第1 本記事の対象と基準日
1 対象とする資料
本記事は,法務省及び文部科学省が令和6年度に実施した「法学部に在籍する学生に対する法曹志望に関するアンケート調査結果」(以下「本調査」という。)の内容を整理するものである。
本調査の結果は,中央教育審議会大学分科会法科大学院等特別委員会第123回(令和8年3月4日)の参考資料1として配付され,法務省のウェブサイトにも掲載されている。
基準日は令和8年9月19日である。
本記事で本調査の頁を示すときは,PDFファイル上の頁で示す(資料に印字された頁は,PDF4頁以降はPDFの頁から3を引いた数である。)。
2 令和7年度調査の扱い
同委員会第123回の議事録によれば,法務省は,令和7年度も同様のアンケート調査を実施しており,令和8年3月中の公表に向けて結果を取りまとめていると説明した。
もっとも,基準日までに法務省及び文部科学省のウェブサイトで令和7年度調査の結果を確認することはできなかったため,本記事は令和6年度調査を対象とする。
第2 調査の方法と回答者
1 調査の方法
本調査はウェブアンケートの方法で,令和6年9月30日から同年10月31日までの間に実施された。
対象は,入学者の募集を続ける法科大学院を置く大学又は法曹コースを置く大学の法学部(法学系課程を含む。)に在籍する学生である。
調査の目的は,法曹志望者の減少に関する要因等を把握し,今後の施策の検討に活用することとされている。
2 回答数と回答率
回答数と回答率の推移は,次のとおりである(本調査PDF2頁)。
| 調査年度 | 対象者数 | 回答数 | 回答率 |
|---|---|---|---|
| 令和元年度 | 7万1232人 | 5814人 | 8.2% |
| 令和3年度 | 8万2138人 | 6911人 | 8.4% |
| 令和4年度 | 8万1971人 | 6114人 | 7.5% |
| 令和5年度 | 8万1294人 | 4171人 | 5.1% |
| 令和6年度 | 8万4934人 | 5025人 | 5.9% |
令和2年度の調査は行われていない。
令和6年度の回答者は,女性が52.2%,男性が45.6%であり,1年次及び2年次がおよそ64%を占める(本調査PDF4頁)。
第3 法曹を志望する学生の割合
1 志望割合の推移
法曹等を現在志望している学生の割合は,令和元年度14.8%,令和3年度14.3%,令和4年度14.0%,令和5年度15.5%,令和6年度17.1%と推移している(本調査PDF9頁)。
令和6年度に選択肢の1つとして考えている学生は19.6%であり,両者を合わせると約37%となる。
ここにいう「法曹等」には,司法試験に合格した後に法曹資格を取得せずに活動する場合も含まれる。
女性に限ると,令和6年度に現在志望している学生は14.4%,選択肢の1つとして考えている学生は19.9%であり,志望している割合は全体より低い。
法曹等を志望も検討もしていない学生のうち,以前は志望し又は選択肢として考えたことがある学生は33.6%であった。
2 第一志望の職業
令和6年度に第一志望の職業として法曹等を挙げた学生は18.8%であり,国内企業(26.2%)に次ぎ,国家公務員(17.4%),地方公務員(15.2%)を上回った(本調査PDF14頁)。
学年別にみると,第一志望を法曹等とする割合は1年次から4年次へと下がる一方,国内企業とする割合は学年が上がるにつれて高くなる(本調査PDF16頁)。
第4 志望のきっかけと時期
1 志望のきっかけ
法曹等を志望し又は選択肢として考えている学生(1842人)が挙げた志望のきっかけ(複数回答)は,①法律に興味があり,法律に関する専門的知識を使った仕事をしたいと思ったから(66.9%),②社会的弱者を助けるなど,人の役に立つ仕事をしたいと思ったから(36.2%),③テレビやドラマ,書籍等を見て法曹等に憧れたから(28.9%),④基本的人権の擁護や社会正義の実現に興味・関心を持ったから(21.0%)の順であった(本調査PDF27頁)。
周り又は身内にいる法曹等の話を聞いたことをきっかけとする学生は9.6%であり,令和元年度の22.2%から大きく減っている。
2 志望を決めた時期
令和6年度に法曹等を志望し又は選択肢として考えている学生が志望を決めた時期は,中学生以前が24.6%,高校生になってからが46.1%,大学生になってからが28.5%であった(本調査PDF24頁)。
7割以上が高校生以前に志望を決めていることになる。
第5 不安と志望しない理由
1 志望に当たっての不安
法曹等を志望し又は選択肢として考えている学生のうち,不安や迷いを感じている学生は48.8%,少し感じている学生は38.9%であり,合わせて87.7%であった。
女性では合わせて91.6%であった。
不安の内容を上位3つまで選ぶ設問では,司法試験に合格できる自信がないことが70.0%で最も多く,自分の適性が分からないこと(41.5%),他の進路にも魅力を感じること(32.4%)が続いた(本調査PDF47頁)。
経済的負担を挙げた学生は21.7%であった。
不安を減らすためにあったらよいものとしては,司法試験に合格しなかった者の就職状況等の情報提供(55.9%),法科大学院での学修面のサポート(49.9%),奨学金等の経済的支援(44.5%)が上位であった。
2 法曹を志望しない理由
法曹等を一度も志望したことがない学生が挙げた理由は,国家公務員や民間企業等の他の進路に魅力を感じていること(55.7%),法曹等としての適性があるとは思えないこと(49.8%),司法試験に合格できるか自信がないこと(47.0%)が上位であった(本調査PDF63頁)。
このうち法曹等の仕事に魅力を感じないとした学生にその理由を尋ねた設問では,「体力的・精神的に負担が大きい仕事だと思うから」が58.4%で最も多く,ワークライフバランスの実現が困難であることを挙げた学生が21.7%であった(本調査PDF67頁)。
他方,「高収入が期待できないと思うから」は3.6%,「経済的に安定していないと思うから」は4.1%にとどまっており,収入面を理由に法曹を敬遠する学生は少数である。
第6 法科大学院・予備試験・在学中受験の予定
1 設問の対象に注意すること
以下の設問は,法曹等を志望し又は選択肢として考えている学生に尋ねたものであり,法学部生全体の割合ではない。
2 法科大学院への進学予定
法科大学院に「進学するつもりである」と回答した学生は,令和6年度は53.2%であり,令和元年度の45.0%,令和3年度の33.8%から増加している(本調査PDF88頁)。
現在志望している学生に限ると約71%である。
法科大学院に進学するつもりの学生が法科大学院を選ぶ際に重視する点としては,修了生の司法試験合格率が高いこと(67.9%)が最も多かった(本調査PDF94頁)。
3 予備試験と在学中受験の予定
大学在学中に予備試験を「受験するつもりである(受験したことがある)」と回答した学生は30.7%であり,令和元年度の40.7%から減少している(本調査PDF98頁)。
女性では24.9%であった。
法科大学院在学中の司法試験受験を「受験することを考えている」と回答した学生は39.3%であり,令和4年度の32.8%,令和5年度の37.0%から増加している(本調査PDF113頁)。
女性では34.6%であった。
同じ委員会の配付資料によれば,法科大学院生の予備試験合格者は令和4年の124人から令和7年の10人に減っており,法務省は,法科大学院生の一定数が予備試験ではなく在学中受験を選択する傾向が出てきているとの見方を示している(第123回資料1-3及び議事録)。
本調査の結果も,学部段階で予備試験より法科大学院在学中受験を視野に入れる学生が増えている方向と整合する。
4 法曹コース
法曹コースを「知っている」学生は全学生で71.4%であった(本調査PDF69頁)。
法曹等を志望し又は選択肢として考えている学生のうち,法曹コースに在籍している学生は26.9%,今後進みたいと考えている学生は22.5%であった(本調査PDF74頁)。
第7 読むときの注意
1 回答率が低く,大学ごとの差が大きいこと
令和6年度の回答率は5.9%であり,大学ごとの回答率にも大きな差がある(本調査PDF1頁~2頁)。
そのため,全体の割合は回答者の多い大学の傾向に影響されている可能性があり,法学部生全体の意識をそのまま表すものとは言えない。
2 対象大学と選択肢の変化
対象は法科大学院又は法曹コースを置く大学の法学部に限られ,令和元年度調査だけは対象の範囲が異なる。
また,選択肢は年度ごとに新設・変更されているため,年度間の比較は同じ選択肢どうしに限って行う必要がある。
3 本記事の数値の扱い
本記事の数値は,本調査の表又はグラフに記載された数値であり,グラフの長さから読み取ったものではない。
AIによる業務の変化に関する設問は本調査に含まれていない。
第8 関連記事
①法学未修者の司法試験合格率と未修者教育-累積合格率48.7%,在学中受験及び第124回の議論
②予備試験とは―受験資格、試験科目、年間スケジュール及び法科大学院ルートとの合格率比較
③法科大学院の新たな評価制度-認証評価の見直し,要是正・星による段階別評価及び第124回の方向性案
④法科大学院等特別委員会とは-役割,構成及び令和8年の審議課題
第9 出典
1 調査結果
①法務省・文部科学省「法学部に在籍する学生に対する法曹志望に関するアンケート調査結果」(令和6年度調査)
https://www.moj.go.jp/content/001434538.pdf
②中央教育審議会大学分科会法科大学院等特別委員会第123回参考資料1(同じ調査結果)
https://www.mext.go.jp/content/20260303_mxt_senmon02-000046576_19.pdf
2 法科大学院等特別委員会第123回(令和8年3月4日)
①文部科学省「法科大学院等特別委員会(第123回)議事録」
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/041/gijiroku/1415416_00038.htm
②文部科学省「法科大学院等特別委員会(第123回)配布資料」
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/041/1421098_00027.htm
③資料1-3「予備試験合格者・司法試験合格者に関する職種別人員数の推移」(法務省配付)
https://www.mext.go.jp/content/20260303_mxt_senmon02-000046576_4.pdf