相続登記の申請や所有者不明土地の相続人調査では,被相続人の死亡時期が明治31年から昭和22年までの間にさかのぼることが少なくない。この時期に開始した相続については,現行の民法ではなく,当時の民法(以下「旧民法」という。)に基づいて相続人を特定しなければならない。本記事は,旧民法が適用される相続について,適用法の判定,家督相続と遺産相続の区別,及び新民法附則に置かれた経過措置(家督相続人の不選定,家附の継子の相続権)を,現行法として確認できる条文と裁判例に即して整理し,相続人の特定に当たって確認すべき事項を示すものである。旧民法の個別の条番号のうち現行法令として取得できないものは条文を掲げず,制度の枠組みとして説明する。
目次
第1 旧民法が適用される相続と本記事の射程
1 相続人の特定に適用する法は相続開始時の法である
相続人が誰であるかは,その相続が開始した当時に施行されていた法によって定まる。この点について,現行の民法附則(昭和22年法律第222号による改正に伴うもの)第25条第1項は,「応急措置法施行前に開始した相続に関しては,第二項の場合を除いて,なお,旧法を適用する」と定めている。
また,同附則第4条は,改正後の民法(新法)を施行前に生じた事項にも適用するとしつつ,「旧法及び応急措置法によつて生じた効力を妨げない」と定めており,旧法の下で開始し効力を生じた相続関係を新法が覆すものではないことを明らかにしている。
これらの規定によれば,被相続人が旧民法の施行期間中に死亡していれば,その相続による権利の移転(相続登記)を現在の手続で行う場合であっても,相続人の特定には旧民法を適用しなければならない。したがって,実務では,まず被相続人の死亡時期を戸籍によって確定し,その時期に施行されていた法を選択することが出発点になる。
2 旧民法・応急措置法・新民法の時代区分
相続に関する法の適用時期は,大きく三つに分かれる。第一は,旧民法の親族編及び相続編が施行されていた明治31年7月16日から昭和22年5月2日までである。第二は,日本国憲法の施行に伴う民法の応急的措置に関する法律(昭和22年法律第74号。以下「応急措置法」という。)が適用された昭和22年5月3日から同年12月31日までである。第三は,家制度を廃止した現行の相続法(新法)が施行された昭和23年1月1日以後である。
本記事が扱うのは,第一の旧民法期に開始した相続を中心としつつ,これと連続する経過措置が問題となる第二・第三の時期である。なお,応急措置法自体の条文は,e-Gov法令検索の現行法令には収録されていないため,本記事では応急措置法の条番号を掲げず,現行の民法附則が応急措置法の施行前後で相続の扱いを区分している限度で言及する。
第2 旧民法における相続の二本立て
1 家督相続
旧民法は,家を単位とし,家の統率者である戸主の地位を1人が承継する家督相続と,戸主でない家族の財産を承継する遺産相続とを区別していた。家督相続は,戸主の死亡だけでなく,隠居や入夫婚姻など,戸主が生前にその地位を失う事由によっても開始した。現行の民法附則第7条が「応急措置法施行前に隠居又は入夫婚姻による戸主権の喪失があつた場合には,なお,旧法第七百六十一条の規定を適用する」と定めていることは,家督相続が死亡以外の事由によっても開始したことを,現行法上も前提としている一例である。
家督相続人は,原則として1人であり,戸主の地位及びこれに伴う権利義務を包括的に承継した。誰が家督相続人となるかについては,家族である直系卑属の中から一定の順序で定まる場合(法定の家督相続人)のほか,戸主による指定や親族による選定によって定まる場合があった。これらの具体的な順序を定める旧民法の条文は現行法令として取得できないため,本記事では条番号を掲げないが,相続登記の場面では,戸籍の記載から,家督相続人が誰と定まったのかを丁寧に読み取る必要がある。
2 遺産相続
これに対し,遺産相続は,戸主でない家族が死亡したときに,その家族の財産についてのみ開始する相続であった。家督相続と異なり,遺産相続人は複数となることがあり,その場合の相続財産は共同相続人の共有に属した。
遺産相続については,戸籍上,誰が遺産相続人であるかが当然に記載されるわけではないため,被相続人の出生から死亡までの戸籍及び関係する戸籍の記載を総合して,相続人を特定する必要がある。この点は,現在の相続登記において相続人を確定する作業と共通する。
3 二本立ての区別が相続登記に与える影響
同じ旧民法期の相続であっても,被相続人が戸主であったか家族であったかによって,適用される相続の類型(家督相続か遺産相続か)が異なり,相続人の範囲と登記の内容が変わる。したがって,相続登記の前提として,被相続人が死亡当時に戸主であったか否かを戸籍で確認することが不可欠である。
戸主として戸籍の筆頭に記載されていた者であっても,隠居等によって既に戸主でなくなっていた場合には,その死亡について開始するのは家督相続ではなく遺産相続である。戸籍の身分事項欄の記載(隠居,入夫婚姻,家督相続の届出等)を時系列で追い,死亡時点の身分を確定することが必要である。
第3 昭和22年5月3日以後の相続と現行法附則の経過措置
1 応急措置法期の相続の位置づけ
昭和22年5月3日の日本国憲法の施行に伴い,応急措置法により,戸主,家族その他の家に関する規定及び家督相続に関する規定が適用されなくなった。もっとも,旧民法そのものが同日に廃止されたわけではなく,家に関する規定を除く部分は,新法が施行される昭和23年1月1日まで効力を有していた。
応急措置法の条文はe-Gov法令検索の現行法令には収録されていないため,本記事ではその条番号を掲げない。応急措置法期に開始した相続の相続人及び相続分の詳細を条文に即して確認する必要がある場合には,官報又は当時の法令集など,応急措置法の本文を収録した資料に直接当たることが必要である。
2 家督相続人が選定されなかった場合の処理
旧民法期に家督相続が開始したものの,家督相続人が選定されないまま新法の施行を迎える場合がある。この点について,民法附則第25条第2項は,「応急措置法施行前に家督相続が開始し,新法施行後に旧法によれば家督相続人を選定しなければならない場合には,その相続に関しては,新法を適用する」と定めている。
すなわち,家督相続の開始という事実は旧民法期に生じていても,家督相続人の選定という手続が新法施行後に必要となる場合には,その相続については新法(現行の共同相続)が適用されることになる。同項ただし書は,相続の開始が入夫婚姻の取消し,入夫の離婚又は養子縁組の取消しによるときの取扱いを別に定めている。
この規定は,戸籍上,旧民法期に戸主が死亡し又は家督相続が開始した旨の記載があっても,直ちに旧法による家督相続として処理してよいとは限らないことを示している。家督相続人が選定されたかどうかを戸籍で確認し,選定がされていない事案では新法の適用を検討する必要がある。
3 応急措置法施行中に開始した相続と分配請求権
民法附則第27条第1項は,附則第25条第2項本文の場合を除き,「日本国憲法公布の日以後に戸主の死亡による家督相続が開始した場合には,新法によれば共同相続人となるはずであつた者は,家督相続人に対して相続財産の一部の分配を請求することができる」と定めている。日本国憲法の公布日は昭和21年11月3日であるから,この分配請求権は,同日以後に戸主の死亡によって開始した家督相続について問題となる。
同条第2項及び第3項は,この分配について当事者間の協議が調わないとき等に家庭裁判所(条文上は家事審判所)に対して協議に代わる処分を請求できること,及びその際に考慮すべき事情を定めている。もっとも,第2項ただし書は「新法施行の日から一年を経過したときは,この限りでない」と定めており,この請求には時的な限界が置かれていた。現在の相続登記の場面でこの分配請求権が実際に行使されることは想定しにくいが,過去にこの処分がされていた場合には,その結果が権利関係に反映されている可能性があるため,関係資料を確認する必要がある。
第4 家附の継子の相続権
1 嫡出子と同一の権利義務を有するための要件
旧民法特有の家制度に由来する相続上の地位として,「家附の継子」の相続権がある。民法附則第26条第1項は,「応急措置法施行の際における戸主が婚姻又は養子縁組によつて他家から入つた者である場合には,その家の家附の継子は,新法施行後に開始する相続に関しては,嫡出である子と同一の権利義務を有する」と定めている。
この規定の適用には,条文の文言に即して,次の点を確認する必要がある。第一に,応急措置法施行の際(昭和22年5月3日の時点)に戸主であった者が存在すること,第二に,その戸主が婚姻又は養子縁組によって他家から入った者であること,第三に,相続の対象となる継子がその家に元から属していた継子(家附の継子)であることである。これらの要件を満たす家附の継子は,新法施行後に開始する相続について,嫡出である子と同一の権利義務を有することになる。要件の該当性は戸籍の記載によって判断するほかないため,戸主が他家から入った経緯(婚姻又は養子縁組)と,継子が当該家に属していた事実を戸籍で確認することが前提となる。
2 分配請求権と適用除外
民法附則第26条第2項は,第1項の戸主であった者について応急措置法施行後新法施行前に相続が開始した場合には,前項の継子は相続人に対して相続財産の一部の分配を請求することができるとし,この場合に附則第27条第2項及び第3項を準用すると定めている。すなわち,相続の開始時期が応急措置法期にとどまる場合には,家附の継子は嫡出子と同一の相続分を当然に取得するのではなく,分配請求権という形で保護される。
さらに,同条第3項は,「前二項の規定は,第一項の戸主であつた者が応急措置法施行後に婚姻の取消若しくは離婚又は縁組の取消若しくは離縁によつて氏を改めた場合には,これを適用しない」と定めている。したがって,家附の継子の相続権を検討する際には,基準となる戸主が応急措置法施行後に離婚・離縁等によって氏を改めていないかを確認する必要があり,これに該当する場合には本条の適用がないことになる。
第5 相続分をめぐる留意点
1 相続分も相続開始時の法によって定まる
相続人が複数となる相続では,各相続人の相続分も問題となる。相続分は相続人の範囲と同様に相続開始時の法によって定まり,前記の民法附則第25条第1項が,応急措置法施行前に開始した相続に旧法を適用すると定めていることは,相続分についても同様に当てはまる。したがって,旧民法期に開始した遺産相続の相続分を,現行の民法第900条によって算定してはならない。
現行の民法第900条は,同順位の相続人が数人あるときの法定相続分を定め,同条第4号本文は,子等が数人あるときは各自の相続分を相等しいものとする。同条第1号は,子及び配偶者が相続人であるときの相続分を各2分の1と定めている。これらは新法施行後に開始した相続に適用される規定であり,旧民法期の相続には適用されない点に注意を要する。
2 非嫡出子の相続分に関する違憲決定の射程
非嫡出子の法定相続分については,最高裁判所大法廷平成25年9月4日決定・民集67巻6号1320頁が,嫡出でない子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1と定めていた民法第900条第4号ただし書前段の規定を,遅くとも平成13年7月当時において憲法第14条第1項に違反していたと判断した。この決定を受けて,同ただし書前段は平成25年の法改正により削除されており,現行の民法第900条第4号ただし書には,父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分に関する定めが残るのみである。
もっとも,この決定が対象としたのは現行の民法第900条第4号ただし書前段であり,その違憲判断は,同決定が明示するとおり,確定的なものとなった法律関係に影響を及ぼさないという時的な限界を伴う。旧民法期に開始した相続の相続分は,前記のとおり相続開始時の旧法によって定まるのであって,現行の民法第900条第4号ただし書前段が適用される場面ではない。したがって,旧民法期に開始した相続について,この違憲決定を直ちに援用して相続分を修正することはできず,当時の法に基づく相続分を前提に検討する必要があると考えられる。旧民法期の相続における非嫡出子の相続分の具体的な内容を条文に即して確認する必要がある場合には,当時の相続編の本文を収録した資料に直接当たることが求められる。
第6 実務上の確認手順
1 戸籍及び依頼者から確認すべき事項
旧民法期の相続を扱う場合,相続人の特定は戸籍の記載を基礎として行う。相続登記や所有者不明土地の相続人調査で確認すべき事項は,おおむね次のとおりである。
- ① 被相続人の死亡年月日と,その時点で施行されていた法(旧民法・応急措置法・新法のいずれか)
- ② 被相続人が死亡当時に戸主であったか,家族であったか(家督相続か遺産相続かの区別)
- ③ 戸主であった場合,家督相続人が誰と定まったか,又は選定がされていない事案でないか
- ④ 家附の継子の相続権が問題となる事案では,戸主が婚姻又は養子縁組によって他家から入った者であるか,継子が当該家に属していたか,及び当該戸主が応急措置法施行後に氏を改めていないか
- ⑤ 被相続人の出生から死亡までの戸籍及び関係する戸籍が連続して取得できているか
これらは,いずれも戸籍の記載を時系列で追い,身分行為の連続を確認することによって判断する。戸籍の保存期間の経過や滅失により一部の戸籍が取得できない場合には,取得できない範囲を明示した上で,相続人の範囲について残る不確実性を依頼者に説明しておくことが望ましい。
2 結論を左右し得る不確実な要素
旧民法期の相続では,制度の枠組みが現行法と大きく異なるため,戸籍の記載の読み方によって相続人の範囲が変わり得る。特に,家督相続人が選定されたか否か,家附の継子に該当するか否か,隠居等により死亡時に戸主でなくなっていなかったかといった点は,結論を左右する。これらの要素は,現行法令として取得できる条文だけでは判断が完結せず,旧民法の相続編・親族編の本文や体系的な実務書に当たって確認すべき場面がある。
個別の事案における相続人及び相続分は,戸籍に現れた具体的な身分関係によって異なる。本記事で整理した経過措置の要件に該当するか否かは,最終的には当該事案の戸籍によって確認する必要があり,その確認を経ずに結論を確定することはできない。
出典
1 法令
- 民法(明治29年法律第89号)。本記事で引用した附則第4条・第7条・第25条・第26条・第27条は,昭和22年法律第222号による改正に伴う附則の規定であり,いずれもe-Gov法令検索の民法の附則により条文を確認した。現行の民法第900条(法定相続分)及び第901条(代襲相続人の相続分)も同じくe-Gov法令検索により確認した。
- 民法施行法(明治31年法律第11号)第1条(民法施行前に生じた事項への民法不適用)。適用法が事項の生じた時点の法によることの一般的な根拠として参照した。
- 日本国憲法の施行に伴う民法の応急的措置に関する法律(昭和22年法律第74号)。応急措置法の存在及び定義は民法附則第3条により確認した。同法の本文は,e-Gov法令検索の現行法令には収録されていないため,本記事では条番号を掲げていない。
2 裁判例
- 最高裁判所大法廷平成25年9月4日決定(平成24年(ク)第984号,民集67巻6号1320頁)。民法第900条第4号ただし書前段の規定と憲法第14条第1項に関する判断。非嫡出子の相続分に関する違憲判断の対象及び射程を確認するために参照した。裁判所ウェブサイトの詳細ページを開き,裁判所名・裁判年月日・事件番号・掲載誌・判示事項が一致することを確認した。