第1 死亡診断書が弁護士実務で問題となる場面1 この記事の対象と基準時2 死亡診断書が関わる四つの場面第2 交付義務,記載事項及び死体検案書との使い分け1 医師法19条2項の交付義務と罰則の不存在2 記載事項及び様式3 死亡診断書と死体検案書の使い分け4 医師法20条ただし書の「24時間」の意味第3 死亡届,火葬許可証及び記載事項証明書1 届出期限,届出義務者及び届出地2 診断書又は検案書を得られないとき3 原本は手元に残らない第4 記載事項が紛争で持つ意味1 死亡時刻の記載と同時死亡の推定2 死因の記載構造3 死因の種類の区分4 保険金請求における主張立証責任5 証拠力と反証の方法第5 医師法21条の異状死体届出義務1 「検案」の意義と届出義務者の範囲2 自己負罪拒否特権との関係3 医療事故調査制度との関係第6 訂正,死因等の変更及び虚偽記載1 誤記の訂正と死因等の確定・変更報告2 虚偽記載の刑事責任3 情報通信機器を用いた死亡診断と電子的作成第7 依頼者からの聴取事項と資料収集出典・参考資料1 法令2 裁判例3 行政資料4 文献
第1 死亡診断書が弁護士実務で問題となる場面
1 この記事の対象と基準時
この記事は,弁護士が死亡診断書又は死体検案書に接する場面を想定し,交付義務,記載事項の意味,死亡届及び火葬許可との関係,医師法21条の届出義務並びに資料収集の方法を整理するものである。
医学的な死因判定の当否そのものではなく,法令上の枠組みと,事案の見通しを立てるために確認すべき事項に主眼を置く。
記載は,令和8年8月30日現在のe-Gov法令検索の条文,裁判所ウェブサイトに掲載された裁判例及び厚生労働省が公表している令和8年度版の記入マニュアルによる。
2 死亡診断書が関わる四つの場面
第1に,戸籍手続である。
戸籍法86条2項は,死亡の届書に死亡の年月日時分及び場所等を記載し,診断書又は検案書を添付しなければならないと定めている。
死亡診断書は死亡届の添付書類として戸籍への死亡の記載と火葬許可の前提になり,民法882条により相続が開始する時点を示す資料としても機能する。
第2に,相続である。
死亡時刻の記載は,複数人が死亡した事案において相続の先後を決する場面で意味を持つ。
第3に,給付請求である。
死因及び死因の種類の記載は,生命保険金の請求,労働者災害補償保険の業務起因性の判断,交通事故における損害賠償の各場面で,当事者の主張の出発点になる。
第4に,医師又は医療機関の責任である。
死体に異状があると認めたときの警察署への届出義務(医師法21条)と,死亡診断書の記載の当否は,医療事故の刑事責任と直接に結び付く。
第2 交付義務,記載事項及び死体検案書との使い分け
1 医師法19条2項の交付義務と罰則の不存在
医師法19条2項は,「診察若しくは検案をし,又は出産に立ち会つた医師は,診断書若しくは検案書又は出生証明書若しくは死産証書の交付の求があつた場合には,正当の事由がなければ,これを拒んではならない」と定めている。
死亡診断書の交付は,この規定に基づく医師の義務である。
もっとも,この義務には罰則が伴わない。
医師法33条の3第1号が罰則(50万円以下の罰金)の対象とするのは,6条3項,18条,20条,21条,22条1項及び24条の違反であり,19条は列挙されていない。
そのため,交付義務の履行を直接に強制する手段は限られており,交付が得られない事案では,後記第3の2の代替手段の検討へ移ることになる。
交付が得られない背景には,死亡と診療との関係の評価や,死体の異状の有無の判断があることが多い。
依頼者からの聴取に当たっては,交付されない理由を医師がどのように説明しているかを具体的に確認しておくとよい。
2 記載事項及び様式
医師法施行規則20条1項は,医師は,その交付する死亡診断書又は死体検案書に,次に掲げる事項を「記載し,署名しなければならない」と定め,13の事項を列挙している。
すなわち,①死亡者の氏名,生年月日及び性別,②死亡の年月日時分,③死亡の場所及びその種別,④死亡の原因となった傷病の名称及び継続期間,⑤④の傷病の経過に影響を及ぼした傷病の名称及び継続期間,⑥手術の有無並びに手術が行われた場合の部位,主要所見及び年月日,⑦解剖の有無及び解剖が行われた場合の主要所見,⑧死因の種類,⑨外因死の場合の追加事項,⑩生後1年未満で病死した場合の追加事項,⑪診断又は検案の年月日,⑫当該文書を交付した年月日,⑬当該文書を作成した医師の所属する病院等の名称及び所在地又は医師の住所並びに医師である旨である。
同条2項は,これらの記載が第四号書式によらなければならないとしている。
「死亡したところ」の欄には,種別を選択したうえで,その住所が記載される。
(続きを読む...)弁護士のための死亡診断書の実務―交付義務,死因・死亡時刻の記載,異状死体の届出及び証拠収集(AI作成)