目次
第1 この記事の対象と結論1 対象と調査基準日2 先に示す結論第2 懲戒請求者に議決書が届く仕組み1 懲戒請求は懲戒手続の端緒にとどまる2 議決書の写しが懲戒請求者に送られる理由3 手続の非公開と日本弁護士連合会による公表第3 議決書や懲戒手続の情報を公開して懲戒された例1 自らの懲戒請求の議決書を団体のホームページで公開させた例2 依頼者に議決書のネット公開を助言した例3 懲戒手続の進行をSNSに書き込んだ例と議決書を書証として出した例4 公告から読み取れる判断の要素第4 相手方弁護士への懲戒請求を働きかけた例1 別の弁護士らに懲戒請求を働きかけ,実費を負担した例2 懲戒請求の濫用で業務停止2月とされた例3 懲戒請求をほのめかして交渉を有利にする行為第5 最高裁平成19年4月24日判決と代理人弁護士の責任1 懲戒請求者の調査・検討義務2 懲戒請求書を作成した代理人弁護士の責任3 田原睦夫裁判官の補足意見第6 懲戒請求者と代理人弁護士が確認しておくこと1 議決書を公開・提出する前に2 弁護士が懲戒請求に関わるとき第7 関連記事第8 出典1 法令2 裁判例・弁護士懲戒3 日本弁護士連合会の会規・規則4 文献
第1 この記事の対象と結論
1 対象と調査基準日
(1) この記事で扱う場面
弁護士に対する懲戒請求をすると,弁護士会から綱紀委員会や懲戒委員会の議決書の写しが届くことがある。
本記事は,その議決書や懲戒手続の情報をインターネット等で公開した弁護士,依頼者に公開を助言した弁護士,及び相手方の弁護士に対する懲戒請求を働きかけた弁護士が懲戒された例を,日本弁護士連合会の機関誌『自由と正義』に掲載された公告の原本で確認して整理するものである。
(2) 調査基準日と氏名の扱い
法令は令和8年10月23日にe-Gov法令検索で確認した現行の弁護士法により,懲戒の公告は『自由と正義』2026年10月号までに掲載されたものを対象とした。
懲戒された弁護士の氏名は,本記事の目的に照らして省略し,掲載号と頁を示す。
2 先に示す結論
①懲戒請求は弁護士会の懲戒権の発動を促す申立てにとどまり,懲戒請求者は懲戒手続の当事者ではない。
議決書の写しが懲戒請求者に送られるのは,主に異議の申出をするかどうかを判断する資料とするためである。
②自らの懲戒請求の議決書を団体のホームページで公開させた弁護士,依頼者に議決書のネット公開を助言した弁護士,懲戒手続の進行をSNSに書き込んだ弁護士は,いずれも戒告とされている。
③相手方の弁護士に対する懲戒請求を別の弁護士らに働きかけ,実費まで負担した弁護士も戒告とされ,日本弁護士連合会は審査請求を棄却した。
④最高裁平成19年4月24日判決は,根拠を欠く懲戒請求が不法行為となる場合を示し,懲戒請求書を作成した代理人弁護士の不法行為責任も認めている。
第2 懲戒請求者に議決書が届く仕組み
1 懲戒請求は懲戒手続の端緒にとどまる
(1) 弁護士法58条の定め
弁護士法58条1項は,何人も,弁護士又は弁護士法人に懲戒の事由があると思料するときは,その事由の説明を添えて所属弁護士会に懲戒を求めることができると定めている。
懲戒請求があると,弁護士会は綱紀委員会に事案の調査をさせ,綱紀委員会が審査を求めることを相当と議決したときは,懲戒委員会が審査をする(同条2項~6項)。
(2) 懲戒請求者の地位
日本弁護士連合会調査室編『弁護士懲戒手続の研究と実務〔第3版〕』64頁は,懲戒請求を弁護士会の懲戒権の発動を促す申立てであり,懲戒権発動の端緒にすぎないとし,懲戒請求者に懲戒を求める権利を与えたものではないと説明している。
同書128頁も,懲戒請求者は懲戒手続の当事者としての地位を有しないと述べている。
2 議決書の写しが懲戒請求者に送られる理由
(1) 弁護士法が定める通知
弁護士法は,綱紀委員会や懲戒委員会が議決をしたときは,理由を付した議決書を作成しなければならないと定めている(弁護士法67条の2,70条の8)。
弁護士会は,懲戒しない旨の決定をしたときはその旨と理由を,懲戒したときは処分の内容と理由を,書面で懲戒請求者に通知しなければならない(弁護士法64条の7第1項2号,64条の6第2項)。
懲戒請求者は,懲戒しない旨の決定や,処分が不当に軽いと考える場合には,通知を受けた日の翌日から3か月以内に日本弁護士連合会に異議を申し出ることができる(弁護士法64条1項・2項)。
(2) 議決書の写しを添付する趣旨
前掲『弁護士懲戒手続の研究と実務〔第3版〕』147頁は,通知に議決書の写しを添付するのは,対象弁護士の防御権の行使や,懲戒請求者の異議の申出の判断資料に供するためであると説明している。