メインコンテンツへスキップ

企業法務・契約

AIエージェントの導入・保守を外注するときの契約―検収,権限設定,更新及び障害対応(AI作成)

目次

第1 デモの成功を検収条件に置き換える第2 調査・設定・開発・運用の範囲を分ける第3 検収する環境と成功条件を固定する第4 承認を減らす設計と権限の拡大を分ける第5 エラーの種類と再開条件を試験する第6 更新と追加開発の費用・担当を決める第7 障害対応と記録の引渡しを具体化する第8 終了時は別の担当者が再開できるかを確かめる第9 発注前に確認したい事項第10 関連記事と資料の位置付け
第1 デモの成功を検収条件に置き換える

AIエージェントの導入を外注するときは,「このデモと同じことができる」「あとはAIに任せられる」という説明を,対象業務,利用環境,許す操作及び合否を確認する方法へ置き換えたい。
文章を生成できたこと,指定した場所へ保存できたこと,外部システムへ送信できたこと及び受信者が受領したことは,それぞれ別の確認事項である。

本記事は,PC上のファイル,ブラウザー又は外部サービスを操作するAIエージェントについて,導入を依頼する企業・士業事務所の側から,契約と検収で確認する事項を整理する。
以下の表は契約交渉と試験計画のための提案であり,法令が一律に定める検収方式,特定製品の動作保証又はそのまま締結できる契約書のひな型ではない。

まず合意したいのは,①何を納めるか,②どの環境で何ができれば合格か,③どこで人の承認へ戻すか,④更新・障害・終了に誰が対応するか,という事項である。
機能の追加要望と,合意済みの機能が動かない問題を分けて記録すると,検収時の話合いもしやすくなる。

第2 調査・設定・開発・運用の範囲を分ける

「AI導入一式」という名称だけで,調査,設定,個別開発及び継続保守の全てを含むと考えない。
発注書,仕様書,見積書及び適用されるサービス規約を対応させ,成果物と継続する作業を分けて確認する。

工程発注前に具体化すること受け取るものの例調査・実証対象業務,利用できる資料,試行条件,実現できない場合の終了条件調査結果,試行記録,制約と見積りの前提設定・連携対象端末・アプリ・アカウント,読み書きできる範囲,承認条件設定差分,構成一覧,権限表,復元手順個別開発入出力,外部サービスとの接続,異常時の処理,変更手続合意したプログラム・設定,試験結果,利用・改修に必要な資料運用・保守監視,問い合わせ,原因調査,修復,更新,利用料の管理対応範囲表,連絡先,作業記録,更新後の確認結果

利用料には,導入支援の対価のほか,モデル,API,クラウド又は連携サービスの費用が生じる構成もある。
契約上の費用負担者,利用量の警告を受ける者,上限到達時の扱い及び超過を認める者を確認する。

IPAの情報システム・モデル取引・契約書(第二版)は,仕様や検収方法等について当事者間で共通理解を深めるための参考資料になる。
AIを利用するという名称だけで工程の性質や責任範囲を決めず,実際に引き受ける作業と結果を契約書類へ対応させることが本記事の提案である。

第3 検収する環境と成功条件を固定する

試験記録には,端末,OS,アプリ・拡張機能・モデル等の版,利用プラン,アカウントの役割,接続先及び設定の版を残す。
提供者の実演環境と発注者の実利用環境が違う場合は,その差を確認してから試験結果を評価する。

確認項目合否を決める前にそろえる条件対象業務入力資料,対象件数,必要な出力,品質基準,対象外の作業利用環境対象端末・OS・アプリの版,アカウント,連携先,適用設定完了の定義作成,保存,送信,公開,受領を分けた確認方法人の作業修正,承認,例外対応に必要な担当者と総所要時間失敗の扱い対象外入力,拒否,通信断,成否不明,停止後に残る処理

成功した例だけでなく,資料不足,対象外の保存先,未承認の送信及び途中の接続断を,秘密情報を含まない資料と隔離した試験先で確認する。
本番の依頼者情報を試験に使ったり,拒否の試験のために実際の送信・削除を行ったりする必要はない。

合意した機能を確認する検収と,担当者の教育,必要な承認及び保守窓口を整えた上での運用開始も区別したい。
未確認の用途を対応済みと表示せず,試験していない範囲と利用上の制限を記録する。

第4 承認を減らす設計と権限の拡大を分ける

低危険度の操作まで毎回確認する仕組みでは,確認の負担が大きくなる。
他方,その負担を減らすために全ファイル,全アプリ又は外部送信まで一括許可する設計にはしない。

Anthropicのauto modeに関する公式解説は,反復する承認と権限確認の省略に伴う危険を扱っている。
MicrosoftのAIエージェントの最小権限に関する公式説明も,目的,対象,ツール及び実効的な権限を確認する考え方の参考になる。
いずれも提供者の技術資料であり,日本の事業者に同じ設定を一律に義務付ける法的基準ではない。

(続きを読む...)AIエージェントの導入・保守を外注するときの契約―検収,権限設定,更新及び障害対応(AI作成)

M&A後に売主経営者が残るとき―取締役・顧問・従業員の違い,任期,権限及び退任条件(AI作成)

目次

第1 残留の目的と期間を先に決める第2 取締役として残る場合1 会社法上の地位を理解する2 退任条件を契約期間と混同しない第3 顧問として残る場合1 助言業務と権限を限定する2 準委任契約の終了を設計する第4 従業員として残る場合1 肩書ではなく実態で整理する2 雇用終了は自由ではない第5 共通して定めるべき事項第6 M&A契約と個別契約を整合させる第7 PMIでは旧経営者の敬意と新体制を両立させる第8 関連記事及び公的資料

中小企業M&Aでは,顧客・従業員・技術の引継ぎのため,売主経営者がクロージング後も一定期間関与することがある。
しかし,「当面残る」とだけ合意すると,権限,報酬,終了時期及び責任が曖昧になり,新経営陣との対立や労働者性をめぐる紛争につながる。
本記事では,取締役,顧問及び従業員の違いと,契約で定めるべき事項を整理する。

第1 残留の目的と期間を先に決める

残留の目的は,顧客紹介,技術承継,許認可要件の維持,従業員の不安軽減又は買主への経営引継ぎ等,案件ごとに異なる。
目的を具体化すれば,必要な地位,権限,執務日数及び期間を選びやすい。

「必要な期間」や「当面」とせず,開始日,終了日,中間評価日及び延長方法を定める。
引継ぎ項目を別紙にし,完了基準を設ける方法も有効である。

第2 取締役として残る場合
1 会社法上の地位を理解する

会社法330条により,会社と役員との関係は委任に関する規定に従う。
取締役は,単なる助言者ではなく,会社法上の権限・義務を負う機関であるため,担当業務が狭くても取締役としての責任が当然に消えるわけではない。

代表権を残すか,業務執行権限をどこまで持たせるか,取締役会・株主総会との関係を明確にする。
対外的に代表者と誤認される肩書や名刺・ウェブサイト表示も見直す必要がある。

2 退任条件を契約期間と混同しない

会社法339条1項により,役員は株主総会の決議によっていつでも解任できる。
同条2項は,正当な理由がなく任期満了前に解任された役員の損害賠償請求を定めるため,M&A契約上の在任合意があっても,会社法上の解任可能性と損害処理を分けて考える必要がある。

在任期間,辞任事由,解任時の報酬・補償,競業避止の開始時期及び引継ぎ未了時の扱いを定める。
辞任届をクロージング時に預ける方法を採る場合は,使用条件と本人の意思を明確にし,無限定に利用できる状態にしない。

第3 顧問として残る場合
1 助言業務と権限を限定する

顧問には会社法上の機関としての権限がないため,契約で業務内容を定める。
顧客紹介,月例会議,技術相談,従業員説明等の具体的業務,稼働日数,報告先,会社を代理する権限の不存在及び秘密保持を記載する。

顧問が従業員へ直接指示し続けると,新しい指揮命令系統が機能しない。
助言はPMI責任者を通じて行うなど,意思決定権者を一本化する。

2 準委任契約の終了を設計する

顧問契約は,業務内容によって委任又は準委任として扱われることが多く,民法651条は各当事者がいつでも委任を解除できることを原則とする。
一定期間の関与を期待する場合でも,解除を全面的に禁止するだけでなく,予告期間,解除事由,報酬精算,引継ぎ及び損害の扱いを具体化する必要がある。

株式又は事業の譲渡対価を,実態のない高額な顧問報酬として後払いする設計は避ける。

(続きを読む...)M&A後に売主経営者が残るとき―取締役・顧問・従業員の違い,任期,権限及び退任条件(AI作成)

事業譲渡で許認可・取引契約は引き継げるか―再取得,承諾,通知及びクロージング条件(AI作成)

目次

第1 許認可と契約を分けて調べる第2 許認可の承継可否を個別に確認する1 新規取得・承継承認・届出を区別する2 許認可取得前の営業を前提にしない第3 取引契約は承諾条項を確認する1 契約上の地位の移転には承諾が必要である2 譲渡禁止・解除・通知条項を読む第4 優先順位を付けて承諾を取得する第5 前提条件と未取得時の処理を定める1 重要なものだけを停止条件にする2 代替措置と価格調整を用意する第6 独占禁止法上の届出も確認する第7 クロージングチェックリストへ落とし込む第8 関連記事及び公的資料

事業譲渡では,事業に必要な許認可や取引契約が当然に買主へ移るとは限らない。
資産の引渡しが完了しても,営業許可がなく,仕入先・販売先・賃貸人・システム会社との契約を利用できなければ,事業を開始できない。
本記事では,許認可と取引契約の承継をクロージングまでに管理する方法を整理する。

第1 許認可と契約を分けて調べる

許認可は法令と所管官庁の手続に従い,契約は契約条項と相手方の意思に従う。
両者を一つの「必要な承認」として扱うと,申請期限,審査期間,必要書類及び未取得時の効果が曖昧になる。

最初に,許認可一覧と契約一覧を別々に作り,事業継続に不可欠なもの,代替可能なもの及び譲渡後に対応できるものに分類する。

第2 許認可の承継可否を個別に確認する
1 新規取得・承継承認・届出を区別する

許認可には,事業譲渡によって買主が新規取得しなければならないもの,承継承認を受けられるもの,変更届等で足りるものがある。
申請主体,申請可能時期,標準処理期間,欠格要件,人的要件,施設要件及び営業開始可能日を所管官庁の公表資料と事前相談で確認する。

契約書には「法令上必要な許認可」と抽象的に書くだけでなく,許認可名と担当当事者を別紙に記載する。

2 許認可取得前の営業を前提にしない

買主が許認可を得る前に売主名義で営業を続ける方法は,法令違反,名義貸し及び事故時の責任問題を生じさせるおそれがある。
暫定運営が法令上可能かを確認できない場合,許認可取得をクロージング又は事業開始の前提条件とする。

許認可取得に時間がかかるときは,契約締結日とクロージング日を分け,申請協力,追加資料,延期可能期間及び最終期限を定める。

第3 取引契約は承諾条項を確認する
1 契約上の地位の移転には承諾が必要である

契約上の地位の移転には,原則として相手方の承諾が必要である(民法539条の2)。
承諾書を取得するのか,買主が新契約を締結するのか,売主が契約を終了するのかを契約ごとに決める。

基本契約だけでなく,個別注文,保守契約,リース,賃貸借,ライセンス,代理店契約,フランチャイズ契約,クラウドサービス及び決済契約も確認する。

2 譲渡禁止・解除・通知条項を読む

契約書には,地位・権利義務の譲渡禁止,事業譲渡時の解除権,事前承諾,事前通知又は秘密情報の返還等が定められていることがある。
契約書が見つからない場合は,注文書,利用規約,更新通知及び実際の請求関係から契約内容を確認し,相手方との確認書や新契約で補う。

株式譲渡のCOC条項と,事業譲渡における契約上の地位の移転は別の問題である。
株主が変わるだけで契約当事者が変わらない株式譲渡と異なり,事業譲渡では契約当事者を変更するための承諾が問題となる。

第4 優先順位を付けて承諾を取得する

すべての契約を同じ重要度で扱う必要はない。
売上・仕入れへの寄与,代替先の有無,解約時の影響,データ移行期間及び顧客離反の可能性から,重要契約を選定する。

(続きを読む...)事業譲渡で許認可・取引契約は引き継げるか―再取得,承諾,通知及びクロージング条件(AI作成)

事業譲渡で従業員の同意は必要か―説明時期,転籍条件,不同意者及び労働組合への対応(AI作成)

目次

第1 個別同意が必要である第2 説明と協議の順序を設計する1 誰がいつ説明するかを決める2 労働組合等との協議を確認する第3 転籍条件を具体化する1 不利益変更を見える形にする2 承継対象者を公平に選定する第4 不同意者への対応を先に決める第5 事業譲渡契約書で分担を定める第6 個人情報の共有を管理する第7 クロージング後の定着を支援する第8 関連記事及び公的資料

事業譲渡では,従業員の労働契約が当然に買主へ移るわけではない。
個々の従業員の同意を得て雇用主を変更する必要があり,説明の内容や時期が不十分であれば,キーパーソンの離職や労使紛争によって事業継続が難しくなる。
本記事では,中小企業の事業譲渡における従業員承継の実務を整理する。

第1 個別同意が必要である

民法625条1項は,使用者が労働者の承諾を得なければ,その権利を第三者に譲り渡すことができないと定める。
事業譲渡でも,売主と買主の合意だけで労働契約を移転することはできず,承継対象となる従業員ごとの同意が必要である。

同意書には,転籍日,買主,勤務地,職務,賃金,労働時間,休日,勤続年数の取扱い,退職金,年次有給休暇及び社会保険等を記載する。
単に「転籍に同意する」とだけ記載すると,どの条件への同意かが不明確になりやすい。

第2 説明と協議の順序を設計する
1 誰がいつ説明するかを決める

公表前の秘密保持と,従業員が十分に検討するための時間を両立させる必要がある。
売主と買主は,説明対象,説明者,説明日,個別面談,質問窓口及び回答期限を事前に決めるべきである。

重要な事実を伏せたまま署名を求めたり,回答を不当に急がせたりする方法は避ける。
特に賃金・勤務地・職務が変わる場合は,変更前後を対比して説明する必要がある。

2 労働組合等との協議を確認する

労働組合がある場合は,労働協約及び団体交渉の必要性を確認する。
厚生労働省の事業譲渡等指針(令和8年1月20日改正)は,譲渡会社等に対し,過半数労働組合があるときはその組合,ないときは過半数代表者との協議その他これに準ずる方法により,関係労働者の理解と協力を得るよう努めることを求めている。
これは行政指針上の努力事項であり,個々の従業員から転籍について同意を得る手続に代わるものではない。
契約締結日,譲渡日,労働組合等との協議及び従業員説明の日程は,この指針と案件の事情を踏まえて逆算する必要がある。

第3 転籍条件を具体化する
1 不利益変更を見える形にする

買主の雇用条件が売主より不利になる場合,同意取得の難易度は高くなる。
基本給だけでなく,賞与,手当,固定残業代,退職金,企業年金,福利厚生,試用期間,定年及び転勤範囲を比較する。

勤続年数を通算するのか,売主で退職金を精算するのか,買主が過去勤務分を引き受けるのかは,従業員説明と売主・買主間の負担条項を一致させる。

2 承継対象者を公平に選定する

承継対象者の選定が恣意的であると,差別的取扱いや解雇紛争につながり得る。
対象事業への所属,担当業務,必要資格及び本人の希望など,合理的な基準を明確にする。

有期契約,休職者,育児・介護休業者,派遣労働者,兼務者及び業務委託者は,契約関係が異なるため個別に整理する。

第4 不同意者への対応を先に決める

(続きを読む...)事業譲渡で従業員の同意は必要か―説明時期,転籍条件,不同意者及び労働組合への対応(AI作成)

事業譲渡契約書のチェックポイント―売主・買主別に見る譲渡対象,代金,前提条件,表明保証及び補償(AI作成)

目次

第1 最初に取引の輪郭を固定する1 譲渡対象を「一切」だけで済ませない2 契約上の地位は相手方の承諾を前提にする3 許認可は承継の可否を個別に確認する第2 代金と精算方法を具体化する1 固定価格か価格調整かを選ぶ2 支払と引渡しを同時履行にする第3 締結からクロージングまでを管理する1 通常運営義務と禁止事項を限定する2 前提条件は当事者ごとに分ける3 クロージング書類を一覧にする第4 表明保証と開示を対応させる1 事業譲渡に必要な分野を選ぶ2 開示資料と例外を紐付ける第5 補償・解除・競業避止を調整する1 補償の対象,期間及び上限を決める2 クロージング後の解除を安易に予定しない3 競業避止は範囲を具体化する第6 売主と買主で最終確認する事項第7 関連記事及び公的資料

事業譲渡では,会社そのものではなく,合意した資産,負債,契約その他の事業要素を個別に移転する。
そのため,契約書の題名が「事業譲渡契約書」であっても,何が移り,何が残り,第三者の同意が得られない場合にどうするかまで定めなければ,事業を予定どおり開始できない。
本記事では,中小企業の事業譲渡契約書を確認するときの主要な論点を,売主と買主の双方の立場から整理する。

第1 最初に取引の輪郭を固定する
1 譲渡対象を「一切」だけで済ませない

譲渡対象は,不動産,機械設備,棚卸資産,売掛金,知的財産,契約上の地位,顧客情報,帳簿及びノウハウ等に分け,別紙で特定するのが基本である。
対象外とする現預金,租税債務,訴訟,過去の労務債務及び関連当事者との債権債務も,残存範囲を明示した方がよい。

資産名だけでなく,基準日,数量,所在,簿価,登記・登録番号及び契約相手方を記載すると,クロージング時の照合がしやすい。
売主は意図しない資産・債務の流出を防ぎ,買主は事業継続に不可欠な資産の漏れを防ぐという,双方の利益が一致する部分である。

2 契約上の地位は相手方の承諾を前提にする

契約上の地位の移転には,原則として契約相手方の承諾が必要である(民法539条の2)。
対象契約の一覧,承諾取得の担当者,期限,費用及び承諾が得られない場合の代替措置を定める必要がある。

重要契約の承諾をクロージングの前提条件とするか,承諾未取得契約を譲渡対象から外して代金を調整するかは,事業への重要性に応じて決める。
売主に結果保証を負わせる場合は,第三者の判断まで支配できないことを踏まえ,対象契約と努力義務の範囲を限定するのが相当である。

3 許認可は承継の可否を個別に確認する

許認可は,法令ごとに承継の可否,事前承認,届出及び人的・物的要件が異なる。
「必要な許認可をすべて取得する」とだけ書かず,許認可名,名義人,所管官庁,申請時期,取得見込み日及び取得までの暫定運営の可否を一覧化する必要がある。

第2 代金と精算方法を具体化する
1 固定価格か価格調整かを選ぶ

譲渡代金は,営業権,固定資産,棚卸資産及び承継債務等の内訳を確認する。
消費税,登録免許税,不動産取得税その他の税務・登記費用について,誰が負担するかも明記する。

基準日からクロージングまで資産・負債が変動する場合は,棚卸数量,売掛金,買掛金又は運転資本に応じた価格調整を設けることがある。
会計方針,資料提出期限,異議期間,専門家による紛争解決及び最終精算日まで定めなければ,計算式だけでは争いを防げない。

2 支払と引渡しを同時履行にする

買主による代金支払と,売主による資産引渡し,登記書類交付,契約承諾書交付及びデータ移管は,同一日に相互確認して行うのが基本である。
後払い又は分割払いを採用する場合,売主は担保,保証,期限の利益喪失及び相殺範囲を確認する必要がある。

第3 締結からクロージングまでを管理する
1 通常運営義務と禁止事項を限定する

契約締結後に売主の経営判断を全面的に拘束すると,通常の営業活動が止まるおそれがある。

(続きを読む...)事業譲渡契約書のチェックポイント―売主・買主別に見る譲渡対象,代金,前提条件,表明保証及び補償(AI作成)

契約書の危険負担条項―引渡し前後の滅失・損傷と民法536条・567条(AI作成)

目次

第1 危険負担とは何を決める問題か1 当事者の責任によらず履行できなくなった場面を扱う2 所有権の移転時期と同じとは限らない第2 民法536条の基本構造1 双方に責任がない履行不能では反対給付を拒める2 債権者側の事情が原因なら扱いが変わる第3 売買目的物の引渡し後は民法567条を確認する1 引渡し後の滅失・損傷では買主が代金支払を拒めない場合がある2 「引渡し」の内容を契約で明確にする第4 危険負担条項で定める事項1 対象となる事故と責任原因を分ける2 危険が移る基準時を客観的に定める3 費用と契約上の効果を具体化する第5 条項例を使うときの注意点1 当事者の表示と負担の方向を一文ずつ読む2 民法と異なる合意かどうかを明示する第6 不可抗力・債務不履行・解除との関係1 不可抗力条項だけで危険負担は完成しない2 売買以外の契約へそのまま転用しない第7 審査時の確認表第8 結論第9 出典・参考資料

売買の目的物が,当事者の責任ではない火災,水害,盗難その他の事故で滅失又は損傷したとき,代金を支払う必要があるかが問題になります。
契約書の危険負担条項を審査するときは,「どちらが危険を負担するか」という結論だけでなく,対象となる事故,危険が移る時点,代金請求,追完,解除及び保険との関係を分けて確認する必要があります。
本稿では,民法536条と567条の位置付けを確認し,契約条項を作る際の確認事項を整理します。

第1 危険負担とは何を決める問題か
1 当事者の責任によらず履行できなくなった場面を扱う

危険負担は,双務契約において,一方の債務が債務者の責任ではない事情により履行できなくなった場合に,反対給付をどう扱うかという問題です。
売買であれば,売主に責任のない事故で目的物を引き渡せなくなったとき,買主が代金支払を拒めるかが典型です。誰かの契約違反が原因である場合は,危険負担だけでなく,債務不履行,損害賠償,解除又は契約不適合責任を検討します。

2 所有権の移転時期と同じとは限らない

所有権がいつ移るか,物を誰が占有・管理しているか,危険を誰が負担するかは,それぞれ別の問題です。
契約書で「所有権は代金完済時に移転する」と定めても,危険負担まで当然に同じ時点になるとは限りません。引渡し,検収,代金完済,所有権移転及び保険開始の時点を別々に確認します。

第2 民法536条の基本構造
1 双方に責任がない履行不能では反対給付を拒める

民法536条1項は,当事者双方の責任によらない事由により債務を履行できなくなったとき,債権者は反対給付の履行を拒むことができると定めています。
例えば,特定の目的物を引き渡す債務が双方の責任によらず履行不能となった場合,反対給付である代金の支払を拒めるかを検討します。現行民法536条1項は,代金債務を当然に消滅させるのではなく,その履行を拒むことができると定めています。契約関係を解消するには,解除の要件を別に検討します。実際の結論は,契約類型,目的物の特定,引渡しの有無及び特約によって異なります。

2 債権者側の事情が原因なら扱いが変わる

民法536条2項は,債権者の責任による事由で履行できなくなった場合,債権者は反対給付を拒めないと定めています。他方,債務者が自己の債務を免れたことによって利益を得たときは,その利益を債権者へ償還しなければなりません。
契約書では,原因を単に「不可抗力」と表示するだけでなく,受領遅滞,保管指示,搬入場所の不備など,相手方側の事情をどう扱うかも確認します。

第3 売買目的物の引渡し後は民法567条を確認する
1 引渡し後の滅失・損傷では買主が代金支払を拒めない場合がある

民法567条1項は,売買の目的として特定した物について,売主が買主に引き渡した後,双方の責任によらない事由でその物が滅失又は損傷した場合,買主はその滅失又は損傷を理由として履行の追完,代金減額,損害賠償又は解除をすることができず,代金支払を拒むこともできないと定めています。
同条2項は,契約内容に適合する目的物について売主が履行の提供をしたにもかかわらず,買主が受領を拒み,又は受領することができない場合に,その後双方の責任によらず目的物が滅失又は損傷した場面を定めています。

2 「引渡し」の内容を契約で明確にする

目的物を運送人へ渡した時,買主の指定場所へ到着した時,荷下ろしが終わった時,受領書へ署名した時又は検収が完了した時のどこを引渡しと扱うかは,取引によって異なります。
契約書では,引渡場所と方法を定めた上で,危険が移る時点をそれと同じにするか,別の時点にするかを明記します。貿易条件,運送契約及び保険契約がある場合は,それらとの整合性も確認します。

第4 危険負担条項で定める事項
1 対象となる事故と責任原因を分ける

火災,地震,風水害,盗難,運送中の事故,停電又はサイバー攻撃を列挙しても,それだけで責任関係が決まるわけではありません。保管義務又は安全管理義務の違反があれば,双方の責任によらない事故とはいえない場合があります。
「不可抗力」の定義,通知義務,被害拡大防止,代替履行及び証拠保存を合わせて定めます。不可抗力,責めに帰すべき事由及び履行不能は同じ概念ではないため,条項ごとに要件と効果を確認します。

2 危険が移る基準時を客観的に定める

(続きを読む...)契約書の危険負担条項―引渡し前後の滅失・損傷と民法536条・567条(AI作成)

契約書の甲乙とは―どちらが上か,順番の決まり及び売主・買主など役割名の使い分け(AI作成)

目次

第1 甲乙は当事者を区別するための記号である1 甲が上で乙が下という法的な決まりはない2 甲乙を使わなくても契約は成立し得る第2 どちらを甲又は乙にするか1 一般的な順番はあっても絶対のルールではない2 同じ種類の契約では表示方法をそろえる第3 甲乙と役割名の使い分け1 役割名は条項の意味を理解しやすい2 一つの契約で表示方法を混在させない第4 甲乙の取り違えを防ぐ方法1 権利義務の方向を動詞で確認する2 一括置換後は原本と突き合わせる3 曖昧な条項は甲乙を直すだけでは解決しない第5 複数当事者及び保証人がいる契約1 丙・丁を増やす前に役割を分ける2 保証人は主契約と保証契約を分けて考える第6 契約書作成・審査時の確認表第7 結論第8 出典・参考資料

契約書では,当事者を「甲」「乙」と表示する例が多くあります。しかし,甲が法律上上位である,乙が不利な立場である,又は自社を必ず甲にしなければならないという決まりはありません。
重要なのは記号の順番ではなく,誰がどの権利を持ち,どの義務を負うかを契約書全体で一貫して読めることです。
本稿では,甲乙の意味,順番の考え方,売主・買主などの役割名との使い分け,複数当事者や保証人がいる場合の注意点及び取り違えを防ぐ確認方法を整理します。

第1 甲乙は当事者を区別するための記号である
1 甲が上で乙が下という法的な決まりはない

甲,乙,丙,丁は,契約書の当事者を繰り返し表示するための記号です。一般的な契約書の当事者表示について,甲乙の順番に法的な優劣を与える民法上の定めはありません。
したがって,甲であること自体から,契約上の権利が多い,交渉上の立場が強い,裁判で有利になる,又は契約書を作成した側であるという効果は生じません。実際の権利義務は,各条項の内容から判断します。

2 甲乙を使わなくても契約は成立し得る

民法522条2項は,法令に特別の定めがある場合を除き,契約の成立に書面その他の方式を必要としないと定めています。甲乙の表示は契約成立の要件ではありません。
もっとも,契約書を作る以上,当事者を正確に特定し,後から誰の権利義務かを確認できるようにする必要があります。個人であれば氏名・住所,法人であれば商号・本店・代表者等を確認し,本文中の略称と署名欄を対応させます。

口頭やメールによる合意と契約書の関係は,口頭の合意と契約書-書類を取り交わすまで契約成立を留保できるかで整理しています。

第2 どちらを甲又は乙にするか
1 一般的な順番はあっても絶対のルールではない

契約書を提示する側,自社,売主,貸主又は委託者を甲とする書式は見られます。しかし,これは書式や取引慣行による選択であり,すべての契約に共通する法的ルールではありません。
相手方のひな形を使えば自社が乙になることもあります。甲乙の順番だけを直すために契約書全体を置換すると,条項の一部や別紙だけが入れ替わる事故も起こり得ます。順番より,本文・別紙・署名欄の対応を優先すべきです。

2 同じ種類の契約では表示方法をそろえる

社内で繰り返し使う契約書では,例えば「当社=甲,相手方=乙」又は「発注者=甲,受注者=乙」という基準を決めておくと,審査や契約管理がしやすくなります。
ただし,基準を決めても,取引ごとの役割が逆になる場合があります。前回の契約書を流用するときは,会社名だけでなく,当事者表示,定義,通知先,振込先,署名欄及び別紙を確認します。

第3 甲乙と役割名の使い分け
1 役割名は条項の意味を理解しやすい

文化庁の契約書作成支援資料には,「発注者」「受注者」などの役割名を用いる例があります。文化庁委託事業の「劇場・音楽堂等 契約実務ガイドブック」は,甲乙丙等の略称が多く用いられるとしつつ,無理に用いず「劇作家」「劇団」等のイメージしやすい略称を用いてもよいと説明しています。
売主・買主,貸主・借主,委託者・受託者,開示者・受領者のような役割名は,その条項で誰が何をするかを理解しやすくします。

表示方法長所注意点甲・乙短く,複雑な契約でも表記を統一しやすい役割が直感的でなく,取り違えに気付きにくい売主・買主等権利義務の方向を理解しやすい一方が複数の役割を持つ契約では呼称が長くなる会社名の略称当事者を直接識別できる組織再編や契約承継の場面も含め,定義を正確に保つ必要がある
2 一つの契約で表示方法を混在させない

冒頭で甲乙と定義した後に,説明なく「売主」「委託者」「当社」へ切り替えると,同じ当事者を指すのか,新たな役割を示すのかが不明確になります。
役割名を併用する場合は,「売主である甲」のように対応を明示し,その後の用語を統一します。基本契約と個別契約,本文と仕様書,契約書と利用規約の間でも同じ対応を確認します。

第4 甲乙の取り違えを防ぐ方法
1 権利義務の方向を動詞で確認する

全文検索で「甲」「乙」の出現箇所を見るだけでは足りません。各条項について,誰が,誰に対し,何を,いつまでにするかを一文で言い換えます。

(続きを読む...)契約書の甲乙とは―どちらが上か,順番の決まり及び売主・買主など役割名の使い分け(AI作成)

訴え提起前の和解とは―費用・期間・公正証書・民事調停との違い(AI作成)

目次

第1 訴え提起前の和解は合意を和解調書にする手続第2 申立てから成立までの流れ1 合意内容を固める2 申立書と添付書類を提出する3 和解期日に出頭する4 合意に至らなかった場合第3 成立した和解調書の効力第4 期間と費用を確認するときの注意第5 私的な合意書・公正証書・民事調停との違い1 私的な合意書2 強制執行認諾文言付き公正証書3 民事調停4 通常訴訟第6 利用に適する場合と適しない場合第7 建物明渡しなど非金銭給付での使い方第8 申立て前のチェックリスト第9 根拠資料と関連記事
第1 訴え提起前の和解は合意を和解調書にする手続

訴え提起前の和解は、民事上の争いについて、訴訟を起こす前に簡易裁判所へ申立てをし、裁判所で合意を和解調書に記録する手続です。実務上「即決和解」と呼ばれることがあります。

当事者間で既に合意の見通しがあり、支払、明渡し又は物の引渡しなどを強制執行できる形にしたい場合に利用されます。相手方が内容自体を強く争っている事件を、裁判所が短期間で判決のように決める手続ではありません。

根拠は民事訴訟法275条です。申立先は、原則として相手方の普通裁判籍所在地を管轄する簡易裁判所です。管轄、必要書類及び申立方法は、申立先の簡易裁判所に事前確認する必要があります。

第2 申立てから成立までの流れ
1 合意内容を固める

申立て前に、争いの内容、確認する権利義務、給付の内容、期限、不履行時の効果、請求放棄及び清算条項を整理します。合意文案が未完成で主要条件も決まっていない場合は、民事調停や通常訴訟の方が適することがあります。

2 申立書と添付書類を提出する

申立書には、請求の趣旨及び原因に相当する事項と、予定する和解条項を記載します。資格証明書、不動産登記事項証明書、固定資産評価証明書その他の書類が必要になることがあります。

必要書類は事件類型と裁判所によって異なります。古い案内に記載された手数料、郵便料又は書式をそのまま使わず、申立時点の裁判所案内を確認します。

3 和解期日に出頭する

裁判所は、当事者双方の合意内容を確認し、相当と認めたときに和解を成立させます。代理人が出頭する場合は、和解権限を含む委任の範囲を確認します。法人では代表資格、社内決裁及び押印書類も準備します。

4 合意に至らなかった場合

和解が成立しなかったからといって、裁判所が直ちに本案の判決をするわけではありません。ただし、和解期日に当事者双方が申立てをした場合、裁判所は直ちに訴訟の弁論を命じることができ、その場合は和解申立時に訴えが提起されたものとみなされます(民事訴訟法275条2項)。

第3 成立した和解調書の効力

和解が調書に記録されると、確定判決と同一の効力を有します(民事訴訟法267条)。金銭支払や建物明渡しなど、内容が特定された給付条項は、強制執行の基礎となり得ます。

この効力があるため、和解条項は単なる覚書より厳密に作る必要があります。対象物、金額、支払期限、明渡期限、条件及び当事者を曖昧にすると、成立後の執行や解釈で問題になります。

また、和解調書には紛争を終わらせる効力があります。清算条項を広く書くと、当事者が意識していなかった別の請求まで対象かどうかが争われることがあります。

第4 期間と費用を確認するときの注意

東京簡易裁判所の案内は、申立てから和解期日までの期間を平均1か月半から2か月程度と説明しています。これは東京簡易裁判所の案内上の目安であり、全国一律の処理期間又は個別事件の期限を保証するものではありません。

申立手数料、郵便料及び納付方法は改定されることがあります。裁判所ウェブサイトも、令和8年5月21日以降の申立手数料等の変更を案内しています。過去の事件類型別PDFに記載された金額を現在の金額として引用せず、裁判手続の申立て等に係る手数料と申立先裁判所で確認してください。

弁護士費用、登記事項証明書等の取得費用、当事者の出頭費用及び和解条項の履行費用は、裁判所へ納める費用とは別です。

第5 私的な合意書・公正証書・民事調停との違い
1 私的な合意書

当事者だけで作る合意書は、柔軟かつ迅速に作成できます。しかし、相手方が履行しないときは、合意書だけでは直ちに強制執行できず、原則として訴訟等で債務名義を得る必要があります。

2 強制執行認諾文言付き公正証書

一定の金銭支払等について、債務者が直ちに強制執行に服する旨を記載した公正証書は、債務名義となります。建物明渡しなど金銭以外の給付をそのまま強制執行する点では、訴え提起前の和解と同じではありません。

3 民事調停

民事調停は、裁判官と調停委員会が当事者の話を聞き、解決を調整する手続です。まだ合意内容が固まっていない場合にも利用できます。調停が成立して電子調書に記録されると、その記録は裁判上の和解と同一の効力を有します(民事調停法16条)。

(続きを読む...)訴え提起前の和解とは―費用・期間・公正証書・民事調停との違い(AI作成)

従業員が取引先の物を盗んだ場合の会社の責任―民法715条の使用者責任,被害弁償,示談及び従業員への求償(AI作成)

目次

第1 先に被害者と請求権者を特定する1 会社の物か従業員個人の物かを分ける2 被害会社が従業員へ先に補償した場合第2 盗んだ従業員本人の損害賠償責任第3 雇用会社が使用者責任を負う条件1 民法715条の基本構造2 故意の窃盗だから当然に対象外とは限らない3 具体的に確認する事実第4 支払会社が支払う法律関係を区別する1 雇用会社自身の使用者責任に基づく支払2 従業員の債務を支払会社が第三者として支払う場合3 「支払会社が弁償する」という一文で終わらせない第5 被害額と既回収分を整理する第6 示談書・合意書に入れる条項1 当事者,事件及び支払根拠2 金額,期限及び支払方法3 清算条項は支払完了と連動させる4 刑事手続に関する約束は民事上の支払と分ける第7 雇用会社と従業員の内部負担1 雇用会社が支払っても内部負担は自動的に確定しない2 故意の窃盗では故意性を独立して評価する3 給与から当然に控除できるわけではない第8 実務上の確認事項第9 主な出典
第1 先に被害者と請求権者を特定する
1 会社の物か従業員個人の物かを分ける

従業員が取引先の事業所で金銭や物を持ち去った場合,最初に確認すべきことは,被害品の所有者,刑事上の占有者,管理者及び最終的に損失を負担する者である。
取引先会社の在庫,資材,現金その他の財産が被害品であれば,通常は取引先会社が直接の財産的被害者となる。
これに対し,ロッカー内の現金や私物など,取引先の従業員個人が所有する物が被害品であれば,直接の財産的被害者は原則としてその従業員であり,勤務先会社が当然に損害賠償請求権者になるわけではない。

所有者でない受寄者又は管理者が契約上損失を負担する場合もあり,刑事手続上の被害者,民事上の損害賠償請求権者及び示談金の受領権者は,所有名義だけで決められない。
本記事では,財物を持ち去られた側の会社を「被害会社」,不正をした従業員を雇用する会社を「雇用会社」,実際に金銭を支払う会社を「支払会社」と表記する。

刑事事件で被害届を出した者,検察庁から通知を受けた者,民事上の損害賠償請求権者及び示談金の受領権者が常に一致するとは限らない。
被害会社が従業員に代わって連絡窓口となる場合には,代理権や受領権限の範囲を確認し,示談書上の当事者及び振込先と対応させる必要がある。

2 被害会社が従業員へ先に補償した場合

被害従業員の勤務先である被害会社が見舞金又は補償金を支払っても,その一事だけで,従業員が有する損害賠償請求権の全部が当然に被害会社へ移転するとは限らない。
債権譲渡,代位,立替払又は被害会社独自の給付のいずれであるか,誰がどの範囲の請求権を行使し,誰が示談金を受領するのかを,支払時の合意と法的根拠に即して整理する必要がある。
被害従業員と被害会社の双方に支払う場合には,同じ損害について二重に支払うことがないよう,それぞれの請求の対象を分ける。

第2 盗んだ従業員本人の損害賠償責任

他人の物を故意に持ち去って損害を与えた従業員は,原則として民法709条の不法行為責任を負う。
損害には,返還されていない現金又は物の価額だけでなく,事案に応じ,回収又は代替調達のために通常かつ相当な範囲で必要となった費用が含まれることがある。
調査費用,社内人件費その他の対応費用は当然に全額が損害となるものではなく,費目ごとに行為との相当因果関係,外部支出の必要性,相当性及び金額を確認する必要がある。
社内対応に要した時間や信用低下を抽象的に加算できるわけではない。

被害品が返還された場合には,返還時の状態,使用可能性及び価値の低下を確認する。
転売代金を回収した場合,犯人又は第三者から一部弁済を受けた場合,保険金が支払われた場合も,誰にいくらの未填補損害が残っているかを整理する。
損害保険金については,保険法25条による請求権代位が生じることがあるため,保険の種類,保険者へ移転した請求権の範囲及び被保険者に残る請求権を確認する。

第3 雇用会社が使用者責任を負う条件
1 民法715条の基本構造

民法715条1項は,ある事業のために他人を使用する者について,被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を定めている。
使用者が被用者の選任及び事業の監督について相当の注意をしたとき,又は相当の注意をしても損害が生じたときには免責される旨のただし書があるが,具体的な主張立証が必要となる。

雇用会社が責任を負うかは,従業員を雇用していたという事実だけでは決まらない。
問題となる行為が,外形上,従業員の職務の範囲内に属するものと見られるかを,職務内容,権限,行為の場所・時間,取引先への立入りや対象物への接触が認められた理由などから検討する。

雇用会社の責任は,民法715条だけで決まるとも限らない。
被害会社との契約上の保管・警備・管理義務に違反した場合の民法415条の責任,雇用会社自身の監督上の過失を理由とする民法709条の責任又は契約上の補償条項が問題となることもある。

(続きを読む...)従業員が取引先の物を盗んだ場合の会社の責任―民法715条の使用者責任,被害弁償,示談及び従業員への求償(AI作成)

金型保管料の覚書の作り方―過去分の精算と将来の保管条件(AI作成)

目次

第1 過去分の精算と将来の保管を一通で整理する第2 別紙の型一覧と精算明細を先に作る1 対象物と権限を特定する2 過去分と将来分の明細を分ける第3 未確定の過去分を残したまま将来分を整える第4 保管料と管理業務を対応させる1 料金の単位と費目を決める2 管理費率だけで必要な作業を曖昧にしない第5 金型保管料と過去分精算の覚書の条項例1 目的・対象と所有権2 過去分の精算と未確定分の留保3 将来の保管料と業務範囲4 回収・廃棄と契約終了5 基本契約との優先関係第6 将来分の合意だけで過去の是正を終えない第7 締結と支払いを台帳へ反映する第8 出典
第1 過去分の精算と将来の保管を一通で整理する

金型や治具の無償保管を見直すときは,過去に生じた負担の精算と,これから保管を続ける条件を分けて決める必要がある。
一通の覚書にまとめる場合も,対象の型,期間,金額及び未確定事項を別紙で対応させると,合意した範囲が明確になる。

本記事は,令和8年10月27日に確認した公正取引委員会の公表資料を踏まえ,製造委託に伴う金型等の保管条件を協議する際の書面の作り方を説明する。
以下の条項例と管理方法は,法定のひな形ではなく,当事者が条件を具体化するための提案である。
無償保管の違反判断,費用請求及び返却・廃棄の詳しい説明は,金型・治具の無償保管を解消する実務を参照されたい。

公取委の取適法運用基準第4の7は,長期間発注しない等の事情がある型等について,費用を支払わず保管させる行為を問題としている。
受注者所有の型でも,廃棄に発注者の承認を要するなど,発注者が事実上管理している場合を含む。
適用関係は,当事者の規模,取引類型及び個別発注の時点を確認する。
書面に「双方合意」と書くだけで,実際の不利益な負担が解消されたとは扱わない。

第2 別紙の型一覧と精算明細を先に作る
1 対象物と権限を特定する

型番号,名称,対応部品,数量,保管場所及び写真を一つの一覧にする。
所有者,貸与者,費用を負担する者及び廃棄を承認できる者も別欄に記録する。
上流の完成品メーカーが所有し,直接の発注者には処分権限がない場合もあるため,「甲の金型」と一括して処分権限まで認めない。

同じ型を複数の顧客や製品に使う場合は,費用をどの範囲で配賦するかを定める。
型自体の所有権と,図面・CADデータ・製造ノウハウの利用条件も区別する。

2 過去分と将来分の明細を分ける

過去分には,型番号,対象期間,費目,単価・数量,算定根拠,既払額,今回支払額及び支払日を記載する。
将来分には,適用開始日,料金の単位,含まれる管理業務,別料金の作業,支払日及び見直し時期を記載する。

最終発注日,最終使用日,量産終了日及び廃棄を申し入れた日は同じとは限らない。
それぞれの資料を残し,今回合意する対象期間を明示する。
現在の締結日と過去分の対象期間を分けて書き,過去に合意があったように締結日を遡らせない。

第3 未確定の過去分を残したまま将来分を整える

過去分の金額がすぐに確定しない場合には,対象と金額について争いのない部分を先に支払い,残りを留保する方法が考えられる。
ただし,暫定的な支払いで過去の負担全体が解消したとは扱わず,残る対象,追加資料の提出日,再協議日及び担当者を記録する。

「本件に関し一切の債権債務がない」と広く書くと,確認していない型や期間まで精算したのかが争点になる。
精算の終局性を求める場合も,何を対象に合意したかを先に特定する。
将来分だけを合意するなら,過去分について何も合意していないことが分かる留保を置く。

(続きを読む...)金型保管料の覚書の作り方―過去分の精算と将来の保管条件(AI作成)

量産終了後の補修部品はいつまで供給する必要があるか―供給期間・価格・金型の整理(AI作成)

目次

第1 供給期間だけを決めても問題は残る第2 家電の補修用性能部品の保有期間との違い1 表示規約に品目ごとの保有期間がある2 部品供給契約の終期と同じとは限らない第3 供給終了までの条件を具体化する1 起算点と終期2 数量と最終注文3 少量生産の価格第4 金型・治具の保管と処分を対応させる第5 供給が困難になった場合と取引終了合意第6 根拠資料と関連記事
第1 供給期間だけを決めても問題は残る

量産が終わった製品について,補修用の部品をいつまで供給するかが問題になることがある。完成品メーカーの補修対応と,部品メーカーが負う契約上の供給条件を分けて確認する必要がある。

「補修部品を必要な期間供給する」とだけ定めると,終期,数量,少量生産の単価,材料の入手難及び金型の保管費が曖昧になる。供給期間の長短だけでなく,供給できる体制と費用を対応させることが重要である。

第2 家電の補修用性能部品の保有期間との違い
1 表示規約に品目ごとの保有期間がある

全国家庭電気製品公正取引協議会が公表する製造業表示規約の別表3には,補修用性能部品の表示対象品目と保有期間が示されている。例えば,電気冷蔵庫は9年,電気洗濯機は6年,カラーテレビは8年であり,表示例は製造打切後の年数を基準としている。

資料の名称,対象品目及び起算点を確認することが必要であり,すべての製品について同じ年数が定められているわけではない。

2 部品供給契約の終期と同じとは限らない

この資料は家庭電気製品の表示に関する規約のものである。これだけを根拠に,あらゆる部品メーカーが,あらゆる製品について同じ年数だけ,従来の価格で部品を製造・供給する義務を負うとはいえない。

完成品側の保有・補修方針を踏まえつつ,部品供給契約では,対象品番,供給形態,数量及び終期を具体的に取り決める必要がある。製造を続ける方法と,必要数量を最終生産して在庫として保有する方法も区別して検討する。

第3 供給終了までの条件を具体化する
1 起算点と終期

量産終了日,完成品の製造打切日,最終納入日及び最終販売日は同じ日とは限らない。どの日を起算点にするか,誰が終了を通知するか,製造再開・追加販売で期間を延ばすのかを明記することが有用である。

例えば「2027年3月31日を量産終了日とし,2034年3月31日までの注文を対象とする」と合意する場合でも,最終注文品の納入日をいつまでとするかは別に定める必要がある。これは条件を具体化するための仮例であり,法定の供給期間を示すものではない。

2 数量と最終注文

年間の見込数量,最低発注数量,発注の予告期間,製造ロット及び最終注文日を確認する。数量の予測は確定注文と区別し,在庫を先に作る場合には,誰が発注し,売れ残りをどう処理するかを合意する。

最終注文の通知方法と回答期限を定め,回答がないことを直ちに在庫の全量購入への同意と扱わないようにすることも考えられる。余剰在庫・材料・仕掛品の引取りは,対象と金額を確認して合意する。

3 少量生産の価格

量産終了後も量産時の単価を維持できるかは,数量,段取り,検査,材料の最低購入単位,設備維持及び保管等の条件で変わる。

単価だけで処理せず,製品代,段取り費,保管費及び必要な更新費を分ける方法もある。価格の見直し時期,根拠資料,合意までの発注・供給の扱いを取り決めておけば,価格交渉と欠品への対応を整理しやすい。

第4 金型・治具の保管と処分を対応させる

部品を供給する義務を残したまま,その製造に必要な金型を直ちに返却・廃棄する合意になっていないかを確認する。反対に,供給終了後も処分の承認を得られず,保管だけが続く状態にも注意したい。

公正取引委員会の取適法Q&AのQ119は,長期間発注がない金型等の無償保管について説明している。保管料の請求をしていないことだけで問題がなくなるという扱いではなく,所有名義だけでなく実質的な管理・支配も確認する必要がある。

部品供給の期間があるから金型等の保管はすべて無償でよい,という理由にはならない。供給の必要性と,保管・維持の費用及び処分条件をそれぞれ検討する。

実務上は,部品ごとの一覧に,供給終期,最終注文日,最終納入日,在庫の引取日,金型の返却・廃棄承認日及び実施日を並べる方法が考えられる。異なる部署が管理している日付も照合しておくことが有用である。

保管費を補修部品の単価への上乗せだけで回収する場合は,発注のない年や発注量が少ない年にも,実際の保管・維持費が賄えるかを確認する。
別建ての保管料を定める場合は,適用開始日,料金に含む作業,回収・廃棄までの費用及び過去分の精算範囲を合意する。
供給終期だけで費用負担が自動的に確定したとは扱わない。
覚書の条項例は,金型保管料の覚書の作り方―過去分の精算と将来の保管条件を参照されたい。

(続きを読む...)量産終了後の補修部品はいつまで供給する必要があるか―供給期間・価格・金型の整理(AI作成)

支給材の不良で加工し直した費用は誰が負担するか―民法636条と契約実務(AI作成)

目次

第1 材料を交換すれば加工費の問題も解決するか第2 民法636条が定めていること1 注文者の材料・指図に起因する不適合2 不適当だと知って告げなかった場合3 加工し直した費用の全額請求まで当然に決まるわけではない第3 費用ごとに整理する第4 支給材条項で確認する事項1 受入検査の内容と限界2 加工途中で不良が分かった場合3 精算条件の記載例第5 代金から一方的に差し引く前に第6 根拠資料と関連記事
第1 材料を交換すれば加工費の問題も解決するか

発注者から支給された材料を加工したところ,材料の不良が原因で完成品を使えなくなった。代替材料は支給されたが,加工済みの費用,選別費,手直し費,廃棄費及び納期の遅れをどう扱うかが残る。このような場合には,材料そのものと,加工等により生じた費用を分けて整理する必要がある。

本記事は,注文者が材料を供した請負についての民法636条を出発点に,支給材の受入れから不良発見後の精算までの確認事項を説明する。すべての製造取引が請負になるわけではなく,売買その他の契約との区別も必要である。

第2 民法636条が定めていること
1 注文者の材料・指図に起因する不適合

民法636条は,請負人が,注文者の供した材料の性質又は注文者の与えた指図によって,種類又は品質に関して契約の内容に適合しない仕事の目的物を引き渡した場合について,注文者による追完,報酬減額,損害賠償及び解除の制限を定めている。

重要なのは,単に支給材を使ったことではなく,問題となる不適合が,その材料の性質又は指図によって生じたかという点である。支給材を使っていても,加工方法や保管方法の問題が原因であれば,同じ結論になるとは限らない。

2 不適当だと知って告げなかった場合

同条ただし書は,請負人が材料又は指図の不適当であることを知りながら注文者に告げなかった場合を例外としている。

そのため,不良を発見した時期,知っていた内容,発注者への連絡及びその後の指示を記録する必要がある。「支給材だから受注者は何も確認しなくてよい」という意味ではない。一方,同条の「知りながら」という要件を,契約上の検査義務の検討をせずに,あらゆる潜在不良を発見すべきだったという義務へ置き換えるべきでもない。

3 加工し直した費用の全額請求まで当然に決まるわけではない

同条は,注文者の請負人に対する権利行使を制限する規定である。支給材に不良があれば,受注者が支出したすべての費用を当然に発注者へ請求できると直接定めた規定ではない。

報酬の支払,追加加工費,材料不良に関する契約違反及び損害賠償については,契約内容,原因,必要な対応及び費用の根拠を別に検討する。損害賠償を求める場合には,民法415条・416条の要件や範囲も問題になる。

第3 費用ごとに整理する

費用を一括して「不良対応費」とすると,原因や合意との関係が分かりにくくなる。次のように分けて記録することが考えられる。

- 不良発見までに実施した加工の数量,工程,工数及び既発生費用
- 不良品と使用可能品を分けるための検査・選別費
- 再加工,手直し及び再検査の費用
- 代替材料の手配,運送及び保管の費用
- 不良材,仕掛品及び完成品の返却・廃棄費
- 生産計画の変更及び納期変更に関する対応費

受注者側で判断して支出した費用と,発注者が依頼・承認した費用も区別する。緊急時の対応を妨げないようにしつつ,対応方法と見積額を確認できる連絡手順を設けることが有用である。

第4 支給材条項で確認する事項
1 受入検査の内容と限界

誰がどの検査を行うか,検査に必要な仕様・品質証明を誰が提供するか,不良を発見した場合の通知先及び加工を止める判断を定める。

通常の受入検査で確認できる外観・数量と,破壊試験等をしなければ分からない性質を区別する。受入時に異議を述べなかったことが,潜在的な材料不良の責任まで引き受ける合意になるかも,条項の文言に即して確認する必要がある。

2 加工途中で不良が分かった場合

疑わしい材料・仕掛品を識別し,対象ロット,工程,現物及び試験結果を保存する。追加加工を続けるか,選別や再加工を行うかについて,指示を記録する。

納期に影響する場合には,不良通知と同時に,代替材の到着予定,作業再開に必要な日数及び新しい納期を協議する。従来の納期を据え置いたまま,遅延の扱いだけが残る状態を避けたい。

(続きを読む...)支給材の不良で加工し直した費用は誰が負担するか―民法636条と契約実務(AI作成)

特採品で不具合・事故が起きたら誰が責任を負うか―検査不合格品の受入条件(AI作成)

目次

第1 特採の承認だけで責任の範囲は決まらない第2 特採品で分けて確認する3つの関係1 発注者と受注者の契約上の関係2 完成品の利用者その他の第三者との関係3 事故後の当事者間の費用精算第3 承認書に残しておきたい事項第4 特採に伴う減額は別に検討する第5 不具合が発生したときの進め方第6 根拠資料と関連記事
第1 特採の承認だけで責任の範囲は決まらない

特採とは,本記事では,通常の検査基準には合格しない製品について,対象や条件を定めて例外的に受け入れる取扱いをいう。社内での呼び方だけでなく,実際に何を例外的に受け入れたかを確認する。

「特採で受け入れたのだから,後の不具合はすべて発注者の責任である」「不合格品なのだから,承認後も受注者がすべて負担する」と一律に決めることは適切ではない。何を不合格とし,どの範囲で受入れを承認したか,契約と実際の記録を確認する必要がある。

例えば,塗装の色差だけを承認した場合と,強度の不足を認識して用途を限定した場合では,承認対象も必要な安全確認も異なる。対象ロット,逸脱した仕様及び使用条件を曖昧にしないことが出発点となる。

第2 特採品で分けて確認する3つの関係
1 発注者と受注者の契約上の関係

まず,承認した逸脱について契約内容を変更したのか,仕様は維持したまま一部の請求を行わないと合意したのか,選別・手直しを条件に受け入れただけなのかを確認する。これらは同じ処理ではない。

承認書に「使用可」とだけ記載されている場合には,承認の対象が生産ラインへの投入だけなのか,最終製品での使用や出荷まで含むのかも問題になる。品質部門の承認と,価格変更・責任分担について合意する権限も区別しておく必要がある。

2 完成品の利用者その他の第三者との関係

発注者・受注者間で責任分担を決めても,その合意だけで第三者の権利を処分できるわけではない。

製造物責任法は,製造物の欠陥により生命,身体又は他の財産に生じた損害について,法律所定の製造業者等の責任を定めている。被害が当該製造物だけにとどまる場合は,同法3条の責任の対象から除かれる。契約責任等の検討とは分ける必要がある。

部品メーカー,完成品メーカー,輸入者又は表示をした事業者が同法上のどの立場になるかも,実際の製造・輸入・表示等に即して確認する。特採承認書に「発注者が一切責任を負う」と書くだけで,この検討を省略することはできない。

3 事故後の当事者間の費用精算

第三者への対応と,発注者・受注者間で最終的にどの費用を負担するかは,別に整理する。

事故調査,選別,回収,代替品,修理,出張及び廃棄等のどの費用が発生したかを記録し,原因との関係,契約上の合意及び対応を決めた経緯を確認する。「特採品に関する費用」という名目だけで,すべてを一方に請求する扱いは避けるべきである。

第3 承認書に残しておきたい事項

承認書は,後日の責任争いだけでなく,現場で誤った製品を使わないための記録でもある。少なくとも次の事項を対応させることを検討されたい。

- 品名,品番,図面の版,ロット及び数量
- 適合しなかった基準と,実測値・写真・試験結果
- 承認する逸脱の範囲及び承認しない事項
- 使用できる用途・条件・期間と,出荷前に必要な確認
- 選別・手直しの内容,担当者,費用及び完了確認
- 単価・数量・納期の変更の有無
- 保証や事故対応について残る義務と,別途協議する事項
- 申請者,技術・品質面の承認者及び契約条件の合意者

承認の対象を「今回のロットの外観上の色差に限る」と具体化すれば,別の強度不足や将来のロットまで承認したかという争いを減らしやすい。ただし,この記載例だけで安全性を判断できるわけではなく,必要な技術的評価は別に行う。

第4 特採に伴う減額は別に検討する

特採を理由に値引きする場合には,不合格となった原因,受注者の責任,合意内容及び減額の根拠を確認する。特採承認書に定率の値引きを書いたというだけで,当然に適法になるものではない。

取適法の適用がある取引では,公正取引委員会の運用基準に従い,減額禁止との関係を検討する必要がある。同委員会のQ&Aには,事前の合意があっても,中小受託事業者に責任がない減額は問題になることが示されている。

(続きを読む...)特採品で不具合・事故が起きたら誰が責任を負うか―検査不合格品の受入条件(AI作成)

仕入価格を公表されたら止められるか―営業秘密と秘密保持契約(AI作成)

目次

第1 仕入価格の公表では何を確認するか第2 大正製薬とダイコクの事件で判断されたこと1 対象となった価格と裁判の結論2 適法な秘密保持の合意まで否定していない第3 営業秘密の問題と契約違反の問題1 不正競争防止法の要件を確認する2 契約上の秘密保持義務は別に検討する第4 価格公表が判明したときの証拠と対応第5 契約段階で価格情報を守るための工夫1 守る価格情報を具体化する2 表示と運用を一致させる第6 関連資料・関連記事
第1 仕入価格の公表では何を確認するか

取引先が自社からの仕入価格を公表した場合,価格が非公表だったという事情だけで,直ちに差止めや損害賠償が認められるとは限らない。公表された情報の内容,取得の経緯,秘密保持の合意及び公表の態様を分けて検討する必要がある。

例えば,双方が交渉して決めた契約価格と,交渉のために渡した原価計算表・利益率・他社向け価格表では,情報の性質も取得経緯も異なる。「価格情報」という一括りで扱うと,守りたい情報と契約上の義務が対応しなくなる。

本記事は,東京高裁平成16年9月29日判決と現行の不正競争防止法を踏まえ,価格公表が問題になった場合の確認事項と,契約段階の備えを説明する。

第2 大正製薬とダイコクの事件で判断されたこと
1 対象となった価格と裁判の結論

東京高裁平成16年9月29日判決(平成14年(ネ)第1413号)は,医薬品等のメーカーと販売店の取引について,仕入価格の開示等をめぐって判断した裁判例である。メーカーが一方的に提供した内部資料の漏えい一般を扱った事件ではない。

裁判所は,当該取引で当事者の合意により成立した仕入価格(売買代金額)について,販売店がメーカーから営業秘密を「示された」場合に当たるとはいえないと判断した。また,本件の契約関係等の下で,販売店に当該価格の秘密保持義務があるとの主張も認めなかった。

判決が採った判断は,情報の成り立ちと,本件で秘密保持義務を認める根拠があるかを検討したものである。「価格はすべて営業秘密にならない」「秘密保持契約はすべて無効」という結論ではない。

2 適法な秘密保持の合意まで否定していない

判決末尾では,価格に関する秘密保持の合意が適法に行われることまで否定する趣旨ではないことが示されている。価格の公表や仕入価格に近い販売を,どのような場合でも適法とする判断でもない。

したがって,この裁判例を理由に,既存の秘密保持条項を確認せず「公表してよい」と判断することも,反対に秘密保持条項があるだけで差止めが確実だと判断することも避けるべきである。根拠は裁判所公開の判決原文で確認できる。

第3 営業秘密の問題と契約違反の問題
1 不正競争防止法の要件を確認する

不正競争防止法2条6項は,営業秘密について,秘密として管理されていること,事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であること,公然と知られていないことを要件としている。

さらに,同条1項7号を根拠にする場合には,保有者から営業秘密を示されたという取得経緯に加え,不正の利益を得る目的又は保有者に損害を加える目的で使用・開示したかという要件も問題になる。単に「秘密の情報を公表された」と説明するだけでは,これらの検討を尽くしたことにならない。

公表されたものが契約価格そのものか,リベート等を含めて算出した実質的な仕入価格か,原価その他の内部情報かも特定する。資料名だけでなく,情報の内容ごとに取得経緯と管理方法を整理することが必要である。

2 契約上の秘密保持義務は別に検討する

営業秘密としての保護を主張できるかという問題と,契約でどの範囲の秘密保持義務を負わせたかという問題は,検討する根拠が異なる。

秘密保持契約では,対象情報の定義,秘密表示の要否,口頭開示後の確認方法,既知情報・公知情報等の除外,利用目的,開示できる相手及び存続期間を確認する。「本取引に関する一切の情報」という文言だけで,当該価格が当然に対象になると決め付けるべきではない。

価格情報を守る条項であっても,競争法その他の問題がなくなるわけではない。販売価格を拘束する目的や運用がある場合には,秘密保持の合意とあわせて個別に検討する必要がある。

第4 価格公表が判明したときの証拠と対応

まず,公表された文章・画像・掲載場所・掲載日時を保存する。ウェブ上の表示では,URL,画面全体,当該箇所及び確認日時を対応させ,転載先と元の掲載先を区別する。画面を削除させる連絡を先にすると,後から内容や範囲を確かめにくくなることがある。

そのうえで,次の資料を時系列で整理する。

- 価格交渉のメール,見積書,価格表,リベート等の合意
- 秘密保持契約,基本契約,個別契約及び後日の変更合意
- 情報を渡した相手・方法・日時と,秘密であることを伝えた記録
- 公表前に同じ情報が開示されていた範囲
- 公表後の顧客対応,取引への影響及び具体的な損害に関する資料

(続きを読む...)仕入価格を公表されたら止められるか―営業秘密と秘密保持契約(AI作成)

オンライン診療の法的ルール―初診・処方の制限と令和8年の受診施設制度(AI作成)

目次

第1 オンライン診療で確認すべき制度の全体像1 法律・省令と指針を区別する2 映像と音声による診療が基本となる第2 初診から受けられる場合と対面診療への切替え1 患者の希望と医師の判断の双方が必要である2 オンラインに適さないときは中止・受診案内が必要となる第3 初診時の処方制限と診療計画1 薬の種類と患者の情報によって制限が異なる2 診療計画の保存と診療録の保存を混同しない第4 オンライン診療受診施設の新制度1 自宅で受ける場合と,事業者が場所を提供する場合を分ける2 届出だけで安全管理が完了するわけではない3 既存医療機関の経過措置は届出に関するものである第5 責任の分担と,関連する制度との区別1 オンラインという形式だけで適法性や責任は決まらない2 死亡診断書の取扱いには別の確認が必要である第6 患者がオンライン診療を受けるまでの手順1 受診先と,対面診療に切り替える場合の対応を確認する2 本人確認,費用及び通信環境を準備する3 医師の説明を受け,診察と処方の判断を受ける4 薬の受取方法と,診察後の連絡先を確かめる第7 オンライン診療についてよくある質問1 オンライン診療はどうやって行うのですか2 オンライン診療の欠点は何ですか3 オンライン診療が「怪しい」と感じるときは,何を確認すればよいですか4 チャットだけで診察を受けることはできますか5 初診でも受けられますか。薬は必ず出ますか6 周囲に診察内容を聞かれたくない場合は,どうすればよいですか第8 出典
第1 オンライン診療で確認すべき制度の全体像

オンライン診療は,初診であるという理由だけで一律に禁止されるものではない。
ただし,患者が希望し,アプリで予約できるというだけで実施できるわけでもない。
医師が必要な情報を集め,オンラインで適切な診療ができると判断し,処方の制限や対面診療への切替えに対応する必要がある。

令和8年4月1日から,医療法にオンライン診療及びオンライン診療受診施設の規定が設けられた。
本記事は,令和8年10月26日現在の医療法,医療法施行規則及び厚生労働省の指針に基づき,患者,医療機関及び受診場所を提供する事業者が確認すべき基本事項を説明する。
診療報酬の個別の点数・算定要件や,各疾患の治療方法は対象としない。

1 法律・省令と指針を区別する

医療法2条の2及び14条の3~14条の5は,オンライン診療の定義や実施の仕組みを定めている。
医療法施行規則9条の6の2以下には,患者の意思確認,医師の判断,処方,診療計画,安全管理等の基準がある。
同法14条の4により,オンライン診療を行う医療機関の管理者には,その医師又は歯科医師が省令の基準に従って実施するための措置を講ずる義務がある。

これに加え,厚生労働省の「オンライン診療の適切な実施に関する指針」(令和8年4月)を確認する必要がある。
指針中の最低限遵守する事項と推奨される事項を区別し,指針の記述すべてを同じ法律上の義務として説明しないことが重要である。

2 映像と音声による診療が基本となる

医療法上のオンライン診療は,医師又は歯科医師が情報通信機器を通じ,患者の状態を映像及び音声で相互に認識しながら診察し,診断等を行うものである。
したがって,この制度でいうオンライン診療と,電話だけの対応,メール又はチャットだけの相談は区別する必要がある。

厚生労働省は,新型コロナウイルス感染症に伴う電話・情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いが令和6年3月末で終了したことを案内している。
過去の特例の記事を,現在も電話だけで初診から処方を受けられる一般的な根拠として使わないことが必要である。
現行資料の入口は,厚生労働省の「オンライン診療に関するホームページ」である。

第2 初診から受けられる場合と対面診療への切替え
1 患者の希望と医師の判断の双方が必要である

オンライン診療は,患者の明示的な希望を踏まえ,医師と患者が合意して行う。
医療機関側の都合だけでオンラインに固定したり,患者の希望だけで実施の可否を決めたりする仕組みではない。
本人確認,オンラインでは得られる情報に限界があることの説明及び対面診療と組み合わせる体制も必要となる。

初診では,かかりつけの医師による実施が基本となる。
かかりつけの医師以外が実施する場合も,診療情報提供書,診療録,健康診断の結果等から必要な情報を把握できるかを確認する。
十分な情報がない場合には,映像・音声を用いた診療前相談等を通じ,症状や医学的情報を把握し,オンライン診療が可能かを判断することになる。

診療前相談は,オンライン診療の適否を判断するための過程であり,単なる予約受付と同じものではない。
医師が把握した情報や判断の根拠を記録し,診療計画について説明した上で診療につなげる必要がある。

(続きを読む...)オンライン診療の法的ルール―初診・処方の制限と令和8年の受診施設制度(AI作成)

七会約款の2025年改正―資材高騰による請負代金・工期の変更と労務費の確保(AI作成)

目次

第1 対象となる約款と最初に確認すること第2 資材価格の高騰と請負代金額の変更1 変更請求と協議の申出2 増減額の根拠を分けて示す3 1年を超える契約に関する条項第3 工期延長と価格変更は別々に整理する第4 建設業法の契約前通知との関係第5 適正な労務費の確保と確認書面1 内訳書と支払の確認2 提出を求める資料と理由を特定する第6 協議を始めるときに整理する事項第7 関連記事・出典
第1 対象となる約款と最初に確認すること

民間(七会)連合協定工事請負契約約款の2025年12月改正では,資材価格の高騰等に対応する請負代金・工期の変更協議と,適正な労務費の確保に関する規定が整備された。工事の発注者・受注者が確認すべきなのは,採用した約款の版,個別の特約,変更を必要とする事実及びその根拠資料である。

本記事は,令和8年10月26日時点で公表されている約款委員会の2025年12月改正新旧対照表のうち,第4条,第4条の2,第28条及び第29条を中心に説明する。2020年版を解説した書籍の記述を,そのまま2025年改正後の規定として扱うものではない。

改正された標準約款の公表と,個々の契約の内容とは区別する必要がある。既に締結した契約については,契約書に添付された約款,採用する版の指定及び特約を確認する。旧版の契約へ改正後の条番号や文言を当然に当てはめてはならない。

第2 資材価格の高騰と請負代金額の変更
1 変更請求と協議の申出

改正後の第29条1項eは,建設業法20条の2第2項に定める資材価格の高騰その他の請負代金額に影響する事象の発生を,代金変更の事由に加えている。同条1項は,契約に別段の定めがある場合を除き,所定の事由があるときに,発注者又は受注者が理由を示して必要な代金変更を請求し,必要に応じて協議を申し出るという構成である。

同条3項は,協議の申出を受けた側について,申出が根拠を欠く場合その他正当な理由がある場合を除き,誠実に協議に応じるよう努めると定める。これを,相手方が請求額を全額承認する義務や,請求書の送付だけで変更額が確定する仕組みと読むことはできない。

約款委員会の2025年12月改正に関するFAQは,請負代金の変更請求権そのものを今回新設したのではなく,従来からの権利を明確にしたと説明している。
変更を請求できる事由と,請求額が認められるかどうかは分けて確認する必要がある。

2 増減額の根拠を分けて示す

第29条2項aは,適切な価格転嫁による適正な代金設定のため,工事に係る価格等の変動内容その他の事情を考慮することを定める。同項bは,工事の減少部分には監理者の確認を受けた内訳書の単価を,増加部分には変更時の時価を用いることを原則としている。減少と増加を一つの率で処理する前に,どの部分を変更するのかを分ける必要がある。

協議資料としては,当初見積りと変更後見積り,対象資材の数量・単価,仕入先の価格改定通知,発注時期及び既に購入した数量を対応させると検討しやすい。ここで挙げた資料は実務上の整理例であり,これらをそろえれば必ず増額が認められるという要件表ではない。

例えば,追加工事の代金と,当初の工事範囲に属する資材の値上がり分が同時に請求されている場合には,請求の根拠と計算を分ける。同じ数量や費用を双方へ計上していないかも照合する。

3 1年を超える契約に関する条項

第29条1項gは,契約締結から目的物の引渡しまで1年を超える契約について,法令の制定・改廃又は物価・賃金等の変動により,契約締結から1年経過後の未履行の工事部分に対応する代金額が適当でなくなった場合を定める。

したがって,「工事が1年を超えた」という事情だけで,完成済み部分を含む代金全体を一律に増額する条項として扱うことはできない。1年経過時点の施工状況と未履行部分を区分した資料が重要になる。

同FAQは,第29条1項gの1年という条件を満たさなくても,同項の他の号に該当すれば誠実協議の努力義務が生じるとの考えを示している。
資材価格の高騰等については,同項eその他の該当する事由を個別に検討する。

第3 工期延長と価格変更は別々に整理する

第28条6項は,契約に別段の定めがある場合を除き,追加変更工事,不可抗力,主要資材の供給の著しい減少等,関連工事の調整,受注者に責任のない協議の長期化,近隣住民との紛争その他正当な理由について,理由を示した必要な工期延長の請求と,必要に応じた協議の申出を定める。同条7項には,根拠のない申出等を除く発注者の誠実協議の努力義務が置かれた。

工期に影響する事象が発生したことと,何日延長する必要があるかは,分けて説明する。資材の納入予定と実際の納入日,その資材を使う工程,並行して進められる工事及び変更後の工程表を確認するのが実務上の出発点となる。

また,第28条3項は,発注者と受注者の双方に対し,変更後の工期を,通常必要と認められる期間に比して著しく短くしてはならないと定める。納期だけを据え置く案を検討するときも,変更後の作業量と施工に必要な期間を合わせて確認する必要がある。

同じ資材不足でも,代金の増額を求める理由と,工期を延ばす理由・日数が同じになるとは限らない。協議書では,金額,完成予定日及び各変更の理由を別々の項目として整理するとよい。

第4 建設業法の契約前通知との関係

建設業法20条の2第2項は,建設業者が主要な資材の供給減少,価格高騰等の所定の事象が発生するおそれを認める場合,請負契約の締結までに,その旨と状況把握に必要な情報を注文者へ通知することを求める。

同条3項は,この通知をした建設業者について,契約締結後に通知対象の事象が発生したとき,契約で定めた工期・工事内容・請負代金額の変更に関する協議を申し出ることができると定める。同条4項は,根拠のない申出等を除く注文者の誠実協議の努力義務を定める。

建設業法20条の2第3項による契約変更の協議申出は,同条2項に基づき契約前に通知した事象が生じた場合を対象としている。
他方,約款委員会の2025年12月改正FAQは,契約前のリスク通知がなかった場合でも,約款第28条・第29条に基づく工期延長・代金変更の請求や協議の申出が妨げられないと説明している。

(続きを読む...)七会約款の2025年改正―資材高騰による請負代金・工期の変更と労務費の確保(AI作成)

合法な表現物でもカード決済が止まる「クレカ問題」の法律関係―割賦販売法の加盟店調査,政府答弁,国際ブランドの規則及び決済代行会社の売上金留保(AI作成)

目次

第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 公式の告知で確認できる事例1 マンガ図書館Z2 DLsite第3 法律は表現の内容を理由とする決済停止を規制しているか1 割賦販売法の加盟店調査と契約解除2 国会での政府答弁3 国際ブランドの規則4 独占禁止法第4 決済代行会社による売上金の留保―東京地裁令和7年2月27日判決1 事案2 判断3 実務上の意味第5 政府の動きと代替手段1 成長戦略の「コンテンツ」2 代替手段としての円建てステーブルコイン第6 決済を止められた加盟店が確認する事項第7 関連記事第8 出典
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

日本の法律に違反しない漫画,同人誌,ゲーム等を販売しているのに,カード会社や決済代行会社の判断でクレジットカード決済が使えなくなることがある。
この記事は,この問題を法律の側から整理し,販売事業者(加盟店)が決済を止められたときに確認する事項をまとめるものである。
基準日は令和8年10月25日であり,法令はe-Gov法令検索で,国会での答弁は国会会議録検索システムで,事業者・官庁の対応は各社・各庁の公表資料(Mastercardの規則はInternet Archiveの保存版)で確認した。

令和8年9月18日にデジタル大臣政務官兼内閣府大臣政務官に任命された赤松健参議院議員は,同年10月18日にX(旧Twitter)で公開した漫画「赤松健の国会にっき」第381回で,日本で合法な創作表現でも決済手段が使えないと事実上の表現規制となる場合があるとして,これを「いわゆる『クレカ問題』」と呼んでいる。
同じ漫画で,赤松政務官は,代替手段の検討を含めた解決策の研究を「公務(政府)として」行っていること,JPYC株式会社の代表者から聞き取りを行い,今後も関係事業者から聞き取りを行う予定であることを説明している。
なお,赤松政務官は,後記のマンガ図書館Zの前身「Jコミ」を立ち上げ,マンガ図書館Zの運営会社である株式会社Jコミックテラスの取締役会長を務めた経歴がある。

2 結論

結論は,次の4点である。
①割賦販売法は,加盟店と契約を結ぶ事業者に,加盟店の調査と,基準に適合しないおそれがある場合の契約締結の禁止・契約解除等の措置を義務付けているが,その目的はカード番号の適切な管理と不正利用の防止であり,取り扱う商品の表現の内容を基準とするものではない。
②国会では,令和5年に経済産業省大臣官房審議官が,割賦販売法には取扱商材の表現内容に関する規制を設けていないと答弁し,令和6年には経済産業大臣が,どのような商材の決済を行うかはカード会社の経営上の判断によるものと答弁している。
③Mastercardの規則には,同社の信用を害するおそれがあるかどうかを同社の単独の裁量で判断して取引を禁止する条項があり,表現物の決済停止の根拠は,割賦販売法よりも,契約と国際ブランドの規則の側にあると考えられる。
④決済代行会社の利用規約にある売上金の支払延期・支払留保の条項を,その趣旨に照らし,それぞれ最終決済日又は弁済期日から6か月間に限ると解釈した裁判例があり(東京地裁令和7年2月27日判決),決済を止められた加盟店の売上金の回収で参考になる。

第2 公式の告知で確認できる事例
1 マンガ図書館Z

漫画の配信サイト「マンガ図書館Z」の運営会社は,サイト停止の告知で,「先月決済代行会社から通達があり、決済サービスの契約を10月末ですべて解約せざるを得なくなりました。」と説明し,「決済代行会社とも早急に協議いたしましたが、カード会社の判断によるものであり、すでに弊社では覆すことのできない状況でした。」としている。
告知は,解約の対象を「決済サービスの契約」と書いており,特定のカードブランドに限っていない。
また,告知は,カード会社が何を理由に判断したかを書いていない。
この件は,令和6年12月11日の衆議院予算委員会でも取り上げられた。

2 DLsite

販売サイト「DLsite」の運営会社は,「2024年4月3日(水)18時より、Visa、Mastercardのご利用が一時停止いたします。」と告知し,翌日には「American Expressのご利用も一時停止」したと追記した。
この告知も,停止の理由を書いていない。
他の決済手段(PayPay,コンビニ払い,ネットバンキング等)は使えるとしている。

第3 法律は表現の内容を理由とする決済停止を規制しているか
1 割賦販売法の加盟店調査と契約解除
(1) 調査の目的は番号の管理と不正利用の防止

割賦販売法は,加盟店とクレジットカード番号等取扱契約を結ぶ事業者(クレジットカード番号等取扱契約締結事業者)に,契約前の調査を義務付けている(同法35条の17の8第1項)。
その目的は,「販売業者又は役務提供事業者によるクレジットカード番号等の適切な管理及び利用者によるクレジットカード番号等の不正な利用の防止を図るため」と定められている。

(続きを読む...)合法な表現物でもカード決済が止まる「クレカ問題」の法律関係―割賦販売法の加盟店調査,政府答弁,国際ブランドの規則及び決済代行会社の売上金留保(AI作成)

取引先から生成AIの利用に関する調査票・誓約書が届いたら―改正個人情報保護法30条の3・58条の2と回答前の確認事項(AI作成)

目次

第1 記事の対象と結論第2 取引先が調査票を送る理由1 委託元の委託先監督義務2 委託先がクラウドサービスを使う場合の注意喚起3 生成AIサービスへの入力に関する注意喚起第3 回答の前に確認すること1 預かっている情報を分ける2 契約の定めを確かめる3 社内の実際の利用状況を確かめる4 利用しているサービスの規約と設定を確かめる第4 改正法で受託者に生じる義務1 第30条の3の内容2 違反した場合3 第58条の2の特例4 契約に定める事項の検討状況5 施行までの日程第5 回答書・誓約書の書き方1 事実,予定及び約束を分ける2 規則の公表前に約束しすぎない3 全面禁止を求められたとき4 マスキングは匿名加工情報と同じではない第6 関連記事第7 出典
第1 記事の対象と結論

本記事は,業務の委託を受けて取引先から個人情報や秘密情報を預かっている事業者(以下「受託者」という。)が,取引先から生成AIの利用状況に関する調査票への回答や,生成AIへの入力を制限する誓約書・覚書への署名を求められた場合に,回答・署名の前に確認すべき事項を整理するものである。
基準日は令和8年10月25日であり,令和8年法律第56号による改正後の個人情報保護法の条文は,個人情報保護委員会が掲載する改正法の本文とe-Gov法令検索の改正後の条文で確認した。
改正法は令和8年7月17日に公布されたが,受託者の義務を定める第30条の3と,契約を条件とする特例を定める第58条の2は,公布の日から起算して二年を超えない範囲内で政令で定める日に施行され,本記事の基準日現在は施行されていない。

結論は次のとおりである。
①個人情報の取扱いの委託に伴う取引先からの調査票は,委託元が現行法第25条の委託先監督を行うための手段と位置付けられ,個人情報保護委員会も,委託先がクラウドサービスを利用している場合に,委託元がその安全性などを委託先に確認することを挙げている。
②回答の前に,預かっている情報の種類,契約の定め,社内の実際の利用状況,利用しているサービスの規約・設定を確認する。
会社として生成AIを導入していないことと,従業員が業務に使っていないことは別の事実である。
③改正法の施行後は,個人情報取扱事業者である受託者が,法令に基づく場合等を除き,委託された個人情報を委託業務の遂行に必要な範囲を超えて取り扱うことが,委託元との契約の問題にとどまらず,受託者自身の個人情報保護法違反となる(改正後の第30条の3)。
④第58条の2の特例を受けるために委託契約に定める事項は個人情報保護委員会規則で定められる予定であり,令和8年10月1日に事務局が検討の方向を示した段階であるから,現時点の回答や誓約では,確定していない事項を約束しすぎないようにすることが望ましい。

第2 取引先が調査票を送る理由
1 委託元の委託先監督義務

現行法第25条は,「個人情報取扱事業者は、個人データの取扱いの全部又は一部を委託する場合は、その取扱いを委託された個人データの安全管理が図られるよう、委託を受けた者に対する必要かつ適切な監督を行わなければならない。」と定めている。
個人情報保護委員会の「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」3-4-4は,必要かつ適切な措置として,適切な委託先の選定,委託契約の締結及び委託先における個人データ取扱状況の把握を挙げている。
同ガイドラインは,委託先の選定や取扱状況の把握に当たり,必要に応じて個人データを取り扱う場所に赴く又はこれに代わる合理的な方法(口頭による確認を含む。)により確認することが考えられるとしており,委託先への調査票は,この把握の方法の一つと位置付けることができる。

また,同ガイドライン3-6-3は,委託に伴って個人データの提供を受けた者について,「委託された業務以外に当該個人データを取り扱うことはできない。」としている。
現行法の下でも,同ガイドラインの解釈上,受託者が委託に伴って預かった個人データを委託業務以外に使うことは許されず,取引先は,生成AIへの入力がこの範囲を超えていないかを確かめようとすることになる。

2 委託先がクラウドサービスを使う場合の注意喚起

個人情報保護委員会は,令和6年3月25日,「クラウドサービス提供事業者が個人情報保護法上の個人情報取扱事業者に該当する場合の留意点について(注意喚起)」を公表した。
同注意喚起は,クラウドサービスの利用が個人データの取扱いの委託に当たるかどうかは,クラウドサービス提供事業者が個人データを取り扱うこととなっているか否かが判断の基準になるとし,利用規約で提供事業者が保守・運用上必要な場合にデータを監視・分析・調査できるとされていたこと,提供事業者が保守用IDを保有し,技術的なアクセス制御等が講じられていなかったこと等を,提供事業者が個人情報取扱事業者に該当すると判断した考慮要素として挙げている。

同注意喚起の第3項は,個人データの取扱いの委託先が,クラウドサービス提供事業者の提供するアプリケーションを利用して委託された個人データを取り扱っている場合について,「委託元である個人情報取扱事業者は、委託先事業者に対する監督の一内容として、当該クラウドサービスの安全性などを委託先事業者に確認することが考えられます。」としている。
同項は,委託先事業者のクラウドサービスの利用によって,委託先からクラウドサービス提供事業者に対する「再委託」となっている場合があることを念頭に置くよう求めている。
受託者が生成AIサービスを使って委託業務を処理する場合も,そのサービスの提供事業者が入力された情報をどう取り扱うかによって同じ問題が生じるから,調査票でサービス名・プラン・設定を尋ねられるのは,この確認のためであると考えられる。

個人情報保護委員会は,この注意喚起のポイントを解説する動画を,令和6年12月16日に公式YouTubeチャンネルで公開している。

3 生成AIサービスへの入力に関する注意喚起

個人情報保護委員会は,令和5年6月2日,「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」を公表した。
同注意喚起は,個人情報取扱事業者が個人情報を含むプロンプトを入力する場合には,特定された利用目的を達成するために必要な範囲内であることを十分に確認するよう求めている。
また,本人の同意を得ずに個人データを含むプロンプトを入力し,その個人データが応答結果の出力以外の目的で取り扱われる場合には,個人情報保護法の規定に違反することとなる可能性があるとして,生成AIサービスの提供事業者が個人データを機械学習に利用しないこと等を十分に確認するよう求めている。

(続きを読む...)取引先から生成AIの利用に関する調査票・誓約書が届いたら―改正個人情報保護法30条の3・58条の2と回答前の確認事項(AI作成)

検収してもらえないと代金は請求できないのか―納品,検査,みなし検収と支払期限(AI作成)

目次

第1 納品,検査,検収と支払条件を分ける第2 検収しない理由を具体化する第3 取適法の対象取引では,検査と支払期日を別に確認する1 納期前の品質確認の扱い2 請求書が未提出の場合第4 みなし検収条項は,成立条件と効果を読む第5 請求前に,資料と連絡経過を整理する第6 関連記事第7 出典・参考資料
第1 納品,検査,検収と支払条件を分ける

納品したのに「まだ検収が終わっていない」と言われ,代金が支払われない。
制作やシステム開発などの取引では,合意した仕事の内容,納品・受領の状況,検収の手続及び支払期日を分けて確認する必要がある。

特に,取適法の対象となる情報成果物作成委託では,検査未了という理由だけで支払をいつまでも先延ばしにできるわけではない。
以下では,公正取引委員会の説明を踏まえ,支払が止まった場合にそろえたい資料と確認の順序を整理する。

契約書,発注書,見積書及び仕様書を並べ,次の事項を確認する。

確認事項確認する内容約束した仕事何を作成し,どこまで対応する契約か納品何を,いつ,どの方法で提出する約束か検査・検収誰が,何を基準に,いつまでに確認するか支払金額,期日及び検収との関係をどう定めているか

「納品後に検査する」「検収完了後に支払う」「検収方法は別途協議する」では,確認すべき点が異なる。
基本契約と個別の発注書がある場合には,両方を読み,異なる定めがある場合の優先関係も確認する。

ファイルを送信した事実と,約束した仕事の完成についての説明は分けて整理する。
送付メールに加え,合意した仕様と納品物のどの部分が対応するのかを示せるようにする。

第2 検収しない理由を具体化する

検収が進まない理由を,例えば次のように整理すると,次に確認する事項が明確になる。

相手方の説明確認したいこと合意した機能が動かない対象機能,対応する仕様,発生条件及び修正内容機能を追加してほしい当初の合意に含まれるか,追加の見積り・承認があるか社内承認が終わらない確認担当者,止まっている手続,回答予定日及び支払予定日

これは問題を整理するための分類であり,請求の可否を自動的に決める基準ではない。
「使いにくい」「まだ完成していない」という指摘については,問題箇所と合意仕様との関係を具体化してもらう。
受託者側も,すべての指摘を追加作業と決めつけず,変更前後の資料と照合する。

第3 取適法の対象取引では,検査と支払期日を別に確認する

取適法の適用対象となる情報成果物作成委託について,公取委のQ86は,検査の有無にかかわらず,受領後60日以内に定めた支払期日までに支払う必要があると説明している。
検査未了だけを理由に,その先へ支払を延ばせるという説明ではない。
公取委「よくある質問コーナー(取適法)」Q86

「60日以内」は,既に定めた支払期日を60日目まで自由に延ばせるという意味でもない。
受領日と定めた支払期日を対応させて確認する。

この説明を,すべての売買や業務委託へ一律に当てはめない。
取引内容,当事者の規模及び発注時点などから適用対象かを先に確認する。
また,給付が委託内容と異なること等を理由とする返品の扱いはQ76に別の説明があるため,実際に返品等がある場合にはその事情も確認する。
公取委「よくある質問コーナー(取適法)」Q76

1 納期前の品質確認の扱い

Q87は,一定の事前合意の下で,納期前に成果物を一時的に提出してもらい,一定の水準を満たすか確認する場合の取扱いを説明している。

(続きを読む...)検収してもらえないと代金は請求できないのか―納品,検査,みなし検収と支払期限(AI作成)

会社売却後も親会社のシステムを使えるか―移行サービス契約と事業継続(AI作成)

目次

第1 株式を取得しても業務環境がそろうとは限らない1 移行サービス契約で暫定的な支援を定める2 売主との合意だけで外部の利用権は増えない第2 サービスを業務単位で具体化する1 「従来どおり」の中身を一覧にする2 品質・費用・変更を扱う3 事業譲渡では利用権限とデータの切分けも確認する第3 期間・延長・移行完了の条件を決める1 サービスごとに終了時期を設ける2 遅延した場合の延長を当然視しない3 終了計画をPMIの工程表に接続する第4 データ・秘密保持・責任分担を整える第5 参考資料
第1 株式を取得しても業務環境がそろうとは限らない

対象会社が売主グループのシステム,経理,人事,調達等を利用している場合,会社を売却した日から同じ環境を使い続けられるかが問題になる。
株式譲渡が完了しても,売主や外部ベンダーに継続提供を求める権利まで当然に取得するわけではない。
実行日から業務を止めないためには,必要な機能と利用権限を調べ,移行が完了するまでの対応を決める必要がある。

1 移行サービス契約で暫定的な支援を定める

移行サービス契約は,TSAと呼ばれ,売却後の移行期間中に提供するサービスの内容・対価・期間等を定める契約である。
売主側が対象会社や買主側へ提供する場合のほか,業務の分離状況に応じて逆方向の提供が必要になることもある。
誰が契約当事者となり,実際に誰が提供し,誰が利用するのかを特定することが出発点となる。

2 売主との合意だけで外部の利用権は増えない

売主が継続利用を認めても,外部ベンダーとの契約がグループ外利用や再提供を認めているとは限らない。
ソフトウェア,クラウド,回線,データベース等について,利用主体・利用範囲・再委託・名義変更の条件を確認する。
必要ならベンダーの承諾や新契約を準備し,その取得をTSAやM&A契約の条件とどう結び付けるかを検討する。

第2 サービスを業務単位で具体化する
1 「従来どおり」の中身を一覧にする

「従来どおり支援する」という表現だけでは,担当者が退職したときや障害が起きたときに対応範囲が分からなくなる。
サービスごとに,対象業務,利用者,処理件数等の前提,担当窓口,必要なデータ,提供時間,除外事項を整理する。
デュー・ディリジェンスには,実際のシステム運用や経理・人事の担当者も関与させ,契約一覧だけでは見えない依存関係を確かめることが望ましい。

例えば,請求書発行を継続するなら,システムへのログイン権限だけでなく,顧客マスター,締日処理,承認権限,入金消込,問い合わせ対応まで確認する。
これは業務の切分けの例であり,すべての案件で同じ支援が必要になるわけではない。

2 品質・費用・変更を扱う

処理の締切,障害時の連絡,復旧対応,保守時間など,事業継続に必要な水準を具体化する。
料金については,固定額か実費か,利用増加時の追加費用,外部ベンダー費用,税負担,請求と支払の時期を定める。
売却後に業務量や仕様が変わる場合の変更手続と,追加費用の承認者も確認する。

3 事業譲渡では利用権限とデータの切分けも確認する

事業譲渡では,売主の法人格に残るシステム契約を買主が当然に利用できるわけではない。
ライセンス,クラウド利用規約,再委託,個人情報及び秘密情報の条件を確認し,必要に応じて契約相手方の承諾又は買主名義の新契約を取得する。

売主の他事業とデータベースやアカウントが共通している場合は,対象データの抽出,アクセス権限,ログ,バックアップ及び取引終了時の消去を定める。
買主への移行が完了するまでの暫定利用は,期間,利用者,費用,障害時の責任及び終了条件をTSAに具体化する必要がある。

(続きを読む...)会社売却後も親会社のシステムを使えるか―移行サービス契約と事業継続(AI作成)

M&Aの価格調整条項―純資産・純有利子負債,異議期限と精算方法(AI作成)

目次

第1 契約した価格と最終的な支払額が異なる場合1 純資産方式と企業価値からの調整を区別する2 公表事例から分かる範囲第2 調整対象と計算ルールを定義する1 基準日・会計方針・個別項目2 事業譲渡では資産・債務別の調整を設計する3 役員退職金・配当等との重複を避ける第3 計算書の提出から異議申立てまでを決める1 提出資料と期限を対応させる2 異議の出し方と無異議の効果第4 返還・追加支払と補償請求の関係第5 参考資料
第1 契約した価格と最終的な支払額が異なる場合

株式譲渡契約の価格調整条項は,契約で決めた基準に従い,実行日時点の財務数値などを確定して売買代金を精算するための条項である。
当初の提示価格が固定額なのか,暫定額なのか,どの数値によって増減するのかを確認する必要がある。
最終的な精算を予定しない固定価格方式もあるため,M&Aなら必ず事後調整が行われるわけではない。

1 純資産方式と企業価値からの調整を区別する

純資産を基準にする方式と,企業価値から純有利子負債等を調整して株式価値を求める方式では,出発点が異なる。
前者では資産・負債の評価が,後者では現預金・有利子負債・運転資本等の定義が重要になる。
複数の調整を組み合わせる場合は,同じ項目を重複して控除・加算していないかを確認する。

例えば,説明用に企業価値を1億円,有利子負債を3000万円,現預金を1000万円とし,他の調整はないとする。
純有利子負債を有利子負債から現預金を引いた2000万円と定義するなら,株式価値は8000万円となる。
実行時に有利子負債が3500万円,現預金が800万円となれば,同じ仮定での株式価値は7300万円であり,暫定代金8000万円との差は700万円となる。

この仮例は計算の順序を示すものであり,企業価値の算定方法や実際の契約条件を示すものではない。
現預金に含める範囲,借入金以外に負債として扱う項目,運転資本調整の有無で結果は変わる。

2 公表事例から分かる範囲

ENEOSホールディングスの2025年4月1日付け海運事業の一部譲渡完了の開示は,最終譲渡価額について,契約に基づくネットデット・ネットワーキングキャピタル等の調整を行う旨を記載している。
これは価格調整が公表された事例であり,契約全文や異議申立ての期限まで公開されたことを意味しない。

第2 調整対象と計算ルールを定義する
1 基準日・会計方針・個別項目

どの時点の数値を使うか,誰が作成する計算書を使うか,会計方針に変更がある場合に何を優先するかを定める。
現預金,有利子負債,正常運転資本といった名称だけで済ませず,対象勘定と除外項目を別紙等で特定することが望ましい。
売掛金の回収可能性,在庫の評価,未払費用,取引に伴う費用も,どの調整に反映するかを確認する。

2 事業譲渡では資産・債務別の調整を設計する

事業譲渡では,営業権を固定額としつつ,棚卸資産,売掛金,買掛金,未払費用及び承継債務をクロージング時の実額で調整する方法がある。
何を譲渡対象に含めるかと価格調整項目を一致させなければ,対象外債務を代金から控除したり,同じ項目を二重に調整したりするおそれがある。

棚卸資産の評価方法,不良在庫,回収不能債権,引当金,消費税及び固定資産の評価基準を定める。
売主が計算書を作成するのか,買主が作成するのか,資料閲覧権,異議期限,専門家決定及び精算期限も契約で固定する必要がある。

事業譲渡契約全体の確認事項は,事業譲渡契約書のチェックポイント―売主・買主別に見る譲渡対象,代金,前提条件,表明保証及び補償(AI作成)を参照されたい。

(続きを読む...)M&Aの価格調整条項―純資産・純有利子負債,異議期限と精算方法(AI作成)

株式譲渡で取引先の承諾は必要か―COC条項・通知義務・解除リスク(AI作成)

目次

第1 株主が変わることと契約当事者が変わること1 COC条項が対象とする変更を読む2 事業譲渡の契約移転と区別する第2 承諾・通知・解除の条項を分けて確認する1 同じ支配権変更でも契約上の効果は異なる2 承諾取得の担当・費用・期限を決める第3 M&Aの前提条件と第三者の権利を分ける1 契約一覧に重要度と対応を記録する2 売主・買主間の条件放棄だけでは解決しない第4 許認可・個人情報・業務継続も別に確認する第5 参考資料
第1 株主が変わることと契約当事者が変わること

株式譲渡では,通常,対象会社の株主が変わっても,取引契約の当事者である対象会社自体は変わらない。
しかし,契約に株主構成や支配権の変更を対象とする条項があれば,事前承諾や通知が必要になることがある。
「契約当事者は同じだから確認不要」と判断せず,重要契約の条項を確認する必要がある。

1 COC条項が対象とする変更を読む

COC条項は,チェンジ・オブ・コントロール,すなわち支配権の変更に着目した条項である。
株式の過半数取得だけを対象とするのか,間接的な支配株主の変更,合併や会社分割,特定者への譲渡まで含むのかは,契約によって異なる。
COCという見出しがなくても,解除事由・通知事項・表明事項などに同じ趣旨の規定が置かれる場合がある。

2 事業譲渡の契約移転と区別する

契約上の地位を別の会社へ移すことは,株式譲渡による株主変更とは別の問題である。
民法539条の2は,契約当事者の一方と第三者による契約上の地位の譲渡について,相手方の承諾を定めている。
事業譲渡で契約当事者を変更する場面と,対象会社を当事者のまま維持する株式譲渡の場面を混同しないことが重要である。

事業譲渡における許認可と契約承継の具体的な確認方法は,事業譲渡で許認可・取引契約は引き継げるか―再取得,承諾,通知及びクロージング条件(AI作成)を参照されたい。

第2 承諾・通知・解除の条項を分けて確認する
1 同じ支配権変更でも契約上の効果は異なる

「事前の書面承諾が必要」,「変更後に通知する」,「相手方が解除できる」,「条件変更を協議する」という条項では,必要な行為とリスクが異なる。
通知すれば承諾を得たことになるとは限らず,回答がないことを承諾と扱えるかも契約の定めを確認する必要がある。
違反時の効果も,条項の文言と具体的事情に即して検討する。

NEDOは,委託研究開発に関係する技術のライセンスについて,支配構造の変化を契機とする解除や条件見直しを扱うCOC条項への留意を示している。
これは当該制度の文脈での留意事項であり,株式譲渡のすべてに法律上の承諾義務を課すものではない。

2 承諾取得の担当・費用・期限を決める

売主と買主の間では,誰が取引先へ説明し,どの資料を提出し,いつまでに承諾を得るかを定める。
情報開示の時期には秘密保持や取引への影響も考慮する。
承諾の条件として保証の追加,取引条件の変更,費用の支払等を求められた場合に,誰の判断と負担で応じるかも決めておくとよい。

第3 M&Aの前提条件と第三者の権利を分ける
1 契約一覧に重要度と対応を記録する

借入れ,賃貸借,販売代理,重要顧客,ライセンス,システム利用などの契約について,支配権変更を対象とする条項の有無を確認する。
対象となる変更,承諾・通知の時期,違反時の効果,担当者,取得証拠を一覧にする。

(続きを読む...)株式譲渡で取引先の承諾は必要か―COC条項・通知義務・解除リスク(AI作成)

アーンアウトとは―追加代金の条件・計算方法と売主が確認する条項(AI作成)

目次

第1 アーンアウトで追加代金が支払われる仕組み1 後払い・価格調整・補償との違い2 計算例では「超過部分」と「全額」を分ける第2 業績条件と会計処理を具体化する1 指標・対象期間・対象事業をそろえる2 買収後の費用配賦や会計方針変更を扱う第3 売却後の経営と検証手続を決める1 買主の事業運営と売主の関与を整理する2 報告・資料閲覧・異議申立てを組み合わせる第4 支払時期と他の請求との関係を確認する第5 参考資料
第1 アーンアウトで追加代金が支払われる仕組み

アーンアウトとは,会社売却後の業績など,契約で定めた条件の達成に応じて追加の売買代金を支払う仕組みである。
売主と買主で将来の事業価値の見方が異なるときに使えるが,追加分を当然に受け取れるわけではない。
条件の定義と,売却後にその条件を確かめられる仕組みが重要になる。

1 後払い・価格調整・補償との違い

確定した代金の支払日を後にするだけの後払いと,将来の条件により追加代金が発生するアーンアウトは異なる。
また,実行日時点の純資産や純有利子負債などを確定して代金を精算する価格調整,表明保証違反などの損害を埋める補償とも,支払の根拠が違う。
契約書では,名称だけで判断せず,何が起きれば,誰が,誰に,いくら支払うのかを確認する。

売却代金と役員退職金の区別,後払い代金の回収については,中小M&Aの売却代金と役員退職金―支払義務,後払い,税務と手取り額の確認(AI作成)も参照されたい。

2 計算例では「超過部分」と「全額」を分ける

例えば,対象期間の営業利益が3000万円を超えた場合に,超過額の2倍を追加代金とし,上限を2000万円とする契約を考える。
営業利益が3800万円なら追加代金は1600万円,4500万円なら上限の2000万円となる。
これは仕組みを説明するための仮例であり,標準的な料率や相場を示すものではない。

「3000万円以上になれば一定額を支払う」という条件なら,境界を少し超えるだけで支払額が大きく変わることがある。
ちょうど3000万円の場合,赤字の場合,事業売却や組織再編で単純比較ができなくなった場合も,計算例を作って確かめるとよい。

第2 業績条件と会計処理を具体化する
1 指標・対象期間・対象事業をそろえる

売上高,営業利益,顧客維持率などのどれを指標にするかで,当事者が負担するリスクは変わる。
連結か単体か,どの事業を含めるか,開始日と終了日,決算期変更時の扱いを定める。
複数年度の合計で判定するのか,各年度別に判定するのか,未達分を翌年度へ繰り越すのかも確認する。

2 買収後の費用配賦や会計方針変更を扱う

買収後に親会社への管理料が発生したり,買収に伴う一時費用が計上されたりすれば,事業そのものの成績が同じでも利益額が変わり得る。
従来の会計方針を使う範囲,例外として調整する項目,関連当事者取引の扱いを具体化する。
「従来と同様に計算する」という一文だけで処理できるかは,実際の勘定科目と計算資料で確かめる必要がある。

ASBJの「企業結合に関する会計基準」第27項は,将来の業績等に依存する条件付取得対価の会計処理を定めている。
これは契約上の追加代金の発生条件や,売主の税務上の所得区分を一律に決める規定ではない。
会計・税務の検討と,支払義務を定める契約の検討をそれぞれ行う必要がある。

第3 売却後の経営と検証手続を決める
1 買主の事業運営と売主の関与を整理する

(続きを読む...)アーンアウトとは―追加代金の条件・計算方法と売主が確認する条項(AI作成)

無償PoCをいつまで続けるのか―報酬,追加作業及び本開発に進まない場合の精算(AI作成)

目次

第1 PoCでは何を約束するのか1 検証の実施と製品の完成を分ける2 「準委任が望ましい」とする指針の意味第2 無償・低額なら独占禁止法違反になるか第3 着手前に決める事項第4 追加作業を頼まれた場合の進め方1 修正か,範囲の追加かを確認する2 着手前に金額・納期・承認者をそろえる3 既に作業を始めている場合第5 本開発に進まなかった場合の報酬・成果・データ1 本開発の不成立とPoCの報酬は別に確認する2 成果を利用してよい範囲を確認する3 終了後のデータと秘密保持義務を整理する第6 支払を求める前に整理する資料第7 よくある疑問1 契約書がなければ請求できないか2 NDAがあればPoC契約は不要か3 本開発に進まなければ違約金を請求できるか第8 出典・参考資料と関連記事1 法令・行政資料2 参考文献3 関連記事

技術検証だけのはずが,追加の実装や修正を繰り返し求められ,本開発にも進まない。
こうしたPoCの問題は,最初の金額だけでなく,どこまで行えば終わるか,追加作業を誰が承認するかを決めていない場合に起こりやすい。

無償のPoCが直ちに違法になるわけではない。
一方,「将来の大きな取引につながる」と期待して対応を続けても,後で当然に費用全額を回収できるとは限らない。
契約上の請求根拠と,不当な無償作業の要請が独占禁止法上問題になるかを分けて考える必要がある。

本記事は,令和8年10月24日までに確認した民法及び公正取引委員会・経済産業省の指針を基礎に,PoCの開始から終了までに確認する契約と記録を整理する。

第1 PoCでは何を約束するのか
1 検証の実施と製品の完成を分ける

PoCは,新しい技術や仕組みを試し,本格的な開発や導入に進めるかを判断するために行われる。
しかし,契約書にPoCと書くだけで,具体的な義務や契約類型が決まるわけではない。

合意した検証を行って結果を報告する義務と,指定された機能・性能の製品を完成する義務では,未達成の場合の扱いが異なる。
民法632条の請負と,同法656条の準委任の区別を踏まえ,実際に約束する業務を確認する。

2 「準委任が望ましい」とする指針の意味

公正取引委員会・経済産業省の「スタートアップとの事業連携及びスタートアップへの出資に関する指針」は,PoCについて,検証の実施と報告を業務とする準委任契約が望ましいと説明している。
これは,検証段階の不確実性を踏まえた契約設計上の考え方である。

すべてのPoCが法律上当然に準委任になるとか,契約書の表題を準委任にすれば完成義務がなくなる,という意味ではない。
見積書,提案書,仕様書,メール等に,どのような結果を約束したかも確かめる必要がある。

第2 無償・低額なら独占禁止法違反になるか

同指針は,優越的な取引上の地位にある連携事業者が,正当な理由なく無償のPoCや不当に低い対価,減額,やり直し等を求める場合に,優越的地位の濫用として問題となり得ることを示している。

ただし,無償又は低額という一事情だけで結論を出すことはできない。
ほかの支払に対価が反映されているか,十分な協議があったか,修正が当初の合意内容に含まれるか,取引への影響を懸念して応じざるを得なかったか等を具体的に確認する。

また,独占禁止法上の問題があることと,特定の金額の報酬を契約に基づいて請求できることは,同じ問題ではない。
契約上の請求と法令上の問題を,それぞれの根拠に沿って整理する必要がある。

第3 着手前に決める事項

次の表は,契約交渉のための実務上の整理例である。
すべての案件に同じ条件を当てはめるためのひな形ではない。

項目決めておきたい内容検証の目的何が分かれば事業化の判断ができるか。実証する仮説と対象外の事項作業範囲対象機能,利用環境,データ,作業回数,報告書等の内容完了条件何を提出し,誰が,いつまでに確認すれば業務が完了するか期間と協力開始・終了予定,データや設備の提供期限,遅延した場合の対応対価固定額・時間単価等の方式,費用負担,支払時期,上限変更手続追加依頼の窓口,見積り,承認する権限,合意を残す方法成果・知財従前の技術,検証中の成果,報告書,試作品を誰がどの範囲で利用するかデータ提供できる情報,利用目的,外部サービス・再委託,終了後の返還・削除次の段階本開発へ進むかの判断期限,意思決定者,次の契約が成立しない場合の扱い

「精度が十分なら終了」といった表現では,評価するデータ,環境,指標,判定者が異なると認識が食い違う。
検証時の性能評価と,本番環境での継続的な性能保証も分けて決める。

(続きを読む...)無償PoCをいつまで続けるのか―報酬,追加作業及び本開発に進まない場合の精算(AI作成)

関連する契約をまとめて解除できるか―複数契約とクロスデフォルトの違い(AI作成)

目次

第1 一方の契約違反で別の契約も終わるとは限らない第2 最高裁平成8年11月12日判決1 マンション購入とスポーツクラブ会員契約の事案2 取引全体の目的と約束の重要性が問題となった3 異なる当事者の契約へ当然には広げられない第3 企業の取引で確認する契約と資料1 契約の組合せを図にする2 目的と約束を示す資料を保存する3 解除自体の要件と通知を確認する第4 クロスデフォルト条項と解除連動条項1 期限の利益の喪失と契約解除は別の効果である2 自動終了と解除権の発生を分ける第5 解除後の精算と残る義務第6 出典・参考資料
第1 一方の契約違反で別の契約も終わるとは限らない

システムの導入契約と保守契約,機器の売買と利用契約など,同じ取引目的のために複数の契約を結ぶことがある。
そのうち一つの契約に違反があったとき,別の契約もまとめて解除できるかは,契約の相互関係と解除の根拠を確認して判断する必要がある。

契約書が別々であることだけで解除できないと決まるわけではない。
他方,同じ日に締結した,同じ会社と取引しているというだけで,すべての契約を当然に解除できるわけでもない。
本記事では,最高裁平成8年11月12日判決を出発点として,令和8年10月24日を基準に,企業の取引担当者が確認すべき事項を整理する。

第2 最高裁平成8年11月12日判決
1 マンション購入とスポーツクラブ会員契約の事案

この判決は,リゾートマンションの区分所有権の購入と,併設されるスポーツクラブの会員となる契約が問題となった事案である。
屋内プールの完成と利用に関する約束が履行されず,購入者が売買契約等の解除を求めた。

最高裁は,同一当事者間の複数契約について,各契約の目的が相互に密接に関連し,一方だけが履行されても契約締結の目的が全体として達成されない場合には,一方の債務不履行を理由に他方の契約も解除できるとした。

2 取引全体の目的と約束の重要性が問題となった

判決は,マンションの所有権とクラブ会員資格の関係,契約に至る事情,購入者がプールを利用することの重要性等を検討している。
屋内プールの完成・利用に関する約束は,売買契約とは無関係の些細な付随事項として扱われたものではない。

したがって,実務で確認するのは,「関連契約」と呼ばれているかだけではない。
なぜ別々の契約を結んだのか,どの給付が欠けると取引全体の目的が達成できないのか,その目的を相手方との間でどのように共有していたかが重要である。

3 異なる当事者の契約へ当然には広げられない

上記判決の一般的な判断は,同一当事者間の複数契約を対象としている。
売主と保守会社が別法人である場合,グループ会社がそれぞれ契約する場合,金融機関との資金調達契約を伴う場合等に,この判決だけで同じ結論になるとはいえない。

また,同判決が扱ったのはマンションとクラブの取引である。
以下のシステム等の例は,判決の判断枠組みを踏まえた確認方法の例であり,その類型について最高裁が直接判断したという意味ではない。

第3 企業の取引で確認する契約と資料
1 契約の組合せを図にする

まず,基本契約,個別発注,ライセンス,保守,機器の貸与及び保証等を,契約当事者ごとに並べる。
それぞれの対象,対価,期間,終了事由及び終了後の義務を確認する。
販売代理店と利用企業の契約に加え,サービス提供者の規約が関係する場合には,その位置付けも明らかにする。

例えば,同じ会社と導入・保守の契約を結んでいても,保守の一部の遅れで導入契約まで解除できるかは,その保守がなければシステムを利用できないのか,代替保守が可能か,導入契約に残る利益は何か等によって検討が必要である。

2 目的と約束を示す資料を保存する

契約書だけでなく,提案書,仕様書,説明メール,価格の組合せ及び交渉記録を確認する。

(続きを読む...)関連する契約をまとめて解除できるか―複数契約とクロスデフォルトの違い(AI作成)

「間接損害は賠償しない」とは何か―逸失利益・特別損害と責任制限条項(AI作成)

目次

第1 免責の言葉だけでは負担範囲が決まらない第2 間接損害・特別損害・逸失利益を区別する1 民法416条の区分と契約の用語は一致するとは限らない2 逸失利益は損害の内容を表す3 想定する事故から費目を書き出す第3 賠償額の上限は対象と数え方を決める1 「委託料相当額」の対象を特定する2 対象となる請求を確認する3 故意・重過失等の例外を上下両方から確認する第4 ジェイコム事件の東京高裁判決から読む注意点1 重過失の判断は義務ごとに読む2 免責条項と不法行為責任の関係も問題となった第5 修正協議では事故・費目・上限・例外を一組にする第6 出典・参考資料
第1 免責の言葉だけでは負担範囲が決まらない

業務委託,システム開発,売買等の契約で,「間接損害は賠償しない」「賠償額は委託料を上限とする」という条項を見ることがある。
しかし,間接損害という言葉だけで,休業による利益の減少,代替サービスの費用,顧客への支払等がすべて除外されると判断することはできない。

責任制限条項は,責任の発生条件,対象となる損害,上限額,上限の数え方及び例外を分けて読む必要がある。
本記事は,日本法を準拠法とする企業間契約の審査を中心に,令和8年10月24日を基準として確認事項を整理する。
消費者契約等の特別な規制の検討は,取引の種類に応じて別に必要である。

第2 間接損害・特別損害・逸失利益を区別する
1 民法416条の区分と契約の用語は一致するとは限らない

民法416条1項は,債務不履行によって通常生ずべき損害を賠償の対象とし,同条2項は,特別の事情による損害でも,当事者がその事情を予見すべきであったときは賠償請求できると定める。

これに対し,「間接損害」は同条の区分をそのまま示す言葉ではない。
契約で定義しているか,例示があるか,他の条項とどのようにつながるかを確認する。
間接損害を特別損害と同義と扱ったり,直接損害ならすべて賠償されると断定したりしない。

2 逸失利益は損害の内容を表す

逸失利益は,問題となる出来事がなければ得られたはずの利益が失われたという損害の内容を表す。
これが民法416条の通常損害か,特別の事情による損害かは,具体的な契約と事情によって検討する。
逸失利益という名前だけで,特別損害又は間接損害と決まるわけではない。

したがって,逸失利益を対象外とする合意をしたい場合には,間接損害の一語に託すより,その費目を明示し,どのような損害を含めるかを協議する方が,認識の相違を減らせる。
ただし,文言を明示したことだけで,その条項があらゆる場合に有効となるわけではない。

3 想定する事故から費目を書き出す

例えば,システムが停止した架空の場面では,復旧費用,代替サービスの利用料,作業のやり直し費用,営業利益の減少及び顧客への対応費用を分ける。
その上で,契約上の給付内容,責任の根拠,因果関係,民法416条の範囲,損害額の証明及び責任制限条項を検討する。

これらの費目が当然に請求できるという意味ではない。
自社が現実に負担し得る費用と,相手方に契約上請求できる費用を分けて把握するための作業である。

第3 賠償額の上限は対象と数え方を決める
1 「委託料相当額」の対象を特定する

上限を委託料とするなら,契約全体の総額か,問題となった個別契約の金額か,事故前の一定期間に支払った金額かを明らかにする。
契約開始直後で支払実績がない場合や,無償期間を含む場合も確認する。

また,1事故ごとの上限か,契約期間中の累積上限か,関連する複数事故を1事故と数えるかによって,実際の負担は変わる。
「上限額の数字は合意したが,何に対する上限かが決まっていない」という状態を避ける必要がある。

(続きを読む...)「間接損害は賠償しない」とは何か―逸失利益・特別損害と責任制限条項(AI作成)

注文書に返事をしないと契約は成立するか―商法509条と受注管理(AI作成)

目次

第1 返事をしなければ断ったことになるとは限らない第2 商法509条が定める諾否の通知1 条文の条件を順番に確認する2 見積依頼・需要予測と申込みを区別する3 「遅滞なく」を一律の日数に置き換えない第3 受領確認と承諾,社内承認を分ける1 自動返信の意味を確認する2 社内決裁待ちを相手方との条件に反映する3 通知の発信と契約成立時期を混同しない第4 返答漏れが分かったときに集める記録第5 関連する契約成立の問題第6 出典・参考資料
第1 返事をしなければ断ったことになるとは限らない

注文書を受け取ったまま返事をしていない場合に,契約が成立しているかは,申込みの内容,従前の取引,基本契約及び担当者の行動を確認して判断する必要がある。
特に,商人が平常取引をする者から営業の部類に属する契約の申込みを受けた場合には,商法509条による承諾のみなしが問題となる。

同条は,注文書という表題の書類が届いたすべての場合に適用される規定ではない。
他方,「注文請書を返していない」「社内決裁が終わっていない」という事情だけで,契約が成立していないと処理することもできない。
以下では,企業の営業・調達・法務担当者に向け,令和8年10月24日を基準に,判断の順序と受注管理の注意点を整理する。

第2 商法509条が定める諾否の通知
1 条文の条件を順番に確認する

商法509条1項は,商人が平常取引をする者からその営業の部類に属する契約の申込みを受けたときは,遅滞なく諾否の通知を発しなければならないと定める。
同条2項は,その通知を発することを怠ったときは,申込みを承諾したものとみなすと定める。

確認するのは,①申込みを受けた者が商人か,②相手方が平常取引をする者か,③申込みがその営業の部類に属するか,④具体的な契約の申込みを受けたか,⑤遅滞なく諾否の通知を発したか,である。
相手方が一方的に「返答がなければ承諾とみなす」と記載したことだけを,同条の要件を満たす根拠にしてはならない。

2 見積依頼・需要予測と申込みを区別する

見積りを求めるメール,来期の購入予定を知らせる需要予測,仕様を相談する資料が,直ちに契約の申込みになるとは限らない。
商品・業務,数量,価格,納期その他の条件と,その条件で契約を成立させようとする意思が,文書とやり取りから読み取れるかを確認する。

反対に,書類の表題が「相談」や「内示」であっても,実際には確定した注文として扱ってきた経緯がある場合には,名称だけで処理できない。
基本契約,過去の注文書と請書,受注システムの記録及び納品・請求の運用を一緒に見る必要がある。

3 「遅滞なく」を一律の日数に置き換えない

同条は,何営業日以内という固定の日数を定めていない。
取引の種類や連絡手段を考慮せず,「3日以内なら必ず間に合う」などと判断することはできない。
休暇中の個人メールや,退職した担当者のアドレスに注文が滞留する運用を避け,担当不在でも確認と返答が進む窓口を設けることが重要である。

第3 受領確認と承諾,社内承認を分ける
1 自動返信の意味を確認する

「メールを受信しました」「受付番号を発行しました」という自動返信と,「ご注文を承りました」という受注承諾は,文言と運用によって意味が異なる。
自動返信の名称ではなく,表示内容,基本契約及びその後の行動を確認する。

受領確認だけを送って保留する場合にも,それで商法509条の問題が必ず解消したとは扱わない。
承諾できない注文については,対象の注文番号・日付・内容を特定し,承諾していないことを明確に連絡した上で,変更条件を協議するなどの対応が必要になる。
実際の諾否と異なる定型文を漫然と送らない。

2 社内決裁待ちを相手方との条件に反映する

(続きを読む...)注文書に返事をしないと契約は成立するか―商法509条と受注管理(AI作成)

裁判上の和解で連帯保証人を付けるときの注意点―保証意思宣明公正証書と例外(AI作成)

目次

第1 裁判所で保証すれば公正証書は不要か第2 対象となる保証と公正証書の時期1 事業上の債務すべてが対象ではない2 保証契約より前1か月以内の作成が必要である3 保証意思宣明公正証書と執行証書は異なる第3 裁判上の和解でも必要とされた立法時の説明1 裁判官の確認で代替できるとはされていない2 既存保証の変更も内容ごとに検討する第4 公正証書が不要となる法定の例外1 法人の役員や支配株主等2 個人事業主の共同事業者や一定の配偶者第5 和解期日までに準備する事項第6 根拠資料
第1 裁判所で保証すれば公正証書は不要か

事業用融資の返済について裁判上の和解をする際に,第三者を連帯保証人として加えることがある。
この場合,保証人が裁判所に出頭して意思を示せば,保証意思を確認する公正証書を省略できるとは限らない。

民法第465条の6の対象となる個人保証については,法定の例外に当たらない限り,保証契約に先立つ公正証書による意思確認が必要となる。
裁判上の和解を成立させる手続と,個人保証の効力に関する要件を分けて確認する。
本記事の資料確認日は令和8年10月24日である。

第2 対象となる保証と公正証書の時期
1 事業上の債務すべてが対象ではない

民法第465条の6第1項は,事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約を対象とする。
また,主たる債務の範囲に,事業のために負担する貸金等債務が含まれる根保証契約も対象となる。
同条第3項により,法人が保証人となる契約には,この規定は適用されない。

事業用融資であるか,主たる債務に貸金等債務が含まれるか,保証人が個人かを順に確認する。
事業に関係する売買代金や賃料の保証であるというだけで,直ちに同条の公正証書が必要と決まるわけではない。
ただし,同条の対象外でも,個人根保証の極度額など,別の保証規制が適用されることはある。

2 保証契約より前1か月以内の作成が必要である

同条第1項は,契約締結に先立ち,その締結の日前1か月以内に作成された公正証書で,保証人になろうとする者が保証債務を履行する意思を表示していなければ,保証契約は効力を生じないと定める。
和解で新たに保証契約を成立させるなら,その成立時点から逆算して準備する必要がある。

同条第2項は,保証人になろうとする者が,主たる債務の内容や履行意思などの法定事項を公証人へ口授し,公証人が筆記・確認する方式を定める。
法務省の「保証に関する見直し」も,保証人本人による意思確認と,保証契約締結前1か月以内という時期を説明している。

3 保証意思宣明公正証書と執行証書は異なる

保証意思宣明公正証書は,保証の意思を事前に確認するためのものである。
保証契約そのものの公正証書とは別のものであり,法務省資料は,保証意思宣明公正証書自体に執行認諾文言を付けることはできないと説明する。

したがって,保証意思宣明公正証書を作成したことと,保証人に対して直ちに強制執行できる債務名義を得たことを同一視しない。
反対に,和解調書などの債務名義を作る予定だからといって,保証契約の効力要件を省略することもできない。

第3 裁判上の和解でも必要とされた立法時の説明
1 裁判官の確認で代替できるとはされていない

平成28年12月6日の衆議院法務委員会では,裁判上の和解において新たな個人保証を加える場合にも公正証書が必要かが質問された。
小川秀樹法務省民事局長は,裁判上の和解によって保証契約を締結する場合も,原則として公正証書による意思確認を要する旨を説明している。

これは第192回国会衆議院法務委員会第13号における政府の立法時説明であり,特定事件の裁判所の判断ではない。

(続きを読む...)裁判上の和解で連帯保証人を付けるときの注意点―保証意思宣明公正証書と例外(AI作成)

準委任のシステム開発が失敗したら―報酬,開発管理義務と損害賠償(AI作成)

目次

第1 準委任でも開発の進め方が問われる第2 完成義務,注意義務と報酬条件を分ける1 契約書の表題と具体的な約束を照合する2 業務の終了確認と最終システムの稼働確認を混同しない第3 文化シヤッター事件の東京地裁判決1 準委任という条項があっても不完全履行が認められた2 ユーザー側の遅れも損害額に影響した第4 開発管理義務を具体的な出来事に落とす1 技術的な制約を把握し,計画へ反映したか2 ユーザーの判断が遅れたときに何をしたか第5 返金,報酬精算と損害賠償を分ける1 前の工程の費用が全部戻るとは限らない2 「使った時間」と「請求できる金額」は別である3 責任制限条項は対象と計算を読む第6 相談前にそろえる記録第7 関連記事と出典
第1 準委任でも開発の進め方が問われる

システムが動かないのに,「準委任だから完成の責任はない」「作業時間を使ったので報酬は全額必要」と説明されたときは,契約の名称だけで結論を出さず,約束した業務と実際の進め方を確認する必要がある。
準委任では,当然に完成品の引渡しが約束されているとは限らない。
しかし,専門業者として引き受けた調査,設計支援,進捗管理や技術上の問題への対応を適切に行う義務までなくなるわけではない。

確認する順序は,①何を行う契約だったか,②その業務にどのような不履行があったか,③それによってどの費用が無駄になったか,の3段階である。
成果が出なかった事実と,契約違反及び損害の立証を分けると,返金交渉や追加費用への対応を整理しやすい。

第2 完成義務,注意義務と報酬条件を分ける
1 契約書の表題と具体的な約束を照合する

民法632条の請負は仕事の完成を目的とする。
準委任では,同656条により委任の規定が準用され,同644条の善管注意義務や同645条の報告義務が問題となる。
ただし,「準委任」と書かれているだけで,すべての作業について同じ結論になるわけではない。
要件定義の支援,設計書の作成,プログラムの開発,移行支援やクラウド利用を工程・契約ごとに分け,仕様書や提案書を含めて何を約束したかを読む。

報酬についても,期間に応じて支払うのか,作業の履行後に支払うのか,得られた成果に対して支払うのかを確認する。
現行民法648条と648条の2は,通常の報酬と成果等に対する報酬を分けて定めている。
成果報酬型の準委任も,名称だけで請負と同じ責任になるわけではない。

2 業務の終了確認と最終システムの稼働確認を混同しない

IPAの開発モデル契約では,要件定義作成支援について,個別契約,要件定義検討会,要件定義書の確定,業務終了報告書による確認を区別している。
また,準委任型の支援業務であっても,善管注意義務違反による債務不履行責任が問題となる旨を解説している。
これは,モデル契約の条項・解説である。
自分の契約に同じ条項があるか,終了確認が何を対象とし,何を留保していたかは別に確認する。
設計書の承認や一工程の支払が,後の設計・開発上の問題をすべて解消するという意味にはならない。

要件定義では,ユーザーが業務上の優先順位を決める役割と,ベンダーが要求を整理し,実現方法,必要な工数,費用・納期への影響を説明する役割を対応させる。
契約書に「ユーザー主体」「ベンダーは支援」とあっても,実際に誰が調査・分析し,誰が設計書を起案したかを確認する。
準委任でも,予定時間を費やしたことと,引き受けた専門業務を適切に行ったことは同じではない。

第3 文化シヤッター事件の東京地裁判決
1 準委任という条項があっても不完全履行が認められた

東京地裁令和4年6月17日判決は,販売管理等に用いるシステムの開発・構築支援が頓挫した事件である。
共通約款には,顧客の管理・監督の下で業務を完成させることや,契約の性質が請負ではなく準委任であることが記載されていた。
裁判所は,ユーザーに提供された成果物について,技術的な制約等により社会通念上運用可能なものとして完成させることが困難で,合理的な期間内の本番稼働を見通せる状態になかったと判断した。

(続きを読む...)準委任のシステム開発が失敗したら―報酬,開発管理義務と損害賠償(AI作成)

M&Aの契約締結後に実行できないとき―前提条件・延期・解除・条件放棄(AI作成)

目次

第1 契約締結とクロージングは別の段階である第2 前提条件・誓約事項・解除条項を分ける1 何の義務に付された前提条件か2 条件を満たすために誰が何をするのか3 期限経過後に使える手段を確認する第3 最終契約後に取得を断念した公表例第4 実行前に作る条件確認表1 条件・担当・証拠・期限を一つの表で管理する2 株式譲渡でも同意や許認可の確認を省かない3 事業譲渡では資産・契約・従業員・許認可を同時に確認する4 経営者保証は解除の完了を別に確認する第5 延期する場合と条件を放棄する場合1 延期は日付以外も見直す2 条件放棄は第三者の承諾や法令を置き換えない第6 実行しない場合の解除と損害賠償第7 参照資料
第1 契約締結とクロージングは別の段階である

M&Aの最終契約に署名しても,その日に代金の支払と株式の移転を行うとは限らない。
必要な許認可,重要取引先の同意,借換え,経営者保証の解除等を準備し,クロージング日に実行する契約がある。
署名後にこれらの準備が整わないときは,前提条件,準備のための義務,延期・解除の規定を分けて読む。

この記事は,主として非上場会社の株式譲渡を対象に,最終契約の締結後に予定どおり実行できない場合の確認手順を説明する。
前提条件が一つ満たされないことから,契約全体が当然に無効となり,違約金や損害賠償が発生すると決め付けることはできない。

第2 前提条件・誓約事項・解除条項を分ける
1 何の義務に付された前提条件か

クロージングの前提条件(CP)は,買主又は売主が実行日に義務を履行するための条件として定められることがある。
契約自体の効力発生に付された条件なのか,代金支払等の実行義務の条件なのかを確認する。
民法127条の条件に関する規定を挙げるだけでは,個別契約のどの部分が条件付きかまでは決まらない。

例えば,取引先の同意が未取得でも,秘密保持,通常の事業運営,情報提供又は同意取得へ向けた協力の義務は既に発生していることがある。
実行義務の条件が満たされないことと,それまでの義務が存在しないことは別である。

2 条件を満たすために誰が何をするのか

「銀行の同意を得る」という条件だけでなく,誰が相談し,誰が資料を提出し,どの期限までに,どの程度の対応をする義務を負うかを定める。
第三者の判断そのものを保証する義務か,合理的な努力等を尽くす義務かによっても検討は変わる。
条件の未成就と,そのための準備義務の違反を分けて記録する。

3 期限経過後に使える手段を確認する

契約で定めた最終期限までに条件が満たされない場合,誰が解除できるか,通知・催告が必要か,自分の義務違反により未成就を招いた当事者にも解除権があるかを確認する。
契約上の解除条項とは別に法定解除を検討する場合も,民法541条・542条・543条の要件を個別に検討する必要がある。

例えば,「最終期限の経過により本契約は終了する」という条項と,「最終期限までに条件が満たされない場合,買主は通知により解除できる」という条項とでは,終了に必要な行為が異なる。
自動終了の有無,解除できる者,通知の方法・到達期限及び終了後に存続する条項を確認する。

第3 最終契約後に取得を断念した公表例

ローソンの平成21年3月14日発表は,am/pmの株式及び貸付債権の取得に関する最終契約を同月13日に締結したことを公表し,実行に向けた前提条件として商標権者との合意等を挙げていた。
しかし,同年5月19日の発表では,商標権者との合意形成が困難であること等を踏まえ,協議の結果,株式等の取得を断念した旨を公表した。

この事例は,最終契約の締結発表と買収の実行完了が同じではないことを示す。
一方,企業の発表は裁判所の判断ではなく,契約全文もこれらの発表から確認できない。
誰に契約違反や損害賠償責任があったかまでを,この発表だけで断定することはできない。

(続きを読む...)M&Aの契約締結後に実行できないとき―前提条件・延期・解除・条件放棄(AI作成)

M&Aの基本合意は撤回できるか―独占交渉・交渉打切りと損害賠償(AI作成)

目次

第1 「基本合意書」という題名だけでは拘束力は決まらない第2 どの条項が法的拘束力を持つのか1 取引条件と交渉中の義務を分けて読む2 留保を付けるなら相手方への説明もそろえる第3 独占交渉義務とUFJ事件の最高裁決定1 最終契約の義務がなくても独占交渉義務は問題になる2 「差止めが認められない」と「違反しても責任がない」は別である第4 交渉打切りと調査費用・準備費用1 契約が成立しなかっただけで費用を全額請求できるわけではない2 過大な期待を与えて支出させた事案の最高裁判決第5 交渉を続けない場合の確認手順1 打切り理由と未解決事項を記録する2 通知と交渉終了後に残る義務を確認する第6 仲介・FA契約の専任条項と混同しない第7 参照資料
第1 「基本合意書」という題名だけでは拘束力は決まらない

M&Aの基本合意書に署名した後で,DDの結果が想定と違う,資金調達ができない,又は別の候補先と交渉したいという事情が生じることがある。
この場合,取引を実行する義務,独占交渉義務,秘密保持義務及び費用の負担を分けて確認する。
最終契約を締結する義務がないことから,基本合意のすべてを自由に無視できるとは限らない。

この記事は,主として非上場会社の売主・買主間の基本合意を対象に,交渉を続けない場合の確認手順を説明する。
仲介者・FAへ支払う報酬や,その専任条項は別の契約関係である。

第2 どの条項が法的拘束力を持つのか
1 取引条件と交渉中の義務を分けて読む

基本合意では,予定価格,譲渡対象,日程等を暫定条件としながら,独占交渉,秘密保持,費用負担及び準拠法等を法的拘束力のある条項とすることがある。
ただし,これがすべての基本合意に共通する決まりというわけではない。
拘束力を定める条項が,どの条番号を挙げ,どの義務を除いているかを実際の文面で確認する。

確認する事項特に読む点最終契約の締結・買収の実行既に義務を負うのか,DDや機関決定を経て改めて合意するのか予定価格・従業員処遇確定した約束か,今後の協議条件か。拘束力条項の対象か独占交渉禁止される行為,相手方,期間及び解除条件秘密保持・資料管理交渉終了後の存続,返還・削除と法令上の保存の扱い調査費用・違約金自己負担の原則,例外,発生事由,金額又は計算方法
2 留保を付けるなら相手方への説明もそろえる

社内決裁,融資,重要取引先の同意等を前提とするなら,何が未了で,誰の判断を要し,いつ判断できるのかを明らかにする。
書面では未確定としていても,担当者が「承認は終わっている」などと説明し,相手方に大きな支出をさせた場合は,その説明と交渉経過も問題になる。

契約書への署名を成立条件にしたか等の一般的な問題は,口頭合意・契約書と契約成立の留保で扱っている。

第3 独占交渉義務とUFJ事件の最高裁決定
1 最終契約の義務がなくても独占交渉義務は問題になる

独占交渉条項については,第三者への情報提供,勧誘,提案の受領,協議及び契約のうち,何を禁じているかを読む。
「独占」という言葉だけで範囲が確定するわけではない。
既存の候補先との接触をどう扱うか,義務を負う当事者・関係会社の範囲,期限延長の手続も確認する。

最高裁平成16年8月30日決定(平成16年(許)第19号,民集58巻6号1763頁)は,UFJグループの事業に関する基本合意の独占交渉条項をめぐる仮処分の事案である。
基本合意には,最終的な合意に達する義務がない旨の条項があった。
最高裁は,独占交渉義務が当然に消滅したとはせず,他方で,この事案における仮処分の必要性を認めなかった。

2 「差止めが認められない」と「違反しても責任がない」は別である

同決定は,具体的な合意内容に即して,交渉への期待に関する利益と取引が実行された場合の利益を区別し,保全の必要性を検討したものである。
基本合意が無効だとか,独占交渉違反に損害賠償責任が生じないという一般的な判断ではない。

売主が別の候補先へ移りたいときは,まず期間満了,中途終了の事由,解除・通知の方式及び違約金を確認する。
期限を延長する場合も,無期限の拘束にならないよう,未了事項と次の期限を書面で合意することが考えられる。

(続きを読む...)M&Aの基本合意は撤回できるか―独占交渉・交渉打切りと損害賠償(AI作成)

M&Aの表明保証違反が発覚したら―簿外債務・架空売上と補償請求(AI作成)

目次

第1 表明保証違反が見つかったときに確認すること第2 契約書と開示資料を対応させる1 保証した事項・時点・当事者を特定する2 DDで開示しただけで免責されるとは限らない3 売主は開示・責任範囲・第三者請求手続を一体で確認する第3 DD不足と買主の認識に関する裁判例1 東京地裁平成18年1月17日判決2 大阪地裁平成23年7月25日判決第4 損害額は「発見した金額」と一致するとは限らない1 架空売上と買収価格の関係2 価格調整・補償・後払いを混同しない第5 期限・上限・少額免責を確認する1 通知期限と請求期限を区別する2 免責金額の仕組みによって結論が変わる第6 請求と防御のために残す資料第7 参照資料
第1 表明保証違反が見つかったときに確認すること

M&Aで会社を買った後に簿外債務,架空売上,未払税金等が見つかっても,その額をそのまま売主へ請求できるとは限らない。
契約上の表明保証,開示による例外,補償の対象,通知・請求の期限,責任上限及び損害の計算を順に確認する必要がある。

この記事は,主として非上場会社の株式譲渡を対象に,買主が補償請求を検討する手順と,売主が契約・開示の段階で確認すべき点を説明する。
「表明保証違反があるか」と「その違反について,誰が,いくら,いつまでに請求できるか」は別の問題である。

発覚直後には,契約書・開示資料・価格算定資料を確保し,期限を確認するとともに,取引の変更や税務上の修正を先に行ってよいかを検討する。
補償請求に関係する第三者との和解等について,売主への通知・協議・同意を契約が要求していることがあるためである。

第2 契約書と開示資料を対応させる
1 保証した事項・時点・当事者を特定する

まず,問題の事実がどの表明保証に反するかを特定する。
財務諸表の正確性,重要な債務の不存在,納税,許認可,重要契約,労務等の条項は,対象とする事実も例外も異なる。
契約締結時とクロージング時の両方で保証するのか,一定の日付の財務諸表だけを保証するのか,重要性や売主の認識による限定があるのかを読む。

対象会社の損失について,株式の買主自身が請求できるかも確認する。
対象会社と株主である買主は別の法人・主体であり,契約に対象会社の損失を買主の損失として扱う規定がある場合と,ない場合を一緒にしない。

2 DDで開示しただけで免責されるとは限らない

デュー・ディリジェンス(DD)で資料を渡したことと,その事項を表明保証の例外として合意したことは同じではない。
開示資料に記載した事項をどの範囲で例外とする契約なのか,例外事項を個別に列挙する必要があるのかを確かめる。

売主は,資料の名称・版・開示日時・対象条項を対応させて残す。
買主も,資料室の最終データ,質問回答及び開示リストを保存し,契約締結後に更新された資料と区別する。
膨大な資料を資料室へ入れたという事実だけで,問題が十分に開示されたかまで決まるわけではない。

3 売主は開示・責任範囲・第三者請求手続を一体で確認する

売主は,データルームに資料を置くだけでなく,開示書面で,どの表明保証の例外として何を開示するかを具体的に対応させる必要がある。
買主の現実の認識だけで補償請求を排除するのか,契約締結前に知っていた違反でも請求できるのかは,いわゆるサンドバッキング条項の有無によって結論が変わり得る。

通常の表明保証については,知識限定,重要性限定,請求期間,上限額,少額免責及びバスケットを組み合わせる。
権限・権利帰属・故意による違反等の基本事項と,通常の事業上の表明保証を同じ責任条件にする必要はない。

逸失利益・間接損害の扱い,損害軽減義務,保険金等の控除,二重回収の禁止及び第三者請求への防御参加も,補償条項で定める。
補償を契約上の唯一の救済とする場合は,詐欺・故意,差止めその他の例外をどこまで残すかを確認する。

事業譲渡では,表明保証の対象を対象事業及び譲渡対象財産に結び付ける必要がある。
事業譲渡契約全体の確認事項は,事業譲渡契約書のチェックポイント―売主・買主別に見る譲渡対象,代金,前提条件,表明保証及び補償(AI作成)を参照されたい。

(続きを読む...)M&Aの表明保証違反が発覚したら―簿外債務・架空売上と補償請求(AI作成)

ESTA・ETAの申請代行サイトで高額請求されたら―申請状況,解約・返金とカード会社への相談(AI作成)

目次

第1 渡航手続の確認と返金交渉を同時に進める1 申請済みの場合2 申請が確認できない場合第2 公式サイトと最新料金の調べ方1 米国のESTA2 英国のETA第3 代行業者への解約・返金申入れ1 保存する資料2 申入れの理由を具体化する第4 カード会社・消費生活相談窓口への相談第5 海外旅行の公的情報をまとめて確認する
第1 渡航手続の確認と返金交渉を同時に進める

ESTAやETAを公式サイトで申し込んだつもりが,民間の申請代行サイトから高額な料金を請求された場合は,実際の申請状況を公式窓口で確認することが先決である。
返金交渉が続いていても,渡航に必要な手続が完了しているとは限らない。
申請の有無,登録情報及び審査状況の確認と,代行業者への解約・返金の申入れを分けて進める必要がある。

国民生活センターは,公式サイトと勘違いした例だけでなく,申請されたか分からない例や,キャンセルできない例も紹介している。
高額な代行料を支払ったという一つの事情から,申請が無効である,又は全額返金を請求できると一律に判断することはできない。
出典:国民生活センター・電子渡航認証等の申請代行サイトに関する注意喚起

1 申請済みの場合

公式の照会画面等で申請状況を確認できた場合は,旅券番号,氏名その他の登録情報が正しいかを確認する。
代行料の説明や同意に問題がなかったかという契約上の争点と,認証手続の有効性は別の問題となる。
承認されている場合でも,それだけで入国が保証されるわけではない。

2 申請が確認できない場合

代行業者には,申請番号,提出日時及び手続状況を尋ねる。
出発が迫っている場合は,必要な手続と処理期間を公式窓口や航空会社に確認し,返金の回答を待つだけで時間を失わないようにする。
重複申請や再申請の要否も,業者の説明だけで判断しない。

第2 公式サイトと最新料金の調べ方
1 米国のESTA

米国の公式申請先は esta.cbp.dhs.gov である。
米国連邦取引委員会(FTC)の案内は,公式サイトに似せたサイトへの注意を促すとともに,公式サイトで申請状況を照会する方法を案内している。
検索結果の広告表示や,サイトの名称に「公式」を連想させる言葉があることだけで判断せず,接続先のドメインを確認する。

令和8年10月22日に確認したFTCの説明では,公式料金は申請処理料10.27米ドルと,承認された場合の追加30米ドルで構成される。
処理料は承認の有無にかかわらず返金されないと説明されているが,これは政府に納める処理料についての説明であり,民間業者への代行料の返金可否を決めるものではない。
料金や申請方法は変更されるため,実際の申請時には公式サイトの最新表示を確認する必要がある。
出典:FTC・How to avoid scams while applying for ESTA

2 英国のETA

英国政府の公式案内は GOV.UKのETA案内 である。
令和8年10月22日に確認した同ページは,料金を20ポンドとし,他のサイトでは追加料金が生じる場合があること,政府サービスを模倣するサイトを避けることを案内している。
既にETAがあるか,有効期限がいつかを確認するための公式照会先も,同ページからたどることができる。

「ETA」という略称が同じでも,国によって制度,申請先及び料金は異なる。

(続きを読む...)ESTA・ETAの申請代行サイトで高額請求されたら―申請状況,解約・返金とカード会社への相談(AI作成)

海外サブスクの解約と返金―継続課金を止める手順,証拠の残し方と相談先(AI作成)

目次

第1 身に覚えのない継続課金に気付いたとき1 自分の申込みによる請求かを確認する2 サービスの利用停止と契約の解約を区別する第2 解約できないときに残す資料第3 事業者への申入れ方1 今後の自動更新を止める申入れ2 既に支払った代金の返金を求める申入れ3 日本法による取消し等を一律に断定しない第4 カード会社と消費生活相談窓口への相談第5 相談に持参する時系列メモ
第1 身に覚えのない継続課金に気付いたとき

海外のサービスから毎月請求されていると気付いたときは,契約先と請求内容を確認し,今後の更新を止める手続と,既に支払った代金の返金申入れを分けて進める必要がある。
まず,利用したサイト,申込完了メール,アカウントの契約画面及びカード利用明細を保存し,契約先の解約窓口とカード会社に連絡する。

国民生活センターは,安価な試用だと思って申し込んだ後に月額料金が発生する海外サブスクリプションの相談事例を公表している。
少額の初回決済だけで契約内容を判断せず,自動更新の有無,次回請求日及び解約条件まで確かめることが出発点となる。
出典:国民生活センター・海外サブスクリプション契約の注意喚起

1 自分の申込みによる請求かを確認する

最初に,請求日,金額,通貨,明細上の事業者名及び利用したメールアドレスを照合する。
家族の利用,別のアカウント,アプリストア経由の契約も考えられるため,明細の表示だけで請求先を決めつけない。
申込み自体に心当たりがないときは,不正利用の疑いとしてカード会社にその旨を伝える。

2 サービスの利用停止と契約の解約を区別する

アプリを削除したこと,サイトにアクセスしなくなったこと及びカードを変更したことだけで,事業者との契約が解約されたとは判断できない。
契約画面や規約に従って自動更新の停止又は解約を申し入れ,処理完了画面と確認メールを保存する。
解約後も利用できる契約では,利用終了日と次回更新が停止したことをそれぞれ確認する。

第2 解約できないときに残す資料

解約ボタンが見つからない場合や,操作してもエラーになる場合は,その画面と日時を記録する。
問い合わせフォームを送信した場合も,送信内容,受付番号,自動返信及びその後の回答を一組で残す。
個人情報が写る画面は,第三者への相談時に必要な範囲で提示し,公開の掲示板等には載せない。

次の資料があれば,いつ,何を,どの条件で申し込んだのかを説明しやすい。

- 申込みに至った広告,サイトのURL及び価格表示
- 試用期間,自動更新,請求周期及び解約期限の表示
- 最終確認画面,申込完了メール及び当時の利用規約
- 各回の請求日・金額・通貨が分かる利用明細
- 解約操作の記録,連絡履歴及び解約完了の通知

契約時の表示は後から変わることがある。
現在の画面だけで当時の説明を再現しようとせず,保存済みのメールや画像を優先して整理する。

第3 事業者への申入れ方
1 今後の自動更新を止める申入れ

事業者には,契約を特定できるメールアドレスや注文番号を示して,自動更新の停止又は解約を求める。

(続きを読む...)海外サブスクの解約と返金―継続課金を止める手順,証拠の残し方と相談先(AI作成)

イベント中止のキャンセル料は誰が負担するか―参加費の返金,委託費と興行中止保険(AI作成)

目次

第1 イベントを中止すると,どの費用が残るのか第2 会場代・設営費・出演料は契約ごとに確認する1 最初にキャンセル条項を読む2 「業務委託」という名称だけでは清算方法は決まらない第3 主催者に落ち度がなくても参加費の返金が問題になる1 損害賠償と解除による返還は別である2 別日への振替えは参加者の選択と結び付ける第4 興行中止保険で何を補えるか1 商品名よりも対象事故・対象費用を確認する2 返金義務と保険金支払義務は連動するとは限らない第5 中止決定から清算までに残す資料
第1 イベントを中止すると,どの費用が残るのか

台風や強風のためにイベントを中止するときは,安全に開催できるかという判断と,中止後に誰が費用を負担するかという判断を分ける必要がある。中止がやむを得なかったことだけで,会場代,業務委託料,参加費の返金及び保険金の結論がすべて決まるわけではない。

主催者は,まず支払先と受領した金銭を整理する。少なくとも,次の三つを別の表で管理すると,返金と保険金を混同しにくい。

- 会場,設営会社,出演者などに対して支払う金銭
- 参加者から受け取った参加費・チケット代金
- 保険会社に請求する中止費用等の保険金

本記事は,日本国内の一般的なイベントについて,令和8年10月22日までに確認した法令,公開判決及び保険会社の公開説明をもとに整理するものである。具体的な負担額は,各契約の内容と中止原因によって変わる。

第2 会場代・設営費・出演料は契約ごとに確認する
1 最初にキャンセル条項を読む

契約書だけでなく,申込画面,利用規約,見積書,発注書及びメールに,中止・延期の場合の条件がないかを確認する。「主催者都合の解約」と「悪天候による開催不能」が同じ扱いか,中止決定の時点で料率が変わるか,延期時に既払金を充当できるかが重要である。

法務省のイベント等の中止に関する説明も,まず契約条項によってキャンセル料や返金の扱いを確認することを示している。ただし,同説明は新型コロナウイルス感染症に関連したものであり,現在のすべてのイベントについて同じ結論を示すものではない。法務省の説明

条項があれば必ずそのまま有効になるとも限らない。契約への組入れ,条項の意味及び強行法規との関係を確認する。主催者と業者との事業者間契約に,消費者契約の規律をそのまま当てはめることも避けるべきである。

2 「業務委託」という名称だけでは清算方法は決まらない

民法641条は,請負人が仕事を完成しない間は,注文者が「いつでも損害を賠償して契約の解除をすることができる」と定める。これは,注文者が自由に中止すれば無償で解約できるという規定ではない。

一方,委任の解除には民法651条の規律があり,準委任には同法656条による準用がある。イベント運営の委託が,仕事の完成を目的とする請負か,事務処理を目的とする準委任か,複数の契約が組み合わされたものかを確認する必要がある。既に実施した業務の報酬・必要費と,解除による損害賠償も分けて検討する。民法

民法536条1項は,双方に帰責事由がない履行不能の場合に,反対給付の履行を拒むことができると定める。しかし,会場自体は使用できるのに主催者が別の理由で開催を取りやめた場合まで,当然に同じ扱いになるものではない。どの債務が,どの原因によって履行できなくなったのかを契約ごとに特定することが出発点である。

第3 主催者に落ち度がなくても参加費の返金が問題になる
1 損害賠償と解除による返還は別である

大阪地裁令和7年11月7日判決(令和5年(ワ)第3112号)は,強風によって中止されたランタンイベントのチケット代金を扱った。裁判所は,中止を安全確保のためのやむを得ない判断として,主催者の帰責性を否定した。他方,特定日に開催する債務は履行不能になったとして,解除に基づく代金相当額の原状回復義務を認めた。

また,この事件の不返金条項について,強風による中止はその対象に当たらないと判断した。「中止が合理的なら返金しなくてよい」という結論にはならないことを示す事例である。公開判決・本文19~25頁

これは,あらゆる不返金条項を無効とした判決でも,主催者に参加者のすべての損失の賠償を命じた判決でもない。返金の可否と,交通費・宿泊費などの追加損害を賠償する義務の有無は,請求根拠を分けて考える必要がある。民法415条,542条及び545条の関係も,その区別を踏まえて確認する。

2 別日への振替えは参加者の選択と結び付ける

同判決は,主催者が別イベントへの振替えを申し出たことだけで,もとの特定日に開催する債務の履行不能が解消するとはしなかった。延期・振替えで対応する場合は,参加者がその条件に合意したかを記録しておくべきである。

「中止」「延期」「別イベントへの振替え」を案内上も区別し,対象者,返金又は振替えの選択方法,申出先及び期限を分かりやすく示す方法が考えられる。これは紛争を減らすための運用上の提案であり,すべての契約に同一の手順を義務付けるものではない。

第4 興行中止保険で何を補えるか
1 商品名よりも対象事故・対象費用を確認する

三井住友海上の公開説明では,契約上特定した偶然な事故によってイベントが中止等の影響を受けた場合に,費用又は喪失利益を補償するとしている。悪天候等の例が示されているが,個別契約で何を対象にしたかの確認が必要である。同社の補償内容

確認する資料は,見積書やパンフレットだけでなく,保険証券,適用約款及び特約である。担当者は,次の点を保険会社・代理店に照会し,回答を残しておくとよい。

- 雨,強風,猛暑,感染症,出演者の不参加など,どの原因が対象か

(続きを読む...)イベント中止のキャンセル料は誰が負担するか―参加費の返金,委託費と興行中止保険(AI作成)

フィジカルAI・ロボットの導入契約―実証実験,検収,追加変更と保守の確認事項(AI作成)

目次

第1 ロボットの導入契約は実機と現場を結び付けて作る第2 購入・開発・利用・保守を一枚の範囲表へ整理する1 誰が何を納め,何を継続するのか2 AIモデルの不確実性とシステムの約束を混同しない第3 実証実験で成功した条件を検収基準へつなぐ1 成功率は条件と分母をセットにする2 検収合格と運用開始を分ける場合第4 検収拒絶と追加要望を扱った裁判例1 仕様と完成の認定が結論を左右した事例2 追加作業をしただけでは費用請求が認められない場合第5 更新・ログ・事故対応を契約の終了まで定める1 更新の承認と戻し方2 ログを保有する者と取得できる者3 責任制限と保険だけで調査手順を置き換えない第6 契約書に落とすときの設計例第7 関連記事と一次資料
第1 ロボットの導入契約は実機と現場を結び付けて作る

フィジカルAIや倉庫ロボットの導入では,「デモで動いた」「AIの精度が高い」という説明だけでは,納入後に何ができれば合格なのか決まらない。
対象の荷物,通路,照明,人の立入り,通信,連続稼働及び異常時の停止・復旧まで,利用する現場の条件と結び付けて合意する必要がある。
実証実験の成功と,本番の契約上の完成・検収,さらに運用中の安全確保は,分けて設計すべきである。

本記事は,企業が工場・倉庫等へロボットを導入する契約を対象とし,令和8年10月22日までに確認した公式資料と裁判例を基に,契約審査で確認する事項を示す。
以下の確認表と条項の設計例は,特定の契約にそのまま使える公的なひな型ではない。
既存のAIサービス一般の責任論に加え,機体・制御ソフト・クラウド・現場設備の境界で生じる問題を中心に扱う。

第2 購入・開発・利用・保守を一枚の範囲表へ整理する
1 誰が何を納め,何を継続するのか

契約書の表題が「売買」「サービス利用」「共同実証」のどれであっても,その表題だけで全ての義務は決まらない。
機体の納入,現場での調整,個別開発,クラウド利用,教育,点検及び更新が,どの会社のどの契約に含まれるかを一覧にする。

対象合意する事項機体・付属設備型式,台数,センサー,充電設備,安全装置,設置・調整の担当ソフト・モデル使用する版,機体との組合せ,利用許諾,設定変更の権限現場への適合対象の荷姿,通路・床面,人との分離,既存設備との接続継続サービス通信・クラウド,監視,問い合わせ,障害対応,更新・保守の期間導入企業の協力試験用の現場・荷物・データ,担当者,立会いと判断期限

販売代理店が窓口でも,事故解析や更新停止を実行する会社が別である場合がある。
契約上の通知先だけでなく,現場で止められる者,更新を戻せる者,ログを出せる者まで確認すべきである。
一社との契約が終わったとき,機体・クラウド・保守の残りの契約だけで運用を続けられるかも確認する。

2 AIモデルの不確実性とシステムの約束を混同しない

経済産業省の「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」は,AIモデルそのものの開発では,完成義務や性能保証の設定が容易でない点を指摘する一方,モデルを含むAIシステムの開発では,出力の不確実性を考慮した設計や,一定の担保責任が合理的な場合もあると説明している(本文32頁,PDF33頁)。
「AIを使うので全て保証しない」と一括する説明では,搬送能力,停止機能,接続仕様又は保守対応について何を約束したのかが曖昧になる。

実現できるかを調べる実証段階と,実現可能と判断した範囲を納める段階では,成果物,報酬及び終了条件を分けて合意する。
全工程を一律に請負又は準委任と呼ぶより,各工程で引き受ける作業と結果を具体化することが重要である。

クラウドを組み込む場合は,標準機能で対応する部分,設定で対応する部分及び個別開発する部分を分け,処理量,通信条件,外部連携,利用プラン及び更新時の改修負担を範囲表に対応させる。
これは契約設計上の提案であり,特定製品の現在の性能を示すものではない。
システム開発を扱う東京地裁令和4年6月17日判決(平成29年(ワ)第39859号・平成30年(ワ)第9239号,判例秘書の判例番号 L07732123)では,採用した基盤の技術的な制約と個別開発の進め方が問題になった。
この判決はロボット事故について判断したものではないが,導入提案と実際の構成・検証条件を照合する必要性を考える参考となる。

第3 実証実験で成功した条件を検収基準へつなぐ
1 成功率は条件と分母をセットにする

「搬送成功率99%」だけでは,荷物の種類,試行回数,途中で人が助けた回数又は再試行の扱いが分からない。
通常の運転に加え,荷詰まり,障害物,人の接近,通信断,充電不足及び再起動を,安全に実施できる試験計画で評価する。
試験のために人を危険へさらすことを合意する趣旨ではなく,隔離,模擬条件及び専門担当者の管理が前提となる。

(続きを読む...)フィジカルAI・ロボットの導入契約―実証実験,検収,追加変更と保守の確認事項(AI作成)

詐害的事業譲渡と残存債権者の請求―会社法23条の2の要件・期間と倒産手続(AI作成)

目次

第1 事業だけ移されても譲受会社へ請求できる場合がある第2 残存債権者と請求先を特定する第3 債権者への不利益と両会社の認識を調べる1 譲渡会社が残存債権者を害することを知っていたか2 譲受会社が効力発生時に何を知っていたか第4 請求できる額には限度がある第5 2年と10年の期間を別々に管理する第6 倒産手続開始後と他の請求を区別する第7 早期に集める資料と相談の準備第8 関連記事第9 出典と判断の範囲
第1 事業だけ移されても譲受会社へ請求できる場合がある

会社の事業・資産が別会社へ移り,自分の債権だけが旧会社に残された場合には,会社法23条の2による譲受会社への請求を検討する。
同条は,所定の要件を満たす残存債権者に,承継した財産の価額を限度として債務の履行を請求する道を認めている。
事業譲渡や債務の除外があっただけで成立する請求ではなく,債権者への不利益と両会社の認識を調べる必要がある。

本記事は,令和8年10月20日に確認した会社法を中心に,会社間の事業譲渡における請求の確認順序を説明する。
商号を続用した責任,民法上の詐害行為取消し及び倒産手続での否認は,それぞれの制度として区別する。

第2 残存債権者と請求先を特定する

会社法23条の2の残存債権者とは,譲受会社に承継されない債務の債権者をいう。
まず,元の契約相手,債権の発生原因・金額・弁済期,事業譲渡契約による債務の扱いを確認する。
譲渡会社に請求する問題と,同条により譲受会社へ請求する問題を分けることが必要である。

契約書に債務不承継と書かれていることは,譲受会社に対する同条の請求を当然に排除する理由にはならない。
反対に,自分が譲渡契約の債務一覧に載っていないという事情だけで,詐害性や認識まで証明されたことにもならない。

会社名や店舗名が似ている場合も,登記履歴と契約資料により両法人を区別する。
同じ商号の会社への表示訂正と,別法人を相手方とする責任追及は異なる。

第3 債権者への不利益と両会社の認識を調べる
1 譲渡会社が残存債権者を害することを知っていたか

同条1項本文は,譲渡会社が残存債権者を害することを知って事業を譲渡した場合を対象とする。
譲渡対象資産だけでなく,対価が旧会社に実際に入ったか,その後どこへ支払われたか,旧会社にどの資産・負債・弁済原資が残ったかを調べる。

事業を低額で移した,対価を関係者へ流したという事情は調査の端緒となる。
もっとも,帳簿価額と売却額の差や役員の共通性だけで,直ちに全要件を満たすと決め付けてはならない。
価格の根拠,債務の選別,資金移動を客観資料で確認する必要がある。

2 譲受会社が効力発生時に何を知っていたか

同項ただし書は,譲受会社が事業譲渡の効力発生時に残存債権者を害することを知らなかったときは,この責任を負わないと定める。
譲渡会社の認識と譲受会社の認識を一つにまとめず,それぞれの担当者,入手資料,説明を受けた日を時系列で確認する。

契約後に届いた督促状だけから,契約交渉時や効力発生時に同じ情報を知っていたと断定しない。
財務調査の資料,債権者一覧,送金指図,取締役会等の資料,交渉メールが,いつ誰に共有されたかを対応させることが実務上有用である。

第4 請求できる額には限度がある

同条1項の請求は,譲受会社が承継した財産の価額を限度とする。
元の債権額と承継財産の価額は別に確認し,旧会社の負債全額を当然に譲受会社へ移せる制度として説明してはならない。

(続きを読む...)詐害的事業譲渡と残存債権者の請求―会社法23条の2の要件・期間と倒産手続(AI作成)

事業譲渡で屋号・ブランドを続用すると旧債務を負うか―商号続用責任と判例(AI作成)

目次

第1 会社名を変えても旧債務の責任が問題になる第2 商号・屋号・商品商標を分ける第3 最高裁平成16年2月20日判決の内容1 ゴルフクラブ名を引き継いだ事案である2 名称が営業主体を表示する機能を重視した3 特段の事情の審理のため破棄差戻しとなった第4 どの表示と証拠を確認するか第5 免責通知・債務引受広告・名板貸しと区別する第6 譲受会社と債権者が行う確認第7 関連記事第8 出典と適用範囲
第1 会社名を変えても旧債務の責任が問題になる

事業譲渡の前後で会社の商号が変わっていても,同じ屋号やブランドを使っていれば,譲受会社の旧債務に対する責任が問題になることがある。
ただし,名称が同じという一事だけで責任が決まるわけではない。
その表示が商品を識別するだけなのか,事業を営む主体を示しているのかを,実際の使われ方から確認する必要がある。

本記事は,会社間の事業譲渡について,令和8年10月20日に確認した会社法と最高裁平成16年2月20日第二小法廷判決を基に整理する。
旧会社の債権者が譲受会社へ請求する問題を扱い,名称の使用を許した名義人への請求は区別する。

第2 商号・屋号・商品商標を分ける

会社法22条1項は,譲受会社が譲渡会社の商号を引き続き使用する場合に,譲渡会社の事業によって生じた債務について譲受会社にも弁済責任を負わせる。
譲渡契約で旧債務を除外したことと,この対外責任が生じるかは別の問題である。

商号ではない店舗名・施設名等については,同項が当然に直接適用されるとして処理せず,商号続用責任を類推できるかを検討する。
商品の品質や出所を示す商標を引き継いだだけなのか,取引先や顧客に営業主体を示す名称としても使われていたのかが,検討の出発点となる。

第3 最高裁平成16年2月20日判決の内容
1 ゴルフクラブ名を引き継いだ事案である

最高裁平成16年2月20日第二小法廷判決(平成14年(受)第399号,民集58巻2号367頁)は,ゴルフ場の営業を譲り受けた会社が,旧会社の商号は使わず,同じゴルフクラブ名で経営を続けた事案を扱った。
会員は,旧会社へ預託した1300万円について,譲受会社への返還を求めた。
原審では,譲受会社が預託金返還債務を契約上引き受けた事実は認定されていなかった。

2 名称が営業主体を表示する機能を重視した

最高裁は,当該クラブ名がゴルフ場の営業主体を示すものとして用いられていると評価した。
そのような名称を譲受人が続用するときは,特段の事情がない限り,旧商法26条1項の類推適用により預託金返還義務を負うとした。
会員が同じ主体による営業の継続,又は主体が変わっても旧債務が引き受けられたと信じることが無理からぬものとなる点を説明している。

3 特段の事情の審理のため破棄差戻しとなった

判決は,譲受後遅滞なく会員の施設優先利用を拒否したなどの特段の事情に言及した。
その有無を更に審理させるため原判決を破棄して差し戻しており,この判決だけで当該事件の最終的な支払義務が確定したと説明してはならない。

この法理は旧商法のゴルフ場事案について示されたものである。
現在の会社法22条の類推適用や,他の業種の商品ブランドへ検討を進める場合には,表示の機能と事案の違いを具体的に示す必要がある。
単に同じロゴ・商品名が残ったという理由で,すべての旧債務を引き受けたと結論付けることはできない。

第4 どの表示と証拠を確認するか

次の表は,判決の考え方を踏まえた調査上の整理である。
各資料が一つあるだけで責任が決まるものではなく,譲渡前後の使われ方と当該債権との関係を照合する。

(続きを読む...)事業譲渡で屋号・ブランドを続用すると旧債務を負うか―商号続用責任と判例(AI作成)

日本版DBSとフランチャイズ学習塾―本部・加盟教室の認定,犯罪事実確認と役割分担(AI作成)

目次

第1 フランチャイズ学習塾の結論と基準日1 本部の認定だけで加盟教室を一括して扱うことはできない2 令和8年12月25日の施行に向けた準備を扱う第2 認定主体と教授者3人以上の要件1 同一事業の複数教室と別経営主体のFCを分ける2 3人は全社員数ではなく教授者の人数である第3 共同認定を検討するのはどのような場合か1 同一事業の運営全体を任せているかを確かめる2 共同認定でも措置の役割と情報の流れを定める第4 本部と加盟事業者の役割分担1 法定措置の主体と共通支援を対応させる2 本部の是正対応と講師の雇用上の措置を分ける第5 確認記録を本部へ集める設計の限界1 通常の管理委託や本人同意だけでは提供できない2 内部共有・共同認定・クラウド保存を区別する3 被害申告・相談記録の連絡まで一律に禁止しない第6 共通広告と保護者への説明1 認定済みと未認定の教室を混同させない2 認定取得と全講師の確認完了も区別する第7 契約・規程で整理しておきたい事項1 実施主体・報告範囲・是正手順を具体化する2 共通基準を各教室の行動と相談経路へ落とし込む第8 よくある質問1 本部の認定があれば,教授者2人の加盟者も対象になるか2 本部が規程・研修を支援することも禁止されるか3 本部のクラウドに保存すれば管理負担をまとめられるか第9 出典と適用範囲1 法令とこども家庭庁の公式資料2 個別の事業では契約と運営の実態を確認する
第1 フランチャイズ学習塾の結論と基準日
1 本部の認定だけで加盟教室を一括して扱うことはできない

日本版DBSに対応するフランチャイズ学習塾では,最初に,誰の事業として各教室を運営しているかを確認する必要がある。
経営主体が異なる通常のフランチャイズでは,同じブランドを使っていても,それぞれの事業者が認定を申請する。
本部の認定だけで加盟事業者の事業まで認定されたり,教授者の不足人数を本部と合算した共同認定で補ったりできるわけではない(Q&A応用編4-11)。

認定申請は任意であるが,認定を受けた事業者は,犯罪事実確認や安全確保,記録管理等の法定措置を実施する。
本部は規程・研修・運用等の共通支援を整え,加盟事業者は自己の事業の体制に合わせて実施する,という分担を基本に検討する。
本部の支援義務の有無や範囲は,法定措置とは別に,フランチャイズ契約等の内容によって判断する。

2 令和8年12月25日の施行に向けた準備を扱う

本記事は,令和8年10月19日に確認した法令,こども家庭庁の施行ガイドライン及びQ&A等に基づく。
法律の主な施行日は同年12月25日であり,認定申請も同日から可能と案内されている。
ここでは,加盟事業者が自己の経営で学習塾を運営する通常のFCを中心に,同一事業の複数教室や運営全体の委託との違いを説明する。

制度全体は,こども性暴力防止法とは―日本版DBSの対象・義務・令和8年12月25日の施行準備で説明している。

第2 認定主体と教授者3人以上の要件
1 同一事業の複数教室と別経営主体のFCを分ける

同じ学習塾事業を一つの事業者が複数の教室で行う場合は,一つの事業として認定を申請する。
この場合の教授者の人数は事業全体で判断し,各教室に3人ずつ常駐する必要はない。
その一方で,同一事業の一部の教室だけを任意に選んで認定する仕組みではない(Q&A基礎編4-5,応用編3-4・3-5)。

通常のFCで,加盟事業者がそれぞれ独立した事業を営む場合は,各経営主体が別々に認定を申請する。
本部が共通の教材・商標・研修・システムを用意していることだけで,加盟事業者の事業が本部の事業と一つになるものではない(Q&A応用編4-11)。

構造認定・人数の考え方確認する点同一事業者による同一学習塾事業の複数教室事業全体で申請し,教授者の人数を判断する同じ法人の全ての別事業を無条件に合算するものではない別経営主体の通常FC各経営主体が申請する同一ブランドや本部との合算では不足人数を補えない同一事業の運営全体の指定管理・委託事業運営者の実体と共同認定等の条件を確認する契約の名称だけで共同認定と決めない
2 3人は全社員数ではなく教授者の人数である

民間教育事業の人数要件は,児童等に技芸又は知識を教授する者が3人以上であることである(法2条5項3号ニ,施行令1条)。
講師・指導員という職名でなくても実際に教授する者は数えられるが,教授をしない事務職員を含む全社員数とは異なる。
本部の登録講師名簿に名前があるだけでなく,対象となる事業で実際に教授に従事しているかを確認する(Q&A応用編3-3~3-5)。

教授者3人未満の通常FCは,この民間教育事業の人数要件を満たさず,本部との共同認定で不足を補うこともできない(Q&A応用編4-11)。
学習塾という名称だけで対象になるわけではなく,対面指導等の他の要件も必要である。
対象事業の全体像は,こども性暴力防止法の対象となる職種と事業で説明している。

第3 共同認定を検討するのはどのような場合か

(続きを読む...)日本版DBSとフランチャイズ学習塾―本部・加盟教室の認定,犯罪事実確認と役割分担(AI作成)

国際売買の品質トラブルとウィーン売買条約―準拠法,見本,検査・通知と損害賠償(AI作成)

目次

第1 品質問題が起きたら最初に確認すること第2 準拠法とCISG,紛争解決条項を分ける1 日本法を選択しても条約の排除とは限らない2 日本で訴えられるかは別の問題である第3 合意した品質と見本を証拠で示す1 通常の用途,特定の用途,見本を区別する2 比較可能な状態で資料を残す第4 検査と不適合通知の期限を別々に管理する1 2年以内ならよいという意味ではない2 例外の射程と他の期間制限を確認する第5 救済方法と損害額を対応させる1 損害賠償と解除を同じ条件で扱わない2 損害の拡大を防いだ経緯も残す第6 輸入消費税と和解金は別に判断する1 外国企業との売買というだけでは税区分は決まらない2 賠償,値引き,費用補填を合意書で分ける第7 関連記事第8 根拠資料
第1 品質問題が起きたら最初に確認すること

海外から届いた商品が見本と違う場合,直ちに日本民法の契約不適合責任だけで処理してはならない。
契約に適用される法,ウィーン売買条約(CISG)の適用,裁判又は仲裁の場所を分け,検査・通知の期限と証拠保全を先に確認する。

本記事は事業者間の国際的な物品売買を主な対象とする。
消費者向け売買,役務が主となる契約,所有権の移転効果,身体損害などは,条約の適用範囲を別に確認する必要がある(CISG2条~5条)。
確認日は令和8年10月18日である。

第2 準拠法とCISG,紛争解決条項を分ける
1 日本法を選択しても条約の排除とは限らない

CISG1条1項は,異なる締約国に営業所を有する当事者間の売買のほか,国際私法の規則によって締約国法が適用される場合を定める。
後者では,相手方の営業所が非締約国にあっても条約の適用が問題となる。
実際には,契約に関係する営業所,契約時期,適用除外及び関係国の宣言・留保を確認する。

日本の裁判所で契約準拠法を判断する場合には,通則法7条の当事者の選択,選択がない場合には8条の最密接関係地法を検討する。
外国の裁判所でも同じ抵触規則が使われるとは限らない。

CISG6条は当事者による条約の適用排除等を認める。
「日本法を準拠法とする」という条項だけから当然にCISGを排除したとは扱わず,排除の合意があるかを契約全体から確かめる。
条約を排除するかどうかは,検査・通知,救済及び相手方との交渉条件を比較して決める。

2 日本で訴えられるかは別の問題である

準拠法の合意と,裁判管轄の合意は役割が異なる。
日本の裁判所の管轄については,民事訴訟法3条の2以下及び3条の7の管轄合意等を確認する。
仲裁条項がある場合には,その対象,仲裁地,機関及び手続も先に確かめる。

日本に相手方の財産がある場合も,金銭請求について差押え可能な被告財産があるか,その価額が著しく低くないかを3条の3第3号に即して検討する。
同法3条の9の特別の事情による却下と,判決後の回収可能性も別に確認し,国内資産の存在だけで解決したと考えない。

第3 合意した品質と見本を証拠で示す
1 通常の用途,特定の用途,見本を区別する

CISG35条1項は契約に定める数量・品質・種類等に適合した物品の引渡しを求める。
同条2項は,別段の合意がない場合について,通常の目的への適合,売主に知らされた特定の目的への適合,売主が示した見本又はひな形と同じ品質等を分けて定める。

特定の目的への適合には,売主の技能・判断への依存に関するただし書がある。
「業界では使える」と「買主の製造工程で使える」,「売主が示した見本と一致する」は別の確認事項である。
見本だけを提出して結論を出さず,合意の内容と,どの基準に照らして不適合とするのかを対応させる。

(続きを読む...)国際売買の品質トラブルとウィーン売買条約―準拠法,見本,検査・通知と損害賠償(AI作成)

仕入先・販売先を買収する前に―垂直型企業結合の競争審査と株式取得費用の税務(AI作成)

目次

第1 仕入先・販売先の買収で最初に確認すること第2 供給を止める場合と購入を止める場合1 投入物閉鎖―競争者の仕入れを難しくする場合2 顧客閉鎖―競争者の販売先を失わせる場合第3 競争者の秘密情報を買収計画に含めて点検する第4 株式の購入代金と付随費用を一括して経費にしない第5 弁護士と税理士が共有する資料第6 関連記事と資料の基準日
第1 仕入先・販売先の買収で最初に確認すること

仕入先や販売先の株式を取得すると,調達や販売の安定につながる一方,競争者が必要な商品を買えなくなる,販売先を失う,取引情報が競争相手へ流れるといった問題が生じることがある。
本稿は,内国法人が既存株式を購入する計画を想定し,垂直型企業結合の競争審査と購入費用の法人税処理を確認する手順を整理する。
令和8年10月18日に確認した公取委の運用指針と税務資料を基準とする。

株式保有は公取委の企業結合審査の対象となり得る。
届出の要否と,市場の競争を実質的に制限するかという実体判断は,別々に確認する。
売上高等の届出要件を満たすかだけで,買収後の取引条件まで適法と判断することはできない。

出典:公取委・企業結合審査の運用指針の「はじめに」,第1及び第5。

届出が必要かどうかは,独占禁止法と同法施行令が定める金額と議決権の割合で判定する。
株式取得では,取得する会社の企業結合集団の国内売上高合計額が200億円を超え,株式発行会社とその子会社の国内売上高の合計額が50億円を超える場合に,取得後の議決権の割合が20%又は50%を超えることとなるときは,あらかじめ届け出る必要がある(独占禁止法10条2項,同法施行令16条)。
事業の譲受けでは,譲受会社の国内売上高合計額が200億円を超え,事業の全部の譲受けでは譲渡会社の,重要部分等の譲受けでは対象部分の国内売上高が30億円を超える場合に届出が必要となる(同法16条2項,同法施行令21条)。
届出をした会社は,原則として,届出受理の日から30日を経過するまで株式の取得や事業の譲受けをすることができない(同法10条8項・16条3項)。

出典:独占禁止法10条2項・8項,16条2項・3項,同法施行令16条・21条。

第2 供給を止める場合と購入を止める場合
1 投入物閉鎖―競争者の仕入れを難しくする場合

買収後,グループ内の会社を優先して川下の競争者への供給を拒んだり,条件を悪化させたりする場合は,投入物閉鎖が問題になる。
確認するのは,閉鎖を行う能力と,実際にそうする誘因である。

代替仕入先の名前を挙げるだけでは足りない。
必要な仕様を満たすか,必要数量を供給できるか,切替えが容易かを確認する。
実務では,供給開始日,認証・試験の期間,契約上の制約を付けた一覧にすると,単なる生産能力と利用可能な供給を区別できる。
この一覧化は運用指針を踏まえた本稿の実務上の提案である。

供給を減らすと川上会社の利益が減っても,川下会社の販売増加等によってグループ全体の利益が増えることがある。
上流の減収だけで誘因を否定せず,利益率,供給余力,競争者の商品との代替性を確認する。

2 顧客閉鎖―競争者の販売先を失わせる場合

川下会社がグループ外の川上事業者からの購入を拒み,その事業者が販売先を十分に振り替えられなくなる場合は,顧客閉鎖が問題になる。
川下会社の市場での地位に加え,特定顧客向けの設備等があり,ほかへ販売しにくい事情も確認する。

こちらも能力と誘因を分ける。
グループ内への購入切替えで川上会社の稼働率が改善する利益と,仕入れの選択肢や品ぞろえを失う不利益を比較する。
特定の競争者が売上げを失うという事実から,市場全体の競争への影響まで直ちに結論付けず,振替先や参入等による競争圧力も検討する。

(続きを読む...)仕入先・販売先を買収する前に―垂直型企業結合の競争審査と株式取得費用の税務(AI作成)

公取委の犯則調査とは―行政調査との違い,許可状・捜索・差押えと刑事告発(AI作成)

目次

第1 犯則調査とは何か第2 行政調査と犯則調査の違い第3 任意の質問と許可状による処分1 質問・検査・領置2 臨検・捜索・差押え第4 電子データも調査対象となる第5 調査・告発・起訴・判決を分ける第6 会社・担当者が最初に整理すること第7 よくある疑問1 犯則調査を受けると必ず告発されるか2 許可状がなければ,何も調べられないか3 課徴金を納めれば消費者に返金されるか第8 出典と確認時点
第1 犯則調査とは何か

公正取引委員会の犯則調査は,独占禁止法89条から91条までの罪に係る事件について,刑事責任の追及につながる証拠を調べる手続である。
通常の行政調査による立入検査とは根拠条文が異なり,裁判官の許可状に基づく捜索・差押え等が認められる。
ただし,犯則調査には任意の質問・検査・領置もあり,すべての行為に許可状が必要というわけではない。

令和8年10月7日の公取委会見は,酒類等を製造販売する4社の価格カルテルの疑いについて犯則調査を行っていると説明した。
この説明から,4社の違反,刑事告発,起訴又は有罪判決が確定したと読むことはできない。
事件の公表資料と法律上の争点は,ビール大手4社による価格カルテル疑惑で整理している。

本記事は,令和8年10月18日に確認した独占禁止法と公取委の手続説明に基づき,一般的な制度を説明する。
個別事件の対象商品,関係者,調査範囲又は今後の処分を推定するものではない。

第2 行政調査と犯則調査の違い

行政調査は,独占禁止法47条に基づく審尋,報告徴収,物件の提出命令,立入検査等を通じ,排除措置命令や課徴金納付命令等のために事実を調べる手続である。
同条4項は,これらの権限が犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならないと定めている。

比較する点行政調査犯則調査主な根拠独占禁止法47条同法101条・102条等主な手段審尋,報告徴収,提出命令,立入検査任意の質問・検査・領置,許可状による臨検・捜索・差押え等許可状47条の立入検査については裁判官の許可状を要しない102条の強制処分には裁判官の許可状が必要その後の判断排除措置命令・課徴金納付命令等の要件を検討する調査により犯則の心証を得たときは告発する

行政調査の立入検査も,単に自由に拒否できる任意の訪問ではない。
同法94条は,47条に基づく検査の拒否・妨害・忌避等を処罰対象としている。
「行政調査だから応じなくてよい」「立入調査という名称だから犯則調査である」といった名称だけの判断を避け,具体的な根拠と行為を確認する必要がある。

第3 任意の質問と許可状による処分
1 質問・検査・領置

独占禁止法101条は,指定を受けた公取委職員が,犯則嫌疑者や参考人に出頭を求めて質問し,所持物件等を検査し,任意に提出された物件等を領置できると定めている。
同じ犯則調査でも,任意提出した資料の領置と,許可状による差押えは区別する。
資料の提出を求められた際は,根拠,対象,提出方法及び受領の記録を整理することが実務上重要となる。

2 臨検・捜索・差押え

同法102条1項は,裁判官があらかじめ発する許可状により,臨検,捜索,差押え又は記録命令付差押えを行うことができると定めている。
許可状には,対象となる場所,身体・物件又は記録すべき電磁的記録等,有効期間などが記載される。
同法105条は,臨検,捜索又は差押えに際して,処分を受ける者への許可状の提示を求めている。

会社としては,担当職員,示された書面,対象部署・場所,開始時刻及び持ち出された資料を記録し,法務担当者や弁護士へ速やかに連絡する対応が考えられる。
これは対応を整理するための実務上の提案であり,連絡や立会いのために調査を一方的に中断させられるという説明ではない。

第4 電子データも調査対象となる

独占禁止法102条1項の記録命令付差押えは,記録を保管する者等に必要な電磁的記録を媒体へ記録させ,又は印刷させた上で,その媒体を差し押さえる処分である。

(続きを読む...)公取委の犯則調査とは―行政調査との違い,許可状・捜索・差押えと刑事告発(AI作成)

オンライン調停を申し込む前に確認すること―費用,認証,合意の効力及び時効(AI作成)

目次

第1 オンラインで話し合えることと法的効果は別に確認する第2 認証の対象と,相手方が参加する手続を確かめる1 事業者名だけでなく対象業務を見る2 中立の担当者と自分の代理人を区別する第3 料金は総額,当事者別負担及び不成立時に分けて計算する1 表示された一つの金額だけで比較しない2 公表料金による相続紛争の計算例第4 合意の成立と強制執行できることを区別する1 認証ADRの合意も当然に執行できるわけではない2 遺産分割の代償金と養育費等の例外を混同しない第5 時効が迫っている場合は終了通知と提訴期限を管理する第6 記録保存とデータ利用は複数の文書を突き合わせる第7 申込み前にそろえておきたい回答第8 出典と確認時点
第1 オンラインで話し合えることと法的効果は別に確認する

オンライン調停は,移動の負担を抑え,離れた場所にいる当事者が第三者を介して話し合うための選択肢である。
ただし,利用するシステム,話合いを仲介する手続及び成立した合意の効力は,それぞれ確認する必要がある。
本記事は,令和8年10月18日に確認した法令,法務省の認証情報及び事業者の公表資料に基づき,民間のオンライン調停を申し込む前の確認事項を整理する。

ここで扱うのは主として,民間事業者が当事者双方との契約に基づき和解を仲介する手続である。
裁判所のウェブ会議による調停や,第三者が仲裁判断をする仲裁とは,根拠と効果が異なる。
また,オンラインであることだけから,AIが法律判断や和解案の作成を行っていると判断することはできない。

第2 認証の対象と,相手方が参加する手続を確かめる
1 事業者名だけでなく対象業務を見る

ADR法上の認証紛争解決手続は,法務大臣の認証を受けた業務として行われる民間紛争解決手続である(同法2条)。
法務省の認証事業者情報で,事業者名,認証番号,取り扱う紛争及び手続の内容を確認する。
同じ会社が提供する登録,情報整理,交渉支援などの全段階について,当然に認証ADRと同じ法的効果が生じるとは考えない。

例えば,弁護士JPオンライン調停センターは,認証番号第194号の事業者として掲載されている。
一方,公式の「スマート調停」の案内では,システムによる課題整理と,双方が希望した場合の弁護士による調停が区別されている。
利用するサービスの名称だけでなく,いつ,どの契約に基づき,認証紛争解決手続を開始するのかを確認することが大切である。

2 中立の担当者と自分の代理人を区別する

担当者の資格,選任方法及び利益相反の確認方法を調べる。
中立の立場で和解を仲介する弁護士は,自分だけの利益を実現するために助言・交渉する代理人とは役割が異なる。
相手方やその関係者との過去の相談・受任関係をどの範囲で確認するか,疑問を申し出る窓口も確かめる。

相手方が参加しない場合,どの時点で手続が終了し,既に支払った費用がどうなるかも申込み前の確認事項である。
認証を受けていることは,相手方の参加や解決の成立を保証するものではない。

第3 料金は総額,当事者別負担及び不成立時に分けて計算する
1 表示された一つの金額だけで比較しない

申立手数料,期日ごとの手数料,成立手数料を分け,税込か税別か,何人分か,何回分かを確認する。
期日の上限時間,追加期日,延期・取消し,不成立,途中終了及び合意書の交付に伴う費用も確認する。
自分が別に依頼する代理人の費用や,公正証書・裁判所の手続の費用を,同じ料金に含まれると決めつけない。

2 公表料金による相続紛争の計算例

法務省掲載の同センターの料金表では,婚姻関係紛争以外の民事上の紛争について,申立手数料3万3000円,期日手数料1回6万6000円,成立手数料は当事者1人につき4万9500円とされている(いずれも税込)。
相続向け公式案内にも,この料金体系が掲載されている。

(続きを読む...)オンライン調停を申し込む前に確認すること―費用,認証,合意の効力及び時効(AI作成)

約定の遅延損害金はどこまで有効か―利息制限法の1.46倍,消費者契約法の年14.6%と特別法の遅延利率(AI作成)

目次

第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 約定の遅延損害金の基本1 民法419条1項ただし書2 賠償額の予定(民法420条)第3 金銭消費貸借の上限(利息制限法)1 利息制限法4条1項の1.46倍2 営業的金銭消費貸借の特則(7条1項)3 違約金は賠償額の予定とみなされる第4 消費者契約の上限(消費者契約法9条1項2号)1 年14.6%の上限2 解除に伴う損害賠償の予定との区別3 他の法律との関係第5 割賦販売・訪問販売の上限1 割賦販売法6条2項2 特定商取引に関する法律10条2項第6 法律が遅延利率を定めている場合1 退職労働者の賃金(賃金の支払の確保等に関する法律6条)2 中小受託取引の代金(取適法6条)3 政府契約の代金(政府契約の支払遅延防止等に関する法律8条)第7 契約書で遅延損害金を定めるときの確認事項第8 関連記事第9 出典・参考資料1 法令2 公的資料
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,契約で定めた遅延損害金の利率(約定の遅延損害金)がどこまで有効かを扱う。
あわせて,契約に定めがなくても法律が遅延利率を定めている場面を取り上げる。
民法の法定利率が年3%か年5%かという問題は,遅延損害金の利率は年3%か年5%か―令和2年4月1日の経過措置,商事法定利率の廃止及び3年ごとの見直しで扱っている。
本記事は,令和8年10月18日時点の法令及び告示に基づいている。

2 結論

① 金銭債務の遅延損害金は,約定利率が法定利率を超えるときは約定利率による(民法419条1項ただし書)。
② 金銭消費貸借の遅延損害金の予定は,利息制限法1条の利率の1.46倍を超える部分が無効となり,営業的金銭消費貸借では年2割を超える部分が無効となる(利息制限法4条1項,7条1項)。
③ 消費者契約で消費者が支払期日までに支払わない場合の損害賠償の予定・違約金は,年14.6%を超える部分が無効となる(消費者契約法9条1項2号)。
④ 割賦販売や訪問販売で代金が支払われない場合に請求できる額は,残額とこれに対する法定利率による遅延損害金の合計額までに制限される(割賦販売法6条2項,特定商取引に関する法律10条2項)。
⑤ 退職労働者の未払賃金は年14.6%,中小受託取引の未払代金は年14.6%,政府契約の未払代金は年3.0%(令和8年4月1日から)の遅延利息が,法律に基づいて生じる。

第2 約定の遅延損害金の基本
1 民法419条1項ただし書

民法419条1項は,金銭債務の不履行による損害賠償の額は,債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって定めるとしたうえで,「約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。」と定めている。
例えば,貸金の利息を年10%と定めていれば,遅延損害金について別に定めていなくても,遅延損害金は年10%で請求できる。
約定利率が法定利率を下回る場合は,本文に戻って法定利率による。

民法の法定利率は,令和2年4月1日から年3%で始まり,3年ごとに見直される(民法404条2項,3項)。
法務省「令和8年4月1日以降の法定利率について」によれば,令和8年4月1日から令和11年3月31日までの法定利率も年3%である。

2 賠償額の予定(民法420条)

遅延損害金の利率そのものを契約で定めた場合は,賠償額の予定に当たる。
民法420条1項は,「当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。」と定め,同条3項は,違約金を賠償額の予定と推定している。

令和2年3月31日まで適用されていた民法420条1項には,「この場合において、裁判所は、その額を増減することができない。」という後段があった。
この後段は,民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)により削除された。
もっとも,民法には予定額の上限を数値で定めた規定はなく,遅延損害金の上限は,次の第3以下の個別の法律が定めている。

第3 金銭消費貸借の上限(利息制限法)
1 利息制限法4条1項の1.46倍

利息制限法4条1項は,「金銭を目的とする消費貸借上の債務の不履行による賠償額の予定は、その賠償額の元本に対する割合が第一条に規定する率の一・四六倍を超えるときは、その超過部分について、無効とする。」と定めている。
同法1条の利率に1.46を乗じると,遅延損害金の予定の上限は次のとおりとなる。

(続きを読む...)約定の遅延損害金はどこまで有効か―利息制限法の1.46倍,消費者契約法の年14.6%と特別法の遅延利率(AI作成)

金属盗対策法とは―特定金属くず買受業の届出・本人確認・取引記録と古物営業法との違い(AI作成)

目次

第1 金属盗対策法の概要1 成立と施行の時期2 法律ができた背景3 法律の目的と三つの柱第2 規制の対象となる「特定金属くず」1 特定金属は現時点では銅である2 製造過程で生ずるくずと古物は除かれる3 古物との境界第3 特定金属くず買受業を営む者の義務1 営業所ごとの届出と表示2 買受けの相手方の本人確認3 本人確認記録と取引記録の3年間の保存4 盗品の疑いがあるときの申告第4 公安委員会の監督と罰則1 指示・営業停止命令・立入検査2 罰則第5 指定金属切断工具の隠匿携帯の禁止と情報の周知第6 古物営業法・条例との関係と対象外の物1 古物営業法との違い2 条例との関係3 同法の対象とならない物第7 関係する事業者が確認しておきたい事項1 金属くずの買取業者2 盗難の被害に遭った事業者第8 出典1 法令2 警察庁の資料
第1 金属盗対策法の概要
1 成立と施行の時期

盗難特定金属製物品の処分の防止等に関する法律(令和7年法律第75号。以下「金属盗対策法」という。)は,令和7年6月20日に公布された。
指定金属切断工具の隠匿携帯の禁止等は令和7年9月1日から,特定金属くず買受業に関する規制は令和8年6月1日から施行されている。
本記事は,令和8年10月18日にe-Gov法令検索で確認した同法,同法施行令及び同法施行規則と,警察庁の公表資料に基づいて,同法の内容を説明する。

2 法律ができた背景

警察庁の「金属盗対策に関する検討会」の報告書(令和7年1月)によれば,金属盗の認知件数は統計を取り始めた令和2年以降増加傾向にあり,令和5年の被害総額は約132億8700万円で,同年の窃盗犯全体の被害額の約2割に相当する。
同報告書は,令和5年の金属盗の被害額のうち銅の被害が約7割を占めることも示している。

同報告書は,古物に当たらない金属くずの売却について,いわゆる金属くず条例を制定している17道府県を除き規制がなく,盗品の処分(売却)が容易な状況にあると指摘していた。
その上で,被害実態からまずは少なくとも銅を規制すべきであり,1万円未満の買取りについて本人確認義務等を免除することは抜け穴となるおそれがあるため適当ではない,との方向性を示した。

3 法律の目的と三つの柱

金属盗対策法は,特定金属くず買受業について買受けの相手方の氏名等の確認を義務付ける等の措置を講ずるとともに,指定金属切断工具を隠して携帯する行為を禁止すること等により,特定金属製物品の窃取の防止に資することを目的とする(同法1条)。
内容は,①特定金属くず買受業の規制(同法第2章),②指定金属切断工具の隠匿携帯の禁止(同法15条),③盗難の防止に資する情報の周知(同法16条)の三つに分けられる。

第2 規制の対象となる「特定金属くず」
1 特定金属は現時点では銅である

同法2条1号は,特定金属を「銅その他犯罪の状況、当該金属の経済的価値その他の事情に鑑み、当該金属を使用して製造された物品の窃取を防止する必要性が高い金属として政令で定めるもの」と定めている。
令和8年10月18日に確認した同法施行令には銅以外の金属を定める規定はなく,警察庁も,特定金属くずを「現時点では主として銅により構成されている金属くず」と説明している。
銅以外の金属は,政令で追加されるまでは同法の対象とならない。

2 製造過程で生ずるくずと古物は除かれる

特定金属くずは,主として特定金属により構成されている金属くずであるが,物品を製造する過程において生ずるもの及び古物営業法2条1項に規定する古物に該当するものを除く(同法2条3号)。
特定金属くず買受業は,特定金属くずの買受けを行う営業をいい,買受けの対価として金銭以外の財産上の利益を提供する場合も含む(同条4号)。

3 古物との境界

警察庁の「古物営業法等の解釈運用基準について」(令和8年5月14日)は,主として特定金属により構成されている物品について,本来の用法に従って使用することができるものは古物,使用できないものは特定金属くずに該当するとしている。
同基準は,古物に該当する場合は古物営業法に基づく相手方の確認義務等が,特定金属くずに該当する場合は金属盗対策法に基づく本人確認義務及び取引記録の作成義務が生じることに留意するよう求めている。
例えば,本来の用法に従って使用することができない状態となった室外機に係るくずは,古物ではなく特定金属くずに当たる可能性がある。

第3 特定金属くず買受業を営む者の義務
1 営業所ごとの届出と表示

特定金属くず買受業を営もうとする者は,営業所ごとに,氏名又は名称,住所,営業所の所在地等を,営業所の所在地を管轄する都道府県公安委員会に届け出なければならない(同法3条1項)。
届出書は,営業所の所在地を管轄する警察署長を経由して,特定金属くず買受業を開始しようとする日の前日までに提出する(同法施行規則1条2項)。

(続きを読む...)金属盗対策法とは―特定金属くず買受業の届出・本人確認・取引記録と古物営業法との違い(AI作成)

こども性暴力防止法の認定制度―学習塾・スポーツクラブの認定要件・申請手続・手数料とこまもろうマーク(AI作成)

目次

第1 認定制度の結論と基準日1 民間事業者が任意に受ける認定である2 本記事の基準日と資料第2 認定の基準1 法20条1項の六つの基準2 認定を受けられない者3 法人でない団体も申請できる第3 申請の手続1 申請時期と審査期間2 こまもろうシステムでの申請と添付書類3 手数料4 事業ごとの申請と共同認定第4 認定後に行うこと1 犯罪事実確認の期限2 規程の遵守・記録の管理・帳簿と報告3 変更の届出4 適合命令と認定の取消し第5 こまもろうマークの使い方1 使える時期と種類2 付けてよいもの・付けてはいけないもの3 認定を受けていない者の表示は処罰される第6 よくある質問1 学習塾は認定を受けなければならないか2 認定を受ける判断のポイントは何か3 犯罪事実確認だけを先に行えるか第7 出典1 法令2 こども家庭庁の資料3 個別の判断で確認が必要な事項
第1 認定制度の結論と基準日
1 民間事業者が任意に受ける認定である

こども性暴力防止法(学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律・令和6年法律第69号)は,学習塾,スポーツクラブ,放課後児童クラブ,認可外保育施設等の民間教育保育等事業者について,学校設置者等と同等の措置を実施する体制が確保されている旨の認定を受けられる仕組みを設けている(法19条1項)。
学校や保育所等の学校設置者等が法律上当然に義務を負うのに対し,民間教育保育等事業者の認定申請は任意である(Q&A基礎編4-8)。
もっとも,認定を受けた事業者は,犯罪事実確認を含む措置を義務として行うことになり,怠れば認定の取消し等の対象となる。

認定を受けると,認定事業者マーク(こまもろうマーク)を事業の広告等に表示でき,認定事業者の情報がこども家庭庁のウェブサイトに掲載される(法22条・23条,Q&A基礎編4-1)。
こども家庭庁は,少しでも多くの認定対象事業者に認定を取得してほしいとしている(Q&A基礎編4-8)。

2 本記事の基準日と資料

本記事は,令和8年10月17日に確認した法律・施行令の条文(令和8年12月25日施行時点),こども性暴力防止法施行ガイドライン(令和8年9月改訂)及びこども性暴力防止法に関するQ&A(令和8年9月29日改訂)に基づく。
認定申請の詳しい手順は,認定対象事業者向けのマニュアルで示される予定とされているので(Q&A基礎編4-3),申請の時点でこども家庭庁の最新資料を確認する必要がある。

どの事業が認定の対象になるか,民間教育事業の5要件(修業期間6か月以上・対面・事業所等での指導・指導者3人以上等)は,こども性暴力防止法の対象となる職種と事業―学校・保育所・学習塾の一覧と事務職員・運転手・ボランティアの判断で説明している。

第2 認定の基準
1 法20条1項の六つの基準

認定は,申請された事業と業務が民間教育保育等事業と教育保育等従事者の業務に当たり,かつ,次の基準に適合すると認められる場合でなければ受けられない(法20条1項)。

①犯罪事実確認を適切に実施するための体制を備えていること
②従事者による児童対象性暴力等のおそれを早期に把握するための措置を実施していること
③児童等が容易に相談できるようにするための措置を実施していること
④防止措置,疑いがある場合の調査,被害を受けた児童等の保護・支援を定めた「児童対象性暴力等対処規程」を作成し,その内容が基準に適合すること
⑤従事者に研修を受講させていること
⑥犯罪事実確認記録等を適正に管理するための措置を講じていること

②③⑤⑥の具体的な内容と④の規程の基準は,内閣府令(施行規則)で定められ,施行ガイドラインが詳しく説明している。
認定は申請時点の体制を審査するものであるから,規程や研修を申請後に整えるという順序にはならない。

2 認定を受けられない者

認定を取り消されてから2年を経過しない者(法人の場合は一定の役員を含む。),この法律の規定により刑に処せられ,その執行を終わる等してから5年を経過しない者,役員にこれらに当たる者がいる法人は,認定を受けることができない(法20条2項)。

3 法人でない団体も申請できる

認定の申請には必ずしも法人格を要しない(Q&A基礎編4-7-2)。
ただし,認定を受けると犯罪事実確認記録等を入手できるようになるため,法人でない団体は,代表者又は管理人の定めがあり,団体としての組織を有し統一された意思の下に活動している場合に限り,団体名で申請できる(同,施行ガイドライン70頁)。

第3 申請の手続
1 申請時期と審査期間

(続きを読む...)こども性暴力防止法の認定制度―学習塾・スポーツクラブの認定要件・申請手続・手数料とこまもろうマーク(AI作成)

こども性暴力防止法の対象となる職種と事業―学校・保育所・学習塾の一覧と事務職員・運転手・ボランティアの判断(AI作成)

目次

第1 対象の決まり方と基準日1 事業と職種の二段階で決まる2 本記事の基準日と資料第2 義務対象となる施設・事業1 学校・認定こども園・児童福祉施設等2 大学と専修学校の専門課程は義務対象ではない第3 認定対象となる民間教育保育等事業1 認定を受けると義務対象と同等の措置を行う2 学習塾・スポーツクラブ等は民間教育事業の5要件で判断する3 オンライン指導と家庭教師の扱い4 対象とならない例第4 対象となる職種の判断基準1 支配性・継続性・閉鎖性の三要件2 職種全体が対象になるものと一部が対象になり得るもの第5 判断が分かれる職種の具体例第6 ボランティア・実習生・派遣労働者1 ボランティアと短期の従事者2 教育実習・保育実習の実習生3 派遣労働者・請負の従事者第7 よくある質問1 パート・アルバイトも対象になるか2 オンラインだけの学習塾は認定を受けられるか3 職種の判断に迷うときはどうするか第8 出典1 法令2 こども家庭庁の資料3 個別の判断で確認が必要な事項
第1 対象の決まり方と基準日
1 事業と職種の二段階で決まる

こども性暴力防止法(学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律・令和6年法律第69号)の対象は,①どの事業が対象となるかと,②その事業で誰の業務が対象となるかの二段階で決まる。
事業は,法律上の義務を負う学校設置者等(法2条3項)と,認定を受けた場合に同等の措置を行う民間教育保育等事業者(同条5項)に分かれる。
職種は,法律が列挙する教員等(同条4項)又は教育保育等従事者(同条6項)に当たるかを,実際の業務に即して判断する。

施行ガイドラインは,職種名だけでなく,児童等と接する業務が支配性・継続性・閉鎖性の三つの要件を満たすかによって対象を判断するとしている。
同じ「事務職員」や「運転手」でも,業務の実態によって対象になる場合とならない場合がある。

2 本記事の基準日と資料

本記事は,令和8年10月17日に確認した法律・施行令の条文(令和8年12月25日施行時点),こども性暴力防止法施行ガイドライン(令和8年9月改訂)及びこども性暴力防止法に関するQ&A(令和8年9月29日改訂)に基づく。
職種の一覧は,ガイドラインが例示するものを整理したものであり,各施設が独自の名称で任用している職員は,名称ではなく業務の内容で当てはめる必要がある。

制度全体の義務と施行前の準備は,こども性暴力防止法とは―日本版DBSの対象・義務・令和8年12月25日の施行準備で説明している。

第2 義務対象となる施設・事業
1 学校・認定こども園・児童福祉施設等

次の施設を設置する者や事業を行う者は,学校設置者等として,犯罪事実確認を含む措置を法律上義務付けられる(法2条3項,施行ガイドライン38頁の図表4)。

①学校:幼稚園,小学校,中学校,義務教育学校,高等学校,中等教育学校,特別支援学校,高等専門学校及び専修学校(高等課程)
②認定こども園:幼保連携型,幼稚園型,保育所型及び地方裁量型
③児童福祉施設等:児童相談所(一時保護施設を含む。),指定障害児入所施設等,乳児院,母子生活支援施設,保育所,児童館,児童養護施設,障害児入所施設,児童心理治療施設及び児童自立支援施設
④児童福祉事業:指定障害児通所支援事業(児童発達支援,放課後等デイサービス等),乳児等通園支援事業(こども誰でも通園制度)及び家庭的保育事業等(家庭的保育事業,小規模保育事業,居宅訪問型保育事業,事業所内保育事業)
⑤登録一時保護委託者

2 大学と専修学校の専門課程は義務対象ではない

大学は法2条3項1号イで,専修学校の専門課程は同号ロで,学校設置者等から除かれている。
Q&Aは,大学や専修学校(専門課程)は義務対象事業ではないが,大学が附属学校を設置している場合は,その設置者である国立大学法人や学校法人等が附属学校について対象事業者になるとしている(Q&A基礎編10-5)。
大学が自ら児童等を対象とする教育・保育の事業を行う場合は,要件を満たせば認定を受けることができる(同)。

第3 認定対象となる民間教育保育等事業
1 認定を受けると義務対象と同等の措置を行う

次の事業を行う者は,民間教育保育等事業者として,認定を受けることができる(法2条5項,施行ガイドライン51頁の図表7)。
認定は任意であるが,認定を受けた場合は,学校設置者等と同等の措置と犯罪事実確認を行う(Q&A基礎編4-8,法26条)。

①専修学校(一般課程)・各種学校で児童等を専ら対象とする学校教育に類する教育を行う事業
②高等学校の課程に類する教育を行う事業で内閣府令が定めるもの(海技教育機構の海技士教育科海技課程(本科)等)

(続きを読む...)こども性暴力防止法の対象となる職種と事業―学校・保育所・学習塾の一覧と事務職員・運転手・ボランティアの判断(AI作成)

こども性暴力防止法の犯罪事実確認とは―対象となる性犯罪・20年と10年の期間・確認の流れと事前通知(AI作成)

目次

第1 犯罪事実確認の結論と基準日1 国が交付する確認書で性犯罪前科の有無を確かめる仕組みである2 本記事の基準日と資料第2 対象となる「特定性犯罪」1 法律が列挙する罪2 迷惑防止条例と青少年健全育成条例の罪も含まれる3 改正前の罪名や懲役刑も対象になる4 被害者がこどもである罪に限られない第3 特定性犯罪事実該当者と期間1 実刑は20年,執行猶予と罰金は10年2 刑の言渡しの効力が失われた後も確認される3 期間を過ぎると「該当しない」と記載される第4 犯罪事実確認の対象にならないもの1 不起訴・示談2 特定性犯罪以外の罪3 少年審判による保護処分4 確認できない部分は日常の措置で補う第5 犯罪事実確認の流れ(確認方法)1 手続はこまもろうシステムで行う2 事業者が入力・提出するもの3 従事者が提出するもの4 法務大臣による照合と確認書の記載事項5 交付までの期間の目安第6 該当する場合の事前通知と訂正請求1 確認書の交付前に本人へ通知される2 本人が選べる三つの対応3 2週間が過ぎると確認書が交付される4 事業者が確認書を受け取った後第7 いつまでに確認するか1 従事者の区分ごとの期限2 急な欠員の場合の「いとま特例」第8 従事者が手続に応じない場合第9 確認書の廃棄・消去と罰則1 確認書の廃棄・消去の期限2 確認書の情報に関する罰則第10 よくある質問1 こども性暴力防止法の確認方法は?2 不起訴や示談になった場合も対象になるか3 執行猶予の期間が終われば対象外になるか4 事業者は罪名まで知ることになるか5 内定前や採用面接の段階で確認できるか6 犯罪事実確認の対象となる罪や期間は今後変わるか第11 出典1 法令2 こども家庭庁の資料3 個別の判断で確認が必要な事項
第1 犯罪事実確認の結論と基準日
1 国が交付する確認書で性犯罪前科の有無を確かめる仕組みである

こども性暴力防止法(学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律・令和6年法律第69号)の犯罪事実確認とは,対象事業者が,こどもと接する対象業務の従事者について,こども家庭庁から交付される犯罪事実確認書により,「特定性犯罪事実該当者」に当たるか否かを確認することである(法4条1項,こども家庭庁Q&A基礎編6-1)。
事業者が交付を申請し,こども家庭庁が法務大臣に照会して,裁判の確定記録と照合した結果を確認書にする(法33条~35条)。
確認書に該当する旨が記載される場合には,事業者へ交付される前に本人へ通知され,本人は2週間以内に訂正を請求できる(法35条5項,37条1項・2項)。

この確認は,すべての企業がすべての応募者の犯罪歴を調べられる制度ではない。
対象となるのは,法律が定める学校設置者等と認定を受けた民間教育保育等事業者が,対象業務に従事させる者について行う確認に限られる。
こども家庭庁のQ&Aは,本人の承諾があっても,対象業務に従事することが決定していなければ確認はできないとし,内定前の確認を否定している(Q&A基礎編6-4)。

2 本記事の基準日と資料

本記事は,令和8年10月17日に確認した法律・施行令(令和7年政令第440号)の令和8年12月25日施行時点の条文,こども性暴力防止法施行ガイドライン(令和8年9月改訂)及びこども性暴力防止法に関するQ&A(令和8年9月29日改訂)に基づく。
法の施行日は令和8年12月25日であり,犯罪事実確認はこの日から始まる。
システムの画面や運用の細部は施行までに更新される可能性があるので,実際の申請時には,こども家庭庁の最新資料を確認する必要がある。

制度全体の対象事業者,事業者の措置及び施行前の準備は,こども性暴力防止法とは―日本版DBSの対象・義務・令和8年12月25日の施行準備で説明している。
本記事は,その中の犯罪事実確認について,対象となる罪,期間,手続及び期限を詳しく扱う。

第2 対象となる「特定性犯罪」
1 法律が列挙する罪

犯罪事実確認で照会の対象となる性犯罪の類型を「特定性犯罪」という(法2条7項)。
施行ガイドラインの説明(29頁~31頁)に従って罪名を補うと,次のとおりである。

①刑法176条(不同意わいせつ),177条(不同意性交等),179条(監護者わいせつ及び監護者性交等),180条(未遂),181条(不同意わいせつ等致死傷),182条(16歳未満の者に対する面会要求等)並びに241条1項・3項及び243条(強盗・不同意性交等及び同致死並びにその未遂)の罪
②盗犯等の防止及び処分に関する法律4条の罪(刑法241条1項の罪を犯す行為に係るもの)
③児童福祉法60条1項の罪(児童淫行)
④児童買春・児童ポルノ法4条~8条の罪(児童買春,周旋,勧誘,児童ポルノの所持・提供等,児童買春等目的の人身売買等)
⑤性的姿態撮影等処罰法2条~6条の罪(性的姿態等の撮影,影像記録の提供・保管,影像送信,影像記録)
⑥都道府県の条例で定める罪であって,政令で定めるもの

2 迷惑防止条例と青少年健全育成条例の罪も含まれる

⑥の条例の罪は,みだりに人の身体の一部に接触する行為,下着や身体ののぞき見・盗撮,みだりに卑わいな言動,児童との性交・わいせつな行為のいずれかを罰するものである(法2条7項6号)。
施行令2条は,全都道府県の迷惑防止条例と青少年健全育成条例を中心に,対象となる条例を94号にわたって列挙している。
例えば,大阪府については,大阪府公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例と大阪府青少年健全育成条例が挙げられている(施行令2条53号・54号)。

いわゆる痴漢や盗撮が刑法ではなく条例違反として処罰された場合でも,対象となり得るということである。

(続きを読む...)こども性暴力防止法の犯罪事実確認とは―対象となる性犯罪・20年と10年の期間・確認の流れと事前通知(AI作成)

こども性暴力防止法の従事者研修―施行前の受講計画・演習・受講記録の整え方(AI作成)

目次

第1 施行前研修で最初に決めること1 対象者・時期・内容・受講確認を一緒に整える2 資料の時点とこの記事の範囲第2 誰にいつ受講させるか1 犯罪事実確認等の対象となる業務と照合する2 現職者・新たな従事者・認定申請を分ける第3 標準・要点・独自研修を使い分ける1 標準研修を基本として計画する2 要点研修を全員向けの短縮版としない3 既存研修は必要事項と演習を照合する第4 座学と演習で扱うこと1 必要な研修事項を対応表にする2 個人での動画視聴と演習の関係3 自施設の行動基準と報告経路を練習する第5 受講計画・記録・未受講者への対応1 研修計画と個人別の管理をつなぐ2 欠席者・途中参加者を完了扱いにしない3 研修結果を日常のルール改善へつなぐ第6 よくある質問1 資料を配布しただけで研修は終わるか2 外部研修へ参加させてもよいか3 現職者の犯罪事実確認の猶予まで研修を待てるか4 確認テストは何に使うか第7 出典・公式教材への入口1 研修の手引き・教材2 制度の詳細と施行前準備
第1 施行前研修で最初に決めること
1 対象者・時期・内容・受講確認を一緒に整える

こども性暴力防止法の従事者研修は,教材を配布して終える準備ではない。
誰が対象か,いつまでに何を学ぶか,座学と演習をどう実施するか,受講をどのように確認するかを一体として整える必要がある。
外部研修を利用する場合も,事業者が対象従事者の受講を確認する必要がある。

こども家庭庁の研修の手引きは,義務対象事業者の現職者について,原則として令和8年12月25日の法施行前に受講させることを示している。
現職者の犯罪事実確認には施行後3年以内の仕組みがあるが,この期間を施行前研修にも共通する猶予と考えてはならない。

2 資料の時点とこの記事の範囲

本記事は,令和8年10月17日に確認した施行ガイドライン,義務事業者用準備ガイドVer.1.1,研修の手引き及び同庁の従事者向け教材に基づく。
対象事業者が研修を計画し,受講漏れを防ぎ,現場の対応へつなげるための説明である。
研修の実施計画・受講管理の記入項目や演習例は実務上の例であり,国が一律に指定する追加要件ではない。

制度全体の対象,規程,相談体制及び情報管理を含む準備は,こども性暴力防止法の施行前準備を参照されたい。

第2 誰にいつ受講させるか
1 犯罪事実確認等の対象となる業務と照合する

法に基づく従事者研修の対象範囲は,犯罪事実確認等の措置の対象となる従事者と対応する。
正規職員か,短期の労働者か,ボランティアかという名称だけでは判断せず,対象事業・職種と実際の業務を確認する。
事務職員,送迎運転手等についても,支配性・継続性・閉鎖性の三要件を満たす業務であれば対象になり得る。

対象外の従事者にも必要に応じて受講させることは考えられるが,法定の受講対象者と任意の参加者を混同しない。
派遣労働者については,手引きのFAQは派遣先が受講させる義務を負うと説明している。
派遣元で研修を行っているというだけで終えず,実施方法と派遣先での受講確認を調整する。

2 現職者・新たな従事者・認定申請を分ける

原則として,こどもに接する対象業務へ従事する前に研修を受講させる必要がある。
義務対象事業者の現職者は原則として施行前に,認定を受ける事業者の現職者は認定申請時までに受講させるという時期の違いがある。
手引きは,認定申請時に研修の受講を証する書類を提出することも説明している。

新規採用や異動により対象業務へ就く者については,従事開始予定日と研修完了予定日を照合する。
座学と演習を別の日に行うことは可能であるが,いずれも業務へ従事する前に完了するという原則に注意する。
短期の採用や急な配置を,研修を計画しなくてよい理由として扱わない。

第3 標準・要点・独自研修を使い分ける
1 標準研修を基本として計画する

(続きを読む...)こども性暴力防止法の従事者研修―施行前の受講計画・演習・受講記録の整え方(AI作成)

こども性暴力防止法の「不適切な行為」とは―SNS・撮影・身体接触と行動基準の作り方(AI作成)

目次

第1 不適切な行為を施行前に具体化する1 犯罪事実確認だけでは予防は完結しない2 この記事の対象と資料第2 性暴力・不適切な行為・重大な不適切な行為を区別する1 不適切な行為は性暴力に至る前の予防にも関わる2 公式の具体例は状況を踏まえて使う3 重大性と防止措置の判断を軽視しない第3 現場で確認したい具体例1 SNS等の私的な連絡・面会2 撮影・写真や動画の管理3 身体接触・排せつ介助・更衣4 個別指導・送迎・特別扱い第4 行動基準を作る手順1 場面ごとに必要な業務を洗い出す2 禁止・実施方法・報告先を対応させる3 規程・周知・研修をつなぐ第5 疑いを把握した場合の対応1 軽微という印象だけで様子見にしない2 安全確保と処分の判断を分ける第6 よくある質問1 身体接触はすべて禁止すべきか2 保護者の承諾があれば問題はなくなるか3 犯罪事実確認で問題がなければ行動基準は不要か第7 出典と確認範囲1 こども家庭庁の公式資料2 個別の運用では最新資料と事実を確認する
第1 不適切な行為を施行前に具体化する
1 犯罪事実確認だけでは予防は完結しない

こども性暴力防止法の施行前準備では,性犯罪前科の確認手続に加え,日常の業務で許される行為と避けるべき行為を具体化する必要がある。
「不適切な行為」とは,その行為自体は児童対象性暴力等に当たらなくても,業務上必ずしも必要とはいえず,続いたり発展したりすることで性暴力につながり得る行為である。
犯罪に当たらなければ放置してよいという考え方では,こどもの尊厳や安全を十分に守れない。

こども家庭庁の義務事業者用準備ガイドVer.1.1は,不適切な行為の範囲を検討・確定し,就業規則等へ反映して周知することを,施行までの最低限の準備に挙げている。
範囲の検討は,現場の従事者と対話しながら進めるものであり,公式の例を一律の禁止一覧として転記すれば足りるものではない。

性犯罪前科の確認の対象となる罪と期間,確認の流れは,こども性暴力防止法の犯罪事実確認とは―対象となる性犯罪・20年と10年の期間・確認の流れと事前通知で説明している。

2 この記事の対象と資料

本記事は,令和8年10月17日に確認した同年9月改訂の施行ガイドライン,義務事業者用準備ガイドVer.1.1及び公式研修資料に基づく。
主に学校・保育施設等の義務対象事業者と,認定を受ける民間教育保育等事業者が,行動基準を作る際の確認事項を扱う。
法の施行日は令和8年12月25日であり,義務対象事業者と認定対象事業者の制度上の区分は分けて確認する。

制度全体の対象,必要書類及び施行前準備の一覧は,こども性暴力防止法の対象・義務と施行準備を参照されたい。
以下の確認項目・整理例は,公式資料を実際の業務へ落とし込むための例であり,国が一律に指定する様式ではない。

第2 性暴力・不適切な行為・重大な不適切な行為を区別する
1 不適切な行為は性暴力に至る前の予防にも関わる

施行ガイドラインは,不適切な行為が繰り返される中で,公私の区別や児童等との適切な距離感が失われ,性暴力へ至る危険を説明している。
行為者が親切や指導のつもりであったと述べることだけで,業務上の必要性やこどもへの影響の確認を終えてはならない。
こどもが相談・拒否をしにくい関係にあることも踏まえ,行為の目的,方法,頻度及び周囲から見える状況を確認する必要がある。

法が防止の対象とする児童対象性暴力等には,児童等との性交等,わいせつな行為,児童買春・児童ポルノに関わる行為や性的姿態の撮影,衣服の上から又は直接の身体接触や盗撮,性的羞恥心を害する言動であって児童等の心身に有害な影響を与えるものが含まれる(法2条2項,教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律2条3項,こども性暴力防止法に関するQ&A基礎編2-2)。
不適切な行為は,それ自体はこれらに当たらない段階の行為であり,Q&Aは,不適切な行為を改め,児童対象性暴力等に至ることを未然に防止することが重要であるとしている(同2-3)。

2 公式の具体例は状況を踏まえて使う

同じ外形の行為でも,事業内容,こどもの発達段階・特性,現場の状況及び必要性によって評価は異なり得る。
例えば,未就学児の保育に必要な抱き上げや,理解を得た範囲で行うスポーツの身体的な補助まで,中高生との私的な接触と同じように扱うことはできない。
他方,必要な介助という説明があっても,その方法・範囲が適切か,こどもの意思や負担に配慮しているかを具体的に確認する。

3 重大性と防止措置の判断を軽視しない

ガイドラインは,加害認識,被害の重大性,悪質性等を踏まえ,「重大な不適切な行為」を判断する考え方を示している。
指導後も同じ行為を繰り返す場合や,こども・保護者の意思に反すると認識しながら執拗に行う場合などは,初回の比較的軽微な行為と同じ対応では足りないことがある。
状況によっては児童対象性暴力等にも当たり得るため,内部で付けた行為の名称だけで重大性を下げて扱わない。

(続きを読む...)こども性暴力防止法の「不適切な行為」とは―SNS・撮影・身体接触と行動基準の作り方(AI作成)