第1 本記事の対象と資料の性質
1 対象とする資料
本記事は,最高裁判所におけるテレワーク試行要領(令和8年8月の開示文書)(PDF7頁)を読み,法令その他の公表資料と照合した結果を整理するものである。
基準日は令和8年10月5日である。
PDFの構成は,次のとおりである。
①1頁~4頁 本文(第1 目的~第6 その他)
②5頁 別紙1「最高裁テレワーク試行検証事項」
③6頁 別紙2「自宅等においてテレワークを行う際のチェックリスト」
④7頁 別紙3「テレワーク実施申請・報告簿」
2 作成日,黒塗り及び表示
要領には,作成日,施行日及び作成者の表示がない。
別紙3の記載例には「R6.4.8」,「R6.4.10」等の日付が入っているから,令和6年4月頃の運用を念頭に置いて作られた様式であると考えられる。
もっとも,記載例の日付から要領の制定日を特定することはできない。
本文第2の2の対象職員の定めのうち,職員が使う端末に入れるソフトウェアの名称に当たる部分(2か所)は黒塗りである。
本記事は,黒塗りの部分の内容を推測しない。
別紙1の右上には「機密性2」の表示がある。
3 本記事での区別
本記事では,次の三つを区別して書く。
①要領に書いてあること(頁又は項目を示す。)
②法令,人事院・厚生労働省の公表資料,法務省及び検察庁の開示文書で確認したこと(出典を示す。)
③それらを踏まえた本記事の評価(「考えられる」,「本記事では~と整理する」等と書く。)
本記事は,裁判例を取り上げていない。
第2 要領の構成
| 項目 | 主な内容 |
|---|---|
| 第1 目的 | 最高裁判所におけるテレワークの試行及び運用に関する事項を定める |
| 第2 試行の枠組み等 | 定義,対象職員,試行場所,検証事項と週1日程度の目途,環境整備,移動時間 |
| 第3 試行手続 | 前日までの申請,上司の承認,開始・終了の報告,通信障害時の連絡 |
| 第4 業務管理等 | 職務専念義務,上司による執務状況の把握,超過勤務(午後8時まで) |
| 第5 情報の取扱い等 | 個人情報・情報セキュリティの定めの遵守,公衆回線の不使用,機密性2以上の情報の扱い,インシデントの連絡 |
| 第6 その他 | 通勤手当への影響,通信費用等の本人負担,テレワーク試行担当者 |
| 別紙1~3 | 検証事項,作業環境のチェックリスト,申請・報告簿 |
第3 試行の枠組み
1 定義と職務命令
要領は,テレワークを,職員がICTを活用して,試行場所(自宅等)において「通常の勤務官署における勤務と同等の職務を遂行する勤務形態」と定義している(第2の1(1)。1頁)。
テレワークは「職務命令に基づき試行する」ものであり(同(2)),勤務官署における勤務と「同等の質、量」が確保される必要があるとされる(同(3))。
2 対象職員
対象職員は,「テレワーク試行部署」の職員のうち,次のいずれかに当たる職員である(第2の2。1頁)。
①試行部署に配布するソフトウェア(名称は黒塗り)を入れたWindowsのモバイルパソコンを利用する職員
②ソフトウェア(名称は黒塗り)を入れたiOS/iPadOS・AndroidOSの私物端末から,Microsoft365(職場用のライセンスの付与を受けている場合に限る。)を利用することができる職員
全ての職員が対象になるのではなく,試行部署と端末の条件で範囲を限っている点に特徴がある。
私物のスマートフォン又はタブレットからMicrosoft365を使う方法が対象職員の要件に含まれていることも,要領から読み取れる。
3 試行場所
テレワークは,次のうち,上司の許可を得た場所で試行する(第2の3。1頁)。
①職員の自宅(単身赴任者については,単身赴任元の自宅を含む。)
②①以外の職員やその配偶者の住居
③職員の父母の住居
④職員の子の住居
⑤職員の祖父母,孫,兄弟姉妹の住居
⑥職員の配偶者の父母の住居
許可に当たっては,「裁判所外での情報処理の許可を得、又は、同届出をした場所であることが必要である点に留意する」とされている(同)。
裁判所外での情報処理の許可・届出の根拠となる定めの内容は,本記事の基準日までに確認できた公表資料では明らかでない。
試行場所は,住居に限られ,サテライトオフィス,カフェ等は列挙されていない。
後記第9のとおり,法務省及び検察庁の定めには,サテライトオフィス等を含める余地がある。
4 検証事項と週1日程度の目途
試行は,「裁判所におけるテレワーク勤務に関する導入検討に向け」,別紙1の事項を検証・検討するために行うとされ,「当面の間、週1日程度までを目途に行うこととする」とされている(第2の4。1頁~2頁)。
したがって,この要領は,裁判所全体のテレワーク制度を定めたものではなく,導入の検討のための試行の要領である。
5 勤務環境と移動時間
試行職員は,情報セキュリティの確保を含め,自宅等において必要な勤務環境を確保し,別紙2のチェックリストを踏まえて適切な勤務環境の確保に努めるものとされる(第2の5。2頁)。
正規の勤務時間の一部についてテレワークを試行する場合,自宅等と職場の間の移動は,上司がテレワーク勤務の職務命令を取り消して職場勤務を命じた場合を除き,正規の勤務時間中に行うことはできない(第2の6。2頁)。
つまり,午前は自宅,午後は職場という働き方をするときは,原則として移動を勤務時間の外(休憩時間等)で行う必要がある。
第4 試行の手続
1 申請と承認
テレワークの試行を希望する職員は,試行日の前日までに「テレワーク試行申請・報告簿」(別紙3)に記入して,上司に申請する(第3の1。2頁)。
やむを得ない事情により前日までに申請できない場合は,当日のテレワーク開始時刻に間に合うように申請する(同)。
上司は,勤務官署における勤務と同等の質,量が確保できるかなど,試行が相当か否かを判断して承認し,承認欄にチェックを記入する(第3の2。2頁)。
2 開始・終了の報告と確認
試行職員は,テレワークを開始したとき及び終了したときに,申請・報告簿に時刻を記入して上司に報告し,上司は確認欄にチェックを入力する(第3の3。2頁)。
通信障害等でテレワークの継続が困難になったときは,速やかに上司に連絡して指示に従う(第3の4。2頁)。
本文は様式を「テレワーク試行申請・報告簿」と呼んでいるが,別紙3の表題は「テレワーク実施申請・報告簿」である(7頁)。
様式の欄は,申請日,氏名,実施予定日,開始予定時刻,終了予定時刻,実施場所,承認欄,勤務開始時刻,勤務終了時刻及び確認欄である。
記載例の2件目は,終了予定が「17:30」,勤務終了時刻が「18:30」であり,実施場所が「父母の住居」となっている。
第5 業務管理
1 職務専念義務
国家公務員法101条1項は,職員は,法律又は命令の定める場合を除いては,その勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職責遂行のために用い,政府がなすべき責を有する職務にのみ従事しなければならないと定める。
裁判所職員臨時措置法は,裁判官及び裁判官の秘書官以外の裁判所職員の服務等に関する事項について国家公務員法の規定を準用するとしており,職務専念義務の規定もその対象に含まれる(同法1号)。
要領は,テレワークでの職務専念義務について,次のように定める(第4の1。2頁~3頁)。
①職場勤務と同様,勤務時間中に職務に専念できるように環境を整えて職務に専念しなければならない。
例えば,常態的・継続的に育児・介護等が必要な者がいる場合には,勤務時間中は第三者に預ける等の対応が必要になる。
②執務をしていないのではないかとの疑念を生じさせる行動等,国民からの信頼が損なわれるような行動は慎む。
③やむを得ない範囲内でごく短時間の勤務の中断があっても,総体として職場勤務と同等の勤務が提供されている範囲内であれば,職務専念義務は果たされているものと考えることは可能である。
ただし,ごく短時間の中断であっても業務が適切に遂行され得ない場合には職務専念義務に違反するおそれがあることに留意し,中断する時間に応じて休暇を取得する。
③の考え方は,検察庁テレワークガイドライン(令和4年3月22日)が引用する内閣人事局・人事院の事務連絡「テレワーク勤務の更なる活用に向けた留意点について」(令和3年12月16日)のQ&Aの説明とほぼ同じである(同ガイドライン5頁~6頁)。
本記事では,この事務連絡の原文は確認していない。
2 上司による執務状況の把握
上司は,必要に応じてコミュニケーションツール等の利用や成果物の確認により,試行職員の執務状況を適宜把握するとともに,より充実したコミュニケーションを図るように努める(第4の2。3頁)。
3 超過勤務
試行職員は,超過勤務を行う場合には,適宜の方法で上司に必要な事項を申告する(第4の3(1)。3頁)。
ただし,最高裁判所のテレワーク試行においては,超過勤務は午後8時までとされている(同)。
上司は,職場勤務と同様に,超過勤務予定の事前申請と超過勤務結果等の事後報告を徹底させ,超過勤務時間等の適切な把握に努める(同(2))。
第6 情報の取扱い
要領は,テレワークでの情報の取扱いについて,次のように定める(第5。3頁)。
①裁判所の保有する個人情報の管理に関する定め,情報セキュリティに関する定め及び人事関係資料の取扱いに関する定め等に従い,所要の手続を含めて遵守する。
②不特定多数の者が接続することのできる公衆回線等を利用しない。
③試行職員以外の者がテレワークで取り扱われる機密性2以上の情報に接することのないよう,試行職員以外の者が勤務中に出入りすることのない個室で事務を行うなど,相応の措置を講じる。
④端末の紛失又は盗難,情報漏洩,不正プログラム感染など情報セキュリティインシデントが発生した場合は,速やかに情報セキュリティ責任者に連絡する。
試行場所が親族の住居まで広がっている一方で,③により,同居の家族を含む第三者が出入りしない個室で事務を行うことなどが求められている。
別紙2のチェックリストにも,覗き見防止シートの使用と,後ろに他者がいない場所でのテレワークを確かめる項目がある(後記第8の2)。
第7 給与と費用負担
1 通勤手当
要領は,通勤手当について,原則としてテレワークの試行により通勤回数が変動してもその影響を受けないが,「2以上の月にわたる規則的なテレワークを計画的に試行する場合には、影響を受けることに留意する」としている(第6の1(1)。3頁~4頁)。
一般職の職員の給与に関する法律(以下「給与法」という。)12条2項1号は,交通機関等を利用する職員の通勤手当の額を,支給単位期間につき,人事院規則で定めるところにより算出した通勤に要する運賃等の額に相当する額(運賃等相当額)としている。
給与法は,裁判所職員臨時措置法3号により,裁判所職員に準用される(「人事院規則」は「最高裁判所規則」と読み替えられる。)。
人事院の通知「運賃等の値上げ等、在宅勤務等手当の支給又は通勤所要回数の変動に伴う通勤手当に係る届出の取扱いについて」(平成15年1月7日給実甲第934号。最終改正令和8年10月1日)の題名のとおり,国家公務員の通勤手当では,通勤所要回数の変動が届出と額の算定に関わる。
本記事では,通勤所要回数の算定方法の細目(人事院規則9-24の該当規定)の原文までは確認していない。
2 通信費用等の本人負担と在宅勤務等手当
要領は,テレワークの試行に係る通信費用,電話料金及び電気料金等の費用は,試行職員の負担とすると定める(第6の1(2)。4頁)。
他方,給与法12条の3は,住居その他これに準ずる場所において正規の勤務時間の全部を勤務することを,人事院規則で定める期間以上の期間について1箇月当たり平均10日を超えて命じられた職員に,月額3,000円の在宅勤務等手当を支給すると定める。
人事院の令和5年度年次報告書(公務員白書)によれば,在宅勤務等手当の新設に関する規則(人事院規則9-151(在宅勤務等手当)の制定等)は令和6年1月23日に公布され,同年4月1日から施行された。
同報告書は,回数乗車券等を使用することが最も経済的かつ合理的であると認められる普通交通機関等の場合には,在宅勤務等手当を支給される職員に1か月当たりの平均通勤所要回数分に応じた運賃等の額を支給するため,人事院規則9-24(通勤手当)を改正したとも説明している。
給与法は第2条及び第24条を除いて裁判所職員に準用されるから,在宅勤務等手当の規定も準用の対象に含まれる(裁判所職員臨時措置法3号)。
もっとも,要領の試行は「週1日程度まで」が目途であるから,1箇月当たり平均10日を超えるという支給要件を満たすことは,通常は想定されないと考えられる。
要領が通信費用等を本人負担としていることは,この点と整合している。
裁判所で在宅勤務等手当の細目を定める最高裁判所規則の有無及び内容は,本記事では確認していない。
3 テレワーク試行担当者
各試行部署にテレワーク試行担当者を置き,試行担当者は最高裁判所事務総局人事局能率課からの連絡窓口等に関する事務を行う(第6の2。4頁)。
第8 別紙の内容
1 別紙1(検証事項)
別紙1は,試行で検証する事項を,次の4つの柱と①~⑩の項目に分けている(5頁)。
①テレワーク時の勤務密度・生産性(紙供覧・紙決裁を減らす工夫,資料が大部な場合や紙の文献・資料の場合の工夫,要急業務・国会対応業務・打合せ・決裁説明等への対応,在庁勤務者に負担が偏らない工夫等)
②テレワーク中の職員とのコミュニケーション・情報共有(相談やコミュニケーションが減らない工夫,チャット・メール・ウェブ会議・電話の使い分け,職員の心理的ハードル(遠慮)の低減策,周囲の状況が分からないことによる情報量の減少への対応策)
③テレワーク中の職員の仕事の状況の把握(登庁勤務と遜色のない程度に部下の仕事の状況や職務遂行行動を把握する工夫)
④超過勤務の適正な把握・管理(サービス残業が発生しない工夫,私生活との境界が曖昧となりがちな状況下での把握・管理)
別紙1は,「対面の方が機動的・効率的・省力的に打合せができるイメージを打開」との注記も置いている。
紙の決裁・供覧と在庁勤務者の負担を最初の検証事項に挙げていることから,紙を前提とした事務の進め方がテレワークの障害になるという問題意識があると考えられる。
2 別紙2(チェックリスト)
別紙2は,作業場所やその周辺の状況(空間,姿勢,整理整頓,事故防止,他者からの画面の閲覧防止),作業環境の明るさや温度等(照明,換気,温湿度,燃焼器具,騒音)及び休憩等(水分補給,トイレを含む休憩)について,【観点】を示して確認させる様式である(6頁)。
この様式は,厚生労働省の「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」の別紙2「自宅等においてテレワークを行う際の作業環境を確認するためのチェックリスト【労働者用】」(R3.3.25版)と,項目及び【観点】の文言がほぼ同じである。
本記事で両者を照らし合わせたところ,次の違いがあった。
①最高裁判所の様式には,「他者から画面が閲覧されないための措置は講じられているか」(覗き見防止シート,後ろに他者がいない場所)という項目(1の(5))が加わっている。
②厚生労働省の様式にある「4 その他」(自宅の作業環境に大きな変化が生じた場合や心身の健康に問題を感じた場合に相談する窓口や担当者の連絡先を把握しているか)は,開示されたPDFの別紙2には見当たらない。
①は,作業環境の安全衛生を確かめる民間向けの様式に,情報セキュリティの項目を足したものと考えられる。
②が要領の原本でも欠けているのか,開示の際に頁が含まれなかっただけなのかは,PDFからは分からない。
3 別紙3(申請・報告簿)
別紙3は,部署ごとの一覧表の形式で,1行に1回のテレワークを記入する(7頁)。
申請から承認,開始・終了の報告,確認までを1枚の表で管理する様式である。
第9 法務省・検察庁の定めとの比較
本ブログには,法務省テレワーク実施要領の制定について(令和2年12月4日付の法務省大臣官房秘書課長及び人事課長の通知)と,検察庁テレワークガイドラインについて(令和4年3月22日付の最高検察庁総務部長の通知)も掲載している。
主な項目を並べると,次のとおりである。
| 項目 | 最高裁判所の試行要領 | 法務省テレワーク実施要領 | 検察庁テレワークガイドライン |
|---|---|---|---|
| 性格 | 導入検討のための試行の要領 | 試行要領による試行を経て,令和2年12月4日から実施する要領 | 検討会の検討結果であり,指示命令に相当するものではないとされる |
| 対象職員 | 試行部署の職員で,端末の条件を満たす者 | 全職員 | 全職員 |
| 場所 | 自宅,職員又は配偶者の住居,親族の住居(上司の許可と裁判所外での情報処理の許可・届出が必要) | 自宅,法務省所管の官署,実家,サテライトオフィス等で,本省局部課長等が認める場所 | 自宅又はそれに準ずる場所を基本とし,業務により民間のサテライトオフィス,ホテル等も考えられるとする |
| 頻度 | 当面の間,週1日程度までが目途 | 定めなし | 定めなし(制度上は頻度に制限がないとするQ&Aの説明を引用) |
| 申請 | 前日までに申請・報告簿で上司へ | あらかじめ上司に相談・調整し,管理表を命令権者へ | 所定の手続により申し出る |
| 勤務の中断 | ごく短時間は可。業務が適切に遂行され得ないときは時間に応じて休暇 | 定めなし | 休憩時間の延長,ごく短時間の中断,長時間なら時間休等を事後請求 |
| 超過勤務 | 午後8時まで。事前申請・事後報告 | 定めなし | 原則として事前に上司に申請 |
| 費用 | 通信費用,電話料金,電気料金等は本人負担 | 定めなし | 当面の間,私物利用で生じた経費は本人負担 |
本記事では,三者の違いを次のように整理する。
①法務省と検察庁は全職員を対象とし,頻度の上限も置いていない。
これに対し,最高裁判所の要領は,試行部署と端末で対象を限り,週1日程度までという目途を置いた慎重な試行である。
②場所について,法務省と検察庁はサテライトオフィス等を含め得るのに対し,最高裁判所の要領は住居に限っている。
③勤務の中断と費用負担の考え方は,三者でほぼ共通している。
第10 実務上の示唆
1 裁判所職員と民間の労働者の違い
国家公務員法附則6条は,労働基準法,労働安全衛生法等とこれらに基づく命令を職員には適用しないと定める。
裁判所職員臨時措置法1号は国家公務員法の規定を準用し(一部の規定を除く。),6号は一般職の職員の勤務時間,休暇等に関する法律(第2条及び第3条を除く。)を準用している。
したがって,裁判所職員の勤務時間,超過勤務及び手当は,一般職の国家公務員の法制を準用する枠組みで規律される。
厚生労働省のテレワークガイドラインは,労働基準法が適用される民間の労働者を念頭に置いたものであり,裁判所職員にそのまま適用されるものではない。
2 民間企業のテレワーク規程を作るときに参考になる点
要領は公務員の試行の定めであるが,民間企業のテレワーク規程を作り,又は見直すときに確かめるべき項目の一覧としても読むことができる。
本記事では,次の点を挙げる。
①実施場所を列挙し,許可制にするか
要領は住居を6類型で列挙し,上司の許可を要件にしている。
帰省先等の親族の住居で働くことを認めるかどうかは,民間でもよく問題になる。
②申請の期限と例外
前日までの申請を原則とし,やむを得ない事情があれば当日の開始時刻までとする形は,運用しやすい。
③中抜け(勤務の中断)の扱い
厚生労働省のガイドラインは,中抜け時間を把握する場合には休憩時間として扱い終業時刻を繰り下げたり,時間単位の年次有給休暇として扱ったりすること,把握しない場合には始業及び終業の時刻の間の時間を休憩時間を除き労働時間として扱うことなどを挙げ,あらかじめ就業規則等で定めておくことが重要であるとしている(11頁~12頁)。
ごく短時間の中断を認め,それを超えるときは休暇を取らせるという要領の定め方は,前者の考え方に近い。
④勤務時間の一部をテレワークにするときの移動時間
厚生労働省のガイドラインは,就業場所間の移動時間のうち労働者による自由利用が保障されている時間は休憩時間として扱うことが考えられ,使用者が業務のために移動を命じ,その間の自由利用が保障されていない場合の移動時間は労働時間に当たるとしている(12頁)。
要領が,上司が職場勤務を命じた場合を除き正規の勤務時間中の移動を認めないとしているのは,この区別と同じ方向の整理であると考えられる。
⑤時間外労働の上限時刻と事前申請
要領は,テレワーク中の超過勤務を午後8時までとし,事前申請・事後報告を徹底させるとしている。
民間で時刻の上限を置く場合も,上限を超えた作業や申請外の作業を把握したときの扱いを決めておかないと,労働時間の認定で争いになる。
この点は,在宅勤務の退勤打刻は残業時間の証拠になるか―残業許可制・PCログ・中抜けの判断と立証で整理している。
⑥費用負担
労働基準法89条5号は,労働者に食費,作業用品その他の負担をさせる定めをする場合には,就業規則に記載しなければならないとしている。
厚生労働省のガイドラインも,費用負担の取扱いをあらかじめ労使で話し合って就業規則等に定めておくことが望ましいとし,労働者に情報通信機器,作業用品その他の負担をさせる定めをする場合には就業規則に規定しなければならないとしている(5頁)。
要領のように通信費等を本人負担とするのであれば,民間ではその旨を就業規則に書いておく必要がある。
⑦情報セキュリティ
公衆回線の不使用,家族を含む第三者が出入りしない個室での作業,覗き見防止,インシデントの連絡先は,法律事務所や企業のテレワークでもそのまま使える確認項目である。
私物端末からの利用を認めるときは,要領が私物端末に特定のソフトウェアを入れることを条件にしているように,技術的な管理の手段とセットで認めるのが相当である。
私物端末や個人のアカウントで業務情報を扱う問題は,社員が私用LINE・私物USB・個人メールで会社の情報を扱ったとき―シャドーITと営業秘密,個人情報保護法,懲戒及び退職時の対応で整理している。
第11 関連記事
最高裁判所事務総局人事局能率課の事務分掌は,最高裁判所事務総局人事局の事務分掌に載せている。
新型コロナウイルス感染症の流行時に裁判官の在宅勤務を念頭に置いた最高裁判所の文書は,業務の再開に関するQ&A(令和2年5月1日付の最高裁判所総務局参事官の事務連絡添付の文書)及び新型コロナウイルス感染症への対応に関する最高裁判所作成の文書で紹介している。
Microsoft 365を使った業務改善の例は,最高裁判所作成の,「Microsoft 365で業務改善やってみた」で紹介している。
裁判所職員の勤務時間の記録と端末の起動時間の関係は,裁判所職員の端末の起動に時間がかかる理由―令和3年度整備のHDD端末,勤務時間管理システム及びGSS移行で整理している。
第12 出典
①最高裁判所におけるテレワーク試行要領(令和8年8月の開示文書)(PDF7頁)
②法務省テレワーク実施要領の制定について(令和2年12月4日付の法務省大臣官房秘書課長及び人事課長の通知)
③検察庁テレワークガイドラインについて(令和4年3月22日付の最高検察庁総務部長の通知)
④e-Gov法令検索・裁判所職員臨時措置法
⑤e-Gov法令検索・国家公務員法(101条1項,附則6条)
⑥e-Gov法令検索・一般職の職員の給与に関する法律(12条2項,12条の3)
⑦e-Gov法令検索・労働基準法(89条5号)
⑧人事院・令和5年度年次報告書(公務員白書)第1編第2部第3章第2節「給与法の実施等」
⑨人事院・運賃等の値上げ等、在宅勤務等手当の支給又は通勤所要回数の変動に伴う通勤手当に係る届出の取扱いについて(平成15年1月7日給実甲第934号)
⑩厚生労働省・テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン
⑪厚生労働省・自宅等においてテレワークを行う際の作業環境を確認するためのチェックリスト【労働者用】(こころの耳)