AI要約を見る
※以下はAIが生成した要約です。内容の正確性は保証されません。本文をあわせてご確認ください。
令和4年の民事訴訟法改正による民事裁判手続のデジタル化は令和8年5月21日に全面施行され、本稿はその背後にある最高裁判所事務総局の「本音」を、民事訴訟規則、最高裁の「裁判所における本人サポート態勢について」、全司法労働組合との交渉記録(令和6年4月から令和7年1月まで)、令和7年度概算要求書、mints操作マニュアル、一問一答解説書、日弁連の基本方針及び会長声明、法務省・日本司法書士会連合会のリーフレット、山口県弁護士会の令和7年2月14日付総会決議等の公開資料を素材として分析したものである。
事務総局が最も避けたいのは、裁判所職員が本人訴訟当事者の「無料ITヘルプデスク」と化して本来業務が麻痺する事態である。現場はすでに精神及び行動の障害による長期病休者が188人、新たな育児休業取得者が書記官278人・事務官178人に上るほど逼迫しており、デジタル対応のための純増人員を財務省から獲得することも「効率化によって将来的に人員削減が可能」という概算要求の前提ロジックと矛盾するため実質不可能である。
本人訴訟のインターネット利用は、法律上は義務づけられていない。しかし民事訴訟規則第52条の12第1項は、本人についても機器を「利用することができない事情があるときを除き」電子申立てを「するものとする」と定めており、一問一答Q16が予告していたとおり、法律で義務化を見送りつつ規則で原則と例外を反転させる構造になっている。「任意制」という理解は法律のレベルでのみ正しい。
支援の枠組み自体は用意されている。民事訴訟規則第52条の11第1項ただし書は、第三者(サポータ)が自分の端末・自分のアカウントから入力し、本人が署名又は記名押印した入力依頼書面の画像を添える方式を定めており、本人のID・パスワードを預かる必要はない。裁判所も事実行為の委任状・入力依頼書面・共同申立書の各書式を公表している。にもかかわらず、mints操作マニュアルにも準備の手引にも「サポータ」の語は一度も出てこない。批判すべきは仕組みがないことではなく、仕組みはあるのにそれを説明せず、操作ログの粒度と権限設計を詰めきっていないことである。
裁判所自身も、全庁への貸出用パソコンの整備、courts Wi-Fi、簡易裁判所等へのスキャナ配備、スキャン・アップロード作業の補助までを公表している。ただし用意されたのは機器であって人ではなく、パソコンは長時間の占有が認められず、プリンタは置かれず、手続の案内と法律相談の境界はどの文書にも書かれていない。
海外との対比も示唆的である。シンガポールは庁舎内のサービス・ビューローによる有償代行を維持し、韓国は電子訴訟ポータル内に本人向けの導線を設け、中国は微信ミニプログラムとホットラインで人的接触を遮断し、台湾は「訴訟輔導科」を置いたうえで、その職掌を「手続に関する事項に限り、実体に関する事項は範囲外」と成文の要點で明示している。日本で「切り分けは不可能に近い」と論じられている線引きを、台湾は文書で公示しているのである。
そして実際の帰趨は、事務総局の期待とも本稿の当初の予測とも異なった。法務省大臣官房司法法制部と日本司法書士会連合会は「本人サポートは司法書士にご相談を」と題する共同リーフレットを発行して全国50の司法書士会を案内し、他方で日弁連は、全面施行日の会長声明で「一定の役割を担う弁護士」を支援するとだけ述べ、令和8年度会務執行方針からは「本人サポート」の語自体が消えた。本稿は、弁護士側が要求すべきものを、代理操作権限の新設ではなく、操作ログの操作単位への精緻化、入力依頼書面の電子化、サポータ権限の再設計、そしてこれらをマニュアルと手引に明記させることへ組み替えるべきだと論じる。
◯本ブログ記事は専らAIで作成したものです。
◯「(AI作成)全司法労働組合との令和6年度交渉記録から見える最高裁判所事務総局の本音」も参照してください。
目次
第1 はじめに:デジタル化の波と最高裁判所事務総局の深層心理
第2 「ITヘルプデスク」化の回避と「任意制」という防波堤
1 現場からの悲鳴と労働組合との交渉記録に見る実情
2 制度的防波堤としての「利用の任意化」
第3 財務省に対する「予算獲得」と「定員管理」のジレンマ
1 概算要求書から読み解く「システム偏重」の予算構造
2 財務省への説明ロジックと「スクラップ・アンド・ビルド」
第4 「本人サポート」への期待とリスク転嫁の構造
1 本人サポートの法的性質と事務総局の狙い
2 弁護士会・司法書士会への「連携」要請の政治的意味
3 裁判所自身が用意したサポート態勢とその限界
第5 「本人サポート」の実務的実態と弁護士が抱えるリスク
1 「法律事務」と「事実行為」の境界線
2 具体的な業務内容とシステム操作の実際
3 看過できない実務上のリスクと留意点
第6 【海外事例】「責任の所在」を明確にするアジア近隣諸国の先進事例
1 シンガポール:徹底した「IT隔離」と「有償アウトソーシング」
2 韓国:国家主導の「徹底サポート」と「専用インターフェース」
3 中国:徹底した「モバイル統合」と「AIによる人的遮断」
4 台湾:「訴訟輔導科」という強力な緩衝地帯
5 日本への示唆:第三の道「責任の空中分解」
第7 総括:最高裁事務総局の「生存戦略」と法曹三者の未来
1 組織防衛のための冷徹な現状認識
2 我々実務家が取るべき「生存戦略」:情緒的連携からの脱却と工学的要求
第1 はじめに:デジタル化の波と最高裁判所事務総局の深層心理
1 民事裁判手続のデジタル化(IT化)は,我が国の司法制度における歴史的な転換点です。令和4年の民事訴訟法改正により,mints(民事裁判書類電子提出システム)をはじめとする電子情報処理組織の利用が段階的に進められていますところ,その実態は単なる技術革新ではありません。
表向きには,「国民の利便性向上」や「裁判の迅速化」が掲げられ,最高裁判所は関係機関と連携して,誰一人取り残さないための環境整備に努めるとされているものの,その「連携」という言葉の裏には,別の意図が透けて見えます。
長年にわたり司法行政の中枢である最高裁判所事務総局の動き,予算構造,そして人事の機微に触れてきた専門的見地から分析すると,そこには全く別の風景が広がっています。
特に,「本人訴訟(訴訟代理人に委任しない当事者)」のサポートを誰が担うのかという問題については,美しい理念の裏側に,組織防衛のための冷徹な計算と,現場崩壊を避けるためののっぴきならない「本音」が隠されているのです。
2 本稿では,公開されているmints操作マニュアル(令和7年10月24日改訂),令和7年度概算要求書(説明資料),最高裁と全司法労働組合との交渉記録(令和6年4月から令和7年1月まで),そして改正法の解説資料である「一問一答 新しい民事訴訟制度(デジタル化等)-令和4年民事訴訟法等改正の解説-(商事法務)」(以下「一問一答」という。)に加え,現場の弁護士会から発出された悲痛な決議文である令和7年2月14日付の山口県弁護士会の総会決議を全面的に参照し,最高裁判所事務総局が抱えるジレンマと,その解決策として描いている「弁護士・司法書士へのアウトソーシング」の構造を解剖します。
あわせて,令和8年5月21日の全面施行に前後して公表された一次資料,すなわち民事訴訟規則(令和8年5月21日施行版),最高裁判所の「裁判所における本人サポート態勢について」(令和8年5月),法務省大臣官房司法法制部及び日本司法書士会連合会のリーフレット(令和8年4月発行),日本弁護士連合会の「民事裁判手続のIT化における本人サポートに関する基本方針」(2019年9月12日)及び同会長声明(令和8年5月21日)も参照します。
さらに,アジア近隣諸国の事例と比較することで,日本の「任意制」がはらむ構造的な欠陥を浮き彫りにします。
これは,単なる制度解説ではなく,司法行政の論理を読み解くための実務家向けレポートです。
なお,本稿がmints操作マニュアルの頁を引用するときは,いずれも令和7年10月24日改訂の2.0版(124頁)の通し頁によります。裁判所が現在公表している版は令和8年7月15日改訂の2.3版であり,同じ記述でも頁がずれますので,原本に当たられる方は御注意ください。
第2 「ITヘルプデスク」化の回避と「任意制」という防波堤
1 現場からの悲鳴と労働組合との交渉記録に見る実情
最高裁事務総局が最も恐れている事態は何か。それは,「裁判所職員が,パソコン操作に不慣れな当事者の『無料ITヘルプデスク』と化し,本来の審理支援業務が麻痺すること」です。この懸念は,単なる想像ではなく,現場からの切実な声として上がっています。
(1) 全司法労働組合からの切実な要求
直近の「最高裁と全司法労働組合の交渉記録」を確認すると,現場の職員(書記官,事務官等)がいかに疲弊しているかが浮き彫りになります。組合側は,「裁判所のデジタル化や新たな制度,各種事件処理等に対応できる裁判所の人的充実をはかるため,各職種の大幅な増員要求を行うこと」を強く求めています。
特に,恒常化している残業や持ち帰り仕事の解消に加え,メンタルヘルス不調による病休の増加が深刻です。最高裁と全司法労働組合との交渉記録(令和6年4月から令和7年1月まで)によれば,精神及び行動の障害による長期病休者が188人であるほか,書記官278人,事務官178人が新たに育児休業を取得しています(交渉記録のPDF618頁及び619頁)。
育児・病休等の事情により,現状の事件処理だけで人的リソースが枯渇しているのが実情です。ここに,「mintsにログインできない」「PDFの変換方法が分からない」といった技術的な問い合わせが殺到すれば,裁判所機能は物理的に停止しかねません。
(2) 「司法の容量拡大」と人的リソースの限界
組合側は悲痛な叫びとして「司法の容量拡大」を主張していますが,事務総局側の回答は常に慎重かつ硬直的です。
本来,デジタル化は業務効率化のために導入されるものであり,その初期段階で「手間が増える」という現実は,事務総局にとって痛し痒しの問題だからです。
事務総局の本音としては,「デジタル化を進めるが,そのために現場職員がITサポート要員として忙殺されることは絶対に避けなければならない」という強固な防衛本能が働いています。
システム運用において最もコストを要するのは開発ではなく「ユーザーサポート」であり,ここにリソースを割けば裁判所機能は「DoS攻撃」を受けたかのように麻痺します。
現場のリソースは,「事件処理」というコア業務に集中させる必要があり,「操作説明」というノンコア業務に割く余裕は,現在の裁判所には1ミリも存在しないのです。
2 制度的防波堤としての「利用の任意化」
(1) 義務化見送りの真の理由
ア 一問一答のQ16において,本人訴訟におけるインターネット利用の義務化が見送られた経緯が解説されています。表向きの理由は,弁護士等である訴訟代理人等以外の者にまで義務付けると「現状では,これに十分に対応することができない者が一定数存在するものと考えられ,これらの者の裁判を受ける権利にも影響を及ぼすことが危惧される」というものです。
しかし,事務総局の「本音」のロジックで読み解けば,これは「現場がパニックになるのを防ぐための最強の防波堤」に他なりません。もし本人訴訟まで義務化してしまえば,裁判所は国として,その利用を「保障」する義務を負います。
もっとも,この「逃げ道」は,事務総局にとっても決して安らかな選択ではありません。紙で提出された書面は,結局のところ裁判所内部でスキャンし,電子化しなければならないからです。これは運用上の慣行ではなく,法律上の義務です。書面等が提出されたときは,裁判所書記官は,当該書面等に記載された事項を裁判所の使用するサーバのファイルに記録しなければならないとされています(新民訴法第132条の12,第132条の13。一問一答Q38)。「国民には強制しない」という建前を守る代償として,現場の書記官等は膨大なスキャン業務という新たなコストを背負わされます。
つまり,現状の「任意制」は,IT弱者を切り捨てたくないという美名の下,現場職員と我々外部の支援者の双方に過度な負担を強いる「痛み分け」ならぬ「苦しみ分け」の構造,「双方にとっての地獄」を生み出しているのです。
イ そもそも,mints(民事裁判書類電子提出システム)等の現行システムは,操作マニュアルにおいて「TLS1.2以上が利用可能」なネットワーク環境や特定の画面解像度(1280×1024ピクセル)を推奨するなど,一般市民には理解困難な前提条件を要求する「プロ向け仕様」です(PDF5頁)。
さらに,ファイル名には拡張子を含め100文字以内という制約があり,これを超えるとアップロードできません(PDF9頁「12.ファイルアップロードにおけるファイル名最大文字数」)。入力可能な文字も「JIS X 0213」の文字を基本とし,使用できない文字が入力されるとエラーメッセージが表示される仕様です(同頁「13.入力可能文字」)。 このようなUI/UX(ユーザーインターフェース/ユーザーエクスペリエンス)が未熟な状態で義務化すれば,これら多岐にわたる設定操作ができない当事者に対して,手取り足取り教える法的義務が発生しかねないのです。
システム開発において最もコストを要するのは運用フェーズの「サービスデスク(問い合わせ対応)」です。 これを回避するために,「紙でも良い」という逃げ道を残すことは,技術的障壁の高さに対する工学的敗北を糊塗し,組織防衛を図る上での必須の条件でした。
(2) 二段構えの「自己責任論」
この「任意制」は,二段構えの巧みな戦略です。
第一に,「強制はしていない」という事実により,窓口で操作方法を長時間質問してくる当事者に対し,「紙で提出してください」と合法的に誘導することが可能になります。
第二に,それでもデジタルを使いたいという当事者に対しては,「自己責任で環境を整えるか,それができないなら専門家(弁護士等)に依頼してください」という論理を展開できます。
裁判所はあくまで「プラットフォームの提供者」に徹し,「ユーザーサポート」の責任から巧みに身をかわしているのです。
(3) あえてデジタルへ誘導していること
弁護士会からはこの姿勢に対する痛烈な反論が上がっています。
例えば,山口県弁護士会は令和7年2月14日の総会決議において,「IT技術の利用が困難な当事者は,従前どおりの紙を利用した裁判をすることができることを積極的に広報すべきである」と強く指摘しました。同決議は,「本人の不利益を防止するため」にこそ,紙での裁判が可能であることを周知すべきだと述べています。
本当に利用が「任意」であり,国民の権利保障を第一に考えるならば,「無理せず紙で提出してください」とアナウンスするのが筋です。
それをせず,あえてデジタルへ誘導している点に,事務総局の「現場(裁判所職員)を守るために,外部(弁護士)へ負担を流したい」という本音が透けて見えるのです。
(4) 「任意」は法律レベルの話にすぎないこと
もっとも,「任意制」という理解は,法律のレベルでは正しいものの,最高裁判所規則のレベルまで見ると,そのままでは通りません。
民事訴訟規則第52条の12第1項は,訴訟代理人等以外の者,すなわち本人訴訟の当事者についても,「電子計算機及びその関連装置その他情報通信機器であって電子申立て等をするために必要となるものを利用することができない事情があるときを除き」,電子情報処理組織を使用する方法によって申立て等を「するものとする」と定めています。
つまり,本人は法律上の義務を負わないけれども,規則上は「機器を使えない事情があるとき」という例外に当たらない限り,オンラインで申し立てることが原則とされているのです。
しかも,この規律は突然現れたものではありません。前記の一問一答Q16は,義務化を見送った理由を述べた直後に,「法制審議会の要綱では,最高裁判所規則において,申立て等をインターネットを使用する方法によりすることができる者は,申立て等をインターネットを使用する方法によりするものとする旨の規律を設けることを提案している(要綱第1部第1の3(注)参照)」と明記していました。
法律では義務化を見送り,規則では「するものとする」と書く。この落差こそが,前記(3)で述べた「あえてデジタルへ誘導している」という姿勢の実体です。裁判を受ける権利への配慮を理由に法律上の義務化を退けながら,規則では原則と例外を反転させておく。事務総局の設計は,批判をかわす余地を残しつつ,実際の運用ではデジタルへ寄せられるようにできているのです。
第3 財務省に対する「予算獲得」と「定員管理」のジレンマ
1 概算要求書から読み解く「システム偏重」の予算構造
次に,予算の観点から事務総局の苦悩を分析します。ここで我々は,事務総局を単なる「加害者」として断罪するのではなく,財務省主計局という絶対的な権力者の前で,限られた予算と定員をやり繰りせざるを得ない「無力な中間管理職」として再定義する必要があります。
近年の概算要求書(説明資料)を見ると,そのギリギリの調整の結果として,裁判所の予算配分の歪みが如実に表れています。
(1) 物件費の膨張と人件費の硬直性
概算要求書において,「デジタル化」に関連する予算は主に「物件費(システム構築費,機器リース料等)」として計上されています。一方で,「人件費」や「定員」の大幅な純増は見当たりません。
例えば,デジタル総合政策室の経費や,民事局における「裁判事務の迅速適正化」のための会議費等は計上されていますが,これらはあくまでシステムの維持管理や運用ルールの策定のための費用です。「デジタル化に伴う本人サポート要員の配置」といった名目の予算は,極めて獲得しにくい構造にあります。
なぜなら,財務省主計局に対する予算要求の基本ロジックが「スクラップ・アンド・ビルド」であり,「デジタル化=効率化=将来的には人員削減(定員合理化)が可能」という短期的な成果指標(KPI)の前提でのみ予算が承認されるからです。
(2) デジタル総合政策室の予算と現場への還元の乖離
デジタル総合政策室等の予算は確保されていますが,これは中央(最高裁)でのシステム設計や政策立案に使われるものであり,地方の裁判所の窓口に人員を配置するための予算ではありません。
つまり,最高裁は「システムという『箱』」を作るための国費は確保できても,「その箱を使いこなせない人を助ける『人』」を雇う予算は持っていないのです。この「金はあるが,人(に使途を限定できる金)はない」という状況が,外部連携(アウトソーシング)を加速させる根本原因です。
後述する韓国が,国家予算で強力なヘルプデスクを維持している点とは対照的と言わざるを得ません。
2 財務省への説明ロジックと「スクラップ・アンド・ビルド」
(1) 「効率化」という諸刃の剣
訴訟記録の電子化は,保管スペースの削減や閲覧事務の効率化など,「管理コストの低減」も大きな目的の一つです(一問一答Q7)。事務総局は財務省に対し,「IT化によって書記官事務が効率化され,人員配置の合理化が進む」というストーリーで予算を要求しています。
この手前,「IT化によって逆に手間が増える(当事者対応が大変になる)から,人を増やしてくれ」とは,口が裂けても言えません。それは,自らが掲げた効率化の旗印を否定することになるからです。
(2) 定員削減圧力とデジタル化の矛盾
国家公務員の定員管理は厳格であり,裁判所も例外ではありません。定員合理化計画に基づく削減圧力がかかる中で,新たな業務(デジタルサポート)のための純増を勝ち取るのは至難の業です。
結果として,事務総局としては,「システムによる効率化(手数料納付のキャッシュレス化等)(一問一答Q124)」をアピールしつつ,効率化できない「人間による泥臭い支援業務」は,予算の付かない「外部の自発的協力」に依存せざるを得ないのです。
第4 「本人サポート」への期待とリスク転嫁の構造
1 本人サポートの法的性質と事務総局の狙い
このような内部事情を踏まえると,最高裁が日弁連や司法書士会連合会に対して求めている「連携」の意味が明確になります。特に議論されている「本人サポート(訴訟代理によらないシステム利用支援)」は,事務総局にとっての救世主です。
(1) 書面からデータへの移行コストの所在
デジタル化の本質は,「書面」という物理媒体から「データ」への情報の形態変換です(一問一答Q12参照)。本人訴訟において,誰かがこの「入力・変換コスト」を負担しなければなりません。
当事者本人にその能力がない場合,裁判所職員が代行すれば「入力ミス」のリスクや「公平性」の疑義が生じます。
そこで,最高裁は,この最もリスクが高く面倒な作業を,弁護士や司法書士に担ってもらいたいと切望しています。日弁連が検討している「システム利用支援(法的代理を含まない技術支援)」は,最高裁にとってまさに「渡りに船」の解決策です。
(2) 「円滑な進行」という名のアウトソーシング
本人訴訟は,紙の時代であっても訴訟指揮に多大な労力を要します。デジタル化で手続のハードルが上がれば,審理の停滞は必至です。
もし,弁護士等の専門家が「入り口(申立てや書面提出)」だけでも交通整理をしてくれれば,裁判官や書記官の負担は劇的に減少します。
(3) もっとも,仕組み自体は用意されていること——民事訴訟規則第52条の11
ここで,実務家として正確を期しておかなければならないことがあります。
「支援する弁護士はID・パスワードを預かって操作するしかない」という理解は,誤りです。民事訴訟規則は,第三者による入力を正面から予定しています。
民事訴訟規則第52条の11第1項は,本文で,氏名又は名称を明らかにする措置は当事者等識別符号及び暗証符号を入力することによる旨を定めたうえ,ただし書で次のとおり定めています。すなわち,申立て等をする者が第三者に依頼して入力をさせる場合において,本人が当事者等識別符号及び暗証符号を入力することができないときは,本人が当該第三者に入力を依頼した旨を記載し,署名し,又は記名押印した書面の画像情報を,「当該第三者の使用に係る電子計算機から記録させる」こととする,というものです。
要点は「当該第三者の使用に係る電子計算機から」という部分にあります。支援者(サポータ)は,自分のアカウントで,自分の端末から操作します。本人のID・パスワードは渡りません。むしろ,日弁連の前掲「本人サポートの留意点」(2026年3月改訂版)は,「サポータが本人のアカウントを利用してログインすることは,不正なアカウント利用であり許されない」と明記しています(同2頁注4)。本稿が当初「やむを得ない」と考えていた運用は,やむを得ないどころか,正面から禁じられていたのです。本人の意思は,署名又は記名押印のある「入力依頼書面」の画像によって担保される設計です。
裁判所は,これに対応する書式を公表しています。「事実行為の委任状・システム送達を受ける旨の届出・システム送達受取人の届出・送達場所等の届出・入力依頼書面」には,サポータ欄が設けられ,氏名・当事者ID・住所・電話・本人との関係性(親族/士業者(弁護士・司法書士)/その他)を記載するようになっています。サポータが自分の当事者IDを持つことが前提とされているわけです。2回目以降の提出のつど出す「入力依頼書面(民事訴訟規則第52条の11第1項ただし書)」,複数名が共同して電子提出する場合の「共同申立書(民事訴訟規則第52条の9第3項,同第52条の11第2項)」も用意されています。
さらに,サポータは,システム送達を受ける旨の届出及びシステム送達受取人の届出(民訴法第109条の2第1項ただし書,第2項)の対象ともなり,相手方や裁判所からの電磁的記録をサポータ宛てに送達してもらうこともできます。
すなわち,本稿が当初想定していた「なりすまし」的運用は,制度としては要求されていないのです。
(4) それでも問題は残ること——制度を説明しない文書たち
では,何も問題がないのかというと,そうではありません。むしろ,別の種類の欠陥がここで見えてきます。
第一に,ドキュメントが制度を説明していません。mints操作マニュアル(当事者ユーザ編)は,本稿が参照した令和7年10月24日改訂の2.0版にも,現行の令和8年7月15日改訂の2.3版にも,「サポータ」という語が一度も出てきません。「民事訴訟フェーズ3に向けた準備の手引」(令和8年6月19日版・全49頁)にも,「サポータ」の語はありません。規則と書式には制度があるのに,利用者が最初に読む文書がそれを説明していないのです。
システム開発の観点から言えば,これは「機能は実装したが,ドキュメントに書かなかった」という典型的な失敗です。実装されていない機能は使われませんが,実装されていても知られていない機能もまた,使われません。本稿の筆者自身が,公開文書を読み込んだうえで「そのような枠組みは存在しない」と誤解しかけたことが,何よりの証拠です。
第二に,操作ログの粒度の問題は残ります。誰の端末から入力されたかは記録されますが,本人の指示の範囲を超えた操作がされていないことまでを事後的に証明する仕組みは,用意されていません。入力依頼書面という紙(の画像)に依存した設計は,電子署名による否認防止とは別物です。
第三に,権限の設計に濃淡があります。サポータは書面の提出はできても,訴訟記録一覧からの常時閲覧が当然に認められるわけではありません。支援を引き受けた側が,事件の全体像を継続的に把握できないまま作業だけを担う構造は,実務上のリスクを高めます。
批判すべきは「仕組みがないこと」ではなく,「仕組みはあるのに,それを説明せず,証跡と権限の設計を詰めきっていないこと」なのです。
2 弁護士会・司法書士会への「連携」要請の政治的意味
(1) 「司法インフラを維持するための共同責任論」という同調圧力
附帯決議や各種協議における「連携」という言葉は,行政用語としては「協力要請」以上の重みを持ちます。それは,「潜在的な圧力」というよりも,法曹三者が共有する司法インフラを守るための「共同責任論(という名目の同調圧力)」に近いものです。
事務総局の本音はこうです。「弁護士や司法書士は,司法インフラの一部であり,その恩恵を受ける立場にある。ならば,制度の円滑な移行のために汗をかくのは当然の責務である(ノブレス・オブリージュ)。もしサポートが不十分で現場が混乱すれば,それは『連携』しなかった側の責任も問われることになる」。
これは,一種の「踏み絵」であり,デジタル化を推進するパートナーとしての覚悟を迫るものです。
もっとも,公表された文書のうえでは,この圧力はどこにも書かれていません。前掲の「本人サポートの留意点」(2026年3月改訂版)第8は,弁護士会に対し,任意に本人サポートを行う会員の名簿作成,日弁連との共有,ホームページでの紹介を検討するよう求めていますが,その直後に「弁護士会に検討を要請する事項として記載したものは,いずれも任意なものであり,各弁護士会の判断で実施されるものである」と付記しています(同18頁)。個々の弁護士についても,「任意に業務として本人サポートを行うことが可能であることを前提に」と書かれています(同2頁)。文面上は,どこにも義務がありません。
だからこそ,圧力があるとすれば,それは条文や通知ではなく,「連携」という言葉が作る空気の側にある,ということになります。
(2) 「デジタル弱者切り捨て」批判へのアリバイ作り
また,この連携体制は,最高裁にとって強力な「政治的保険」となります。「デジタル弱者切り捨て」という国会やメディアからの批判に対し,「弁護士会・司法書士会等と強固に連携して支援体制を構築している」と答弁できれば,最高裁の責任は大幅に軽減されます。
「我々は環境を用意した。支援体制も依頼した。あとは運用の問題だ」というロジックを構築するために,外部との連携実績は不可欠なアリバイ(証明材料)となるのです。
3 裁判所自身が用意したサポート態勢とその限界
(1) 最高裁が公表した「本人サポート態勢」
ここまで,事務総局が外部へ負担を流そうとしている構図を述べてきました。しかし,公平を期すために,最高裁が自ら用意した態勢も見ておかなければなりません。
最高裁判所は,令和8年5月,「裁判所における本人サポート態勢について」(全2頁)を公表しました。そこでは,本人サポートを「訴訟代理人に委任しない者が電子情報処理組織による申立て等を容易に利用できるようにするための必要な支援」と定義したうえで,次の態勢が示されています。
① 全ての裁判所に,一般の方が事件記録を閲覧したり,電子申立てや法廷等で利用したりすることができる貸出用のパソコンを整備すること(Officeアプリは利用できず,庁の規模によって整備台数が異なり,シャットダウン等の際にデータは消去される仕様)
② courts Wi-Fiを整備し,来庁者が持参したパソコン又は貸与を受けたパソコンから裁判所のシステムにアクセスできるようにすること(接続先には制限がある)
③ 地方裁判所本庁に併設されている簡易裁判所のほか,一部の地方裁判所支部に併設されている簡易裁判所及び独立簡易裁判所にスキャナを整備すること
④ サポートの例として,操作方法等の説明用ツール(動画)への案内,必要に応じた個別の説明,持参した書面のスキャンのための機器の貸出し,そして「スキャン,アップロード作業の補助」を行うこと
⑤ 法廷等での当事者貸出し用PCを貸与し,弁論や弁論準備の期日においてシステムにアクセスし訴訟記録を閲覧したり,Teamsウェブ会議に参加したりできるようにすること
⑥ 近傍裁判所に出頭した当事者について,パソコンを貸与する共助を実施すること
⑦ 弁護士会及び司法書士会が作成した本人サポート対応事務所のリストを窓口に備え付け,必要に応じて案内すること
したがって,「裁判所は何もしない」という評価は,正確ではありません。窓口で書記官が「スキャン,アップロード作業の補助」まで行うことが明記されている以上,本稿が当初描いた「一切の関与を拒む裁判所」という像は,修正されなければなりません。
(2) それでも残る二つの空白
もっとも,この資料を精読すると,事務総局の設計思想はむしろ鮮明になります。
第一に,用意されたのは「機器」であって「人」ではありません。パソコンは全庁に配備されますが,同資料は「整備台数の関係で,長時間の占有は不可」と明記しています。スキャナに至っては,地裁本庁併設簡裁・一部の地裁支部併設簡裁・独立簡裁に限られ,地方裁判所そのものへの配備は書かれていません。第3で述べた「物件費は付くが人件費は付かない」という予算構造が,そのまま設備一覧に現れているのです。
第二に,プリンタがありません。同資料は,送達・送付を受けた書面等について「パソコンを利用して」閲覧(=受領)できるとしつつ,「プリンタの整備はないため印刷は不可」と明記しています。デジタル機器を持たない当事者が,裁判所まで出向いて相手方の書面を画面で読むことはできるが,持ち帰る紙にはできない,ということです。後記第5の3(3)で述べる「印刷して交付」という作業が,結局どこかで誰かの負担になる理由が,ここにあります。
そして,付言すべきことがもう一つあります。同資料は,スキャナについて「なお,画像を読み取るにはステープラを外す必要がある」と自ら注記しています。後記第5の3(1)で述べる,書証をスキャンする際の破損リスクは,裁判所自身も認識しているのです。認識したうえで,その作業を誰が負うかについては,何も書かれていません。
第5 「本人サポート」の実務的実態と弁護士が抱えるリスク
ここまでは最高裁側の論理を見てきましたが,実際にその要請を受ける日弁連側の検討状況や実務的な定義についても,最新情報を踏まえて解説します。
1 「法律事務」と「事実行為」の境界線
(1) 日弁連による「本人サポート」の定義と法的性質
日弁連によれば,2026年の全面デジタル化に伴い導入が予定されている「本人サポート」は,法律事務(弁護士法第3条)ではなく,あくまで「事実行為」であると定義されています。これは極めて重要なポイントです。
すなわち,ご本人から事件の見通しや書面の内容に関する助言を求められ,それに回答する場合は,それは「本人サポート」の範疇を超え,通常の「法律相談(法律事務)」となります。
ただし,実務的な視点で検証すれば,来訪者が作成した書面に法的に致命的な不備や不適切な内容が含まれていた場合,弁護士が見て見ぬふりをして「入力だけ」を行うことは職務倫理上極めて困難です。
「純粋な操作支援」と「法律相談」を明確に切り分けることなど,現場の実態としては不可能に近いと言わざるを得ません。
(2) 「形式サポート」と「実質サポート」の区分の撤廃
かつては「形式サポート」や「実質サポート」という用語で議論されていましたが,現在はその区分けは採用されていません。前掲の「本人サポートの留意点」(2026年3月改訂版)は,これらの用語が2019年9月12日付けの前記基本方針などで使われていたことを注記したうえで,「法的助言を伴う場合は通常の法律相談と同様に考えれば足りるため,『形式サポート』,『実質サポート』の用語は使用しない」と明言しています(同2頁)。事実行為のみを「本人サポート」と呼び,法的助言を伴うものは通常の法律相談として扱う整理になっています。
これにより,弁護士が行う業務であっても,本人サポート自体は「誰でも(有償・無償問わず)行える事実行為」という位置づけになります。
(3) この整理の出所と,本人サポータの法的性質
以上の整理は,本稿の独自の見解ではなく,出所があります。
そもそもの発端は,改正法に対する国会の附帯決議です。衆議院法務委員会(2022年4月20日)及び参議院法務委員会(同年5月17日)の附帯決議において,本人サポートについて格段の配慮をすべきことが求められました。前記の「裁判所における本人サポート態勢について」も,冒頭でこの附帯決議に言及しています。
これを受けて,日本弁護士連合会は,各弁護士会及び各弁護士会連合会宛てに,2025年(令和7年)11月25日付で「民事裁判手続デジタル化における本人サポートに関する弁護士会での名簿作成の検討及び当連合会作成資料の周知について(依頼)」を発出しました。現在流通している「本人サポートは,法律事務ではなく事実行為であり,有償・無償を問わず誰でも行うことが可能なもの」という整理は,この文書によるものです。同文書は,弁護士の関与が本人サポートのみにとどまる限り,弁護士職務基本規程に定める規律にも該当しないとしています。
ここで,実務上決定的に重要な法的性質決定があります。改正民事訴訟規則が用いる語は「本人サポータ」であり,その位置づけは,「本人サポータは当事者本人の使者にすぎず,当事者本人や代理人ではない」というものです(清水綾子「民事訴訟手続のデジタル化のこれから 第9回 弁護士の視点から(3)――ウェブ尋問/受諾和解/本人サポータ等」ジュリスト2026年5月号(No.1622)77頁)。想定されている担い手は「当事者の親族や,弁護士・司法書士といった士業者」とされています。
「事実行為である」という説明よりも,「使者である」という説明のほうが,実務上の帰結を導きやすいと思われます。使者である以上,意思表示の主体はあくまで本人であり,サポータには裁量がありません。本人が誤った内容を入力するよう求めれば,サポータはそのとおり入力するほかない,ということです。
そして,まさにここに,前記(1)で述べた切り分けの困難が凝縮されています。同論考も,「本人サポータを依頼する当事者が,本人サポートが事実行為であることを認識し,弁護士に事件に関する法的アドバイスを期待しないことがあり得るのか,という懸念がある」と述べています。現場の実感は,専門誌の論考においても共有されているのです。
2 具体的な業務内容とシステム操作の実際
では,具体的にどのような業務が想定されているのでしょうか。これは,サポータとなる弁護士がシステムにログインするか否かで大きく2つに分類されます。
(1) サポータがログインしない場合の業務範囲
ご本人がご自身の機器で操作を行うことを前提とした支援です。
ア 操作アドバイス
アカウントの取得方法,ログイン,手数料納付,書面の提出操作,通知の確認方法などの助言を行います。
ただし,アカウントの取得自体はパスワード設定等を伴うため,代行はできず,アドバイスに留まります。
イ PDF化の支援
ご本人が持参した紙の書面をスキャンしてPDF化し,データとしてご本人に提供することです。
ただし,原本性が担保されないデジタルデータにおいて,「弁護士がスキャンした」という事実は,後に「改ざん」を疑われた際の無実の証明を極めて困難にする技術的リスクを孕んでいます。操作マニュアル(PDF122頁,別紙4)においても,しかも,操作マニュアル(PDF122頁,別紙4)は「mintsでは,縦向き及び横向きいずれのPDFでもアップロードすることが可能です。」としつつ,「タイムスタンプを適切な位置に付するため」として縦置き・横置きに応じた向きでのアップロードを求めており,他方で用紙サイズはA4・A3以外がページ単位で弾かれます。単にスキャンすれば良いというものではないのです。
また,情報理論の観点から言えば,アナログ(紙)からデジタルへの変換は一種の「サンプリング」であり,必ず情報の欠落(ロス)や画質劣化を伴います。
原本と電子データ(PDF)の同一性をシステム側で担保するハッシュ値照合等の技術的セーフガードがない現状において,この変換プロセスにおける責任を,法的保護のない弁護士が負うことは,リスク管理上,極めて危険です。
後述するとおり,シンガポールでは,このようなデータ変換作業を「サービス・ビューロー」と呼ばれる民間業者が有償で一括して引き受けており,専門家(弁護士)がスキャン作業のような事務リスクを負わない仕組みが確立されています。
(2) サポータがログインする場合の業務範囲
サポータである弁護士自身のアカウントを使用して行う業務です。
ア オンライン提出代行
ご本人から提供された書面(PDFやフォーム入力内容)を,システムを通じて裁判所に提出します。
イ 記録の閲覧・複製
提出された訴訟記録を閲覧したり,ダウンロードしたりします。
ウ システム送達受取人としての対応
相手方からの書類や裁判所からの通知を,サポータが「システム送達受取人」として受け取ります。
受け取った書類をご本人へ送信,または印刷して交付したり,事務連絡等の通知をご本人へ伝達したりします。ご本人がアカウントを持っていない場合,システム送達を受けるためにサポータを受取人として届け出る必要が生じます。
ただし,日弁連の会員向け資料「デジタル化された民事裁判手続における本人サポートの留意点」(2026年3月改訂版)は,「なお,ウェブ会議への参加の補助については,サポータはウェブ会議に同席できないことから,本人サポートの内容としては適切ではないと解する」としています(同3頁)。
IT操作に不慣れでサポートを必要とする当事者が,最もITリテラシーを要する「単独でのウェブ会議参加」を強いられるという,致命的な矛盾(ロジックの破綻)が生じています。
3 看過できない実務上のリスクと留意点
ここが最も重要です。「事実行為」であるという定義は,弁護士にとって重大なリスクを孕んでいます。
(1) 弁護士賠償責任保険の適用外という「無保険特攻」のリスク
ア 責任の所在が不明確な「機械トラブル」の恐怖
最大のリスクは,「本人サポート」は法律事務ではないため,原則として弁護士賠償責任保険の適用がないと解される点です。これは本稿の推測ではなく,日弁連自身が明記しています。
前掲の「本人サポートの留意点」(2026年3月改訂版)第7は,「本人サポートは『弁護士の資格に基づいて遂行』したとは認められず,弁護士賠償責任保険の適用はないと解される」と述べています。その根拠は,弁賠保険が「弁護士の資格に基づいて遂行した同法第3条に規定される業務に起因して」生じた賠償責任をてん補するものであること(弁護士賠償責任保険適用約款3弁護士特約条項第1条(1))にあり,本人サポートは弁護士の資格に基づかなくとも誰もが行い得る業務であるから弁護士業務起因性を欠く,という整理です(同17頁)。同書は「その最終的な判断は裁判所に委ねられる」と留保しつつ,「現行規定の下では……弁賠保険でてん補することを期待することは困難である」と結論づけています。
つまり,これは「無保険」での業務遂行を意味します。
もっとも,日弁連がこれを放置しているわけではありません。同書第8は,日弁連の役割として,「本人サポートに起因する弁護士の損害賠償責任に関し,弁護士業務起因性の解釈又は保険商品開発の可能性について,全国弁護士協同組合連合会や損害保険ジャパン株式会社と協議するなどして積極的に検討を進めること」を挙げています(同17頁)。空白は認識されており,保険商品の開発が検討課題として明示されている段階です。
以下に挙げる例は,本稿の思いつきではありません。いずれも,前記山口県弁護士会の総会決議が,弁護士及び弁護士会の不利益として具体的に列挙していたものです。
例えば,以下のような機械トラブルが考えられます。
・ 大切な証拠(原本)をスキャンする際,例えばホチキスの外し忘れ等が原因で破損してしまったら誰が責任を負うのか。
・ 動画や画像のファイル形式・サイズ変更を余儀なくされ,画質が落ちた結果,『当事者が思ったとおりの画質で裁判所に提出できず,証拠価値が下がって負けた』とクレームをつけられたらどうするのか。
・ 操作マニュアル(PDF113頁以下,別紙3)には,ファイルのプロパティや個人情報を削除する詳細な手順が記載されていますが,この過程で意図せず重要なメタデータまで削除してしまったり,ファイル変換により画質が劣化したりするリスクは常に存在します。
これらは単なる過失ですが,法律事務ではない以上,保険の対象外となる可能性が高いのです。
イ ログの粒度と事後否認という地雷原
前記第4の1(3)のとおり,制度上は,サポータが本人のID・パスワードを預かる必要はありません。サポータは自分のアカウントで操作し,本人の署名又は記名押印のある入力依頼書面の画像を添えることとされています。
しかし,これで事後否認のリスクが消えるわけではありません。本人の意思を担保しているのは,紙に書かれた署名又は押印の画像であって,電子署名ではないからです。「その依頼書面に署名した覚えはない」「そこまで頼んでいない」と言われたとき,サポータの側にこれを覆す技術的な手段はありません。
さらに,現状のmintsの仕様では,操作ログがアカウント単位でしか記録されません。サポータのアカウントから提出されたという事実は残りますが,その提出内容が本人の指示の範囲内であったかどうかまでを記録する仕組みはありません。「誰がエンターキーを押したか」を事後的に追跡できる仕様になっていないため(否認防止機能の欠如),仮に本人が「弁護士が勝手にやった」と主張した場合,技術的に反証することは困難です。
もし,何らかの原因で情報流出が起きた際,「あんたが漏らしたんだろう」と疑われたら,弁護士は無実を証明できるでしょうか。
いわゆる「特級呪物」と化す可能性のある困難な当事者を相手に,無保険で業務を行うことは,まさに「神風特攻」とも言うべき無謀な行為であり,単なるボランティア精神で引き受けるにはあまりに危険すぎます。
(2) 守秘義務と利益相反に関する構造的問題
ア 守秘義務の所在
本人サポートは法律事務ではないため,形式的には弁護士法上の守秘義務の対象外となります。
しかし,弁護士に対する社会的信用を維持するため,正当な理由なく秘密を漏らしてはならないことは言うまでもありません。契約書等で守秘義務を明記することが強く推奨されます。
イ 利益相反の考え方
形式的には利益相反規定に触れない場合でも,実質的に本人の利益を損ねる恐れがある場合は,相手方からの依頼を受けるべきではありません。
特に,本人サポートで情報を得た後に,その事件の相手方から依頼を受けることは,職務基本規程の精神に照らして原則避けるべきです。
なお,有償で本人サポートを継続している場合には,さらに厳しい制約がかかると整理されています。すなわち,当該事件の相手方から事件の依頼を受けることは,その相手方から支払われる本人サポート費用が「利益の供与」に該当することになるため,当該相手方から事件を受けることはできない,というものです(前掲ジュリスト78頁)。有償化は,リスクに見合う対価を得る手段であると同時に,受任可能な事件の範囲を自ら狭める行為でもあるのです。
(3) 「印刷して交付」という作業に潜む作業負荷
サポータが「システム送達受取人」として受け取った書類や裁判所からの通知については,「印刷して交付」という作業が必要となります。
しかし,この「印刷して交付」という作業は,想像以上に煩雑な「シャドウ・ワーク(隠れた作業負荷)」となります。
操作マニュアルによれば,未印刷物を一括印刷しようとした際,原稿サイズA3とA4が混在していると,「A3、A4サイズが混在しているためダウンロードした後に印刷してください。」とのメッセージが表示され,プレビュー表示がなされません(操作マニュアルPDF64頁)。これは,サーバーサイドでの適切なレンダリング処理を放棄し,クライアントサイド(ユーザー側)の環境と手間に依存した,システムアーキテクチャとして極めて前近代的な設計と言わざるを得ません。
さらに,その後の印刷工程においては,Adobe Acrobat Readerの印刷設定で「PDFのページサイズに合わせて用紙を選択」にチェックを入れるなど,マニュアル「別紙5(PDF123頁)」で指定された【設定1】の手順を正確に履行しなければならず,これを怠ると用紙サイズ不整合による印刷ミスが多発する仕様となっています。
単に「紙を受け取るだけ」であった従来の業務と比較して,事務コストが著しく増大することは明白であり,これを無償に近い形で引き受けることは経営判断としてあり得ません。
(4) 契約書の重要性
トラブル防止のため,支援の範囲(法律相談は含まない等)を明確にした「本人サポート契約書」の作成が必須となります。
また,ウェブ会議への同席(代理権がないため不可),書面内容の作成・検討(法律事務になるため不可),本人のアカウント利用(不正利用になるため不可)といったNG行為を明確に除外する必要があります。
(5) 「非弁活動の温床」となる社会的リスク
さらに看過できないのが,「形式サポートには法曹資格が不要」とされることの副作用です。 これは裏を返せば,悪質な事件屋や非弁業者が「ITサポート業者」を名乗って堂々と参入できることを意味します。山口県弁護士会の決議でも指摘されているとおり,「形式サポートに名を借りた非弁行為の増加が想定され,これを防止することは,ほぼ不可能」なのです。
表面上は「操作支援」を謳いつつ,裏で実質的な非弁活動を行い,国民が高額な被害に遭う――そんな未来が容易に想像できます。
最高裁の施策は,結果として国民を食い物にする土壌を作っている可能性があり,この点でも司法の信頼を揺るがしかねないのです。
第6 【海外事例】「責任の所在」を明確にするアジア近隣諸国の先進事例
1 シンガポール:徹底した「IT隔離」と「有償アウトソーシング」
(1) 本人による直接アクセスの制限
シンガポールの電子裁判システム「eLitigation」は,原則として法律事務所及び登録された法人ユーザー向けに設計されています。
一部の簡易手続を除き,本人訴訟当事者が自宅のパソコンからシステムに自由にアクセスし,不完全なデータを流し込むことは推奨されていません。
(2) 「サービス・ビューロー(Service Bureau)」という解決策
では,本人はどうするか。最高裁判所及びState Courtsの庁舎内に設置された「サービス・ビューロー」という窓口の利用が推奨されています。
本人は紙の書類をビューローに持ち込み,そこで所定の手数料を支払って,専門スタッフにデータ入力とアップロードを代行してもらいます。ビューローは法律事務所ではないため,法廷で本人を代理することはできず,スタッフが法的助言を行うことも認められていません。書類の起案も行いません。役務の範囲が,制度として明確に線引きされているのです。
なお,運営体制は流動的です。長らくCrimsonLogic社が運営してきましたが,シンガポール司法府の公表によれば,eLitigationヘルプデスク及びサービス・ビューローの運営は,2026年3月からToppan Ecquaria(TECQ)に引き継がれました(最高裁判所は同月23日,State Courtsは同年4月2日に移行)。同年4月2日以降,庁舎内のサービス・ビューローが取り扱う業務はeLitigationへの提出とCause Book Searchに限定され,その他の登記・照会系サービスは,Keppel RoadのCrimsonLogicサービス・ビューローへ分離されています。
ここで注目すべきは,運営主体が交代しても,「本人は直接システムに触れず,対価を払って専門業者に代行させる」という原則そのものは,一切揺らいでいないという点です。
(3) 運用の妙と日本の現状
これにより,裁判所のシステムには,プロ(業者)によって整えられた完璧なデータしか流れてきません。裁判所書記官が「PDFの傾き」を直す必要も,弁護士が相手方のITサポートをする必要もないのです。
「ITスキルがないなら,対価を払ってプロに頼む」という原則を徹底し,司法インフラの汚染を防いでいます。
2 韓国:国家主導の「徹底サポート」と「専用インターフェース」
韓国は,日本と同様に国民のITリテラシーが高いことを前提としつつも,国(大法院)が責任を持ってインフラを整備する「親切な国家」モデルです。
(1) 「本人訴訟専用ポータル」の構築
韓国は,電子訴訟ポータル(전자소송포털)の中に,一般市民向けの「私一人でする訴訟(ナホルロ訴訟)」の書面作成支援メニューを用意しています。なお,韓国語では,「ナ(私)」+「ホルロ(一人で)」=「私一人で」という意味です。
かつては本人訴訟専用の独立したポータルサイトが別ドメインで運営されていましたが,現在は電子訴訟ポータルに統合され,同一の入口から,弁護士も本人も,それぞれに適した導線で手続に入る設計になっています。本人向けには,訴状の作成を助ける専用の案内が用意されています。
日本のように「弁護士は義務・本人は任意」と入口で二分するのではなく,同じ入口の中で難易度を調整するという発想です。
(2) 専門部隊によるヘルプデスク
大法院(最高裁)直轄のITセンターには,強力なユーザーサポート部隊(ヘルプデスク)が設置されています。「ログインできない」「操作が分からない」という問い合わせは,すべてこの専門部隊が引き受けます。
現場の書記官が電話口で操作説明をすることは,業務分掌として明確に切り離されており,「操作のことはヘルプデスクへ」と堂々と案内できる体制が整っています。
3 中国:徹底した「モバイル統合」と「AIによる人的遮断」
中国は,韓国の「親切な国家」モデルをさらに推し進め,「国民がすでに使っているインフラに裁判所を寄生させる」という発想と,「AIによる徹底した人的遮断」で現場を守っています。
(1) 国民的アプリ「WeChat」への機能統合
新たなシステム操作を覚えさせるのではなく,国民インフラであるメッセージアプリ「WeChat(微信)」の中に裁判所のミニプログラムを組み込みました。ログインは顔認証で完了し,証拠提出は「スマホで写真を撮ってアップ」で済みます。
最高人民法院は,2025年11月28日に各地の電子訴訟サービスプラットフォームを統合し,同年12月1日から,全国統一の「人民法院在線服務網」(パソコン版)及び「人民法院在線服務全国版」(WeChatミニプログラム)の運用を開始しました。従来の「移動微法院」等は,これに一本化されています。立件,調停,執行,上訴,保全までを一つの入口に集約する設計です。
「PDFの傾き」といった概念すら排除し,UI(ユーザーインターフェース)の極度な簡便化によって,操作質問そのものを激減させています。
(2) 「12368」ホットラインとAI対応
全国統一の訴訟サービスホットライン「12368」では,AIまたは専門オペレーターが対応し,事件進捗などの定型的な質問にはシステムが自動回答します。
現場の書記官への電話は物理的に遮断され,本来業務に集中できる環境が強制的に作られています。
4 台湾:「訴訟輔導科」という強力な緩衝地帯
台湾のアプローチは,IT化を進めつつも,「デジタル弱者への手厚い人間によるケア」を専門部署に集約させる「調和型」です。
(1) 専門部署による防波堤
台湾の地方法院には,玄関口に「訴訟輔導科(訴訟相談課)」という専門部署が設置されています。手続の案内やIT操作の補助は,原則としてこの部署が一手に引き受けます。
ここで重要なのは,これがデジタル化に対応するために新設された部署ではない,という点です。司法院は1999年から所属法院への単一窓口(聯合服務中心)の設置を進め,2001年5月に全面設置を完了しています。根拠となる「法院訴訟輔導科為民服務實施要點」も,デジタル化のはるか以前から存在し,改正を重ねてきました。台湾は,デジタル化の波が来る前から,本人を受け止める専門部署を持っていたのです。
(2) 「程序」と「實體」を成文で切り分けていること
そして,本稿がこれまで論じてきた問題にとって,決定的に重要な一節が,この要點に置かれています。
同要點は,訴訟輔導科が輔導する事項について,「以關於程序方面者為限,與實體訴訟或實體法律關係有關之事項不在服務輔導範圍之列」と定めています。すなわち,手続に関する事項に限り,実体の訴訟又は実体法律関係に関する事項は輔導の範囲に含まれない,というものです。
日本において「形式サポートと実質サポートの切り分けなど,現場の実態としては不可能に近い」と論じられている,まさにその線引きを,台湾は成文の要點で明示しているのです。
もちろん,成文があれば現場で完全に守られるという保証はありません。しかし,線を引く責任を国家が引き受け,文書で公示しているかどうかは,決定的な違いです。線が引かれていれば,担当者はそれを盾に断ることができます。線が引かれていなければ,断る理由を各自が自弁するほかありません。日本の支援者が「本人サポート契約書」を自作して自衛しなければならないのは,国家が引くべき線を引いていないからです。
(3) 現場書記官との機能分離と人的手当て
事件担当の書記官(法廷立会等を行う書記官)と,窓口対応を行う職員の役割が明確に分離されています。ITが苦手な当事者が来庁した場合,担当書記官ではなく,訴訟輔導科の職員が対応します。
人的手当ても工夫されています。各級法院は,大学と協調して法律学科の学生を訴訟輔導科で実習させ,訴訟輔導員として従事させることができるほか,法院の業務に通じた熱心な人を志願服務工作人員(ボランティア)として招くことができるとされています。予算で正規職員を増やせないという制約は台湾にもありますが,その制約への回答が,「外部の専門職に無償で担わせる」ではなく,「法院の中に人を集める仕組みを作る」であった点は,注目に値します。
なお,輔導の業務項目には「輔導或代為撰繕書狀」(書面作成の指導又は代行)まで含まれています。日本の非弁規制の感覚からすると射程が広く見えますが,前記のとおり実体に関する事項が除かれているために成り立っている設計です。
これにより,事件処理を行う現場のリソースは確実に保護されているのです。
5 日本への示唆:ガラパゴス化する「責任の空中分解」
(1) こうして比較すると,日本の現状がいかに中途半端であるかが明白になります。
近隣諸国は,それぞれ異なるアプローチで「現場」を守っています。
【各国の司法IT戦略比較】
・ シンガポール型
「隔離」による品質維持(民間業者が有償対応)
・ 韓国型
「投資」による包摂(国が本人向けの導線とサポートを用意)
・ 中国型
「技術」による遮断(AIと既存アプリ統合による省力化)
・ 台湾型
「分業」による調和(専門部署「訴訟輔導科」による緩衝と,成文による範囲の限定)
・ 日本型(現状)
「機器」による代替(機器と貸出しは用意し,人と線引きは用意しない)
(2) 前記第4の3のとおり,日本の裁判所も何もしていないわけではありません。全庁に貸出用パソコンが置かれ,Wi-Fiが整備され,スキャンやアップロードの補助まで明記されています。この点は,率直に評価すべきです。
しかし,用意されたのは機器であって,人でも線引きでもありませんでした。パソコンは「長時間の占有は不可」とされ,プリンタは置かれず,どこまでが手続の案内でどこからが法律相談なのかという境界は,どの文書にも書かれていません。
シンガポールのように「業者に任せる」という割り切りもせず,韓国や中国のように「国が技術とカネで支える」という覚悟も決めず,台湾のように「専門部署を作り,その職掌を成文で限る」こともしない。
機器だけを置いて,その機器を使いこなせない人をどう支えるか,支える人がどこまで踏み込んでよいかという最も難しい判断だけを,現場の書記官と外部の法律家に委ねる。それが,日本型の実像です。
第7 総括:最高裁事務総局の「生存戦略」と法曹三者の未来
1 組織防衛のための冷徹な現状認識
以上の分析から導き出される最高裁事務総局の「本音」は,極めて合理的かつ冷徹な組織防衛の論理に基づいています。
「デジタル化のインフラ(ハード・ソフト)は裁判所が用意する。しかし,それを埋める『人的コスト』は裁判所のリソース(人件費)では絶対に賄えない。賄おうとすれば,現場が崩壊する。
だからこそ,本人訴訟におけるデジタル利用は,制度上『任意』とし,現場への流入をコントロールする。その上で,『より便利に』というインセンティブで誘導し,それでも発生するサポート業務のコストは,『司法の担い手』である隣接士業に,公益活動として負担・解決してほしい。」
これが,「関係機関との連携」を強調する最高裁事務総局の,偽らざる本音であり,限られた予算と人員の中でデジタル化という国策を完遂するための「生存戦略」であると考えられます。
もっとも,全面施行に際して,この構図は一度,公式の文書に落とし込まれました。
令和8年5月,法務省,最高裁判所,日弁連,日本司法書士会連合会及び日本司法支援センター(法テラス)の五者は,衆参両法務委員会の附帯決議第三項を踏まえ,関係機関申合せを取り交わしています。そこでは,本人サポートの内容を①必要な機器の整備②デジタル機器の操作等の代行・援助③電子申立て等を行う際に必要な情報の提供と整理したうえで,最高裁判所は主に各地の裁判所における機器の整備と操作方法等の情報提供を,法テラス及び法務省は情報の提供を,そして個々の弁護士・司法書士及び各事務所は「各自の自主的な判断により」主に②及び③を行うものとされました。
注目すべきは,最も手間のかかる②の実行主体が「各自の自主的な判断」に委ねられている点です。国が引き受けたのは機器と情報にとどまり,人が人を助ける部分は,制度としてではなく,個々の専門職の自発性に委ねられました。本稿が第4で述べた構造は,批判の対象としてではなく,五者の合意文書の形で確定したことになります。
そして,この分析が正しかったかどうかは,全面施行を経た今,検証することができます。
結論から言えば,構図の読みは当たりましたが,担い手の予測は外れました。押し付けられたのは,弁護士ではなく,司法書士だったのです。
令和8年4月,法務省大臣官房司法法制部と日本司法書士会連合会は,共同でリーフレットを発行しました。表題は「本人サポートは司法書士にご相談を!」であり,全国50の司法書士会の連絡先が一覧で掲げられ,司法書士総合相談センターが全国各地で無料相談会等を開催する旨が記されています。本人サポートの内容は,①司法書士がサポータとなり書類の電子提出・受取を代わりに行うこと,②システムへの入力支援を行うこと,③手書きのメモや領収書等の紙の資料をスキャンしてデータにする作業を支援すること,の三つに整理され,「本人サポートは,民事裁判のバリアフリー化のための制度です」と位置づけられています。
一方,日本弁護士連合会は,静かに一歩下がりました。2019年の基本方針は「当連合会が……必要なサポートを提供する」と述べていましたが,全面施行日の会長声明(令和8年5月21日)は,「裁判システム又は実務に不慣れな市民が本人訴訟を行う場合のサポートも課題となるため,当連合会は,そのような市民のために一定の役割を担う弁護士が適切な対応ができるように引き続き支援する」と述べるにとどまりました。提供主体になるとは言っていません。担う弁護士がいれば支援する,という言い方です。
さらに,同会の令和8年度会務執行方針を通読すると,「本人サポート」という語も,「本人訴訟」という語も,一度も出てきません。民事裁判手続のデジタル化を扱う項は,「デジタル化に取り残される市民がないように,日弁連として必要な支援を提供していきます」という一文で結ばれています。
前記第2の2(3)で引用した山口県弁護士会の総会決議は,日弁連に対して基本方針の見直しを求めるものでした。その要求は,正面から受け入れられたわけではありません。しかし結果として,弁護士会が組織として本人サポートを提供するという構図は,現実には成立しませんでした。
事務総局が期待した「隣接士業への公益的な負担」は,弁護士会ではなく司法書士会が引き受け,しかも無料相談会という形で受け止められました。無償の担い手を求めた設計は,無償の担い手を見つけたのです。
2 我々実務家が取るべき「生存戦略」:情緒的連携からの脱却と工学的要求
(1) 精神論の排除と「契約と仕様」への回帰
最高裁の戦略を「責任転嫁」と道徳的に断罪しても、彼らが動くことはありません。彼らは財務省という「株主」に対するKPI(効率化)達成のために動いているからです。
我々弁護士もまた,情緒的な「連携」や「司法の担い手としての使命」という曖昧な言葉に酔うのはやめるべきです。
情報工学と法務の観点から言えば,現在のmintsの仕様と運用ルールは,「セキュリティホール(認証の脆弱性)」と「リーガルリスク(責任分界点の欠如)」を外部ユーザー(弁護士)に押し付ける欠陥設計です。
このバグを修正しない限り,本人サポートには関与できない――これが技術者かつ法律家としての結論です。
(2) 提示すべき4つの「非機能要件」と「契約条件」
我々は,ボランティアとしてではなく,システムのエンドユーザー兼ステークホルダーとして,以下の4点を「利用の必須条件(受入テスト基準)」として突きつける必要があります。
第一に,証跡(ログ)の粒度と,権限設計の明確化です。
前記第4の1(3)のとおり,他人のID・パスワードを預かって操作するという運用は,制度上は要求されていません。民事訴訟規則第52条の11第1項ただし書により,サポータは自分の端末・自分のアカウントから入力し,本人の署名又は記名押印のある入力依頼書面の画像を添えることとされています。情報セキュリティマネジメント(ISMS)の観点から求められる「認証と認可の分離」は,規則のレベルでは既に達成されているのです。
したがって,我々が要求すべきは,実装されていない機能の新設ではなく,実装された機能の完成です。具体的には,次の三点です。
① 操作ログをアカウント単位から操作単位へ精緻化し,どの入力がどの依頼書面に対応するかを事後に追跡できるようにすること。現状では,「サポータのアカウントから提出された」ことは残っても,その提出が本人の依頼の範囲内であったことを技術的に立証する手段がありません。
② 入力依頼書面の電子化を進めること。本人の意思の担保が紙への署名又は押印の画像に依存している限り,否認防止(Non-repudiation)は成立しません。
③ サポータの権限を,事件ごとの役割に応じて設計し直すこと。提出はできるが記録一覧を常時閲覧できないという状態のまま作業だけを担わせる設計は,支援者に過大なリスクを負わせます。
そして何より,これらの制度をマニュアルと手引に明記させることです。制度が存在しても,利用者が読む文書に書かれていなければ,存在しないのと同じです。本稿の筆者自身が公開文書だけを読んで「そのような枠組みは存在しない」と誤解しかけたことが,その最良の証明です。
第二に,利用規約(ToS)による「免責の明文化」です。
「支援は事実行為」という曖昧な解釈論に逃げるのではなく,mints利用規約に「支援者(弁護士等)による操作補助に起因するシステム上の不具合,データ消失,画質劣化等について,支援者に故意または重過失がない限り免責される」という条項を追加させるべきです。
システム提供者である国がこの免責規定を設けないのであれば,弁護士会側で統一の「免責同意書テンプレート」を作成し,署名がない限り一切の操作支援を行わないという運用を徹底する必要があります。
第三に,リスクに見合った「技術料(Technical Fee)」の標準化です。
これは「相談料」ではありません。「データ変換・アップロード代行」という一種のITベンダー業務です。シンガポールのサービス・ビューローが有償であるように,リスクを伴う技術的作業には対価が必要です。
なお,有償化それ自体は,新しい要求ではありません。日弁連の2019年の基本方針は,弁護士が「自らの事務所において,必要に応じて対価を得て」本人サポートを実施することを想定しており,その脚注で「実費のほか一定額の手数料が考えられる」と明記していました。有償を前提としていたのは,最初から日弁連自身なのです。
にもかかわらず,7年を経ても標準的な対価は形成されませんでした。その理由の一端は,前掲の山口県弁護士会の総会決議が記録しています。同決議は,「現に,サポート業務の料金は法律相談料よりも低廉にせざるをえないという趣旨の日弁連執行部の発言もある」と指摘しています。
つまり,制度の設計者は当初から有償を想定しながら,運用の場面では「安くせざるを得ない」という空気を自ら作ってきたわけです。ここを直視しない限り,技術料の標準化は永遠に実現しません。
また,前記第5の3(2)イのとおり,有償化には,当該事件の相手方からの受任が「利益の供与」により制約されるという副作用もあります。値段を付けるという行為は,単なる価格設定ではなく,業務の性質決定でもあるのです。それでもなお,明確にプライシングされた技術サービスとして定義し直すことで,安易な依頼を抑制し,責任の重さを依頼者にも認識させる必要があると考えます。
第四に、「システム不備」を理由とした「正当な業務拒否」の行使です。
海外事例(シンガポール、韓国等)と比較し,日本のシステムがいかに「ユーザーサポート」という必須モジュールを欠いた欠陥品であるかを,具体的なデータと共に主張し続ける必要があります。
サポート体制(ヘルプデスクや入力センター)という「ミドルウェア」が欠如している以上,ラストワンマイルの接続責任を弁護士が負う義務はありません。
「不完全なシステムには接続しない」という態度は,サボタージュではなく,司法インフラの安全性を守るための「セキュリティ・ポリシー」です。
我々弁護士が安易に無償サポートで穴埋めをすることは,国が負担すべき「IT運用コスト」を隠蔽(粉飾)することに他なりません。
それは結果として,日本の司法DXを「いつまでも自立できない未熟なシステム」のまま放置させることになります。
「バグだらけの仕様書にはサインしない」。技術者として,そして法律家として,この当たり前の態度を貫くことこそが,真の意味での「司法への貢献」なのです。
【本人訴訟サポートのリアル1】(再掲)
やりとうないです…#弁護士 #漫画が読めるハッシュタグ #たぬじろう #食っていけない弁護士 pic.twitter.com/tYrpftm5ZT
— 【漫画】弁護士のたぬじろう (@B_Tanujiro) April 25, 2025
関連記事――最高裁判所事務総局の「本音」シリーズ
この記事は,公開資料及び情報公開請求で得た資料から最高裁判所事務総局の「本音」を読み解くシリーズの一本です。扱う資料と論点がそれぞれ違いますので,あわせて参照してください。
・(AI作成)全司法労働組合との令和6年度交渉記録から見える最高裁判所事務総局の本音,及びAIの戦略的アドバイス――令和6年4月から令和7年1月までの交渉記録と令和7年度概算要求書を素材に,予算・定員・級別定数・健康管理を横断して扱っています。財政法上の二重予算権,定員合理化に「拘束されない」という国会答弁,改正家族法(令和8年4月1日施行)と民事訴訟手続のデジタル化(令和8年5月21日全面施行)という時間軸も,この記事で整理しています。
・(AI作成)全司法労働組合の全国統一要求書に対する最高裁判所事務総局の本音――2020年以降の全国統一要求書の推移を素材に,交渉が形骸化する構造を扱っています。令和8年1月の最高裁判所長官「新年のことば」の読み方も,この記事で扱っています。
・(AI作成)裁判官以外の裁判所職員の級別定数に関する最高裁判所事務総局の本音の説明――情報公開請求で得た級別定数表・昇格発令数・年齢構成を素材に,昇格の実態を数値で扱っています。
・(AI作成)最高裁人事局総務課長交渉の回答分析――人事局総務課長交渉の回答文書そのものの構造と読み方を扱っています。