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配転命令(転勤命令)の有効性―就業規則の根拠,職種・勤務地の限定合意と東亜ペイント事件の判断枠組み(AI作成)

第1 配転命令の有効性を判断する順序

1 本記事の対象

配転は,一般に,同一の使用者の下で,労働者の職種,職務内容又は勤務場所を相当の期間にわたって変更することをいい,勤務場所の変更を伴うものは転勤と呼ばれる。
本記事は,使用者が命じる配転(転勤を含む。)が有効かどうかを,命令権の根拠,職種・勤務地の限定合意及び権利の濫用の三段階に分けて説明し,配転命令を出す前後に確認すべき事項を示すものである。
他の使用者の下で就労させる出向は対象としない。
本記事の記載は,令和8年9月11日時点の法令及び公表資料に基づく。

2 三段階の判断

配転命令の有効性は,①使用者に配転を命じる権限があるか,②職種や勤務地を限定する合意があり,命令がその合意に反しないか,③命令権の行使が権利の濫用に当たらないか,の順に検討することになる。
最高裁昭和61年7月14日第二小法廷判決(東亜ペイント事件)も,まず就業規則等の定めと勤務地を限定する合意がないことから転勤を命じる権限を認め,その上で権利の濫用に当たるかを検討している。
労働契約法3条5項は,「労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない。」と定めている。

第2 配転命令権の根拠

1 就業規則・労働協約の配転条項

東亜ペイント事件の会社では,労働協約に「会社は、業務の都合により組合員に転勤、配置転換を命ずることができる。」との定めがあり,就業規則にも「業務上の都合により社員に異動を命ずることがある。この場合には正当な理由なしに拒むことは出来ない。」との定めがあった。
同判決は,これらの定めがあり,現に営業担当者の転勤が頻繁に行われており,労働者が大学卒業資格の営業担当者として入社し,労働契約の成立時に勤務地を大阪に限定する旨の合意がされなかったという事情の下では,会社は「個別的同意なしに被上告人の勤務場所を決定し、これに転勤を命じて労務の提供を求める権限を有する」とした。

就業規則の定め方や周知の要件については,就業規則とは―記載事項・作成届出・周知・変更・懲戒の基本で扱っている。

2 労働条件の明示と「変更の範囲」

使用者は,労働契約の締結に際し,労働者に対して賃金,労働時間その他の労働条件を明示しなければならない(労働基準法15条1項)。
明示すべき事項には,「就業の場所及び従事すべき業務に関する事項(就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲を含む。)」が含まれ(労働基準法施行規則5条1項1号の3),この事項は,原則として書面の交付により明示しなければならない(同条3項,4項)。
厚生労働省のリーフレット「2024年4月から労働条件明示のルールが変わりました」は,令和6年4月から,全ての労働契約の締結時と有期労働契約の更新時に,雇入れ直後の就業場所・業務の内容に加え,これらの「変更の範囲」についても明示が必要になると説明し,「変更の範囲」とは将来の配置転換などによって変わり得る就業場所・業務の範囲を指すとしている。

令和6年4月以降に締結された労働契約では,労働条件通知書等に記載された就業場所・業務の変更の範囲が,配転命令権の範囲や限定合意の有無を判断する重要な資料になる。
他方,それより前に締結された労働契約では,変更の範囲の記載がないことだけから限定合意の有無を判断することはできず,採用の経緯や異動の実績も併せて確認することになると考えられる。

第3 職種・勤務地を限定する合意

1 限定合意がある場合は配転命令権がない

最高裁令和6年4月26日第二小法廷判決(滋賀県社会福祉協議会事件)は,「労働者と使用者との間に当該労働者の職種や業務内容を特定のものに限定する旨の合意がある場合には、使用者は、当該労働者に対し、その個別的同意なしに当該合意に反する配置転換を命ずる権限を有しないと解される。」とした。
同判決は,同事件の使用者は「その同意を得ることなく総務課施設管理担当への配置転換を命ずる権限をそもそも有していなかったものというほかない」として,命令権があることを前提に権利の濫用に当たらないとした原審の判断を違法とし,原判決のうち損害賠償請求に関する部分を破棄して差し戻した。

職種限定の合意と,元の職務ができなくなった場合の配置可能性については,元の仕事ができない社員の配置可能性――片山組事件と職種限定合意で扱っている。

2 限定合意の有無を確かめる資料

限定合意の有無は,契約書の文言だけでなく,次の資料から確認することが考えられる。
①労働条件通知書・雇用契約書に記載された就業場所・業務と,その変更の範囲
②就業規則の職務区分(転勤の有無で区分された職種等)と配転条項
③募集時の求人内容と採用面接での説明
④採用後の職務・勤務地の変更の実績と,同じ職種の他の労働者の異動状況

東亜ペイント事件では,労働者が大学卒業の資格で入社し,入社当初から営業を担当していた者で,業務上の必要に基づき将来転勤のあることが当然に予定されていたことが,原審の認定した事実として判断の前提になっている。

第4 権利の濫用の判断枠組み

1 東亜ペイント事件の定式

東亜ペイント事件は,転勤,特に転居を伴う転勤は,一般に労働者の生活関係に少なからぬ影響を与えるから,使用者の転勤命令権は無制約に行使できるものではないとした。
その上で,「当該転勤命令につき業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であつても、当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもつてなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情の存する場合でない限りは、当該転勤命令は権利の濫用になるものではないというべきである。」とした。
この定式は,権利の濫用になる場合を積極的に列挙する形ではなく,特段の事情がない限り濫用にならないという形で述べられている。
最高裁平成12年1月28日第三小法廷判決(ケンウッド事件)も,同判決を参照して同じ定式を用いている。

2 業務上の必要性

同判決は,業務上の必要性について,「当該転勤先への異動が余人をもつては容易に替え難いといつた高度の必要性に限定することは相当でなく、労働力の適正配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤務意欲の高揚、業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは、業務上の必要性の存在を肯定すべきである。」とした。
同事件の原審は,業務上の必要性はそれほど強いものではなく,他の従業員を転勤させることも可能であったこと等を重視して転勤命令を無効としていた。
これに対し,最高裁は,名古屋営業所の主任の後任として適当な者を転勤させる必要があった以上,主任待遇で営業に従事していた労働者を選んだ転勤命令には業務上の必要性が優に存したとした。

3 不当な動機・目的

不当な動機・目的の典型としては,労働者を退職に追い込むことや,正当な権利行使に対する報復を目的とする配転が考えられる。
ケンウッド事件では,上司が労働者を退職させるための嫌がらせないし報復人事の一環として異動命令を行ったとは認められないという原審の事実認定を前提に,最高裁は,異動命令が不当な動機・目的をもってされたものとはいえないとした。

退職勧奨と同じ機会に配転を告げると,配転が退職を促すための手段であったと主張される材料になる。
退職勧奨を行う場合は,配転とは時期と説明を分け,配転の業務上の必要性を独立に記録しておくことが考えられる。

4 通常甘受すべき程度を著しく超える不利益

東亜ペイント事件の労働者は,転勤命令の当時,母親(71歳),妻(28歳)及び長女(2歳)と同居して母親を扶養しており,妻は保育所に保母として勤め始めたばかりであった。
最高裁は,この家族状況に照らしても,名古屋営業所への転勤が労働者に与える家庭生活上の不利益は「転勤に伴い通常甘受すべき程度のもの」とした。

ケンウッド事件では,夫と長男の三人家族で,長男を保育園に預けていた女性労働者に対し,通勤時間が行き約1時間43分,帰り約1時間45分となる事業所への異動が命じられ,長男の送迎や保育に支障が生じる事情があった。
原審の認定では,異動先の近辺には転居先となる住居が多数あり,定員に余裕のある保育園もあった。
最高裁は,労働者が負う不利益は「必ずしも小さくはないが、なお通常甘受すべき程度を著しく超えるとまではいえない。」とした。

最高裁平成11年9月17日第二小法廷判決(帝国臓器製薬事件)は,東京から名古屋への転勤命令について,業務上の必要性に基づくものであって,不当な動機,目的をもってされたものではなく,労働者らの被る経済的,社会的,精神的不利益が社会通念上甘受すべき程度を著しく超えるものということはできないなどとして違法ではないとした原審の判断を,正当として是認した。

これらの判決は,いずれも個別の事実関係の下での判断である。
不利益の程度は,育児や介護の状況,本人や家族の健康状態,通勤・転居の負担,会社が講じた軽減措置等によって異なるため,他の事案の結論をそのまま当てはめることはできない。

5 法令上の配慮

事業主は,労働者の配置の変更で就業の場所の変更を伴うものをしようとする場合において,その就業の場所の変更により就業しつつその子の養育又は家族の介護を行うことが困難となる労働者がいるときは,当該労働者の子の養育又は家族の介護の状況に配慮しなければならない(育児休業,介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律26条)。
また,労働契約は,労働者及び使用者が仕事と生活の調和にも配慮しつつ締結し,又は変更すべきものとされている(労働契約法3条3項)。

第5 配転命令を出す前後の実務

1 命令前の確認と説明

本記事では,配転命令を出す前の手順として,次の5点を基本形とする。
①労働条件通知書・就業規則で,配転命令権の根拠と限定合意の有無を確認する。
②配転の目的(後任の補充,組織の変更,適性の見極め等)と,その労働者を選んだ理由を記録する。
③育児・介護の状況,健康状態,通勤・転居の負担を本人から聴き取り,育児介護休業法26条の配慮を検討する。
④転居を伴う場合は,赴任時期,旅費,社宅,手当等の負担軽減措置を示す。
⑤内示から発令・赴任までの準備期間を確保する。

東亜ペイント事件の会社も,内示の後に説得を重ね,他の従業員の定期異動を発令した後もその労働者に対する転勤発令を延ばして説得を続けてから,転勤命令を発令している。

2 懲戒処分と同じ機会に配転を命じる場合

厚生労働省のモデル就業規則(令和7年12月版)が示す懲戒の種類の規定例は,けん責,減給,出勤停止及び懲戒解雇であり,配転は含まれていない。
非違行為を理由とする懲戒処分と同じ機会に配転を命じる場合でも,配転は懲戒処分としてではなく,業務上の必要性に基づく人事異動として発令し,処分の通知書とは別の書面で行うことが考えられる。
配転の目的を懲罰と混同すると,配転が不当な動機・目的によるものと主張される材料になり得る。

3 労働者が配転を拒否した場合

東亜ペイント事件は,労働者が転勤命令を拒否したことが就業規則所定の懲戒事由に当たるとして懲戒解雇された事案であった。
原審は,転勤命令が権利の濫用で無効であるから,これに従わなかったことを理由とする懲戒解雇も無効であるとしたが,最高裁は,転勤命令は権利の濫用に当たらないとして原判決中の会社敗訴部分を破棄し,転勤命令のその余の無効事由について更に審理させるため差し戻した。

このように,配転命令が有効であれば正当な理由のない拒否は懲戒事由となり得るが,配転命令が無効であれば,拒否を理由とする懲戒処分も無効となる。
拒否があった場合でも直ちに懲戒処分に進むのではなく,拒否の理由を聴き取り,不利益の軽減や代替案を検討した経過を記録することが考えられる。

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第7 出典・参考資料

1 法令

e-Gov法令検索「労働契約法」3条
e-Gov法令検索「労働基準法」15条
e-Gov法令検索「労働基準法施行規則」5条
e-Gov法令検索「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」26条

2 裁判例

最高裁昭和61年7月14日第二小法廷判決,昭和59年(オ)第1318号,集民148号281頁(東亜ペイント事件)
最高裁平成11年9月17日第二小法廷判決,平成8年(オ)第1948号等(帝国臓器製薬事件)
最高裁平成12年1月28日第三小法廷判決,平成8年(オ)第128号,集民196号285頁(ケンウッド事件)
最高裁令和6年4月26日第二小法廷判決,令和5年(受)第604号,集民271号109頁(滋賀県社会福祉協議会事件)

3 公的資料

①厚生労働省「令和6年4月から労働条件明示のルールが改正されます
②厚生労働省リーフレット「2024年4月から労働条件明示のルールが変わりました」2頁
③厚生労働省労働基準局監督課「モデル就業規則(令和7年12月版)」86頁