第1 氏名,職務内容及び不開示事由を分けて検討する
行政文書に記載された公務員の氏名は,公務員であるという理由だけで,すべて当然に開示されるものではない。
一方,個人を識別できる氏名だから必ず不開示になるものでもない。
個人情報の例外である慣行公表,職務遂行情報の範囲,公共の安全や事務への支障を,対象情報ごとに分けて検討する必要がある。
本記事は,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)に基づく行政機関の文書開示を中心に整理する。
現行法の確認日は令和8年10月6日である。
裁判所の司法行政文書,自治体の条例に基づく開示及び本人による保有個人情報の開示は,それぞれ根拠制度を確認する必要がある。
第2 5条1号の例外と5条4号・6号は別の問題である
1 職務遂行情報の例外は氏名全体を当然に含まない
法5条1号ただし書ハは,当該個人が公務員等であり,当該情報が職務遂行に係る情報であるときに,職及び職務遂行の内容に係る部分を個人情報の不開示事由から除く。
ここで明示されているのは,職と職務遂行の内容であり,氏名を当然にすべて開示するという規定ではない。
氏名については,同号ただし書イの,法令又は慣行により公にされ,又は公にすることが予定されている情報に当たるかが別途問題となる。
氏名,所属・職,具体的担当事件,自署の形状,印影,住所等を一つにまとめず,どの記載部分の開示を求めるのかを特定することが重要である。
2 公務員氏名に関する平成17年の申合せ
平成17年8月3日情報公開に関する連絡会議申合せ「各行政機関における公務員の氏名の取扱いについて」は,所属職員の職務遂行情報に含まれる氏名を,特段の支障が生ずるおそれがある場合を除き公にするという統一方針を示している。
補助的業務に従事する非常勤職員は対象から除かれ,特段の支障として,法5条2号~6号の不開示情報を公にすることとなる場合及び個人の権利利益を害することとなる場合が挙げられている。
この申合せは,個人情報保護委員会の公的部門向け事務対応ガイドの資料4にも収録されている。
説明部分は,求められれば応じる趣旨であり,対外的な積極的周知まで義務付けるものではないこと,この方針に基づき公にすることとした氏名は法5条1号ただし書イに該当することを示している。
申合せは行政機関の運用方針であり,法律と同じ効力を持つ規定,又は裁判所へそのまま直接適用される規定として扱うべきものではない。
3 慣行公表を示しても,別の不開示事由は残り得る
法5条4号は,犯罪の予防・捜査,公訴の維持等の公共の安全と秩序への支障のおそれを行政機関の長が認めるにつき,相当の理由がある情報を対象とする。
同条6号は,事務又は事業の性質上,適正な遂行に支障を及ぼすおそれを対象とし,監査・検査・試験,争訟,人事管理等について個別の類型も定めている。
両号の要件は同一ではない。
5条1号ただし書イに当たることを示しただけで,4号又は6号による不開示の問題が自動的に解消するわけではない。
どの業務に,どの情報の公開によって,どのような支障が生じると説明されているのかを検討する必要がある。
第3 公表資料を集めるときに確認する事項
1 誰が何を公表しているか
公表資料は,氏名が見付かったというだけで提出せず,次の内容を整理する。
担当業務を伴わない氏名の公開と,特定事件の担当者であることを含む情報の公開は,同じ範囲の情報ではない。
| 確認事項 | 資料で示す内容 | 検討上の意味 |
|---|---|---|
| 公表主体 | 行政機関,本人,所属組織,報道機関等 | 当該情報の公表慣行を基礎付ける事情か |
| 対象情報 | 氏名だけか,所属,担当職務・事件まで含むか | 開示請求で新たに明らかになる情報を特定する |
| 公表方法・範囲 | 職員録,公式サイト,記事,限定的な閲覧等 | 一般公開,限定的な開披及び推測を区別する |
| 時点 | 公表日,掲載期間,取得日 | 処分時の状況を示せるか,後日の資料か |
| 対応関係 | 対象文書の記載部分との一致 | 別人,別年度又は別の職務の資料でないか |
2 第三者の掲載だけで一律に結論を出さない
令和3年度(行情)答申第485号,第487号及び第489号(令和4年1月20日,諮問庁・財務大臣)は,協議会の出席者等の氏名を検討した。
公表答申書8頁~9頁の第5・2は,当該事件の報道機関や特定団体による独自の公表について,対象情報の公表慣行を基礎付けるものとはいえないとして,氏名の不開示を妥当とした。
これは,当該情報と公表状況についての判断である。
すべての第三者の公表が常に無意味であると一般化することも,インターネットに掲載があるだけで必ず慣行公表になると一般化することも避けるべきである。
公表主体,対象情報及び制度との関係を,具体的に示す必要がある。
第4 開示方向の答申を援用するときの限定
1 保険指導医の氏名
平成23年度(行情)答申第473号(平成24年2月15日,諮問庁・厚生労働大臣)は,平成21年度指導医の名簿を検討した。
当時の内閣府公表答申書を保存した国立国会図書館WARP11頁の第5・4(1)ア(ア)aは,個別の指導・監査に直接従事する職務の重要性と前記申合せを踏まえ,非常勤の保険指導医の氏名を5条1号ただし書イに該当するとして,開示すべきとした。
この答申から導けるのは,単なる非常勤という属性だけで,氏名の不開示が決まるわけではないということである。
名簿の住所,電話番号等まで一律に開示すべきとした答申ではなく,公表答申書12頁は氏名・専門科目以外の記載を別に検討している。
2 社会保険労務士試験委員の氏名
平成20年度(行情)答申第58号(平成20年5月22日,諮問庁・厚生労働大臣)は,社会保険労務士試験委員の氏名を開示すべきとした。
WARPの公表答申書4頁~6頁の第5・2(1)は,他の主要国家資格での公表状況や試験委員の役割を踏まえ,慣行として公にすることが予定されている情報と認め,試験への支障についても検討した。
ただし,同答申7頁の第5・3は,当該試験委員は連合会が選任した者であり,5条1号ただし書ハの公務員等に該当しないとしている。
公務員氏名の直接の事例ではなく,慣行公表や具体的支障の検討方法を比較する事例として用いる必要がある。
また,氏名の開示と,自署・印影・生年月日・住所・略歴の開示を分け,後者の不開示は妥当としている。
第5 危害や事務支障への反論は追加公開の範囲に即して行う
1 既に公表された氏名・職との関係
平成26年度(行情)答申第61号(平成26年5月29日,諮問庁・検事総長)は,大阪高等検察庁執務規程の一部である,各係の所管事務の不開示を検討した。
WARPの公表答申書4頁~5頁の第5・2は,各係名,係長の氏名・職名が既に職員録に掲載されていることを確認し,当該所管事務の公開が危害等のおそれを大きく高めるという説明には合理性がないとして,4号・6号のいずれにも該当せず開示すべきとした。
ここで開示を求めた対象は,氏名そのものではなく,係の所管事務である。
既存の公表情報と追加公開の範囲を比較する考え方は参考になるが,すべての氏名公開事件で危険の飛躍的な増加を法定要件とする判断ではない。
2 職員録に氏名があっても不開示を認めた例
令和4年度(行情)答申第348号(令和4年11月24日,諮問庁・検事総長)は,裁判結果票に記載された検察官・検察事務官の氏名等について,公表答申書10頁~11頁の第5・2(1)ウ(エ)で検討した。
氏名が職員録に掲載されていても,具体的担当職務・部署は記載されていないという説明を確認し,事件関係者による事務妨害や秘匿性の高い業務への影響等の説明を採用して,5条4号による不開示を妥当とした。
この部分については5条1号を判断するまでもないとしており,同号の公表慣行を否定した判断として紹介するのは正確でない。
前記第61号と結論が違うのは,追加公開される情報や説明された支障が同一ではないからである。
反論では,単なる氏名の公開か,特定事件・職務との結び付きの公開かを特定し,既存の公表でどこまで明らかになっているか,なお何が追加されるかを示す。
第6 意見書・準備書面に整理する方法
対象文書の記載部分ごとに,①行政側が挙げた不開示事由,②公表資料が示す範囲,③追加公開で明らかになる内容,④主張された支障とそれへの反論,⑤援用する答申との共通点・相違点をまとめる。
氏名の開示と,自署・印影・私生活情報の開示は別に求め,6条の部分開示も対象情報の構造に即して検討する。
答申中の諮問庁の説明を,審査会自身の認定と取り違えてはならない。
開示方向の答申だけでなく,不開示を妥当とした答申が扱った対象情報と理由も比較することで,反論すべき論点が明確になる。
答申を調査・引用する方法及び審査会への意見書の書き方も参照されたい。
裁判所の司法行政文書については,裁判所が説明する開示制度と取扱要綱に従う。
行政機関の審査会答申を,最高裁判所に置かれた審査委員会の答申又は最高裁判決として表示してはならない。
事件記録の閲覧等と情報公開も別の制度であり,特定の閲覧や法廷で知り得たことだけから,一般的な公表慣行を当然に認めることはできない。
第7 出典
①行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条・6条(e-Gov法令検索)。
②個人情報保護委員会・公的部門向け事務対応ガイド資料4「各行政機関における公務員の氏名の取扱いについて」(平成17年8月3日情報公開に関する連絡会議申合せ。資料自体に印字頁番号なし)。
③令和3年度(行情)答申第485号・第487号・第489号1頁,8頁~10頁。
④平成23年度(行情)答申第473号1頁,9頁~12頁。
⑤平成20年度(行情)答申第58号1頁,4頁~7頁。
⑥平成26年度(行情)答申第61号1頁,3頁~5頁。
⑦令和4年度(行情)答申第348号1頁,10頁~13頁。
⑧裁判所「司法行政文書開示手続」。