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消滅時効は改正前民法と改正後民法のどちらで判断するか―附則10条・35条の経過措置と振り分け表(AI作成)

第1 本記事の対象と結論

1 本記事の対象

本記事は,ある債権の消滅時効を判断するときに,平成29年法律第44号による改正前の民法(以下「改正前民法」という。)と改正後の民法(以下「民法」又は「改正後民法」という。)のどちらを適用するのかという問題を扱う。
改正法は令和2年4月1日に施行された(以下この日を「施行日」という。)。
調査基準日は令和8年9月19日であり,条文はe-Gov法令検索で取得した現行の民法及び民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)の附則で確認した。

消滅時効の論点全体の見取り図は,消滅時効に関するメモ書きにまとめている。
本記事は,そのうち「新旧どちらの民法によるか」の部分だけを取り出して詳しく説明するものである。

2 結論

施行日(令和2年4月1日)より前に生じた債権の消滅時効は,期間も援用も改正前民法で判断する(附則10条1項・4項)。
施行日以後に生じた債権であっても,その原因である契約その他の法律行為が施行日前にされていれば,同じく改正前民法による(附則10条1項括弧書)。
施行日前に生じた時効の中断・停止の事由の効力は改正前民法により(同条2項),施行日前に書面でされた協議を行う旨の合意には民法151条を適用しない(同条3項)。

不法行為による損害賠償請求権には附則35条の特則がある。
不法行為の時から20年が施行日の時点で既に経過していた場合(平成12年3月31日以前の不法行為)は改正前民法724条後段(除斥期間)により,3年の時効が施行日の時点で既に完成していた場合は人身損害の5年の特則(民法724条の2)を適用しない。
法務省の説明資料によれば,生命・身体を害する不法行為で,被害者が損害及び加害者を知ったのが平成29年4月1日以後であれば,改正後民法の5年が適用される。

商行為によって生じた債権(改正前商法522条の5年)と労働基準法上の賃金債権には,それぞれ別の法律に経過措置がある。
施行から6年半が経過した現在でも,施行日前に契約した貸金,施行日前の雇用契約に基づく安全配慮義務違反の損害賠償請求権等については,改正前民法の10年の時効がなお進行中であることがある。

第2 経過措置を定める条文

1 附則10条(時効に関する経過措置)

(1) 1項と4項(援用と期間)

附則10条1項は,「施行日前に債権が生じた場合(施行日以後に債権が生じた場合であって、その原因である法律行為が施行日前にされたときを含む。以下同じ。)におけるその債権の消滅時効の援用については、新法第百四十五条の規定にかかわらず、なお従前の例による。」と定める。
同条4項は,「施行日前に債権が生じた場合におけるその債権の消滅時効の期間については、なお従前の例による。」と定める。
4項には括弧書がないが,1項の括弧書が「以下同じ。」としているから,4項の「施行日前に債権が生じた場合」にも,原因である法律行為が施行日前にされた場合が含まれる。

「期間」には,時効期間の長さだけでなく,改正前民法166条1項の「権利を行使することができる時から」という起算点の定め方も含まれると読むのが自然である。
したがって,改正前民法が適用される債権には,改正後民法166条1項1号の「権利を行使することができることを知った時から五年間」という主観的起算点の時効は働かず,改正前民法167条1項の10年や,職業別の短期消滅時効(改正前民法170条~174条),商事消滅時効(改正前商法522条)がそのまま適用される。

援用について「従前の例による」とされたのは,改正後民法145条が「当事者(消滅時効にあっては、保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含む。)」と括弧書で援用権者を明示したのに対し,改正前民法145条は「時効は、当事者が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。」とだけ定めていたからである。
改正前民法が適用される債権では,誰が援用できるかは改正前民法145条の「当事者」の解釈,すなわち従来の判例によって判断することになる。
援用権者の範囲の詳細は,消滅時効を援用できるのは誰か―保証人・物上保証人・第三取得者,後順位抵当権者及び詐害行為の受益者で扱う。

(2) 2項と3項(中断・停止と協議合意)

附則10条2項は,「施行日前に旧法第百四十七条に規定する時効の中断の事由又は旧法第百五十八条から第百六十一条までに規定する時効の停止の事由が生じた場合におけるこれらの事由の効力については、なお従前の例による。」と定める。
基準は債権の発生時ではなく,中断又は停止の事由が生じた時である。
施行日前にされた訴えの提起,差押え,仮差押え,承認等の効力は,改正前民法の「中断」として扱われる。

同条3項は,民法151条(協議を行う旨の合意による時効の完成猶予)の規定を,施行日前に権利についての協議を行う旨の合意が書面(電磁的記録を含む。)でされた場合には適用しないとする。
改正前民法には協議合意による時効の停止の制度がなかったから,施行日前に交わした「協議を続ける」旨の書面には,時効の完成を妨げる効力はない。

2項と3項は,施行日前の事由と合意だけを改正前民法に委ねている。
条文の構造からすると,改正前民法が適用される古い債権であっても,施行日以後に生じた裁判上の請求,強制執行,催告,承認等の効力や,施行日以後に書面でされた協議合意の効力は,改正後民法の完成猶予・更新の規定によって判断することになると考えられる。
完成猶予と更新の仕組みは時効の完成猶予と更新の違い―旧法の中断・停止との対応関係と事由の一覧で,協議合意の使い方は内容証明による催告と協議を行う旨の合意―6か月の完成猶予,再度の催告及び民法151条の使い方で説明する。

2 附則35条(不法行為等に関する経過措置)

附則35条1項は,改正前民法724条後段(相続財産の清算に関する規定で準用する場合を含む。)に規定する期間が「この法律の施行の際既に経過していた場合におけるその期間の制限については、なお従前の例による。」と定める。
改正前民法724条は,前段で「損害及び加害者を知った時から三年間」の消滅時効を,後段で「不法行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。」と定めており,判例は後段の20年を除斥期間と解していた。
改正後民法724条2号は,「不法行為の時から二十年間行使しないとき」を消滅時効として定めている。

期間の計算は初日を算入しない(民法140条)。
平成12年3月31日の不法行為であれば,20年の期間は令和2年3月31日の終了で満了し,施行日には既に経過している。
平成12年4月1日の不法行為であれば,20年の期間は令和2年4月1日の終了で満了するから,施行日の時点ではまだ経過しておらず,改正後民法724条2号の消滅時効が適用される。
もっとも,加害行為から相当期間を経過した後に損害が発生する類型では,判例上「不法行為の時」が加害行為の時とは限らないから,単純に加害行為の日付だけで振り分けることはできない。
除斥期間の性質と最高裁令和6年7月3日大法廷判決による変更の範囲は,改正前民法724条後段の除斥期間と最高裁令和6年7月3日大法廷判決―信義則・権利濫用による制限と判例変更の射程で扱う。

附則35条2項は,「新法第七百二十四条の二の規定は、不法行為による損害賠償請求権の旧法第七百二十四条前段に規定する時効がこの法律の施行の際既に完成していた場合については、適用しない。」と定める。
民法724条の2は,人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権について,3年を5年に読み替える規定である。
改正前民法の3年の時効が施行日の時点で既に完成していれば5年への延長は働かず,完成していなければ改正後民法の5年が適用される。
人身損害の特則の内容は人身損害の消滅時効の特則―民法167条・724条の2と債務不履行構成・不法行為構成の選び方で説明する。

不法行為による損害賠償請求権は不法行為の時に発生するから,附則10条4項の文言だけを見ると,施行日前の不法行為にはすべて改正前民法が適用されるようにも読める。
しかし,附則35条は不法行為についての特則として置かれており,後記第4の3のとおり,法務省の説明資料も,施行日前の交通事故による傷害の損害賠償請求権に改正後民法の5年を適用している。
不法行為による損害賠償請求権の期間制限は,附則10条4項ではなく附則35条によって振り分けるのが,法務省の説明と整合する。

3 民法以外の法律の経過措置

(1) 商行為によって生じた債権

改正前商法522条は,「商行為によって生じた債権は、この法律に別段の定めがある場合を除き、五年間行使しないときは、時効によって消滅する。」と定めていた。
同条は,民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成29年法律第45号。以下「整備法」という。)によって削除された。
整備法4条7項は,「施行日前にされた商行為によって生じた債権に係る消滅時効の期間については、なお従前の例による。」と定める。
施行日前にされた商行為によって生じた債権には,改正前商法522条の5年がなお適用される。

(2) 労働基準法上の賃金債権

労働基準法上の賃金請求権の時効は,民法ではなく労働基準法115条と附則143条による。
これらを改正した労働基準法の一部を改正する法律(令和2年法律第13号)は,附則1条で民法改正法の施行日から施行するとし,附則2条2項で,改正後の規定は「施行日以後に支払期日が到来する労働基準法の規定による賃金(退職手当を除く。以下この項において同じ。)の請求権の時効について適用し」,施行日前に支払期日が到来した賃金の請求権の時効については従前の例によるとした。
賃金の経過措置は,雇用契約の締結時ではなく各賃金の支払期日で振り分ける点で,民法附則10条とは基準が異なる。
詳細は賃金・残業代の消滅時効は3年か5年か―労働基準法115条・附則143条の読替えと撤廃論議で扱う。

第3 「債権が生じた」と「原因である法律行為」の意味

1 基準は債権の発生時であり,請求時や弁済期ではない

附則10条1項・4項の基準は,債権が生じた時である。
いつ請求したか,いつ弁済期が到来したか,いつ訴えを提起したかは,振り分けの基準にならない。
例えば,平成31年に弁済期を令和3年とする約定で金銭を貸し付けた場合,貸金返還請求権の弁済期は施行日後であるが,債権は施行日前に生じているから,改正前民法が適用される。

2 原因である法律行為が施行日前にされた場合

施行日以後に債権が生じた場合でも,その原因である法律行為が施行日前にされたときは,改正前民法が適用される(附則10条1項括弧書)。
法務省の説明資料は,これを「施行日前に債権発生の原因である法律行為がされた場合」と表現し,施行日前に締結された雇用契約に基づき,施行日後の事故によって生じた安全配慮義務違反の損害賠償請求権に改正前民法を適用する設例を示している(後記第4の2)。
当事者は,契約を締結した時点の法律を前提に権利関係を予測しているから,その予測を保護する趣旨と理解できる。

この括弧書が働く典型は,施行日前に締結された契約に基づいて施行日後に発生する債権である。
施行日前に締結された賃貸借契約に基づく施行日後の賃料債権,施行日前に締結された継続的な供給契約に基づく代金債権,施行日前に締結された雇用契約上の安全配慮義務違反による損害賠償請求権等が考えられる。
改正前民法の下で賃料のような定期給付債権は5年の短期消滅時効(改正前民法169条)の対象であったから,施行日前からの賃貸借の賃料には,改正前民法169条が適用されることになる。

3 契約の更新,保証及び継続的取引

(1) 契約の更新

法務省の説明資料は,契約に関するルールについて,「施行日後に当事者が合意によって賃貸借契約や保証契約を更新したときは,当事者はその契約に新法が適用されることを予測していると考えられますから,施行日後に新たに契約が締結された場合と同様に,改正後の新しい民法が適用されます。」と説明している。
もっとも,この説明は契約の効力に関する経過措置(附則34条等)についてのものであり,時効の経過措置である附則10条について合意更新をどう扱うかを明示したものではない。
合意更新を新たな「法律行為」とみれば,更新後に発生する債権には改正後民法の時効が適用されることになるが,法定更新や自動更新条項による更新の扱いを含め,本記事の調査の範囲では,これを判断した裁判例や公的資料を確認できなかった。
施行日をまたいで更新された契約の債権について時効を検討するときは,更新の方式(合意更新・自動更新・法定更新)と更新の日付を確認した上で,改正前民法による計算と改正後民法による計算の両方をしておくのが安全である。

(2) 保証

保証債務の履行請求権は保証契約によって生じるから,保証契約が施行日前に締結されていれば,保証債務の時効には改正前民法が適用される。
附則21条1項も,「施行日前に締結された保証契約に係る保証債務については、なお従前の例による。」と定めている。
法務省の説明資料は,施行日前に締結された保証契約が賃貸借契約の更新後に発生する債務も保証する趣旨であり,施行日後も保証契約について合意更新がされることなく継続している場合には,保証契約については施行日後も改正前民法が適用されると説明している。
賃貸借契約だけが施行日後に合意更新された場合,主たる債務(賃料等)と保証債務とで適用される法律が異なり得ることに注意を要する。

(3) 継続的取引

基本契約を施行日前に締結し,個別の取引を施行日後に行う継続的取引では,「原因である法律行為」が基本契約なのか個別契約なのかが問題になる。
この点について,本記事の調査の範囲では,附則10条1項の解釈を示した最高裁判例を裁判所HPで確認できなかった。
個別契約ごとに目的物・代金が定まる取引であれば,債権の原因は個別契約とみる余地が大きいと考えられるが,基本契約の内容によって結論が変わり得るから,契約書を確認して個別に判断するほかない。

4 契約によらない債権

不当利得返還請求権や事務管理に基づく請求権のように契約によらずに生じる債権は,原則として債権の発生時で振り分ける。
例えば,施行日前の過払いによって生じた過払金返還請求権には改正前民法が適用され,施行日後の過払いによって生じた過払金返還請求権には改正後民法が適用される。
もっとも,継続的な金銭消費貸借取引の過払金については,判例上,時効の起算点が取引終了時とされる場合があるから,起算点の問題は過払金返還請求権の消滅時効はいつから進行するか―取引終了時とした最高裁平成21年1月22日判決で別に検討する。
不法行為による損害賠償請求権は,前記第2の2のとおり附則35条で振り分ける。

第4 法務省の説明資料の設例

1 飲食店のツケ(改正前民法の短期消滅時効)

法務省の経過措置に関する説明資料は,施行日前の令和元年(2019年)8月に飲食店でツケで飲食をし,施行日後の令和3年(2021年)4月に飲食代金の支払請求を受けた設例を挙げる。
債権は施行日前に発生しているから改正前民法が適用され,飲食代金債権は1年で時効が完成する(改正前民法174条4号)とされている。
改正前民法174条4号は,「旅館、料理店、飲食店、貸席又は娯楽場の宿泊料、飲食料、席料、入場料、消費物の代価又は立替金に係る債権」を1年の短期消滅時効としていた。
請求を受けた時期が施行日後であっても,改正後民法の5年にはならない。

2 労災事故(原因である法律行為が施行日前)

同資料は,施行日前の平成31年(2019年)4月に雇用契約を締結して勤務を開始し,施行日後の令和2年(2020年)4月に勤務先の安全管理体制の不備による事故で傷害を負い,令和8年(2026年)4月に安全配慮義務違反を理由として損害賠償を請求した設例を挙げる。
損害賠償請求権は施行日後に発生しているが,債権発生の原因である法律行為(雇用契約)は施行日前にされているから,改正前民法が適用され,「権利を行使することができる時から10年間」で時効が完成するとされている。
改正後民法の「知った時から5年・権利を行使することができる時から20年」(民法166条1項・167条)は適用されない。
同資料は,この設例では身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求も考えられ,その場合の経過措置は別に扱うとしている。
安全配慮義務違反による損害賠償請求権の時効は,安全配慮義務違反による損害賠償請求権の消滅時効―10年・20年とじん肺の起算点で扱う。

3 交通事故による傷害(附則35条2項)

同資料は,施行日前の平成31年(2019年)4月に相手方の不注意による交通事故で傷害を負い,施行日後の令和5年(2023年)4月に加害者に損害賠償を請求した設例を挙げる。
生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権は,施行日の時点で改正前民法による3年の時効が完成していなければ改正後民法が適用されるから,被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から5年,不法行為の時から20年で時効が完成するとされている。
同資料の表は,損害及び加害者を知った時点が平成29年(2017年)3月31日以前であれば知った時から3年(改正前民法),平成29年(2017年)4月1日以後であれば知った時から5年(改正後民法)と整理している。
同資料はこの点を明記していないが,この表は,施行日前に時効の中断等がなかった場合を前提とするものと読むべきである。
交通事故の起算点(症状固定,物損の別進行等)は交通事故の損害賠償請求権の時効はいつから進行するか―症状固定,物損の別進行及び弁護士費用で説明する。

第5 振り分け表と計算例

1 振り分け表

問題となる事項判断の基準適用される規定
債権(契約等によるもの)の時効期間・起算点債権の発生時,又は原因である法律行為の時が施行日前かいずれかが施行日前なら改正前民法(附則10条4項),いずれも施行日以後なら改正後民法166条等
時効の援用(援用権者)同上施行日前なら改正前民法145条と従来の判例(附則10条1項),施行日以後なら改正後民法145条
中断・停止(完成猶予・更新)の効力事由が生じた時が施行日前か施行日前の事由は改正前民法の中断・停止(附則10条2項),施行日以後の事由は改正後民法の完成猶予・更新
協議を行う旨の合意書面による合意が施行日前か施行日前の合意には民法151条を適用しない(附則10条3項)
不法行為の20年施行日の時点で不法行為の時から20年が経過していたか経過済み(平成12年3月31日以前の不法行為)なら改正前民法724条後段の除斥期間,未経過なら民法724条2号の消滅時効(附則35条1項)
人身損害の不法行為の3年→5年施行日の時点で改正前民法の3年の時効が完成していたか完成済みなら民法724条の2を適用しない,未完成なら5年(附則35条2項)
商行為によって生じた債権商行為が施行日前にされたか施行日前なら改正前商法522条の5年(整備法4条7項)
労働基準法上の賃金支払期日が施行日前か施行日前に支払期日が到来した賃金は改正前の2年,施行日以後は3年(退職手当は5年)(令和2年法律第13号附則2条2項)

2 日付による計算例

(1) 改正前民法の10年がまだ進行している例

個人間で平成30年(2018年)4月20日に金銭を貸し付け,弁済期を平成30年(2018年)10月31日と定めた場合,貸金返還請求権は施行日前に生じているから,改正前民法167条1項の10年が適用される。
改正前民法166条1項により,時効は権利を行使することができる時,すなわち弁済期から進行し,初日を算入しないから,時効期間は令和10年(2028年)10月31日の終了で満了する。
仮に改正後民法が適用されたとすれば,債権者は弁済期を知っているから,知った時から5年として令和5年(2023年)10月31日の終了で時効が完成していたことになる。
新旧の振り分けを誤ると,5年の差が生じる。

同じ貸付けでも,貸主が銀行等であって商行為によって生じた債権であれば,改正前商法522条の5年が適用され(整備法4条7項),令和5年(2023年)10月31日の終了で時効期間が満了する。
債権者が商人かどうか,貸付けが商行為に当たるかどうかも,振り分けと同時に確認する必要がある。

(2) 施行日後に発生したが改正前民法による例

平成31年(2019年)4月1日に締結された雇用契約に基づき勤務していた労働者が,令和3年(2021年)6月1日の労災事故で負傷した場合,安全配慮義務違反による損害賠償請求権(債務不履行構成)は,法務省の設例と同じく改正前民法による。
改正前民法167条1項の10年が権利を行使することができる時から進行するから,損害発生時を起算点とすれば,時効期間は令和13年(2031年)6月1日の終了で満了する。
これに対し,同じ事故を不法行為構成で請求する場合は附則35条で振り分けることになり,事故は施行日後であるから,改正後民法の「知った時から5年・不法行為の時から20年」(民法724条・724条の2)が適用される。

(3) 不法行為の20年の振り分け例

平成12年(2000年)3月31日の不法行為による損害賠償請求権は,施行日の時点で20年を経過しているから,改正前民法724条後段の除斥期間の問題になる。
平成12年(2000年)4月1日の不法行為による損害賠償請求権は,施行日の時点で20年を経過していないから,民法724条2号の消滅時効となり,完成猶予・更新や援用の規定が働く。

第6 施行から6年半後の実務上の注意

1 改正前民法が適用される債権はまだ残っている

施行日から6年半が経過したが,改正前民法167条1項の10年が適用される債権は,弁済期が施行日の直前であっても令和12年(2030年)3月まで時効期間が満了しない。
弁済期が施行日後に到来する施行日前の契約(長期の分割弁済,長期の賃貸借等)では,それより後まで改正前民法が問題になる。
また,施行日前に時効が中断していた債権や,確定判決等によって10年に延長された債権(判決で確定した債権の消滅時効は10年―民法169条と改正前169条(定期給付債権)の違い参照)も,改正前民法の期間計算が続いていることがある。

反対に,改正前民法の職業別の短期消滅時効(1年~3年)や改正前商法の5年が適用される債権の多くは,施行日前に弁済期が到来したものであれば,中断等がない限り既に時効期間が満了している。
請求を受けた側は,債権の発生時期を特定して改正前民法の短期消滅時効を検討する価値がある。

2 施行日以後の完成猶予・更新は改正後民法で判断する

前記第2の1のとおり,改正前民法が適用される債権でも,施行日以後に生じた完成猶予・更新の事由の効力は,改正後民法で判断することになると考えられる。
例えば,改正前民法が適用される貸金債権について施行日以後に内容証明郵便で催告すれば,改正後民法150条による6か月の完成猶予として扱われ,施行日以後に書面で協議を行う旨の合意をすれば,民法151条の完成猶予が働く。
期間の長さは改正前民法,期間の進行を止める仕組みは改正後民法という組合せになるから,時効管理の表を作るときは,両者を混同しないように欄を分けて記録するのがよい。

3 旧法下の判例を読むときの注意

改正前民法の下での最高裁判例は,改正前民法の条番号と用語(中断・停止)で書かれている。
改正前民法169条は定期給付債権の5年の短期消滅時効であり,現行民法169条(判決で確定した権利の消滅時効)とは内容がまったく異なる。
判例を引用するときは,事案の債権が改正前民法・改正後民法のどちらの適用を受けるものかを確認し,改正前民法の下での判断であることを明示するのが適切である。
法定利率の経過措置は,時効とは異なり利息が生じた時又は遅滞の責任を負った時で振り分ける(附則15条1項・17条3項)から,遅延損害金の利率は年3%か年5%か―令和2年4月1日の経過措置,商事法定利率の廃止及び3年ごとの見直しも併せて確認するとよい。

第7 関連記事

消滅時効全体の見取り図は,消滅時効に関するメモ書きにある。
時効期間の原則と分野別の期間は,債権の消滅時効は何年か―5年・10年の原則,短期消滅時効の廃止及び分野別の時効期間で扱う。
相続の使途不明金について改正前民法と改正後民法を見分ける方法は,相続の使途不明金の消滅時効―請求原因・起算点・旧法の見分け方で説明している。
成年後見人が本人の古い借金について改正前民法による時効を検討する場面は,成年後見人は本人の古い借金を返してよいか――債務の存否の確認,消滅時効の援用及び家庭裁判所への連絡票で扱っている。

第8 出典・参考資料

1 法令

①民法(明治29年法律第89号)140条,145条,150条,151条,166条,167条,724条,724条の2(e-Gov法令検索で令和8年6月24日施行時点の現行条文を取得して確認)
②改正前民法145条,147条,166条~169条,174条,724条(e-Gov法令検索で令和2年3月1日施行時点の条文を取得して確認)
③民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)附則1条,10条,15条,17条,21条,34条,35条(e-Gov法令検索の民法の改正附則及び衆議院ウェブサイト掲載の法律本文で確認)
④民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成29年法律第45号)4条7項(衆議院ウェブサイト掲載の法律本文で確認)
⑤改正前商法522条(e-Gov法令検索で平成31年4月1日施行時点の条文を取得して確認)
⑥労働基準法の一部を改正する法律(令和2年法律第13号)附則1条,2条(e-Gov法令検索の労働基準法の改正附則で確認)

2 公的資料

法務省「経過措置」(改正法の説明ページに「経過措置」として掲載されている説明資料・PDF)
法務省民事局参事官室「事件や事故に遭われた方へ 2020年4月1日から事件や事故によって発生する損害賠償請求権に関するルールが変わります」(平成31年2月発行)
法務省「民法の一部を改正する法律(債権法改正)について」
衆議院「民法の一部を改正する法律」(平成29年法律第44号)
衆議院「民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」(平成29年法律第45号)