目次
第1 この記事の対象と既存記事との役割分担1 令和元年7月1日以後に開始した相続を扱うこと2 旧法と変わった点と変わらなかった点3 既存記事との役割分担第2 遺留分を算定するための財産1 条文と算式2 相続人に対する贈与が10年に限られたこと3 負担付贈与と不相当な対価第3 遺留分を請求できる人と割合1 遺留分を請求できる人2 総体的遺留分と個別的遺留分3 相続人の組合せごとの遺留分割合4 複数の子・直系尊属、代襲相続及び養子5 相続放棄、相続欠格及び廃除6 相続開始前の遺留分放棄第4 遺留分侵害額1 民法1046条2項の算定式2 寄与分が反映されないこと3 承継債務を加算すること
4 死亡保険金の取扱い第5 遺留分侵害額請求を受けた側の確認事項1 回答前に保存する資料2 請求額を検証する順序3 受遺者・受贈者の負担限度と負担順序4 遺留分権利者承継債務を弁済した場合5 裁判所による期限の許与6 分割払いの合意と事実上の分割払い第6 遅延損害金と期間制限1 権利行使と履行請求を区別する2 遅延損害金の利率3 民法1048条の期間と発生後の金銭債権の時効4 請求を受けた側の回答順序第7 現物で解決する場合の課税1 代物弁済と譲渡所得2 相続税の更正の請求と修正申告第8 新法の解釈を示した裁判例がほとんどないこと第9 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 公的資料4 文献
第1 この記事の対象と既存記事との役割分担
1 令和元年7月1日以後に開始した相続を扱うこと
民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成30年法律第72号)の附則第2条は「この法律の施行の日(以下「施行日」という。)前に開始した相続については、この附則に特別の定めがある場合を除き、なお従前の例による。」と定める。
遺留分に関する改正規定は同法附則第1条ただし書の各号に掲げられておらず、法務省が公表する原則的な施行期日である2019年7月1日から施行された。
したがって、被相続人の死亡日が令和元年7月1日以後であれば、金銭の支払を求める遺留分侵害額請求として処理する。
判定の基準は相続開始日であって、判決の年でも権利行使の年でもない。
逆に、判決が令和6年や令和7年であっても、相続開始が施行日より前であれば旧法の遺留分減殺請求として処理される。
2 旧法と変わった点と変わらなかった点
改正の中心は、権利の性質が物権的効果から金銭債権へ変わったことである。
民法1046条1項は「遺留分権利者及びその承継人は、受遺者…又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる」と定める。
その結果、旧法で最も誤りが生じやすかった減殺率の分母の選択という問題は、計算の手順から消えた。
もっとも、変わらなかった部分も多い。
基礎財産の算式(1043条1項)は旧1029条とほぼ同文であり、負担の順序(1047条1項各号)も旧1033条から1035条までと同じ構造である。
遺留分の放棄に関する1049条は旧1043条と同文で、第2項の「共同相続人の一人のした遺留分の放棄は、他の各共同相続人の遺留分に影響を及ぼさない」という規律も維持されている。
実質的に変わったのは、後述する贈与の加算期間、負担の限度の条文化、価額弁償に代わる期限の許与の4点に整理できる。
3 既存記事との役割分担
旧法の計算方法そのものは旧法の遺留分減殺請求の計算方法―基礎財産・侵害額・減殺率と判例タイムズ1345号の計算シートで扱っている。
減殺の順序は旧法の遺留分減殺請求の順序―遺贈・死因贈与・生前贈与と通知の先後、遺産の評価時点は旧法事案の遺留分減殺請求における遺産の評価基準時で扱っている。
この記事は新法の金額の算定過程に絞り、旧法との違いが実務にどう表れるかを併せて示す。
1年・10年の期限,内容証明による通知,交渉,調停,訴訟及び必要書類は,遺留分侵害額請求の期限と手続―内容証明・交渉・調停・訴訟・必要書類で扱っている。
第2 遺留分を算定するための財産
1 条文と算式