目次第1 弾劾裁判の概要第2 分限裁判と弾劾裁判の違い1 憲法上の根拠2 罷免事由3 手続の特徴第3 訴追された二つの行為群1 刑事事件の被害者遺族に関する発信2 犬の返還請求訴訟の当事者に関する発信第4 弾劾裁判所の判断1 刑事事件に関する10件の発信2 犬の返還請求訴訟に関する3件の発信3 罷免という結論4 弾劾判決が扱った13件の投稿等と判決理由の対応5 13件を最終結論に対応させた整理第5 二つの分限裁判との関係第6 罷免判決の効力と資格回復1 罷免判決の効力2 資格回復第7 関連記事第8 出典
第1 弾劾裁判の概要
裁判官訴追委員会は令和3年6月16日,岡口基一裁判官を罷免するよう裁判官弾劾裁判所に訴追した。
裁判官弾劾裁判所は,令和6年4月3日,令和3年(訴)第1号事件について罷免判決を言い渡した。
裁判官弾劾裁判所の公式記録によれば,訴追事由は,①刑事事件の被害者遺族に関する10件の発信及び②犬の返還請求訴訟の当事者に関する3件の発信の二つの行為群であった。
第2 分限裁判と弾劾裁判の違い
1 憲法上の根拠
日本国憲法78条は,裁判官は,公の弾劾によらなければ罷免されないと定めている。
裁判官の身分保障を維持しつつ,重大な非行がある場合に国会の弾劾制度によって罷免できる仕組みである。
2 罷免事由
裁判官弾劾法2条は,①職務上の義務に著しく違反し,又は職務を甚だしく怠ったとき,②その他職務の内外を問わず,裁判官としての威信を著しく失うべき非行があったときを罷免事由とする。
これに対し,分限裁判は,裁判所法49条及び裁判官分限法に基づき,戒告又は1万円以下の過料を科す手続である。
懲戒処分を受けた行為が,直ちに弾劾裁判の罷免事由になるわけではない。
3 手続の特徴
裁判官訴追委員会の制度説明によれば,弾劾裁判は公開の法廷で行われ,裁判員14人のうち9人以上が出席し,罷免判決には出席裁判員の3分の2以上の賛成を要する。
弾劾裁判は一審制であり,判決に対する不服申立ての制度はない。
第3 訴追された二つの行為群
1 刑事事件の被害者遺族に関する発信
第1の行為群は,殺人事件の判決文掲載後,被害者遺族についてSNSその他で行った10件の発信である。
訴追委員会は,これらが遺族を侮辱し,又は遺族の名誉若しくは感情を傷つけるものであり,裁判官としての威信を著しく失うべき非行に当たると主張した。
2 犬の返還請求訴訟の当事者に関する発信
第2の行為群は,犬の返還請求訴訟の原告についてSNSで行った3件の発信である。
この訴訟をめぐる最初のTwitter投稿については,最高裁が平成30年10月17日に戒告決定をしていた。
第4 弾劾裁判所の判断
1 刑事事件に関する10件の発信
裁判官弾劾裁判所の公式判例要旨によれば,10件のうち,「因縁をつけている」という趣旨の文書に関する1件は非行に当たらないとされた。
残る9件は非行に当たるとされたものの,そのうち東京高裁及び訴追委員会を批判した2件は,裁判官としての威信を「著しく」失うべき非行には当たらないとされた。
その結果,残る7件が裁判官弾劾法2条2号の罷免事由に当たると判断された。
2 犬の返還請求訴訟に関する3件の発信
弾劾裁判所は,犬の返還請求訴訟に関する3件の発信をいずれも非行と評価した。