目次第1 むち打ち症の等級は何によって分かれるか1 画像の有無だけでは結論が決まらない2 自賠責の認定,裁判所の評価,支払額を区別する第2 4判決の比較表第3 12級を認めた例―既存のヘルニアと事故による捻挫1 広島高裁平成16年5月26日判決の判断2 12級でも追加請求は棄却された第4 14級を認めた例―画像所見と残存症状の対応1 甲府地裁平成17年10月12日判決2 14級でも仕事への影響は個別に評価された第5 自賠責非該当から14級を認めた例1 名古屋地裁令和4年10月5日判決2 日常生活に支障がないことと,仕事への支障第6 非該当とされた例―画像所見があっても因果関係が否定された場合1 京都地裁平成28年8月30日判決2 症状の拡大・悪化と検査結果が問題になった3 後遺障害の否定と,治療中の損害の否定は別である第7 自分の事案と比較するときに確認する資料1 画像,症状,経過を一つの時系列にする2 非該当理由と不足資料を具体的に対応させる3 仕事への影響と,減額・既払金を別に確認する第8 関連記事及び出典1 関連記事2 出典
第1 むち打ち症の等級は何によって分かれるか
1 画像の有無だけでは結論が決まらない
交通事故後に首の痛みや手のしびれが残った場合,MRIに異常があれば12級,異常がなければ14級又は非該当,と機械的に決まるわけではない。
画像に現れた変化が事故前からのものか,残った症状と対応しているか,事故直後から症状固定までどのような経過をたどったかを合わせて検討する必要がある。
本記事では,判決本文を確認した4件を比較する。
既存の頚椎椎間板ヘルニアに捻挫が加わったとして12級を認めた例,画像所見があっても14級にとどめた例,自賠責では非該当でも裁判所が14級を認めた例,画像所見があっても事故による後遺障害を否定した例を取り上げる。
対象は頚椎捻挫などの事故後の頚部症状であり,名古屋地裁の事例の診断名は頚部挫傷である。
4件は判断の違いを理解するために選んだ事例であり,認定率を示す統計ではない。
資料確認日は令和8年10月4日である。
2 自賠責の認定,裁判所の評価,支払額を区別する
現行の自動車損害賠償保障法施行令別表第二は,12級13号を「局部に頑固な神経症状を残すもの」,14級9号を「局部に神経症状を残すもの」と定めている。
古い事故の判決では,同じ神経症状について当時の12級12号,14級10号という号数が使われているため,本記事の比較表では原判決の号数を明示する。
号数の読み替えについては,後遺障害の等級・号数の対照表も参照されたい。
自賠責の認定結果と,損害賠償訴訟で裁判所が認める後遺障害は分けて読む必要がある。
さらに,後遺障害が認められても,素因減額,過失相殺,既払金の控除によって追加の支払が認められない場合がある。
逆に後遺障害が否定されても,治療費,休業損害,傷害慰謝料などまで全て否定されるとは限らない。
第2 4判決の比較表
判決自賠責の結果裁判所の評価判断の中心広島高裁平成16年5月26日当時の12級12号同じく12級12号ヘルニア自体は既往症。ただし,既往症に事故による捻挫が加わって頚部痛等が生じたと評価。甲府地裁平成17年10月12日当時の14級10号同じく14級10号。12級は否定椎間板等に所見があっても,残存症状を明確に説明する他覚的所見は不足。治療経過等から14級を認定。名古屋地裁令和4年10月5日非該当14級9号。12級13号は否定軽度の既存変化と一貫した頚部痛,事故の衝撃,仕事の負担を総合評価。京都地裁平成28年8月30日非該当主張された後遺障害を否定事故後数か月を経て症状が拡大・悪化した経過と,神経学的検査・既往症を検討し,事故との因果関係を否定。
広島・甲府・名古屋の各判決は裁判所の公開判決本文,京都の判決は判例秘書に登載された判決本文に基づく。
京都の判決については裁判所の統合検索で平成26年(ワ)第2685号を検索したが該当結果はなく,裁判所HPでの掲載を確認できなかったため,判例秘書で本文を確認した。
詳しい事件番号と該当箇所は第8の出典に掲げる。
第3 12級を認めた例―既存のヘルニアと事故による捻挫
1 広島高裁平成16年5月26日判決の判断
広島高裁平成16年5月26日判決(平成15年(ネ)第94号)は,自動車同士の衝突後,MRIで頚椎椎間板ヘルニアが確認された事案である。
自賠責では,当時の12級12号と認定されていた。
裁判所は,画像及び医師の意見,事故直後の診療経過等を検討し,ヘルニアそのものが事故によって新たに生じたという主張は採用しなかった。
後に診断書に記載された筋力低下,腱反射の低下や肩関節の運動制限についても,事故との関係を別途検討し,これらをそのまま事故による障害とは認めなかった。
一方,頚部痛等については,既往症としてのヘルニアに事故による頚椎捻挫が加わって生じた可能性を否定できないとする医師の意見や診断書の内容等を総合し,事故と因果関係のある後遺障害を12級12号と評価した。
したがって,この判決を「MRIで事故による新しいヘルニアが証明された12級の事例」と紹介するのは正確ではない。