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弁護士のSNS・ネット表現と懲戒

この記事は,弁護士のSNS・インターネット上の表現をめぐる懲戒として,いわゆる「タヒね」懲戒とその取消し,表現の自由との関係,対象弁護士の日弁連総会における発言を取り上げるものです(2026年7月時点の法令・裁判例に基づきます。)。

目次

第1 「タヒね」懲戒とその取消し

令和3年3月1日発効の大阪弁護士会の戒告では,次の行為について,弁護士法56条1項に定める品位を失うべき非行に該当すると判断されました(月刊大阪弁護士会2021年3月号60頁)。

対象会員は,懲戒請求者から国家賠償請求訴訟について委任を受け訴訟代理人として活動していたが,その後辞任を求められ,これを受託して辞任届を提出した。その後,着手金の返還を巡るやりとりのころ,弁護士の肩書きとともに登録氏名及び法律事務所名を表示したツイッターにおいて,「金払わん奴はタヒね」「金払うつもりないなら法律事務所来るな」「弁護士費用を踏み倒すやつはタヒね」等とツイートを行った。

もっとも,この戒告は,被懲戒者の審査請求に基づき,令和4年5月17日付で日弁連により取り消されました(弁護士ドットコムニュース「ツイッターで「タヒね」、弁護士の懲戒取り消す逆転判断 日弁連」(2022年5月26日付)参照)。単位弁護士会の懲戒処分が日弁連で取り消されることがある一例です。

第2 侮辱・名誉毀損の法的責任(概要)

SNS上の暴言は,懲戒とは別に,民事・刑事の責任を生じさせることがあります。要点だけを挙げると,次のとおりです。

  • 事実を摘示しないで公然と人を侮辱した場合,侮辱罪が成立します(刑法231条)。侮辱罪の法定刑は,令和4年の刑法改正で引き上げられ,現在は「1年以下の拘禁刑若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」です。
  • インターネットの個人利用者による表現行為であっても,摘示した事実を真実と誤信したことについて,確実な資料・根拠に照らして相当の理由があると認められるときに限り,名誉毀損罪は成立しません(最高裁平成22年3月15日決定)。
  • 自己の正当な利益を擁護するためやむをえず他人の名誉を損なう言動をした場合は,相手方の攻撃的言動との対比で,方法・内容において適当と認められる限度を超えない限り,違法性が阻却されます(最高裁昭和38年4月16日判決参照)。

民事の侮辱(名誉感情の侵害)が違法となる基準や,侮辱罪の法定刑引上げの経緯など,より詳しい整理は,別記事「陳述書の作成が違法となる場合に関する裁判例」の該当箇所を参照してください。

第3 表現の自由と萎縮効果

令和元年9月9日付の東京弁護士会の意見書(「裁判官の市民的自由を萎縮させない対応を求める意見書」)には,次の記載があります。

いかなる表現行為が「許容される限度を逸脱」するのかが示されないでされる制約は,許容される表現行為の予測可能性を奪い,裁判官の表現行為に萎縮的効果を与えるものである。そのことは,一般市民との合理的な差異の不明確性とも相まって,一般市民の表現活動にも予測可能性を奪うおそれがあり,一般市民の表現活動についても萎縮効果を与えることにつながりかねない懸念がある。

表現の自由については,市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)19条が,すべての者が意見を持つ権利と表現の自由についての権利を有するとしつつ,その行使には特別の義務・責任が伴い,法律により,他の者の権利・信用の尊重や公の秩序等の目的のために必要とされる一定の制限を課すことができるとしています。

第4 対象弁護士の日弁連総会における発言

「タヒね」懲戒の対象弁護士は,令和2年9月4日の日弁連定期総会において,新型コロナウイルス感染症に関する宣言・決議の件(第6号議案)に関して,日弁連執行部を強く批判する発言をしました。いわゆる「谷間世代」(貸与金世代)の弁護士の経営の苦しさを踏まえ,弁護士の経営基盤への配慮を欠いたまま「弁護士の使命」を説くだけでは市民への法的サービスは実現できない,という趣旨の発言です。弁護士の懲戒や会務をめぐる会内の意見対立を示す一例として参考になります。

第5 関連論点・関連記事

出典

法令

  • 弁護士法56条,刑法231条(いずれもe-Gov法令検索により現行条文を確認)
  • 市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)19条

裁判例

  • 最高裁平成22年3月15日決定(裁判所ウェブサイト
  • 最高裁昭和38年4月16日判決〔公開前に裁判所HPの裁判例検索で実在・内容を確認し,掲載があれば詳細ページのURLを挿入すること〕

懲戒公告・ウェブ資料

  • 月刊大阪弁護士会2021年3月号(令和3年3月1日発効の大阪弁護士会の戒告)
  • 弁護士ドットコムニュース「ツイッターで「タヒね」、弁護士の懲戒取り消す逆転判断 日弁連」(2022年5月26日付)
  • 東京弁護士会「裁判官の市民的自由を萎縮させない対応を求める意見書」(令和元年9月9日付)