第1 会社法206条の2が適用される場面
公開会社は,取締役会の決議で募集株式の発行(第三者割当て)をすることができる(会社法201条1項)。
しかし,引受人が株主となった結果,その引受人が総株主の議決権の過半数を持つことになる場合は,会社の支配権が移るため,会社法206条の2の特則が適用される。
特則の中身は,次の3点である。
①払込期日の2週間前までに,株主に引受人の情報などを通知する(同条1項)。
②総株主の議決権の10分の1以上を持つ株主が反対を通知したときは,株主総会の決議で割当ての承認を受ける(同条4項本文)。
③財産の状況が著しく悪化し,事業の継続のため緊急の必要があるときは,株主総会を要しない(同項ただし書)。
本記事は,令和8年9月19日を基準に,会社法と会社法施行規則の条文,新株発行の無効に関する最高裁判例と,206条の2に違反した新株発行を無効とした東京地裁の判決を基に,この手続と,手続に違反した場合に株主が取り得る手段を説明する。
会社法の最高裁判例の全体は会社法等に関する最高裁判例―裁判所HP掲載判例の論点別索引で,会社法の改正経緯は会社法(平成17年法律第86号)の改正経緯で扱っている。
第2 株主への通知
1 通知が必要になる場合
公開会社は,引受人(その子会社等を含む。)が引き受けた募集株式の株主となった場合に有することとなる議決権の数の,引受人全員が株主となった場合における総株主の議決権の数に対する割合が2分の1を超える場合には,株主に通知しなければならない(会社法206条の2第1項)。
この引受人を特定引受人という。
ただし,特定引受人が会社の親会社等である場合と,株主に株式の割当てを受ける権利を与えた場合(株主割当て)は,通知は要らない(同項ただし書)。
2 通知の期限と通知事項
通知は,払込期日(払込期間を定めた場合はその初日)の2週間前までにしなければならない(会社法206条の2第1項)。
通知すべき事項は会社法施行規則42条の2が定めており,次のとおりである。
①特定引受人の氏名又は名称及び住所
②特定引受人が株主となった場合に有することとなる議決権の数
③その募集株式に係る議決権の数
④引受人全員が株主となった場合における総株主の議決権の数
⑤特定引受人への割当てに関する取締役会の判断及びその理由
⑥社外取締役を置く会社で,取締役会の判断が社外取締役の意見と異なる場合はその意見
⑦特定引受人への割当てに関する監査役,監査等委員会又は監査委員会の意見
3 公告による代替と通知の省略
通知は公告をもって代えることができる(会社法206条の2第2項)。
また,払込期日の2週間前までに金融商品取引法に基づく届出をしている場合など,株主の保護に欠けるおそれがないものとして法務省令で定める場合は,通知を要しない(同条3項,会社法施行規則42条の3)。
この通知は,公開会社が取締役会で募集事項を定めたときに株主へ通知又は公告すべき募集事項の通知(会社法201条3項・4項)とは別のものである。
第3 反対通知と株主総会の承認
1 10分の1以上の議決権を持つ株主の反対通知
総株主の議決権の10分の1以上の議決権を有する株主が,通知又は公告の日から2週間以内に,特定引受人による引受けに反対する旨を会社に通知したときは,会社は,払込期日の前日までに,株主総会の決議によって特定引受人への割当ての承認を受けなければならない(会社法206条の2第4項本文)。
10分の1の計算では,その株主総会で議決権を行使することができない株主を分母から除き,定款でこれを下回る割合を定めることもできる(同項本文括弧書)。
10分の1には,複数の株主の議決権を合算して達してもよいと考えられる。
2 決議の要件
この株主総会の決議は,議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し,出席した株主の議決権の過半数をもって行う(会社法206条の2第5項)。
定款で定足数を引き下げることはできるが,3分の1未満にすることはできない(同項括弧書)。
株主総会の普通決議は定款で定足数を排除できるが(会社法309条1項),この決議では定足数を3分の1未満にできない点が異なる。
3 株主総会を要しない例外
会社の財産の状況が著しく悪化している場合において,事業の継続のため緊急の必要があるときは,反対通知があっても株主総会の決議は要らない(会社法206条の2第4項ただし書)。
「財産の状況が著しく悪化」と「事業の継続のため緊急の必要」の二つを満たす必要があるから,資金需要があるというだけでは足りないと考えられる。
会社がこの例外に当たると判断する場合も,その判断の根拠となる資料を残しておくことになる。
東京地裁令和3年3月18日判決は,ただし書に当たるのは,「倒産の危機が迫っている場合等,財産の状況の著しい悪化によって公開会社の事業の継続が現に困難となり,又は近い将来困難になる蓋然性があり,株主総会の決議(特定引受人承認決議)を経ることなく当該特定引受人に対する募集株式の発行をしなければ,公開会社の存立自体が危ぶまれるような緊急の必要がある場合」であるとした。
同判決は,ただし書に当たるかについての取締役の判断のみをもってこの場合に当たると認めることはできないとして,取締役の判断を尊重すべきであるという会社側の主張を退けている。
第4 株主総会の招集通知と株主名簿上の住所
1 株主名簿上の住所に宛てて発すれば足りる
会社が株主にする通知は,株主名簿に記載された株主の住所(株主が別に通知を受ける場所を会社に通知した場合はその場所)に宛てて発すれば足り(会社法126条1項),通常到達すべきであった時に到達したものとみなされる(同条2項)。
株主総会の招集通知にもこの規定が適用される。
株主が転居しても会社に住所の変更を届け出ていなければ,会社が株主名簿上の旧住所に招集通知を発したことは,原則として適法である。
2 新しい住所を知りながら旧住所に送った場合
もっとも,会社法126条は,多数の株主に画一的に通知できるよう,名簿上の住所へ発すれば足りるとした規定と考えられる。
会社の代表者が株主の新しい住所を知っていながら,その株主が株主総会に出席するのを妨げる目的で旧住所に招集通知を発した場合は,形式上は同条に従っていても,招集の手続が著しく不公正であるとして決議取消事由(会社法831条1項1号)に当たる余地があると考えられる。
招集手続の瑕疵は,瑕疵のあった株主本人でなくても争うことができる。
最高裁昭和42年9月28日判決は,「株主は自己に対する株主総会招集手続に瑕疵がなくとも、他の株主に対する招集手続に瑕疵のある場合には、決議取消の訴を提起し得る」とした。
決議の取消しの訴えは,決議の日から3か月以内に提起しなければならない(会社法831条1項)。
第5 手続に違反した新株発行の効力
1 新株発行の無効の訴え
新株発行の無効は,訴えをもってのみ主張することができ,公開会社では株式の発行の効力が生じた日から6か月以内に,株主等が提起しなければならない(会社法828条1項2号・2項2号)。
新株発行が法令又は定款に違反し,又は著しく不公正な方法により行われる場合で,株主が不利益を受けるおそれがあるときは,発行前であれば株主は差止めを請求することができる(会社法210条)。
2 最高裁が示した無効原因の考え方
(1) 著しく不公正な方法による発行だけでは無効にならない
最高裁平成6年7月14日判決は,代表権のある取締役が新株を発行した以上,有効な取締役会の決議がなくても新株の発行は有効であるとした判例の理が,「新株が著しく不公正な方法により発行された場合であっても、異なるところがないものというべきである。」とした。
新株の発行は会社と取引する第三者を含めて広い範囲の法律関係に影響を及ぼすから,その効力を画一的に判断する必要があるという理由である。
(2) 差止めの機会を奪う瑕疵は無効原因になる
最高裁平成9年1月28日判決は,新株発行に関する事項の公示(公告又は通知)は株主が差止請求権を行使する機会を保障するためのものであるとして,「新株発行に関する事項の公示を欠くことは、新株発行差止請求をしたとしても差止めの事由がないためにこれが許容されないと認められる場合でない限り、新株発行の無効原因となると解するのが相当であり」とした。
また,最高裁平成5年12月16日判決は,新株発行差止めの仮処分命令に違反して新株が発行された場合は,その違反が新株発行の無効原因となるとした。
(3) 非公開会社で株主総会の特別決議を欠く場合
最高裁平成24年4月24日判決は,非公開会社において,株主総会の特別決議を経ないまま株主割当て以外の方法による募集株式の発行がされた場合,その発行手続には重大な法令違反があり,無効原因になるとした。
同判決は,非公開会社では持株比率の維持に係る既存株主の利益の保護を重視するのが会社法の趣旨であることを理由としている。
3 株主総会の承認を経ずにした発行を無効とした裁判例
(1) 東京地裁令和3年3月18日判決の事案
東京地裁令和3年3月18日判決(判例タイムズ1503号233頁)は,公開会社である証券会社が,議決権の過半数を取得する引受人への第三者割当てを行った事案である。
総株主の議決権の21.95%を持つ株主が反対通知をし,株主総会の開催を求めたのに対し,会社は株主総会を開くかのような態度を示しながら,顧問弁護士の助言を踏まえて取締役会でただし書に当たると判断し,払込期日の5日前になって株主総会を開かない旨を伝えて,株式を発行した。
同判決は,会社が当時,純財産額の減少により登録取消処分を受ける可能性があったことは認めつつ,その蓋然性があったとまではいい難く,割り当てた払込金額全額の資金調達が不可欠であったともいえないとした。
また,株主を引受人とする新株発行や,株主総会を開催する可能性を十分考慮していない点で,取締役会の判断の過程,内容に不合理な点があったとして,ただし書には当たらないと判断した。
(2) 無効原因とした判断
同判決は,株主総会を開けば承認決議が行われない蓋然性があり,会社がそれを認識していたと推認した上で,「このような状況の下で,特定引受人承認決議を経ないままされた本件第1新株発行の発行手続には重大な法令違反があり,この瑕疵は本件第1新株発行の無効原因になると解するのが相当である。」とした。
さらに,株主が差止めの仮処分命令を得る機会を事実上有していたことを理由に無効原因にならないと解することは,「会社法206条の2第1項及び第4項の趣旨を没却することになるというべきである。」として,差止めで争うべきであったという会社側の主張も退け,最初の新株発行を無効とした。
同判決は下級審の判断であり,判例秘書では控訴審の判決を確認できなかった。
4 通知の欠缺と招集手続の瑕疵
会社法206条の2の通知は,株主が反対通知をして株主総会の判断を求める機会を保障するためのものであり,株主が差止めを請求する機会を保障する公示と同じ性質を持つと考えられる。
そのため,本記事では,通知を欠いた場合も,最高裁平成9年1月28日判決と同じく,株主総会の承認を要しない事情があったと認められる場合でない限り,新株発行の無効原因になり得ると整理する。
株主総会の承認はあったが,その総会の招集手続に前記第4の2のような瑕疵があった場合に,それが新株発行の無効原因になるかは,決議取消しの訴えとの関係を含めて問題になり,この点を直接判断した裁判例は,本記事の調査の範囲では見当たらない。
第6 株主と会社が確認しておく事項
株主の側では,次の順で確認することになる。
①株主への通知又は公告の日と,反対通知の期限(その日から2週間)
②自分と協調できる株主の議決権を合わせて10分の1に達するか
③払込期日前であれば,差止めの請求と差止めの仮処分の申立て
④株主総会が開かれた場合の招集通知の宛先と到達の有無,決議の日から3か月の取消しの訴えの期限
⑤払込後であれば,効力発生日から6か月の新株発行無効の訴えの期限
会社の側では,特定引受人に当たるかの計算,通知事項の取締役会の判断と監査役等の意見の準備,株主名簿の住所の更新の有無,例外に当たると判断する場合の資料を確認しておくことになる。
第7 出典
1 法令
①会社法126条・201条・206条の2・210条・299条・309条・828条・831条
②会社法施行規則42条の2・42条の3
法令は令和8年9月19日を基準とする。
2 裁判例
①最高裁昭和42年9月28日判決(昭和41年(オ)第664号,民集21巻7号1970頁)
②最高裁平成5年12月16日判決(平成元年(オ)第666号)
③最高裁平成6年7月14日判決(平成2年(オ)第391号,集民172号771頁)
④最高裁平成9年1月28日判決(平成5年(オ)第317号,民集51巻1号71頁)
⑤最高裁平成24年4月24日判決(平成22年(受)第1212号,民集66巻6号2908頁)
⑥東京地裁令和3年3月18日判決(令和元年(ワ)第16629号・令和2年(ワ)第12560号,判例タイムズ1503号233頁,判例秘書(L07631312)で全文確認,裁判所HP未掲載)