第1 検察官の氏名・所属・事件担当はどこまで分かるか
検察官の氏名や所属は,官報,職員録,法務省・検察庁が公表する幹部の略歴などで確認できる場合がある。
もっとも,特定の事件で誰が起訴し,公判に立ち会い,決裁したかが分かる文書については,職員録に氏名が載っていても,不開示が妥当とされた例がある。
修習期や生年月日についても,対象の官職と,各項目を公表する取扱いの有無によって結論が分かれる。
本記事は,情報公開・個人情報保護審査会の公開答申を基に,検察庁・法務省が保有する文書に記載された検察官の情報の開示範囲を整理する。
各答申の結論は,その答申が審査した文書と時点についての判断であり,現在のすべての文書・項目の開示結果を示すものではない。
情報公開法5条1号ただし書ハが個人情報の不開示事由から除いているのは,公務員等の職務の遂行に係る情報のうち,その職と職務遂行の内容に係る部分である。
氏名については,同号ただし書イの,法令の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報に当たるかが問題になる。
平成17年8月3日の情報公開に関する連絡会議申合せ「各行政機関における公務員の氏名の取扱いについて」は,補助的業務に従事する非常勤職員を除く職員の職務遂行に係る情報に含まれる氏名を,特段の支障の生ずるおそれがある場合を除き公にするとし,「公にする」とは求められれば応じるとの趣旨であると説明している。
特段の支障の生ずるおそれがある場合として,氏名を公にすることにより5条2号から6号までの不開示情報を公にすることとなる場合と,個人の権利利益を害することとなる場合が挙げられている。
氏名が職員録に載っているときも,氏名と具体的な事件・行為を結び付けることで何が新たに明らかになるかを,別に検討する必要がある。
開示を求めるための一般的な判断枠組みは,情報公開で公務員の氏名の不開示を争う方法にまとめている。
第2 裁判結果票で起訴・公判立会い・決裁をした検察官の名前は分かるか
裁判結果票(甲)は,終局の裁判の宣告があったときに,公判立会検察官等が裁判要旨その他所定の事項を記載する文書であり,事件事務規程に基づいて作成される。
令和6年度(行情)答申第261号(令和6年7月19日,諮問庁・検事総長)で審査された前橋地方検察庁の裁判結果票では,様式と請求対象の罪名は開示済みであった(1頁~2頁)。
起訴検察官・公判立会検察官・決裁者の氏名(印影を含む。)及び官職については,事件関係者による事務の妨害,内偵捜査や所在捜査での情報収集への影響,開示請求の繰り返しによる職員の配置状況の把握などをいう諮問庁の説明を不自然,不合理とはいえないとして,審査会は5条4号による不開示を妥当とした(7頁)。
この部分について,審査会は5条1号を判断するまでもないとしている。
他方,被告人の氏名・生年月日のほか,事件名・裁判年月日・裁判所・事件番号等の欄は,被告人である特定の個人に関する情報であって個人識別部分に当たるとして,5条1号による不開示を妥当としている(6頁)。
| 開示を求めた情報 | 答申の結論と理由 |
|---|---|
| 大阪高検・最高検の執務規程にある各係の所管事務 | 開示すべきとされた。課の所管事務は公表されている検察庁事務章程の別表に記載され,各係長の氏名・職名も職員録に載っていた。各係が担当する事件の類型が明らかになっても,危害等のおそれが飛躍的に高まるとはいえないとして,5条4号・6号のいずれにも該当しないと判断された。平成26年度(行情)答申第61号・同第65号 |
| 裁判結果票の起訴・公判立会い・決裁に関わる氏名等 | 不開示が妥当とされた。職員録に氏名が載っていても具体的な担当職務・部署は記載されておらず,氏名と特定事件での担当が結び付くことで捜査・公訴の維持に支障が生じ得るという説明が採用され,5条4号が適用された。令和4年度(行情)答申第348号・令和6年度(行情)答申第261号 |
控訴審議要否欄には,判決への控訴に関する上級庁との審議の要否について,立会検察官及び決裁官の意見が記載される。
この欄について,第261号は5条4号を,第348号は5条6号柱書きを不開示の根拠とした。
担当者欄と内部意見欄を区別し,同じ欄名でも,答申を引用するときは審査会が採用した理由まで確認する必要がある。
第261号答申・1頁~2頁,5頁~8頁・第348号答申・10頁~11頁・検務事務の解説
第3 検事の修習期・生年月日・出向歴は開示されるか
平成28年度(行情)答申第365号(平成28年9月29日,諮問庁・法務大臣)は,平成27年1月23日現在及び同年4月15日現在の法務・検察幹部名簿及び検事期別名簿について,次のように判断した。
| 名簿の項目 | 答申の結論と理由 |
|---|---|
| 幹部名簿の修習期 | 不開示が妥当とされた。弁護士からの任官者など,司法修習の修了から検事への任官までの期間が空いている者については,任官年月日から修習期が分かるという前提が成り立たない。各検事の修習期を直接公にした事実もなく,慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報とは認められなかった。 |
| 本府省課長相当職にある者の生年月日 | 開示すべきとされた。総務省通知が本府省課長相当職以上の者の生年月日を含む略歴を公表することとし,本府省課長相当職の者については求めに応じて略歴書を提出する形での対応も差し支えないとしているので,求めがなく略歴書を提出していないとしても,公にすることが予定されている情報等に当たると判断された。本府省課長相当職より上位の官職にある者の生年月日は,原処分で既に開示されていた。 |
| 検事期別名簿の備考欄のうち,裁判所から検事として出向していることを示す記載部分 | 開示すべきとされた。裁判官が裁判所から法務省・検察庁に検事として出向する人事異動は官報に掲載されているためである。 |
人事情報を調べるときは,名簿の基準日と官職を確かめる。
そのうえで,欲しい項目が官報や略歴で直接公表されているか,求めに応じて提供する運用があるかを確認する。
平成28年度(行情)答申第365号・5頁,7頁~9頁・検事期別名簿の年別一覧・修習期・生年月日の詳しい解説
第4 情報公開請求と刑事記録の閲覧をどう使い分けるか
開示請求の対象は,行政機関の職員が職務上作成し,又は取得した文書であって,職員が組織的に用いるものとして当該行政機関が保有しているもの(行政文書)である。
請求書では,保有する検察庁,対象期間や名簿の基準日,文書名,知りたい欄をできる範囲で特定する。
例えば,ある時点の所属・官職を知りたいなら,「令和○年○月○日現在の○○地方検察庁の検事の所属及び官職が記載された名簿の該当部分」と書く方法がある。
文書の一部に不開示情報があっても,その部分を容易に区分して除くことができ,残りに有意の情報が記録されていれば,情報公開法6条による部分開示の対象になる。
もっとも,第261号は,裁判結果票は文書ごとに一体として被告人の個人に関する情報に当たるとした上で,事件名・裁判年月日・事件番号等の欄は個人識別部分に当たるとして,6条2項による部分開示の余地はないと判断している(6頁)。
検察庁の請求書式・最高検察庁情報公開審査基準・第261号答申・6頁
刑事訴訟法53条の2により,訴訟に関する書類及び押収物には情報公開法の規定が適用されない。
第348号も,逮捕状・勾留状を発付した裁判官の氏名が分かる文書について,訴訟に関する書類に当たるとして同法の適用を否定している(12頁)。
判決書や供述調書などの刑事記録を読みたい場合は,事件の段階と申請者の立場に応じた閲覧・謄写の手続を確認する。
第5 出典
①行政機関の保有する情報の公開に関する法律2条2項,5条,6条(e-Gov法令検索)。
②刑事訴訟法53条の2(e-Gov法令検索)。
③最高検察庁情報公開審査基準。
④個人情報保護委員会・公的部門向け事務対応ガイド資料4「各行政機関における公務員の氏名の取扱いについて」(平成17年8月3日情報公開に関する連絡会議申合せ)。
⑤平成26年度(行情)答申第61号1頁,4頁~5頁。
⑥平成26年度(行情)答申第65号。
⑦令和4年度(行情)答申第348号1頁,10頁~12頁。
⑧令和6年度(行情)答申第261号1頁~2頁,5頁~8頁。
⑨平成28年度(行情)答申第365号1頁,5頁,7頁~9頁。
⑩検察庁「各種請求等様式」。