第1 本記事の概要と前提
1 特別保存と保存期間延長
裁判所の事件記録は,事件の種類ごとに定められた保存期間が満了すると,原則として廃棄される。
その例外として,歴史的・社会的な意義を有する記録を永久に保存する「特別保存」(事件記録等の特別保存に関する規則2条4項)と,特別の事由がある間だけ保存期間を延ばす「保存期間の延長」(事件記録等保存規程9条)がある。
特別保存は,規則7条により何人も要望することができる。
保存期間の延長は,事件の当事者や関係者などからの要望に基づいて行われる。
本記事は,大阪地方裁判所及び大阪家庭裁判所に対してこれらの要望をするときの期限,窓口,要望書の書き方及び要望後の流れを,両裁判所の案内ページと様式に即して整理する。
制度全体の仕組み(七つの対象類型,三つの職権選定基準,裁判所内部の認定プロセス)は,令和6年全国統一運用・裁判所の特別保存制度で説明している。
2 本記事の基準日と資料
本記事は,令和8年9月19日に確認した大阪地方裁判所・大阪家庭裁判所の案内ページ,両裁判所の特別保存要望書・保存期間延長要望書の様式,裁判所HPのオンライン要望の案内及び提出先裁判所一覧表,並びに最高裁判所の規則・規程・通達に基づく。
期限や窓口は変更されることがあるので,要望の前に各裁判所の最新の案内を確認する必要がある。
第2 期限――保存期間が満了する年の9月末日
1 大阪地方裁判所・大阪家庭裁判所の期限
大阪地方裁判所及び大阪家庭裁判所の案内ページは,事務手続の都合上,特別保存の要望は,要望をしようとする事件の保存期間が満了する日が属する年の9月末日までに行うよう協力を求めている。
例えば,令和8年中に保存期間が満了する記録について要望するのであれば,令和8年9月30日が目安となる。
この期限は,各裁判所に置かれた選定委員会が原則として毎年11月から12月までの間に,その年に保存期間満了日を迎える候補事件について意見を具申する(事件記録等の特別保存に関する規則の運用通達記3の(3))ことに合わせたものと考えられる。
同通達記3の(3)イは,前年に保存期間満了日を迎えた候補事件で前年の選定委員会で取り扱われなかったものも対象としているので,期限を過ぎたことだけで直ちに要望が無意味になるわけではないが,記録が廃棄された後では要望のしようがない。
期限に余裕をもって出すのが確実である。
2 他の裁判所との違い
最高裁判所及び東京地方裁判所の案内ページや,裁判所HPのオンライン要望の案内は,同じ期限を「10月末日」としている。
大阪地方裁判所・大阪家庭裁判所は,これより1か月早い。
大阪以外の裁判所に要望するときも,その裁判所の案内ページで期限を確認する。
3 保存期間の目安
期限を判断するには,対象の記録の保存期間がいつ満了するかを知る必要がある。
保存期間は,特別の定めがある場合のほか,裁判の確定その他の事由による事件完結の日から起算する(事件記録等保存規程4条2項)。
主な記録の保存期間は,次のとおりである。
| 記録 | 保存期間 | 根拠 |
|---|---|---|
| 民事通常訴訟・行政訴訟等の記録(令和8年5月20日以前に訴えを提起した事件)及び人事訴訟の記録 | 5年(判決原本50年,和解調書等30年) | 事件記録等保存規程別表第一 |
| 民事通常訴訟・行政訴訟等の記録(令和8年5月21日以後に訴えを提起した事件。人事訴訟を除く) | 原則10年(電子判決書50年,和解の電子調書30年) | 電子情報処理組織を使用する方法により申立て等を行うことができる事件の事件記録保存規程4条・別表 |
| 家事審判・家事調停事件の記録 | 原則5年(審判原本・調停調書30年等) | 事件記録等保存規程別表第一 |
| 少年保護事件の記録(保護処分決定等で終局) | 少年が26歳に達するまで | 事件記録等保存規程別表第一 |
| 少年調査記録 | 終局決定の日から6年(少年が26歳に達したときは満了) | 少年調査記録規程6条 |
例えば,令和3年中に判決が確定した民事通常訴訟の記録は,令和8年中に5年の保存期間が満了するので,特別保存を要望するなら令和8年9月末日が目安となる。
令和8年5月21日以後に提起された訴えに係る事件の保存期間については,mints後の裁判記録の保存期間で説明している。
第3 要望できる記録と要望先
1 対象となる記録
特別保存の要望の対象は,大阪地方裁判所(管内の支部,出張所及び簡易裁判所を含む。)又は大阪家庭裁判所(管内の支部を含む。)に係属していた(又は係属している)事件の記録等である。
記録等には,事件記録のほか,判決書原本等の事件書類が含まれ,少年事件については少年調査記録も含まれる。
執行官が取り扱った事件の記録(執行官法17条1項の執行記録)も,現在は特別保存の対象となっている(事件記録等の特別保存に関する規則別表第一の29の項)。
他方,殺人被告事件や強盗被告事件のような刑事の公判請求事件は,裁判所で事件記録を保存しないので,特別保存の要望の対象外である(裁判所HP「オンラインによる特別保存の要望について」)。
これらの記録は,刑事確定訴訟記録法により検察官が保管する。
2 提出先
書面で要望する場合の提出先は,次のとおりである。
| 対象の記録 | 特別保存要望書の提出先 | 保存期間延長要望書の提出先 |
|---|---|---|
| 大阪地方裁判所本庁・支部・大阪府内の簡易裁判所の民事事件等 | 大阪地方裁判所民事訟廷記録係(支部・簡易裁判所の分もここへ出せる) | 本庁の分は大阪地方裁判所民事訟廷記録係,支部・簡易裁判所の分はその支部・簡易裁判所 |
| 執行官が取り扱った事件の記録 | 大阪地方裁判所執行官室 | 大阪地方裁判所の案内ページには個別の記載がない |
| 大阪家庭裁判所本庁・支部の家事事件・人事訴訟事件 | 大阪家庭裁判所家事訟廷記録係(支部の分もここへ出せる) | 本庁の分は家事訟廷記録係,支部の分はその支部 |
| 大阪家庭裁判所本庁・支部の少年事件 | 大阪家庭裁判所少年訟廷記録係(支部の分もここへ出せる) | 本庁の分は少年訟廷記録係,支部の分はその支部 |
特別保存の要望は,記録等を保存している裁判所に提出することも可能とされている。
これに対し,保存期間延長の要望は,支部又は簡易裁判所が保存する記録については,その支部又は簡易裁判所に出すよう案内されている。
両者で提出先の扱いが異なる点に注意を要する。
オンラインで要望する場合は,裁判所HPの「提出先裁判所一覧表」に従って提出先を選ぶ。
同一覧表では,大阪地方裁判所本庁・堺支部・岸和田支部及び大阪府内の簡易裁判所の事件の提出先は「大阪地方裁判所」,大阪家庭裁判所本庁・堺支部・岸和田支部の事件の提出先は「大阪家庭裁判所」とされている。
大阪高等裁判所の事件は,大阪高等裁判所が提出先である。
3 窓口と連絡先
大阪地方裁判所の窓口は,次のとおりである(〒530-8522 大阪市北区西天満2丁目1-10)。
民事訟廷記録係 電話06-6316-2815,FAX06-6363-1324
執行官室 FAX06-6313-0885
大阪家庭裁判所の窓口は,次のとおりである(〒540-0008 大阪市中央区大手前4-1-13)。
家事訟廷記録係 電話06-6943-5759,FAX06-6946-7660
少年訟廷記録係 電話06-6943-5978,FAX06-6943-6895
要望の結果など特別保存に関する照会も,これらの係が受け付けている。
第4 要望書の書き方
1 様式の構成
大阪地方裁判所の特別保存要望書の様式は,次の欄で構成されている。
大阪家庭裁判所の様式もほぼ同じであるが,宛先として本庁・堺支部・岸和田支部を選ぶ欄があり,理由の選択肢に少年調査に関するものが加わっている。
① 要望日,宛先(大阪地方裁判所御中)
② 要望者の住所,職業,氏名及び電話番号
③ 対象事件の表示(係属した裁判所・支部・簡易裁判所,元号,年,符号,番号)と【事件に関する情報】
④ 保存の対象(事件記録,判決書原本等の事件書類。家庭裁判所の様式では少年調査記録を含む旨も記載されている)
⑤ 特別保存の理由(選択肢に○を付け,【理由の概要】を記載する)
⑥ 備考
2 対象事件の特定
事件番号が分かっている場合は,事件が係属していた裁判所と事件番号(年,符号,番号)を記載する。
大阪地方裁判所・大阪家庭裁判所以外(それぞれの支部・管内の簡易裁判所を除く。)に係属していた事件は受け付けられない。
事件番号が分からない場合は,【事件に関する情報】欄に,判決があった日付,当事者名,事件名等を記載して事件を特定する。
大阪地方裁判所の案内ページは,「○年○月○日に判決があった,原告○○,被告○○の損害賠償事件」や「○年○月○日の○○新聞朝刊に掲載された被告○○に対する(○○被害に関する)損害賠償事件」という記載例を示している。
大阪家庭裁判所の案内ページは,離婚訴訟事件や少年保護事件(傷害致死)の記載例を示している。
事件を特定できない場合は受け付けられないので,報道記事,判例データベース,事件の関係者の記憶などから,特定に必要な情報をできるだけ多く集めて記載する。
3 特別保存の理由
理由欄では,次の選択肢のうち該当するもの(複数選択可)に○を付ける。
ア 重要な憲法判断が示された。
イ 法令の解釈運用上特に参考になる判断が示された。
ウ 訴訟運営上特に参考になる審理方法により処理された。
エ 世相を反映した事件で史料的価値が高い。
オ 全国的に社会の耳目を集めた又は当該地方において特殊な意義を有する。
カ 調査研究の重要な参考資料となる。
キ 少年保護事件の調査上特に参考になる調査を行った(大阪家庭裁判所の様式のみ)。
その他
【理由の概要】は,どの選択肢に○を付けた場合でも記載する。
両裁判所の案内ページは,該当する類型と該当する理由を,できる範囲で具体的かつ分かりやすく記載するよう求めている。
要望があった事件は,要望の理由を十分に参酌し,各裁判所の選定委員会の意見を聴いた上で,裁判所の長が特別保存に付するか否かを認定する。
新聞2紙に終局の記事が載った事件や判例集に載った事件と違い,要望による認定は機械的には行われないので,理由の具体性が結論を左右する。
理由の組み立て方(判決の該当箇所,報道の紙名・掲載日,地域資料,記録全体を残す必要性の説明等)は,令和6年全国統一運用・裁判所の特別保存制度の第3の6で整理している。
4 書面で出すかオンラインで出すか
書面の場合は,要望書を持参,郵送又はFAXで提出する。
令和7年11月4日からは,裁判所HPの特別保存要望フォームからオンラインで要望することもできる。
フォームでは,提出先裁判所を選び,対象事件の表示と特別保存の理由(複数選択可)及び理由の概要を入力する。
必要な事項が入力されていないと送信できない。
送信してから提出先裁判所が内容を確認できるようになるまで一定の時間を要することがあるとされているので,期限の直前に出す場合は書面の方が確実である。
第5 保存期間延長の要望
1 延長の要望ができる場合
保存期間の延長は,「記録又は事件書類で特別の事由により保存期間満了の後も保存の必要があるものは,その事由のある間保存期間を延長しなければならない」(事件記録等保存規程9条)とする規定に基づく。
令和8年5月21日以後に提起された訴えに係る事件にも,同じ趣旨の規定がある(電子情報処理組織を使用する方法により申立て等を行うことができる事件の事件記録保存規程8条)。
大阪地方裁判所・大阪家庭裁判所の様式は,事件記録・事件書類の延長の理由として,次の三つを挙げている。
ア 保存期間満了後に当該債務名義に係る債務の履行期が到来する。
イ 再審又は和解無効確認等の事件が現に係属し,又は係属することが予想される。
ウ 関連する事件が現に係属し,又は係属することが予想される。
大阪家庭裁判所の様式は,少年調査記録の延長の理由として,少年保護事件記録の保存期間が延長された場合,14歳未満の少年の事件で当該少年が20歳に達する前に少年調査記録の保存期間が満了する場合,及び他の少年の事件の調査のために少年調査記録が必要な場合を挙げている。
和解調書や判決原本そのものは30年又は50年保存されるが,それに至る経過を示す記録本体は,令和8年5月20日以前に提起された訴えに係る事件では5年で廃棄されうる。
長期の分割払いの和解をした事件や,和解の効力が後に争われるおそれがある事件では,保存期間の延長を要望しておくことが考えられる。
2 延長要望書の記載事項
保存期間延長要望書の様式は,特別保存要望書と同じく要望者と対象事件を記載するほか,延長の対象(事件記録の全部又は一部,事件書類の名称,少年調査記録)を選び,一部の場合はその範囲を記載する。
理由は,前記アからウまで(又は少年調査記録の理由)とその他の中から選び,【理由の概要】を記載する。
再審・関連事件が係属しているときは,その裁判所と事件番号を記載する欄がある。
令和7年11月4日からは,保存期間延長の要望もオンラインでできる。
第6 要望した後の流れ
1 選定委員会と最高裁判所の委員会
要望があった事件は,既に特別保存に付されている場合等を除いて「候補事件」として扱われる(事件記録等の特別保存に関する規則の運用通達記3の(1))。
最高裁判所事務総局が作成した特別保存ガイドブックは,候補事件は特別保存に付さない認定がされるまで廃棄できないとしている(令和6年全国統一運用・裁判所の特別保存制度の第3の2)。
選定委員会は,原則として毎年11月から12月までの間に,候補事件について特別保存に付するか否かの意見を裁判所の長に具申する。
裁判所の長が特別保存に付さない認定をしようとする場合には,最高裁判所に置かれた「記録の保存の在り方に関する委員会」に意見を求めなければならない(事件記録等の特別保存に関する規則8条)。
同委員会の議事要旨によれば,第2回から第5回までに意見を求められた41件は,いずれも特別保存不相当とされた。
各回の審議内容は,記録の保存の在り方に関する委員会の議事要旨で整理している。
2 結果の通知と再要望
要望をした者には,特別保存に付するか否かの結果が通知される。
特別保存に付さない認定に対する苦情申出の制度は設けられていないが,同じ事件について事情の変化や新しい資料を示して再度要望することは,直ちに不受理とはされない(令和6年全国統一運用・裁判所の特別保存制度の第3の4)。
第7 大阪地方裁判所・大阪家庭裁判所が特別保存にした事件
1 一覧表の公開
両裁判所は,特別保存に付する認定を行った事件の一覧表(庁名,事件番号,事件名)を案内ページで公開している。
要望をする前に,対象の事件が既に特別保存に付されていないかを,この一覧表で確認するとよい。
2 件数
令和8年9月19日に確認した一覧表の件数は,次のとおりである。
| 裁判所 | 令和6年分 | 令和7年分 |
|---|---|---|
| 大阪地方裁判所(管内の支部,出張所及び簡易裁判所を含む) | 496件 | 30件 |
| 大阪家庭裁判所(管内の支部を含む) | 17件 | 43件(「令和7年度」と表示) |
大阪地方裁判所の令和6年分が多いのは,令和6年1月30日より前に終局し,保存中であった事件に新しい運用の基準を遡って当てはめた分を含むためと考えられる。
令和7年分の大阪地方裁判所の一覧表には,昭和47年から昭和61年までの損害賠償請求事件,破産申立事件のほか,原爆症認定義務付等請求事件,特許権侵害差止等請求事件,保有個人情報不開示決定処分取消請求事件などが掲げられている。
大阪家庭裁判所の令和7年度分の一覧表には,遺産分割,相続財産清算人(管理人)選任,子の返還,児童福祉法28条1項に基づく承認,一時保護の承認等の家事事件と,多数の少年保護事件が掲げられている。
第8 弁護士が実務で使う場面
① 公益訴訟,行政訴訟,集団訴訟,株主代表訴訟,内部通報に関する訴訟など,判決文だけでは経過が分からない事件を担当したときは,終局時に,記録全体又は主要な主張書面・書証を特定して特別保存を要望することを検討する。
② 依頼者から過去の事件記録の入手を相談されたときは,まず保存期間が満了していないか,特別保存の一覧表に載っていないかを確認する。
③ 分割払いの和解や将来の関連訴訟が見込まれる事件では,保存期間延長の要望を検討する。支部や簡易裁判所の記録は,その支部又は簡易裁判所に出す。
④ 期限は保存期間が満了する年の9月末日である。依頼者の事件の記録を残したいときは,事件完結日から満了年を逆算し,期日管理の対象に入れておく。
⑤ 要望書には,結果の通知を受ける連絡先を正確に記載し,提出した要望書の控えを事件ファイルに残す。
第9 出典
① 大阪地方裁判所「記録等の特別保存の要望について」(特別保存要望書・保存期間延長要望書の様式,令和6年分・令和7年分の一覧表を含む。令和8年9月19日確認)
② 大阪家庭裁判所「事件記録,事件書類及び少年調査記録の特別保存の要望について」(同上)
③ 裁判所「オンラインによる特別保存の要望について」及び「提出先裁判所一覧表」
④ 裁判所「オンラインによる保存期間延長の要望について」
⑤ 最高裁判所「事件記録,事件書類及び少年調査記録の特別保存の要望について」及び東京地方裁判所「民事事件に関する記録等の特別保存及び保存期間の延長の要望について」(期限を10月末日とする例)
⑥ 事件記録等の特別保存に関する規則(令和5年最高裁判所規則第9号。令和8年5月14日改正まで反映したもの)
⑦ 事件記録等の特別保存に関する規則の運用について(通達)(令和6年1月10日総三第392号。令和8年4月27日改正まで反映したもの)
⑧ 事件記録等保存規程(昭和39年最高裁判所規程第8号)
⑨ 電子情報処理組織を使用する方法により申立て等を行うことができる事件の事件記録保存規程(令和7年最高裁判所規程第4号)
⑩ 少年調査記録規程(昭和29年最高裁判所規程第5号)
⑪ 最高裁判所「記録の保存の在り方に関する委員会」