目次
第1 この記事の資料と読み方1 アンケートの対象2 現在の法令や公式運用とは区別する第2 訴状・準備書面は早期に争点と証拠を結び付ける1 相手の出方を待って小出しにしない2 書証を引用して主張を裏付ける3 対比表は有用だが書面を長くすればよいわけではない第3 書証は重要なものを早く出し,尋問当日の後出しを避ける1 重要書証を選んで早期に提出する2 尋問当日の新書証は弾劾証拠を除いて避ける第4 尋問は「劇的に崩す」場面と考えない1 裁判所は人証前にも暫定的な心証を形成する2 反対尋問は客観資料と矛盾へ絞る3 現行の尋問ルール第5 証拠調べ後の和解にも意味がある第6 弁護士実務のチェックリスト第7 出典と資料の位置付け1 一次資料2 二次資料と未確認事項第8 関連記事
東京地裁民事部の裁判官109名から回答を得た2004年のアンケートを手掛かりに,訴状・準備書面,重要書証,尋問及び和解の各段階で弁護士が確認すべき点を整理する。
歴史的な一地域の調査と現在の法令・公式運用を混同せず,回答者数と比率を示した上で,現行の民事訴訟規則による裏付けの有無を区別して説明する。
第1 この記事の資料と読み方
1 アンケートの対象
第二東京弁護士会の『NIBEN Frontier別冊2004』には,東京地方裁判所の民事部で訴訟事件を担当していた判事及び特例判事補に対し,弁護士の訴訟活動について尋ねた「裁判官アンケート」が掲載されている。
冊子の説明では109名から回答を得たとされているが,無回答を除いた各設問の回答者数は80名から105名までであり,設問ごとに分母が異なる。
このアンケートは,訴状,準備書面,書証,人証,和解及び判決の各局面について,弁護士が陥りやすい考え方を示し,裁判官に賛否と自由記載を求めたものである。
個々の裁判官のコメントには幅があるが,集計値を読むと,争点と証拠を早期に結び付け,重要な点へ力を集中するという共通した方向が見える。
設問の要旨多数回答人数比率相手の答弁後に背景事情を追加する賛同できない89/10188.1%争われるまで書証を引用しない容認できない88/9988.9%双方の主張を一覧表にする賛同できる88/9988.9%準備書面は分量が多い方がよい賛同できない96/10591.4%尋問当日に新たな書証を提出する弾劾証拠を除き賛同できない102/102100%人証調べまでは心証を取らない人証前にも一定の心証を取る100/10595.2%
2 現在の法令や公式運用とは区別する
このアンケートは,東京地裁民事部の裁判官を対象にした2004年の歴史的な実務資料である。
全国の裁判官を無作為抽出した統計ではなく,現在の裁判所の公式見解や現行法の解釈を示す文書でもない。
そこで,本記事では,アンケートの集計値を当時の実務感覚を示す資料として扱い,現在の手続については,令和8年5月21日施行後の民事訴訟規則及び民事訴訟法と区別して説明する。
アンケートの数字だけを根拠に,特定事件の裁判官の心証又は訴訟指揮を予測することはできない。
第2 訴状・準備書面は早期に争点と証拠を結び付ける
1 相手の出方を待って小出しにしない
「最低限の請求原因事実だけを書き,相手方の答弁後に背景事情を追加する」という考え方について,101名中89名,88.1%が「賛同できない」と回答した。
「相手の対応を見ながら徐々に主張を追加すればよい」という考え方にも,99名中82名,82.8%が賛同していない。
現行の民事訴訟規則53条1項も,訴状には請求を理由付ける事実を具体的に記載し,立証を要する事由ごとに,重要な関連事実と証拠を記載するよう求めている。
不利な事情を伏せて後で補う方法は,期日を重ねる原因となるだけでなく,後から出た事情の信用性にも影響し得る。
もっとも,訴え提起時に未確認の事実まで断定したり,必要性の低い経緯を際限なく書いたりすることが適切という意味ではない。
依頼者の説明,客観資料及び予想される反論を照合し,勝敗や争点整理に必要な事情を選んで,確認できた範囲と未確認の範囲を区別する必要がある。
2 書証を引用して主張を裏付ける
「最初の主張では書証を引用せず,相手が争ったら提出すればよい」という考え方について,99名中88名,88.9%が「容認できない」と回答した。
これは,主張と証拠の対応を早い段階で示すことの重要性を表している。
準備書面では,争点又は主要事実ごとに,根拠となる号証と該当ページを示す。
証拠から直接読み取れる事実と,その事実から導く評価又は推認を分けて書くと,証拠の射程と弱点を確認しやすくなる。
書証の標目,作成者及び立証趣旨を記載する証拠説明書の作り方は,証拠説明書の書き方―民事訴訟の書証と立証趣旨の実務(AIリライト)で説明している。
3 対比表は有用だが書面を長くすればよいわけではない