第1 本記事の対象
本記事は,新任の地方裁判所長,家庭裁判所長又は高等裁判所事務局長等を対象とする実務協議会で配布された,最高裁判所事務総局民事局・行政局の「民事・行政事件の現状と課題」を,令和4年度から令和7年度まで読み比べたものである。
各資料は,民事・行政分野の法令そのものを解説する資料ではなく,裁判所が当時どのような運用上の課題を認識し,各庁にどのような検討を求めていたかを知るための司法行政資料である。
第2 毎回取り上げられる分野
令和4年度から令和7年度までの資料では,おおむね次の分野が継続して取り上げられている。
①民事訴訟手続のデジタル化
②地方裁判所の民事通常訴訟と審理運営
③簡易裁判所の民事訴訟・民事調停,地裁と簡裁の連携
④倒産事件の事務処理及び管財人等の育成
⑤民事執行事件と執行官をめぐる課題
⑥行政事件及び国家賠償事件
⑦労働関係事件及び労働審判
⑧知的財産権関係事件
資料は,同じ章立てを保ちながら,法改正,システム導入及び事件動向に応じて記述を更新している。このため,夏季と冬季を連続して読むと,制度の検討段階から運用段階への移行が分かる。
第3 民事訴訟手続のデジタル化の推移
1 令和4年度―全国展開と三つの段階
令和4年度夏季資料は,デジタル化を,ウェブ会議等による争点整理,法改正で可能となる運用,訴訟記録の電子化等の三段階に分けて説明している。当時は,ウェブ会議を活用した争点整理を全地裁本庁から支部へ拡大し,民事裁判書類電子提出システムmintsの運用を一部の裁判所で始めた段階であった。
同資料は,デジタル化を既存の手続にIT機器を足すだけのものではなく,民事訴訟の在り方を見直す契機として捉えている。
2 令和5年度―mintsの拡大と運用準備
令和5年度の資料では,mintsの運用対象庁が順次拡大したこと,犯罪被害者等の氏名等の秘匿制度及び双方不出頭の弁論準備手続期日等が既に施行されたことが記載されている。
制度を全国に広げるだけでなく,弁護士を含む利用者が電子提出に習熟し,デジタル化後の審理運営を各庁で具体化することが課題となっている。
3 令和6年度―ウェブ口頭弁論と全庁の事件管理
令和6年度の資料では,令和6年3月にウェブ会議の方法による口頭弁論が始まった後の運用,実施場所,期日指定,接続及び機器配置等のノウハウが課題として挙げられている。
また,裁判所職員向けの事件管理部分であるRoootSが令和7年1月に全庁へ導入されたこと,全面施行に対応するシステムの選択及び改修が検討されていたことが分かる。
4 令和7年度―全面施行直前の準備
令和7年度冬季資料は,改正民事訴訟法等の全面施行日を令和8年5月21日と明記し,mints,RoootS及びTreeeSの開発・改修状況,裁判所内部及び弁護士会との協議を取り上げている。
その後,改正民事訴訟法及び改正民事訴訟規則は令和8年5月21日に施行された。裁判所の改正民訴法等で変わる民事訴訟手続の概要によれば,オンラインの訴え提起,書面提出及び送達,事件記録の電子化が始まり,弁護士等の訴訟代理人にはオンライン手続が義務付けられている。
もっとも,民事執行,倒産,労働審判等の非訟手続は,同日の全面デジタル化の対象ではない。実務協議会資料も,民事訴訟とこれらの手続を分けて記述している。
第4 デジタル化以外の継続課題
1 民事通常訴訟の審理運営
各年度の資料は,争点整理,証拠調べ及び判決を一連の過程として捉え,事案に応じたメリハリのある審理を求めている。事件数だけでなく,社会・経済への影響が大きい事件や複雑な事件への対応も繰り返し取り上げられている。
2 簡易裁判所,倒産及び民事執行
簡易裁判所については,民事訴訟と民事調停の運営,地方裁判所との連携及び役割分担が継続課題である。倒産事件では事務処理の合理化及び管財人等の育成,民事執行では不動産執行,新制度への対応及び執行官をめぐる状況が扱われている。
3 行政・労働・知的財産
行政事件及び国家賠償事件,労働関係事件,知的財産権関係事件は,民事局所管分野と同じ資料に収録されている。労働審判員研修,取扱支部の拡大,適切な解決機関・手続の選択及び知的財産分野の国際交流・情報発信等が,年度を通じて取り上げられている。
第5 資料の読み方
①資料は,配布時点の制度・システム・統計を前提としている。後に施行日又は導入方針が確定・変更されることがある。
②「課題」として記載された事項は,法的義務又は裁判例の規範を直接示すものではない。個別事件で主張の根拠にするときは,法令,最高裁判所規則,通達,裁判例又は現在の公式案内を別に確認する必要がある。
③同じ年度の夏季と冬季で記述が更新されるため,数値又は進捗を引用するときは,資料名と作成時点を明記するのが望ましい。
第6 年度別資料
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