目次第1 本記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 「50グレイ以上」要件の内容と由来1 旧来の手術給付表の文言2 要件が置かれた経緯と見直しの動き第3 短期照射(寡分割照射)では50グレイに届かないこと第4 保険会社ごとの扱いと既契約への適用1 既存の契約にも撤廃を及ぼした例2 契約の時期によって要件が残る例3 点数表連動型でも線量要件が残る例4 撤廃の広がりと給付の実情第5 「50グレイ相当」の診断書で支払われるか1 裁定審査会で支払が認められなかった事案2 調査研究で報告された支払例第6 約款の文言を広げて読ませることはできるか1 別表の医学用語を通常の意味で読んだ最高裁判決2 術式の変遷を理由とする拡張を退けた裁判例3 本記事の調査で見当たらなかった裁判例4 点数表上の分類が決め手となった裁定例第7 給付金が支払われないときの確認と手続1 約款の版と特約を特定する2 改定のお知らせを確認する3 線量の記載と数え方を確認する4 生命保険相談所・裁定審査会と訴訟5 消滅時効に注意する6 公的医療保険の高額療養費7 これから加入し,又は見直す場合の確認事項第8 関連記事第9 出典・参考資料1 法令2 裁判例・裁定3 保険会社の公表資料4 職能団体・業界団体の資料5 文献
第1 本記事の対象と結論
1 対象と基準日
本記事は,がん保険や医療保険の手術給付金・放射線治療給付金について,放射線の総線量が50グレイ以上であることを支払要件とする約款の定めを扱う。
乳がんの術後照射などで回数を減らした照射(寡分割照射)を受けると総線量が50グレイに届かないことがあり,加入している保険の約款にこの要件があると,給付金が支払われるかどうかが問題になる。
記載は,令和8年9月20日時点で確認できた保険会社の公表資料,生命保険協会の裁定概要,裁判例及び法令に基づく。
個々の保険の支払可否は,契約日,特約の種類及び適用される約款の版によって異なる。
2 結論
(1) 要件の有無は約款の版と特約で決まる
「50グレイ以上の照射」を条件とする定めは,旧来の手術給付表にあった文言であり,現在も一部の特約や契約時期の約款に残っている。
他方で,公的医療保険の放射線治療料の算定対象となる治療であれば線量を問わない型の約款も増えており,同じ保険会社でも契約の時期によって扱いが異なる。
既存の契約にまで撤廃を及ぼした保険会社もあるが,新しい契約だけに撤廃を適用した例も多い。
(2) 「相当」の診断書と約款の文言
主治医が「50グレイ相当の効果がある」と診断書に書いても,約款が総線量の数値を条件としている限り,支払われるとは限らない。
生命保険協会の裁定審査会でも,この種の申立てで保険会社に支払を求めなかった事案がある。
支払を受けられないときは,約款の版と保険会社の改定のお知らせを確認した上で,保険会社への再請求,生命保険相談所・裁定審査会又は訴訟を検討し,その間に保険金請求権の消滅時効(原則3年)が進むことに注意する。
第2 「50グレイ以上」要件の内容と由来
1 旧来の手術給付表の文言
(1) 手術給付表の「新生物根治放射線照射」
明治安田生命保険の手術保障特約の手術給付表(別表)は,改定前,「88.新生物根治放射線照射(50グレイ以上の照射で,施術の開始日から60日の間に1回の給付を限度とする。)」と定めていた。
同社の説明によれば,「50グレイ以上の照射」には「5,000ラド以上の照射」の場合を含む。
このように,放射線治療を手術給付表の一項目として給付の対象とし,その中で総線量の下限を定める形が旧来の典型である。
(2) 他社の約款の例
かんぽ生命保険が公表している簡易生命保険の特約約款(抜粋)の別表では,91番の「新生物根治放射線照射」に「一連の照射をもって50グレイ以上の照射を受けた場合に限ります。」との限定が付されている。
東京海上日動あんしん生命保険の「がん治療支援保険」(平成25年10月改定のご契約のしおり・約款)のがん手術特約条項の別表にも,「悪性新生物根治放射線照射(悪性新生物の治療を目的とした50グレイ以上の照射で,施術の開始日から60日の間に1回の給付を限度とする。)」とある。
番号や文言の細部は会社と商品によって異なるので,手元の約款の別表を直接確認する必要がある。
2 要件が置かれた経緯と見直しの動き
(1) 昭和56年の統一約款
順天堂大学の放射線治療医による調査研究(生命保険論集222号所収)は,この規定について,昭和56年(1981年)に「疾病・手術に関する全社統一約款」が作成された際,悪性腫瘍への放射線治療を手術の代替治療として手術等級表の一項目に加えたことに由来すると説明している。
同研究は,多くの民間医療保険会社及び共済で,放射線治療に対する給付を総線量50グレイ以上とする規定の商品が過去にあり,総線量が50グレイ未満となる寡分割照射に給付が行われない実態が問題となっていたとも述べている。
(続きを読む...)がん保険の放射線治療と「50グレイ以上」要件―旧約款の由来,既契約への適用,短期照射及び給付金が支払われないときの対応(AI作成)