目次
第1 日米地位協定と他国の協定は何が違うか1 本文だけでなく補足合意と運用を比較する2 比較の要点第2 現行制度を読むための協定と改定履歴1 ドイツ―NATO協定と補足協定2 韓国―1991年と2001年の改定第3 第一次裁判権の基本と日本の身柄引渡し1 公務中・公務外だけで判定しない2 日本―米側の手中にあることが17条5項(c)の条件第4 ドイツ―一般的な裁判権放棄と身柄の管理1 補足協定19条の放棄と21日以内の撤回2 補足協定22条―ドイツの起訴だけで一律に引渡しとはならない第5 韓国―起訴時の引渡し,起訴前の例外と手続保障1 2001年改定と重大犯罪の12類型2 韓国側が逮捕した一定の殺人・強姦事件3 身柄移転と手続保障を一体として読む4 2012年の運用改善と2013年の実施第6 国内法令の尊重と基地での適用を混同しない第7 比較から日米地位協定の改定を考える際の確認事項1 同じ事件・段階・身分で比較する2 本文改定と運用改善には異なる役割がある第8 関連記事第9 出典
第1 日米地位協定と他国の協定は何が違うか
1 本文だけでなく補足合意と運用を比較する
日米地位協定をドイツ・韓国の制度と比較すると,刑事裁判権の基本的な配分には共通点がある一方,第一次裁判権の放棄,身柄の管理,起訴前の引渡し及び手続保障に違いがある。
特に,ドイツはNATO軍地位協定だけでなくドイツ駐留軍に関する補足協定,韓国は米韓協定の改定合意議事録・実施に関する了解事項・合同委員会合意を読む必要がある。
「他国は改定したからすべて受入国に有利」「日本だけ米側が起訴前の身柄を持つ」という説明では,制度の違いを十分に捉えられない。
本記事は,令和8年10月9日に確認した公表一次資料に基づき,原則として米軍構成員について比較する。
軍属・家族の定義と米国法上の裁判権,通常居住者の扱い,公務認定及び戦時等の例外は,個別事件で別に確認する必要がある。刑事裁判権と身柄を同じ問題として扱わず,条文上の制度と公表された実施例も分けて説明する。
外国語資料の日本語の説明は要旨であり,正式な翻訳ではない。韓国の2001年文書は韓国語・英語を正文とし,両者に差異がある場合は英語が優先すると定めている。
2 比較の要点
国・制度裁判権で読む規定身柄で読む規定日本17条3項による第一次裁判権と,放棄の要請米側の手中にある構成員・軍属は起訴まで米側が拘禁。平成7年合意による起訴前引渡しの要請もあるドイツNATO第7条に加え,補足協定19条による一般的な放棄と個別の撤回補足協定22条が身柄を規定。受入国の起訴だけで一律に移転する制度ではない韓国米韓協定22条と,第一次裁判権放棄の申請・回答手続2001年の合意議事録が重大犯罪の起訴時等の引渡しを規定。起訴前の引渡しや拘禁継続には別の条件がある
この表は手続の入口である。日本は第3,ドイツは第4,韓国は第5で対象と条件を説明する。
第2 現行制度を読むための協定と改定履歴
1 ドイツ―NATO協定と補足協定
ドイツ外務省は,駐留を認める根拠と,駐留中の具体的な権利義務を区別している。後者の中心が1951年6月19日のNATO軍地位協定と,1959年8月3日のドイツ駐留外国軍に関する補足協定である。
補足協定の公表統合版には,1971年10月21日,1981年5月18日,1993年3月18日の改定が織り込まれ,1993年改定を反映した版の発効日は1998年3月29日と記されている。
ドイツ統一後の1993年の改定を,NATO軍地位協定自体の全面改定と同一視してはならない。
資料は,第9の③・④である。
2 韓国―1991年と2001年の改定
韓国外務省の沿革によれば,米韓地位協定は1966年7月9日に締結され,1967年2月9日に発効した。第1次改定は1991年,第2次改定は2001年である。
1991年2月1日付の交換公文は,1966年の旧了解事項と22条関係の交換書簡を失効させた。古い付属文書を,現在もそのまま有効な制約として説明しないことが重要である。
2001年1月18日署名・同年4月2日発効の改定は,協定本文22条5項(c)の身柄に関する文言を改め,関連する合意議事録・了解事項も整備した。本文と付属文書の改定を一体として読む必要がある。
資料は,第9の⑧~⑪である。
第3 第一次裁判権の基本と日本の身柄引渡し
1 公務中・公務外だけで判定しない
日米協定17条3項,NATO軍地位協定第7条3項及び米韓協定22条3項は,両国の裁判権が競合する場合に,どちらが第一次の権利を持つかを定めている。
基本的な考え方は,公務執行中の行為から生じる罪や,専ら派遣国の財産・安全又は同じ軍の関係者の身体・財産だけに対する一定の罪については派遣国側を優先し,その他の罪では受入国側を優先するというものである。
したがって,公務外の罪であればすべて受入国が優先する,という整理は正確ではない。また,片方の法令だけで罰せられる罪についての専属的裁判権と,競合する場合の第一次裁判権は異なる。
第一次の権利を持つ国がその行使をしない場合や,他方の国から放棄を求められる場合の規定もある。条文上の配分と,実際にどの国が訴追したかは,放棄の有無を含めて確認する必要がある。
根拠は,第9の①・⑤・⑧である。