定する契約」に当たる。
生成AIについて「月額の上限を超えた利用料は本人の負担とする」と定める場合も,実際の損害の有無や社員の過失の程度を問わずに負担額の算定方法を先に決めるものであるから,同条に反するおそれが強いと考えられる。
就業規則は法令に反してはならず(労働基準法92条1項),就業規則が法令に反する部分については,就業規則の定めを労働契約の内容とする労働契約法7条等の規定は適用されない(同法13条)。
誓約書に署名させる形をとっても,同条が禁止する契約であることに変わりはないから,その効力は認められないと考えられる。

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傷病手当金とは―支給要件,金額の計算,退職後の継続給付及び障害年金・失業保険との関係(AI作成)

第1 本記事の対象と要点第2 傷病手当金の位置付けと対象者1 健康保険法99条の給付2 対象とならない者第3 支給要件1 業務外の傷病の療養のためであること2 労務不能3 待期3日間4 報酬を受けないこと第4 支給額の計算1 原則の計算式2 加入期間が12か月に満たない場合第5 支給期間(通算1年6か月)1 令和4年1月1日からの通算化2 支給日数の数え方3 支給日数が減らない場合第6 退職後の継続給付1 要件2 退職日に出勤した場合と待期が完成していない場合3 いったん働けるようになった場合4 老齢年金との調整5 退職後の健康保険との関係第7 他の給付との調整1 障害厚生年金・障害手当金2 出産手当金3 労災保険4 雇用保険(基本手当・受給期間の延長・傷病手当)5 交通事故等の損害賠償第8 申請手続と時効1 申請書と添付書類2 時効第9 税・社会保険料・扶養1 税金2 休職中の社会保険料3 被扶養者の認定第10 不正受給と給付制限第11 統計に見る傷病手当金第12 実務上の留意点第13 関連記事第14 出典1 法令2 裁判例3 社会保険審査会の裁決4 通知・事務連絡5 公的な解説・統計
第1 本記事の対象と要点

本記事は,健康保険(全国健康保険協会(協会けんぽ)及び健康保険組合)の被保険者に支給される傷病手当金について,令和8年9月11日現在の法令,厚生労働省の通知・事務連絡,社会保険審査会の裁決,裁判例及び協会けんぽの公表資料に基づき,支給要件,金額,支給期間,退職後の継続給付並びに他の給付との調整を整理するものである。
休職中の社員について会社が確認すべき事項(会社の休職期間と支給期間の違い,会社が就業させない期間の扱い,事業主の証明,休職期間満了による退職)は,休職中の傷病手当金――待期,通算1年6か月,退職後の継続給付及び2年の時効で整理しており,本記事では,傷病手当金の制度そのものの要件,金額,期間及び他の給付との調整を扱う。
国民健康保険,共済組合,船員保険及び日雇特例被保険者の傷病手当金の細部は,本記事の対象外である。

要点は次のとおりである。
①業務外の傷病の療養のため本来の仕事に就けない日が3日連続した後,4日目以降の仕事に就けない日について支給される。
②日額は,原則として,直近12か月の標準報酬月額の平均の30分の1の3分の2である。
③支給期間は,同一の傷病について,支給を始めた日から通算して1年6か月である。
④退職後も受け取るには,退職日まで継続して1年以上被保険者であったことと,退職日の時点で受給中又は受給できる状態にあることが必要であり,退職日に出勤すると継続給付は受けられない。
⑤同一の傷病による障害厚生年金,出産手当金及び労災保険の給付等とは調整され,雇用保険の基本手当とは同じ日について重ねて受けることは通常できない。
⑥請求権は,労務不能であった日ごとに,その翌日から2年で時効により消滅する。

第2 傷病手当金の位置付けと対象者
1 健康保険法99条の給付

健康保険法99条1項は,次のとおり定めている。
「被保険者(任意継続被保険者を除く。第百二条第一項において同じ。)が療養のため労務に服することができないときは、その労務に服することができなくなった日から起算して三日を経過した日から労務に服することができない期間、傷病手当金を支給する。」

最高裁は,この給付について,療養のための就労不能により報酬を受けることができない被保険者に,一定の限度でその生活を保障して療養に専念できる状態を与えようとするものであると述べている(最高裁昭和49年5月30日判決・昭和42年(行ツ)第98号・民集28巻4号551頁)。
同判決は,受給要件を厳格に解しすぎると,療養中の被保険者が可能な限度を超えて働かざるを得なくなり,制度の目的に反するとも述べている。

2 対象とならない者

任意継続被保険者は健康保険法99条1項の括弧書により除かれているため,任意継続被保険者である間に発生した傷病については傷病手当金は支給されない。
これに対し,在職中に受給していた者が退職後に任意継続被保険者となった場合については,同法104条が任意継続被保険者の資格を喪失した者の被保険者期間の数え方まで定めており,継続給付の要件(第6)により判断される。

国民健康保険法58条2項は,「市町村及び組合は、前項の保険給付のほか、条例又は規約の定めるところにより、傷病手当金の支給その他の保険給付を行うことができる。」と定めるにとどまる。
したがって,国民健康保険の傷病手当金は任意給付であり,自営業者等の国民健康保険の被保険者が受けられるかどうかは,加入先の市町村又は国民健康保険組合の条例・規約による。

共済組合(公務員,私立学校教職員等)の傷病手当金は各共済組合法に基づく給付であり,本記事の説明がそのまま当てはまるとは限らない。

役員であっても,健康保険の被保険者であれば対象となり得る。
常勤の取締役として実際に労務を提供し,報酬を受け,会社の人事・労務の管理下で勤務していた者について,少なくとも事実上の使用関係があったとし,健康保険組合が被保険者資格の確認を取り消した上でした傷病手当金の不支給決定を違法として取り消した裁判例がある(大阪高裁昭和55年11月21日判決・昭和54年(行コ)第51号)。

第3 支給要件
1 業務外の傷病の療養のためであること

健康保険法55条1項により,同一の傷病について労働者災害補償保険法等による相当の給付を受けることができる場合には,傷病手当金は支給されない。
業務上の傷病及び通勤災害は,原則として労災保険の対象である。

協会けんぽの案内によれば,健康保険で受ける療養に限らず,自費で診療を受けた場合でも仕事に就くことができないことの証明があれば対象となり,自宅療養の期間も対象となる。
他方で,美容整形のように病気とみなされないものは対象外とされている。

2 労務不能

労務不能の判断について,平成26年9月1日付けの厚生労働省保険局保険課事務連絡「傷病手当金の支給に係る産業医の意見の取扱いについて」は,昭和31年1月19日保文発第340号が示した考え方として,保険者が「必ずしも医学的基準によらず、その被保険者の従事する業務の種別を考え、その本来の業務に堪えうるか否かを標準として社会通念に基づき認定する」ことを引用している。
つまり,日常生活ができるかどうかではなく,その人の本来の業務に堪えられるかどうかが基準である。

最高裁昭和49年5月30日判決は,「被保険者がたとえその本来の職場における労務に就くことが不可能な場合であつても、現に職場転換その他の措置により就労可能な程度の他の比較的軽微な労務に服し、これによつて相当額の報酬を得ているような場合は、同条所定の受給要件には該当しないものというべきである」とした。
他方で,同判決は,生計の補いとして副業又は内職のような本来の業務の代わりにならない労務に従事したり,傷病手当金の支給があるまでの一時的なつなぎとして軽微な労務に服したりして賃金を得ても,受給権を失うことはないとした原判決を正当とした。
平成15年2月25日保保発第0225007号・庁保険発第4号の通知も同じ基準を示し,報酬を得ていることだけを理由に直ちに労務不能でないと認定せず,労務の内容と報酬額を十分に検討するよう求めている。

主治医と産業医の意見が分かれる場合について,前記の平成26年事務連絡は,主治医から労務不能の意見が得られなかったときに,産業医が任意に作成した書類を保険者に提出することは差し支えないとし,主治医が就労可能と判断し産業医が休業を要すると判断した場合も,保険者は双方の意見を参酌して判断するよう求めている。

社会保険審査会は,労務不能は本来の業務に耐えられるかを標準として社会通念に基づき認定すべきであり,医学的見地のみから判断すべきではないとしつつ,「特段の事情の存しない限り、まずは、その傷病の診療に当たった医師が、その傷病の性質、病状及び治療の経過等を踏まえた結果として、労務不能か否かについてどのような医学的判断をしているかが重視されなければならない」としている(社会保険審査会令和4年1月31日裁決・令和3年(健)第249号)。
同裁決は,自覚症状があることや通院して投薬等を受ける必要があることだけで直ちに労務不能とするものではなく,症状,治療内容及び予後の見通し等を総合的に検討して保険者が判断するとも述べている。
その上で,同裁決は,初診日より前の期間であること等を理由とする一部不支給について,入院と自宅療養の経過及び複数の医師の判断から同様の病態が継続していたとして,原処分を取り消した。

医師の意見が一見消極的でも,本来の業務との関係で読むと労務不能と評価されることがある。
社会保険審査会令和2年1月31日裁決(令和元年(健)第304号)は,保険者の照会に対して医師が「療養の為労務不能ではないが患者の訴えにより労務不能とした」と回答していた事案で,回答全体からは一切の作業ができないわけではないが立位で行う本来の作業には堪えられない趣旨と読めるとして,不支給処分を取り消した。
実務上は,医師に本来の業務の内容(立ち仕事か,重量物を扱うか,対人業務か等)を具体的に伝えた上で,意見書の「労務不能と認めた期間」を記載してもらうことが重要である。

3 待期3日間

健康保険法99条1項の「起算して三日を経過した日から」の意味について,昭和32年1月31日保発第2号の2は,療養のため労務に服することができない状態が同一の傷病につき3日間連続すれば待期は完成し,それで足りるとしている。
同通知の設例では,「休休休出休」の場合は待期が既に完成しており,5日目から支給され,「休出休休」の場合は待期がまだ完成していない。
一度待期が完成すれば,その後に出勤した日を挟んでも,同じ傷病について待期をやり直す必要はない。
令和3年11月10日付け厚生労働省保険局保険課事務連絡問2の例でも,復職を挟んで再び労務不能となった期間には,改めて待期は置かれていない。

協会けんぽは,「待期には、有給休暇、土日・祝日等の公休日も含まれるため、給与の支払いがあったかどうかは関係ありません。」と案内している。
また,就労時間中に業務外の事由で発生した傷病により仕事に就くことができない状態となった場合は,その日を待期の初日として数える扱いである。

4 報酬を受けないこと

健康保険法108条1項は,傷病について報酬の全部又は一部を受けることができる者には,その期間は傷病手当金を支給しないとしつつ,報酬の額が傷病手当金の額より少ないときは差額を支給するとしている。
協会けんぽのQ&Aによれば,出勤していない日に支払われる報酬として,有給休暇の賃金,出勤の有無にかかわらず支給される通勤手当・扶養手当・住宅手当等の手当,食事・住居等の現物支給が調整の対象となり,残業手当等の出勤した日の報酬や見舞金等の一時的に支給されるものは記入が不要とされている。

したがって,年次有給休暇は待期の3日間に充てても待期は完成するが,4日目以降に年次有給休暇を使った日は,その賃金が傷病手当金の日額以上であれば傷病手当金は支給されない。
年次有給休暇との関係は,年次有給休暇の付与日数,取得方法,年5日義務及び時季変更権も参照されたい。

なお,事業主から受けることができるはずであった報酬を受けられなかった場合には,保険者が傷病手当金を支給し,その額を事業主から徴収する(健康保険法109条)。

(続きを読む...)傷病手当金とは―支給要件,金額の計算,退職後の継続給付及び障害年金・失業保険との関係(AI作成)

退職勧奨の適法性と進め方―違法となる場合,諭旨退職・解雇との違い及び配転・降格との関係(AI作成)

目次第1 退職勧奨の法的性質1 退職勧奨とは何か2 本記事の対象第2 退職勧奨が違法となる場合1 裁判例が示した判断の枠組み2 下関商業高校事件の位置付け3 法令による制約第3 退職勧奨の進め方1 面談の前に決めておくこと2 面談での説明3 労働者が拒否した場合4 合意の成立と記録第4 諭旨退職・解雇・配転・降格との関係1 諭旨退職は懲戒処分であること2 解雇との違い3 配転・降格と同じ機会に行う場合第5 雇用保険の離職理由第6 関連する山中弁護士ブログの記事第7 出典・参考資料1 法令2 裁判例

第1 退職勧奨の法的性質

1 退職勧奨とは何か

退職勧奨は,使用者が労働者に対し,合意による労働契約の終了(合意退職)又は労働者自身による退職を促す働きかけである。
使用者が一方的に労働契約を終了させる解雇とは異なり,退職勧奨に応じるかどうかは労働者の自由な意思に委ねられる。
解雇は,「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」とされている(労働契約法16条)が,同法には,退職勧奨それ自体の要件を定めた規定はない。

期間の定めのない雇用では,労働者はいつでも解約の申入れをすることができ,雇用は解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する(民法627条1項)。
退職勧奨に応じた労働者が退職届を提出した場合,それが労働者からの一方的な解約の申入れなのか,使用者の承諾によって成立する合意退職の申込みなのかによって,撤回できるかどうかが問題になることがある。
退職日や条件を明確にするためにも,後記第3の4のとおり,合意の内容を書面に残しておくことが考えられる。

2 本記事の対象

本記事は,民間企業の使用者が個々の労働者に退職を勧める場面を対象として,退職勧奨が違法となる場合,面談の進め方,諭旨退職・解雇・配転・降格との関係及び雇用保険上の扱いを説明する。
希望退職の募集や整理解雇は対象としない。
本記事の記載は,令和8年9月11日時点の法令及び公表資料に基づく。

第2 退職勧奨が違法となる場合

1 裁判例が示した判断の枠組み

東京地裁平成23年12月28日判決(日本アイ・ビー・エム退職勧奨事件)は,「退職勧奨は,勧奨対象となった労働者の自発的な退職意思の形成を働きかけるための説得活動であるが,これに応じるか否かは対象とされた労働者の自由な意思に委ねられるべきものである。」とした。
その上で,使用者は,説得活動の手段・方法が社会通念上相当と認められる範囲を逸脱しない限り,正当な業務行為として退職勧奨を行い得るとした。
他方,社会通念上相当と認められる限度を超えて,労働者に対して不当な心理的圧力を加えたり,その名誉感情を不当に害するような言辞を用いたりすることによって,その自由な退職意思の形成を妨げるに足りる不当な行為ないし言動をした退職勧奨は,違法なものとして不法行為を構成するとした。

同判決は,退職勧奨の対象となった理由(業績不良の具体的事実等)を説明し,退職した場合の支援策を具体的に説明して再検討を求めることは,社会通念上相当と認められる範囲を逸脱した態様でない限り許容されるとした。
また,労働者が消極的な意思を表明しただけで直ちに説得活動を終了しなければならないものではないが,退職勧奨に応じない意思が堅固であり,面談に応じられないことを明確に表明し,上司にその旨を確実に認識させた段階で,それ以降の説得活動は社会通念上相当な範囲を逸脱した違法なものと評価されることがあり得るとした。

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配転命令(転勤命令)の有効性―就業規則の根拠,職種・勤務地の限定合意と東亜ペイント事件の判断枠組み(AI作成)

目次第1 配転命令の有効性を判断する順序1 本記事の対象2 三段階の判断第2 配転命令権の根拠1 就業規則・労働協約の配転条項2 労働条件の明示と「変更の範囲」第3 職種・勤務地を限定する合意1 限定合意がある場合は配転命令権がない2 限定合意の有無を確かめる資料第4 権利の濫用の判断枠組み1 東亜ペイント事件の定式2 業務上の必要性3 不当な動機・目的4 通常甘受すべき程度を著しく超える不利益5 法令上の配慮第5 配転命令を出す前後の実務1 命令前の確認と説明2 懲戒処分と同じ機会に配転を命じる場合3 労働者が配転を拒否した場合第6 関連する山中弁護士ブログの記事第7 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 公的資料

第1 配転命令の有効性を判断する順序

1 本記事の対象

配転は,一般に,同一の使用者の下で,労働者の職種,職務内容又は勤務場所を相当の期間にわたって変更することをいい,勤務場所の変更を伴うものは転勤と呼ばれる。
本記事は,使用者が命じる配転(転勤を含む。)が有効かどうかを,命令権の根拠,職種・勤務地の限定合意及び権利の濫用の三段階に分けて説明し,配転命令を出す前後に確認すべき事項を示すものである。
他の使用者の下で就労させる出向は対象としない。
本記事の記載は,令和8年9月11日時点の法令及び公表資料に基づく。

2 三段階の判断

配転命令の有効性は,①使用者に配転を命じる権限があるか,②職種や勤務地を限定する合意があり,命令がその合意に反しないか,③命令権の行使が権利の濫用に当たらないか,の順に検討することになる。
最高裁昭和61年7月14日第二小法廷判決(東亜ペイント事件)も,まず就業規則等の定めと勤務地を限定する合意がないことから転勤を命じる権限を認め,その上で権利の濫用に当たるかを検討している。
労働契約法3条5項は,「労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない。」と定めている。

第2 配転命令権の根拠

1 就業規則・労働協約の配転条項

東亜ペイント事件の会社では,労働協約に「会社は、業務の都合により組合員に転勤、配置転換を命ずることができる。」との定めがあり,就業規則にも「業務上の都合により社員に異動を命ずることがある。この場合には正当な理由なしに拒むことは出来ない。」との定めがあった。
同判決は,これらの定めがあり,現に営業担当者の転勤が頻繁に行われており,労働者が大学卒業資格の営業担当者として入社し,労働契約の成立時に勤務地を大阪に限定する旨の合意がされなかったという事情の下では,会社は「個別的同意なしに被上告人の勤務場所を決定し、これに転勤を命じて労務の提供を求める権限を有する」とした。

就業規則の定め方や周知の要件については,就業規則とは―記載事項・作成届出・周知・変更・懲戒の基本で扱っている。

2 労働条件の明示と「変更の範囲」

使用者は,労働契約の締結に際し,労働者に対して賃金,労働時間その他の労働条件を明示しなければならない(労働基準法15条1項)。
明示すべき事項には,「就業の場所及び従事すべき業務に関する事項(就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲を含む。)」が含まれ(労働基準法施行規則5条1項1号の3),この事項は,原則として書面の交付により明示しなければならない(同条3項,4項)。

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減給の制裁の上限と解釈例規―労働基準法91条の「1回の額」・「総額」と,降格・出勤停止・賞与との違い(AI作成)

目次第1 労働基準法91条が定める二つの上限1 条文と本記事の対象2 「1回の額」と「総額」は別々の上限である3 平均賃金と賃金総額の算定4 計算例第2 「基本給の10%以内」型の規程の点検1 1件の非違行為について月々の割合で減給する定め2 上限を超える定めの効力と罰則3 モデル就業規則の規定例第3 同条の減給に当たる措置と当たらない措置1 職務の変更を伴う格下げと,職務をそのままにした降給2 出勤停止と昇給停止3 遅刻・早退の賃金控除と賞与からの減額第4 同条の制限を受けないことと懲戒処分の相当性第5 関連する山中弁護士ブログの記事第6 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 行政解釈4 公的資料5 文献

第1 労働基準法91条が定める二つの上限

1 条文と本記事の対象

労働基準法91条は,「就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。」と定めている。
本記事は,同条の「1回の額」と「総額」の意味,平均賃金及び賃金総額の算定方法,並びに同条の制限を受ける措置と受けない措置の区別を,行政解釈に沿って説明するものである。
本記事で取り上げる行政解釈は,旧労働省の通達等であり,厚生労働省労働基準局編『労働基準法解釈総覧(改訂16版)』に収録されているものである。
本記事の記載は,令和8年9月11日時点の法令及び公表資料に基づく。

就業規則に定める制裁は減給に限られない。
「労働基準法の施行に関する件」(昭和22年9月13日発基第17号)は,就業規則に定める制裁は減給に限定されるものではなく,譴責,出勤停止,即時解雇等も,制裁の原因となる事案が公序良俗に反しない限り禁止する趣旨ではないとしている。
常時10人以上の労働者を使用する使用者は,表彰及び制裁の定めをする場合には,その種類及び程度に関する事項を就業規則に記載しなければならない(労働基準法89条9号)。
最高裁平成15年10月10日第二小法廷判決(フジ興産事件)も,「使用者が労働者を懲戒するには,あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要する」としている。

2 「1回の額」と「総額」は別々の上限である

同条の上限は二つある。
一つは,1回の減給の額が平均賃金の1日分の半額を超えてはならないという上限であり,もう一つは,1賃金支払期の減給の総額がその期の賃金総額の10分の1を超えてはならないという上限である。
二つの関係について,行政解釈は,「法第九十一条は、一回の事案に対しては減給の総額が平均賃金の一日分の半額以内、又一賃金支払期に発生した数事案に対する減給の総額が、当該賃金支払期における賃金の総額の十分の一以内でなければならないとする趣旨である。」としている(昭和23年9月20日基収第1789号)。

この解釈例規の問いは,1件の非違行為について日を替え,又は月を替えれば減給を繰り返せるのではないかというものであった。
回答は,1回の事案に対する減給の総額を平均賃金の1日分の半額以内とするものであるから,1件の非違行為について減給を何回かに分け,又は複数の月にわたって続けても,その合計は平均賃金の1日分の半額を超えられない。
「10分の1」は,1賃金支払期に複数の非違行為があり,それぞれについて減給する場合に,その合計を抑える上限である。

3 平均賃金と賃金総額の算定

平均賃金は,算定すべき事由の発生した日以前3か月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を,その期間の総日数で除した金額である(労働基準法12条1項本文)。
賃金締切日がある場合は,直前の賃金締切日から起算する(同条2項)。

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派遣元・派遣先管理台帳の不備-指導,改善命令,事業停止,許可取消し及び罰則(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 管理台帳に関する違反の範囲1 派遣元管理台帳2 派遣先管理台帳3 作成義務の例外を誤らない第3 指導・助言,報告及び立入検査1 指導・助言は派遣元と派遣先の双方が対象となる2 報告徴収と立入検査3 行政調査時に提出する資料第4 派遣元事業主に対する行政処分1 改善命令2 事業停止命令3 許可取消し4 処分命令違反には別の罰則がある第5 派遣先管理台帳の不備に対する効果1 派遣先にも指導・助言と罰則がある2 勧告・公表の対象条文を区別する3 派遣元への影響を分けて考える第6 刑事罰と両罰規定1 30万円以下の罰金2 両罰規定第7 不備が見つかったときの是正手順1 原記録を保全して対象を確定する2 補正記録を別に残す3 派遣元・派遣先間で差異を照合する4 再発防止策を運用に組み込む第8 関連記事第9 出典1 法令2 厚生労働省資料
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,派遣元管理台帳又は派遣先管理台帳について,未作成,記載漏れ,保存期間不足又は派遣元への通知漏れが判明した場合の行政上・刑事上の効果と,実務上の是正手順を説明するものである。
令和8年9月10日現在の労働者派遣法及び厚生労働省「労働者派遣事業関係業務取扱要領」の令和8年7月31日適用版を基礎とする。

厚生労働省は同年10月1日適用版の業務取扱要領も公表しているため,同日以後の調査又は処分では適用版を改めて確認する必要がある。
本記事でいう「不備」には,単なる誤字だけでなく,法定事項の全部又は一部を作成・記載しないこと,所定期間保存しないこと及び派遣先が所定事項を派遣元へ通知しないことを含む。

2 結論

派遣元管理台帳の作成・記載・保存義務違反と,派遣先管理台帳の作成・記載・保存・通知義務違反は,いずれも30万円以下の罰金の対象となり得る。
法人等の従業者が業務に関して違反行為をした場合は,行為者だけでなく法人等にも罰金刑を科す両罰規定がある。

行政対応は一律ではない。
厚生労働大臣又は都道府県労働局長による指導・助言は派遣元及び派遣先の双方を対象とし得るが,改善命令,事業停止命令及び許可取消しは,派遣元事業主の事業運営又は許可に対する制度である。
したがって,派遣先管理台帳の一つの記載漏れが直ちに派遣元の許可取消し又は派遣先の事業停止になる,という関係にはない。

不備を発見したときは,事実に反する作成日を記載して遡及的に整った外観を作らず,原記録を保存した上で,判明日,対象者,対象期間,確認資料,補正内容,補正者及び再発防止策を記録することが重要である。

第2 管理台帳に関する違反の範囲
1 派遣元管理台帳

労働者派遣法37条は,派遣元事業主に対し,事業所ごとに派遣元管理台帳を作成し,派遣労働者ごとに法定事項を記載することを求めている。
同条2項は,対象となる労働者派遣の終了日から3年間の保存を求めている。

違反となり得るのは,台帳を一切作成しない場合だけではない。
対象者又は派遣期間が欠けている,法定事項の一部を記載していない,出来事の都度記載すべき苦情処理や教育訓練等を記録していない,派遣終了後3年を経過する前に廃棄した,必要な電磁的記録を表示・出力できないなど,作成・記載・保存義務を実質的に果たしていない場合も問題となる。

2 派遣先管理台帳

労働者派遣法42条は,派遣先に対し,就業場所ごとに派遣先管理台帳を作成し,派遣労働者ごとに法定事項を記載し,3年間保存することを求めている。
派遣先は,日ごとの始業・終業時刻,休憩時間,実際に従事した業務,責任の程度及び就業場所等の所定事項を,原則として1か月ごとに1回以上派遣元へ通知する必要もある。

個別派遣契約に記載された予定をそのまま転記するだけでは,日々の就業実績を記録したことにならない。
勤怠,入退館記録,業務日報又は請求明細と異なる定型値を記載し続けている場合は,形式上欄が埋まっていても,実態を正確に記録しているかを確認する必要がある。

3 作成義務の例外を誤らない

労働者派遣法施行規則35条3項は,派遣先の事業所等における派遣労働者数と派遣先が雇用する労働者数の合計が5人以下である場合について,派遣先管理台帳の作成・記載義務の例外を定めている。
「派遣労働者が5人以下」であれば常に作成不要という基準ではない。

例外に該当すると判断した場合は,事業所等の範囲,判定時点,派遣労働者数,派遣先雇用労働者数及び合計人数を記録する。
台帳作成の例外に該当しても,労働時間管理,苦情処理,契約遵守その他の義務が当然に消滅するものではない。

第3 指導・助言,報告及び立入検査
1 指導・助言は派遣元と派遣先の双方が対象となる

労働者派遣法48条1項により,厚生労働大臣は,労働者派遣事業の適正な運営又は適正な派遣就業を確保するために必要があると認めるとき,労働者派遣をする事業主及び派遣を受ける者に対して指導・助言をすることができる。
この権限は,原則として都道府県労働局長が行使する。

厚生労働省の業務取扱要領は,違法行為が軽微である場合に直ちに行政処分又は司法処分を行わず自主的改善を促す場面のほか,法の趣旨に反する行為の改善や違法行為の予防にも指導・助言を用いると説明している。
したがって,指導を受けたことと,刑罰又は許可取消しを受けたことは同じではない。

2 報告徴収と立入検査

労働者派遣法50条により,厚生労働大臣は必要な限度で,派遣元及び派遣先に必要事項の報告を求めることができる。
同法51条1項による立入検査では,関係者への質問や帳簿・書類その他の物件の検査が行われ得る。

業務取扱要領は,検査対象となる重要書類の例として,派遣元管理台帳,派遣先管理台帳及び労働者派遣契約を明示している。
報告をしない,又は虚偽の報告をすること,立入検査を拒み,妨げ,若しくは忌避し,又は質問に答弁せず若しくは虚偽の陳述をすることは,台帳の元の不備とは別の罰則対象となり得る。

3 行政調査時に提出する資料

台帳だけを切り離して提出すると,作成単位,更新時期及び実績との一致を説明できないことがある。
対象期間の基本契約,個別契約,派遣元から派遣先への通知,勤怠,派遣元への月次通知,請求書,苦情記録,変更契約及び訂正履歴をそろえ,どの資料から各記載を確認できるかを示す。

欠落がある場合は,不存在を隠すために資料を作り替えず,欠落期間,原因,代替資料の有無及び現在の補正状況を説明する。
提出した版,提出日,提出先及び説明内容を記録し,後の説明と矛盾しないようにする。

第4 派遣元事業主に対する行政処分

(続きを読む...)派遣元・派遣先管理台帳の不備-指導,改善命令,事業停止,許可取消し及び罰則(AI作成)

派遣先が確認する労働者派遣契約書のチェックポイント-基本契約,個別契約,期間満了,中途解約及び直接雇用

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 契約審査を始める前にそろえる書類1 締結済みの基本契約2 対象期間の個別契約及び変更契約3 法定通知,管理台帳及び実績資料4 直接雇用を検討するときの追加資料第3 基本契約のチェックポイント1 契約当事者,許可及び適用範囲2 基本契約と個別契約の優先関係3 契約期間,更新及び解約4 派遣料金,請求及び不就労時間5 安全衛生,苦情及び損害賠償6 秘密保持,個人情報及び成果物7 直接雇用,職業紹介及び紹介手数料第4 個別契約の法定事項を確認する1 業務内容及び責任の程度2 就業場所,組織単位及び指揮命令者3 派遣期間,就業日及び就業時間4 安全衛生及び苦情処理5 中途解除時の雇用安定措置6 直接雇用に関する紛争防止措置7 派遣元・派遣先責任者その他の事項第5 期間満了及び更新のチェックポイント1 四つの終了日を分ける2 更新の意思決定及び書面化3 期間制限及び抵触日の確認4 期間満了後の処理第6 中途解約及び欠員補充のチェックポイント1 誰の事情で何を終了するかを特定する2 退職と個別契約の終了を同一視しない3 派遣先都合の中途解除4 費用負担及び終了合意第7 直接雇用を検討するときのチェックポイント1 派遣元との雇用関係終了後の雇用制限2 雇用関係継続中の採用3 事前通知,職業紹介及び手数料4 通常派遣から紹介予定派遣への変更5 直接雇用前の最終確認第8 派遣先用の最終チェックリスト1 契約締結前2 更新・期間満了前3 中途解約・交代時4 直接雇用時第9 関連記事第10 出典1 法令2 厚生労働省資料
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,労働者派遣を受け入れる企業が,派遣元から提示された基本契約及び個別契約を確認する際の実務上のチェックポイントを説明するものである。
令和8年9月10日現在の労働者派遣法,同法施行規則,厚生労働省「労働者派遣事業関係業務取扱要領」の令和8年7月31日適用版及び「派遣先が講ずべき措置に関する指針」を基礎とする。
厚生労働省は令和8年10月1日適用版の業務取扱要領も公表しているため,同日以後に契約を締結又は更新する場合は,適用版を改めて確認する必要がある。

2 結論

派遣先が確認すべき「労働者派遣契約書」は一通ではない。
継続取引の共通条件を定める基本契約と,具体的な業務,責任の程度,就業場所,組織単位,派遣期間及び就業時間等を定める個別契約を分け,両者の優先関係及び変更方法まで確認する必要がある。

契約開始時だけでなく,期間満了前,中途解約を検討するとき及び派遣労働者の直接雇用を検討するときにも,読み直すべき条項が異なる。
特に,①基本契約の有効期間,②個別契約の派遣期間,③派遣労働者と派遣元との雇用期間,④実際の派遣就業期間並びに⑤派遣先との直接雇用の開始日は,別の日付として管理すべきである。

派遣労働者が派遣元を退職し,又は派遣先での就業を終えたことだけで,派遣元と派遣先との個別契約が当然に終了するとは限らない。
また,派遣元との雇用関係終了後の雇用禁止と,適法な職業紹介に基づく紹介手数料又は派遣先都合の中途解約に伴う費用負担は,別の問題として検討する必要がある。

第2 契約審査を始める前にそろえる書類
1 締結済みの基本契約

最初に,派遣元と派遣先との間で現在有効な基本契約を特定する。
雛形,修正履歴付きの交渉稿,社内承認前のクリーン版及び署名欄が空白の最終案は,契約内容の候補又は交渉経過を示すにとどまり,その文面で契約が成立したことを単独では証明しない。

書面契約であれば契約日,署名又は記名押印,別紙及び覚書を確認し,電子契約であれば締結完了証明書,署名者,締結日時及び原本データを確認する。
商号変更,合併,会社分割又は事業譲渡があった場合は,旧商号と現商号の法人の同一性,契約上の地位の承継,通知先及び振込先も確認する。

2 対象期間の個別契約及び変更契約

次に,受入れを検討する派遣就業に対応する個別契約を特定する。
同じ派遣元との取引でも,業務,就業場所,組織単位,派遣期間又は人数が異なれば,確認すべき個別契約も異なる。

「直近」「最新版」等のファイル名だけで現行契約と決めず,契約期間,更新契約,注文書,覚書及び変更合意を時系列に並べる。
派遣期間の延長,業務又は就業場所の変更,指揮命令者の変更及び人数の変更が,元の個別契約の訂正で処理されたのか,新たな個別契約又は変更契約で処理されたのかを確認する。

3 法定通知,管理台帳及び実績資料

個別契約は予定された就業条件を示す書類であり,実際に誰が,いつ,どの業務に従事したかは,派遣元から派遣先への通知,派遣先管理台帳,勤怠記録及び請求書と照合する必要がある。
個別契約に人数だけが記載され,派遣労働者の氏名が記載されていないこともあるため,労働者派遣法35条の通知によって対象者を確認する。

派遣先管理台帳では,就業日,始業・終業時刻,休憩時間,実際の業務,責任の程度,就業場所,苦情処理等を確認する。
契約書と台帳又は勤怠記録が異なる場合は,直ちに契約書又は台帳の一方を正しいと決めず,変更合意,残業,休日就業,応援勤務,記載漏れその他の原因を調査する。

4 直接雇用を検討するときの追加資料

派遣先が派遣労働者の直接雇用を検討するときは,基本契約及び個別契約だけでは足りない。
①派遣元と派遣労働者との労働契約の種類及び終了日,②就業条件明示書,③職業紹介契約及び手数料表,④直接雇用に関する覚書,⑤派遣元の有料職業紹介事業の許可又は届出の状況並びに⑥採用提案及び本人の応募の経緯を確認する。

派遣元との雇用関係が終了する日,個別契約が終了する日及び派遣先での就業開始日は同一とは限らない。
口頭の了解だけで進めず,各日付と必要な通知・合意を書面又は電子メールで確認する。

第3 基本契約のチェックポイント
1 契約当事者,許可及び適用範囲

基本契約の当事者名,本店所在地,代表者及び通知先が現在の法人情報と一致するかを確認する。
派遣元については労働者派遣事業の許可番号を確認し,直接雇用に伴う職業紹介を予定する場合は有料職業紹介事業の許可又は届出を別に確認する。

基本契約が,どの事業所,部門,関連会社及び個別契約に適用されるかも確認する。
グループ会社を一括して「派遣先」と扱う条項がある場合は,各法人が契約当事者となるのか,単に利用可能な事業所を示すのかを明確にする。

2 基本契約と個別契約の優先関係

基本契約の一般条項と個別契約の就業条件が矛盾した場合に,どちらを優先するかを確認する。
個別契約を優先する条項があっても,労働者派遣法26条及び同法施行規則22条の必要事項を欠くことが許されるわけではない。

注文書,電子メール又は業務システム上の操作で契約を変更できる範囲も確認する。
契約変更は書面による当事者双方の合意に限ると定めている場合,現場担当者間の口頭了解だけでは変更の効力が争われるおそれがある。

3 契約期間,更新及び解約

基本契約の始期・終期,自動更新の有無,更新拒絶の通知期限及び基本契約全体を終了させる解約条項を確認する。
基本契約の有効期間と個別契約の派遣期間は別であり,基本契約が終了しても既存の個別契約にどこまで条項が残るか,又は個別契約が終了しても基本契約が継続するかを確認する。

(続きを読む...)派遣先が確認する労働者派遣契約書のチェックポイント-基本契約,個別契約,期間満了,中途解約及び直接雇用

派遣元・派遣先管理台帳-法定記載事項,通知及び保存期間(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 二つの管理台帳の役割1 派遣元管理台帳2 派遣先管理台帳3 個別契約及び通知書との違い第3 派遣元管理台帳の作成単位と記載時期1 事業所ごと・労働者ごとに作成する2 原則として派遣前に記載する事項3 出来事の都度記載する事項第4 派遣元管理台帳の法定記載事項1 本人・雇用区分及び派遣先2 派遣期間・就業条件及び実績3 苦情・紹介予定派遣及び責任者4 例外業務・社会保険・教育訓練・雇用安定措置第5 派遣先管理台帳の作成単位と例外1 事業所等ごと・労働者ごとに作成する2 小規模事業所等の作成不要の場合第6 派遣先管理台帳の法定記載事項1 本人・派遣元及び雇用区分2 就業実績,業務及び場所3 苦情・紹介予定派遣・教育訓練及び責任者4 期間制限の例外及び社会保険第7 派遣先から派遣元への通知1 定期通知の対象事項2 通知の頻度と方法3 通知内容の照合第8 保存期間と電磁的保存1 保存期間は3年間である2 派遣元管理台帳の起算日に関する注意3 電磁的記録による作成・保存第9 点検方法と証拠上の限界1 対象者と期間を合わせて照合する2 台帳だけでは証明できない事項3 社内点検用チェックリスト第10 関連記事第11 出典1 法令2 厚生労働省資料
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,派遣元管理台帳及び派遣先管理台帳について,作成主体,作成単位,法定記載事項,記載時期,派遣元への通知,保存期間及び電磁的保存の方法を説明するものである。
令和8年9月10日現在の労働者派遣法,同法施行規則及び厚生労働省「労働者派遣事業関係業務取扱要領」の令和8年7月31日適用版を基礎とする。

2 結論

派遣元管理台帳は派遣元が雇用管理のために作成し,派遣先管理台帳は派遣先が就業実態を把握して派遣元へ通知するために作成する。
両者は記載事項が重なるが同じ帳票ではなく,一方の写しを保存するだけでは,他方の法定義務を当然に履行したことにはならない。

保存期間はいずれも3年間であり,原則として対象となる労働者派遣の終了日が起算点となる。
派遣先は,就業日,始業・終業時刻,休憩時間,業務及び就業場所等の所定事項を,原則として1か月ごとに1回以上派遣元へ通知し,派遣元から請求されたときは遅滞なく通知する。

第2 二つの管理台帳の役割
1 派遣元管理台帳

労働者派遣法37条は,派遣元事業主に対し,派遣就業について派遣元管理台帳を作成し,派遣労働者ごとに法定事項を記載することを求める。
厚生労働省の業務取扱要領は,派遣元管理台帳を,派遣元が派遣労働者の雇用主として適正な雇用管理を行うためのものと説明している。

予定された派遣条件だけでなく,苦情処理,教育訓練,キャリアコンサルティング及び雇用安定措置も記録する。
派遣先から通知された就業実績が予定と異なる場合は,通知を受ける都度,異なる実績を記載する必要がある。

2 派遣先管理台帳

労働者派遣法42条は,派遣先に対し,派遣就業について派遣先管理台帳を作成し,派遣労働者ごとに法定事項を記載することを求める。
同要領は,派遣先管理台帳の目的を,就業日・労働時間等の実態を的確に把握するとともに,記載内容を派遣元へ通知し,派遣元の適正な雇用管理に役立てることとしている。

派遣先管理台帳は,個別派遣契約に記載された予定を転記するだけの書類ではない。
実際の就業日,始業・終業時刻,休憩時間及び従事した業務等を記録する必要がある。

3 個別契約及び通知書との違い

個別派遣契約は,派遣元・派遣先が具体的な派遣の予定条件を定める契約である。
派遣元から派遣先への労働者派遣法35条の通知は,その条件の下で実際に派遣される労働者の氏名,有期・無期の別及び社会保険等の加入状況等を知らせるものである。

これに対し,管理台帳は継続的な記録であり,日々の実績,苦情及び措置等が後から追加される。
個別契約,法35条の通知及び両管理台帳を対象者・期間ごとに照合することで,予定と実績の差が分かる。

第3 派遣元管理台帳の作成単位と記載時期
1 事業所ごと・労働者ごとに作成する

派遣元管理台帳は,派遣元事業主の事業所ごとに作成し,派遣労働者ごとに記録する。
厚生労働省の業務取扱要領は,雇用管理を円滑に行うため,有期雇用労働者と無期雇用労働者に分けて作成するものとしている。

労働基準法上の労働者名簿又は賃金台帳と合わせて調製することはできる。
もっとも,各帳票の法定記載事項及び保存期間が満たされていることを確認し,名称を統合したことだけで履行済みと判断しない。

2 原則として派遣前に記載する事項

派遣元管理台帳は,記載事項が確定する都度記載する。
苦情処理,教育訓練,キャリアコンサルティング,雇用安定措置の希望聴取及び実施内容を除く基本的な事項は,労働者派遣をする際にはあらかじめ記載しておく必要がある。

後から一括して台帳を作る運用では,派遣開始時点の契約,通知及び雇用状況を正確に再現できないおそれがある。
個別契約及び法35条の通知を起点として台帳を作成し,変更が生じる都度履歴を残す。

3 出来事の都度記載する事項

苦情の申出及び処理はその都度,教育訓練及びキャリアコンサルティングは実施の都度,雇用安定措置は希望の聴取又は措置実施の都度記載する。
派遣先から就業実績の通知を受け,予定された就業時間等と異なるときは,通知を受ける都度,その実績を記載する。

単に最新値で上書きすると,いつ,なぜ変更されたか分からなくなる。
変更前の値,変更日,根拠となる通知及び入力者を追跡できる形で管理することが望ましい。

第4 派遣元管理台帳の法定記載事項
1 本人・雇用区分及び派遣先

派遣元管理台帳の記載事項は,労働者派遣法37条1項及び同法施行規則31条に定められている。
本人及び雇用区分に関する事項は,①派遣労働者の氏名,②協定対象派遣労働者であるか否か,③無期雇用又は有期雇用の別及び有期の場合の労働契約期間並びに④60歳以上の者であるか否かである。

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派遣労働者の退職・欠員補充・労働者派遣契約の途中解除(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 最初に分ける四つの日付と三つの契約1 四つの日付2 三つの契約3 法26条上の労働者派遣契約第3 派遣労働者が退職するとき1 無期労働契約2 有期労働契約3 派遣先は退職日を決める当事者ではない第4 退職しても個別派遣契約が当然終了しない理由1 個別契約は通常,派遣人数と就業条件を定める2 個人の派遣就業終了と会社間契約の終了3 解除は将来に向かって効力を生ずる第5 欠員補充の判断と手続1 最初に基本契約と個別契約を読む2 派遣元から連絡する事項3 派遣先が補充を不要とするとき第6 派遣先都合による個別契約の途中解除1 契約で定めるべき雇用安定措置2 事前申入れは一律に30日前ではない3 新たな就業機会と費用負担4 解除理由の明示第7 派遣元側の雇用処理1 派遣契約終了と解雇は別である2 雇用安定措置第8 証拠化と実務手順1 取得する資料2 時系列表を作る3 終了合意に記載する事項第9 関連記事第10 出典1 法令2 厚生労働省資料
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,派遣就業中の労働者が退職する場合に,派遣元と派遣労働者との労働契約,派遣元と派遣先との個別派遣契約,欠員補充及び契約途中の解除をどのように区別して処理すべきかを説明するものである。
令和8年9月10日現在の民法,労働基準法,労働契約法,労働者派遣法及び厚生労働省「労働者派遣事業関係業務取扱要領」の令和8年7月31日適用版を基礎とする。

2 結論

派遣労働者の退職,その労働者の派遣就業の終了及び派遣元・派遣先間の個別派遣契約の終了は,同じ出来事ではない。
派遣労働者が派遣元を退職しても,個別派遣契約が当然に消滅するとは限らず,派遣元が代替労働者を派遣するのか,派遣先が欠員補充を不要とするのか,個別派遣契約を合意解除するのかを別に決める必要がある。

派遣先の都合で契約期間満了前に個別派遣契約を解除するときは,労働者派遣法29条の2及び派遣先指針に基づく雇用安定措置が問題となる。
他方,派遣労働者自身の退職を契機として契約を終了する場合は,派遣先都合の解除と機械的に同一視せず,退職の原因,代替派遣の可否及び当事者間の合意を確認する。

第2 最初に分ける四つの日付と三つの契約
1 四つの日付

最初に,①派遣元へ退職を申し出た日,②派遣元との雇用契約が終了する日,③派遣先での最終就業日及び④個別派遣契約が終了する日を分ける。
派遣先がその労働者を直接雇用するときは,⑤直接雇用の開始日も加え,日付の前後関係を一覧表にする。

退職申出日と雇用終了日は同日とは限らず,最終就業日と雇用終了日も一致するとは限らない。
有給休暇の取得,貸与品の返却,引継ぎ,社会保険及び雇用保険の手続がある場合は,最後に出勤した日だけで雇用終了日を決めない。

2 三つの契約

確認する契約は,①派遣元と派遣労働者との労働契約,②派遣元と派遣先との基本契約及び③具体的な派遣期間・人数・就業条件を定める個別派遣契約である。
派遣先が直接雇用する場合は,④派遣先と労働者との新しい労働契約及び⑤職業紹介又は紹介手数料に関する合意も加わる。

各契約は当事者が異なる。
一つの契約が終了したことから,他の契約も当然に終了したと推論せず,各契約の期間,解除条項,更新条項,欠員補充条項及び変更方法を確認する。

3 法26条上の労働者派遣契約

厚生労働省の業務取扱要領は,継続的な基本契約と,個々の就業条件を定める個別契約を併用する方式では,労働者派遣法26条の「労働者派遣契約」は後者の個別契約であると説明している。
したがって,中途解除時の法定措置を検討するときは,基本契約の解約日だけでなく,対象となる個別派遣契約の期間及び終了処理を特定する必要がある。

第3 派遣労働者が退職するとき
1 無期労働契約

期間の定めのない雇用について,民法627条1項は,各当事者がいつでも解約を申し入れることができ,原則として申入れの日から2週間を経過することにより雇用が終了すると定める。
もっとも,就業規則又は労働契約に退職手続が定められていることがあるため,派遣労働者は派遣先だけに退職意思を伝えるのではなく,雇用主である派遣元に明確に申し出て,受領日及び退職日を記録する必要がある。

「法律上は必ず1か月前」と一律に説明することは正確ではない。
1か月前という期間が,派遣元の就業規則,派遣元・派遣先間の中途解除条項又は基本契約の更新拒絶条項のいずれに書かれているかを確認する。

2 有期労働契約

期間の定めのある雇用では,民法628条により,やむを得ない事由があるときは期間途中でも直ちに解除できるが,その事由が一方当事者の過失により生じた場合には損害賠償の問題が生じ得る。
労働契約法17条1項は,使用者が有期労働契約の期間途中で労働者を解雇するには,やむを得ない事由を要すると定める。

労働基準法137条は,一定の事業の完了に必要な期間を定める契約等の例外を除き,1年を超える有期労働契約を締結した労働者について,契約初日から1年経過後は使用者へ申し出ることにより退職できる旨を定める。
契約期間,開始日,同法14条1項の例外該当性及び退職理由を確認せず,「有期だから辞められない」又は「いつでも即日退職できる」と決めない。

3 派遣先は退職日を決める当事者ではない

派遣労働者の雇用主は派遣元である。
派遣先は本人の転職意思を尊重しつつも,派遣元への退職申出を代行したり,派遣元との雇用終了前の就労を当然の前提として採用日を決めたりしない。

直接雇用を予定するときは,派遣元との雇用終了日,個別派遣契約の終了日又は合意解除日,職業紹介手続及び直接雇用開始日を相互に整合させる。
形式上別の求人へ応募させても,実際の採用提案及び交渉経過が消えるわけではない。

第4 退職しても個別派遣契約が当然終了しない理由
1 個別契約は通常,派遣人数と就業条件を定める

労働者派遣法26条は,派遣契約の締結に際し,業務内容,就業場所,指揮命令者,派遣期間,就業日及び就業時間等を定め,内容の差異に応じて派遣労働者の人数を定めることを求めている。
紹介予定派遣を除く通常の派遣では,派遣先は契約締結に際して派遣労働者を特定することを目的とする行為をしないよう努めなければならない。

個別契約が一人の派遣を予定していても,契約上の給付が特定の個人だけによる履行なのか,同等の要件を満たす代替労働者によって履行できるのかは,契約文言及び業務の性質による。
対象労働者の退職だけで契約終了と決めず,派遣人数,資格・技能,交代手続及び派遣先の受入条件を読む。

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労働者派遣契約書と管理台帳の確認方法-基本契約・個別契約・通知書の違い(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 最初に区別すべき六種類の書類1 基本契約2 個別契約3 派遣元と派遣労働者との労働契約及び就業条件の明示4 派遣元から派遣先への通知5 派遣元管理台帳6 派遣先管理台帳第3 契約書を読む順序1 締結済み文書と交渉資料を分ける2 当事者と許可・商号を確認する3 基本契約と個別契約の優先関係を確認する4 日付を一枚の表にする第4 個別契約で確認する法定事項1 業務,責任及び就業場所2 指揮命令,派遣期間及び就業時間3 安全衛生,苦情処理及び契約解除時の雇用安定4 派遣終了後の直接雇用をめぐる紛争防止措置第5 管理台帳と通知の照合1 予定と実績を分ける2 有期・無期及び期間制限を照合する3 保存期間と起算日4 台帳から分かることと分からないこと第6 中途終了,交代及び直接雇用1 派遣労働者の退職と個別契約の終了2 直接雇用を検討するときの資料3 一般派遣と紹介予定派遣第7 実務用チェックリスト1 契約書の確認2 帳票及び実態の確認3 文書の形式及び管理第8 関連記事第9 出典1 法令2 厚生労働省資料
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,派遣先又は派遣元が労働者派遣に関する契約書及び帳票を確認する際に,どの書類を,どの順序で,何のために読むべきかを説明するものである。
令和8年9月10日現在の労働者派遣法,同法施行規則及び厚生労働省「労働者派遣事業関係業務取扱要領」の令和8年7月31日適用版を基礎とする。
厚生労働省は令和8年10月1日適用版も公表しているため,同日以後は適用版を再確認する必要がある。

2 結論

労働者派遣に関する書類は,一通の「派遣契約書」だけでは完結しない。
①派遣元と派遣先との基本契約,②個々の派遣についての個別契約,③派遣元と派遣労働者との労働契約及び就業条件明示書,④派遣元から派遣先への通知,⑤派遣元管理台帳並びに⑥派遣先管理台帳を,当事者,対象期間及び作成目的を分けて確認する必要がある。

基本契約は継続的な取引条件を定めることが多いが,労働者派遣法26条の意味で中心となるのは,具体的な就業条件を定める個別契約である。
管理台帳は,実際の派遣就業及び雇用管理の記録として重要であるが,基本契約の締結,個別契約の変更又は派遣労働者の退職を単独で証明する書類ではない。

第2 最初に区別すべき六種類の書類
1 基本契約

基本契約は,派遣元と派遣先が継続して取引する場合に,共通して適用する派遣料金の決定方法,秘密保持,損害賠償,契約期間,更新,中途解除,直接雇用時の取扱い等を定める契約であることが多い。
もっとも,労働者派遣法が「基本契約」という名称の契約を必須としているわけではない。
厚生労働省の業務取扱要領は,基本契約と個別契約を締結する方式では,法26条の意味における労働者派遣契約は,具体的な就業条件を定める個別契約であると説明している。

2 個別契約

個別契約は,具体的な労働者派遣について,業務内容,責任の程度,就業場所,組織単位,指揮命令者,派遣期間,就業日及び就業時間等を定める契約である。
同じ基本契約の下でも,派遣労働者,業務,派遣期間又は就業場所が異なれば,確認すべき個別契約も異なる。

「直近」と表示された契約書でも,その後の更新契約又は変更契約が存在することがある。
ファイル名,作成日又はメールの送信日だけで現行版と決めず,契約期間,更新の有無,署名押印又は電子契約記録,後日の覚書及び実際の履行状況を確認する。

3 派遣元と派遣労働者との労働契約及び就業条件の明示

派遣労働者の雇用主は派遣先ではなく派遣元である。
派遣元と派遣労働者との労働契約は,派遣元と派遣先との個別契約とは当事者が異なる。
派遣元は,労働者派遣をしようとするとき,あらかじめ派遣労働者に対し,派遣をする旨,具体的な就業条件及び期間制限に抵触する最初の日等を明示しなければならない(労働者派遣法34条)。

派遣期間と,派遣元との雇用期間は同じとは限らない。
派遣就業が終了しても派遣元との雇用契約が継続する場合があり,反対に,派遣元との雇用契約の終了が企業間の個別契約を当然に消滅させるとも限らない。

4 派遣元から派遣先への通知

派遣元は,労働者派遣をするとき,派遣労働者の氏名,協定対象派遣労働者であるか,有期雇用又は無期雇用の別,60歳以上であるか及び社会保険等の加入状況を派遣先へ通知する(労働者派遣法35条)。
この通知は,個別契約で定めた人数及び就業条件の下で,実際に誰が派遣されるかを派遣先に伝えるものである。

個別契約が「一名」と定めていても,派遣労働者の氏名まで契約本文に記載する方式とは限らない。
個別契約と法35条の通知を組み合わせて,対象者及び期間を確認する。

5 派遣元管理台帳

派遣元管理台帳は,派遣元が,派遣先で就業する派遣労働者の雇用主として適正な雇用管理を行うために,派遣労働者ごとに作成する台帳である(労働者派遣法37条)。
氏名,有期・無期の別,派遣先,派遣期間,実際の就業時間,業務,苦情処理,教育訓練,キャリア・コンサルティング及び雇用安定措置等が記録される。

6 派遣先管理台帳

派遣先管理台帳は,派遣先が,労働日,労働時間その他の派遣就業の実態を把握し,その一部を派遣元に通知して,派遣元の雇用管理に役立てるために作成する台帳である(労働者派遣法42条)。
派遣労働者ごとに,氏名,派遣元,就業日,始業・終業時刻,休憩時間,従事した業務,責任の程度,就業場所,苦情処理等を記載する。

第3 契約書を読む順序
1 締結済み文書と交渉資料を分ける

最初に,署名押印済み契約書又は電子署名・締結ログのある契約と,雛形,修正案,コメント付き交渉稿及び最終案を分ける。
相手方が修正案へ回答したこと,変更履歴を削除したクリーン版が作られたこと,又はファイル名に「最終」とあることだけでは,その文面で契約が成立したことの証明にはならない。

契約書本体のほか,契約締結を示す電子メール,電子契約サービスの完了証明書,署名欄,契約日,別紙及び覚書を確認する。
契約成立が争われる場合は,その後の発注,派遣料金の請求・支払及び同じ条項を前提とした連絡も検討するが,履行事実だけから契約書の全文が合意されたと即断しない。

2 当事者と許可・商号を確認する

派遣元又は派遣先の商号が変更され,合併,会社分割又は事業譲渡が行われていることがある。
旧商号と現商号の法人が同一であるか,契約上の地位が承継されたか,通知先及び振込先が変更されたかを確認する。

派遣元については,労働者派遣事業の許可番号を確認する。
直接雇用時に職業紹介及び紹介手数料が問題となる場合は,有料職業紹介事業の許可,手数料表及び実際の職業紹介行為を別に確認する。

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人材紹介の紹介手数料・違約金-直接採用条項の有効性と条項例(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 紹介手数料と違約金は別の問題である2 結論3 最初に確認する資料第2 紹介手数料の法的な仕組み1 有料職業紹介には原則として許可が必要である2 上限制手数料と届出制手数料3 手数料率の「相場」の見方4 発生時点,算定基礎及び返戻金第3 直接採用・中抜きを対象とする違約金1 条項の目的と限界2 令和7年4月1日以後の明示義務3 公序良俗と損害賠償額の予定4 求職者本人に負担させる条項第4 裁判例から分かること1 派遣先による直接雇用を妨げた事例2 派遣先への紹介手数料請求が認められた事例3 内定承諾後の採用取消しで手数料が認められた事例4 意図的な迂回交渉で違約金が認められた事例5 裁判例の読み方と確認状況第5 労働者派遣からの直接雇用との違い1 雇用関係終了後の雇用制限は禁止されている2 派遣契約に定める紛争防止措置3 通常派遣から紹介予定派遣への変更4 退職・欠員補充・途中解除とは別に整理する第6 紹介手数料・違約金条項の例1 条項例を使う前提2 紹介手数料条項3 直接採用・迂回採用条項4 採用取消し及び返戻金条項5 違約金条項6 派遣契約に置く場合第7 契約審査と紛争対応の実務1 求人企業側の確認事項2 紹介会社側の確認事項3 証拠と消滅時効第8 関連記事第9 主な法令・資料
第1 この記事の対象と結論
1 紹介手数料と違約金は別の問題である
人材紹介会社が求人企業に請求する金銭には,採用が成立したときの紹介手数料と,紹介会社を外した直接採用,虚偽の不採用連絡その他の契約違反に伴う違約金がある。
紹介手数料は職業紹介という役務の対価であり,違約金は契約違反への対応であるから,発生原因も有効性の判断方法も同じではない。

本稿は,有料職業紹介事業者と求人企業との契約を中心に,紹介手数料の法的な仕組み,直接採用・中抜き条項の有効性,令和7年4月1日以後の明示義務及び条項例を整理する。
労働者派遣から派遣先が直接雇用する場面は別の法規制があるため,第5節で区別する。
2 結論
紹介手数料率や違約金額には,すべての契約に通用する一律の「相場」や安全圏はない。
紹介手数料は,紹介会社が選択して届け出た手数料制度,求人企業へ明示した手数料表,契約上の発生時点及び算定基礎に従って判断する。

直接採用・中抜きへの違約金条項も当然に無効ではないが,紹介会社の正当な利益を守る範囲を超え,長期間又は広範囲に転職を妨げる内容や,労働者派遣法が禁止する,派遣元との雇用関係終了後の直接雇用制限を金銭で実現する内容は,無効となる可能性がある。
反対に,紹介を受けた求人企業が紹介会社を意図的に外し,本来の手数料を免れようとした場面では,契約条項に基づく請求が認められた裁判例がある。

したがって,金額だけでなく,対象となる候補者,禁止行為,対象期間,関係会社の範囲,発生要件,算定式,除外事由及び契約申込み時の明示方法を具体化する必要がある。
令和7年4月1日以後に求人企業から職業紹介の申込みを受ける場合,違約金等を定めている紹介会社は,その内容を求人企業に誤解が生じないよう明示しなければならない。
3 最初に確認する資料
紛争の結論は,基本契約だけでは決まらない。
基本契約,個別の求人申込書,手数料表,返戻金制度,利用規約,申込画面と同意記録,候補者を紹介したメール,面接記録,採否連絡,内定通知書,労働条件通知書,紹介会社と候補者との契約並びに実際の入社日を一式で確認する。

ウェブサイトの規約を使う場合は,申込当時の規約本文と版,求人企業が確認できた画面,チェック操作,送信日時及び改定履歴を保存する。
単にウェブサイトのトップページへのリンクを示しただけでは,金額や発生条件について十分な明示があったかが争われやすくなる。
第2 紹介手数料の法的な仕組み
1 有料職業紹介には原則として許可が必要である
職業安定法4条1項は,職業紹介を,求人及び求職の申込みを受け,求人者と求職者との間の雇用関係の成立をあっせんすることと定義している。
この有料職業紹介事業を行うには,原則として厚生労働大臣の許可が必要である。

事業者が用いる名称ではなく,実際に雇用成立へ向けたあっせんをしたかで判断される。
業務委託,採用支援又は情報提供という名称であっても,求人者と求職者の意思疎通を加工し,雇用成立を実質的に仲介して対価を受ける仕組みであれば,職業紹介事業の規制を検討する必要がある。

(続きを読む...)人材紹介の紹介手数料・違約金-直接採用条項の有効性と条項例(AI作成)

派遣社員の直接雇用-雇用禁止条項,紹介手数料及び紹介予定派遣(AI作成)

目次

第1 この記事の対象と結論

1 対象と基準日
2 結論

第2 区別すべき四つの法律関係

1 派遣元と派遣労働者との労働契約
2 派遣元と派遣先との派遣契約
3 派遣先と派遣労働者との直接雇用契約
4 職業紹介と紹介手数料

第3 雇用禁止条項と労働者派遣法33条

1 派遣元との雇用関係が終了した後
2 派遣元との雇用関係が終了する前
3 「正当な理由」の範囲

第4 派遣労働者の退職と派遣契約

1 労働契約の種類と退職できる時期
2 派遣労働者の退職と個別派遣契約の終了
3 契約成立日と就業開始日

(続きを読む...)派遣社員の直接雇用-雇用禁止条項,紹介手数料及び紹介予定派遣(AI作成)

有期雇用契約における試用期間-設定と契約終了の法的整理(AI作成)

第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 試用期間を置けば解雇しやすくなるわけではないこと第2 有期契約と試用期間の二つの組合せ1 有期契約の中に別の試用期間を置く場合2 有期契約そのものを適性判断の期間とする場合3 無期契約への移行条件を明確にすること第3 試用期間を設定するときに書面で分ける事項1 契約期間と試用期間を別々に記載すること2 終了場面まで区別して記載すること3 評価基準と運用を一致させること4 長さと延長を自動的に決めないこと第4 試用期間中に雇用を終了する場合1 労働契約法17条1項の「やむを得ない事由」2 試用契約における留保解約権の限界3 採用後14日以内は自由解雇期間ではないこと第5 試用結果を契約期間満了時に扱う場合1 期間満了と雇止めの制限2 更新申込み又は異議を遅らせないこと第6 紛争になったときに先に確認する資料1 共通して確認する資料2 使用者側と労働者側で確認する事実3 高負担の調査へ進む条件第7 関連記事第8 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 行政機関の解説及び掲載資料4 文献
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,有期労働契約の契約期間内に別の試用期間を置く場合と,有期労働契約そのものを適性判断のために用いる場合を区別し,令和8年9月6日現在の法令及び裁判例に基づいて,設定時と契約終了時の問題を整理する。
有期労働契約の期間,更新,雇止め及び無期転換の一般的な制度は,有期労働契約の期間・更新・雇止め・無期転換ルール(AI作成)で別に扱っている。

2 試用期間を置けば解雇しやすくなるわけではないこと

試用期間の設定可否及び長さを一律に定める一般的な条文はなく,中央労働委員会サイトに掲載された令和7年度労使関係セミナー資料も,設定の可否及び長さ等について現行法上特別の規制はないと整理している。
もっとも,契約書に「試用期間」と書くだけで,契約期間途中の解雇又は期間満了時の雇止めが容易になるわけではない。

有期労働契約に試用期間を設けるときは,①契約の存続期間,②適格性を評価する期間,③試用期間中に雇用を終了する場合,④契約期間満了後の更新又は無期契約への移行を分けて設計する必要がある。
特に,試用期間中の解雇は有期労働契約の期間途中の解雇であるから,少なくとも労働契約法17条1項の「やむを得ない事由」が必要となる。

第2 有期契約と試用期間の二つの組合せ
1 有期契約の中に別の試用期間を置く場合

例えば,契約期間を令和8年4月1日から令和9年3月31日までの1年間とし,そのうち最初の3か月を試用期間とする設計がある。
この場合,試用期間の満了は1年間の労働契約の満了ではなく,試用期間を通過した後も同じ有期労働契約が残りの期間について続くのが基本である。

試用期間満了後に無期契約又は別の職種へ移行させる予定がある場合は,同じ有期契約が続く場面と,新しい契約を締結する場面を区別しなければならない。
「本採用」という一語だけでは,試用終了後も同じ有期契約が続くのか,無期契約又は正社員契約へ切り替わるのかが明らかにならない。

2 有期契約そのものを適性判断の期間とする場合

「まず6か月の有期契約を締結し,適性があれば無期契約へ移行する」という設計では,6か月が契約の存続期間なのか,無期契約に付された試用期間なのかが問題となり得る。
最高裁平成2年6月5日第三小法廷判決(平成元年(オ)第854号,民集44巻4号668頁,神戸弘陵学園事件)は,新規採用の際に設けた期間の趣旨・目的が労働者の適性を評価・判断することにある場合,期間満了によって契約が当然に終了する旨の明確な合意等の特段の事情がない限り,その期間を契約の存続期間ではなく試用期間と解するのが相当であるとした。

同判決では,契約期間が「一応」1年と説明されたこと,長期勤務を期待させる発言があったこと,1年で当然に終了すると記載した契約書への署名が就労開始後であったこと等が問題となり,原判決が破棄されて更に審理するため差し戻された。
したがって,契約書の名称だけでなく,募集時及び面接時の説明,契約締結の時期,期間を定めた業務上の理由,無期契約への移行手続並びに実際の運用を整合させることが重要となる。

3 無期契約への移行条件を明確にすること

最高裁平成28年12月1日第一小法廷判決(平成27年(受)第589号,福原学園事件)は,1年の有期労働契約を締結し,更新限度を3年とした事案を扱った。
同事件の規程は,勤務成績を考慮して使用者が任用を必要と認め,かつ,労働者が希望した場合に無期の職種へ異動できると定めており,最高裁は,3年の経過だけで当然に無期労働契約へ移行したとする原審の判断を破棄した。

同判決は,期間満了後の無期契約への移行が自動であるのか,使用者の判断及び労働者の希望を要するのかを,規程と契約締結時の認識から区別したものである。
もっとも,この判断は,更新に関する労働契約法19条の適用を一般に否定するものではなく,契約の更新と無期契約への移行は別の問題である。

第3 試用期間を設定するときに書面で分ける事項
1 契約期間と試用期間を別々に記載すること

労働基準法15条及び労働基準法施行規則5条により,使用者は,労働契約の締結時に,契約期間,更新する場合があるときの基準,更新上限がある場合の内容,賃金,労働時間,就業場所及び業務並びに退職に関する事項等を明示しなければならない。
試用期間中に賃金,職務又は勤務場所を異ならせる場合は,その労働条件も明確にする必要がある。

労働契約法4条2項は,期間の定めに関する事項を含む労働契約の内容について,労働者と使用者ができる限り書面で確認するものとしている。
本記事では,有期契約に試用期間を置く場合,法令上の明示事項と同じ書面又は相互に参照できる書面に,契約期間と試用期間を別々に記載することを基本形とする。

2 終了場面まで区別して記載すること

設定時に区別する事項は,①有期契約の開始日と満了日,②試用期間の開始日と満了日,③評価の目的・項目・時期,④試用期間中の労働条件,⑤試用期間満了後も同じ有期契約が続くのか,⑥有期契約を更新する可能性及び判断基準,⑦無期契約又は正社員契約への移行制度がある場合の申込み・判断・契約締結の手続である。
「試用期間中又は満了時に不適格と判断したときは契約を終了する」とだけ定めても,期間途中の解雇に関する労働契約法17条1項を排除することはできない。

3 評価基準と運用を一致させること

適格性の評価は,担当業務と採用時に示した職務要件に結び付け,評価者,中間面談,指導又は支援,説明の機会及び最終判断日をあらかじめ設計することが考えられる。
評価記録には「能力がない」「協調性に欠ける」という結論だけでなく,いつ,どの業務について,何を求め,どのような行動と結果があり,本人がどのように説明したかを残すことが有用である。

評価資料は解雇を正当化するためだけの記録ではない。
契約内容との不一致,教育又は情報の不足,評価者ごとの基準の違いを早期に発見し,契約を続けられるかを判断する資料でもある。

4 長さと延長を自動的に決めないこと

中央労働委員会サイト掲載の前記セミナー資料は,採用後3か月から6か月程度を試用期間とすることが企業実務では一般に行われていると説明する一方,適格性の評価に必要な期間を超えて労働者を長期間不安定な状態に置くことは適当でないと整理している。
3か月又は6か月であれば当然に有効となるわけではなく,職務内容,採用時に確認できた事項,実際の観察機会及び有期契約全体の長さに照らして設定する必要がある。

延長についても,判断を先送りするために自動的に行うのではなく,就業規則又は契約上の根拠,採用時に予見できなかった事情,観察できなかった項目,延長期間及び延長後の判断日を確認することが考えられる。
延長が有期契約の満了日を越える場合は,試用期間の延長だけでは処理できず,契約更新又は新しい契約の問題となる。

第4 試用期間中に雇用を終了する場合

(続きを読む...)有期雇用契約における試用期間-設定と契約終了の法的整理(AI作成)

休職期間中の無給と休業手当の区別――民法536条2項,労働基準法26条及び就業禁止条項(AI作成)

第1 無給扱いと休業手当を区別する第2 関連記事第3 出典・参考資料1 法令2 実務書

私傷病により労務を提供できず,契約上も有給とする定めがない場合,原則として賃金は発生しない。もっとも,会社の側が就労を拒んでいる場面を,これと同じ無給扱いにすることはできない。以下では,休職を命じた場合と労務の受領を拒む場合との違い,及び就業規則の就業禁止条項の限界を整理する。

第1 無給扱いと休業手当を区別する

私傷病のため労務を提供できず,契約上も有給とする定めがない場合,原則として賃金は発生しない。
この原則は欠勤中にも当てはまるが,療養の必要性と発令要件を確認して適法な無給休職を命じ,合理的な復職手続を明確にしておけば,欠勤扱いのまま復帰の申出に対して労務の受領を拒否する場合に比べ,賃金紛争のリスクを低減し得ると考えられる。
休職中の取扱いの契約上の根拠を明らかにし,休職事由の消滅を確認する手順と医学的資料を整えられるためである。
ただし,この差が現れるのは,本人が療養期間中に就業を申し出た場合である。
会社の判断による号の休職を先に命じることには,長期欠勤を要件とする号との接続の問題が伴うため,発令の時期は,休職事由の号の選び方で整理した点と併せて検討する。

もっとも,民法536条2項の帰責性の問題があるため,会社が就労を拒否している場面を,当然に同じ無給扱いにすることはできない。
休職命令が有効であっても,復職可能な状態となった社員の受入れを正当な理由なく拒む場合や,必要な確認を超えて判断を引き延ばす場合には,賃金請求の問題が残る。
復職の申出を受けたときは,他の業務への配置可能性も含めて速やかに検討し,確認中の期間を当然に無給としないことが必要である。

欠勤中の社員との面談で,会社が「無理して働く必要はない」「療養に専念した方がよい」と勧めることにも注意を要する。本人が就業を希望していた場合,会社が就労を控えさせたと評価される材料になり得るからである。就業の可否は主治医と産業医等の意見を聴いて判断するという形をとり,本人が「軽い仕事ならできる」等と述べたときは,その場で可否を答えず,発言をそのまま記録して検討する。

労働基準法26条は,使用者の責めに帰すべき事由による休業について,平均賃金の60%以上の休業手当を定めている。

会社が休職を命じたという形式だけで支給の有無は決まらず,休業の実質的な理由を確認する必要があり,民法上の賃金請求が成立する場合の額を当然に60%へ減らす規定でもない。

就業規則に「傷病者に対する就業禁止」等の条項が置かれていることがある。この種の条項は,労働安全衛生規則61条1項の内容をそのまま採り入れた項,会社が心身の状況を判断して就業を禁止できるとする項,及びその期間を無給とする項の組合せになっていることがある。

このうち法令の内容を採り入れた部分の対象は,同項が定める疾病等に限られる。会社の判断による就業禁止を定める部分は,これに対応する法令上の根拠がなく,就業可能であると主張する労働者の労務の受領を会社の判断で拒む場面となるため,前記の民法536条2項及び労働基準法26条の問題が正面から生じる。

無給とする定めがあっても,就業を禁止する措置自体が正当と認められなければ,賃金支払義務は残る。また,労働基準法26条の定める基準は同法13条により労働契約をもって下回ることができないから,規則に無給と定めたことだけを理由に休業手当の支払を免れることもできない。

第2 関連記事

休職の開始時に確認すべき事項の全体像は,社員が私傷病休職を開始する際に使用者が注意すべき事項(AI作成)で整理している。

復職の申出を受けた場合の配置可能性の検討は,元の仕事ができない社員の配置可能性――片山組事件と職種限定合意(AI作成)で整理している。

無給期間の生活を支える傷病手当金は,休職中の傷病手当金――待期,通算1年6か月,退職後の継続給付及び2年の時効(AI作成)で整理している。

傷病手当金の支給要件,金額の計算及び退職後の継続給付を含む制度全体は,傷病手当金とは―支給要件,金額の計算,退職後の継続給付及び障害年金・失業保険との関係で整理している。

第3 出典・参考資料
1 法令

①e-Gov法令検索「民法」536条

②e-Gov法令検索「労働基準法」13条,26条

③e-Gov法令検索「労働安全衛生法」及び同規則61条

2 実務書

①野口大『全訂版 労務管理における労働法上のグレーゾーンとその対応』(日本法令,令和5年)108頁~133頁,208頁,213頁~220頁,262頁~263頁。

休職時の情報確認,規程・合意及び説明の実務を検討するために参照し,刊行後の法令・指針・裁判例と照合した。

(続きを読む...)休職期間中の無給と休業手当の区別――民法536条2項,労働基準法26条及び就業禁止条項(AI作成)

主治医に何を伝え何を尋ねるか――勤務情報提供書,就業の可否,制限の程度と再評価の時期(AI作成)

第1 医師に伝える仕事と尋ねる事項

1 主治医,産業医等及び事業主の役割
2 診療情報提供への同意と追加照会

第2 関連記事第3 出典・参考資料1 法令に基づく指針2 公的な解説・行政資料3 実務書

「療養を要する」「就労可能」とだけ記載された診断書では,就業の可否を判断する材料が足りない。会社が実際の作業と実施可能な配慮を伝えたうえで,制限の内容と,その制限を続ける期間とを分けて尋ねる必要がある。以下では,主治医に提供する情報と,尋ねる事項を整理する。

第1 医師に伝える仕事と尋ねる事項

治療と就業の両立支援指針5(1)~(3)は,仕事の情報を主治医に伝えて意見を得た上で,産業医等の意見,本人の意向及び職場の状況を踏まえて事業主が判断する流れを示している。

産業医等がいない場合は主治医から提供された情報を参考とするのであって,会社だけで医学的な判断を代行するという意味ではない。

なお,令和7年5月14日に公布された労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号)により,労働者数50人未満の事業場についてもストレスチェックの実施が義務化される。施行日は公布後3年以内の政令で定める日とされており,現時点では未施行であるが,小規模事業場の健康管理体制は今後変わることになる。

「療養を要する」「就労可能」との記載だけでは判断に必要な情報が不足する場合,次の事項を確認する。

質問は休職又は就業のどちらかへ誘導せず,実際の作業と実施可能な配慮を示した上で行う。

確認する事項
医師に伝える情報・尋ねる内容

①作業内容と負荷
実際の作業,作業時間,反復の程度,通勤,安全上の危険を伝える。

②可能な勤務の条件
通常勤務,時間短縮,作業の変更等について,就業の可否と必要な条件を尋ねる。

(続きを読む...)主治医に何を伝え何を尋ねるか――勤務情報提供書,就業の可否,制限の程度と再評価の時期(AI作成)

休職事由の号の選び方――満了時の効果,欠勤要件の通算及び就業規則の不利益変更(AI作成)

第1 会社の規程と本人の適用条件第2 関連記事第3 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 公的な解説・行政資料4 実務書

休職を命じる場面では,どの休職事由を適用するかによって,休職期間の上限だけでなく,期間が満了したときの効果まで変わることがある。長期欠勤を要件とする号と,会社の判断による号とが併記された規程では,先にどちらを使うかが,後に退職へ至る経路を左右する。以下では,規程の確認事項と,二つの号の接続の問題を整理する。

第1 会社の規程と本人の適用条件

厚生労働省のモデル就業規則(令和7年12月版)16頁は,休職の定義,期間の制限及び復職等について労働基準法に定めはないと説明している。

したがって,同モデルの空欄を埋めた期間が法律上の標準になるわけではなく,まず自社の就業規則,雇用契約及び適用対象を確認する。

労働契約法7条は,合理的な労働条件を定めた就業規則を周知していた場合の契約内容への取込みを定めている。

実務上は,休職事由,必要な欠勤日数,勤続期間による違い,申請又は命令の手続,休職期間及び再休職時の通算規定に加え,休職中の賃金の取扱いと復職手続の適用対象を確認し,今回の事実がどの条項に該当するかを記録しておくのが適切である。
欠勤中の社員に休職者向けの復職条項をそのまま適用できるとは限らないため,休職への移行に命令を要するのか,自動的に移行するのかを確認するとともに,診断書提出や医師面談については健康管理に関する別の条項の有無と適用条件も確認する。

休職事由が複数の号に分かれている場合,どの号を適用するかによって,休職期間の上限だけでなく,期間満了時の効果も変わることがある。長期欠勤を要件とする号については満了時に退職とする一方,会社の判断による号については満了時に復職を命じるものとする規程もあるため,退職に至る経路がどの号を経由するかを,発令の時点で確認する。また,会社の判断による号について満了時に条件を付けずに復職を命じる旨を定める一方,復職の基準を別の条項で列挙している規程では,満了時に基準を満たさず療養がなお必要な場合の扱いが文言上定まらないため,発令の時点でこの点の解釈と理由を整理しておく。

あわせて,会社の判断による号の休職を先に命じると,その期間の不就労は労働義務が免除された状態であって「欠勤」ではないため,長期欠勤を要件とする号の日数が積み上がらなくなることがある。早期に休職を命じるほど後にその号を適用できなくなるという関係が生じ得るので,二つの号の接続を先に確認する。本人が診断書を提出して療養している期間は,休職を命じなくても就労しない状態に変わりはないから,会社の判断による号の休職を先に命じる実益は,主として,その期間中に本人が就業を申し出た場合の取扱いにあり(休職期間中の無給と休業手当の区別参照),休職を命じる時期は,この実益と二つの号の接続の問題とを比べて決めることになる。なお,通知書に規程の文言の読替えを記載しても,就業規則の内容が変わるわけではない。会社の解釈を示すのであれば,その理由も併せて記載する。

長期欠勤を要件とする号の日数を数えるときは,欠勤期間の途中に入った年次有給休暇の日にも注意する。労働基準法39条6項の労使協定による計画年休日は,協定で対象外としていない限り,私傷病で欠勤中の社員についても年休の日となり,欠勤には当たらないと考えられる。本人が残りの年休を使った日も同様である。そのため,要件を満たす日はその分だけ後ろにずれ得る。規程に数え方の定めがないときは,発令前に数え方を決め,その理由とともに記録しておく。

休職制度の不備が見つかった場合でも,今回の事案に対応するために休職期間を短縮したり,再休職の通算条件や復職要件を不利益に変更したりして,そのまま適用できるわけではない。

労働契約法9条及び10条により,合意のない就業規則による不利益変更は原則として認められず,例外的に変更が認められるには,変更後の規則の周知に加え,不利益の程度,変更の必要性,内容の相当性及び交渉の状況等に照らした合理性が必要となる。

現在適用される規程とその周知状況を確認する作業と,将来に向けて制度を整備する作業を分け,就業規則の変更では変更しないとした個別合意の有無も確認する必要がある。

東京高裁平成7年8月30日判決(平成6年(ネ)第2275号・富国生命事件)は,復職後に約3か月通常勤務をしていた社員について,未治癒で症状が再燃する可能性があるだけでは当該規則の休職事由に当たらないとして,会社の控訴を棄却した。

この判決は当該就業規則と勤務状況についての判断であり,病気なら休職させられるとも,本人が働きたいと言えば必ず就業させるとも述べていない。

なお,同事件では,会社が業務外の傷病として扱う一方,労働者側は業務起因性を争っていた。事案の位置づけを確認せずに引用すると,争点を取り違えることになる。

第2 関連記事

休職の開始時に確認すべき事項の全体像は,社員が私傷病休職を開始する際に使用者が注意すべき事項(AI作成)で整理している。

就業規則の記載事項・作成届出・周知・変更は,就業規則とは―記載事項・作成届出・周知・変更・懲戒の基本(AIリライト)で説明している。

通知書に記載すべき事項は,休職通知書に記載すべき事項――適用条項,期間,賃金,復職手続及び満了時の取扱い(AI作成)で整理している。

休職に入る日と年次有給休暇の関係は,休職と年次有給休暇の関係――休職前の取得,年5日の時季指定,出勤率及び2年の時効(AI作成)で整理している。

就業規則の不利益変更の考え方を定年制の新設に当てはめた場合については,就業規則による定年制の新設――既存の従業員に適用できるか,労働契約法10条と合理性の判断要素で整理している。

第3 出典・参考資料
1 法令

①e-Gov法令検索「労働契約法」7条,9条,10条

②e-Gov法令検索「労働基準法」39条

2 裁判例

①東京高裁平成7年8月30日判決・平成6年(ネ)第2275号(富国生命事件)。

判決本文PDF1頁~3頁。

(続きを読む...)休職事由の号の選び方――満了時の効果,欠勤要件の通算及び就業規則の不利益変更(AI作成)

休職と年次有給休暇の関係――休職前の取得,年5日の時季指定,出勤率及び2年の時効(AI作成)

第1 年休・欠勤・休職の日付を分ける第2 関連記事第3 出典・参考資料1 法令

休職に入れば労働義務のない日となるため,年次有給休暇を取得することも,使用者が時季を指定して与えることもできなくなる。休職の開始日を決める場面では,年休の残日数,次の基準日の出勤率及び時効を併せて確認しておく必要がある。

第1 年休・欠勤・休職の日付を分ける

診断書の作成日,療養を要するとされた期間の初日,実際の欠勤開始日及び就業規則上の休職開始日は,同じとは限らない。

年休の申出と残日数,欠勤期間の算定方法及び休職への移行条件を別々に確認し,開始日と満了予定日を計算する。

最終出勤日,欠勤開始日,休職開始日,休職期間の満了予定日,他の休職事由へ移行する場合の移行日,退職日及び社会保険の資格喪失日は,いずれも別の概念である。これらを一覧にして定義し,通知書,社会保険の届出及び賃金計算の各書面をその一覧に合わせる。同一の事案について書面ごとに日付が食い違うと,後に事実関係の確認が困難になる。また,当初の休職期間を規程より短く定めて後に発令し直すと,起算日が後ろにずれて満了時期が当初の想定より遅くなることがあるため,発令前に勤続年数と適用条項を確定させる。

労働基準法39条5項は,原則として労働者の請求する時季に年休を与える仕組みを定めている。

病気による欠勤を自動的に年休へ振り替えたり,年休を全て消化した日を当然の休職開始日としたりせず,本人の申出と適用規程を確認することが必要である。

欠勤中に計画年休日が来た場合(協定で対象外とされていない場合)や本人が残りの年休を使った場合,その日は欠勤ではなく年休となり,長期欠勤を要件とする休職事由の日数計算に影響する。

この点は,休職事由の号の選び方――満了時の効果,欠勤要件の通算及び就業規則の不利益変更(AI作成)で整理している。

他方,同法39条7項は,年10労働日以上の年休が付与される労働者について,そのうち5日を,基準日から1年以内の期間に,労働者ごとに時季を定めて与えなければならないとしており,この義務は同法120条1号の罰則の対象とされている。同条8項により,同条5項又は6項の規定によって既に与えた年休の日数(5日を超えるときは5日)については,時季を定めて与えることを要しない。

休職に入れば労働義務のない日となり,使用者が時季を指定して年休を与えることはできなくなるほか,本人が請求して取得することもできない。労働基準法施行規則24条の7の年次有給休暇管理簿により,当該労働者の基準日と当年度の取得実績を休職開始前に確認しておく必要がある。

また,同法39条10項が出勤したものとみなすのは,業務上の負傷若しくは疾病による療養のための休業,育児休業,介護休業及び産前産後の休業の各期間であり,私傷病による欠勤及び休職の期間はこれに含まれない。欠勤が長期化すると次の基準日に全労働日の8割以上出勤したという要件を満たさないことがある。他方,年次有給休暇の請求権は,労働基準法115条により2年で時効消滅する(賃金の請求権と異なり,同法143条3項による当分の間の読替えの対象ではない。)。年休を消化せずに残すかどうかを本人が判断する場面では,次の基準日の出勤率と併せて,この点も説明するのが適切である。

未消化の年休を多く残したまま休職に入ると,休職期間の満了や退職の場面で,その消化又は代償を求められることがある。年次有給休暇の買取りは,労働基準法39条が定める年次有給休暇の趣旨に反するため,原則として許されないと解されている。残日数の多い労働者について休職を検討するときは,休職開始前の取得の意向を確認し,回答期限を定めて書面で受け取っておくのが適切である。

年5日の時季指定義務の具体的な計算方法及び時季変更権については,年次有給休暇の付与日数,取得方法,年5日義務及び時季変更権(AIリライト)で整理している。

第2 関連記事

休職の開始時に確認すべき事項の全体像は,社員が私傷病休職を開始する際に使用者が注意すべき事項(AI作成)で整理している。

年休の付与日数,取得方法,年5日義務及び時季変更権は,年次有給休暇の付与日数,取得方法,年5日義務及び時季変更権(AIリライト)で整理している。

第3 出典・参考資料
1 法令

②e-Gov法令検索「労働基準法」13条,19条,24条,26条,39条,115条,120条,143条

⑪e-Gov法令検索「労働基準法施行規則」5条1項1号の3,24条の7

元の仕事ができない社員の配置可能性――片山組事件と職種限定合意(AI作成)

第1 他の業務への配置可能性第2 関連記事第3 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 法令に基づく指針4 公的な解説・行政資料

傷病により従前の業務を通常どおり遂行できなくなった社員について,元の仕事ができないという一事から労務の受領を拒むことはできない。他方,職種を限定する合意がある場合には,別の業務への配置を一方的に命じることもできない。以下では,この二つの制約の関係を整理する。

第1 他の業務への配置可能性

最高裁平成10年4月9日第一小法廷判決(平成7年(オ)第1230号・片山組事件)は,職種等を限定しない契約について,現に命じられた業務を十分にできなくても,現実に配置される可能性のある他の業務を遂行でき,その提供を申し出ている場合には,契約に沿った労務提供があるとした。

最高裁は,他業務への配置可能性を十分に検討しなかった原判決を破棄し,差し戻している。

同事件は自宅治療を命じられた期間の賃金等が問題となったものであり,休職期間満了時の復職要件を直接判断した事件ではない。

実務上は,契約上の職種限定,本人の能力・経験,企業の規模及び実際の配置・異動の状況を確認し,元の仕事ができないという理由だけで検討を終えないことが重要である。

治療と就業の両立支援指針5(5)ウは,職場復帰の可否について,①主治医の意見を求め,②これを産業医等に提供して意見を聴取し(産業医等がいない場合は主治医から提供を受けた情報を参考とし),③本人の意向を確認し,④復帰予定の職場の意見を聴取した上で,⑤これらを総合的に勘案し,配置転換も含めた職場復帰の可否を判断する,という順序を示している。

ただし,同判決から,存在しない仕事を常に新設する義務まで導くことはできない。

他方,最高裁令和6年4月26日第二小法廷判決(令和5年(受)第604号)は,職種や業務内容を限定する合意がある場合,労働者の同意を得ずにされた異なる職種等への配置転換命令について,使用者が命令権を有することを前提として権利濫用に当たらないとした原審の判断には違法があるとして,原判決を破棄し差し戻した。

同判決は私傷病休職の事件ではないが,休職回避のために別業務への配置を検討する際にも,限定合意に反する命令をすることと,本人との合意によって別業務に従事する可能性を検討することを区別する必要がある。

職種限定があることだけから,他業務の検討が全て不要になるとも,元の職務ができなければ直ちに退職となるともいえない。

労働基準法施行規則5条1項1号の3及び厚生労働省の改正案内によれば,令和6年4月1日以降,契約締結時及び有期契約更新時の労働条件明示では,就業場所及び従事すべき業務の変更の範囲も対象となっている。

労働条件通知書だけでなく,採用時の説明や個別合意も確認するのが適切であり,この改正は全ての在職者に休職開始時の通知書再交付を一律に命じる制度ではない。

障害者である労働者については,障害者雇用促進法36条の3の措置も検討対象となるが,過重な負担となる場合の例外がある。

同法2条1号は,障害者を,身体障害,知的障害,精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害があるため,長期にわたり,職業生活に相当の制限を受け,又は職業生活を営むことが著しく困難な者と定義しており,障害者手帳の交付や特定の病名の確定診断を要件としていない。

したがって,診断が確定していない段階であっても,心身の機能の障害によって職業生活に長期の制限が生じている場合には,同法36条の3による措置の要否を検討する余地がある。

具体的職務についての能力と行政上の認定の区別は,障害者手帳・障害年金の認定と労務提供能力の記事で説明している。

第2 関連記事

休職の開始時に確認すべき事項の全体像は,社員が私傷病休職を開始する際に使用者が注意すべき事項(AI作成)で整理している。

改善指導・配置転換・解雇回避措置との関係は,能力不足・協調性不足による普通解雇―改善指導・配置転換・解雇回避措置と裁判例(AI作成)で整理している。

職種・勤務地の限定合意がない場合の配転命令権の根拠と,権利の濫用の判断枠組みは,配転命令(転勤命令)の有効性―就業規則の根拠,職種・勤務地の限定合意と東亜ペイント事件の判断枠組み(AI作成)で整理している。

行政上の認定と労務提供能力の区別は,障害者手帳・障害年金の認定と労務提供能力は同じか―雇用紛争で区別すべき四つの判断層(AI作成)で説明している。

第3 出典・参考資料
1 法令

⑦e-Gov法令検索「障害者の雇用の促進等に関する法律」2条,36条の3

⑪e-Gov法令検索「労働基準法施行規則」5条1項1号の3,24条の7

2 裁判例

②最高裁平成10年4月9日第一小法廷判決・平成7年(オ)第1230号・集民188号1頁(片山組事件)。

判決本文4頁~5頁。

(続きを読む...)元の仕事ができない社員の配置可能性――片山組事件と職種限定合意(AI作成)

休職中の傷病手当金――待期,通算1年6か月,退職後の継続給付及び2年の時効(AI作成)

第1 傷病手当金の申請と時効第2 関連記事第3 出典・参考資料1 法令2 公的な解説・行政資料

休職中の社員の生活を支えるのは,多くの場合,健康保険の傷病手当金である。会社が休職と呼ぶ期間と給付の対象となる期間は一致しないため,待期の数え方,支給期間の通算,退職後の継続給付及び時効を,それぞれ分けて確認する必要がある。

支給要件,金額の計算,支給期間の数え方,退職後の継続給付並びに障害年金,出産手当金,労災保険及び雇用保険との調整の詳細は,傷病手当金とは―支給要件,金額の計算,退職後の継続給付及び障害年金・失業保険との関係で整理しており,本記事では,休職中の社員について会社が確認すべき点に絞って説明する。

第1 傷病手当金の申請と時効

健康保険法99条は,被保険者が療養のため労務に服することができない場合,連続する3日間の待期を経た4日目以降の対象日について傷病手当金を支給する仕組みを定めている。

協会けんぽの案内では,待期には年次有給休暇や公休日も含まれるとされており,会社が休職と呼ぶ期間の初日から数えるとは限らない。

また,傷病手当金は療養のため労務に服することができない場合の給付であるから,主治医が就業可能とする一方で会社の判断により就業させない期間について,この要件を当然に満たすとはいえない。労務不能の判定は保険者が行うが,就業を止めるかどうかを検討する際は,賃金請求の問題だけでなく,本人が賃金も給付も受けられない状態となる可能性も併せて確認する必要がある。

1日当たりの額は,原則として,支給開始月以前の直近の継続した12か月間の標準報酬月額の平均額を30で除した額の3分の2である。

加入期間が12か月未満の場合には別の算定規定があり,端数処理もあるため,単純に現在の手取り給与の3分の2として案内しないことが重要である。計算例と,加入期間が12か月未満の場合に用いる平均額は,傷病手当金とは―支給要件,金額の計算,退職後の継続給付及び障害年金・失業保険との関係の第4で示している。

健康保険法108条により,報酬を受けられる期間は傷病手当金との調整が行われ,報酬額が傷病手当金より少なければ差額支給の対象となる。

したがって,給与が少しでも出れば必ず全額不支給になるとは限らず,年休を含め,対象日ごとの給与の取扱いを正確に確認する。

年次有給休暇の付与日数,年休賃金及び傷病手当金との調整については,年次有給休暇の付与日数,取得方法,年5日義務及び時季変更権を参照されたい。

同一の傷病についての支給期間は,支給開始日から通算して1年6か月であり,会社の休職可能期間とは別である。

実務上は,休職制度が終了する日と給付が終了する日を,別々に説明することが重要である。

例えば,「傷病手当金は1年6か月出るので,無理して働く必要はない」といった説明は,本人に,雇用も1年6か月続くと受け取られるおそれがある。

休職期間が3か月等と短い規程では,後に休職期間満了による退職が争われたときの材料にもなるので,給付の期間と休職期間を並べて示すのが適切である。

また,健康保険法104条は,資格喪失日の前日まで引き続き1年以上被保険者であった者が,その資格を喪失した際に傷病手当金の支給を受けているときは,被保険者として受けることができるはずであった期間,継続して同一の保険者からその給付を受けることができるとしている。

休職期間の満了により退職する可能性がある場合も,退職すれば当然に給付が終了すると案内せず,被保険者期間の長さと,資格喪失時に傷病手当金を受けているか,報酬を受けているために支給が停止されているにとどまるかを確認する必要がある。

協会けんぽは,退職日に出勤したときは継続給付を受ける条件を満たさないとしている。また,退職後にいったん労務可能となった場合は,治癒しているか否かを問わず,同一の傷病により再び労務不能となっても傷病手当金は支給されない。

休職期間の満了日に挨拶や引継ぎのための出社を求めると,本人の継続給付を失わせることになる。継続給付の要件は,傷病手当金とは―支給要件,金額の計算,退職後の継続給付及び障害年金・失業保険との関係の第6で整理している。

健康保険法193条及び協会けんぽのFAQ問2によれば,傷病手当金は労務不能であった日ごとにその翌日から2年で時効となる。

このため,休職の終了まで申請を待つ運用は避け,対象期間の勤務・給与の記録を確認して申請を進めるのが適切である。

健康保険法施行規則84条は,申請に必要な療養担当者の意見と,労務に服さなかった期間や報酬等についての事業主の証明を定めている。

実務上は,本人,医療機関及び会社の担当部分を開始時に説明し,勤務・給与の記録に基づいて申請書を作成できる体制を整えるのが適切である。

休職期間中も使用関係が続く限り被保険者資格は失われず,事業主と被保険者は,賃金の支給が停止される前の標準報酬に基づく保険料を折半して負担する(健康保険法161条,昭和26年3月9日保文発第619号)。無給の期間に給与から控除できない本人負担分の支払方法と,復職後の給与から立替金を控除する場合の制約は,社員が私傷病休職を開始する際に使用者が注意すべき事項の第6の3で整理している。

健康保険法55条1項により,同一の傷病について労災保険の相当する給付を受けられる場合には,健康保険の給付との調整が問題となる。

私傷病として傷病手当金を申請した後に業務上の傷病と判断された場合も,保険者及び労働基準監督署に手続を確認し,会社だけで返還額を確定したり,申請を一律に止めたりしないことが適切である。業務上か業務外かの判断がつかない間も,労災保険の請求と並行して傷病手当金を申請することができ,健康保険の給付を受ける権利の時効は労災保険の決定を待たずに進むので,申請を止めると本人が給付を失うおそれがある。関係する裁判例は,傷病手当金とは―支給要件,金額の計算,退職後の継続給付及び障害年金・失業保険との関係の第7の3で説明している。

第2 関連記事

休職の開始時に確認すべき事項の全体像は,社員が私傷病休職を開始する際に使用者が注意すべき事項で整理している。

社会保険の加入・保険料・資格取得喪失は,社会保険の加入・保険料・資格取得喪失と士業の適用で説明している。

(続きを読む...)休職中の傷病手当金――待期,通算1年6か月,退職後の継続給付及び2年の時効(AI作成)

休職通知書に記載すべき事項――適用条項,期間,賃金,復職手続及び満了時の取扱い(AI作成)

第1 休職通知で伝える事項第2 関連記事第3 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 法令に基づく指針4 公的な解説・行政資料5 実務書

休職を命じるときは,適用する条項と期間だけでなく,賃金の取扱い,連絡の方法,復職の手続及び満了時の取扱いを,交付した日付とともに書面で残しておく必要がある。後に効力が争われる場面では,発令時にどの条項を適用し,本人に何を説明したかが確認されることになり,書面に残っていない事項は,発令の時点で会社がそのように判断していたことを示しにくくなるからである。

第1 休職通知で伝える事項

治療と就業の両立支援指針5(5)アは,長期休業の開始前に,制度,賃金,手続,休業可能期間及び職場復帰の手順を説明する対応を示している。

同アは,これらの情報提供とともに休業申請書類を提出させて休業を開始することを示しており,また,治療の見込みが立てやすい傷病の場合には,休業開始の時点で主治医や産業医等の専門的な助言を得ながら休業終了の目安も把握することを示している。休職への移行に本人の申請を要するのか,会社の命令によるのかは規程ごとに異なるため,自社の手続と照合する。

説明の食い違いを防ぐため,次の事項を通知書又は説明書にまとめ,本人に交付した内容と日付を残す。

項目
通知・説明する内容

①根拠と開始日
適用する規程,休職事由,休職開始日及びその算定の基礎。

②期間
満了予定日,延長の有無と条件,再休職時の通算方法。診断書の記載期間を超えて期間を定める場合は,その期間を定めた根拠。

③金銭
給与の取扱い,傷病手当金の申請手順,社会保険料の本人負担分及び住民税の支払方法。

④連絡
担当窓口,連絡方法,予定する連絡時期,病状により連絡が難しい場合の相談方法。

(続きを読む...)休職通知書に記載すべき事項――適用条項,期間,賃金,復職手続及び満了時の取扱い(AI作成)

休職・欠勤中の社員に受診を命じられるか――指示に従う義務の根拠,指定医の受診及び拒まれた場合の対応(AI作成)

第1 受診を求める場面と拒まれた場合の対応

1 指定医の受診と診療情報提供への同意を分ける
2 拒否と条件付き同意への対応
3 協成事件から分かることと分からないこと

第2 関連記事第3 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 法令に基づく指針4 実務書

社員が療養中で,会社が医学的な資料を得たい場面では,本人に受診や情報提供を求めることになる。本人が応じない場合に,何を根拠にどこまで求められるかは,休職中か欠勤中かによって使える条項が異なり,裁判例の射程も限られている。以下では,その順序と限界を整理する。

第1 受診を求める場面と拒まれた場合の対応

本人が受診や追加の情報提供に応じない場合も,確認の目的,不足している事項及び規程上の根拠を示し,より限定した確認方法を検討する。

検討の順序としては,裁判例を参照する前に,自社の規程に,休職者に限らず適用される健康管理上の条項がないかを確認する。傷病による欠勤が一定日数以上に及ぶ場合の診断書提出義務,会社が必要と認めた場合に指定医の診断を受けさせることができる旨の定め,健康管理上必要と認めたときに受診及び結果の報告を命じることができる旨の定めが置かれていることがある。復職手続に関する条項が休職者にしか及ばないのに対し,これらは在籍者一般に及ぶ形で置かれていることが多い。その場合,拒否したときの効果が定められているかも併せて確認する。

精神的不調による欠勤が疑われるときは,直ちに懲戒の問題として処理しないことが重要である。

受診や資料提出が進まないときは,本人が拒否しているのか,病状,費用,予約事情又は説明の不明確さによって対応できないのかを確認する。

必要性を説明し,質問範囲の限定や提出時期の調整等を検討した経緯も記録する。

受診命令の有効性,取得できる医療情報の範囲,労務提供能力及び懲戒・雇用終了の有効性は,それぞれ検討すべき問題である。

受診を求める措置そのものの適否は,懲戒の適否とは別に検討する。最高裁昭和61年3月13日第一小法廷判決(昭和58年(オ)第1408号・集民147号237頁)は,健康管理規程等により労働契約上その健康回復を目的とする健康管理従事者の指示に従う義務がある職員について,当該検診が疾病の治癒回復という目的との関係で合理性ないし相当性を肯定し得る限り,病院又は担当医師の指定及び実施時期の指示を含めて,これに従う義務があるとした。

したがって,受診を求める場合は,①労働契約上その指示に従う義務の根拠と,②求める検査又は面談が目的との関係で合理性・相当性を有することを,それぞれ確認する必要がある。

もっとも,就業規則に定めがなければおよそ求められないというわけではない。東京高裁昭和61年11月13日判決(昭和59年(行コ)第74号・労働判例487号66頁。裁判所HP未掲載)は,休職中の従業員が自らの疾病は業務に起因すると主張したのに対し,会社が専門医を指定して受診を指示した事案について,就業規則等に指定医受診の定めがないことを前提としつつ,労使間における信義則ないし公平の観念に照らし合理的かつ相当な理由のある措置であるとして,指定医の受診を指示することができ,労働者はこれに応ずる義務があるとした。同判決は,最高裁昭和63年9月8日第一小法廷判決(昭和62年(行ツ)第32号,第33号・労働判例530号13頁。裁判所HP未掲載)により維持されている。

ただし,同事件で合理的かつ相当な理由が認められたのは,業務起因性の有無が以後の処遇に直接影響したことに加え,本人が当初提出した診断書を作成した医師自身が,会社に対して業務に起因するものではないと説明したという食い違いがあったためである。また,同事件は労働組合法7条の不当労働行為の成否が争われたものであり,受診の指示に関する判断は理由中でされている。会社と主治医の判断が食い違っていない段階について,同判決から一般に指定医の受診を求め得るとまでいうことはできない。

会社が自らの判断のために指定医の受診を求めるときは,費用を会社負担とし,主治医の受診とは建付けを分けておくと,措置の相当性を説明しやすい。

最高裁平成24年4月27日第二小法廷判決(平成23年(受)第903号・日本ヒューレット・パッカード事件)は,当該精神的不調の下での欠勤について,健康診断や治療・休職等の検討を経ずに行った諭旨退職を,懲戒事由を欠くものとして無効とした。

この判決は,あらゆる受診拒否や欠勤を免責する判断ではなく,当該欠勤の原因・経緯と会社の対応を踏まえたものである。

なお,労働安全衛生法68条及び同規則61条による就業禁止は,病気一般を対象とするものではなく,規則に定める疾病等に該当するかが問題となる。

同規則による就業禁止には,あらかじめ産業医その他専門の医師の意見を聴く必要があり,安全確保の措置を検討することと,無給休職の根拠・期間を決めることは分けて考えるべきである。

この点,治療と就業の両立支援指針2は,同法68条及び同規則61条1項の就業禁止について,これらの規定が「当該労働者の疾病の種類,程度及びこれらについての産業医等の意見を勘案の上,可能な限り配置転換,作業時間の短縮その他の必要な措置を講ずることによって就業の機会を失わせないようにし,やむを得ない場合に限り就業を禁止するものとする趣旨であり,種々の条件を十分に考慮して慎重に判断すべきものである」としている。同指針は,労働安全衛生法62条が,中高年齢者その他労働災害の防止上その就業に当たって特に配慮を必要とする者について,心身の条件に応じた適正な配置を求めていることにも言及している。

1 指定医の受診と診療情報提供への同意を分ける

会社が指定する医師の診察を受けることと,主治医が保有する診療情報を会社の産業医等へ提供することは,別の行為である。受診指示に労働契約上の根拠がある場合でも,それだけで主治医に対する無制限の照会に同意したことにはならない。

病歴その他の健康情報は要配慮個人情報に当たり得る。会社が主治医への照会を求める場合は,①復職判断又は就業上の配慮という利用目的,②不足している情報,③質問項目,④対象期間,⑤提供先と実際の取扱者,⑥保存期間,⑦本人経由の意見書等の代替方法を具体化し,判断に必要な範囲を超えて取得しないことが重要である。

厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」も,主治医の診断書だけでは情報が不足する場合,産業医等が労働者の同意を得た上で,職場復帰支援に必要な内容を主治医から収集する流れを示している。

2 拒否と条件付き同意への対応

(続きを読む...)休職・欠勤中の社員に受診を命じられるか――指示に従う義務の根拠,指定医の受診及び拒まれた場合の対応(AI作成)

試し出勤が有効な場合と有効でない場合-疾患別・職種別の復職判断(AI作成)

第1 試し出勤の有効性は疾患名ではなく確認できる事実で決まる1 結論2 本記事の対象と基準時3 五つの条件を満たす場合に有効性が高い第2 疾患と職務を掛け合わせる判断方法1 疾患名から一律の結論を出さない2 疾患側の四つの軸3 職務側の四つの軸4 変動性と危険性の四象限第3 休職原因となった疾患ごとの分析1 うつ病,適応障害,不安障害等のメンタルヘルス不調2 がん及びがん治療後3 脳卒中,脳外傷及び高次脳機能障害4 心疾患及び循環器疾患5 糖尿病6 肝疾患7 難病その他の症状が変動する慢性疾患8 腰痛,頸肩腕障害その他の筋骨格系疾患9 疾患別分類に載っていない疾患第4 職種及び職務負荷ごとの分析1 一般事務,経理,IT及び知識労働2 接客,電話,窓口,営業及び苦情対応3 介護,看護,製造,建設,運搬その他の身体負荷が高い仕事4 運転,高所,危険機械,医療安全その他の安全上重要な仕事5 夜勤,交替制,不規則勤務,出張及び長時間労働6 在宅勤務及びハイブリッド勤務7 管理職,専門職及び職種限定のある社員第5 有効な試し出勤の設計1 仮説,観察事項及び判断後の対応を先に決める2 実際の職務との一致を示す3 中止基準を失敗扱いしない4 一回の結果を合否にしない5 試し出勤を行わない方がよい場合第6 法的な位置付けと裁判例1 試し出勤は一律の法定義務ではない2 東京高裁平成28年9月12日判決3 東京地裁八王子支部平成6年5月25日判決4 片山組事件最高裁判決第7 医学研究から分かることと分からないこと1 直接分かること2 直接分からないこと第8 実務上の確認順序1 実施前2 実施中3 実施後第9 出典1 法令2 法令に基づく指針3 所管行政機関の解説・運用資料4 裁判例5 医学文献
第1 試し出勤の有効性は疾患名ではなく確認できる事実で決まる
1 結論

試し出勤が有効であるのは,復職可否を判断するために残っている具体的な不確実性を,安全な方法で減らせる場合である。
例えば,通勤を継続できるか,現実の職場で注意・集中を保てるか,作業後の疲労が翌日までに回復するか,勤務条件を調整すれば安定して働けるかが,診察や自宅生活だけでは分からない場合には,目的を絞った試し出勤が役立つ。

反対に,試し出勤をしても判断に必要な情報が増えない場合,実際の職務と異なる活動しか行わない場合又は試すこと自体に許容できない危険がある場合には,試し出勤の有効性は低い。
一度出勤できたことを完全復職の証明としたり,予定を一部こなせなかったことを復職不可の自動的な根拠としたりする運用も適切ではない。

本記事でいう「有効」とは,制度又は合意の法的な有効・無効ではなく,復職判断に必要な情報を得る方法として有用であるという意味である。
試し出勤中の給与,最低賃金,労災・通勤災害及び傷病手当金については,「休職中の試し出勤制度―給与・最低賃金,労災・通勤災害及び傷病手当金の取扱い(AI作成)」で扱っている。

2 本記事の対象と基準時

本記事は,民間企業における私傷病休職中の社員について,正式な復職決定の前に行う職場での試し出勤を中心に,模擬出勤及び通勤訓練も必要に応じて扱う。
令和8年9月2日現在の法令,公表資料及び医学文献に基づく整理であり,就業規則,労働契約,疾患の状態及び職務内容によって個別の結論は異なる。

3 五つの条件を満たす場合に有効性が高い

試し出勤の有効性が高いのは,①確認したい事項が具体的であること,②復職後に予定される職務又は職場環境と対応していること,③安全に中止又は変更できること,④必要な配慮を試して比較できること,⑤結果を一回の合否ではなく他の資料と合わせて評価することという五つの条件を満たす場合である。
この五条件は前記指針の文言をそのまま列挙したものではなく,本記事が公的資料及び医学研究を横断して整理した実務上の評価枠組みである。

厚生労働省の「治療と就業の両立支援指針」は,試し出勤制度を,長期休業者の勤務時間又は勤務日数を短縮して円滑な復帰を支援し,本人と職場の不安を解消して具体的な準備を行うための事業主の自主的な制度としている。
したがって,単に出勤日数を消化させるのではなく,何を確認し,どの条件を整えるための期間であるかを決める必要がある。

第2 疾患と職務を掛け合わせる判断方法
1 疾患名から一律の結論を出さない

同じ疾患でも,症状,治療内容,副作用,後遺症,回復経過及び日内・日間の変動は人によって異なる。
また,同じ「事務職」でも,定型入力を自分のペースで行う仕事と,締切の下で複数案件を判断しながら顧客対応をする仕事とでは,必要な能力及び失敗時の影響が異なる。

前記指針は,疾病を理由に安易に就業を禁止せず,主治医及び産業医等の意見を勘案して,可能な限り配置転換,作業時間の短縮その他の措置を検討する一方,就業による増悪,再発及び労働災害を防止することを就業の前提としている。
このため,診断名の一覧表ではなく,社員の現在の機能と具体的な職務負荷を照合する必要がある。

2 疾患側の四つの軸

疾患側では,①症状及び機能制限が現在どの程度安定しているか,②一日の中又は日ごとの変動があるか,③治療及び服薬による時間的制約又は副作用があるか,④負荷による増悪又は重大な事故の可能性があるかを確認する。

医学的な就業可否は主治医等が判断する事項であり,会社が試し出勤によって診断又は治療効果を判定するものではない。
会社が確認するのは,医学的意見で許容された範囲内で,具体的な職務及び配慮が継続可能かという職務適合の事実である。

3 職務側の四つの軸

職務側では,①身体的負荷,②認知的・心理的負荷,③勤務時間及び通勤を含む時間的負荷,④失敗が本人,同僚,顧客又は公衆に与える危険の大きさを確認する。

厚生労働省の「治療と就業の両立支援指針・解説及び疾病別留意事項」の様式例は,立位,重量物,暑熱・寒冷・屋外,振動工具,不特定多数との対面,病原体,呼吸用保護具,単独作業,高所,危険な機械操作,自動車運転,残業,出張及び夜勤を職務情報として主治医に伝える構造である。

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試し出勤を拒否・中止・失敗した社員の復職可否-協力義務,判断資料及び休職期間満了(AI作成)

第1 試し出勤の拒否・中止・失敗だけで復職不可とは決まらない

1 最初に確認すべき結論

2 三つの問題を分ける

3 本記事の対象と基準時

第2 試し出勤への協力を求める範囲

1 就業規則と個別計画が出発点となる

2 両立支援は社員本人の申出と対話を基礎とする

3 一般的な協力義務と個別の法的義務を区別する

4 障害に関係する場合は合理的配慮の手続を重ねる

第3 拒否・中止・失敗を同じ事実として扱わない

1 試し出勤を拒否した場合

2 試し出勤を中止した場合

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休職中の試し出勤制度―給与・最低賃金,労災・通勤災害及び傷病手当金の取扱い(AI作成)

第1 試し出勤で最初に区別すべきこと1 この記事の対象と結論2 模擬出勤,通勤訓練及び職場での試し出勤第2 制度の法的位置付けと実施手順1 令和8年4月からの法定指針2 開始前に書面で決める事項第3 給与と最低賃金1 実際の労務提供がない場合2 実際の労務提供がある場合3 最低賃金と従前の契約賃金は別の問題である第4 労災と通勤災害1 職場で事故が起きた場合2 通勤訓練中の事故第5 傷病手当金1 出勤した事実だけで直ちに支給が止まるわけではない2 労務不能の判断と報酬による調整を分ける3 申請時に会社が残す記録第6 就業規則と個別計画の点検事項1 制度規程に置く基本事項2 実施中に越えてはならない境界第7 出典・参考資料1 法令・告示2 裁判例・行政裁決3 法令に基づく指針4 所管行政機関の解説・Q&A・運用資料5 関連記事
第1 試し出勤で最初に区別すべきこと
1 この記事の対象と結論

本記事は,私傷病で休職中の社員が正式な復職決定の前に行う模擬出勤,通勤訓練及び職場での試し出勤について,令和8年9月1日現在の法令及び公表資料に基づき,給与,最低賃金,労災・通勤災害並びに傷病手当金の取扱いを整理するものである。
短時間勤務等による正式な復職後は通常の就労であり,休職中の試し出勤とは区別する。

「試し出勤」という名称だけで無給か有給か,労災保険が適用されるか,又は傷病手当金が支給されるかが決まるわけではない。
使用者の指示の有無,行った作業の内容,会社の事業への有用性,時間及び場所の拘束,賃金又は報酬の有無,主治医等の意見並びに制度の目的を具体的に確認する必要がある。

2 模擬出勤,通勤訓練及び職場での試し出勤

厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」は,正式な職場復帰決定前の取組を,①図書館やデイケア等で軽作業を行う模擬出勤,②自宅から職場付近まで移動して帰宅する通勤訓練,③本来の職場等へ試験的に継続して出勤する試し出勤に分けている。
この区別は,会社施設へ入ったかどうかだけでなく,実際の業務を行ったかを検討する出発点となる。

職場に滞在しても,私物の読書や体調記録だけで,使用者が業務上の指示をせず,成果を会社が利用しない場合は,労務提供に当たらないことがある。
反対に,資料作成,電話対応,データ入力,顧客対応又は同僚の業務補助等を命じ,通常業務の一部として成果を受け取る場合は,「訓練」と呼んでいても労務提供と評価される可能性が高くなる。

第2 制度の法的位置付けと実施手順
1 令和8年4月からの法定指針

労働施策総合推進法27条の3第1項は,治療を受ける労働者について,事業主が相談対応の体制整備その他の必要な措置を講ずる努力義務を定めている。
同条2項に基づく「治療と就業の両立支援指針」は令和8年4月1日から適用され,試し出勤制度を,長期間休業した労働者の円滑な職場復帰を支援するため,勤務時間又は勤務日数を短縮して試し出勤等を行う自主的な勤務制度と位置付けている。

同指針は,支援を労働者本人の申出から始めることを基本とし,事業主が措置を一方的に判断しないこと,主治医及び産業医等の意見を踏まえること,本人の同意を得た上で必要な健康情報を共有することを求めている。
試し出勤も,会社が一方的に命じる適性試験ではなく,治療と就業の両立を支える個別の計画として実施するのが適切である。

2 開始前に書面で決める事項

本記事では,試し出勤の制度根拠を就業規則等で定め,個々の社員については開始前に実施計画を作成する形を基本とする。
私傷病休職の開始時の取扱いは,私傷病休職の開始時に使用者が確認すべき事項で整理している。

実施計画では,①目的,②開始日及び終了予定日,③出勤日,滞在時間及び場所,④行う活動と禁止する業務,⑤指揮命令者,⑥給与,交通費及び社会保険上の取扱い,⑦事故時の連絡及び受診手順,⑧主治医又は産業医等の意見,⑨健康情報を扱う者の範囲,⑩中止基準,⑪評価日,⑫正式な復職判断とは別手続であることを明確にする。
実施中に予定外の業務を依頼した場合は,その時点から労働時間,賃金,災害補償及び傷病手当金への影響を再検討する必要がある。

第3 給与と最低賃金
1 実際の労務提供がない場合

模擬出勤又は通勤訓練として,社員が任意に生活リズムや通勤可能性を確認するだけで,会社の指揮命令下における作業を行わない場合は,その時間について当然に賃金請求権が発生するとは限らない。
もっとも,就業規則,労働契約又は実施計画で手当,交通費その他の支給を約束したときは,その定めに従うことになる。

無給で行う場合は,会社の利益となる仕事をさせないことを実際の運用でも徹底しなければならない。
名称だけを「リハビリ」「見学」又は「試し」としながら,通常業務の一部を割り当てる運用は,無給とする根拠にはならない。

2 実際の労務提供がある場合

(続きを読む...)休職中の試し出勤制度―給与・最低賃金,労災・通勤災害及び傷病手当金の取扱い(AI作成)

定年後再雇用の更新時に勤務日数・賃金を引き下げられるか(AI作成)

第1 条件変更を断っただけで契約終了になるわけではない第2 契約途中の変更・更新拒絶・変更への同意を分ける1 契約途中では勤務表だけを変えても足りない2 更新時には労働契約法19条の要件を確認する3 署名があっても同意の経緯を確認する第3 結論が分かれた西田通商事件と東光高岳事件1 西田通商事件――週5日から週3日への変更と雇止め無効2 東光高岳事件――更新期待を認めた上で更新拒絶を有効とした例3 二つの判決から確認できる比較の視点第4 65歳までの雇用確保と同一労働同一賃金との関係1 65歳までの雇用確保は旧賃金の当然の保障とは異なる2 本人の前年との比較と通常の労働者との比較は別である第5 労働者が更新前に行う確認と記録1 旧条件での更新希望と就労意思を伝える2 手元の資料を先にそろえ,説明を求める3 就労を拒まれた期間の賃金と時効を確認する第6 会社側の提案準備と,交渉・手続へ進む判断第7 出典・参考資料1 法令・告示2 裁判例3 所管行政機関のQ&A・改正案内4 法律事務所の事件紹介
第1 条件変更を断っただけで契約終了になるわけではない

定年後再雇用の契約更新時に,会社が勤務日数や賃金を引き下げる条件を提案することは,一律に禁止されていない。
しかし,労働者がその提案に同意しなかったという理由だけで,会社が従前の条件による更新を自由に拒絶できるわけではない。
変更の合意が成立するかという問題と,労働契約法19条によって雇止めが制限されるかという問題を分けて考える必要がある。

週5日勤務を週3日に減らし,月給を日数に比例して減らす場合も,日給・時給が変わらないことだけでは結論は決まらない。
西田通商事件では,このような変更を拒否した労働者の雇止めが無効とされた一方,東光高岳事件では,事情の異なる条件変更の提案について更新拒絶が有効とされている。

本記事は,令和8年8月31日現在の法令と確認できた裁判例に基づき,民間企業の定年後の有期再雇用契約を更新する場面を扱う。
定年直後に初めて再雇用契約を結ぶ場面や,勤務日数の最低保証がない変動シフトについては前提が異なるため,まず契約上の日数・時間・賃金を確認する。

第2 契約途中の変更・更新拒絶・変更への同意を分ける
1 契約途中では勤務表だけを変えても足りない

労働契約法8条は,労使の合意による労働条件の変更を認めている。
契約上,週5日勤務と月給が定められている場合に,会社が勤務表を週3日に書き換えただけで,契約上の日数と賃金も当然に変更されたことにはならない。

同意のない就業規則による不利益変更は,同法9条の原則と10条の例外に従って判断する。
10条では,変更後の就業規則の周知に加え,不利益の程度,変更の必要性,内容の相当性,労働組合等との交渉状況その他の事情に照らした合理性が問題となる。
就業規則の変更によっては変更しないと個別に合意した条件には,同条ただし書の検討も残る。

また,同法12条により,就業規則の基準に達しない条件を定めた個別契約は,その部分について無効となり,就業規則の基準による。
したがって,会社と本人が合意したかだけでなく,適用される再雇用規程・賃金規程との関係も確認する。

2 更新時には労働契約法19条の要件を確認する

更新時に新条件で合意できなかった場合は,労働者の旧条件による更新申込みを会社が拒絶してよいかが問題となる。
労働契約法19条による保護を検討する順序は,次のとおりである。

①反復更新の実態から雇止めを無期契約の解雇と社会通念上同視できる場合(1号),又は更新への期待に合理的な理由がある場合(2号)に当たるか。
②労働者が,契約満了日までに更新を申し込み,又は満了後遅滞なく有期契約の締結を申し込んだか。
③会社の拒絶が,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められないか。

これらの要件を満たすと,会社は「従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす」とされる。
更新期待があるだけで旧条件の更新が決まるわけではないが,新条件を提示しただけで同条の適用を避けられるわけでもない。
更新期待・不更新条項・無期転換の一般的な説明は,有期労働契約の期間・更新・雇止め・無期転換ルールを参照されたい。

3 署名があっても同意の経緯を確認する

最高裁平成28年2月19日第二小法廷判決(平成25年(受)第2595号,山梨県民信用組合事件)は,不利益変更への同意について,労働者の自由意思に基づくと認めるに足りる客観的に合理的な理由があるかを慎重に判断すべきであるとした。
不利益の内容・程度,同意に至る経緯,事前の情報提供や説明等が問題となる。

これは退職金の変更に関する破棄差戻し判決であり,再雇用契約への署名を一律に無効としたものではない。
再雇用の更新でも,署名の有無に加え,変更後の勤務日数・年収・賞与が説明されたか,検討の機会があったか,異議や留保をどのように伝えたかを確認することが考えられる。

第3 結論が分かれた西田通商事件と東光高岳事件
1 西田通商事件――週5日から週3日への変更と雇止め無効

横浜地裁令和6年6月27日判決(令和4年(ワ)第1403号,労働判例1346号17頁)は,定年後の再雇用者に対し,週5日・基本賃金月額20万0998円から,週3日・月額12万0599円への変更が提案された事案である。
労働者は旧条件での更新を求めたが,会社は契約を更新しなかった。
裁判所HP未掲載であり,判例秘書で判決本文を確認した。

裁判所は,再雇用に関する規程,契約内容,更新の経過等から,雇用継続への合理的期待を認めた。
契約書に,更新時には個別合意の上で労働条件を変更することがあると記載されていても,合意できなければ当然に契約が終了するとは扱わなかった。

日給・時間給に換算した賃金単価は変わらなかったが,裁判所は,月額約12万円で家計を維持することや,空いた曜日に別の仕事を確保することの難しさを考慮した。
会社の業績悪化についても,雇止め後に別の労働者を再雇用し,役員報酬を増額した事情や,本人が売上げに直結しない業務にも従事していた事情を検討し,提示条件を不合理と判断した。

結論として,雇止めを無効とし,旧条件による契約の更新を認め,労働者の地位確認及び未払賃金の請求を認容した。
ただし,鈴悠法律事務所の事件紹介には控訴後和解と記載されており,本判決の判断がそのまま確定したと扱うことはできない。

2 東光高岳事件――更新期待を認めた上で更新拒絶を有効とした例

東京高裁令和6年10月17日判決(令和6年(ネ)第2731号,労働判例1323号5頁)は,定年後再雇用の契約満了と吸収合併が重なり,存続会社の制度に合わせた条件変更が提案された事案である。
提案には,週4日から週5日に勤務を増やしながら基本賃金を約15%減らす案と,週4日勤務のまま賃金を月額換算で約51%減らす案があり,業務内容を修正した案も提示された。
裁判所HP未掲載であり,判例秘書及び掲載誌の判決本文を確認した。

高裁は,労働契約法19条2号の更新期待は,同一条件での更新への期待に限らず,条件変更を伴う更新への期待も含むとした。
その上で,65歳までの継続雇用を原則とする規程等から更新期待を認め,労働者の旧条件による更新申込みを会社が拒絶したと判断した。

もっとも,高裁は,従前と同一の条件で更新されるとの期待に合理的理由があるとは認め難いとした。
被吸収会社の経営悪化,存続会社の再雇用者との条件統一の必要性,他の再雇用者の同意,担当事業からの撤退予定,事前説明と複数案の提示等を検討し,存続会社自体の業績が堅調であることや大幅な減額も考慮した上で,更新拒絶を有効として控訴を棄却した。

原審の東京地裁令和6年4月25日判決(令和4年(ワ)第6348号,労働判例1318号27頁。裁判所HP未掲載。判例秘書により確認)は,19条2号の更新期待を同一条件によるものに限定していたが,高裁はこの限定を採用していない。
また,高裁判決は約51%の減額を一般的に許容したものでも,低い条件の契約が本人の同意なしに成立するとしたものでもない。

3 二つの判決から確認できる比較の視点

本記事では,両判決の分岐を,次の資料を比較する際の視点として整理する。
いずれも個別の事情を組み合わせた判断であり,一つの事情があれば必ず有効・無効になるという基準ではない。

(続きを読む...)定年後再雇用の更新時に勤務日数・賃金を引き下げられるか(AI作成)

昼休みの電話番・来客対応は労働時間になるか―休憩と残業代の判断・立証(AI作成)

第1 昼休みの電話番は,対応義務の実態で判断する第2 昼休み全体の待機と単発の対応を分ける1 電話が鳴らなくても待機義務が続く場合2 自由な休憩中に一度だけ対応した場合3 当番表がなくても実際の指示と運用を確認する第3 大星ビル管理事件の判断と昼休みへの射程1 実作業のない仮眠時間も労働時間とした理由2 契約上の手当と法定割増賃金は別に判断した第4 休憩不足と残業代を別々に計算する1 実労働時間が8時間を超えると必要な休憩も変わる2 勤務時間帯と実際の休憩による四つの設例3 25%割増の対象と既払額を確認する第5 当番の実態と時間をどの資料で示すか1 従業員は手元の資料から指示・時間・控除を具体化する2 会社は自動控除と実際の当番を照合する3 追加調査へ進む条件と調査を広げない基準第6 時効の確認と昼当番の運用改善1 賃金の時効と記録保存期間を混同しない2 会社は対応を引き継ぎ,勤務途中に休憩を確保する第7 出典1 法令2 裁判例3 所管行政機関の解説・Q&A・運用資料
第1 昼休みの電話番は,対応義務の実態で判断する

昼休み中に電話や来客への対応を求められ,労働から離れることが保障されていない場合は,実際に対応していない待機時間も労働時間となる。
厚生労働省も,昼当番として電話・来客対応をする時間は勤務時間に含まれ,昼休みが費やされた場合には別途休憩を与える必要があると説明している(昼当番に関するQ&A)。

ただし,本来自由に休める時間に単発の対応をした場合と,昼休み全体にわたり応答を求められた場合とでは,計上する時間の範囲が異なる。
①労働時間に含める範囲,②法定休憩の不足,③通常賃金及び割増賃金の不足を分けて確認する必要がある。

本記事は,令和8年8月31日現在の法令等を基に,民間事業場の通常の日中勤務を扱うものである。
公務員,管理監督者等の適用除外,変形労働時間制等に固有の問題は対象とせず,計算例は1日8時間・1週40時間制を前提とする。

第2 昼休み全体の待機と単発の対応を分ける
1 電話が鳴らなくても待機義務が続く場合

12時から13時まで電話当番を命じられ,電話が鳴れば直ちに応答しなければならない場合,通話が5分で終わったからといって,残り55分を当然に休憩とすることはできない。
食事ができたことや,その日に来客がなかったことだけでは,対応義務が解除されていたとはいえない。

厚生労働省の「労働時間の認定に係る質疑応答・参考事例集」問6も,電話・来客への対応が要求される場合には,実際の対応がない時間も労働時間に該当すると説明している。
客が途切れたときに休んでよいという運用でも,来店があれば即座に業務へ戻る必要があるなら,労働から離れることを保障した休憩ではないとされている(同資料20頁~21頁〔PDF27頁~28頁〕)。

2 自由な休憩中に一度だけ対応した場合

同じ問6は,外出等が自由で,電話・来客対応を義務付けられていなかった時間を休憩としている。
そのような休憩中に顧客対応を余儀なくされた場合には,その対応に要した時間を労働時間として扱うと説明している。

したがって,対応の前後に自由な休憩へ戻れたのか,対応後も電話のそばで待つよう求められたのかを区別する必要がある。
「1件電話を受けた」という事実だけから,昼休み全部又は通話時間だけのいずれかに決めることはできない。

なお,この参考事例集は,脳・心臓疾患及び精神障害の労災認定に用いる業務参考資料である。
休憩の実態を整理する参考にはなるが,それ自体が民事の賃金請求について裁判所を拘束する基準というわけではない。

3 当番表がなくても実際の指示と運用を確認する

労働時間適正把握ガイドラインは,明示又は黙示の指示による業務を労働時間とし,即時の業務対応を求められ,労働から離れることが保障されない待機も含めている(1頁~2頁)。
書面の当番表がなくても,受付に残るよう求められたことや,電話に出ないと注意されたことなど,実際の運用が問題となる。

反対に,別の担当者が応答し,本人は対応不要で自由に休めたのであれば,自分の判断で事務所に残ったというだけで労働時間にはならない。
外出の可否,応答しなかった場合の扱い,交代要員の有無及び上司の認識を組み合わせて確認するのが相当である。

第3 大星ビル管理事件の判断と昼休みへの射程
1 実作業のない仮眠時間も労働時間とした理由

労働基準法上の労働時間は,労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい,労働契約や就業規則等の定めではなく,労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価できるかによって客観的に定まる(最高裁判所第一小法廷平成12年3月9日判決。三菱重工業長崎造船所事件)。
同判決は,業務の準備行為等を事業所内で行うことを義務付けられ,又は余儀なくされたときは,特段の事情のない限り指揮命令下に置かれたものと評価でき,社会通念上必要と認められる限り労働時間に当たるとした。

最高裁判所第一小法廷平成14年2月28日判決(平成9年(オ)第608号・第609号,民集56巻2号361頁。大星ビル管理事件)は,ビル管理会社の従業員の仮眠時間を扱ったものである。
最高裁は,実作業をしていないことだけで使用者の指揮命令下から離れたとはいえず,労働からの解放が保障されているかによって判断するとした。

同事件では,仮眠室での待機と警報・電話等への即時対応が義務付けられ,実質的にその義務がないといえる事情もなかったため,仮眠時間全体の労働時間性が認められた(判決7頁~8頁)。
昼休みそのものの判決ではないが,対応のない時間にも役務提供の義務が続くかという判断の参考になる。

判決は,実作業の必要が生じることが皆無に等しいなど,実質的な義務付けがない場合も検討している。
ただし,ある日にたまたま電話が鳴らなかったことと,実質的に対応義務がなかったこととは別である。

当番制を導入した後も,当番日以外の従業員に対し,当番が応答しない場合に限って個人の携帯電話へ転送する運用がとられることがある。
この場合は,転送が実際に生じた頻度や,転送されたときに直ちに応答することを求められていたかを確かめ,実作業の必要が生じることが皆無に等しいといえるかを検討することになる。
転送がごくまれで,応答しなくても不利益な扱いを受けない運用であれば,当番日以外の昼休みは休憩と評価されやすいと考えられるが,当番日は前記のとおり対応義務の実態で判断する。
飲食店等が営業の合間の閉店時間帯を休憩時間としている場合も,同じ観点から検討することになる。

2 契約上の手当と法定割増賃金は別に判断した

同判決は,労働基準法上の労働時間であることから,当然に労働契約所定の賃金請求権が生じるわけではなく,賃金についての合意内容を確認するとした。
一方で,明確な支払規定がないというだけで無給と解釈することも相当ではないと述べている(判決9頁)。

同事件では,月給や泊り勤務手当等を踏まえ,契約の定めだけに基づく追加の時間外勤務手当等の請求は認められなかったが,労働基準法13条・37条による法定割増賃金の支払義務は別に判断された。
昼当番についても,労働時間に当たるかを確定した後,雇用契約,賃金規程及び既払額を確認する必要がある。
月給制又は当番手当の支給があるという理由だけで,法定割増賃金の不足がないと判断することはできない。
定額の手当を残業代の支払に充てていると会社が主張する場合に,その手当が割増賃金の支払と認められる要件は,固定残業代が有効になる要件―判別可能性・対価性と最高裁7判決,職務手当型の規程の点検で説明している。

主文は原判決を破棄して東京高裁へ差し戻すものであり,最高裁が請求額をそのまま全額認めたものではない(判決9頁~13頁)。

第4 休憩不足と残業代を別々に計算する
1 実労働時間が8時間を超えると必要な休憩も変わる

労働基準法34条1項・3項は,実労働時間に応じた休憩を勤務の途中に与え,自由に利用させることを求めている。
最低時間は次のとおりであり,終業後に休ませることを勤務途中の休憩の代わりにはできない。

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社員が私傷病休職を開始する際に使用者が注意すべき事項(AI作成)

第1 最初に確認する休職の根拠と就業の可否第2 就業規則と休職開始日の確認1 会社の規程と本人の適用条件2 年休・欠勤・休職の日付を分ける第3 診断書と具体的な仕事を照合する1 医師に伝える仕事と尋ねる事項2 他の業務への配置可能性3 本人が受診等に応じない場合4 医療情報の取得と共有の範囲第4 業務上の傷病の可能性を確認する第5 休職通知で伝える事項第6 給与・傷病手当金・社会保険料1 無給扱いと休業手当を区別する2 傷病手当金の申請と時効3 社会保険料と立替金の精算第7 休職中の連絡と復職の準備第8 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 法令に基づく指針4 公的な解説・行政資料5 実務書
第1 最初に確認する休職の根拠と就業の可否

社員から療養を要する診断書が提出されたときは,休職の必要性と,会社の制度上いつから休職にするかを分けて確認することが重要である。

本記事では,民間企業の使用者が休職開始時に確認する事項を,①就業規則,②具体的な就労能力,③業務上の傷病の可能性,④休職通知,⑤金銭負担,⑥連絡と復職の準備の順に整理する。

以下で述べる手順は,法令上の義務ではなく,公開されている法令,裁判例及び行政資料を踏まえた提案である。

令和8年9月6日現在,労働施策総合推進法27条の3に基づく治療と就業の両立支援措置は,同年4月1日から事業主の努力義務となっている。

同時に適用された厚生労働省の治療と就業の両立支援指針は,長期休業の開始前に,賃金を含む制度,休業可能期間及び復帰手順を本人に説明する流れを示している。

この努力義務は,希望どおりの有給休職を一律に認める義務ではない。

他方,労働契約法5条の安全配慮義務は別に問題となるため,努力義務だから個別の健康上の危険に対応しなくてよいということにもならない。

本人から診断書や休職の申出がない場合でも,過重な業務が続き,体調悪化や欠勤等を会社が把握しているときは,申出を待つだけで対応を終えてはならない。

最高裁平成26年3月24日第二小法廷判決(平成23年(受)第1259号・東芝事件)は,過重な業務が続き体調悪化が認められる状況では,精神的健康に関する情報の積極的な申告を期待し難いことを前提に,業務軽減等の配慮をする必要があると述べている。

なお,この説示は理由中のものであり,同判決の裁判要旨は過失相殺に関するものである。同事件については,差戻後の控訴審判決(東京高裁平成28年8月31日判決・平成26年(ネ)第2150号)が別にある。

勤務時間,担当業務,欠勤及び本人の具体的な訴えを記録し,医師への相談や業務負担の軽減等の必要性を検討することになる。

もっとも,安全確保のために対応を始めることと,就業規則に基づく無給の休職を発令することは,別々に根拠を確認する必要がある。

第2 就業規則と休職開始日の確認
1 会社の規程と本人の適用条件

休職の定義,期間の制限及び復職等について労働基準法に定めはない。まず自社の就業規則,雇用契約及び適用対象を確認し,休職事由,必要な欠勤日数,勤続期間による違い,申請又は命令の手続,休職期間及び再休職時の通算規定を確認する。規程によっては,「欠勤」の定義や休職期間との通算の定めがなく,長期の欠勤から就業を再開する場合の手続も置かれていないことがあるため,これらの定めの有無も併せて確認する。

休職事由が複数の号に分かれている場合,どの号を適用するかによって,休職期間の上限だけでなく,期間が満了したときの効果も変わることがある。会社の判断による号の休職を先に命じると,長期欠勤を要件とする号の日数が積み上がらなくなることもあるため,二つの号の接続を先に確認する。本人が診断書を提出して療養している期間は,休職を命じなくても就労しない状態に変わりはない。そのため,会社の判断による号の休職を先に命じる実益は,主として,その期間中に本人が就業を申し出た場合の取扱い(後記第6の1)にあり,休職を命じる時期は,この実益と二つの号の接続の問題とを比べて決めることになる。

詳細は,休職事由の号の選び方――満了時の効果,欠勤要件の通算及び就業規則の不利益変更(AI作成)で整理している。

2 年休・欠勤・休職の日付を分ける

診断書の作成日,療養を要するとされた期間の初日,実際の欠勤開始日及び就業規則上の休職開始日は,同じとは限らない。年休の申出と残日数,欠勤期間の算定方法及び休職への移行条件を別々に確認し,開始日と満了予定日を計算する。

診断書に記載された療養期間は,その期間が経過すれば就業できるとの判断まで示すものとは限らない。治療と就業の両立支援指針5(5)アも,治療の見込みが立てやすい疾病については,休業開始の時点で主治医や産業医等の助言を得ながら休業終了の目安を把握することを示している。診断書の期間を超えて休職期間を定める場合は,症状の経過,予定されている検査及び医師の意見を確認する時期等,その期間を定めた根拠を記録しておく。あわせて,期間の途中でも復職を申し出られることを本人に示しておけば,後に就業可能とする診断書が提出されたときも,休職期間の設定の当否ではなく,復職の申出に速やかに対応したかという問題として検討しやすくなる。

休職に入れば労働義務のない日となるため,年次有給休暇を取得することも,使用者が時季を指定して与えることもできなくなる。休職開始前の取得の意向,次の基準日の出勤率及び2年の時効を併せて確認しておく必要がある。

詳細は,休職と年次有給休暇の関係――休職前の取得,年5日の時季指定,出勤率及び2年の時効(AI作成)で整理している。

第3 診断書と具体的な仕事を照合する
1 医師に伝える仕事と尋ねる事項

治療と就業の両立支援指針5(1)~(3)は,仕事の情報を主治医に伝えて意見を得た上で,産業医等の意見,本人の意向及び職場の状況を踏まえて事業主が判断する流れを示している。産業医等がいない場合は,主治医から提供された情報を参考とする。

「療養を要する」「就労可能」との記載だけでは判断に必要な情報が不足するため,実際の作業と負荷,可能な勤務の条件,制限の程度と期間,及び再評価の時期を分けて尋ねる。質問は,休職又は就業のどちらかへ誘導しない。

詳細は,主治医に何を伝え何を尋ねるか――勤務情報提供書,就業の可否,制限の程度と再評価の時期(AI作成)で整理している。

2 他の業務への配置可能性

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弁護士国民年金基金の給付請求―老齢年金・未支給年金・遺族一時金の必要書類,電子申請及び5年時効(AI作成)

第1 給付請求の全体像

1 結論

2 最初に区別する四つの手続

第2 老齢年金の請求

1 基金から届く請求書

2 基本となる添付書類

3 電子申請の準備と利用できない場合

第3 受給者又は加入員が死亡した場合

1 まず死亡連絡をする

2 未支給年金

3 遺族一時金

4 未支給年金と遺族一時金を同時に確認する

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弁護士国民年金基金の資格喪失と再加入―弁護士法人・企業内弁護士・海外転居時の手続(AI作成)

第1 資格喪失と再加入を判断する基準

1 弁護士であることだけでは加入資格は決まらない

2 主な場面ごとの資格喪失日と次の手続

3 資格喪失届は原則として14日以内である

第2 弁護士法人及び企業内弁護士になった場合

1 基金資格を失う起点は厚生年金の資格取得日である

2 資格喪失届に添付する資料

3 後に独立して第1号被保険者へ戻る場合

第3 海外へ転出する場合と帰国する場合

1 在外加入を続けるには三つの手続を組み合わせる

2 在外加入中の掛金と弁護士業務

3 帰国時にも在外加入をいったん喪失して国内加入を申し出る

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障害者手帳・障害年金の認定と労務提供能力は同じか―雇用紛争で区別すべき四つの判断層(AI作成)

第1 結論と本記事の射程

1 障害等級と労務提供能力は同じ判断ではない

2 個別判決の当否とは分けて検討する

第2 障害者手帳と障害年金が判定しているもの

1 精神障害者保健福祉手帳

2 障害年金

3 二つの認定が接続する場面

第3 雇用紛争で区別すべき四つの判断層

1 第1層―行政上の認定

2 第2層―診断・症状・治療

3 第3層―日常生活・社会生活上の機能

4 第4層―具体的職務についての労務提供能力

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