メインコンテンツへスキップ
       

裁判所職員の端末の起動に時間がかかる理由―令和3年度整備のHDD端末,勤務時間管理システム及びGSS移行(AI作成)

第1 本記事の対象と資料の性質

1 対象とする資料

本記事は,裁判所職員のパソコンの起動に時間がかかる場合があることに関する最高裁の問題意識が書いてある文書(最新版)(PDF4頁)を読み,参議院の会議録その他の公表資料と照合した結果を整理するものである。
基準日は令和8年10月5日である。

このPDFは,性質の違う二つの文書から成る。
①1頁~2頁は,「「パソコンの動作が重い」と思ったら…」と題する職員向けの周知資料(横長のスライド2枚)である。
②3頁~4頁は,令和8年4月23日の参議院法務委員会における仁比聡平議員の質問(問1及び問2)に対する答弁資料である。

2 作成者,作成時期及び黒塗り

職員向けの周知資料には,作成者及び作成日の表示がない。
もっとも,「令和8年5月までのフェーズ3開始に備えて」との記載と,GSS端末を令和8年度末までに配布する予定で現在予算要求中であるとの記載(いずれも1頁)があるから,民事訴訟の全面デジタル化(いわゆるフェーズ3)が始まる前,令和8年度予算の要求中の時期に作られたものと考えられる。
「他の人と比べて明らかに重い場合は、保守対応も含め総務課にご相談ください。」との記載(2頁)からは,各庁の総務課を相談先とする職員一般向けの資料であることがうかがわれる。

周知資料のうち,タスクマネージャーで確認したメモリ使用率の数値(1頁)と,バックグラウンドで動くアプリの止め方に関する記載の一部(2頁)は黒塗りである。
本記事は,黒塗りの部分の内容を推測しない。

答弁資料は,会議録と照らし合わせると,最高裁判所事務総局総務局長の実際の答弁とほぼ同じ文言である(第2の3)。

第2 参議院法務委員会での質疑

1 質問の内容

令和8年4月23日の参議院法務委員会(第221回国会,第7号)は,裁判所職員定員法の一部を改正する法律案を審査した。
仁比聡平議員は,勤務時間管理システムが全庁で開始されたことに触れ,同システムは「パソコンを起動したら遅くともその時間には業務を始めているでしょう」という形で勤務時間を客観的に把握しようとするものであるのに,職員の端末は起動に10分以上,中には20分掛かる場合があり,登庁直後の電話の問合せに事件管理システムで応答できない,登庁時間が重なってログインが集中するといった事態があると聞くが,そのとおりかと質問した(会議録の発言番号107)。

続けて同議員は,一般の職員が使う端末の記憶装置がSSDではなくハードディスクドライブ(HDD)であり,令和3年頃に導入されたWindows 10の搭載機であって,Microsoft 365の導入とWindows 11へのアップグレードで動作が遅くなったと現場で語られているが,そのとおりかと質問した(発言番号109)。

2 最高裁判所の答弁

(1) 起動時間について

最高裁判所事務総局総務局長は,「本年一月から全国の裁判所において勤務時間管理システムを導入しているところでございます。」と答弁した(発言番号108)。
そのうえで,職員が利用するシステムは担当業務等によって異なるため,端末の起動に掛かる時間を何分かと一概に答えることは困難であるとしつつ,「職員から端末の起動に一定の時間が掛かる場合があるという声もあることは承知しているところでございます。」と述べた。

(2) 端末の仕様について

同局長は,裁判所職員の端末は,民事訴訟を担当する一部の裁判官が利用しているものを除き,令和3年度に整備されたものであり,内蔵ストレージはSSDではなくHDDであると答弁した(発言番号110)。
また,整備後にMicrosoft 365の導入とWindows 11へのアップグレードが行われたこと,Windows 11のシステム要件は充足しているものの,「近時、端末の動作が遅いとの声があるものと認識しております。」と述べた。

3 答弁資料と会議録の違い

答弁資料(3頁・4頁)の「(答)」欄は,会議録の答弁とほぼ同じ内容である。
答弁資料の問2には,答弁の後に「(参考)」として,Windows 11を快適に使用するための推奨スペック(CPU:Inter Core i5以上(原文ママ),メモリ:8GB以上,ストレージ:128GB以上,SSD推奨)を掲げ,「職員端末は、SSDの点を除いては、上記推奨スペックも満たしている。」と記載した部分がある(4頁)。
会議録を見る限り,この参考の部分は答弁では述べられていない。
答弁資料は,答弁者の手元資料であって,そのすべてが国会で述べられるとは限らない。
答弁資料を引用するときは,会議録で実際に述べられた部分と,手元資料にとどまった部分を区別する必要がある。

4 デジタル庁の答弁とGSS

同じ質疑で,デジタル庁審議官は,裁判所におけるデジタル化の状況について政府として見解を述べることは差し控えるとした(発言番号116)。
そのうえで,デジタル庁が令和3年からガバメントソリューションサービス(GSS)を提供していること,GSSへの移行に当たって高機能で高セキュリティの業務端末の配付や新たなネットワークの整備を進めていることを説明し,「最高裁判所のネットワークにつきましては、令和八年九月以降、順次GSSに移行する予定でございます。」と答弁した。

GSSは,政府機関に標準的な業務用端末,ネットワーク,クラウドサービス等を提供する共通の業務環境である。
裁判所のシステムとGSSとの関係は,裁判所における主なシステム―J・NET,RoootS,TreeeS,mints,NAVIUS及びKEITASで整理している。

第3 職員向け周知資料の内容

1 「重い」理由として示されたこと

周知資料の1頁は,「「重い」のはなぜ」との見出しの下で,次の4点を挙げている。
①職員貸与PC(タイプA)は令和3年度に整備したもので,当時のWindows 10とその後のWindows 11の「システム要件」を充足し,CPU(「いわば頭脳」)とメモリ(「作業机」)は「推奨」レベルまで充足している。
②もっとも,ストレージ(「引出し」)は,データの読み書きに影響するスペックとして「推奨」されているSSDを実装しておらず,HDDである。
③令和3年度以降,職員貸与PCのインターネット接続(令和4年4月),Microsoft 365の導入(令和5年10月)など,急速にデジタル環境が進展し(ネットワークも増強),同時にセキュリティ対策も従前以上に講じてきた。
④使用状況にもよるが,現状,職員貸与PCは様々なアプリを同時に利用することも多く,それを前提にするとスペックとしては余裕がない。これが「重い」と感じる原因である。

国会の答弁(第2の2)と比べると,周知資料は,原因をHDDだけに帰さず,インターネット接続,Microsoft 365及びセキュリティ対策の積み重ねと,複数のアプリの同時利用による負荷を併せて挙げている点に特徴がある。

2 推奨スペックの記載とMicrosoftの最小要件

周知資料は,「Windows11を快適に使用するための推奨スペック」として,CPU:Intel Core i5以上,メモリ:8GB以上,ストレージ:128GB以上,SSD推奨と記載している(1頁)。
この「推奨スペック」の出所は,資料からは分からない。

Microsoftが公表するWindows 11の最小システム要件は,これと異なる。
プロセッサは「1 ギガヘルツ (GHz) 以上で 2 コア以上の 64 ビット互換プロセッサ」,メモリは「4 ギガバイト (GB)」,ストレージは「64 GB 以上の記憶装置」とされ,TPM 2.0等も要件とされている。
記憶装置の種類がSSDであることは,要件とされていない。

項目Microsoftの最小システム要件周知資料の「推奨スペック」
CPU1GHz以上・2コア以上の64ビット互換プロセッサIntel Core i5以上
メモリ4GB8GB以上
ストレージ64GB以上の記憶装置(種類の指定なし)128GB以上(SSD推奨)

したがって,Windows 11のシステム要件を充足していることは,Windows 11へアップグレードできることを意味するにとどまり,Microsoft 365,セキュリティ対策ソフト及び業務システムを同時に使う環境で快適に動くことまでは意味しない。
国会の答弁が,Windows 11のシステム要件について「充足しておりますものの」と言葉を継いだのも,この区別を前提にしているものと考えられる。

3 今後の見通し

周知資料は,「今後の見通し」との見出しの下で,GSS環境を令和9年9月までに整備する予定であること,GSS端末を令和8年度末までに配布する予定であること(作成時点で予算要求中)を記載している(1頁)。
端末の予定スペックは「こちら」を参照するよう記載されているが,参照先の資料はPDFに含まれていない。

また,令和8年5月までのフェーズ3開始に備えて,民事訴訟担当の裁判官に限り,GSSに先行して,ややスペックの高いPC(タイプH)を令和5年度中に配布済みであると記載している。
国会の答弁が「民事訴訟を担当する一部の裁判官が利用しているものを除きまして」としたのは,このタイプHを指すものと考えられる。

周知資料の令和9年9月までに整備するという予定と,デジタル庁審議官の答弁の「令和八年九月以降、順次」という予定とは,矛盾するものではない。
前者は整備の完了の予定,後者はネットワークの移行の開始の予定を述べたものと読める。
ただし,周知資料の作成時点と答弁の時点は違うので,GSS端末の配布時期を含め,現在の予定は改めて確かめる必要がある。

4 当面の対応

周知資料の2頁は,「当面の対応」との見出しの下で,「抜本的な対策はありませんが」と断ったうえで,各職員が試せる対策として次の3点を紹介している。
①必要のないシステム・アプリやブラウザの不要なタブはこまめに閉じる。使っていなくても見えないところで動いていることがある。
②再起動をする。長時間使い続けるとキャッシュが蓄積し,動作に影響することがある。
③不要なデータを削除し,Dドライブ等を整理する。不要なデータが多いと動作に影響し,フルスキャン(ウイルス対策ソフトによる全体の検査と考えられる)の対象も増えて時間が長くなる。

吹き出しには,PCの右上のランプの一番下が点灯しているときは「本当に動かない」,ハードディスクに負荷が掛かっているのではないか,落ち着くまで違う仕事をする,という趣旨の記載もある。
最後に,「原因は1つとは限らず、必ず解消するものではありません。」とし,他の人と比べて明らかに重い場合は総務課に相談するよう求めている。

第4 勤務時間の記録と端末の起動時間

1 裁判所職員の勤務時間の法的枠組み

裁判所職員臨時措置法は,裁判官及び裁判官の秘書官以外の裁判所職員の任免,給与,服務等に関する事項について,当分の間,同法各号の法律の規定を準用すると定める(同法柱書)。
その6号は,一般職の職員の勤務時間,休暇等に関する法律(第2条及び第3条を除く。)を掲げている。
この準用に当たっては,「人事院規則」とあるのは「最高裁判所規則」と読み替えられる(同法柱書)。

したがって,裁判所職員の勤務時間は,労働基準法ではなく,一般職の国家公務員の勤務時間法制を準用する枠組みで規律される。
民間の労働時間に関する厚生労働省のガイドライン(後記2)は,裁判所職員にそのまま適用されるものではない。

勤務時間管理システムの仕様(端末の電源投入,サインイン又は特定の操作のいずれの時刻を記録するのか等)は,本記事の基準日までに確認できた公表資料では明らかでない。
なお,最高裁人事局総務課長交渉の回答分析で整理したとおり,令和4年秋年期の交渉の回答には,職員端末の使用時間等の実態の把握,サインイン及びサインアウトの時刻の記録等により超過勤務の縮減に取り組む旨の記載がある。

2 民間の労働時間の把握との対比

厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日策定)は,始業・終業時刻を確認し記録する原則的な方法として,使用者が自ら現認する方法と,「タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること。」を挙げている。
また,自己申告制による場合には,パソコンの使用時間の記録など事業場内にいた時間の分かるデータと自己申告の時間との間に著しい乖離があるときは,実態調査をして労働時間を補正すべきものとしている。

労働時間の意義について,最高裁平成12年3月9日判決(最高裁判所第一小法廷・平成7年(オ)第2029号・民集54巻3号801頁)は,労働基準法上の労働時間とは「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい」,その該当性は「労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではない」と判示した。
同判決は,労働者が業務の準備行為等を事業所内で行うことを使用者から義務付けられ,又はこれを余儀なくされたときは,その行為は特段の事情のない限り使用者の指揮命令下に置かれたものと評価でき,それに要した社会通念上必要な時間は労働時間に当たるとしている。

3 起動時刻を勤務時間の記録に使うときの注意

端末の起動に10分以上掛かる環境では,パソコンの使用時間の記録が,業務の開始時刻を正確に表さないことがある。
電源を入れた時刻を記録するのか,サインインが完了した時刻を記録するのかによって,記録上の時刻と実際に机に着いて準備を始めた時刻との差は変わる。
起動を待つ間も,電話の応対や紙の記録の確認等の業務をしていることがあり得る。

本記事では,民間の事業場で端末の起動時刻を勤怠の基礎とする場合には,次の点を確かめておくのが相当であると整理する。
①どの時刻(電源投入,サインイン,勤怠システムへの打刻)を記録しているか。
②起動に要する時間がどの程度か(端末ごとの差を含む)。
③起動を待つ間に業務をすることが予定され,又は余儀なくされていないか。
④記録上の時刻と,入退館記録その他の記録との間に乖離がないか。

端末の起動を終えてから業務を始めることが義務付けられ,その準備のために始業時刻より前に出勤することを余儀なくされているのであれば,前記最高裁判決の基準に照らし,起動を待つ時間が労働時間に当たると評価される余地がある。
もっとも,これは個別の事実関係による判断であり,起動を待つ時間が一律に労働時間に当たるという趣旨ではない。
在宅勤務の打刻とパソコンのログの扱いは,在宅勤務の退勤打刻は残業時間の証拠になるか―残業許可制・PCログ・中抜けの判断と立証で整理している。

4 法律事務所・企業の端末更新への示唆

裁判所の例は,端末を整備した時点で十分であっても,後からクラウドのグループウェア,インターネット接続,セキュリティ対策ソフト等を重ねると,数年で動作が遅くなり得ることを示している。
OSのシステム要件を満たしていることと,業務で快適に使えることは別である。
とりわけ記憶装置がHDDの端末では,起動,更新及びウイルス検査の負荷が重なりやすい。

Microsoftは,Windows 10のサポートを2025年10月14日に終了し,その後はソフトウェア更新プログラム,セキュリティ修正プログラム及びテクニカルサポートを提供しないとしている。
端末を更新するときは,OSの要件だけでなく,同時に使うアプリと記憶装置の種類(SSDかHDDか)まで確かめるのがよい。
購入時に業者から受け取る記録は,法律事務所がパソコン・Office等を購入・納品してもらうときの確認事項―管理アカウント,プロダクトキー,保守記録及びサポート期限で,メモリの容量と動作の関係は,Claude Code・Codexでパソコンがフリーズする原因-メモリ8GB・16GB・32GB・64GBの違いで整理している。

第5 関連記事

裁判所職員定員法の一部を改正する法律に関する国会答弁資料等には,令和8年4月23日の参議院法務委員会の国会答弁資料へのリンクがある。
裁判所の情報化の歴史は,裁判所の情報化の流れ――ワープロ,J・NETからmints,TreeeS,刑事手続のデジタル化までで整理している。
Microsoft 365の導入後の業務改善の例は,最高裁判所作成の,「Microsoft 365で業務改善やってみた」で紹介している。
裁判所職員のテレワークの試行は,最高裁判所のテレワーク試行要領―対象職員,試行場所,週1日程度の目途,職務専念義務及び費用負担で整理している。
裁判手続のデジタル化の予算は,令和8年度概算要求に基づく,裁判手続のデジタル化-要求額,令和8年度予算及び令和9年度概算要求で整理している。

第6 出典

①裁判所職員のパソコンの起動に時間がかかる場合があることに関する最高裁の問題意識が書いてある文書(最新版)(PDF4頁。1頁~2頁「「パソコンの動作が重い」と思ったら…」,3頁~4頁 令和8年4月23日参議院法務委員会の答弁資料)
②第221回国会参議院法務委員会会議録第7号(令和8年4月23日)発言番号107~116(国会会議録検索システム,https://kokkai.ndl.go.jp/txt/122115206X00720260423/107 )
③裁判所職員臨時措置法(昭和26年法律第299号)柱書及び6号(e-Gov法令検索)
④厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日策定,https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000149439.pdf )
⑤最高裁平成12年3月9日判決(最高裁判所第一小法廷・平成7年(オ)第2029号・民集54巻3号801頁,裁判所HP https://www.courts.go.jp/hanrei/52572/detail2/index.html )
⑥Microsoft「Windows 11 の仕様とシステム要件」(https://www.microsoft.com/ja-jp/windows/windows-11-specifications )
⑦Microsoft「Windows 10 のサポート終了」(https://www.microsoft.com/ja-jp/windows/end-of-support )