その他裁判所関係

業務の再開に関するQ&A(令和2年5月1日付の最高裁判所総務局参事官の事務連絡添付の文書)

新型コロナウイルス感染症への対応について(令和元年5月1日付の最高裁判所総務局参事官の事務連絡)添付の,業務の再開に関するQ&Aは以下のとおりです。

業務の再開に関するQ&A

   5月7日以降の情勢は現時点では明らかではないが,緊急事態宣言が延長される可能性もあるところ,緊急事態宣言の対象地域に存する裁判所は,国の一機関として,国民の命と健康を守るため,人の接触の機会を可能な限り減らし,感染拡大防止に最大限協力することを基本的な姿勢とするべきであり,裁判所利用者に一定の不便をおかけすることにはなるが,裁判官,裁判所職員としては,緊急事態宣言の趣旨に即した行動をとることが現時点における最大の責務といえる状況にあることに変わりはない。
   したがって,緊急事態宣言の対象地域にある裁判所は,新型インフルエンザ等対応業務継続計画(BCP)に基づいて,引き続き,継続業務だけを行う縮小態勢として,その業務に必要な人員が在庁して職務を行うことが原則となるが,事態が長期化してきている中での迅速な裁判の要請や早期の権利実現の必要性等を踏まえ,事件や手続の性質,早期に判断を示す必要性等を考慮した上,現状においては実施を見送っている裁判手続のうち一定程度を再開することが考えられるところ,現在の縮小態勢を維持しつつも,一部業務の再開を検討していく上で考慮すべき基本的な事項について, Q&Aを作成したので,参考にされたい(以下は,主として民事通常部を念頭においたものであるが,その他の部署についても,各担当事件の性質及び早期実施の必要性の異同を踏まえつつ, これらを参考にして,業務の再開について検討することが考えられる。)。
   
(総論)
問1 引き続き緊急事態宣言の対象地域にある裁判所において,現在の縮小態勢を維持したうえで,一部業務の再開を検討する場合に, どのような検討が必要となるのか。
答 緊急事態宣言及び外出自粛要請が現在のレベルで継続するような場合には,現在の執務態勢を維持することが基本となるが,その場合であっても,裁判官を含む庁全体の現在の登庁人数(多くの庁では8割ないし6割減少している。)を原則としては増加させないことを前提に,可能な範囲で,縮小していた事件を一部再開することが考えられる。
   まず,庁全体でどのような種類の事件を再開すべきかを検討すべきことになるが,執行事件や破産事件,新型コロナウイルスの影響に関連して緊急性が増している事件等の再開を検討し, そのうえで,BCP上第2順位である民事訴訟事件の一部再開を検討することになる。民事訴訟事件については,次回期日に判決言渡し,和解成立,弁論終結が予定あるいは見込まれる事件などのうち,緊急性の高い事件が考えられるが(被告への意思表示を含む訴状の送達なども緊急性の高い場合があろう。) ,裁判官を含む庁全体の現在の登庁人数を原則としては増加させないことを前提に, どのような形で民事訴訟事件の一部再開を行っていくかについては,庁規模等の実情により異なるところであり,様々な方法が想定される。例えば一つの例を挙げれば,単独事件については担当裁判官の週の登庁日を1日に固定したり,隔週で週に2日登庁することとしたりするなどし(担当書記官はその日に登庁し),各庁・各部内において各裁判官の登庁する曜日等を調整した上で,登庁日にのみ再開業務を行うとすることなどが考えられる。各裁判官は,複数事件の当事者が重なることのないよう,期日の枠を30分程度以上の刻みとなるよう期日を指定することなどが考えられるが,登庁日においては,期日を開くのみならず,今後実施する予定の期日における審理・協議等のために必要となる事前準備や釈明等の当事者に対する連絡等も完了できるよう計画的に業務を処理する必要がある。また,担当書記官の登庁頻度の増加を避ける観点から,期日指定した事件の処理に係る調書作成等の書記官事務を勤務時間内に処理できるようにしなければならず,期日の終了時間等に配慮することが必要であるし, 当該登庁日に期日を実施できる件数はかなり限定する必要があると考えられるが,その範囲の中で,登庁日に緊急性の高い事件の期日を指定ができるよう調整し,期日を開くことになる。
   合議事件については,受命裁判官を活用し,必要な裁判官(例えば,裁判長と左陪席)のみが登庁して期日を行うにとどめ,期日前合議には電話会議を活用するなどして,登庁する裁判官数を減らすための工夫を最大限行うことが必要である。また,複数の合議体がある部や合議事件の比率の高い専門部・集中部において, 口頭弁論期日を開く場合など合議体の全員が登庁する日を設ける場合には,同一日に,合議の弁論準備や和解の期日,合議や単独事件の相談又は部の運営等についての意見交換を行うなどして,裁判官全員が登庁する機会を有効に活用し,トータルで登庁する裁判官の数を最少とするよう工夫することが考えられる。
   各庁・各部・各裁判体において, これらの点を十分議論したうえで,再開する具体的な事件を検討し,具体的な執務態勢を検討することが必要である。
   簡裁民事訴訟及び民事調停事件についても概ね同様の考え方によることになるが,庁によって,事件数の規模も異なり,緊急性の高い事件の状況も様々であり,人的態勢も様々であるから,庁の実情に沿った検討が必要である。緊急事態宣言や外出自粛要請の趣旨を踏まえて,単独調停の積極的な活用が考えられ,調停委員の登庁頻度等にも配慮しつつ業務の再開を検討することが考えられる。
   


問2 引き続き緊急事態宣言の対象地域であるが,仮に平日の外出自粛要請が緩和される場合には, どのような検討が必要となるのか。
答 緊急事態宣言は継続するが,平日日中の外出自粛要請が緩和されるような場合には,部署ごとに少なくとも2班に分けて交替で登庁する執務態勢をとって,問1に記載した業務を再開していくことが考えられる(なお,司法行政事務についても,再開する裁判事務を継続するために必要な範囲の事務については再開することになる。)。この場合であっても,登庁日に期日を実施できる件数はかなり限定する必要があると考えられるのは,問1に記載したとおりであり,民事訴訟事件の期日指定は,その範囲の中で検討していくことになる。
   
問3 緊急事態宣言が解除されても,都道府県の知事が独自に平日日中の外出自粛要請を続けている場合には, どのような検討が必要となるのか。
答 緊急事態宣言が解除されても,都道府県独自の外出自粛要請が継続されている場合には, その趣旨に鑑みて,裁判所における業務再開も一定の範囲に抑えるのが相当であると考えられ, この場合には,問2を参考にして,再開を検討していくことになると考えられる。
   
問4 民事通常事件等において,再開する事件の期日指定数が限られているとすると,手持事件の中で優先順位を付けることになるが, どのようにして優先順位を付けるのか。
答 どの事件を優先的に再開するかについては,各裁判体において適切に判断されるべきものであるが, まずは,次回期日に判決言渡し,和解成立,弁論終結が予定あるいは見込まれる事件などのうち,長期化することを避けなければならない緊急性の高い事件が考えられる。その他の事件については,各裁判体において,前提となる人的態勢を十分に踏まえ, 当事者の意向(要望) も聞きながら,再開可能な事件数の範囲内で,事案の性質,手続段階等の種々の考慮要素を勘案して適切に判断し,順次期日を指定していくこととなると考えられる。
   
問5 期日指定ができない事件について当事者から理由を問われることが想定されるが, どのような説明をするのか。
答 再開する事件の選定についていかなる考え方を採るにせよ,早期の再開を望む当事者や代理人弁護士から,その理由を問われる可能性がある。人の接触の機会を可能な限り減らし,感染拡大防止に最大限協力する観点から,事件を順次再開していく必要があり,担当裁判官が慎重に緊急性の度合いを判断した結果であり,早期に期日指定ができない事件の当事者等においても理解をお願いしたい旨を丁寧に説明することとなると考えられるが,裁判官と書記官の間で再開する事件の選定方針について十分に相談しておくことが必要である。
   

問6 再開された事件の期日を開く際には, どのような点に留意すべきか。
答 特に,いわゆる3密を避けるための留意点として,これまで示したもののほか, 以下のようなことを積極的に行っていくのが相当と考えられる。
◯ 電話会議(ウェブ会議)を積極的に活用し(特に,他の都道府県からの移動を伴う場合), そのために必要があれば弁論準備手続や書面による準備手続に付することも検討する。
◯ 非公開手続においても,和解室,弁論準備室のような狭い閉ざされた部屋を用いるのではなく,ラウンドテーブル法廷等可能な限り大きな部屋の活用を積極的に検討する。
◯ 口頭弁論期日においては,同一時刻に期日を指定することは原則として避け,やむを得ず複数の事件の期日を同一時刻に指定することがあるとしても,極力その数を減らすことや,傍聴席で順番を待つ機会を減らせるよう臨時の待合スペースの設営も検討する(会議室の開放等が考えられる。)。
◯ 簡裁民事訴訟については,多数の当事者が一斉に来庁したり,集中したりすることを避けるため,簡裁の特則(陳述擬制や司法委員の積極的活用,和解に代わる決定等)を活用することが考えられる。
   
(裁判官)
問7 問1の場合の裁判官の執務態勢はどうなるのか。
答 問1の場合には,基本的には現在の縮小態勢を維持することになるので, トータルとして今より登庁回数が増えないよう工夫する必要がある。問1記載のとおり,裁判官は週1日に登庁日を固定したり,隔週で週2日登庁したりすることも考えられるし,合議事件については原則として必要となる最小限の人数の登庁を求めて処理すべきであり,在宅勤務中の裁判官との間では電話会議等を活用して合議を行ったり,受命裁判官を活用して期日を進めることが考えられる。それに加えて,複数の裁判官が登庁する場合には,同一裁判体の様々な期日を入れたり,合議や単独事件の相談の時間を入れたりなど,その機会を有効に活用することで,登庁回数を抑えるのに役立てることが可能になると思われる。
   
問8 問1の場合,再開した事件の記録や提出書面の検討のため登庁が必要なので,その分,裁判官の登庁は増えても差し支えないか。
答 問1の場合には,基本的には現在の縮小態勢を維持することになるので,期日を開かない日に登庁することは厳に慎むべきことに変わりはない。登庁日を限定していることから,前の登庁日までに提出されない書面等については,裁判官は目を通すことが出来ないことを当事者に明確にして協力を求めることが必要である。
   
問9 書記官に判決起案の点検等を求めてもいいのか。
答 判決言渡期日を指定した事件について,書記官に判決起案の点検等を求めることは差し支えないが,その場合には,書記官が記録を持ち帰れないことや担当書記官の登庁日においても残業を避けるべきことにも配意し,十分な時間的余裕を持って作業を依頼することが必要である。
   
問10 再開した事件の期日を指定する場合の留意点
答 各庁において,庁としての一部再開すべき業務とその処理態勢を検討したうえで,各裁判官が,共通認識の下に,再開する事件の選択,その期日の調整や指定を行っていくことになるが,各裁判官において,十分に緊急性の度合いを検討し,前提となる人的態勢も踏まえて,期日の指定を行っていく必要がある。問1の場合はもちろん, 問2,問3の場合であっても,5月7日以降,各部における事務処理態勢の検討に相応の時間がかかることも想定されるし,再開した期日の指定や調整は,検討された事務処理態勢に応じて行われる必要があるので,いつからどのように期日の調整・指定を行うかは,庁全体で検討されるべきものと考えられる。
   庁としての方針が定まれば, ホームページ上に,必要な説明を掲載して,広く裁判所利用者に理解を求めることが相当と考えられる。
   
(書記官等)
問11 問1の場合の書記官等の執務態勢はどうなるのか。
答 問1の場合には,基本的には現在の縮小態勢を維持することになるが,期日のある日には,担当書記官が登庁することになり,現在の縮小態勢次第では,書記官の登庁する日数が増える場合もあろう.庁全体の現在の登庁人数を原則としては増加させないよう,庁全体をみて,実情に応じた態勢の構築を検討する必要がある。
   
問12 裁判官が事件処理をすれば,担当書記官が登庁しなければならないし,主任書記官に加重な負担がかかったりして,登庁人数が増えることにならないか。
答 1名の裁判官の単独事件を担当する書記官が2名いる場合には,両書記官の間で連携し, それぞれの登庁日を減らす工夫が求められる。主任書記官等のチェックが必要な和解調書等の作成については,それぞれがもともと予定している登庁日に無理なく作業を行い引継ぎができるようにしておくことが必要である。いずれにせよ,主任書記官や一部の書記官に負担が偏らないよう,公平なローテーションを構築する必要がある。
   
問13 来庁者が増えるので,書記官室での面前の対応が増え,感染リスクが増えるのではないか。
答 来庁者及び職員双方への感染拡大防止の観点から, これまで講じている感染防止措置の徹底を図るほか,特に事件受付や書記官室など近い距離で対応を行う部署においては,民間や地方公共団体で講じている感染防止のための様々な工夫について積極的に導入することなどを検討し,感染リスクの低減に努めてもらいたい。
以 上


最高裁判所の新型インフルエンザ等対応業務継続計画(平成28年6月1日付)別紙2


*1 大阪高裁平成27年1月22日判決(裁判長は30期の森宏司裁判官)は,
   平成19年「5月24日」,兵庫県龍野高校のテニス部の練習中に発生した高校2年生の女子の熱中症事故(当日の最高気温は27度)について,
   兵庫県に対し,「元金だけで」約2億3000万円の支払を命じ,平成27年12月15日に兵庫県の上告が棄却されました(CHRISTIAN TODAY HP「龍野高校・部活で熱中症,当時高2が寝たきりに 兵庫県に2億3千万円賠償命令確定」参照)。
   その結果,兵庫県は,平成27年12月24日,3億3985万5520円を被害者代理人と思われる弁護士の預金口座に支払いました(兵庫県の情報公開文書を見れば分かります。)。
*2   大阪高裁平成27年1月22日判決を読む限り,高校側に何らかの法令違反があったわけではないにもかかわらず,過失相殺すら認められていません。
   また,厚生労働省HPの「職場での熱中症による死亡災害及び労働災害の発生状況(平成24年)」によれば,熱中症による死亡災害の月別発生状況(平成22~平成24年)は,6月が7件,7月が41件,8月が35件,9月が3件であり,5月は1件も発生していないにもかかわらず,兵庫県龍野高校のテニス部事故では,5月に発生した熱中症について予見可能性があると認定されました。
   そして,30期の森宏司裁判官(平成29年4月19日定年退官発令)は平成28年3月7日頃,大阪高裁民事上席裁判官に就任したことからすれば,安全配慮義務について厳格に考える裁判例は今後も継続すると思われます。
*3 裁判所職員の病気休職も参照してください。

七訂版 検察庁法(平成31年3月の法務総合研究所の文書)

七訂版 検察庁法(平成31年3月の法務総合研究所の文書)の本文につき,以下のリンク先でHTML化しています。

第1章 序説
第1節 検察庁法の意義及び法源
第2節 検察制度の沿革
第3節 検察制度の本質

第2章 検察権
第1節 検察権の意義及び内容
第2節 検察権の独立(行政権,立法権との関係)
第3節 検察権行使の機関(検察官の独任制官庁と検察官同一体の原則)
第4節 検察権と管轄

第3章 検察庁
第1節 検察庁の意義
第2節 検察庁の種類,位置,名称
第3節 検察庁の支部
第4節 検察庁の機構

第4章 検察庁の職員
第1節 検察官の種類等
第2節 検察官の身分保障
第3節 検察事務官
第4節 その他の職員

* 「検察庁法改正案の成立前後における,検事長の勤務延長の取扱い」も参照してください。

高等裁判所長官を退官した後の政府機関ポストの実例

1 高裁長官を退官した後の政府機関ポストの実例は以下のとおりです。
(1) 行政機関のポスト
ア 人事院
① 人事官→人事院総裁
・ 一宮なほみ裁判官(26期)
② 国家公務員倫理審査会会長
・ 吉本徹也裁判官(19期)
・ 池田修 裁判官(24期)
・ 秋吉淳一郎裁判官(34期)
イ 内閣府
① 公正取引委員会委員
・ 浜崎恭生裁判官(16期)
・ 細川清 裁判官(21期)
・ 山崎恒 裁判官(26期)
・ 三村晶子裁判官(35期)
② 再就職等監視委員会委員→委員長
・ 大橋寛明裁判官(26期)
・ 井上弘通裁判官(29期)
ウ 総務省
① 公害等調整委員会委員長
・ 勝見嘉美裁判官(  3期)
・ 西山俊彦裁判官(  4期)
・ 川嵜義徳裁判官(  8期)
・ 清水湛 裁判官(12期)
・ 加藤和夫裁判官(15期)
・ 大内捷司裁判官(19期)
・ 富越和厚裁判官(24期)
・ 荒井勉 裁判官(29期)
・ 都築政則裁判官(37期)
② 情報公開・個人情報保護審査会委員→委員長
・ 岡田雄一裁判官(27期)
・ 山名学 裁判官(30期)
・ 小泉博嗣裁判官(31期)
・ 小林昭彦裁判官(33期)
③ 国地方係争処理委員会委員長
・ 増井和男裁判官(18期)
・ 富越和厚裁判官(24期)
④ 行政不服審査会会長
・ 市村陽典裁判官(28期)
・ 原 優 裁判官(31期)
⑤ 国家公安委員会委員
・ 安藤裕子裁判官(29期)
エ 法務省
① 中央更生保護審査会委員
・ 野田愛子裁判官( 2期)
・ 櫻井文夫裁判官(11期)
② 中央更生保護審査会委員長
・ 梅田晴亮裁判官( 8期)
・ 原田和徳裁判官(19期)
・ 安倍嘉人裁判官(23期)
・ 倉吉敬 裁判官(28期)
オ 厚生労働省
① 社会保険審査会委員→委員長
・ 瀧澤泉裁判官(29期)
・ 高野伸裁判官(31期)
(2) 最高裁判所のポスト
① 情報公開・個人情報保護審査委員会委員
・ 門口正人裁判官(23期)

2 以下の記事も参照してください。
・ 幹部裁判官の定年予定日
・ 最高裁判所裁判官会議の議事録
→ 8月上旬及び中旬に最高裁判所裁判官会議は開催されることはありません。
・ 親任式及び認証官任命式
・ 最高裁判所裁判官の任命に関する各種説明
・ 高裁長官人事のスケジュール
・ 高等裁判所長官任命の閣議書
・ 裁判官の号別在職状況等
 裁判官の年収及び退職手当(推定計算)
 任期終了直前の依願退官及び任期終了退官における退職手当の支給月数(推定)

高等裁判所長官任命の閣議書

1 高等裁判所長官任命の閣議書を以下のとおり掲載しています。

・ 永野厚郎 名古屋高等裁判所長官任命の閣議書(令和2年4月17日付)

・ 青柳勤 仙台高等裁判所長官任命の閣議書(令和2年3月3日付)

・ 小野憲一 福岡高等裁判所長官任命の閣議書(令和2年1月10日付)

・ 今崎幸彦 東京高等裁判所長官任命の閣議書(令和元年8月8日付)

・ 安浪亮介 大阪高等裁判所長官任命の閣議書(平成30年11月20日付)

・ 植村稔 札幌高等裁判所長官任命の閣議書(平成30年8月3日付)

・ 林道晴 東京高等裁判所長官任命の閣議書(平成29年12月19日付)

2 以下の記事も参照してください。
・ 最高裁判所裁判官の任命に関する各種説明
・ 最高裁判所長官任命の閣議書
・ 最高裁判所判事任命の閣議書
・ 高輪1期以降の,裁判官出身の最高裁判所判事
・ 閣議

昭和27年4月発覚の刑事裁判官の収賄事件(弾劾裁判は実施されず,在宅事件として執行猶予付きの判決が下り,元裁判官は執行猶予期間満了直後に弁護士登録をした。)

1(1)ア 荒木辰生(昭和27年4月2日依願退官)は,名古屋地裁の刑事単独部で刑事事件を担当していた際,自分が担当する労働基準法違反,強盗,関税法違反被告事件について,それぞれ被告人の親族など縁故者から有利寛大な処分をされたい旨の請託を受け,現金及び飲食合計3万円相当の賄賂を収受した疑いにより,昭和27年7月16日,収賄事件として在宅起訴されました。
イ 名古屋地裁は,荒木辰生 元裁判官に対し,昭和29年7月23日,懲役1年執行猶予3年,追徴金1万2031円の判決を下し,当該判決は同年8月7日に確定しました。
(2) 名古屋地検の捜査が進んでいることを察知した荒木辰生裁判官は,昭和27年3月27日に辞表を提出し,当時の名古屋地裁所長は,裁判官会議に付することもなく,収賄容疑について最高裁判所に伝えることもなく,荒木辰生裁判官の辞表を最高裁判所に伝達しましたから,同年4月2日付で依願退官が発令されました。
 ただし,荒木辰生裁判官は,依願退官を伝えられた昭和27年4月4日まで刑事裁判官としての職務を続けていましたから,同月2日から同月4日までに言い渡した判決については,その後,名古屋高裁が,裁判官でない者の行為であって無効であるとして破棄差戻しとしました。
(3) 汚れた法衣111頁ないし138頁に詳しい経緯が書いてあります。

2 伊藤修 参議院法務委員会理事は,昭和27年7月28日の参議院法務委員会において以下の報告をしています(ナンバリングを追加したり,事件関係者の氏名を匿名にしたりしています。)。
① 名古屋地裁荒木元判事の汚職容疑事件について、第一に、その調査の経過を御報告申上げます。
 本年四月十九日付中部日本新聞紙上に、名古屋地方裁判所荒木辰生判事の汚職容疑に関する記事が大きく掲載せられ、世人の注目を惹いたところであるが、当委員会においても、問題の重大性に鑑み、これを重視し、五月九日の委員会において伊藤委員より最高裁判所事務総局鈴木人事局長に対し、本件について質疑が行われた。
 委員会においては、本件について更に詳細にこれを調査し、その真相を究明するために、現地に委員を派遣することを決定した。
 かくて五月十四日伊藤、中山の両委員は名古屋に赴き、名古屋高等裁判所、同地方裁判所において、それぞれ長官並に所長より、名古屋高等検察庁、同地方検察庁において検事長及び検事正より詳細に事情を聽取した。
 当時本件は名古屋地方検察庁において捜査中で同庁では、荒木元判事の汚職容疑について、すでに相当程度の確証を挙げてはいたのであるが、なおまだこれを起訴すべきや否やについては決定を見ていなかつた。よつてこの処分が決定するまでは、本件についての報告を留保するのが妥当なりと認め、これを留保してきたのであるが、法務府よりの通知によれば、名古屋地方検察庁は去る七月十六日、荒木辰生を收賄被疑によつて起訴したことが明らかとなつた。よつてここに本件について報告に及ぶものである。
② 二、事件の概要
 名古屋地方裁判所元判事荒木辰生は、昭和四年高文司法科試験に合格、同五年千葉弁護士会に登録、弁護士を開業、同十年判事に任ぜられ、以来、東京、金沢、安濃津、名古屋各地方裁判所に勤務し、昭和十九年に至り陸軍司政官としてスマトラに赴き、以来昭和二十一年十月帰国するまで南方各地に在勤し、同月帰国と同時に判事に任ぜられ、名古屋地方裁判所岡崎支部に勤務、昭和二十二年十一月名古屋地方裁判所に転勤、昭和二十七年四月二日依願退官するまで、同庁刑事単独部において判事として勤務したものである。
 荒木は別添名古屋高等検察庁検事長藤原末作より木村法務総裁宛の昭和二十七年七月十日付日記秘第一八四号写記載の通り
 (一)昭和二十五年十一月十七日名古屋地方裁判所刑事単独部に係属中の◯◯◯株式会社名古屋工場の工場長Aに対する労働基準法違反被告事件審理に関し、同事件の当初担当判事が、同二十六年三月十五日同裁判所刑事会議部に転出したるため、同事件の配填替えを受け、その審理を担当するに至るとともに、同事件の被告人Aが自己に対する裁判について、有利寛大なる判決を受けたいという趣旨のもとに行うものであることを知り乍ら、同年三月以降六月頃までの間に、名古屋市所在の旅館◯◯◯において、二十一回に亘り酒食の饗応を受け、同年六月二十五日言渡したる判決においては、右Aに無罪を言渡し、更に判決言渡当日たる六月二十五日及び同月二十九日頃の二回に亘つて、同じく◯◯◯において、Aより酒食の饗応を受け
 (二)昭和二十六年十二月から翌二十七年一月にかけて、名古屋市において検挙されたB、C及びDの集団強盗被告事件について、これらの者の検挙が別々であつたために、先づBは、昭和二十七年一月八日名古屋地方裁判所に起訴され、事件は刑事単独部澁谷判事のもとに配填せられ、次いで同月十七日起訴されたC及びDに関する被告事件は、同一強盗事件に関する共犯関係であるから、さきに起訴されたBの事件に併合審理されるべきことが明かにされたため、澁谷刑事のもとに併合せらるべきに拘わらす、その起訴に先だち一月十四日Cの実兄及び養父の両名が、荒木の居宅に赴き右強盗事件が起訴された場合には、荒木判事のもとにおいて同事件を担当し、Cのため有利寛大な審判をせられたい旨、荒木に対し請託したところ、荒木は、この請託を容れて、Cのために有利な執行猶予を付したる判決をなすべきことを約束して、右両人が持参した菓子折一箱と現金二千円を受領し、その後、前記各被告人の事件を一括して自己の担任に移し、Cに対しては同年二月六日に懲役三年、五年間執行猶予の判決を言渡し
 (三)昭和二十六年十二月三十日、名古屋地方裁判所に係属したるEに対する関税法違反被告事件が、荒木に配填せられたところ、被告人の義弟F等より名古屋市所在◯◯◯において、一月十五日酒食の饗応を受け、その請託に応じて二月二十日右Eに対し寛大なる判決を言渡し、更に三月三日頃周の知人Gより◯◯◯外一カ所において、酒食の饗応を受けたものである。
 以上の事実によつて、荒木は去る七月十六日、名古屋地方検察庁によつて名古屋地方裁判所に起訴せられたのである。これらの事実がすべて真実なりや否やは、勿論裁判によつて、確定せらるべきことであつて、今これについて深く言及することは避けることとする。併し、右のごとき事実によつて起訴されたということ及び検察当局がこれについて相当の確信を持つていることは特に注意すべきことである。
③ 次に、検察当局の捜査の端緒及び荒木判事退官までの経緯を略述すれば次の通りである。
 昭和二十七年二月二十七日、前記B、C、Dの強盗被害事件の主任平田判事の許にBの雇主Xが来訪し、同事件について先般判決があつたが、Bは懲役五年の実刑を科されたが、他の二人は執行猶予となつて、これには不服である。執行猶予となつたCの親族が荒木判事を訪れ、菓子折と金一封を贈つたということなので、私も訪ねて行つたが、私のほうは駄目で返されたという趣旨のことを同検事に語つた。
 同検事の報告に基き、名古屋地方検察庁安井検事正は、検事長の指揮を受け捜査を開始したところ、贈賄者二名が詳細に自白するに至り、検察庁は更に荒木判事の素行行動などについて追求するに至つたのである。その結果として同判事の担当刑事事件について、特に検事控訴となる事件が多いこと、同検察庁の調べによれば、昭和二十六年四月一日から同二十七年三月二日までの間において同庁で検事控訴した事件九十一件のうち、二十九件が荒木判事の担当した事件である。麻雀が好きで、料亭等に頻々と出入していること等が判明するに至つた。
 三月二十日頃に至り、安井検事正は、名古屋地方裁判所村田所長及び同高等裁判所下飯坂長官に右荒木判事の事件について話したのであるが、一方、荒木本人も検察庁の捜査を察知したもののごとく、三月二十六日に至り、村田所長に辞意を洩らし、翌二十七日遂に辞表を提出した。そこで村田所長は、下飯坂長官と相談の上、裁判官会議に附することなしに、最高裁判所に伝達したのである。なおこの際荒木判事について、前記のごとき汚職容疑事件が発覚している事実については、最高裁判所に通知しなかつたのである。故に、最高裁判所は、右の事実について何等知るところなく、四月二日附を以て荒木に対し、依願免官の発令をなしたのであつた。
 なお、この間の事情について、下飯坂長官及び村田所長は、彈劾裁判ということについても十分心得てはいたのであるが、自分等としては、本件をそこまでもつて行くことには耐えられなかつたし、又、荒木判事が現職のまま拘束された場合における世間に及ぼす影響及び裁判官全体のための名誉保持の点等を考慮し、自分等両名の責任において最善の方法と認められる措置をとつたものと考えると言明している。
 この間検察庁側は着々として荒木についての捜査を継続し、犯罪の確証を握るに及んで、遂に同人を起訴するに至つたものである。
 以上が事件の概要であり、その詳細は別添参考資料聴取書等によつてこれを参照せられたい。
④ 三、結論
 先ず本件において、荒木元判事本人の行為については、それが目下刑事事件として裁判所に係属中であるため、ここにこれを批判することは、暫らく差し控えることとする。
 次に本件において問題となるのは、裁判官の弾劾裁判制度との関連において、荒木元判事の辞職について、裁判所側、殊に名古屋高等裁判所長官及び名古屋地方裁判所長のとりたる措置並びに最高裁判所の人事行政全般に関する問題である。すでに、事件の概要中において述べた通り、荒木元判事は、自己の身辺に検察庁の捜査の手が伸びたことを察知するや、三月二十七日附その辞表を提出したのであつた。名古屋高等裁判所下飯坂長官及び名古屋地方裁判所村田所長は、これに先だち、三月二十日前後に、名古屋地方検察庁安井検事正より、荒木元判事の汚職容疑について、報告を聽いているのである。即ち下飯坂長官及び村田所長は、荒木元判事について、かかる事情が存することを知りながら、なお且つその辞表を受理し、而もこれを裁判官会議に諮ることなく、長官及び所長の意思と責任において、最高裁判所にその伝達をなすと共に、これを至急決裁あらんことを具申したのであつた。なおこの際最高裁判所に対しては、荒木元判事について前述のごとき汚職容疑事件が発生したことについては、何等報告しなかつのである。
 このような取扱いをした理由として、下飯坂長官及び村田所長は、荒木元判事が現職のまま、身柄拘束されるようなことがあつた場合においては、それが国民一般の裁判官全体に対する不信の念を招来するがごとき結果を生ずることを虞れて、荒木を一刻も早く辞職せしむることが、裁判所及び裁判官全体の名誉を守るゆえんであると考えたというのである。
 名古屋高等裁判所裁判官会議規程及び名古屋地方裁判所裁判官会議規程を見るに、裁判官の身分に関する意見、具申等については、いづれも裁判官会議若しくはその常置又は常任委員会に諮り、その決議によつて処理することになつているのであつて、長官又は所長の独断的専行は許されないところである。
 のみならず、荒木元判事の行為は、明らかに裁判官弾劾法第二條の規程に該当する罷免の事由たり得る非行であつて、下飯坂長官及び村田所長は、同法第十五條によつて、当然荒木元判事について弾劾による罷免事由を最高裁判所長官に通知すべきであつたのである。
 然るに下飯坂長官及び村田所長は、右の処置をとることなく、むしろ反対に荒木元判事の非行については何等報告することなく、又その辞表については、至急決裁せらるべく具申して、これを伝達したことは前述の通りである。
 下飯坂長官及び村田所長が、本件の世間に及ぼす影響と、裁判官全体の名誉と威信を保持するために苦慮を重ねたであろうことは、本件の調査に当り、長官等が委員に対し、その心境を吐露したる言葉の節々によつても、十分にこれを推察することができるのである。
 長官及び所長が右のごとき措置をとるに至つたその心境は同情に値するものであり、その措置は気持の上では諒とせられるものではあるが、併し、法の維持を任務とする裁判官としては、飽くまでも法令の命ずるところに従つて事に処することが正しい態度と言うべく、かかる態度を堅持することこそが、裁判官全体のための名誉と、威信を保持するゆえんであると思料されるのである。
 本件の場合において、下飯坂長官及び村田所長が、荒木元判事の辞表を裁判官会議に附することなく、最高裁判所に伝達して、その結果において荒木元判事の彈劾裁判を免れしめるような処置をとつたことは妥当を欠くものと言うべく、遺憾に堪えないところである。そもそも裁判官彈劾裁判制度は、裁判官の身分保障を前提として、裁判官が濫りに罷免されることのないように、これを保障するために設けられた制度であつて、それ故にこそ、特に刑事訴訟手続にも似た嚴格なる手続によつて行われるのである。
 裁判官が法に触れる非行をなした場合において、一般の刑事裁判に付されるほかに、更に弾劾裁判にも付されるということは、一見二重にその責を問われるもののごとくみられないこともないが、これはその身分を強く保障するための制度よりまする当然の結果であつて、かかる制度が裁判官のために、ひとり裁判官のみのために設けられている事実こそ、まさに裁判官の職務遂行を独立不覊のものたらしめるものであると同時に、その名誉と威信とを示すものである。故に裁判官の弾劾裁判制度は裁判官の名誉と威信とを保持するためにも、これを守らなければならないし、又それが憲法の精神にも副うものである。
 本件については荒木元判事の依願退官の手続はすでに完了し、その弾劾のための訴追については最早とるべき手段はない。併しながら、将来においてはひとり下飯坂長官及び村田所長のみに限らず、裁判官全体の問題として、かかることを再び繰返すことのなきよう嚴に自戒すべきことを要望して止まない。然らざる限り、裁判官の弾劾裁判制度は全く有名無実の制度と化するであろうとことを虞れるのである。次に最高裁判所は荒木元判事の辞表の伝達を受けたときに、同人の非行については何の報告も受けておらなかつたために、これを知ることなくして、その免官を発令したのであつて、その手続において欠くるところはなかつた。併しながら本件のごとき問題が、将来において再び発生することがないとは言えないのであるから、将来の問題として、裁判官の辞任の申出があつた場合においては、少くともその理由について万遺漏なきような措置を講ずることが必要であると思料するのである。最高裁判所においては、終戰後住宅その他主として経済上の理由により、裁判官を適材適所に配置することができなかつたことは誠に止むを得ないところであつたが、我が国が独立を回復したる今日は、当時と社会一般の情勢も異り、経済事情も相当好転しているのであるから、裁判官についも適材適所主義をとり、慎重なら人事行政を行うことによつて再び本件のごとき事件が発生することのなきよう十分なる対策を講ずべきである。
 以上簡單でありますが、両件の報告(山中注:もう1件は,島根県安来町(現在の島根県安来市(やすぎし))におけるところの自治体警察の存廃問題に関する件でした。)を終ります。

3(1) 汚れた法衣132頁によれば,荒木辰生 元裁判官の収賄事件に関する名古屋地裁昭和29年7月23日の判決理由の骨子は以下のようなものでした。
 審理の結果,荒木被告の職務の公正を疑う証拠は十分あったが,そのため(法に反して)裁判に手心を加えたと断定する証拠はなかった。また,検事の公訴事実全部が収賄罪を構成するとは考えられない。つまり,荒木被告が直接,自分が担当した事件の被告人や関係者から,酒食の供応を受けたり現金を収受したりした部分は有罪だが,人を介して受けた12回の供応(1万9014円)は判決を寛大との主旨ではなかろう。また,起訴事実①を無罪にした後で関係者,被告人らと会食した2回の供応は,収賄とみなす根拠が薄いから無罪で,これは追徴金から除外する。
(2) 汚れた法衣134頁によれば,荒木辰生 元裁判官の収賄事件に関する名古屋地裁昭和29年7月23日が執行猶予をつけた理由は以下の3点でした。
① 荒木は起訴の3ヶ月以上も前に責任をとって,裁判官を退職した。
② 各事件の処理を見ると,収賄して故意に判決に手を加えた形跡は認められない。
③ 現在,右側臀部全般及び大転子部にわたる結核性痔瘻で歩行時に疼痛を感じ,分泌物のため長時間の座位を取り難く,症状が深化拡大していて外科的手術が不可能で,安静加療を要する。
(3) 汚れた法衣135頁には以下の記載があります。
 判決文を読み進むと起訴状、公判経過からは考えられない事ばかり、なんと荒木被告にとって至れり、尽くせりの判決だろう。事実や経験則に反する事でも被告の主張は気前よく認めた上で、「責任をとった」、「賄賂で判決を曲げなかった」、「動かぬほどの病人」として執行猶予にしたが、許されぬ退職事情と高裁の判決是正などに触れていない。また病気のことについて言えば、刑務所には医官がおり、刑の執行停止もある。判決は「善良で世の中を知らず、悪への抗体がなく、気の良い裁判官をダメにしたのは外部の悪党で、これに荒木は迂闊にも丸め込まれた」と、旅館の支配人の”義務違反”までを責めた。これでは裁判官はもう”ばか殿”扱いである。「放胆で細心を欠き、開けっ放しで迂闊」、「人を見る目に欠けた」とは”教育的”な配慮に聞こえるが、そうとするなら遅過ぎる。この判決は”まず結論を出し、二年がかりで理屈をつけた”もの、との世の批判は当然だ。

4(1) 荒木辰生 元裁判官は執行猶予期間が満了した直後の昭和32年10月3日,名古屋弁護士会に入会しました。
(2) 下飯坂潤夫(しもいいざかますお)名古屋高裁長官は,昭和31年11月に最高裁判所判事となりました。

5 福岡高裁判事妻ストーカー事件に関する,平成13年3月14日付の最高裁判所調査委員会の調査報告書も参照してください。

昭和20年8月15日,長崎控訴院が福岡に移転して福岡控訴院となり,高松控訴院が設置されたこと等

目次
1 時系列の経緯
2 裁判所構成法戦時特例中改正法律に関する政府答弁(昭和20年6月9日)
3 地方行政協議会及び地方総監府
4 下級裁判所の設立及び管轄区域に関する政府答弁(昭和22年3月28日)
5 その他

1 時系列の経緯
(1) 明治憲法時代でも,裁判所の設立,廃止及び管轄区域並びにその変更は法律事項でした(裁判所構成法4条)。
   しかし,裁判所構成法戦時特例中改正法律(昭和20年6月20日公布の法律第36号)による改正後の裁判所構成法戦時特例(昭和17年2月24日公布の法律第62号)1条ノ2により,昭和20年6月20日以降,裁判所の設立,廃止及び管轄区域並びにその変更は勅令事項となりました。
(2)ア 高松控訴院ノ設立等ニ関スル件(昭和20年8月1日公布の勅令第443号)の内容は以下のとおりであり,昭和20年8月15日に施行されました。
① 高松市に高松控訴院を設置し,高松地裁,徳島地裁,高知地裁及び松山地裁を高松控訴院の管轄区域に属させること。
② 長崎控訴院を福岡市に移転させて,福岡控訴院とすること。
③ 静岡地裁を名古屋控訴院の管轄区域に属させること。
④ 福井地裁を大阪控訴院の管轄区域に属させること。
イ 昭和20年8月 9日午前11時2分,長崎市にプルトニウム型原子爆弾ファットマンが投下されたため,長崎控訴院及び長崎地裁の庁舎が全焼しました。
ウ 昭和20年8月15日正午,大東亜戦争終結ノ詔書(昭和20年8月14日付)の音読放送(いわゆる玉音放送です。)が実施されて終戦となりました。
(3) 裁判所構成法戦時特例廃止法律(昭和20年12月20日公布の法律第45号)に基づき,裁判所構成法戦時特例は廃止されたものの,高松控訴院ノ設立等ニ関スル件(昭和20年8月1日公布の勅令第443号)の効力は維持されました(同法附則2項)。
(4)ア 高松控訴院ノ廃止等ニ関スル件(昭和21年1月9日公布の勅令第3号)の内容は以下のとおりであり,昭和21年1月10日に施行されました。
① 高松控訴院を廃止すること。
② 福井地裁を名古屋控訴院の管轄区域に属させること。
③ 静岡地裁を東京控訴院の管轄区域に属させること。
④ 徳島地裁,高松地裁及び高知地裁を高松控訴院に属させ,松山地裁を廣島控訴院に属させること。
イ 長崎市への原子爆弾投下が影響したと思いますが,高松控訴院ノ設立等ニ関スル件(昭和20年8月1日公布の勅令第443号)のうち,長崎市にあった控訴院が福岡市に移転した部分については元に戻りませんでした。
(5) 下級裁判所の設立及び管轄区域に関する法律(昭和22年4月17日公布の法律第63号)に基づき,日本国憲法及び裁判所法が施行された昭和22年5月3日,従前の7控訴院が7高裁に移行するとともに,高松市に高松高裁が設置されました。

2 裁判所構成法戦時特例中改正法律に関する政府答弁(昭和20年6月9日)
(1) 松阪廣政司法大臣は,昭和20年6月9日の貴族院裁判所構成法戦時特例中改正法律案特別委員会において以下の答弁をしています(現代語訳にするなどしています。)。
① 裁判所構成法第4条の規定によれば,裁判所の設立,廃止及び管轄区域並びにその変更は法律を以て定めるべきものとされていますが,戦局の進展に伴い交通,通信,人口状況の変化等に応じて,これを急速に変更する方法を設けるために,これらの事項を勅令に委任することを適当と考えますので,この点の改正をするものであります。
② 現在,地方行政協議会がございますが,近くそれが地方総監府の設置を見るのではないかと思うのでありますが,左様にいたしますと,四国は香川県に現在でも一つの協議会がございますが,その場所を中心に四国を一つのブロックとして,すべてのものを国内体制を整えることになっておりますので,どうしても控訴院を協議会のある場所に一致させ,また,管轄区域を一致させておく必要があるのではないかということを考えております。
   また,管轄区域も,例えば,静岡県のごとき,現在,東京控訴院の管轄に属しておりますが,あるいはこれを名古屋控訴院管内にも移転する必要がありはしないか,これは戦時情勢に応じて,あるいは管轄区域の変更が急速に必要を生じる場合があるのではないかということを実は考えております。
③ 九州方面の空爆を受ける場所から見ましても,あるいは区裁判所あたりの廃止,設立,管轄区域の変更等の必要な場合を生じるのではないかと考えます。
④ 長崎の控訴院を福岡に移転するかどうかは,敵の九州に対する攻撃の状況等によって判断しなければならないのであります。
   少なくとも,検事局は管内の治安を確保するという立場から,大体において行政協議会の所在地,あるいは軍司令部等の所在地と一致させる必要が痛切にあると思いますから,戦時であるがゆえに,長崎の控訴院を福岡に移転させる必要が出てくるのではないかということを考えております。
   しかし,まだ事態がそこまでに至っておりませぬから,いつどうするということを今あらかじめお約束することは無論できません。
(2) 斎藤直一司法省民事局長は,昭和20年6月9日の貴族院裁判所構成法戦時特例中改正法律案特別委員会において以下の答弁をしています(現代語訳にするなどしています。)。
① 裁判所構成法戦時特例第1条の戦時におけるという一般規定が適用されます結果,改正案第1条ノ2に基づく勅令(山中注:高松控訴院ノ設立等ニ関スル件(昭和20年8月1日公布の勅令第443号)のこと。)によりまして,例えば,裁判所の設立や,管轄区域の変更がなされたとしても,やはり戦時終了の際には効力を失うことになります。
   しかし,裁判所構成法戦時特例の附則に,戦時終了の際において,必要な経過規定を勅令を以て定めるという規定がございますので,そのときの情勢によりまして,戦時中勅令に基づき行った裁判所の設立とか,管轄区域の変更とかが,そのまま,なお続けて行う必要があるような場合には,この附則の規定により,勅令でさらにそれを継続することとなり,その後の議会が開かれた機会に,なお必要であれば法律を以てそれをさらに続けていくことになります。
   そうでない限り,戦時終了とともに,また元の法律による設立,管轄区域等の昔の状態が復活する,このように解釈すべきものと存じております。
② 地方行政協議会のある場所がすべて地方の中心地になり,すべての政策なり施策なり政治がその場所で行われますから,もとより裁判所は行政の直接干渉をうけるものではありませぬが,同じ場所にあった方が何かと便利かと存じまして,そういう考え方もあるということを申し上げたのであります。

3 地方行政協議会及び地方総監府 
(1) 地方行政協議会は,地方行政の円滑化を目的とし,知事を主な構成員とした協議体であって,地方行政協議会令(昭和18年7月1日公布の勅令第548号)に基づき,同日,全国9箇所に設置され,その後,8箇所に設置された協議会です(四国における当初の設置場所は愛媛県でした。)。
(2)ア 地方総監府は, 本土決戦に伴う国土分断の危機を予想し,地方行政の統合と連絡調整を目的として設置された応急的な地方機関であって,地方総監府官制(昭和20年6月10日勅令第350号)に基づき,同日,全国8箇所に設置され,昭和20年11月6日に廃止されました。
イ Wikipediaの「地方総監府」には以下の記載があります。
   各総監府は所在地の地方官庁とは別個の行政組織とされ、またその長たる地方総監の権限は強大で、管内にある都道府県知事への指揮権(地方官庁の首長による命令・処分に対する取り消し・停止を含む)、管内における地方総監府令の公布権、非常事態に際しての当該地方の陸軍・海軍司令官に対する出兵要請権などを有していた。しかし現実には空襲の激化にともない、管内知事の会合を開くこともできず、中央と各府県を連絡する機関以上の役割を果たすことはなかった。敗戦直前の8月6日には、原爆投下により大塚惟精中国地方総監が被爆死したが、これが地方総監中唯一の戦災死者であった。

4 下級裁判所の設立及び管轄区域に関する政府答弁(昭和22年3月28日)
(1) 木村篤太郎司法大臣は,昭和22年3月28日の貴族院検察庁法案特別委員会において以下の答弁をしています(ナンバリング及び改行を追加したり,旧字体を新字体に変えたりしています。)。
① 「下級裁判所の設立及び管轄区域に関する法律案」に付て御説明申上げます、高等裁判所及び地方裁判所の設立及び管轄区域に付きまして申上げますると、之を従前の控訴院及び地方裁判所と比較致しますれば、従前の控訴院所在地七箇所の外に、高松市にも高等裁判所を設けまして、四国四地方裁判所管内を統一して、其の管轄区域としたこと、大阪高等裁判所は、従前の大阪控訴院の管轄区域より、高松、徳島、高知の三裁判所の管内を失ひ、広島高等裁判所は従前の広島控訴院の管轄区域より松山地方裁判所の管内を失つたこと、東京民事、刑事の両地方裁判所が併合されまして一個の地方裁判所となつたのであります、
   又樺太、那覇の二つの地方裁判所が除かれたことが、從來と相違致して居りまするが、其の他は大体同じであります、
   高松市に高等裁判所を設けましたことは、従来四国が二控訴院の管下に二分されて居りまして、現地に諸種の不便を与えて居りましたので、此の度此の不便を除去する為に、同一状況下にある四国四県を統一致しまして、一高等裁判所の管下に置くことに致したのであります、
   尚今回設立することと致しました高等裁判所及び地方裁判所の名称は、総て所在地名を冠することと致しましたので、仙台市に設立される高等裁判所は仙台高等裁判所、津市に設立される地方裁判所は津地方裁判所となつて居ります、
② 簡易裁判所の設立及び管轄区域に關しましては、簡易裁判所が刑事訴訟法の改正に依りまして、治安の確保に極めて重要な任務を担当致しますることと、其の数も数百に及びまする関係から、慎重に現地の事情を調査して、之を檢討の上決定しなければなりませぬので此の度は此の法案の規定に基いて、之を暫定的に政令で規定することに致したのであります、
   新憲法施行後の最初の国会には必ず簡易裁判所の設立及び管轄区域を定めた改正法案を提出する積りであります
(2) 仙台高裁の前身は宮城控訴院であり,津地裁の前身は安濃津地裁です。
(3)ア 1879年4月4日設置の沖縄県を管轄区域とする那覇地裁は,那覇地方裁判所及那覇区裁判所設置法(明治24年12月26日公布の法律第5号)に基づき同日に設置され,1945年3月26日開始の沖縄戦によって消滅しました。
イ 日本がポーツマス条約(1905年9月5日調印)9条に基づき取得した北緯50度以南の南樺太(みなみからふと)を管轄区域とする樺太地裁は,樺太地方裁判所及同管内二区裁判所設置ニ関スル法律(明治40年3月29日公布の法律第28号)に基づき1907年4月1日に設置され,1945年8月9日開始のソ連対日参戦に伴う樺太の戦いによって消滅しました。
ウ 1945年2月11日のヤルタ会議で署名され,1946年2月11日にアメリカ国務省によって発表されたヤルタ協定には「2 1904年の日本国の背信的攻撃により侵害されたロシアの旧権利が次のとおり回復されること。(a) 樺太の南部及びこれに隣接するすべての諸島がソヴィエト連邦に返還されること。」とか,「3 千島列島がソヴィエト連邦に引き渡されること。 」などと書いてあります。
(4) 昭和22年7月18日法律第89号によって,下級裁判所の設立及び管轄区域に関する法律(昭和22年4月17日法律第63号)に,簡易裁判所の設立及び管轄区域に関する事項が追加されました。

5 その他
(1) 大正初期から長崎,福岡,熊本及び佐賀は長崎控訴院の移転問題を巡って争っていましたが,1921年11月,政府は長崎控訴院移転改築の保留を閣議決定したため,移転問題は一旦,立ち消えとなっていました(福岡市HPの「(2)「高等裁判所」の誘致合戦 (福岡,熊本,佐賀,長崎) 」参照)。
(2) 明治憲法時代,大阪控訴院管内の地裁は,京都地裁,大阪地裁,神戸地裁,大津地裁,奈良地裁,和歌山地裁,徳島地裁,高松地裁,高知地裁という順番で記載されていました(赤字部分が現代と異なります。)
(3)ア 長崎市への原子爆弾の投下目標は,市街地の中心を流れる中島川にかかる常盤橋(ときわばし)でしたが,1945年8月9日当日は長崎市内が雲に覆われていたためにこの場所への目視投下ができず,結果として北西に3.4km離れた松山町に投下されました。
イ グーグル検索によれば,長崎地裁から常盤橋(長崎県)まで徒歩5分の距離です。
ウ 1945年7月24日,同年6月14日に除外された京都市の代わりに長崎市が原子爆弾投下目標に加えられ,同月25日,広島,小倉,新潟及び長崎が原子爆弾投下目標となりました(Wikipediaの「日本への原子爆弾投下」参照)。
(4) 「明治憲法時代の親任官,勅任官,控訴院及び検事局」も参照してください。

百日裁判事件(公職選挙法違反)

「百日裁判事件処理に関する執務資料(平成13年度版 含,百日裁判事件概説)」の「第1部 百日裁判事件概説」には以下の記載があります。

第1 百日裁判の対象
   以下の記述は,公刊物等に登載された公職選挙法の解説のうち百日裁判に関する部分を当刑事局(山中注:最高裁判所事務総局刑事局)で取りまとめたものである。
1 百日裁判の意義
   公職選挙法(以下,単に「法」という。)は,法253条の2第1項において, 当選人や選挙運動の総括主宰者ら(いわゆる連座対象者)による一定の選挙犯罪事件については,訴訟の判決は,事件を受理した日から百日以内にこれをするように努めなければならないと定めている。これに基づいて行われる裁判を一般に百日裁判と呼んでいる。
   百日裁判の対象となる事件は,大きく分けると,
① 当選人の選挙犯罪
② 法251条の2第1項各号に掲げる総括主宰者,出納責任者,地域主宰者,公職の候補者等の親族,公職の候補者等の秘書の選挙犯罪
③ 法251条の3第1項に掲げる組織的選挙運動管理者等の選挙犯罪
④ 法251条の4第1項各号に掲げる公務員等の選挙犯罪
の4つに分けられる。このうち②~④は,公職の候補者(以下,単に「候補者」という。)以外の者による選挙犯罪であり,その有罪判決の効果が当選無効(②,③は立候補制限も含む) という形で当該候補者に及びうるとされていることから,一般に連座対象者の選挙犯罪と呼ばれている(連座制)。
   百日裁判の規定が設けられた趣旨は, 当選無効等の効果を生じさせるこの種の事件については,できる限り速やかに裁判を終了して,選挙結果の早期安定を図るとともに, 当選無効等の効果に実効性をあらしめる点にあるとされている。
※ 法213条は,選挙等の効力に関する訴訟の判決【①選挙の効力に関する訴訟の裁判,②当選人の当選の効力に関する訴訟の裁判,③連座制の適用による当該候補者の当選無効及び立候補制限に関する訴訟の裁判(連座裁判)】についても事件を受理した日から百日以内に判決するように努めなければならないとしており, これについても百日裁判と呼ばれることがある。
2 百日裁判の対象となる事件
(1)  当選人の選挙犯罪
ア 百日裁判の対象となる選挙犯罪の種類
   当選人については,公職選挙法16章に掲げるすべての罪のうち次の条文に記載される罪を除き,百日裁判の対象となる。
・235条の6 (あいさつを目的とする有料広告の制限違反)
・245条(選挙期日後のあいさつ行為の制限違反)
・246条(選挙運動に関する収入及び支出の規制違反)第2~9号
・248条(寄附の制限違反)
・249条の2 (公職の候補者等の寄附の制限違反)第3~5項, 7項
・249条の3 (公職の候補者等の関係会社等の寄附の制限違反)
・249条の4 (公職の候補者等の氏名等を冠した団体の寄附の制限違反)
・249条の5 (後援団体に関する寄附等の制限違反)第1項, 3項
・252条の2 (推薦団体の選挙運動の規制違反)
・252条の3 (政党その他の政治活動を行う団体の政治活動の規制違反)
・253条(選挙人等の偽証罪)
イ 百日裁判の規定の適用除外の有無
   当選人の場合,公職選挙法に規定するすべての選挙(※1)におけるア記載の選挙犯罪につき百日裁判の規定の適用がある。
   これに対し,選挙犯罪を犯した当選人が起訴前に辞職した場合, あるいは,落選者についての選挙犯罪事件は百日裁判としては取り扱う必要はないと解されている。また,起訴後に当選人が辞職した場合には, それ以降百日裁判として処理する必要がないと解されている(※2)。これは,当選人本人の選挙犯罪の場合,百日裁判実施の目的は法251条に定める当選人の当選無効の効果を実効あらしめることにあり,既に当選人が辞職したり,あるいは候補者が落選している場合は,その実施目的が消滅していると考えられることが理由とされている(※3)。
※1 公職選挙法に規定されるすべての選挙とは,衆議院小選挙区選出議員選挙(衆議院小選挙区選挙),同比例代表選出議員選挙(衆議院比例区選挙),同小選挙区。比例代表選出議員並立選挙(衆議院重複立候補選挙),参議院選挙区選出議員選挙(参議院選挙区選挙),同比例代表選出議員選挙(参議院比例区選挙),地方公共団体の議会の議員及び長の選挙である。
※2 この場合も,当該審級限りにおいて,百日裁判の処理に関する調査票を作成する取扱いがなされている。
※3 百日裁判の規定の適用がなくなることにより,裁判が長引き,被告人が裁判中に次期選挙に立候補し, 当選するという事態が生じうることになる。しかし,一部の例外を除き当該選挙犯罪事件につき有罪判決が確定すれば,法252条により被選挙権が停止され,その確定時期が次期選挙の当選告知等により議員又は長の身分を取得する前であれば,法99条により当選失格となり,身分取得後であれば,国会法109条,地方自治法127条, 143条によりその身分を失う。
ウ 選挙犯罪事件の刑が確定した場合の効果
   法251条は, 当選人がアの対象選挙犯罪を犯し, 「刑に処せられたときは,その当選人の当選は,無効とする」として, 当選無効をその効果として規定している。ここでいう 「刑に処せられた」とは,刑が確定したことをいい.執行猶予が付された場合も含まれる。
※ 後述する連座対象者による選挙犯罪の場合とは異なり,当選人自らの選挙犯罪の場合には,立候補制限(同一選挙区の同一選挙における5年間の立候補の制限)は科せられない。これは,当選人の選挙犯罪について刑力職定すれば,法252条の規定によって,当選人は選挙権及び被選挙権を5年の期間停止(ただし,情状により停止免除,あるいは期間減縮となる場合がある。)され,事実上立候補制限と同様の効果が発生するからであろうと説明されている。
(2) 法251条の2第1項各号に掲げる総括主宰者,出納責任者,地域主宰者,候補者等の親族,候補者等の秘書の選挙犯罪
ア 意義
(ア) 総括主宰者(法251条の2第1項1号)
   特定の候補者を当選させる目的で, その選挙運動に関する諸般の事務を事実上総括指揮し,実質において選挙運動の中心的勢力を形成した者である。いわゆる選挙事務長,選挙参謀等と呼ばれているものがこれに当たることが多いと思われるが,総括主宰者は届出制ではないので,その者が総括主宰者に当たるかどうかは,現実に行われた選挙運動の実情に即して実質的に判断きれなければならない(最判昭43.4.3刑集22巻4号167頁参照)。
   なお,上記最高裁判決は, ここでいう選挙運動とは,当該候補者が正式の立候補届出又は推薦届出により候補者としての地位を有するにいたってから以後に行われたものを指称すると解するの力湘当であるとしている。
(イ) 出納責任者(同2号)
   公職選挙法上,出納責任者とは,候補者によって選任された選挙運動に関する収入及び支出の責任者とされ, この者の氏名等は,選挙管理委員会に届け出なければならないものときれている(法180条)。出納責任者は,候補者によって選任される者であるから候補者の立候補届出前又は推薦届出前の段階では存在しない。
   また,本号では候補者又は届出のあった出納責任者と意思を通じて選挙運動費用の法定限度額の2分の1以上に相当する額を支出した者も連座対象者とされている。これは,届出のあった形式上の出納責任者の影に居て,選挙費用の収支に関する実権を握り,現実の収支をした事実上の出納責任者についても罰則(第16章)の関係では,出納責任者と同様に処罰する場合がある(法221条3項3号等参照)ことを受けたものである。
(ウ) 地域主宰者(同3号)
   3以内に分けられた選挙区(選挙区がないときは,選挙の行われる区域)の地域のうち1又は2の地域における選挙運動を主宰すべき者,すなわち,分けられた地域のうちの1又は2の地域内の全地域について,その候補者のための選挙運動に関する支配権を有すべき者として,候補者又は総括主宰者から定められ,当該地域における選挙運動を主宰した者をいう。
   「3以内」とは選挙区が2又は3に分けられていれば,原則として分けられた地域の広狭は問わない。
   「候補者又は総括主宰者から定められた」とは,文書による任命や委嘱という要式行為を必要とする趣旨ではない。口頭での依頼を受けて応諾した場合はもちろん,その者が候補者又は総括主宰者と意思を通じて, これと密接に連絡を取りつつ,動いているような客観的な事実があれば,地域主宰者に該当するとされている。
(エ) 候補者等の親族(同4号)
   候補者又は候補者になろうとする者(以下後者を「立候補予定者」といい,両者あわせて「候補者等」という。)の父母,配偶者,子又は兄弟姉妹で,候補者等,総括主宰者又は地域主宰者と意思を通じて選挙運動をした者をいう。養親子関係はここにいう親族に当たるが, 内縁関係は当たらない。また,姻族は含まれない。
   「意思を通じて」とは,選挙運動をすることについて意思を通じるという意味で,買収等の個々の選挙犯罪を行うことについてまで意思を通じる必要はない。また,明示の意思の疎通に限らず,黙示の意思の疎通も含まれる。
※ 法251条の2第1項4号の親族及び後述する5号の秘書は, _候補者が立候補する前の段階から生じている身分であり立候補予定者のための選挙運動に関する選挙犯罪も当然に想定されているから,法は, これらも連座制の適用犯罪(百日裁判の対象)に含めている。
   なお,後述する組織的選挙運動管理者等についても,立候補予定者のための選挙運動に関する選挙犯罪が連座制の適用犯罪(百日裁判の対象)とされている点については,親族らと同様である。
(オ) 候補者等の秘書(同5号)
   秘書(候補者等に使用される者で, 当該候補者等の政治活動を補佐する者)で,候補者等,総括主宰者又は地域主宰者と意思を通じて選挙運動をした者をいう。
   秘書に当たるかどうかは,その実態から判断すべき事項であり, 当該人と候補者等の間に雇用関係が存在している必要はない。例えば,政党職員の身分であっても,実質的に候補者等の意思を受けて行動していればこれに当たることになる。ただし,「補佐」するとあることから,単なる事務上の手足としての助力では足りず,一定程度の裁量をもって事務を遂行すること,あるいは, スタッフ的な助言をすることが必要になると解されている。
   なお, 当該候補者等の承諾又は容認のもとに候補者等の秘書という名称又はこれに類似する名称を使用する者については,連座制の適用につき秘書と推定される旨の規定がある(法251条の2第2項)。
イ 百日裁判の対象となる選挙犯罪の種類
   以下の選挙犯罪が百日裁判の対象となる。
・ 221条(買収及び利害誘導罪)
・ 222条(多数人買収及び多数人利害誘導罪)
・ 223条(公職の候補者及び当選人に対する買収及び利害誘導罪)
・ 223条の2 (新聞紙, 雑誌の不法利用罪)
   なお,出納責任者((事実上の出納責任者を除く) については, 247条(選挙費用の法定額違反) も百日裁判の対象となる。
※ 総括主宰者,出納責任者,地域主宰者は,法221条ないし223条の2の選挙犯罪については,その身分があることにより刑が加重されるいわゆる加重的身分となっている(法221条3項,222条3項, 223条3項, 223条の2第2項)。
ウ 百日裁判の規定の適用除外の有無
(ア) 衆議院比例区選挙における選挙犯罪については,百日裁判の規定の適用がない。
   衆議院比例区選挙については,法251条の2第5項に,連座制が適用されない旨の除外規定がある。比例区選挙は,政党選挙であり,選挙人は,候補者個人ではなく,政党に投票し,政党の獲得した議席数に従って,当選人が決まる。このような選挙では, 仮にある政党の選挙事務長(総括主宰者であるとする。)が買収罪を犯した場合, それがどの名簿登載者の当選に寄与したのか明確ではない。ここに,連座制を適用すると,考え方によっては, 当該政党が届出する衆議院名簿登載者すべてについて当選無効等の効果を及ぼさねばならないことにもなるが, これではあまりに選挙人の意思を不当に歪める結果となり,著しく妥当性を欠くと考えられることがその理由とされている。
   ところで,参議院比例区選挙については,従前は衆議院と同様に連座制が適用されず,同選挙における選挙犯罪も百日裁判の規定が適用されていなかったが,平成12年11月29日公布の同年法律第130号による公職選挙法の改正により,投票の方式が候補者の氏名と政党等の名称のいずれを記載してもよいことになった。そのため,連座制を適用すべき候補者の特定が可能となり,参議院比例区選挙が連座制の適用対象選挙に加えられ,その選挙犯罪は,百日裁判で行われることになった。
(イ)  当選人自身による選挙犯罪の場合と異なり,候補者が落選し,又は当選後に辞職した場合であっても,前記切に記載された選挙における選挙犯罪は,百日裁判として処理される。これは,法251条の2第1項各号の連座対象者の選挙犯罪にかかる連座制は,その効果として当選無効のみならず,立候補制限の効果もあるから,候補者が落選又は辞職した場合であっても,百日裁判を実施して,立候補制限の効果を早期に確定させ, 当該候補者の次期選挙における立候補,当選を防ぐ必要があることが理由とされている。
エ 選挙犯罪事件の刑が確定した場合の効果
   法251条の2第1項各号の連座対象者が所定の選挙犯罪を犯し,刑に処せられたとき(※1)には,連座訴訟(※2)の結果等を待って,①当該候補者等の当選無効,②同人の今後5年間の同一選挙区における同一選挙の立候補制限(※3 以下単に「立候補制限」という)の連座制の効果が発生する(法251条の2第1項)。
   さらに,衆議院重複立候補選挙において, 当該候補者等が小選挙区で落選したものの,比例区で当選し,かつウ小選挙区選挙でその連座対象者が選挙犯罪を犯し刑に処せられた場合には, 当該候補者等につき,小選挙区選挙での立候補制限の効果が発生するほか,③比例区選挙の当選も無効となるという特別効(波及効※4)が発生する
(法251条の2第1項後段)。
※1 「刑に処せられた」とは,当選人の選挙犯罪の場合と同様,刑が確定した場合を指し,執行猶予付の判決が確定した場合も含む。総括主宰者,出納責任者及び地域主宰者については「罰金以上の刑」が確定した場合が,親族及び秘書については「禁鍜以上の刑」が確定した場合が,それぞれ連座制の効果の発生要件とされている。
※2 連座訴訟と免責
(ア) 連座訴訟とは,連座対象者が選挙犯罪を犯しその者につき有罪判決が確定した場合に, 当該候補者等に連座制の効果を発生させるために行われる行政事件訴訟である(法210条,211条)。候補者等は,連座訴訟の中で連座身分の不存在や免責事由を主張して連座制の効果の発生を争うことができる。
(イ) 免責
   法251条の2第1項各号の連座対象者の選挙犯罪が「おとり」又は「寝返り」によって行われた場合には,連座制の効果の一部を生じさせないと規定されている(同条第4項)。
   「おとり」とは,当該候補者等に対し,当選無効又は立候補制限の効果を生じさせることを目的として,他の候補者等の陣営と意思を通じて,当該候補者等の連座対象者を誘導し又はこれを挑発して,選挙犯罪を行わせることを指し, 「寝返り」とは, 当該候補者等に対し,当選無効又は立候補制限の効果を生じさせることを目的として,当該候補者等の連座対象者斌他の候補者等の陣営と意思を通じて,選挙犯罪を行うことを指す。
   連座制の効果のうち免責が認められるのは,当該候補者等に対する立候補制限の効果及び衆議院重複立候補選挙の場合における比例区選挙の当選を無効とする効果(波及効)についてのみであって, 当該候補者等の当該選挙の当選無効については免責されない。これは,法251条の2第1項各号の連座対象者の選挙犯罪によって当該候補者等が当選無効となるのは, このような選挙において主要な地位を占める者が買収罪等の悪質な選挙犯罪を犯した場合,その選挙全体が客観的には不公正な方法で行われたとの推認が成り立ちうるからであるところ, その制度目的に照らすと,たとえ「おとり」などの当該候補者等に帰責できない事由があっても,それらの者により買収等が行われた以上,同様の推認が成り立ち得るから当選無効の効果を発生させるべきであると考えられたことによるとされている。
※3 立候補制限の効力は,平成6年の公職選挙法の一部改正の際に盛り込まれたものである。それまでも連座制による当選無効の制度はあったが,裁判が遅延すると,任期満了等により当選無効は空振りになることが起こり得ること,及び連座対象者による選挙犯罪の場合252条に基づく被選挙権の停止の効力は,あくまで連座対象者自身について生じ,当該候補者等には事後の立候補に何らの制限も課せられていなかったことから,連座制の効果としての当選無効の制度の実効性を確保することを主な目的として,連座制の効力に,立候補制限の効力が付加されたとされている。
※4 波及効は,小選挙区選挙において行われた選挙犯罪の効果が,別選挙だからという理由で比例区選挙には及ばず,当該候補者が比例区選挙の当選人として議員等の地位にあり続けるという不都合を是正すべく,平成6年の改正の際に採り入れられた制度である。小選挙区での当選無効を補完するためのものとされており,比例区選挙についての立候補制限の効果までは含まれていない。
(3) 組織的選挙運動管理者等(法251条の3第1項)の選挙犯罪
ア 意義
   組織的選挙運動管理者等とは,候補者等と意思を通じて組織により行われる選挙運動において,
(ア) 選挙運動の計画の立案若しくは調整を行う者
(イ) 選挙運動に従事する者の指揮若しくは監督を行う者
(ウ) その他選挙運動の管理を行う者
である(ただし,総括主宰者,出納責任者,地域主宰者を除く)。
   「組織」とは,特定の候補者等を当選させる目的をもって,複数の人が,役割を分担し,相互の力を利用し合い,協力し合って活動する実態をもった人の集合体及びその連合体をいうと解されており,例えば,政党,政党の支部,政党の青年部・婦人部,候補者等の後援会,系列の地方議員の後援会,協力支援関係にある首長の後援会,地元事務所,選挙事務所,政治支援団体,選挙支持母体等がこれに当たるほか,本来選挙活動以外の目的で存在する会社,労働組合,宗教団体,業界団体,青年団,同窓会,町内会等も,特定の候補者等を当選させる目的をもって,役割を分担し,協力し合って選挙運動を行う場合には,「組織」に当たると解されている。
   選挙運動力喉補者等と意思を通じて組織として行われることが要件とされているが, その組織の総括的立場にある者と候補者等との間に選挙運動を行うことについての意思の連絡が認められれば足り,候補者等と組織的選挙運動管理者等との間には, そのような意思の連絡は不要ときれている。
イ 百日裁判の対象となる選挙犯罪の種類
   法251条の3第1項に規定されており,前記の法251条の2第1項各号の連座対象者と犯罪の種類は同様である(ただし,法247条の出納責任者による選挙費用の法定額違反は対象外となる。)。
ウ 百日裁判の規定の適用除外の有無
   法251条の2第1項各号の連座対象者の場合と同様である。
(ア) 衆議院比例区選挙における選挙犯罪については,百日裁判の規定の適用がない(法251条の3第3項参照)。
(イ) 候補者等が落選し,又は当選後に辞職した場合であっても百日裁判の規定が適用される。
エ 選挙犯罪事件の刑が確定した場合の効果
   その犯した選挙犯罪につき禁錮以上の刑(執行猶予の言渡しを受けた場合を含む。)が確定した場合に,連座訴訟の結果を待って,①当該候補者等の当選無効,②同人に対する立候補制限の効果が生じ(法251条の3第1項前段),③衆議院重複立候補選挙については,小選挙区選挙で連座制が適用された場合に比例区選挙の当選無効の効果(波及効)が生じる(同項後段)。
※ 免責
   組織的選挙運動管理者等に関しても,当該選挙犯罪が「おとり」又は「寝返り」によって行われた場合には候補者等は免責される旨の規定が設けられている(法251条の3第2項1号, 2号)。また,候補者等がその組織的選挙運動管理者等が選挙犯罪を犯すことを防止するための「相当の注意を怠らなかった」場合も免責の適用があると規定されている(法251条の3第2項3号)。
   組織的選挙運動管理者等にかかる連座制は,平成6年の公職選挙法の一部改正の際に,候補者等に対して選挙浄化に関する厳しい責任を負わせ,候補者等の自らの手で徹底的な選挙浄化を行わせることにより腐敗選挙の一掃を図ることを目的として導入された制度であり,それまでの連座制と異なる新しい類型であるとされているが, その目的との関連から,候補者等が選挙浄化に向けて相当な注意を怠らなかったときや,当該選挙犯罪が「おとり」, 「寝返り」によって行われたような場合には,連座制を適用させる必要はないと考えられたことによるものと思われる。
   なお,免責の効果については,法251条の2第1項各号の連座対象者の選挙犯罪の場合と異なり,組織的選挙運動管理者等の選挙犯罪に関して免責が認められた場合には,連座制の効果のすべて,すなわち,立候補制限の効果と衆議院重複立候補選挙の場合の波及効の効果のみならず,候補者等の当該選挙の当選無効の効果についても発生しないと規定されている(法251条の3第2項)。
(4) 公務員等(法251条の4第1項各号)の選挙犯罪
ア 意義
   本条の連座対象者は,以前,国又は地方公共団体の公務員特定独立行政法人の役員又は職員及び公団等の役職員等(国会議員並びに地方公共団体の議会の議員及び長の職にある者を除く。)であった者が, その職を離れた日以後3年以内に行われた衆議院又は参議院議員選挙(国政選挙)のうち最初に立候補した選挙で当選した場合(※)に
① その当選人と, 同人が離職する前3年間に就いていた職の後任者,直系の上司又は部下の関係にあり, その当選人から当該選挙に関し,直接指示又は要請を受けた者
② その当選人と, 同人が離職する前3年間に就いていた職の直系の上司又は部下の関係にあり,①の者からその当選人の当該選挙に関し,指示又は要請を受けた者
③ その当選人と,同人が離職する前3年間に就いていた職と同種であり,かつ,その処理に関しこれと関係がある事務に従事する地方公共団体の公務員,特定独立行政法人の役員又は職員及び公団等の役職員等で, 当選人又は①及び②の者から当該選挙に関し,指示又は要請を受けた者
   である。
※ 離職後3年以内に2度の国政選挙に立候補して, 2度目に当選した場合は,本条の対象には含まれないが,国政選挙への立候補が初めてであれば,すでに国政選挙以外の選挙に立候補している場合であっても本条の対象となる。
イ 百日裁判の対象となる選挙犯罪の種類
法251条の4第1項に規定されており,前記組織的選挙運動管理者等で掲げた犯罪のほか,以下の選挙犯罪も百日裁判の対象となる。
・225条(選挙の自由妨害罪)
・226条(職権濫用による選挙の自由妨害罪)
・239条(事前運動,教育者の地位利用,戸別訪問等の制限違反) 1項1号, 3号,4号
・239条の2 (公務員等の選挙運動等の制限違反)
ウ 百日裁判の規定の適用除外の有無
(ア) 国政選挙における選挙犯罪のみが百日裁判の対象と.なるが,政党選挙である衆議院比例区選挙における選挙犯罪については,他の連座対象者の場合と同様,百日裁判の規定の適用はない(法251条の4第2項)。
(イ) 候補者が落選した場合を含まないことは条文から明らかであるが,連座制の効果が当選無効のみであることからすれば,当選人による選挙犯罪の場合と同様,辞職した場合には当該事件につき百日裁判として処理する必要はないと解される。
エ 選挙犯罪の刑力蠅定した場合の効果
   その犯した選挙犯罪につき罰金以上の刑(執行猶予の言渡しを受けた場合を含む。)が確定した場合に,連座訴訟の結果を待って,当該候補者の当選無効の効果が生ずる。他の連座対象者の場合と異なり,連座制の効果には立候補制限の効果は含まれておらず,衆議院重複立候補選挙における比例区選挙の当選無効(波及効)の規定もない。免責の規定も存在しない。

   別紙1「百日裁判対象範囲表」,別紙2「衆議院小選挙区・比例代表選出議員並立選挙における百日裁判対象範囲表」,別紙3「選挙犯罪の刑が確定した場合の効果と免責の有無及び免責事由」参照。

(以下の記載は私独自の記載です。)
*1 刑事事件の処理について定める公職選挙法253条の2は以下のとおりです。
① 当選人に係るこの章に掲げる罪(第二百三十五条の六、第二百三十六条の二、第二百四十五条、第二百四十六条第二号から第九号まで、第二百四十八条、第二百四十九条の二第三項から第五項まで及び第七項、第二百四十九条の三、第二百四十九条の四、第二百四十九条の五第一項及び第三項、第二百五十二条の二、第二百五十二条の三並びに第二百五十三条の罪を除く。)、第二百五十一条の二第一項各号に掲げる者若しくは第二百五十一条の三第一項に規定する組織的選挙運動管理者等に係る第二百二十一条、第二百二十二条、第二百二十三条若しくは第二百二十三条の二の罪、出納責任者に係る第二百四十七条の罪又は第二百五十一条の四第一項各号に掲げる者に係る第二百二十一条から第二百二十三条の二まで、第二百二十五条、第二百二十六条、第二百三十九条第一項第一号、第三号若しくは第四号若しくは第二百三十九条の二の罪に関する刑事事件については、訴訟の判決は、事件を受理した日から百日以内にこれをするように努めなければならない。
② 前項の訴訟については、裁判長は、第一回の公判期日前に、審理に必要と見込まれる公判期日を、次に定めるところにより、一括して定めなければならない。
一 第一回の公判期日は、事件を受理した日から、第一審にあつては三十日以内、控訴審にあつては五十日以内の日を定めること。
二 第二回以降の公判期日は、第一回の公判期日の翌日から起算して七日を経過するごとに、その七日の期間ごとに一回以上となるように定めること。
③ 第一項の訴訟については、裁判所は、特別の事情がある場合のほかは、他の訴訟の順序にかかわらず速やかにその裁判をしなければならない。
*2 以下の通達を掲載しています。
・ 公職選挙法違反被告事件の処理について(昭和27年12月15日付の最高裁判所事務総長通達)
・ 公職選挙法第二五三条の二関係事件の審理促進について(昭和28年5月13日付の最高裁判所事務総長通達)
・ 選挙法違反事件のうち受理,結果通知及び判決書謄本の送付を要する事件に関する取扱について(昭和29年3月22日付の最高裁判所訟廷部長事務取扱の通達)
・ 公職選挙法第二五三条の二関係事件特に国会議員その他の当選人が被告人である事件の審理促進について(昭和30年4月23日付の最高裁判所事務総長通達)
・ 公職選挙法第二五三条の二に該当する事件の記録の取扱について(昭和30年4月23日付の最高裁判所訟廷部長事務取扱通達)
・ 公職選挙法第二五三条の二関係事件の審理促進について(昭和33年7月18日付の最高裁判所事務総長通達)
・ 公職選挙法第二五三条の二関係事件の審理促進について(昭和34年7月28日付の最高裁判所事務総長通達)
・ 公職選挙法第二五三条の二関係事件の審理計画に関する試案について(昭和36年3月31日付の最高裁判所刑事局長通知)
・ 公職選挙法第二五三条の二関係事件の審理の促進について(昭和42年12月15日付の最高裁判所事務総長通達)
・ 衆議院議員又は参議院議員の資格に影響する裁判が確定した場合における衆議院議長又は参議院議長に対する通知について(平成5年10月18日付の最高裁判所事務総長の通達)
・ 公職選挙法第253条の2関係事件に関する法曹三者の合意について(平成6年3月18日付の最高裁判所刑事局長通知)
・ 公職選挙法第254条の2第1項に基づく通知書のひな型について(平成7年1月12日付の最高裁判所刑事局長の通知)
*3 「選挙違反者にとっての平成時代の恩赦」も参照してください。
*4 Wikipediaの「売春汚職事件」には以下の記載があります。
   立松記者逮捕事件(山中注:昭和32年10月24日,東京高検が立松和博 読売新聞社会部記者を名誉毀損容疑で逮捕した事件)の影響で、公安検察の首領・岸本(山中注:岸本義広東京高検検事長)は事実上失脚し、次期検事総長争いに敗れた。岸本は、馬場派(山中注:馬場義続法務事務次官を中心とする特捜検察派)への復讐を図るべく、1960年(昭和35年)11月に第29回衆議院議員総選挙に自民党公認候補として大阪5区から出馬し当選、法務大臣を目指す。
   報復を恐れた馬場は、これを迎え撃つ形で大阪地検特捜部に選挙違反に対する徹底的な捜査を命じ、戸別訪問等の軽微な公職選挙法違反を犯した末端運動員をも逮捕した末、遂には芋蔓式に岸本本人まで逮捕させた。この結果、岸本は議員辞職を余儀なくされ、失意の中で一審有罪判決の控訴中に1965年(昭和40年)に静養先で死亡した。

新63期の華井俊樹裁判官に対する平成25年4月10日付の罷免判決

   平成25年4月12日付の官報(第6025号8頁ないし11頁)の「裁判官弾劾裁判所 終局裁判」で公示された,新63期の華井俊樹裁判官に対する平成25年4月10日付の罷免判決は以下のとおりです(着色,太字等の加工は加えています。)。
   弁護人の主張において華井俊樹裁判官に有利な事情が一通り主張されていると思いますが,すべて排斥されました。
   
平成24年(訴)第1号 罷免訴追事件
判決
本 籍  岐阜県(以下,本HPでは記載省略)
住 居  大阪府枚方市(以下,本HPでは記載省略)
大阪地方裁判所判事補
華井俊樹
昭和59年9月26日生
主文
被訴追者を罷免する。
理由
第1 認定した事実
1 被訴追者の経歴
   被訴追者は、平成23年1月16日、判事補に任命され、同日付けで大阪地方裁判所判事補に補せられ、今日に至っている者である。
2 罷免事由に当たる被訴追者の行為
   被訴追者は、大阪地方裁判所判事補として勤務していた平成24年8月29日午前8時30分頃、大阪府寝屋川市早子町16番11号所在の京阪電気鉄道株式会社京阪本線(以下「京阪本線」という。)寝屋川市駅から同市萱島本町198番1号所在の同線萱島駅までの間を走行中の電車内において、乗客のAに対し、録画状態にした携帯電話機を右手に持って同女の背後からそのスカートの下に差し入れ、同スカート内の下着を動画撮影し、もって、人を著しくしゅう恥させ、かつ、人に不安を覚えさせるような方法で、公共の乗物における衣服等で覆われている人の下着を撮影したものである。
第2 証拠の標目
(括弧内の甲乙の番号は証拠等関係カードにおける裁判官訴追委員会請求証拠の番号を示す。)
全部の事実について
1 被訴追者の当公判廷における供述
2 「被審査裁判官華井俊樹の事情聴取書」と題する書面(乙4)
第1の1の事実について
1 被訴追者の司法警察員に対する供述調書写し(乙1)
2 履歴書写し(乙5)
第1の2の事実について
1 被訴追者の検察官に対する供述調書写し(乙3)及び司法警察員に対する供述調書写し(乙2)
2 菅昭裕の司法警察員に対する供述調書写し(甲2)、Aの司法警察員に対する供述調書写し(甲5)
3 現行犯人逮捕手続書(乙)写し(甲1)、「犯行日時場所の特定について」と題する書面写し(甲3)、「逮捕者、被害者による被害状況等の再現について」と題する書面写し(甲4)、電話聴取報告書写し(甲6、7)、「携帯電話機の領置経過について」と題する書面写し(甲8)、「被疑者華井俊樹が盗撮した画像の写真撮影について」と題する書面写し(甲9)「被疑者華井俊樹による犯行状況の再現について」と題する書面写し(甲11)
4 起訴状等写し(甲12)、略式命令写し(甲13)、証明書(甲14)
第3 法律上の判断
1 裁判官弾劾法第2条第2号該当性について
(1) 前提となる事実
   関係各証拠によれば、前記第1の2で認定した事実のほか、以下のような事実が認められる。
ア 本件行為に至る経緯等
   被訴追者は、平成23年1月に大阪地方裁判所に裁判官として勤務するようになり、通勤で京阪本線を利用するうちに、満員電車の中で近くにいる女性の下着を盗撮してみたいと思うようになり、平成23年の春頃から盗撮行為をするようになった。盗撮方法としては、写真だとシャッター音がするので、事前に動画撮影状態にしておいた携帯電話機をポケット等に忍ばせておき、満員電車の中で撮影の機会を狙い、人目につかないように、スカート丈の短い女性の背後から数秒間携帯電話機をかざして撮影するというものであった。その後、被訴追者は、平成23年10月に結婚したこともあり、その前後半年程度は盗撮行為を中断していたが、平成24年の4月に刑事部から民事部へ異動してから再び盗撮を行い始め、いずれ盗撮行為が発覚すれば取り返しのつかないことになると理解しながらも、これをやめることができず、同年5月から6月にかけては週に1回程度の頻度で繰り返すようになり、本件行為に至るまでに20回程度の同様の盗撮を行った。
イ 本件行為の状況
   被訴追者は、平成24年8月29日午前8時頃、出勤のため家を出て最寄駅の京阪本線香里園駅のホームで電車を待っていたところ、そのホーム上で電車を待っているスカートをはいた本件Aを発見し、今日はこのAを盗撮しようと思い、そのままAが立っている列の後ろに並んだ。その時いつものように盗撮の事前準備として携帯電話機の動画撮影を開始し、ズボンの右ポケットに忍ばせておいた。続いて、電車の扉が開いてAが電車に乗り込んだので、被訴追者もその後について乗ったが、その時車内は、満員といえる状態ではなく、盗撮行為をするには人目につくと思ったため、すぐには盗撮を開始せず、持ってきていた小説を#から取り出し、左手で持ち読み始めた。その後、電車が次の寝屋川市駅に停車し、車内が混雑してきた頃を見計らって盗撮を開始することにし、電車が次の萱島駅に到着するまでの間に左手で小説を開いたままの状態で、やや膝を折り、身体を前かがみにして、右手をAのスカートの下に伸ばして盗撮を行った。その際、スカートの中に携帯電話機を差し入れたのはほんの数秒間であったが、撮影中はレンズの横に付いた照明が白色に点灯するので、その光が漏れないように人差し指で押さえ、数秒後、再び手を元の位置に戻し、また盗撮する機会を狙っていた。このような経緯で、本件被訴追者は、前記第1の2記載の事実の行為に及んだものである。
ウ 刑事事件の経緯
   被訴追者は、本件行為について、電車が萱島駅に到着した時、同じ電車内にいた男性に、大阪府公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(以下「迷惑防止条例」という。)違反の罪で現行犯逮捕され、平成24年8月30日に処分保留で釈放されたが、同年9月10日、大阪区検察庁が大阪簡易裁判所に対し、略式命令を請求し、同日、同裁判所は、被訴追者に対し、求刑どおりの罰金50万円の略式命令を発令し、同月25日、同命令は確定した。
(2) 「裁判官としての威信を著しく失うべき非行」の意義
   次に、裁判官弾劾法第2条第2号に規定する「裁判官としての威信を著しく失うべき非行」の意義について検討する。
   裁判とは、対等な私人間の社会関係上の紛争の解決や公権力を有する国家と国民との間の紛争を解決すること等を目的とする国家の権能であり、その基盤には一般国民の裁判に対する信頼を確保する必要があることは言うまでもない。
   日本国憲法は、三権分立を憲法上の大原則とすると共に、司法権の行使が兎角、行政権等の国家権力の干渉を受けやすいという人類共通の歴史的体験に鑑み、第76条第1、2項において、「すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。特別裁判所は、これを設置することができない。行政機関は、終審として裁判を行ふことができない。」と規定して司法権の独立を謳い、その第3項において「すべて裁判官は、その良心に従ひ、独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。」として裁判官の職務行使の独立性を明文化し、司法権の独立を保障する制度を設けている。
   さらに一歩進めて日本国憲法第78条は、「裁判官は、裁判により、心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合を除いては、公の弾劾によらなければ罷免されない。」として裁判官の身分を厚く保障している。
   このように憲法上、裁判官の身分が厚く保障されている趣旨は、言うまでもなく、民主主義社会における人権保障の最後の砦としての司法権、ひいては、その職責を担う裁判官の国民に対する重い責任の現れであると同時に、裁判官という立場にある者は常に国民からの厚い尊敬と信頼を得ていなければならないという根拠でもある。近年の司法制度改革により制度に変更があったとしてもこの理念に変わるところはなく、裁判官に対する国民からの尊敬と信頼が揺らぐことはないと言うべきである。むしろ、裁判員制度の導入から3年を経て、国民が司法に参加することにより、裁判の進め方やその内容に国民の視点、感覚が反映されていくことになる結果、裁判全体に対する国民の理解が深まり、司法がより身近なものとしてその信頼も一層高まることが期待されている現状を踏まえると、今まで以上に国民から信頼される裁判所及び裁判官が必要とされているともいえよう。
   このため、裁判権を行使する裁判官は、単に事実認定や法律判断に関する高度な素養だけでなく、人格的にも、一般国民の尊敬と信頼を集めるに足りる品位を兼備しなければならないと言うべきであって、裁判官という地位には、もともと裁判官に望まれる品位を辱める行為をしてはならないという倫理規範が内在していると解すべきである。これは、既に述べたとおり、日本国憲法第76条第3項が「すべて裁判官は、その良心に従ひ」独立してその職権を行う旨を規定し、裁判官としての良心の保持を前提としていること、裁判所法第49条が懲戒事由として「品位を辱める行状があったとき」を挙げていることなどにも現れている。
   したがって、「裁判官としての威信を著しく失うべき非行」とは、裁判官の特定の行為がその地位に内在する倫理的規範に背き、国民の尊敬と信頼に対する背反行為に該当すると評価される場合を言うと解すべきである。そして、その判断にあたっては、当該行為と裁判官という特殊な地位との関連性、当該行為を行うに至った経緯や当該行為が社会に及ぼす影響、裁判所又は裁判官制度の理念とその現状、国民の価値観や意識の動向等諸般の要素を総合考慮して、健全な社会常識に照らし、大多数の国民にとって納得できる妥当な結論を導かなければならない。
(3) 本件行為の評価
   以上を前提に、被訴追者の本件行為が「裁判官としての威信を著しく失うべき非行」に該当するかどうかについて検討する。
   本件行為は、電車内で女性のスカートの中を密かに撮影するという悪質卑劣な行為であり、女性の人権を著しく軽視するばかりか、迷惑防止条例の保護法益である「市民等の平穏な生活の保持」を害するという点で女性のみならず、通勤又は通学あるいは日常生活において電車を利用する全ての人に不安を与える性質の重大な犯罪であり、その社会的影響も少なくない。
   また、当該行為を行うに至った動機も、初めは「女性の下着を見てみたい。」という気持ちからこのような行為に及び、盗撮に成功した画像を後で見て楽しんでいたが、盗撮行為を続けているうちにこんなことを続けていては盗撮行為が発覚し、取り返しのつかないことになると理解しながらも、どうしてもやめることができない状態になっていたというように、自己の欲求を満たしたいという身勝手かつ一方的なものであり、被訴追者本人も認めているとおり、仮に仕事上のストレスがあったとしてもそれは社会人であれば誰もが乗り越えていかなければならない宿命であって、それを盗撮行為によって晴らすことは言語道断である。
   その行為態様も、あらかじめ駅のホームで盗撮の対象とする女性を見つけ、周囲から分からないようにするために撮影時のシャッター音がする写真機能ではなく、動画機能を利用し、事前にスイッチを入れてポケットの中に隠し持ち、かつ撮影時には携帯電話機のフラッシュ部分に指をあてて発覚を予防するなど、用意周到に準備されたものであり、明確な故意があるといえ、悪質である。
   他方、本件被害者の女性には、何の落ち度もなく、通勤途中の平穏な日常生活を送っていた中で突然、犯罪に巻き込まれ、直後の捜査に時間を割かれただけでなく、たまたま本件犯罪行為の被疑者が裁判官という特殊な職業にあったことから、広く報道され興味の対象とされることになり、被害者の名前は出ていないとしても、相当な精神的苦痛を強いられていること、それ故に本件犯行直後から一貫して被訴追者と示談等に応じず、厳しい処罰感情があることが認められる。特に被訴追者は、裁判官に任官直後の平成23年春頃からこのような犯罪行為に手を染め、一時中断していた時期はあったものの、本件行為が発覚するまでの間に既に同様の手口による盗撮行為を少なくとも20回程度行ったことを当公判廷においても認めている。すなわち、本件行為が発覚するまでの約1年半という長期の間に常習的に盗撮行為が繰り返され、少なくとも20人の女性の人権が侵害されている事実も忘れてはならない。
   これは、人を裁く立場、人権意識をしっかり持つことが不可欠とされている裁判官として、あるまじき行為であることは言うまでもない。しかも、本件は、前述のとおり、裁判員制度の導入から3年を経て、国民が司法に参加し、裁判の進め方やその内容に国民の視点、感覚が反映されていくことにより、裁判全体に対する国民の理解が深まり、司法がより身近なものとしてその信頼も一層高まることが期待されている中で起こった現職裁判官による犯罪である上、被訴追者は裁判員裁判を担当し、死刑判決を宣告するという重大な判断もしているのであるから、その職責の重さを自覚していれば、仮に当時、盗撮行為を自らの意思で制御できない状況に陥っていたとしても、家族や友人を始め、職場の先輩やカウンセラー等の専門家に相談することによって、このような卑劣な行為をやめることができた機会はいくらでもあったのに、そのような努力をせずに超えてはいけない一線を超えてしまったことに対する行為の違法性及び非難の程度は極めて高いと言える。
   そうすると、被訴追者の本件行為は、上記諸事情を考慮するだけでも、社会人として当然備えていなければならない倫理観が明らかに欠如している非行行為であると認められる。
   さらに、近時、スマートフォンを始めとする電子機器の急速な発展により、盗撮の方法も複雑かつ巧妙化し、このような犯罪が日常化しているという社会的現象もある今、仮に本件行為を不罷免とすれば裁判官でさえ盗撮をしても免職にならないのだからという誤った認識を与えかねない。そういう社会的問題があることも加味して、このような卑劣な犯罪行為に対しては、毅然とした態度で臨まなければならない。
   以上によれば、被訴追者の本件行為は、一般国民の尊敬と信頼を集めるに足りる品位を備えるべき裁判官としてあるまじき行為であり、被訴追者には、およそ裁判官として有するべき人権意識が欠如していると言わざるを得ず、裁判官の地位に内在する倫理規範に背き、常に国民から高い尊敬と信頼を受けるにふさわしい品位を保持すべき義務に違反していると認められるので、国民が裁判官に寄せる尊敬と信頼に対する背反行為に該当すると言うべきである。
   したがって、被訴追者の本件行為は、裁判官弾劾法第2条第2号の「裁判官としての威信を著しく失うべき非行」に該当する。
第4 弁護人らの主張に対する判断
1 本件行為の評価について
   これに対し、弁護人らは、過去の事件や弁護士に対する懲戒処分と比較して、本件は軽微な事案であり、罷免に値しない旨主張する。
   すなわち、第1に本件行為は条例違反に該当する行為であり、刑事罰の中でも軽微な部類に属する犯罪行為であること、第2に過去の弾劾裁判で罷免された事例(平成13年(訴)第1号罷免訴追事件、平成20年(訴)第1号罷免訴追事件)がそれぞれ経験豊かな現職裁判官による犯罪であり社会的に大きく報道され、懲役刑の判決が下されたこと、第3に過去に本件と同じ迷惑防止条例違反を犯した裁判官が直接女性と接触する痴漢行為をしたにもかかわらず、訴追されなかったこと、第4に同種犯罪行為を行った弁護士に対する弁護士会の懲戒処分と比較して、罷免という処分は過度に重い旨主張する。
   そこで検討すると、第1の主張については、条例違反といえども、条例は、憲法第94条に基づき地方公共団体が制定する自治立法であり、前述の「市民等の平穏な生活の保持」という保護法益も決して他の法律と比較して軽視されるべき性質のものではない。その中でも本件盗撮行為の6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金という法定刑は、刑法の公然わいせつ罪やストーカー規制法に匹敵する罰則であることから、条例違反であるからというだけで、軽微な犯罪と即断することはできない。
   第2の主張については、本件行為は、弁護人らの主張する過去の2事例と比較し、正式裁判が開かれていないことから、事前に報道機関による過度の取材報道行為はなされていないともいえるが、裁判官が現行犯逮捕されたということもあり、各種マスコミが捜査段階から始まり、大阪高等裁判所による最高裁判所への報告、最高裁判所による訴追請求、裁判官訴追委員会による訴追決定までの経緯を注視していたことは当公判廷において取り調べた証拠(甲15・被訴追者訊問)からも明らかである。よって、これをもって当該行為が社会に及ぼす影響が少ないので軽微な事案であるとは到底いえない。また裁判官という職にある以上、経験の多少にかかわらず一人の責任ある専門家として、国民を裁く立場にあるという点には寸分の変わりもなく、国民がその裁判官に寄せる期待や信頼というものに差異が生じると考えるべきではない。
   第3に、直接女性と接触する痴漢行為に比べ、間接的な破廉恥行為である盗撮行為とでは、行為の違法性または女性に対する人権侵害の程度が異なるとの主張については、直接であろうと間接であろうと女性の立場からすれば、破廉恥行為をされたことによる不快感や不安感等の精神的影響は、一過性のものではなく、心に傷が深く残るということ、盗撮行為は特に盗撮した画像記録が残り、拡散される可能性があるという点において人権侵害の程度が大きいことに対する配慮に欠けており、到底受け入れられる理由とはいえない。加えて、指摘にかかる元判事の痴漢行為の事案は、個別具体的な内容が異なり、単純に本件との軽重を論じるのは妥当ではない。
   第4の弁護士会の懲戒処分との比較については、弁護士会の懲戒処分は、弁護士自治の原則に基づく弁護士会の中での自浄作用に過ぎず、同じ法曹といえども、憲法上の厚い身分保障を受け、国民の信頼に基づいて職務を行うことが必要不可欠な裁判官に対する弾劾裁判とは性質を異にするから、同種犯罪行為に対する弁護士会の懲戒処分の結果が当裁判所の判断に影響を及ぼすものではない。
   よって、この点に関する弁護人らの主張には合理的理由がない。
2 情状について
   また弁護人らは「裁判官としての威信を著しく失うべき非行」に該当するか否かの判断にあたっては、被訴追者の反省の程度や行為後の行動、平素の人格や人望等のいわゆる本件行為とは独立した情状についても考慮すべきである旨主張する。
   すなわち、弁護人らは、第1に被訴追者は、被害回復及び社会的信用の回復に努めていること、第2に被訴追者の具体的職務・地位、勤務状況、平素の人格等から罷免事由は認められないこと、第3に被訴追者が真摯に反省していること、第4に被訴追者を支援する者が多数存在すること、第5に被訴追者が既に十分な制裁を受けていることから、罷免判決という新たな制裁を加える必要のないこと等を述べ、被訴追者が既に受け、罷免によって被る不利益の重大性からすれば、罷免によらずとも、免官の手続によっても、司法に対する国民の信頼は十分回復できる旨を主張しているので、以下その主張の当否について検討する。
   この点、関係各証拠によれば、被訴追者は、逮捕直後から素直に事実を認め、その後の捜査機関における取調べや裁判所での事情聴取にも誠実に応じていること、弁護人及び検察官を通じて、本件被害者に対して謝罪及び被害弁償を速やかに申し入れたこと、日本司法支援センターに対して贖罪寄付を行っていること、大きな罪を犯してしまったことについて、裁判所関係者等に対する責任を感じ、事件後速やかに免官願を提出し、かつ事件後から現在に至るまで報酬及び賞与を返還していること、仮に退職金が支給されても、受領しない意思であることが認められる。このような事情は、自分が犯してしまった過去の大きな過ちに対して行為後に回復することができる最大限の努力であると評価できる。これは、被訴追者が犯してしまった過去の行為に対し内省を深めていることの一つの現れといえる。
   また、司法全体に対する信頼を失墜させてしまったことを深く後悔し、迷惑をかけた職場の上司や家族等に対して手紙を書いている。その内容及び当公判廷での被訴追者の陳述からすると、決して現実から逃避せずに真摯に自己に向き合っている姿勢が認められる。
   さらに、被訴追者は、法曹になって社会に貢献したいという強い志をもって日夜勉学に励み、司法試験合格後も後輩の指導に携わったこと、家族や先輩からの陳述書によれば、常に周囲に対する気配りをして、信頼されていたとの記載があること、総勢67名もの弁護人が選任されたこと、その他多数の嘆願書が寄せられたことも認められる。
   そして、弁護人らが主張するように仮に法曹資格を今回失わなかったとしても、少なくとも今後数年間は、弁護士会が弁護士登録を認めない可能性が極めて高く、事実上法曹界復帰は困難と予測されることや法曹以外の職業に就く際にも、同種の行為をした他の者よりも厳しい批判にさらされ、社会復帰するには極めて高い障壁があることは想像に難くない。加えて、本件では、衆議院の解散等、被訴追者の事情とは全く関係のない社会情勢により、被訴追者が事実上職を断たれ、生活の糧となるべき収入源を失ってから約半年間にも渡る長い月日が経過することとなったが、そのような想定外の苦境にも決して屈することなく、その間、ひたすら自らを鼓舞し、前途多難な今後の人生について、読書等をしながら思索し、何とか活路を見いだそうとしている点は特筆すべき事情といえよう。
   しかしながら、先に述べたとおり、本件行為は、女性の性的羞恥心を著しく害する悪質かつ卑劣な行為であり、一般国民の尊敬と信頼を集めるに足りる品位を備えるべき裁判官として、あるまじき行為であるとともに、被訴追者は、長期間、多数回にわたり同様の盗撮行為を繰り返しており、裁判官として有するべき人権意識、特に、女性の人権を尊重しようとする意識が欠如していると言わざるを得ず、その社会的影響も大きいことに照らせば、前述のような被訴追者に酌むべき事情を最大限に考慮したとしても、本件行為が強く非難されるべき性質の犯罪であり、幾星霜を経て多くの裁判官が築き上げてきた司法全体に対する国民の尊敬と信頼を大きく失墜させたという判断を覆すに足りる事情があるとは認められない。
   したがって、弁護人らが主張する諸事情は本件行為に関する上記判断を左右するものではない。
第5 結論
   よって、当裁判所は、裁判官弾劾法第2条第2号を適用して被訴追者を罷免することとし、主文のとおり判決する。
(裁判官訴追委員会委員長 鳩山邦夫、同委員 三日月大造、同 今井雅人、同 谷博之、同 三原朝彦、同 椎名毅、同 荒木清寛 私選弁護人 木村雅一(主任)、同 田中宏岳、同 伊藤海大、同 井上彰、同 水津正臣、同 丸山秀平 各出席)
平成 25 年4月 10 日
裁判官弾劾裁判所
裁判長裁判員   谷川 秀善
裁判員   船田  元
裁判員   小川 敏夫
裁判員   中谷  元
裁判員   原田 義昭
裁判員   古本伸一郎
裁判員   西根 由佳
裁判員   漆原 良夫
裁判員   津村 啓介
裁判員   藤田 幸久
裁判員   関口 昌一
裁判員   藤井 基之
裁判員   白浜 一良
裁判員   水野 賢一

最高裁判所裁判官に限り意見の表示が認められている理由

裁判所法案質疑応答(昭和22年3月頃の,司法省刑事局作成の文書)には以下の記載があります。

第十一条(裁判官の意見の表示)
一問 この条文の趣旨
   答 第七十五条の評議の秘密の例外を設けた。
   元来評議を外部に漏らすことを許さないのは、評議における自由な意見の発表を保障しようとする趣旨に出たものであるが、最高裁判所の裁判官については、このような点を顧慮する必要がないばかりでなく,最高裁判所の裁判官はその任命について国民の審査に付されるから、国民としては裁判に関与した裁判官がどんな意見をもつていたかを知つて、国民審査の際の判断の資料とする必要がある。それで最高裁判所では、大法廷においても、小法廷においても、裁判官の意見を裁判書に表示しなければならないこととした。如何なる程度にその意見を表示するか、又表示の形式等は最高裁判所の規則で定められるであろう。
二問 何故下級裁判所には同様のことを認めないのか
   答 下級裁判所の裁判官については国民審査の制度がないばかりでなく、下級裁判所の裁判は事実の判断に関するものであつて、少数意見の公表をさせるのに適当でないから、これを認めなかった。

*1 裁判所法11条(裁判官の意見の表示)は以下のとおりです。
   裁判書には、各裁判官の意見を表示しなければならない。
*2 裁判所法75条(評議の秘密)は以下のとおりです。
① 合議体でする裁判の評議は、これを公行しない。但し、司法修習生の傍聴を許すことができる。
② 評議は、裁判長が、これを開き、且つこれを整理する。その評議の経過並びに各裁判官の意見及びその多少の数については、この法律に特別の定がない限り、秘密を守らなければならない。
*3 最高裁判所裁判事務処理規則(昭和22年11月1日最高裁判所規則第6号)13条は以下のとおりです。
   裁判書に各裁判官の意見を表示するには、理由を明らかにして、これをしなければならない。
*4 昭和24年8月17日発生の松川事件(現在の福島市松川町の国鉄東北本線で起きた列車往来妨害事件)の第二次上告審である最高裁昭和38年9月12日判決(被告人全員を無罪とした仙台高裁昭和36年8月8日判決に対する上告を棄却した判決であり,第一審から第二次上告審まで合計22人が関与しました。)はPDFで370頁ありますところ,多数意見は1頁ないし34頁であり,斎藤朔郎最高裁判事(満州国司法部次長をしていたため,終戦後,ハバロフスクで抑留生活を送りました。)の補足意見は34頁ないし39頁であり,下記の記載(改行を追加しています。)を含む下飯坂潤夫最高裁判事の少数意見は39頁ないし370頁ですし,専ら事実認定に関することが書いてあります。
記(PDF367頁)
   以上私は縷々として証述したわけであるが、これによつて、原判決には幾多の甚しい審理不尽、理由不備の存することが判然としたものと考える。
   そしてその理由不備は重大な事実誤認に直結するものであり、これを看過することは著しく正義に反するものであることは云うまでもない。上来私の述べたところは実行々為に関するものであるが、実行々為あつての松川事件である。
   実行行為に関する判示に許し難しい欠陥があれば原判決全体に影響を及ぼすものであることはこれ亦証をまたない。
   よつて、私は原判決は全部これを破棄し、原裁判所に差戻すを相当と考える。
*5 「最高裁判所裁判官等は襲撃の対象となるおそれが高いこと等」も参照してください。

陳述書作成の注意点

1(1) 陳述書では,陳述書の作成者が直接体験した生の事実をできる限り日時を入れて時系列で記述することが重要です。
   記載内容としては,争点に関係する生の事実が中心となりますものの,背景事情にも言及した方がいいです。
(2)   伝聞を入れることは許されますものの,この場合,これは伝聞である旨をはっきり書いておく必要があります。

2 体験したことではっきりした記憶があるものはそのとおり記述すればいいのですが,すでに記憶があいまいだという部分も当然あり得ます。
そういう部分は,むしろここはもう記憶がはっきりしませんと正直に書いていただいた方が,裁判所に与える印象がいいです。

3 何でもかんでも明快に,断定調で書けばいいというものではありません。
   記憶を喚起しても,それ以上明らかにならないところは,ここは今となってはよく分からない,思い出せないと正直に書いた方が,裁判所に与える印象がいいです。

4 陳述書に記載されていない重要な事実が尋問で突然,出てきた場合,裁判官が違和感を持つことが多いですから,重要な事実は一通り陳述書に書いておいた方がいいです。

5 事実と意見は区別し,意見については当時のものか現在のものかを明らかにする必要があります。

6 感情的な記載は,事件の種類や記載した場合の影響を考えて適切な範囲にとどめる必要があります。

7 都合の悪い事実であっても反対尋問が予想されるものは書いておいた方がいいです。

8(1) 依頼した弁護士によっては,陳述書の作成者がどういう人間であるかを裁判所に伝えるため,陳述書の冒頭に経歴を書く人もいます。
(2)ア   交通事故事件において後遺障害逸失利益が問題となる場合,基礎収入をいくらとするのかが問題となりますから,依頼者の経歴を記載することがあります。
イ 「労働能力の喪失割合及び喪失期間」,及び「後遺障害における基礎収入の認定」も参照して下さい。

9 「裁判官!当職そこが知りたかったのです。-民事訴訟がはかどる本-」52頁及び53頁には以下の記載があります。
岡口 基本的な周辺情報は,陳述書に書いてほしいですけどね。
   陳述書に書いていない,動機や人間性に関わる周辺情報が尋問でポロッと出てくると,それは,まさに,作為が介入していない生の情報として,裁判官の心証に決定的に影響することがあります。

陳述書の作成が違法となる場合に関する裁判例

1 東京地裁平成13年4月25日判決
以下のとおり判示しています(ナンバリング及び改行を行っています。)。
①   裁判所は、当事者双方の主張する事実について争いがあるときは、民事訴訟法に従い、当事者が提出する証拠方法を取り調べ、その結果に基づいて事実を認定し、これに法を適用して請求の当否を判断するものであり、私人の主張する権利又は法律関係はこのような手続によってその存否が確定されるものである。
  そのようなことから、民事訴訟手続において尋問を受ける証人は、特別の定めがある場合を除き、宣誓の上、尋問された事項について良心に従って真実を述べるべき義務がある(民事訴訟法201条1項、民事訴訟規則112条4項参照)。
  そして、証人の証言は、要証事実と関連性があるものとして質問され、それに答えるべき必要性がある限り、他人の名誉を毀損し、もしくは侮辱することになったとしても、それが真実と認められる場合には、違法性を阻却し、不法行為に当たらないものと解される。
② そして、書証として訴訟手続に提出される陳述書は、作成者が証言をすることになったときにはそれを補い、もしくは証言に代わるものとしての機能を有し、その意味で、作成者が証人として証言する場合に類似したものということができるから、当該陳述書の内容が、要証事実に関連性を有し、明らかにする必要性がある限り、他人の名誉を毀損し、もしくは侮辱することになったとしても、それが真実と認められる場合には、証言の場合と同様、違法性を阻却し、不法行為に当たらないものと解される。

2 東京地裁平成27年10月30日判決
   以下のとおり判示しています(ナンバリング及び改行を行っています。)。
① 一般的に陳述書は,陳述者が自らの体験,記憶,認識等に基づく事実や意見を記載して民事訴訟の証拠として用いることで,客観的な裏付け資料を得にくい事実関係についての当事者の立証活動に資するものであるが,その信用性は,受訴裁判所において,記載内容の合理性,当該事実認識の根拠となった前提事実の蓋然性・確実性,対立当事者の陳述書を含む他の証拠との整合性,陳述書作成者の尋問等を通じて吟味,判断されるものである。
  もとより,第三者が一方当事者の求めに応じて陳述書を作成する場合にも,虚偽内容の陳述書を作成して真実発見を阻害することは許されないというべきであるし,また,誇張する表現を用いた陳述書を作成して真実発見を歪めることは相当でないというべきであるが,結果として裁判所の認定した事実と異なる事実や誇張された表現を記載した陳述書の作成が,それだけで事後的に違法と評価されるならば,陳述書の作成は著しく制約を受けることになり,当事者の立証活動を妨げかねず,その結果,受訴裁判所の判断に資する証拠が乏しくなり,ひいては真実の発見・解明を困難にすることにつながりかねない。
② したがって,陳述書の作成が相手方当事者との関係で違法と評価されるためには,その記載内容が客観的な裏付けを欠く(客観的裏付けのあることを立証できない場合を含む。)というだけでは足りず,少なくとも,陳述書に記載された事実が虚偽であること,あるいは,判断等の根拠とされた資料に看過できない誤りがあり,作成者がその誤りを知り又は当然に知り得たことを要するものと解される。

陳述書の機能及び裁判官の心証形成

1 陳述書の機能
① 証拠開示機能
   本人の供述内容なり,証人の証言内容なりを事前に開示する機能です。
   これにより,反対尋問の準備が促進され,効果的な反対尋問が可能となり,集中証拠調べが充実・活性化されます。
② 主尋問代用補完機能
   主尋問に代用し,これを補完する機能です。
   詳細な数値など性質上口頭の陳述に適さない事項や,身上・経歴関係などわざわざ口頭で時間をかけて尋問するまでもない事項は陳述書に譲り,提出された書証等によって確定されず証拠調べの実施によって初めて確定できる争点に絞って主尋問を行うことが可能となります。
③ 情報収集機能
   早い段階での事案の正確な把握のため,情報及び証拠収集作業を代理人が前倒しするようになる機能です。
④ 参加意識向上機能
   陳述書の作成過程及び自己名義の陳述書が裁判所に提出されることを通じて,当事者の訴訟への参加意識を高める機能です。
⑤ 主張固定機能
   事後に主張を変更したり,誤解があったなどと弁解したりすることを困難にし,事実についての当事者の主張を固定する機能です。
⑥ 調書作成補助機能
   書記官が正確な要領調書を作成する助けとなる機能です。

2 裁判官の心証形成
(1)   周辺的な事情,例えば,①過失や因果関係が争点になっている事案における被害感情等が書かれている場合,②実質的に争いがない事実が書かれてある場合,③提出者にとって不利なことが書かれている場合,人証調べを行わないで陳述書により裁判所の心証が形成されることが多いです。
(2)ア  反対尋問を経ていない陳述書の証明力は極めて弱いと考えられています。
   そのため,争いがある重要な事実については,原則として,人証調べを行った上で裁判所の心証が形成されますから,反対尋問を経ていない陳述書だけで重要な事実が認定されることは原則としてありません。
イ やむを得ない理由で反対尋問ができなかった本人尋問の結果は証拠資料となることがあります(最高裁昭和32年2月8日判決参照)。
   また,民事訴訟においては,伝聞証言の証拠能力は当然に制限されるものではなく,その採否は,裁判官の自由な心証による判断に委ねられています(最高裁昭和32年3月26日判決。先例として,最高裁昭和27年12月5日判決参照)。
   そのため,反対尋問を経ていないというだけの理由で陳述書の証拠能力が否定されるわけではありません。
ウ 外部ブログの「反対尋問を経ない陳述書の証明力について」によれば,簡易裁判所の場合,反対尋問を申請しなかった相手方当事者の陳述書が過大評価されることがあるみたいです。
(3) 裁判官の心証形成一般については,外部HPの「事実認定と裁判官の心証形成」が参考になります。

通常は信用性を有する私文書と陳述書との違い

1 通常は信用性を有する私文書としては,以下のものがあります。
① 紛争が顕在化する前に作成された文書
→ 例えば,取引中にやり取りされた見積書があります。
② 紛争当事者と利害関係のない者が作成した文書
→ 例えば,第三者間のメールがあります。
③ 事実があった時点に近い時期に作成された文書
→ 例えば,紛争当時のメール,作業日報があります。
④ 記載内容が習慣化されている文書
→ 例えば,商業帳簿,カルテがあります。
⑤ 自己に不利益な内容を記載した文書
→ 例えば,領収書があります(最高裁昭和45年11月26日判決参照)。

2 陳述書は,①紛争が顕在化した後に作成される文書ですし,②紛争当事者又はこれと利害関係のある人が作成することが通常ですし,③事実があった時点からかなり後に作成される文書ですし,④記載内容が習慣化されているわけではないです。
   そのため,陳述書は,通常は信用性を有する私文書と大きく異なりますから,自己に不利益な内容が記載されている部分を除き,陳述書それ自体の証明力は大きくありません。

3 「陳述書の機能,及び裁判官の心証形成」も参照してください。

任期終了直前の依願退官及び任期終了退官における退職手当の支給月数(推定)

1(1) 国家公務員生涯設計総合情報提供システムHPの「5 退職手当の計算例」に,平成30年1月1日以降の「国家公務員退職手当支給割合一覧」が載っています。
(2) 退職手当を計算する場合,勤続期間の端数は切り捨てられるとのことです。
   
2 平成30年1月1日以降,任期終了直前の依願退官及び任期終了退官における退職手当の支給月数は以下のとおりとなると思われます。
支給月数は,裁判官10年で退官する場合は4月余り,裁判官20年で退官する場合は8月余り,裁判官30年で退官する場合は8月近く異なります。
(判事補10年の場合)
① 任期終了直前の3月31日等に依願退官した場合
   在職期間9年の自己都合退職となる結果,4,5198月
② 任期終了により退官した場合
   在職期間10年の任期終了退官となる結果,8.37月
(判事補10年+判事10年の場合)
③ 任期終了直前の3月31日等に依願退官した場合
   在職期間19年の自己都合退職となる結果,16.49727月
④ 任期終了により退官した場合
   在職期間20年の任期終了退官となる結果,24.586875月
(判事補10年+判事20年の場合)
⑤ 任期終了直前の3月31日等に依願退官した場合
   在職期間29年の自己都合退職となる結果,33.3963月
⑥ 任期終了により退官した場合
   在職期間30年の任期終了退官となる結果,40.80375月
(判事補10年+判事30年の場合)
⑦ 任期終了直前の3月31日等に依願退官した場合
   在職期間39年の自己都合退職となる結果,43.7751月
⑧ 任期終了により退官した場合
在職期間40年の任期終了退官となる結果,47.709月
   
3(1) 基準日時点において50歳以上の裁判官が,毎年4回ぐらい実施されている早期退職希望者の募集(国家公務員退職手当法8条の2)に応募することで依願退官した場合,任期終了退職と同じ支給率で退職手当を支給してもらうことができます(国家公務員退職手当法4条1項3号又は5条1項6号)。
(2) 「早期退職希望者の募集実施要項(裁判官向け)(2019年分)」を掲載しています。

4 参議院議員松野信夫君提出裁判官の非行と報酬等に関する再質問に対する答弁書(平成21年4月24日付)には以下の記載があります。
   憲法第八十条第二項は、下級裁判所の裁判官がその在任中定期に相当額の報酬を受けることを保障しているものであり、御指摘の退職手当の法的性格いかんにかかわらず、国家公務員退職手当法(昭和二十八年法律第百八十二号)の規定により裁判官に支払われる退職手当は、同項に規定する報酬に含まれないものと解される。

5 以下の記事も参照してください。
① 裁判官の年収及び退職手当(推定計算)
② 裁判官の号別在職状況等

戦前の裁判官の報酬減額の適法性に関する国会答弁

   森山眞弓法務大臣は,平成14年11月13日の衆議院法務委員会において以下の答弁をしています。
① 御指摘のとおり、昭和6年という、大分前でございますが、若槻内閣のときに裁判官の減俸がされたことがあったという話でございます。資料は必ずしも十分ではございませんけれども、法令や文献等によりますと、おおむね次のような経緯であったようでございます。
   昭和6年に若槻内閣は、経済不況が続く中で、国家財政緊縮の一環として、俸給等の具体的額を定めた勅令の改正によりまして、判事を含むすべての官吏を減俸しようといたしましたが、これに対しては、判事を含めて官吏による反対運動が起こったそうでございます。
ここで判事による反対の理由は、判事を減俸する勅令の改正は先ほど申した裁判所構成法第73条に違反するというものでございました。

② 当時の政府の解釈は、すべての判事をその意にかかわらず減俸する勅令の改正は裁判所構成法に反しないというものでありましたけれども、このような反対運動を受けまして、政府は、改正勅令〔昭和6年勅令第99号高等官官等俸給令中改正ノ件のこと。〕の附則に、判事については、その意に反して現に受ける額を減額されないとの規定を設けて、他方で、減俸に同意しない判事に対しては、次回帝国議会提出の法律案によって減俸するという方針を閣議決定いたしました。
    もっとも、その後、大審院長が乗り出しまして、全国の判事に対しまして減俸に同意するように訓示をいたしましたことから、結局、判事全員が減俸もしくは寄附に同意したということでございまして、以上、当省において把握しておりますこの経緯はこんなところでございますけれども、当時の政府の裁判所構成法第73条の解釈の内容自体、必ずしもはっきりいたしませんし、そもそも当時の裁判所構成法及び改正勅令の解釈は、その内容及び法規範としての性質の相違等に照らしまして、そのまま現在の憲法及び裁判官報酬法に当てはまるとは考えられません。
③ 既に申しました事情から今回の改正を行うものでございまして、当時の勅令改正における措置と同様の措置をとるということは、現在、相当ではないというふうに考えます。

*1 裁判所構成法(明治23年2月10日法律第6号)73条は以下のとおりでした。
① 第七十四条及第七十五条ノ場合ヲ除ク外判事ハ刑法ノ宣告又ハ懲戒ノ処分ニ由ルニ非サレハ其ノ意ニ反シテ転官転所停職免職又ハ減俸セラルルコトナシ
    但シ予備判事タルトキ及補闕ノ必要ナル場合ニ於テ転所ヲ命セラルルハ此ノ限ニ在ラス
② 前項ハ懲戒取調又ハ刑事訴追ノ始若ハ其ノ間ニ於テ法律ノ許ス停職ニ関係アルコトナシ
*2 裁判所百年史158頁及び159頁には以下の記載があります。
1 官吏の俸給減額と裁判官の身分保障
   昭和六年、当時の内閣は、財政緊縮の見地から、司法官をも含むすべての官吏についてその俸給の減額を企図した。行政官等の減俸についても種々の抵抗があったが、司法官特に判事については、憲法及び裁判所構成法による各種の身分保障があることから、減俸はこれに反するとして、反対運動が展開され、政府も勅令による減俸が許されないことは認めざるを得なくなった。
   そこで、政府は、昭和六年五月二七日、勅令をもって、高等官官等俸給令及び判任官俸給令を改正し、官吏の俸給を一割ないし二割程度減額したが、判事に関しては、勅令の附則中に、同勅令施行の際現に従前の規定により俸給を受ける判事については、その意に反して現に受ける俸給額を減ずることができない旨が規定された(もっとも、実際には、判事の同意ないしは「献金」による減俸が行われることで事態は収まった。)。
*3 全国の裁判所に対する司法大臣の司法行政権(裁判所構成法135条第一)との重複を避けるため,大審院長の司法行政権は大審院についてしか及びませんでした(裁判所構成法135条第二)。
*4 「裁判官の報酬減額の合憲性に関する国会答弁」も参照してください。