第1 株主総会の書面決議とは
株主総会の書面決議とは,株主総会を開かずに,株主全員が書面又は電磁的記録(電子メール等)で提案に同意することによって,その提案を可決する株主総会の決議があったものとみなす制度である(会社法319条1項)。
条文の見出しは「株主総会の決議の省略」であり,「みなし決議」とも呼ばれる。
株主が数名の同族会社や,親会社が全株式を持つ子会社では,株主全員の同意を集めやすいから,定時株主総会の計算書類の承認や役員の選任をこの方法で行うことが考えられる。
本記事は,令和8年9月19日を基準に,会社法,会社法施行規則,商業登記法及び商業登記規則の条文と,法務省・法務局の公表資料を基に,書面決議の要件,効果,決議後の議事録と登記,全員の同意が得られない場合の選択肢を説明する。
あわせて,法制審議会会社法制(株式・株主総会等関係)部会で検討されている,非上場会社に限って議決権の10分の9以上の同意で足りるとする改正案を紹介する。
改正案は令和8年9月19日時点で事務当局の提案の段階にあり,現行法は株主全員の同意を要する。
第2 書面決議の要件
1 提案をする者
書面決議の出発点は,取締役又は株主が,株主総会の目的である事項について提案をすることである(会社法319条1項)。
株主も提案をすることができるから,株主全員が賛成していれば,株主の側から書面決議を成立させることもできる。
2 議決権を行使することができる株主の全員の同意
(1) 同意が必要な株主の範囲
同意が必要なのは,「当該事項について議決権を行使することができるもの」に限った株主の全員である(会社法319条1項括弧書)。
そのため,議決権制限株式しか持たず,その事項について議決権を行使できない株主の同意は要らない。
反対に,議決権を行使できる株主は,保有する株式が1株でも,連絡が取れない状態であっても,同意を得る対象から外れない。
(2) 多数決ではない
書面決議は,普通決議や特別決議の要件(会社法309条1項・2項)を満たせば成立するものではない。
議決権の99%を持つ株主が同意していても,残りの1人が同意しなければ,決議があったものとはみなされない。
(3) 決議の種類を問わない
会社法319条1項は,対象となる事項を限定していない。
計算書類の承認や役員の選任のような普通決議の事項だけでなく,定款変更のような特別決議の事項も,株主全員が同意すれば書面決議で可決できる。
3 書面又は電磁的記録による同意
同意の意思表示は,書面又は電磁的記録でしなければならない(会社法319条1項)。
口頭や電話で「賛成する」と伝えただけでは足りない。
電子メールで同意する場合も,後に閲覧・謄写の対象となるので(同条3項2号),会社は同意のメールを保存しておくことになる。
第3 書面決議の効果
1 可決の決議があったものとみなされる
株主全員の同意があったときは,提案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみなされる(会社法319条1項)。
決議があったものとみなされた日は,議事録の記載事項となる(会社法施行規則72条4項1号ハ)。
株主全員の同意がそろった時に決議があったものとみなされるから,最後の株主の同意が会社に到達した日がこの日になると考えられる。
2 定時株主総会の終結と取締役の任期
定時株主総会の目的である事項の全部について書面決議が成立したときは,その時に定時株主総会が終結したものとみなされる(会社法319条5項)。
取締役の任期は,選任後2年以内(公開会社でない会社は定款で10年以内まで伸長できる。)に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までであるから(会社法332条1項・2項),書面決議が成立した時点で,任期が満了する取締役が退任することになる。
そのため,任期満了の取締役がいる年に書面決議を使う場合は,後任又は再任の取締役の選任も同じ提案に含めておく必要がある。
3 報告事項の省略と計算書類の備置き
株主総会に報告すべき事項(事業報告の内容等)は,決議ではないため,会社法319条ではなく会社法320条で省略する。
取締役が株主全員に報告事項を通知し,株主全員が書面又は電磁的記録で報告を要しないことに同意したときは,株主総会への報告があったものとみなされる(会社法320条)。
また,定時株主総会の目的である事項について書面決議の提案をした場合,計算書類や事業報告等を本店に備え置く期間は,319条1項の提案があった日から5年間となる(会社法442条1項1号括弧書)。
第4 書面決議の後の手続
1 同意書面の備置きと閲覧
会社は,決議があったものとみなされた日から10年間,同意の書面又は電磁的記録を本店に備え置かなければならない(会社法319条2項)。
株主及び債権者は,会社の営業時間内は,いつでも,その閲覧又は謄写を請求できる(同条3項)。
親会社の株主等は,権利を行使するため必要があるときに,裁判所の許可を得て閲覧等を請求できる(同条4項)。
2 議事録の作成
書面決議でも,株主総会の議事録は作成しなければならない(会社法318条1項)。
議事録の内容は,通常の株主総会とは異なり,次の4点である(会社法施行規則72条4項1号)。
①決議があったものとみなされた事項の内容
②その事項の提案をした者の氏名又は名称
③決議があったものとみなされた日
④議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名
報告を省略した場合は,報告があったものとみなされた事項の内容,その日及び議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名を記載する(同項2号)。
千葉地方法務局が公表している書面決議議事録の記載例も,この項目に沿った書き方になっている。
3 登記の添付書面と株主リスト
(1) 議事録に代わる書面
役員の変更など登記すべき事項について書面決議をしたときは,登記の申請書に,議事録に代えて,書面決議があったものとみなされる場合に該当することを証する書面を添付する(商業登記法46条3項)。
千葉地方法務局は,商業登記の申請書の様式及び記載例の一つとして,書面決議議事録の記載例を公表している。
同記載例は,書面決議の議事録の記載を就任承諾書として援用することはできないと注記しているから,取締役等の就任承諾書は別に用意する。
(2) 株主リスト
株主総会の決議を要する登記では,議決権の割合が上位の株主(上位10名か,議決権の割合を順に加算して3分の2に達するまでの人数のいずれか少ない人数)の氏名,住所,株式数,議決権数等を証する書面(株主リスト)を添付しなければならない(商業登記規則61条3項)。
同項は,書面決議によって決議があったものとみなされる場合を含むと明記しており,法務省の案内も,株主総会決議を省略する場合(会社法319条1項)にも株主リストが必要であるとしている。
第5 株主全員の同意が得られない場合
1 書面決議は成立しない
議決権を行使できる株主のうち1人でも同意しなければ,書面決議は成立しない。
全員の同意がないのに書面決議があったものとして議事録を作成し,登記をしても,会社法319条1項の効果は生じない。
その場合,同意しなかった株主等は,決議の不存在の確認の訴え(会社法830条1項)でこれを争うことが考えられる。
2 招集手続の省略と全員出席総会
(1) 招集手続の省略
株主総会を開く場合でも,株主の全員の同意があるときは,招集の手続を経ずに開催できる(会社法300条本文)。
ただし,書面又は電磁的方法による議決権行使を定めた場合は,招集手続を省略できない(同条ただし書)。
(2) 全員出席総会
招集手続の省略について事前の同意がなくても,株主全員が株主総会の開催に同意して出席した場合は,その総会でされた決議は有効である。
最高裁昭和60年12月20日判決は,招集手続を欠くのに株主全員が株主総会の開催に同意して出席した,いわゆる全員出席総会においてされた決議は総会の決議として有効に成立するとした。
同判決は,株主の代理人が出席した場合でも,株主が会議の目的である事項を知った上で委任し,決議の内容がその事項の範囲内であれば,決議は有効に成立するとしている。
書面決議と全員出席総会は,いずれも株主全員の協力を前提とする点で共通する。
3 連絡が取れない株主がいる場合
(1) 通常の招集手続による
書面決議も招集手続の省略も全員出席総会も,株主全員の協力を前提とするから,連絡が取れない株主が1人でもいれば使えない。
その場合は,取締役が株主総会を招集し,通常の方法で決議をすることになる(会社法296条・298条・299条)。
(2) 招集通知の宛先と通知の省略
招集の通知は,株主名簿に記載された株主の住所(株主が別に通知を受ける場所等を会社に通知した場合はその場所等)に宛てて発すれば足り,通常到達すべきであった時に到達したものとみなされる(会社法126条1項・2項)。
また,株主に対する通知が5年以上継続して到達しない場合は,その株主に対する通知を要しない(会社法196条1項)。
もっとも,通知を要しない株主であっても議決権は失われないから,書面決議の同意を得る対象からは外れない。
通知の到達しない株主の株式を整理する方法(所在不明株主の株式の売却)は,名義株の解消方法―名義書換え,訴訟,買取り及び所在不明株主の株式売却で扱っている。
第6 取締役会の書面決議との違い
取締役会についても書面決議の制度があるが(会社法370条),株主総会の書面決議とは要件が異なる。
主な違いは次の表のとおりである。
| 項目 | 株主総会の書面決議 | 取締役会の書面決議 |
|---|---|---|
| 根拠 | 会社法319条 | 会社法370条 |
| 定款の定め | 不要 | 必要 |
| 提案する者 | 取締役又は株主 | 取締役 |
| 同意が必要な者 | 議決権を行使できる株主の全員 | 議決に加わることができる取締役の全員 |
| 監査役の関与 | 定めなし | 監査役設置会社では,監査役が異議を述べたときは成立しない |
| 備置期間 | 10年間(319条2項) | 10年間(371条1項) |
取締役会の書面決議は,定款で定めておかなければ利用できない(会社法370条)。
株主総会の書面決議は定款の定めがなくても利用できるが,議決権を行使できる株主の全員の同意を要する点で,取締役会の書面決議と同じく全員一致の制度である。
第7 議決権の10分の9以上の同意で足りるとする改正案
1 部会資料14の提案の内容
法制審議会会社法制(株式・株主総会等関係)部会は,令和8年3月18日に中間試案を取りまとめ,同年6月以降,要綱案の取りまとめに向けた検討をしている。
令和8年7月22日の第16回会議と同年8月26日の第17回会議で審議された部会資料14は,株主総会の書面決議について,次の規律を設けることを提案している。
上場会社でない株式会社の取締役又は株主が株主総会の目的である事項について提案を株主に通知した場合に,次の二つを満たすときは,提案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみなす。
①総株主(その事項について議決権を行使できない株主を除く。)の議決権の10分の9以上(定款でこれを上回る割合を定めた場合はその割合以上)の議決権を有する株主が,書面又は電磁的記録により同意したこと
②同意した株主が株主総会でその提案に賛成したとすれば,株主総会の決議の要件を満たすこと
ただし,通知を発した日から1週間以内に異議を述べた株主があるときは,決議があったものとはみなされない。
2 中間試案からの変更点
令和8年3月18日の中間試案は,同じ規律を全ての株式会社について設けることとしていた。
部会資料14は,対象を上場会社でない株式会社に限っている。
部会資料14の補足説明は,この提案が,株主のうち1名に連絡が取れないなどの理由で少数の株主の同意を得られない事例を念頭に置いたものであり,そのような事例は非上場会社で生じ,上場会社では想定されないことを理由として挙げている。
また,決議が成立する時点は,株主の異議を述べる期間(通知の発信日から1週間)が経過した時とすることを前提としている。
3 改正案の位置付けと注意点
(1) 現時点では提案の段階である
部会資料は事務当局が作成した検討資料であり,本文も「次の規律を設けるものとすることで、どうか」という問いの形で書かれている。
令和8年9月19日の時点で要綱案は決定されておらず,改正法も成立していない。
したがって,現在は,議決権を行使できる株主の全員の同意がなければ書面決議は成立しない。
(2) 改正案でも使えない場面
改正案が実現した場合も,異議を述べた株主が1人でもいれば決議があったものとはみなされないから,反対の意思を示す株主がいる会社では使えない。
また,②の要件があるため,株主の頭数も要件とする決議(会社法309条3項・4項)の事項では,議決権の10分の9以上の同意があっても,同意した株主の人数が足りなければ,決議があったものとはみなされないと考えられる。
法制審議会の審議の流れは法制審議会とは-委員・部会の仕組み,諮問から答申・法律成立までの流れで,会社法のこれまでの改正は会社法(平成17年法律第86号)の改正経緯で扱っている。
少数株主が会社の業務と財産を調べる方法と,同じ部会資料14が提案している調査制度の見直しは,少数株主が会社の業務と財産を調べる方法で説明している。
第8 出典
1 法令
①会社法126条・196条・296条・298条・299条・300条・309条・318条・319条・320条・332条・370条・371条・442条・830条
②会社法施行規則72条
③商業登記法46条
④商業登記規則61条
法令は令和8年9月19日を基準とする。
2 裁判例
①最高裁昭和60年12月20日判決(昭和58年(オ)第1567号,民集39巻8号1869頁)
3 法務省・法務局の資料
①法務省「「株主リスト」が登記の添付書面となりました」
②千葉地方法務局「商業・法人登記申請書等様式及び記載例について」(書面決議議事録の記載例)
4 法制審議会の資料
①法務省「法制審議会会社法制(株式・株主総会等関係)部会」
②法制審議会会社法制(株式・株主総会等関係)部会「会社法制(株式・株主総会等関係)の見直しに関する中間試案」(令和8年3月18日)
③法制審議会会社法制(株式・株主総会等関係)部会資料14「会社法制(株式・株主総会等関係)の見直しに関する要綱案の取りまとめに向けた検討(2)」(第16回会議(令和8年7月22日)及び第17回会議(令和8年8月26日)で審議)