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令和8年度概算要求に基づく,裁判手続のデジタル化-要求額,令和8年度予算及び令和9年度概算要求(AI作成)

第1 この記事の対象と結論

1 対象,調査の基準日及び資料

この記事は,最高裁判所が財務省に対して説明するために作成した令和8年度概算要求書(説明資料)(624頁)のうち,裁判手続等のデジタル化に関する部分を,分野別に要求額を示して整理するものである。
併せて,令和8年4月7日に成立した令和8年度予算,令和7年度補正予算(第1号)及び令和8年8月に公表された令和9年度概算要求と対比する。

調査の基準日は令和8年9月20日である。
資料の対象期間は令和7年度予算から令和9年度概算要求までであり,法令の適用時点は同日現在である。

説明資料は令和7年9月16日に作成されたものである。
その後,令和8年4月7日に令和8年度予算が成立し,同年5月21日に民事訴訟手続のデジタル化が開始しているから,同資料の「令和8年度中に開始する」等の記載は,作成時点の計画として読む必要がある。

金額は,特に断らない限り,同資料の経費積算内訳に記載された令和8年度の所要額(要求額)である。
括弧内に併記した数値は,同資料が併記する令和7年度予算額である。
頁は同資料に印刷された頁番号によるものであり,PDFビューア上の頁番号は,これより2頁大きい。

なお,「【要望】」「【一部要望】」と記載された経費は要求本体の枠外であり,要求額の合計には含まれない。

2 結論

裁判手続等のデジタル化関係経費は,令和8年度概算要求で33,685百万円が要求され,令和8年度予算では17,948百万円が計上された。
分野別では,民事訴訟手続のデジタル化が10,175百万円の要求に対し8,973百万円,刑事手続のデジタル化が12,435百万円の要求に対し3,806百万円,民事非訟・家事事件手続のデジタル化が9,221百万円の要求に対し4,521百万円,司法行政のデジタル化が1,854百万円の要求に対し647百万円である。

要求額に対する予算額の割合は,運用保守が中心となる民事訴訟手続で高く,設計・開発が中心となる刑事手続で低い。
もっとも,令和7年度補正予算(第1号)に「裁判手続等のデジタル化等」として16,178百万円が計上されているから,令和8年度の当初予算だけで評価することはできない。

令和9年度概算要求では,裁判手続等のデジタル化関係経費は38,743百万円(うち『「強く豊かな日本」投資枠』19,875百万円)まで増えている。

第2 裁判手続等のデジタル化関係経費の規模

1 概算要求額と令和8年度予算額

令和8年度予算は,令和8年3月30日に成立した暫定予算を経て,同年4月7日に政府案どおり成立した。
裁判所所管全体では,概算要求・要望額365,008百万円に対し,予算額は349,474百万円である。
令和7年度当初予算335,192百万円と比べると14,281百万円(4.3%)の増である。

裁判手続等のデジタル化関係経費の内訳は,次のとおりである。

区分令和7年度当初予算令和8年度要求・要望額令和8年度予算額
裁判手続等のデジタル化関係経費12,55433,68517,948
民事訴訟手続のデジタル化4,84910,1758,973
刑事手続のデジタル化2,23212,4353,806
民事非訟・家事事件手続のデジタル化5,0029,2214,521
司法行政のデジタル化4711,854647

単位は百万円である。
要求・要望額に対する予算額の割合は,民事訴訟手続が88.2%,刑事手続が30.6%,民事非訟・家事事件手続が49.0%,司法行政が34.9%である。

民事非訟・家事事件手続のデジタル化は,令和7年度当初予算5,002百万円に対して令和8年度予算が4,521百万円であり,対前年度でも減少している。

2 補正予算と令和9年度概算要求

令和7年度補正予算(第1号)には,「裁判手続等のデジタル化等」として16,178百万円が計上されている。
裁判所が公表した同補正予算の概要は,その内容として刑事手続のデジタル化関係経費,民事非訟・家事事件手続のデジタル化関係経費及びデジタル化のための情報インフラ基盤の整備等を挙げている。
このほか「裁判所の防災・減災対策」4,789百万円があり,補正予算合計額は26,770百万円(人事院勧告に伴う人件費の増額分5,803百万円を含む。)である。

したがって,令和8年度に使える経費は,令和8年度当初予算17,948百万円だけではない。
前年度の補正で措置された経費が令和8年度に繰り越される部分があるから,当初予算の割合だけを取り上げて評価することはできない。

他方,令和8年度についても補正予算(第1号)が令和8年6月5日に成立しているが,裁判所所管には計上がない。
同補正予算書(77頁)に「裁判所」の語は現れず(陽性対照として「所管」13頁,「補正」64頁,「一般会計」15頁),歳出の明細(55行)の所管は内閣府38行及び財務省17行だけである。
裁判所ウェブサイトの令和8年度予算のページにも,補正予算に関する資料は掲載されていない。

令和9年度概算要求では,裁判所所管の要求・要望額が377,633百万円(「要望」5,696百万円及び『「強く豊かな日本」投資枠』23,188百万円を含む。)であり,裁判手続等のデジタル化関係経費は38,743百万円(うち投資枠19,875百万円)である。
令和8年度予算額17,948百万円に対し,対前年度20,795百万円の増である。

3 「削られた」と書けない理由

概算要求額と予算額の差について,内閣又は財務省が最高裁判所の要求を削ったという書き方はできない。

裁判所の予算については,財政法が各省庁と異なる手続を定めている。
同法17条1項は,最高裁判所長官が見積に関する書類を作製して内閣に送付するものとし,同条2項が各省大臣について財務大臣への送付を定めるのと建付けを分けている。
同法18条2項は,内閣が概算の閣議決定をしようとするときは,あらかじめ最高裁判所長官に対しその決定に関し意見を求めなければならないと定める。
同法19条は,内閣が裁判所の歳出見積を減額した場合には,その詳細を歳入歳出予算に附記しなければならないと定める。

財務省の予算書・決算書データベースにある令和8年度一般会計予算書(1,174頁)を全文から機械的に検索したところ,「附記」「付記」「二重予算」「予定経費増額要求明細書」はいずれも0頁であった。
陽性対照として同じ方法で数えた「裁判所」は23頁,「法務省」は58頁であり,検索自体は機能している。

したがって,財政法19条にいう減額として予算に記録された事実はない。
差が生じた理由は,同法18条2項の意見聴取を経て最高裁判所自身が見積を改めた可能性その他を排除できないから,この記事では,概算要求額と予算額に差があるという事実の記述にとどめる。

第3 民事訴訟手続のデジタル化

1 フェーズ1からフェーズ3まで

説明資料は,民事訴訟手続のデジタル化を三つの段階に分けて説明している。
フェーズ1は改正前民事訴訟法下でウェブ会議等の情報通信技術を活用した争点整理を行う運用であり,平成31年度(令和元年度)に一定の裁判所へウェブ会議用機器を整備して開始された。
フェーズ2は改正民事訴訟法下でウェブ会議を用いた口頭弁論期日等を行う運用であり,令和6年3月1日に高等裁判所,地方裁判所及び簡易裁判所で開始された。
フェーズ3は訴訟記録の電子化及びオンライン提出の運用である。

説明資料は,デジタル社会の実現に向けた重点計画(令和5年6月9日閣議決定)が「令和7年度中に当事者等によるオンライン申立て等の本格的な利用を可能にする」としていることを理由に,令和7年度には全国の裁判所でフェーズ3の運用を開始する必要があると説明していた(90頁)。
実際には,改正民事訴訟法及び改正民事訴訟規則は令和8年5月21日に施行され,同日からフェーズ3の運用が始まっている。

2 令和8年度概算要求の内容

(1) システムの運用保守

説明資料は,民事訴訟手続のデジタル化を実現するシステムを,裁判所職員向けの「e事件管理」(第1次開発部分)と,訴状等のオンライン提出及び訴訟記録の電子化を実現する国民向けの「e提出・e記録管理」(第2次開発部分)に分け,両者を疎結合することで全体として民事訴訟手続のデジタル化を実現するものと説明している(323頁)。

事項要求額令和7年度予算額頁
e事件管理及びe提出・e記録管理システムの運用保守等3,949,220926,904325
電子署名ソフトウェア利用料219,312093
AI-OCRシステムの運用保守業務4,96526,094325
ウェブ会議等の運用支援業務176,909159,06894
法廷等用周辺機器(フェーズ1の更新)29,399088
記録閲覧等用端末の運用保守18,621088

単位は千円である。
電子署名ソフトウェアは,裁判官が提出されたPDFを分割し,付箋を付し,画像データをテキストデータへ変換する等の用途のほか,改正民事訴訟法91条の3に基づき裁判所書記官が電子的に記録事項証明等を行う際に,官職証明書に基づく電子署名を付すために用いるものである(89頁)。
説明資料は,このソフトウェアが法務省の登記・供託オンラインシステムにおいて処理を可能とする電子署名の付与に対応するものである必要があると記載している。

AI-OCRシステムは,紙で提出された書面及び郵便局から送付される大量の郵便送達報告書を電子化し,システムへ登録する作業に用いるものである(323頁)。

なお,電子署名ソフトウェア利用料は,民事局の経費としては要求額0千円(前年度1,266千円)とされ,備考欄に「デジタル総合政策室経費へ組替」と記載されている(325頁)。
同じ事業が別の科目へ移っている例であり,一方の頁だけを見ると廃止又は新規と読み違える。

(2) 来庁者の閲覧環境とEDR

フェーズ3の運用が始まると,法律上誰でも閲覧することができる訴訟記録も電子化される。
そこで説明資料は,裁判所職員向けのJ・NETを来庁者に利用させることはセキュリティ上問題があるとして,J・NETとは別のインターネット接続環境を整備する必要があると説明している(90頁)。

事項要求額令和7年度予算額頁
電子記録等の利用者用閲覧環境の運用(通信料)293,807129,68194
同(機器リース料等)347,008094
EDR運用保守21,02410,09894

単位は千円である。
令和6年度に全国約460拠点の裁判所へLANを敷設する経費が,令和7年度に拠点間を接続するWAN環境を構築して運用を開始する経費が,それぞれ認められている(90頁)。

記録閲覧等用端末は,来庁者が窓口や法廷で電子化された訴訟記録や公示送達書類等を閲覧等するための端末と,非常勤職員である専門委員及び司法委員が電子化された記録を閲覧等するための端末とを含む(87頁)。
記録が電子化されても,裁判所へ出向いて端末で閲覧するという導線が正面から予定されている。

EDRは,訴訟記録がクラウド上に保管されることに伴い,閉域網の外から同システムへアクセスする端末について,閉域網内と同水準の情報セキュリティを担保するための対策である(91頁)。

3 mintsに係る経費

説明資料は,e提出の一部を現行法上可能な範囲で先行実施するためにクラウド上に開発されたシステムとして,民事裁判書類電子提出システム(mints)を別項目で扱い,令和5年度に全ての高等裁判所及び地方裁判所への導入が完了したとしている(321頁)。
令和8年度は,mintsで使用するクラウド基盤の提供並びにアプリケーション及びクラウドの運用保守のための経費227,781千円(前年度予算額140,242千円)を要求している(322頁)。

説明資料の費目名は「e事件管理」「e提出・e記録管理」であるが,令和8年5月21日のフェーズ3開始時点で訴訟代理人が実際に使用しているシステムはmintsである。
資料上の費目名と,運用されているシステムの名称とは一対一に対応しないから,両者を分けて確認する必要がある。
システムの相互関係は最高裁判所が開発しているmints,RoootS及びTreeeS(AIリライト)に,現行制度の内容は民事裁判手続のデジタル化(IT化)-mints・ウェブ会議・電子訴訟(AIリライト)にまとめてある。

第4 民事非訟・家事事件手続のデジタル化

1 対象となる手続と時期

説明資料は,第211回通常国会で成立した民事関係手続等における情報通信技術の活用等の推進を図るための関係法律の整備に関する法律(令和5年法律第53号)について,公布の日から起算して5年を超えない範囲内において政令で定める日から施行することとされているところ,令和9年度までに法施行される可能性が高いとしている(324頁)。
また,来庁者の通信環境については,令和9年度中までに同法律に基づいた整備をする必要があるとしている(90頁)。

他方,裁判所ウェブサイトは,民事執行,倒産,労働審判等の非訟手続,人事訴訟手続及び家事事件手続について,令和8年5月21日に施行された民事訴訟手続のデジタル化によるオンライン申立て等の対象外であり,これらの手続は令和10年6月までにオンライン申立て等の対象となる予定であると案内している。

「令和10年6月」は公布の日から起算して5年という上限に対応する時期であり,施行日が確定しているという意味ではない。

2 「対象外」には例外がある

令和5年法律第53号は,全部が未施行なのではない。
e-Gov法令検索で民事執行法,家事事件手続法及び人事訴訟法の改正沿革を確認すると,同法律による改正は,いずれについても令和7年10月1日及び令和8年5月21日に一部が施行されている。

とりわけ執行文付与の申立てには注意を要する。
民事執行法附則5条は,民事訴訟法等の一部を改正する法律(令和4年法律第48号)の施行の日から令和5年法律第53号の施行の日の前日までの間に開始された執行文の付与の申立てに係る事件のうち,申立てに係る債務名義に係る電磁的記録がファイルに記録されたものを「特例執行文付与申立事件」と定義する。
同附則6条1項は,特例執行文付与申立事件に関する申立て等について,最高裁判所規則で定める電子情報処理組織を使用して行うことができると定める。
そして同附則7条1項は,同項各号に掲げる者は「前条第一項の方法により,これを行わなければならない」と定め,同項1号が「代理人のうち委任を受けたもの」を掲げている。

したがって,債務名義に係る電磁的記録がファイルに記録されている事件については,訴訟代理人が執行文付与の申立てを書面で行うことはできない。
「民事執行はデジタル化の対象外である」という理解のまま書面で申し立てることのないよう,債務名義が電子であるかどうかを先に確認する必要がある。

3 令和8年度概算要求の内容

事項要求額令和7年度予算額頁
e事件管理及びe提出・e記録管理システムの開発等業務2,271,148880,000325
同業務のための工程監理支援業務171,435352,497326
電子記録等の利用者用閲覧環境の整備(LAN回線敷設)291,453095
最高裁判所汎用受付等システムの連携対応改修256,710094
ウェブ会議用アプリケーション利用料30,36027,720325
ウェブ会議運用サポート費4,3454,235325

単位は千円である。
システムの開発等業務は複数年度にわたる契約を必要とするため,3箇年及び5箇年の国庫債務負担行為が要求されており,令和8年度はその2年目及び3年目に当たる(324頁)。

最高裁判所汎用受付等システムは,裁判所で唯一,財務省会計センターの歳入金電子納付システム(REPS)との連携基盤として機能しているシステムである(91頁)。
督促手続オンラインシステム及び保管金事務処理システムとREPSとの間で電子納付情報等のやり取りを中継しており,民事非訟・家事事件手続の電子申立てに使用されるシステムと連携することで手数料の電子納付が可能になる。
説明資料は,連携システムの増加に伴い年間の電文処理件数が大幅に増加する見込みであるとして,システム更改の必要性を挙げている。

第5 刑事手続及び少年手続のデジタル化

1 令和7年法律第39号の施行段階

刑事手続のデジタル化を定める情報通信技術の進展等に対応するための刑事訴訟法等の一部を改正する法律(令和7年法律第39号)は,令和7年5月16日に成立し,同月23日に公布された。

e-Gov法令検索の刑事訴訟法の改正沿革によれば,同法律による改正は,令和7年6月12日及び令和8年5月21日に一部が施行されている。
書類の電子化,電子令状及びオンラインによる書類・証拠の授受等の主要規定は,令和9年3月31日までの間において政令で定める日に施行される。
令和8年9月20日現在,e-Gov法令検索の改正沿革には当該政令による施行日が反映されておらず,施行日は確認できない。

説明資料は,デジタル社会の実現に向けた重点計画が「新たなシステムを構築した上で2026年度(令和8年度)中にそのシステムを利用した運用の一部開始を目指す」としていることを挙げ,令和8年度には刑事手続デジタル化に対応する新システムの一部運用開始が見込まれるとしている(92頁)。

施行段階,対象事件及び経過措置の考え方は刑事手続のデジタル化とは―令和7年法律第39号の施行日,電子令状,オンライン証拠開示及びLinKage(AI作成)に整理してある。

2 システムの設計・開発と工程監理

説明資料は,新システムについて,令状の請求・発付・執行の電子化,裁判所に対する申立てのオンライン化及び電子データによる記録の発受を実現するものであり,現行の裁判事務処理システム(刑事事件),裁判事務支援システム及び最高裁判所事件管理システムの後継となる事件管理機能を備えるものと説明している(381頁)。

開発は二段階で予定されている。
令和6年度開始国債分では,令和8年度中(令和9年3月31日まで)に施行することとされている新法対応のための必須機能(電子データのオンライン発受並びに電子記録の作成及び管理機能)及び令状事件の管理機能を令和9年3月頃までに開発し,併せて現行の裁判事務処理システム(刑事事件)の後継となる事件管理機能を開発する。
令和7年度開始国債分では,裁判事務支援システム及び最高裁判所事件管理システムに係る事件管理機能等を開発する。

事項要求額令和7年度予算額頁
設計・開発等(令和6年度開始国債分)3,864,8500383
設計・開発等(令和7年度開始国債分)2,078,432188,474383
開発等のための工程監理支援(令和6年度開始国債分)194,1940384
同(令和7年度開始国債分)185,24013,882383
現行システムデータ連携移行費用119,8990384
最高裁判所汎用受付等システムの連携対応改修23,691094

単位は千円である。
現行システムデータ連携移行費用は,刑事新システムにおける地方裁判所の事件管理機能の運用開始までの間,地方裁判所において記録の発受及び令状事件処理は刑事新システムで行い,刑事事件の事件管理は裁判事務処理システム(刑事事件)で行うため,一つの事件について二つのシステムを並行して使用することを前提とするものである(382頁)。

裁判統計データ処理システムについても,新事件管理システムが保有するデータと連携することで,裁判統計情報のほか事件動向,進捗状況,地域性等の解析が可能になるとして,刑事新システムとの連携対応改修の経費が要求されている(118頁)。

3 法廷等用周辺機器,端末及びUSBメモリ

(1) 刑事手続

説明資料は,書類の電子データ化及び発受のオンライン化について令和8年度中に一部の運用を開始するとして,公判前整理手続室及び勾留質問室等において電子記録を確認しながら訴訟手続を行うための法廷等用周辺機器,訴訟関係人が窓口や法廷で電子化された訴訟記録等を閲覧等するための端末,並びに訴訟関係人へ閲覧謄写等用のデータを受け渡すためのコピーガード機能を備えるUSBメモリを整備する必要があるとしている(92頁)。

(2) 少年手続

少年手続についても,記録の電子化について令和8年度中(令和9年3月頃)の一部運用開始が想定されるとして,全国の少年審判廷及び観護措置室等の事件関係室に法廷等用周辺機器を,刑事手続と同様の利用を想定した記録閲覧等用端末及びコピーガード付きUSBメモリを整備する必要があるとしている(92頁)。

事項刑事手続用少年手続用頁
法廷等用周辺機器(整備)38,391106,36893
記録閲覧等用端末(整備)118,63748,65793
USBメモリ(コピーガード付き)21,00921,94793
記録閲覧等用端末(運用保守)32,71613,41895

単位は千円であり,いずれも令和7年度予算額は0千円である。
法廷等用周辺機器については,少年手続用の要求額が刑事手続用の要求額を上回っている。

なお,法廷等用周辺機器のうち「刑事手続の非対面・遠隔化」に係る部分は,令和7年度予算額103,215千円に対して令和8年度の要求額が0千円である(93頁)。
非対面・遠隔化の手続そのものが取りやめになったということではなく,説明資料は,捜査・公判における手続の非対面・遠隔化の一部運用を令和7年度中に開始することが予定されているとし,令和8年度はその本格化に対応するためのウェブ会議等ライセンスを要求すると説明している(101頁)。

4 セキュリティ対策と閉域網

説明資料は,刑事新システムが弁護士等の外部ユーザによって利用されることを前提に,不正アクセスの防止のため,マイクロソフト社のIDサービスであるEntraIDを利用して外部ユーザの多要素認証を可能とする想定であるとしている(382頁)。
併せて,ファイルへのMIPの付与,MIPが付されたファイルへの外部ユーザのアクセス認証及び多要素認証のため,同社のテナント及び多要素認証を導入する必要があるとしている。

文書の真正性及び非改ざん性の証明手段としては電子証明書・電子署名機能を設けることとし,電子署名の有効期限切れに対応するため,長期署名用のライセンスを導入するとしている。

事項要求額令和7年度予算額頁
長期署名用ライセンス利用料46,2230383
外部IDサービス利用のためのテナント使用料(EntraID用)6,6390383
外部IDサービス利用のための多要素認証使用料(EntraID用)4,6140383
外部ID等利用に関する基盤設計開発等業務5,1740384
刑事関係機関連携ネットワーク経費79,0720384

単位は千円である。
刑事関係機関連携ネットワークは,当事者及び裁判所間でのファイルの送受信に機密性及び安定性の高いネットワークを用いる必要があるとして,法務省,警察庁及び裁判所の間に閉域網を敷設するものであり,5箇年の国庫債務負担行為が要求されている(382頁)。
令和8年度はその1年目である。

5 システムの公表名称と導入時期

説明資料は,システムの名称を記載していない。
これに対し,最高裁判所が令和8年9月7日付けで公表した「次期裁判統計データ処理システムの事件管理システムとの連携インターフェース改修等」の調達仕様書は,新事件管理システムを「リンケージ」「RoootS」「新執行倒産等システム」の3システムの総称とし,それぞれの導入予定時期を記載している(4頁)。

同資料によれば,リンケージは,最高裁判所,高等裁判所,地方裁判所及び簡易裁判所の刑事事件及び少年事件の事件処理を支援することを目的として開発中の新システムであり,令和9年度中の導入が予定されている。
「リンケージ(刑事公判)」は令和10年度中に導入されるため,その導入時に,前身である刑事裁判事務支援システム(KEITAS)からリンケージ(刑事公判)へインターフェースを切り替える機能が必要になるとされている。
RoootSは令和9年4月から,新執行倒産等システムは令和10年4月から,それぞれ次期裁判統計データ処理システムと連携する予定であるとされている。

調達資料に記載された開発又は連携の工程は,法令上の施行日でも,個別の事件で電子的な方法を利用できる日でもない。
この三つを分けて確認する必要がある。

第6 情報通信基盤の再構築と情報セキュリティ

1 次期共通基盤

説明資料は,令和9年10月末に最高裁判所データセンタ共通基盤の機器リースが満了することに合わせ,データセンタを廃止してクラウド化することを前提とした次期共通基盤を令和7年度から設計・構築し,令和9年4月からの移行に備える必要があるとしている(96頁)。
また,裁判所の情報通信基盤は,現行の環境から次期共通基盤及び次世代高度通信基盤の環境へ令和9年度中に完全移行するとしている(97頁)。

事項要求額うち要望額頁
次期共通基盤構築等1,512,3231,512,32399・100
次期共通基盤構築等(回線利用料)106,250106,25099・100
次期共通基盤構築等(機器等リース料)70,44570,44599・100
次期共通基盤構築等の工程監理業務67,10067,10099・100
次期共通基盤等対応費用842,472287,38399・100

単位は千円であり,いずれも令和7年度予算額は0千円である。
これらは「【一部要望】」とされた経費であり,要望額の合計2,043,501千円は要求本体の枠外である。

2 次世代高度通信基盤

説明資料は,令和8年度には刑事手続,令和9年度以降には民事非訟手続及び家事事件手続の開始が見込まれており,これらの事件に関するデータを安定的に送受信するためには通信インフラの大幅な強化が不可欠であるとする。
そのうえで,対象事件には機微性の高い情報を取り扱うものも含まれるとして,「令和8年度までに裁判所の情報通信基盤全体の抜本的な再構築を行う必要があり」と述べ,次世代高度通信基盤の整備を進めているとしている(97頁・102頁)。

次世代高度通信基盤は5箇年の国庫債務負担行為により整備されており,令和6年度開始国債分では回線の構築を,令和7年度開始国債分では回線機器の調達を,令和8年度開始国債分では端末等の調達を,それぞれ要求している(97頁)。

要求額は,司法情報通信システム経費として(項)最高裁判所に831,852千円,(項)裁判費に831,853千円(いずれも令和7年度予算額0千円),特殊要因の司法情報通信システム経費として(項)最高裁判所に2,818,452千円,(項)裁判費に2,818,453千円(いずれも同2,293,373千円及び2,293,374千円)が計上されている(98頁・99頁・103頁)。
同じ品名が二つの項に分かれて計上されているため,合計額を用いるときは項をまたいだ合算であることを明示する必要がある。

3 J・NETその他の経費

J・NETについては,機器等リース料,セキュリティ監視機器のリース料及び監視作業経費,共通運用保守,データセンタのソフトウェアバージョンアップ並びにファイルサーバ等の再リースの経費が要求されている(77頁・78頁)。
無線LANについては,一部の執務室等でJ・NET回線及びインターネット回線への接続を可能とするものとして,運用保守経費が要求されている(78頁)。

フェーズ2及びフェーズ3の通信量に対応するため,全国約460拠点を結ぶ広域WAN及び広域SD-WANの回線利用に係る経費も要求されている(101頁)。
要求額は,広域WANが(項)最高裁判所に551,258千円及び(項)裁判費に551,259千円,広域SD-WANが両項に各709,805千円である(103頁)。

4 情報セキュリティ対策

情報セキュリティ実地監査については,最高裁判所が各高等裁判所(4庁)を監査し,各高等裁判所が高等裁判所・地方裁判所・家庭裁判所(50庁)を監査する計画が示されている(73頁)。
インシデント対応支援については,情報セキュリティインシデントが発生した際に外部の専門家等による支援を速やかに得られる体制を構築する必要があるとして,経費が要求されている(74頁)。
このほか,職員端末等用のウイルス対策ソフトのライセンス購入,セキュリティ監査経費及び標的型メール訓練の経費が要求されている(104頁)。

ウェブセキュリティサービスについては,インターネット網への接続を経済的かつセキュアに行うためのものとして,提供業務の経費207,709千円(前年度予算額197,597千円)が要求されている(96頁・98頁)。

第7 その他のデジタル関連施策

1 保釈中の被告人への位置測定端末

保釈されている被告人の位置情報を取得する制度は,刑事訴訟法等の一部を改正する法律(令和5年法律第28号,令和5年5月17日公布)によって創設されたものである。
改正刑事訴訟法98条の12第1項及び第2項は,国外に逃亡するおそれのある被告人に対し,位置測定端末を身体に装着することを命ずることができるものとし,その場合には飛行場又は港湾施設等の周辺区域の所在禁止区域を定めることとしている。
同条3項は,位置測定端末が,人工衛星信号等を受信する機能,身体から離れたこと等を検知する機能,その発生を知らせ裁判所の設備へ信号を送信する機能及び損壊することなく取り外すことが困難な構造を備えるものでなければならないと定める。

説明資料は,同制度が公布の日から起算して5年を超えない範囲内において政令で定める日から施行することとされており,令和10年5月までに施行が見込まれるとしたうえで,令和6年度にシステムの全体構想策定等に係る技術支援委託を行い,令和7年度に業務要件定義及びシステム要件定義の策定を行ったとしている(379頁)。
令和8年度には設計・開発に着手することが不可欠であるとして,システム及び端末の設計・開発等の経費397,727千円(前年度予算額0千円)が要求されている(380頁)。

2 検察審査会の審査申立てのオンライン化

検察審査会についても,審査申立てのオンライン化に係るシステムの経費が新規に要求されている(372頁)。
設計・開発費用79,860千円及び運用保守費用3,740千円の合計83,600千円であり,令和7年度予算額は0千円である。

3 総合コミュニケーションツールと裁判所ウェブサイト

総合コミュニケーションツールについては,業務のデジタル化の基盤として,Microsoft 365等のライセンス料及び運用保守経費が要求されている(96頁)。
オンプレミスのADサーバとAzure ADを同期させるAzure Active Directory Connectサーバの機器保守経費も要求されている。

裁判所ウェブサイトについては,「次期裁判所ウェブサイトの保守等」として経費が要求されている(66頁)。
説明資料は,各種裁判手続のデジタル化のための法整備及びシステム開発が進められていることを踏まえ,今後,裁判所ウェブサイトが「オンラインで裁判手続に参加していくための入り口(ポータルサイト)」として,国民の司法アクセス向上の観点から重要な役割を担うことになるとしている。
アクセシビリティ試験を実施してアクセシビリティレベルを維持することも必要であるとしている。

4 個別の業務用システム

このほか,督促手続オンラインシステム,新民事執行事件処理システム,保管金事務処理システム,裁判員候補者名簿管理システム,検察審査員候補者名簿管理システム及び裁判員量刑検索システムについて,運用保守,機器リース又は改修の経費が要求されている。
新民事執行事件処理システムは,不動産等執行事件の受付から終局までを管理して各種決定書等の定型文書を自動的に作成するシステムであり,平成25年から開発されて平成28年度までに全国211の本庁及び支部への導入が完了している(319頁)。

なお,説明資料には資格審査システムの経費も計上されているが,これは建築工事等の競争参加資格の審査を行う営繕事務のシステムであり(230頁・231頁),裁判手続のデジタル化とは関係がない。

第8 弁護士実務への影響

1 民事訴訟

令和8年5月21日以後,訴訟代理人による書面の提出は原則としてオンラインによることとなっている。
説明資料からは,裁判官が提出されたPDFを分割し,付箋を付し,画像データをテキストデータへ変換して検索に用いることが想定されていることが分かる(89頁)。
提出するPDFの体裁は,そのまま裁判官の読みやすさに影響する。

来庁者の記録閲覧は,職員用のJ・NETとは別に整備されたインターネット接続環境上の端末で行うものとして設計されている(90頁)。
オンラインで完結する手続だけを想定して事務所の体制を組むと,端末での閲覧を要する場面を落とすことになる。

2 民事執行

第4の2のとおり,債務名義に係る電磁的記録がファイルに記録されている事件の執行文付与の申立てについては,訴訟代理人に電子申立ての義務がある。
民事執行手続一般が令和10年6月までデジタル化されないことと混同してはならない。

3 刑事

刑事新システムでは,弁護士等の外部ユーザの認証にEntraIDの多要素認証が用いられ,ファイルにMIPが付されることが想定されている(382頁)。
また,閲覧謄写等用のデータの受渡しには,コピーガード機能を備えるUSBメモリが用いられることが予定されている(92頁)。
主要規定の施行後は,認証方法,受渡し媒体及び事務所内での保存・権限管理を,事件ごとに確認する必要がある。

第9 概算要求書を読むときの注意

概算要求書は要求段階の資料であり,予算の成立,契約の締結,システムの完成又は運用開始を証明するものではない。
説明資料に記載された「令和8年度中に開始する必要がある」等の表現は,最高裁判所の計画であって,法令上の施行日ではない。

各行の括弧内の数値は前年度の予算額であり,要求額ではない。
「【要望】」「【一部要望】」は要求本体の枠外であり,要求額の合計に加えない。
「(特殊要因)」は制度改正等に伴う臨時分として別建てされているから,経常経費と混ぜて前年比を出すことはできない。
「○箇年の国庫債務負担行為」は複数年度契約を意味し,令和8年度がその何年目かが記載されているため,事業の開始年と終了年を逆算できる。

同じ事業が別の科目へ組み替えられていることもある。
本文で触れた電子署名ソフトウェア利用料のように,一方の科目で要求額0千円,他方の科目で新規計上という形になるから,事業名で全文を検索して両方を拾う必要がある。

説明資料そのものの入手先,構成及び読み方は最高裁判所の概算要求書(説明資料)-入手先,構成,読み方及びバックナンバー(AIリライト)にまとめてある。

第10 関連記事

① 裁判所の令和8年度予算-概算要求,暫定予算,当初予算及び補正予算の突合(AI作成)
② 裁判所の予算はいくらか-国家予算に占める割合,人件費・物件費・施設費の内訳及び令和9年度概算要求(AI作成)
③ 裁判所の予算は誰が決めているのか――二重予算制度と,令和2年度から令和8年度まで附記が0件だったこと(AIリライト)
④ 裁判所の情報化の流れ――ワープロ,J・NETからmints,TreeeS,刑事手続のデジタル化まで(AIリライト)
⑤ 令和9年度概算要求-裁判所職員101人の定員合理化と家裁調査官の増員の有無(AI作成)

第11 出典

1 法令

① e-Gov法令検索「財政法」17条,18条,19条,20条,21条(令和8年9月20日現在施行中の条文を確認)。
② e-Gov法令検索「民事執行法」附則5条,6条,7条(令和5年法律第53号による改正後の規定)。
③ e-Gov法令検索「刑事訴訟法」(令和7年法律第39号及び令和5年法律第28号による改正の施行期日を改正沿革で確認)。
④ e-Gov法令検索「民事訴訟法」91条の3,132条の10(令和4年法律第48号による改正後の規定)。

2 最高裁判所の概算要求書(説明資料)

① 最高裁判所「令和8年度概算要求書(説明資料)」(令和7年9月16日作成・624頁)66頁,73頁~74頁,77頁~78頁,87頁~104頁,118頁,230頁~231頁,319頁~326頁,372頁,379頁~384頁。
当ブログに掲載しているPDFである。

3 裁判所が公表した予算資料

① 裁判所「令和8年度予算の概要」1頁。
② 裁判所「令和8年度概算要求の概要」1頁。
③ 裁判所「令和9年度概算要求の概要」1頁。
④ 裁判所「令和7年度補正予算(第1号)の概要」1頁。
⑤ 裁判所「令和8年度予算」及び「令和9年度予算」(各年度の公表資料の一覧であり,令和8年度のページに補正予算の資料が掲載されていないことを確認した)。

4 調達資料

① 最高裁判所「次期裁判統計データ処理システムの事件管理システムとの連携インターフェース改修等に関する公募資料」(令和8年9月7日・58頁)1頁及び4頁。

5 裁判所の運用案内

① 裁判所「民事裁判手続のデジタル化」(令和8年9月20日閲覧)。

6 財務省の公表資料及び予算書

① 財務省「令和8年度予算」(概算要求基準の閣議了解,政府案の閣議決定,国会提出,暫定予算及び成立の各期日を確認)。
② 財務省「予算書・決算書データベース」所収の令和8年度一般会計予算書(1,174頁)。
全文を対象として「附記」「付記」「二重予算」「予定経費増額要求明細書」を検索し,いずれも0頁であることを確認した(陽性対照として「裁判所」23頁,「法務省」58頁)。
③ 財務省「予算書・決算書データベース」所収の令和8年度補正予算(第1号)(77頁)及び同データベースの歳入歳出予算・歳出予定経費要求書(科目別内訳)のCSV(DL202621001b.csv,歳出55行)。