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弁済供託の供託金取戻請求権の消滅時効―免責の必要が消滅した時から10年(AI作成)

第1 本記事の対象と結論

1 結論

家賃・地代等を弁済供託した供託者が供託金を取り戻す権利(供託金取戻請求権)の消滅時効は,供託をした時から進行するのではない。
最高裁大法廷昭和45年7月15日判決は,弁済供託における供託金取戻請求権の消滅時効は,供託の基礎となった債務について紛争の解決などによってその不存在が確定するなど,供託者が免責の効果を受ける必要が消滅した時から進行し,10年をもって完成すると判示した。

債権者を確知できないことを理由とする供託(債権者不確知供託)についても,最高裁平成13年11月27日判決は同じ起算点を採り,供託の基礎となった債務について消滅時効が完成した時から取戻請求権の時効が進行するとした。

令和2年4月1日以後にされた供託については,法務省は,供託金の払渡請求権(還付請求権・取戻請求権)は,払渡請求をすることができることを知った時から5年,払渡請求をすることができる時から10年のいずれかの期間の経過により時効消滅するとしている。
同日より前にされた供託については,5年の時効期間は適用されず,10年の時効期間だけが適用されるとしている。

2 本記事の対象と調査基準日

本記事は,弁済供託(民法494条)の供託金取戻請求権の消滅時効を中心とし,被供託者の還付請求権と,裁判上の担保供託・営業保証供託の取戻請求権に触れる。
供託の要件や手続全般は扱わない。

調査基準日は令和8年9月19日である。
条文はe-Gov法令検索(法令API)で取得した現行条文等と照合し,裁判例は裁判所ウェブサイトの裁判例検索で判決全文を確認し,法務省の説明は法務省ウェブサイトの該当ページを取得して確認した。
消滅時効全般の論点は,ハブ記事の消滅時効に関するメモ書きで整理している。

第2 弁済供託と取戻請求権の仕組み

民法494条1項は,弁済者は,弁済の提供をした場合において債権者がその受領を拒んだとき,又は債権者が弁済を受領することができないときは,債権者のために弁済の目的物を供託することができ,「弁済者が供託をした時に、その債権は、消滅する。」と定める。
同条2項は,弁済者が債権者を確知することができないとき(弁済者に過失があるときを除く。)も同様とする。

民法496条1項は,「債権者が供託を受諾せず、又は供託を有効と宣告した判決が確定しない間は、弁済者は、供託物を取り戻すことができる。この場合においては、供託をしなかったものとみなす。」と定める。
供託によって質権又は抵当権が消滅した場合には,取戻しはできない(同条2項)。
供託法8条2項は,供託者は,民法496条の規定によること,供託が錯誤に出たこと又はその原因が消滅したことを証明しなければ供託物を取り戻すことができないとする。

債権者(被供託者)の側は,供託物の還付を請求することができる(民法498条1項)。
供託物の払渡しには,被供託者への「還付」と,供託者への「取戻し」の2種類がある。

取戻しをすると「供託をしなかったものとみなす」とされるから,供託者が取戻請求権を行使すれば,供託によって消滅したはずの債務が復活する。
このため,供託者は,供託の基礎となった債務をめぐる争いが続いている間は,取戻請求権を行使することを事実上期待できない。
これが,次に述べる判例の起算点の考え方の出発点である。

第3 最高裁大法廷昭和45年7月15日判決

1 事案

最高裁判所大法廷昭和45年7月15日判決(昭和40年(行ツ)第100号,民集24巻7号771頁)の事案は,宅地の賃借人が,賃貸人から賃料の受領を拒絶されたため,昭和27年5月から賃料を弁済供託してきたというものである。
その後,賃貸人が提起した建物収去土地明渡訴訟で,昭和38年1月に最高裁判所で和解が成立し,賃借人は賃借権を有しないことを認め,賃貸人は賃料相当損害金債権を放棄した。
賃借人が昭和38年5月に,昭和27年5月から昭和28年2月までに供託した供託金の取戻しを請求したところ,供託官は時効消滅を理由に請求を却下した。

2 判示

同判決は,まず,供託官が供託物取戻請求を理由がないと認めて却下した行為は行政処分であり,供託官を被告として却下処分の取消しの訴えを提起することができるとした。

時効の起算点については,民法166条1項(改正前)の「権利ヲ行使スルコトヲ得ル」とは,供託物の還付又は取戻しの請求については,単にその権利の行使につき法律上の障害がないというだけではなく,さらに権利の性質上,その権利行使が現実に期待のできるものであることをも必要と解するのが相当であるとした。
その理由として,弁済供託では供託の基礎となった事実をめぐって供託者と被供託者との間に争いがあることが多く,争いが続いている間にいずれかが供託物の払渡しを受けるのは,相手方の主張を認めて自己の主張を撤回したものと解されるおそれがあるから,争いの解決をみるまでは払渡請求権の行使を期待することは事実上不可能に近いことを挙げた。
その上で,弁済供託における供託物の取戻請求権の消滅時効の起算点は,「供託の基礎となつた債務について紛争の解決などによつてその不存在が確定するなど、供託者が免責の効果を受ける必要が消滅した時」と解するのが相当であるとした。

国側は,この見解では供託官の知り得ない事柄で起算点が決まり,客観的な時効制度の本質に反すると主張したが,同判決は,弁済供託はもともと供託者と被供託者との間の実体上の法律関係に基づくものであるから,起算点を供託官と供託者との関係だけで画一的に決めることはできないとして,この主張を退けた。
供託者は供託証明書の交付を受けることで時効を中断することができるとの主張も,権利行使を期待できない当事者に時効中断の措置を期待するのは難きを強いるものであるとして退けた。

3 時効期間は10年(会計法30条の5年ではない)

原審は,供託上の法律関係は公法関係であり,供託金の払渡請求権は会計法30条の規定により5年の消滅時効にかかるとしていた。
同判決は,弁済供託は民法上の寄託契約の性質を有するものであるから,供託金の払渡請求権の消滅時効は民法の規定により10年をもって完成すると解するのが相当であるとして,原審のこの解釈は誤りであるとした(結論には影響しないとして上告は棄却された)。

なお,同判決には,供託官の却下を行政処分とみて抗告訴訟によるべきとした点について,合計6人の裁判官の反対意見がある(4人の共同の反対意見と,2人の裁判官による反対意見)。
これは争訟の形式に関するものであり,後者の反対意見は,払渡請求権の消滅時効の起算点については多数意見と同じ見地に立つと明記している。

第4 債権者不確知供託と最高裁平成13年11月27日判決

最高裁判所第三小法廷平成13年11月27日判決(平成10年(行ツ)第22号,民集55巻6号1334頁)は,建物の賃貸人が死亡した後,その相続人であるなどと主張する複数の者から賃料の支払請求を受けた賃借人が,過失なくして債権者を確知することができないことを理由として賃料を供託し,その後に取戻しを請求した事案である。
供託官は,各供託の時から10年の経過により取戻請求権は時効消滅したとして請求を却下した。

同判決は,供託者が取戻請求権を行使すると供託をしなかったものとみなされるから,供託の基礎となった債務につき免責の効果を受ける必要がある間は,供託者に取戻請求権の行使を期待することはできないとした。
そして,弁済供託における供託物の取戻請求権の消滅時効の起算点は,「過失なくして債権者を確知することができないことを原因とする弁済供託の場合を含め,供託の基礎となった債務について消滅時効が完成するなど,供託者が免責の効果を受ける必要が消滅した時」と解するのが相当であるとし,大法廷昭和45年判決を参照した。

具体的には,取戻請求権の起算点は,基礎となった賃料債務の各弁済期の翌日から改正前民法169条所定の5年(定期給付債権の短期消滅時効)の時効期間が経過した時であり,その時から10年が経過する前にされた取戻請求を却下した処分は違法であるとした。
つまり,債権者不確知供託の場合,供託者の取戻請求権は,最長で「基礎となった債務の時効期間+10年」まで存続し得ることになる。

第5 現行法の下での時効期間と起算点

1 法務省の説明

法務省は,ウェブサイト「供託金のお受け取りには消滅時効が適用されます!」で,令和2年4月1日以降に供託された供託金の消滅時効については,民法の規定により,①供託金の払渡請求をすることができることを知った時から5年(民法166条1項1号),②供託金の払渡請求をすることができる時から10年(同項2号)とされており,いずれかの期間を経過した後は払渡請求権は消滅するため,供託官は供託金を支払うことができないとしている。
同ページは,令和2年3月31日以前に供託された供託金については,5年の時効期間は適用されず,10年の時効期間のみ適用されるとしている。

法務省の「供託Q&A」のQ55は,地代・家賃等の弁済供託について,還付請求権と取戻請求権のいずれも,令和2年4月1日以降の供託であれば権利を行使することができることを知った時から5年又は権利を行使することができる時から10年,同年3月31日以前の供託であれば権利を行使することができる時から10年で時効消滅するとしている。
Q55-1は,供託官において,払渡請求者が権利を行使することができることを知った時から5年が経過したと判断できる場合には,払渡請求権は消滅しているとして供託金を支払うことができないと考えられるとしている。

2 起算点についての考え方

民法166条1項2号の「権利を行使することができる時」の解釈として,大法廷昭和45年判決の「権利行使が現実に期待のできる」時という考え方は,現行法の下でもそのまま妥当すると考えられる。
したがって,弁済供託の取戻請求権の10年は,引き続き,供託者が免責の効果を受ける必要が消滅した時から進行すると考えられる。

問題は,現行法で加わった「権利を行使することができることを知った時から5年」の起算点である。
例えば,賃貸借の存否をめぐる訴訟の判決が確定して供託の基礎となった債務の不存在が確定した場合には,供託者はその時点で取戻しができることを知るのが通常であるから,その時から5年で時効が完成し得る。
他方,債権者不確知供託で,基礎となった債務の消滅時効が完成した時点を供託者がどのように認識するかは,事案によって判断が分かれ得る。
改正後の民法166条1項1号を供託金払渡請求権に適用した最高裁判例は,調査基準日時点で確認できなかった。
Q55は,時効期間を示した上で,詳しくは各供託所に問い合わせるよう求めており,Q55-1も時効の更新がある場合も考えられるとしているから,個別の事案では起算点と更新の有無を供託所に確認する必要がある。

3 新旧の振り分け

平成29年法律第44号附則10条4項は,施行日(令和2年4月1日)前に債権が生じた場合におけるその債権の消滅時効の期間は,なお従前の例によると定める。
法務省は,供託の日が令和2年4月1日以降か,同年3月31日以前かで振り分けている。
経過措置の全体は,消滅時効は改正前民法と改正後民法のどちらで判断するか―附則10条・35条の経過措置と振り分け表で扱う。

第6 還付請求権と担保供託・営業保証供託

1 被供託者の還付請求権

大法廷昭和45年判決の「権利行使が現実に期待のできる」時という一般論は,供託物の「還付または取戻の請求」の双方について述べられている。
もっとも,同判決が具体的な起算点を示したのは取戻請求権についてであり,還付請求権の起算点を具体的に判示した最高裁判例は,本記事の調査では確認できなかった。

法務省の供託Q&AのQ57は,被害弁償金の供託について,被供託者が供託受諾書を提出すると,供託者の取戻請求権は消滅するが,同時に供託の有効性が確定して供託金還付請求権の時効が進行すると考えられるので注意が必要であるとしている。
供託を受諾したり,供託が有効である旨の判決が確定したりした後は,被供託者の側で還付請求の時期を管理する必要がある。

2 裁判上の担保供託・営業保証供託

法務省の供託Q&AのQ55は,裁判上の保証供託や営業保証供託の取戻請求権は,原則として,供託原因が消滅し,払渡請求をすることができることを知った時から5年又は払渡請求をすることができる時から10年が経過すると時効により消滅するとしている(令和2年3月31日以前の供託は10年)。
仮差押え等の担保の取戻しは,担保取消決定等によって供託原因の消滅を証明して行うのが通常であるから,担保取消決定の確定後は早めに取戻しの手続をとるべきである。
仮差押えの担保の取戻しについては,仮差押えとは―要件・手続の流れ・担保・効力・解放金・担保の取戻しの全体像で扱っている。

第7 時効を止める方法と取戻しを拒まれた場合

法務省の供託Q&AのQ55は,取戻請求権者や還付請求権者が供託関係書類を閲覧したり,供託官から供託証明書の交付を受けたりすることにより,時効は更新するとしている。
長期間払渡しを受けられない事情があるときは,こうした手続で時効の更新を図ることが考えられる。
承認による時効の更新の一般論は,債務の承認による時効の更新―一部弁済,破産管財人の承認及び相続人への通知で扱う。

供託官が時効消滅を理由に取戻請求を却下した場合,大法廷昭和45年判決のとおり,却下処分の取消しの訴えを提起することができる。
供託官の処分に不服がある者は,監督法務局又は地方法務局の長に審査請求をすることもできる(供託法1条ノ4)。
いずれの場合も,供託の基礎となった債務をめぐる紛争がいつ解決したか(判決の確定日,和解の成立日,基礎となった債務の時効完成日等)を資料で示すことが,起算点の主張の中心になる。

第8 関連記事

①ハブ記事:消滅時効に関するメモ書き
債権の消滅時効は何年か―5年・10年の原則,短期消滅時効の廃止及び分野別の時効期間
消滅時効は改正前民法と改正後民法のどちらで判断するか―附則10条・35条の経過措置と振り分け表
債務の承認による時効の更新―一部弁済,破産管財人の承認及び相続人への通知
仮差押えとは―要件・手続の流れ・担保・効力・解放金・担保の取戻しの全体像

第9 出典・参考資料

1 法令

民法166条,494条,496条,498条(e-Gov法令APIで令和8年9月19日に取得した現行条文),改正前民法166条,167条,169条,494条(令和2年3月31日時点)
②民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)附則10条
供託法1条,1条ノ2,1条ノ4,8条

2 裁判例

最高裁判所大法廷昭和45年7月15日判決(昭和40年(行ツ)第100号,民集24巻7号771頁)
最高裁判所第三小法廷平成13年11月27日判決(平成10年(行ツ)第22号,民集55巻6号1334頁)

3 公的資料

法務省「供託金のお受け取りには消滅時効が適用されます!」(令和8年9月19日取得)
法務省「供託Q&A」Q55,Q55-1,Q57(令和8年9月19日取得)