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業務内容が変わらない定年後再雇用社員の賃金水準の目安(AI作成)

第1 この記事が扱う対象と結論

1 対象と基準時

本記事は,令和8年8月11日現在,定年退職後に有期雇用又は短時間勤務で再雇用された社員について,定年前後で業務内容に特段の変更がない場合の賃金水準を検討するものである。生成AIを用いて関係資料を検索した上で,法令はe-Gov法令検索,主要裁判例は裁判所公表判決,統計及び行政解釈は公表主体の原資料と照合した。無期雇用のフルタイム社員は短時間・有期雇用労働法8条・9条の直接の適用対象とならない場合があるため,別途の検討を要する。

2 何%なら適法という基準はない

定年後再雇用社員の賃金について,定年前の60%,70%又は80%であれば適法であるという法令上又は判例上の安全基準は存在しない。裁判所は,賃金総額の割合だけでなく,基本給,賞与及び各種手当のそれぞれについて,その性質及び目的と,職務内容,責任,配置変更の範囲その他の事情との関係を審査している。

名古屋自動車学校事件の名古屋高裁令和4年3月25日判決・令和2年(ネ)第769号は,基本給のうち定年時基本給の60%を下回る部分を不合理とした。しかし,最高裁令和5年7月20日判決は,基本給及び賞与の性質・目的並びに労使交渉の経緯を十分に検討していないとして判決を破棄した。したがって,「60%まで支給すれば適法」という理解はできない。

3 本記事における実務上の目安

「業務内容に特段の変更がない」という表現を,①実際の作業,②責任及び権限,③所定労働時間,④転勤・配置転換・職種変更の範囲,⑤評価対象,⑥部下指導その他の期待役割まで実質的に変わらないという厳格な意味で用いる場合,職務・能力・成果の対価に当たる賃金部分は,対応する通常の労働者の100%を検討の出発点とするのが最も法的に整合的である。もっとも,これは退職金,勤続報償その他の性質が異なる待遇を含む総年収の全項目を,機械的に定年前と同額にするという意味ではない。

定年前又は対応する通常の労働者に対する水準厳密に業務等が同じ場合の初期評価留意点
100%法的検討の出発点職務・能力・成果に対応する部分について,減額理由が生じにくい
90%以上100%未満減額部分の具体的説明を要する90%も法的な安全基準ではない
60%以上90%未満慎重な検討を要する市場で多い水準であっても,業務等が同じ場合の適法性を示さない
60%未満正当化が特に難しい責任・業務量・変更範囲等の実質的な軽減がなければ,高い紛争リスクがある

この表は,法的な下限を示すものではなく,裁判例,公的統計及び賃金制度の実務資料を踏まえた初期的なリスク選別である。最終的な評価は,適切な比較対象者を選び,待遇項目ごとに行う必要がある。

4 市場相場と法的評価は別である

内閣府の令和6年度年次経済財政報告が引用する企業調査では,定年前と比べた定年後の年収が「6割程度から7割程度」の企業が45%で最も多く,「8割程度から9割程度」が24%,「ほぼ同程度」が15%であった。しかし,この調査は,業務内容,責任及び配置変更の範囲が全て同じ再雇用者だけを抽出したものではない。6割から7割は実態上の最多帯であって,法的な許容水準ではない。

第2 現行法の判断枠組み

1 高年齢者雇用安定法は賃金率を定めていない

高年齢者雇用安定法8条は60歳未満の定年を禁止し,同法9条は65歳未満の定年を定める事業主に,定年の引上げ,継続雇用制度の導入又は定年制の廃止のいずれかを義務付けている。しかし,同法は,定年前の賃金の一定割合を維持することや,同じ職務には同額の賃金を支払うことを直接定めていない。制度の沿革及び雇用確保措置については,高年齢者雇用安定法に関するメモ書きも参照されたい。

2 短時間・有期雇用労働法8条の均衡待遇

再雇用社員が有期雇用労働者又は短時間労働者である場合,短時間・有期雇用労働法8条は,基本給,賞与その他の待遇のそれぞれについて,対応する通常の労働者との間に不合理な相違を設けることを禁止する。考慮要素は,①業務の内容及び責任の程度,②職務内容及び配置の変更範囲,③その他の事情のうち,当該待遇の性質及び目的に照らして適切なものである。

比較対象は,常に定年前の本人というわけではなく,同じ使用者に雇用される「通常の労働者」である。もっとも,定年前後で仕事が連続する事件では,定年前の本人の職務及び賃金が,待遇差の実態を明らかにする重要な資料となる。均衡待遇と均等待遇の一般的な関係については,同一労働同一賃金も参照されたい。

3 同法9条の均等待遇

同法9条は,職務内容が通常の労働者と同一であり,雇用関係が終了するまでの全期間における職務内容及び配置の変更範囲も同一と見込まれる短時間・有期雇用労働者について,短時間・有期雇用労働者であることを理由とする差別的取扱いを禁止する。現在の作業が同じというだけでは足りず,将来の転勤,職種変更,昇進及び管理職登用の可能性と実際の運用まで比較する必要がある。

形式上,役職名を外し,又は転勤対象外と規定しただけでは,実際の責任,権限,配置実績及び期待役割が変わらない場合の説明力は弱い。他方,緊急対応,部下指導,最終決裁,異動又は管理職登用から実質的に外れるのであれば,その差が関係する賃金部分について考慮され得る。

4 説明義務と令和8年改正ガイドライン

同法14条により,事業主は,労働者から求められたとき,通常の労働者との待遇差の内容及び理由等を説明しなければならない。説明が不十分であることだけで直ちに8条違反となるわけではないが,待遇の目的を説明できず,労働者の意向を考慮せずに一方的に決定した経緯は,不合理性を基礎付ける事情となり得る。

改正同一労働同一賃金ガイドラインは令和8年4月28日に公布され,同年10月1日から適用される。本記事の基準日には未適用であるが,改正後ガイドラインは,定年後再雇用であることが「その他の事情」になり得る一方,その事実だけで待遇差が不合理でないことにはならないこと,及び正社員の確保・定着という抽象的な目的だけでは待遇差を当然に正当化できないことを明確にしている。

第3 「業務内容が同じ」を分解する方法

1 作業だけでなく責任と権限を比べる

業務内容の比較では,日常の作業項目のほか,事故・苦情・緊急時の対応,部下又は後任者の指導,顧客及び取引先への最終責任,決裁権限,数値目標並びに評価上の責任を確認する必要がある。「同じ場所で同じ仕事をしている」という事情は重要であるが,それだけで法8条又は9条の結論は決まらない。

2 変更範囲は規程と実績の双方を見る

変更範囲については,就業規則及び雇用契約書に記載された転勤・職種変更の範囲だけでなく,実際に同じ職群の社員がどの程度異動し,昇進し,又は管理職へ登用されているかを確認する。使用者が「正社員には将来の転勤や昇進がある」と説明しても,長期間にわたり該当する異動実績がなく,再雇用社員と同じ仕事だけを担当している通常の労働者がいる場合,抽象的な可能性だけで大幅な差を説明することは難しい。

3 基本給を一つの性質に決めつけない

基本給は,職務給,職能給,勤続給,年齢給,役割給及び成果給等の要素が混在し得る。規程上の名称だけでなく,実際の昇給,等級,評価及び賃金決定の運用から構成要素を明らかにすべきである。職務・能力・成果に対応する部分は,同じ事情には同じ取扱いをする方向に働く一方,定年前に担っていた役職,転勤受容又は将来の管理職候補としての役割が実際に消滅する場合は,その役割に対応する部分を見直す余地がある。

第4 主要裁判例が示すもの

1 長澤運輸事件――76%から80%は一般基準ではない

最高裁平成30年6月1日第二小法廷判決は,定年前後でバラセメントタンク車運転手の職務内容及び変更範囲が同じ事案について,想定年収が定年前の79%,実績を前提とする試算がおおむね76%から80%であったこと等を踏まえ,基本給等及び賞与の相違を不合理でないとした。他方,皆勤を奨励する精勤手当を再雇用者に支給しないこと及び超勤手当の算定に関する相違は不合理とした。

同判決は,定年後再雇用,退職金,年金・給付,労使交渉,各賃金項目の目的及び項目間の関係を考慮した事例判断である。年収が76%又は80%以上であれば適法になるという数値基準を示したものではない。

2 名古屋自動車学校事件――60%基準の否定

名古屋地裁令和2年10月28日判決及び名古屋高裁令和4年3月25日判決・令和2年(ネ)第769号は,定年前後の職務に大きな相違がない教習指導員について,基本給のうち定年時基本給の60%を下回る部分等を不合理とした。しかし,前記最高裁令和5年判決は,基本給・賞与の性質及び目的と労使交渉の経緯を十分に検討していないとして破棄差戻しとした。

名古屋高裁令和8年2月26日差戻審判決は,正職員の基本給にも職務給的性質が大きく,嘱託職員の基本給と共通する性質があること,仕事内容がほぼ同じであること及び会社の交渉対応等を総合し,二人の基本給について月額10万円又は9万5000円を下回る部分並びに賞与・一時金の一部を不合理とした。この金額は同社の賃金体系及び比較対象者から導かれたものであり,全国共通の最低額又は最低率ではない。

3 低い割合を認めた裁判例の読み方

定年前の3割台から8割程度までの賃金差を不合理でないとした下級審裁判例も存在する。しかし,短時間化,担当業務・責任の限定,緊急対応の軽減,配置変更範囲の相違,役職離脱,年功的賃金,労使交渉,退職金及び年金等の個別事情が認定されている。これらの割合だけを取り出して,業務・責任・変更範囲が実質的に変わらない社員の賃金設計へ転用することはできない。

第5 統計・給付制度・賃金設計例の位置付け

1 6割から7割は実態値であって法的下限ではない

前記内閣府調査に加え,高年齢者等職業安定対策基本方針は,令和6年の一般労働者について,60歳から64歳までの所定内給与が55歳から59歳までを100とした場合に81.0であったこと,定年後賃金を定年前の8割以上とする企業が39.6%で,令和元年より15.1ポイント増えたことを示している。統計は,6割から7割がなお多い一方,8割以上へ移行する企業が増えていることを示すが,いずれも法律上の下限を示さない。

2 100%・90%・85%・80%という設計例

独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の雑誌『エルダー』に掲載された菊谷寛之「シニア社員のための『ジョブ型』賃金制度のつくり方」は,働き方及び人材活用の制約が定年前と全く変わらない場合を100%,再雇用であること以外は基本的に変わらない場合を90%,若干限定される場合を85%,大きく制約される場合を80%とする賃金表のモデルを示している。

この数値は,企業が職務及び働き方に応じて賃金を設計するための実務的な提案例であり,行政機関の法解釈又は裁判例の基準ではない。ただし,少なくとも,仕事も働き方も全く変わらない場合には100%から検討し,制約の程度に応じて減額理由を対応させるという設計思想は,法8条・9条の考慮要素と整合しやすい。

3 高年齢雇用継続給付の75%を賃金基準にしない

厚生労働省の高年齢雇用継続給付資料によれば,同給付は,60歳到達時等と比べて各月の賃金が75%未満に低下した状態で働く一定の者を対象とする。令和7年4月1日以後に60歳に達した者等の最大給付率は10%であり,それ以前の対象者は経過的に最大15%である。75%は給付制度の支給要件であって,使用者が賃金を75%まで引き下げてよいという基準ではない。

第6 賃金制度を点検する手順

1 比較表を待遇項目ごとに作る

使用者は,まず,定年後再雇用社員と候補となる通常の労働者について,基本給,賞与,役職手当,職務手当,精勤手当,家族手当,退職手当及び休暇等を分解し,各待遇の性質・目的,金額,決定方法及び相違理由を一覧化すべきである。その上で,実際の職務,責任,労働時間,変更範囲,評価,異動実績及び将来役割のどの相違が,各待遇の差に対応するかを確認する。

2 規程だけでなく運用資料を確認する

確認資料は,①定年前後の雇用契約書・労働条件通知書,②就業規則・賃金規程・退職金規程,③職務記述書・業務分担表・決裁権限表,④人事評価基準及び評価結果,⑤転勤・配置転換・昇進の規程と実績,⑥給与明細・賞与算定資料,⑦待遇差の説明書面及び労使協議記録である。規程上は責任を軽くしたことになっていても,実際には同じ決裁,指導及び緊急対応を担当している場合,規程だけを減額根拠とすることは難しい。

3 一律減額を止める基準

職務・責任・変更範囲の実質的な差を資料で示せず,基本給の構成要素も説明できない場合は,定年前賃金の一定割合を一律に適用する設計を進めるべきではない。まず対応する通常の労働者と同水準を基礎に検討し,減額するのであれば,消滅又は軽減した役割と削減する賃金部分を対応させる必要がある。正社員の待遇を引き下げて形式的に差をなくす場合は,労働契約法9条・10条の不利益変更の問題を別に検討しなければならない。

第7 労働者が確認すべき事項

1 説明請求より前に集める資料

労働者側では,定年前後の労働条件通知書,給与明細,賞与明細,人事評価,業務分担表,メール,日報,決裁記録,緊急対応記録及び後輩指導の記録を確保し,仕事内容と責任が継続している事実を時系列で整理することが有用である。通常の労働者の賃金資料は本人が当然に取得できるとは限らないため,まず公表済みの賃金規程,等級表及び会社から交付された説明資料を用いる。

2 待遇差の説明を求める

短時間・有期雇用労働法14条に基づく説明を求めるときは,単に「なぜ賃金が低いのか」と尋ねるだけでなく,①比較対象とした通常の労働者,②基本給の構成要素,③各待遇の性質・目的,④職務・責任・変更範囲の相違,⑤退職金・年金・給付をどの待遇の判断で考慮したのかを具体的に質問する方がよい。回答内容と実際の業務が一致しない部分が,追加調査及び交渉の中心となる。

3 個別事案では追加確認を要する

法8条違反の成否,請求できる金額,消滅時効及び手続の選択は,雇用契約の時期,対象となる待遇,適用法令,比較対象者及び証拠によって異なる。本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり,特定の個別事案に対する法的助言ではない。

第8 出典・参考資料

1 法令・指針

高年齢者等の雇用の安定等に関する法律8条・9条(e-Gov法令検索)

短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律8条・9条・14条(e-Gov法令検索)

③厚生労働省「同一労働同一賃金ガイドライン」及び「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」(平成30年厚生労働省告示第430号,令和8年厚生労働省告示第203号による改正後)PDF1頁~42頁

2 裁判例

最高裁平成30年6月1日第二小法廷判決・平成29年(受)第442号・民集72巻2号202頁(長澤運輸事件)

名古屋地裁令和2年10月28日判決・平成28年(ワ)第4165号(名古屋自動車学校事件第一審)

③名古屋高裁令和4年3月25日判決・令和2年(ネ)第769号・労判1292号23頁・LEX/DB文献番号25592145(名古屋自動車学校事件控訴審,裁判所HP未掲載)

最高裁令和5年7月20日第一小法廷判決・令和4年(受)第1293号・裁判集民事270号133頁・労判1292号5頁(名古屋自動車学校事件)

名古屋高裁令和8年2月26日判決・令和5年(ネ)第641号(名古屋自動車学校事件差戻審)

3 公的資料・統計

①内閣府「令和6年度年次経済財政報告第3章第3節 高齢者就業の現状と課題

②厚生労働省「高年齢者等職業安定対策基本方針」(令和8年厚生労働省告示第132号)

③厚生労働省「令和7年4月1日から高年齢雇用継続給付の支給率を変更します

④菊谷寛之「シニア社員のための『ジョブ型』賃金制度のつくり方」『エルダー』2023年5月号~10月号,独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(特に2023年9月号42頁~45頁,PDF17頁~20頁)

4 文献

①荒木尚志・安西愈・野川忍編集『論点体系 判例労働法2 労働契約の終了・非正規雇用 第2版』第一法規,令和6年,200頁~208頁

②森井労働法務事務所編『高齢者雇用の実務 実践Q&A』青林書院,令和7年,49頁~55頁

③竹内(奥野)寿「定年後再雇用の有期嘱託職員と無期正職員との間の基本給及び賞与の相違の不合理性の判断―名古屋自動車学校事件」『ジュリスト』1622号,令和8年,4頁~5頁