その他裁判所関係

新様式判決

目次
1 新様式判決の導入時の留意点
2 新様式判決導入時の経緯
3 新様式判決の具体的内容
4 「事案の概要」の記載に関する留意事項
5 「争点に対する判断」の記載に関する留意事項
6 新様式判決に対する批判的意見
7 関連記事その他

1 新様式判決の導入時の留意点
(1) 判例タイムズ715号(平成2年2月25日付)4頁ないし35頁に,「民事判決書の新しい様式について」(東京高地裁民事判決書改善委員会、大阪高地裁民事判決書改善委員会の共同提言)が載っています(いわゆる「新様式判決」に関する記事です。)ところ,同号5頁によれば,特に以下の点に留意したと書いてあります(1,2,3及び4を①,②,③及び④に変えました。)。
① 当事者のための判決であることを重視し、事件における中心的争点を浮かび上がらせ、これに対する判断を平易簡明な文体を用い、分かりやすい文章で示すよう心掛ける。「窺知(きち)」、「爾余の点」のような難しい言葉や文語調の文章は避ける。
② 裁判官にとって、書きやすいものであることも念頭に置く。文体に習熟しなければ書けないようなものではなく、常識的な文章の起案能力があれば書ける判決書を目指す。
③ 判決書は、形式的な記載、重複記載等の無駄を省き、簡潔なものとなるように心掛ける。そのためには、事実及び理由を一括して記載することも合理的であろう。前の記述を後で繰り返したり、引用したりするよりも、できるだけ一括して記述することを工夫する。
④ 事実及び理由は、全体を通じて、主文が導かれる論理的過程が明瞭に読み取れる程度の記載で足りるものとする。ただし、中心的争点については、具体的な事実関係が明らかになるよう、主張と証拠を摘示しながら丁寧に記述するよう心掛ける。
(2) 「事実」については当事者の主張の全てを請求原因,抗弁,再抗弁等とその認否として整理して摘示し,「理由」については事実欄に摘示された論理的な構造に従って順次判断するという構造を採るという,司法研修所の「民事判決起案の手引」に従った様式の判決は在来様式の判決といわれます(「民事判決書の在り方についての一考察」末尾64頁)。


2 新様式判決導入時の経緯
(1) 一歩前へ出る司法116頁ないし118頁には以下の記載があります(改行を追加しています。)。
    それまでの民事判決書は、当事者の主張について、請求の原因、これに対する認否、抗弁、これに対する認否、再抗弁、これに対する認否という順序で、立証責任の分配に従って分類整理して記載するというものです。しかも、実体法で要件とされる事実のみに絞り込み、取引経緯などの事情はぜい肉として切り落とすという考え方のものです。
    従来の判決書様式は、骸骨の裸踊りなどとからかわれることもありますが、法律要件を正確に押さえて無駄がないという点で優れていることは間違いありません。ただ、立証責任の分配、要件事実の絞り込みに、裁判官のエネルギーが取られ、判決が遅くなる一因にもなっておりました。
    私は、民事紛争で当事者が裁判所の判断を求める真の争点というものは、一つか二つに絞られるもので、判決もその争点にズバリ答えるという様式でもよいのではないかと思いました。
    しかし、民事局が様式の中身にまで口を出すべきではありません。現場の裁判官方のお考えに任せるべきです。そこで、東京高裁・地裁と大阪高裁・地裁に民事判決書改善委員会を作ってもらい、検討をお願いしようと考え、矢口長官にもご相談したのです。
    当時、矢口さんは、弁護士からの裁判官任官を進めようと考えていたのですが、なかなか任官者が現れません。弁護士会の中には、途中から裁判官になっても、今のように技術的な判決は書くことが難しいから、任官者が現れないのだとおっしゃる方もおられました。矢口さんは、判決書の様式を常識的な文書の起案能力があれば書けるものにすれば、弁護士からの任官者を増やすことができると考えられて、判決書の様式の見直しに賛成してくれました。動機が私とは異なるのですが、賛成していただいたのです。
    東京と大阪の民事判決書改善委員会は、それぞれに検討を重ねた上で、合同会議を開いて意見を交換し、一九九○年一月に「民事判決書の新しい様式について」という提言をまとめられました。提言は、「当事者のための判決であることを重視し、事件における中心的争点を浮かび上がらせ、これに対する判断を平易簡明な文体を用い、分かりやすい文書で示すよう心掛ける」等として、判決モデルも示すものです。今日では、ほとんどが新様式の判決書になっております。
(2) 「裁判官は劣化しているのか」(2019年2月23日出版)(著者は46期の岡口基一裁判官)119頁には以下の記載があります。
    新様式判決の導入は最高裁の民事局長が最高裁長官の賛同を得て始めたものであったことから、裁判所実務の現場では、裁判所当局への忠誠度を競い合うような様相になりました。従来様式の判決を使い続けることは、あたかも新様式判決の普及の音頭を取っている裁判所当局に逆らっていると思われかねなかったのです。そこで、そうは思われたくない裁判官らは、一気に判決を従来様式から新様式へと切り替え、まるで廃仏毀釈運動のように従来様式判決はなくなっていきました。
    その結果、従来様式判決を使うのは、その方が起案しやすい「欠席判決」など、使う理由を裁判所当局に説明できるものに限られ、多くの裁判官は、それ以外の判決については、全て新様式判決を使うようになっていったのです。


3 新様式判決の具体的内容
・ 判例タイムズ715号(平成2年2月25日付)5頁及び6頁には,「第三 新しい様式の具体的内容」として以下の記載があります(項目部分を太字表記にしています。)。
    このような構想で作成する判決書の内容については、別添の判決モデル及びその説明に譲るが、概要は、以下のとおりである。
一 事件番号、事件名、標題、当事者、代理人等の表示
    従前のとおりとする。
二 主文
    従前のとおりとする。
三 事実及び理由
1 請求(申立て)
    従前のとおりとする。ただし、訴訟費用の負担の申立て、仮執行の宣言の申立て及び諭求の趣旨に対する答弁は、全面的に省略する。
2 事案の概要
    事案の概要は、当該事件がどのような類型の事件であって、どの点が中心的な争点であるのかを概説するものである。何が中心的争点であるかについては、適切な訴訟指揮によってあらかじめ当事者との間で確認しておく必要がある(この点は、飼書上も明確にしておくことが望ましい。)。
    「事案の概要」の記載は、次の「争点に対する判断」の記載と総合して、主文が導かれる論理的過程を明らかにするものである。したがって、中心的争点以外の事実主張も、主文を導き出すのに必要不可欠なものである限り、概括的に記載しておかなければならない。
    具体的な記載方法は、事件の類型に応じて工夫されてよいが、争いのない事実と主要な争点とを簡潔に記載する方法が基本型になるものと考えられる。事案によっては、その変型や当事者双方の主張を対比させてその骨子を簡潔に記載する方法、あるいはこれらの混合方式などが適当な場合も考えられる。
    冒頭に事案の要旨を記載すると、事案の概要全体を理解するのに便利なこともある。「争点に対する判断」の記載自体から「事案の概要」が明らかになるときは、事案の要旨を記載するだけでよいこともあろう。
3 争点に対する判断
    中心的争点についての判断は、誕定事実とこれに関連する具体的証拠との結び付きをできるだけ明確にしながら、丁寧に記述する。これ以外の争点については、主文が導かれる論理的過程を明らかにするのに必要な限度で、概括的に判断が示されていれば足りる。
    証拠判断については、次のとおりとする。
(1) 書証の成立に関する判断は、それが重要な争点になっている場合を除き、記載しない。成立に争いがない旨の説示もしない。
(2) 証拠の評価が訴訟の勝敗を決するような場合には、証拠を採用する理由又はこれを排斥する理由を丁寧に説示する。
(3) (2)の場合を除き、反対証拠を採用しない旨又はそれが存在しない旨の断り書きはしない。
4 法律上の問題点についての説示
    裁判所が採用する見解とその論拠を簡潔に示せば足りる。
5 結詰及び法律の適用の説示
    判決文の末尾に謂求に対する結論を記載することは不要である。
    訴訟費用の負担等に関する法律の適用の説示も省略する。
四 裁判所の表示及び裁判官の署名
    従前のとおりとする。

4 「事案の概要」の記載に関する留意事項
・ 判例タイムズ715号(平成2年2月25日付)7頁及び8頁には,「第四 事案の概要の記載について」として以下の記載があります。
一 「事案の概要」欄は、従来の判決書にはなかった欄であるだけに、どのような事項をどのような方法で記載すべきかについては、ある程度考え方に幅があり得るところである。この欄の記載の目的が、裁判の対象となった事案の内容を当事者に分かりやすく知らせることにあるという点に配慮して、具体的な記載方法を工夫すべきであろう。
    この「事案の概要」の記載は、後の「争点に対する判断』の記載と総合して主文が導かれる論理的過程を明らかにするという目的を持っているから、「争点に対する判断」の欄にどのような事項がどの程度記載されることとなるかとの関連で、この欄の記載事項の内容と記載方法が決まってくるという面をもっている。したがって、新様式による判決書の起案に当たっては、まず、「争点に対する判断」の欄の構想を整えた上で、その記載内容との関連に留意しながら、必要な事項を落とさないよう、また無用な重複を生じないよう、「事案の概要」欄に記載すべき内容を検討するという配慮も必要であろう。
    また、この欄の記載は、当該事件がどのような類型の事件であって、どの点が中心的な争点であるかを概説するという目的をもっている。したがって、当事者双方の事実主張から、以上の目的を達成するのに必要な①主文を導き出すのに必要不可欠な事実と②事案を説明するのに必要なその余の事実をそれぞれ選び出して、その概要を、当事者間で争いのない事実とそれ以外の事実とに分けて、記載しておく必要がある。
    なお、「事案の概要」欄の冒頭に、事件の類型が一見して分かるような事案の要旨を記載しておくことも、事案の把握のために便利な場合があろう(モデル2,3,4参照)。
二 この欄については、前記のような事項を「争いのない事実」と「争点」とに分けて記載する方法が基本型となる(モデル2,3,4,6,7,8,9参照)。
    ただ、事案によっては、中心的争点とはいえないがその前提となっており、しかも自白が成立していないため証拠によって認定する必要のある事実関係について、その認定判断の結果をこの欄に記載しておいた方がよい場合もある。そうすることによって、中心的争点を浮き彫りにし、「争点に対する判断」の欄の記載を中心的争点に関するもののみに限定できることとなるため、判決書の記載を分かりやすくすることができるからである(モデル1、5参照)。
    また、離婚事件のように、争いのない事実が訴訟法上意味を持たない事案では、当事者双方の主張を対比させて、その要点を記載するという方法をとらざるを得ないこととなろう(モデル10参照)。
三 従来の判決書では、まず事実欄で当事者の事実主張の内容を詳細に摘示した上で、理由欄でそれに対する判断を逐一説示する方式がとられていた。そのため、ややもすると事実欄の記載を理由欄で再度繰り返す形になり、その記載の重複によって判決書が長文化する弊害があった。
    新様式による判決書では、「争点に対する判断」の欄の記載から自ずから明らかになるような事実関係については、次のとおり、「事案の概要」の欄の記載をできるだけ省略し、あるいは簡略化することによって、このような重複記載を避ける配慮をしている。
    もっとも、「事案の概要」の欄の記載と、「争点に対する判断」の欄の記載とを総合すれば、主文を導き出すのに必要な要件事実の存否が漏れなく判断きれていることが要求されることに留意する必要がある。
1 損害賠償請求事件における損害の具体的な内容、項目、金額等については、その点が争点となっている場合には、「争点に対する判断」の欄で具体的かつ詳細な判断が示されることとなるのであるから、「事案の概要」の欄ではその記載を省略して差し支えない場合が多いであろう(モデル2参照)。
2 借地法や借家法上の正当事由や信頼関係を破壊する事実の存否が争いとなっている事案では、正当事由等の存否を基礎付ける個々の具体的な事実については、「争点に対する判断」の欄でその存否等に対する詳細な判断が示きれることとなるから、「事案の概要」の欄では、せいぜいどのような類型の事由が正当事由等の存否を基礎付ける事由として主張されているかを記載しておけば足りるであろう(モデル6,8参照)。
3 表見代理の成否、詐欺による意思表示の取消しの成否等が争点となっている事案では、「事案の概要」の欄の記載としては、これらの主張を構成する要件事実を網羅的に記載するのではなく、極く概括的に「表見代理(民法110条の越権代理)」あるいは「詐欺による取消し」が主張されている旨を記載するにとどめ、個々の具体的な要件事実の存否に関しては、「争点に対する判断」の欄にその記載を譲るということで足りるであろう(モデルー、3,4,5参照)。
四 このような方式による事案の概要の記載が簡潔で分かりやすいものになるためには、その事件の中心的争点がどの点にあるかについて、裁判所と当事者の間でできるだけ突き詰めた認識の一致が得られていることが望ましい。この点に関して当事者と裁判所の間で一定の確認ができた場合には、その結果を調書上でも明確にしておくことも望ましいといえよう。
五 その他、言い換えによる略語の使用に当たっては、誤認を生ずるおそれのない場合には、煩雑な断り書きを付することを省略し(モデル1、3参照)、また、事案によっては図面を活用する(モデル2,8参照)等事案の概要の記載を簡潔で分かりやすいものとするための様々な工夫が行われるべきである。

5 「争点に対する判断」の記載に関する留意事項
・ 判例タイムズ715号(平成2年2月25日付)8頁及び9頁には,「第五 争点に対する判断の記載について」として以下の記載があります。
一 新様式による判決書では、「争点に対する判断」の欄の記載が、判決書の中心部分を構成することとなる。したがって、この欄では、中心的争点に対する裁判所の判断内容を、分かりやすくしかも丁寧に記載しておく必要がある。
    この欄の記載を分かりやすいものとするため、判断事項ごとにその部分でどの争点に対する判断が示きれているのかが一見して明らかとなるような見出しを付ける(モデル1、4,7参照)等各事案に即した記載方法を工夫する必要があろう。
二 この欄の記載の構成としては、最初に認定事実を一括して記載し、次いでこれを引きながら個々の争点についての判断を順次行っていく方法(モデル5,6参照)と、争点ごとに関係する認定事実とこれに基づく判断とをセットにして記載していく方法(モデル7参照)とが考えられる。
    前者の方法によった場合は、全体としての事実の流れは把握しやすいが、反面、事案によっては、どの誕定事実がどの争点との関係で必要となるのかが不明確になるおそれもある。後者の方法によった場合には、これと丁度逆のことがいえよう。
    事案の内容、特徴に応じて、これらの方法を適宜使い分ける必要がある。
三 認定事実と証拠との関係については、関係証拠を認定事実の冒頭あるいは末尾にまとめて記載する方法と、小項目又は個々の事実ごとに関係証拠を挙示する方法とが考えられる。
    後者の方法によると、個々の認定事実と証拠との結び付きを明確にすることができるというメリットがある(モデル2,4,9参照)。
    しかし、事案によっては、全認定事実に共通する証拠が多いため、個々の認定事実ごとに関係証拠を挙示するとかえって煩雑になる場合もあろう。そのような場合には、前者の方法(モデル5,6参照)によるか、あるいは、全体に共通する証拠を最初にまとめて示し、その後に各誕定事実ごとに個別の証拠を挙示する方法(モデル7,8参照)が分かりやすいであろう。
四 書証の成立に関する判断は、原則として記載しないこととなるが、書証の成立の真否が実質的に争われている場合には、その成立に関する判断をできるだけ分かりやすく記載すべきである(モデル4参照)。
    証拠の挙示の仕方も、書証については単に「甲一」、「乙このような、また供述証拠についても「証人甲」、「原告」のような、簡略な記載方法を用いて差し支えないであろう。また、事案によっては、供述証拠の直接の関係部分を調書のページ数や項目番号で示しておくといった工夫も考えられてよいであろう(モデル1、4参照)。
五 従前の判決書において理由欄の末尾に付記されていた結論及び法令の適用に関する説示は、いずれも記載を省略することとなる。
    ただ、事案によっては、「事案の概要」の欄の記載と「争点に対する判断」の欄の記載とを対比しても、原告の請求のどの部分が認容されたのかが一見しただけでは分かりにくい場合がある。
    そのような場合には、結論的に請求認容部分を明らかにするための記載をしておいたほうが分かりやすいであろう(モデル1参照)。
    仮執行宣言の申立てを却下した場合にも、欠席判決などでは特にその旨の記載をしない扱いが、既に一部で行われている。新様式による判決書の記載も、その扱いによっている。


6 新様式判決に対する批判的意見
(1) 裁判官からの批判的意見
ア 「最高裁の持ち廻り合議と例文判決について」(著者は5期の武藤春光弁護士(元広島高裁長官))には以下の記載があります(自由と正義1997年1月号90頁及び91頁)。
    新様式判決は、書き流しの物語方式で足り、主張事実の厳密な検討をしなくても書けるわけであるから、しばしば重要な主張事実とそれに対する判断を見落とす危険がある。そこで、この判決については、勝訴した非法律家の当事者だけは気持ちよく読みやすいという印象を持つかもしれないが、敗訴当事者は自己の主張が無視されたという不満を抱くことになり、上級審は事実整理を初めからやり直すという負担を負わされることになる。筆者は、比較的長く控訴審の裁判を担当した経験を有するが、新様式判決の上記の欠点は、時に眼に余るものがあった。
    確かに、少数の練達の裁判官にとっては、判決の様式など意に介するところではなく、現様式でも新様式でも的確な判決を書くことができるであろう。しかし、大多数の裁判官にとっては、書くのに多少の時間がかかっても、いわば誤判防止装置付きの現様式判決の方が望ましいはずである。新様式判決は、裁判の現場を知らない当時の当局者の思いつきによるものと言われ、いずれ消えていくものと考えられていたが、悪貨は良貨を駆逐するの譬えのとおり、むしろ盛んになっていく風潮も見られる。そして、この風潮は、上記の最高裁による判決様式の軽視によって支えられているように思われる。司法にとって何よりも大切な判決の適正を確保するために、例文判決も新様式判決も速やかに消えていくことが望ましい。
イ 東京大学法科大学院ローレビュー第10巻(2015年11月)の「民事判決書の在り方についての一考察」(著者は52期の家原尚秀裁判官では以下の問題点が指摘されています。
① 裁判官が,判決作成に当たって法律要件を正解せず,要件事実を十分に検討していないのではないかという指摘もされている。
② 当事者の準備書面の表現をそのまま写し,コピーアンドペーストを多用して長文化する傾向があるとの指摘もされている。
③ 「争点に対する判断」の冒頭に,物語方式で時系列的に事実を認定する方式の判決書が増えてきている。
ウ 「裁判官は劣化しているのか」(2019年2月23日出版)(著者は46期の岡口基一裁判官)120頁ないし123頁には以下の記載があります(1ないし7を①ないし⑦に変えています。)。
① 新様式判決は、当事者の主張については、単に争点に関する各当事者の主張を羅列するだけです。そのため、その裁判官が、請求の内容、個数、複数ある請求の関係について正確に把握できているのかは、判決書を見てもわかりません。請求原因、抗弁等の攻撃防御方法の全体像や個別の要件について正確に把握しているのかもわかりません。裁判官が間違って把握している可能性もありますが、そのことが判決書から検証できなくなったのです。
    代理人弁護士も、従来であれば、当該訴訟において、複数の請求の関係はどうであったのか、請求原因、抗弁等の攻撃防御方法の全体像がどうなっていたのか等について、判決書の「当事者の主張」欄を見ることで、その「正解」を知ることができたのですが、新様式判決では、それがわからないままになりました。
② 判決をする際には、弁論主義の第1テーゼの問題をクリアするため、必要な事実主張がされているか否かの確認作業が必要ですが、新様式判決では、その確認結果についての検証ができなくなりました。
③ 当事者の主張した事実が当該要件にあてはまるか否かという「あてはめ」についても、新様式判決では、それが「争点」になっていない限り、判決書で検証することができなくなりました。
④ 従来様式判決では、人間ルールブック化した裁判官が、当事者の事実主張について、法的に全く正しい記載をしており(動詞の過去形と現在形の使い分けなど)、判決書の「当事者の主張」欄において、それを確認することができたのですが、新様式判決では、争点に関する各当事者の主張を、裁判官が自らの言葉で表現すればよいことになったので、言葉遣いにこだわる必要もなくなりました。ルールブック人間は不要となり、ルールが口頭伝承されることもなくなりました(それは、そのルールの背後にある「智」の伝承が行われなくなったことをも意味します)。
⑤ 裁判長は、判事補を指導する際のシールとして従来様式判決の「当事者の主張」欄を使うことができなくなりました。これまでは、判事補に従来様式判決の「当事者の主張」欄を起案させていたので、それをたたき台とすることができました。判事補がどこを理解していないかは、判事補が起案した「当事者の主張」欄を見れば一目瞭然でしたし、人間ルールブックである裁判長は、法的な観点からより正しい事実摘示ができるように判事補にルールを口頭伝承することもできたのです。
⑥ 書証の成立についても、いかなるルールによって成立を認めたのか判決で検証することができなくなりました。それどころか、判決書にも口頭弁論期日調書にも書証の成否の記載を原則としてしなくなったことから、書証の成否の審理は、しないのが通常となりました。その運用が定着したことにより、書証の成否の審理の方法を十分に理解していない裁判官も現れています。書証の成立が争われているのにその審理をしていないのです。
⑦ 昔の裁判所実務では、要件事実を真実解明のためのツールとして使っていましたが、最近はそれも行われていません。若い裁判官において「たまねぎの皮むき理論」を知っている人はもはや一人もいません。その「智」は承継されなかったのです。
(2) 弁護士からの批判的意見
・ 弁護士村本道夫の山ある日々ブログ「裁判と事実認定を考える」には以下の記載があります。
    実際,代理人として判決を受け取ると,裁判官が主観的に設定した「争点」について,感情に流れ,バイアスに充ちた判断を繰り返す耐えがたい判決書が決して少なくない。要件事実に沿って判断していれば決してあり得ないことだし(私の修習生のときに裁判官から,判決を書く段階になって整理すると,ときにそれまで思っていた結論が変わることがあるという話を聞いて,要件事実に基づく判決をを見直したことがある。),要件事実が認定できないから請求が棄却されたというのであれば,さらなる立証を考えれば足りるのだが,主観的な思い込みを吐露されても是正しようがない。
    裁判官は弁護士の要件事実の無理解,主張,立証の不備を盛んに指摘したがるが,自分達の新様式「判決書」が,裁判制度の不安定さ,誤判率の高さや,その反面としての裁判官の権威主義的体質を招いているということに無自覚である。ここでは新様式の判決書が導入された当時の裁判官が修習生に及ぼす影響を危惧して書いた「指導方針」を読んでみよう(こちらに引用)。修習生を裁判官に置き替えてみればその危うさが良く分かる。


7 関連記事その他
(1) 「最高裁判所事務総局編 民事判決書の新しい様式について 」(平成2年5月20日第1版第1刷発行)の中身は,平成2年5月1日付の「まえがき」(財団法人法曹会)及び平成2年2月付の「はしがき」(最高裁判所事務総局民事局)を除き,判例タイムズ715号(平成2年2月25日付)4頁ないし35頁と全く同じです。
(2)  事実認定の根拠として判決に引用する文書が真正に成立したこと及びその理由は,判決書の必要的記載事項ではありません(最高裁平成9年5月30日判決)。
(3) 「簡易裁判所における交通損害賠償訴訟事件の審理・判決に関する研究」(2016年12月1日出版)がアマゾンで売っていますところ,当該書籍について,「裁判官は劣化しているのか」(2019年2月23日出版)129頁には以下の記載があります。
    裁判官向けのマニュアルは、今のところこの一冊だけであり、これ以外に作成されるとも思えません。裁判官がマニュアルに従って判決を書いているというのでは、判決の重みは失われ、そのイメージダウン、権威の失墜は避けられないからです。
(4) 以下の資料を掲載しています。
 判決書の書式等の標準的な設定について(平成29年7月24日付の最高裁判所総務局長等の書簡)
(5) 以下の記事も参照してください。
・ 裁判文書及び司法行政文書がA4判・横書きとなった時期
 裁判文書の文書管理に関する規程及び通達
 司法行政文書に関する文書管理
 最高裁判所裁判部作成の民事・刑事書記官実務必携

真鍋浩之裁判官(57期)の経歴

生年月日 S54.6.3
出身大学 不明
定年退官発令予定日 R26.6.3
R3.1.21 ~ 最高裁経理局主計課長
R2.4.1 ~ R3.1.20 東京高裁23民判事
H30.4.1 ~ R2.3.31 法務省大臣官房国際課付
H30.3.24 ~ H30.3.31 法務省大臣官房付
H29.4.1 ~ H30.3.23 東京地裁39民判事
H27.4.1 ~ H29.3.31 最高裁人事局付
H26.10.16 ~ H27.3.31 旭川地家裁判事
H24.9.1 ~ H26.10.15 旭川地家裁判事補
H24.7.1 ~ H24.8.31 東京地裁判事補
H22.7.1 ~ H24.6.30 財務省国際局開発政策課課長補佐
H22.4.1 ~ H22.6.30 最高裁家庭局付
H16.10.16 ~ H22.3.31 東京地裁判事補

令和元年度実務協議会(冬季)

1 令和2年1月30日及び同月31日に開催された,令和元年度実務協議会(冬季)の資料を以下のとおり分割掲載しています。
① 日程表
② 出席者名簿
③ 民事・行政事件の現状と課題
④ 刑事事件の現状と課題
⑤ 参考統計表
⑥ 裁判員裁判の実施状況について(制度施行~令和元年10月末・速報)
⑦ 家庭裁判所の現状と課題
⑧ 最高裁判所経理局作成資料
⑨ 司法研修所関係資料
⑩ 裁判所職員総合研修所の概要

2 実務協議会というのは,新たに地方裁判所長,家庭裁判所長又は高等裁判所事務局長を命ぜられた者を対象に,年に2回開催されている研修です(「裁判官研修実施計画」参照)。

3 最高裁判所人事局が作成した資料はなぜかありません。

判検事トップの月収と,行政機関の主な特別職の月収との比較

・ 判検事トップ及び行政機関の主な特別職の,令和2年1月7日現在の月収は以下のとおりであります(行政機関の特別職につき,内閣府HPの「主な特別職の職員の給与」参照)ところ,例えば,東京23区勤務の場合,地域手当として別途,月収の20%が加算されます。

1 最高裁判所長官(月収201万1000円)
・ 特別職である内閣総理大臣と同じです。

2 最高裁判所判事(月収146万6000円)
・ 特別職である国務大臣,会計検査院長及び人事院総裁と同じです。
・ 一般職である検事総長と同じです。

3 東京高等裁判所長官(月収140万6000円)
・ 特別職である内閣法制局長官,内閣官房副長官,副大臣,国家公務員倫理審査会の常勤の会長,公正取引委員会委員長,原子力規制委員会委員長及び宮内庁長官と同じです。
・ 立法府の特別職である衆参事務総長,衆参法制局長,国立国会図書館長と同じです。

4 その他の高等裁判所長官(月収130万2000円)
・ 一般職である東京高検検事長と同じです。

5 次長検事及び検事長(月収119万9000円)
・ 特別職である検査官,人事官,内閣危機管理監,内閣情報通信政策監,国家安全保障局長,大臣政務官,個人情報保護委員会委員長,カジノ管理委員会委員長,公害等調整委員会委員長,運輸安全委員会委員長及び侍従長と同じです。
・ 特別の事情がある場合における常勤の内閣総理大臣補佐官及び常勤の大臣補佐官と同じです(特別職給与法3条2項1号)。

*1 判事1号及び検事1号(月収117万5000円)は,①一般職である各省庁の事務次官,並びに②特別職である内閣官房副長官補,内閣広報官,内閣情報官,内閣総理大臣補佐官,大臣補佐官,国家公務員倫理審査会委員,公正取引委員会委員,原子力規制委員会委員及び式部官長に適用されている指定職俸給表8号棒と同じです。
*2 以下の記事も参照してください。
・ 最高裁判所が作成している,最高裁判所判事・事務総局局長・課長等名簿
・ 最高裁判所が作成している,高裁長官・地家裁所長等名簿
・ 高裁長官人事のスケジュール
・ 高等裁判所長官を退官した後の政府機関ポストの実例
・ 裁判官の年収及び退職手当(推定計算)
 裁判官の号別在職状況
・ 裁判官の昇給
 裁判官の給料と他の国家公務員の給料との整合性に関する答弁例
 検事総長,次長検事及び検事長任命の閣議書

裁判官・検察官の給与月額表(令和2年1月1日現在) 

刑事事件の上告棄却決定に対する異議の申立て

目次
1 総論
2 異議の申立て期間及び申立て理由
3 異議の申立てを認容して決定を訂正した事例
4 刑事事件の上告棄却決定の確定時期
5 関連記事その他

1 総論
(1) 刑訴法414条・386条1項3号により上告を棄却した最高裁判所の決定に対しては,刑訴法414条・386条2項・385条2項前段・428条2項により異議の申立てをすることができます(最高裁大法廷昭和30年2月23日決定参照)。
(2) 最高裁大法廷昭和26年12月26日決定は,上告棄却決定に対する異議申立ては不適法としていたものの,3年余り後に出された最高裁大法廷昭和30年2月23日決定によって判例変更されました。

2 異議の申立て期間及び申立て理由
(1) 異議の申立て期間
・ 異議の申立ては,上告棄却決定が被告人本人に送達された日(刑訴法358条及び最高裁昭和32年5月29日決定)から3日以内に行う必要があります(刑訴法414条・386条2項・385条2項後段・422条)。
(2) 異議の申立て理由
ア 異議の申立ては,決定の内容に誤りのあることを発見した場合に限りできます(最高裁昭和36年7月5日決定)。
イ 上告棄却決定に対する異議の申立てについて,申立書自体には何ら具体的理由が付されてなく,異議申立て期間内に理由書の提出もないときは,刑訴法414条・386条2項・385条2項・426条1項により,決定で申立てを棄却されます(最高裁昭和42年9月25日決定)。

3 異議の申立てを認容して上告棄却決定を訂正した事例
・ 異議の申立てを認容して決定を訂正した事例としては以下のものがあります。
① 上告趣意書最終提出日の通知が適法にされていなかったのに,上告趣意書不提出として上告棄却決定をしていたため,同決定を取り消し,上告趣意書最終提出日を変更する旨の決定をしたもの(最高裁昭和33年2月4日決定
② 上告棄却決定前に被告人が死亡していたことが判明したため,同決定を取り消して公訴棄却の決定をしたもの(最高裁昭和42年5月17日決定
③ 刑の執行と競合する未決勾留日数を算入していたため,主文中の算入部分を削除するなどしたもの(最高裁昭和42年12月25日決定

4 刑事事件の上告棄却決定の確定時期
・ 刑事事件の上告棄却決定が確定するのは,3日間の異議申立期間が経過したとき,又はその期間内に異議の申立てがあった場合には,これに対する裁判が被告人に送達されたときとなるのであって,上告審判決の確定時期に関する刑訴法418条に準じた取扱いとなっています(逐条実務刑事訴訟法1167頁及び1168頁)。

5 関連記事その他
(1)ア 訂正の申立て(刑事訴訟法415条)は上告審判決に対してできるのであって,上告棄却決定に対してすることはできません(最高裁大法廷昭和30年2月23日決定)。
イ 訂正の申立て及び異議の申立ては,いずれも,本案事件の裁判に関するものであり,判決又は決定の内容に誤りのあることを発見した場合にのみ許される訂正を求める手続きです(最高裁昭和52年4月4日決定)。
(2) 最高裁判所のした保釈保証金没取決定に対しては刑訴法428条の準用により異議の申立てをすることができます(最高裁昭和52年4月4日決定)。
(3) 以下の記事も参照してください。
 最高裁判所事件月表(令和元年5月以降)
・ 判決要旨の取扱い及び刑事上訴審の事件統計
・ 最高裁判所調査官
・ 最高裁判所判例解説

特例判事補

目次
1 地家裁における特例判事補
2 高等裁判所判事職務代行としての特例判事補
3 特例判事補制度制定時の国会答弁(令和3年2月7日追加)
4 臨時司法制度調査会意見書(昭和39年8月28日付)の記載
5 司法制度改革審議会意見書(平成13年6月12日付)の記載
6 平成15年2月当時の特例判事補の状況
7 平成15年2月当時,特例判事補制度を段階的に見直す方針であったこと
8 関連記事その他

1 地家裁における特例判事補
(1) 根拠法の条文
・ 「判事補は、他の法律に特別の定のある場合を除いて、一人で裁判をすることができない。」と定める裁判所法27条1項の例外としての,判事補の職権の特例等に関する法律(昭和23年法律7月12日第146号)1条は以下のとおりです。
① 判事補で裁判所法(昭和二十二年法律第五十九号)第四十二条第一項各号に掲げる職の一又は二以上にあつてその年数を通算して五年以上になる者のうち、最高裁判所の指名する者は、当分の間、判事補としての職権の制限を受けないものとし、同法第二十九条第三項(同法第三十一条の五で準用する場合を含む。)及び第三十六条の規定の適用については、その属する地方裁判所又は家庭裁判所の判事の権限を有するものとする。
② 裁判所法第四十二条第二項から第四項までの規定は、前項の年数の計算に、これを準用する。
(2) 裁判所百年史の記載
・ 裁判所百年史(平成2年11月26日発行)207頁には,特例判事補に関して以下の記載があります。
   判事補は、司法修習生の修習を終えた者の中から任命される。なお、裁判所法上は、判事補は、原則として一人で裁判をすることができず、また、同時に二人以上合議体に加わることや裁判長となることもできないものとされているが、裁判事務繁忙の実情等にかんがみ、判事補の職権に関するこのような制限を臨時に緩和するため、昭和二三年七月一二日、判事補の職権の特例等に関する法律が公布され、判事補でその在職年数が五年以上になる者のうち、最高裁判所に指名された者は、右のような職権の制限を受けず、判事の権限を有するものとされることになった。



2 高等裁判所判事職務代行としての特例判事補

(1) 根拠法の条文
・ 「各高等裁判所は、高等裁判所長官及び相応な員数の判事でこれを構成する。」と定める裁判所法15条の例外としての,判事補の職権の特例等に関する法律(昭和23年法律7月12日第146号)1条の2(昭和32年5月1日法律第92号によって追加された条文です。)は以下のとおりです。
① 最高裁判所は、当分の間、高等裁判所の裁判事務の取扱上特に必要があるときは、その高等裁判所の管轄区域内の地方裁判所又は家庭裁判所の判事補で前条第一項の規定による指名を受けた者にその高等裁判所の判事の職務を行わせることができる。
② 前項の規定により判事補が高等裁判所の判事の職務を行う場合においては、判事補は、同時に二人以上合議体に加わり、又は裁判長となることができない。
(2) 裁判所法逐条解説の記載
・ 裁判所法逐条解説(上巻)165頁及び166頁には,高等裁判所判事の職務を代行する特例判事補に関して以下の記載があります。
(165頁の記載)
   職権特例判事補が高等裁判所判事の職務代行を命ぜられるのは、「高等裁判所の裁判事務の取扱上特に必要があるとき」である。これは、本条(山中注:裁判所法19条のこと。)の場合と異なり、必ずしも、特定の高等裁判所におけるさし迫つた必要性のみに限らず、もう少し広い意味で、最高裁判所が全国的視野において、全国各裁判所の裁判事務をできる限り効率的に運営するという観点からする必要性もふくむ趣旨と解され、本条の場合に比し、その範囲(特定性),程度(急迫性)等において差があるものということができる。
(166頁の記載)
   この措置(山中注:特例判事補が高等裁判所判事の職務を代行するという措置)は,「当分の間」行われるものである。けだし,判事の定員が充足した後は,高等裁判所は,できる限り,判事のみの合議体で事件を処理するものとすることが望ましいし,また,判事補制度そのものについても,なお十分検討されるべき点が少くなく,右に述べた制度をもって恒久的なものとするには,多くの疑問が存するからである。
(3) 最高裁判所十年の回顧の記載等
ア 最高裁判所十年の回顧(三)には以下の記載がありますし(昭和32年12月発行の法曹時報9巻12号38頁),立法趣旨に関しては,昭和32年4月5日の衆議院法務委員会における位野木益雄(いのきますお)法務大臣官房調査課長の答弁も同趣旨のものとなっています。
   一方、立法の面における第一審強化方策として、第二十六国会を通過した「判事補の職権の特例等に関する法律の一部を改正する法律」がある。この法律は本年五月一日から施行されているが、その趣旨とするところは、第一審の充実強化を円滑に行うため、当分の間の措置として、いわゆる職権特例判事補に高等裁判所の判事の職務を行わせることができるようになったことである。現在地方裁判所で単独事件を処理している職権特例判事補は二百名以上にも達しているが、これをできる限り判事と交替させることが望ましい。この判事の供給源は、さしあたりこれを高等裁判所に求めなければならない。そこで高等裁判所判事を地方裁判所に配置換えし、その後を職権特例の判事補でおぎない、高等裁判所の合議体の一員に加えようとするものである。これによって第一審の充実強化をはかるとともに、一面、高等裁判所にも清新の気を送り、あわせて人事の交流をはかろうとするものである。
   この法律の施行にともなって、最高裁判所は、裁判官の配置換えを行っているが、本年十一月二十日までに、すでに判事補八名が高等裁判所に送りこまれている。
イ 制定経緯からすれば,「高等裁判所の裁判事務の取扱上特に必要があるとき」というのは,「第一審強化のために地裁に配置換えされた高裁判事の欠員を埋めるために特に必要があるとき」といった意味合いになります。
(4) 控訴院判事の任命資格
・ 明治憲法時代,5年以上裁判官の経験があれば控訴院判事の任命資格を取得しました(裁判所構成法69条)。


3 特例判事補制度制定時の国会答弁
(1) 兼子一 法務調査意見長官は,昭和23年6月12日の衆議院司法委員会において以下の答弁をしています。
  ただいま議題となりました判事補の職権の特例等に関する法律案の提案理由を申し上げます。
  新憲法の施行によりまして、わが司法制度に画期的な改革が行われ、司法の職責のきわめて重大となりましたことは、いまさら申し上げるまでもないところでありまして、政府といたしましても、この重責を担う裁判所の機構の整備充実に、でき得る限りの力をいたしてまいつたのであります。しかしながら、終戰後のこの深刻多難な社会情勢のもとにおきましては、裁判所の機構の整備は、容易ならぬことでありまして、裁判所の廳舎、その他諸種の物的設備が十分に整わないことはもとより、人員の整備充実の点につきましても、困難を感じているのでありまして、本年三月末日現在の裁判官の欠員は三百六名に達し、特に判事の欠員は百八十二名の多きに達しているのであります。この裁判官不足の原因については、いろいろ考えられるのでありますが、そのおもなるものとしては、裁判官の待遇が、必ずしも十分でなかつたことと、その負担があまりに過重であることがあげられるのでありまして、このため裁判官の献身的な努力にもかかわらず、未済事件は増加の一途をたどり、現状のままに推移するときは、司法の運営に重大なる支障を來すおそれなしとしないのであります。このような事態に処する対策としては、裁判官の待遇を改善して、廣く有為の人材を吸收して欠員の補充をはかることと、裁判官を増員してその負担を軽くすることであります。裁判官の待遇につきましては、さきに提案して法律案によりまして、相当の改善をみることになつたのでありますが、これとて決して十分のものでなく、これのみでは今日ただちに裁判官不足の悩みを解消することは困難と存じますので、当面の措置といたしましては、現在活用し得る人材を、最も有効に活用いたしたく、その方策としては次の二つのことが考えられるのであります。第一は、判事補の活用であります。裁判所法によりまして、判事の地位は著しく高められ、判事に任命せられるには、司法修習生の修習を終え、考試に合格した後、裁判官、検察官または弁護士等として十年以上の経驗を積まねばならず、それまでは、判事補または簡易裁判所判事としてのみ、裁判官の職務を行ひ得るにすぎないのでありまして、判事補としては、原則としては一人で裁判をしたり、同時に二人以上会議体に加わり、または裁判長となることができないというような、職権の制限を受けておるのでありますが、判事補の中には実質上判事たるにふさわしい十分な力量と経驗とを有しながら、形式上の資格要件を欠くために、判事たり得ないものが少くなく、今日の情況にありましては、これらの人々を十分に活用してしかるべきことと存ずるのでありまして、判事補のうち、裁判官、検察官または弁護士としての経驗年数が五年以上にもなり、最高裁判所が、判事としての職務を行わしめるに適するものと認めた者には、判事として職務を行わせるようにすることが、この際きわめて適切であり、かつ必要であると信ずるのであります。
  次に第二の方策としては、裁判所法に規定せられておりまする裁判官の任命資格に関する経過規定の改正でありまして、現在これに関する規定としては、裁判所法施行令の第八條ないし第十條及び第一回國会を通過成立した裁判所法の一部を改正する法律(昭和二十三年法律第一号)の附則第二項ないし第四項等がありまして、裁判所構成法による判事もしくは検事の在職、これらの職につく資格を有する者等の朝鮮、台湾、関東州、南洋廳及び満州國における裁判官の在職、これらの外地もしくは満州國における検察官の在職または行政裁判所評定官、司法研究所指導官、司法書記官等の在職の年数は、これを裁判所法による判事、判事補、検察官、司法研修所教官または法務府事務官——現在の法務廳は、別に法案を提出して法務府と改称いたしたいと思いますが——等の在職の年数とみなすこと等が定められておりますが、この際これらの規定をさらに拡張して、内地、朝鮮、台湾、満州國または蒙古等で実質上右に述べた諸官職と同様な法律的の事務を取扱う職にあつた者についても、一定の條件のもとに、その在職年数をこれに算入することとし、なお、朝鮮、台湾及び関東州の弁護士の在職年数をも、弁護士法による弁護士の在職年数とみなすこととして、実質上十分なる知識と経驗とを有しながら、形式上の資格要件を欠くために、判事簡易裁判所判事、または判事補等となり得なかつた者に、それぞれその資格を與えて、これを十分に活用することが必要であり、かつ適当であると存ずるのであります。
  この法律案は、以上申しましたよな趣旨で立案提出いたしたのでありまして、第一條は、判事補で裁判所法第四十二條第一項各号に掲げる判事補、簡易裁判所判事、檢察官または弁護士等の職の一または二以上にあつて、その年数を通算して五年以上になる者のうち、最高裁判所の指名する者は、当分の間、判事補としての職権の制限を受けないものとし、またその属する地方裁判所の判所官会議の構成員となり、管内の簡易裁判官の職務を行う権限を有することを定め、第二條は、裁判所構成法による判事または檢事たる資格を有する者が、同條に掲げる内地、朝鮮、台湾、満州國及び蒙古連合自治政府等における各種の職にあつたときは、その在職年数は、裁判官の任命資格に関する裁判所法第四十一條、第四十二條及び第四十四條の規定の適用については、これを判事、判事補、検察官、法務府事務官または法務府教官の在職年数とみなすこととし、第三條は、弁護士たる資格を有する者が、朝鮮、台湾、関東州等の外地弁護士の職にあつたときは、裁判所法第四十一條ないし第四十四條の規定の適用については、その在職の年数は、これを弁護士の在職の年数とみなし、外地弁護士の在職年数、もしくは外地弁護士及び弁護士令による弁護士試補として実務修習を終え考試を経たものは司法修習生の修習を終えたものとみなされることを定め、さらに附則では、この法律の施行に必要な規定を設けたのでありまして、その第四條は、この法律の施行期日を定め、第五條は、第一條に定める判事補の裁判官、検察官または弁護士等としての経驗年数の計算についての経過規定を定めたものでありまして、その内容は一應前に申しました裁判官の任命資格に関する経過規定にならつたのであります。また第六條は、さきに述べた裁判所法の一部を改正する法律の附則第二項ないし第四項が、この法案の成立によつて、その存在理由を失うことになりますので、これを削除することを定めたものであります。
  以上この法案について概略の御説明を申し上げましたが、なお詳細につきましては、御質問に應じてお答えいたしたいと存じます。何とぞ愼重御審議の上、御可決あらんことをお願いいたします。
(2) 岡部常 参議院司法委員会理事は,昭和23年7月3日の参議院本会議において以下の答弁をしています。
  判事補の職権の特例等に関する法律案について申上げます。本案の内容は裁判所法で一人前の判事になるには、十年間、裁判官、検察官、弁護士等の職にあつたことを必要とするように定められておりますため、判事の不足が二百名に達する有様で、民事刑事の事件の処理に困難しておる現状であります。前に述べました在職十年経過の条件に満たざる者は、判事補として地方裁判所の限られた事件は、独りで処理できない等の制限があるのでありますが、当分の事態に対処いたしまする方便として、五年以上の経驗を持つ判事補の中、優秀な者を最高裁判所が指名して、当分の間、判事と同じような権限を與えて事件の処理に当らせるというのが第一條でありまして、第二條以下は、裁判所構成法当時の判事又は検事の資格のあつた者が、朝鮮、台湾、満州、蒙古の司法関係や、司法領事、南方の司政官等になつて、司法関係の仕事をした者や、特許局関係の審判事務に従事していた者の、その間の期間を、判事になる資格の十年の期間に参入し、又は現在又は将来衆議院、参議院の司法委員会の専門調査員、法制部の参事、副参事等に在職した期間も通算になるという規定であります。尤もこの中、満州関係の分は、第一國会で解決したのでありますが、この法律の中に取り入れて一本に纏めたものであります。
  委員会におきましては、時宜に適した適当な立法であることを認めまして、討論を省略し、全会一致可決すべきものと決定いたした次第でございます。

4 臨時司法制度調査会意見書(昭和39年8月28日付)の記載
   臨時司法制度調査会意見書(昭和39年8月28日付)の決議要目には以下の記載があります。
第一 裁判官制度
 一 任用制度運用の改善
   弁護士、検察官等で裁判官となるにふさわしいものをできる限り多数裁判官に任用することができるよう法曹三者が協力すること。
 二 判事補制度の改善
  1 判事補は、原則として、地方裁判所及び家庭裁判所において、一人で判決をすることができないものとすること。
  2 判事補のうち在職三年に達しない者は、判決以外の裁判も、特に法律で定める軽易なものを除き、一人ですることができないものとすること。
  3 判事補の研修を充実強化すること。
 三 簡易裁判所判事制度の改善
  1 簡易裁判所判事には、できる限り、判事定年退官者等法曹有資格者を充てること。
  2 いわゆる選考任命の簡易裁判所判事は、各方面から人材を求めるとともに、その素質の向上を図ること。
  3 一定年数の経験を有する選考任命の簡易裁判所判事で一定の考試を経たものは、判事補に任命することができるものとすること。
 四 裁判官の増員
   裁判官の定員を相当程度増加すること。
 五 裁判官の補助機構
  1 裁判所調査官制度を次のとおり拡充すること。
   (一) 高等裁判所における裁判所調査官の制度を拡充し、これに一般事件の審理及び裁判に関する調査をもつかさどらせるようにすること。
   (二) 地方裁判所に、裁判官の命を受けて工業所有権関係事件等の特殊事件の審理及び裁判に関して必要な調査をつかさどる裁判所調査官を置くこと。
   (三) 地方裁判所に、裁判官の命を受けて一般事件の審理及び裁判に関して必要な調査をつかさどる裁判所調査官を置くことを検討すること。
  2 1のほか、裁判所の補助職員の充実整備を図ること。

5 司法制度改革審議会意見書(平成13年6月12日付)の記載
   司法制度改革審議会意見書(平成13年6月12日付)には以下の記載があります。
(1) 判事補制度の改革等

(中略)
イ 特例判事補制度の解消
 特例判事補制度については、裁判官数の不足に対応するための「当分の間」の措置であったことや、十全の権限を行使する判事となるためには10年の法律専門家としての経験を要求している裁判所法の趣旨にかんがみ、計画的かつ段階的に解消すべきである。裁判官の大幅増員の必要性については既に言及したところであるが、特例判事補制度の解消のためにも、判事を大幅に増員すべきであり、後記(2)の措置を講じること等により、判事の大幅増員に対応できるよう、弁護士等からの任官を推進すべきである。

6 平成15年2月当時の特例判事補の状況
・ 特例判事補制度の見直しについて(平成15年2月18日付の最高裁判所事務総局の文書)には「2 特例判事補の現状」として以下の記載があります。
○  特例判事補は,全国各地の裁判所で多様な事件を判事と同等に担当し,処理している。地裁・家裁の支部で勤務する特例判事補の数も多い。
・ 全国的な配置状況(資料1,2)
 現在,約400人の特例判事補が全国各地の裁判所で事件処理を担当し,そのうち,300人以上が,民事・刑事の訴訟事件などを単独で担当している。約130人の特例判事補が支部に配置されており,そのうち,約20人は,離島,遠隔地などのいわゆる1人配置支部に勤務している。
・ 事件処理の現況
 特例判事補は,地裁本庁等では,民事・刑事の単独事件を中心に担当している。支部等では,民事・刑事の単独事件のほか,執行事件,家事事件など多様な事件を同時に担当している。
* 例えば,新潟地家裁佐渡支部(佐渡),長崎地家裁福江支部(五島列島),厳原支部(対馬),鹿児島地家裁名瀬支部(奄美大島)などへ特例判事補が赴任し,夜間令状事件を含め24時間体制で地域の司法を担っている。
* 判事補任官後の5年間,民事・刑事の合議事件の左陪席や,少年事件などの経験を積むことを通じて,単独で訴訟事件を担当することができるように,その力量を培う。特例判事補となった後は,赴任庁の事件状況に応じて事務を担当するが,訴訟事件が増加傾向にあることから,単独事件の担当とすることが多い。また,特例判事補は,子どもの年齢がまだ低く,親の介護を要するに至っていない年代の者が多く,転勤の支障が比較的小さいことから,離島,遠隔地等に所在する裁判所への赴任候補者とすることが少なくない。

7 平成15年2月当時,特例判事補制度を段階的に見直す方針であったこと
・ 特例判事補制度の見直しについて(平成15年2月18日付の最高裁判所事務総局の文書)には「3 検討の方向性」として以下の記載があります。
○ 裁判所法が判事任命のための資格として判事補経験10年を要求している趣旨,特例判事補制度が「当分の間」の措置とされている趣旨に照らし,特例判事補制度を段階的に見直す方針である。
○ 当面は,後記の条件整備の状況を踏まえつつ,特例判事補が単独訴訟事件を担当する時期を,任官7年目ないし8年目へシフトすることを目標とし,その担当事務をこれまで以上に合議事件に振り向けるとともに,各種非訟事件等の多種多様な事件とすることを工夫するなどして,段階的な見直しを推進する予定である。
・ 特例判事補の果たしている役割及び弁護士任官の現状を考慮すれば,まず,任官6年目ないし7年目の特例判事補による単独事件の担当から見直す方策を検討したい。代替する判事の人数の確保及び支部勤務者の確保という観点から,都市部から見直しを始めていくことになろう。その上で,条件整備の状況を踏まえつつ更に見直しを進めていきたい。
・ 約400名の特例判事補の見直しのためには,これに代替する判事を確保することが必要不可欠である。また,これと並行して,審理の充実・迅速化,事件増加へ対応するため,判事による事件処理態勢の充実強化を図る必要がある。
・ 資質能力を備えた判事を確保する必要があることに変わりはなく,前記のような段階的な見直しとともに,特例判事補の担当事務の見直しを含む人事ローテーションの在り方を検討し,特例判事補への研修を一層充実強化する必要がある。
・ 例えば,これらの特例判事補の担当事務としては,地家裁の合議事件を中心として,各種非訟事件(破産,執行等),簡裁の訴訟事件,調停事件等が考えられるとともに,研修としても,裁判所外部の経験(海外留学,行政官庁への出向などに加え,弁護士事務所への派遣等)等の多様なものが考えられる。
・ 特例判事補を含む判事補の研さん態勢も一層充実させることを考えている。


8 関連記事その他
(1) 民事訴訟法312条2項1号は「法律に従って判決裁判所を構成しなかったこと。」を絶対的上告理由としていますところ,判事補の職権の特例等に関する法律に違反することは同号に該当すると思います。
(2) 京都弁護士会は,司法制度改革審議会に対し,判事補制度の廃止を求める意見書(2000年11月22日)を提出しました。
(3) 以下の記事も参照してください。
・ 裁判官の種類
・ 職務代行裁判官
・ 裁判官の号別在職状況
・ 下級裁判所の裁判官の定員配置

家事事件に関する審判書・判決書記載例集(最高裁判所が作成したもの)

平成25年1月1日の家事事件手続法(平成23年5月25日法律第52号)施行後に作成されたと思われる,家事事件に関する審判書・判決書記載例集(最高裁判所が作成したもの)を以下のとおり掲載しています。

1 婚姻費用分担申立事件
・ 基本型
・ 収入認定が困難な事案(各種統計資料により認定・判断した事例)
・ 標準算定表額に特殊事情の考慮が主張される事案(標準算定方式における学校教育費相当額を超える学費負担を考慮した事例)
・ 標準算定表額に特殊事情の考慮が主張される事案(義務者による権利者居住居宅のローン負担を考慮した事例)
・ 標準算定表額に特殊事情の考慮が主張される事案(義務者による権利者居住居宅のローン負担を考慮しなかった事例)
・ 増額・減額申立事件(減額した場合)
2 養育費申立事件
・ 基本型
・ 子が4人以上の場合
・ 義務者も子を養育している場合
・ 義務者の収入が算定表の上限を超える場合
・ 収入の変動により減額する場合
・ 扶養家族の変動により減額する場合
・ 子の大学進学による教育費増加により養育費を増額する場合
3 面会交流申立事件
・ 給付を特定した形で直接交流(面会)を認めた事例
・ 給付を特定しないで直接交流(面会)を認めた事例
・ 直接交流(面会)を認めず,間接交流のみを認めた事例
・ 面会交流を認めなかった事例
4 監護者指定申立事件
・ 申立人を監護者に指定した事例
・ 相手方を監護者に指定した事例
・ 審判前の保全処分申立事件 保全の必要性なしとして却下した事例
5 親権者変更申立事件
・ 認容した事例
・ 親権者死亡後他の親へ変更した事例
・ 却下した事例
6 遺産分割申立事件
・ 基本型(現物分割,代物分割)
・ 換価分割,共有分割,現物分割
・ 却下事例
・ 特別受益を否定した事例
・ 特別受益を肯定し,具体的相続分を算定したうえ,遺産分割をした事例(特別受益否定,持戻し免除の意思表示も含む。)
・ 寄与分を否定した事例2件
・ 寄与分を一部肯定した事例
7 祭祀財産の承継者指定申立事件
8 特別縁故者に対する相続財産の分与申立事件
・ 全部分与
・ 一部分与・却下事例
9 推定相続人廃除申立事件
・ 認容した場合
10 相続放棄申述事件
・ 却下した事例

11 氏の変更許可申立事件・名の変更許可申立事件・戸籍訂正許可申立事件
・ 氏の変更許可申立を却下した事案
・ 名の変更許可申立を却下した事案
・ 戸籍訂正許可申立事件(認容した事案)
12 性別の取扱いの変更申出書
・ 認容した事例2件
13 特別養子縁組申立事件
・ 第1段階の審判
・ 第2段階の審判
14 親権喪失申立事件・親権停止申立事件
・ 認容した事例
・ 審判前の保全処分(親権者の職務執行停止及び職務代行者の選任)を認めた事例
15 児童福祉法28条1項及び2項
・ 認容した事例
16-1 後見開始の審判申立事件
・ 基本型(親族後見人,鑑定実施)
・ 監督人選任
・ 複数後見人・権限分掌あり
・ 保佐からのバージョンアップ
・ 任意後見契約登記がある例
・ 任意後見監督人選任済みの審判
・ 却下例
16-2 保佐開始の審判申立事件
・ 開始するも代理権付与は同意なく却下
16-3 補助開始の審判申立事件
・ 同意なく却下
16-4 任意後見監督人選任申立事件
・ 法定後見と競合し認容した事例
・ 法定後見開始済みで却下した事例
16-5 後見開始の審判の取消申立事件
16-6 成年後見人解任事件
・ 報告懈怠等を理由に認容した事例
・ 横領等を理由に認容した事例
・ 却下した事例
16-7 相続財産管理人選任申立事件
・ 本人死亡後相続財産引渡しまでの処分
16-8 審判前の保全処分申立事件
・ 財産管理者選任・保佐命令
17 渉外事案 親権者変更申立事件
18 合意に相当する審判
・ 嫡出否認
・ 親子関係不存在確認
・ 認知申立事件
・ 協議離婚無効確認申立事件
19 調停に代わる審判
・ 夫婦関係調整調停申立事件(合意型)
・ 婚姻費用分担調停申立事件(欠席型)
・ 面会交流調停申立事件(不一致型)
・ 遺産分割申立事件(不出頭型)
・ 遺産分割申立事件(不一致型)
・ 遺産分割申立事件(合意型・渉外事件)
20 離婚請求事件
・ 基本型(離婚原因の存否,認容例)
・ 離婚原因の存否(棄却例)
・ 有責配偶者の抗弁の成否(請求棄却)
・ 有責配偶者の抗弁の成否(認容例)
21 離婚等請求事件
・ 財産分与(基本形)
・ 財産分与(基準日に争いがある事案)
・ 財産分与(特有財産部分に争いがある場合-不動産)
・ 財産分与(特有財産部分に争いがある場合-預貯金)
・ 財産分与(寄与度に争いがある事案)
・ 不動産の分与が問題となる事案(不動産ローンの引受けが問題とならない事案)
・ 不動産の分与が問題となる事案(不動産ローンの引受けが問題となる事案)

* 一つのPDFファイルにしたものを,家事事件に関する審判書・判決書記載例集として掲載しています。

弁護士任官に対する賛成論及び反対論

・ 臨時司法制度調査会意見書(昭和39年8月28日付)(略称は「臨司意見書」です。)において,「法曹一元の制度の長所と短所」のうち,弁護士任官に対する賛成論及び反対論として妥当するものは以下のとおりです(出典は昭和39年8月発行の法曹時報別冊33頁ないし38頁です。)。
   
1 裁判官任用制度の民主化からの側面
(賛成論)
① 現在の司法部が魅力に欠けている原因は,現在の裁判官の任用制度が国民的基盤の上に立っていない点にある。
   この弊を是正するためには,国民とより直接のつながりをもつ弁護士を(国民的基盤の上に直接立つような構成をもつ推薦機関の推薦によって)裁判官に選任する制度が有効である。
② 民主主義下においては,国民が司法を自分らのものと意識するようになることが必要であるが,弁護士はその職務自体から民衆の味方となっているものであるから,これから裁判官を選ぶことにすれば,国民との間に血の通った裁判が行われるようになる。
③ 司法に国民の意志を反映させ,民主主義の目的を達成するためには,その方策として,国民に近い弁護士から裁判官を選ぶことにするのが,賢明にして現実的な手段である。
④ 若い時から裁判所に閉じこもっているキャリアの裁判官より世間一般と接触している弁護士の方が民主的である。
⑤ キャリアの裁判官と異なり,弁護士は,社会からきびしい批判を受けることによって,社会的評価がおのずから定まっているので,弁護士の中から裁判官を選考すれば誤りがなく,裁判に対する国民の信頼を増大させることができる。
(反対論)
① 司法の民主化がはたして何を意味するかが明らかでない。また,弁護士が裁判官になれば民主的であるとする考え方の根拠が不明である。
   現在の弁護士が現在の裁判官より民主的であるという保障はどこにもない。
② 弁護士から裁判官を採用すれば,裁判に対する国民の信頼の問題が氷解するとは考えられない。
   要は,裁判官その人の教養と人格いかんにある。
③ 弁護士に対して社会一般が信頼を寄せているとは思えない。また,一般国民は,弁護士に親近感をもっていない。
   したがって,弁護士から裁判官を採用することが直ちに民意を反映することにはならず,国民はそのようには考えていない。
④ 司法の民主化のための手段としては,むしろ裁判官の公選,陪審,参審の制度を考慮すべきであり,決して法曹一元の制度の採用に限定されるものではない。しかも,制度を論ずる場合には,能率,安定性等個々の面からの利害得失を総合的に考える必要がある。
   したがって,司法の民主化が望ましいとすることから,直ちに法曹一元の制度を採用すべきであるとすることは,論理の飛躍である。
   
2 弁護士経験からの側面
(賛成論)
① 実社会に直接接触して,生きた社会の実態を知り,豊富な社会的経験を有する弁護士が裁判官となることにより,真相に適した裁判が行われるようになり,裁判の説得力と信頼性を増すことができる。
② 弁護士から裁判官を採用することにより,広い視野を有する裁判官を得ることができる。
③ 弁護士,検察官のような当事者活動を経ることにより,知識経験が豊かになり,人間の見方が錬成されて来る。
④ すぐれた裁判官となるためには,弁護士の経験がキャリアの経験にまさる。つまり弁護士の経験により,人権感覚を身に付けることができる。
   人権感覚とは,具体的なケースに現れた社会の要求に対し切実綿密に反応する感覚である。
⑤ 弁護士の経験は,依頼者に対する責任に裏付けられているから,キャリアの裁判官の経験と質的に異なるものがある。
(反対論)
① 弁護士のみが社会常識に富むとすることは独断であり,弁護士の経験のみが裁判官に必要な経験とは言えない。
   要は,その人個人の素質,生活態度,そしゃく能力のいかんによる。
② 弁護士の経験といえども,社会との直接の接触による直接的な経験ではなく,間接的なものにすぎない。
③ 弁護士の経験には,ともすれば裁判官に要請される廉潔,公正ということと矛盾する面がある。
④ 在野の苦労を経て社会の荒波をくぐってきたものでなければ裁判官となる資格がないとすることは,合理的な理由を欠く。
⑤ 社会的事象に対する知識,当事者の立場に立って物を考える能力は,弁護士を経験したからすぐれ,キャリアであるから劣るというものではない。
⑥ 当事者経験を強調することにも疑問がある。当事者経験があることによって訴訟指揮が適切に行なわれ,事実認定が的確に行われるためには,裁判所の訴訟活動と当事者の訴訟活動との間に大きな距離がないこと,対立がないことが前提であるが,現状では,弁護士の活動は,当事者の利益擁護に傾きすぎている。
⑦ 裁判官が弁護士の中から選ばれるという制度には弊害も伴い,このような制度がわが国の国民感情に適合するかどうか疑わしい。
⑧ 裁判官となるためには当事者としての経験が必要であるとしながら,法曹一元論のあるものが裁判官の給源を実務弁護士以外に拡大しようとしていることは,矛盾である。
⑨ 弁護士は,裁判官と異なり,必ずしも各種の事件を取り扱うとは限らないから,その当事者経験は,限られた分野のものにとどまる。
⑩ 裁判官と弁護士との間には,その職務の性質において,質的な相違があり,裁判官の職務は,双方の主張を聞いていずれが正しいかを判断するものであるのに対し,弁護士の職務は一方の当事者の利益のみを考えるものであるから,後者の経験をもって前者のそれに代えることはできない。
   両者には,それぞれ異なった性格,訓練が要求される。
⑪ 弁護士出身の裁判官には個性が強すぎるという批判があり,各事件を通じての安定性のある判断という要請が満たされないこととなる虞れがある。
   
3 その他からの側面
(賛成論)
① 法曹一元の制度が実現されれば,在野法曹が司法の運営に責任をもつということが制度的に明確になるので,そのことが訴訟指揮等の面にも現われ,円滑な能率的な司法の運営を期待しうるようになる。
② 司法の円滑な運営のためには,在朝在野の法曹の対立感の一掃,裁判所に対する法曹全体の協力体制が必要であるが,そのためには,法曹一元の制度を確立する必要がある。
③ 裁判官自身の努力のみによってその地位を向上させることは容易ではなく,そのためには,法曹全体がこれをもり立てて行かなければならない。
   そのような基盤を作るためにも,法曹一元の制度が有用である。
④ 法曹一元の制度が実現されれば,その制度の下における裁判官の給与は現在とは著しく異なるものとなるであろうから,現行制度の下において難問とされている裁判官の給与の問題が一挙に解決されうる。
(反対論)

① 英米における法曹一元の制度は,それぞれに特有な歴史的及び社会的背景の下に自然にできあがったものであって,一挙に法律で作ったものもでもなければ,また,作りうるものでもない。
② 英米の判例法主義の下に成立した制度は,わが国のような成文法主義の国で直ちにこれに追随することはできない。
③ 法曹中の長老が裁判をすることによる効果をあげるためには,法曹全体,ことに弁護士全体の中に一体感及び国民の信頼感が存在することが必要であるが,わが国の場合には,そのような社会的背景が欠けている。
   また,法曹一元の制度を採用するということは,司法の根幹に関する革命的な改革であるから,一般国民がこれを支持する熱意がないのに実行できるはずがない。

④ 裁判官の給与の問題を解決するために法曹一元の制度を考えるのは,本末を転倒した議論である。
   
*1 首相官邸HPに「法曹一元制度の長所と短所(臨時司法制度調査階意見書より)」が載っています。
*2 最高裁判所とともに(著者は高輪1期の矢口洪一 元最高裁判所長官)56頁には以下の記載があります。
   臨司では司法試験改革や裁判所の適正配置問題など、今日法曹界で論議されている司法制度の問題点があらかた取り上げられた。ただ、結果的に日の目を見たものはごく一部だったところから、「裁判所がいいところだけをつまみ食いした」などとの批判もあったが、毎回ほとんど全委員の出席を得て会議の議論は終始真剣そのものだったと思う。

*3 以下の記事も参照してください。

・ 法曹一元
・ 平成11年11月までの弁護士任官の状況
・ 平成13年2月当時の,弁護士任官に対する最高裁判所の考え方
・ 弁護士任官等に関する協議の取りまとめ(平成13年12月7日付)
・ 弁護士任官者研究会の資料

2000円の印紙を貼付するだけで上告受理申立てをする方法

目次
1 具体的な方法
2 理論面の説明
3 上告受理申立書の記載例
4 関連記事その他

1 具体的な方法
(1) 数量的に可分な金銭請求が問題となっている場合,債権者であると債務者であるとを問わず,以下の方法を取れば,2000円の印紙を貼付するだけで上告受理申立てをすることができます。
① 訴訟物の価額を金10万円として,上告受理申立書を提出する。
・ 判決書の送達を受けた日から2週間以内です(民事訴訟法313条・285条本文)。
② 上告受理申立理由書の提出期間内に,上告受理の申立てをしていない部分も含めて,控訴審判決に対する上告受理申立ての理由を記載するとともに,上告受理決定が出た場合における上告受理申立ての範囲の拡張を予告しておく。
・ 上告受理申立通知書の送達(民事訴訟規則199条2項・189条1項)を受けた日から50日以内です(民事訴訟規則199条2項・194条)。
・ 上告受理申立理由書の提出期間経過後に新たな理由を追加して主張することは許されないのであって,上告審は当該主張について審理判断してくれません(最高裁大法廷昭和28年11月11日判決参照)。
・ 上告受理申立理由書の付言として,「本件事件について上告受理決定が出た場合,上告受理申立ての範囲の拡張を申し立てる予定である。」という風に書いておけばいいと思います。
③ 上告受理決定が出た場合,追加の印紙を貼付した上で,上告受理申立ての範囲を拡張する。
・ 上告不受理決定が出た場合,2000円の印紙を貼付しただけで終わることとなります。
(2) 2000円の印紙だけを貼付した上告受理申立ての適法性について高等裁判所から問い合わせがあった場合,「「2000円上告」というキーワードで検索すれば出てくる,山中弁護士のブログを読んでくれ。」といえばいいと思います。
(3) 2000円の印紙だけを貼付した上告受理申立書を提出した場合と,そうでない場合とで,上告受理決定が出る可能性に違いがあるかどうかは不明です。


2 理論面の説明
(1) 上告審は,申立人が不服を申し立てた限度においてのみ原判決の当否を判断することができます(民事訴訟法320条)。
   そのため,上告受理決定が出た場合に上告受理申立ての範囲を拡張していないと,10万円の部分についてしか原判決を破棄してもらえないこととなります。
(2) 上告受理申立てにより,上告受理申立ての対象となった終局判決によって判断された事件の全部が上告審に移審します。
(3)ア 上告受理申立ての範囲の拡張は,理由書提出期間内であれば当然に可能であります(最高裁昭和44年7月10日判決参照)ところ,理由書提出期間を経過していたとしても上告審の口頭弁論を経る場合,口頭弁論終結時までに拡張すれば足ります。
イ 「最高裁判所における民事上告審の手続について」(筆者は50期の武藤貴明裁判官(元最高裁判所調査官))には以下の記載があります(判例タイムズ1399号(2014年6月発行)64頁)。
   拡張が1個の請求の量的な範囲の拡張にとどまる場合には,当初の不服申立ての範囲について適法な理由の主張があれば,拡張部分について不適法となることはない。
(4) 上告受理申立て理由が形式的にでも主張されていれば,原裁判所が,それが実質的には法令の解釈に関する重要事項を含まないとして上告受理申立てを却下することは,たとえそれが明白であっても許されません(最高裁平成11年3月9日決定参照)。

3 上告受理申立書の記載例
   2000円の印紙を貼付するだけの上告受理申立書の記載例は以下のとおりです(予納郵券額につき,大阪地裁HPの「民事訴訟等手続に必要な郵便切手一覧表」参照)。

上告受理申立書

令和2年9月12日
最高裁判所 御中

申立人代理人弁護士  山 中 理 司

当事者の表示  別紙当事者目録記載のとおり
損害賠償請求上告受理申立事件

 訴訟物の価額  金 100,000円(控訴審請求額の一部)
 貼用印紙額   金2,000円
 予納郵券額    金6,074円

 上記当事者間の大阪高等裁判所令和2年(ネ)第○○○○号損害賠償請求控訴事件について,令和2年8月○○日に判決の言渡しがあり,同日,判決正本の送達を受けたところ,一部不服であるから上告受理の申立てをする。

原判決の主文の表示
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。

上告受理申立ての趣旨
1 本件上告を受理する。
2 原判決を破棄し,さらに相当の裁判を求める。

上告受理申立ての理由
追って上告受理申立理由書を提出する。

添付書類
1 上告受理申立書副本 1通
2 委任状 1通
(山中注:当事者目録は省略)

4 関連記事その他
(1) 原審の訴訟代理人が上告受理申立ての特別委任まで受けていた場合,高裁判決後の委任状を添付することなく,上告受理申立てをすることができます(最高裁昭和23年12月24日判決参照)。
(2) 上告理由(民事訴訟法312条1項及び2項)を上告受理申立て理由として主張することはできません(民事訴訟法318条2項)。
(3) 上告受理申立理由として,第一審の準備書面又は控訴理由書を援用することはできません(最高裁大法廷昭和28年11月11日判決参照)。
(4) 予納郵券額6074円というのは,大阪地裁民事訟廷事務室事件係(本館1階)に上告状を提出する場合(控訴審としての大阪地裁の判決に対して大阪高裁に上告する場合)の切手の組み合わせであります(大阪地裁HPの「民事訴訟等手続に必要な郵便切手一覧表」参照)ところ,大阪高裁民事訟廷事務室事件係(別館10階)に上告受理申立書を提出する場合にも使えます。
(5) ツンデレブログに「最高裁はなぜ上告を滅多に受理しないのか」と題するマンガが載っています。
① 最高裁はなぜ上告を滅多に受理しないのか(平成26年5月28日付)
② 続最高裁はなぜ上告を滅多に受理しないのか(平成26年6月6日付)
(6) 以下の資料を掲載しています。
① 調書決定事務処理要領(平成27年4月1日付)
・ 上告棄却決定又は不受理決定に関する調書決定は,「最高裁判所が決定をする場合において、相当と認めるときは、決定書の作成に代えて、決定の内容を調書に記載させることができる。」と定める民事訴訟規則50条の2に基づくものです。
② 平成24年12月21日付の上告受理申立理由書
・ 平成17年度日弁連副会長の必要経費に関する,東京高裁平成24年9月19日判決に対するものであり,最高裁平成26年1月17日決定により上告不受理となったものの,上告受理申立理由書の書き方自体は非常に参考になりますし,「結語」部分(PDF31頁)については法令の条文を置き換えることで,そのまま使い回しができると思います。
・ 国税庁HPの「最高裁不受理事件の意義とその影響」において,「弁護士会費懇親会事件」として紹介されています。
③ 最高裁判所民事事件記録等閲覧等事務処理要領(平成27年4月1日付)
④ 人事訴訟事件における書記官事務処理要領(平成27年4月1日付)
⑤ 事件記録の保管及び送付に関する事務の取扱いについて(平成7年3月24日付の最高裁判所総務局長通達)
⑥ 事件記録の保管及び送付に関する事務の取扱いについて(平成25年7月26日付の最高裁判所大法廷首席書記官の指示)
(7) 以下の記事も参照してください。
・ 最高裁判所裁判部作成の民事・刑事書記官実務必携
・ 最高裁の破棄判決一覧表(平成25年4月以降の分),及び最高裁民事破棄判決等の実情
・ 最高裁の既済事件一覧表(民事)
・ 上告審から見た書記官事務の留意事項
・ 最高裁判所における民事事件の口頭弁論期日
・ 最高裁判所の事件記録符号規程
・ 最高裁判所事件月表(令和元年5月以降)

上告受理申立て理由書の提出について(令和2年9月当時の,大阪高等裁判所の説明文書)

裁判所関係国賠事件

目次
第1 総論
第2 裁判所関係国賠事件の報告について定めた文書
1 事務総局の局長の通達
2 事務総局の局の課長の事務連絡
第3 裁判所関係国賠事件に関する法務省の依頼文
第4 裁判所関係国賠事件に関する裁判例
1 成年後見人に関するもの
2 破産管財人に関するもの
第5 国家賠償請求事件における国の勝訴状況
第6 最高裁判所への報告事務に関する通達(裁判所関係国賠事件以外に関するもの)
第7 関連記事その他
1 予防司法支援制度
2 公務員の法解釈の誤りが直ちに過失につながるわけではないこと
3 外部資料の記載
4 国家賠償法1条2項に基づく求償権行使事例
5 関連資料
6 関連記事

第1 総論
1(1) 最高裁昭和57年3月12日判決は,以下のとおり判示しています。
   裁判官がした争訟の裁判に上訴等の訴訟法上の救済方法によつて是正されるべき瑕疵が存在したとしても、これによつて当然に国家賠償法一条一項の規定にいう違法な行為があつたものとして国の損害賠償責任の問題が生ずるわけのものではなく、右責任が肯定されるためには、当該裁判官が違法又は不当な目的をもつて裁判をしたなど、裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認めうるような特別の事情があることを必要とすると解するのが相当である。
(2) 裁判所関係国賠事件において担当裁判官の証人尋問が実施されない限り,「違法又は不当な目的を持って裁判をしたなど,裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認めうるような特別の事情」を原告が立証することは不可能と思います。
2 最高裁判所が,下級裁判所に対して事件報告を求めることは,下級裁判所裁判官に対して何ら審理上の圧力を加えるものではないとされています(最高裁昭和36年9月26日決定参照)。
3 裁判所に対する国賠請求及び弁護士に対する懲戒請求その他裁判所又は弁護士を相手方とする事件(ゴーストライターを含む。)については,従前の事件処理を通じて特に高度の信頼関係を構築できている方に限り極めて例外的な場合に受任することがある程度であって,初回相談では一切取り扱っていません「弁護士会副会長経験者に対する懲戒請求事件について,日弁連懲戒委員会に定型文で棄却された体験談(私が情報公開請求を開始した経緯も記載しています。)」参照)。


第2 裁判所関係国賠事件の報告について定めた文書
1 事務総局の局長の事務連絡
   裁判所職員の行為について国家賠償請求訴訟を提起した場合の報告を定めた局長の通達を以下のとおり掲載しています。
 裁判所職員の事件処理上の違法行為を理由とする国家賠償請求事件及び告知事件の報告について(平成16年7月1日付の最高裁判所民事局長,刑事局長,行政局長及び家庭局長通達)
→ ①の通達は平成29年9月30日まで適用されていたものです。
② 裁判所職員の事件処理上の違法行為を理由とする国家賠償請求事件及び告知事件の報告等について(平成29年7月3日付の最高裁判所民事局長,刑事局長等の通達)
→ ②の通達は平成29年10月1日以降に適用されているものです。
2 事務総局の局の課長の事務連絡
   裁判所職員の行為について国家賠償請求訴訟を提起した場合の報告を定めた課長の事務連絡を以下のとおり掲載しています。
③ 国家賠償法1条1項又は同法2条1項に基づく損害賠償請求事件(国を被告とし,かつ,原告に訴訟代理人が選任されている事件を除く。)の報告(平成27年3月26日付の最高裁判所行政局第一課長の書簡)
→ 行政事件等の報告に関する最高裁行政局第一課長の書簡(平成26年3月25日付)を変更しています。
④ 「裁判所職員の事件処理上の違法行為を理由とする国家賠償請求事件及び告知事件の報告等について」の発出について(平成29年7月3日付の最高裁民事局第一課長等の事務連絡)
→ ②平成29年7月3日付の局長通達の補足説明です。

第3 裁判所関係国賠事件に関する法務省の依頼文
1 裁判所職員の事件処理上の違法行為を理由とする国家賠償請求事件の処理について(平成7年11月20日付の最高裁判所民事局第一課長,刑事局第一課長等の事務連絡)につき,引用元となった法務省訟務局総務課長の依頼文は以下のとおりです(1,2を①,②に変えています。)。
  平素,標記の国家賠償請求事件(以下「裁判所関係国賠事件」という。)の処理につきまして,特段の御配慮をいただき,誠にありがとうございます。
  ところで,昨今の裁判所関係国賠事件は,裁判官の訴訟指揮の違法や執行官の職務執行の違法を主張して訴えを提起するものが増える傾向にある等,従来に増して事実関係の正確な把握に努める必要が生じております。他方,受訴裁判所の答弁書提出期限は,国に送達後ほぼ1か月程度となっているところ,上記期限と調査回報書の当局への到着時期とが極めて接近しているため,第1回期日前の訴訟準備が極めて不十分なまま期日に臨まざるを得ない等の実情にあります。
  つきましては,裁判所関係国賠事件の一層の適正・迅速処理を図るために,その処理に当たりましては,下記の点につき御配慮いただきたくお願いいたします。

 所管裁判所(違法行為を行ったとされている職員が当時所属していた裁判所)の担当者は,法務省からの調査回報依頼通知を受け取ったときは,速やかに担当の法務局又は地方法務局に連絡し,訴訟準備の打合せの要否等について協議する。
  なお,法務局側の連絡窓口は,法務局の場合は訟務管理官,地方法務局の場合は(総括)上席訟務官である。
② 所管裁判所の担当者は,原記録の閲覧謄写等訴訟の準備に必要な資料の利用について,可能な限り協力する。
2 平成29年度(最情)答申第62号(平成30年2月23日答申)には以下の記載があります。
    国家賠償請求事件についての調査結果文書には,請求原因事実の認否及び反論を記載し,その根拠事実を証する資料の写しを添付するから,本件対象文書の添付資料は,実質上当事者の立場にある裁判所が以後の訴訟手続において想定される主張の根拠事実を証する資料と評価した文書といえ,その標題を開示するだけでも,主張の方向性や立証事項の多寡を含む国の総合的な訴訟対応方針を推認することができる。

第4 裁判所関係国賠事件に関する裁判例
1 成年後見人に関するもの
   東京高裁平成29年4月27日判決(判例秘書に掲載)は,以下のとおり判示しています。
   家庭裁判所は,成年後見人の後見事務の監督に関して,いつでも,成年後見人に対し後見の事務の報告若しくは財産の目録の提出を求め,または後見の事務若しくは被後見人の財産の調査をするとともに,被後見人の財産の管理その他後見の事務について必要な処分を命じることができるなどの広範な権限を有しているところ,成年後見人の後見事務の監督についても,独立した判断権を有し,かつ,独立した判断を行う職責を有する裁判官の職務行為として行われるものであることに鑑みれば,裁判官による成年後見人の後見事務の監督につき職務上の義務違反があるとして国家賠償法上の損害賠償責任が肯認されるためには,裁判官が違法若しくは不当な目的をもって権限を行使し,または裁判官の権限の行使の方法が甚だしく不当であるなど,裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使し,または行使しなかったものと認め得るような特別の事情があることを必要とすると解するのが相当である。
2 破産管財人に関するもの
(1) 大阪地裁平成29年4月21日(判例秘書に掲載)は以下の判示をしています(大阪高裁平成29年10月26日(判例秘書に掲載)によって支持されています。)。
   国賠法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を与えたときに,国又は公共団体がこれを賠償する責めに任ずることを規定するものと解するのが相当である(最高裁昭和60年11月21日第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁参照)。そして,裁判官がした争訟の裁判につき国賠法1条1項の規定にいう違法な行為があったものとして国の損害賠償責任が肯定されるためには,上記裁判に上訴等の訴訟法上の救済方法によって是正されるべき瑕疵が存在するだけでは足りず,当該裁判官が違法又は不当な目的をもって裁判をしたなど,裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認めうるような特別の事情があることを必要とすると解するのが相当である(最高裁昭和57年3月12日第二小法廷判決・民集36巻3号329頁参照)。そして,上記特別の事情とは,当該裁判の性質,当該手続の性格,不服申立制度の有無等に鑑みて,当該裁判官に違法な裁判の是正を専ら上訴又は再審によるべきものとすることが不相当と解されるほどに著しい客観的な行為規範への違反がある場合をいうものと解すべきであり,この理は,争訟の裁判に限らず,破産手続における裁判及び破産手続における破産管財人に対する監督権限の行使等の,手続の進行や同手続における裁判所の判断に密接に関連する裁判以外の行為にも妥当すると解するのが相当である。
(2) 大阪地裁平成29年4月21日判決(判例秘書に掲載)が取り扱った「事案の概要」は,控訴審判決としての大阪高裁平成29年10月26日判決(判例秘書に掲載。担当裁判官は32期の田川直之裁判官,45期の安達玄裁判官及び47期の高橋伸幸裁判官)によれば以下のとおりですが,大阪高裁平成29年10月26日判決記載の「当裁判所の判断」は「事案の概要」よりも短いですし,国賠請求部分((3)の部分)に関しては,「その他,控訴人の当審における主張・立証を勘案しても,上記認定・判断を左右するに足りない。」という記載しかありません。
   本件は,控訴人が,被控訴人Y1に対し,
  (1)被控訴人Y1は,控訴人から100万円を借り入れるに際し,これを返還する意思がなかったにもかかわらず,これを秘して,控訴人から100万円を借り入れたのであるから,被控訴人Y1の行為は詐欺に該当するとして,不法行為に基づく損害賠償として,上記借入金相当額100万円,弁護士費用相当額10万円の合計110万円及びこれに対する平成24年7月17日(不法行為の日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め(以下「請求①」という。),
  (2)被控訴人Y1は,控訴人に刑事上の処分を受けさせる目的で,実際には控訴人が暴力団とは全く関係がなく,被控訴人Y1から金銭を脅し取ろうとしたこともなかったにもかかわらず,捜査機関に対し,控訴人が暴力団の関係者であり,被控訴人Y1に法外な金銭支払の要求を内容とする契約書を書かせて金員を脅し取ろうとしたなどと述べて,虚偽の告訴をしたことにより,控訴人は,逮捕・勾留されて接見禁止付きで身柄を拘束され,これによって精神的苦痛を被ったとして,不法行為に基づく損害賠償として,慰謝料100万円,弁護士費用相当額10万円の合計110万円及びこれに対する平成24年9月7日(上記勾留の満了日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め(以下「請求②」という。),
  (3)被控訴人Y1の訴訟代理人であるT弁護士(以下「T弁護士」という。)は,被控訴人Y1の破産事件において破産管財人に就任していたのであるから,本件において被控訴人Y1の訴訟代理人を務めることは,弁護士職務基本規程27条5号の類推適用により違法であり,被控訴人Y1がT弁護士に本件訴訟における訴訟行為を行うことを委任し,T弁護士がこれを受任したことは,控訴人に対する共同不法行為に該当し,これによって精神的苦痛を被ったとして,不法行為に基づく損害賠償として,慰謝料20万円,弁護士費用相当額2万円の合計22万円及びこれに対する平成28年7月22日(本件訴訟の原審における第1回口頭弁論期日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める(以下「請求③」という。)とともに,
   控訴人が,被控訴人国に対し,①被控訴人Y1が控訴人から暴行を受けたとされる刑事事件の控訴審において,大阪高等裁判所の裁判官は,控訴人の弁護人が,被控訴人Y1による虚偽告訴を立証するために行った証拠調べの請求を全て却下したにもかかわらず,虚偽告訴がされたことをうかがわせる証拠はないと判断して,控訴人の控訴を棄却する旨の判決をしたこと(以下「第1行為」という。),②被控訴人Y1が申し立てた破産事件において,神戸地方裁判所の裁判官は,控訴人が被控訴人Y1の破産債権者であることを職務上熟知していたにもかかわらず,被控訴人Y1の破産手続開始の決定をするに際し,故意に控訴人を破産債権者として取り扱わず,また,被控訴人Y1が代表取締役を務め,被控訴人Y1に先行して破産手続開始の決定を受けていたA株式会社(以下「A」という。)の債権者集会期日とは異なる日を,被控訴人Y1の第1回債権者集会期日に指定したこと(以下「第2行為」という。),③被控訴人Y1の破産申立てに際して提出された報告書には,Aが破産するに至った経緯についての記載がなかったところ,被控訴人Y1の破産管財人作成に係る業務要点報告書には,破産手続開始に至った経緯について「申立書記載のとおり」としか記載されていなかったにもかかわらず,神戸地方裁判所の裁判官は,破産管財人に対し,上記報告書の是正を命じなかったこと(以下「第3行為」という。),④控訴人は,被控訴人Y1の破産手続において,免責不許可事由がある旨主張していたにもかかわらず,破産管財人は,免責に関する意見書において具体的な理由を記載しないまま免責不許可事由はないとのみ記載した上,免責不許可事由に関する調査結果を裁判所に提出していなかったところ,神戸地方裁判所の裁判官は,破産管財人による上記調査の懈怠について何らの是正を命じなかったこと(以下「第4行為」という。),⑤大阪高等裁判所の裁判官は,控訴人の申立てに係る被控訴人Y1及びAの破産管財人の各報酬決定に対する抗告事件において,被控訴人Y1の破産管財人による具体的な理由の記載が一切ない「免責に関する意見書」のみに基づいて,破産管財人が必要な調査をしていることが明らかであると判示し,また,Aの破産管財人が税務申告を行った形跡がないにもかかわらず,破産管財人には税務申告を怠るなどの事情は認められない旨判示し,さらに,控訴人の申立てに係る記録の謄写申請に対し,同裁判所の裁判所書記官がした拒絶処分に対する異議事件(2件)において,謄写申請対象部分の特定がされていないとの理由で,上記各異議申立てをいずれも却下したこと(以下「第5行為」という。),⑥神戸地方裁判所の裁判官は,控訴人が破産債権者として述べた被控訴人Y1の免責についての意見を完全に無視して,免責不許可事由に該当する事実は認められないとして,免責許可決定をしたこと(以下「第6行為」という。),⑦大阪高等裁判所の裁判官は,控訴人が申し立てた被控訴人Y1についての免責許可決定に対する抗告事件において,被控訴人Y1に免責不許可事由が存在することは明らかであったにもかかわらず,控訴人が述べた被控訴人Y1の免責に係る意見を完全に無視した破産管財人や,神戸地方裁判所の裁判官の違法な職務執行を全く是正せず,著しく経験則に反する事実認定をして,控訴人の抗告申立てを棄却する旨の決定をしたこと(以下「第7行為」という。)が,いずれも違法な行為であって,控訴人に精神的苦痛を与えたとして,国家賠償法(以下「国賠法」という。)1条1項に基づく損害賠償として,慰謝料100万円,弁護士費用相当額10万円の合計110万円及びこれに対する平成28年1月20日(被控訴人Y1の免責不許可決定が確定した日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。


第5 国家賠償請求事件における国の勝訴状況
1 首相官邸HPの「国家賠償訴訟の実情」によれば,平成7年から平成11年までの間の国家賠償訴訟の結果につき,国側が全部勝訴した事件の割合は約90%とのことです。
2 平成20年10月10日付の内閣答弁書には以下の記載があります。
   過去十年間において国家公務員の違法行為を理由として国家賠償法第一条第一項に基づき提訴され、国の敗訴(一部敗訴を含む。)が確定した訴訟の全件数及びその賠償額の合計等については、調査に膨大な作業を要するため、お答えすることは困難であるが、法務省において、平成十九年一月から平成二十年六月までの間について取り急ぎ調べたところ、現時点で確認できる範囲では、平成十九年に確定した右件数は十八件、認容された賠償額の元本の合計額は一億三千六百六万七千五百十八円であり、平成二十年一月から六月までの間に確定した右件数は十一件、認容された賠償額の元本の合計額は千五百六十一万五千九百三十三円であった。

第6 最高裁判所への報告事務に関する通達(裁判所関係国家賠償事件以外に関するもの)
・ 裁判事務に関連して,最高裁判所へ報告を要する事項及び外部機関へ通知等を要する事項のうち,規則,通達等に根拠があるものを記載した一覧表(平成31年4月時点)
・ 最高裁判所への報告及び外部機関への通知等に関する事務フローの確認について(平成27年12月22日付の最高裁判所総務局第三課長の事務連絡)
・ 民事訴訟事件及び行政訴訟事件の鑑定等の報告について(平成20年3月28日付の最高裁判所民事局長及び行政局長の通達)
・ 平成26年10月22日付の最高裁判所民事局第一課長等の事務連絡(原発損害賠償訴訟の報告依頼)
・ 非公表情報の裁判所外への提供及び電子メールの利用に係る特例について(平成27年7月31日付の最高裁判所情報政策課長通達)

第7 関連記事その他
1 予防司法支援制度
(1) 内閣官房HPに「国の利害に関係のある争訟等への対応に関する関係府省庁連絡会議」の議事次第及び配布資料が載っています。
   主として予防司法支援制度に関する説明が載っています。
(2) 行政機関のための予防司法支援制度利用の手引(平成29年3月付)を掲載しています。
2 公務員の法解釈の誤りが直ちに過失につながるわけではないこと
・ 最高裁平成16年1月15日判決は,以下のとおり判示しています。
   ある事項に関する法律解釈につき異なる見解が対立し,実務上の取扱いも分かれていて,そのいずれについても相当の根拠が認められる場合に,公務員がその一方の見解を正当と解しこれに立脚して公務を遂行したときは,後にその執行が違法と判断されたからといって,直ちに上記公務員に過失があったものとすることは相当ではない(最高裁昭和42年(オ)第692号同46年6月24日第一小法廷判決・民集25巻4号574頁最高裁昭和63年(行ツ)第41号平成3年7月9日第三小法廷判決・民集45巻6号1049頁等参照)。
3 外部資料の記載
(1) 弁護士法人金岡法律事務所HPの弁護士コラム「裁判所相手の国賠、全滅」(2019年12月24日付)には以下の記載があります。
   刑事施設相手の国賠なら(金額の多寡はあれど)相当割合で違法過失が認定される自身の実績を思うと、被害者から見て同じ類の職務妨害に対し裁判所には全滅の憂き目に遭うことは、やはり、加害者の守られ方が半端ではないことに原因があると考えざるを得ない。
   判例法理とされる「当該裁判官が違法又は不当な目的をもって裁判をしたなど、裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認めうるような特別の事情」を要求されては、かなりおかしな裁判官でも「そういう目的ではない」と言い抜けられる上に、事実がどうあれ立証は至難を極める。
   事実、どの事件であっても被告は基本、当該職務行為が何らかの法規範に反しているかという観点では殆ど応戦せず、「当該裁判官の違法又は不当な目的」を否定することに終始し、法規範違反について主張を戦わせようにも、裁判所も又、そこに逃げ込む。
   ついでに、多くの国賠事件が合議になるのに対し、裁判官相手の国賠は単独事件のままそそくさと進められ、上記「目的」立証のために張本人の裁判官の人証申請をしても却下される。
(2) 31期の瀬木比呂志裁判官が著した絶望の裁判所には以下の記載があります。
(90頁の記載)
   裁判長たちについても、前記のとおり、事務総局が望ましいと考える方向と異なった判決や論文を書いた者など事務総局の気に入らない者については、所長になる時期を何年も遅らせ、後輩の後に赴任させることによって屈辱を噛み締めさせ、あるいは所長にすらしないといった形で、いたぶり、かつ、見せしめにすることが可能である。さらに、地家裁の所長たちについてさえ、当局の気に入らない者については、本来なら次には東京高裁の裁判長になるのが当然である人を何年も地方の高裁の裁判長にとどめおくといった形でやはりいたぶり人事ができる。これは、本人にとってはかなりのダメージになる。プライドも傷付くし、単身赴任も長くなるからである。
(91頁の記載)
   事務総局は、裁判官が犯した、事務総局からみての「間違い」であるような裁判、研究、公私にわたる行動については詳細に記録していて、決して忘れない。たとえば、その「間違い」から長い時間が経った後に、地方の所長になっている裁判官に対して、「あなたはもう絶対に関東には戻しません。定年まで地方を回っていなさい。でも、公証人にならしてあげますよ」と引導を渡すなどといった形で、いつか必ず報復する。このように、事務総局は、気に入らない者については、かなりヒエラルキーの階段を上ってからでも、簡単に切り捨てることができる。なお、右の例は、単なるたとえではなく、実際にあった一つのケースである。窮鼠が猫を噛まないように、後のポストがちゃんと用意されているところに注目していただきたい。実に用意周到なのである。
(3) 現代ビジネスHPの「転勤を断ると出世できない…裁判官の世界はまるでサラリーマンのよう」には以下の記載があります。
   いわば、通り一遍の「評価書」を基本資料として、高裁長官案が作成され、最高裁事務総局人事局の任用課長が調整し、最高裁事務総長が承認する。それがそのまま最高裁長官案となり、裁判官の全国異動が始まるわけである。
   ただ、事務総長がチェックする最終段階で、人事案から外される裁判官もいる。
   「ある事務総長が、この裁判官は、事務総局には入れない。地方の裁判所に出せといって、高裁長官案を変更させたことがあります。
   かつて、その裁判官が、事務総局のトップに意見を言って、反感を買ったことがあった。その際、事務総局のトップは、俺の目の黒いうちは、こいつにはいい目をさせない、と言ったといいます。実に、その言葉通り、人事で冷遇したというわけです」(元裁判官)

4 国家賠償法1条2項に基づく求償権行使事例
・ 参議院議員近藤正道君提出国家賠償法第一条第二項に基づく求償権行使事例に関する質問に対する答弁書(平成20年10月10日付)には以下の記載があります。
① 過去十年間において国家公務員の違法行為を理由として国家賠償法(昭和二十二年法律第百二十五号)第一条第一項に基づき損害賠償請求訴訟が提起され、国に訴状が送達された訴訟の全件数については、調査に膨大な作業を要するため、お答えすることは困難であるが、法務省において、平成十九年一月から平成二十年六月までの間について取り急ぎ調べたところ、現時点で確認できる範囲では、平成十九年は七百五十件、平成二十年一月から六月までの間は六百件である。
② 過去十年間において国家公務員の違法行為を理由として国家賠償法第一条第一項に基づき提訴され、国の敗訴(一部敗訴を含む。)が確定した訴訟の全件数及びその賠償額の合計等については、調査に膨大な作業を要するため、お答えすることは困難であるが、法務省において、平成十九年一月から平成二十年六月までの間について取り急ぎ調べたところ、現時点で確認できる範囲では、平成十九年に確定した右件数は十八件、認容された賠償額の元本の合計額は一億三千六百六万七千五百十八円であり、平成二十年一月から六月までの間に確定した右件数は十一件、認容された賠償額の元本の合計額は千五百六十一万五千九百三十三円であった。
5 関連資料

・ 法務省訟務局事務分掌規程(平成27年4月10日時点)
・ 法務局及び地方法務局訟務処理規則(平成6年12月5日付の法務省訟務局長通達)
・ 争訟事務に関する起案文例集〔訟務局用〕(第9版)の一部改正について(平成29年2月28日付の,法務省訟務局訟務企画課訟務調査室長の文書)
・ 争訟事務に関する起案文例集〔法務局・地方法務局用〕(第9版)の一部改正等について(平成29年2月28日付の,法務省訟務局訟務企画課訟務調査室長の事務連絡)
6 関連記事
・ 偶発債務集計表(平成20年度以降)
・ 裁判所法第82条に基づき裁判所の事務の取扱方法に対して最高裁判所に申し出がなされた不服の処理状況
・ 裁判官の職務に対する苦情申告方法
・ 歴代の法務省訟務局長

弁護士任官者研究会の資料

目次
第1 総論
1 平成21年度以降の研究会の資料
2 弁護士任官者に要求される弁護士経験の年数等
第2 弁護士任官者に関係する資料
1 人事評価
2 人事事務の資料の作成
3 倫理の保持
4 非常勤裁判官及び調停委員
5 その他
第3 関係記事
1 採用前の話
2 採用後の研修資料
3 裁判官及び裁判所職員の名簿
4 その他採用後に関する記事
5 かつての話
6 その他

第1 総論
1 平成21年度以降の研究会の資料
(1)ア 弁護士任官者研究会の資料を以下のとおり掲載しています。
(令和時代)
令和2年度1/22/2
(平成時代)
平成21年度平成22年度平成23年度平成24年度平成25年度
平成26年度1/22/2平成27年度平成28年度平成29年度平成30年度
平成31年度
イ 平成30年度分については,研究会の配付資料が含まれています。
ウ 平成31年度及び令和2年度研究会では,40分をかけて,「DVD視聴と意見交換 「職場におけるセクシュアル・ハラスメントの防止について」」が実施されました。


(2)ア 弁護士任官者研究会は,弁護士任官をした直後の裁判官を対象に実施されています。
イ 平成28年度までは「弁護士任官者実務研究会」という名称でした。
(3) 平成25年9月に司法研修所別館が新築されました(「司法研修所別館の研修東棟及びなごみ寮」参照)から,平成26年度以降の弁護士任官者研究会は司法研修所別館で実施されていますし,なごみ寮に宿泊するようになっています。
2 弁護士任官者に要求される弁護士経験の年数等
(2)ア 弁護士任官は,弁護士経験10年以上の判事任官が望ましいとされているものの,弁護士経験3年以上の判事補任官も認められています(弁護士任官等に関する協議の取りまとめ(平成13年12月7日付)別紙1「任官推薦基準及び推薦手続」参照)。
イ 近年では,弁護士経験5年以上10年未満で判事補任官をした場合,高裁判事の職務を代行する特例判事補になっています。

司法研修所別館の案内図(左上が裁判所職員総合研修所の宿泊棟であり,左下が司法研修所別館のなごみ寮です。)

第2 弁護士任官者に関係する資料
1 人事評価
・ 裁判官の人事評価に関する規則(平成16年1月7日最高裁判所規則第1号)
・ 裁判官の人事評価に関する規則の運用について(平成16年1月7日付の最高裁判所事務総長の依命通達)
・ 裁判官の人事評価の実施等について(平成16年3月26日付の最高裁判所事務総局人事局長の通達)
・ 裁判官の人事評価に係る評価書の保管等について(平成16年3月26日付の最高裁判所人事局長通達)
2 人事事務の資料の作成

・ 裁判官に関する人事事務の資料の作成等について(平成16年5月31日付けの最高裁判所事務総局人事局長の通達)
・ 裁判官第一カード等の記載要領について(平成29年2月16日付けの最高裁判所事務総局人事局任用課長の事務連絡)
→ 裁判官第一カード,裁判官第二カード及び裁判官第三カードの記載要領について書いてあります。
3 倫理の保持
 下級裁判所の裁判官の倫理の保持に関する申合せ(平成12年6月15日付の高等裁判所長官申合せ)
・ インターネットを利用する際の服務規律の遵守について(平成24年2月24日付の最高裁判所事務総局人事局能率課の文書)
 インターネットを利用する際の服務規律の遵守について(平成25年7月19日付の最高裁判所事務総局人事局能率課の文書)
4 非常勤裁判官及び調停委員
・ 民事調停官及び家事調停官の任免等について(平成15年12月3日付の最高裁判所事務総長の通達)
・ 民事調停委員及び家事調停委員の任免等について(平成16年7月22日付の最高裁判所事務総長通達)
・ 民事調停委員及び家事調停委員の任免手続等について(平成16年7月22日付の最高裁判所人事局長通達)
・ 民事調停委員の再任等について(平成30年1月24日付の最高裁判所民事局長の事務連絡)

5 その他

・ 弁護士任官に関する説明会(平成30年9月7日開催分)
・ 裁判所職員の赴任期間について(平成4年4月28日付の最高裁判所事務総長の依命通達)
・ 裁判官及び裁判官の秘書官の年次休暇等に関する規程(昭和60年12月18日最高裁判所規程第5号)
 下級裁判所の裁判官の休暇等の取扱要綱(昭和52年1月13日付の高等裁判所長官申合せ)
・ 裁判官の再任等に関する事務について(平成16年6月17日付の最高裁判所人事局長通達)

裁判官・検察官の給与月額表(令和2年1月1日現在)

第3 関係記事
1 採用前の話
・ 成績通知申出制度に基づく,司法修習生の成績開示
・ 実務修習,集合修習及び二回試験の成績分布(51期以降)
・ 弁護士任官希望者に関する情報収集の実情
・ 弁護士任官候補者に関する下級裁判所裁判官指名諮問委員会の答申状況
→ 平成16年4月期以降の弁護士任官について記載しています。
2 採用後の研修資料
・ 新任判事補研修の資料
→ 弁護士任官者研究会の配布資料より,新任判事補研修の配布資料の方が多いです。
 判事補基礎研究会の資料
・ 判事任官者研究会の資料
・ 裁判所職員の旧姓使用
・ 裁判官の年収及び退職手当(推定計算)
・ 裁判官の号別在職状況
・ 裁判官の昇給
・ 裁判官の兼職
3 裁判官及び裁判所職員の名簿
・ 幹部裁判官の定年予定日
・ 最高裁判所の職員配置図(平成25年度以降)
・ 最高裁判所が作成している,最高裁判所判事・事務総局局長・課長等名簿
・ 最高裁判所が作成している,高裁長官・地家裁所長等名簿
・ 司法研修所の教官組別表,教官担当表及び教官名簿
・ 部の事務を総括する裁判官の名簿(昭和37年度以降)
・ 最高裁判所が作成している,下級裁判所幹部職員名簿
・ 最高裁判所が作成している,首席家裁調査官等名簿
・ 裁判所の指定職職員の名簿(一般職)
4 その他採用後に関する記事
・ 裁判官第一カード,裁判官第二カード及び裁判官第三カード
・ 毎年4月1日付の人事異動等に関する最高裁判所裁判官会議
・ 裁判官人事の辞令書
・ 転勤した際,裁判所共済組合に提出する書類等
・ 新様式判決
・ 特例判事補
・ 職務代行裁判官
・ 最高裁判所調査官
・ 裁判官人事評価情報の提供
・ 裁判官再任評価情報の提供
・ 下級裁判所裁判官指名諮問委員会で再任不適当とされた裁判官の数の推移
・ 平成20年度以降,任期終了により退官した裁判官の一覧
・ 裁判官及び検察官の定年が定められた経緯(日本国憲法の制定経緯を含む。)
・ 裁判官の定年が70歳又は65歳とされた根拠
・ 最高裁判所事務総局の組織に関する法令・通達
・ 裁判所の指定職職員
・ 裁判所における一般職の職員
 指定職未満の裁判所一般職の級
 首席書記官の職務
 首席家庭裁判所調査官の職務
・ 書記官事務等の査察
・ 裁判所調査官
・ 非常勤裁判官(民事調停官及び家事調停官)の名簿
→ 非常勤裁判官制度は,「いわゆる非常勤裁判官制度について(弁護士任官等に関する協議の取りまとめ)」(平成14年8月23日付)を受けて開始した制度です。
・ 調停委員
・ 民事調停委員及び家事調停委員に対する表彰制度
・ 弁護士再登録時の費用
5 かつての話
・ 平成11年11月までの弁護士任官の状況
・ 平成13年2月当時の,弁護士任官に対する最高裁判所の考え方
・ 弁護士任官等に関する協議の取りまとめ(平成13年12月7日付)
6 その他
・ 弁護士任官に対する賛成論及び反対論
・ 法曹一元
・ 判事補の採用に関する国会答弁
・ 修習終了後3年未満の判事補への任官
・ 下級裁判所裁判官指名諮問委員会委員名簿

判事補基礎研究会の資料

目次
1 判事補基礎研究会の資料
2 関連記事

1 判事補基礎研究会の資料
(1) 判事補基礎研究会の資料を以下のとおり掲載しています。
(令和時代)
令和元年度
(平成時代)
平成26年度平成27年度平成28年度
平成29年度平成30年度
(2) 判事補基礎研究会は,任官3年目の判事補を対象に実施されており,令和元年度の場合,69期判事補が対象でした。


司法研修所別館の案内図(左上が裁判所職員総合研修所の宿泊棟であり,左下が司法研修所別館のなごみ寮です。)

2 関連記事
・ 裁判官研修実施計画
・ 裁判官の合同研修に関する説明文書
・ 裁判所職員総合研修所の研修実施計画等
・ 新任判事補研修の資料
・ 判事任官者研究会の資料
・ 弁護士任官者研究会の資料
・ 判事補及び検事の弁護士職務経験制度
・ 裁判官の民間企業長期研修等の名簿

判事任官者研究会の資料

目次
1 判事任官者研究会の資料
2 関連記事

1 判事任官者研究会の資料
(1) 判事任官者研究会の資料を以下のとおり掲載しています。
平成26年度平成27年度平成28年度
平成29年度平成30年度
(2) 判事任官者研究会は,新任判事(11年目の裁判官)を対象に実施されており,平成30年度の場合,61期の裁判官が対象でした。
(3) 平成28年度までは「判事任官者実務研究会」という名称でした。


司法研修所別館の案内図(左上が裁判所職員総合研修所の宿泊棟であり,左下が司法研修所別館のなごみ寮です。)

2 関連記事
・ 裁判官研修実施計画
 裁判官の合同研修に関する説明文書
・ 裁判所職員総合研修所の研修実施計画等
 新任判事補研修の資料
・ 判事補基礎研究会の資料
・ 弁護士任官者研究会の資料
・ 判事補及び検事の弁護士職務経験制度
 裁判官の民間企業長期研修等の名簿

報道されずに幕引きされた高松高裁長官(昭和42年4月28日依願退官,昭和46年9月5日勲二等旭日重光章)の,暴力金融業者からの金品受領

目次
1 事件の内容
2 裁判官弾劾法の条文等
3 引用元の文献の記載
4 死後叙勲を受けたこと
5 関係記事

1 事件の内容
(1) 汚れた法衣-ドキュメント司法記者(昭和59年4月25日初版)88頁ないし110頁には,「暴力金融業者と交友・収賄した高裁長官」というタイトルで,暴力金融業者Sからの金品受領(民事・刑事の法律相談,及び刑事事件への介入等の謝礼として,高級腕時計,朝鮮人形,高級ブランデー及び現金40万円を受領したこと。)を問題視されて,昭和42年4月28日(金)に依願退官したX高松高裁長官のことが詳しく書いてあります。
   これによれば,大阪地検特捜部は,昭和41年5月末頃からの捜査の結果として,高裁長官としての職務権限との関係であっせん収賄罪で立件することは難しいものの,検事総長に報告した上で最高裁判所長官の訴追請求により弾劾裁判にかけるべきであると判断したり,読売新聞が報道しようとしたりしたものの,4月27日,関根小郷 大阪高裁長官が読売新聞社の最高幹部に電話をして報道を待ってほしいと頼み,万歳規矩楼 前大阪高裁長官(昭和42年3月20日限り定年退官)が読売新聞社を訪問してX高松高裁長官の退職が明日発令されるから報道を待ってほしいと頼み,その翌日にX高松高裁長官が依願退官したため,同人の金品受領は報道されませんでした。
イ 大阪地検特捜部の捜査が開始した当時,X裁判官は神戸地裁所長をしていましたが,昭和41年7月22日,高松高裁長官に任命されました。
(2) 汚れた法衣-ドキュメント司法記者99頁ないし101頁には,大阪地検特捜部の捜査結果を引用する形で,X高松高裁長官の金品受領の具体的内容が書いてあります。

汚れた法衣-ドキュメント司法記者の表紙です。

2 裁判官弾劾法の条文等
(1)ア 昭和42年4月当時の条文である,裁判官弾劾法の一部を改正する法律(昭和23年7月5日法律第93号)による改正後の裁判官弾劾法15条は以下のとおりです。
① 何人も、裁判官について弾劾による罷免の事由があると思料するときは、訴追委員会に対し、罷免の訴追をすべきことを求めることができる。
② 高等裁判所長官及び地方裁判所長は、その勤務する裁判所及びその管轄区域内の下級裁判所の裁判官について弾劾による罷免の事由があると思料するときは、最高裁判所長官に対し、その事由を通知しなければならない。
③ 最高裁判所長官は、裁判官について、前項の通知があつたとき又は弾劾による罷免の事由があると思料するときは、訴追委員会に対し罷免の訴追をすべきことを求めなければならない。
④ 第一項及び前項の規定による訴追の請求をするには、その事由の簡単な説明を添えなければならない。但し、その証拠は、これを要しない。
イ 現在の裁判官弾劾法15条3項では,訴追請求を行うのは最高裁判所です。
(2) 高裁長官について裁判官弾劾法2条所定の弾劾事由まではないものの,裁判所法49条所定の分限事由がある場合,当該高裁の申立て(裁判官分限法6条)により,最高裁大法廷(裁判官分限法4条)が第一審かつ終審として分限裁判を行うこととなります(裁判官分限法3条2項1号)。

3 引用元の文献の記載
   汚れた法衣-ドキュメント司法記者には以下の記載があります(引用元にはS及びXの実名が書いてあります。また,文中の「シャッポ」はフランス語で「帽子」のことです。)。
(88頁の記載)
   私(山中注:読売新聞の記者をしていた,「汚れた法衣」の著者のこと。以下同じ。)は現役の記者時代に幾度か新聞が裁判所に頼まれて報道を取りやめ、汚職、非行を働いた”大魚”が辞職により法網を切って追及をのがれ、弾劾にかけられるのは”雑魚”ばかりなのを実際に体験した。そこでその度に、確証があっても活字にできない自分の非力に、歯ぎしりをする思いだった。
(95頁の記載)
 特捜部(山中注:大阪地検特捜部)は四十二年四月(山中注:昭和42年4月)初めまでに暴力金融関係で五一人を調べ、前掲の罪名(山中注:恐喝及び窃盗)などで一〇名を起訴し、司法書士ら五人を起訴猶予、顧問弁護士一人を不起訴とした。Sは四月末に一二〇〇万円を積んで保釈されたが、起訴状によると高利で運転資金などを貸し付け、返済が遅れると暴力団を背景に、あるいはX判事を”義理のおやじ”などと言って相手を脅して取り立て、会社を乗っ取ったケースもあった。こうした起訴事実が、X判事が神戸の所長時代に行われたことに注目したい。
 ある裁判官(現在高裁裁判長)の両親で、Sに事業資金を借り、暴力取立ての被害に逢った夫婦の証言がある。四十年の末に、この夫婦がSの事務所へ借金の返済に行ったところ、Sが歳暮の山を指し、得意になって、
「こうして歳暮を捜査員に届ける。神戸地裁のX所長は特別な関係で顧問みないなもんや。電話一本で何でも教えてくれる。X判事さんは最高級のウイスキーや」
と言ったという。
 その時は夫婦も信じなかったが,Sの取り立て方に堪りかねた挙句、まもなく神戸地裁をたずね、所長室のドアを叩いて窮状を訴え、救済を求めた。するとX判事は「私とSの付き合いをどうして・・・」と警戒したが、説明を聞くと夫妻の目の前でSに電話し「私の親しい裁判官のご両親だ。借金を返し、利息も余分に取られたのに、まだ追い回されると嘆いておられる。この人には、きつい取り立ては止めなさい」と伝え、「安心なさい。Sは大阪の裁判所で実刑になるところを、私が弁護士を紹介して執行猶予にしてやったものです。これからお困りの時は、私の名前を言ってその弁護士に相談しなさい」と親切に教えて夫妻を帰した。
 自宅などへ押しかけていたS側の取立屋は姿を消し、鳴り続けた電話は静まり、Sの態度も和らいだが、それまでに受けた大損害はそのまま残ったという。
(99頁の記載)
 四月(山中注:昭和42年4月)になるとまもなく”X長官が大変な剣幕だ”と伝わってきた。私を名指しして「あいつは必ずクビにしてやる。あの新聞社(山中注:読売新聞社)も俺のことを書くなら、必ず潰してやる」と息巻いているという。「俺をやるならやって見ろ。やれなかったらどうする」など、検察への挑発的な言動もひどいと聞いた。
 平たく言えば、裁判官が独立して職権を行うのは裁判の公正を守るためで、職権の範囲は裁判所の事務分配ルールなどによって客観的に決められている。所長、長官が行なう司法行政は裁判官会議の運営によるから、高裁長官と言っても権力の構造から見ればいわば”高裁のシャッポ”ではないか。「床の間の柱」と言った人もいる。
 そのシャッポが思うままに個人や新聞社に危害を加えると公言し、正当な職務を遂行する検察を罵るとは、一体どういうことか。しかも「俺は必ず近く大阪の長官として帰る。帰ればあの連中をこのままでは済まさない」と豪語しているとも言う。裁判官歴四〇年のベテランが、十分に承知しているはずの数々のルールを乗り越えた”法外”の状態を放置できるものではない。
(101頁の記載)
   三十六年(山中注:昭和36年)末に、Sは六〇〇万円貸している男(前科一一犯、四十年十月死亡)に「前から大変親しくしている判事を紹介しようといわれ、その案内で大阪高裁の判事室へ行き、X判事に会った。その日の夕方、Sは一人で吹田市のX判事の自宅をたずね、大いに意気投合した。交際はそれからで、この点は後にX判事の述懐で確認された。だが、Sを紹介した男をX判事がいつどうして知り、なぜ親交を重ねたかは分からない。また当時、神戸の所長官舎には、大阪などから裁判官が集まり、時には”裁判官会議”を開いたようで、検察陣は部内に強い影響力を持つX判事の意外なボスぶりに驚き、いろんな角度からその”実力”を調査した。その中にはX判事に世話になった弁護士が大阪からタクシーでお礼に虎の皮を届けに行ったが、「ここには前から虎の皮がある。それは吹田の自宅へ放り込んでもらえまいか。」と言われて、いま来た道を通って吹田の松本判事宅へ運んだ、などと言う話もあった。
(104頁の記載)
 高松には初めからこの事件にタッチして来たQ記者を派遣した。彼が高松高裁を訪ねるとX長官は週日ゴルフで留守。やがて帰ったX判事の日焼けして元気そうな表情には、反省の色もない。Qは予定通りに、言うことだけ聞くと引き揚げて来た。
(109頁の記載)
 大阪地検はまもなくXを「刑事責任なし」で不問とし、訴追を求めるための「報告書」も出さずじまいにしたようだ。しかし、法曹の一部には「もっと踏み込んで調べて、処分の公正を期すべきだった」とする有力な意見があった。
(176頁の記載)
 裁判官という職務柄、手厚い身分保障と、慎重な制裁制度が必要なことは分かる。だが、国民が予想もしないような”不埒な裁判官”がいれば、法律で定められた通りの制裁を加えるべきだ。裁判所が制裁のルールを無視してかばい立てたのは、国民の信頼に対する”裏切り”ではないか。「本官を免ずる」と発令されてしまえば、裁判官はタダの人で、もう弾劾や分限では責任が問えなくなる。
(177頁の記載)
 X長官の辞任の際には、閣議で辞任の理由を聞いた佐藤栄作首相が、非行内容と裁判所の態度に激怒したと伝えられる。
(237頁及び238頁の記載)

 この原稿は雑誌『月刊サーチ』五十八年7月号から”闇に葬られた司法界のスキャンダル”として連載されるに至り、始めて日の目を見た。大きな反響はあったが、関係者からの苦情はなかった。そして今年四月号で連載が完結するとともに、同社と現代評論社のご好意によって、これを刊行することになった。

4 死後叙勲を受けたこと
(1) X高松高裁長官は,弁護士登録をしないまま昭和46年9月5日に胃がんで死亡し,同日付で勲二等旭日重光章を授けられました。
(2) 汚れた法衣-ドキュメント司法記者110頁には以下の記載がありました。
 彼(山中注:X元高松高裁長官)を無事”辞職”に導いた万歳元長官が葬儀委員長を務めた。普通の叙勲手続きによってこの日付けでX元長官は従三位勲二等に叙せられ、旭日重光章を授けられた。故人を誹謗するのは慎みたいが、このとき、国の栄典制度とは一体なんだろうかと思った。ただ生前のポスト、経歴、勤続年数などを「規準」に当てはめ、最後に勤めた役所が自動的に叙勲を申請するだけでよいのか。”減点”はどうする。そうした配慮を欠く扱いは公正な栄転の授与を台なしにする。「実体的真実の追求」が生命の裁判所なら、弾力的な方法を考えて、こんな場合には妥当な規準によるべきだろう。法曹の間でもこの”栄誉”には驚いた人が多いのだ。

5 関係記事
・ 昭和27年4月発覚の刑事裁判官の収賄事件(弾劾裁判は実施されず,在宅事件として執行猶予付きの判決が下り,元裁判官は執行猶予期間満了直後に弁護士登録をした。)
・ 性犯罪を犯した裁判官の一覧
・ 裁判所関係者及び弁護士に対する叙勲の相場
・ 勲章受章者名簿(裁判官,簡裁判事,一般職,弁護士及び調停委員)

最高裁判所事務総局人事局の任用課長及び参事官

目次
1 総論
2 最高裁判所事務総局人事局任用課にある係の事務分掌
3 裁判官人事に関する例規及び関連記事
4 最高裁判所事務総局人事局任用課長に関する外部資料の記載
5 歴代の最高裁判所事務総局人事局任用課長(新しい順)
6 最高裁判所事務総局人事局任用課長を経験した現職裁判官のその後
7 最高裁判所事務総局人事局任用課長を経験した元裁判官のその後
8 最高裁判所事務総局人事局参事官
9 最高裁判所事務総局人事局任用課にある係の事務分掌(平成28年3月31日以前のもの)

1 総論
(1) 最高裁判所事務総局人事局任用課長は現在,裁判官人事に特化したポストです。
(2) 最高裁判所事務総局人事局任用課長は最高裁判所事務総局の局の課長であって(最高裁判所事務総局規則5条1項),秘書課長,広報課長及び情報政策課長という最高裁判所事務総局の課長(最高裁判所事務総局規則4条1項)とは異なります。
(3) 最高裁判所事務総局人事局任用課長は本来,裁判所事務官である(最高裁判所事務総局規則5条1項)ものの,司法行政上の職務に関する規則(昭和25年1月17日最高裁判所規則第3号)1項に基づき,常に判事をもって充てられています。

2 最高裁判所事務総局人事局任用課にある係の事務分掌
(1) 平成28年3月2日最高裁判所規程第2号に基づき,平成28年4月1日に人事局総務課が新設された結果,人事局任用課は裁判官人事に特化した部署となりました(最高裁判所事務総局分課規程11条参照)。
(2) 平成28年4月1日に新設された人事局総務課は,廃止された人事局給与課の業務のほか,人事局任用課の業務のうち,一般職に関する業務を引き継いでいます。
(3) 平成31年4月1日現在,最高裁判所事務総局人事局任用課にある係の事務分掌は以下のとおりです(「最高裁判所事務総局人事局の事務分掌(平成31年4月1日現在)」参照)。
ア 企画係
① 裁判官の指名,補職等の制度に関する事項
② 裁判官の人事評価に関する事項
③ 裁判官の法科大学院への派遣に関する事項
イ 実施係
① 裁判官の任免,補職等の立案,発令等に関する事項
② 裁判官の報酬の決定に関する事項
③ 裁判官の履歴書等に関する事項
④ 裁判官の服務に関する事項
⑤ 民事調停官,家事調停官,倫理監督官,再就職等監察官及びその他の最高裁判所に設置された各種委員会等の委員等の任免等に関する事項(分限及び懲戒に関する事項を除く。)
ウ 試験係
① 司法修習生の採用,罷免,考試等に関する事項
② 司法修習委員会の庶務に関する事項
③ 裁判所法(昭和22年法律第59号)第45条第1項の選考に関する事項

最高裁判所事務総局人事局の職員配置図(令和2年4月1日現在)

3 裁判官人事に関する例規及び関連記事
(1) 裁判官人事に関する例規は以下のとおりです。
・ 下級裁判所事務処理規則の運用について(平成6年7月22日付の最高裁判所事務総長依命通達)
・ 部の事務を総括する裁判官の指名上申について(平成6年12月9日付の最高裁判所人事局長通達)
・ 裁判官の人事評価に関する規則(平成16年1月7日最高裁判所規則第1号)
・ 裁判官の人事評価に関する規則の運用について(平成16年3月26日付の最高裁判所事務総長の依命通達)
・ 裁判官の人事評価の実施等について(平成16年3月26日付の最高裁判所人事局長通達)
・ 裁判官に関する人事事務の資料の作成等について(平成16年5月31日付の最高裁判所人事局長の依命通達)
・ 裁判官の再任等に関する事務について(平成16年6月17日付の最高裁判所人事局長通達)

(2) 裁判官人事に関する関連記事は以下のとおりです。
・ 最高裁判所裁判官会議
・ 最高裁判所裁判官会議の議事録
・ 毎年4月1日付の人事異動等に関する最高裁判所裁判官会議
・ 裁判官人事の辞令書
・ 転勤した際,裁判所共済組合に提出する書類等

4 最高裁判所事務総局人事局任用課長に関する外部資料の記載
(1) 14期の安倍晴彦裁判官が著した「犬になれなかった裁判官―司法官僚統制に抗して36年 」(平成13年5月1日出版)220頁及び221頁には以下の記載があります。
   所長を経験した、ある裁判官に聞いたところによると、昇給のシステムは、次のようになっているようである。
   まず、地・家裁所長が、それまでの号俸において一定年限がたった管内の裁判官に順番をつけて、昇給候補者のリストを作成する。次に高裁長官が管内の地・家裁から上がってきたリストを総合して順番をつけて最高裁に提出する。それを最高裁が全国分を総合して順番をつけ、順次昇給させる、ということである。
   普通、高裁までは極端な差別をつけることはなく、極端に問題になる差別処遇は、最高裁の段階でなされるのだそうである。場合によっては、現場の意見も無視することもある、最高裁の人事政策なので、言ってみれば、「高度の政治的判断」である。そう思わざるを得ない例が、いくつもある。宮本再任拒否についても理由を一切いわない最高裁のこと、そのような状態で、完全に「ほしいままに」給与の差別がなされてきたのである。
(2) 司法権力の内幕(平成25年12月10日出版。著者は42期の森炎 元裁判官)には以下の記載があります。
・ 42頁の記載
    裁判所で、厳密な意味でラインと言えるのは、一つだけである。
    それは、「最高裁事務総局(官房局)付-最高裁事務総局人事局任用課長-最高裁事務総局人事局長-最高裁事務総長-東京高裁長官-最高裁判事」という路線だけである。
    最高裁事務総局の人事局任用課長のポストに就くと、後は、一直線で最高裁判事まで行く(そして、五〇パーセントぐらいの確率で最高裁長官となる)。
    しかし、そんな人は五年に一人である。人事局任用課長のポストに就く時期は四〇歳ころになるが、二〇代に始まる裁判官生活の中で、そこを目指す非現実的な人はいない。そこを目指しての競争もない。
・ 46頁の記載
    実質的に人事をおこなっているのは、例の人事局任用課長である。一人ですべてをやっているので、忙しすぎるのかもしれない。
(3) 31期の瀬木比呂志裁判官が著した絶望の裁判所には以下の記載があります。
(87頁の記載)
 事務総局の外、つまり現場の裁判官たちとの関係では、事務総局の権力と権威は、そのトップについてはもちろん、総体としても決定的に強大である。
 その結果、先にも記したとおり、傲慢な局長であれば地家裁所長、東京地裁所長代行クラスの先輩裁判官たちにさえ命令口調で接することがありうるし、課長たちの地家裁裁判長たちに対する関係についても、同様のことがいえる。
(91頁の記載)
    事務総局は、裁判官が犯した、事務総局からみての「間違い」であるような裁判、研究、公私にわたる行動については詳細に記録していて、決して忘れない。

    たとえば、その「間違い」から長い時間が経った後に、地方の所長になっている裁判官に対して、「あなたはもう絶対に関東には戻しません。定年まで地方を回っていなさい。でも、公証人にならしてあげますよ」と引導を渡すなどといった形で、いつか必ず報復する。このように、事務総局は、気に入らない者については、かなりヒエラルキーの階段を上ってからでも、簡単に切り捨てることができる。なお、右の例は、単なるたとえではなく、実際にあった一つのケースである。窮鼠が猫を噛まないように、後のポストがちゃんと用意されているところに注目していただきたい。実に用意周到なのである。

(4) 「司法の可能性と限界と-司法に役割を果たさせるために」(令和元年11月23日の第50回司法制度研究集会・基調報告②。講演者は31期の井戸謙一弁護士)には以下の記載があります(法と民主主義2019年12月号18頁)。
     青法協裁判官部会の裁判官たちは、支部から支部へという露骨な差別人事を受けていました。そういう扱いは現在では基本的には姿を消していると思います。しかし人事が裁判官を支配する現実はやはり非常に重要である。
     具体的には三〇期の藤山雅行裁判官の人事は影響が大きかったと思います。一時は裁判所の行政事件処理のエースでトップエリートだったあの方が、東京地裁の行政部の部総括として最高裁の意向に反する判決を繰り返すと、行政事件から外されて、出世コースからも外されてしまった。それを見ている若い裁判官たちは、「あんなトップエリートでも、やはり最高裁の意に反する判決をすると、こんな処遇を受けるのだ」と受け止めます。
     それ以外にも、たとえば高裁の陪席から長年動かないで(「塩漬け」と言います。)定年を迎える裁判官もいます。同期でも、途中から処遇の差がどんどんついていきます。私が直接知っているのでは、部がいくつもあり、部総括が数人いる大きな支部で、同期でありながら一方は支部長、一方は部総括ですらない平の裁判官という実例があります。こういう実例をみる若い裁判官たちは、こんな処遇は受けたくないと思うわけです。私は,裁判官には出世指向の人は多くないと思いますが、プライドは高いですから、人並み以下の処遇をされるのは耐えきれない。
(5) 現代ビジネスHPの「転勤を断ると出世できない…裁判官の世界はまるでサラリーマンのよう」には以下の記載があります。
    いわば、通り一遍の「評価書」を基本資料として、高裁長官案が作成され、最高裁事務総局人事局の任用課長が調整し、最高裁事務総長が承認する。それがそのまま最高裁長官案となり、裁判官の全国異動が始まるわけである。
    ただ、事務総長がチェックする最終段階で、人事案から外される裁判官もいる。
    「ある事務総長が、この裁判官は、事務総局には入れない。地方の裁判所に出せといって、高裁長官案を変更させたことがあります。
    かつて、その裁判官が、事務総局のトップに意見を言って、反感を買ったことがあった。その際、事務総局のトップは、俺の目の黒いうちは、こいつにはいい目をさせない、と言ったといいます。実に、その言葉通り、人事で冷遇したというわけです」(元裁判官)


5 歴代の最高裁判所事務総局人事局任用課長
(1) 新しい順に記載すると以下のとおりです。
・ 53期の馬場俊宏:平成29年7月28日~
・ 50期の板津正道:平成27年4月 1日~平成29年7月27日
・ 48期の前澤達朗:平成25年4月11日~平成27年3月31日
・ 47期の徳岡 治:平成22年9月13日~平成25年4月10日
・ 45期の門田友昌:平成19年4月 1日~平成22年9月22日
・ 41期の堀田眞哉:平成14年4月 1日~平成19年3月31日
・ 35期の田中昌利:平成10年5月 6日~平成14年3月31日
・ 30期の金井康雄:平成 5年4月 6日~平成10年5月 5日
・ 27期の山崎敏充:昭和62年8月 1日~平成 5年4月25日
・ 21期の金築誠志:昭和58年8月 1日~昭和62年7月31日
・ 19期の堀籠幸男:昭和54年8月 1日~昭和58年7月31日
・ 15期の泉 徳治昭和50年8月 1日~昭和54年7月31日
・ 11期の櫻井文夫:昭和45年6月16日~昭和50年7月31日
・  7期の山木 寛:昭和41年5月25日~昭和45年6月15日
・  3期の草場良八:昭和38年6月20日~昭和41年5月24日
高輪2期の渡邉忠之:昭和33年12月24日~昭和38年6月19日
(2) 45期の門田友昌以降についていえば,それ以前の人と比べて,人事局任用課長の在任期間が短くなっています。

6 最高裁判所事務総局人事局任用課長を経験した現職裁判官のその後
(1) 最高裁判所事務総局人事局任用課長を経験した現職裁判官のその後の役職は以下のとおりです。
・ 50期の板津正道:東京高裁 8刑判事→名古屋地裁5刑部総括
・ 48期の前澤達朗:東京高裁24民判事→東京地裁 1民判事
・ 47期の徳岡 治:東京地裁10民判事→東京地裁10民部総括→最高裁判所人事局長
・ 45期の門田友昌:東京高裁14民判事→東京地裁25民判事→最高裁審議官→東京地裁11民部総括→最高裁民事局長
・ 41期の堀田眞哉:東京高裁 8刑判事→千葉地裁 2刑判事→東京地裁刑事部部総括→最高裁秘書課長→最高裁人事局長→千葉地裁所長
(2) 41期の堀田眞哉,45期の門田友昌及び47期の徳岡治については,最高裁判所判事に就任する可能性が極めて高いと個人的に思います。

7 最高裁判所事務総局人事局任用課長を経験した元裁判官のその後
(1)  最高裁判所長官まで経験した人
ア 3期の草場良八は,最高裁判所長官を最後に定年退官しました。
(2) 最高裁判所判事まで経験した人
イ 15期の泉徳治,19期の堀籠幸男,21期の金築誠志及び27期の山崎敏充は,最高裁判所判事を最後に定年退官しました。
(3) 高等裁判所長官まで経験した人
ア 11期の櫻井文夫は,東京高裁長官を最後に定年退官し,30期の金井康雄は,札幌高裁長官を最後に定年退官しました。
イ 11期の櫻井文夫が東京高裁長官をしていた平成10年9月10日,11期の北川弘治福岡高裁長官が最高裁判所判事に就任しましたし,櫻井文夫は平成15年8月8日に69歳で死亡しましたから,健康面において,最高裁判所判事に就任することができなかったのかもしれません。
(4) 東京高裁部総括まで経験した人
ア 高輪2期の渡邉忠之は,東京高裁3民部総括を最後に60歳で依願退官しました。
イ 高輪2期の渡邉忠之は,昭和58年7月2日に62歳で死亡しましたから,健康面において,それ以上のポストに就任することができなかったのかもしれません。
(5) 地方裁判所所長又は家庭裁判所所長まで経験した人
ア 7期の山木寛は,京都家裁所長を最後に60歳で依願退官しました。
イ 7期の山木寛は,平成6年5月7日に65歳で死亡しましたから,健康面において,それ以上のポストに就任することができなかったのかもしれません。
(6) 幹部裁判官までは経験しなかった人
ア 35期の田中昌利は,知財高裁第4部判事を最後に49歳で依願退官しました。
イ 35期の田中昌利は依願退官後,長島・大野・常松法律事務所のパートナーに就任しました(長島・大野・常松法律事務所HPの「田中昌利」参照)。
(7) その後のポストの分析
ア 健康面で問題がなく,途中で依願退官しなかった人の場合,30期の金井康雄を除く全員が最高裁判所判事に就任しました。
イ 平成28年4月1日に新設された人事局総務課は,同日に廃止された人事局給与課の業務,及び従前の人事局任用課の業務のうち,一般職に関するものを担当しています。
   そのため,同日以降の人事局任用課長の経験者は,以前ほどは出世しなくなるかも知れません。

8 最高裁判所事務総局人事局参事官
(1) 最高裁判所事務総局の局及び課に置かれる参事官は,上司の命を受けて,その局又は課の事務のうち重要な事項の企画及び立案に参画します(最高裁判所事務総局規則6条の2)。
(2)ア 最高裁判所事務総局人事局には裁判官が就任する参事官ポストが常に一つ以上ありますところ,歴代の就任者は新しい順に以下のとおりです。
55期の高田公輝:令和 2年4月 1日~
55期の長田雅之:平成29年7月28日~令和 2年3月31日
53期の馬場俊宏:平成27年4月 1日~平成29年7月27日
50期の板津正道:平成25年4月11日~平成27年3月31日
48期の前澤達朗:平成22年4月 1日~平成25年4月10日
47期の徳岡 治:平成21年4月20日~平成22年9月12日
46期の川田宏一:平成19年4月 1日~平成21年3月31日
45期の門田友昌:平成17年4月 1日~平成19年3月31日
44期の河本雅也:平成15年4月 1日~平成16年7月31日
30期の金井康雄:平成13年7月 1日~平成16年3月31日(なぜか人事局任用課長を経験した後の就任です。)
34期の戸倉三郎:平成 6年2月20日~平成 6年7月31日
34期の植村 稔:平成 5年11月1日~平成 8年5月31日
イ 少なくとも平成28年1月1日以降,最高裁判所事務総局人事局に参事官ポストが三つありますところ,そのうちの二つには裁判所書記官経験者が就任していると思います(「最高裁判所が作成している,最高裁判所判事・事務総局局長・課長等名簿」参照)。
(3)ア 直近5人の人事局任用課長(新しい順に,馬場,板津,前澤,徳岡及び門田)は全員,人事局参事官を経験した直後に就任しています。
イ 平成15年7月1日以降に人事局参事官を経験したのに人事局任用課長に就任しなかったのは44期の河本雅也及び46期の川田宏一だけです。
(4) 令和2年8月3日現在,直近3人の人事局任用課長の在任期間からすれば,今年中に53期の馬場俊宏裁判官が転出する可能性が高いところ,前例からすれば,その後任は55期の長田雅之大阪高裁4民判事であると個人的に思います。

9 最高裁判所事務総局人事局任用課にある係の事務分掌(平成28年3月31日以前のもの)
(1) 平成28年3月31日以前の人事局任用課は,通常の組織の総務課に属するような事項も担当していました(平成25年4月当時の最高裁判所事務総局分課規程10条及び11条参照)。
(2) 平成26年4月1日現在の事務分掌は以下のとおりでした。
ア 総務係
① 局予算の編成及び執行に関する事項
② 局内各課係との連絡調整に関する事項
③ 裁判所職員の赴任旅費予算の管理及び運用に関する事項
イ 庶務係
① 局内文書の授受及び発送に関する事項
② 局内職員の人事,給与,福利厚生,服務及び勤務時間の管理に関する事項
③ 局内職員等の出張旅行命令に関する事項
④ 局内図書,文書及び各種資料の整理,保管及び貸出しに関する事項
⑤ 備品,消耗品等物品の請求,受入れ,配付及び管理に関する事項
⑥ 人事局刊行物の編集及び刊行に関する事項
⑦ 局長の秘書的事務及び公印の保管に関する事項
⑧ 局内の他の課係に属さない事項
ウ 任用第一企画係
① 裁判官の任用制度についての調査,研究,企画及び立案に関する事項
② 前号の事務を行うために必要な資料の収集及び調整並びにそれに関連する事項
エ 任用第一実施係
① 裁判官の任免,補職等の立案に関する事項
② 裁判官の任免,補職等の裁判官会議への付議及び発令に関する事項並びに内閣との連絡調整に関する事項
③ 裁判官の報酬の決定に関する事項
④ 裁判官の育児休業,休暇等に関する事項
⑤ 裁判官の海外渡航に関する事項
⑥ 高等裁判所長官等の管轄区域外出張の認可に関する事項
⑦ 裁判官の履歴書等の人事記録の作成,整備及び保管に関する事項
⑧ 裁判官の履歴等の証明に関する事項
⑨ 裁判官の兼職に関する事項
⑩ 各種委員会の委員,幹事及び書記の任免,推薦等に関する事項
⑪ 民事調停官及び家事調停官の任免に関する事項
オ 任用第二企画係
① 裁判官以外の裁判所職員(以下「一般職員」という。)のうち家庭裁判所調査官(補)及び医療職の技官(以下「家庭裁判所調査官等」という。)を除くものの任用制度についての調査,研究,企画及び立案に関する事項
② 前号の職員の人事異動に関連する事項の審査,実施の監査及び指導に関する事項
カ 任用第二実施係
① 最高裁判所勤務の一般職員及び下級裁判所勤務の最高裁判所が任免権を有する一般職員(家庭裁判所調査官等を除く。)の任免,補職等の人事異動に関する事項
② 人事記録,身上報告書,職員カード等に関する事項
③ 前歴又は在職に関する照会及びその他任用関係についての照会に関する事項
④ 各種職員録等名簿及び資料の作成等に関する事項
⑤ 最高裁判所勤務の一般職員(営繕技官を除く。)の採用選考及び昇任選考の企画,立案及び実施に関する事項
⑥ ⑤の選考における試験問題の作成並びに結果記録の作成及び保管に関する事項
キ 任用第三企画係
① 家庭裁判所調査官等の任用制度についての調査,研究,企画及び立案に関する事項
② 家庭裁判所調査官等の任免,補職等の人事異動に関する事項
③ 家庭裁判所調査官等の人事異動に関連する事項の審査,実施の監査及び指導に関する事項
④ 調停委員,専門委員及び労働審判員の任免等に関する事項
ク 試験第一係
① 司法修習生の採用及び罷免に関する事項
② 司法修習委員会に関する事項
③ 司法修習生考試の企画及び実施並びに司法修習生考試委員会に関する事項
④ 簡易裁判所判事の選考に関する事項
ケ 試験第二係
① 一般職員の試験計画の立案,実施計画の編成及びその実施並びに実施事務の総合調整に関する事項
② 試験実施事務の改善についての調査研究に関する事項
③ 試験問題の作成,試験の結果分析,総合基準の設定並びに結果記録の作成及び保管に関する事項
④ 研修所入所試験の実施事務の調整に関する事項
⑤ 試験に関する予算の要求及びその実行に関する事項
⑥ 裁判所書記官等試験委員会及び家庭裁判所調査官試験委員会に関する事項
⑦ 営繕技官の採用選考の企画,立案及び実施に関する事項

最高裁判所事務総局人事局の職員配置図(平成25年10月1日現在)