目次
第1 MRIに所見があることと,事故による損傷が証明されることは異なる第2 外傷との関係で確認する主要所見1 骨髄の信号変化,骨挫傷,骨折2 椎間板の損傷,膨隆,突出,ヘルニア3 靱帯・関節包,筋肉その他の軟部組織4 脊髄,神経根,馬尾及び脊柱管内の血腫第3 変性所見・既存の構造的変化と,その読み方1 椎間板変性,線維輪の亀裂,高信号域2 終板周囲の変化,椎間関節,脊柱管・椎間孔の狭窄3 筋萎縮・脂肪浸潤,頸椎の配列第4 「異常なし」「明らかな外傷性変化なし」は何を意味するか1 通常のMRIで明瞭な損傷が示されない場合もある2 MRIが陰性でも,すべての組織・機能を調べ終えたわけではない第5 撮影条件・時期と,検査の目的を確認する1 T1強調像,T2強調像,脂肪抑制像など2 事故からの期間と,撮影の必要性第6 専用MRIの研究成果を,個人の診断と区別する1 上位頸椎の靱帯や高度MRIの研究2 末梢神経の炎症を示唆する定量MRI第7 損害賠償事件で確認する資料と,所見の位置付け第8 出典
第1 MRIに所見があることと,事故による損傷が証明されることは異なる
交通事故後に首や腰の痛みが続き,MRIを受けると,椎間板の突出,神経の圧迫,骨や軟部組織の信号変化などを指摘されることがある。
しかし,画像に変化が写っていることだけで,その変化が今回の事故で生じ,現在の症状の原因となり,特定の後遺障害等級に当たると決まるわけではない。
検討すべき事項は,①どの組織にどのような所見があるか,②事故で新たな損傷が生じたか,又は事故が既存の状態に作用して症状を誘発・増悪させたか,③訴えている症状と所見が対応するか,④残存症状についてどのような法的評価ができるか,という段階に分かれる。
これらは関連するが,同じ問題ではない。
外傷性頸部症候群や外傷性腰部症候群という診断名だけでは,損傷した組織が一つに特定されるわけではない。
本記事では,成人の事故後の頸部・腰部症状について,頸椎・腰椎MRIで評価される主要な所見を整理する。
まれな疾患や専用の撮像法まで含めて,あらゆる異常を列挙したものではない(出典①~③)。
第2 外傷との関係で確認する主要所見
1 骨髄の信号変化,骨挫傷,骨折
椎体などの骨に浮腫や出血を伴う変化があると,MRIでは骨髄の信号変化として認められることがある。
骨挫傷,圧迫骨折,終板の損傷などを検討する手掛かりとなり,単純X線で明瞭でなかった病変の評価に役立つ場合がある。
ただし,骨折線や骨の形状を詳しく確認するにはCTが重要であり,MRIが骨の評価すべてで優れるという意味ではない(出典③・④)。
骨髄浮腫があれば必ず新鮮な外傷であるとも,浮腫がなければ急性骨折がないともいえない。
急性骨折でも浮腫が乏しい例が報告されており,骨折の型,撮影時期,CT所見,臨床経過を併せて判断する必要がある(出典⑤)。
2 椎間板の損傷,膨隆,突出,ヘルニア
MRIでは,椎間板の形状,信号,周囲への突出,神経組織との位置関係を確認できる。
外傷に伴う椎間板損傷やヘルニアが問題になる一方,椎間板の膨隆や突出は,事故前からの変性として存在する場合もある(出典④・⑥・⑦)。
したがって,「ヘルニアが写っている」という説明だけでは不十分である。
どの高さの,どちら側に,どの程度の病変があり,神経根や脊髄をどのように圧迫しているかを確認し,症状や神経学的所見と対応させることになる。
事故前の画像があれば比較が役立つが,比較画像がない場合に,事故後の1回のMRIだけから発生時期を確定することには限界がある。
3 靱帯・関節包,筋肉その他の軟部組織
MRIでは,前縦靱帯・後縦靱帯,棘間・棘上靱帯などの周囲の信号変化,連続性の異常,関節包や筋肉の損傷,血腫などを評価することがある。
頸椎の前方や脊柱の周囲にある軟部組織の腫脹・液体貯留も,損傷の部位や広がりを考える材料となる(出典④)。
ただし,「高信号」「浮腫」「液体貯留」という言葉を,そのまま完全断裂又は今回の事故による損傷と読み替えてはならない。
靱帯の連続性,周囲の損傷,CT所見などを併せて評価する必要があり,重症頸椎外傷の手術例との比較でも,MRIによる靱帯損傷の評価には限界が示されている(出典⑧)。
腰部の軟部組織の浮腫や椎間関節の関節液は,外傷を対象としない研究でも観察されている。
これらの所見の存在だけで外傷性と判定することはできず,受傷機転,撮影時期,変性所見との関係を確認する必要がある(出典⑨)。
4 脊髄,神経根,馬尾及び脊柱管内の血腫