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遺言・相続

相続放棄とは―期限・手続き・費用・デメリットと判断のポイント(AI作成)

目次

第1 相続放棄を考えたら最初に確認すること第2 相続放棄・単純承認・限定承認の違い1 資産と債務を一緒に考える2 遺産分割で何も受け取らないこととの違い第3 相続放棄の期限は原則3か月1 死亡日から一律に数えない2 調査が間に合わない場合と3か月を過ぎた場合第4 手続きと費用の見通し1 家庭裁判所への申述から受理まで2 800円だけで全て終わるわけではない第5 相続放棄のデメリットと放棄後に残る問題1 資産も失い,自由には撤回できない2 次の順位の相続人と自分自身の債務を区別する3 放棄した家や遺品をそのまま捨ててよいとは限らない第6 よくある疑問と相談のタイミング1 死亡保険金や未支給年金も全て受け取れなくなるか2 既に預金を引き出した・遺品を整理した場合3 早めに専門家へ相談した方がよい場合第7 出典と詳しい記事
第1 相続放棄を考えたら最初に確認すること

相続放棄は,亡くなった人の借金を引き継がないためだけの制度ではない。家庭裁判所に申述し,有効に放棄すると,その相続について初めから相続人でなかったものとして扱われる。預貯金や土地を残して借金だけを放棄することはできない。
まず,自分の期限,相続財産・債務の状況及び既にした行為を確認し,財産を売る,払い戻して使う,遺産分割協議書に署名するといった行為を急がないことが重要である。

確認すること最初の対応いつ死亡と自分の相続人性を知ったか日付と連絡の経緯を記録し,通知書・封筒・メールを保存する。財産と借金がどこまで分かっているか預貯金,不動産,借入れ,保証債務等の資料を分け,分からない部分を残す。預金を引き出したり遺品を処分したりしたか日時,対象,金額,原資,使途及び領収書を整理し,追加の処分を止める。3か月以内に判断できるか調査が終わらない場合は,期限前の期間伸長を検討する。

本記事は,放棄するかどうかを考える段階の案内である。申述書や戸籍の詳しい準備は相続放棄の手続を自分でする方法で説明している。

第2 相続放棄・単純承認・限定承認の違い
1 資産と債務を一緒に考える

民法896条は,被相続人の財産に属した権利義務を原則として相続人が承継すると定める。資産だけでなく債務も調べた上で,承認又は放棄を選択する必要がある。

選択基本的な効果判断の際の注意単純承認被相続人の権利義務を無限に承継する。相続人自身の財産も債務の責任財産になる。法律上,承認したとみなされる場合もある。相続放棄その相続について初めから相続人でなかったものとみなされる。資産も承継しない。各人で選択できるが,家庭裁判所への申述を要する。限定承認相続で得た財産の限度で債務・遺贈を弁済することを留保する。共同相続人がいる場合は全員で行い,目録提出や清算手続も必要になる。

限定承認は,財産が残る可能性はあるが債務の全体が分からない場合に検討の余地がある。ただし,放棄より常に有利又は簡単な制度ではない。清算の負担も含めて判断し,具体的な手順は限定承認の手続と換価を参照されたい。

2 遺産分割で何も受け取らないこととの違い

親族間で「財産を受け取らない」と合意したり,遺産分割協議書にその旨を書いたりしても,家庭裁判所への相続放棄の申述の代わりにはならない。親族間の負担の合意だけで,債権者に対する責任が当然に消えると考えてはならない。
また,遺産の帰属を決める協議への参加が,法定単純承認の問題を生むことがある。借金の有無が分からないまま,形式だけの署名を求められても,先に相続放棄との関係を確認すべきである。

第3 相続放棄の期限は原則3か月
1 死亡日から一律に数えない

民法915条1項の熟慮期間は,自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月である。通常は,死亡と,その死亡により自分が法律上の相続人になったことの双方を知った時が問題になる。
死亡を後から知った場合や,先順位者の放棄により後順位者が相続人になった場合は,死亡日だけを見て期限を決められない。家族全員に同じ期限があるとも限らない。

2 調査が間に合わない場合と3か月を過ぎた場合

期限内に財産・債務の調査をしても判断材料が得られない場合は,家庭裁判所に熟慮期間の伸長を申し立てることを検討する。債権者との交渉や戸籍の取寄せをしているだけで,期限が自動的に止まるわけではない。
死亡から3か月が過ぎていても,実際の起算点を確認せずに諦めるべきではない。他方,借金を後から知れば必ず新たな3か月が始まるわけでもない。最高裁昭和59年4月27日判決の例外は,相続財産が全くないと信じたことと,そのように信じる相当な理由等を要する。
具体的な期間計算,必要資料,例外の限界は相続放棄の3か月はいつからかで説明している。

第4 手続きと費用の見通し
1 家庭裁判所への申述から受理まで

提出先は,被相続人の最後の住所地の家庭裁判所である。自分の相続順位と管轄を確認し,申述書,戸籍等及び費用を準備して提出する。裁判所から照会や追加資料の求めがあれば,指定された期限までに,実際の事実に即して回答する。
受理された後は,受理を知らせる書面を保管し,必要に応じて受理証明書を取得する。請求してきた債権者には受理の事実と資料を伝え,後順位者にも自分の放棄によって相続人になる可能性があることを連絡するのが実務的である。
申述の受理は,後の民事訴訟で放棄の効力が一切争われなくなることを意味しない。裁判所から訴状等が届いたときは,受理済みという理由で放置しない。

2 800円だけで全て終わるわけではない

裁判所の全国案内では,申述人1人につき収入印紙800円と連絡用の郵便料を要する。これに戸籍・住民票除票等の交付手数料や郵送請求費用が加わる。専門家に依頼する場合は,別に報酬等が必要になる。
郵便料や戸籍の提出方法は提出先の案内を確認する。複数人の申述でも,手数料は各人ごとに必要である。共通書類の重複提出を省ける場合と,申述自体が1人分になることを混同してはならない。

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相続放棄した家・空き家はどうなるか―保存義務と相続財産清算人への引渡し(AI作成)

目次

第1 相続放棄後も家の対応が必要になる場合第2 保存義務の条件・範囲・終わり方1 放棄時に現に占有していた財産が対象になる2 処分する権限とは区別する3 受理通知だけで保存義務が終わるわけではない第3 放棄前後にしておく保存と記録1 現状・占有・危険を記録する2 保存のための措置と大きな処分を分ける3 自分が業者と契約する場合の費用にも注意する第4 相続人への引渡しと全員が放棄した場合1 他の相続人が承継する場合2 全員が放棄しても直ちに国が管理するわけではない第5 相続財産清算人の選任と引渡し1 申立ての資料と費用を確認する2 引渡しを記録する第6 よくある疑問と早めに相談すべき場合1 放棄すれば住み続けられるか2 どのような場合に相談を急ぐべきか第7 出典
第1 相続放棄後も家の対応が必要になる場合

相続放棄が有効であれば,放棄者はその相続について初めから相続人でなかったものとして扱われる。しかし,故人の家に住んでいる,家財を手元に保管しているといった場合には,放棄後の保存と引渡しを別に考える必要がある。
現行民法940条の対象は,放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有している者である。「放棄した人は全員いつまでも管理する義務がある」とも,「受理されたら家をそのまま捨ててよい」とも説明できない。
本記事は,故人所有の家や家財を放棄した者が,現状を保ち引き渡すまでに確認すべき事項を扱う。放棄自体の書類・期限は相続放棄の手続を自分でする方法を参照されたい。

相続放棄の意味,単純承認・限定承認との比較及び放棄するかどうかの判断は,相続放棄とは―期限・手続き・費用・デメリットと判断のポイントで説明している。

第2 保存義務の条件・範囲・終わり方
1 放棄時に現に占有していた財産が対象になる

民法940条1項は,放棄時に現に占有していた財産について,相続人又は同法952条1項の相続財産清算人に引き渡すまで,自己の財産におけるのと同一の注意をもって保存する義務を定める。
故人の家に同居していた,家財を自宅へ移して保管していた,建物を事実上管理していたといった事情は,占有の判断で確認すべき事実である。鍵を1本持っているという事実だけで,全ての家や家財の占有を一律に決めるべきではない。実際の使用,立入り,管理,他人の支配及び引渡しの経過を確認する。
遠方に住み,その家を現に占有していなかった者に,親族又は放棄者であるという理由だけで,同項の保存義務が当然に生じるわけではない。ただし,自分で締結した契約や自分の行為による責任まで,この条文だけで全て否定できるわけではない。

2 処分する権限とは区別する

保存義務は,家を自分のものとして売却し,解体し,家財を自由に譲渡・廃棄する権限を与える制度ではない。放棄後の隠匿・私的消費等には民法921条3号の問題もある。
放棄前に売却や廃棄をした場合は,同条1号による法定単純承認が問題になり得る。保存と処分の境界は行為の目的・対象・程度によるため,大掛かりな工事や片付けは,必要性だけでなく権限と費用負担も先に確認する。
行為ごとの判断は相続放棄と法定単純承認を参照されたい。

3 受理通知だけで保存義務が終わるわけではない

条文上の終期は,相続人又は相続財産清算人への当該財産の引渡しである。受理通知を受け取った日,家から引っ越した日,又は鍵を処分した日を,当然に義務の終了日として扱ってはならない。
誰が相続人として承継するかを確認し,引渡しが可能な相手と方法を具体化する。引渡し先がいない又は相続人のあることが明らかでない場合は,相続財産清算人の選任が必要になることがある。

第3 放棄前後にしておく保存と記録
1 現状・占有・危険を記録する

家の所在,鍵の保管者,住んでいる人,現に管理している人,雨漏りや破損,家財の所在等を,写真と日付入りの一覧で記録する。故人の物と自分の物を分け,持ち出した物や処分した物があれば,その日時と理由も残す。
近隣からの連絡や自治体の文書は,封筒を含めて保存する。危険が切迫している場合は,人の安全を優先し,必要に応じて自治体・消防等へ連絡した上で,行った措置と範囲を記録する。
これらは一律に法律で定められた書式ではなく,占有状況,保存の必要性及び引渡しの経過を説明するための実務上の備えである。

2 保存のための措置と大きな処分を分ける
場面対応の考え方施錠や現状確認が必要現実の占有状況と危険を確認し,財産の状態を保つための必要な措置を検討する。雨漏り・破損の応急措置が必要写真,見積り,必要性,工事範囲と原資を残す。規模が大きい工事は権限・費用負担を先に相談する。家財を売る・譲る・廃棄したい経済的価値と処分権限を確認する。業者に一括処分を依頼する前に,相続放棄との関係を検討する。家を解体・売却したい保存のためという理由だけで放棄者が実行できるとは限らない。相続人・清算人による処理と裁判所の許可の要否を確認する。

遺品整理業者の許可や委託契約の注意点は遺品整理業者の許可・選び方と相続放棄・残置物処理の注意点で説明している。適切な許可のある業者を選ぶことと,放棄者に処分権限があることは別の問題である。

3 自分が業者と契約する場合の費用にも注意する

故人の債務を相続しないことと,放棄者が新しく業者へ工事や片付けを依頼することは別である。自分が発注者となれば,その契約の代金を誰が負担するかが問題になる。
民法940条2項は,報告,受け取った物の引渡し及び必要費の償還等に関する委任の規定を準用する。しかし,支出すれば全額・直ちに戻ると考えてはならない。保存に必要な費用か,金額と支出の根拠を示せるか,相続財産から回収できるかを区別する。
領収書,見積書,契約書及び支払記録を保管し,故人の財産と自分の財産を混同しない。故人の預金を払い戻して支払う前には,預貯金の払戻しと法定単純承認の問題も確認する。

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相続したゴルフ会員権を売却するときの税務―取得費の引継ぎ,名義書換料及び損益通算(AI作成)

目次

第1 相続税評価額で取得費を置き換えない第2 被相続人の資料と相続人の支出を合わせて確認する第3 名義書換料を認めた最高裁判決の射程第4 所得の計算と損失の通算を二段階にする第5 売却前の確認順序第6 関連記事と根拠の範囲

親が買ったゴルフ会員権を相続して売却するとき,相続税評価額,親の購入代金,相続人の名義書換料及び売却時の手取額は,それぞれ役割の異なる数字である。個人が通常の相続によって取得した会員権を売却する場面について,令和8年10月10日に確認した法令,最高裁判決及び国税庁資料に基づいて整理する。

第1 相続税評価額で取得費を置き換えない

所得税法60条1項は,通常の相続や贈与によって取得した資産の売却について,「その者が引き続きこれを所有していたものとみなす」と定める。相続によって,その時の評価額で新たに購入したものとして計算する制度ではない。

被相続人の取得費と取得時期を引き継ぐため,相続した時の評価額より安く売却しても,元の取得費が低ければ譲渡益が生じ得る。相続税の評価と,売却時の所得税計算を別の表へ記録する方がよい。限定承認に係る相続は同項の通常の引継ぎから除かれるため,限定承認と税金を参照されたい。

第2 被相続人の資料と相続人の支出を合わせて確認する

被相続人の購入契約,入会時の明細,名義書換料,仲介手数料及び支払記録を集める。その上で,相続人が承継のために支出した金額と,売却のための支出を分ける。相続人が買ったわけではないという理由だけで,親の購入資料を不要としない。

所得税法38条1項は取得費を,資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の合計額とする。請求書の名称だけではなく,その支出が権利取得のために必要だったか,売却に直接対応するか,保有中の支出かを検討する必要がある。

会員権の種類,承継条件,名義変更の要否及び費用負担は,会則と個別契約で確認する。相続人が自ら会員となってから売却する場合と,相続関係を証明して第三者への売却を進める場合とで,必要な手続・支払が同じとは限らない。

第3 名義書換料を認めた最高裁判決の射程

最高裁平成17年2月1日第三小法廷判決は,父からゴルフ会員権の贈与を受けた子が,名義書換手数料を支払い,その後会員権を売却した事案である。相続そのものの事案ではない。

最高裁は,所得税法60条1項の趣旨を増加益への課税の繰延べと捉え,贈与の際の権利取得に必要な付随費用を無視する扱いを否定した。受贈者が会員権を取得するために支払った当該手数料を取得費に含めた。

相続の場合も,60条1項による取得費の引継ぎだけを理由として,相続人の付随費用を一律に除外する考え方は採れない。他方,相続後に支出した金額がすべて取得費となるわけでもない。名義書換料の支払者,支払目的,会則上の効果,承継との関係及び領収書をそろえて判断する。

同判決が譲渡時の売却手数料ではなく,贈与時の取得付随費用を扱ったことにも注意する。不動産の相続登記費用等との比較は,相続した不動産を売却したときの譲渡所得を参照されたい。

第4 所得の計算と損失の通算を二段階にする

国税庁No.3158は,ゴルフ会員権の売却益を原則として総合課税の譲渡所得とし,取得費と譲渡費用を控除した上で,保有期間に応じた計算を示している。営利目的で継続して売買する場合は,事業所得又は雑所得の問題となり,同じ計算を機械的に使わない。

取得費に名義書換料を含められるかという問題と,計算した譲渡損失を給与等から差し引けるかという問題は別である。取得費の認定に成功しても,損益通算ができるとは限らない。

現行の所得税法69条2項及び62条1項と施行令178条は,生活に通常必要でない資産の損失を制限する。主として趣味・娯楽等のために持つ会員権について,No.3158は給与所得等との損益通算を原則として認めないと説明している。取引先との利用があったという事情だけで,当然に制限を外せるとはしない。

平成17年の最高裁判決は平成9年分の課税を扱っている。そこで譲渡損失が認められたという結論を,現在の給与との通算へそのまま移すことはできない。過去の判決による取得費の解釈と,売却年に適用される損失制限を分ける必要がある。

第5 売却前の確認順序

①会員権証書,会則,相続関係資料及び相続人間の取得者を確認する。
②被相続人の取得日,購入代金と付随費用を証憑に結び付ける。
③相続人の名義書換料等を,取得,維持又は売却のどの段階の支出かに区分する。
④売却契約,売却代金,仲介手数料及び入金明細をそろえる。
⑤譲渡所得の区分・金額と,損益通算の可否を別々に判定する。
⑥申告が必要となる場合の資料と担当を,売却前に決める。

弁護士は承継権限,会則,遺産分割及び売買条件を,税理士は所得区分,取得費,保有期間及び損益通算を照合する運用が有用である。これは専門職連携の提案であり,会則や事実が異なる全案件への一律の結論ではない。

ゴルフ場の経営破綻等で預託金債権や施設利用権の内容が変わった場合は,売った権利と元の会員権の同一性から確認する。通常の相続・売却の計算だけで完結させない。

第6 関連記事と根拠の範囲

令和6年司法試験租税法第2問の模範解答と評価項目は,相続時の名義書換料と,娯楽目的の会員権の損益通算を別設問で扱っている。試験答案の検討順序を確認するための案内である。

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海外の共同名義口座は遺産に含まれるか―生存者取得,遺留分と日本の相続税・贈与税(AI作成)

目次

第1 共同名義だけでは帰属と税金は決まらない第2 生前の帰属と死亡後の取得を分ける1 ハワイ州法の例2 口座書類と資金履歴をそろえる第3 日本での準拠法と遺留分第4 日本の課税は別に判定する1 国外口座でも課税範囲を確認する2 遺産の外に移る場合にもみなし贈与を検討する第5 弁護士と税理士が共有する資料第6 関連記事と出典
第1 共同名義だけでは帰属と税金は決まらない

海外の銀行口座に夫婦の名前が並んでいても,残高の半分ずつが各人の財産であるとは限らない。また,一方の死亡後に生存者が口座を取得できる制度であっても,日本で相続税・贈与税がかからないとは限らない。
確認する順序は,①生前の資金と権利の帰属,②死亡による権利の移転,③遺産・遺留分との関係,④日本と現地の課税である。銀行が払戻しを認める人と,相続人間で財産を取得できる人とを同一視しないことが出発点となる。

第2 生前の帰属と死亡後の取得を分ける
1 ハワイ州法の例

ハワイ州法のHRS §560:6-103(a)は,共同名義口座について,名義人全員の生存中は各人の純拠出額に応じて帰属し,異なる意思について明白かつ説得的な証拠がある場合を例外とする。名義人数だけで持分を均等にする規定ではない。

他方,HRS §560:6-104(a)は,一方の死亡時の残高について,口座開設時に異なる意思があったことの明白かつ説得的な証拠がない限り,被相続人の遺産との関係では生存名義人に帰属すると定める。同条(e)では,契約等に基づく生存者の権利を遺言によって変更できないとしている。

これはハワイ州の当該規定の説明である。他国,他州,証券口座,信託口座及び単なる払戻し代理人の登録へそのまま広げることはできない。

2 口座書類と資金履歴をそろえる

口座の名称に「joint」があるだけでは足りない。開設申込書,署名カード,口座契約,生存者取得条項,名義変更・受取人変更の履歴及び適用される約款の版を取得する。
その上で,各名義人が入れた資金,払戻し,払戻金の使途及び死亡前後の残高を確認する。銀行の「生存者へ支払う」という回答と,その支払の法的性質や日本の税務上の評価は別に記録する。

第3 日本での準拠法と遺留分

法の適用に関する通則法36条は,「相続は、被相続人の本国法による。」と定める。地域ごとに法が異なる国の本国法は,同法38条3項により,その国の規則に従って指定される地域の法を選び,そのような規則がなければ本人に最も密接な関係がある地域の法を選ぶ。同法41条の日本法への反致も確認する。

これとは別に,口座契約の成立・効力には同法7条以下,夫婦間の財産関係には同法26条などが問題となる。どの法律関係を判断しているかを明示し,銀行との契約について選択された法だけで相続全体を処理しない。消費者契約に当たる場合には同法11条の適用条件も検討する。

個別財産の準拠法と相続準拠法をどう適用して遺産の構成を決めるかは,争点となり得る。現地法上の生存者取得が認められることだけで,日本で遺留分の問題がなくなるとは断定できない。相続の準拠法を定め,遺留分に相当する制度の有無,対象となる処分,算定財産,請求の相手方及び期間を検討する。

国際裁判管轄,反致及び遺言方式の基本は,外国籍・国外財産がある相続と遺言で説明している。

第4 日本の課税は別に判定する
1 国外口座でも課税範囲を確認する

相続税法1条の3・1条の4等により,取得者の納税義務の範囲を確認する。取得者と被相続人・贈与者の住所,国籍,過去の日本居住期間及び在留資格が関係するため,「海外居住」「外国銀行」という情報だけで課税対象外と判断しない。
国税庁「相続人が外国に居住しているとき」も,日本に住所がない取得者であっても,一定の場合には国外財産が相続税の課税対象になると説明している。財産の所在は相続税法10条の財産別の基準で確認する。

2 遺産の外に移る場合にもみなし贈与を検討する

相続税法9条は,対価を支払わないで利益を受けた場合等について,原則として利益の価額相当額を贈与により取得したものとみなす規定であり,遺言による行為の場合には遺贈とみなす。死亡を契機とする取得であることだけから,常に遺贈と扱う規定ではない。
相続税法基本通達9-1は,「利益を受けた」場合について,おおむね財産の増加又は債務の減少があった場合等と説明している。

税務大学校の研究論文中澤直人「国外における夫婦間の多様な財産保有形態に対する相続税法上の取扱いについて」の要約は,想定したハワイ州の共同名義口座の生存者取得について,同条による贈与税課税が相当との見解を示す。相続開始時に夫婦が日本に住所を有し,相続人は生存配偶者のみ等の前提を置いた研究である。
国税庁のサイトに掲載された研究論文であることをもって,すべての共同名義口座について確定した行政上の取扱いが示されたとは扱わない。実際の契約,準拠法,拠出額,取得時点,他の相続財産及び納税義務の範囲に当てはめる必要がある。

第5 弁護士と税理士が共有する資料

① 名義人全員の国籍,住所履歴,在留資格及び夫婦財産契約
② 口座契約,生存者取得条項,署名カード及び変更履歴
③ 各人の拠出と払戻しの全履歴,死亡日残高及び現在残高

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失踪宣告と相続・相続税―死亡とみなされる時点,相続人の変動,申告期限,取消し及び外国が関わる場合(AI作成)

目次

第1 この記事の対象第2 失踪の宣告の要件と死亡とみなされる時点1 普通失踪と危難失踪2 死亡とみなされるのは審判の日ではない3 手続の概要第3 相続への影響1 相続は死亡とみなされる時点で開始する2 他の相続との先後で相続人が変わる第4 相続税の申告期限と財産の評価1 申告期限は審判の確定を知った日から数える2 財産は相続開始の時の価額で評価する3 失踪の宣告・取消しによる相続人の異動と更正の請求第5 失踪の宣告の取消し第6 外国が関わる場合1 日本の裁判所が失踪の宣告をすることができる場合2 死亡とみなされる時点と相続・婚姻への影響3 失踪の宣告の取消しの管轄4 外国の裁判所がした失踪の宣告5 不在者財産管理を選ぶ場合第7 最初に確認すること第8 関連記事第9 出典1 法令2 通達・公的資料
第1 この記事の対象

本記事は,家族が行方不明となって生死が分からない場合に家庭裁判所がする失踪の宣告(民法30条)について,相続と相続税の実務で問題となる点を整理するものである。

失踪の宣告では,死亡したものとみなされる時点が審判の日ではなく過去の時点になる。
そのため,誰が相続人になるか,相続税の申告期限がいつから進むか,財産をいつの価額で評価するかの判断が,通常の死亡の場合と異なる。

行方不明者が外国籍である場合や外国に住んでいた場合には,日本の裁判所が失踪の宣告をすることができる範囲が限られることがあり,外国の裁判所がした失踪の宣告を日本でどう扱うかも問題となる。

条文はe-Gov法令検索の現行条文(令和8年10月時点)で,通達は国税庁ホームページの相続税法基本通達で確認した。

第2 失踪の宣告の要件と死亡とみなされる時点
1 普通失踪と危難失踪

不在者の生死が7年間明らかでないときは,家庭裁判所は,利害関係人の請求により,失踪の宣告をすることができる(民法30条1項)。
戦地に臨んだ者,沈没した船舶の中に在った者その他死亡の原因となるべき危難に遭遇した者の生死が,戦争が止んだ後,船舶が沈没した後又はその他の危難が去った後1年間明らかでないときも,同様である(同条2項)。

2 死亡とみなされるのは審判の日ではない

普通失踪の宣告を受けた者は7年の期間が満了した時に,危難失踪の宣告を受けた者はその危難が去った時に,死亡したものとみなされる(民法31条)。
審判は申立てから公告等を経てされるため,死亡したものとみなされる日は,審判の日や戸籍に記載される日より前になる。

失踪の宣告の裁判が確定したときは,その裁判を請求した者が,裁判が確定した日から10日以内に,裁判の謄本を添付して届け出なければならない(戸籍法94条,63条1項)。
この届書には,民法31条の規定によって死亡したとみなされる日も記載する(戸籍法94条)。

3 手続の概要

失踪の宣告の審判事件は,不在者の従来の住所地又は居所地を管轄する家庭裁判所の管轄に属する(家事事件手続法148条1項)。
家庭裁判所は,申立てがあったこと,不在者は一定の期間までに生存の届出をすべきこと,届出がないときは失踪の宣告がされること,及び不在者の生死を知る者は一定の期間までに届出をすべきことを公告する(同条3項)。
その期間は,普通失踪では3か月,危難失踪では1か月を下ってはならず,期間が経過しなければ失踪の宣告の審判をすることができない(同項)。
失踪の宣告の審判は,不在者に告知することを要しない(同条4項)。

第3 相続への影響
1 相続は死亡とみなされる時点で開始する

相続は,死亡によって開始する(民法882条)。
失踪の宣告を受けた者の相続は,民法31条により死亡したものとみなされる時点で開始し,相続人の範囲や相続分もその時点を基準に判断する。

2 他の相続との先後で相続人が変わる

行方不明者自身が,親などの相続人となるべき立場にある場合には,死亡したものとみなされる時点と,その親の死亡の時点との先後によって結論が変わる。

例えば,子Aが行方不明となってから12年後に親Cが死亡した場合,Aについて普通失踪の宣告がされると,Aは行方不明となってから7年が満了した時に死亡したものとみなされ,Cより先に死亡したことになる。
この場合,AはCの相続人とならず,Aの子がAを代襲してCの相続人となる(民法887条2項)。
Aに子その他の直系卑属がいなければ,Aの系統からはCの相続人が出ないことになる(同条3項参照)。

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遺言書の執行とは―見つけた後の検認,遺言執行者,財産別の手続及び執行できない場合(AI作成)

目次

第1 遺言書の執行で最初に確認すること1 遺言書の執行とは2 遺言書があっても全ての手続を遺言執行者が行うとは限らない第2 遺言書を探し,原本又は証明書を確保する1 自宅,公証役場及び法務局を分けて調べる2 複数の遺言があるときは作成日と抵触関係を確認する第3 家庭裁判所の検認が必要かを確認する1 自宅等で保管された自筆証書遺言は原則として検認が必要である2 公正証書遺言と法務局保管の遺言は検認が不要である第4 遺言の種類と執行対象を確定する1 文言だけでなく遺言書全体から法的性質を判断する2 遺言執行者の権限は執行対象となる財産に限られる第5 遺言執行者の就任,選任及び初動1 指定された遺言執行者は就任意思を明らかにする2 遺言執行者がいないときは家庭裁判所へ選任を申し立てられる3 財産目録を作成し,管理経過を記録する第6 財産ごとの執行手続1 不動産2 預貯金3 株式,投資信託その他の有価証券4 保険金,年金その他の契約上の給付第7 相続人による処分,妨害及び情報請求への対応1 相続人は遺言の執行を妨げる行為をすることができない2 通知,財産目録及び報告を分けて行う第8 遺言書どおりに執行できない場合1 遺言の有効性又は文言の解釈が争われている場合2 受益者が先に死亡し,放棄し,又は資格を失った場合3 目的財産がなくなり,又は性質が変わった場合4 遺言執行者が就任できず,又は途中で職務を行えなくなった場合5 負担付遺贈の負担が履行されない場合第9 分配,費用,税務及び任務終了1 費用と報酬を区別する2 最終分配前に未処理事項を確認する第10 遺言書執行の確認順序第11 関連記事第12 出典1 法令及び公的資料2 裁判例3 実務書
第1 遺言書の執行で最初に確認すること
1 遺言書の執行とは

遺言書の執行とは,遺言者の死亡によって効力を生じた遺言の内容を読み取り,必要な調査,通知,財産管理,名義変更,換価及び分配を行って,遺言が定めた法律関係を現実のものにすることである。
遺言書を発見したからといって,直ちに預貯金を払い戻したり,不動産を処分したりしてよいわけではない。
遺言書の方式,検認の要否,後の遺言の有無,遺言条項の法的性質,遺言執行者の有無及び権限を順番に確認する必要がある。

本記事は,令和8年10月9日現在の民法,裁判所及び法務省等の公開資料に基づき,相続人,受遺者及び遺言執行者が遺言書を見つけた後に確認する一般的な順序を整理するものである。
個別の遺言では,文言,作成年月日,財産の現状及び関係者によって結論が変わる。

2 遺言書があっても全ての手続を遺言執行者が行うとは限らない

遺言で遺言執行者が指定されていても,その権限は遺言の内容を実現するために必要な範囲に限られる(民法1012条)。
反対に,遺言執行者の指定がなくても,遺言の内容によっては受益者が自ら名義変更等を進められる場合がある。

したがって,「遺言書があるか」「遺言執行者がいるか」だけでは足りず,個々の条項が,特定財産承継遺言,特定遺贈,包括遺贈,相続分の指定,遺産分割方法の指定,清算型の条項その他のどれに当たるかを確認することが出発点となる。

第2 遺言書を探し,原本又は証明書を確保する
1 自宅,公証役場及び法務局を分けて調べる

自宅等で保管された自筆証書遺言のほかに,公正証書遺言又は法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用した遺言が存在することがある。
自宅で見つかった遺言だけを最終の遺言と決めつけず,公証役場及び法務局の制度も確認する。

日本公証人連合会の説明によれば,平成元年以降に作成された遺言公正証書については,遺言の効力発生後,相続人等の利害関係人が全国の公証役場で遺言検索を申し出ることができる。
法務局保管の遺言については,相続人,受遺者,遺言執行者等が遺言書保管事実証明書又は遺言書情報証明書を請求できる(法務省「証明書について」)。

2 複数の遺言があるときは作成日と抵触関係を確認する

後の遺言が前の遺言と抵触するときは,抵触する部分について前の遺言を撤回したものとみなされる(民法1023条1項)。
もっとも,作成日が新しい遺言が前の遺言の全てを当然に消すわけではない。
財産ごと,条項ごとに両立するかを確認し,両立する部分は併存し得る。

遺言後の生前処分その他の法律行為が遺言と抵触する場合も,抵触する部分について撤回が問題となる(民法1023条2項)。
遺言書と一緒に,売買契約書,贈与契約書,登記事項証明書,通帳及び証券残高等を確認する必要がある。

第3 家庭裁判所の検認が必要かを確認する
1 自宅等で保管された自筆証書遺言は原則として検認が必要である

遺言書の保管者は,相続の開始を知った後,遅滞なく遺言書を家庭裁判所に提出して,検認を請求しなければならず,保管者がない場合に遺言書を発見した相続人も同様である(民法1004条1項)。
封印のある遺言書は,家庭裁判所で相続人等の立会いの下に開封する(同条3項)。
自宅で封を開けたり,書込みをしたりせず,発見時の状態を保つことが重要である。

裁判所の検認案内は,検認について,相続人に遺言の存在及び内容を知らせ,検認時点の形状,訂正等の状態,日付及び署名等を明確にして偽造・変造を防ぐための手続であると説明している。

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相続開始後の継続契約と口座振替を整理する方法―通信,放送,保険,地代及び賃貸物件設備(AI作成)

目次

第1 結論―口座振替の停止と契約の終了を分ける
第2 最初に四つの状態を分ける

1 必要性,契約,支払及び権限を別欄にする
2 口座凍結だけで解約済みと判断しない

第3 継続契約を漏れなく探す

1 郵便物,通帳及び建物設備から探す
2 契約台帳に記録する事項

第4 契約を利用目的で分類する

1 被相続人の生活に関する契約
2 賃貸物件の運営に必要な契約
3 保険,地代及び借入れ

第5 連絡,承継及び解約の順序

1 死亡連絡と最終手続を分ける
2 手続権限と提出書類を確認する

第6 貸与機器,売却及び建替えを確認する

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破産手続開始後の相続放棄と破産法238条――相続不動産の売却・登記・税務(AI作成)

目次

第1 問題と結論1 本記事が扱う時系列2 結論の要旨第2 破産法238条の効力1 破産財団に対する相対的な限定承認効2 破産管財人が放棄の効力を認める場合3 破産財団は相続財産法人ではない第3 破産管財人による分別管理と売却1 破産法242条による分別管理2 不動産の任意売却と裁判所の許可3 後順位相続人の放棄第4 相続不動産の登記1 登記で現れる二つの法律関係2 事前照会のための二つの候補案3 法務局に示す資料4 類似例は同一事案ではない第5 税務及び会計の確認1 破産財団を別の納税主体としない2 個人の譲渡所得と強制換価手続の非課税3 破産法上の限定承認効と所得税法59条4 消費税と取得費・譲渡費用第6 実務チェックリスト第7 資料の裏付けと限界1 一次資料で確認した事項2 一次資料の裏付けが得られていない事項出典・参考資料
第1 問題と結論

1 本記事が扱う時系列

本記事は,被相続人の死亡,相続人の破産手続開始決定,その相続人による相続放棄の順にできごとが生じた場合を扱う。
具体的には,破産手続開始決定前に相続が始まり,決定後に破産者が家庭裁判所で相続放棄をした場合である。

この時系列では,民法上の相続放棄の効力だけで結論を出すことができない。
破産法238条が相続放棄の効力を破産財団との関係で修正し,同法242条が破産管財人に相続財産の分別管理及び処分を求めているからである。

2 結論の要旨

第1に,破産手続開始決定後の相続放棄は,破産財団に対しては限定承認の効力を有するにとどまる。
そのため,破産管財人が放棄の効力を認める手続をとらない限り,相続財産の換価価値を破産手続の外へ出すことはできない。

第2に,この効果は破産財団との関係に限られる。
破産財団が民法951条の相続財産法人になるわけではなく,破産管財人が当然に相続財産清算人の地位を取得するわけでもない。

第3に,相続不動産の任意売却には破産法78条2項1号の裁判所の許可が必要であり,売却後の登記は事案ごとに管轄法務局と事前協議すべきである。
公刊資料の範囲では,この時系列と完全に一致する登記先例を確認できなかったため,本記事の登記申請の構成は確定的な先例ではなく,事前照会のための候補案として示す。

第2 破産法238条の効力

1 破産財団に対する相対的な限定承認効

破産法238条1項は,破産手続開始決定前に破産者のために相続が始まり,破産者が開始決定後に単純承認又は相続放棄をした場合,それぞれ破産財団に対しては限定承認の効力を有するとする。
相続財産が債務超過であるときの単純承認と,資産超過であるときの相続放棄のどちらによっても,破産債権者の配当原資が害されないようにする趣旨である。

ここで重要なのは,条文が「破産財団に対しては」と限定していることである。
民法939条による相続放棄の一般的効果を全面的に否定するのではなく,破産手続の配当原資との関係でのみ,限定承認と同様に扱うものである。

2 破産管財人が放棄の効力を認める場合

破産法238条2項は,破産管財人が相続放棄の効力を認めることを許している。
この場合,破産管財人は,相続放棄があったことを知った時から3か月以内に,その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。

したがって,当該相続財産を換価する前に,破産管財人が同項の申述をしたか,その申述が受理されたか,受理の審判が確定したかを確認する必要がある。
この点は,破産者本人の相続放棄申述受理証明書だけでは判断できない。

3 破産財団は相続財産法人ではない

国税庁が公開する名古屋高裁金沢支部平成20年6月16日判決(平成19年(行コ)第17号)は,破産法238条1項は破産手続との関係で限定承認と同様の効力を付与するものにすぎず,破産財団を法人とするものではないと判示した。
破産者は財産の帰属主体たる地位を失わず,破産管財人は管理処分権を専属的に行使するという区別である。

他方,民法951条は,相続人のあることが明らかでないときに相続財産が法人となることを定めている。
これは破産法238条とは根拠も要件も異なる制度であり,両者を同一視してはならない。

第3 破産管財人による分別管理と売却

1 破産法242条による分別管理

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YouTuber・配信者の著作権・広告収益に相続税はかかるか―財産評価基本通達148と営業権(AI作成)

目次

第1 結論―チャンネルを一つの財産として評価しない1 権利・収益・アカウントを分ける2 最初に作る五つの一覧第2 動画の著作権と著作者人格権1 アップロードした人が全権利者とは限らない2 著作権は承継できるが著作者人格権は承継しない3 共同相続後の管理を決める第3 Google・YouTube・AdSenseの手続1 法的な承継とログイン権限は同じではない2 ブランドアカウントとチャンネル権限を区別する3 未払AdSense収益の受領手続第4 未払収益と死亡後の収益を分ける1 死亡時までに発生した未払収益2 死亡後に生じる収益第5 著作権の相続税評価―財産評価基本通達1481 著作権は相続税の課税対象となり得る2 通達148の算式3 固定倍率を使い回さない第6 営業権の評価と個人の才能への依存1 個人事業の営業権2 死亡とともに消滅する営業権は評価しない第7 法人運営と非上場株式1 権利者と契約名義を確認する2 二重計上を防ぐ第8 弁護士・税理士が集める資料1 初動で保存する資料2 共同作業の分担第9 裁判例・資料の確認状況1 直接の公表裁判例を前提にしない第10 出典・参考資料1 法令・国税庁資料2 Google・YouTube公式資料3 二次資料
第1 結論―チャンネルを一つの財産として評価しない
1 権利・収益・アカウントを分ける

YouTuber,動画配信者又はインフルエンサーが死亡した場合,「YouTubeチャンネルを相続できるか」だけを検討しても,民事,税務及びプラットフォーム上の手続を整理できない。
少なくとも,①動画等の著作権,②死亡時までに発生した未払収益,③死亡後に著作権又は事業から生ずる収益,④Google・YouTube・ブランドアカウント及びAdSenseの管理権限,⑤法人が事業主体である場合の株式に分ける必要がある。

国税庁は,著作権を含む金銭に見積もることができる経済的価値のある財産が相続税の課税対象になると説明している。
しかし,アカウント名や登録者数そのものを直ちに一つの相続財産として評価するのではなく,死亡時に誰がどの権利を有し,どの将来収益がその権利に帰属するかを確定する必要がある。

2 最初に作る五つの一覧

実務では,次の五つを別々の一覧にすると整理しやすい。
①動画,台本,写真,楽曲,サムネイル,ロゴ等の権利一覧
②AdSense,メンバーシップ,Super Chat,スポンサー料,物販代金等の未払額一覧
③Googleアカウント,ブランドアカウント,YouTube Studio及びAdSenseの権限一覧
④制作費,外注費,出演料,音源利用料,返金その他の債務一覧
⑤個人事業か法人事業か,法人の場合は株主,役員,契約名義及び知的財産の帰属を示す一覧

第2 動画の著作権と著作者人格権
1 アップロードした人が全権利者とは限らない

動画には,映像,台本,写真,音楽,イラスト,ロゴ,出演者の実演その他の複数の素材が含まれ得る。
チャンネルの開設者又は動画の投稿者が,これらすべての著作権者であるとは限らない。

撮影・編集された動画は,映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され,物に固定されていれば,映画の著作物に当たり得る(著作権法2条3項)。
映画の著作物の著作者は,制作,監督,演出,撮影,美術等を担当してその全体的形成に創作的に寄与した者であり(同法16条),撮影や編集を外注した場合は,外注先の撮影者・編集者が著作者となることがある。
もっとも,著作者が映画製作者(映画の著作物の製作に発意と責任を有する者。同法2条1項10号)に対し製作への参加を約束しているときは,その映画の著作物の著作権は映画製作者に帰属する(同法29条1項)。
この場合も著作者人格権は著作者に残るので(同法59条),外注契約の内容から,著作権が投稿者側と外注先のどちらにあるかを確認する。
相続税の課税対象となる著作権の範囲は,この帰属によって決まる。

雇用又は法人名義の制作,外注,著作権譲渡,利用許諾,共同制作及び第三者素材の利用がある場合は,契約書,発注書,請求書,制作データ及び公開時の表示から権利の帰属と利用範囲を確認する。
相続の対象を決める前提として,被相続人が有していた権利だけを特定する必要がある。

2 著作権は承継できるが著作者人格権は承継しない

著作権法61条は著作権の譲渡を予定しており,民法896条による包括承継の対象にもなり得る。
これに対し,著作者人格権は著作者の一身に専属し,譲渡することができないため,相続されない(著作権法59条)。

もっとも,著作者の死後も,著作者が生存していれば著作者人格権の侵害となるべき行為を原則としてしてはならない(著作権法60条)。
相続人が著作権を取得したからといって,故人の氏名表示を変え,内容を自由に改変し,又は第三者の権利を無視して再公開できるわけではない。

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相続事件の弁護士費用と税務―遺産分割,相続登記,共同売却及び金銭回収の費用区分(AI作成)

目次

第1 弁護士費用は,何の税金で何のための費用かを分ける第2 相続税の債務控除―死亡時の債務と相続人の費用は異なる1 被相続人の債務が対象となる2 死亡前の依頼による未払報酬は事実を確認する第3 取得費―相続登記の費用と遺産分割の費用を分ける1 原則として被相続人の取得費を引き継ぐ2 非業務用不動産の相続登記費用3 遺産分割の訴訟費用等は土地の取得費にならない第4 共同売却と金銭回収―代金から支払うことだけでは決まらない1 売却のために直接要した費用を確認する2 売却代金の回収費用は譲渡費用と区別する第5 賃貸業務等の必要経費は別に検討する第6 委任契約と請求明細で残しておきたい事項1 報酬の合意と税務上の区分をつなぐ資料2 一括報酬を区分する場合第7 関連記事と出典
第1 弁護士費用は,何の税金で何のための費用かを分ける

相続事件の弁護士費用については,「相続で支払った費用だから遺産から差し引ける」「不動産を取得したから取得費になる」「売却代金から払ったから譲渡費用になる」とは一律にいえない。
相続税の債務控除,譲渡所得の取得費・譲渡費用,不動産所得等の必要経費は,それぞれ要件が異なる。

また,委任契約で成功報酬を計算するための「経済的利益」と,税務上の取得費や課税価格は別の概念である。
報酬が取得財産の総額又は回収額の一定割合で計算される場合でも,その計算式だけで税務上の費用区分は決まらない。

本記事は,個人の通常の相続と,相続した土地・建物の売却を中心に整理する。限定承認,法人,非居住者及び国外財産には,別の検討が必要である。
法令・国税庁資料の確認日は令和8年10月7日である。国税庁の説明に加え,契約書や請求明細を整える実務上の提案を示す。

費用の内容検討する税務区分最初に確認する点相続開始後に相続人が依頼した遺産分割の弁護士費用相続税の債務控除・将来の譲渡所得被相続人の死亡時の債務とは異なる。遺産分割の訴訟費用等は土地の取得費にならない。非業務用不動産の相続登記に要する費用譲渡所得の取得費当該不動産に対応する通常必要な費用か。概算取得費5%を用いる場合は別扱いとなる。相続不動産の売却のために直接必要な費用譲渡所得の譲渡費用売却のための業務と,遺産分割・維持管理・代金回収の業務を区別する。売却後の代金回収の弁護士費用譲渡費用との区別代金回収費用は,国税庁の質疑応答では譲渡費用に含まれない。賃貸業務に関する紛争の弁護士費用不動産所得等の必要経費業務との関係,資産取得・譲渡に関する費用との区別,私的な相続紛争との混在を確認する。

各行の根拠と例外は以下のとおりである。表だけで費用の全額を申告書へ転記しないことが重要である。

第2 相続税の債務控除―死亡時の債務と相続人の費用は異なる
1 被相続人の債務が対象となる

相続税法13条1項1号は,控除対象を「被相続人の債務で相続開始の際現に存するもの(公租公課を含む。)」と定め,同法14条1項は,控除する債務を確実と認められるものに限る。
国税庁「No.4126 相続財産から控除できる債務」も,死亡時に現に存在する被相続人の借入金・未払金等を説明している。

相続開始後に相続人が遺産分割のため弁護士へ依頼して負担した報酬は,そのことだけで被相続人の死亡時の債務にはならない。
相続人全員で費用を負担したこと,遺産口座から支払ったこと又は協議書で「遺産から控除する」と合意したことだけでも,税法上の債務控除の要件を満たすわけではない。

2 死亡前の依頼による未払報酬は事実を確認する

被相続人自身が死亡前に弁護士へ依頼し,死亡時に未払報酬がある場合は,死亡後の相続人による依頼と区別する。
契約,業務の履行,報酬の発生条件,死亡時の債務の存在・確実性及び誰が負担する部分かを確認する必要がある。
「請求書の発行が死亡後である」という一事だけで結論を決めず,死亡時点の法律関係を調べる。

葬式費用には別の控除の制度があるが,遺産分割の弁護士費用が葬式費用に変わるものではない。

第3 取得費―相続登記の費用と遺産分割の費用を分ける
1 原則として被相続人の取得費を引き継ぐ

所得税法60条1項は,通常の相続等で取得した資産について,譲渡所得の計算上,前所有者から引き続き所有していたものとみなす。
相続した土地・建物を売却するときの取得費は,原則として被相続人の取得費を引き継ぐのであり,相続税評価額をそのまま購入代金のように扱うものではない。
建物では減価償却相当額の調整も必要となる(国税庁「No.3270 相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期」)。

売買契約書,建築請負契約書,領収書,改良費の資料及び過去の申告資料は,遺産分割の価格交渉とは別の目的でも保存しておく必要がある。

2 非業務用不動産の相続登記費用

国税庁No.3270は,相続等で取得した土地・建物について,相続人が支払った登記費用等を取得費へ算入できることを説明している。ただし,業務用資産について必要経費に算入される費用との区別がある。
所得税基本通達60-2は,相続等による取得のため通常必要と認められる費用のうち,当該資産に対応する金額について定める。

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相続人がいない共有持分は誰に帰属するか―特別縁故者,民法255条,登記手続及び相続税(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論第2 共有持分が他の共有者に帰属するまで1 相続人不存在だけでは直ちに帰属しない2 特別縁故者への分与が先行する3 区分所有建物の敷地利用権第3 民法255条による登記1 相続財産名義への表示変更2 持分全部移転と登記原因3 登記原因日と旧法の13か月注記4 共同申請と添付情報第4 特別縁故者分与との使い分け第5 相続税第6 実務上の煩雑さと準備第7 出典1 法令2 裁判例3 通達・公的資料4 参考文献
第1 この記事の対象と結論

本記事は,共有者の一人が相続人なく死亡した場合に,その共有持分が誰に帰属し,どのような登記と相続税の問題が生じるかを整理するものである。令和8年10月6日時点の法令,最高裁判例,法務省の不動産登記記録例及び国税庁資料を確認して作成した。

共有持分は,相続人の不存在が明らかになっただけで直ちに他の共有者へ移るわけではない。相続債権者・受遺者への清算を経た後,まず特別縁故者への相続財産分与の対象となり,分与がされないときに民法255条により他の共有者へ帰属する。

登記実務では,相続財産名義への登記名義人表示変更を前提に,「亡○○相続財産持分全部移転」,登記原因「特別縁故者不存在確定」とする記録例が示されている。手続は段階的であるが,必要な期間経過・審判の確定と登記資料を整理すれば,制度上予定された処理である。

第2 共有持分が他の共有者に帰属するまで
1 相続人不存在だけでは直ちに帰属しない

民法255条は,共有者の一人がその持分を放棄したとき,又は死亡して相続人がないときは,その持分は他の共有者に帰属すると定める。しかし,相続人のあることが明らかでないときは,相続財産は法人となり,相続財産清算人が相続人の捜索,債権者・受遺者への弁済その他の清算を行う(民法951条以下)。

したがって,死亡と同時に共有名義を書き換えることはできず,相続人不存在の確定と清算手続を待つ必要がある。

2 特別縁故者への分与が先行する

最高裁平成元年11月24日第二小法廷判決は,共有者の一人が死亡し,相続人の不存在が確定し,相続債権者や受遺者への清算が終了したときは,その持分が特別縁故者への財産分与の対象となり,分与がされないときに民法255条により他の共有者へ帰属するとした。

最高裁判決は,民法255条を,残余財産が国庫に帰属する原則に対する例外と位置付けた。特別縁故者分与の手続を経ないまま,共有持分が当然に他の共有者へ帰属したとして登記を求めることはできない。

3 区分所有建物の敷地利用権

専有部分と分離して処分できない敷地利用権については,民法255条は適用されない(建物の区分所有等に関する法律24条)。戸建ての共有持分と,区分所有建物の敷地利用権とを区別する必要がある。

第3 民法255条による登記
1 相続財産名義への表示変更

法務省民事局長平成28年6月8日付け法務省民二第386号「不動産登記記録例の改正について(通達)」別添85~86頁の記録例222は,まず死亡した共有者の登記名義を「亡乙某相続財産」に変更する例を掲げる。登記原因は「相続人不存在」である。

同記録例の注1は,民法255条による持分移転登記をする前提として,相続財産名義への氏名又は名称・住所の変更登記がされていなければならないとしている。

2 持分全部移転と登記原因

次の段階では,登記の目的を「亡乙某相続財産持分全部移転」,登記原因を「特別縁故者不存在確定」とし,権利者として他の共有者を記録する例が示されている。

複数の共有者がいる場合の帰属割合は,民法255条により他の共有者の持分割合に従うと解される。個別の申請では,現在の登記記録,持分割合及び当事者表示を確認する必要がある。

3 登記原因日と旧法の13か月注記

記録例222の注2は,特別縁故者への分与申立期間が満了した日の翌日,又は分与申立てを却下する審判が確定した日の翌日を登記原因日とする旨を示す。また,平成3年の先例を引用し,「原因日付は,死亡の日から13か月を経過していることを要する」と記載する。

ただし,この13か月という記載は,当時の民法958条及び958条の3による公告・申立期間を前提とした旧法の説明である。令和5年4月1日に施行された現行制度では,民法952条2項の相続人捜索公告の期間満了,民法958条の2第2項の3か月の申立期間及び,申立てがあった場合の審判確定を基準に判断すべきであり,死亡から13か月という数字を機械的に用いることはできない。

4 共同申請と添付情報

実務書では,民法255条による持分移転登記は,相続財産法人を義務者,他の共有者を権利者とする共同申請として整理されている。相続財産清算人は相続財産法人を代表する。

登記原因を証する情報として,特別縁故者分与の申立期間の経過又は申立却下審判の確定を示す家庭裁判所の証明書等を準備する。相続財産名義への表示変更,清算人の権限を示す情報,固定資産評価その他の申請資料も必要になり得るため,具体的事件では管轄法務局に確認するのが安全である。この段落は通達の記録例そのものではなく,実務書による補充説明である。

第4 特別縁故者分与との使い分け

他の共有者自身が特別縁故者分与を申し立てることはあり得るが,分与の相当性は,被相続人との生活関係,療養看護,費用負担,生前の財産管理その他の事情から判断される。民法255条の登記手続を省略できることは,民法958条の2の要件ではない。

したがって,清算人は,登記の便宜を理由として事実評価を曲げるのではなく,分与の相当性について証拠に基づく意見を述べるべきである。分与しないとの結論になった場合は,それとは別に民法255条の登記を進める。

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特別縁故者に対する相続財産分与と清算人の意見書―介護,費用負担及び生前の預金払戻し(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論第2 特別縁故者への分与の法的枠組み1 特別縁故者に当たるか2 分与することが相当か3 分与する財産と額第3 清算人の意見書で分けて検討する事項第4 介護・費用負担と預金払戻しの証拠評価1 介護と費用負担2 判断能力低下後の預金払戻し3 時系列表と収支表第5 裁判例から分かること第6 共有持分と民法255条との関係第7 清算人の実務チェックリスト第8 出典1 法令及び裁判所資料2 裁判例3 参考文献
第1 この記事の対象と結論

本記事は,特別縁故者に対する相続財産分与の申立てがされた場合に,相続財産清算人がどのような資料を集め,どのように意見を組み立てるかを整理するものである。令和8年10月6日時点の法令,裁判所資料及び裁判例を確認して作成した。

清算人は,申立人が特別縁故者に当たるか,分与が相当か,分与するとして対象財産と額をどう定めるかを分けて検討する必要がある。介護や費用負担の主張だけで結論を出すのではなく,被相続人自身の収入・資産,施設や第三者が提供した介護,申立人による預金払戻しの金額・時期・使途及び返還状況を客観資料で突き合わせるべきである。

対象財産が共有持分であり,分与がなければ民法255条により他の共有者へ帰属する見込みであっても,登記手続の便宜だけを理由に分与相当とするのは妥当でない。民法958条の2の判断と,分与がされない場合の民法255条による帰属処理は別の問題である。

第2 特別縁故者への分与の法的枠組み
1 特別縁故者に当たるか

家庭裁判所は,相続人として権利を主張する者がないとき,相当と認める場合に,被相続人と生計を同じくしていた者,被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求により,清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる(民法958条の2第1項)。

同居や親族関係があるだけで当然に特別縁故者となるわけではない。生活関係,療養看護の期間・頻度・内容,被相続人との精神的・経済的結び付き及び死後の対応等を具体的に確認する必要がある。

2 分与することが相当か

特別縁故者に当たることと,残余財産を分与することが相当であることは同じではない。縁故の内容,被相続人の意思,申立人が受けた生前贈与その他の利益,被相続人に対する債務又は清算すべき金銭関係,残余財産の内容等を総合して判断される。

清算人は,申立人に有利な事情と不利な事情を同じ基準で調査し,家庭裁判所が裁量判断をするための材料を過不足なく示す立場にある。

3 分与する財産と額

分与が相当であっても,残余財産の全部を分与するとは限らない。寄与の期間・程度,負担した実費,被相続人から既に受けた利益,申立人の不適切な財産管理によって生じた損害その他の事情を踏まえ,対象財産と額を検討する。

相続財産に申立人に対する返還請求権又は損害賠償請求権がある場合には,その回収可能性と評価も残余財産の範囲に関係する。

第3 清算人の意見書で分けて検討する事項

家庭裁判所は,特別縁故者に対する相続財産分与の審判をする場合,清算人の意見を聴かなければならない(家事事件手続法205条)。実務上は,少なくとも次の事項を分けて記載すると判断過程が明確になる。

① 申立人と被相続人の関係及び特別縁故者該当性
② 申立てで主張された療養看護,生活費・医療費等の負担その他の縁故の具体的内容
③ 各主張を裏付ける資料と,資料がない又は反対資料がある事項
④ 被相続人の収入,資産,生活費及び介護費の実際の負担者
⑤ 申立人が管理又は払い戻した預貯金の全取引と使途
⑥ 相続財産の現況,債務及び未回収の請求権
⑦ 分与の相当性並びに相当とする場合の対象財産・額
⑧ 不利な事情を含む結論の理由

意見書は,当事者の主張を要約するだけでは足りない。主張,客観資料,資料から認定できる事実,評価及び結論を区別して記載することが重要である。

第4 介護・費用負担と預金払戻しの証拠評価
1 介護と費用負担

大阪家庭裁判所の手引きは,特別な縁故を示す資料として,手紙,日記,写真,陳述書及び各種費用の領収書等を挙げ,申立書のどの回答をどの資料が裏付けるかを明らかにするよう求めている。

清算人は,これらに加え,介護認定資料,介護施設の記録,病院の診療録,入退院記録,請求書・領収書,金融機関の取引履歴,年金・給与その他の収入記録,公共料金の支払記録等を照合する。申立人が費用を立て替えたのか,被相続人の口座から支払われたのか,被相続人に十分な収入・資産があったのかを区別する必要がある。

2 判断能力低下後の預金払戻し

認知症,入院又は施設入所後に申立人が預金を払い戻している場合,払戻しが直ちに不正となるわけではない。しかし,申立人が介護等を理由に分与を求める以上,清算人は,払戻日,金額,受領者,具体的使途,領収書等の裏付け,残金の保管状況及び相続財産への返還状況を確認すべきである。

説明のない払戻しがある場合は,申立人に書面照会をし,回答と資料を得た上で,被相続人のための支出,申立人への正当な弁済又は贈与,保管金,不当利得又は不法行為に基づく返還対象等に分類する。刑事上の評価を先取りせず,民事上の返還請求権の有無と分与相当性への影響を分けて検討することが望ましい。

3 時系列表と収支表

実務上は,①被相続人の健康状態・判断能力,②同居・入院・施設入所,③収入と定期支出,④申立人の介護行為,⑤申立人が主張する立替払い,⑥預金払戻しを同じ時系列に並べると矛盾が見えやすい。

預金については,対象期間の入出金を一覧化し,被相続人のための支出として裏付けがある額,説明はあるが裏付けが不十分な額,使途不明額及び返還済額を区分する。現金で保管したとの説明があるときは,保管場所,残高,入出金及び返還時期も確認する。

第5 裁判例から分かること

(続きを読む...)特別縁故者に対する相続財産分与と清算人の意見書―介護,費用負担及び生前の預金払戻し(AI作成)

他人の土地を無断で貸した者を所有者が相続したとき―賃借人は明渡しを拒めるか,損害賠償及び留置権(AI作成)

目次第1 この記事の結論第2 他人の物の賃貸借はどこまで有効か1 貸主と借主の間では有効2 所有者には賃借権を主張できない3 無権代理との違い第3 所有者が貸主を相続した場合1 地位は併存し,所有者は履行を拒める2 信義則に反する特別の事情3 無権代理と相続の判例との関係4 所有者が追認した場合第4 借主の救済―損害賠償1 履行不能と損害賠償2 履行を拒めることと責任を負うことは矛盾しない第5 留置権で明渡しを拒めるか1 物と債権の牽連関係2 他人物売買の判例3 相続で債務者と所有者が同じ人になっても変わらない4 同時履行の抗弁も使えない第6 実務上の確認事項1 借りる側2 所有者側第7 関連記事第8 出典1 法令2 裁判例3 公式資料4 確認状態
第1 この記事の結論

本記事は,所有者に無断で他人の土地や建物を自分の名で貸した者(例えば親の土地を子が勝手に貸した場合)が死亡し,所有者がその者を相続したときに,賃借人が所有者からの明渡請求を拒めるかを,最高裁判例と民法の条文に沿って整理するものである。
結論は次のとおりである。
①他人の物を自分の名で貸す契約(他人物賃貸借)も,貸主と借主の間では有効であるが,所有者に対しては,借主は賃借権を主張できない。
②所有者が貸主を相続しても,所有者としての地位と相続した貸主としての地位は併存し,所有者は,信義則に反すると認められるような特別の事情がない限り,貸主としての債務の履行を拒むことができると考えられる(最高裁大法廷昭和49年9月4日判決の考え方による)。
③所有者が履行を拒むと,相続した貸主の債務は履行不能となり,所有者は相続人として借主に損害賠償責任を負う。
④借主は,その損害賠償請求権を理由に,土地を留置して明渡しを拒むことはできない(最高裁昭和51年6月17日判決の考え方による)。
⑤所有者が貸したことを追認すれば,賃貸借は所有者との関係でも効力を持つ。

本記事は,令和6年司法試験論文式試験民事系科目第1問がこの事例を素材としたことを機に,同試験の出題の趣旨・採点実感と判決本文を照合して作成した。
実際の事件では,契約書,登記,相続関係及び当事者の言動を確認した上で個別に判断する必要がある。

第2 他人の物の賃貸借はどこまで有効か
1 貸主と借主の間では有効

民法561条は,他人の権利を売買の目的としたときは,売主はその権利を取得して買主に移転する義務を負うと定め,同法559条により,この規定は売買以外の有償契約にも準用される。
賃貸借(民法601条)も有償契約であるから,他人の物を自分の名で貸した貸主は,所有者から貸す権限を取得し,その権限に基づいて借主に使用収益させる義務を負う。
令和6年司法試験の出題の趣旨も,このような他人物賃貸借について,民法601条,559条による561条の準用を挙げている。

2 所有者には賃借権を主張できない

所有者は,他人物賃貸借の当事者ではない。
そのため,借主は,貸主に対して賃借権を主張できても,所有者に対しては,その賃借権を占有の権原として主張することができない。
借主が土地上に登記された建物を所有していても,借地借家法10条1項は,有効に成立した借地権を第三者に対抗するための規定であるから,賃貸する権限のない者から借りた場合の問題を解決しない。
採点実感も,同項を理由に所有者へ借地権を主張できるとする答案について,そもそも有効な占有権原が成立していないから第三者への対抗も問題にならないと指摘している。

3 無権代理との違い

貸主が所有者の代理人として契約したのであれば,無権代理(民法113条)の問題になり,所有者が追認しなければ所有者に効力を生じず,代理人は無権代理人の責任(民法117条)を負う。
これに対し,貸主が自分の名で契約したときは,貸主自身が賃貸人であり,無権代理ではない。
採点実感は,自分の名で貸した事例を無権代理の事案と捉える答案を,不良の例として挙げている。
契約書の賃貸人欄に誰の名前があるか,代理人として署名したのかを最初に確認する。

第3 所有者が貸主を相続した場合
1 地位は併存し,所有者は履行を拒める

最高裁大法廷昭和49年9月4日判決は,他人の権利の売主が死亡し,その権利者が売主を相続した場合について,権利者は相続により売主の義務ないし地位を承継するが,そのために権利者自身が売買契約を締結したことになるものではなく,権利が当然に買主に移転するものでもないとした。
その上で,権利者は,相続前と同様にその権利の移転について諾否の自由を保有し,信義則に反すると認められるような特別の事情のない限り,売主としての履行義務を拒否することができると判断した。

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第十二回特別弔慰金の請求と記名国債―遺族の順位,令和10年3月の請求期限,相続人・成年後見人の手続と差押禁止(AI作成)

目次第1 制度の概要1 第十二回特別弔慰金の内容2 5年後にもう一度の支給が予定されている第2 誰が受けられるか1 公務扶助料や遺族年金を受ける人がいないこと2 遺族の順位3 同順位の遺族が複数いる場合第3 請求の手続1 提出先と裁定2 必要な書類第4 相続人と成年後見人の請求1 請求前に権利者が死亡した場合2 国債の記名者が死亡した場合3 成年後見人等の請求第5 記名国債と特別弔慰金の保護1 譲渡・担保・差押えの制限2 非課税と印紙税第6 不服申立てと裁判例1 審査請求2 却下処分の取消訴訟第7 弁護士が相談で確認すること第8 本記事で扱わない事項第9 出典・関連記事1 検討した資料2 法令3 裁判例4 関連記事
第1 制度の概要
1 第十二回特別弔慰金の内容

戦没者等の遺族に対する特別弔慰金は,先の大戦で公務等のため亡くなった軍人軍属等の遺族に対し,国として改めて弔慰の意を表すために支給されるものである。
根拠は,戦没者等の遺族に対する特別弔慰金支給法(昭和40年法律第100号。以下「法」という。)である。

令和7年法律第18号による改正により,令和7年4月1日を基準日とする第十二回特別弔慰金が支給されている。
厚生労働省の案内と法の規定によれば,その内容は次のとおりである。

項目内容根拠基準日令和7年4月1日法2条・3条額戦没者等1人につき27万5000円法5条1項交付の方法5年以内に償還する無利子の記名国債法5条1項・3項国債の発行日令和7年9月1日令和7年法律第18号附則2条2項償還令和8年から毎年1回,償還日(4月15日)以降に5万5000円ずつ厚生労働省の案内請求期間令和7年4月1日から令和10年3月31日まで厚生労働省の案内時効行使できる時から3年法9条

請求先は住所地の市区町村の援護担当課であり,郵送やマイナポータルの電子申請(請求書と現況申立書のみ)でも請求できる。
請求期間を過ぎると第十二回特別弔慰金を受けることができなくなるとされているので,確認日(令和8年10月4日)から見ると,残りは約1年半である。

2 5年後にもう一度の支給が予定されている

令和7年法律第18号は,附則1条ただし書により,法2条等の基準日を令和12年4月1日に改める改正を,同日から施行するとしている。
e-Gov法令検索に収録された令和12年4月1日施行の条文では,基準日が令和12年4月1日となり,額は同じく27万5000円,5年以内に償還する記名国債とされている。
財務省に提出された厚生労働省の令和7年度税制改正要望も,特別弔慰金を「5年償還の記名国債を5年ごとに2回交付」と説明し,今回発行する国債の推計件数を約60万件としている。

令和12年の支給の請求期間等は,確認日現在は公表されていない。

第2 誰が受けられるか
1 公務扶助料や遺族年金を受ける人がいないこと

特別弔慰金は,基準日において,その戦没者等の死亡に関し,恩給法の公務扶助料,戦傷病者戦没者遺族等援護法(以下「援護法」という。)の遺族年金等を受ける権利を有する遺族がいる場合には支給されない(法3条ただし書)。
厚生労働省の案内も,これらを受ける人(戦没者等の妻や父母等)がいない場合に,先順位の遺族1人に支給するとしている。

2 遺族の順位

法2条1項は,「戦没者等の遺族」を,基準日までに援護法による弔慰金を受ける権利を取得した者で,基準日に日本の国籍を有しているものとしている。
厚生労働省の案内は,戦没者等の死亡当時の遺族の順位を次のように整理している。
①令和7年4月1日までに援護法による弔慰金の受給権を取得した者
②戦没者等の子(死亡当時の胎児を含む。)
③戦没者等の父母,孫,祖父母,兄弟姉妹(死亡当時に生計関係を有していたか等の要件により順番が入れ替わる。)
④①から③以外の三親等内の親族(甥,姪等)。ただし,戦没者等の死亡時まで引き続き1年以上の生計関係を有していた者に限る。

条文の上では,弔慰金の受給権者が基準日に死亡している場合等に子を受給権者とみなし(法2条3項),子もいない場合に父母,孫,祖父母,兄弟姉妹の順で(法2条の2第1項・2項),さらにそれもいない場合に三親等内の親族のうち葬祭を行った者等の順で(同条3項),遺族とみなす仕組みになっている。
配偶者については,戦没者等の死亡後に遺族以外の者と婚姻した場合等に除かれる規定がある(法2条1項ただし書)。
先順位者が基準日に生死不明で,その後2年以上生死不明が続く場合には,次順位の者の申請により,その者を遺族とみなすことができる(法2条の3)。

3 同順位の遺族が複数いる場合

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遺言による金銭信託の受益権を放棄した場合―代替取得者・遺産分割協議・課税関係(AI作成)

目次第1 問題の所在と結論第2 銀行の遺言信託と遺言による信託第3 信託が効力を生ずる時期第4 受益権放棄と遺言の代替条項第5 相続人全員の協議で変更する場合第6 相続税・贈与税の検討順序第7 設例による整理第8 実務上の確認資料第9 関連記事と出典
第1 問題の所在と結論

遺言に「一定の金銭を信託し,甲を受益者とする」と書かれているとき,甲が受益権を放棄することと,信託銀行に遺言執行を依頼しないことは別の行為である。遺言が「甲が受益権を放棄した場合は信託を設定せず,その金銭を乙らに分ける」と定めていれば,代替条項の文言,信託の効力が生じた時期,受託者への通知と引受け,乙らの取得原因を順に確認する必要がある。受益権の放棄だけで,常に遺産全体が未分割に戻るとはいえない。

税務上も「遺言を執行しなかったから贈与税はない」「全員で協議したから常に相続税だけである」とは決められない。遺言の代替条項による被相続人からの取得なのか,成立後の信託に関する権利の無償移転なのか,信託終了による残余財産取得なのか,別の取得原因なのかを,民事上の経過とともに検討する。本記事は一般的な整理であり,代替条項を伴う遺言による信託の受益権全部放棄について,同一事実関係の税務判断を示した裁決・判決を確認したものではない。

第2 銀行の遺言信託と遺言による信託

銀行の商品名である「遺言信託」は,遺言書の保管・遺言執行等のサービスをいうことがある。他方,信託法3条2号の遺言による信託は,遺言により受託者に財産を管理・処分させ,受益者に受益権を与える制度である。一つの遺言に両方が登場することもあるため,銀行が「遺言執行者」なのか「受託者」なのかを条項ごとに特定する。遺言執行契約を解約しても,それだけで信託の設定条項や代替取得者の指定が消えるわけではない。

第3 信託が効力を生ずる時期

信託法4条2項は,遺言による信託は遺言の効力の発生によって効力を生ずると定める。受託者への送金を信託の成立時点と当然に捉えてはならない。受託者となるべき者が引き受けない場合は信託法5条の手続と遺言の代替条項を確認する。受託者の不引受けと受益者の放棄は当事者も法的効果も異なる。

信託法4条4項は,信託行為に停止条件又は始期が付されている場合,その成就又は到来によって信託が効力を生ずると定める。したがって,遺言の効力発生時に当然に信託が効力を生ずるという原則と,条項に基づく例外を区別する。受託者への送金前であるという事実だけでは,信託が未発効であることの根拠にならない。

第4 受益権放棄と遺言の代替条項

信託法99条1項は,受益者が信託行為の当事者である場合を除き,受託者に対する意思表示によって受益権を放棄できるとし,同条2項は放棄した者が初めから受益権を有しなかったものとみなす。したがって,放棄の相手方,時期,書面の到達を記録する必要がある。もっとも,この民事上の遡及効から,あらゆる税務関係が自動的に相続開始時に遡って決まると即断できない。

遺言に「受益者が放棄した場合は信託を設定しない」とあるときは,その文言が信託設定の条件・失効事由をどう定めるか,既に効力を生じた信託の扱いをどう整理するかが問題となる。さらに,代替条項が指定する取得者と割合を確認する。代替条項により他の相続人が金銭を取得するなら,単に「信託をやめる」案でも,遺産全体の取得割合が変わり得る。

遺言本文に「受益権を放棄した場合は信託を設定せず,金銭を指定した者に取得させる」とある一方,遺言に組み込まれた別紙信託条項に「受益権放棄により信託が終了し,残余財産を指定した者に分配する」とある場合,両条項の整合性を検討しなければならない。前者は遺言者からの直接の代替取得を,後者は効力を生じた信託の終了と残余財産の取得を示す読み方があり,同じ取得者・割合であっても取得原因は同じとは限らない。本文と別紙の一体性,適用順序,信託の効力発生条件,放棄の意思表示の到達及び執行状況を確認する。このような併存条項に対する判断を,文言の一部又は送金の有無だけで確定しない。

第5 相続人全員の協議で変更する場合

遺言と異なる最初の相続人全員の協議を行う場合,預貯金,証券,不動産を財産別に特定し,信託に充てる予定の金銭と受益権の扱いも明記する。遺言執行者への指図だけで,既に生じた受益権や受託者との法律関係を変更したことにはならない。必要な受益者・受託者の意思表示や信託行為の変更・終了の可否を別途検討する。

国税庁No.4176は「特定の相続人に全部の遺産を与える」遺言と異なる全員協議の例であり,金銭信託の代替条項と受益権放棄が組み合わさる事例を直接判断していない。金融資産だけ遺言どおり執行して残りを協議する場合には,財産ごとの取得時点・取得原因・金銭の移動を追える資料を残す。

第6 相続税・贈与税の検討順序

相続税法9条の2第1項は,受益者等が適正な対価を負担せずに信託に関する権利を取得した場合,信託の効力が生じた時に,委託者から贈与又は遺贈により取得したものとみなす。受益者が後に放棄し,別の人が対価なしで利益を受けるなら,同条2項・3項・4項のどの場面に当たるかを調べる。国税庁の相続税法基本通達9の2-4は,一部の権利の放棄・消滅後に他の受益者等が取得したものとみなされる場合を説明する。国税庁の解説は全部放棄にも同様の課税関係が生じ得ると述べる一方,信託の終了事由にもなり得るとする。

遺言の代替条項によって遺言者から直接金銭を取得する場合は,その相続又は遺贈について相続税を検討する。一方,受益者等の存する信託が終了し,他の者が適正な対価を負担せずに残余財産を受けるべき又は帰属すべき者となる場合には,相続税法9条の2第4項により,終了直前の受益者等からの贈与とみなされることが問題となる。終了直前の受益者等であった取得者が,従前の信託に関する権利に相当する残余財産を取得する部分は除かれる。従前の受益者等の死亡に基因する終了の場合は,みなし遺贈となる。遺言者の死亡後に受益者が放棄したというだけで,その終了が受益者等の死亡に基因するものになるわけではない。

相続税法基本通達9の2-5は,同項の対象を,信託行為で指定された残余財産受益者等に限定していない。受益権を他の相続人へ譲渡する契約がなくても,信託終了と残余財産取得によるみなし贈与の問題は残る。信託法99条2項の民事上の遡及効と,税法上の取得時点・移転元の判定を同一視しない。ただし,遺言本文の不設定条項と別紙の終了条項が併存する場合に,どちらの取得原因として取り扱うべきかを直接判断した同一事実関係の裁決・判決は,本記事で確認できていない。上記の一般規定だけから個別事案の贈与税を確定しない。

第7 設例による整理

遺言者が金銭の一部を信託してAを受益者とし,「Aが受益権を放棄するときは信託を設定せず,その金銭をA・B・Cに所定割合で取得させる」と定めたとする。まずAが放棄しなければ,原則としてAの受益権と受託者の地位を確認する。Aが放棄する場合は,放棄の意思表示と到達,代替条項の発動,金銭の帰属を確認する。B・Cが金銭を取得するなら,Aが放棄したこととB・Cが無償で利益を得たことの税法上の関係も検討する。A・B・Cがその後に遺産全体の別の配分を協議する場合は,先の取得と後の協議を時系列で記録する。

例えば,本文が放棄時の金銭の直接取得を定め,別紙が放棄による信託終了と同じ割合の残余財産分配を定める設例では,まず双方の条項を対照して取得原因を確定する。直接の相続・遺贈と整理できる場合は相続税の検討となり,既に効力を生じた信託の終了と整理される場合は相続税法9条の2第4項を検討する。金銭額に分配割合を掛けただけで,各取得者の贈与税の課税価格が直ちに確定するわけではない。信託終了直前の受益者等,従前の権利に相当する部分の除外,財産評価及び取得時点を確認する。

第8 実務上の確認資料

確認する資料は,①遺言全文と変更遺言,②信託設定条項・放棄時の代替条項,遺言本文と別紙信託条項の対応表,停止条件・始期及び終了条項,③遺言執行者と受託者の就職・引受け・辞退資料,④受益権放棄書と受託者への到達記録,⑤信託口座と一般の遺産口座の移動記録,⑥全員協議書案,⑦相続税評価資料と申告書の取得者別内訳である。協議前の段階では,放棄や送金を先行させることで選択肢が変わらないかを確かめる。

第9 関連記事と出典

関連記事:清算型遺言の清算金から信託を設定する場合,遺言を一部執行し残りを遺産分割協議で変更する場合,遺言と異なる遺産分割協議はできるか。

法令:信託法3条,4条,5条,99条,163条,164条,182条。相続税法9条の2。
国税庁:相続税法基本通達9の2関係,同通達9の2関係の解説,信託終了時の課税に関する通達解説,タックスアンサーNo.4176。

特定財産承継遺言と異なる最初の相続人全員の協議――登記原因と課税関係(AI作成)

目次第1 検討の対象と結論1 「最初の協議」であることの意味2 本記事の資料上の限界第2 まず確認すべき判決・裁決1 最高裁平成3年4月19日判決――遺言による取得の時点2 さいたま地裁平成14年2月7日判決――最初の全員協議の民事上の効力3 最高裁平成22年12月16日判決――中間の権利移転を省略する登記の限界4 国税不服審判所の裁決――後のやり直しを「最初の協議」と混同しない第3 事例別にみた協議の位置付け1 特定財産承継遺言があり、執行・登記前に最初の全員協議をする場合2 全遺産を一人に取得させる遺言を、最初の分割で変更する場合3 一部の財産について遺言を執行し、残部だけを協議する場合4 遺言どおりの取得後、又は最初の分割後に変更する場合5 金銭信託の代替条項がある場合第4 登記原因の検討1 民事上の有効性と登記原因は別の確認事項である2 登記前に確認する資料第5 課税関係の検討1 真正な代償分割である場合2 別個の低額譲渡・贈与と評価される場合3 後の再分割・申告訂正の場合第6 実務上の確認順序1 合意前に作る資料第7 出典
第1 検討の対象と結論
1 「最初の協議」であることの意味

特定の財産を特定の相続人に「相続させる」と定めた遺言がある場合でも、相続開始後、相続人全員がその財産を別の相続人に取得させることについて最初に合意することがある。この合意を、有効な遺産分割として扱えるか、遺言によりいったん取得した相続人からの贈与・交換・譲渡として扱うべきかは、登記と税務の双方に影響する。
結論を先に述べると、「全員による最初の協議」という形式だけで登記原因や課税関係が一律に確定するわけではない。遺言の文言、対象財産の範囲、遺言執行の状況、全員の合意内容、対価の性質及び従前の申告・登記を分けて確認する必要がある。

2 本記事の資料上の限界

本記事で確認した裁判例・裁決には、特定財産承継遺言がある不動産について、最初の全員協議により別の相続人が代償金を支払って取得した事案の登記原因と相続税・贈与税・所得税のすべてを一体として確定したものはない。民事上の協議の効力を認めた判決を、直ちに税務又は登記の先例として扱うことはできない。
以下では、資料が直接判断した事項と、実務上検討すべき事項を区別する。

第2 まず確認すべき判決・裁決
1 最高裁平成3年4月19日判決――遺言による取得の時点

最高裁平成3年4月19日判決は、特定の遺産を特定の相続人に相続させる趣旨の遺言について、特段の事情がない限り、その遺産は被相続人の死亡時に直ちに当該相続人に承継されると判断した。後の協議を検討する出発点は、遺言によるこの権利移転である。
もっとも、この判決自体は、その後の相続人全員による最初の合意の効力、登記原因又は課税関係を判断したものではない。

2 さいたま地裁平成14年2月7日判決――最初の全員協議の民事上の効力

同判決の事案では、土地全部を一人の相続人に相続させる遺言があったが、相続人全員は、別の相続人に土地の74%、残る二人に各13%を帰属させる内容の協議をした。裁判所は、遺言が協議を禁じておらず、第三者の権利も害しないなどの事実関係の下で、協議の効力を認めた。判決は、その合意に贈与や交換を含む混合契約の性質があり得ることにも触れた上で、通常の遺産分割と同様に取り扱うことが適切と述べている。
これは当該協議の民事上の効力に関する判断である。登記申請の原因を一律に「遺産分割」とできることや、贈与税・譲渡所得税が生じないことまで判示したものではない。また、代償金を伴う事案の税務を判断したものでもない。

3 最高裁平成22年12月16日判決――中間の権利移転を省略する登記の限界

同判決は、贈与を受けた者が死亡して相続が生じた事案について、贈与と相続という中間の権利移転を飛ばし、最終取得者に「真正な登記名義の回復」を原因として直接移転登記をすることは認められないとした。
これは特定財産承継遺言と全員協議の事案ではない。したがって、同判決をそのまま当てはめることはできないが、実際に生じた権利移転と異なる登記原因を便宜的に選べないことを検討する資料となる。

4 国税不服審判所の裁決――後のやり直しを「最初の協議」と混同しない

平成17年12月15日裁決では、有効に成立した最初の遺産分割の後で、錯誤を理由に再分割したと主張された事案につき、贈与税の課税が維持された。平成23年12月6日裁決は、全財産を各2分の1とする遺言、相続税申告後の紛争及び遺留分をめぐる和解に関するもので、相続税法55条等の適用が争われた。
両裁決は「遺言と異なる最初の全員協議」そのものを判断したものではない。協議がいつ成立したのか、従前の申告・分割が何を前提にしていたかによって論点が変わることを示す資料である。

第3 事例別にみた協議の位置付け
1 特定財産承継遺言があり、執行・登記前に最初の全員協議をする場合

相続人全員の合意により遺言と異なる帰属を定める協議は、さいたま地裁判決のように民事上有効と評価され得る。ただし、遺言による死亡時の権利承継を踏まえると、合意の法的構成にはなお検討を要する。対象財産の取得者を変更した理由、他の遺産との調整、支払金の位置付け、第三者の権利及び遺言執行者の権限を確認すべきである。
協議書の表題を「遺産分割協議書」としたことだけで、登記及び税務の取扱いは決まらない。

2 全遺産を一人に取得させる遺言を、最初の分割で変更する場合

国税庁タックスアンサーNo.4176は、遺言で財産全部を一人の相続人に取得させることとされていたが、相続人全員の協議で遺言と異なる分割をした場合、取得財産について相続税の課税対象として扱い、相続人間の贈与税の問題は生じないと説明する。関連する質疑応答は、全財産の包括遺贈を題材にしている。
この説明を、特定の土地だけを取得させる遺言と、別途執行される預貯金等がある事案へ無条件に拡張することはできない。個別の遺言と協議の構造を示して税務上の確認を要する。

3 一部の財産について遺言を執行し、残部だけを協議する場合

預貯金等は遺言どおりに払い戻し、土地だけを別の相続人が金銭を支払って取得する場合、土地の移転を遺産全体の分割調整として説明できるかが問題となる。協議書に「代償金」と記載しただけでは、遺言に基づいて土地を承継した者からの別個の移転という評価を排除できない。

(続きを読む...)特定財産承継遺言と異なる最初の相続人全員の協議――登記原因と課税関係(AI作成)

被相続人の未納の国税は相続人がどう引き継ぐか―国税通則法5条の相続分による承継,遺産分割との関係,納付責任額,限定承認・相続放棄及び大阪国税局の承継マニュアル(AI作成)

目次第1 この記事の対象1 対象と基準日2 大阪国税局の「相続による納税義務の承継マニュアル」3 関連記事第2 相続人が引き継ぐ国税1 引き継ぐのは三種類の国税と滞納処分費2 誰が引き継ぐか第3 相続人が2人以上いるときの承継税額1 法定相続分・代襲相続分・指定相続分だけで按分する2 遺産分割は承継税額を変えない3 遺言による相続分の指定と遺留分第4 納付責任額1 相続で得た財産が承継税額より多い相続人の責任2 マニュアルの計算例3 他の相続人が納めた場合の納付責任4 相続税の連帯納付義務とは別の制度第5 限定承認・相続放棄・相続人不存在1 限定承認2 相続放棄3 相続人不存在・全員の相続放棄第6 相続財産に対する滞納処分1 単純承認をした相続人の固有財産2 遺産分割前の相続財産3 差押えの後の遺産分割第7 相続人の調査と通知1 国税側の相続人調査2 相続人への通知第8 マニュアルを読むときに注意する点1 令和3年7月以後の改正等2 表記の誤り等第9 相続人の側の実務の手順第10 出典1 法令2 通達3 裁判例4 公的資料第11 本記事で扱わない事項
第1 この記事の対象
1 対象と基準日

本記事は,被相続人が納めていなかった国税(所得税,消費税等)を相続人がどのように引き継ぐかについて,国税通則法5条の仕組み,相続人が2人以上いる場合の承継税額と納付責任額の計算,遺産分割・遺言との関係,限定承認・相続放棄・相続人不存在の場合の扱い及び相続財産への滞納処分を整理するものである。
令和8年10月1日時点で,国税通則法,国税徴収法,民法等の条文,国税庁の法令解釈通達,税務大学校の公表資料及び裁判例を確認して作成した。

2 大阪国税局の「相続による納税義務の承継マニュアル」

本記事の出発点は,大阪国税局徴収部徴収課が令和3年7月に作成した「相続による納税義務の承継マニュアル」である。
本ブログに掲載しているPDFは,表紙・凡例・目次を含めて46枚,本文の印字頁は1頁~42頁である。
第1章(相続の意義と効果),第2章(相続による納税義務の承継),第3章(具体的な相続人調査方法)及び第4章(納税義務の承継手続)から成り,徴収職員が滞納者の死亡を把握した後に相続人を調べ,承継税額と納付責任額を計算し,相続人に通知するまでの手順を説明している。

(1) 開示されていない部分

第3章の相続開始の事実の把握と相続人等の把握の手順(20頁~21頁),相続人等の調査の具体的な流れの一部(27頁~28頁),外国籍の被相続人の相続人調査フロー(18頁),被相続人について納税の猶予等を行っている場合等の取扱い(39頁)及び承継手続の具体的な流れ(42頁)等は黒塗りである。
本記事では,黒塗りの部分の内容を推測しない。

(2) 資料の性質

このマニュアルは国税局内部の事務の手引であり,法令解釈通達そのものではない。
本記事では,マニュアルの記載を国税通則法基本通達(徴収部関係)及び国税徴収法基本通達の現在の本文と照合し,食い違う点や令和3年7月以後の改正で読み替えが要る点を第8で挙げた。

3 関連記事

相続人のあることが明らかでない場合の税金は「相続財産清算人と税金―滞納国税の承継と差押え,清算人の報酬との優劣,準確定申告,固定資産税及び特別縁故者の相続税」で,限定承認をした場合のみなし譲渡所得等は「限定承認と税金――みなし譲渡,準確定申告,相続税及び住民税」で整理している。
被相続人の死亡年分の所得税の申告は「準確定申告-4か月の期限・必要書類・書き方・e-Taxと相続税」で,生前贈与と国税徴収法39条の第二次納税義務は「相続放棄と生前贈与スキームの限界」で扱っている。

第2 相続人が引き継ぐ国税
1 引き継ぐのは三種類の国税と滞納処分費

相続(包括遺贈を含む。)があった場合には,相続人(包括受遺者を含む。)又は民法951条の相続財産法人は,被相続人に課されるべき,又は被相続人が納付し,若しくは徴収されるべき国税(滞納処分費を含む。)を納める義務を承継する(国税通則法5条1項前段)。
相続税と違って財産を取得したことに課される税ではなく,被相続人が負っていた租税債務そのものを引き継ぐ制度である。
国税通則法基本通達(徴収部関係)は,三つの国税を次のように説明している(第5条関係4~6)。
①「課されるべき国税」は,相続開始の時において,被相続人について納付義務は成立しているが,納付すべき税額が確定していない国税である(例えば,死亡した年の所得税で申告がされていないもの)。
②「納付すべき国税」は,相続開始の時において,納付すべき税額が確定している国税である(例えば,申告済みで未納の所得税や,決定・更正を受けた税額)。
③「徴収されるべき国税」は,被相続人が源泉徴収義務者として徴収すべきであった源泉所得税等で,相続開始時までに徴収がされていないものである。

(1) 税務上の地位も引き継ぐ

承継によって,相続人は,被相続人の国税について申告,申請又は不服申立て等をする主体となり,税務署長がする更正・決定,納税の告知,督促,滞納処分及び還付の相手方となる(マニュアル14頁)。
被相続人に対して既にされていた納期限の延長,延納,納税の猶予,換価の猶予,滞納処分の停止,物納の許可,これらの申請及び担保の提供も,相続人はその状態のまま国税を承継する(国税通則法基本通達(徴収部関係)第5条関係7)。

(2) 被相続人が連帯納付義務者・第二次納税義務者であった場合

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相続人がいない遺産を国に引き継ぐ手続―最高裁家庭局長通知「国庫に帰属した相続財産の引継ぎについて」(昭和41年),引継ぎの時期と財務局への引継ぎ(AI作成)

目次第1 この記事の対象と資料1 この記事の対象2 資料の名称と入手の経緯第2 通知の内容1 家庭局長通知の本文2 別紙:大蔵省国有財産局長の要望3 要望の契機となった事案4 資料から分かることと分からないこと第3 当時の条文と現在の条文1 相続財産管理人から相続財産清算人へ2 公告の手続の変化第4 国庫に帰属する時期―最高裁昭和50年10月24日判決1 判決の内容2 事案3 実務上の意味第5 現在の引継ぎの手続1 不動産2 金銭3 共有持分4 引き継げない財産が残る場合第6 清算人と申立人が確認すべき事項1 清算人が引継ぎの前に確認すること2 申立人と関係者が知っておくこと第7 出典1 提供資料2 法令3 裁判例4 公的資料
第1 この記事の対象と資料
1 この記事の対象

本記事は,相続人のあることが明らかでない相続財産のうち,清算と特別縁故者への分与を経てなお残った財産を国に引き継ぐ手続について,昭和41年3月24日付けの最高裁判所家庭局長通知「国庫に帰属した相続財産の引継ぎについて」(家二第48号)を手掛かりに整理するものである。
通知の内容を紹介した上で,当時の条文と現在の条文の違い,国庫に帰属する時期についての最高裁判例,及び現在の引継ぎの手続を説明する。
令和8年10月6日時点のe-Gov法令検索,裁判所ウェブサイトの判例情報,法務省の不動産登記記録例,財務省の通達及び家庭裁判所の公開資料等を確認して作成した。

相続財産清算人の選任から国庫への引継ぎまでの手続の全体は「相続人がいない場合の相続財産清算人」で,不動産が国庫に帰属した後の管理と処分は「国庫帰属した不動産のその後」で,それぞれ整理している。

2 資料の名称と入手の経緯

本記事で扱う資料は,最高裁判所家庭局長が家庭裁判所長に宛てた昭和41年3月24日家二第48号の通知「国庫に帰属した相続財産の引継ぎについて」であり,大蔵省国有財産局長の昭和41年3月8日付け要望書(蔵国有第565号)が別紙として付いている。
この文書は,平成31年1月10日付けの司法行政文書の開示の申出に対し,最高裁判所が平成31年2月8日付けの司法行政文書開示通知書(最高裁秘書第532号)で開示したものである(開示文書のPDF)。

開示通知書によれば,開示された文書は片面で1枚であり,相続人が存在しない物件の所在,権利関係等の個人識別情報が記載された部分は,行政機関情報公開法5条1号に定める不開示情報に相当するとして開示されていない。
そのため,別紙の「物件の所在、区分、数量」と「経緯」の欄は全部が黒塗りであり,個別の事案の内容は分からない。
「系図」の項目も見出しだけで,内容は付いていない。

第2 通知の内容
1 家庭局長通知の本文

家庭局長通知の本文は,大蔵省国有財産局長から別紙のとおり要望があったとした上で,次のことを家庭裁判所長に求めている。
① 家庭裁判所が民法952条の相続財産管理人を選任したときは,管理人に対し,その職務内容をはじめ,清算手続,家庭裁判所の監督権限,特別縁故者への相続財産処分制度及び国庫帰属財産の引継手続などを説明すること
② 国庫に帰属した財産を速やかに所轄財務局長等に引き継がせるよう,周知徹底を図ること

通知は,選任の際に管理人へ説明する事項として,清算の手続だけでなく,特別縁故者への分与の制度と,国庫に帰属する財産の引継ぎの手続までを挙げている。
特別縁故者への分与の制度は,昭和37年法律第40号による民法の改正で設けられたものであり(最高裁平成元年11月24日第二小法廷判決の判決理由),この通知は,その改正から約4年後に出されたものである。
本記事では,新しい制度の運用が始まって間もない時期に,選任の段階で手続の終わりまでを管理人に説明させることで,引継ぎの遅れを防ごうとしたものと考えられる。

2 別紙:大蔵省国有財産局長の要望

別紙の要望書(蔵国有第565号)は,最高裁判所事務総局家庭局長に宛てたもので,「相続人不存在財産について」という表題である。
要望書は,相続人不存在財産(不動産)が国庫に帰属する場合には,相続財産管理人から当該財産の所在地を管轄する財務局長に引き継ぐことになっているとした上で,所要の手続をとって国庫に帰属させるべき財産を,管轄の財務局長に引き継がないで放置するおそれがあることを指摘している。
そして,相続人不存在財産が生じた場合には,遅滞なく所要の手続をとり,国庫に帰属することとなったものは,速やかに当該財産の所在地を管轄する財務局長等に引き継ぐ手続をとるよう,周知徹底を求めている。

大蔵省国有財産局は,昭和39年の大蔵省設置法の改正(昭和39年法律第105号)で管財局を改めて置かれた局であり,昭和43年の行政機構の簡素化等のための総理府設置法等の一部を改正する法律(昭和43年法律第99号)13条により大蔵省設置法5条1項から削られ,国有財産の管理及び処分に関する事務は理財局が所掌することになった。
現在,国有財産の事務を所管するのは財務省理財局である。

3 要望の契機となった事案

要望書は,その契機として,相続財産管理人が民法957条の公告及び民法958条の公告の請求を行わないで,南九州財務局長に売払申請書を提出してきた事案があったことを挙げている。
南九州財務局は熊本に置かれていた財務局であり,昭和56年4月1日に廃止され,同日に九州財務局が置かれた(財務省大臣官房地方課『財務省財務局七十年史』(令和元年6月)の歴代財務局幹部職員名簿)。

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遺言を一部執行し残りを遺産分割協議で変更する場合―代償金・税務・信託銀行報酬(AI作成)

目次第1 問題の所在と結論第2 最初に財産ごとに確認すること1 遺言による帰属と執行の対象2 遺言執行者の就職と契約上の範囲第3 協議の範囲と順序1 遺産全体について最初の協議をする場合2 金融資産を執行し,別の財産だけ協議する場合3 協議が成立しない場合4 遺言に金銭信託と放棄時の代替条項がある場合第4 代償金の性質と相続税1 真正な代償分割の場合2 評価方法による課税価格の違い第5 低額譲渡と評価される場合の税務第6 信託銀行報酬を含む三つの選択肢1 比較する三つの案2 報酬額と作業範囲を三列で照合する第7 協議書と税務申告に残す資料第8 関連記事第9 出典
第1 問題の所在と結論

遺言に預貯金・有価証券と不動産の取得者がそれぞれ指定されているとき,金融資産だけを遺言どおりに移し,不動産について相続人全員の協議で取得者を変更する案がある。この場合,金融資産を移した事実だけで不動産についての協議が無効になるわけではないが,「残りは未分割の遺産である」「代償金と書けば必ず相続税だけで済む」ともいえない。遺言の文言,遺産の帰属,遺言執行の進捗,協議の当事者と対象,金銭支払の実質を分けて確認する必要がある。

相続税について,国税庁の「No.4176 遺言書の内容と異なる遺産分割をした場合の相続税と贈与税」は,「特定の相続人に全部の遺産を与える旨の遺言」があり,相続人全員で異なる分割をした事例への回答である。複数の財産について取得者を定めた遺言の一部を執行し,別の財産だけについて協議する事例を直接扱っていない。この違いを踏まえずに贈与税の心配はないと断定すべきではない。

第2 最初に財産ごとに確認すること
1 遺言による帰属と執行の対象

まず,財産目録の各行について,①遺言のどの条項が取得者を定めるか,②遺言執行者は誰か,③実際に執行の対象となるか,④払戻し・名義変更・登記がどこまで進んだかを照合する。「その他一切の財産」などの残余財産条項も確認する。遺言の特定財産承継条項がある財産を,手続が済んでいないという理由だけで当然に未分割財産と扱うことはできない。

2 遺言執行者の就職と契約上の範囲

信託銀行が遺言で指定されていても,就職の有無,受任・辞退・辞任の段階,対象財産,すでに行った手続を確認する。銀行の一般的な案内でも,相続人と財産の状況を確認してから遺言執行者に就職し,調査対象は遺言執行対象財産に限ると説明されている(三菱UFJ信託銀行「お手続きの流れ」)。個別の遺言と契約の内容が優先するため,公開案内だけで当該銀行の義務や報酬を決めることはできない。

第3 協議の範囲と順序
1 遺産全体について最初の協議をする場合

相続人全員と必要な受遺者が,遺言と異なる取得関係を遺産全体について合意できる見込みがあるなら,執行前に協議書をまとめる方法がある。各財産の最終取得者,代償金,支払期限,費用負担,遺言執行者への連絡を一通の協議書と別紙財産一覧で示しやすい。ただし,遺言執行者が就職済みの場合はその権限との関係を先に整理し,銀行の辞退・辞任に要する条件と費用も確認する。

2 金融資産を執行し,別の財産だけ協議する場合

協議の対象を一部の財産に限ること自体は検討できるが,「遺言による金融資産の取得」と「別の財産の協議による取得」を時系列で説明できるようにする必要がある。協議書には対象財産と対象外財産を具体的に分け,先行する執行,遺言による取得,代償金の趣旨,残余財産の扱いを明記する。遺言で特定の人への帰属が既に定められている財産については,協議の名称だけで相続税上の取得原因まで確定するわけではない。

3 協議が成立しない場合

全員の合意が得られなければ,遺言の内容と遺言執行者の権限を基礎に手続を進めることになる。成立するか不明の段階で,協議が成立したことを前提に金融機関への指図,代償金の送金,登記を先行させるべきではない。法定の申告・登記の期限がある場合は,合意待ちと期限対応を別に管理する。

4 遺言に金銭信託と放棄時の代替条項がある場合

遺言に金融資産の取得者を指定するだけでなく,その一部から金銭信託を設定し,受益者が受益権を放棄したときの代替取得者まで定めている場合は,銀行の遺言執行サービスと信託法上の信託を分けて扱う。銀行に遺言執行を依頼しないだけでは,信託設定条項や代替条項は消えない。遺言による信託は遺言の効力発生により効力を生ずる(信託法4条2項)。受益権放棄は,受益者が信託行為の当事者である場合を除き,受託者への意思表示による(同法99条)。放棄時に別の相続人が金銭を取得する遺言なら,その者の金融資産の取得額も変わり得る。

受益権放棄後の課税は,遺言の代替条項に基づく被相続人からの取得か,成立後の信託に関する権利の移転かを検討する。相続税法9条の2及び国税庁の基本通達9の2関係を確認し,遺言全文,放棄の記録,銀行・受託者の地位,実際の金銭移動を税理士に示す。詳しくは遺言による金銭信託の受益権を放棄した場合を参照。

第4 代償金の性質と相続税
1 真正な代償分割の場合

国税庁の「No.4173 代償分割が行われた場合の相続税の課税価格の計算」は,現物を取得した人が他の共同相続人等に債務を負担する代償分割について,支払者の課税価格から代償財産の価額を控除し,受取者の課税価格に加算する取扱いを示す。代償金を支払者の固有の現金から出すこと自体は,この説明と矛盾しない。ただし,固有の現金で支払えば必ず代償分割になる,という意味ではない。代償金を支払うこと自体が贈与税を生じさせるわけでもない。代償金のない合意と代償金のある合意で,取得原因の判断を機械的に逆転させない。

民事上の代償金は,具体的相続分と現物取得額の差額と機械的に一致しなければならないものではない。寄与分・特別受益,評価の違い,紛争解決のための譲歩などを踏まえて合意する余地がある。一方,金額を自由に合意できるという民事上の問題と,その金銭が税務上も相続に伴う代償債務と認められるかという問題は別である。協議前に遺言で定められた帰属,遺産全体の取得額,評価資料,金額の算定経緯を確認する必要がある。

2 評価方法による課税価格の違い

代償金が対象財産の分割時の通常の取引価額を基に決められた場合,相続税の課税価格に算入する代償財産の額は,単純な支払額と異なり得る。国税庁No.4173は,相続開始時の相続税評価額と分割時の通常取引価額との割合を用いる例を示している。協議書には,時価,評価基準日,評価根拠,代償金の算定方法を残し,申告書との整合を税理士と確認する。

第5 低額譲渡と評価される場合の税務

遺言で特定の人が財産を取得した後,別の人に金銭と引換えに移したと評価されれば,後の移転は真正な代償分割と異なる課税関係になり得る。国税庁の「No.4423 個人から著しく低い価額で財産を譲り受けたとき」によれば,個人間で財産を著しく低い価額で譲り受けた場合,時価と対価との差額は贈与により取得したものとみなされる。判定は個々の事案による。法人向けの「時価の2分の1未満」という基準を,個人間取引の一律の安全基準にすることはできない。

土地については通常の取引価額がこの検討の出発点になる。ただし,見積もった時価から代償金を差し引いた全額が直ちに課税される,と計算することもできない。まず取得原因が相続に伴う分割なのか,遺言による取得後の有償移転なのかを検討し,土地の権利関係と評価の妥当性,遺産全体の配分と他の負担,金銭の実際の授受を調べる必要がある。有償移転と整理される場合には,譲渡した側の所得税・住民税の検討も別途必要となる。

第6 信託銀行報酬を含む三つの選択肢
1 比較する三つの案

①銀行が対象の金融資産について遺言を執行し,別財産は関係者が協議する案,②執行前に遺産全体について協議し,銀行の就職や対象変更を調整する案,③協議が不成立なら遺言どおり執行する案を並べる。①には金融機関との手続を任せる便益がある一方,協議書・登記・税務申告は別の担当者と費用が必要になり得る。②は法律関係を一通の協議書と一覧表で示しやすいが,全員の合意が前提である。③は合意不成立時の現実的な経路として残る。

2 報酬額と作業範囲を三列で照合する

報酬を比較するときは,①報酬計算の基礎に入る財産,②銀行が実際に執行する財産,③相続人・他の専門家に残る仕事と費用を分けて確認する。銀行が金融資産だけを扱うことが,直ちに不合理とはいえない。口座数や証券の種類,換価・送金の負担,銀行の専門性,合意成立の見込みによって便益が変わる。一方,高額の報酬に見合う作業がどこまで含まれるかは,個別契約で確かめなければならない。

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節税目的の養子縁組は無効か―最高裁平成29年1月31日判決と相続税上の養子数制限(AI作成)

目次

第1 本記事の対象と結論第2 最高裁平成29年1月31日判決1 民法802条1号2 最高裁の判断3 動機と法律行為の意思を分ける第3 養子縁組の民法上の効果第4 相続税上の養子数制限1 民法上の相続人と相続税計算上の人数は同じとは限らない2 実子として扱われる養子がある3 相続税法63条による否認第5 孫養子と相続税額の2割加算第6 縁組意思をめぐる主張立証1 証拠化する事項2 意思能力と縁組意思は別に検討する第7 相続対策として検討する際の注意第8 出典・参考資料
第1 本記事の対象と結論

本記事は,相続税の節税を主な目的として行われた養子縁組が民法上無効となるかを,最高裁平成29年1月31日第三小法廷判決(平成28年(受)第1255号),現行民法及び相続税法から整理するものである。
法令及び国税庁資料の基準日は令和8年10月1日である。

最高裁は,節税の動機と縁組意思は併存し得るため,専ら相続税の節税目的で養子縁組をしたというだけで,直ちに民法802条1号の「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとはいえないとした。

もっとも,民法上の縁組が有効であることと,相続税計算で養子をどの範囲まで法定相続人の数に算入できるかは別問題である。
税務上は養子数の制限,相続税額の2割加算及び相続税法63条による否認可能性を分けて確認する必要がある。

第2 最高裁平成29年1月31日判決

1 民法802条1号

民法802条1号は,人違いその他の事由によって当事者間に縁組をする意思がないとき,養子縁組を無効とする。
問題は,節税を目的とすることが,親子関係を作る意思と両立するかである。

2 最高裁の判断

最高裁は,養子縁組をすることによる相続税の節税効果を発生させることを動機として縁組をする場合でも,直ちに縁組意思がないとはいえず,節税の動機と縁組意思は併存し得るとした。
そして,専ら相続税の節税目的で縁組をしたというだけで,直ちに民法802条1号の無効事由に当たるとはいえないと判断した。

本判決は,「節税目的の養子縁組は常に有効」と判示したものではない。
個別の事実から当事者間に縁組意思がなかったと認められる場合は,同号による無効が問題となり得る。

3 動機と法律行為の意思を分ける

相続税額を下げたいという動機があっても,当事者が法律上の親子関係を成立させる意思を有していれば,両者は併存し得る。
逆に,届出の外形があり税務資料が作成されていても,当事者が親子関係を作る意思を欠いていたと立証されれば,縁組無効の余地は残る。

したがって,訴訟では「節税目的だったか」だけでなく,「届出時に法律上の親子関係を成立させる意思があったか」を,直接・間接事実から検討する。

第3 養子縁組の民法上の効果

民法809条は,養子が縁組の日から養親の嫡出子の身分を取得すると定める。
そのため,普通養子は原則として養親の子として相続人となり,実親との親族関係も原則として残る。

養子縁組の有効性を検討するときは,縁組意思だけでなく,年齢,配偶者の同意,未成年者を養子とする場合の家庭裁判所の許可その他の成立要件を個別に確認する。
本判決は,これら他の要件を不要とするものではない。

第4 相続税上の養子数制限

1 民法上の相続人と相続税計算上の人数は同じとは限らない

相続税法15条2項は,遺産に係る基礎控除などの計算に用いる「相続人の数」について,一定の普通養子を算入できる人数を制限している。
国税庁の説明によれば,被相続人に実子がいる場合は1人まで,実子がいない場合は2人までが原則である。

この制限は,人数を超える養子縁組を民法上無効にする制度ではない。
養子が民法上の相続人であることと,相続税の基礎控除,生命保険金・死亡退職金の非課税限度額及び相続税総額の計算で何人を算入するかを分ける必要がある。

2 実子として扱われる養子がある

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共同相続人間の無償の相続分譲渡と特別受益―相続放棄との違い,債務を含む評価及び遺留分(AI作成)

目次

第1 結論
第2 相続分譲渡と相続放棄は異なる
第3 最高裁平成30年10月19日判決
第4 債務を含む相続分の評価
第5 譲渡人の相続における特別受益
第6 旧法の遺留分減殺と現行法の遺留分侵害額請求
第7 証拠収集と主張の組立て
第8 実務チェックリスト
第9 出典と確認範囲

共同相続人間で相続分を無償譲渡した場合,「最初の相続の遺産分割から抜けただけ」と考えると,後に生じる譲渡人の相続で特別受益を見落とすことがあります。最高裁平成30年10月19日判決は,相続分が積極財産と消極財産を包括することを前提に,財産的価値がない場合を除き,無償譲渡を民法903条1項の贈与として扱いました。

第1 結論

共同相続人の一人が他の共同相続人へ相続分を無償で譲渡したときは,次の二つの相続を分けて検討します。

最初の相続では,譲受人が譲渡人の相続分を取得し,遺産分割に参加します。
譲渡人が後に死亡したときは,譲受人が譲渡人の相続人である場合,無償譲渡の財産的価値が特別受益として持戻しの対象になるかを検討します。

相続放棄とは効果も手続も異なります。評価に当たっては最初の相続の不動産・預貯金だけでなく,債務その他の消極財産も確認し,「額面上の相続分割合」をそのまま贈与額にしません。

第2 相続分譲渡と相続放棄は異なる

相続分譲渡は,共同相続人が遺産全体に対して有する包括的な持分を他人へ移す行為です。遺産分割前に,共同相続人間で行われることも,第三者に対して行われることもあります。

これに対し,相続放棄は,家庭裁判所への申述によって初めから相続人でなかったものと扱われる制度です。原則として自己のために相続開始があったことを知った時から3か月以内という熟慮期間があり,単なる合意書への署名では足りません。

「私は遺産を要らない」との家族内合意が,相続放棄,相続分譲渡,遺産分割で取得をゼロとする合意のどれに当たるのかを,書面の題名だけでなく,作成時期,家庭裁判所の受理の有無,対価及び当事者の行動から確定します。

第3 最高裁平成30年10月19日判決

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養子縁組無効確認の訴えの利益―包括受遺者・相続人と最高裁平成31年3月5日判決(AI作成)

目次

第1 結論第2 養子縁組無効確認の訴えの入口1 無効事由と訴えの利益は別問題である2 判例が用いる基準第3 最高裁平成31年3月5日判決1 事案と原審の判断2 最高裁の判断3 民法990条との関係第4 包括受遺者・相続人・親族の区別1 包括受遺者2 相続人たる地位3 親族であることだけでも足りない第5 財産紛争との手続の切り分け第6 受任時の確認順序第7 本判決を使うときの注意第8 出典と確認状況1 一次資料2 専門誌目次で所在を確認した資料3 判例秘書
第1 結論

養子縁組無効確認の訴えを提起できるかは,その人が養子縁組の無効によって自己の身分関係上の地位に直接影響を受けるかで判断する。相続財産全部の包括受遺者であり,養子から遺留分請求を受ける可能性があるという財産上の利害だけでは,訴えの利益は直ちに認められない。

最高裁平成31年3月5日第三小法廷判決は,包括受遺者が常に養子縁組無効確認の訴えを提起できないとしたものではない。「包括受遺者である」という事実だけでは足りず,別に身分関係上の地位への直接影響があるかを検討すべきであるとした判決である。

第2 養子縁組無効確認の訴えの入口

1 無効事由と訴えの利益は別問題である

民法802条は,当事者間に縁組をする意思がないときなどを養子縁組の無効事由として定める。しかし,養子縁組に無効事由があるかという本案の問題と,ある第三者がその無効確認を求められるかという訴えの利益の問題は別である。

無効の主張が実体的に正しくても,原告が身分関係上の地位に直接影響を受けないなら,養子縁組無効確認の訴えは不適法となり得る。そのため,証拠収集より前に原告適格・訴えの利益を点検する必要がある。

2 判例が用いる基準

最高裁平成31年3月5日第三小法廷判決(平成30年(受)第1197号)は,最高裁昭和63年3月1日第三小法廷判決(昭和59年(オ)第236号,民集42巻3号157頁)を参照し,養子縁組が無効であることにより自己の身分関係に関する地位に直接影響を受けない者は,訴えにつき法律上の利益を有しないとした。

この基準では,原告が縁組当事者の財産に経済的利害を有するかだけでなく,養子縁組の存在又は不存在が原告自身の親族関係,相続人たる地位その他の身分関係を直接変えるかを確認する。

第3 最高裁平成31年3月5日判決

1 事案と原審の判断

原告は,養親の相続財産全部の包括遺贈を受けた者であった。原審は,原告が養子から遺留分減殺請求を受け得ることなどから,養親の相続に関する法的地位を有し,養子縁組無効確認の訴えの利益があるとした。

2 最高裁の判断

最高裁は,遺贈は遺言によって受遺者に財産権を与える意思表示であり,包括受遺者が養子から遺留分減殺請求を受けるとしても,養子縁組の無効によって影響を受けるのは財産上の権利義務にすぎないとした。

原告は養親との親族関係がなく,養子の側とも義兄という2親等の姻族関係があるにすぎなかった。そのため,養子縁組の無効により自己の身分関係上の地位に直接影響を受けず,訴えの利益を有しないと判断した。最高裁は原判決を破棄し,訴えを却下した第1審判決を維持する自判をした。

3 民法990条との関係

民法990条は,包括受遺者が相続人と同一の権利義務を有すると定める。しかし,同条により包括受遺者が相続財産に関して相続人に近い地位を持つことと,身分訴訟の訴えの利益を有することは同じではない。

包括受遺者という財産法上の地位を,身分関係上の地位と読み替えないことが本判決の要点である。

第4 包括受遺者・相続人・親族の区別

(続きを読む...)養子縁組無効確認の訴えの利益―包括受遺者・相続人と最高裁平成31年3月5日判決(AI作成)

無権代理人が本人を共同相続した場合―追認権,相続分と信義則(最高裁平成5年1月21日判決)(AI作成)

目次第1 結論第2 最高裁平成5年1月21日判決の事案第3 無権代理と追認の基本第4 無権代理人が本人を共同相続した場合第5 単独相続の場合との違い第6 当事者別の主張立証1 相手方・債権者側2 無権代理人以外の共同相続人側3 無権代理人側第7 保証・担保設定・売買での実務チェック第8 反対意見と判決の読み方第9 関連記事第10 出典と確認状況

無権代理人が本人を他の相続人と共同相続したとき,無権代理人の相続分だけ契約が当然に有効になるのか,追認権は誰が行使するのかを,最高裁平成5年1月21日第一小法廷判決の全文に基づいて整理する。法令は令和8年10月1日現在の民法を前提とする。

第1 結論

① 無権代理人が本人を他の相続人と共同相続した場合,追認権は,その性質上,共同相続人全員に不可分的に帰属する。
② 共同相続人全員が共同して追認しない限り,無権代理行為は本人との関係で有効にならない。
③ 無権代理人が承継した相続分に相当する部分だけが,何らの追認もなく当然に有効になるものでもない。
④ ただし,無権代理人以外の共同相続人全員が追認した場合に,無権代理人だけが追認を拒むことは,信義則上許されないことがある。
⑤ したがって,「無権代理人も相続人になった」という一事だけで債務の一部を認めたり否定したりせず,共同相続人の範囲,各人の追認・追認拒絶の意思表示,その時期及び信義則を基礎付ける事実を分けて確認する必要がある。

第2 最高裁平成5年1月21日判決の事案

本人の子は,本人から代理権を与えられていないのに,預かっていた本人の実印を用い,本人名義で850万円の貸金債務を連帯保証する契約を締結した。本人はその後死亡し,妻と無権代理人である子が各2分の1の割合で共同相続した。

原審は,無権代理人が相続した本人の地位の限度では,本人が自ら契約したのと同様の効果が生じるとして,無権代理人に請求額の2分の1を支払うよう命じた。

最高裁はこの判断を破棄し,請求を棄却した。共同相続人全員による追認の主張立証がない以上,無権代理人の2分の1の相続分に相当する部分についても,連帯保証契約が当然に有効になったとはいえないとしたためである。

第3 無権代理と追認の基本

民法113条1項は,代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は,本人が追認をしなければ本人に対して効力を生じないと定める。追認は,相手方に対してしなければ,相手方が追認の事実を知ったときを除き,相手方に対抗することができない(同条2項)。

相手方は,本人に対し,相当の期間を定めて追認するかどうかを確答するよう催告でき,期間内に確答がなければ追認を拒絶したものとみなされる(民法114条)。本人が追認しない間,相手方は,契約時に無権代理であることを知っていた場合を除き,契約を取り消すことができる(同法115条)。

無権代理人は,代理権を証明し,又は本人の追認を得た場合を除き,相手方の選択に従い,履行又は損害賠償の責任を負う(民法117条1項)。もっとも,相手方の悪意・過失や無権代理人の行為能力について同条2項の例外がある。本人に対する契約上の請求と無権代理人に対する117条の請求は,根拠と要件を分けて検討する必要がある。

第4 無権代理人が本人を共同相続した場合

最高裁は,追認には,本人に対して効力を生じていなかった法律行為を,本人との関係で有効にする効果があることを出発点とした。そのため,共同相続が生じたときの追認権は,相続分に応じて分割される金銭債権のようなものではなく,共同相続人全員に不可分的に帰属するとした。

この不可分性から,次の順序で結論が導かれる。

本人が死亡し,追認権を複数の相続人が承継する。
共同相続人全員が共同して追認権を行使しない限り,無権代理行為は有効にならない。
無権代理人が共同相続人の一人であっても,その相続分だけが当然に有効になるわけではない。
他の共同相続人全員が追認した場合には,無権代理人だけの追認拒絶が信義則に反しないかを検討する。

連帯保証債務が相続により法定相続分に応じて承継され得ることと,追認前の無権代理行為が相続分の限度で当然に有効になるかは別問題である。まず契約が本人との関係で有効になったかを確定し,その後に相続による債務承継を検討する。

第5 単独相続の場合との違い

無権代理人が本人を単独相続した場合については,最高裁昭和40年6月18日第二小法廷判決(民集19巻4号986頁)が,本人が自ら法律行為をしたのと同様の法律上の地位を生じるとした。

共同相続の場合には,無権代理人以外の相続人が本人の保護のための追認権を承継している。無権代理人の事情だけで契約の一部を有効とすると,他の相続人の追認権を害するため,平成5年判決は単独相続の法理をそのまま相続分ごとに分割して適用しなかった。

したがって,相続関係の調査では,戸籍により法定相続人を確定するだけでなく,相続放棄,相続分の譲渡,遺産分割,数次相続及び遺言の有無を確認し,追認時点で追認権を有する者を確定する必要がある。

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死亡直前の生命保険金受取人変更は有効か―意思能力,本人確認,変更請求書,保険会社の記録及び立証方法(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論第2 受取人変更の法律上の要件1 生命保険契約2 保険者への通知と到達時期3 被保険者の同意4 古い契約と約款第3 意思能力と署名の真正は別の争点である第4 保険会社から収集する資料第5 医療・介護記録と関係者の供述第6 変更前後の経過を一つの時系列にする第7 争う側・有効性を主張する側の進め方第8 遺言による変更及び特別受益との区別第9 出典・参考資料

死亡直前に生命保険金受取人が変更されている場合,変更後の受取人が保険金を受け取ったという結果だけで有効性を判断することはできない。契約者による変更の意思表示,保険者への通知,被保険者の同意,意思能力及び署名・手続の真正を分け,変更請求書,受付記録,通話録音,本人確認資料,担当者記録及び診療録を時間順に照合する必要がある。

第1 この記事の対象と結論

本記事は,保険契約者が生前に生命保険金受取人を変更したとされる場面を扱う。遺言による受取人変更は別の要件があるため,第8で区別する。

主な検討順序は,次のとおりである。

契約日,保険種類,契約者,被保険者,変更前後の受取人及び約款を確定する。
誰が,いつ,どの方法で変更の意思表示をしたかを確定する。
保険者へ通知が到達した日時と,死亡等の保険事故の日時を比較する。
被保険者の同意が必要な契約では,その有無と時期を確認する。
変更時の意思能力と,署名・押印・オンライン操作を本人が行ったかを別々に検討する。

保険会社所定の書式や本人確認手続を経ていることは有効性を支える重要な事情になり得るが,それだけで意思能力又は本人性に関する反対証拠が排除されるわけではない。他方,死亡直前という時期だけで直ちに無効になるものでもない。

第2 受取人変更の法律上の要件
1 生命保険契約

保険法43条1項は,保険契約者は保険事故が発生するまでは保険金受取人を変更できると定める。同条2項によれば,受取人変更は保険者に対する意思表示によってする。ただし,契約上の権利関係は契約日,保険種類,約款及び特約によって確認する必要がある。

2 保険者への通知と到達時期

保険法43条3項は,受取人変更の意思表示が保険者に到達した場合,その通知を発した時に遡って効力を生ずるとする。ただし,その到達前に保険者が変更前の受取人へ保険給付をしたときは,その給付の効力を妨げない。

したがって,変更請求書の日付だけでなく,投函又は送信の日時,保険会社の受付日時,審査完了日,変更通知の発送日及び被保険者の死亡日時を分けて確認する。電話で問い合わせただけなのか,変更の意思表示として受け付けられたのかも記録から判断する。

3 被保険者の同意

保険法45条は,他人を被保険者とする死亡保険契約において保険金受取人を変更する場合,原則として被保険者の同意を要求する。契約者と被保険者が同一人か,別人かを先に確認し,同意書,電話確認又はオンライン記録の有無を調べる。

4 古い契約と約款

保険法は平成22年4月1日に施行された。施行前に締結された契約については,経過措置,旧商法及び約款が問題となることがある。現在の保険法の条文だけで処理せず,契約締結時と変更時の約款を取り寄せる。

第3 意思能力と署名の真正は別の争点である

民法3条の2は,法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは,その法律行為は無効とすると定める。受取人変更でも,変更の意味と結果を理解して判断できたかが問題となる。

意思能力の有無と,変更請求書等を本人が作成又は承認したかは別の争点である。本人に判断能力があっても第三者が無断で署名した可能性はあり,反対に,身体が不自由で代筆を用いたことだけで本人の意思が否定されるわけでもない。次の事項を分けて整理する。

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賃貸アパートの所有者が死亡した直後の相続実務―家賃,管理会社,敷金,火災保険,修繕及び税務(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論第2 最初に確認する権利関係1 遺言書,登記及び相続人を確認する2 遺言執行者の有無と権限を確認する第3 死亡後の家賃は誰に帰属するか1 遺産分割前の賃料債権2 遺言で取得者が定まっている場合3 管理口座と精算表を分ける第4 管理会社及び入居者への連絡第5 敷金,修繕及び賃貸借契約1 敷金返還債務2 必要な修繕と大きな方針変更3 新規契約,更新及び解約第6 火災保険その他の継続契約

1 契約の存続と支払方法を分ける
2 賃貸物件に付随する契約と貸与設備

第7 所得税及び相続税1 準確定申告2 死亡後の不動産所得3 相続税申告第8 実務上の進め方第9 出典・参考資料

賃貸アパートの所有者が死亡した直後は,所有権の承継だけでなく,毎月発生する家賃,管理会社との委託関係,入居者から預かった敷金,修繕,火災保険及び税務を止めずに処理する必要がある。本記事は,相続開始直後から遺産分割又は遺言執行が落ち着くまでに確認すべき事項を,民法,最高裁判例,国税庁及び保険会社の公表資料に基づいて整理する。

第1 この記事の対象と結論

最初にすべきことは,管理会社へ一人の相続人を新所有者として届け出ることではない。①遺言書の有無と内容,②法定相続人,③土地・建物の登記,④賃貸借契約及び管理委託契約,⑤家賃の入金口座,⑥敷金台帳,⑦借入金,⑧火災保険,⑨遺言執行者の指定及び就職の有無を確認する必要がある。

権利関係が確定するまでの間も,入居者の安全確保,漏水等の緊急修繕,家賃の受領及び帳簿の保存は必要である。そこで,相続人間で暫定的な管理担当者,入金口座,支出の範囲及び報告方法を文書で定め,所有権の帰属,収益の帰属及び管理実務を混同しないことが重要である。

第2 最初に確認する権利関係
1 遺言書,登記及び相続人を確認する

民法896条によれば,相続人は,相続開始の時から,被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。共同相続の場合,相続財産は相続人の共有に属する(民法898条)。もっとも,特定の不動産を特定の相続人に相続させる遺言,遺贈又は遺産分割方法の指定がある場合には,法定相続分だけを前提に管理を始めることはできない。

登記事項証明書だけでは,相続開始後の実体上の帰属まで分からない。遺言書,戸籍,固定資産課税資料,売買契約書,借地契約書,金融機関の担保資料及び遺産分割協議の有無を合わせて確認する。土地と建物の承継先が異なる可能性があるときは,建物所有者が土地を使用する根拠と条件も別に確認する。

2 遺言執行者の有無と権限を確認する

遺言執行者が指定されていても,指定された者が就職を承諾して任務を開始したかは別に確認する。遺言執行者の権限は,遺言の内容と対象財産の範囲によって決まる。遺言執行者であることだけから,遺言の対象外の賃貸物件について恒常的な管理,賃貸借の更新又は売却を当然に行えるとは限らない。

相続人が管理する場合も,遺言執行者が管理する場合も,管理会社に対しては,戸籍又は法定相続情報一覧図,遺言書,遺言執行者の就職通知,登記事項証明書等のうち何を提出したかを記録し,誰がどの権限で指示を出しているかを明確にする。

第3 死亡後の家賃は誰に帰属するか
1 遺産分割前の賃料債権

最高裁判所第一小法廷平成17年9月8日判決は,遺産である賃貸不動産から相続開始後に生じた賃料債権は遺産とは別個の財産であり,各共同相続人が相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得し,後の遺産分割の影響を受けないとした。

したがって,遺言等によって取得者が定まっていない未分割の賃貸不動産について,一人の相続人が管理上まとめて家賃を受領しても,その全額がその相続人の固有収入になるわけではない。後日の精算に備え,月別・物件別に収入,管理料,修繕費,固定資産税その他の支出を記録する必要がある。

2 遺言で取得者が定まっている場合

特定財産承継遺言等により相続開始時から不動産の取得者が定まる場合は,前記判決が扱った未分割共有の事案と同じ処理になるとは限らない。遺言の文言,遺留分侵害額請求の有無,登記及び賃貸借契約上の地位を確認した上で,死亡後の家賃の帰属を判断する。

3 管理口座と精算表を分ける

実務上,一つの口座で家賃を受領すること自体はあり得るが,管理の便宜と最終的な権利帰属は別である。被相続人の死亡後に凍結される可能性がある口座へ入金を続けるのか,新たな管理口座を用いるのかを金融機関及び管理会社と確認し,口座変更の通知,入金開始月及び入居者ごとの未収額を保存する。

第4 管理会社及び入居者への連絡

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相続した株式を遺言執行者が売却した場合の税金―法定相続分による申告と確定申告の方法(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 この記事の対象2 結論3 最初に確認する順序第2 誰が譲渡所得を申告するか1 国税庁が法定相続分による申告とした事例2 法定相続分が常に結論となるわけではないこと3 遺言執行者本人の所得にはならないこと4 売却後に疑問が生じた場合第3 各相続人の譲渡所得の計算1 基本式と按分2 取得費は相続税評価額ではないこと3 相続税の取得費加算は各人ごとに計算すること4 上場株式等と一般株式等を分けること5 税率第4 遺言執行者が作成・交付する資料1 共通計算書2 各人に渡す資料3 売却代金の分配と所得税第5 各相続人による確定申告の具体的方法1 申告前の準備2 確定申告書等作成コーナー又はe-Taxを利用する場合3 書面で提出する場合4 申告期限と納付第6 計算例1 法定相続分で申告する例2 分配割合と申告割合が異なる可能性第7 特に注意を要する場合1 特定口座と源泉徴収2 NISA口座の株式3 譲渡損失4 相続した非上場株式を発行会社へ売る場合5 限定承認,国外居住者及び外国証券第8 関連する記事1 遺言執行者による換価実務2 換金指定のある遺言と現物取得第9 出典1 法令2 国税庁の質疑応答・解説・手引き3 研究資料
第1 この記事の対象と結論
1 この記事の対象

本記事は,被相続人が所有していた株式を遺言執行者が売却し,その代金を相続人又は受遺者に分配する場面を対象とする。
遺言執行者が売却名義人であるため遺言執行者が一括して申告するのか,各相続人が法定相続分で申告するのか,遺言で定めた分配割合によるのかが問題となる。

2 結論

国税庁の質疑応答事例には,遺言執行者が遺産である不動産及び有価証券を換価した事案について,譲渡所得は法定相続分に応じて各相続人が申告するとしたものがある。
したがって,当該事例と同様に,売却時まで株式が共同相続人に帰属し,遺言執行者の処分の効果が相続人に直接生ずると整理できる事案では,各相続人が法定相続分に応じて確定申告するのが基本となる。遺言執行者が遺言執行者名義で一括申告するものではない。
もっとも,この結論は遺言執行者が売却したという一点だけから常に導かれるものではない。遺言が特定の者に換価代金のみを遺贈する趣旨か,包括遺贈か,相続分又は遺産分割方法を指定したものかによって,売却時の権利帰属と所得の帰属が異なり得る。

3 最初に確認する順序

①遺言の全文と遺言執行者の権限,②売却時に株式が誰に帰属していたか,③譲渡所得の申告者と割合,④各人に配分する売却代金・取得費・売却費用,⑤各人固有の取得費加算・損益通算等の順に確認する。
分配割合をそのまま申告割合と考えたり,相続税評価額を取得費と考えたりすると誤りやすい。

第2 誰が譲渡所得を申告するか
1 国税庁が法定相続分による申告とした事例

国税庁「遺言に基づき遺産の換価代金で特定公益信託を設定した場合の相続税及び譲渡所得の課税関係」は,遺言執行者が遺産である不動産及び有価証券を売却した事例について,遺産の換価処分は遺言執行者の職務として行われ,その権限内の行為は相続人に直接効力を生ずることを理由に,「法定相続分に応じて各相続人が申告する必要があります」と回答している。
この事例に従う場合,各相続人は自分の法定相続分だけを自分の確定申告書に計上する。遺言執行者は,各人が同じ基礎資料に基づいて申告できるように,共通の計算書と証拠資料を交付する。

2 法定相続分が常に結論となるわけではないこと

前記の国税庁ページは,照会された事実関係を前提とする一般的な回答であり,具体的な取引では異なる課税関係が生ずることがあると明記している。
小柳誠「換価遺言が行われた場合の課税関係について」(税務大学校論叢85号)は,換価遺言を一律に捉えず,不特定物である金銭の遺贈,包括遺贈又は相続分・遺産分割方法の指定のいずれと解するかを検討する必要があるとする。そして,金銭の遺贈と解される類型では,受遺者を譲渡所得の納税義務者とする見解を示している。
これは税務大学校の研究論文であり,前記の質疑応答事例と同じ位置付けの公式回答ではない。しかし,遺言の型によって納税義務者の検討が変わることを示す重要な資料である。

3 遺言執行者本人の所得にはならないこと

遺言執行者は,遺言の内容を実現するために株式を管理・処分する者であり,売却代金を自分のために取得する者ではない。
したがって,遺言執行者が注文を出し,売却代金を遺言執行者名義の管理口座で受領したという外形だけで,遺言執行者個人の譲渡所得になるものではない。遺言執行者自身が相続人又は受遺者でもある場合は,その者として帰属する部分を個人の申告に含める。

4 売却後に疑問が生じた場合

既に売却済みでも,まず遺言書,遺言執行者の就職・権限を示す書類,証券会社の相続手続書類,売却報告書,換価代金の分配計算書及び相続関係を揃える。
申告期限前に税理士又は所轄税務署へ事実関係を具体的に示して確認し,誰がどの割合で申告するかを相続人間で統一して記録する。同じ売却について重複申告又は申告漏れが生じないようにする。

第3 各相続人の譲渡所得の計算
1 基本式と按分

国税庁タックスアンサーNo.1463によれば,株式等の譲渡所得等は,譲渡価額から取得費と委託手数料等を差し引いて計算する。
法定相続分で申告する事案では,各人の譲渡価額,取得費及び売却に直接要した費用を同じ法定相続分で按分するのが出発点となる。すなわち,「各人の譲渡所得等=売却代金×申告割合-被相続人の取得費×申告割合-売却手数料等×申告割合」である。

(続きを読む...)相続した株式を遺言執行者が売却した場合の税金―法定相続分による申告と確定申告の方法(AI作成)

公正証書遺言と異なる遺産分割協議が相続税の申告期限までに成立しない場合の申告方法(AI作成)

目次第1 結論1 申告期限までに協議が成立しなくても申告期限は延びない2 申告内容は「遺言で取得済みか,真に未分割か」で決まる第2 公正証書遺言があっても,その内容を先に分類する1 公正証書という方式だけでは申告方法は決まらない2 遺言によって取得者が確定している財産3 遺言が相続分だけを定め,個々の財産が未分割である場合4 遺言の対象外となる財産第3 申告期限時点の状況別の申告方法1 遺言と異なる協議が成立している場合2 遺言で全部の取得者が確定し,協議が未成立の場合3 取得者が確定した財産と未分割財産が混在する場合4 遺言が相続分又は包括遺贈の割合だけを定める場合第4 未分割申告と分割見込書1 相続税法55条による仮の計算2 配偶者の税額軽減と小規模宅地等の特例3 申告期限後3年以内の分割見込書を付ける範囲第5 申告後に遺言と異なる合意が成立した場合1 真に未分割であった財産の後日分割2 遺言で取得済みであった財産の分け直し3 平成23年12月6日裁決が示す注意点第6 申告期限までに行う実務上の確認第7 設例による整理1 全財産を長男に相続させる遺言2 長男3分の2,長女3分の1とする遺言3 自宅だけを配偶者に相続させる遺言第8 よくある誤解第9 関連記事第10 出典1 法令・裁判例・裁決2 国税庁資料3 文献
第1 結論
1 申告期限までに協議が成立しなくても申告期限は延びない

公正証書遺言と異なる分け方を相続人らが話し合っていても,相続税の申告期限までに合意が成立しなければ,予定している分け方で申告することはできない。

相続税の申告期限は,原則として,相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内である。

協議中であること,遺産分割調停を申し立てたこと又は遺言執行者との調整が続いていることだけでは,この期限は延長されない。

2 申告内容は「遺言で取得済みか,真に未分割か」で決まる

申告期限時点で遺言と異なる合意が成立していない場合には,まず,遺言によって既に取得者が確定している財産と,なお共同相続人間で分割されていない財産とを分ける。

遺言によって取得者が確定している財産は,原則として遺言どおりに取得したものとして申告する。

これに対し,真に未分割である財産は,相続税法55条により,民法に規定する相続分又は包括遺贈の割合に従って各人が取得したものとして課税価格を計算する。

したがって,「協議が成立していないから,遺産全部を一律に法定相続分で申告する」という処理は正確でない。

第2 公正証書遺言があっても,その内容を先に分類する
1 公正証書という方式だけでは申告方法は決まらない

公正証書遺言は遺言の方式であり,公正証書であること自体から相続税申告の取得割合が決まるわけではない。

申告方法を決めるのは,遺言の各条項が,①特定の財産を特定の相続人に相続させる特定財産承継遺言,②特定遺贈,③包括遺贈,④相続分の指定,⑤遺産分割方法の指定,⑥残余財産条項のいずれに当たるかである。

遺言の表題や一部の文言だけでなく,遺言全文,予備的条項,債務・費用の負担及び遺言執行者の権限まで確認する必要がある。

2 遺言によって取得者が確定している財産

最高裁判所第二小法廷平成3年4月19日判決(平成元年(オ)第174号,民集45巻4号477頁)は,特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言について,特段の事情のない限り,何らの行為を要せず,被相続人の死亡時に直ちに当該相続人へ承継されると判示した。

また,特定遺贈は受遺者が放棄すれば遺言者の死亡時に遡って効力を失うが,放棄されていない限り,遺贈の目的財産は遺言に基づいて取得される。

「全財産を長男に相続させる」,「自宅不動産を妻に相続させる」,「全財産を甲に包括遺贈する」など,遺言によって取得者が確定する財産は,単に別の分け方を交渉中であるという理由で未分割財産にはならない。

3 遺言が相続分だけを定め,個々の財産が未分割である場合

「長男の相続分を3分の2,長女の相続分を3分の1とする」など,割合だけを指定し,個々の財産の取得者を定めていない遺言では,個々の遺産はなお未分割となり得る。

その場合,相続税法55条による仮の計算では,遺言による指定相続分を含む民法上の相続分又は包括遺贈の割合を確認する。

法定相続分を機械的に用いるのではなく,遺言による割合指定と包括遺贈の有無を先に確認する必要がある。

4 遺言の対象外となる財産

遺言作成後に取得した財産,記載漏れの預金,遺言条項の解釈上対象に含まれない財産その他の残余財産について,取得者を定める条項がなければ,その部分は未分割となり得る。

他方,死亡保険金,死亡退職金その他の相続税法上のみなし相続財産は,相続税の課税対象となっても,通常の遺産分割の対象とは限らない。

遺言の対象財産,民法上の遺産及び相続税の課税財産の三つを同じ一覧に混在させないことが重要である。

第3 申告期限時点の状況別の申告方法
1 遺言と異なる協議が成立している場合

(続きを読む...)公正証書遺言と異なる遺産分割協議が相続税の申告期限までに成立しない場合の申告方法(AI作成)

旧法の遺留分減殺訴訟における価額弁償の抗弁―誰が選択するか,条件付判決,金銭判決及び評価基準時(AI作成)

目次第1 結論第2 本記事が扱う旧法事案第3 価額弁償の抗弁の基本構造第4 訴訟の三つの分岐第5 平成9年最高裁判決の条件付判決第6 遺留分権利者が価額弁償請求権を行使した場合第7 裁判所の釈明・鑑定と当事者の選択第8 価額弁償額の評価基準時第9 主張立証で確認すべき事項第10 関連記事及び出典
第1 結論

令和元年6月30日までに開始した相続へ適用される旧法の遺留分減殺訴訟では,裁判所が当事者に代わって「現物返還ではなく金銭で解決する」と選択することはできない。

受遺者又は受贈者が旧民法1041条の価額弁償を選択し,裁判所が定める額を速やかに支払う意思を表明してその額の確定を求めた場合,裁判所は,その額が支払われなかったことを条件として現物返還請求を認容する条件付判決をすることができる。これは単純な「引換給付判決」ではない。

他方,受遺者又は受贈者が価額を弁償する旨を表明しただけで,遺留分権利者が価額弁償請求権を行使していない場合,裁判所は無条件の金銭支払を命じることができない。金銭請求権を確定的に取得するには,遺留分権利者による権利行使の意思表示が必要である。

第2 本記事が扱う旧法事案

平成30年法律第72号附則2条により,令和元年7月1日の施行日前に開始した相続には原則として従前の例が適用される。本記事は,旧民法1031条以下の遺留分減殺請求と旧民法1041条の価額弁償を扱う。

令和元年7月1日以後に開始した相続では,民法1046条により当初から遺留分侵害額に相当する金銭請求権が生じるため,本記事の物権的減殺,現物返還及び価額弁償の抗弁という構造は適用されない。

第3 価額弁償の抗弁の基本構造

旧法の遺留分減殺請求には物権的効力があり,減殺の意思表示によって,侵害の限度で目的物の所有権又は共有持分が遺留分権利者へ帰属する。したがって,訴訟の出発点は現物返還又は持分移転登記である。

旧民法1041条は,減殺を受ける受遺者又は受贈者に,目的物の価額を弁償して返還義務を免れる選択肢を与えた。価額弁償は裁判所の裁量による代償分割ではなく,受遺者又は受贈者が行使する抗弁である。

第4 訴訟の三つの分岐
当事者の意思表示権利関係判決の形受遺者等が価額弁償の抗弁を出さない遺留分権利者は現物の権利を有する現物返還・持分移転登記受遺者等が裁判所の定める額を速やかに支払う意思を表明し,額の確定を求める支払までは現物返還請求権が残る不払を条件とする現物返還の条件付判決さらに遺留分権利者が価額弁償請求権を行使する現物の権利を遡って失い,金銭請求権を確定的に取得する金銭支払判決
第5 平成9年最高裁判決の条件付判決

最高裁平成9年2月25日第三小法廷判決(平成6年(オ)第1746号,民集51巻2号448頁)は,受遺者が事実審口頭弁論終結前に,裁判所が定めた価額を速やかに支払う意思を表明し,その額の確定を求めたときは,その主張を価額弁償の抗弁として扱うことができるとした。

同判決が示した主文は,受遺者が裁判所の定めた額を支払わなかったことを条件として,遺留分権利者の現物返還請求を認容するものである。支払と登記を同時履行とする通常の引換給付とは,条件の置き方が異なる。

第6 遺留分権利者が価額弁償請求権を行使した場合

最高裁平成20年1月24日第一小法廷判決(平成18年(受)第1572号,民集62巻1号63頁)は,受遺者等が価額を弁償する旨を表明し,遺留分権利者が価額弁償請求権を行使したとき,遺留分権利者は目的物の所有権及び現物返還請求権を遡って失い,これに代わる価額弁償請求権を確定的に取得するとした。

最高裁令和7年7月10日第一小法廷判決(令和6年(受)第2号)は,受遺者が価額弁償の意思を表明していても,遺留分権利者が価額弁償請求権を行使していない場合,裁判所は無条件の金銭支払を命じることができないと明確にした。

第7 裁判所の釈明・鑑定と当事者の選択

裁判所が,価額弁償の可能性,評価基準時,鑑定の要否又は和解による金銭解決について見解を示すことはある。しかし,その釈明・争点整理・証拠採否だけで,受遺者等の価額弁償の抗弁又は遺留分権利者の価額弁償請求権行使がされたことにはならない。

訴訟記録上は,誰が,いつ,どの意思表示をし,どの請求又は抗弁として陳述したかを区別する必要がある。裁判所が現在価額の鑑定を検討しているという事情だけから,現物返還の法律関係が金銭債権へ変わったと扱うことはできない。

第8 価額弁償額の評価基準時

最高裁昭和51年8月30日第二小法廷判決(昭和50年(オ)第920号,民集30巻7号768頁)は,現実に価額弁償がされる場合はその時の目的物価額により,訴訟で裁判所が額を定める場合はこれに最も近い事実審口頭弁論終結時の価額によるとした。

この基準時は,遺留分侵害の有無及び減殺割合を計算する相続開始時評価とは別である。地価が相続開始後に上昇又は下落していても,両者の評価目的を混同してはならない。

第9 主張立証で確認すべき事項

実務上は,①相続開始日,②減殺の意思表示と到達日,③減殺によって取得した権利の内容,④受遺者等の価額弁償の意思表示,⑤裁判所の定める額を速やかに支払う意思と額の確定を求める陳述,⑥遺留分権利者による価額弁償請求権行使,⑦評価対象,評価時点及び評価資料を時系列で整理する。

準備書面では,「価額弁償の抗弁」「条件付判決を求める陳述」「価額弁償請求権を行使する意思表示」を同じものとして記載せず,主体,時点及び法律効果を分ける必要がある。

第10 関連記事及び出典

評価基準時の全体像は,旧法事案の遺留分減殺請求における遺産の評価基準時を参照されたい。減殺請求後に換地処分があった土地については,相続開始後に遺留分減殺請求をし,その後に換地処分があった土地の評価基準時(AI作成)で説明している。

(続きを読む...)旧法の遺留分減殺訴訟における価額弁償の抗弁―誰が選択するか,条件付判決,金銭判決及び評価基準時(AI作成)

遺産分割調停・遺留分調停で固定資産評価証明書をどう取るか-統一様式が使えない理由と相続人・共有者・相手方名義の場合(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象とする手続と基準日2 結論第2 弁護士の統一様式が使えない理由1 統一様式の根拠は申立人自身の請求権である2 家事調停・審判は対象の申立てに入っていない3 遺留分侵害額請求の訴えも対象外と考えられる第3 誰の名義の,どの年度の証明書が必要か1 固定資産税の名義は1月1日で決まる2 手続ごとに求められる年度3 発行できる年度には限りがある第4 自分で取れる場合1 被相続人に関する年度を相続人として取る2 遺産共有中の不動産を共有者として取る3 代理人弁護士が依頼者の委任を受けて取る第5 相手方名義の不動産で自分では取れない場合1 自分では取れないと考えられる理由2 相手方に提出を求める3 調停委員会に調査嘱託又は文書送付嘱託を求める4 弁護士会照会は回答を得にくい5 評価証明書が取れなくても手続は進められる第6 申請前に確認する事項第7 関連記事第8 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 公文書4 裁判所の案内・説明資料5 自治体の案内6 職能団体の資料
第1 この記事の対象と結論
1 対象とする手続と基準日

本記事は,遺産分割調停・審判と,遺留分侵害額の請求調停で,不動産の固定資産評価証明書をどのように取得するかを扱う。
遺留分侵害額の請求調停は,令和元年7月1日以後に開始した相続についての手続である。
法令は令和8年9月28日現在の条文により,裁判所と自治体の案内は同日に確認した内容による。

裁判所の全国共通の案内は,遺産分割調停について「不動産登記事項証明書及び固定資産評価証明書」を,遺留分侵害額の請求調停について「不動産登記事項証明書,固定資産評価証明書」を,それぞれ標準的な申立添付書類として掲げている(裁判所「遺産分割調停」,裁判所「遺留分侵害額の請求調停」)。
ところが,訴訟の準備であれば弁護士が所有者の委任なしに評価証明書を取れる「統一様式」は,家事調停では使えない。
そのため,家事調停では,誰の名義の,どの年度の証明書が必要かによって,取り方を組み立て直す必要がある。

2 結論

結論は,次のとおりである。
①弁護士の統一様式は,遺産分割調停・審判と遺留分侵害額の請求調停のためには使えない。
②被相続人が納税義務者であった年度(死亡した年の年度等)の証明書は,相続人として,自分で請求できる。
③遺産分割前で相続登記がされていない不動産は,共同相続人の一人として,自分で請求できる場合が多い。
④相続登記又は遺贈・贈与の登記により相手方の名義になった後の年度の証明書は,自分では取れないと考えられる。
その場合は,相手方に提出を求めるか,調停委員会の手続(調査嘱託等)を求めることになり,弁護士会照会は回答を得にくい。
⑤評価証明書は評価の資料の一つにすぎず,取れない物件があっても,登記事項証明書で物件を特定し,評価の合意又は鑑定へ進むことができる。

第2 弁護士の統一様式が使えない理由
1 統一様式の根拠は申立人自身の請求権である

弁護士が所有者の委任状なしに評価証明書を取れるのは,地方税法382条の3と地方税法施行令52条の15の表第4号によるものである。
地方税法382条の3は,「市町村長は、第二十条の十の規定によるもののほか、政令で定める者の請求があつたときは、これらの者に係る固定資産として政令で定めるものに関して固定資産課税台帳に記載をされている事項のうち政令で定めるものについての証明書を交付しなければならない。」と定める。

施行令52条の15の表第4号は,「民事訴訟費用等に関する法律(昭和四十六年法律第四十号)別表第一の一〇の項ロ及び一三の項から一四の二の項まで並びに別表第二の一の項から七の項まで及び一一の項の上欄に掲げる申立てをしようとする者」を掲げ,対象となる固定資産を「当該申立ての目的である固定資産」に限っている。
つまり,この制度は,一定の申立てをしようとする人自身に,申立ての目的となる不動産の証明書を請求する権利を認めたものである。
日本弁護士連合会が定める「固定資産評価証明書の交付申請書」(統一様式)は,弁護士が代理人としてこの請求をするための書式である。

2 家事調停・審判は対象の申立てに入っていない
(1) 政令が掲げる申立て

政令が掲げる申立ては,訴えの提起,控訴・上告,請求の変更,反訴,参加,支払督促,民事保全,借地非訟,民事調停及び労働審判と,これらの一部の申立ての変更である。
家事審判と家事調停の申立ては,民事訴訟費用等に関する法律別表第一の15の項・15の2の項に掲げられているが,政令はこれらの項を掲げていない。
遺産分割調停・審判も遺留分侵害額の請求調停も家事事件であるから,申立人は,この制度による請求権を持たないことになる。

(2) 日本弁護士連合会と自治体の案内

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所有不動産記録証明制度とは―請求方法,必要書類,手数料及び検索漏れの注意点(AI作成)

目次第1 所有不動産記録証明制度の概要1 令和8年2月2日に始まった全国横断検索2 証明書に記載される情報第2 請求できる人1 所有権の登記名義人2 相続人その他の一般承継人3 代理人第3 請求先と請求方法1 全国の登記所へ請求できる2 書面請求3 オンライン請求第4 必要書類1 登記名義人本人が請求する場合2 相続人その他の一般承継人が請求する場合3 原本還付と補正への対応第5 検索条件と手数料1 氏名又は名称と住所による検索2 異体字と同名異人3 検索条件1件・1通ごとの手数料第6 検索結果に現れない主な場合1 登記上の氏名・住所と検索条件が一致しない場合2 制度上の検索対象外又は未反映の場合3 「該当なし」は不動産不存在の証明ではない第7 証明書を取得した後の調査1 物件ごとの登記事項証明書を確認する2 名寄帳等と組み合わせる3 相続財産調査の中で位置付ける第8 関連記事1 不動産登記制度に関する記事2 法務省の制度案内第9 出典1 法令・告示2 所管行政機関の解説・運用資料
第1 所有不動産記録証明制度の概要
1 令和8年2月2日に始まった全国横断検索

所有不動産記録証明制度は,特定の人又は法人が所有権の登記名義人として記録されている不動産を登記官が検索し,その結果を一覧にした証明書を交付する制度である。
令和6年4月1日に始まった相続登記の申請義務化に伴い,相続人が被相続人名義の不動産を把握しやすくし,相続登記の漏れを防ぐため,令和8年2月2日に施行された。

本記事は,令和8年9月28日現在の法令及び法務省資料を基準に,請求できる人,請求方法,必要書類,手数料及び検索結果を読む際の注意点を説明する。

2 証明書に記載される情報

証明書には,請求人の資格・氏名又は名称・住所,検索に用いた氏名又は名称・ローマ字氏名・住所・会社法人等番号,検索条件に該当した不動産の管轄登記所・種別・所在事項・不動産番号等が記載される。
証明書は検索結果の一覧であり,各不動産の持分,抵当権,差押え,信託その他の権利関係を網羅する登記事項証明書ではない。

第2 請求できる人
1 所有権の登記名義人

所有権の登記名義人は,自分を検索対象者として証明書の交付を請求できる。
自然人だけでなく,所有権の登記名義人である法人も対象となる。

2 相続人その他の一般承継人

所有権の登記名義人の相続人その他の一般承継人は,被相続人又は被承継人を検索対象者として請求できる。
相続人からの請求では,請求人自身の本人確認に加え,被相続人との相続関係を戸籍謄本,法定相続情報一覧図の写し等で明らかにする必要がある。

3 代理人

本人又は相続人その他の一般承継人は,代理人を通じて請求できる。
委任による代理人の場合,請求人の実印を押した委任状と請求人の印鑑証明書が必要となる。

第3 請求先と請求方法
1 全国の登記所へ請求できる

請求は,法務局・地方法務局の本局,支局及び出張所で取り扱われる。
検索対象となる不動産の所在地を管轄する登記所に限られないため,遠隔地の不動産を調べる場合でも,利用しやすい登記所を請求先に選べる。

2 書面請求

書面請求は,窓口への提出又は郵送によって行う。
郵送による受領を希望するときは,返送用封筒と切手を提出する必要がある。

書面の請求書では,一つの検索条件欄に複数の氏名又は住所をまとめて記載せず,現在の氏名・住所と過去の氏名・住所を別々の検索条件として記載する。

3 オンライン請求

オンライン請求は,登記・供託オンライン申請システムの申請用総合ソフトで「所有不動産記録証明書交付請求書」を選択し,必要事項を入力して電子署名を付して送信する。
必要書類も全てオンラインで提供する必要があり,証明書は郵送又は指定した登記所の窓口で受領できる。

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相続開始後に遺留分減殺請求をし,その後に換地処分があった土地の評価基準時(AI作成)

目次第1 本件の結論1 相続開始,減殺請求,換地処分の順に検討する2 換地後の価格を相続開始時へ遡らせるわけではない第2 旧法の遺留分減殺請求が適用される範囲1 適用法は減殺請求日ではなく相続開始日で決まる2 減殺請求後は目的土地について共有持分が生じる第3 遺留分を計算するための従前地の評価1 基礎財産は相続開始時に評価する2 相続開始時の事業段階を価格へ反映する第4 減殺請求後の換地処分による権利の移行1 従前地の法律関係は換地へ移る2 遺留分権利者の共有持分も換地へ移る3 清算金は原則として同じ持分割合で按分される第5 換地処分後に価額弁償をする場合1 価額弁償の基準時は相続開始時ではない2 換地処分後は換地の持分を評価する3 清算金の二重計上を避ける第6 事案によって結論が変わる分岐1 金銭解決が裁判所の職権で選ばれるわけではない2 換地が定められなかった場合3 減殺請求前に処分があった場合第7 主張立証及び鑑定で準備する資料1 二つの評価書を区別する2 換地関係資料を時系列でそろえる第8 関連記事1 旧法の評価基準時及び計算方法2 訴額との区別第9 まとめ1 本件では二つの基準時を使い分ける第10 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 土地区画整理事業及び清算金の取扱資料
第1 本件の結論

本記事は,土地区画整理事業中の土地について,相続開始後に旧法の遺留分減殺請求がされ,その後に換地処分が行われた場合の評価を扱う。制度の仕組みは土地区画整理事業の総合解説を参照されたい。現行法の遺留分侵害額請求へ,旧法の物権的効果や価額弁償の説明をそのまま当てはめることはできない。

以下の四つの段階を分けると,遺留分の計算と価額弁償の評価基準時が異なることを把握しやすい。

段階本記事で区別する問題相続開始遺留分の算定に用いる財産と,相続開始時の従前地の評価。遺留分減殺請求旧法の減殺請求によって生じる従前地の法律関係と持分。換地処分・公告従前地から換地への法律関係の移行と,公告翌日の清算金の確定。価額弁償価額弁償の対象となる換地の評価と,清算金の別処理・二重計上の防止。
1 相続開始,減殺請求,換地処分の順に検討する

本記事が扱うのは,①被相続人の死亡により相続が開始し,②遺留分権利者が土地について旧法上の遺留分減殺請求を行い,③その後に土地区画整理事業の換地処分が効力を生じた場合である。
調査基準日は令和8年9月29日であり,令和元年6月30日までに開始した相続へ適用される改正前民法を前提とする。

結論として,土地の評価基準時は,評価の目的によって二つに分かれる。
遺留分侵害の有無及び減殺の割合を決めるための評価は相続開始時であり,その時点の従前地を評価する。
これに対し,換地処分後に旧民法1041条の価額弁償によって現物返還を免れる場合は,原則として現実の弁償時の換地を評価し,訴訟では事実審口頭弁論終結時の換地を評価する。

清算金については,換地処分時までに減殺請求による共有関係が成立していれば,その共有所有権について生じる交付清算金又は徴収清算金は,原則として従前地の共有持分と同じ割合で各共有者に按分される。
ただし,清算金が減殺請求時に土地とともに「移動」するのではなく,換地処分の公告日の翌日に,各共有者と施行者との間で持分割合に応じた独立の債権又は債務として確定するという関係である。

評価の目的評価対象評価基準時遺留分侵害及び減殺割合の計算相続開始時の従前地相続開始時減殺後の権利の帰属従前地から移行する換地の持分換地処分の効力発生時に権利の客体が換地へ移るため,新たな減殺割合の計算はしない旧民法1041条の価額弁償換地処分後の換地の持分現実の弁償時。訴訟では事実審口頭弁論終結時換地計画で定められた清算金共有持分に対応して別個に確定する清算金債権又は債務換地処分の公告日の翌日。原則として同日時点の共有持分割合で按分
2 換地後の価格を相続開始時へ遡らせるわけではない

相続開始時評価では,後に成立した換地の現在価格を用いるのではなく,相続開始時に存在した従前地の客観的交換価値を求める。
相続開始時に土地区画整理事業が既に進行していた場合は,当時の事業計画,仮換地指定,使用収益制限及び市場の認識が従前地の価格形成要因になり得るが,その後の換地処分によって判明した結果を当然に相続開始時へ遡及させるものではない。

換地処分後の価額弁償では,反対に,既に権利の客体が従前地から換地へ移っているため,存在しない従前地の現在価格を仮定するのではなく,換地の現実の価額を基礎とするのが相当である。
ただし,この結論は遺留分法と土地区画整理法を組み合わせた解釈であり,本件と同じ時系列を直接判断した公刊裁判例は,本記事で確認した範囲では見当たらなかった。

第2 旧法の遺留分減殺請求が適用される範囲
1 適用法は減殺請求日ではなく相続開始日で決まる

平成30年法律第72号による遺留分制度の改正は,原則として令和元年7月1日に施行された。
同法附則2条により,施行日前に開始した相続については原則として従前の例によるため,被相続人が令和元年6月30日までに死亡した場合は,減殺請求又は換地処分が同年7月1日以後であっても旧法事案となり得る。

令和元年7月1日以後に開始した相続では,民法1046条により遺留分侵害額に相当する金銭の支払請求が生じるだけであり,土地の共有持分を物権的に取得する旧法の構造は採られていない。
したがって,本記事の「減殺請求後に持分が換地へ移る」という説明は,改正前民法が適用される相続に限られる。

2 減殺請求後は目的土地について共有持分が生じる

旧法上,遺留分減殺請求の意思表示が効力を生じると,遺留分を侵害する限度で目的物について遺留分権利者の権利が生じる。
最高裁令和7年7月10日第一小法廷判決(令和6年(受)第2号,遺留分減殺請求事件)は,旧法事案について,価額弁償請求権が確定的に取得されるまでは,遺留分権利者が減殺によって取得した共有持分権及びこれに基づく現物返還請求権を有することを前提としている。

本件では,換地処分の前に減殺請求がされているため,換地処分時には受遺者又は受贈者だけでなく,遺留分権利者も従前地の持分権者となっていることを出発点とする。
減殺請求前に受遺者が土地を第三者へ売却した場合とは,評価対象及び適用される法理が異なる。

(続きを読む...)相続開始後に遺留分減殺請求をし,その後に換地処分があった土地の評価基準時(AI作成)

固定資産評価証明書を所有者以外が取得できる場合-請求できる人,資格及び必要書類(AI作成)

目次第1 所有者以外でも取得できる場合がある1 結論と記事の対象2 「取得できる人」の四つの意味第2 地方税法上の交付制度1 本人に関する証明と第三者への証明は根拠が異なる2 評価証明書と課税台帳の閲覧は別の制度である第3 対価を支払う借地人・借家人等1 土地の使用又は収益を目的とする権利を有する人2 家屋の使用又は収益を目的とする権利を有する人3 契約書と対価の支払資料第4 処分権者と裁判手続の申立人1 総務省令で定める処分権者2 法令が対象とする裁判手続3 競売の申立人が必要とする証明書第5 相続,年途中の取得及び財産管理1 1月2日以降に所有者となった人2 相続人,受遺者及び遺言執行者3 財産管理人等第6 代理人,法定代理人及び法人関係者1 委任を受けた代理人2 同居親族3 成年後見人等と法人関係者第7 専門職及び登記関係の限定ルート1 弁護士・司法書士の統一様式2 税理士の税務代理権限証書3 登記官の交付依頼書第8 その立場だけでは取得できない人1 親族,利用者及び購入希望者2 債権者,不動産関係者及び専門職第9 取得できる範囲と申請前の確認1 対象不動産の範囲2 申請前にそろえる情報と資料3 自治体へ確認するときの伝え方第10 出典・参考資料1 法令2 所管自治体・弁護士会の解説・申請案内3 関連する記事
第1 所有者以外でも取得できる場合がある
1 結論と記事の対象

固定資産評価証明書は,不動産の所在地や評価額等を証明する書類であり,登記事項証明書のように誰でも自由に取得できる資料ではない。
しかし,所有者本人の委任がなくても,法律上の資格又は申立ての目的に基づいて取得できる人がいる。

令和8年9月27日現在,所有者以外による取得は,①対価を支払う借地人・借家人等の直接請求,②法令で定める管財人等又は一定の裁判手続を始める人の直接請求,③相続人・法定代理人・財産管理人等による所有者側の地位又は権限に基づく請求,④委任を受けた代理人又は限定目的の特別書式による請求に分けると理解しやすい。
同じ「所有者以外」であっても,請求の根拠,取得できる不動産の範囲及び必要書類は同じではない。

本記事は,固定資産課税台帳に記載された価格等の証明書のうち,一般に「固定資産評価証明書」と呼ばれるものを中心に扱う。
評価証明書,公課証明書及び名寄帳の違いは,固定資産評価証明書と名寄帳の違い-相続・登記・訴訟での使い分け(AI作成)で説明している。

2 「取得できる人」の四つの意味

第一は,所有者の同意や委任を必要とせず,自分の法律上の資格で直接請求できる人である。
対価を支払う土地・家屋の使用収益権者,総務省令で定める処分権者及び一定の裁判手続を始める人がこれに当たる。

第二は,相続,成年後見,財産管理その他の法的地位により,所有者側の権利又は管理権限を示して請求する人である。
第三は,所有者又は納税義務者から委任を受けた代理人であり,親族,宅地建物取引業者又は専門職であるという肩書だけでは足りない。

第四は,訴額の算定,税務代理又は登記官の交付依頼等の限定された目的について,自治体が指定する書式と資料を用いる人である。
弁護士,司法書士又は税理士であること自体が,不動産一般を調査する権限になるわけではない。

第2 地方税法上の交付制度
1 本人に関する証明と第三者への証明は根拠が異なる

地方税法20条の10は,地方税に関する証明書を請求者本人に関するものに限って交付する制度を定めている。
これに対し,同法382条の3は,同条の政令で定める人が請求したときに,その人に関係する固定資産について,政令で定める登録事項の証明書を交付する制度を置いている。

したがって,「所有者本人でない」という理由だけで一律に交付を拒まれるわけではない。
他方,請求者が対象不動産と無関係であれば,不動産の所在地を知っているだけで取得することはできない。

2 評価証明書と課税台帳の閲覧は別の制度である

地方税法382条の2は固定資産課税台帳の閲覧を,同法382条の3は登録事項の証明書の交付を定めている。
両制度には共通する請求者区分があるものの,必要な情報が証明書であるのか,台帳の閲覧で足りるのかを申請前に区別する必要がある。

自治体によって,評価証明書の名称,記載事項,手数料,郵送・電子申請の可否及び請求権を確認する書類が異なる。
以下で示す法令上の請求資格と,個々の自治体が定める申請方法を分けて確認する必要がある。

第3 対価を支払う借地人・借家人等
1 土地の使用又は収益を目的とする権利を有する人

地方税法施行令52条の15は,土地について賃借権その他の使用又は収益を目的とする権利を有し,その権利について対価を支払う人に,対象土地の登録事項証明書を請求する資格を認めている。

(続きを読む...)固定資産評価証明書を所有者以外が取得できる場合-請求できる人,資格及び必要書類(AI作成)

固定資産評価証明書と名寄帳の違い-相続・登記・訴訟での使い分け(AI作成)

目次第1 固定資産評価証明書と名寄帳の役割1 評価証明書は特定物件の登録価格等を証明する2 名寄帳は所有者ごとの物件を市町村内で確認する第2 地方税法上の位置付け1 固定資産課税台帳には登記物件と未登記物件がある2 証明書の交付と課税台帳の閲覧は別の制度である3 名寄帳は固定資産課税台帳に基づいて作られる第3 記載内容と使い分け1 両者の違い2 評価額,課税標準額及び税額は異なる第4 相続・登記・訴訟での選び方1 相続財産を調べる場合2 相続登記その他の登記をする場合3 訴訟又は民事執行で価額を示す場合4 売買価格又は市場価格を知りたい場合第5 名寄帳に物件が載らない主な場合1 不動産が他の市町村にある場合2 非課税物件が帳票に含まれない場合3 単独名義と共有名義が分かれている場合4 1月2日以後に取得した場合5 未登記建物又は課税上の名義が異なる場合第6 請求前に確認する事項1 必要な記載事項から書類を選ぶ2 年度,名義及び請求資格を確認する第7 出典・参考資料1 法令2 所管行政機関及び法務局の解説・運用資料3 自治体の交付・閲覧案内
第1 固定資産評価証明書と名寄帳の役割
1 評価証明書は特定物件の登録価格等を証明する

固定資産評価証明書は,土地又は家屋について固定資産課税台帳に登録された事項を市町村長が証明する書類である。
登記の登録免許税,訴訟物の価額その他の場面で,特定物件の評価額を示す必要があるときに用いられる。

本記事の調査基準日は令和8年9月27日であり,同月24日に施行されている地方税法,同月27日までに公表された国税庁,法務省,法務局及び自治体の資料を確認した。
証明書の名称,記載事項,請求資格,手数料及び交付方法は自治体により異なるため,本記事では全国に共通する法的な骨格と複数の自治体で確認できる代表的な運用を区別して説明する。

2 名寄帳は所有者ごとの物件を市町村内で確認する

名寄帳は,固定資産課税台帳に基づき,土地又は家屋を所有者ごとにまとめた帳簿である。
ある市町村内で,その人に課税上ひも付けられた物件を探し,所在,面積,評価額,課税標準額等を一覧で確認するときに用いられる。

固定資産税の納税通知書そのものではなく,通常はこれに同封される課税明細書に物件ごとの情報が記載される。
課税明細書に載る不動産と名寄帳に載る不動産は,同じ年度,納税義務者及び課税区域について見れば,通常は大部分が重なる。

しかし,両者は同一の帳票ではないため,自治体の出力範囲,非課税又は免税点未満の物件の扱い,単独名義と共有名義の区分,課税区域等により,記載される不動産が一致しないことがある。
相続財産を調査するときは,納税通知書に同封された課税明細書だけで調査を終えず,名寄帳及び登記事項証明書等と突き合わせて確認する必要がある。

相続財産を調査するときは,名寄帳で候補物件を探し,登記事項証明書で権利関係を確認し,提出先から証明を求められる物件について評価証明書を取得するという順序が考えられる。
名寄帳に記載がないことは,全国に不動産がないことの証明にはならない。

第2 地方税法上の位置付け
1 固定資産課税台帳には登記物件と未登記物件がある

地方税法341条は,土地課税台帳,土地補充課税台帳,家屋課税台帳,家屋補充課税台帳及び償却資産課税台帳を固定資産課税台帳と定義しており,同法380条は市町村にその備付けを求めている。
同法381条によれば,登記簿に登記された土地及び家屋は土地課税台帳又は家屋課税台帳に,登記されていない土地及び家屋は土地補充課税台帳又は家屋補充課税台帳に登録される。

この仕組みにより,課税対象として把握された未登記建物が名寄帳に現れることがある。
ただし,固定資産課税台帳は課税のための帳簿であり,記載された名義だけで私法上の所有権が最終的に決まるものではない。

2 証明書の交付と課税台帳の閲覧は別の制度である

地方税法20条の10は地方団体の徴収金に関する証明書の交付を定め,同法382条の3は一定の請求者に対する固定資産課税台帳登録事項の証明書交付を定めている。
これに対し,同法382条の2は,納税義務者その他の一定の者に固定資産課税台帳の関係部分を閲覧させる制度を定めている。

地方税法施行令52条の14及び52条の15は,有償で借りている土地又は家屋の使用者,固定資産を処分する権利を有する者等について,対象となる固定資産の範囲で閲覧又は証明書交付を請求できる場合を定めている。
同令52条の15の表第4号は,民事訴訟費用等に関する法律の別表に掲げる訴えの提起等の申立てをしようとする人にも,申立ての目的である固定資産の証明書の交付を認めている。
実際の請求では,請求者の立場と物件との関係を示す資料を自治体の案内で確認する必要がある。

所有者本人の委任がない場合に誰がどの根拠で請求できるか,取得できる不動産の範囲及び必要書類は,固定資産評価証明書を所有者以外が取得できる場合-請求できる人,資格及び必要書類で整理している。

3 名寄帳は固定資産課税台帳に基づいて作られる

(続きを読む...)固定資産評価証明書と名寄帳の違い-相続・登記・訴訟での使い分け(AI作成)

養子縁組前の子と兄弟姉妹の代襲相続―「共通する親の直系卑属」と最高裁令和6年11月12日判決(AI作成)

被相続人より先に兄弟姉妹が死亡していても,その子であるおい・めいが常に代襲相続人になるわけではありません。最高裁令和6年11月12日第三小法廷判決は,おい・めいが「被相続人とその兄弟姉妹の共通する親の直系卑属」でない場合には,兄弟姉妹を代襲して相続人になることができないと判断しました。

この問題は,死亡した兄弟姉妹が被相続人の親と養子縁組をし,その兄弟姉妹に縁組前から子がいた場合に生じます。戸籍を読む際には,死亡の先後だけでなく,養子縁組日と子の出生年月日を対照する必要があります。

第1 最高裁令和6年11月12日判決の結論
第2 判決の事案
第3 兄弟姉妹の代襲相続と養子縁組の法的関係

1 兄弟姉妹の子が代襲する基本ルール
2 養子縁組による親族関係は縁組の日から生じる
3 「共通する親の直系卑属」の意味

第4 縁組日と出生日の組合せ
第5 戸籍・相続登記・法定相続情報一覧図の確認方法
第6 相続放棄を検討するときの注意
第7 判決の射程と実務上の注意
第8 出典・参考資料

第1 最高裁令和6年11月12日判決の結論

最高裁令和6年11月12日第三小法廷判決(令和5年(行ヒ)第165号,民集78巻6号1377頁)は,次のように判断しました。

被相続人とその兄弟姉妹の共通する親の直系卑属でない者は,被相続人の兄弟姉妹を代襲して相続人となることができない。

したがって,戸籍上「死亡した兄弟姉妹の子」であることだけでは足りません。その子が,被相続人と兄弟姉妹を結び付ける共通の親から見ても直系卑属であるかを確認する必要があります。

第2 判決の事案

判決で問題となった親族関係は,次のようなものでした。

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敷地権の登記がないマンションの相続登記―土地の共有持分と専有部分,登記の目的,課税価格及び登記事項証明書(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 敷地権とは1 敷地権の意味2 敷地権の登記があるときの効力3 敷地権の登記がないのはどのような場合か4 敷地権の登記の有無の確かめ方第3 登記記録の読み方と登記事項証明書の取り方1 建物の登記記録2 土地の登記記録3 登記事項証明書の種類4 敷地が複数の筆にわたる場合第4 申請書の書き方1 登記の目的2 不動産の表示3 相続人が複数いる場合4 敷地権付き区分建物との比較第5 課税価格と登録免許税1 税率と端数処理2 土地は持分の価格3 どの年度の価格を使うか4 計算例5 土地の免税措置第6 添付情報第7 遺言書と遺産分割協議書の注意点1 土地の共有持分も漏れなく記載する2 遺言書に持分の記載がない場合第8 関連記事第9 出典1 法令2 法務省・法務局の資料
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,マンション(区分建物)の専有部分と,その敷地の共有持分を相続した場合に,建物の登記記録に「敷地権」の登記がないときの相続登記の申請方法を扱う。
敷地権の登記があるマンションでは,建物について相続登記をすれば敷地の権利にも効力が及ぶので,申請書は建物一つ分で足りる。
これに対し,敷地権の登記がないマンションでは,建物と土地が別々の登記記録になっており,土地の共有持分についても相続登記をしなければならない。
調査基準日は令和8年9月26日である。
条文はe-Gov法令検索で,法務局の資料は原本を取得して確認した。

2 結論

①敷地権の登記がないマンションでは,専有部分の建物と,敷地の土地の共有持分の両方について相続登記を申請する。
②被相続人が建物を単独で所有し,土地を共有持分で有していた場合,一つの申請書で申請するときの登記の目的は「所有権移転及び○○持分全部移転」とする(○○は被相続人の氏名)。
③土地については,不動産の表示に移転する持分を書く。
④登録免許税の課税価格は,土地については持分の価格であり,建物の価格と合計して1000円未満を切り捨てる。
⑤昭和59年1月1日より前からある専有部分は,法務大臣の指定がない限り,規約で分離して処分することができると定められたものとみなされたため,敷地権の登記がないことがある。
⑥共有者が多い土地の登記事項証明書は頁数が多くなるので,被相続人の持分を確かめるには,所有者証明書や何区何番事項証明書も使える。
⑦遺言書や遺産分割協議書では,建物だけでなく土地の共有持分も漏れなく記載する。

第2 敷地権とは
1 敷地権の意味

区分所有法22条1項は,敷地利用権が数人で有する所有権その他の権利である場合には,区分所有者は,その有する専有部分とその専有部分に係る敷地利用権とを分離して処分することができないと定める。
ただし,規約に別段の定めがあるときは,この限りでない(同項ただし書)。

不動産登記法は,区分建物の敷地利用権(登記されたものに限る。)で,区分所有法22条1項本文により専有部分と分離して処分することができないものを「敷地権」といい,建物の表示に関する登記の登記事項としている(不動産登記法44条1項9号)。
登記官は,区分建物の表題部に敷地権を最初に登記するときは,敷地の土地の登記記録に,職権で,その権利が敷地権である旨の登記をする(同法46条)。

2 敷地権の登記があるときの効力

敷地権付き区分建物についての所有権に係る権利に関する登記は,敷地権である旨の登記をした土地の敷地権についてされた登記としての効力を有する(不動産登記法73条1項本文)。
そのため,敷地権の登記があるマンションを相続したときは,建物について相続登記を一件申請すれば,敷地権についても登記がされたのと同じ効力が生じる。
敷地権である旨の登記をした土地には,原則として敷地権の移転の登記をすることができないので(同条2項本文),土地の登記記録に個々の区分所有者の持分移転の登記が重ねられることはない。

3 敷地権の登記がないのはどのような場合か

敷地権は,登記された敷地利用権で,専有部分と分離して処分することができないものに限られる(第2の1)。
そのため,敷地利用権が登記されていない場合や,規約で分離して処分することができると定めている場合には,敷地権の登記はされない。

古いマンションで敷地権の登記がないことが多いのは,昭和58年の区分所有法の改正の経過措置による。

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弁護士が遺言執行者に就任した後の預貯金・国債・年金保険の手続―就任通知・財産目録,口座の照会と取引経過,ゆうちょ銀行の流れ,非課税貯蓄の死亡届出及び報酬の精算(AI作成)

目次第1 この記事の対象と確認の方法1 対象2 確認の方法と結論の要旨第2 就任直後の法律上の義務1 任務の開始,相続人への通知及び財産目録2 権利義務,委任規定の準用及び行為の効果3 特定財産承継遺言と預貯金の払戻し・解約4 相続人の処分の制限(民法1013条)第3 金融機関への連絡・照会と口座の停止1 死亡の連絡で口座が止まること2 口座の照会と取引経過の開示3 遺言執行者が手続をするときの書類第4 ゆうちょ銀行の相続手続の流れ1 六つのステップ2 相続確認表,必要書類及び払戻金の受取方法3 民営化前の郵便貯金第5 個人向け国債1 相続人の口座への移管と中途換金の特例第6 非課税貯蓄(マル優・特別マル優)の死亡届出1 非課税貯蓄者死亡届出書2 死亡後の利子の課税第7 年金保険(保証期間付きの個人年金)1 年金受取人が死亡した場合の手続2 相続税と所得税の扱い第8 報酬・執行費用の精算と執行の終了1 遺言執行者の報酬2 執行費用3 執行の終了と報告第9 実務チェックリスト1 就任から精算までの確認事項第10 関連記事第11 出典1 法令2 裁判例3 官公庁・金融機関の公表資料4 弁護士会の告示
第1 この記事の対象と確認の方法
1 対象
(1) 弁護士個人が遺言執行者として金融機関とやり取りする場面

本記事は,遺言で指定され,又は家庭裁判所で選任されて遺言執行者に就任した弁護士が,被相続人名義の預貯金,個人向け国債及び年金保険について金融機関とやり取りする場面を扱う。
読者として想定しているのは,遺言執行者に就任した弁護士その他の専門家と,遺言執行者に手続を任せる相続人及び受遺者である。
信託銀行が遺言執行者に就任した場合の流れは,信託銀行が遺言執行者に就任した後の手続とスケジュールで扱っている。

(2) この記事で扱わないこと

遺言の文言が「任せる」「託す」のようにあいまいで,金融機関が払戻しに応じない場面は,「任せる」「託す」と書かれた遺言は有効か―遺言の解釈の基準,有効・無効とされた裁判例,金融機関が払戻しを拒んだ場合の対応及び作成時の注意で扱う。
相続人の代理人として銀行口座の相続手続をする場面は,弁護士が代理人として被相続人の銀行口座の相続手続をする方法で扱っている。
証券口座の株式・投資信託は,遺言執行者が相続株式・有価証券を売却して分配する際の実務上の問題点に譲る。
遺言書を発見した後の検認の要否,遺言執行者の就任・選任,財産別手続及び遺言どおりに執行できない場合を含む全体像は,遺言書の執行とは―見つけた後の検認,遺言執行者,財産別の手続及び執行できない場合を参照されたい。

2 確認の方法と結論の要旨
(1) 確認の方法と資料の性質

令和8年9月26日に,民法,家事事件手続法,所得税法,同法施行令,租税特別措置法,同法施行令及び相続税法の条文をe-Gov法令検索(法令API)で取得し,平成30年法律第72号の附則は民法の附則として取得した。
裁判例は,裁判所HPの裁判例検索で書誌,判示事項及び裁判要旨を確認し,判決全文のPDFを読んだものだけを挙げる。
金融機関の手続は,同日時点の各金融機関の公式ページ及び公式ページに掲載されたPDFの記載だけを書き,各ページのURLを本文と出典に示す。
金融機関の手続は予告なく変わることがあるので,以下の記載は令和8年9月26日時点のものであり,着手の際には各金融機関の案内を取り直す必要がある。

(2) 結論の要旨

①遺言執行者は,就職を承諾したら直ちに任務を開始し,遅滞なく遺言の内容を相続人に通知し,相続財産の目録を作成して相続人に交付しなければならない(民法1007条,1011条1項)。
②特定財産承継遺言の目的が預貯金債権であれば,遺言執行者は払戻しを請求でき,預貯金債権の全部が目的であれば解約の申入れもできる(民法1014条3項)が,令和元年7月1日(施行日)前にされた遺言には同条2項から4項までは適用されない(平成30年法律第72号附則8条2項)。
③ゆうちょ銀行,三井住友銀行,みずほ銀行及び三菱UFJ銀行の公式ページには,名義人の死亡の連絡を受けると口座の入出金を止める旨の記載がある。
④共同相続人の一人は,被相続人名義の預金口座の取引経過の開示を単独で求めることができる(最高裁平成21年1月22日判決)が,遺言執行者自身の開示請求権について判断した最高裁判例は確認できなかった。
ただし,三菱UFJ銀行,三井住友銀行及びみずほ銀行の公式ページは,遺言執行者を取引明細等の証明書の依頼者として挙げている。
⑤非課税貯蓄(障害者等のマル優・特別マル優)の預金者が死亡したときは,相続人が非課税貯蓄者死亡届出書を金融機関に提出する(所得税法施行令46条1項)。
死亡後に支払を受けるべき利子のうち死亡した日までの期間に対応する部分を超える利子には,原則として非課税の規定が適用されない(所得税基本通達10-21)。
⑥報酬は,遺言に定めがあればそれにより,定めがなければ家庭裁判所が定めることができる(民法1018条1項,家事事件手続法別表第一の105項)。

第2 就任直後の法律上の義務
1 任務の開始,相続人への通知及び財産目録
(1) 任務の開始と通知(民法1007条)

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「任せる」「託す」と書かれた遺言は有効か―遺言の解釈の基準,有効・無効とされた裁判例,金融機関が払戻しを拒んだ場合の対応及び作成時の注意(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 遺言の解釈の基準1 最高裁昭和58年3月18日判決2 遺言で定められる事項は法律で決まっている3 文言の本来の意味第3 遺贈又は承継の趣旨と解された裁判例1 大阪高裁平成25年9月5日判決(「全てまかせます」)2 東京地裁令和2年11月16日判決(「すべて委託します」)3 東京地裁令和4年11月10日判決(「すべてたくします」)第4 遺言としての効力が否定された裁判例1 大阪高裁令和3年11月5日判決(「全てをまかせる」)2 東京地裁平成15年10月23日判決(手紙形式の書面)3 東京地裁令和4年4月28日判決(「託します」)第5 一部だけ無効とされた裁判例1 東京地裁平成15年3月25日判決(遺産の分配を一任する条項)第6 結論を分けた事情1 判断に用いられた事情の一覧2 読み方の注意第7 金融機関が払戻しを拒んだ場合の対応1 金融機関の立場2 相続人全員の了解を書面で得る3 払戻請求訴訟を起こす4 遺言執行者の選任を申し立てる5 払戻しを受けた後に遺言の効力が否定される危険第8 遺言を作る側の注意1 「遺贈する」又は「相続させる」と書く2 対象財産と相手方を特定する3 遺言執行者を指定し,権限を書く4 公正証書遺言又は法務局保管を検討する第9 関連記事第10 出典1 法令2 裁判例
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,自筆証書遺言に「財産を○○に任せる」「全てまかせます」「すべてたくします」「すべて委託します」のように,財産を与えるのか,管理や処理を頼むだけなのかがはっきりしない言葉が書かれている場合に,その遺言がどのように解釈されるかを扱う。
あわせて,このような遺言を示しても金融機関が預貯金の払戻しに応じない場合の対応と,遺言を作る側の注意点を整理する。
調査基準日は令和8年9月26日である。
条文はe-Gov法令検索で確認し,最高裁判例は裁判所ウェブサイトで確認した。
下級審の裁判例はいずれも裁判所ウェブサイトに掲載されていないため,判例秘書で判決文を確認した。

2 結論

①遺言の解釈では,文言を形式的に判断するだけでなく,遺言書の全記載との関連,遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などを考慮して,遺言者の真意を探究する(最高裁昭和58年3月18日判決)。
②「任せる」「託す」「委託する」は,言葉の本来の意味では「頼む」「預ける」に近く,それだけで財産を与える意味になるわけではない。
③それでも,遺言者と相手方の関係,世話の実情,生前の言動,遺言書のほかの記載等から,財産の全部又は預貯金を遺贈する趣旨,又は相続させる趣旨と解された裁判例が複数ある(大阪高裁平成25年9月5日判決,東京地裁令和2年11月16日判決,東京地裁令和4年11月10日判決)。
④他方で,財産や死後に関する言葉が無く,「二代目」と宣言したメモや,生前の財産管理等を任せる念書である可能性が残るとして,遺言として無効とされた裁判例もある(大阪高裁令和3年11月5日判決)。
⑤遺言として有効でも,遺産の分配方法を一任する旨の条項が遺産分割の方法の指定の委託と解され,委託の相手が包括受遺者であったために,その部分だけ無効とされた裁判例もある(東京地裁平成15年3月25日判決)。
⑥金融機関は,このような遺言だけでは払戻しに応じないことがある。
相続人全員の了解を書面で得るか,受遺者等が金融機関を被告として払戻請求訴訟を起こすこと等が考えられる。
⑦遺言を作る側は,「遺贈する」又は「相続させる」と書き,対象財産と遺言執行者を明記すれば,このような解釈の争いを避けやすくなる。

第2 遺言の解釈の基準
1 最高裁昭和58年3月18日判決

最高裁昭和58年3月18日第二小法廷判決(昭和55年(オ)第973号,集民138号277頁)について,裁判所ウェブサイトに掲載された裁判要旨は,次のとおりである。
「遺言の解釈にあたつては、遺言書の文言を形式的に判断するだけでなく、遺言者の真意を探究すべきものであり、遺言書の特定の条項を解釈するにあたつても、当該条項と遺言書の全記載との関連、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などを考慮して当該条項の趣旨を確定すべきである。」
本記事で紹介する大阪高裁平成25年9月5日判決と大阪高裁令和3年11月5日判決はこの判決を参照しており,東京地裁の令和2年11月16日判決,令和4年11月10日判決及び平成15年3月25日判決も同じ趣旨の一般論を述べたうえで判断している。

2 遺言で定められる事項は法律で決まっている

遺言は,法律が定める事項についてだけ効力を持つ。
財産に関して遺言でできる主なことは,次のとおりである。
①包括又は特定の名義で財産の全部又は一部を処分すること,すなわち遺贈(民法964条)
②共同相続人の相続分を定め,又はこれを定めることを第三者に委託すること(民法902条1項)
③遺産の分割の方法を定め,若しくはこれを定めることを第三者に委託すること(民法908条1項)
④遺言執行者を指定し,又はその指定を第三者に委託すること(民法1006条1項)
なお,遺産の分割の方法の指定として特定の財産を共同相続人に承継させる遺言は,民法1014条2項で「特定財産承継遺言」と呼ばれている。

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相続させる遺言に基づく相続登記を弁護士が代理する方法―申請人の選び方,添付情報,委任状,登記識別情報及び国籍等の申出(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 登記申請の前提となる法律関係1 相続開始時に直ちに承継する2 登記をしなければ第三者に対抗できない3 申請義務と期限4 遺言の作成日で遺言執行者の権限が分かれる第3 弁護士が登記申請を代理できる根拠1 弁護士法3条1項と司法書士法73条1項2 東京高裁平成7年11月29日判決3 法務省の取扱いと実務上の注意第4 誰を申請人とするか1 受益相続人の単独申請を弁護士が代理する方法2 遺言執行者が申請する方法3 二つの方法の比較第5 受任したときに確認すること1 遺言書2 受益者と相続関係3 不動産の特定と登記記録4 他の相続人が先に登記をしていないか第6 添付情報1 添付情報の一覧2 出生から死亡までの戸籍は要らない3 原本の還付第7 申請書の書き方1 受益相続人の単独申請を弁護士が代理する場合2 遺言執行者が申請する場合第8 委任状の書き方1 委任事項2 押印と印鑑証明書3 登記識別情報を受け取るための特別の委任第9 登録免許税1 税率と計算2 免税措置は申請書に書かないと受けられない第10 申請の方法1 書面申請2 オンライン申請(特例方式)第11 登記が完了した後第12 関連記事第13 出典1 法令2 裁判例3 法務省・法務局の資料4 その他
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,特定の不動産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言(民法1014条2項の特定財産承継遺言)がある場合に,その不動産の相続による所有権移転登記を,弁護士が代理人として申請する方法を扱う。
以下,遺言によって不動産を取得した相続人を「受益相続人」という。
調査基準日は令和8年9月26日である。
条文はe-Gov法令検索で,最高裁判例は裁判所ウェブサイトで全文を確認し,東京高裁平成7年11月29日判決は判例秘書で全文を確認した。
申請書・委任状の記載は,法務局が公表している記載例を基礎にしている。

「相続させる」遺言の性質,判例の流れ及び遺言執行者の権限の実体法上の整理は,相続させる遺言と特定財産承継遺言――違い,効力,登記及び遺言執行者の権限で扱っている。
本記事は,その整理を前提に,登記申請の実務に絞って説明する。

本記事の申請書・委任状の説明は,遺言で指定された受益相続人が遺言どおりに不動産を取得する場合を対象とする。相続人全員が最初の協議で別の相続人を取得者とする場合は,協議の民事上の効力と登記原因・申請経路を別に確認する必要があり,本記事の記載例をそのまま使えない。特定財産承継遺言と異なる最初の全員協議の登記原因と課税関係では,さいたま地裁平成14年2月7日判決の射程と税務上の未確定事項を整理した。

2 結論

①弁護士は,弁護士法3条1項に基づき,相続登記の申請を代理人として行うことができる。
②弁護士が関与する申請の形は,受益相続人の単独申請を任意代理する方法,弁護士自身が遺言執行者として申請する方法,遺言執行者から委任を受けて申請する方法の三つである。
③遺言執行者による申請は,令和元年7月1日以後に作成された遺言に限られる。
④添付情報は,遺言書,被相続人の死亡の記載のある戸籍,受益相続人が相続人であることが分かる戸籍,住民票の写し,委任状等であり,被相続人の出生から死亡までの戸籍は要らない。
⑤委任状には受益相続人の記名押印が要るが,印鑑証明書は要らない。
⑥登記識別情報を弁護士が受け取るには,委任状に受領の特別の委任を書く。
⑦令和8年10月5日以後に申請する場合は,受益相続人の「国籍等」も申請情報とし,国籍等を証する情報を提供する。

第2 登記申請の前提となる法律関係
1 相続開始時に直ちに承継する

最高裁平成3年4月19日第二小法廷判決(平成元年(オ)第174号,民集45巻4号477頁)は,特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言は,遺贈と解すべき特段の事情がない限り,遺産分割の方法を指定したものと解すべきであるとした。
そして,特段の事情のない限り,何らの行為を要せずして,被相続人の死亡の時に直ちに相続により承継されるとした。
そのため,登記原因は「相続」であり,原因日付は,遺言書の作成日ではなく,被相続人の死亡日である。

登記実務は,平成3年判決より前から,特定の不動産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言書を添付してする「相続」を原因とする所有権移転登記の申請を認めていたとされる(昭和47年4月17日民事甲第1442号民事局長通達とされるもの。遺産分割の方法を指定する旨の遺言公正証書を添付した申請についても,昭和47年8月21日民事甲第3565号民事局長回答があるとされる。)。
本記事では,この2件の原典を確認できておらず,司法書士事務所のウェブサイトにおける紹介によっている。
同じウェブサイトは,この形の遺言は,遺産分割協議を経ずに特定の遺産を特定の相続人に承継させたいという遺言者の要望に応えるため,公証実務で考案されたものと説明している。
いずれにしても,受益相続人は,遺産分割協議書を添付することなく,遺言書を添付して単独で相続登記を申請することができる。

2 登記をしなければ第三者に対抗できない

民法899条の2第1項は,相続による権利の承継は,遺産の分割によるものかどうかにかかわらず,法定相続分を超える部分については,登記その他の対抗要件を備えなければ第三者に対抗することができないと定める。

(続きを読む...)相続させる遺言に基づく相続登記を弁護士が代理する方法―申請人の選び方,添付情報,委任状,登記識別情報及び国籍等の申出(AI作成)

法定相続情報一覧図の申出書の書き方と窓口持参―郵送交付・原本返却・代理人申出(AI作成)

目次第1 申出書・一覧図・添付書面を分けて考える第2 申出先の法務局を選ぶ第3 申出書を書く1 申出人・被相続人・利用目的2 必要通数と受取方法3 日付と一覧図の作成日第4 窓口持参と郵送交付を区別する1 申出方法と受取方法は別に選ぶ2 窓口持参・郵送交付の場合3 窓口受取の場合第5 戸籍等の原本と本人確認資料をそろえる1 戸籍・除籍・住民票等2 申出人の本人確認資料3 返却される書類と返却されない書類第6 弁護士等が代理して申し出る場合第7 任意の戸籍チェック表を付ける場合1 法定の添付書面ではない2 記載する内容3 記載しない内容と綴じる位置第8 窓口へ持参する前の点検表第9 出典・参考資料

法定相続情報一覧図の申出では、法務局へ書類を持参する方法と、審査後に一覧図の写し及び戸籍等の返却を郵送で受ける方法とを組み合わせることができる。
申出書の「窓口で受取・郵送」は、申出書をどう提出するかではなく、完成後の一覧図の写しと返却書類をどう受け取るかを選ぶ欄である。

本記事は、令和8年9月25日現在の不動産登記規則、法務局の現行申出書及び手続案内を前提に、窓口へ持参する場合の申出書の書き方、原本、本人確認、代理人書類及び任意の戸籍チェック表を整理する。
一覧図そのものの作り方は「法定相続情報一覧図の作成方法―戸籍謄本の読み方と相続人の確認」、前婚の子がいる場合は「前妻・前夫との子がいる場合の法定相続情報一覧図」を参照されたい。

第1 申出書・一覧図・添付書面を分けて考える

申出時に提出する書類は、大きく分けると、①法定相続情報一覧図の保管及び交付の申出書、②申出人又は代理人が作成した法定相続情報一覧図、③戸除籍謄本、住民票の除票、相続人の戸籍、本人確認資料等の添付書面である。
法務局は、戸籍の束を受け取って一から一覧図を作るのではなく、申出人側が作った一覧図と添付書面を照合する。

不動産登記規則247条は、申出書の記載事項と添付書面を定めている。
そのため、提出用の一覧図には法定の記載事項を記載し、戸籍の読み方、疑問点、相続分の計算、遺産分割の方針等を記した内部メモとは分ける。

法定相続情報一覧図は、戸籍上の法定相続関係を証明する制度であり、遺産分割の結果、相続放棄の有無、遺言の内容又は各財産の取得者まで証明するものではない。
利用先によっては、一覧図の写し以外に遺産分割協議書、相続放棄申述受理証明書、印鑑証明書等が必要になる。

第2 申出先の法務局を選ぶ

申出は、次のいずれかの地を管轄する登記所にすることができる(不動産登記規則247条1項)。

被相続人の死亡時の本籍地被相続人の最後の住所地申出人の住所地被相続人名義の不動産の所在地

被相続人名義の不動産所在地を選ぶ場合は、申出書に不動産所在事項又は不動産番号を記載する。
最寄りの法務局であれば常に受け付けられるわけではないので、上記4類型のいずれに基づく申出かを決め、管轄を確認する。

窓口へ持参する場合でも、法務局によっては手続案内や受付の予約を案内していることがある。
予約の要否、受付時間、交付までのおおよその日数は、申出先の登記所へ事前に確認するとよい。

(続きを読む...)法定相続情報一覧図の申出書の書き方と窓口持参―郵送交付・原本返却・代理人申出(AI作成)

清算型遺言の清算金から信託を設定する場合―遺言執行者・受託者・受益者の役割,受託者への引渡し,代替条項及び課税(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 この記事の対象と基準日2 結論の要約第2 「遺言信託」という言葉の二つの意味1 銀行サービスとしての遺言信託2 財産管理制度としての信託第3 信託を設定する方法と時期1 生前に設定した信託へ拠出する場合2 遺言による信託(信託法3条2号)の場合3 相続開始後に信託契約を締結する場合4 受託者となるべき者が引き受けない場合第4 遺言執行者・受託者・受益者の役割1 三者の根拠と任務2 同じ者が遺言執行者と受託者を兼ねる場合第5 相続開始から完了報告までの手順1 遺言執行者の就職と受託者の引受けの確認2 預貯金・有価証券の換価3 費用・債務・税金の留保額の確定4 受託者への指定額の引渡し5 残額の分配6 引継資料・通知・完了報告第6 遺言を作成するときに置いておく条項1 信託銀行が就職又は受託を辞退した場合の代替条項2 清算金が不足する場合の減額順序3 受益者の先死亡と判断能力の低下4 信託の終了と残余財産の帰属5 受益者が受益権を放棄する場合の代替条項第7 課税と信託業法1 信託に関する権利の相続税2 国税庁の質疑応答事例の位置付け3 換価による譲渡所得4 受託者と信託業法5 受益権放棄後の課税関係第8 出典1 法令2 裁判例3 所管行政機関の資料4 業界団体の解説・文献
第1 この記事の対象と結論
1 この記事の対象と基準日
(1) 想定する遺言

本記事は,遺言者が遺産を換価し,費用及び債務を支払った後の金銭(以下「清算金」という。)のうち一定額を信託の財産とし,残額を相続人又は受遺者に分配するよう定めた遺言を扱う。
例えば,「遺言執行者は,遺言者の預貯金及び有価証券を換価し,その換価金から遺言者の債務,遺言執行費用及び遺言執行者の報酬を控除した残額のうち,第○条に定める額をBに信託する。Bは,これをCの生活費等に充てるため管理し,Cに給付する。残額は,D及びEに各2分の1の割合で取得させる。」という形の遺言である(本記事で作成した一般的な例である)。
清算型遺言一般の実現方法,信託銀行が遺言執行者への就職を辞退した場合の手続及び換価による譲渡所得の帰属は,清算型遺言(財産を換金して分ける遺言)の実現方法で扱っており,本記事は,清算金の一部を信託へ回す場合に固有の問題を取り上げる。

(2) 資料と基準日

本記事は,令和8年9月25日時点でe-Gov法令検索に掲載されている信託法,民法,相続税法,信託業法等の条文,裁判所ウェブサイトに掲載された最高裁判所の判決,国税庁の質疑応答事例及び信託協会の公開資料に基づいて整理したものであり,AIを用いて作成した。
条文の文言から直接導けない部分は,「本記事では~と整理する」「~と考えられる」という形で示す。

2 結論の要約

①信託銀行が商品名として用いる「遺言信託」は,遺言書の保管や遺言の執行を中心とするサービスであり,その契約だけで信託法上の信託が設定されるわけではない。
②遺言で信託を設定する場合(信託法3条2号),信託は遺言の効力の発生によって効力を生ずる(同法4条2項)から,遺言執行者が受託者へ送金することは信託を成立させる行為ではなく,信託財産となる金銭を受託者に移転する遺言の執行である。
③受託者に指定された者は引受けを義務付けられず,引受けの催告に確答しなければ引受けをしなかったものとみなされる(信託法5条2項)から,予備的な受託者を遺言で定めておくことが考えられる。
④遺言執行者は,換価,費用・債務・税金の留保額の確定,受託者への引渡し及び残額の分配の順に執行し,計算書,振込記録,受領書及び完了報告を残す。
⑤清算金が予定額に足りない場合の減額順序,受益者の先死亡と判断能力の低下,信託の終了事由及び残余財産の帰属は,遺言で定めておかないと法律の補充規定や解釈に委ねられる。
⑥遺言による信託の受益者は,信託に関する権利を遺言者から遺贈により取得したものとみなされる(相続税法9条の2第1項)。

第2 「遺言信託」という言葉の二つの意味
1 銀行サービスとしての遺言信託

信託協会の解説ページは,「遺言信託」を,信託銀行等が遺言書作成の相談から遺言書の保管,遺言の執行までの相続手続を支援するサービスとして説明している。
このサービスの中核である遺言の執行は,金融機関の信託業務の兼営等に関する法律(以下「兼営法」という。)1条1項4号が,認可を受けた金融機関の営むことができる業務として掲げる「財産に関する遺言の執行」に当たる。
そのため,信託銀行と「遺言信託」の契約をしただけでは,遺言者の財産が受託者に移るわけではなく,信託法上の信託財産や受益権は生じない。
信託銀行の遺言信託を利用するときの費用や辞退の問題は,信託銀行の遺言信託を利用する遺言者と家族の注意事項で扱っている。

2 財産管理制度としての信託

信託法2条1項は,信託を,同法3条各号の方法により,特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分等をすべきものとすることと定義している。
信託財産は受託者に属する財産であり(同法2条3項),受託者は信託行為の定めに従い信託財産の管理又は処分等をすべき義務を負い(同条5項),受益者は受益権を有する(同条6項・7項)。
本記事で「信託」というときは,この信託法上の信託を指す。
銀行サービス,遺言による信託及び遺言代用信託の違い全般は,遺言信託の記事で説明している。

第3 信託を設定する方法と時期
1 生前に設定した信託へ拠出する場合

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遺言書を開示した信託銀行はいつ遺言執行者に就任するのか―指定,死亡通知,就職の審査,就職通知及び任務開始の違い(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 この記事の対象2 結論第2 指定から執行完了までの5段階1 5段階の整理2 信託銀行の公開案内での書き方第3 就職の承諾が任務開始の基準となること1 民法1007条の定め2 開示や資料提出は就職の承諾を意味しないこと第4 就職の承諾前でも相続人の処分は制限されること1 最高裁昭和62年4月23日判決2 承諾前でも制限される理由3 現行民法1013条2項ただし書4 制限が及ぶ範囲第5 相続人側が確認し,働きかけられること1 日付を分けて確認する2 民法1008条の催告3 辞退された場合の家庭裁判所による選任4 就職後の辞任には家庭裁判所の許可が必要であること第6 出典1 法令2 裁判例3 法務省の公表資料4 文献5 信託銀行及び業界団体の公開案内
第1 この記事の対象と結論
1 この記事の対象

信託銀行の遺言信託を利用した遺言者が亡くなると,信託銀行は保管していた遺言書を相続人等に開示し,その後,遺言執行者として相続手続を進めるのが一般的な流れである。
もっとも,遺言書で信託銀行が遺言執行者に指定されていても,遺言書を開示した時点で,その銀行が遺言執行者として任務を開始しているとは限らない。
本記事は,信託銀行がいつ遺言執行者に就任するのかを,民法の用語である「就職」を用いて,遺言書での指定,死亡連絡と遺言書の開示,就職の審査,就職の承諾と通知及び任務の遂行という段階に分けて説明する。
本記事は,令和8年9月25日時点でe-Gov法令検索に掲載されている民法の条文,裁判所ウェブサイトに掲載された最高裁判所の判決,法務省の公表資料,立案担当者の解説書並びに信託銀行及び信託協会の公開案内に基づいて作成した。

2 結論

遺言執行者として任務を行う義務が生じる基準は,遺言書の開示ではなく,指定された者が就職を承諾した時である(民法1007条1項)。
他方で,相続人が相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができないという制限(民法1013条1項)について,最高裁判所は,指定された者が就職を承諾する前であっても及ぶとしている(最高裁昭和62年4月23日第一小法廷判決)。
そのため,遺言書の開示から就職の承諾までの間は,信託銀行がまだ遺言執行者として執行事務を始めていない一方で,相続人も遺言の内容に反する処分を自由にはできない期間となる。
相続人側は,遺言書の開示日,就職を承諾した日,就職通知書の日付及び遺言の内容の通知を別々に確認し,就職の判断が長引く場合には民法1008条の催告を検討することになる。

第2 指定から執行完了までの5段階
1 5段階の整理

信託銀行が遺言執行者に指定された場合の流れを,本記事では次の5段階に整理する。
このうち②と③は,指定された信託銀行が就職を承諾する前の段階である。

段階主な出来事民法上の位置付け相続人側が確認すること①遺言書で指定遺言者が公正証書遺言で信託銀行を遺言執行者に指定し,銀行が遺言書を保管する遺言で遺言執行者を指定することができる(1006条1項)。遺言の効力は遺言者の死亡の時から生ずる(985条1項)遺言書の写し,遺言信託の約定書②死亡連絡・遺言開示通知人が死亡を連絡し,銀行が相続人等に遺言書を開示する就職の承諾前。ただし,相続人の処分の制限(1013条)は既に及ぶ開示を受けた日,開示を受けた相続人等の範囲③就職の審査相続人の確定,財産の変動,遺言内容の実現可能性を銀行が調査する就職の承諾前。承諾するか辞退するかの判断過程審査の見込み期間,提出を求められた資料④就職承諾・就職通知銀行が就職を承諾し,相続人に就職を通知する承諾により直ちに任務を行う義務が生じ(1007条1項),任務の開始時に遅滞なく遺言の内容を通知する(同条2項)就職を承諾した日,通知書の日付,遺言の内容の記載の有無⑤財産調査・換価・分配・完了報告財産調査,財産目録の作成・交付,換価・名義変更・分配,完了の報告財産目録の作成・交付(1011条1項),遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務(1012条1項)財産目録,執行の対象となる財産の範囲,費用

表の各段階は,次の2で紹介する信託銀行の公開案内に記載された流れを,民法の条文に対応させて並べたものである。
銀行ごとの手続の細部や所要期間は,遺言信託の約定書及び銀行からの個別の案内で確認することになる。
就職した後の財産目録,換価・名義変更,税務等の具体的な進み方は,信託銀行が遺言執行者に就任した後の手続とスケジュールで説明している。
①の段階で遺言者と家族が確認しておくべき費用や辞退の条件は信託銀行の遺言信託を利用する遺言者と家族の注意事項で,⑤の段階で株式・投資信託等を売却して分配する際の問題は遺言執行者が相続株式・有価証券を売却して分配する際の実務上の問題点で扱っている。
遺言で清算金の一部を信託へ拠出するよう定めている場合は,遺言執行者の就職とは別に受託者の引受けも確認する必要があり,その手順は清算型遺言の清算金から信託を設定する場合で説明している。

2 信託銀行の公開案内での書き方
(1) 開示と就職を別の項目にしている例

三菱UFJ信託銀行の「遺言信託[遺心伝心]」の手続の流れの案内は,遺言の執行の段階として「ご逝去のご通知」,「遺言書の開示」,「遺言執行者への就職」及び「財産調査へのご協力」を順に別の項目として掲げている。
同案内は,通知人から逝去の通知を受けると相続人等関係者に保管している遺言書を開示するとした上で,就職については「相続人確定・財産変動等、遺言内容の実現性を調査・確認のうえ、遺言執行者に就職いたします。」と記載している。
この案内の上でも,遺言書の開示と遺言執行者への就職の間には,相続人の確定や遺言内容の実現性の調査という段階が置かれている。

(2) 開示と就任を一つの項目にまとめている例

三井住友信託銀行の遺言信託の案内は,「遺言書のご披露と遺言執行者就任」を一つの項目とし,遺言書の内容を相続人・受遺者に披露した「その後」に遺言執行者に就任すると記載している。
信託協会の遺言信託の案内も,相続開始後の流れとして,信託銀行等が遺言書の内容を相続人などに披露し,遺言執行者となって執行業務を始めることを一つの項目で説明している。

(続きを読む...)遺言書を開示した信託銀行はいつ遺言執行者に就任するのか―指定,死亡通知,就職の審査,就職通知及び任務開始の違い(AI作成)

死亡保険金が特別受益に準じて持戻しの対象となる「特段の事情」―最高裁平成16年10月29日決定と下級審の肯定例・否定例(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 この記事の対象2 結論の要約第2 最高裁平成16年10月29日決定1 事案2 判示3 特段の事情の考慮要素4 当てはめ第3 下級審の判断例1 肯定例①:保険金が遺産の総額とほぼ同額だった例2 肯定例②:婚姻期間の短い妻が保険金を受け取った例3 否定例:保険金が遺産の6%余りにとどまった例4 3件の比較第4 持戻しの対象となった場合の計算第5 周辺の論点1 遺留分との関係2 相続税の扱いとは別の問題である3 受取人の変更の時期と経緯第6 主張・立証の進め方1 持戻しを求める側2 持戻しを争う側3 生前に保険を使って特定の相続人へ多く残したいとき4 受取人変更の有効性自体が争われる場合第7 出典1 法令2 裁判例
第1 この記事の対象と結論
1 この記事の対象
(1) 問題となる場面

被相続人が自分を保険契約者・被保険者とし,相続人の一人を死亡保険金受取人とする生命保険に加入していた場合,受取人になった相続人だけが多額の保険金を受け取り,他の相続人との間に不公平が生じることがある。
遺産分割の場面で,他の相続人がその保険金を特別受益として持ち戻すべきだと主張することは多い。
本記事は,最高裁判所がこの問題について示した判断の枠組みと,その後に持戻しを認めた例・認めなかった例を整理する。

(2) 本記事の資料と基準日

本記事は,令和8年9月25日時点でe-Gov法令検索に掲載されている民法・相続税法の条文,裁判所ウェブサイトに掲載された最高裁判所の裁判例及び判例秘書で全文を確認した下級審の裁判例に基づいて整理したものである。
下級審の3件はいずれも裁判所ウェブサイトに掲載されていないので,判例秘書の判例番号を併記する。

2 結論の要約

死亡保険金請求権は,受取人の固有の権利であり,原則として民法903条1項の特別受益に当たらない。
ただし,保険金受取人である相続人と他の相続人との間の不公平が到底是認することができないほど著しいと評価すべき特段の事情があれば,同条の類推適用により,保険金が特別受益に準じて持戻しの対象となる。
特段の事情の有無は,保険金の額,その額の遺産の総額に対する比率,同居の有無や介護等への貢献の度合いなどの被相続人との関係,各相続人の生活実態等を総合して判断される。
下級審では,保険金が遺産の総額とほぼ同額であった例と,婚姻期間の短い妻の特別受益額が遺産の約61%に当たった例で持戻しが認められ,遺産の6%余りにとどまり,受取人が被相続人と長年同居して入通院の世話をしていた例では認められなかった。

第2 最高裁平成16年10月29日決定
1 事案

最高裁判所第二小法廷平成16年10月29日決定(平成16年(許)第11号,民集58巻7号1979頁)は,両親(決定文では甲・乙)の遺産分割について,子の一人が受け取った死亡保険金が特別受益に当たるかが争われた事案である。
遺産分割の対象として残っていた土地の評価額は,第1審の鑑定の結果によれば合計1149万円であった。
受取人となった子は,乙を保険契約者・被保険者とする2口の養老保険について,合計約574万円(500万2465円と73万7824円)の死亡保険金を受け取っていた。
この子は,甲・乙のために自宅を増築して甲・乙を住まわせ,認知症の状態になった甲の介護を乙が行うのを手伝っていた。
他の子らは,両親と同居していなかった。

2 判示

同決定は,被相続人が自己を保険契約者及び被保険者とし,共同相続人の一人又は一部の者を保険金受取人と指定して締結した養老保険契約に基づく死亡保険金請求権は,保険金受取人が自らの固有の権利として取得するのであって,保険契約者又は被保険者から承継取得するものではなく,これらの者の相続財産に属するものではないとした。
また,死亡保険金請求権は,被保険者が死亡した時に初めて発生するものであり,保険契約者の払い込んだ保険料と等価関係に立つものではなく,被保険者の稼働能力に代わる給付でもないから,実質的に保険契約者又は被保険者の財産に属していたものとみることはできないとした。
その上で,死亡保険金請求権又はこれを行使して取得した死亡保険金は,民法903条1項に規定する遺贈又は贈与に係る財産には当たらないとした。

もっとも,同決定は,保険料は被相続人が生前保険者に支払ったものであり,被相続人の死亡により保険金受取人である相続人に死亡保険金請求権が発生すること等に鑑み,「保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には,同条の類推適用により,当該死亡保険金請求権は特別受益に準じて持戻しの対象となると解するのが相当である。」とした。

3 特段の事情の考慮要素

同決定は,特段の事情の有無について,「保険金の額,この額の遺産の総額に対する比率のほか,同居の有無,被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係,各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して判断すべきである。」とした。
同居の有無と介護等への貢献の度合いは,被相続人との関係を示す事情の例として挙げられている。

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余命宣告を受けた後に特定の相続人へ多くのお金を残す方法―一時払終身保険,遺言代用信託,生前贈与及び遺言の比較(非課税枠・特別受益・遺留分)(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 この記事の対象2 結論の要約第2 「生前に渡す」と「死亡時に渡す」の区別1 生前に渡す手段は贈与である2 死亡時に確実に渡す手段第3 終身保険を使う場合1 死亡保険金は受取人の固有の権利である2 相続税の非課税枠3 原則として特別受益に当たらない4 原則として遺留分の算定にも入らない5 余命宣告を受けた後に加入できるか6 既に加入している保険の受取人を変更する第4 遺言代用信託を使う場合1 仕組み2 相続税に非課税枠はない3 特別受益と遺留分4 遺言代用信託が向いている場面第5 生前贈与を使う場合1 暦年課税の贈与と加算期間2 相続時精算課税3 民法上の扱い第6 数値例による比較1 前提2 比較表第7 手段の選び方1 比較の一覧2 組合せの例3 余命宣告を受けた後に急ぐべきこと第8 出典1 法令2 裁判例3 所管行政機関の解説4 商品資料
第1 この記事の対象と結論
1 この記事の対象
(1) 問題となる場面

余命宣告を受けた人が,同居して介護をしてくれた子,障害のある子,配偶者等,特定の相続人に他の相続人より多くのお金を残したいと考えることがある。
その手段としては,終身保険(特に保険料を一度に払い込む一時払終身保険)の保険金受取人をその相続人にする方法,信託銀行の遺言代用信託(例えば三菱UFJ信託銀行の「ずっと安心信託」)を使う方法,生前贈与をする方法及び遺言を書く方法が考えられる。
本記事は,これらの手段を,相続税の非課税枠,特別受益,遺留分,余命宣告後に実際に利用できるか等の観点から比べる。

(2) 本記事の資料と基準日

本記事は,令和8年9月25日時点でe-Gov法令検索に掲載されている民法・保険法・相続税法・租税特別措置法・信託法の条文,裁判所ウェブサイトに掲載された最高裁判所の裁判例,判例秘書で確認した下級審の裁判例,国税庁のタックスアンサー並びに保険会社及び信託銀行が公表している商品資料に基づいて整理したものである。
商品の内容(加入年齢,金額の上限,手数料等)は改定されることがあるので,申込みの前に最新の約款と商品概要を確かめる必要がある。

2 結論の要約

特定の相続人に多く渡すことが目的であれば,保険に加入できる限り,被相続人が保険契約者・被保険者・保険料負担者となり,その相続人を死亡保険金受取人とする終身保険が有利である。
死亡保険金は受取人の固有の権利であり,相続人が受け取る死亡保険金には「500万円×法定相続人の数」の非課税枠があり,原則として特別受益にも遺留分の算定にも入らないからである。
ただし,余命宣告を受けた後は告知が必要な保険には通常は加入できず,告知不要型の一時払終身保険でも,入院中の人や余命宣告を受けた人の申込みを引き受けないと明記している商品が多い。
そのため,余命宣告を受けた後は,既に加入している保険の受取人を変更できないかを先に確かめるべきである。
遺言代用信託は,死亡後すぐに指定した相続人へお金を渡す手段としては有用であるが,非課税枠はなく,特別受益や遺留分の対象となる可能性があるので,多く渡す手段としては保険より弱い。
生前贈与は,相続開始前の一定期間の贈与が相続税の計算に加算され,民法上も特別受益や遺留分の算定の対象となるので,余命宣告を受けた後の手段としては効果が小さい。

第2 「生前に渡す」と「死亡時に渡す」の区別
1 生前に渡す手段は贈与である

存命中にまとまったお金を相続人に渡せば,それは贈与であり,贈与税と,相続開始前の贈与の加算の問題が生じる。
民法上も,生計の資本としての贈与は特別受益となり得る(民法903条1項)。
詳しくは第5で説明する。

2 死亡時に確実に渡す手段

終身保険と遺言代用信託は,どちらも生前に手配しておき,本人の死亡時に指定した相続人へお金が届く仕組みである。
遺言も死亡時に効力を生じるが,遺言執行や遺産分割の手続を経るので,預貯金を受け取るまでに時間がかかることがある。
「生前にまとまったお金を渡したい」という相談の多くは,実際には「生きているうちに手配して,死亡したら確実に特定の相続人へ渡したい」という意味であるから,本記事では主に死亡時に渡す手段を比べる。

第3 終身保険を使う場合
1 死亡保険金は受取人の固有の権利である

保険法42条は,「保険金受取人が生命保険契約の当事者以外の者であるときは、当該保険金受取人は、当然に当該生命保険契約の利益を享受する。」と定める。
最高裁判所第二小法廷平成16年10月29日決定(平成16年(許)第11号,民集58巻7号1979頁)は,被相続人が自己を保険契約者及び被保険者とし,共同相続人の一人を保険金受取人と指定した養老保険契約に基づく死亡保険金請求権について,保険金受取人が自らの固有の権利として取得するのであって,相続財産に属するものではないとした。

(続きを読む...)余命宣告を受けた後に特定の相続人へ多くのお金を残す方法―一時払終身保険,遺言代用信託,生前贈与及び遺言の比較(非課税枠・特別受益・遺留分)(AI作成)

遺言で換金して分けるとされた株式・投資信託を現物で受け取れるか―遺言の型,全員の合意,遺言執行者の権限及び税金(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 この記事の対象2 結論の要約第2 換金を指示する遺言の型1 遺産分割の方法として換金を指定する遺言2 清算型遺贈3 型を見分ける手掛かり第3 証券と換金の実務上の前提1 株式・投資信託は当然には分割されない2 被相続人名義の口座では売却しない3 遺言執行者の換金権限第4 現物で受け取るための要件1 相続人全員と受遺者全員の合意2 遺言執行者がいる場合3 遺言執行者がいない清算型遺贈4 価額の基準を合意する5 遺言の存在を知った上で合意したことを明らかにする6 清算金の一部を信託へ拠出する遺言の場合第5 税金の違い1 相続税と贈与税2 遺言執行者が換金した場合の譲渡所得3 現物で受け取って後で売る場合4 NISA口座の資産第6 手続の進め方1 協議前の確認2 協議書に書く事項3 関連記事第7 出典1 法令2 裁判例3 所管行政機関の解説・質疑応答及び研究資料4 文献
第1 この記事の対象と結論
1 この記事の対象
(1) 問題となる場面

遺言書に,「有価証券を売却し,その代金を長男と長女に2分の1ずつ相続させる」,「遺言執行者において一切の財産を換価し,債務と費用を控除した残額を甲・乙・丙に遺贈する」等と書かれていることがある。
相続人の側では,相場が下がっているので今は売りたくない,長期保有の株式をそのまま持ち続けたい,売却による税金を避けたい等の理由から,換金せずに株式や投資信託のまま受け取りたいと考えることがある。
本記事は,このような場合に現物で受け取ることができるか,誰の合意が要るか,遺言執行者の権限がどうなるか,税金がどう変わるかを整理する。

(2) 本記事の資料と基準日

本記事は,令和8年9月25日時点でe-Gov法令検索に掲載されている民法・所得税法・租税特別措置法の条文,裁判所ウェブサイトに掲載された最高裁判所の判決,国税庁の質疑応答事例,立案担当者の解説書及び実務書に基づいて整理したものである。
遺言と異なる遺産分割一般の要件と裁判例は,遺言と異なる遺産分割協議はできるかで詳しく説明している。

2 結論の要約

換金を指示した遺言があっても,相続人全員と受遺者全員が合意すれば,株式や投資信託を現物で受け取る内容の遺産分割をすることは可能と考えられる。
遺言執行者が就職している場合には,相続人及び受遺者全員の合意だけで換金の指示を変更するのではなく,遺言執行者を協議に加え,その明示の同意を得る必要があると考えるべきである。
証券会社がその方法による移管を受け付けるか,及び課税関係がどうなるかも,実行前に確認しなければならない。
遺言執行者がいない清算型遺贈では,遺贈を履行する義務を負う相続人全員の協力が要る。
税金の面では,遺言執行者が換金すれば,その譲渡所得を誰が申告するかが問題となり,現物で受け取って後で売れば,受け取った人が被相続人の取得費を引き継いで譲渡所得を申告することになる。

第2 換金を指示する遺言の型
1 遺産分割の方法として換金を指定する遺言

民法908条1項は,「被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、又は相続開始の時から五年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる。」と定める。
相続人に対して「株式を換金してその代金を2分の1ずつ相続させる」とする遺言は,遺産分割の方法として換価分割を指定したものと読める場合がある。

2 清算型遺贈

「遺言執行者において,不動産・有価証券・預貯金その他一切の財産を換価売却し,債務・費用を控除した残額を遺贈する」という遺言は,一般に清算型遺贈と呼ばれる。
実務書は,このような遺言は遺言執行者の権限が一切の財産に及ぶので包括遺贈の一種であると考えられるとした上で,実質的には遺言の効力発生時点において割合的包括遺贈の効力が発生しており,遺贈義務のみが法定相続人あるいは相続財産法人に帰属すると解釈し,換価売却して現金化してから遺贈義務を果たすのが清算型遺贈の本質であると考えるべきであるとしている(遺言・相続実務問題研究会編,野口大・藤井伸介編集代表『事案から学ぶ 履行困難な遺言執行の実務』日本加除出版,2023年,229頁~230頁)。
同書は,預貯金・有価証券・動産類については,遺言執行者の権限により預貯金を解約し,有価証券についても解約あるいは売却することにより換価作業を行えるとしている(同書231頁)。

3 型を見分ける手掛かり

次の点を遺言全文から確かめる。
①「相続させる」「遺贈する」「取得させる」のどの文言か
②換金の対象が特定の銘柄・口座か,一切の財産か
③換金の主体として遺言執行者が指定されているか
④代金の受取人が相続人だけか,相続人でない者を含むか

(続きを読む...)遺言で換金して分けるとされた株式・投資信託を現物で受け取れるか―遺言の型,全員の合意,遺言執行者の権限及び税金(AI作成)

遺言と異なる遺産分割協議はできるか―相続人・受遺者全員の合意,遺言執行者の同意,分割の禁止及び贈与税(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 この記事の対象2 結論の要約第2 遺言の型によって法律構成が変わる1 特定遺贈――受遺者が放棄すれば遺産に戻る2 包括遺贈――受遺者は遺産分割の当事者になる3 「相続させる」遺言――相続開始時に承継が済んでいる第3 合意に加わる人1 相続人全員2 受遺者3 相続人でない受遺者に財産を取得させる場合第4 遺言執行者がいる場合1 条文2 遺言執行者の同意を得た合意を有効とした裁判例3 遺言執行者の同意がない協議の扱い4 実務書の説明5 遺言執行者の立場と判断第5 遺言による分割の禁止第6 遺言の存在を知らずに協議した場合第7 税務・登記・金融機関の手続1 相続税と贈与税2 登記3 金融機関4 遺言による信託と受益権がある場合第8 手続の進め方1 協議前の確認2 協議書の書き方3 関連記事第9 出典1 法令2 裁判例3 所管行政機関の解説・質疑応答4 文献
第1 この記事の対象と結論
1 この記事の対象
(1) 問題となる場面

遺言書があるのに,相続人全員が,遺言とは違う分け方を望むことがある。
例えば,「全財産を長男に相続させる」という遺言があるが,長男も含めて母に自宅を残したい場合や,「株式を換金して分けよ」という遺言があるが,相続人が株式をそのまま受け取りたい場合である。
このような場合に,相続人全員の話合いで遺言と異なる遺産分割をすることができるか,誰の合意が要るか,遺言執行者がいるときはどうなるか,贈与税がかかるかが問題になる。

(2) 本記事の資料と基準日

本記事は,令和8年9月25日時点でe-Gov法令検索に掲載されている民法の条文,裁判所ウェブサイトに掲載された最高裁判所の判決,判例秘書に収録された下級審判決の全文,国税庁の質疑応答事例及び実務書に基づいて整理したものである。
東京地裁平成13年6月28日判決等は判例秘書の判例番号で特定する。さいたま地裁平成14年2月7日判決は,裁判所ウェブサイトで判決全文を確認した。

2 結論の要約
(1) 五つの確認事項

遺言と異なる遺産分割を検討するときは,次の順序で確認する。
①遺言が,特定遺贈,包括遺贈,「相続させる」遺言(特定財産承継遺言)のいずれに当たるか
②合意に加わる必要がある人は誰か(相続人全員のほか,受遺者を含むか)
③遺言執行者がいるか,いる場合にその同意を得られるか
④遺言で遺産の分割が禁じられていないか
⑤相続税・贈与税,登記及び金融機関の手続をどうするか

(2) 短い結論

相続人全員と受遺者全員が合意すれば,遺言と異なる内容で遺産を分けることは,実務上広く行われている。
遺言執行者がいない場合は,この合意だけで足りると整理されている。
遺言執行者がいる場合は,遺言執行者の同意を得て協議するのが安全である。
遺言執行者の同意がない協議の効力については,下級審の判断が分かれている。
国税庁が贈与税を課さないと回答したのは,特定の相続人へ遺産全部を与える遺言があり,相続人全員で異なる分割をした事例である。複数の条項を持つ遺言の一部を先に執行し,残る財産だけについて取得者を変える場合まで,同じ取扱いと断定することはできない。
申告期限までに協議が成立しない場合には,遺言によって取得者が確定した財産と真に未分割の財産を区別し,前者は原則として遺言どおり,後者は相続税法55条により申告する。

第2 遺言の型によって法律構成が変わる
1 特定遺贈――受遺者が放棄すれば遺産に戻る
(1) 条文

民法986条1項は,「受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも、遺贈の放棄をすることができる。」と定め,同条2項は,「遺贈の放棄は、遺言者の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。」と定める。
民法995条は,遺贈が放棄によってその効力を失ったときは,受遺者が受けるべきであったものは,遺言者が別段の意思を表示した場合を除き,相続人に帰属すると定める。

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特別寄与料の請求―請求できる親族とできない人,相手方と負担額,6か月・1年の期間制限及び相続税(AI作成)

目次第1 特別寄与料とは何か1 相続人ではない親族の貢献に報いる金銭請求2 寄与分との違い第2 請求できる親族と請求できない人1 被相続人の親族であること2 除かれる人3 相続人の配偶者が介護した場合第3 特別の寄与の要件1 無償の療養看護その他の労務の提供2 財産の維持又は増加3 「特別の寄与」の程度4 相続開始後の行為は含まれない第4 誰に,いくら請求できるか1 請求の相手方は相続人である2 相続人ごとの負担額3 遺言で相続分がないとされた相続人4 金額の決まり方と上限第5 期間制限と手続1 6か月と1年の期間制限2 協議,調停及び審判3 遺産分割とは別の手続である第6 相続税1 特別寄与料を受け取る側2 特別寄与料を支払う側第7 請求する側と請求される側の確認事項1 請求する側2 請求される側第8 関連記事第9 出典1 法令2 裁判例3 裁判所の資料
第1 特別寄与料とは何か
1 相続人ではない親族の貢献に報いる金銭請求

被相続人の親族が,無償で療養看護その他の労務を提供し,被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした場合,その親族は,相続の開始後,相続人に対し,寄与に応じた額の金銭の支払を請求することができる(民法1050条1項)。
この金銭を「特別寄与料」といい,請求する親族を「特別寄与者」という。
典型例は,亡くなった親の介護を長年担ってきた長男の妻のように,介護の担い手ではあったものの相続人ではない親族である。

本記事は,令和8年9月25日現在の法令及び確認できた裁判例に基づき,特別寄与料を請求できる人とできない人,請求の相手方と負担額,期間制限,手続及び相続税を整理するものである。
裁判所の特別の寄与に関する処分調停の案内のとおり,令和元年7月1日より前に開始した相続については,この申立てはできない。

2 寄与分との違い

相続人自身の貢献は,遺産分割の中で具体的相続分を修正する寄与分(民法904条の2)によって考慮される。
これに対し,特別寄与料は,遺産分割に参加して遺産の一部を取得する制度ではなく,相続人に対して金銭の支払を求める制度である。
特別寄与料が認められても,特別寄与者が土地の持分その他の遺産を当然に取得するわけではない。

項目寄与分特別寄与料主張できる人共同相続人相続人ではない被相続人の親族(相続放棄をした者,相続欠格者及び廃除された者を除く。)対象となる行為事業に関する労務の提供,財産上の給付,療養看護その他の方法(民法904条の2第1項)無償の療養看護その他の労務の提供に限られる効果遺産分割における具体的相続分の修正相続人に対する金銭の支払請求手続遺産分割の手続の中で主張し,審判では寄与分を定める処分の申立てが必要協議が調わなければ,家庭裁判所の特別の寄与に関する処分(調停・審判)期間相続開始から10年を経過した後の遺産分割では原則として考慮されない(民法904条の3)相続の開始及び相続人を知った時から6か月,相続開始の時から1年

寄与分の主張方法は,遺産分割における寄与分の主張方法―費用対効果・証拠・申立時期で扱っている。

第2 請求できる親族と請求できない人
1 被相続人の親族であること

特別寄与者は,被相続人の親族でなければならない。
親族とは,6親等内の血族,配偶者及び3親等内の姻族である(民法725条)。

子の配偶者は1親等の姻族であるから,長男の妻が義理の親を介護した場合は,親族の要件を満たす。
被相続人に子がいて兄弟姉妹が相続人とならない場合の兄弟姉妹,子が生存していて相続人とならない孫なども,親族に当たる。
後記第3の3の静岡家庭裁判所の審判も,被相続人の子2人が相続人である事案で,被相続人の弟が申し立てたものである。

他方,内縁の配偶者,友人,近所の人,事業者等は,親族ではないから,どれほど献身的に介護をしても特別寄与者にはならない。
相続人がいない場合の特別縁故者への財産分与(民法958条の2)は別の制度であり,相続人がいない場合の相続財産清算人で扱っている。

2 除かれる人

民法1050条1項は,特別寄与者から「相続人、相続の放棄をした者及び第八百九十一条の規定に該当し又は廃除によってその相続権を失った者」を除いている。
したがって,次の人は特別寄与料を請求できない。

① 相続人(自らの貢献は寄与分として主張する。)
② 相続の放棄をした者
③ 相続欠格者(民法891条)
④ 廃除によって相続権を失った者(民法892条,893条)

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信託銀行が遺言執行者に就任した後の手続とスケジュール―財産目録,換価・名義変更,債務,税務及び相続人の協力(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論第2 最初に分ける四つの担当領域第3 相続開始後の手続とスケジュール1 死亡通知から就職まで2 就職後から財産目録まで3 名義変更・換価から完了報告まで第4 銀行の財産目録と全遺産は一致しない1 三つの財産範囲2 目録に載ることと銀行が処理することは別である第5 預貯金・有価証券の換価と名義変更1 遺言の内容が出発点となる2 換価の時期と価格3 現物で受け取る場合の準備第6 不動産登記と遺言作成日の確認第7 債務・税務・保険等は別工程で管理する1 債務承継2 税務申告と納税資金3 保険・年金・家財等第8 相続人の協力が得られない場合第9 費用・追加財産・完了後の確認第10 弁護士が確認するチェックリスト第11 関連記事第12 出典・参考資料1 法令・法務省資料2 裁判例3 税務資料4 信託協会・金融機関の公式資料

信託銀行が遺言執行者に指定されている相続では,銀行へ死亡を連絡すれば,すべての相続手続が自動的に終了するわけではない。
銀行が扱う遺言執行,司法書士・税理士等へ依頼する手続,相続人又は受遺者が自ら行う手続を分け,法定期限と銀行の予定日を別々に管理する必要がある。

第1 本記事の対象と結論

本記事は,令和8年9月24日現在の法令及び公開資料に基づき,銀行又は信託銀行が商品として提供する「遺言信託」のうち,相続開始後に信託銀行が遺言執行者へ就職する場面を扱う。
遺言によって信託法上の信託を設定する制度や,遺言のない相続について相続人全員から委任を受ける遺産整理業務とは異なる。

実務上の要点は,次の三つである。
第一に,遺言書で信託銀行が指定されていても,相続開始後の調査と就職承諾を経るまで,その銀行が遺言執行者として任務を開始したとは限らない。
第二に,銀行が調査・処理する「遺言執行対象財産」は,被相続人の全財産や相続税申告の対象財産と一致しないことがある。
第三に,債務承継,税務申告,紛争処理,保険金・年金等の請求は,銀行の遺言執行と別の担当者及び期限で進める必要がある。

特に,信託銀行から示される工程表では,「遺言開示」,「就職通知」,「財産調査」及び「財産目録交付」が一つの予定表に続けて記載されることがあるため,遺言書を開示した日を就職の日と誤解しやすい。
「遺言書の開示」,「遺言内容及び予定の説明」並びに「戸籍・財産資料の提出」は,通常,就職を判断する前の段階であり,これらが行われただけで信託銀行が遺言執行者に就職したとは限らない。
就職を承諾した日,就職通知書の日付及び任務開始の通知を,それぞれ別に確認する必要がある。
就職に至るまでの段階と,就職の承諾前でも相続人の処分が制限される関係は,遺言書を開示した信託銀行はいつ遺言執行者に就任するのか―指定,死亡通知,就職の審査,就職通知及び任務開始の違いで説明している。

第2 最初に分ける四つの担当領域
担当領域主な内容確認事項信託銀行(就職前の指定された銀行)死亡の受付,遺言の開示,資料の確認,遺言内容の実現可能性の審査,就職の判断就職承諾の有無及びその日付,審査の見込み期間,辞退した場合の対応信託銀行(就職後の遺言執行者)就職通知,執行対象財産の調査・目録作成,預貯金等の解約・売却・名義変更,換価代金の管理・清算・分配,完了報告遺言書及び約定上の対象財産,対象外業務,費用,予定日司法書士相続・遺贈による不動産登記その他の登記申請誰が委任者になるか,登録免許税及び司法書士報酬税理士準確定申告,相続税申告,換価後の譲渡所得等申告義務,資料の受渡し,納税資金及び各期限相続人・受遺者又は弁護士債務承継,保険金・年金等の請求,公共料金等の口座変更,遺留分・遺言無効その他の紛争銀行の対象外であることを前提に,担当者と期限を別に置く

この表は一般的な整理であり,具体的な担当範囲は,遺言書,信託銀行との約定,最新の手数料規定及び各専門職との委任契約によって確認する必要がある。

第3 相続開始後の手続とスケジュール
1 死亡通知から就職まで

遺言者が死亡したときは,あらかじめ定めた死亡通知人又は家族が,遺言書を保管する信託銀行へ連絡する。
銀行は,遺言書を開示し,相続人・受遺者,財産の変動,後日付の遺言の有無及び遺言内容の実現可能性等を調査した上で,遺言執行者への就職を判断する。

民法1007条1項は,指定された者が就職を承諾したときは直ちに任務を行うことを定め,同条2項は,任務を開始したときは遅滞なく遺言の内容を相続人へ通知することを定める。
これとは別に,民法1008条は,相続人その他の利害関係人が相当の期間を定めて就職承諾の有無を確答するよう催告できることを定めている。

銀行の就職判断を待つ間も,相続放棄・限定承認は原則として自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月,準確定申告は原則4か月,相続税申告・納付は原則10か月という別の期限が進む。
銀行の工程表に記載された目標日と法律上の期限を同じ欄で管理してはならない。

2 就職後から財産目録まで

就職後は,戸籍等による相続関係の確認,遺言執行対象財産の調査,残高証明書等の取得,不動産及び金融商品の手続準備へ進む。
民法1011条1項は,遺言執行者に対し,遅滞なく相続財産の目録を作成して相続人へ交付することを求める。

もっとも,遺言が特定の財産に関する場合,民法1014条1項により,民法1011条から1013条までの規定はその財産についてのみ適用される。
三菱UFJ信託銀行の現在の公開案内も,調査及び財産目録の対象を「遺言執行対象財産」に限ると説明している。

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家族の「違和感」と服薬・介護記録は遺言能力の証拠になるか―介護者負担と回顧バイアスを踏まえた評価(AI作成)

◯山中弁護士への事件のご相談・ご依頼は「遺言・相続のお問い合わせ」から可能です。

家族が「最近,何かおかしい」と感じたことや,服薬を家族が管理していたことは,遺言能力を検討する重要な端緒になります。しかし,家族の印象や「薬を一人で飲めなかった」という一事から,直ちに遺言能力の有無を決めることはできません。観察された具体的行動を,遺言日に近い時期の診療・看護・介護・薬局等の業務記録と照合し,別の原因でも説明できないかを検討する必要があります。

目次

第1 結論―家族の違和感は「入口」であり,それだけで結論にはならない
第2 遺言能力は遺言時・遺言内容ごとに判断する
第3 家族の供述を「具体的行動」に分解する

1 抽象的評価と観察事実を分ける
2 利害関係,回顧バイアス及び介護者負担を点検する

第4 診察室の受け答えと日常生活上の機能を照合する
第5 服薬失敗・家族管理には複数の原因がある

1 本人側・治療側・介護側の原因を分ける
2 介護者負担と服薬継続に関する研究の読み方

第6 証拠価値が高い記録と集め方
第7 法律相談・証拠保全のチェックリスト
第8 準備書面では両方向の仮説を検討する
第9 出典・参考資料

第1 結論―家族の違和感は「入口」であり,それだけで結論にはならない

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外国籍・国外財産がある相続と遺言―国際裁判管轄・準拠法・反致・遺言方式(AI作成)

目次第1 最初に五つの問題を分ける第2 日本の裁判所に国際裁判管轄があるか第3 相続の準拠法と反致1 相続は被相続人の本国法による2 反致は外国法の抵触規則まで確認する第4 遺言の成立・効力と方式を分ける第5 国外財産は現地手続を別に確認する第6 受任時の資料と確認表第7 実務上の注意点第8 一次資料と確認状況
第1 最初に五つの問題を分ける

外国籍の被相続人,国外居住の相続人又は国外財産がある相続事件では,次の五つを分けて検討する必要がある。

① 日本の裁判所に国際裁判管轄があるか
② 日本国内のどの家庭裁判所又は地方裁判所が管轄するか
③ 相続又は遺言の成立・効力にどの国の実質法を適用するか
④ 遺言の方式がどの国の法に適合すれば有効か
⑤ 財産所在地国で名義変更,検認,遺産管理又は税務手続が必要か

日本の裁判所が手続を行うことと,日本民法が相続関係を規律することは同じではない。
また,日本法上有効な遺産分割協議書又は審判があっても,外国の不動産登記,金融機関又は裁判所がそのまま受け付けるとは限らない。

第2 日本の裁判所に国際裁判管轄があるか

家事事件手続法3条の11は,相続に関する審判事件について,相続開始時に被相続人の住所が日本国内にある場合を基本的な管轄原因とする。
住所がない又は知れない場合の居所,さらに一定の場合における日本国内の最後の住所も規定しているため,住民票だけでなく,生活の本拠を示す居住,家族,職業,資産及び在留関係の資料を確認する。

国際裁判管轄が日本にあることが分かっても,国内土地管轄は別に決める。
遺産分割審判は相続開始地を管轄する家庭裁判所が基本であり,遺産の範囲又は所有権を争う民事訴訟とは手続が異なる。詳細は,遺産分割調停・審判の管轄,移送と自庁処理(AI作成)で説明している。

国外財産があることだけで,日本の家庭裁判所の国際裁判管轄が当然に失われるわけではない。
反対に,日本国内に財産があることだけで,あらゆる相続審判について日本の管轄が当然に生じるとも限らない。申立ての種類と家事事件手続法3条の11の各要件を対応させる必要がある。

第3 相続の準拠法と反致
1 相続は被相続人の本国法による

法の適用に関する通則法36条は,相続は被相続人の本国法によると定める。
したがって,被相続人が外国籍である事件では,相続人の範囲・順位,相続分,遺留分に相当する制度,相続の承認・放棄及び遺産の承継方法について,原則としてその外国法の内容を確認する。

「日本に長く居住していた」「財産の大半が日本にある」「相続人が全員日本人である」という事情だけから,日本民法が当然に適用されるとはいえない。
重国籍,地域により法が異なる国及び人的に法が異なる国については,通則法38条及び40条に従い,本国法としてどの法を選ぶかを先に確定する。

2 反致は外国法の抵触規則まで確認する

通則法41条は,当事者の本国法によるべき場合に,その国の法に従えば日本法によるべきときは,日本法によると定める。これが反致である。
反致を判断するには,外国の相続実体法だけでなく,その国の国際私法又は抵触法を確認しなければならない。

外国法が,動産は被相続人の住所地法,不動産は所在地法とするなど財産ごとに準拠法を分けている場合,日本にある財産について日本法への反致が成立することがある。
ただし,国名だけから一律に結論を出してはならない。外国法の改正日,施行日,地域差,国籍・住所・常居所の定義及び個別の財産分類を一次資料又は現地専門家により確認する必要がある。

第4 遺言の成立・効力と方式を分ける

通則法37条は,遺言の成立及び効力を,その成立当時における遺言者の本国法によるとする。遺言の取消しについては,取消し当時の本国法も問題となる。

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相続した非公開会社株式の議決権行使―準共有株式・会社法106条・決議取消し・後続決議(AI作成)

被相続人が保有していた非公開会社の株式は,遺産分割が終わるまで共同相続人の準共有となる。相続人の一人が株式全部について単独で議決権を行使しても,会社が認めさえすれば有効になるとは限らない。

本記事では,会社法106条の権利行使者,準共有者間の意思決定,決議取消し及び後続総会が開かれた場合の訴えの利益を整理する。

目次
第1 遺産分割前の株式は準共有となる
第2 会社法106条の権利行使者
第2の2 準共有者の原告適格
第3 会社の同意だけでは足りない
第4 持分価格の過半数で決める
第5 株主総会決議取消し
第6 後続総会と訴えの利益
第7 会社側・相続人側の実務対応
第8 出典・関連記事

第1 遺産分割前の株式は準共有となる

相続人が複数いる場合,相続財産は遺産分割まで共同相続人の共有に属する。株式も同様であり,各相続人が株式数を法定相続分どおりに当然取得するのではなく,一株ごとに準共有する状態になる。

そのため,株主名簿に被相続人の氏名が残っているかだけでなく,相続人の範囲,法定相続分,遺言,遺産分割の有無及び会社への通知を確認する。

第2 会社法106条の権利行使者

会社法106条本文は,株式が二人以上の共有に属するときは,共有者が権利を行使する者一人を定め,会社へその氏名又は名称を通知しなければ,株式についての権利を行使できないと定める。

権利行使者は株式の所有者になる者ではなく,準共有者全体を代表して株主権を行使する者である。会社へ通知した後も,議決権,配当,株主提案その他の権利について,準共有者間の意思決定が問題となる。

準共有者の原告適格は別に確認する

株式の準共有持分を有することと,会社訴訟を提起できる原告適格があることは同じではない。最高裁平成2年12月4日第三小法廷判決(平成元年(オ)第573号・民集44巻9号1165頁)は,旧商法203条2項の権利行使者の指定・通知を欠く共同相続人は,特段の事情がない限り,株主総会決議不存在確認の訴えの原告適格を有しないとした。

同判決は不存在確認訴訟についての判例であり,具体的な訴訟類型と現行会社法の条文を確認する必要がある。それでも,準共有株式をめぐる会社訴訟では,①原告適格,②訴えの利益,③本案の取消事由・無効又は不存在を順に分け,持分保有だけで①を即断しないことが重要である。

第3 会社の同意だけでは足りない

会社法106条ただし書は,会社が同意した場合の例外を置く。しかし,会社が任意に選んだ相続人へ議決権行使を認めれば常に適法になるという規定ではない。

最高裁平成27年2月19日第一小法廷判決(平成25年(受)第650号・民集69巻1号25頁)は,権利行使者の指定・通知を欠く場合,議決権行使が民法の共有に関する規定に従ったものでなければ,会社が同意しても適法にならないとした。

会社側は,出席者が相続人であることだけで受け付けず,遺産分割の有無,権利行使者の指定資料,準共有者の持分及び意思決定方法を確認する必要がある。

会社の同意の効果と,その議決権行使が適法かは分ける。
会社法106条ただし書による同意は本文の指定・通知の規律を外すものであり,民法の共有に関する意思決定まで代替するものではない。
共有者間の意思決定を欠くため議決権行使が不適法となる場合にも,そのことと会社の同意自体が効力を生じないことを同一視しない。

第4 持分価格の過半数で決める

(続きを読む...)相続した非公開会社株式の議決権行使―準共有株式・会社法106条・決議取消し・後続決議(AI作成)