目次
第1 結論1 四つの確認を終えるまで支払を保留する2 相続放棄できるかという問題とは分ける第2 成年後見人と保佐人では死亡後の権限が異なる1 本人の死亡により代理権は消滅する2 民法873条の2は保佐人に準用されない3 応急処分と事務管理の限界第3 最後の入院費を支払う前に確認すること1 誰の債務であるか2 弁済期が来ていても元保佐人の支払権限は別問題である3 債務超過の可能性があるときは個別弁済を急がない第4 直葬費を支払う前に確認すること1 直葬の契約者を確認する2 大阪高裁平成14年7月3日決定の射程第5 預貯金を支払原資にするときの問題1 手元現金と凍結口座を分ける2 死亡前の引出しを一般的な解決策にしない第6 相続人が相続放棄を検討している場合1 元保佐人が相続放棄の可否を決めるわけではない2 全員放棄後の不動産は市町村へ自動的に移らない第7 元保佐人の確認手順1 支払前の確認表2 記録しておく事項第8 令和8年成年後見制度改正との関係第9 出典・参考資料1 法令及び公的資料2 裁判例3 関連記事
被保佐人が死亡した後に入院費や直葬費の請求が届いても,元保佐人が相続財産から直ちに支払えるとは限らない。
成年後見人の死後事務,相続人の相続放棄への影響及び債務超過の相続財産からの支払は,それぞれ別の問題である。
本記事は,令和8年10月26日現在の現行法を基準として,元保佐人が確認すべき権限,原資,債務の性質及び支払の順序を整理するものである。
第1 結論
1 四つの確認を終えるまで支払を保留する
元保佐人が最初に確認すべき事項は,①本人の死亡時に有していた代理権の範囲,②請求された費用の契約者及び発生時期,③相続財産と相続債務の概算額,④相続人の所在及び相続放棄の予定である。
これらを確認しないまま,預貯金から入院費又は直葬費だけを全額支払うことは避けるべきである。
本人の死亡により,保佐人の代理権は消滅する。
元保佐人には民法873条の2が準用されないため,成年後見人と同じ死後事務の権限があるものとして処理することはできない。
元保佐人が死亡後に行動できる余地は,主として民法876条の5第3項が準用する654条の応急処分及び民法697条以下の事務管理によって検討することになる。
2 相続放棄できるかという問題とは分ける
相続人が相続財産から葬儀費用を支払った場合に法定単純承認となるかという問題と,元保佐人がその支払をする権限を有するかという問題は異なる。
大阪高裁平成14年7月3日決定は前者を扱った裁判例であり,元保佐人の権限や,債務超過時にどの債権者へ支払うべきかを判断した裁判例ではない。
第2 成年後見人と保佐人では死亡後の権限が異なる
1 本人の死亡により代理権は消滅する
民法111条1項1号により,代理権は本人の死亡によって消滅する。
本人の生前に財産管理に関する代理権を付与されていた保佐人であっても,死亡後にその代理権をそのまま行使することはできない。
死亡後に必要となる事務は,生前の代理権の延長ではなく,任務終了後の応急処分又は事務管理等の別の根拠に当てはめる必要がある。
生前の代理行為目録は,元保佐人が担当していた事務の範囲を確認する資料になるが,死亡後の包括的な処分権限を新たに生じさせるものではない。
2 民法873条の2は保佐人に準用されない
民法873条の2は,成年被後見人の死亡後に成年後見人が行う保存行為,弁済期が到来した債務の弁済及び家庭裁判所の許可を要する一定の行為を定める。
しかし,保佐人について任務終了後の規定を準用する民法876条の5第3項は,民法873条を掲げる一方で,873条の2を掲げていない。
したがって,元保佐人は,凍結口座からの払戻しについて民法873条の2第3号の許可を申し立てることができない。
成年被後見人の死亡後の事務は成年被後見人が死亡した後に元後見人ができることで扱っているが,その結論を被保佐人の事案へそのまま移すことはできない。
3 応急処分と事務管理の限界
民法876条の5第3項が準用する654条は,任務終了後に急迫の事情があるとき,相続人等が事務を処理できるまで必要な処分をすることを求める。
これは,放置すると本人の財産又は関係者の利益に差し迫った損害が生じる場面のための規定であり,一般的な遺産処理を元保佐人へ委ねる規定ではない。
民法697条以下の事務管理による場合も,事務の性質に従い,最も本人の利益に適合する方法で管理しなければならず,本人の意思が知れているときはその意思に従う必要がある。
死亡後の事務では,相続人全体の利益,債権者との関係及び相続財産の状態を確認し,元保佐人の便宜だけで支払先を選ばないことが重要である。