目次第1 この記事の対象1 対象と基準日2 大阪国税局の「相続による納税義務の承継マニュアル」3 関連記事第2 相続人が引き継ぐ国税1 引き継ぐのは三種類の国税と滞納処分費2 誰が引き継ぐか第3 相続人が2人以上いるときの承継税額1 法定相続分・代襲相続分・指定相続分だけで按分する2 遺産分割は承継税額を変えない3 遺言による相続分の指定と遺留分第4 納付責任額1 相続で得た財産が承継税額より多い相続人の責任2 マニュアルの計算例3 他の相続人が納めた場合の納付責任4 相続税の連帯納付義務とは別の制度第5 限定承認・相続放棄・相続人不存在1 限定承認2 相続放棄3 相続人不存在・全員の相続放棄第6 相続財産に対する滞納処分1 単純承認をした相続人の固有財産2 遺産分割前の相続財産3 差押えの後の遺産分割第7 相続人の調査と通知1 国税側の相続人調査2 相続人への通知第8 マニュアルを読むときに注意する点1 令和3年7月以後の改正等2 表記の誤り等第9 相続人の側の実務の手順第10 出典1 法令2 通達3 裁判例4 公的資料第11 今後掘り下げる事項
第1 この記事の対象
1 対象と基準日
本記事は,被相続人が納めていなかった国税(所得税,消費税等)を相続人がどのように引き継ぐかについて,国税通則法5条の仕組み,相続人が2人以上いる場合の承継税額と納付責任額の計算,遺産分割・遺言との関係,限定承認・相続放棄・相続人不存在の場合の扱い及び相続財産への滞納処分を整理するものである。
令和8年10月1日時点で,国税通則法,国税徴収法,民法等の条文,国税庁の法令解釈通達,税務大学校の公表資料及び裁判例を確認して作成した。
2 大阪国税局の「相続による納税義務の承継マニュアル」
本記事の出発点は,大阪国税局徴収部徴収課が令和3年7月に作成した「相続による納税義務の承継マニュアル」である。
本ブログに掲載しているPDFは,表紙・凡例・目次を含めて46枚,本文の印字頁は1頁~42頁である。
第1章(相続の意義と効果),第2章(相続による納税義務の承継),第3章(具体的な相続人調査方法)及び第4章(納税義務の承継手続)から成り,徴収職員が滞納者の死亡を把握した後に相続人を調べ,承継税額と納付責任額を計算し,相続人に通知するまでの手順を説明している。
(1) 開示されていない部分
第3章の相続開始の事実の把握と相続人等の把握の手順(20頁~21頁),相続人等の調査の具体的な流れの一部(27頁~28頁),外国籍の被相続人の相続人調査フロー(18頁),被相続人について納税の猶予等を行っている場合等の取扱い(39頁)及び承継手続の具体的な流れ(42頁)等は黒塗りである。
本記事では,黒塗りの部分の内容を推測しない。
(2) 資料の性質
このマニュアルは国税局内部の事務の手引であり,法令解釈通達そのものではない。
本記事では,マニュアルの記載を国税通則法基本通達(徴収部関係)及び国税徴収法基本通達の現在の本文と照合し,食い違う点や令和3年7月以後の改正で読み替えが要る点を第8で挙げた。
3 関連記事
相続人のあることが明らかでない場合の税金は「相続財産清算人と税金―滞納国税の承継と差押え,清算人の報酬との優劣,準確定申告,固定資産税及び特別縁故者の相続税」で,限定承認をした場合のみなし譲渡所得等は「限定承認と税金――みなし譲渡,準確定申告,相続税及び住民税」で整理している。
被相続人の死亡年分の所得税の申告は「準確定申告-4か月の期限・必要書類・書き方・e-Taxと相続税」で,生前贈与と国税徴収法39条の第二次納税義務は「相続放棄と生前贈与スキームの限界」で扱っている。
第2 相続人が引き継ぐ国税
1 引き継ぐのは三種類の国税と滞納処分費
相続(包括遺贈を含む。)があった場合には,相続人(包括受遺者を含む。)又は民法951条の相続財産法人は,被相続人に課されるべき,又は被相続人が納付し,若しくは徴収されるべき国税(滞納処分費を含む。)を納める義務を承継する(国税通則法5条1項前段)。
相続税と違って財産を取得したことに課される税ではなく,被相続人が負っていた租税債務そのものを引き継ぐ制度である。
国税通則法基本通達(徴収部関係)は,三つの国税を次のように説明している(第5条関係4~6)。
①「課されるべき国税」は,相続開始の時において,被相続人について納付義務は成立しているが,納付すべき税額が確定していない国税である(例えば,死亡した年の所得税で申告がされていないもの)。
②「納付すべき国税」は,相続開始の時において,納付すべき税額が確定している国税である(例えば,申告済みで未納の所得税や,決定・更正を受けた税額)。
③「徴収されるべき国税」は,被相続人が源泉徴収義務者として徴収すべきであった源泉所得税等で,相続開始時までに徴収がされていないものである。
(1) 税務上の地位も引き継ぐ
承継によって,相続人は,被相続人の国税について申告,申請又は不服申立て等をする主体となり,税務署長がする更正・決定,納税の告知,督促,滞納処分及び還付の相手方となる(マニュアル14頁)。
被相続人に対して既にされていた納期限の延長,延納,納税の猶予,換価の猶予,滞納処分の停止,物納の許可,これらの申請及び担保の提供も,相続人はその状態のまま国税を承継する(国税通則法基本通達(徴収部関係)第5条関係7)。
(2) 被相続人が連帯納付義務者・第二次納税義務者であった場合
(続きを読む...)被相続人の未納の国税は相続人がどう引き継ぐか―国税通則法5条の相続分による承継,遺産分割との関係,納付責任額,限定承認・相続放棄及び大阪国税局の承継マニュアル(AI作成)