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弁護士倫理・懲戒

弁護士職務基本規程20条・21条・22条―依頼者の意思と弁護士の専門判断(AI作成)

目次第1 20条・21条・22条の関係1 独立,正当な利益及び意思尊重2 82条2項と具体的な説明・協議の規律第2 弁護士が専門判断をする範囲1 法律構成・書面の表現・証拠の選択2 委任の目的と範囲を確認する第3 依頼者の判断を求める事項1 和解の可否と基本的内容2 重要な条件変更と包括的な「お任せ」第4 証拠提出の希望と具体的な合意1 取捨選択の裁量と変更理由の協議2 特定書証の提出合意と意味のある利益第5 指示に従えない場合の説明と対応1 法的評価の相違と違法・不当な要求2 方針協議・追加相談・辞任時の対応第6 意思確認の方法と記録1 理解度に応じた説明と確認記録2 意思表明の補助,意思能力及び代理権第7 出典と関連する解説1 現行規程と第4版の参照頁2 説明・報告,家族同席及び刑事弁護
第1 20条・21条・22条の関係
1 独立,正当な利益及び意思尊重

弁護士は,依頼者の権利及び正当な利益のために,専門家として独立した判断をしながら職務を行う。
法律構成や書面の表現等の手段・方法に裁量があることと,和解をするかどうかやその基本的内容を説明して依頼者の意思を確認することは両立する。
「すべて任せる」という言葉だけで,重要な決定についての確認が一律に不要になるわけではない。

弁護士職務基本規程20条は,受任及び事件処理における自由と独立,21条は依頼者の権利及び正当な利益の実現,22条は委任の趣旨に関する依頼者の意思の尊重と意思確認を定める。
日本弁護士連合会弁護士倫理委員会編著『解説 弁護士職務基本規程』第4版55頁~67頁は,これらの規律を,依頼者との信頼関係,専門的な判断及び自己決定の保障という視点から説明している。
独立を依頼者の意思を無視する権限として理解することも,意思尊重をあらゆる要求への追従として理解することも適切ではない。

2 82条2項と具体的な説明・協議の規律

82条2項は,20条から22条までを行動指針又は努力目標を定めたものとして解釈し適用することを定める。
形式的な違反の指摘だけから,直ちに懲戒の結論を導くことはできない。
他方,依頼者への説明・情報提供や重要な方針の協議が不要となるわけではない。

29条は受任時の見通し,処理方法及び費用の説明等を,36条は事件の経過及び帰趨に影響する事項についての報告・協議を定める。
一般的な意思尊重の規律と,具体的な説明・協議の規律を対応させて,何を確認し,どの情報を伝えたかを検討する必要がある。
規程全体と82条は現行条文・主要論点の総合解説,29条・36条は説明義務・報告義務を参照されたい。

第2 弁護士が専門判断をする範囲
1 法律構成・書面の表現・証拠の選択

『解説』第4版56頁及び64頁は,弁護士の専門的裁量の例として,請求の法律構成,主張の表現及び証拠の取捨選択等を挙げる。
依頼者が自分の言葉をすべて書面に載せたいと希望しても,法律上の争点,裏付け及び相手方・裁判所への伝わり方を踏まえて,弁護士が表現や構成を提案することがある。
これは専門的判断の問題であり,直ちに依頼者の意思を無視した処理となるわけではない。

もっとも,裁量は委任の趣旨の範囲内で行使される。
依頼の目的と異なる解決を目指したり,権利の処分に関する重要な条件を,説明なしに変更したりしてよいという意味ではない。
専門判断によって希望した方法を採れないときは,依頼者が理由と代替案を理解できるように協議することが有用である。

2 委任の目的と範囲を確認する

依頼の初めには,どの紛争について,何を実現するため,どの業務を委任するのかを確認する必要がある。
相談のみ,交渉のみ,訴訟代理及び判決後の回収等では,依頼する業務が異なる。
包括的な表現を用いる場合も,対象事件と業務範囲が分かるようにし,費用の説明と対応させる。

次の表は,専門的な判断,本人による重要な決定及び権限確認を区別するための例である。
具体的な委任内容と手続に応じて判断する必要があり,すべての事件に共通する権限の一覧ではない。

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弁護士職務基本規程33条―法律扶助・訴訟救助の説明と受任判断(AI作成)

目次第1 33条の条文と説明の対象1 資力の乏しい依頼希望者への説明2 82条2項による位置付け第2 法律扶助と訴訟救助の違い1 無料法律相談・代理援助・書類作成援助2 裁判所への訴訟救助申立て第3 受任前に説明する事項1 制度の対象・審査と申込み先2 立替え・返済・免除と私選契約の費用差第4 受任の自由と制度説明1 支払能力の不足を理由とする受任判断2 受任しない場合の通知と相談先の案内第5 法テラス不利用の懲戒事例から分かること1 単位会の戒告と日弁連の不懲戒2 一律の利用義務を導かない第6 相談時に確認する事項とよくある疑問1 希望・資力・期限・費用負担の確認2 利用できない場合と他の選択肢第7 出典と関連する解説1 規程・解説書・公式制度案内2 受任通知・法テラス事例・報酬の解説
第1 33条の条文と説明の対象
1 資力の乏しい依頼希望者への説明

弁護士職務基本規程33条は,費用を負担する資力に乏しい者にも裁判を受ける機会が保障されるよう,事案に応じて法律扶助・訴訟救助等の制度を説明することを定める。
制度の説明,援助を利用できるかどうかの審査,弁護士が事件を受任するかどうかは,それぞれ別の問題である。
法テラスを利用すれば,弁護士費用が必ず免除されるわけでもない。

日弁連の現行規程における33条の本文は,次のとおりである。
「弁護士は、依頼者に対し、事案に応じ、法律扶助制度、訴訟救助制度その他の資力の乏しい者の権利保護のための制度を説明し、裁判を受ける権利が保障されるように努める。」

日本弁護士連合会弁護士倫理委員会編著『解説 弁護士職務基本規程』第4版134頁は,資力に欠ける依頼希望者に制度の内容を説明し,可能な限り利用を勧めるべきことを述べている。
支払能力の不足だけを理由とする単純な受任拒絶は,33条の趣旨に沿う態度とはいえないという説明である。
受任後の依頼者への案内だけに限定して捉えるべきではない。

2 82条2項による位置付け

82条2項は,33条を弁護士の職務の行動指針又は努力目標を定めたものとして解釈し適用することを定める。
制度説明が不十分だったという一点から,あらゆる事件で直ちに懲戒されるという関係ではない。
他方,努力目標であることは,制度説明を省いてよいという意味でもない。

費用の説明,委任契約の内容及び依頼者との協議には,29条・30条・36条等の具体的な規律も関係する。
33条の位置付けだけでこれらの問題を一括して処理せず,説明した内容と依頼者の希望,事件の進め方を確認する必要がある。
規程全体と82条については,弁護士職務基本規程の現行条文・主要論点を参照されたい。

第2 法律扶助と訴訟救助の違い
1 無料法律相談・代理援助・書類作成援助

法テラスの民事法律扶助業務の案内は,法律相談援助による無料相談と,代理援助・書類作成援助による弁護士・司法書士費用の立替えを区別している。
代理援助は代理人による手続の準備・追行等を支える制度であり,書類作成援助では本人が手続を行うことを前提に提出書類の作成を援助する。
相談が無料であることから,依頼後の費用もすべて無料になるとはいえない。

どの援助を利用できるかは,資力,事件の内容等についての審査による。
制度の対象と利用条件は援助の種類に応じて確認し,相談者が利用を希望していることだけから,援助決定や特定の弁護士による受任を約束しない。

2 裁判所への訴訟救助申立て

裁判所の訴訟費用についての案内は,資力の乏しい者のため,訴訟費用の支払を猶予する訴訟上の救助を説明している。
弁護士報酬を当然に無料にする制度として,法テラスの援助と混同してはならない。
対象費用,申立てに必要な資料及び要件を,具体的な裁判手続に即して確認する必要がある。

制度主な役割費用説明で区別する点法律相談援助要件を満たす者への無料法律相談無料相談と受任後の費用立替えは別である代理援助・書類作成援助弁護士・司法書士費用の立替え立替えは免除と異なり,返済・免除の条件を確認する訴訟上の救助裁判手続における費用の支払猶予等対象となる訴訟費用と弁護士報酬を区別する

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社内弁護士の転職と利益相反―企業・採用事務所の確認手順と令和3年最高裁決定(AI作成)

目次第1 転職と事件受任を別々に確認する第2 令和3年最高裁決定の射程1 57条違反と弁護士法25条1号違反を区別する2 情報遮断を適切と認めた決定ではない第3 採用する法律事務所の確認手順1 採用条件を決める前と事件受任前に照合する2 本人,同僚及び法人の規律を分ける3 情報遮断の運用を文書にする第4 送り出す企業と転職する弁護士の確認手順1 引継ぎと秘密保持を両立させる2 退職日に切り替える権限と保存する記録を決める3 退職時の秘密保持誓約書と転職・競業制限第5 元の社内弁護士が相手方代理人の事務所へ移ったと知った場合第6 確認票に残す事項第7 出典・関連記事1 確認した公開資料2 関連記事
第1 転職と事件受任を別々に確認する

企業で訴訟や法律相談を担当していた弁護士が法律事務所へ転職するときは,本人が担当できない事件と,移籍先の他の弁護士が担当できない事件を分けて確認する必要がある。
利益相反の確認は,転職者から以前の勤務先の秘密を聞き出すための手続ではない。
採用候補者,採用事務所及び送り出す企業が,それぞれの立場で必要な情報と確認時期を決めることが重要である。

最高裁令和3年4月14日第二小法廷決定は,弁護士職務基本規程57条違反だけを理由とする訴訟行為の排除を認めなかった。
ただし,採用と受任の組合せを適切と認めた決定ではない。
訴訟行為の効力,職務上の受任制限及び秘密保持をそれぞれ検討する必要がある。

本記事の法令・規程は令和8年10月4日に確認した。
以下の確認手順は,条文と裁判例を踏まえた運用上の提案であり,項目を満たせば必ず受任できるという判定基準ではない。

第2 令和3年最高裁決定の射程
1 57条違反と弁護士法25条1号違反を区別する

最高裁令和3年4月14日第二小法廷決定(令和2年(許)第37号)は,日弁連の会規である弁護士職務基本規程57条に違反するにとどまる場合,懲戒の原因となり得ることは別として,違反は訴訟行為の効力に影響しないと判断した。
相手方は,同条違反を理由として裁判所に訴訟行為の排除を求めることができないとしたのである。

これに対し,弁護士法25条1号は,相手方の協議を受けて賛助し,又はその依頼を承諾した事件について,弁護士本人の職務を禁止する。
同号違反については,昭和38年10月30日大法廷判決及び平成29年10月5日第一小法廷決定が,裁判所に訴訟行為の排除を求められる場合を認めている。
したがって,社内弁護士の転職があったという事情だけで結論を出さず,実際の訴訟代理人本人に法律上の禁止事由があるのか,他の所属弁護士との関係で57条が問題になるのかを特定する必要がある。

昭和38年判決は,違反を知り,又は知り得たのに異議を述べず,第二審の口頭弁論を終結させた場合には,後から無効を主張できないとも判断した。
弁護士法25条1号に関する疑いがある場合は,事実確認と対応方針の検討を訴訟の進行に合わせて行うことが重要である。

2 情報遮断を適切と認めた決定ではない

原審の知財高裁令和2年8月3日決定(令和2年(ラ)第10004号)は,秘密保持の誓約,電子フォルダのアクセス制限,メール宛先の限定,打合せ場所の指定及び記録の施錠保管などを検討した。
その一方,同じ執務室での口頭の情報伝達や補助職員の共通配置に着目し,情報遮断措置が十分であるとは認めなかった。

最高裁は,57条違反だけでは訴訟行為を排除できないとして,この原審決定を破棄した。
最高裁が情報遮断措置の十分性を認定したと読むことはできない。
補足意見も,採用を見合わせることなく事件を受任した行動が適切であったという判断を含むものではないと明示している。

原審の具体的な検討事項は,情報遮断の実効性を点検する材料となる。
しかし,破棄された原審の結論を現在の訴訟行為排除の基準として用いたり,最高裁が当該受任の適切性を確定したと説明したりすることはできない。

第3 採用する法律事務所の確認手順
1 採用条件を決める前と事件受任前に照合する

採用担当者は,候補者の担当業務と事務所の受任事件・相談事件を,秘密保持に配慮しながら照合する。

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弁護士との紛議調停―弁護士職務基本規程26条と報酬・預り金・事件処理の紛争(AI作成)

目次第1 弁護士とのトラブルで何を解決したいか1 説明・清算・責任追及を区別する2 対象は報酬の問題に限らない第2 弁護士法41条と職務基本規程26条1 調停を行う制度と弁護士の行動指針2 弁護士側からも申立てがあり得る第3 紛議調停・懲戒・訴訟の役割の違い1 紛議調停は話合いによる解決の手続である2 同じ出来事でも確認する事項が異なる第4 申立てや協議のために準備する資料1 経緯と求める解決を整理する2 資料を出す範囲と秘密保持第5 調停への努力と訴訟前置を区別する1 26条は一律の訴訟前置を定めたものではない2 申立てだけで解決努力が尽くされたとは限らない第6 他の弁護士との紛議と事務所内の問題1 73条の対象2 退所・分裂時の清算と依頼者への影響第7 相談先の確認と出典1 利用する弁護士会の公式案内を確認する2 主な出典
第1 弁護士とのトラブルで何を解決したいか
1 説明・清算・責任追及を区別する

弁護士に依頼した事件について,報酬の根拠が分からない,預り金が返還されない,事件処理の説明を受けられない,預けた書類の取扱いに納得できないといった問題が生じることがある。まず,説明を求めるのか,金銭や書類の返還を求めるのか,損害賠償や懲戒を求めるのかを整理することが重要である。

弁護士職務基本規程26条は,依頼者との信頼関係の保持と紛議の予防に努め,紛議が生じた場合には所属弁護士会の紛議調停による解決に努めることを定める。本記事は,日弁連弁護士倫理委員会編著『解説「弁護士職務基本規程」第4版』89頁~90頁,230頁~231頁及び249頁~250頁をもとに,制度の役割と準備資料を整理する。

2 対象は報酬の問題に限らない

第4版90頁は,報酬や預り金の清算のほか,職務の怠慢,弁護過誤及び預かった書類の取扱いなど,広い範囲の問題を挙げる。ただし,どの申立てを,どの手続で受け付けるかは,利用する弁護士会の現行規則と案内を確認する必要がある。

委任契約や報告の問題は,弁護士の説明義務・報告義務及び弁護士の事件記録の返還・保管・廃棄も参照されたい。

第2 弁護士法41条と職務基本規程26条
1 調停を行う制度と弁護士の行動指針

弁護士法41条は,弁護士の職務又は弁護士法人の業務に関する紛議について,弁護士,弁護士法人又は当事者その他関係人の請求により,弁護士会が調停を行うことができると定める。制度の対象は,弁護士と依頼者との紛争だけに限定されない。

これに対し,職務基本規程26条は,弁護士と依頼者との関係について,信頼関係と紛議の予防・解決への努力を定める。26条は82条2項に列挙され,行動指針・努力目標として解釈・適用される規定である。

2 弁護士側からも申立てがあり得る

第4版90頁は,弁護士が自ら申し立てた場合も,依頼者から申立てを受けた場合も,紛議調停による解決に努めるべきことを説明する。依頼者が弁護士への苦情を申し立てる場面だけの制度として理解するのは正確ではない。

弁護士側が報酬の支払や清算について申立てを行うこともあり得る。請求の根拠や額に争いがあるときは,契約と事件処理の経緯を示して,争点を整理する必要がある。

第3 紛議調停・懲戒・訴訟の役割の違い
1 紛議調停は話合いによる解決の手続である

第4版90頁は,紛議調停を,非公開の手続で和解のあっせんを行うものと説明する。弁護士会が判決や仲裁のように権威的な判断をして,一方の請求を当然に認める手続ではない。合意に至らなければ,不成立となることがある。

手続主な目的留意点紛議調停報酬・預り金・事件処理等について話合いで解決を図る合意を目指す手続であり,当然に返還や賠償が命じられるものではない懲戒弁護士の行為について懲戒事由の有無を審査する金銭の返還や損害賠償を命じる制度ではない民事訴訟報酬,返還,損害賠償等の法律上の請求を裁判で判断する請求の根拠,証拠及び各法律要件の検討が必要である
2 同じ出来事でも確認する事項が異なる

例えば,預り金から報酬を控除したという出来事でも,委任契約上の請求の根拠,清算・説明の経緯及び倫理上の評価は,分けて検討する必要がある。懲戒処分の有無だけから,返還請求や損害賠償の結論が決まるわけではない。

具体的な公表事例は,弁護士報酬の請求と懲戒を参照されたい。個別の処分例を,全ての報酬紛争に共通する料金基準として用いることはできない。

第4 申立てや協議のために準備する資料
1 経緯と求める解決を整理する

相談や申立ての前には,いつ,何を依頼し,どの説明を受け,何を支払い,どの点が未解決なのかを時系列で整理することが有用である。次の表は準備の例であり,特定の弁護士会の必要書類を網羅したものではない。

問題準備する資料の例明らかにしたい事項報酬委任契約書,費用の説明,請求書,領収書報酬の算定根拠,追加費用,支払済額預り金送金記録,入出金の説明,清算書預けた額,使用・控除の根拠,未返還額事件処理依頼内容,報告,裁判書類,連絡記録実施した業務,未実施事項,期限への影響書類・記録預けた資料の一覧,返還依頼,回答所在,返還の範囲,受渡しの方法

請求する金額や返還を求める書類は,できる限り特定する。「処分してほしい」という希望と,「未清算の金額を返してほしい」という希望は,利用する制度の選択に関わる。

2 資料を出す範囲と秘密保持

紛争解決のために資料を示す場合も,事件の相手方や第三者の情報を無制限に拡散してよいわけではない。提出先,必要な事項及び不要な情報を区別し,利用する手続での取扱いを確認する。

弁護士側も,自己の主張を説明する必要と,依頼者の秘密保持の関係を検討する必要がある。非公開の紛議調停であることだけを理由として,あらゆる秘密の開示が許されると扱うことはできない。

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法律事務所の利益相反チェックと事件情報の記録―弁護士職務基本規程59条・68条(AI作成)

目次第1 受任制限を確認する仕組みと受任可否の判断1 自分の担当事件だけを確認すれば足りるか2 チェックで一致した場合も個別判断が必要である第2 59条と68条の主体・対象の違い1 共同事務所の59条2 弁護士法人の68条第3 記録する情報と秘密を共有する範囲1 事件名だけで常に十分とはいえない2 確認に必要な情報と事件の詳細を分ける第4 検索・担当者・メール回覧と実施記録1 事務所の実態に合う方法を選ぶ2 「確認したこと」が後から分かる記録第5 新件相談・移籍・事務所統合で確認すること1 相談段階と受任段階2 移籍・統合時第6 受任後に制限が判明した場合1 判明した事情と適用条項を整理する2 依頼者への説明と他事件の秘密第7 出典と関連する解説1 主な出典2 関連する解説
第1 受任制限を確認する仕組みと受任可否の判断
1 自分の担当事件だけを確認すれば足りるか

共同事務所や弁護士法人では,自分が担当していない事件や,他の弁護士が取得した秘密が,受任可否の判断に関係する場合がある。弁護士職務基本規程59条・68条は,職務を行い得ない事件の受任を防止するため,事件情報の記録その他の措置を採るように努めることを定めている。

本記事は,日弁連弁護士倫理委員会編著『解説「弁護士職務基本規程」第4版』80頁,201頁~202頁,218頁~219頁及び249頁~250頁をもとに,確認に使う情報,秘密保持及び実施記録を整理する。以下の確認表は事務所運営のための提案であり,規程が指定する統一書式ではない。

2 チェックで一致した場合も個別判断が必要である

名称の一致は,詳しい確認を始める手がかりとなる。逆に,検索結果がないことだけで,受任制限が存在しないと結論付けることはできない。登録漏れ,同名者,名称変更,相談段階の関与,事件の関連性などを検討する必要がある。

受任制限そのものは,27条・28条の利益相反,共同事務所の56条・57条・58条及び弁護士法人の63条~67条を参照されたい。

第2 59条と68条の主体・対象の違い
1 共同事務所の59条

59条の主体は共同事務所の所属弁護士であり,他の所属弁護士と共同して,受任防止の措置に努める。第4版201頁は,共同事務所の規模や形態がさまざまであることから,記録に方法を限定せず,実態に応じた対応を可能にした規定と説明する。

2 弁護士法人の68条

68条の主体は弁護士法人である。法人の業務が制限される事件と,社員等又は使用人である外国法事務弁護士が職務を行い得ない事件の受任を防止するため,法人,社員等及び使用人である外国法事務弁護士の取扱い事件について,記録その他の措置に努める。

項目59条68条主体共同事務所の所属弁護士弁護士法人記録の例示取扱い事件の依頼者,相手方,事件名法人,社員等及び使用人である外国法事務弁護士の取扱い事件の依頼者,相手方,事件名方法記録その他の措置記録その他の措置解釈上の位置付け82条2項の行動指針・努力目標82条2項の行動指針・努力目標

措置の方法に柔軟性があることと,受任を禁じられた事件を受任してよいことは別である。59条・68条が努力規定であるという説明を,利益相反に関する禁止規定の免除として読むことはできない。

第3 記録する情報と秘密を共有する範囲
1 事件名だけで常に十分とはいえない

条文は依頼者,相手方及び事件名の記録を例示している。第4版201頁は,必要に応じて事案の概要を記録することが,より望ましい場合もあると説明する。何を追加するかは,受任制限の見落としを防ぐために必要かどうかを検討して決めることになる。

実務上は,同名者や法人の名称変更を区別できる情報,関係者の立場,関連する事件及び担当者などが確認の手がかりとなる場合がある。ただし,全ての事件で同じ情報を際限なく登録する趣旨ではない。

2 確認に必要な情報と事件の詳細を分ける

第4版80頁は,利益相反チェックのために必要な情報の開示について,秘密保持義務における正当な理由を認める。また,移籍・統合時の確認については,必要最小限の情報の開示を説明する。

この説明は,証拠全文,依頼者との通信,内部の評価を,全員へ無条件に開示してよいという意味ではない。誰が,どの受任制限を,どの情報で判断するのかを明らかにし,名称照合の記録と,詳細を確認するための事件記録へのアクセスを分けることが考えられる。

事件記録の返還・保管・廃棄と,受任防止用の情報の管理は目的が異なる。弁護士の事件記録の返還・保管・廃棄も参照されたい。59条・68条だけから,全ての事件記録の保存年数を一律に決めることはできない。

第4 検索・担当者・メール回覧と実施記録
1 事務所の実態に合う方法を選ぶ

第4版201頁は,検索システム,利益相反チェックの担当者及び新件概要のメール回覧などを紹介する。小規模な共同事務所と,多数の弁護士が所属する法人とでは,連絡の方法や見落としを防ぐ仕組みが異なり得る。

検索システムを使う場合も,誰が情報を登録・更新するのか,追加確認を誰へ回すのかを決める必要がある。回覧の場合も,受任判断に必要な相手方や関係者を示しつつ,秘密の共有を必要な範囲にとどめることが重要である。

2 「確認したこと」が後から分かる記録

第4版201頁~202頁は,メール回覧の記録が残っていないと,後日,実際に回覧したか分からなくなる問題を指摘する。実務上,次のような事項を残すことが考えられる。

記録の項目記録する内容目的確認日時・担当いつ,誰が確認したか実施経緯を確認する照合対象依頼者,相手方,事件名と必要な関連情報検索範囲の不足を点検する回答・追加確認回答者,結果及び追加で確認した事項未回答や不明事項を残さない受任判断該当条項,判断理由,条件及び担当者一致情報と法律判断を区別する変更後の確認新たな相手方・関係者,担当変更等受任後の事情変化に対応する

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弁護士の法令・事実調査―弁護士職務基本規程37条と調査範囲・依頼者説明(AI作成)

目次第1 37条は法令の調査と事実関係の調査を分けている1 この記事で扱う問題2 1項と2項の位置付け第2 法令調査では事件に適用される規定と期限を確認する1 現在の条文だけでは足りない場合2 期限と手続を調査の優先事項にする第3 事実調査の範囲は「必要かつ可能」を事件ごとに判断する1 依頼の目的と調査の重要性2 可能性を具体的に確認する第4 依頼者の説明と資料の食い違いを確認する1 聞き取りと客観資料を照合する2 確認不足と虚偽の認識を区別する第5 調査方法・費用・期限を依頼者と協議する1 協議すべき事項2 見通しが変わった場合第6 懲戒・損害賠償・AIの使用を分けて考える1 調査不足だけで結果を決めない2 AIの回答は調査結果として確認する3 否認請求への訴訟移行と不変期間の見落とし4 依頼者の非協力と不十分な破産・免責資料5 起訴後の告訴取消しに関する誤解と訂正第7 出典と関連する解説1 主な出典2 関連する解説
第1 37条は法令の調査と事実関係の調査を分けている
1 この記事で扱う問題

弁護士に事件を依頼したとき,どこまで調べてもらえるのか,依頼者の説明をそのまま主張に使ってよいのか,追加調査の費用をどう決めるのかが問題となる。弁護士職務基本規程37条は,法令の調査と事実関係の調査を分けて定めている。

本記事は,日弁連弁護士倫理委員会編著『解説「弁護士職務基本規程」第4版』140頁~142頁及び249頁~250頁と,日弁連が公表する規程をもとに,調査範囲と依頼者との協議を整理する。以下の確認表は,これらの規律を具体的な事件処理に用いるための整理であり,同書が一律に要求する書式ではない。

2 1項と2項の位置付け
規定対象と内容82条2項との関係37条1項事件処理に必要な法令の調査を怠らないこと行動指針・努力目標の対象として列挙されていない37条2項必要かつ可能な事実関係の調査に努めること行動指針・努力目標として解釈・適用する対象である

第4版141頁は,1項を法令調査に関する義務規定,2項を事実調査に関する努力規定と説明する。ただし,2項が努力規定であることから,必要な確認をしなくてもよいとはいえない。また,義務規定への形式的な違反があることだけで,直ちに懲戒処分の結論が決まるわけでもない。82条は,職務の多様性・個別性を踏まえた実質的な解釈・適用を求めている。

規程全体の位置付けは,弁護士職務基本規程の条文別索引及び82条の行動指針・努力目標を参照されたい。

第2 法令調査では事件に適用される規定と期限を確認する
1 現在の条文だけでは足りない場合

第4版141頁は,必要な範囲の法令調査で足りるとしつつ,調査対象には,現在効力を有する国内法令だけでなく,効力を失った旧規定や外国法令も含まれると説明する。

例えば,契約締結時や事故発生時の法律が問題となる事件では,現在の条文を読むだけでは足りない。改正の施行日と経過措置を確認し,どの時点の規定を適用するのかを明らかにする必要がある。外国法が関係する事件でも,日本法についての説明をそのまま当てはめず,適用法と調査方法を検討することになる。

2 期限と手続を調査の優先事項にする

調査結果が正しくても,必要な申立てや届出の期限を過ぎれば,権利を実現できなくなる場合がある。受任時には,既に進行している裁判・倒産手続,送達された書類,通知の受領日及び期限を確認し,調査と手続対応を並行して行うことが重要である。

ここでいう優先順位は事件処理上の整理であり,特定の期限についての法律判断を代替するものではない。各期限の起算点,期間の性質,必要な手続及び例外は,事件に適用される法令で個別に確認する。

第3 事実調査の範囲は「必要かつ可能」を事件ごとに判断する
1 依頼の目的と調査の重要性

第4版141頁~142頁は,依頼者の抱える全ての事実を際限なく調べることを求めているのではなく,依頼の趣旨と,依頼者の権利・正当な利益の実現という目的に照らして範囲を判断すると説明する。

争点に影響する事実なのか,現在の資料で確認できるのか,追加資料の取得によって結論や対応が変わり得るのかを検討する。依頼者が気にしているという事情だけでも,費用がかかるという事情だけでも,調査の要否を決めることはできない。

2 可能性を具体的に確認する

確認できない事項については,「調査済み」とせず,どの資料がなく,どの方法を試し,何がなお不明なのかを記録する。弁護士会照会などの調査手段も,対象,必要性,取得できる情報及び秘密・プライバシーとの関係を検討して用いる必要がある。

費用,期限,資料へのアクセスなどから調査に制約があるときは,その制約が事件の見通しに与える影響を依頼者へ説明する。必要な調査を省いたまま確実な結論を伝えることと,調査の限界を示して暫定的な見通しを伝えることは区別される。

第4 依頼者の説明と資料の食い違いを確認する
1 聞き取りと客観資料を照合する

第4版142頁は,容易な調査で事実が分かるのに確認を怠ることや,依頼者の説明をそのまま信じて調査せず,事実と異なる主張をすることに注意を促す。

契約書,取引履歴,メール,事故記録などが依頼者の説明と食い違う場合は,作成時期,記載の意味,前後の経緯及び不足資料を確認する。食い違いがあるだけで依頼者が虚偽を述べたと断定することも,説明を優先して資料を無視することも適切ではない。

2 確認不足と虚偽の認識を区別する

調査不足で誤った主張をする場面と,虚偽であると知りながら証拠を提出する場面は,検討すべき問題が異なる。75条の真実義務,提出後に虚偽が判明した場合の対応及び秘密保持との関係は,弁護士の真実義務と虚偽証拠で扱っている。

また,事実を確かめる必要があることは,違法な取得方法を正当化しない。証拠の取得経緯と弁護士の関与は,不当な依頼と違法な証拠収集も参照されたい。

(続きを読む...)弁護士の法令・事実調査―弁護士職務基本規程37条と調査範囲・依頼者説明(AI作成)

弁護士の紹介料・事務職員への歩合・他士業との連携―非弁提携を防ぐ契約確認(AI作成)

目次第1 契約の名前よりも紹介と役務の実態を確認する第2 弁護士法と職務基本規程の確認を分ける1 弁護士法72条と27条2 職務基本規程11条から13条まで第3 紹介料と広告費・会費を区別する1 弁護士が支払う場合と受け取る場合2 固定料金でも紹介の対価性を確認する第4 事務職員への歩合と他士業との連携を確認する1 給与という名目でも算定方法を確認する2 他士業との共同作業と紹介料を区別する第5 契約前と運用開始後の確認手順1 契約前に業務と金銭の流れを書き出す2 契約どおりに運用されているかを確認する第6 出典と関連する規律
第1 契約の名前よりも紹介と役務の実態を確認する

弁護士が事業者や他士業と協力する場合,紹介料,報酬分配及び非弁護士による法律事務の取扱いを別々に確認する必要がある。
広告費,会費,業務委託料又は給与という名称だけで結論は決まらない。定額にすれば必ず問題がなくなるわけでもない。

深澤諭史「本当に怖い非弁提携」(『NIBEN Frontier』2021年10月号)は,事務所全体の支配に至らない紹介料や報酬分配にも注意を促している。
同記事は筆者個人の見解であり,第二東京弁護士会の公式な適法性判断ではない。本記事は,その問題提起を,令和8年10月4日に確認した現行条文に照らして契約確認の手順に整理するものである。

第2 弁護士法と職務基本規程の確認を分ける
1 弁護士法72条と27条

弁護士法72条は,弁護士又は弁護士法人でない者が,報酬を得る目的で,法律事件に関する法律事務の取扱い又は周旋を業とすることを原則として禁止する。ただし,法律に別段の定めがある場合は例外となる。
最高裁大法廷昭和46年7月14日判決(昭和44年(あ)第1124号,刑集25巻5号690頁)は,法律事務の取扱いと周旋のいずれにも,報酬を得る目的と業として行うことが必要であると判断した。
これは72条の解釈であり,紹介料や報酬分配に関する弁護士側の職務基本規程まで満たすと判断した判決ではない。

同法27条は,72条から74条までに違反する者から弁護士が事件の周旋を受け,又はこれらの者に自己の名義を利用させることを禁じる。
弁護士自身が紹介料を払っていない場合でも,相手がこれらの規定に違反する者であれば,27条の問題が残る。個々の紹介で金銭を払わないことから,相手方の活動全体について報酬目的がないとも即断できない。
現行77条は,27条違反と72条違反について,2年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金を定めている。

2 職務基本規程11条から13条まで

弁護士職務基本規程11条は,違反する者に加え,違反すると疑うに足りる相当な理由のある者についても,依頼者紹介を受けること,利用すること及び名義を利用させることを禁じる。
提供記事には旧11条の表現があるが,現在の判断には現行条文を用いる必要がある。

12条は,職務に関する報酬を弁護士等でない者と分配することを原則として禁じ,法令・会則に別段の定めがある場合その他正当な理由がある場合を例外とする。
13条1項は依頼者紹介を受けたことへの対価の支払を,2項は依頼者紹介をしたことへの対価の受領を禁じる。
相手が非弁業者かどうかだけでなく,紹介そのものへの支払か,職務報酬の分配かを独立に検討する必要がある。

第3 紹介料と広告費・会費を区別する
1 弁護士が支払う場合と受け取る場合

紹介元への支払については,紹介件数,受任,着手金入金又は回収を契機に支払が発生するか,金額が事件の報酬に連動するか,実際に提供された広告その他の役務に対応するかを確認する。
紹介の対価と実際の役務への対価が混在する契約では,費目を分けるだけでなく,役務内容,算定根拠及び実施記録を照合する。

弁護士が自分の依頼者を事業者へ紹介し,事業者から金銭を受け取る場合も検討を要する。
提供記事は,不動産会社への顧客紹介で金銭を受領する場合を13条2項の問題として取り上げる。ただし,紹介先で依頼される業務の範囲についての同記事の解説は,文献を踏まえた筆者の解釈である。
この指摘を踏まえ,法律事件の紹介ではないとの理由だけで紹介謝礼を受領せず,紹介の対象,対価の理由,依頼者の選択への影響を具体的に検討することが実務上有用である。

2 固定料金でも紹介の対価性を確認する

広告契約やネットワーク会費に,特定の弁護士へ依頼者をつなぐ仕組みが含まれているかを確認する。
広告掲載の範囲,問い合わせの受付主体,弁護士の選定方法,紹介件数による料金改定,紹介がない場合の返金条件等を照合すると,支払が何の対価かを具体的に検討しやすい。

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係争目的物の譲受け―弁護士職務基本規程17条と弁護士法28条(AI作成)

目次第1 17条と弁護士法28条第2 係争の範囲には解釈上の問題がある第3 譲受けと弁護士自身の計算1 契約の名称に限られない2 代理や信託的な取得との区別第4 報酬・担保・債権回収第5 倫理上の禁止と契約の効力第6 出典・関連記事
第1 17条と弁護士法28条

17条は係争の目的物を譲り受けることを禁止し,弁護士法28条は係争権利を譲り受けることができないと定める。
現行規程及び弁護士法は令和8年10月4日に確認した。

第4版44頁~45頁は,他人の紛争を弁護士自身の利益のために利用することを防ぎ,職務の公正と品位を維持する趣旨を説明する。
代理人として依頼者の権利を実現することと,自らが紛争中の権利・物を取得して利益を得ることは,立場が異なる。

第2 係争の範囲には解釈上の問題がある

第4版45頁は,弁護士法28条の係争権利について,裁判所等に係属する事件の権利に限る説と,広く紛争中の権利を含める説を紹介し,判例の主流は前者であると説明する。
同書は17条についても同様の問題を認め,非係属の紛争中の権利の取得でも慎重な対応が必要であるとする。

したがって,まだ訴訟になっていないという一点だけで,倫理上の問題がないと断定することはできない。
なお,後述する最高裁平成21年8月12日決定の補足意見は,17条について広く争いがある場合の目的物の譲受けを禁じるとの説明をしている。
弁護士法28条の適用範囲と,17条の倫理上の評価を同一視してはならない。

第3 譲受けと弁護士自身の計算
1 契約の名称に限られない

第4版45頁は,有償・無償を問わず権利を移転する行為を対象にし,売買・贈与等の形式よりも,経済的効果が弁護士に帰属するかを重視する。
家族等の名義を介しても,実質が弁護士自身のための取得であれば,名義だけで問題を免れることはできない。

2 代理や信託的な取得との区別

同書45頁~46頁は,他人の計算による実質的な代理としての譲受けや,倒産処理で円滑な清算のために行う信託的な譲受けについて,弁護士自身の計算による取得とは区別して説明する。
単に契約書に「信託」「代理」と書くだけで足りるわけではなく,取得の目的,権利の帰属,清算の仕組みを確認する必要がある。

場面確認すべき点紛争不動産を取得する係争の有無,取得する権利,弁護士自身の経済的利益を確認する。報酬に代えて権利・物を取得する報酬という名目だけで17条の検討を省かない。債権を譲り受けて回収する自己の利益のための譲受けか,清算等のための信託的な取扱いかを確認する。他人の名義を使う実質的な帰属と計算を確認する。
第4 報酬・担保・債権回収

第4版46頁は,不動産等を報酬として受領すること一般を禁止するのではないが,係争目的物であれば問題となると説明する。
依頼者が納得していることと,17条の禁止に当たらないことは別の問題である。

同書は担保や債権譲受けによる取立てについても解説するが,個々の担保設定等がどの規定に抵触するかは,形式だけでなく実態を確認する必要がある。
依頼者との金銭上の特別な利害関係が生じる場合には,25条等の検討も必要となる。

弁護士法73条による権利譲受業と,弁護士自身に適用される17条・弁護士法28条とは区別すべきである。
非弁行為・非弁提携の枠組みは,非弁護士との提携の禁止を参照されたい。

第5 倫理上の禁止と契約の効力

規程又は弁護士法による禁止の問題と,譲渡契約の私法上の効力は区別する必要がある。
最高裁第一小法廷平成21年8月12日決定(平成20年(許)第49号,民集63巻6号1406頁)は,回収手段としての債権譲受けについて,仮に弁護士法28条違反でも,公序良俗に反する事情がなければ直ちに私法上の効力は否定されないとした。

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相手方からの利益供与と相手方への利益供与―弁護士職務基本規程53条・54条(AI作成)

目次第1 利益を受ける側と与える側第2 相手方本人と代理人第3 実費名目でも検討が必要である1 利益の範囲2 和解金等との区別第4 要求・約束・申込みと事件終了後第5 弁護士法26条と罰則第6 出典・関連記事
第1 利益を受ける側と与える側

53条は,受任している事件に関し,相手方から利益の供与・供応を受けることと,要求・約束を禁止する。
54条は,同じく受任している事件に関し,相手方への利益の供与・供応と,その申込みを禁止する。

第4版177頁~179頁は,職務執行の公正と誠実性を確保する観点から両条を説明する。
弁護士が受領する場面だけでなく,自ら相手方に提供する場面も確認しなければならない。

規定禁止される方向・行為53条相手方から弁護士への利益供与・供応を受けること,要求すること,約束すること。54条弁護士から相手方への利益供与・供応をすること,申し込むこと。弁護士法26条受任中の事件に関し,相手方から利益を受け,要求し,又は約束すること。
第2 相手方本人と代理人

第4版178頁~179頁は,相手方を,依頼を受けた事件の当事者と実質的に利害が対立する者と説明し,相手方本人のほか代理人も含める。
したがって,利益の授受が相手方本人との間でなければ問題がない,ということにはならない。

誰の利益となる支払なのか,誰が負担するのか,事件との関係は何かを確認する必要がある。
依頼者のための正式な和解条件と,弁護士や相手方代理人に個別の利益を与える合意は区別すべきである。

第3 実費名目でも検討が必要である
1 利益の範囲

第4版178頁は,利益を金品や謝礼に限定せず,弁護士の出張に要した日当・旅費等の実費弁償の性質を持つものも含めて説明する。
名称が「交通費」「実費」であれば,受領してよいという説明は適切でない。

2 和解金等との区別

本記事では,依頼者の権利実現として支払われる和解金等と,弁護士自身に与えられる利益とを区別して検討する。
支払が誰に帰属するのか,受領・送金の役割は何か,契約や清算の説明はどうなっているかを明確にする必要がある。

依頼者に帰属する金銭を受け取った場合の管理・交付は,預り金の管理と懲戒の問題となる。
和解金を扱うことと,相手方から弁護士自身が利益を得ることを混同してはならない。

第4 要求・約束・申込みと事件終了後

53条は実際の受領に限らず要求・約束を,54条は実際の提供に限らず申込みを対象とする。
金銭がまだ動いていない段階でも,条文の検討が必要となる。

第4版178頁は,53条の「受任している事件」を現に処理している事件とし,将来の受任予定や処理を終えた過去の事件を含めないと説明する。
ただし,いつ要求や約束がされたか,事件が本当に終了しているかを確かめずに,後払いだから許されると判断することはできない。
53条の文言上の範囲の説明を,弁護士法その他の規律による検討も不要という結論に広げることは適切でない。

第5 弁護士法26条と罰則

弁護士法26条にも受任中の事件の相手方からの利益の受領・要求・約束を禁止する規定があり,同法76条は3年以下の拘禁刑を定める。
現行条文は令和8年10月4日に確認した。

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依頼者との金銭貸借・保証―弁護士職務基本規程25条(AI作成)

目次第1 25条が原則として禁止するもの第2 対象となる依頼者と取引1 顧問先・継続的な相談者2 貸借と同様の経済的作用第3 預り金と通常の金融取引第4 「特別の事情」の検討1 必要な費用の立替え等2 後の紛争を防ぐ確認第5 報酬・預り金との関係第6 出典・関連記事
第1 25条が原則として禁止するもの

25条は,特別の事情がない限り,依頼者との金銭貸借,自己の債務について依頼者に保証を依頼すること,依頼者の債務について保証することを禁止する。
第4版88頁は,特別な金銭上の利害関係が弁護士の独立性や職務の公正を損ない,利害対立や信頼関係の毀損を生じさせるおそれを,規定の趣旨として説明する。

借入れを禁止するだけの条文ではない。
弁護士が貸し付ける場合も,双方の保証も問題となり,依頼者が希望し同意したというだけで例外となるわけではない。

第2 対象となる依頼者と取引
1 顧問先・継続的な相談者

第4版88頁は,顧問会社や,受任前であっても相談が継続し受任の可能性がある相談者を含む解釈を示す。
単に委任契約書に署名していないことだけで,25条の検討が不要となるとはいえない。

同書は過去の依頼者を本条の依頼者に含めないと説明するが,職務が本当に終了しているかは確認を要する。
事件の処理が一段落したことと,委任・金銭清算等が終了していることは区別すべきである。

2 貸借と同様の経済的作用

第4版89頁は,物上保証,債務引受,担保の供与等についても,貸借・保証と同様の経済的作用を持つ関係として検討する。
取引の名称を変えるだけでは,独立性や公正を損なう問題を解消できない。

関係検討の視点依頼者から借りる・依頼者に貸す双方向とも25条の検討対象となる。相互の債務を保証する弁護士が保証する場合と,依頼者に保証してもらう場合の双方を確認する。実費・和解金等の預り金通常の業務上の預り金は貸借と区別する。ただし目的外使用や清算は別の問題となる。顧問先金融機関との通常の取引弁護士・依頼者の地位と無関係で,職務の公正が問題とならない関係かを確認する。
第3 預り金と通常の金融取引

第4版89頁は,実費や供託のための金銭,依頼者のための和解金を預かる通常の業務関係を,金銭貸借や保証とは区別している。
預り金を弁護士の運転資金として利用することまで認める説明ではない。

同書は,顧問先である銀行からの通常のローン等を,弁護士・依頼者という地位と無関係で職務の公正が問題とならない関係の例として挙げる。
これを,顧問会社から個人的に借りる取引一般が許されるという説明に広げることはできない。

第4 「特別の事情」の検討
1 必要な費用の立替え等

第4版89頁は,緊急時等のやむを得ない裁判費用の立替えや,弁護士の使命を果たすために必要な報酬支払時期の猶予を例示する。
本条の趣旨に照らした例外の検討であり,費用立替えと呼べば無条件に許されるというものではない。

2 後の紛争を防ぐ確認

金銭の目的,必要性,額,支払先,返還・清算条件を明確にし,事件処理上の判断に影響しないかを検討する必要がある。
担保や保釈保証金については,取戻し・返還ができない場合の紛争にも配慮が必要であると,同書は説明する。

第5 報酬・預り金との関係

貸付金,報酬,実費,預り金を一括して扱うと,支払義務と返還義務の関係が不明確になりやすい。

(続きを読む...)依頼者との金銭貸借・保証―弁護士職務基本規程25条(AI作成)

法律事務所の事務職員と勤務弁護士の指導監督―弁護士職務基本規程19条・55条・61条(AI作成)

目次第1 指導監督は相手の立場で根拠が違う第2 19条の指導監督1 対象者と防止すべき行為2 連絡・書面・金銭の管理第3 55条と61条の必要な措置1 相談・研修・内部規範2 他の弁護士の非行と監督者自身の関与第4 生成AIの利用にも基本的な監督の枠組みが及ぶ第5 事務所で確認する事項1 事務職員の示談交渉と具体的な指示2 経理を任せきりにした預り金流用3 連名の訴状に含まれた不相当な表現4 公示送達と共同代理人の制止義務5 経営者が起案した通知書と勤務弁護士6 主任に任せきりにした共同受任事件第6 出典・関連記事
第1 指導監督は相手の立場で根拠が違う

事務職員と勤務弁護士を一括して「部下」と捉えると,適用される条文を取り違えやすい。
19条は事務職員,司法修習生その他自らの職務に関与させた者への指導監督を定め,55条と61条は共同事務所や弁護士法人等で弁護士が規程を遵守するための措置を扱う。

規定主体・対象規律の内容19条自らの職務に事務職員等を関与させる弁護士違法・不当行為,秘密の漏えい・利用を防ぐ指導監督義務。55条共同事務所で所属弁護士を監督する権限のある弁護士所属弁護士の規程遵守に必要な措置を採る努力義務。61条弁護士法人・共同法人の社員弁護士社員等の規程遵守に必要な措置を採る努力義務。
第2 19条の指導監督
1 対象者と防止すべき行為

第4版52頁~53頁は,事務職員等について,雇用関係の形式だけでなく,自らの職務に関与させたかという観点から対象を説明する。
事務の補助に関わる者に,業務上の違法・不当行為をさせず,業務に関して知った秘密を漏らしたり利用したりさせないための指導監督が必要である。

委ねられる事務の範囲と,弁護士の判断を要する事項を明確にすることが重要となる。
勤務弁護士に対する規律は19条にそのまま含めて考えるのでなく,共同事務所・法人の規定と,当該弁護士自身の義務を確認する。

2 連絡・書面・金銭の管理

実務上は,①弁護士への取次ぎが必要な相談・苦情,②法的判断を伴う交渉や書面の確認,③期限の管理,④預り金の入出金と照合,⑤記録や秘密情報のアクセスを整理することが考えられる。
これらは19条を具体化する本記事の提案であり,条文に列挙された固定の手順ではない。

「事務職員がしたこと」として処理するのではなく,弁護士が何を任せ,どのように指導・確認していたかが問題となる。
他方,結果として不正が起きた事実だけから,あらゆる場合に弁護士の懲戒責任が決まるという説明も適切でない。

第3 55条と61条の必要な措置
1 相談・研修・内部規範

第4版183頁及び205頁は,内部的な禁止規範,職務上の指導・訓戒,相談体制の明確化,倫理研修等への参加促進を,必要な措置として挙げる。
事務所や法人の規模・形態に応じて,問題を発見し,判断を相談できる体制を整えることが求められる。

利益相反の確認,秘密保持,事件処理の説明,期限,預り金といった問題について,担当者が一人で判断を抱え込まない仕組みが考えられる。
形式的な研修の受講やルールの配布だけで,実際の相談・確認ができるとは限らない。

2 他の弁護士の非行と監督者自身の関与

第4版183頁~184頁及び205頁は,55条・61条が,他の弁護士の非行について監督者の倫理的責任を当然に定める規定ではないことを説明する。
ただし,監督者自身が書面の作成や事件処理に関与した場合は,自らの行為に関する義務を別に検討しなければならない。

連名の書面に名を連ねる場合などに,「実際には他の弁護士が処理していた」という説明だけで問題がなくなるとは限らない。
誰が担当し,何を確認し,問題が報告されたときにどう対応したかを区別して記録することが重要である。

第4 生成AIの利用にも基本的な監督の枠組みが及ぶ

事務職員に生成AIを利用させる場合にも,扱う情報,許可する作業,弁護士が確認する成果物,誤りや漏えいが疑われる場合の報告先を明確にする必要がある。
これは19条等を踏まえた実務上の検討であり,第4版が特定の生成AI製品の利用を認めたという趣旨ではない。

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刑事弁護人の基本義務―弁護士職務基本規程46条・47条・48条と最善の弁護(AI作成)

目次第1 46条・47条・48条の関係第2 「最善」は弁護人の主観だけでは決まらない1 合理的な活動の内容と時期2 本人の意思と弁護人の判断第3 必要な接見と身体拘束からの解放1 回数だけで評価しない2 身体拘束への対応第4 防御権の説明と不当な制限への対応第5 複数被告人の弁護と原議決に基づく事例研究1 公判直前の証拠説明と本人の理解2 本人作成の控訴趣意書と期限直前の接見3 訴訟能力を争う方針と控訴趣意書の不提出4 接見時の機器持込み・撮影と外部交通第6 出典・関連記事
第1 46条・47条・48条の関係

46条は被疑者・被告人の権利及び利益を擁護するため最善の弁護活動に努めること,47条は必要な接見の機会の確保と身体拘束からの解放,48条は防御権の説明・助言と違法又は不当な制限への必要な対抗措置を定める。
第4版156頁は,47条と48条を,46条の弁護活動を具体的な場面に即して示す規定として説明する。

条文主な確認事項46条本人の権利・利益のため,必要な活動を時宜に応じ適切かつ十分に行っているか。47条必要な接見を確保し,身体拘束からの解放について具体的な検討・活動をしているか。48条防御権を理解できるように説明・助言し,その制限への対応を検討しているか。
第2 「最善」は弁護人の主観だけでは決まらない
1 合理的な活動の内容と時期

第4版155頁~156頁は,弁護人が主観的に最善と考えればよいというものではなく,刑事弁護を行う平均的水準の弁護士が一般的・合理的に最善と考える活動に努めるという説明をしている。
必要な活動をしたかだけでなく,その活動をする時期と説明の内容も問題となる。

実務上は,身柄の状況,取調べの進行,本人の理解,証拠の内容,手続の期限を踏まえて活動を組み立てることが考えられる。
無罪や釈放といった結果が得られなかったというだけで,直ちに義務違反が決まるわけではない。

2 本人の意思と弁護人の判断

本人の意思を尊重することと,求められた行為をすべて実行することは同じではない。
第4版155頁は弁護人の役割に複数の見解があることを紹介しつつ,被疑者・被告人の権利擁護と誠実義務を重視する。
本人に選択肢と法的な意味を説明し,理解と意思を確かめながら活動することが必要となる。

偽証・虚偽陳述をそそのかしたり,虚偽と知りながら証拠を提出したりする行為は75条の禁止に当たる。
権利擁護のための適法な主張・立証と,証拠を作り変えることを混同してはならない。

第3 必要な接見と身体拘束からの解放
1 回数だけで評価しない

47条は「必要な接見の機会」の確保を求めており,全事件共通の接見回数を定めているわけではない。
第4版158頁~161頁の解説を踏まえると,事件の進行と本人の状況に応じ,必要な時点で意思疎通を確保できているかを検討することになる。

取調べ前後の助言,供述や証拠に関する確認,公判への準備,重要な手続上の判断についての説明など,接見の目的に応じた内容が必要である。
言語や疾病その他の事情がある場合は,本人が理解できる方法を検討する必要もある。

2 身体拘束への対応

身柄に関する処分の理由,手続の段階,利用できる不服申立て等を確認し,身体拘束からの解放のための活動を検討することになる。
保釈を含め,利用できる手続は被疑者か被告人かによって異なるため,すべての段階で同じ申立てができるという説明は適切でない。

弁護人の選任と接見交通権の制度は,弁護人の選任,国選弁護人及び接見交通権を参照されたい。

第4 防御権の説明と不当な制限への対応

48条の説明・助言は,黙秘権等の名称を伝えるだけでは足りず,本人がその意味を理解し,自らの防御について判断できるようにすることが重要である。
第4版161頁~163頁を参照すると,手続の進行に応じた説明と,権利の制限に対する必要な対応を具体的に検討することになる。

(続きを読む...)刑事弁護人の基本義務―弁護士職務基本規程46条・47条・48条と最善の弁護(AI作成)

セカンドオピニオンと弁護士の追加依頼―弁護士職務基本規程40条・41条・72条(AI作成)

目次第1 別の弁護士に相談することはできる第2 相談・追加受任・交代の違い第3 41条は受任弁護士間の意見不一致を扱う1 依頼者への説明が必要となる場面2 42条・43条との区別第4 セカンドオピニオンと不当介入の境界第5 交代する場合の引継ぎ第6 出典・関連記事
第1 別の弁護士に相談することはできる

受任中の事件について,依頼者が別の弁護士の意見を求めることは,第4版229頁が当然に認められる依頼者の権利として説明するところである。
40条も,他の弁護士,弁護士法人又は共同法人に依頼しようとする依頼者を,正当な理由なく妨げることを禁止する。

追加依頼を考える際には,意見だけを求める相談,共同で事件処理を依頼する追加受任,従前の弁護士からの交代を分ける必要がある。
相談しただけで,現在の委任契約が当然に終わるわけではない。

第2 相談・追加受任・交代の違い
依頼の形明確にしておく事項意見だけを求める相談の対象,確認できた資料,意見の前提と限界,現在の代理人との連絡の要否。弁護士を追加する各弁護士の担当範囲,提出・連絡の窓口,方針決定の方法,費用。弁護士を交代する従前の委任の終了,新しい受任の範囲,期限,記録・預り品の引継ぎ,清算。

第4版230頁は,新たに受任する際に,従前の弁護士との関係を継続するのか終了するのか明確にし,記録の引継ぎや費用・実費の清算を円滑かつ明確に処理することを重視している。
依頼者が追加と交代を曖昧にしたまま,それぞれの弁護士に異なる指示を出すことは避けるべきである。

相談に当たっては,依頼内容,これまでの提出書面,現在の証拠,手続の進行状況,次の期限などを整理して示すことが有用である。
新しい弁護士が一部の資料しか確認できていない場合,その意見がどの前提に基づくものかを確かめる必要がある。

第3 41条は受任弁護士間の意見不一致を扱う
1 依頼者への説明が必要となる場面

41条は,同じ事件を受任している他の弁護士等との間で事件処理について意見が一致せず,それにより依頼者に不利益を及ぼすおそれがあるとき,その事情を説明する義務を定める。
単に専門家の意見が違うことを禁止する規定でも,意見が違えば直ちに全員が辞任するという規定でもない。

例えば,和解を優先するか訴訟を継続するかについて意見が分かれ,必要な対応や期限の管理に支障が生じるおそれがあれば,不一致の内容と不利益の可能性を依頼者に説明することが問題となる。
これは条文を具体化した例であって,特定の議決事例を再現したものではない。

2 42条・43条との区別

42条が扱うのは複数の依頼者相互の現実の利害対立であり,41条の弁護士間の意見不一致とは主体が異なる。
43条が扱うのは依頼者との信頼関係が失われ,回復が困難な場合である。
各条の要件を分け,説明,役割の見直し,辞任等の必要性を判断することになる。

説明・報告の一般的なルールは,29条・36条の説明義務と報告義務を参照されたい。

第4 セカンドオピニオンと不当介入の境界

72条が禁じるのは,他の弁護士等が受任する事件への「不当な」介入である。
第4版229頁~230頁は,目的又は手段の不当性を問題にし,事実関係を十分に把握せず先任弁護士の能力や報酬を不合理に批判し,不安をあおって自己への依頼を誘引する行為を典型例として挙げる。

十分な情報を踏まえて合理的な意見を述べ,その結果,依頼者から受任を求められたというだけでは,不当介入とはならないと同書は説明する。
他方,検討資料の不足を隠して有利な結果を保証するような説明は,適切な意見の提供とはいえない。

第5 交代する場合の引継ぎ

交代を選ぶ場合には,新旧の受任関係と訴訟代理権等の手続上の処理,迫った期限,事件記録,預り金・預り品,報酬・実費を確認する必要がある。

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共同事務所の利益相反と弁護士の移籍―弁護士職務基本規程56条・57条・58条(AI作成)

目次第1 移籍では「誰が,いつ」を分けて考える第2 退所する弁護士と残る弁護士1 Xが退所しても,Wの問題は消えない2 Wが移籍する場合には解釈上の問題がある第3 情報遮断だけで受任できるわけではない1 57条ただし書の判断2 令和3年最高裁決定が判断した範囲3 56条の秘密保持は退所後も続く第4 受任後に判明した場合の58条第5 移籍・分裂時の確認記録第6 出典・関連記事
第1 移籍では「誰が,いつ」を分けて考える

弁護士職務基本規程57条は,他の所属弁護士が27条又は28条により職務を行い得ない事件について,共同事務所の所属弁護士にも原則として職務の禁止を及ぼす規定である。
ここでいう共同事務所は,弁護士法人又は共同法人の法律事務所を除く。
法人については63条以下の規定を別に確認する必要がある。

移籍を理由に受任の可否を判断する際は,直接の禁止事由を持つ弁護士と,その同僚として禁止の影響を受ける弁護士を区別しなければならない。
さらに,その禁止事由が在籍中に生じたのか,退所後に初めて生じたのかによっても問題は異なる。
以下では,27条又は28条の事由を持つ弁護士をX,その同僚をWとして説明する。

第2 退所する弁護士と残る弁護士
1 Xが退所しても,Wの問題は消えない

57条の「他の所属弁護士」には,所属弁護士であった者が含まれる。
第4版188頁~191頁の解説によれば,Xに在籍中から職務禁止事由がある場合,Xが退所したというだけで,元の共同事務所に残るWが自由に反対当事者の事件を扱えることにはならない。
Xの退所後に入所した弁護士についても,事務所に残る秘密や従前の関係を確認する必要がある。

これに対し,Xの退所後に初めて生じた職務禁止事由まで,元の共同事務所に当然に波及するという説明ではない。
当事者名だけでなく,相談・受任・退所の各時点を記録しておくことが重要となる。

2 Wが移籍する場合には解釈上の問題がある

W自身には27条又は28条の事由がなく,Xと同じ事務所にいたことだけが問題となる場合について,第4版190頁は,退所したWへの57条の適用を否定する解釈を相当とする。
これは同書の解釈であって,「退所すれば常に受任できる」という確定した一律のルールを示すものではない。

Wが自ら相談を受けていたり,依頼者の秘密を知っていたりすれば,W自身の職務禁止,秘密保持,誠実義務の問題が残る。
移籍先で反対当事者を受任して十分な活動ができるかも,具体的に検討しなければならない。

場面確認すべき点禁止事由を持つXが退所する在籍中からの事由か。残るWへの57条の適用とただし書を確認する。同僚Wが退所するW自身の27条・28条の事由,取得した秘密,移籍先での職務の公正を確認する。Xの退所後に事由が生じる元の事務所に在籍していた時点の事情と区別する。事務所が分裂・統合する名称や組織変更だけで判断せず,担当者・秘密・継続する依頼関係を確認する。
第3 情報遮断だけで受任できるわけではない
1 57条ただし書の判断

57条ただし書は,職務の公正を保ち得る事由がある場合を例外としている。
第4版192頁~194頁は,情報遮断の有無だけでなく,利益相反の内容,事件の性質,事務所内の関係や情報共有の実態などを考慮する説明をしている。

情報遮断の措置があれば必ず例外に該当するというものでも,情報遮断がなければ必ず例外が否定されるというものでもない。
同一訴訟の対立当事者を同じ共同事務所が扱うような場面では,特に慎重な判断が必要である。

2 令和3年最高裁決定が判断した範囲

最高裁令和3年4月14日第二小法廷決定(令和2年(許)第37号)は,57条違反にとどまる場合,懲戒の原因となり得ることは別として,違反は訴訟行為の効力に影響せず,相手方は同条違反を理由として裁判所に訴訟行為の排除を求めることができないと判断した。
これは,弁護士法25条1号に違反する訴訟行為の排除が問題となる場合とは区別される。

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国選弁護人は依頼者から金品を受け取れるか―弁護士職務基本規程49条と私選への切替(AI作成)

目次第1 49条は金品受領と私選への働きかけを別に規律する1 名目を変えても弁護活動の対価は受領できない2 49条の現行条文第2 誰から,何のために,どの期間に受け取るか1 家族からの謝礼や物品も検討対象となる2 受領前に確認する事項第3 実費,示談金の預り及び別事件の報酬1 「実費なら受領できる」と一括しない2 示談交渉の追加報酬と,示談金そのものは区別する3 独立した民事事件には実体と相当性が必要である第4 本人の希望と私選への働きかけを区別する1 働きかけの目的や無料の提案だけでは例外にならない2 本人の自発的な希望でも,手続と他の義務を確認する第5 所属会の例外は,現行本文を確認してから適用する1 ただし書は各地域の一律の許可を意味しない2 解説書の記述が削除されたことと,会則の廃止は別である第6 関連記事と出典1 関連する記事2 出典と確認の限界
第1 49条は金品受領と私選への働きかけを別に規律する
1 名目を変えても弁護活動の対価は受領できない

弁護士職務基本規程49条1項は,国選弁護人に選任された事件について,被告人その他の関係者から報酬その他の対価を受領することを,名目を問わず禁止する。
2項は,その事件の私選弁護人に選任するよう,被告人その他の関係者に働きかけることを原則として禁止する。
金銭の受領と私選への働きかけは異なる行為である。無料の私選弁護を申し出る場合も,対価を受け取らないという理由だけで2項の問題がなくなるわけではない。

本記事は,令和8年10月4日に確認した日弁連公表の現行規程と『解説「弁護士職務基本規程」第4版』163頁~167頁に基づく。
同解説書は日弁連の公式見解を記載したものではない。所属弁護士会の現行例外規定を全て取得したものではなく,個別地域の切替手続の許否を断定する記事でもない。
規程全体は現行条文・条文別索引,法テラスによる支払いは国選弁護人の報酬・費用を参照されたい。

2 49条の現行条文

49条1項は,次のとおりである。
「弁護士は、国選弁護人に選任された事件について、名目のいかんを問わず、被告人その他の関係者から報酬その他の対価を受領してはならない。」

2項は,次のとおりである。
「弁護士は、前項の事件について、被告人その他の関係者に対し、その事件の私選弁護人に選任するように働きかけてはならない。ただし、本会又は所属弁護士会の定める会則に別段の定めがある場合は、この限りでない。」

条文は「被告人」と表記するが,『解説』第4版164頁は,被疑者国選についても適用されると説明している。
同書163頁~164頁は,国選弁護制度の公正を維持し,報酬面での利益のために私選への切替を誘導する等の弊害を防止する趣旨を説明する。

第2 誰から,何のために,どの期間に受け取るか
1 家族からの謝礼や物品も検討対象となる

「その他の関係者」を本人に限ったり,領収書の名目だけで判断したりしてはならない。
『解説』第4版165頁は,家族等からの金品や物品・サービスも,弁護活動の対価として受け取る場合には問題となることを説明する。
少額の「お礼」なら一律に許される,贈り物なら報酬ではない,という結論にはならない。

2 受領前に確認する事項
確認項目確認内容支払者と目的本人・家族等の誰が,どの活動に対して支払うのか金銭等の性質弁護報酬,実費,示談金の預り,独立した別事件の報酬のいずれか選任・解任の状況対象事件と審級,国選弁護人としての地位,私選選任や国選解任の手続重複と根拠法テラスから同じ費用を受け取っていないか,別事件の業務と報酬に実体があるか私選への経緯弁護士からの働きかけか,本人等の自発的な希望か。例外規定の現行本文は確認できたか

この表は事実を整理するための確認方法である。契約書に別の名目を書いたり,支払いの時期を後にしたりするだけで,弁護活動の対価が別の金銭になるわけではない。

第3 実費,示談金の預り及び別事件の報酬
1 「実費なら受領できる」と一括しない

『解説』第4版165頁~166頁は,実費の扱いについて見解の違いを紹介する。報酬・対価には実費も含まれるとする見解と,対価性のない妥当な実費について受領の余地を認める考え方がある。
同書は,国費から補償されない当事者鑑定等について妥当な実費額を受領しても対価には当たらないと解する余地を述べるが,これを現行の法テラス約款や全所属会の運用による包括的な許可と扱うことはできない。
とりわけ,同じ交通費等を法テラスと本人等の双方から重複して受領することを,単に「実費」という名目で正当化してはならない。

具体的な費用を受け取る前に,費目,支払先,実際の支出額,現行の支払基準と重複の有無を確認し,所属会・法テラスに扱いを確認する必要がある。

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弁護士法人の利益相反―弁護士職務基本規程63条~67条と社員・法人の受任制限(AI作成)

目次第1 法人の利益相反は,個人と法人の両方を確認する1 担当者を交代するだけでは受任できるとは限らない2 「社員等」と「社員」を区別する第2 63条は社員等個人の職務を制限する1 1号・2号は「自ら関与した」相談・事件を対象とする2 3号・4号は,現在の法人の受任関係を見る第3 64条の公正確保と65条の法人受任制限を重ねて確認する1 情報遮断をしたというだけでは結論を出せない2 法人自身の相談・受任に基づく禁止は残る第4 65条5号の「半数未満」と弁護士法の違い1 社員1人の制約でも法人の業務は原則禁止となる2 弁護士法30条の18第5号との要件を混同しない第5 66条は依頼者・顧問先・法人の経済的利益を規律する1 同意する人が号ごとに異なる2 顧問先との関係を個人の契約だけで判断しない第6 受任後に判明したときは67条,秘密保持は62条1 67条の適用対象を特定する2 事情説明のために他の依頼者の秘密を自由に開示できない第7 確認範囲,関連記事及び出典1 共同法人と元社員等についての留意点2 出典
第1 法人の利益相反は,個人と法人の両方を確認する
1 担当者を交代するだけでは受任できるとは限らない

弁護士法人の利益相反では,担当弁護士自身の受任制限と,法人としての受任制限を別々に確認する必要がある。
担当を替えたり,別支店で扱ったりしても,法人自身が業務を行い得ない事件であれば,それだけで制約は解消しない。
弁護士職務基本規程63条は社員等個人,64条は他の社員等との関係,65条・66条は弁護士法人の業務を規律し,67条は受任後の対応を定めている。

本記事は,令和8年10月4日に確認した日弁連公表の現行規程,弁護士法及び『解説「弁護士職務基本規程」第4版』207頁~219頁に基づく。
同解説書は日弁連の公式見解を記載したものではない。以下の具体例は条文の確認方法を示す仮定例であり,裁判例や懲戒議決の紹介ではない。
規程全体は現行条文・条文別索引・主要論点,個人に共通する基本規律は27条・28条の利益相反を参照されたい。

2 「社員等」と「社員」を区別する

61条の「社員等」は,弁護士法人又は弁護士・外国法事務弁護士共同法人の社員又は使用人である弁護士を意味する。法人法上の社員は,単に雇用される職員という意味ではない。
65条5号の半数基準の母数は,弁護士法人の「社員」の総数である。使用人である弁護士や事務職員まで一緒に数える規定ではない。
外国法事務弁護士については64条2項等の規律もあるため,職種と受任主体を特定して確認する。

確認する主体・関係主な規定確認の要点担当する弁護士個人27条・28条,63条自分の従前の関与,現在の法人の受任状況同じ法人の他の社員等64条他の弁護士等の受任制限と,職務の公正を保ち得る事由弁護士法人そのもの65条・66条法人の相談・受任関係,社員の受任制限,法人の経済的利益受任後の処理・記録67条・68条,62条事情説明,適切な措置,秘密保持及び事件情報の記録
第2 63条は社員等個人の職務を制限する
1 1号・2号は「自ら関与した」相談・事件を対象とする

63条1号は,社員等であった期間内に法人が相手方の協議を受けて賛助し,又は依頼を承諾した事件のうち,自ら関与したものを対象とする。
2号は,法人が相手方の協議を受け,その程度及び方法が信頼関係に基づくと認められる事件のうち,自ら関与したものを対象とする。
この2つについては,社員等でなくなった者も条文上含まれる。退社や転職によって,自分が実際に関与した事件の制約が消えるわけではない。

仮に,法人で相手方の相談を受けた弁護士が,退社後に同じ事件の反対側から依頼を受けた場合には,まず自らの関与と相談の内容を確認する。
本人が関与していない事件もすべて63条1号・2号だけで禁止されるとは限らないが,他の規定や取得した秘密の問題を省略してよいことにはならない。

2 3号・4号は,現在の法人の受任関係を見る

3号は,その法人が相手方から受任している事件を対象とする。法人の相手方側の受任と,社員等個人による反対側の受任とを両立させることはできない。
4号は,法人が受任している事件のうち,当該社員等が自ら関与しているものの相手方から依頼される他の事件を対象とする。
63条ただし書の同意による例外は4号について置かれており,同意するのは法人が受任している事件の依頼者である。1号~3号に同じ例外を広げてはならない。

第3 64条の公正確保と65条の法人受任制限を重ねて確認する
1 情報遮断をしたというだけでは結論を出せない

64条1項は,他の社員等が27条,28条又は63条1号・2号により職務を行い得ない事件について,社員等の職務を原則禁止し,職務の公正を保ち得る事由がある場合に例外を認める。
2項には,社員又は使用人である外国法事務弁護士との関係の規律が置かれている。
『解説』第4版210頁~211頁は,情報遮断等について共同事務所の規律との関係を説明する。ただし,別室・別支店・担当交代という名称だけで公正が確保されたと扱うべきではない。

(続きを読む...)弁護士法人の利益相反―弁護士職務基本規程63条~67条と社員・法人の受任制限(AI作成)

不当な依頼を受けた弁護士の対応―弁護士職務基本規程14条・31条と受任後の辞任(AI作成)

目次第1 14条と31条の対象の違い1 違法・不正な行為の助長又は利用を禁じる14条2 明らかに不当な事件の受任を禁じる31条第2 依頼の目的と事件処理方法を確認する1 何を実現したい依頼なのか2 どの方法を使うことを求めているのか第3 不当性が明らかな場合と,事実確認が必要な場合1 敗訴の見込みや証拠不足だけで決めない2 確認事項を具体化して判断を更新する3 無断録音を2種類に分けた東京高裁平成28年5月19日判決4 依頼者のGPS情報の収集・利用を止めなかった弁護士の戒告事例5 証拠能力と,収集への助長・利用を別々に点検する6 事務所の帳簿等の違法収集が争われた懲戒手続第4 受任後に判明した場合の説明・方法変更・辞任1 31条から,すべての辞任義務を導かない2 信頼関係,複数依頼者及び他の受任弁護士との関係第5 期限,記録及び依頼者の不利益への配慮1 辞任の検討と,引継ぎの準備を分けて行う2 終了時の説明,清算及び返還第6 懲戒判断との区別,関連記事及び出典1 規程上の問題と,他の責任・効力を区別する2 確認資料
第1 14条と31条の対象の違い
1 違法・不正な行為の助長又は利用を禁じる14条

弁護士職務基本規程14条は,次のとおり定める。
「弁護士は、詐欺的取引、暴力その他の違法若しくは不正な行為を助長し、又はこれらの行為を利用してはならない。」
事件の相談を受ける場合だけでなく,受任後の助言や処理方法でも問題になる規定である。依頼者の希望というだけで,違法・不正な方法に弁護士が手を貸せるものではない。

『解説「弁護士職務基本規程」第4版』40頁~41頁は,「助長」について,違法・不正であることを知りながら第三者に推奨し,又はその実現や存続を支援すること,「利用」について,違法・不正な行為によって事件処理を有利にし,又は利益を得ることと説明する。
この説明は解説書によるものであり,個々の行為の違法性や懲戒の成否を,一律に決めるものではない。

2 明らかに不当な事件の受任を禁じる31条

31条は,次のとおり定める。
「弁護士は、依頼の目的又は事件処理の方法が明らかに不当な事件を受任してはならない。」
目的と方法のいずれかに明らかな不当性がある場合を対象とする。14条と同じ行為に関係することもあるが,両条は対象と判断する場面が同一ではない。

条文の確認先は,日本弁護士連合会の公式PDFである。弁護士職務基本規程の条文別索引・主要論点には,関連条文の全体像を掲載している。
なお,14条及び31条は,82条2項が行動指針又は努力目標として列挙する条文に含まれていない。

第2 依頼の目的と事件処理方法を確認する
1 何を実現したい依頼なのか

同書130頁~131頁は,単に相手方を困らせ,傷つけ,又は理不尽な圧迫・不利益を加えることのみを意図する事件等を,31条の趣旨に即して説明する。
弁護士が確認すべきなのは,依頼者の感情が強いかどうかだけではなく,実現しようとする権利・利益と,求める処理の目的である。紛争の当事者が怒りを表していること自体は,明らかな不当性の証明ではない。

仮定例として,金銭の支払請求について相談を受ける場合には,債権の根拠,支払の経過,希望する解決を確認する。依頼者が「回収は望まないが,相手を疲弊させるため根拠のない訴訟を繰り返してほしい」と明言する場合には,それと同じ相談として扱えない。
この例は確認すべき事情を示すものであり,特定事件の違反認定を紹介するものではない。

2 どの方法を使うことを求めているのか

正当な請求権がありうる場合でも,事件処理の方法に問題があれば,別途検討が必要である。弁護士は,請求内容だけでなく,証拠の作成・収集,送達,財産の移転,交渉の手段等についても依頼内容を確認する。
同書41頁及び131頁は,違法な自力救済,仮装の処理,不当な執行免脱,虚偽の事情による手続利用等を説明している。

たとえば,家賃を滞納する賃借人に対する請求を検討することと,違法な自力救済となる鍵の付替えを指示することは分けて考える必要がある。相手の債務不履行があるというだけで,弁護士が違法な方法に関与できるものではない。
このような場合には,請求権の検討と,適法な手続・方法への変更を分けて説明することが重要である。

第3 不当性が明らかな場合と,事実確認が必要な場合
1 敗訴の見込みや証拠不足だけで決めない

同書130頁~133頁は,受任時に弁護士が得られる情報には限界があること,後に不当な事件だったと分かることだけで受任を直ちに非難できないこと,敗訴の見込みが高い事件も一律に不当な事件ではないことを説明する。
事実の把握が訴訟の進行で変わりうること,従来の判例と異なる法的主張を検討する役割,和解を通じて守られる利益等を考慮する必要がある。
勝訴の見込みが乏しい事件を受任できるかという問題と,見込みがあるように装って受任する問題も異なる。依頼者への見通しの説明を欠いてよいという意味ではない。

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弁護士の真実義務と虚偽の証拠―弁護士職務基本規程5条・75条と陳述書・証人準備(AI作成)

目次第1 5条・75条・82条の関係1 真実を尊重することと,虚偽の証拠を提出しないこと2 5条は行動指針の対象であるが,75条は列挙されていない第2 記憶違い,未確認及び虚偽の認識を区別する1 疑問があるときに確認する対象2 必要かつ可能な事実関係の調査第3 陳述書の作成と証人準備1 陳述書を本人の記憶に基づく内容にする2 証人準備で許される確認と,記憶の誘導との違い第4 虚偽と知る証拠と,提出後に判明した場合1 提出時の認識を確認する2 提出後の発覚に,一律の答えを置かない3 虚偽の確認書の撤回を拒んだ事例―平成24年綱第634号4 偽造診断書を撤回しても,代わりの説明の確認が必要となった事例5 撤回と秘密の開示を分ける―元依頼者の供述調書を利用した事例6 訂正・撤回を検討する手順と,原典からは決まらない部分第5 刑事弁護の防御権と民事事件を一律に扱わない1 弁護人の心証と,有罪の立証責任は異なる2 防御活動と虚偽の証拠作出は区別する第6 AIによる誤引用との違い,関連記事及び出典1 AIの出力を確認する責任2 関連記事と確認資料
第1 5条・75条・82条の関係
1 真実を尊重することと,虚偽の証拠を提出しないこと

弁護士職務基本規程5条は,弁護士が真実を尊重し,信義に従い,誠実かつ公正に職務を行うことを定める。一方,75条は,偽証若しくは虚偽の陳述をそそのかすこと,及び虚偽と知りながらその証拠を提出することを禁止する。
依頼者の説明に疑問を持つこと,裁判所がその説明を採用しないこと,弁護士が虚偽と知っていることは,それぞれ別の問題である。後に事実認定が覆ったという結果だけで,提出時の弁護士の認識まで決まるものではない。

現行の75条は,次のとおりである。
「弁護士は、偽証若しくは虚偽の陳述をそそのかし、又は虚偽と知りながらその証拠を提出してはならない。」
条文の確認先は,日本弁護士連合会の公式PDFである。規程の全体像と条文別索引は,弁護士職務基本規程とは―現行条文・条文別索引・主要論点を参照されたい。

2 5条は行動指針の対象であるが,75条は列挙されていない

82条2項は,第1章の規定等を行動指針又は努力目標として解釈適用するよう求めている。5条は第1章に含まれるが,75条は同項の列挙に含まれない。
この区別から,真実尊重の規定と証拠提出の具体的禁止を同じものとして扱うことはできない。ただし,どちらも,条番号だけで懲戒の成否,民事責任又は訴訟行為の効力まで決められるものではない。
82条1項は,職務の多様性と個別性に鑑み,弁護士の自由と独立を不当に侵さない実質的な解釈適用を求める。刑事弁護については,後記第5の留意も必要である。82条の行動指針・努力目標と懲戒判断も参照されたい。

第2 記憶違い,未確認及び虚偽の認識を区別する
1 疑問があるときに確認する対象

『解説「弁護士職務基本規程」第4版』11頁~13頁及び234頁は,弁護士が得る情報の片面性,訴訟の進行による認識の変化,依頼者の正当な利益を実現する役割を踏まえて真実尊重の意味を説明する。これは,同書の解説であり,裁判所の判断又は日弁連の公式な統一見解そのものではない。
実務では,説明のうち,本人が直接見聞きしたこと,他人から聞いたこと,資料から推測したこと,今は覚えていないことを分けて確認することが有用である。日時の記憶違いと,存在しない出来事を作ることを同列に扱わない。

たとえば,本人が「午後3時だった」と述べたもののメールの送信時刻と合わない場合には,出来事自体,時刻の根拠,時計や送信記録との関係を確認する必要がある。これは確認手順を示す仮定例であり,矛盾が一つあるだけで本人の説明全体が虚偽になるという意味ではない。
確認前の推測を,弁護士の文章で確定した事実に変えないことも重要である。

2 必要かつ可能な事実関係の調査

37条1項は必要な法令の調査を怠らないことを定め,同条2項は必要かつ可能な事実関係の調査を行うよう努めることを定める。法令調査と事実調査は,条文上の位置付けも異なる。
当該事実の重要性,利用できる資料,確認に要する時間,提出期限を踏まえ,原資料,反対資料及び依頼者への質問によって認識を更新する。その過程と未確認部分を記録することを,本記事では運用上の提案として勧める。
依頼者の説明を無条件に採用することも,疑念だけで切り捨てることも避け,何を確認すれば疑問が解消するかを具体化する必要がある。

第3 陳述書の作成と証人準備
1 陳述書を本人の記憶に基づく内容にする

同書234頁~235頁は,準備書面と陳述書の役割を区別し,準備書面の語調や文末を変えただけの文書を本人の記憶にかかわらず署名押印させること,その記載どおりに暗記して陳述させることが,75条に抵触する可能性を指摘する。
弁護士が文章化を補助すること自体を,直ちに禁止する説明ではない。確認すべきなのは,記載が本人の経験・記憶を表しているか,分からない部分を断定させていないか,資料からの推測を本人の直接体験として書いていないかという点である。

実際の確認方法としては,出来事ごとに本人へ説明を求め,補った記載の根拠を確認し,本人の訂正を反映してから最終版を示すことが考えられる。署名があるというだけで内容確認を終えたことにしない。
これらの工程を一律に条文が明記しているわけではなく,虚偽の陳述を誘導しないための具体化である。

2 証人準備で許される確認と,記憶の誘導との違い

同書235頁は,尋問に先立つ事情聴取,証言予定内容の再確認,書証との矛盾についての質問,証人の記憶に基づく修正と,虚偽と知りながら証言させる働きかけを区別する。

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弁護士の事件記録の返還・保管・廃棄―弁護士職務基本規程18条・39条・45条と紙・電子データの取扱い(AI作成)

目次第1 事件記録と預り品を区別する1 本記事で扱う事件記録2 39条・45条との関係第2 依頼者と第三者の情報を保護する1 依頼者の秘密だけが対象ではない2 依頼者への交付も個別に判断する第3 原本・預り品の返還と事件終了時の説明1 返すものと保存するものを確認する2 終了したら廃棄してよいとは限らない第4 保存期間をどう決めるか1 18条に一律の年数はない2 本人確認・取引記録の5年と起算点3 預り金の入出金記録は職務終了後3年4 個人事業・法人・消費税で異なる税務資料5 複数の義務と所属会の規律を重ねて確認する第5 紙と電子データの保管・廃棄1 紙の記録と委託先2 電子データとクラウド第6 辞任・解任・移籍時の取扱い1 事件の継続と引継ぎ2 退所・分裂とアクセス権第7 依頼者への説明と事務所の確認表第8 関連記事及び出典1 関連記事2 出典
第1 事件記録と預り品を区別する
1 本記事で扱う事件記録

弁護士職務基本規程18条は,事件記録の保管・廃棄に際して,秘密及びプライバシーに関する情報が漏れないよう注意する義務を定める。
日本弁護士連合会弁護士倫理委員会編著『解説 弁護士職務基本規程[第4版]』(日本弁護士連合会,2026年)47頁~50頁は,相談又は委任を受けた事件について職務上入手・作成した文書,写真等の証拠書類,電磁的記録及びその写しを事件記録として説明する。
本記事は,法律事務所が扱うこれらの記録について,令和8年10月3日に確認した日弁連公表本文及び同解説に基づき整理するものであり,裁判所が保管する訴訟記録の保存期間を説明するものではない。
同解説が述べる見解は日弁連の公式見解ではなく,本記事の実務上の提案とも区別して参照されたい。

2 39条・45条との関係

39条は,事件について依頼者,相手方その他利害関係人から預かった書類その他の物品を,善良な管理者の注意をもって保管する義務を定める。
45条は,委任終了に当たり,契約に従って金銭を清算した上で,預り金・預り品を遅滞なく返還する義務を定める。
事件記録の情報管理,預り品の保管及び終了時の返還は,重なり合う場面があっても,対象と目的を区別して点検する必要がある。

規定主な対象・場面点検する内容18条事件記録の保管・廃棄依頼者及び第三者の秘密・プライバシー情報の漏えい防止。39条預かった書類その他の物品善良な管理者の注意による保管。原本の紛失・毀損等の防止。45条委任終了時の預り金・預り品清算と遅滞のない返還。対象,返還先及び受領の確認。情報セキュリティ規程5条職務上取り扱う情報の各段階作成・取得から提供・送信・廃棄までの情報セキュリティ。

事件記録の保管・廃棄を扱う18条と,職務を行い得ない事件の受任を防止するための59条・68条の記録その他の措置は,目的と対象が異なる。59条・68条は依頼者,相手方及び事件名の記録を例示しており,証拠の全文や内部の検討内容を,事務所の全員へ無条件に共有することを求める規定ではない。

『解説「弁護士職務基本規程」第4版』201頁~202頁,218頁~219頁を踏まえ,受任前の照合に使う記録,詳細な事件記録及び共有先を分けて管理することが考えられる。追加情報の記録や共有は,受任防止に必要な範囲と秘密保持との関係を確認する。全事件記録の保存期間を,59条・68条だけで一律に決めることもできない。具体的な記録と照合は,法律事務所の利益相反チェックと事件情報の記録―59条・68条を参照されたい。

第2 依頼者と第三者の情報を保護する
1 依頼者の秘密だけが対象ではない

解説第4版47頁~48頁は,18条の対象に相手方その他第三者の秘密・プライバシー情報も含まれると説明する。
例えば,戸籍の記載,財産資料,供述内容及び企業秘密等は,事件に直接関係する部分だけで構成されているとは限らない。
訴訟で証拠として提出されたという事情だけから,その後の保管・廃棄で情報保護が不要になるわけでもない(同解説50頁)。

2 依頼者への交付も個別に判断する

同解説49頁~50頁は,受任事件を適切に処理するため必要な記録の交付を認める一方,第三者の秘密・プライバシーへの注意を求めている。
交付先,利用目的,必要な部分,第三者情報の有無及び交付後の取扱いを確認し,漏らさないよう注意を伝えること,必要に応じて情報を消除することや記録を回収することを検討する。
報告義務があることは,取得した記録のすべてを無条件に交付する根拠とはならない。
職務上請求の記事及び個人情報漏洩に関する懲戒事例も参照されたい。

第3 原本・預り品の返還と事件終了時の説明
1 返すものと保存するものを確認する

委任終了時には,依頼者等から預かった原本,相手方等から受領して引き渡すべき物,作成・取得した記録の写し及び事務所の業務記録を分けて確認することが望ましい。
18条は情報管理の規定であり,それだけで事務所の内部メモを含む全資料の所有権や開示範囲を一律に決めるものではない。
返還・交付の対象は,委任契約,受領の目的,民法646条の受取物引渡し義務及び各資料に適用される規律を踏まえて判断する。

2 終了したら廃棄してよいとは限らない

(続きを読む...)弁護士の事件記録の返還・保管・廃棄―弁護士職務基本規程18条・39条・45条と紙・電子データの取扱い(AI作成)

弁護士の委任契約書はいつ必要か―弁護士職務基本規程30条,記載事項,例外及び中途終了時の清算(AI作成)

目次第1 委任契約書を作成する原則1 30条と報酬規程5条2 説明と契約書をそろえる第2 作成時期と2種類の例外1 困難な事由がある場合の後日作成2 合理的理由がある場合の作成不要第3 契約書に記載する事項1 報酬規程5条4項の必須事項2 受任範囲と費用を具体化する第4 中途終了時の清算と返還1 解除できることと費用の清算は別である2 報酬の種類と実際の履行を照合する3 「理由を問わず返金しない」条項と消費者契約法4 みなし成功報酬の裁判例をどう読むか5 清算条項と清算明細に残す事項第5 追加業務と契約条件の変更1 別の手続へ移るとき2 電子契約では四つの問題を分ける3 電子署名と本人の承諾をどう確かめるか4 契約データの交付・保存と本人確認記録第6 契約書がない場合の効力と懲戒1 私法上の契約と職務上の義務2 作成義務違反を説明だけで補えない場合第7 受任時・変更時・終了時の確認表第8 関連記事及び出典1 関連記事2 出典
第1 委任契約書を作成する原則
1 30条と報酬規程5条

弁護士職務基本規程30条1項は,事件を受任するに当たり,弁護士報酬に関する事項を含む委任契約書を作成することを弁護士の義務としている。
さらに,弁護士の報酬に関する規程5条は,受任時の報酬・その他の費用の説明,委任契約書の作成及び記載事項を定める。
本記事は,令和8年10月3日に確認した日弁連の公表本文と,日本弁護士連合会弁護士倫理委員会編著『解説 弁護士職務基本規程[第4版]』(日本弁護士連合会,2026年)129頁~130頁に基づき,作成時期,例外及び確認事項を整理する。
同解説が述べる見解は日弁連の公式見解ではなく,本記事の実務上の提案とも区別して参照されたい。

契約書は,依頼者の委任意思,受任範囲及び費用を明確にし,後日の認識の食い違いを防ぐためのものである。
裁判所へ提出する訴訟委任状と,弁護士と依頼者との契約条件を定める委任契約書とは,役割が異なる。
訴訟委任状を受け取ったことだけで,30条の委任契約書を作成したことにはならない。

2 説明と契約書をそろえる

29条の受任時の説明と30条の契約書作成は,別々に点検する必要がある。
説明をしたから契約書が不要になるという関係ではなく,契約書に金額を書いたから見通し・処理方法・費用の説明を尽くしたという関係でもない。
説明義務・報告義務の専門記事も参照されたい。

第2 作成時期と2種類の例外
1 困難な事由がある場合の後日作成

30条1項ただし書は,作成することに困難な事由があるときは,その事由がやんだ後に作成すると定める。
これは作成義務を残したまま時期を遅らせる規定であり,作成不要の例外とは異なる。
緊急の対応を先行させる場合でも,困難な事由の内容と解消時点を記録し,解消後の作成を管理することが実務上の確認事項となる。

「忙しかった」「後で作るつもりだった」という説明だけで,当然にただし書に当たるとはいえない。
依頼者との意思確認や費用説明についても,何を,いつ,どの方法で確認できたかを残すことが望ましい。

2 合理的理由がある場合の作成不要

30条2項は,法律相談,簡易な書面の作成,顧問契約その他継続的な契約に基づく事件その他合理的な理由がある場合に,作成を要しないとする。
解説第4版129頁は,その場で仕事が終了して支払も済む場合や,継続的関係の下で受任内容・報酬が明らかな場合を説明する一方,作成しなかった合理的理由を弁護士側で十分説明できることを求めている。
依頼者と旧知の間柄であることは,それだけで作成義務を免除する理由にならない。

場面点検する事項作成・記録の扱い受任時に作成が困難困難な事由と解消の見込み事由がやんだ後に作成する。理由と作成予定を管理する。その場で終了する法律相談相談の範囲,料金,終了した業務2項の例外を検討する。後に交渉・訴訟を受任する場面とは分ける。継続的な顧問契約の業務基本契約の対象範囲と報酬,今回の業務との関係既存契約で明確な範囲を確認する。別料金の訴訟等を当然に含めない。友人・知人からの依頼通常の事件受任か,ほかに合理的理由があるか親しい関係だけを理由として省略しない。
第3 契約書に記載する事項
1 報酬規程5条4項の必須事項

報酬規程5条4項は,①受任する法律事務の表示及び範囲,②報酬の種類・金額・算定方法・支払時期,③委任事務の終了に至るまで契約を解除できる旨,④中途終了した場合の清算方法を記載事項として定める。
30条の「報酬に関する事項を含む」という文言だけを見て,受任範囲や解除・清算の記載を省略してよいと考えるべきではない。

(続きを読む...)弁護士の委任契約書はいつ必要か―弁護士職務基本規程30条,記載事項,例外及び中途終了時の清算(AI作成)

弁護士職務基本規程と司法書士行為規範の徹底比較-義務・利益相反・守秘義務と法的効果(AI作成)

目次

第1 両規範の位置付けと比較の対象第2 義務・努力目標・契約書・説明の違い1 弁護士82条と司法書士の努力文言2 契約書作成は弁護士が義務,司法書士が努力義務3 意思尊重と説明・報告の対象第3 受任禁止・利益相反・同意の違い1 応諾義務と不当・不正な依頼2 同意による例外は条項ごとに異なる3 共同依頼者の対立は受任前と受任後を分ける第4 秘密・記録・財産・相手方との関係1 守秘義務の対象と開示例外2 事件記録と預り金・預り品3 補助者・紹介対価・依頼者との経済関係4 相手方代理人を介さない直接交渉第5 業務別の規律を横断して読む1 不動産登記と商業・法人登記2 本人訴訟支援と認定司法書士の代理3 成年後見・財産管理・遺言執行・民事信託4 刑事弁護と組織内弁護士第6 共同事務所・法人・共同業務の違い1 遵守体制を整える主体と規律の強さ2 利益相反の拡張と移籍後の制約第7 懲戒・民事責任・契約や訴訟行為の効力1 法定懲戒の権者・事由・処分2 説明義務と委任契約上の責任3 無効・訴訟行為の排除と倫理評価第8 出典・参考資料1 法令2 職能団体の正式な規程・規範3 裁判例
第1 両規範の位置付けと比較の対象

弁護士職務基本規程と司法書士行為規範は,自由と独立,公正・誠実,秘密保持,利益相反の回避などの職業倫理を具体化している。
ただし,契約書を作成する規律の強さ,同意で受任禁止を解除できる範囲,業務別の確認事項,違反の法的効果は一致しない。
本記事では,職種全体の厳格さを順位付けせず,問題となる行為,業務,義務を負う主体及び例外を対応させて比較する。

調査の基準日は令和8年10月3日である。
日弁連公表の弁護士職務基本規程は平成16年11月10日制定の会規第70号であり,掲載PDFは平成26年12月5日及び令和3年6月11日の改正を掲げ,後者は令和4年11月1日に施行されている。
司法書士行為規範は,令和4年6月23日・24日の日本司法書士会連合会第87回定時総会で承認され,令和5年4月1日に施行されたものである。

比較事項弁護士職務基本規程司法書士行為規範全体構成13章。1~82条に68条の2があり,本則の独立した条は83本15章・102条規律の強さ82条が一部の条項を行動指針又は努力目標とする各条文の義務・禁止・努力文言を確認する一般的な契約書作成30条の例外付き義務23条の努力義務利益相反の配置27・28条,共同事務所・法人の規定等全業務の25条等と,裁判業務の58条等業務別の独立章刑事弁護,組織内弁護士,事件相手方等登記,供託,裁判,成年後見,財産管理,民事信託支援等個人への法定懲戒権者所属弁護士会(弁護士法56条2項)法務大臣(司法書士法47条)

いずれの規範も,業務を行う法律上の権限を新設するものではない。
弁護士は弁護士法3条,司法書士は司法書士法3条等による職務・業務の範囲を前提として,各規律を読むことになる。
弁護士側の全文と条文別索引は,弁護士職務基本規程の総合記事で確認できる。

第2 義務・努力目標・契約書・説明の違い
1 弁護士82条と司法書士の努力文言
(1) 弁護士の解釈適用指針

弁護士規程82条1項は,職務の多様性と個別性を踏まえ,自由と独立を不当に侵さないよう実質的に解釈・適用することを定める。
同条2項は,第1章,20~22条,26条,33条,37条2項,46~48条,50条,55条,59条,61条,68条,70条,73条及び74条を,行動指針又は努力目標として解釈・適用する対象に挙げている。

この一覧にあるのは33条であり,複数の依頼者に対する不利益事項の説明を定める32条ではない。
また,37条は2項だけが対象であり,必要な法令の調査を怠ってはならないとする1項まで努力目標になるわけではない。
対象条文と懲戒判断の関係は,82条の行動指針・努力目標で詳しく扱っている。

(2) 司法書士の条項ごとの読み分け

司法書士規範には,弁護士82条2項と同じ形の包括的な列挙はない。
それでも,契約書作成の23条,賠償責任保険加入の40条,不動産登記での公平確保の45条,民事信託支援の81条などは,条文自体に努力を求める文言がある。
包括的な列挙がないことから,全条文を結果の実現を保証する義務として読むことはできない。

2 契約書作成は弁護士が義務,司法書士が努力義務
(1) 弁護士30条の原則と例外

弁護士規程30条1項は,受任に当たり,報酬に関する事項を含む委任契約書の作成を義務付ける。
作成に困難な事由があるときは,その事由がやんだ後に作成する扱いである。

同条2項は,法律相談,簡易な書面作成,顧問契約その他の継続的契約に基づく事件など,合理的な理由がある場合に作成を不要とする。
したがって,すべての依頼で例外なく書面が必要という規定ではないが,原則を単なる推奨へ弱めることもできない。

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組織内弁護士の自由と独立・違法行為への対応―弁護士職務基本規程50条・51条(AI作成)

目次第1 50条の行動指針と51条の措置義務1 組織の一員であっても,弁護士としての職務を考える2 50条と51条を同じ努力目標として扱わない第2 誰が「組織内弁護士」に当たるか1 50条が定める組織と立場2 外部顧問や通報窓口の弁護士との違い第3 51条の措置義務が問題となる条件1 担当職務・組織に属する者・業務上の法令違反2 疑いの段階では,事実確認と緊急性を分ける第4 誰に,どのような措置を採るか1 説明・勧告の相手は固定された一本道ではない2 法務担当者が残しておく判断記録第5 組織内の措置と外部通報・守秘義務1 51条は外部通報を一般に義務づけない2 内部報告でも,情報の帰属と共有範囲を点検する第6 実務で先に決めておくことと検討の限界1 独立した判断を行える相談・報告経路2 役職・情報・報告先を確定して判断する第7 出典
第1 50条の行動指針と51条の措置義務
1 組織の一員であっても,弁護士としての職務を考える

企業や官公署等に所属する弁護士は,組織の一員としての職務と,弁護士としての使命・職業上の良心をどのように両立させるかという問題に直面する。
弁護士職務基本規程50条は,その自由と独立を自覚し,良心に従って職務を行うよう努めることを定める。
51条は,担当職務に関する組織内の業務上の法令違反を知ったときに,組織内で適切な措置を採ることを定める。

本記事は,令和8年10月3日に確認した日弁連の現行規程と,日本弁護士連合会弁護士倫理委員会編著『解説「弁護士職務基本規程」第4版』(2026年)168頁~173頁を中心に整理する。
同書の見解は日弁連の公式見解ではない。
条文全体の位置付けは,弁護士職務基本規程の総合記事を参照されたい。

2 50条と51条を同じ努力目標として扱わない
規定主な内容82条2項の列挙50条自由と独立を自覚し,良心に従って職務を行うよう努める行動指針又は努力目標として列挙される51条要件を満たす法令違反を知ったとき,組織内の適切な措置を採る同項の列挙には含まれない

50条の内容だけを見て,51条も単なる努力目標であると説明してはならない。
他方,列挙の有無だけから懲戒の成否や処分の重さを機械的に決めることもできない。
82条の行動指針・努力目標と,具体的な担当職務・行為の内容を併せて検討する。

第2 誰が「組織内弁護士」に当たるか
1 50条が定める組織と立場

50条は,官公署又は公私の団体において職員・使用人となり,又は取締役・理事その他の役員となっている弁護士を対象とする。
同条の「組織」からは,弁護士法人,外国法事務弁護士法人及び弁護士・外国法事務弁護士共同法人が除かれている。
法律事務所に勤務する弁護士と,企業等に所属する組織内弁護士を,所属先の名称だけで混同しないことが必要である。

(1) 監査役と非常勤の社外取締役を同じ役員として扱わない

『解説』第4版169頁は,株式会社の監査役について,50条の立法趣旨に照らし「その他の役員」に含まれないとの解釈を示す。
同頁は,非常勤の社外取締役を組織内弁護士とすることの妥当性には議論があること,営利業務の届出が必要な役員の範囲と50条・51条の適用対象を必ずしも同一に考える必要がないことも説明する。
監査役への適用を同解説が肯定しているように紹介したり,単に弁護士資格があることから全ての社外役員に51条を一律適用したりするのは適切ではない。

この区別は,社外取締役又は監査役としての監督・監査義務がなくなることを意味しない。
まず会社の機関設計,正式な役職,監査範囲及び担当業務を確定し,職務基本規程の適用問題と,会社法上の義務を別々に確認する必要がある。
監査等委員である取締役は取締役であり,監査役と同じ名称・権限の役職ではない。

(2) 会社法上の報告・監査・差止め

会社法362条2項は,取締役会の職務として取締役の職務執行の監督を定める。
357条は,取締役が会社に著しい損害を及ぼすおそれのある事実を発見した場合に,直ちに株主又は会社の機関設計に応じた監査役・監査役会・監査等委員会へ報告することを定める。
弁護士資格のある社外取締役についても,50条・51条の適用範囲の議論だけを理由に,この報告の要否を省略すべきではない。

(続きを読む...)組織内弁護士の自由と独立・違法行為への対応―弁護士職務基本規程50条・51条(AI作成)

弁護士の説明義務・報告義務―弁護士職務基本規程29条・36条と見通し変更・和解提案への対応(AI作成)

目次第1 受任時の説明と受任後の報告・協議を区別する1 説明した契約書があっても,その後の報告は必要になる2 場面別の確認表第2 29条の受任時説明で確認すること1 事件の見通し・方法・報酬・費用2 予測を述べることと,結果を保証することは違う3 書面や職員の補助だけで説明を済ませない第3 36条の「必要に応じ」をどう考えるか1 請求された場合の報告と,自ら行う報告・協議2 見通しが変わったときと,和解案が出たとき3 「専門家に任せる」と言われた場合第4 最高裁平成25年4月16日判決の示す説明の不足1 法廷意見が判断したこと2 一般的な報告義務の論述は補足意見と区別する第5 誰に,どの方法で,何を残すか1 紹介者・家族だけに説明していないか2 説明・協議の記録は何のために残すか第6 事件放置・辞任・委任終了とのつながり1 連絡の不足と事件処理の遅滞を分けて点検する2 終了時には結果説明と清算を確認する第7 出典
第1 受任時の説明と受任後の報告・協議を区別する
1 説明した契約書があっても,その後の報告は必要になる

弁護士職務基本規程29条は,事件を受任するときの見通し,処理方法,報酬及び費用の説明を定める。
36条は,受任後,必要に応じて事件の経過や帰趨に影響する事項を報告し,依頼者と協議しながら処理を進めることを定める。
受任時に説明したことや委任契約書を作成したことだけで,その後の状況変化について説明・協議する必要がなくなるわけではない。

本記事は,令和8年10月3日に確認した日弁連の現行規程,民法,裁判所公表の最高裁判決及び『解説「弁護士職務基本規程」第4版』(2026年)に基づく。
同解説書の説明,判決の法廷意見及び本記事の実務上の提案は,それぞれ根拠を示して区別する。
全体の条文と位置付けは,弁護士職務基本規程の現行条文・条文別索引・主要論点を参照されたい。

2 場面別の確認表
場面主な規定確認する内容受任する前・受任時29条得られた情報に基づく見通し,方法,報酬及び費用委任契約の作成30条報酬事項を含む契約書。例外の有無は別に確認複数依頼者の将来の対立32条辞任の可能性その他の不利益を各依頼者に説明受任後の進行・見通しの変化36条経過と重要事項の報告,判断に必要な説明と協議委任の終了44条・45条処理状況・結果の説明,清算及び預り金・預り品の返還

説明義務は,依頼者に有利な結果を約束する義務ではない。
依頼者が,リスク,選択肢及び費用を理解して判断できるようにすることが中心となる。

第2 29条の受任時説明で確認すること
1 事件の見通し・方法・報酬・費用

29条1項の説明は,依頼者から得た情報に基づくものである。
『解説』第4版125頁~126頁は,事件の見通し,処理方法,報酬及び費用が最低限の説明事項であり,見通しが勝敗だけでなく,予測される相手方の主張や解決までの時間も含むことを説明する。
受任時にあらゆる調査を終えることまでは要求されないが,未確認の前提と,その前提が変わった場合の影響を示すことが重要である。

本記事では,説明事項を次のように整理する。
① 何を依頼され,どこまでの事務を担当するのか。
② 得られた情報から,何が見通せ,何がまだ分からないのか。
③ 交渉,調停,訴訟,保全等のどの方法を検討し,その方法を選ぶ理由は何か。
④ 報酬・実費,追加費用が生じる条件,審級や手続が変わったときの取扱いは何か。
⑤ 依頼者が準備する資料や,期限までに決める必要のある事項は何か。

この確認項目は,条文と解説を日常の相談に適用するための運用提案である。
事件の性質によって,説明すべき項目の具体的な内容は異なる。

見通しの前提となる法令・事実関係をどこまで調べるか,追加調査の方法・費用・期限をどう協議するかは,弁護士の法令・事実調査―弁護士職務基本規程37条で整理している。

2 予測を述べることと,結果を保証することは違う

29条2項は,有利な結果を請け合い,又は保証することを禁止する。
同条3項は,期待する結果が得られる見込みがないのに,見込みがあるように装って受任することを禁止する。

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弁護士の利益相反―弁護士職務基本規程27条・28条の違い,同意による例外と受任後の対応(AI作成)

目次第1 利益相反の確認は「誰が,どの事件で,誰のために動くか」から始める1 本記事の対象と結論2 受任前に確認する順序第2 27条と28条は何が違うか1 27条は従前の関与や現在の相手方との関係を規律する2 28条は依頼者・顧問先・自己の利益との関係を加える第3 相談だけでも制約は生じるか1 契約書や着手金の有無だけで決まらない2 「別事件」は事件番号が違うだけでは足りない第4 同意を得ればよい場面でも,説明と秘密保持を確認する1 誰の何に対する同意かを明確にする2 利益相反の同意と秘密の開示の承諾は別に検討する第5 受任後に利害対立が生じたとき1 32条の事前説明と42条の事後措置2 遺産分割等で「全員辞任か,一方を継続できるか」第6 共同事務所・弁護士法人と訴訟行為の効力1 担当弁護士個人だけを調べて終わらない2 規程違反と訴訟行為の排除を区別する第7 個別の場面と出典1 さらに確認する場面2 出典
第1 利益相反の確認は「誰が,どの事件で,誰のために動くか」から始める
1 本記事の対象と結論

弁護士の利益相反を検討するときは,依頼者全員の同意があれば受任できると一括して考えてはならない。
弁護士職務基本規程27条・28条は,禁止される場面と同意による例外を区別しており,27条1号・2号等には同意による例外が置かれていない。
まず適用される号を特定し,次に同意の対象者,秘密保持,受任後の対応を確認する必要がある。

本記事は,令和8年10月3日に確認した日弁連公表の現行規程,弁護士法及び日本弁護士連合会弁護士倫理委員会編著『解説「弁護士職務基本規程」第4版』(2026年)の該当箇所に基づく。
同解説書は日弁連の公式見解を記載したものではなく,解釈について意見が分かれる場面もある。
規程全体の本文と条文別索引は,弁護士職務基本規程の総合記事を参照されたい。

2 受任前に確認する順序
確認する問い主に確認する規定・事項相手方から同じ事件の相談・依頼を受けていないか27条1号・2号,弁護士法25条1号・2号現在の事件の相手方から別事件の依頼を受けていないか27条3号。現在の事件の依頼者の同意現在の依頼者・顧問先を別事件で相手方にしないか28条2号。新しい依頼者と相手方の双方の同意複数の依頼者の利益や,依頼者と自分の経済的利益が対立しないか28条3号・4号。潜在的な対立は32条も確認同僚・元同僚や弁護士法人の事件に制約がないか56条~59条,62条~68条。個人の確認だけで終えない

この順序は,条文を見落とさないための実務上の確認方法である。
表のいずれか一つだけを満たせば受任できるという意味ではなく,複数の規定に該当するときは,各規定の制約をそれぞれ確認する。

第2 27条と28条は何が違うか
1 27条は従前の関与や現在の相手方との関係を規律する

27条は,相手方との相談・受任関係,公務員や裁判外紛争解決手続の担当者としての関与等に基づく職務の禁止を定める。
28条は,27条に規定する場合のほか,親族,現在の依頼者・顧問先,依頼者同士及び弁護士自身の経済的利益との関係を規律する。
『解説』第4版95頁は,27条を弁護士法25条との関係を明確にする規定として説明しつつ,27条5号が仲裁に限らない裁判外紛争解決手続を含むことも指摘する。

27条の号禁止される事件の概要本条の同意による例外1号相手方の協議を受けて賛助し,又はその依頼を承諾した事件置かれていない2号相手方の協議を受け,その程度・方法が信頼関係に基づくと認められる事件置かれていない3号受任している事件の相手方から依頼された他の事件受任中の事件の依頼者の同意4号公務員として職務上取り扱った事件置かれていない5号仲裁・調停・和解斡旋その他の裁判外紛争解決手続機関の手続実施者として取り扱った事件置かれていない

弁護士法25条は現行法で9号まであり,弁護士法人等に所属する弁護士についての規定も含む。
したがって,職務基本規程27条の五つの号だけを確認して,法律上の職務制限をすべて確認したことにはならない。

2 28条は依頼者・顧問先・自己の利益との関係を加える
28条の号禁止される事件の概要同意が必要な者1号相手方が配偶者,直系血族,兄弟姉妹又は同居の親族である事件その事件の依頼者2号受任している他の事件の依頼者又は継続的な法律事務の提供を約している者を相手方とする事件その事件の依頼者と相手方3号依頼者の利益と他の依頼者の利益が相反する事件その事件の依頼者と他の依頼者のいずれも4号依頼者の利益と自己の経済的利益が相反する事件その事件の依頼者

27条3号は「現在の相手方から,別事件を頼まれる」場面であり,28条2号は「現在の依頼者・顧問先を,新しい事件で相手方にする」場面である。
依頼の向きが逆になると,同意を確認する相手も変わる。
例えば,Aから受任した事件の相手方Bが別件を依頼するときは27条3号を検討するのに対し,Cが現在の依頼者Aを訴える事件を依頼するときは28条2号を検討する。

『解説』第4版106頁~107頁は,28条2号の継続的な法律事務提供先が顧問先に限られないこと,終了した依頼関係についても守秘義務による制約が残り得ることを説明する。
顧問契約の終了だけから,同じ紛争の反対側で自由に活動できると考えてはならない。

第3 相談だけでも制約は生じるか
1 契約書や着手金の有無だけで決まらない

(続きを読む...)弁護士の利益相反―弁護士職務基本規程27条・28条の違い,同意による例外と受任後の対応(AI作成)

弁護士が病気・メンタル不調で執務できないときの業務継続――期限,依頼者連絡,預り金及び引継ぎ(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と資料2 結論第2 病気になっても残る職務上の義務1 事件の遅滞防止と依頼者への報告2 預り金の分別管理,記録,報告及び返還3 病気は免責事由ではないが,処分の重さには影響し得ること第3 業務継続対応を始める基準1 診断名ではなく業務への影響で判断する2 即日対応が必要な兆候3 本人だけで判断しない仕組み第4 最初の24時間,3日及び7日で行うこと1 最初の24時間2 3日以内3 7日以内第5 受任事件,依頼者連絡及び辞任・引継ぎ1 事件一覧は期限から並べる2 依頼者には診断名よりも業務上の事実を伝える3 協力弁護士は当然には代理権を持たない4 辞任・引継ぎで残す記録第6 預り金の停止,照合,報告及び返還1 新たな出金を止める2 事件別残高と銀行残高を照合する3 正当な支出があっても報告・清算・返還は別に必要である4 職員任せにしない第7 公表裁決から分かること1 所属弁護士会の処分と日弁連による変更2 軽減方向に考慮された事情3 それでも業務停止1月とされた理由4 処分量定の機械的な相場にはできない第8 平常時に作っておく業務継続セット第9 一人事務所と複数弁護士事務所の違い第10 関連する場面との区別第11 関連記事第12 出典及び資料の限界

第1 この記事の対象と結論
1 対象と資料

本記事は,弁護士が病気,けが又はメンタル不調によって,受任事件の処理,依頼者への連絡,預り金の管理その他の執務を続けることが難しくなった場合の業務継続対応を扱う。

法的な義務については,日弁連の弁護士職務基本規程及び預り金等の取扱いに関する規程を確認した。具体例については,大阪弁護士会が業務停止3月とした処分を,日弁連が令和8年7月14日の裁決により業務停止1月へ変更した公表裁決を用いる。

同裁決は一つの懲戒事案に関する判断であり,病気時の業務継続手順を一般的に定めたものではない。本記事のうち,「しなければならない」とする部分は会規等に根拠がある事項であり,24時間・3日・7日の対応順序,協力弁護士への連絡方法及び業務継続セットは,これらの義務を履行できなくなる事態を避けるための実務上の推奨策である。

2 結論

結論は次の6点である。
①病気やメンタル不調があっても,事件を遅滞なく処理し,依頼者へ報告し,預り金を記録・清算・返還する義務が当然に消えるわけではない。
②もっとも,公表裁決では,精神的不調に至った経緯,預り金を費消せず保管していたこと,審査請求後に協力弁護士が返還を完了したことが,処分を軽くする方向で考慮された。
③他方で,約4年7か月にわたる長期保管,その間に返還の能力や機会が全くなかったとは認められないこと,本人ではなく協力弁護士が返還したことも考慮され,業務停止1月は残った。
④執務不能の兆候が出たときは,診断名の確定を待たず,期限・期日・身体拘束事件・預り金・連絡不能の危険から順に事務所の対応を始める。
⑤協力弁護士がいるだけでは,受任事件の代理権や預り金を動かす権限が当然に生じるわけではない。依頼者の意思,利益相反,守秘義務,委任状,復代理及び裁判所への届出等を事件ごとに確認する。
⑥病気になってから一から引継資料を作るのでは遅い。平常時から,期限一覧,事件別預り金台帳,連絡先,権限の境界及び緊急時の手順を更新しておく必要がある。

第2 病気になっても残る職務上の義務
1 事件の遅滞防止と依頼者への報告

弁護士職務基本規程35条は,事件を受任したときは速やかに着手し,遅滞なく処理することを定める。同規程36条は,事件の経過及び事件の帰すうに影響を及ぼす事項について,適宜,依頼者に報告することを定める。

したがって,体調不良のため予定していた申立て,提訴,照会,交渉又は依頼者への回答ができなくなったときは,体調の回復だけを待つのでは足りない。期限への影響を調べ,必要に応じて依頼者へ状況を説明し,代替措置,辞任又は引継ぎを検討する必要がある。

2 預り金の分別管理,記録,報告及び返還

弁護士職務基本規程38条は,事件に関して預かった金員を自己の金員と区別し,預り金であることを明確にする方法で保管し,その状況を記録することを定める。同規程45条は,委任の終了に当たり,委任契約に従って金銭を清算し,預り金及び預り品を遅滞なく返還することを定める。

預り金等の取扱いに関する規程は,保管目的以外の使用の禁止,預り金口座,入出金の記録,依頼者への収支報告及び弁護士会の照会への回答等を定める。体調不良は,帳簿と銀行残高の不一致や,返還・報告の先送りを放置してよい理由にはならない。

3 病気は免責事由ではないが,処分の重さには影響し得ること

公表裁決は,精神的不調に陥って預り金の返還手続及び所属弁護士会の懲戒手続への対応を続けられなかったとの主張に沿う証拠が提出されたことを,処分を軽くする方向で考慮した。しかし,職務基本規程45条の趣旨に違反するとの判断自体は維持した。

したがって,病気又はメンタル不調については,①義務違反の有無,②責任の程度,③処分の重さ,④今後の再発防止を分けて検討する必要がある。「病気だから違反にならない」とも,「病気は一切考慮されない」ともいえない。

第3 業務継続対応を始める基準
1 診断名ではなく業務への影響で判断する

業務継続対応を始める基準は,診断書の有無ではなく,受任事件を安全に処理できるかである。例えば,期限を思い出せない,同じ連絡を何度も先送りする,郵便物を開封できない,記録を読むと強い不安で動けない,入出金の説明ができない状態が続くときは,病名が確定していなくても対応を始めるべきである。

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弁護士の業務広告と懲戒――詐欺被害回復の広告,成果報酬型の広告,期間限定表示の懲戒例と令和7年改正(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と資料2 結論第2 業務広告に関する規律1 弁護士職務基本規程2 弁護士等の業務広告に関する規程3 令和7年12月5日の改正第3 広告の表示が問題とされた例1 詐欺被害の回復をうたう広告2 紙のチラシ3 期間限定の表示第4 勧誘の方法が問題とされた例1 面識のない者への通知2 口外禁止条項の潜脱3 非弁業者の電話勧誘体制第5 広告業者等への支払1 成果報酬型の広告2 紹介料・業務委託料の名目第6 弁護士が確認しておくこと1 表示2 広告業者との関係3 勧誘第7 関連記事第8 出典1 日弁連の会規2 消費者庁の措置命令3 懲戒処分及び裁決の公告
第1 この記事の対象と結論
1 対象と資料

本記事は,弁護士の業務広告に関する規律と,広告や勧誘の方法,広告業者への支払が懲戒処分の対象とされた例を整理するものである。
本記事の法令及び会規の整理は令和8年9月28日を基準とし,広告規程4条及び広告指針の該当箇所は令和8年10月5日に再確認した。
会規は日本弁護士連合会(以下「日弁連」という。)が公表している現行の会規集の本文で確認し,懲戒例は日弁連の機関誌『自由と正義』に掲載された懲戒処分の公告及び裁決の公告の原本で,号・頁・処分の内容を確認した。
公告は処分の理由の要旨を記載したものにとどまるため,本記事の記述も公告の記載の範囲に限られる。
個々の弁護士の氏名は記載しない(弁護士法人の名称は,処分の対象そのものであるため記載する。)。

2 結論

結論は次の5点である。
①弁護士の業務広告は原則として自由であるが,弁護士職務基本規程9条と「弁護士等の業務広告に関する規程」(以下「広告規程」という。)が,虚偽・誤導・誇大な広告や,面識のない者への一定の方法による勧誘を禁じている。
②近年の懲戒例は,詐欺被害の回復をうたう広告に集中しており,どのような回答をしても返金請求が必要であるかのような結果が出る診断機能,全件が満額回収であるかのような解決事例の表示,閲覧者の人数を実際と異なる数で示す表示が,いずれも違反とされている。
③広告表示そのものの違反は戒告から業務停止数か月の例が多いが,広告業者や非弁護士に受任の過程を委ね,名義を利用させる体制と結び付くと,業務停止1年以上の重い処分になっている。
④広告業者への支払を受任件数や報酬額に連動させると,名目が広告費や業務委託料であっても,紹介の対価(職務基本規程13条)や報酬の分配(同12条)と評価されている。
⑤令和7年12月5日の広告規程の改正で,広告業者との契約書と入出金の記録の保存が求められるようになった(令和8年7月1日施行)。

第2 業務広告に関する規律
1 弁護士職務基本規程

弁護士職務基本規程9条1項は「弁護士は、広告又は宣伝をするときは、虚偽又は誤導にわたる情報を提供してはならない。」,同条2項は「弁護士は、品位を損なう広告又は宣伝をしてはならない。」と定めている。
同規程11条は,弁護士法72条から74条までの規定に違反する者等から依頼者の紹介を受け,これらの者を利用し,又はこれらの者に自己の名義を利用させることを禁じている。
同規程12条は,職務に関する報酬を弁護士等でない者と分配することを原則として禁じ,13条1項は「弁護士は、依頼者の紹介を受けたことに対する謝礼その他の対価を支払ってはならない。」と定めている。
これらはいずれも,同規程82条2項の行動指針又は努力目標の規定には含まれない義務規定である。

2 弁護士等の業務広告に関する規程

広告規程(平成12年会規第44号)2条は,広告を,弁護士等が「自己又は自己の業務を他人に知らせるために行う情報の伝達及び表示行為であって、顧客又は依頼者となるように誘引することを主たる目的とするもの」と定義している。
媒体は問わないので,事務所のウェブサイトやポータルサイトへの掲載,SNSでの発信も,誘引を主たる目的とするものであれば広告に当たる。

3条は,次の広告を禁止している。
①事実に合致していない広告
②誤導又は誤認のおそれのある広告
③誇大又は過度な期待を抱かせる広告
④困惑させ,又は過度な不安をあおる広告
⑤特定の弁護士等又はその事務所と比較した広告

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弁護士の事件放置と懲戒――放置期間では処分が決まらない理由と公表事例(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と資料2 結論第2 事件放置に関する規律1 弁護士職務基本規程2 弁護士法3 事件処理の遅滞と裁判手続の遅延第3 戒告にとどまった例1 放置の期間の幅2 虚偽の説明があっても戒告の例第4 処分が重くなった例1 虚偽の報告と書面の偽造2 複数の事件・依頼者での反復3 事務職員への任せきり4 着手金・預り金の未清算と弁護士会への不対応5 同種の処分歴6 所在不明第5 処分の重さを分ける事情第6 弁護士が確認しておくこと1 放置を防ぐ仕組み2 処理が遅れてしまったとき3 体調不良で処理を続けられないとき第7 関連記事第8 出典1 日弁連の会規・法令2 懲戒処分の公告
第1 この記事の対象と結論
1 対象と資料

本記事は,弁護士が受任した事件の処理を放置したことが懲戒処分の対象とされた例を整理し,処分の重さを分ける事情を検討するものである。
本記事の法令及び会規は令和8年9月28日現在のものである。
懲戒例は,日本弁護士連合会(以下「日弁連」という。)の機関誌『自由と正義』に掲載された公告と,大阪弁護士会『月刊大阪弁護士会』2026年9月号に掲載された告示の原本で,掲載号・頁・処分の内容を確認した。
公告は処分の理由の要旨を記載したものにとどまるため,本記事の記述も公告の記載の範囲に限られる。
個々の弁護士の氏名は記載しない。

2 結論

結論は次の4点である。
①事件の放置は,主に弁護士職務基本規程35条(事件の処理)と36条(事件処理の報告及び協議)の違反として懲戒の対象となる。
②放置の期間だけで処分は決まらない。
公告には,約5か月の放置から9年以上の放置まで,戒告にとどまった例がある。
③処分が重くなるのは,放置に次の事情が重なった場合である。
虚偽の報告や書面の偽造,消滅時効の完成など依頼者の権利の喪失,複数の事件・依頼者での反復,事務職員への任せきり,着手金や預り金の未清算,所在不明や弁護士会への不対応,同種の処分歴である。
④もっとも,「虚偽の報告があれば必ず重い」といった一律の基準はなく,提訴済みと虚偽の説明をした事案でも戒告の例がある。

第2 事件放置に関する規律

事件処理中の報告・協議の内容を先に確認する場合は,弁護士の説明義務・報告義務(29条・36条)を参照されたい。
通常の報告・協議の規律と,本記事で扱う事件放置に対する懲戒の判断を区別して理解できる。

1 弁護士職務基本規程

弁護士職務基本規程35条は,「弁護士は、事件を受任したときは、速やかに着手し、遅滞なく処理しなければならない。」と定めている。
同規程36条は,「弁護士は、必要に応じ、依頼者に対して、事件の経過及び事件の帰趨に影響を及ぼす事項を報告し、依頼者と協議しながら事件の処理を進めなければならない。」と定めている。
いずれも,同規程82条2項が行動指針又は努力目標として解釈適用すべきものとして列挙する規定には含まれず,義務規定である。

公告では,長期の放置について,35条ではなく信義誠実の義務を定める同規程5条(「弁護士は、真実を尊重し、信義に従い、誠実かつ公正に職務を行うものとする。」)の違反とした例もある。
委任が終了したときの清算と返還(同規程45条),委任契約書の作成(同規程30条)が,放置とあわせて問題とされることも多い。

2 弁護士法

懲戒の根拠は弁護士法56条1項であり,「その品位を失うべき非行があつたとき」に懲戒を受ける。
懲戒の種類は,戒告,2年以内の業務の停止,退会命令及び除名の4種である(同法57条1項)。

3 事件処理の遅滞と裁判手続の遅延

35条が受任事件の速やかな着手と遅滞のない処理を定めるのに対し,76条は,怠慢又は不当な目的による裁判手続の遅延を禁じる。訴訟を提起しないままの事件放置と,係属中の裁判手続を遅延させる行為は,場面を分けて点検する必要がある。

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弁護士の預り金の管理と懲戒――令和8年6月施行の改正預り金規程と公表事例に見る処分の段階(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と資料2 結論第2 預り金に関する規律1 弁護士職務基本規程2 預り金等の取扱いに関する規程3 令和8年6月1日施行の改正点第3 公表された懲戒例に見る処分の段階1 清算・返還の遅れと管理の不備(戒告)2 記録と報告のない保管(業務停止1月~3月)3 虚偽の報告・調査への不協力・多額の流用(退会命令・除名)4 口座の届出と年次報告書第4 報酬の控除と処分の取消し1 合意のない控除2 日弁連による取消し3 委任終了前の交付と,預り金の目的に応じた清算第5 弁護士が確認しておくこと1 口座と記録2 清算と報告3 弁護士会からの照会4 病気等で本人が処理できない場合5 返還の遅れ,横領の成立及び後日の補填第6 関連記事第7 出典1 日弁連の会規2 懲戒処分・裁決の公告と大阪弁護士会の告示
第1 この記事の対象と結論
1 対象と資料

本記事は,弁護士が事件に関して預かった金員(預り金)の管理をめぐる規律と,その違反が懲戒処分の対象とされた例を整理するものである。
本記事の法令及び会規は令和8年9月28日現在のものである。
会規は日本弁護士連合会(以下「日弁連」という。)が公表している現行の会規集の本文で確認し,懲戒例は日弁連の機関誌『自由と正義』の懲戒処分・裁決の公告と,『月刊大阪弁護士会』2026年7月号127~128頁の懲戒告示で,それぞれ号・頁・処分の内容を確認した。
公告・告示は処分の理由の要旨を記載したものにとどまるため,本記事の記述も各資料の記載の範囲に限られる。
個々の弁護士の氏名は,本記事の目的との関係で必要がないため記載しない(弁護士法人の名称は,処分の対象そのものであるため記載する。)。

2 結論

結論は次の6点である。
①預り金の保管は,弁護士職務基本規程38条と「預り金等の取扱いに関する規程」(以下「預り金規程」という。)が定めており,預り金規程は令和8年6月1日施行の改正で,預り金口座の自己名義の原則,通帳等の原本の提示義務及び照会に応じない会員の公表の制度を加えた。
②公表された懲戒例には,清算や返還の遅れ,口座・記録の不備といった管理の問題から始まり,目的外の使用(流用),さらに虚偽の報告や弁護士会の調査への不協力へと進むにつれて処分が重くなる段階がある。
③もっとも,処分の重さは一律ではなく,目的外の使用が認定されても戒告にとどまった例がある一方,預り金口座の届出と照会への回答を怠っただけで業務停止とされた例もある。
④依頼者の同意のない報酬の控除は懲戒の対象になり得るが,報酬の合意が後から認められて日弁連が処分を取り消した例もあり,委任契約書と清算書面が弁明の最大の資料になる。
⑤弁護士会から預り金について照会を受けたときに回答しないことは,それ自体が重い処分の理由になっている。
⑥病気又はメンタル不調は,預り金を報告・清算・返還しないことを当然に正当化しない。もっとも,公表裁決では,病状に沿う証拠,費消がなかったこと及び後の返還が処分を軽くする方向で考慮された。

第2 預り金に関する規律
1 弁護士職務基本規程

弁護士職務基本規程38条は,「弁護士は、事件に関して依頼者、相手方その他利害関係人から金員を預かったときは、自己の金員と区別し、預り金であることを明確にする方法で保管し、その状況を記録しなければならない。」と定めている。
書類その他の物品の保管は39条(預り品の保管)であり,預り金の保管の条文は38条である。

同規程45条は,「弁護士は、委任の終了に当たり、委任契約に従い、金銭を清算した上、預り金及び預り品を遅滞なく返還しなければならない。」と定めている。

同規程25条は,「弁護士は、特別の事情がない限り、依頼者と金銭の貸借をし、又は自己の債務について依頼者に保証を依頼し、若しくは依頼者の債務について保証をしてはならない。」と定めている。
依頼者から借りることだけでなく,依頼者に貸すことも対象である。
これらはいずれも,同規程82条2項が行動指針又は努力目標として解釈適用すべきものとして列挙する規定には含まれておらず,義務規定である。

2 預り金等の取扱いに関する規程

預り金規程(平成25年会規第97号)は,平成25年8月1日に施行され,平成29年と令和7年6月13日に改正された。
主な内容は次のとおりである。
①保管目的以外の使用の禁止(2条)
②預り金のみを管理する専用の口座(預り金口座)の開設(3条1項),口座名義に「預り金、預り口、預り金口その他の預り金口座であることを明示する文字」を用いること(3条3項),所属弁護士会への届出(3条4項)
③自己の金員との区別(4条1項)と,一定額以上の預り金の預り金口座での保管(4条2項)

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家族が付き添って弁護士に相談するとき―同席の可否,本人の意思確認,守秘義務と交通事故・相続での注意点(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象とする読者と基準日2 結論第2 弁護士が本人の意思を確かめる理由1 依頼者の意思の尊重と説明2 秘密の保持3 依頼するための契約を結ぶのも本人である第3 家族が同席するときと席を外すとき1 同席について直接の定めはない2 本人だけと話す時間が必要になりやすい場面第4 交通事故の相談に家族が付き添う場合1 経過の説明役としての家族2 本人が意思を表明できない場合3 付き添う家族が同じ事故の当事者である場合第5 相続・遺言の相談に家族が付き添う場合1 遺産分割の相談2 遺言の相談第6 付き添う家族が事前に準備すること第7 関連記事第8 出典・参考資料1 法令2 職能団体の規程3 所管行政機関の資料
第1 この記事の対象と結論
1 対象とする読者と基準日

この記事は,交通事故でけがをした家族や,相続・遺言について相談したい高齢の親に付き添って,弁護士の法律相談に同席しようとしている人を対象とする。
弁護士職務基本規程は日本弁護士連合会が公表している現行の本文(会規第70号)により,法令は令和8年9月28日時点でe-Gov法令検索により確認した内容に基づく。
相談を受ける側の事務所ごとの運用は扱わない。

2 結論
(1) 依頼者は相談の当事者である本人である

弁護士に事件を依頼するのは,事故の被害者や遺産を相続する人など,相談の当事者である本人である。
家族が付き添う場合でも,弁護士は本人の意思を確かめ,本人に説明し,本人の秘密を守る立場にある。
そのため,家族が同席していても,弁護士が本人に直接質問したり,本人だけと話す時間を求めたりすることがある。

(2) 同席するかどうかは本人の意思と事案の性質で決まる

弁護士職務基本規程には,法律相談への家族の同席を直接定めた条文はない。
同席の可否は,本人がそれを望んでいるか,本人の意思を家族のいない場で確かめる必要があるか,家族が相手方又は利害関係人になり得るかによって判断されると考えられる。
相続で家族が他の相続人に当たる場合や,遺言の内容を相談する場合は,本人だけと話す時間が設けられることを前提に付き添うのがよい。

第2 弁護士が本人の意思を確かめる理由
1 依頼者の意思の尊重と説明
(1) 依頼者の意思の尊重(22条)

弁護士職務基本規程22条1項は,弁護士は,委任の趣旨に関する依頼者の意思を尊重して職務を行うものとすると定めている。
同条2項は,依頼者が疾病その他の事情のためその意思を十分に表明できないときは,適切な方法を講じて依頼者の意思の確認に努めると定めている。
家族が本人の気持ちを代弁してくれることもあるが,弁護士が尊重すべきなのは本人の意思であり,本人が十分に話せない場合でも,弁護士には本人の意思を確かめる努力が求められる。

『解説「弁護士職務基本規程」第4版』63頁~65頁は,意思を十分に表明できない場合と,意思能力が欠ける場合を区別している。22条2項は,疾病その他の事情によって十分な意思表明が難しい場合の確認を扱う。意思能力を欠く場合には,同項による意思確認の努力だけで委任契約や代理権の問題が解決するのではなく,民法等の実体法に従った検討が必要となる。

家族や通訳等が本人の伝達を補助することと,家族が本人に代わって決定する権限を持つことは別である。同書65頁は,事情に応じた意思確認の方法を示しているが,特定の方法を全ての相談に一律に要求しているわけではない。本記事では,本人の意思を確認するための補助,家族への秘密開示の承諾及び家族が本人に代わって法律行為をする権限を,それぞれ区別して確認する。意思能力や法定代理が問題となる場合は,第2の3及び第4の2を参照されたい。

(2) 受任の際の説明(29条)

同規程29条1項は,事件を受任するに当たり,依頼者から得た情報に基づき,事件の見通し,処理の方法並びに弁護士報酬及び費用について適切な説明をしなければならないと定めている。
同項は説明の相手方を明記していないが,依頼者である本人に対する説明と考えられ,家族が内容を理解しただけで足りるとは限らない。

2 秘密の保持

弁護士法23条は,弁護士は,その職務上知り得た秘密を保持する権利を有し,義務を負うと定めている。
弁護士職務基本規程23条も,弁護士は,正当な理由なく,依頼者について職務上知り得た秘密を他に漏らし,又は利用してはならないと定めている。
家族であっても依頼者本人ではないから,本人の承諾がないまま,弁護士が事件の内容や本人から聞いた事情を家族に伝えることには慎重にならざるを得ないと考えられる。

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解説「弁護士職務基本規程」第3版と第4版の比較-規程改正,解釈の変更,新設項目及び削除された記述(AI作成)

目次第1 本記事の対象と比較の方法1 比較した2つの版2 比較の方法と基準日第2 改訂の外形1 改訂の経緯と第4版が掲げる重点2 構成と分量の変化3 裁判例・懲戒議決例の入れ替わり4 付録と索引の変化5 解釈が変わった主な箇所の一覧第3 職務基本規程そのものの改正1 第3版の刊行後の改正は令和3年会規第116号だけである2 実体的に新しい規律は78条だけである第4 解釈が厳しくなった主な箇所1 守秘義務(23条)2 依頼者への説明と報告(22条・29条・36条)3 記録と情報の管理(18条)4 利益相反における事件の同一性(27条・28条)5 遺言執行者第5 規律を緩め,又は表現を和らげた箇所1 受任の諾否の通知(34条)2 組織内弁護士と法令違反への対応(51条)3 調整型の職務4 28条1号に当たらない特別な関係者第6 新設又は組み直された主な論点1 第三者委員会・内部調査委員会・地方公共団体の調査委員会2 訴訟行為の排除をめぐる裁判例3 共同事務所を移籍した弁護士(57条)4 真実義務と偽証のそそのかし(5条・75条)5 預り金と報酬の相殺(45条)6 品位に関する諸問題7 事件情報の記録と受任防止措置(59条・68条)第7 削除された記述と第4版が扱っていない事項1 削除された主な記述2 第4版が扱っていない事項第8 第3版の記述を引用するときの注意1 版と頁を明示する2 第4版の印字の誤り第9 関連記事第10 出典1 書籍2 会規及び法令3 裁判例4 懲戒議決例
第1 本記事の対象と比較の方法

第4版の解説に沿った論点別の記事として,利益相反(27条・28条),説明・報告義務(29条・36条)及び組織内弁護士(50条・51条)を参照できる。

先に全体像を確認する場合は,主な変更点の比較表を参照されたい。規程本文の改正と,解説書の解釈・事例・項目の変更とは区別する。現行条文と論点別の記事は,弁護士職務基本規程の現行条文・条文別索引・主要論点で確認できる。

1 比較した2つの版
(1) 書誌と刊行時期

日本弁護士連合会弁護士倫理委員会編著『解説「弁護士職務基本規程」』は,弁護士職務基本規程(平成16年11月10日会規第70号)の逐条解説書であり,日本弁護士連合会が発行している。
第3版は2017年(平成29年)12月に発行され,本文は225頁である。
第4版は2026年(令和8年)9月に発行され,本文は255頁である。
日弁連の書籍案内によれば,第4版はB5判300頁で,巻末に掲載し又は本文中に引用している会規・通知等は2026年(令和8年)3月1日時点のものである。

(2) 本書の位置付け

両版のはしがきは,いずれも,本書で述べられている見解は日弁連の公式見解ではないとしている。
弁護士職務基本規程そのものは日弁連の会規であるが,本書はその解説書であり,会規と同じ効力を持つものではない。
もっとも,本書は日弁連の弁護士倫理委員会が編著したものであり,第3版のはしがきも,本書が実務に携わる弁護士や法科大学院の法曹倫理の授業で参照されていることに触れている。
そのため,版が変わって記述が変わった箇所を確かめておく意味は小さくない。

2 比較の方法と基準日

本記事は,2026年(令和8年)9月26日を基準日として,両版の前文から附則まで及び付録・索引の全頁を,生成AIを用いて条・節ごとに突き合わせ,主要な差異について両版の原文を確認して作成したものである。
ある記述が「新設」又は「削除」されたと書く場合は,他方の版の全文を検索して,別の箇所に移っただけではないことを確かめている。
頁は,いずれも本の印字頁で示す。
規律が「厳しくなった」「緩められた」という整理は,両版の記述を比べた本記事の評価であり,本書自身がそのように説明しているわけではない。

第2 改訂の外形
1 改訂の経緯と第4版が掲げる重点

第4版のはしがきによれば,日弁連弁護士倫理委員会は,2023年(令和5年)2月に改訂チームを設置し,各弁護士会・関連委員会への意見照会を2回行った上で原稿を完成させた。
改訂の基本方針は,新しい裁判例・懲戒議決例を取り入れること及び意見照会によって改訂の必要な部分を抽出することであった。
はしがきは,改訂の重点として,企業・自治体の第三者委員会や調査委員会,公益通報窓口にかかわる懲戒事例を扱う項目を新たに設けたことを挙げている(本記事の第6の1)。

2 構成と分量の変化
(1) 新しく置かれた節

第4版は,第1章に「5条,6条その他品位に関する諸問題」の節を新設し(第4版20頁~27頁),相手方への交渉態様,プライバシー,裁判所に提出する書面の表現,裁判手続以外での表現,戸籍謄本等の取得,自力救済,会社関係の7類型に分けて懲戒事例を整理した。

(続きを読む...)解説「弁護士職務基本規程」第3版と第4版の比較-規程改正,解釈の変更,新設項目及び削除された記述(AI作成)

職務代行者・管理人等を務めた弁護士は後にその紛争の代理人になれるか――福岡地裁令和5年8月30日決定と職務基本規程27条・81条(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 扱う問題と基準日2 結論第2 条文の枠組み1 弁護士法25条と職務基本規程27条2 職務基本規程81条3 明文のすき間を埋める5条・6条第3 職務代行者とはどのような立場か1 職務執行停止・職務代行者選任の仮処分2 職務代行者と似た裁判所選任の地位第4 福岡地裁令和5年8月30日決定1 事案の骨子2 弁護士法25条1号又はその類推適用による排除第5 日弁連綱紀委員会平成20年10月14日議決1 事案の経過2 兵庫県弁護士会と日弁連の判断3 この議決から読み取れる判断要素第6 最高裁令和4年6月27日決定との対比1 取締役責任調査委員会の委員の事案2 職務代行者の事案との違い第7 訴訟行為の排除の申立ての仕組み1 最高裁大法廷昭和38年10月30日判決2 最高裁平成29年10月5日決定第8 81条と第三者的職務をめぐるその他の議決例1 市の顧問弁護士が調査委員会の委員に就任した例2 家庭裁判所が選任した遺言執行者と同じ事務所の弁護士の例3 破産管財人終了後に元破産者を代理した例第9 実務上の注意1 職務代行者等に選任された弁護士の側2 元職務代行者等が相手方の代理人として現れた当事者の側第10 関連記事第11 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 弁護士懲戒の議決例4 日本弁護士連合会の規程5 文献
第1 この記事の対象と結論
1 扱う問題と基準日

本記事は,裁判所から職務代行者,管理人,遺言執行者等に選任され,当事者のいずれにも偏らない立場で職務を行った弁護士が,任務の終了後に,同じ紛争で一方当事者の代理人になれるかを扱う。
想定する読者は,こうした職務に選任された弁護士と,かつての職務代行者等が相手方の代理人として現れた当事者である。

基準日は令和8年9月25日である。
法令はe-Gov法令検索の現行条文により,弁護士職務基本規程(以下「職務基本規程」という。)は日本弁護士連合会(以下「日弁連」という。)の「日本弁護士連合会関係法規集」(令和7年9月1日現在)により確認した。

主要な文献は,日弁連弁護士倫理委員会編著『解説「弁護士職務基本規程」第4版』(日弁連,2026年9月。以下「本書」という。)である。
本書は,はしがきで,本書の見解は日弁連の公式見解ではないと断っている。

2 結論

結論は次のとおりである。
①裁判所に選任された職務代行者等を務めた弁護士について,任務終了後の受任を正面から禁止する明文は,弁護士法25条にも職務基本規程27条にもない。
②ただし,福岡地裁令和5年8月30日決定は,マンション管理組合法人の理事職務代行者を務めた弁護士が,後にその法人を相手とする訴訟で相手方の代理人となった事案で,弁護士法25条1号又はその類推適用により訴訟行為を排除した。
③懲戒の場面では,日弁連綱紀委員会平成20年10月14日議決が,株式会社の職務代行者の任務が実質的に終了して1か月足らずで株主権確認訴訟の一方の側の代理人として承継参加を申し立てた行為を,品位を失うべき非行に当たるとした。
④他方,最高裁令和4年6月27日決定は,取締役責任調査委員会の委員であった弁護士が会社の代理人として元取締役を訴えた事案で,弁護士法25条2号・4号の類推適用を否定した。
⑤本記事では,元職務代行者等の受任の可否は,かつて誰のために職務を行ったか,後の事件で誰の側に立つか,任務中に自ら判断した事項が後の紛争の争点になっているか,任務終了からの期間等を具体的に見て判断されるものと整理する。
⑥実務上は,選任された弁護士は同じ紛争で一方当事者から受任しないことを基本とし,相手方となった当事者は早期に異議を述べて訴訟行為の排除を申し立てることが考えられる。

第2 条文の枠組み
1 弁護士法25条と職務基本規程27条
(1) 同意があっても解除されない号

弁護士法25条は,職務を行い得ない事件を1号から9号までに定め,依頼者の同意で禁止が解けるのは3号と9号だけである(同条ただし書)。
1号は「相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件」,4号は「公務員として職務上取り扱つた事件」,5号は「仲裁手続により仲裁人として取り扱つた事件」である。

職務基本規程27条も1号から5号までで同じ構造をとり,同意で解除できるのは3号だけである(同条ただし書)。
同条5号は,弁護士法25条5号の仲裁人を広げ,「仲裁、調停、和解斡旋その他の裁判外紛争解決手続機関の手続実施者として取り扱った事件」を対象にしている。

(2) 4号の「公務員」と5号の「手続実施者」

本書は,職務基本規程27条4号の「公務員」には,弁護士法25条4号の解釈とは別に,法令により公務に従事する者一般が含まれると解すべきであるとする(本書101頁)。
また,本書は,従来4号に当たるとされていた調停委員等は5号の適用を受けるとし,5号の「手続実施者」を,仲裁人,調停委員,斡旋員等,紛争を解決するために中立公正な立場で手続に参与する者と説明する(本書101頁~102頁)。

(3) 明文のない中立的職務

本書は,4号・5号のいずれにも当たらない中立公正な第三者的職務を行った後に何が禁止されるかについては,明文を欠くといわざるを得ないと認めている(本書103頁)。
そのうえで,1号・2号は,調整型の職務で各当事者から受任し又は賛助したような場合には当たり得るが,それ以外の第三者的職務には必ずしも当たらず,3号と職務基本規程28条は第三者的職務をそもそも想定していないとする(本書103頁)。

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株主代表訴訟で会社の顧問弁護士は被告取締役の代理人になれるか―職務基本規程28条の利益相反,会社の補助参加及び住民訴訟の場合(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 対象,基準日及び主な資料2 結論の要旨第2 株主代表訴訟で会社はどのような立場に立つか1 提訴請求から代表訴訟の提起まで2 会社が訴訟に関与する方法第3 顧問弁護士が被告取締役の代理人になるときの利益相反の構造1 職務基本規程28条2号から見た場合2 職務基本規程28条3号から見た場合3 同意による解除の限界第4 従来の見解と最高裁平成13年1月30日決定1 従来の見解2 最高裁平成13年1月30日決定3 会社法849条による補助参加第5 第4版の立場―補助参加が認められても利益相反は解消されない1 会社の代理人となるべきとする理由2 組織内弁護士の場合3 顧問契約が終わった後の制約第6 住民訴訟で自治体の顧問弁護士は被告の代理人になれるか1 住民訴訟の4類型と被告2 改正前の4号請求と日弁連懲戒委員会の議決3 改正後の4号請求と第4版の見解4 改正後も残る注意点第7 実務上の判断手順1 顧問契約の相手方と関与の経過を確認する2 会社の代理人として関与する3 取締役から依頼されたときの対応4 被告取締役と法務担当者が確認すること5 住民訴訟で依頼を受けたとき第8 確認範囲と残る論点1 資料の性格と確認できなかった事項2 会社側の弁護士が取締役を追及する場面との違い第9 関連記事1 弁護士職務基本規程と利益相反2 株主代表訴訟と住民訴訟第10 出典・参考資料1 法令・会規2 裁判例3 弁護士懲戒の議決例4 文献
第1 本記事の対象と結論
1 対象,基準日及び主な資料
(1) 取り上げる場面

株主が取締役の責任を追及する株主代表訴訟(会社法847条)が起こされると,被告となった取締役から,会社の顧問弁護士に訴訟代理の依頼が来ることがある。
本記事は,この受任が弁護士職務基本規程の利益相反の規律に触れるかを,会社が取締役側に補助参加できるようになった後の議論まで含めて整理する。
あわせて,構造の似た住民訴訟(地方自治法242条の2)で,地方公共団体の顧問弁護士が被告の代理人になれるかも扱う。

(2) 基準日と主な資料

本記事の調査基準日は令和8年9月25日である。
会社法及び地方自治法は同日現在の条文をe-Gov法令検索で,弁護士職務基本規程は日本弁護士連合会関係法規集(令和7年9月1日現在)で確認した。
主な文献は,日本弁護士連合会弁護士倫理委員会編著『解説「弁護士職務基本規程」第4版』(日本弁護士連合会,2026年9月。以下「第4版」という。)である。
第4版は,はしがきで,同書の見解は日弁連の公式見解ではないと明記しており,同書の法令等は令和8年3月1日現在のものである(同書凡例)。
そのため,本記事では,第4版の記述を日弁連の正式な解釈としてではなく,日弁連弁護士倫理委員会が編著した解説書の見解として紹介する。

2 結論の要旨
(1) 株主代表訴訟

第4版は,会社の補助参加が可能になった現在でも,特別の事情がない限り,会社の顧問弁護士は被告取締役の代理人にはなれないという立場をとる(同書122頁~123頁)。
会社の利益を守る役割の顧問弁護士は会社の側に就くべきだという理由による(同書123頁)。
会社に所属する組織内弁護士についても,同書は,同様に取締役からの受任を回避すべきであるとする(同書123頁)。

(2) 住民訴訟

住民訴訟については,第4版の結論は逆になる。
平成14年の地方自治法改正で4号請求の被告が職員個人から執行機関又は職員に改められたことを踏まえ,同書は,特段の事情がない限り,地方公共団体の顧問弁護士が被告代理人となることは許されると解すべきであるとする(同書124頁)。
ただし,同書自身がこの点はいまだ十分に議論されていないと述べており,改正前の代位訴訟については,日弁連懲戒委員会の議決に利益相反の疑いを指摘する有力な意見が付言されたこともある(第6の2で説明する)。

第2 株主代表訴訟で会社はどのような立場に立つか
1 提訴請求から代表訴訟の提起まで
(1) 株主の提訴請求と会社の判断

会社法847条1項は,6か月(定款でこれを下回る期間を定めたときはその期間)前から引き続き株式を有する株主が,会社に対し,役員等(同法423条1項)の責任を追及する訴え等の提起を請求できると定める(公開会社でない会社では保有期間の要件がない。同条2項)。
会社が請求の日から60日以内に訴えを提起しないときは,請求をした株主は「株式会社のために」責任追及等の訴えを提起できる(同条3項)。
会社は,訴えを提起しない場合に,請求をした株主又は責任追及の対象とされた役員等から請求を受けたときは,提訴しない理由を通知しなければならない(同条4項)。
監査役設置会社では,この提訴請求を受けるのは監査役であり(会社法386条2項1号),会社が取締役を訴えるときも監査役が会社を代表する(同条1項1号)。

(2) 顧問弁護士が会社の判断に関わる段階

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弁護士が受任事件を途中で辞任するときのルール――民法651条,職務基本規程41条~45条及び国選弁護人の辞任(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論の要旨第2 辞任の法的根拠――民法の委任の規定1 弁護士も依頼者もいつでも委任を解除できる2 不利な時期の辞任と損害賠償3 辞任後も残る民法上の義務第3 職務基本規程が定める辞任前後の手順1 信頼関係の喪失(43条)2 受任後の利害対立(42条)3 受任弁護士間の意見不一致(41条)4 辞任後の説明と預り金の返還(44条・45条)第4 東京地裁立川支部平成23年4月25日判決1 事案と判断2 判決の読み方第5 国選弁護人と被害者参加弁護士の辞任1 国選弁護人2 被害者参加弁護士第6 辞任の実務チェック項目1 辞任を考えている弁護士のチェック項目2 辞任を告げられた依頼者の確認事項第7 関連記事第8 出典1 法令・会規2 裁判例・弁護士懲戒3 職能団体の委員会による解説
第1 本記事の対象と結論
1 対象と基準日
(1) 扱う問い

本記事は,弁護士が受任した事件を途中で辞任するときに守るべきルールを,民法の委任の規定,弁護士職務基本規程41条から45条まで,裁判例,日本弁護士連合会(日弁連)の懲戒事件の議決例の順に整理するものである。
想定しているのは,依頼者との関係が行き詰まって辞任を考えている弁護士と,弁護士から辞任を告げられた依頼者である。
国選弁護人と被害者参加弁護士については,辞任の仕組みが私選の代理人と異なるので,第5で別に扱う。
弁護士がそもそも事件を受任しない場合のルールは,「弁護士が事件の依頼を断るときの通知義務」で扱っている。

(2) 基準日と主な資料

法令は,令和8年9月25日現在の条文をe-Gov法令検索で確認した。
弁護士職務基本規程は,日弁連の「日本弁護士連合会関係法規集」(令和7年9月1日現在)で条文を確認した。
解釈については,解説「弁護士職務基本規程」第4版(日本弁護士連合会弁護士倫理委員会編著,2026年9月。以下「本書」という。)を主に参照したが,本書は,初版以来の版と同様に,本書で述べる見解は日弁連の公式見解ではないと明記している(はしがき)。
本書の法令等の基準日は令和8年3月1日である(凡例)。

2 結論の要旨

①委任は各当事者がいつでも解除できるから(民法651条1項),弁護士は辞任すること自体を禁じられてはいないが,依頼者に不利な時期に辞任すれば,やむを得ない事由がない限り損害賠償の問題が生じる(同条2項)。
②依頼者との信頼関係が失われ,かつ,その回復が困難なときは,弁護士は,その旨を説明した上で,辞任その他の事案に応じた適切な措置を採らなければならない(弁護士職務基本規程43条)。
③辞任の前に,信頼関係の回復に努め,依頼者に事態を理解させ,今後の対処法を検討させる機会を保障すべきであるとした裁判例があり(東京地裁立川支部平成23年4月25日判決),本書も43条の解説でこれを紹介している。
④複数の依頼者の間に受任後に利害対立が生じたとき(42条)と,共同受任した弁護士の間で意見が一致しないとき(41条)にも,辞任の前に説明の義務がある。
⑤辞任した後も,処理の状況又は結果の説明(44条)と,金銭の清算及び預り金・預り品の遅滞ない返還(45条)の義務が残る。
⑥国選弁護人は,辞任を申し出ただけでは地位を失わず,裁判所の解任によって地位を失う(最高裁昭和54年7月24日判決の裁判要旨)。
被害者参加弁護士についても,裁判所による選定の取消しという仕組みになっている。

第2 辞任の法的根拠――民法の委任の規定
1 弁護士も依頼者もいつでも委任を解除できる
(1) 民法651条1項の任意解除

弁護士と依頼者との事件の委任契約には,民法の委任の規定が適用される。
民法651条1項は,「委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。」と定めており,受任者である弁護士が辞任することは,同項に基づく委任の解除に当たる。
したがって,弁護士の辞任は,理由のいかんを問わず民法上は効力を生じ得る。
ただし,後述する損害賠償の問題と,弁護士職務基本規程上の手順の問題は,これとは別に生じる。

(2) 依頼者から解任する場合

同じ民法651条1項により,依頼者も,いつでも弁護士を解任することができる。

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弁護士が当事者双方のために手続をしてよいか―登記申請・公正証書・即決和解と弁護士法25条1号(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象とする場面と基準日2 結論の要点第2 弁護士法25条1号と職務基本規程27条1号の仕組み1 条文と同意で解除できないこと2 禁止の趣旨3 「相手方」「賛助」「依頼を承諾」の意味第3 登記申請の双方代理は原則として許される1 最高裁昭和43年3月8日判決2 同判決の射程と注意点第4 公正証書の作成は1号違反になり得る1 最高裁昭和32年12月24日判決2 判決の事案と第4版の整理の違い3 公正証書が無効になることの重み4 事務所の職員や同じ事務所の弁護士を相手方の代理人にする場合第5 即決和解で相手方の代理人弁護士を選任すること1 起訴前の和解の仕組み2 大阪高裁昭和36年1月28日判決は無効とした3 東京地裁昭和36年8月29日判決は抵触しないとした4 第4版の立場は紹介にとどめること第6 どちらの代理人にもならない調整型の職務1 調整役は双方代理ではない2 引き受ける前に考慮する6つの要素3 受任時の説明と利害対立後の措置4 日弁連綱紀審査会平成26年10月14日議決第7 25条1号に違反した場合の効果1 訴訟行為は相手方の異議で排除される2 訴訟外の手続の効力3 懲戒第8 実務上の確認事項1 依頼を受けた弁護士が確認すること2 相手方の弁護士から手続を任せるよう言われた方が確認すること第9 関連記事第10 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 弁護士懲戒手続の議決例4 日弁連の会規5 文献
第1 この記事の対象と結論
1 対象とする場面と基準日

本記事は,登記申請,公正証書の作成及び即決和解(起訴前の和解)のように当事者双方が関わる手続を弁護士が扱う場面について,弁護士法25条1号及び弁護士職務基本規程27条1号との関係を整理するものである。
想定しているのは,一方当事者から依頼を受けた弁護士が相手方の側の手続まで引き受けてよいかを判断する場面と,相手方の弁護士から「手続はこちらでまとめてやる」と言われた一般の方が任せてよいかを判断する場面である。
法令及び日弁連の会規は,令和8年9月25日時点の内容を確認した。

主要文献は,日本弁護士連合会弁護士倫理委員会編著『解説「弁護士職務基本規程」第4版』(日本弁護士連合会,2026年9月。以下「第4版」という)である。
第4版は,はしがきで,同書の見解は日弁連の公式見解ではないと明記している。
本記事では,判例,懲戒手続の議決及び第4版の見解を区別して記載する。

2 結論の要点

場面ごとの結論は次のとおりである。
①登記申請で弁護士が登記権利者と登記義務者の双方の代理人になることは,特段の事由がない限り弁護士法25条1号に違反しない(最高裁昭和43年3月8日判決)。
②一方の依頼を受けて相手方と協議し契約を成立させた弁護士が,その後に相手方の代理人として同じ内容の公正証書を作成することは同号に違反し,依頼者の同意があっても許されず,その公正証書は無効である(最高裁昭和32年12月24日判決)。
③公正証書の作成で,弁護士が一方の代理人となり,自分の事務所の職員を他方の代理人にすることも,第4版は利益相反になると解すべきとする。
④即決和解で弁護士が相手方の代理人となる弁護士を選任することについては,無効とした高裁判決と抵触しないとした地裁判決があり,第4版は1号に当たると解して紹介にとどめるべきとする。
⑤どちらの代理人にもならない調整役は双方代理ではないが,第4版は,調整が失敗したら辞任し,以後その事件でどちらの代理人にもならないとする。
⑥訴訟で1号に違反する代理人がした訴訟行為は,相手方が異議を述べて排除を求めることができるが,違反を知り又は知ることができたのに異議を述べないまま第二審の口頭弁論が終結すると完全に有効になる(最高裁大法廷昭和38年10月30日判決)。

第2 弁護士法25条1号と職務基本規程27条1号の仕組み
1 条文と同意で解除できないこと
(1) 弁護士法25条1号

弁護士法25条は,弁護士が職務を行ってはならない事件を列挙している。
その1号は,「相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件」である。
同条ただし書により依頼者の同意で禁止が解除されるのは3号と9号だけであり,1号は同意があっても解除されない。

(2) 職務基本規程27条1号

弁護士職務基本規程27条1号は,弁護士法25条1号と同じ文言で同じ事件を禁止している。
同規程27条ただし書で同意による解除が認められるのは3号だけである。
第4版は,複数の依頼者の間の利益相反のうち,依頼者の同意があっても職務を行えないのは,利益相反の典型例である同一事件型(27条1号・2号)の場合であると説明している(第4版92頁)。
職務基本規程の全体像は,弁護士職務基本規程の現行条文と判例上の位置付けで整理している。

2 禁止の趣旨

最高裁大法廷昭和38年10月30日判決は,同号の趣旨を,先に弁護士を信頼して協議又は依頼をした相手方の信頼を裏切ることを防ぎ,弁護士の品位の失墜を防ぐことにあるとした。

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成年後見人・後見監督人だった弁護士は被後見人の相続で一部の相続人の代理人になれるか――日弁連の議決例と遺言執行者との違い(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 結論の要旨2 対象,基準日及び資料第2 遺言執行者と後見人・後見監督人の違い1 遺言執行者に求められる中立性2 後見人と後見監督人の法的地位第3 日弁連の議決例の流れ1 京都の事案の日弁連綱紀委員会議決(懲戒審査相当)2 同じ事案の日弁連懲戒委員会議決(戒告の取消し)3 大阪の事案の日弁連懲戒委員会議決(異議棄却)4 議決例の到達点と根拠規定第4 非行となり得る2つの場合1 後見中の不正を隠す目的での受任2 後見人でなければ知り得なかった事実の利用第5 後見監督人に求められるより強い公正性1 日弁連綱紀委員会平成26年5月21日議決2 日弁連綱紀審査会平成27年1月20日議決と反対意見第6 元後見人が相続人全員の依頼で遺産分割を調整する場合1 調整役を引き受けるときの考慮要素2 調整の失敗後に一部の相続人の代理人になった議決例第7 実務上の注意1 後見中から推定相続人との連絡の偏りを避ける2 後見の計算と引継ぎを先に終える3 受任するかどうかの判断項目4 受任時の依頼者への説明5 相続人の側から見た対応6 令和8年改正法との関係第8 関連記事第9 出典1 法令・会規2 裁判例3 弁護士懲戒の議決例4 文献
第1 本記事の対象と結論
1 結論の要旨
(1) 成年後見人だった弁護士

成年後見人だった弁護士が,本人(被後見人)の死亡後に一部の相続人の代理人になることは,それだけで直ちに弁護士としての非行に当たるわけではない。
日弁連懲戒委員会平成25年2月12日議決(弁護士懲戒事件議決例集第16集3頁)は,遺言執行者と成年後見人とは法的に異なる立場にあるとして,元後見人が一部の相続人の代理人になった事案で京都弁護士会がした戒告処分を取り消した。
ただし,同議決には非行に当たるとする反対意見があり,同議決自身も,後見中の不正を隠す目的で受任する場合と,後見人でなければ知り得なかった事実を依頼者のために利用する場合を,非行が問題となる場合として挙げている。
同じ事案で,それ以前に日弁連綱紀委員会は懲戒審査相当と議決しており,議決例の判断は一様ではない。

(2) 後見監督人だった弁護士と遺言執行者との比較

後見監督人だった弁護士については,日弁連綱紀委員会平成26年5月21日議決(同第17集111頁)が,後見人と後見監督人は職務の公正さがより強く求められる関係にあるとして,後見人だった相続人の代理人になることは原則として相当でないとした。
もっとも,同議決は事案の具体的な事情から非行があったとまではいえないとし,日弁連綱紀審査会平成27年1月20日議決(同第18集147頁)もこの結論を維持したが,同審査会の議決には非行に当たるとする反対意見が付されている。
これに対し,遺言執行者が一部の相続人の代理人になることは,遺言執行の終了の前後を問わず,特段の事情のない限り差し控えるべきであるとするのが,解説「弁護士職務基本規程」第4版の立場である。

2 対象,基準日及び資料

本記事は,弁護士が家庭裁判所から成年後見人又は成年後見監督人に選任されて職務を行い,本人が死亡した後に,一部の相続人から遺産分割等の依頼を受ける場面を扱う。
記載は令和8年9月25日を基準日とし,民法及び弁護士法は同日時点でe-Gov法令検索に掲載されている現行の条文を確認した。

主要文献は,解説「弁護士職務基本規程」第4版(日本弁護士連合会弁護士倫理委員会編著,2026年9月)であり,同書の凡例によれば法令等の基準日は2026年3月1日である。
同書は,はしがきで,同書に述べられた見解は日弁連の公式見解ではないと断っている。
懲戒の議決例は,日本弁護士連合会が発行する弁護士懲戒事件議決例集の原本で,機関,議決日,事案及び判断を確認した。
議決例は裁判例ではなく,弁護士会の懲戒手続における綱紀委員会,懲戒委員会又は綱紀審査会の判断である。

なお,令和8年6月24日に公布された民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)により,成年後見は補助に一本化される予定である。
本記事の議決例はいずれも改正前の成年後見の事案であり,改正との関係は第7の6で扱う。

第2 遺言執行者と後見人・後見監督人の違い
1 遺言執行者に求められる中立性
(1) 民法1012条・1015条と平成30年改正

民法1012条1項は,遺言執行者が遺言の内容を実現するため遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有すると定め,同条3項は受任者の善管注意義務を定める民法644条等を準用している。
民法1015条は,遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は,「相続人に対して直接にその効力を生ずる」と定める。
同条は,平成30年法律第72号による改正前は遺言執行者を相続人の代理人とみなす旨を定めており,後記の議決例も改正前の同条を前提にしている。
解説「弁護士職務基本規程」第4版115頁は,この改正によって,遺言執行者は相続人の代理人ではなく,遺言者の意思をその死後に実現することを職務とすることが明確にされたと説明する。

(2) 東京高裁平成15年4月24日判決と日弁連の議決例

東京高裁平成15年4月24日判決(平成13年(行ケ)第532号,判例時報1932号80頁)は,遺言執行者は,相続人の代理人とする見解に立つか否かを問わず善管注意義務を負い,中立的な立場で任務を遂行すべきであるとした。

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相手方に代理人がいるとき弁護士は本人と直接交渉してよいか-弁護士職務基本規程52条の要件と懲戒例(AI作成)

目次第1 結論と本記事の範囲1 結論2 基準日と資料の位置付け第2 52条の条文,沿革及び趣旨1 条文と沿革2 趣旨第3 「法令上の資格を有する代理人」の範囲1 弁護士以外で当たる資格者2 当たらない代理人と権限が問題になる場合第4 「交渉」に当たる行為と当たらない行為1 交渉の意味と方法2 一方的な通知と交渉に至らない連絡第5 相手方代理人の承諾と「正当な理由」1 相手方代理人の承諾2 「正当な理由」第6 相手方本人からの求めと依頼者本人どうしの交渉1 相手方本人から直接の交渉を求められた場合2 依頼者本人どうしの交渉への関与第7 懲戒例1 内容証明郵便の直接送付(日弁連綱紀委員会平成22年11月17日議決)2 本人どうしの合意書作成への関与(日弁連懲戒委員会平成23年7月11日議決)3 面会交流の日程調整メール(日弁連懲戒委員会平成27年2月9日議決)4 懲戒処分の公告に見る例第8 実務上のチェック項目1 弁護士が確認すること2 相手方の弁護士から直接連絡が来た方へ第9 関連記事第10 出典
第1 結論と本記事の範囲
1 結論

相手方に弁護士その他の法令上の資格を有する代理人が付いた後の対応について,結論を先に示すと次のとおりである。
①弁護士は,正当な理由がない限り,相手方代理人の承諾を得ずに相手方本人と直接交渉してはならない(弁護士職務基本規程52条)。
②「法令上の資格を有する代理人」には,弁護士のほか,その権限の範囲内で交渉を代理できる司法書士,弁理士,外国法事務弁護士等が含まれるが,資格のない家族や知人は含まれない。
③面談だけでなく,電話,メール及び文書の送付も「交渉」になり得るが,契約解除通知のような一方的な通知は直接交渉に当たらない。
④相手方代理人の承諾は口頭でもよいが,その範囲は承諾の内容で決まり,相手方代理人から相手方本人を直接説得してほしいと言われたという弁護士の主張について,仮にそのような発言があったとしても承諾には当たらないとした議決例がある。
⑤相手方本人から直接の交渉を求められても,応じるべきではないと解されている。
⑥依頼者本人どうしの交渉を放置しただけでは52条違反にならないが,本人どうしの合意書を作って交付した弁護士が戒告を受けた議決例がある。

2 基準日と資料の位置付け
(1) 基準日と想定する読者

本記事は,令和8年9月25日を基準日として,弁護士職務基本規程52条(相手方本人との直接交渉)の要件,解釈及び懲戒例を整理するものである。
受任中に相手方本人へ連絡してよいかを確かめたい弁護士と,相手方の弁護士から直接連絡を受けて戸惑っている方の双方を読者として想定している。
規程の全条文は弁護士職務基本規程-現行条文,82条及び判例上の位置付けに掲載している。

(2) 解説書と議決例の位置付け

解釈の主な手掛かりは,日本弁護士連合会弁護士倫理委員会編著『解説「弁護士職務基本規程」第4版』(日本弁護士連合会,2026年9月)である。
同書は,法令等を令和8年3月1日現在のものとしており(凡例),その見解は日弁連の公式見解ではないと自ら明記している(はしがき)。
懲戒例は,日本弁護士連合会『弁護士懲戒事件議決例集』の原本で事案と判断を確認した3件の議決を用いる。
議決例は裁判例ではなく,綱紀委員会又は懲戒委員会が個別の事案について判断したものであるから,その射程は事案の具体的事情に即して読む必要がある。

第2 52条の条文,沿革及び趣旨
1 条文と沿革

現行の52条と関連する82条等の本文は,弁護士職務基本規程の現行条文・条文別索引から確認できる。

(1) 現行の条文

52条は,「弁護士は、相手方に法令上の資格を有する代理人が選任されたときは、正当な理由なく、その代理人の承諾を得ないで直接相手方と交渉してはならない。」と定めている。
規程82条2項は,行動指針又は努力目標として解釈すべき規定を列挙しているが,52条はそこに含まれていないから,52条は行動指針又は努力目標にとどまる規定ではない。
これに対し,後に触れる5条(信義誠実)及び70条(名誉の尊重)は,同項により行動指針又は努力目標として解釈される規定である。

(2) 旧々倫理16条・旧倫理49条からの変化

同じ趣旨の規定は,旧々倫理16条及び旧倫理49条(平成2年3月2日臨時総会決議の「弁護士倫理」)にも置かれていた(前掲解説第4版凡例・175頁)。

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弁護士が懲戒請求を受けたときの初動と綱紀委員会への答弁書の書き方(AI作成)

弁護士が懲戒請求を受けた場合,最初にすることは,請求者への反論ではなく,所属弁護士会から届いた通知,回答期限及び請求書の対象事実を正確に固定することである。

綱紀委員会への答弁書又は弁明書は,懲戒請求者を説得する文書ではなく,綱紀委員会が懲戒委員会に審査を求めることを相当とするかを判断するための資料である。主位的には懲戒事由がないことを,予備的には,仮に形式的な問題があっても懲戒を要しない事情を,証拠と結び付けて簡潔に示す必要がある。

本記事は一般的な実務整理である。提出期限,書面の名称・部数,請求者への送付又は閲覧,事情聴取,調査依頼及び期限延長の取扱いは単位弁護士会によって異なり得るため,届いた通知と所属会の現行規則を必ず優先する。

目次

第1 通知を受けた直後の初動
第2 答弁書の目的と読み手
第3 争点・証拠対応表の作り方
第4 答弁書の基本構成
第5 主位的主張と予備的な情状主張
第6 弁護士職務基本規程82条との関係
第7 守秘義務,第三者情報及び請求者への開示
第8 期限延長,事情聴取及び調査の申出
第9 示談,取下げ及び事後的な改善
第10 不当な懲戒請求への損害賠償との切分け
第11 提出前チェックリスト
第12 資料の裏付け状況と出典

第1 通知を受けた直後の初動

最初に,通知書,懲戒請求書,添付資料,封筒又は送信記録を一式保存し,受領日,回答期限,事件番号,提出先,必要部数及び提出方法を一覧にする。期限の起算点が到達日か発送日か,休日の場合の扱いがどうなるかを推測で決めてはならない。

次に,対象事件の委任契約書,利益相反確認,面談記録,電子メール,チャット,電話記録,訴訟記録,入出金記録及び業務日誌を保全する。都合の悪い資料を除外せず,当時作成された資料と後日作成した説明資料を区別する。

共同受任者,事務職員又は関係者への聞取りをする場合は,誰が,いつ,何を直接見聞きしたかを分けて記録する。請求者へ直接連絡するかは,紛争の激化,証拠保全及び代理人選任の有無を踏まえて慎重に判断する。

第2 答弁書の目的と読み手

弁護士法58条によれば,弁護士会は懲戒請求があったとき,綱紀委員会に事案を調査させる。綱紀委員会が懲戒委員会に審査を求めることを相当と認めるかどうかを議決し,弁護士会はその議決に基づいて手続を進める。

綱紀委員会が懲戒委員会に事案の審査を求めないことを相当とする議決をするのは,懲戒の請求が不適法であると認めるとき,懲戒の手続を開始することができないものであると認めるとき,懲戒の事由がないと認めるとき又は「事案の軽重その他情状を考慮して懲戒すべきでないことが明らかであると認めるとき」である(弁護士法58条4項)。答弁書を,懲戒の事由がないこと(事実と理論)と,情状から懲戒すべきでないことが明らかであること(情状)の二本立てで組み立てると,この議決の理由に対応させやすい。

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弁護士報酬の請求と懲戒――時間制報酬・過大請求・預り金からの控除をめぐる懲戒例と日弁連の取消裁決(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論第2 報酬に関する規律1 弁護士法による懲戒2 弁護士職務基本規程3 弁護士の報酬に関する規程第3 報酬の請求が懲戒の対象とされた例1 時間制報酬2 適正かつ妥当な額を超える報酬3 預り金や受領金からの控除4 受任時の説明と委任契約書5 詐欺被害の回復事件の着手金第4 日弁連が処分を取り消し,又は変更した例1 審級ごとに算出した報酬の合算請求2 目的未達の満額請求と審査請求後の和解3 未払報酬と預り金の相殺4 過大報酬とされた着手金と破産申立ての報酬5 法テラスを利用しなかったこと6 異議の申出を受けて処分を重くした例7 裁決等から読み取れること8 別件の預り金からの日当控除と審査後の戒告第5 懲戒手続と報酬の清算1 懲戒は報酬の返還を命じる手続ではない2 紛議調停第6 受任時と請求時に確認しておくこと1 依頼者の立場から2 弁護士の立場から第7 関連記事第8 出典1 日弁連の会規2 法令3 懲戒処分及び裁決の公告
第1 この記事の対象と結論

本記事は,弁護士が依頼者に報酬を請求し,又は受領した行為が懲戒の対象となった例と,日本弁護士連合会(以下「日弁連」という。)が弁護士会の懲戒処分を取り消し,又は変更した例を,日弁連の機関誌『自由と正義』に掲載された懲戒処分の公告及び裁決の公告に基づいて整理するものである。
本記事の法令及び会規は令和8年9月13日現在のものである。
公告は処分又は裁決の理由の要旨を記載したものにとどまるため,本記事の記述も公告の記載の範囲に限られる。
個々の弁護士の氏名は,本記事の目的との関係で必要がないため記載しない。

結論は次の4点である。
①報酬をめぐる懲戒例では,額が高いことに加えて,受任時に報酬を説明していない,委任契約書を作成していない,依頼者の了解なく預り金や受領金から報酬を差し引いた,時間制報酬で見込み時間の説明が足りないといった事情が重なっていることが多い。
②他方で,報酬の額が適正かつ妥当な範囲を超えることを主な理由として,弁護士職務基本規程24条違反とされた例もある。
③日弁連は,報酬をめぐる紛争が実質的には依頼者と弁護士の間の民事上の紛争であることや,審査請求後の和解等を考慮して,弁護士会の処分を取り消し,又は軽くした例がある一方で,懲戒請求者の異議の申出を受けて,弁護士会の処分を重くした例もある。
④懲戒は弁護士に報酬の返還を命じる手続ではないため,金銭の清算を求めるには,弁護士会の紛議調停や民事訴訟による必要がある。

第2 報酬に関する規律
1 弁護士法による懲戒

弁護士法56条1項は,弁護士及び弁護士法人は,同法又は所属弁護士会若しくは日弁連の会則に違反し,所属弁護士会の秩序又は信用を害し,「その他職務の内外を問わずその品位を失うべき非行があつたときは、懲戒を受ける。」と定めている。
懲戒は所属弁護士会が行い(同条2項),弁護士に対する懲戒の種類は,戒告,2年以内の業務の停止,退会命令及び除名の4種である(同法57条1項)。
弁護士会の懲戒処分について審査請求があったときは,日弁連は,日弁連の懲戒委員会に事案の審査を求め,その議決に基づいて裁決をしなければならない(同法59条1項)。

後記の公告例の多くは,弁護士職務基本規程や弁護士の報酬に関する規程の条項に違反するとした上で,その行為が弁護士法56条1項の品位を失うべき非行に当たるとしている。
規程の条項を挙げずに,同項の非行に当たるとだけ記載した公告もある。

2 弁護士職務基本規程

受任時に説明する費用,処理方法及び見通しと,受任後の変更時に行う報告・協議については,弁護士の説明義務・報告義務で整理している。
本記事では,その説明や請求が懲戒の対象となった公表事例を扱う。

(1) 報酬の額に関する規律

弁護士職務基本規程(平成16年11月10日会規第70号)24条は,「弁護士は、経済的利益、事案の難易、時間及び労力その他の事情に照らして、適正かつ妥当な弁護士報酬を提示しなければならない。」と定める。
同規程5条は,「弁護士は、真実を尊重し、信義に従い、誠実かつ公正に職務を行うものとする。」と定めており,後記の時間制報酬の例には同条違反とされたものがある。

報酬額について合意があることと,24条に照らして適正かつ妥当な報酬であることは別の問題である。
『解説』第4版85頁は,合意があっても,説明の不十分さや依頼者が得た利益との関係等から,報酬の妥当性が問題となる余地を指摘する。
請求額だけでなく,依頼者の実質的な利益,実際に要した業務,算定方法及び中途終了時の清算条件を確認する必要がある。

他方,同書87頁は,着手金を受け取らず成功時にのみ報酬を請求する完全成功報酬制について,その方式自体を直ちに不適正又は不妥当とは評価しない。
契約内容の十分な説明と,依頼者が得た利益に対する報酬額の妥当性は,引き続き問題となる。
完全成功報酬制と,中途終了等を成功とみなす特約は区別し,後者の効力・適用については委任契約の記事を参照されたい。

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弁護士が事件の依頼を断るときの通知義務―弁護士法29条・職務基本規程34条とAIによる問い合わせの一次判定(AI作成)

目次第1 本記事の対象1 扱う問い2 結論の要旨第2 受任の諾否の通知を定める規定1 弁護士法29条(依頼不承諾の通知義務)2 弁護士職務基本規程34条(受任の諾否の通知)3 刑事事件の弁護人選任の申出と不受任の通知第3 通知義務の中身1 義務の趣旨2 通知すべき内容と方法3 面識のない者からの依頼第4 受任するかどうかの自由とその例外1 弁護士は依頼を受ける義務を負わない2 弁護士会や官公署から委嘱された事項第5 断る連絡を急ぐべき理由1 期間制限が迫っている相談2 断るときに添えると役立つ事項第6 問い合わせをAIで一次判定する場合1 AIの判定は対応の順番を決める道具にとどめる2 問い合わせ内容を外部のAIに送るときの守秘義務と個人情報3 事務職員に連絡を任せる場合4 電話や電子メールで受任する場合の広告の表示事項5 受付から諾否通知までを状態で管理する第7 関連記事第8 出典・参考資料1 法令2 職能団体の規程3 所管行政機関の資料4 文献
第1 本記事の対象
1 扱う問い

本記事は,弁護士が事件の依頼を受けたときに,受けるか断るかを依頼者へ知らせる義務(受任の諾否の通知)を扱う。
根拠は,弁護士法29条と弁護士職務基本規程34条の二つである。
あわせて,法律事務所がウェブサイトやメールの問い合わせをAI(人工知能)で一次判定する場合に,この義務との関係で何に気を付けるべきかを整理する。
法令及び規程の内容は,令和8年9月13日時点で確認したものである。

2 結論の要旨

弁護士は事件の依頼を受ける義務を負わないが,受けないときは,速やかにその旨を依頼者に知らせなければならない。
日本弁護士連合会の解説書は,知らせる内容は受けるか断るかだけで足り,理由を述べる必要はなく,方法も書面に限られないと説明している。
AIによる判定は対応の順番を決める道具にとどめ,断る判断とその連絡は弁護士の責任で行う形にしておくのが安全だと考えられる。

第2 受任の諾否の通知を定める規定
1 弁護士法29条(依頼不承諾の通知義務)

弁護士法29条は,「弁護士は、事件の依頼を承諾しないときは、依頼者に、すみやかに、その旨を通知しなければならない。」と定める。
法律が直接定める義務であり,同法56条1項は,弁護士がこの法律に違反したときを懲戒の事由の一つとしている。

2 弁護士職務基本規程34条(受任の諾否の通知)
(1) 条文の内容

弁護士職務基本規程34条は,「弁護士は、事件の依頼があったときは、速やかに、その諾否を依頼者に通知しなければならない。」と定める。
弁護士法29条が承諾しない場合の通知を定めるのに対し,34条は「諾否」,つまり受ける場合も含めて通知を求めている。
『解説弁護士職務基本規程 第3版』は,34条は旧弁護士倫理21条とほぼ同じ規定であり,弁護士法29条に沿ったものだと説明している(115頁)。
同書は令和8年9月に第4版が刊行されており,本記事で引用する説明は,第4版では55頁(20条関係)及び135頁(34条関係)にある。
34条を含む第3版から第4版への記述の変化は,解説「弁護士職務基本規程」第3版と第4版の比較-規程改正,解釈の変更,新設項目及び削除された記述で整理している。

(2) 努力目標ではなく義務として定められていること

弁護士職務基本規程82条2項は,同規程のうち行動指針又は努力目標として解釈適用すべき条項を列挙している。
34条はこの列挙に含まれていないから,努力目標ではなく,義務を定めた規定として扱われる。
同じ受任時の規律でも,33条(法律扶助制度等の説明)は列挙に含まれており,扱いが異なる。

(3) 弁護士法人にも準用されること

弁護士職務基本規程69条は,第1章から第3章まで(一部の条項を除く。)の規定を弁護士法人に準用している。
34条は第3章第3節の規定であり,除外されていないから,弁護士法人が依頼を受けた場合にも同じ規律が及ぶ。

3 刑事事件の弁護人選任の申出と不受任の通知

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弁護士に対する業務妨害と対策――日弁連の宣言,濫用的懲戒請求,国選弁護人の解任及び法律事務所のカスハラ対策(AI作成)

目次第1 本記事の対象と基準日第2 日弁連の宣言と会長声明に見る業務妨害の現状1 令和7年12月5日の臨時総会宣言2 提案理由が挙げる妨害の態様3 令和6年12月19日の会長声明と日弁連のアンケート調査4 雑誌の会員アンケートに見る被害の頻度第3 業務妨害に当たり得る行為と刑事・民事の責任1 刑法上の犯罪2 民事上の損害賠償責任3 弁護士に不満がある場合に弁護士会が設けている手続第4 濫用的懲戒請求と不法行為1 懲戒請求は何人もできる2 違法な懲戒請求の判断基準3 大量懲戒請求をめぐる損害賠償請求訴訟第5 国選弁護人の解任1 被告人の暴行・脅迫等を理由とする解任2 辞任の申出と解任の裁判第6 法律事務所のカスハラ対策1 令和8年10月1日施行の労働施策総合推進法33条2 法律事務所に当てはめた場合第7 弁護士と法律事務所が取り得る対策1 弁護士会の委員会への相談2 1人で対応しない3 相手を診断せず,観察できる行動に基づいて対応する第8 出典1 法令及び法令に基づく指針2 裁判例3 日弁連の総会宣言,総会報告及び会長声明4 弁護士会の委員会紹介及び市民向け案内5 雑誌
第1 本記事の対象と基準日

本記事は,弁護士及び法律事務所に対する業務妨害について,日弁連の総会宣言と会長声明,弁護士会の委員会紹介,法令及び裁判例という公開資料から,現状と対策を整理するものである。
想定する読者は,弁護士及び司法修習生と,弁護士に事件を依頼している市民である。
後者については,相手方の代理人弁護士に向けた行為がどこから犯罪又は不法行為になり得るかという観点を含めている。

本記事の基準日は令和8年9月12日である。
法令は同日現在の条文をe-Gov法令検索で確認し,令和8年10月1日に施行される改正後の労働施策総合推進法については,施行後の条文を確認した。

個別の事案で犯罪又は不法行為が成立するかは具体的な事実によって決まるため,本記事は判断の枠組みと公的資料の記載を示すにとどめる。
インターネット上の投稿の削除請求や発信者情報開示の手続は扱わない。
日弁連及び弁護士会が会員向けに作成している業務妨害対策の資料についても,その内容は扱わない。

第2 日弁連の宣言と会長声明に見る業務妨害の現状
1 令和7年12月5日の臨時総会宣言

日弁連は,2025年(令和7年)12月5日の臨時総会で,「坂本堤弁護士一家遺体発見から30年の節目に、弁護士業務妨害を許さず、その対策に積極的に取り組む宣言」を採択した。
同日の臨時総会報告によれば,この宣言案は第4号議案として上程され,挙手による採決の結果,賛成多数で可決された。

宣言の提案理由によれば,坂本堤弁護士は,オウム真理教の出家信者らの救出活動等に取り組む中で,1989年に教団により妻子と共に殺害された。
日弁連は,この事件を契機として1996年6月に弁護士業務妨害対策委員会を設置し,その後,全ての弁護士会に同委員会又はそれに相当する組織が設置されたとされている。

宣言本文は,同委員会を通じて,妨害実態の調査・情報収集・分析,妨害行為の原因及び対策の研究,会員への情報共有と周知・啓発を行うとともに,「警察との連携強化等の活動をより一層徹底する」とする。
あわせて,妨害を受けた弁護士に対する各弁護士会の支援活動をサポートするとしている。

2 提案理由が挙げる妨害の態様

宣言の提案理由は,弁護士の殺害にまでは至らない場合でも,次のような妨害が多いとする。
①弁護士や事務職員への暴行・傷害
②脅迫・強要
③法律事務所を突然訪問しての業務妨害
④頻繁な架電,郵便物の送付及びメールの送信等による妨害
⑤濫用的懲戒請求
⑥濫用的訴訟提起による妨害

提案理由は,共同親権等に関する法改正について情報発信を行っている弁護士に対する激しい妨害行為も数多く報告されているとする。
さらに,SNSやGoogleマップ等の口コミ・レビュー機能を有するサイトへの書き込みによる誹謗中傷等により,弁護士の名誉やプライバシー権が侵害される事案も発生しているとしている。

殺害に至った事件として,提案理由は,坂本事件のほかに,2010年6月に横浜で離婚事件の相手方から弁護士が殺害された事件と,同年11月に秋田で財産分与請求事件の元相手方から弁護士が殺害された事件を挙げている。
日弁連の弁護士業務妨害対策委員会の紹介ページも,2010年6月2日に横浜弁護士会(現在の神奈川県弁護士会)所属の弁護士が,同年11月4日に秋田弁護士会所属の弁護士が殺害されたと記載している。

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取締役責任調査委員会の委員弁護士は後続訴訟を代理できるか-最高裁令和4年6月27日決定と弁護士法25条(AI作成)

目次

第1 この記事の対象と結論1 扱う問題と基準日2 最高裁の結論第2 取締役責任調査委員会と後続訴訟1 二つの委員会は別の組織である2 事情聴取前の説明と訴訟代理第3 弁護士法25条2号及び4号が類推適用されなかった理由1 2号の信頼関係に基づく協議ではないこと2 4号の公務員又は裁判官に類する立場ではないこと3 弁護士法25条の拡張・類推は抑制されること第4 第三者委員会の委員について同じ結論になるとは限らない1 日弁連ガイドライン型の第三者委員会との違い2 事情聴取時の説明が異なる場合第5 訴訟行為の排除と職務倫理は別に検討する1 弁護士職務基本規程違反だけでは排除できないこと2 秘密保持及び利益相反の確認第6 受任前に確認する資料と停止基準1 最初に確認する資料2 追加確認又は受任停止が必要となる場合3 法律事務所内の確認第7 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 職能団体の規程・ガイドライン4 文献
第1 この記事の対象と結論
1 扱う問題と基準日

この記事は,取締役責任調査委員会の委員であった弁護士が,調査対象となった取締役に対する会社側の損害賠償請求訴訟を代理できるかを扱う。
中心となる裁判例は,最高裁令和4年6月27日第一小法廷決定(令和4年(許)第3号,集民268号323頁)であり,法令及び規程は令和8年9月9日現在の内容を確認した。

この問題では,①弁護士法25条により職務を行うことが禁止されるか,②相手方が裁判所に訴訟行為の排除を求められるか,③弁護士職務基本規程,秘密保持及び調査の信用性の面から受任が適切かを区別する必要がある。
最高裁決定が直接判断したのは,本件の具体的事情の下で①及び②に関する弁護士法25条2号及び4号の類推適用を認められるかという点である。

2 最高裁の結論

最高裁は,本件の取締役責任調査委員会が会社の委託を受けて取締役の責任を調査する組織であり,調査対象者には事情聴取の結果が後の責任追及訴訟で証拠として用いられる可能性が示されていたことを重視した。
その上で,同委員会の委員であった弁護士が会社の訴訟代理人となることについて,弁護士法25条2号又は4号を類推適用して訴訟行為から排除することはできないと判断した。

ただし,この決定は,調査委員会の委員であった弁護士が常に後続訴訟を代理できるとしたものではない。
委員会の目的,委嘱者,調査対象者に対する説明,取得した秘密情報,委員会が公表した独立性の内容及び後続訴訟の依頼者を個別に確認する必要がある。

懲戒の面では,同じ事案の弁護士らに対する懲戒請求について,日弁連綱紀委員会が異議の申出を棄却している(2023年弁護士懲戒事件議決例集(第26集)80頁(【3】))。
同議決は,本件の委員会が典型的な第三者委員会と異なり,役員らの損害賠償責任の有無を調査するために監査役から委嘱を受けて設置されたものであるから,委員が後に訴訟代理人に就任したこと自体をもって弁護士法25条2号・4号等に違反するとはいえず,直ちに弁護士職務基本規程5条・6条に違反するともいえないとした。
もっとも,委員としての職務遂行時に訴訟代理人となることが事実上予定されていたとすれば,提訴するかどうかの判断に影響したのではないかという疑念を持たれるという意味で,同規程5条・6条に抵触する可能性も否定できないとし,委員会の職務行使の公正さに重大な疑念が生じるおそれがあり問題がなかったわけではないとしつつ,異議申出人らの信頼が裏切られた事情はなく非違行為はなかったと結論付けている。
日本弁護士連合会弁護士倫理委員会編著『解説「弁護士職務基本規程」第4版』(令和8年9月)121頁~122頁もこの議決を紹介している。
同書の第3版から第4版への主な変更点は,解説「弁護士職務基本規程」第3版と第4版の比較-規程改正,解釈の変更,新設項目及び削除された記述で整理している。

これに対し,裁判所に選任された職務代行者であった弁護士が,同じ内容の後訴で相手方の代理人となった事案では,弁護士法25条1号又はその類推適用により訴訟行為が排除された例がある。
この違いは,職務代行者・管理人等を務めた弁護士は後にその紛争の代理人になれるか――福岡地裁令和5年8月30日決定と職務基本規程27条・81条で整理した。
会社の顧問弁護士が株主代表訴訟で被告取締役の代理人となる逆向きの場面は,株主代表訴訟で会社の顧問弁護士は被告取締役の代理人になれるか―職務基本規程28条の利益相反,会社の補助参加及び住民訴訟の場合で扱っている。

第2 取締役責任調査委員会と後続訴訟
1 二つの委員会は別の組織である

本件会社では,役員らによる金品受領問題について,最初に,日本弁護士連合会の第三者委員会ガイドラインに準拠する第三者委員会が設置された。
その後,会社は,取締役であった者が会社法423条1項により会社に対する損害賠償責任を負うかを調査・検討するため,太田洋弁護士及び木目田裕弁護士を含む4名の外部弁護士に委員を委嘱し,別の取締役責任調査委員会を設置した。

会社は,取締役責任調査委員会について,独立性を確保した利害関係のない立場にある社外弁護士から成る委員会であると公表していた。
もっとも,委員会が会社から委嘱を受けて取締役の会社に対する責任を調査する組織であることと,委員が会社から離れた紛争解決者であることとは同じではない。

2 事情聴取前の説明と訴訟代理

委員会が調査対象者に送付した事情聴取の依頼文書には,聴取結果が会社による責任追及訴訟で証拠として用いられる可能性がある旨が記載されていた。
委員会は事情聴取を経て取締役であった者らの責任を認める内容の報告書を提出し,会社は,委員であった弁護士2名を訴訟代理人として損害賠償請求訴訟を提起した。

取締役であった者らは,委員であった弁護士の訴訟行為が弁護士法25条2号及び4号の趣旨に反すると主張し,訴訟行為の排除を申し立てた。

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弁護士職務基本規程19条と事務職員の生成AI利用―指導監督・秘密保持・事務所ルール(AI作成)

目次第1 調査結果-ルールを定めず個人判断に委ねている事務所が最多である1 アンケート調査の概要2 母数が設問ごとに異なる3 使わせている事務所ほどルールがある第2 弁護士職務基本規程19条1 条文2 19条は努力目標ではなく義務規定である3 指導監督の内容第3 生成AIの利用は19条の問題になるか1 生成AIそれ自体は19条の対象ではない2 事務職員に使わせる場合は19条の対象になる3 「秘密を漏らし」への該当性第4 共同事務所の指導監督―19条と55条の違い第5 指導監督として何をするか第6 違反事例の調べ方第7 関連記事出典・参考資料第1 調査結果-ルールを定めず個人判断に委ねている事務所が最多である
1 アンケート調査の概要

2026年9月5日に福岡市で開催された第24回弁護士業務改革シンポジウム第2分科会の配布資料のうち,資料2-1は,日本弁護士連合会弁護士業務改革委員会事務職員関連小委員会による「事務職員と生成AIに関するアンケート調査 報告書」である。
調査は2026年3月23日から同年4月27日までの間に行われ,有効回答は223件である。
配布資料は,日本弁護士連合会のウェブサイトで公開されている。

この調査の対象は「主に事務職員を雇用する会員,または生成AIの利用に関心のある会員」である。
調査対象が限られているため,回答者についての割合を,全弁護士又は全事務所についての割合として一般化することはできない。
報告書自身がこの限定を明示しているから,引用する際も「事務職員を雇用する会員又は生成AIに関心のある会員223名の回答」という限定を付す必要がある。

事務所における生成AIの導入状況は,弁護士と事務職員がともに利用しているものが26.7パーセント,弁護士のみが利用しているものが43.4パーセント,利用していないものが29.4パーセント,利用を禁止しているものが0.5パーセントである(回答221件)。
事務所の方針については,「ルールを定めておらず個人の判断に委ねている」が31.8パーセントで最多であった(回答151件)。
研修又はガイドラインについては,策定済みが10.1パーセント,検討中が33.1パーセント,予定なしが41.2パーセントである(回答148件)。

2 母数が設問ごとに異なる

この報告書を引用するときに最も注意を要するのは,母数が設問ごとに異なることである。
有効回答223件がそのまま母数になるのは一部の設問だけであり,事務所の方針を尋ねた設問の母数は151件,研修及びガイドラインを尋ねた設問の母数は148件である。
報告書は添付資料2で設問ごとの回答数を開示しているから報告書自体に不備はないが,本文のパーセントだけを取り出して「223名のうち何パーセント」と書けば誤りになる。
本記事では,数値を挙げるときに母数を併記する。

3 使わせている事務所ほどルールがある

クロス集計によれば,事務職員にも使わせている57件では研修又はガイドラインの策定済みが24.6パーセントである一方,弁護士のみが利用している91件では1.1パーセント(1件)にとどまる。
報告書は,ルールを定めていない状態を,判断自体がなされていない状態にあると評価している。

もっとも,報告書は,この状態について弁護士職務基本規程上の評価には触れていない。
規程上どう位置付けられるかは,事務職員に生成AIを使わせるかどうかを決める上で避けられない論点である。
本記事では,この点を同規程19条から検討する。

第2 弁護士職務基本規程19条
1 条文

弁護士職務基本規程(平成16年11月10日会規第70号。改正平成26年12月5日,令和3年6月11日)19条は,次のとおり定める。
日本弁護士連合会のウェブサイトに規程全文のPDFが掲載されており,認証を要せずに参照することができる。

「(事務職員等の指導監督)
第十九条 弁護士は、事務職員、司法修習生その他の自らの職務に関与させた者が、その者の業務に関し違法若しくは不当な行為に及び、又はその法律事務所の業務に関して知り得た秘密を漏らし、若しくは利用することのないように指導及び監督をしなければならない。」

2 19条は努力目標ではなく義務規定である

同規程82条2項は,一定の条項について「弁護士の職務の行動指針又は努力目標を定めたものとして解釈し適用しなければならない」と定める。

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弁護士の職務上請求用紙の購入・保管・紛失対応-用紙管理,返還及び懲戒リスク(AI作成)

目次

第1 この記事の対象と結論

1 この記事が扱う用紙管理の範囲
2 購入,保管,紛失及び返還の基本線

第2 職務上請求用紙を購入するときの確認事項

1 購入先,価格及び本人確認は所属弁護士会で確認する
2 受領時に管理台帳へ登録する

第3 未使用用紙を保管・持出しするときの管理

1 規則が直接定める禁止事項と管理義務
2 事務所内で採用しやすい管理方法

(1) 鍵付き保管とアクセス制限
(2) 残数照合と定期棚卸し
(3) 持出し,書損じ及び毀損への対応

3 事務職員と複数事務所の取扱い

第4 紛失又は盗難が判明したときの対応

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非弁提携業者による弁護士の取込みから撤収まで(AI作成)

第1 この記事が扱う非弁提携

1 非弁行為と非弁提携の違い
2 本記事でいう「取込み」と「撤収」
3 先に示す結論

第2 弁護士を取り込む入口

1 標的となりやすい状況を探す
2 公益と適法な経営支援の外観を作る
3 収入保証と既成事実を組み合わせる

第3 法律事務所を支配する四つの手段

1 顧客接点の支配
2 人員と事件処理の支配
3 資金の支配
4 情報の支配

第4 弁護士が離脱しにくくなる仕組み

1 止めるほど債務が表面化する
2 アカウントと記録への依存が強まる
3 依頼者保護の責任感が逆に利用される

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訴訟活動における名誉毀損・侮辱と弁護士会の懲戒(AI作成)

目次第1 弁護士職務基本規程70条・71条・73条──名誉の尊重と不利益行為の禁止1 70条(名誉の尊重)の内容と趣旨2 71条(信義に反する不利益行為の禁止)3 73条(他の弁護士等との紛議は協議・紛議調停で)4 「品位を失うべき非行」との実質判断(弁護士法56条1項)第2 懲戒事例──場面別に見た問題の表現1 準備書面等で相手方本人を攻撃した例2 相手方代理人・他の弁護士を攻撃した例3 メーリングリスト・手紙・文書・メールでの誹謗中傷や威圧4 SNS・インターネット・記者会見での表現5 懲戒請求制度の濫用・懲戒請求書での名誉毀損第3 単位弁護士会と日弁連で判断が分かれた例1 懲戒請求書の記載を取り消した例2 準備書面の記載を取り消した例第4 関連論点・関連記事出典
第1 弁護士職務基本規程70条・71条・73条──名誉の尊重と不利益行為の禁止

この記事は,弁護士が訴訟活動やSNS等で相手方,相手方訴訟代理人又は他の弁護士の名誉を毀損し,若しくは侮辱したことを理由に弁護士会から受けた懲戒処分の実例を,弁護士職務基本規程70条・71条の内容とあわせて場面別に整理したものです。
対象は,日本弁護士連合会の機関誌『自由と正義』の懲戒処分公告で確認できる事例(令和7年〔2025年〕分まで)で,各事例には掲載号・頁と処分の効力発生日を付し,公告に記載された問題の表現をできる限りそのまま示します。

訴訟活動の中でされた表現が,相手方等に対する不法行為(民法709条)や国家賠償として違法になるかどうかは,これとは別の判断枠組みの問題であり,本記事では扱いません。その点は,関連記事「陳述書の作成が違法となる場合に関する裁判例」で整理しています。本記事は,これとは別のレイヤーである弁護士会による懲戒処分に焦点を当てます。

弁護士が他の弁護士を攻撃した場合の懲戒の根拠として,弁護士職務基本規程70条及び71条がしばしば引かれます。
もっとも,これらの条文に形式的に触れる行為がすべて直ちに懲戒事由となるわけではなく,弁護士法56条1項の「品位を失うべき非行」と同等の評価を受けるかという実質的な観点から判断されます。
1 70条(名誉の尊重)の内容と趣旨
職務基本規程70条は,次のとおり定めます。
「弁護士は、他の弁護士、弁護士法人、外国法事務弁護士、外国法事務弁護士法人及び共同法人(以下「他の弁護士等」という。)との関係において、相互に名誉と信義を重んじる。」

令和8年10月4日確認の日弁連公表の現行規程によります。以下の過去の事例に適用された旧規定と,現在の70条の文言は区別して読んでください。

その趣旨は,弁護士等が「法の支配」の担い手として法律事務の独占(弁護士法72条)を認められているところ,法律事務は国民の信頼に支えられて初めて適正に取り扱うことができるのであって,依頼者や市民の信頼を得るためには弁護士等が名誉と信義を重んじる品格ある職業集団でなければならない,という点にあると説明されています(解説弁護士職務基本規程〔第3版〕200頁,〔第4版〕226頁)。
ただし,これは弁護士が依頼者や市民より一段上にあるという意味ではありません。法廷での発言や準備書面の記載のほか,ブログやSNS等で相手方代理人の言動を取り上げて非難する行為も,場合によってはその弁護士の名誉・信用を害するものとして違法性を帯びることがあります。
2 71条(信義に反する不利益行為の禁止)
職務基本規程71条は,次のとおり定めます。
「弁護士は,信義に反して他の弁護士等を不利益に陥れてはならない。」

ここでいう「信義」は,不利益を受けた弁護士が抱く主観的な信義ではなく,自由・独立・品位を重んじ誠実かつ公正に職務を行うべき弁護士職として要求される客観的な信義を指すとされています(解説弁護士職務基本規程〔第3版〕202頁,〔第4版〕228頁)。

懲戒委員会の議決例でも,71条は積極的に不利益を与える意思までを要するものではなく,客観的に不利益を与える行為を行うこと自体が禁止されると理解されています。相手方代理人の同意なく相手方本人に会って解任通知書を作成・交付した行為について,客観的に相手方代理人へ不利益を与える以上71条に反すると判断した例があります(大分県弁護士会懲戒委員会・令和2年3月16日効力発生の議決。自由と正義2020年8月号56頁,2020年弁護士懲戒事件議決例集〔第23集〕70頁・71頁)。

解説弁護士職務基本規程〔第4版〕228頁は,71条に違反する例として,相手方代理人が自らの依頼者本人と直接交渉することを承諾しておきながら,後に前言を翻し,承諾なく直接交渉したとして懲戒請求をほのめかす行為などを挙げています。相手方本人との直接交渉の規律(職務基本規程52条)は,相手方に代理人がいるとき弁護士は本人と直接交渉してよいか-弁護士職務基本規程52条の要件と懲戒例で整理しています。
3 73条(他の弁護士等との紛議は協議・紛議調停で)
あわせて,弁護士は,他の弁護士等との間の紛議については,協議又は弁護士会の紛議調停による円満な解決に努めるものとされています(職務基本規程73条)。
相手方代理人への攻撃や懲戒請求に先立ち,まず自主的な協議や弁護士会の紛議調停による解決を図るべきことを示す規定です。
4 「品位を失うべき非行」との実質判断(弁護士法56条1項)
70条・71条に形式的に触れても,直ちに懲戒されるわけではありません。

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弁護士の「品位を失うべき非行」の不明確性と懲戒制度への批判(AI作成)

弁護士法56条1項の「品位を失うべき非行」は,具体的な行為類型を列挙した規定ではない。この概念については,予測可能性が乏しく恣意的な懲戒を招くという批判がある一方,最高裁判例は,懲戒事由該当性,懲戒の要否及び処分選択について弁護士会の合理的裁量を認めている。

本記事は,①当事者・論者による制度批判,②現行法,③最高裁判例が示す裁量審査,④表現規制における明確性判例からの示唆を区別して整理する。法令及び裁判例の確認基準日は2026年9月25日である。

目次第1 現行法上の「品位を失うべき非行」第2 不明確であるという批判の内容第3 行政手続法12条との関係第4 最高裁が認める弁護士会の裁量第5 表現規制の明確性判例との関係第6 他士業との比較と制度論第7 議論を混同しないための整理第8 関連記事第9 出典・証拠境界

第1 現行法上の「品位を失うべき非行」

弁護士法56条1項は,弁護士及び弁護士法人が,弁護士法又は所属弁護士会・日本弁護士連合会の会則に違反し,所属弁護士会の秩序又は信用を害し,その他職務の内外を問わずその品位を失うべき非行があったときは懲戒を受けると定める。

「品位を失うべき非行」は,刑法上の犯罪又は民法上の不法行為と同一ではない。弁護士の使命,職務上の義務,依頼者及び国民の信頼との関係で,行為の内容,態様,結果,職務との関連性,動機,事後対応その他の事情を踏まえて判断される。

懲戒処分は,戒告,2年以内の業務停止,退会命令及び除名である(同法57条1項)。懲戒事由に該当するかという判断と,どの処分を選択するかという量定判断は区別する必要がある。

第2 不明確であるという批判の内容

非弁提携を理由とする懲戒処分を受けた弁護士法人等が公表した審査請求書には,「品位」「非行」「非弁提携」といった文言が曖昧であり,重大な不利益処分の要件として広い裁量を認めると,予測可能性を害し恣意的判断を招くという趣旨の主張が記載されている。また,交通違反の点数制や建築士の処分基準のような具体的基準を設けるべきであると主張されている。

これは,審査請求人側の主張を紹介するものであり,その正しさが判決によって確定したという意味ではない。当該懲戒処分の適法性,非弁提携の該当性及び手続の問題は,公表資料と確定裁判の有無を区別して検討する必要がある。

学説上も,弁護士懲戒の救済制度,手続保障及び基準の明確化を求める議論がある。これも制度改善についての評価・提案であり,現行法又は最高裁判例の内容そのものではない。

第3 行政手続法12条との関係

行政手続法12条は,行政庁に対し,不利益処分の処分基準を定めて公にしておくよう努めること,基準を定める場合には不利益処分の性質に照らしてできる限り具体的にすることを定める。

しかし,弁護士法43条の15及び49条の2は,弁護士会及び日本弁護士連合会が行う処分等について,行政手続法のうち行政指導に関する規定を除く規定を適用しないと定める。したがって,行政手続法12条が弁護士懲戒へ直接適用され,処分基準の設定が法的義務となるという説明は正確でない。

予測可能性の確保,平等な取扱い及び恣意の抑制という行政手続法12条の考え方を,弁護士自治の下でも制度設計上参照すべきである,という議論は成り立つ。ただし,これは直接適用の解釈ではなく,類推的な制度論・規範的主張である。

第4 最高裁が認める弁護士会の裁量

最高裁平成18年9月14日第一小法廷判決(平成15年(行ヒ)第68号・裁判集民事221号87頁)は,ある事実関係が「品位を失うべき非行」等の懲戒事由に該当するか,該当する場合に懲戒するか,どの処分を選択するかは,弁護士会の合理的な裁量に委ねられるとした。

そして,弁護士会の懲戒処分が違法となるのは,全く事実の基礎を欠くか,社会通念上著しく妥当性を欠き,裁量権の範囲を超え又は裁量権を濫用したと認められる場合に限られるとした。

判断段階内容事実認定懲戒対象行為と事情を証拠により認定する懲戒事由該当性弁護士法56条1項の各事由に当たるかを判断する懲戒の要否該当しても懲戒しない余地を含め,相当性を判断する処分選択戒告から除名までのどの処分を選ぶかを判断する司法審査事実の基礎の欠如又は社会通念上著しい不合理があるかを審査する

この最高裁判決は,「品位を失うべき非行」という文言が不明確で無効であると判断したものではない。反対に,弁護士会の裁量を前提とする司法審査基準を示したものである。制度への批判を述べる場合も,この現行判例を明示した上で論じる必要がある。

第5 表現規制の明確性判例との関係

最高裁昭和59年12月12日大法廷判決(昭和57年(行ツ)第156号・民集38巻12号1308頁)は,表現の自由を規制する法律について,限定解釈により規制対象と対象外を明確に区別でき,合憲的に規制できるものだけが対象となることが明らかで,一般国民が具体的な規制対象を判断できる基準を規定から読み取れることを要求した。

この判決は表現規制を扱うものであり,弁護士法56条1項の「品位を失うべき非行」の合憲性又は明確性を直接判断したものではない。弁護士懲戒にその基準がそのまま適用されると断定することはできない。

もっとも,懲戒事由・量定の予測可能性,萎縮効果及び限定的な運用を検討する際の隣接資料にはなる。特に,懲戒対象行為が表現活動である場合は,職業規律の必要性だけでなく,表現の自由への制約と萎縮効果を具体的に検討すべきである。

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弁護士のSNS・ネット表現と懲戒(AI作成)

この記事は,弁護士のSNS・インターネット上の表現をめぐる懲戒として,いわゆる「タヒね」懲戒とその取消し,表現の自由との関係,対象弁護士の日弁連総会における発言を取り上げるものです(2026年7月時点の法令・裁判例に基づきます。)。
目次

第1 「タヒね」懲戒とその取消し
第2 侮辱・名誉毀損の法的責任(概要)
第3 表現の自由と萎縮効果
第4 対象弁護士の日弁連総会における発言
第5 ウェブ上の表現で懲戒された例との対比
第6 関連論点・関連記事
出典

第1 「タヒね」懲戒とその取消し
令和3年3月1日発効の大阪弁護士会の戒告では,次の行為について,弁護士法56条1項に定める品位を失うべき非行に該当すると判断されました(月刊大阪弁護士会2021年3月号60頁,自由と正義2021年7月号126頁)。
対象会員は,懲戒請求者から国家賠償請求訴訟について委任を受け訴訟代理人として活動していたが,その後辞任を求められ,これを受託して辞任届を提出した。その後,着手金の返還を巡るやりとりのころ,弁護士の肩書きとともに登録氏名及び法律事務所名を表示したツイッターにおいて,「金払わん奴はタヒね」「金払うつもりないなら法律事務所来るな」「弁護士費用を踏み倒すやつはタヒね」等とツイートを行った。
もっとも,この戒告は,被懲戒者の審査請求に基づき,令和4年5月17日付の日弁連の裁決で取り消され,被懲戒者は懲戒しないこととされました(自由と正義2022年7月号163頁~164頁の裁決の公告)。単位弁護士会の懲戒処分が日弁連で取り消されることがある一例です。
裁決の理由の要旨によれば,日弁連は,ツイートが「弁護士報酬の支払いを不履行にする者」を対象とするもので懲戒請求者を具体的に名指ししていないこと,ツイートには自己の愚痴や不満の感情を発散させるための手段という面も認められること,「タヒね」等は軽薄で下品な表現であるものの,いまだ懲戒処分を行うことが相当とまでは言えないこと,弁護士といえども私的な発言は表現の自由の対象として広く許されるべきであり,過去の処分例との公平性を考慮することも重要であることなどを挙げています。
ただし,原弁護士会の判断は相当であるとの少数意見があったことも付記されています。
第2 侮辱・名誉毀損の法的責任(概要)
SNS上の暴言は,懲戒とは別に,民事・刑事の責任を生じさせることがあります。要点だけを挙げると,次のとおりです。

事実を摘示しないで公然と人を侮辱した場合,侮辱罪が成立します(刑法231条)。侮辱罪の法定刑は,令和4年の刑法改正で引き上げられ,現在は「1年以下の拘禁刑若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」です。
インターネットの個人利用者による表現行為であっても,摘示した事実を真実と誤信したことについて,確実な資料・根拠に照らして相当の理由があると認められるときに限り,名誉毀損罪は成立しません(最高裁平成22年3月15日決定)。
自己の正当な利益を擁護するためやむをえず他人の名誉を損なう言動をした場合は,その他人が行った言動に対比して,方法・内容において適当と認められる限度を超えない限り,違法性を欠くとされています(最高裁昭和38年4月16日判決参照。学界誌の記事をめぐる民事の名誉毀損の事案です。)。

民事の侮辱(名誉感情の侵害)が違法となる基準や,侮辱罪の法定刑引上げの経緯など,より詳しい整理は,別記事「陳述書の作成が違法となる場合に関する裁判例」の該当箇所を参照してください。
第3 表現の自由と萎縮効果
令和元年9月9日付の東京弁護士会の意見書(「裁判官の市民的自由を萎縮させない対応を求める意見書」)には,次の記載があります。
いかなる表現行為が「許容される限度を逸脱」するのかが示されないでされる制約は,許容される表現行為の予測可能性を奪い,裁判官の表現行為に萎縮的効果を与えるものである。そのことは,一般市民との合理的な差異の不明確性とも相まって,一般市民の表現活動にも予測可能性を奪うおそれがあり,一般市民の表現活動についても萎縮効果を与えることにつながりかねない懸念がある。
表現の自由については,市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)19条が,すべての者が意見を持つ権利と表現の自由についての権利を有するとしつつ,その行使には特別の義務・責任が伴い,法律により,他の者の権利・信用の尊重や公の秩序等の目的のために必要とされる一定の制限を課すことができるとしています。
第4 対象弁護士の日弁連総会における発言

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弁護士の表現と名誉毀損(AI作成)

この記事は,弁護士の弁護活動に関する発言(テレビでの懲戒請求の呼びかけなど)が名誉毀損として違法になるかの判断枠組みと,名誉毀損が成立しない場合でも弁護士会の懲戒対象となり得ることを,最高裁判例に即して整理したものです(2026年7月時点の法令・裁判例に基づきます。)。
目次

第1 名誉毀損の違法性が阻却される場合(最高裁平成17年6月16日判決)
第2 名誉毀損が成立しなくても弁護士会の懲戒対象となり得る(最高裁平成23年7月15日判決)
第3 弁護士・弁護士会に求められる説明責任(須藤正彦裁判官の補足意見)
第4 関連論点・関連記事
出典

第1 名誉毀損の違法性が阻却される場合(最高裁平成17年6月16日判決)
名誉毀損が成立するかどうかは,表現が「事実の摘示」か「意見・論評の表明」かで枠組みが分かれます。最高裁平成17年6月16日判決は,先例を引用しつつ,一般論として次のとおり判示しています(番号は引用者が付し,接続の語句と先例の表示は省略しています。)。
① 事実を摘示しての名誉毀損にあっては,その行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあった場合に,摘示された事実がその重要な部分について真実であることの証明があったときには,上記行為には違法性がなく,仮に上記証明がないときにも,行為者において上記事実の重要な部分を真実と信ずるについて相当の理由があれば,その故意又は過失は否定される。

② ある事実を基礎としての意見ないし論評の表明による名誉毀損にあっては,その行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあった場合に,上記意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があったときには,人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り,上記行為は違法性を欠くものというべきであり,仮に上記証明がないときにも,行為者において上記事実の重要な部分を真実と信ずるについて相当の理由があれば,その故意又は過失は否定される。
同じ日付で出された別事件の上告棄却決定(最高裁平成17年6月16日決定)には,名誉毀損の成立を否定すべきとする裁判官島田仁郎の詳細な反対意見が付されています。
第2 名誉毀損が成立しなくても弁護士会の懲戒対象となり得る(最高裁平成23年7月15日判決)
大阪弁護士会に所属しタレント活動もしていた橋下徹弁護士が,平成19年5月27日放送のテレビのトーク番組において,光市母子殺害事件の弁護団を構成する弁護人に対する懲戒請求を呼びかけた行為について,大阪弁護士会は,平成22年9月17日,意見・論評の域を逸脱すること等を理由に2か月間の業務停止処分としました。

しかし,最高裁平成23年7月15日判決は,原審である広島高裁平成21年7月2日判決(平成20年(ネ)第454号)を破棄した上で,橋下徹弁護士の発言は不法行為法上違法とはいえないと判断しました(第1審被告である橋下徹弁護士が最高裁で逆転勝訴しました。)。

このように,弁護士会の懲戒処分の判断と,最高裁判所の不法行為の成否の判断とが一致しない事例があります。名誉毀損(不法行為)が成立しないと評価される表現であっても,弁護士会は,別途,品位を失うべき非行に当たるかを判断します。

最高裁平成23年7月15日判決は,一般論として,刑事事件における弁護人の弁護活動は被告人の言い分を無視して行うことができないことをその本質とするものであって,被告人の言い分や弁護人との接見内容等を知ることができない場合には,憶測等により当該弁護活動を論難することには十分に慎重でなければならない,と判示しています。

なお,前提となった光市母子殺害事件については,最高裁平成24年2月20日判決が,死刑判決を下した広島高裁平成20年4月22日判決を支持しました。
第3 弁護士・弁護士会に求められる説明責任(須藤正彦裁判官の補足意見)
上記の最高裁平成23年7月15日判決の裁判官須藤正彦の補足意見は,弁護士・弁護士会が批判に対して説明を尽くすべき立場にあることを述べています(改行は引用者が付しています。)。
弁護士は裁判手続に関わって司法作用についての業務を行うなど,その職務の多くが公共性を帯有し,また,弁護士会も社会公共的役割を担うことが求められている公的団体であるところ,主権者たる国民が,弁護士,弁護士会を信認して弁護士自治を負託し,その業務の独占を認め(弁護士法72条),自律的懲戒権限を付与しているものである以上,弁護士,弁護士会は,その活動について不断に批判を受け,それに対し説明をし続けなければならない立場にあるともいえよう。

懲戒制度の運用に関連していえば,前記のとおり,弁護士会による懲戒権限の適正な行使のために広く何人にも懲戒請求が認められ,そのことでそれは国民の監視を受けるのだから,弁護士,弁護士会は,時に感情的,あるいは,無理解と思われる弁護活動批判ないしはその延長としての懲戒請求ないしはその勧奨行為があった場合でも,それに対して,一つ一つ丹念に説得し,予断や偏見を解きほぐすように努めることが求められているといえよう。あるいは,著名事件であるほどにその説明負担が大きくなることはやむを得ないところもあろう。

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不当な懲戒請求と不法行為責任(AI作成)

目次

第1 懲戒請求権と不法行為責任の関係
第2 最高裁平成19年4月24日判決の判断基準
第3 判断の順序
第4 最高裁判決の事案と結論
第5 田原睦夫裁判官の補足意見
第6 損害と因果関係の立証資料
第7 懲戒手続への答弁と損害賠償請求を分けること
第8 刑法172条との関係
第9 下級審の認容例と資料の確認範囲
第10 出典・関連記事

弁護士に対する懲戒請求が不懲戒又は審査不相当になったとしても,そのことだけで請求者に不法行為責任が生じるわけではない。

最高裁平成19年4月24日第三小法廷判決(平成17年(受)第2126号,民集61巻3号1102頁)は,懲戒請求が事実上又は法律上の根拠を欠き,請求者がそれを知り,又は通常人であれば普通の注意により知り得たのにあえて請求するなど,制度の趣旨目的に照らし相当性を欠く場合に,不法行為が成立するとした。

本記事では,最高裁の法廷意見と田原睦夫裁判官の補足意見を分け,不当な懲戒請求に対応した弁護士が保存すべき記録を整理する。

第1 懲戒請求権と不法行為責任の関係

弁護士法58条1項は,何人も,弁護士又は弁護士法人について懲戒事由があると思料するときは,その事由の説明を添えて所属弁護士会に懲戒を求めることができると定める。

この制度は,広く一般の人に懲戒請求権を認め,弁護士会の自律的懲戒権限が適正に行使され,制度が公正に運用されることを期したものである。他方,根拠のない請求は,対象弁護士の名誉・信用を侵害し,弁明の負担を生じさせる。

したがって,「請求できること」と「根拠を欠く請求について民事責任を負わないこと」は同じではない。

第2 最高裁平成19年4月24日判決の判断基準

同最高裁判決は,懲戒請求者が,対象弁護士に懲戒事由があることを事実上及び法律上裏付ける相当な根拠について調査・検討すべき義務を負うとした。

その上で,次の事情があるときは,違法な懲戒請求として不法行為を構成すると判示した。

懲戒請求が事実上又は法律上の根拠を欠くこと

(続きを読む...)不当な懲戒請求と不法行為責任(AI作成)

弁護士の守秘義務―弁護士法23条・職務基本規程23条と正当な理由(AI作成)

弁護士に相談したり事件を依頼したりすると,「話した内容や渡した資料はどこまで秘密として守られるのか」「裁判や捜査,国会の場で弁護士が私のことを話してしまうことはないのか」といった疑問を持たれることがあります。この記事では,弁護士の守秘義務の根拠と範囲,守秘義務が例外的に解除される場合,証言や押収を拒める場面,司法修習生が事件記録に触れること,及び依頼者側でも第三者に見せない方がよい文書について,条文と最高裁判例を確認しながら整理します。条文は令和7年6月1日施行の拘禁刑への一本化を含む現行の内容によります。

目次第1 弁護士の守秘義務と秘密漏示罪1 守秘義務の根拠と対象2 秘密漏示罪(刑法134条1項)第2 弁護士の証言拒絶権・押収拒絶権等1 民事裁判での証言拒絶・文書提出拒絶2 刑事裁判での押収拒絶・証言拒絶3 依頼者との通信の傍受禁止と秘匿特権4 国会での証言・書類提出第3 守秘義務が解除される場合1 法律に別段の定めがある場合2 正当な理由がある場合第4 弁護士への相談と秘密保持契約(NDA)1 秘密保持義務の例外に弁護士への開示が含まれるのが通常2 M&AやNDAひな形での扱い第5 司法修習生等による傍聴・記録の閲覧謄写1 実務修習中の司法修習生の傍聴・記録閲覧2 記録の閲覧謄写と依頼者の同意3 司法修習生と研修医の違い第6 第三者に見せない方がよい文書1 相手方の秘密・プライバシーへの配慮2 検察官開示記録の取扱い第7 事件記録の管理体制と弁護士情報セキュリティ規程出典
第1 弁護士の守秘義務と秘密漏示罪

本記事で扱う弁護士法23条の秘密保持の権利・義務と,弁護士職務基本規程23条の依頼者の秘密を漏らし,又は利用することの禁止は,根拠と対象を区別して確認する必要がある。規程23条,56条及び62条の本文と関連条文は,弁護士職務基本規程の現行条文・条文別索引を参照されたい。

1 守秘義務の根拠と対象
(1) 二つの根拠と「依頼者」の範囲
弁護士の守秘義務には,二つの根拠があります。一つは法律で,弁護士法23条本文は「弁護士又は弁護士であつた者は,その職務上知り得た秘密を保持する権利を有し,義務を負う。」と定めています。守秘義務が「権利」でもあるのは,後で述べる証言拒絶権など,弁護士が秘密を守るために外部の要求を拒める場面があるからです。この秘密保持の権利・義務は,弁護士の使命に基づく誠実義務(弁護士法1条2項)の一つの内容とも位置づけられ,弁護士という職業の存立を支えるものと理解されています。

もう一つは日本弁護士連合会の会規である弁護士職務基本規程で,同規程23条は「弁護士は,正当な理由なく,依頼者について職務上知り得た秘密を他に漏らし,又は利用してはならない。」と定めています。「漏らす」だけでなく「利用」も禁じられている点が特徴です。

ここでいう「依頼者」は,現に個別の事件を依頼した人に限られません。日弁連「解説弁護士職務基本規程」によれば,次の人も含まれると解されています。

受任には至らなかった相談者
顧問先
事件が終了した過去の依頼者
組織内弁護士(企業などに雇用されて働く弁護士)の雇用主

したがって,相談したものの依頼を見送った場合や,事件がすでに終わっている場合でも,弁護士の守秘義務は続きます。
なお,弁護士の側で依頼を断るときに依頼者へ通知する義務については,弁護士が事件の依頼を断るときの通知義務で説明しています。
(2) 「職務上知り得た秘密」の意味と範囲
弁護士法23条が守るのは「職務上知り得た秘密」です。これは弁護士が職務を行う過程で知り得た秘密という意味で,職務とは関係なく知った秘密は含まれません。例えば,弁護士会の会務活動を通じて知った事柄を漏らしても,この条文の違反にはならないと解されています。大阪高裁平成19年2月28日判決(平成18年(ネ)第2841号・第3319号,判例タイムズ1272号273頁)は,「職務上知り得た」とは弁護士がその職務を行うについて知り得たという意味であり,依頼を受けて法律事務を処理する上で知り得た事項(将来依頼を受ける予定で知り得た事項を含みます。)に守秘義務が及ぶ一方,弁護士会の会務を行う際に知り得た事実には弁護士としての守秘義務は及ばないとしています(判例秘書で判決文を確認しました。)。もっとも,会務で知った情報も,会則・規則上の秘密保持義務の対象になり得ます(会務活動における弁護士の秘密保持義務参照)。

ここでいう「秘密」は,本人が特に秘匿しておきたいと考える性質のもの(主観的な秘密)に限られず,一般の人の立場からみて秘匿しておきたいと考える性質のもの(客観的な秘密)も含むと解されています。例えば,ある人が誰に事件を依頼しているかという委任関係の存否自体も,その人が法的紛争の当事者であることに関わる事実として,秘密に当たり得ます。

秘密の「主体」については議論があります。弁護士職務基本規程23条は「依頼者について」と定めていますが,弁護士法23条は文言上,秘密の主体を依頼者に限定していません。この点について,弁護士の守秘義務は依頼者はもとより第三者の秘密やプライバシーにも及ぶと理解するのが実務の一般的な考え方です。少なくとも,弁護士がその職務であるからこそ取り扱うことができる情報については,職務への信頼を守る観点から,依頼者以外の秘密も守秘義務の対象になると解されています。もっとも,依頼者と同じ信頼関係があるわけではない第三者の秘密をどこまで守るべきかは,後述する「正当な理由」の判断の中で,事案ごとに調整されることになります。
(3) 同じ法律事務所の弁護士も義務を負う
守秘義務を負うのは,直接担当した弁護士だけではありません。弁護士職務基本規程56条は「所属弁護士は,他の所属弁護士の依頼者について執務上知り得た秘密を正当な理由なく他に漏らし,又は利用してはならない。その共同事務所の所属弁護士でなくなつた後も,同様とする。」と定めています。

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