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相続させる遺言に基づく相続登記を弁護士が代理する方法―申請人の選び方,添付情報,委任状,登記識別情報及び国籍等の申出(AI作成)

第1 本記事の対象と結論

1 本記事の対象

本記事は,特定の不動産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言(民法1014条2項の特定財産承継遺言)がある場合に,その不動産の相続による所有権移転登記を,弁護士が代理人として申請する方法を扱う。
以下,遺言によって不動産を取得した相続人を「受益相続人」という。
調査基準日は令和8年9月26日である。
条文はe-Gov法令検索で,最高裁判例は裁判所ウェブサイトで全文を確認し,東京高裁平成7年11月29日判決は判例秘書で全文を確認した。
申請書・委任状の記載は,法務局が公表している記載例を基礎にしている。

「相続させる」遺言の性質,判例の流れ及び遺言執行者の権限の実体法上の整理は,相続させる遺言と特定財産承継遺言――違い,効力,登記及び遺言執行者の権限で扱っている。
本記事は,その整理を前提に,登記申請の実務に絞って説明する。

2 結論

①弁護士は,弁護士法3条1項に基づき,相続登記の申請を代理人として行うことができる。
②弁護士が関与する申請の形は,受益相続人の単独申請を任意代理する方法,弁護士自身が遺言執行者として申請する方法,遺言執行者から委任を受けて申請する方法の三つである。
③遺言執行者による申請は,令和元年7月1日以後に作成された遺言に限られる。
④添付情報は,遺言書,被相続人の死亡の記載のある戸籍,受益相続人が相続人であることが分かる戸籍,住民票の写し,委任状等であり,被相続人の出生から死亡までの戸籍は要らない。
⑤委任状には受益相続人の記名押印が要るが,印鑑証明書は要らない。
⑥登記識別情報を弁護士が受け取るには,委任状に受領の特別の委任を書く。
⑦令和8年10月5日以後に申請する場合は,受益相続人の「国籍等」も申請情報とし,国籍等を証する情報を提供する。

第2 登記申請の前提となる法律関係

1 相続開始時に直ちに承継する

最高裁平成3年4月19日第二小法廷判決(平成元年(オ)第174号,民集45巻4号477頁)は,特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言は,遺贈と解すべき特段の事情がない限り,遺産分割の方法を指定したものと解すべきであるとした。
そして,特段の事情のない限り,何らの行為を要せずして,被相続人の死亡の時に直ちに相続により承継されるとした。
そのため,登記原因は「相続」であり,原因日付は,遺言書の作成日ではなく,被相続人の死亡日である。

登記実務は,平成3年判決より前から,特定の不動産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言書を添付してする「相続」を原因とする所有権移転登記の申請を認めていたとされる(昭和47年4月17日民事甲第1442号民事局長通達とされるもの。遺産分割の方法を指定する旨の遺言公正証書を添付した申請についても,昭和47年8月21日民事甲第3565号民事局長回答があるとされる。)。
本記事では,この2件の原典を確認できておらず,司法書士事務所のウェブサイトにおける紹介によっている。
同じウェブサイトは,この形の遺言は,遺産分割協議を経ずに特定の遺産を特定の相続人に承継させたいという遺言者の要望に応えるため,公証実務で考案されたものと説明している。
いずれにしても,受益相続人は,遺産分割協議書を添付することなく,遺言書を添付して単独で相続登記を申請することができる。

2 登記をしなければ第三者に対抗できない

民法899条の2第1項は,相続による権利の承継は,遺産の分割によるものかどうかにかかわらず,法定相続分を超える部分については,登記その他の対抗要件を備えなければ第三者に対抗することができないと定める。
旧法下の最高裁平成14年6月10日第二小法廷判決(平成11年(受)第271号,集民206号445頁)は,「相続させる」趣旨の遺言による不動産の権利の取得は登記なくして第三者に対抗できるとしたが,令和元年7月1日以後に開始した相続にはこの結論をそのまま用いることはできない。
受益相続人の代理人である弁護士にとって,相続登記は,他の相続人の債権者による差押え等に備えるための対抗要件の具備である。

3 申請義務と期限

相続により所有権を取得した者は,自己のために相続の開始があったことを知り,かつ,その所有権を取得したことを知った日から3年以内に,所有権の移転の登記を申請しなければならない(不動産登記法76条の2第1項)。
正当な理由がないのに申請を怠ったときは,10万円以下の過料の対象となる(同法164条1項)。
この義務は令和6年4月1日より前に開始した相続にも適用され,その場合の3年は,上記の知った日と令和6年4月1日のいずれか遅い日から数える(民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)附則5条6項)。
期限内に登記の準備が整わないときは,相続人申告登記(不動産登記法76条の3)をすれば申請義務を履行したものとみなされるが,受益相続人の所有権を第三者に対抗するための登記にはならない。

4 遺言の作成日で遺言執行者の権限が分かれる

民法1014条2項は,特定財産承継遺言があったときは,遺言執行者は,受益相続人が対抗要件を備えるために必要な行為をすることができると定める。
しかし,民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成30年法律第72号)附則8条2項は,この規定を,施行日(令和元年7月1日)前にされた特定の財産に関する遺言に係る遺言執行者による執行には適用しないとしている。
したがって,相続の開始が新しくても,遺言の作成日が令和元年6月30日以前であれば,遺言執行者は同項に基づいて登記を申請することができない。
旧法下の最高裁平成7年1月24日第三小法廷判決(平成3年(オ)第1057号,集民174号67頁)は,受益相続人が単独でその旨の所有権移転登記手続をすることができ,遺言執行者は遺言の執行としてその登記手続をする義務を負うものではないとしている。

遺言書に遺言執行者の登記申請の権限を定める条項があっても,令和元年6月30日以前に作成された遺言である限り,この結論は変わらないと考えられる。
附則8条2項は,遺言者が遺言で別段の意思を表示したときはその意思に従うとする民法1014条4項も適用から除いているからである。
また,旧法下の登記実務は,特定の不動産を特定の相続人に相続させる旨の遺言に基づく相続登記の申請は,遺言執行者からはすることができないとしていたとされる(登記研究523号140頁の質疑応答とされるものである。本記事では原典を確認できておらず,司法書士事務所のウェブサイトにおける引用によっている。)。
もっとも,権限を定める条項がある場合を正面から扱った先例は確認できていないので,遺言執行者の名義で申請するときは管轄登記所に確かめておくのが安全であり,通常は,遺言執行者が受益相続人から委任を受けて任意代理人として申請することになる。

第3 弁護士が登記申請を代理できる根拠

1 弁護士法3条1項と司法書士法73条1項

司法書士法73条1項は,司法書士会に入会している司法書士又は司法書士法人でない者が,登記に関する手続の代理等の同法3条1項1号から5号までの業務を行うことを禁じている。
ただし,同項ただし書は,「他の法律に別段の定めがある場合」を除外している。
弁護士法3条1項は,弁護士は,当事者その他関係人の依頼又は官公署の委嘱によって,訴訟事件等に関する行為「その他一般の法律事務」を行うことを職務とすると定める。

2 東京高裁平成7年11月29日判決

東京高裁平成7年11月29日判決(平成6年(ネ)第2755号,判例秘書の判例番号 L05020375)は,弁護士が登記申請を代理したことをめぐり,弁護士と司法書士会が互いに損害賠償を求めた事件である。
同判決は,弁護士法3条1項の「一般の法律事務」は広く法律事務全般を指し,「法律事務の一分野に属する登記申請代理行為」もこれに含まれるとした。
そして,弁護士法は当時の司法書士法19条1項ただし書の「他の法律」に当たるとした。
現行の司法書士法73条1項ただし書も,同じく「他の法律に別段の定めがある場合」を除外している。
なお,同判決は,司法書士会が弁護士の依頼者に対し,弁護士の登記申請代理が違法であるかのような文書を送ったことを,弁護士に対する名誉毀損に当たるとした原判決を維持するとともに,弁護士が訴状で司法書士会を「劣位下等な職能集団」と表現したことも名誉毀損に当たるとした原判決を維持している。

3 法務省の取扱いと実務上の注意

不動産登記法23条4項1号は,「登記の申請の代理を業とすることができる代理人」という概念を用いている。
法務省は,資格者代理人による登記識別情報に関する証明の代理請求についてで,この代理人であることを証する情報として,「司法書士会,土地家屋調査士会又は弁護士会が発行した職印に関する証明書」を挙げている。
他方で,法務局の「登記の申請を代理して行う専門家はいるのですか?」は,専門家として司法書士と土地家屋調査士だけを挙げている。
窓口での照会や補正の場面では,弁護士であることを示す資料を求められることを想定しておくのが無難である。

弁護士が遺言執行者である場合に受益相続人の代理人を兼ねることや,相続人間に争いがある場合に一方の代理人となることには,利益相反の検討が必要である。
懲戒例は遺言執行者が特定の相続人の代理人をしたことに関する,弁護士会の懲戒例で,登記申請の双方代理は弁護士が当事者双方のために手続をしてよいか―登記申請・公正証書・即決和解と弁護士法25条1号で扱っている。

第4 誰を申請人とするか

1 受益相続人の単独申請を弁護士が代理する方法

相続による権利の移転の登記は,登記権利者が単独で申請することができる(不動産登記法63条2項)。
最も汎用的なのは,受益相続人を申請人とし,弁護士が委任による代理人として申請する方法である。
この方法は,遺言の作成日を問わず使え,遺言執行者の有無にも左右されない。
法務省民事局長通達(令和元年6月27日付け法務省民二第68号)も,受益相続人が対抗要件を備えることは遺言の執行の妨害行為(民法1013条1項)に当たらないため,遺言執行者がいる場合でも受益相続人が単独で相続による権利の移転の登記を申請できることは「従前のとおりである」としている。

受益相続人が複数いる場合は,全員を申請人とするのが原則的な形である。
法務局の記載例は,相続人の1人が申請することもできるが,その場合,申請人にならない相続人には登記識別情報が通知されないと注意している。

2 遺言執行者が申請する方法

前記通達は,遺言執行者は一般に法定代理人であると解されているとした上で,不動産を目的とする特定財産承継遺言がされた場合には,遺言執行者は,被相続人が遺言で別段の意思を表示したときを除き,単独で,法定代理人として,相続による権利の移転の登記を申請することができるとしている。
したがって,登記名義人となる申請人は受益相続人であり,遺言執行者はその法定代理人として申請することになると考えられる。
弁護士自身が遺言執行者であれば,受益相続人の委任状は要らず,遺言書(家庭裁判所が選任した場合はその審判書等)が遺言執行者の権限を示す資料になると考えられる。

遺言執行者が弁護士に申請を委任することもできる。
令和元年7月1日以後にされた遺言に係る遺言執行者は,自己の責任で第三者にその任務を行わせることができる(民法1016条1項,平成30年法律第72号附則8条3項)。
ただし,遺言者が遺言で別段の意思を表示していないかは,遺言書で確かめておく(民法1014条4項,1016条1項ただし書)。

3 二つの方法の比較

項目受益相続人の単独申請(弁護士が任意代理)遺言執行者による申請
根拠不動産登記法63条2項民法1014条2項,令和元年通達
使える遺言作成日を問わない令和元年7月1日以後に作成された遺言に限る
受益相続人の関与委任状への記名押印が要る要らない
代理権限を証する資料受益相続人の委任状遺言書等(弁護士に委任するときは遺言執行者の委任状も)
登記識別情報の通知先受益相続人(特別の委任があれば代理人の弁護士)法定代理人である遺言執行者(特別の委任を受けた代理人があればその代理人)

登記識別情報の通知先の欄のうち遺言執行者による申請の部分は,通達が遺言執行者を法定代理人と位置付けていることと,法定代理人によって申請した場合は法定代理人に通知するとする不動産登記規則62条1項1号とを合わせた本記事の整理である。
遺言執行者による申請の申請書の記載例は法務局の公表資料に見当たらないので,申請書の表示の仕方は,管轄登記所に事前に確かめておくのが安全である。

第5 受任したときに確認すること

1 遺言書

①公正証書遺言であれば,正本又は謄本を用いる(東京法務局の「相続登記ガイドブック 相続登記の手続について 詳細編 申請書の書き方編」1-1-15頁も,登記原因証明情報として必ず添付する書類に「公正証書遺言書の正本又は謄本」を挙げている。)。
②法務局で保管されていない自筆証書遺言と秘密証書遺言は,家庭裁判所の検認を経る必要があり(民法1004条1項・2項),登記には検認済証明書付きのものを用いる。
③法務局で保管されている自筆証書遺言は検認が要らず(法務局における遺言書の保管等に関する法律11条),遺言書情報証明書(同法9条)を用いる。
④遺言の作成日を確かめる(第2の4)。
⑤遺言執行者の指定の有無と,登記申請について別段の意思が表示されていないかを確かめる。

遺言書情報証明書の取り寄せ方は遺言書保管事実証明書・遺言書情報証明書の郵送請求―必要書類と手順で,公正証書遺言の正本と謄本の違いは公正証書遺言の原本,正本等及び謄本等―電子化後の違いと請求できる人で説明している。

2 受益者と相続関係

(1) 受益者が相続人であるか

相続人でない者に「相続させる」とする条項は,相続による承継とはならず,通常は遺贈として扱われる。
遺贈による登記は原則として共同申請であり,受遺者の単独申請が認められるのは相続人に対する遺贈に限られる(不動産登記法63条3項)。

(2) 受益相続人が遺言者より先に死亡していないか

最高裁平成23年2月22日第三小法廷判決(平成21年(受)第1260号,民集65巻2号699頁)は,「相続させる」旨の遺言は,受益相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合には,遺言者が代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り,効力を生ずることはないとした。
この場合,その不動産は法定相続又は遺産分割の対象になり,本記事の方法では登記できない。

(3) 受益相続人が登記の前に死亡したとき

受益相続人が遺言者の死亡後,登記をしないまま死亡した場合は,受益相続人の相続人が手続をとることになる。
土地については,令和9年3月31日までに受ける登記であれば,登録免許税の免税措置(租税特別措置法84条の2の2第1項)の対象になり得る(第9の2)。

3 不動産の特定と登記記録

登記事項証明書を取得し,遺言書の不動産の表示と,登記記録の所在,地番,家屋番号等が合っているかを確かめる。
分筆,合筆,建替え又は未登記建物があると,遺言の解釈や表題登記が先に問題になる。
被相続人の登記記録上の住所又は氏名が死亡時のものと違う場合は,同一人であることを示す住民票の除票又は戸籍の附票の写し等が要る。

4 他の相続人が先に登記をしていないか

他の相続人が既に自己名義の登記をしている場合は,単独申請だけでは済まず,抹消登記等を求めることになる。
最高裁平成11年12月16日第一小法廷判決(平成10年(オ)第1499号・第1500号,民集53巻9号1989頁)は,このような場合,遺言執行者は,遺言執行の一環として,その所有権移転登記の抹消登記手続のほか,受益相続人への真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を求めることができるとした。
同判決は,不動産が被相続人名義である限りは遺言執行者の職務は顕在化せず,遺言執行者は登記手続をすべき権利も義務も有しないとも述べているが,これは旧法下の登記実務を前提とした説示であり,令和元年7月1日以後に作成された遺言には民法1014条2項が適用される。

第6 添付情報

1 添付情報の一覧

添付情報具体的な書類注意点
登記原因証明情報遺言書,被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍)全部事項証明書,受益相続人が相続人であることが分かる戸籍全部(個人)事項証明書相続人の戸籍は被相続人の死亡日以後の証明日のもの
住所証明情報受益相続人の住民票の写し(マイナンバーの記載のないもの)住民票コードを申請書に書けば省略できる
代理権限証明情報受益相続人の委任状,又は遺言執行者の権限を示す資料申請のためだけに作った委任状は還付されない
国籍等を証する情報日本国籍なら相続人の戸籍全部(個人)事項証明書で兼ねる令和8年10月5日以後の申請
被相続人の同一性住民票の除票又は戸籍の附票の写し登記記録上の住所・氏名と違う場合
課税価格の資料固定資産課税明細書又は評価証明書申請する年度のもの

住民票コードによる省略は不動産登記令9条と不動産登記規則36条4項による。
法定相続情報一覧図の写しを提出するか,法定相続情報番号を申請書に書けば,戸籍の添付に代えることができ,一覧図に受益相続人の現在の住所が書かれていれば住所証明情報にも代えられると,法務局の記載例は説明している。
一覧図の作り方は法定相続情報一覧図の作成方法―戸籍謄本の読み方と相続人の確認で説明している。

2 出生から死亡までの戸籍は要らない

法定相続や遺産分割による相続登記では,被相続人の出生から死亡までの戸籍が要る。
これに対し,遺言による相続登記では,被相続人の死亡の事実の記載がある戸籍(除籍)と,受益相続人が相続人であることが分かる戸籍で足りる(法務局「相続による所有権の移転の登記の申請に必要な書類とその入手先等」)。
ただし,配偶者又は子以外の者(兄弟姉妹,孫等)が受益相続人であるときは,法定相続人であることを確認できる戸籍も要る。
受益相続人以外の相続人の戸籍や印鑑証明書は要らない。

3 原本の還付

相続関係説明図を提出すれば,戸籍の原本は登記所の調査の後に還付を受けられる。
遺言書の原本の還付を受けるには,原本と相違ない旨を記載した謄本を別に提出する(不動産登記規則55条1項・2項)。
当該申請のためだけに作った委任状は還付の対象にならない(同条1項ただし書)。

第7 申請書の書き方

1 受益相続人の単独申請を弁護士が代理する場合

次の表は,法務局の「所有権移転登記申請書(相続・公正証書遺言)」の記載例(令和8年10月5日以降に申請する場合)を,弁護士が代理人となる場合に置き換えたものである。

欄記載例
登記の目的所有権移転
原因令和8年5月10日相続
相続人(被相続人 甲野太郎)○○市○○町一丁目2番3号 甲野一郎
氏名ふりがな・生年月日こうの いちろう・昭和○年○月○日
国籍等・メールアドレス日本・受益相続人本人だけが使うメールアドレス
添付情報登記原因証明情報 住所証明情報 代理権限証明情報 国籍等を証する情報
登記識別情報通知を希望しない場合だけチェック欄に印を付ける
申請日・登記所令和8年10月○日申請 ○○地方法務局○○支局
代理人事務所の所在地,○○法律事務所,弁護士 乙山二郎(記名押印又は署名),連絡先の電話番号
課税価格・登録免許税金○○○○円・金○○○○円
不動産の表示不動産番号,又は所在・地番・地目・地積(建物は所在・家屋番号・種類・構造・床面積)

(1) 記載の要点

原因の日付は,遺言書の作成日ではなく,被相続人の戸籍上の死亡日とする。
相続人の住所と氏名は住民票の写しのとおりに書き,持分を定める遺言では遺言書の持分と一致させる。
氏名ふりがな,生年月日,国籍等及びメールアドレスは,申請人である相続人について書き,申請人でない相続人については要らない。
不動産番号を書けば,所在・地番等の記載を省略できる。
申請書が複数枚になるときは,代理人が各用紙のつづり目に契印をする。

(2) 代理人の記名押印

申請書には申請人又は代理人が記名押印する(不動産登記令16条1項)。
委任による代理人は署名だけでもよく(不動産登記規則47条1号),代理人の印鑑証明書は要らない(不動産登記令16条2項)。
連絡先の電話番号は,補正の連絡を受けられる事務所の番号にする(不動産登記規則34条1項1号)。

(3) 令和8年10月5日以後の申請で増える欄

不動産登記規則の一部を改正する省令(令和8年法務省令第23号)により,令和8年10月5日から,所有権の登記名義人となる申請人について,氏名ふりがな,住所,生年月日,メールアドレスに加えて「国籍等」を申し出ることになり,これを証する情報も提供する(改正後の不動産登記規則158条の39第1項・第2項)。
法務局の記載例は,日本国籍の相続人については,相続人であることが分かる戸籍全部(個人)事項証明書で足り,重ねて提出する必要はないとしている。

2 遺言執行者が申請する場合

前記通達によれば遺言執行者は法定代理人として申請するので,相続人欄には受益相続人を書き,代理人欄に遺言執行者の資格を付けて遺言執行者の住所・氏名を書く形が考えられる。
遺言執行者が弁護士に委任したときは,代理人欄に弁護士を書き,遺言執行者の権限を示す資料と,遺言執行者から弁護士への委任状を添付することになる。
遺言執行者が記名押印した委任状に印鑑証明書が要るかについては,不動産登記規則49条2項4号と48条1項4号の文言からは要らないと読めるが,この場面を明示した公表資料は見当たらないので,管轄登記所に確かめておく。

第8 委任状の書き方

1 委任事項

法務局の記載例にある委任状の例を基礎にすると,弁護士への委任状には次の事項を書く。

番号委任事項
1下記の登記に関し,登記申請書を作成すること及び当該登記の申請に必要な書面と共に登記申請書を管轄登記所に提出すること
2登記が完了した後に通知される登記識別情報通知書及び登記完了証を受領すること
3登記の申請に不備がある場合に,当該登記の申請を取り下げ,又は補正すること
4登記に係る登録免許税の還付金を受領すること
5原本の還付を請求し,受領すること
6上記1から5までのほか,下記の登記の申請に関し必要な一切の権限

委任状には,受任者として弁護士の事務所の所在地と氏名を書き,委任の日付,委任者である受益相続人の住所・氏名と押印,及び「記」として登記の目的・原因・相続人・不動産の表示を書く。
5は法務局の例にはないが,原本の還付を代理人が受けることを明確にするために加えるものである。
オンライン申請で登記識別情報を代理人が受け取る場合は,登記識別情報の復号に関する権限を委任する旨の条項が要るとされている(法務省「不動産登記の電子申請(オンライン申請)について」)。

2 押印と印鑑証明書

委任状には,受益相続人が記名押印する(不動産登記令18条1項)。
受益相続人は登記識別情報の通知を受ける申請人(不動産登記規則47条3号ホ)に当たるので,署名だけでは足りない(同規則49条1項2号)。
他方で,印鑑証明書は要らず(同規則49条2項4号,48条1項4号),法務局の記載例も「委任者の印は、認印で結構です」としている。

3 登記識別情報を受け取るための特別の委任

登記識別情報の通知を受けるための特別の委任を受けた代理人がある場合には,登記識別情報はその代理人に通知される(不動産登記規則62条2項)。
委任状にこの受領の権限を書かないと,登記識別情報は受益相続人本人に通知される。
登記の申請の代理を業とすることができる代理人が特別の委任を受け,送付の方法で交付を求める場合は,事務所の所在地宛てに書留郵便等で送付を受けることができる(同規則63条5項2号)。
依頼者に渡すまでの間,登記識別情報通知書は目隠しシールをはがさずに保管する。

第9 登録免許税

1 税率と計算

相続による所有権の移転の登記の登録免許税は,不動産の価額の1000分の4である(登録免許税法別表第一第一号(二)イ)。
課税標準は固定資産課税台帳の価格であり,「固定資産税課税標準額」ではない。
課税標準は1000円未満を切り捨て,税額は100円未満を切り捨て,税額が1000円未満のときは1000円とする(法務局「登録免許税の計算」)。

2 免税措置は申請書に書かないと受けられない

次の二つの免税措置は,令和9年3月31日までに受ける登記が対象である。
①相続により土地を取得した個人が,その相続による登記を受ける前に死亡した場合の,その個人を登記名義人とするための登記(租税特別措置法84条の2の2第1項)
②不動産の価額が100万円以下の土地の相続による所有権の移転の登記(同条2項)

どちらも,申請書に免税の根拠となる条項を書かなければ適用を受けられない。
法務局の「相続登記の登録免許税の免税措置について」は,①は「租税特別措置法第84条の2の2第1項により非課税」,②は「租税特別措置法第84条の2の2第2項により非課税」と書くよう案内している。
②は土地ごとに判断され,持分を取得するときは不動産全体の価額に持分の割合を乗じた額で判断される。
建物は②の対象にならない。

第10 申請の方法

1 書面申請

申請書と添付書面を管轄登記所の窓口に出すか,書留郵便等で送る(不動産登記規則53条1項)。
送るときは,封筒の表面に不動産登記申請書が在中する旨を書く(同条2項)。

2 オンライン申請(特例方式)

オンライン申請では,申請用総合ソフトで作った申請情報に,申請人又は代理人が電子署名をして送信する。
法務省の案内では,委任による代理人の電子署名に使える電子証明書として,マイナンバーカードの署名用電子証明書(公的個人認証サービス),電子認証登記所の電子証明書,司法書士法施行規則等で指定された電子証明書等が挙げられており,日本弁護士連合会が発行する電子証明書は挙げられていない。
そのため,弁護士が代理人としてオンライン申請をするときは,弁護士個人のマイナンバーカードを使うことが考えられる。

遺言書や戸籍等が書面であるときは,その書面を登記所に持参又は送付する「特例方式」によることができる(法務省「不動産登記令附則第5条第1項の規定による申請(いわゆる特例方式)について」)。
特例方式では,登記原因証明情報の書面のうち登記原因の内容を明らかにする部分をPDFにして申請情報と一緒に送信し,添付書面は受付の日から2日以内(初日を算入せず,行政機関の休日は翌日に延びる。)に登記所へ届ける。
平日の17時15分以降や休日に送信した申請は,翌業務日の受付になる。

第11 登記が完了した後

①登記完了証と登記識別情報通知を受け取る。
②登記事項証明書を取り,権利部(甲区)に「相続」を原因とする受益相続人名義の所有権移転登記がされていることを確かめる。
③還付を受けた遺言書・戸籍等と,登記識別情報通知を依頼者に渡し,受領書をもらう。
④預貯金や証券の手続が残っているときは,還付を受けた戸籍や法定相続情報一覧図の写しを使い回す。

預貯金と証券の手続は,弁護士が代理人として被相続人の銀行口座の相続手続をする方法と株式・証券口座の相続手続を弁護士が代理する方法-口座調査,必要書類,移管及び売却で説明している。

第12 関連記事

①相続させる遺言と特定財産承継遺言――違い,効力,登記及び遺言執行者の権限
②遺言執行者が指定されている場合の相続人の注意点――処分禁止,通知請求権及び解任手続
③弁護士が代理人として被相続人の銀行口座の相続手続をする方法
④株式・証券口座の相続手続を弁護士が代理する方法-口座調査,必要書類,移管及び売却
⑤法定相続情報一覧図の作成方法―戸籍謄本の読み方と相続人の確認
⑥自筆証書遺言書保管制度―法務局の保管手続と検認不要のメリット
⑦司法書士の業務範囲と司法書士法の変遷
⑧不動産登記の主要判例・調査資料・関連記事一覧

第13 出典

1 法令

①e-Gov法令検索「民法」899条の2,1004条,1013条,1014条,1016条
②e-Gov法令検索「民法」の改正附則(民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成30年法律第72号)附則2条,8条)
③e-Gov法令検索「不動産登記法」23条,63条,76条の2,76条の3,164条及び改正附則(民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)附則5条)
④e-Gov法令検索「不動産登記令」7条,9条,16条,18条
⑤e-Gov法令検索「不動産登記規則」34条,36条,47条から49条まで,53条,55条,62条,63条,158条の39(令和8年法務省令第23号による改正後のものを含む。)
⑥e-Gov法令検索「司法書士法」3条,73条
⑦e-Gov法令検索「弁護士法」3条
⑧e-Gov法令検索「登録免許税法」別表第一
⑨e-Gov法令検索「租税特別措置法」84条の2の2
⑩e-Gov法令検索「法務局における遺言書の保管等に関する法律」9条,11条(いずれも令和8年9月26日確認)

2 裁判例

①最高裁平成3年4月19日第二小法廷判決・平成元年(オ)第174号・民集45巻4号477頁(裁判所ウェブサイト)
②最高裁平成7年1月24日第三小法廷判決・平成3年(オ)第1057号・集民174号67頁(裁判所ウェブサイト)
③最高裁平成11年12月16日第一小法廷判決・平成10年(オ)第1499号,第1500号・民集53巻9号1989頁(裁判所ウェブサイト)
④最高裁平成14年6月10日第二小法廷判決・平成11年(受)第271号・集民206号445頁(裁判所ウェブサイト)
⑤最高裁平成23年2月22日第三小法廷判決・平成21年(受)第1260号・民集65巻2号699頁(裁判所ウェブサイト)
⑥東京高裁平成7年11月29日判決・平成6年(ネ)第2755号・判例秘書の判例番号 L05020375(裁判所HP未掲載。判例秘書で全文を確認した)

3 法務省・法務局の資料

①法務省民事局長通達「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律の施行に伴う不動産登記事務の取扱いについて」(令和元年6月27日付け法務省民二第68号)
②法務局「不動産登記の申請書様式について」(所有権移転登記申請書(相続・公正証書遺言)及び(相続・自筆証書遺言)の記載例(令和8年10月5日以降に申請する場合)を含む。)
③法務局「相続による所有権の移転の登記の申請に必要な書類とその入手先等」
④法務局「登録免許税の計算」
⑤法務局「相続登記の登録免許税の免税措置について」
⑥法務省「資格者代理人による登記識別情報に関する証明の代理請求について」
⑦法務省「不動産登記の電子申請(オンライン申請)について」
⑧法務省「不動産登記令附則第5条第1項の規定による申請(いわゆる特例方式)について」
⑨法務局「登記の申請を代理して行う専門家はいるのですか?」
⑩東京法務局「【相続登記ガイドブック】相続登記の手続について(詳細編) 申請書の書き方編 遺言書(公正証書遺言)による相続」1-1-15頁(PDFの15頁。記載例の解説及び注意事項)

4 その他

①相続登記サポートオフィス(司法書士八木隆事務所)「相続させる旨の遺言による相続登記」(令和8年9月26日閲覧)
②登記研究523号140頁(質疑応答。原典は未確認。①における引用による)
③昭和47年4月17日民事甲第1442号民事局長通達及び昭和47年8月21日民事甲第3565号民事局長回答(いずれも原典は未確認。①における紹介による)