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高年齢者雇用安定法の60歳・65歳・70歳ルールと制度の沿革(AIリライト)

第1 現行法の全体像

1 この記事の対象と基準日

高年齢者雇用安定法は,正式には「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」という。
本記事では,令和8年9月3日現在の法令等に基づき,定年を定める場合の最低年齢,65歳までの雇用確保義務,70歳までの就業確保の努力義務及び高年齢雇用継続給付を整理する。

同法は,船員職業安定法上の船員には適用されない。
また,国家公務員及び地方公務員には,定年の引上げ及び継続雇用制度等を定める同法第2章などが適用されない(同法7条)。

2 60歳未満の定年は禁止される

事業主が定年を定める場合,その年齢は原則として60歳を下回ることができない(高年齢者雇用安定法8条)。
これは60歳定年を義務付ける規定ではなく,定年を定めるならば原則として60歳以上にしなければならないという最低年齢の規定である。

3 65歳までの雇用確保措置は義務である

65歳未満の定年を定めている事業主は,①定年の引上げ,②継続雇用制度の導入,③定年の廃止のいずれかを講じなければならない(同法9条1項)。
この高年齢者雇用確保措置は企業規模にかかわらない法的義務であるが,直ちに65歳定年制を採用しなければならないという意味ではない。

4 70歳までの就業確保措置は努力義務である

65歳以上70歳未満の定年を定めている事業主又は70歳未満までの継続雇用制度を導入している事業主は,65歳から70歳までの就業機会を確保するよう努めなければならない(同法10条の2)。
65歳までの措置が雇用の確保を内容とする法的義務であるのに対し,70歳までの措置は雇用以外の選択肢も含む努力義務である。

第2 65歳までの高年齢者雇用確保措置

1 三つの措置

65歳未満定年の事業主が選択できる高年齢者雇用確保措置は,①定年を65歳まで引き上げること,②65歳までの継続雇用制度を導入すること,③定年制を廃止することである。
継続雇用制度には,定年後に改めて雇用契約を締結する再雇用制度と,同一の雇用契約を定年後も存続させる勤務延長制度が含まれる。

2 希望者全員を対象とする原則と例外

継続雇用制度を選ぶ場合,原則として定年後も働くことを希望する者全員を対象にしなければならない。
平成25年4月1日の改正法施行前に労使協定で設けた対象者基準を老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢に合わせて用いることができた経過措置は,令和7年3月31日に終了した。

もっとも,心身の故障により業務に堪えない場合又は勤務状況が著しく不良で職責を果たせない場合など,就業規則に定める解雇事由又は退職事由に該当するときは,継続雇用しないことができる。
この場合も,年齢に関する事由を用いることはできず,継続雇用しないことについて客観的に合理的な理由があり,社会通念上相当であることを要する(厚生労働省「高年齢者雇用安定法Q&A」Q1-1)。

3 継続雇用先の範囲

65歳までの継続雇用制度には,自社で引き続き雇用する制度のほか,法令上の特殊関係事業主が引き続き雇用する制度も含まれる。
この仕組みを利用するには,元の事業主と特殊関係事業主との間で,定年後の雇用を約する契約を締結する必要がある(高年齢者雇用安定法9条2項)。

4 契約期間・賃金・勤務時間

継続雇用後の労働時間,賃金及び待遇は,定年前と同一でなければならないわけではなく,関係法令を守った上で労使が話し合って定めることになる。
高年齢者雇用安定法は,定年前賃金の一定割合を必ず支払うという数値基準を置いていない。
もっとも,厚生労働大臣の指針は,就業の実態及び生活の安定等を考慮し,賃金が適切なものとなるよう努めることを求めている。

1年ごとの有期労働契約を用いること自体は可能である。
しかし,65歳未満の上限年齢を置かず,65歳までは原則として更新する制度とする必要があり,更新しない場合には客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が求められる(厚生労働省「高年齢者雇用安定法Q&A」Q1-4)。

5 行政上の措置と個別契約上の効果

厚生労働大臣は,高年齢者雇用確保措置を講じない事業主に対し,指導及び助言を行い,なお違反が続くときは措置を講ずるよう勧告し,勧告に従わない事業主を公表することができる(高年齢者雇用安定法10条)。

他方,同法9条が事業主に措置を講ずる義務を課すことだけから,個々の労働者と65歳までの労働契約が当然に成立するわけではない。
厚生労働省も,雇用確保措置を欠く場合は法違反になるが,60歳定年による退職について直ちに私法上の効力を生じさせるものではないとの見解を示している(同Q&A Q1-3)。

第3 70歳までの高年齢者就業確保措置

1 五つの選択肢

70歳までの高年齢者就業確保措置には,雇用による措置として,①定年を70歳まで引き上げること,②70歳までの継続雇用制度を導入すること,③定年制を廃止することがある。
雇用以外の創業支援等措置として,④70歳まで継続的に業務委託契約等を締結する制度,⑤70歳まで継続的に社会貢献事業に従事できる制度も選択できる。

65歳以上の継続雇用先は,65歳までの場合と異なり,特殊関係事業主に限られない。
元の事業主と他の事業主との間に,定年後等の雇用を約する契約が必要である(高年齢者雇用安定法10条の2第3項)。

2 創業支援等措置の手続

業務委託又は社会貢献事業という雇用以外の措置を採用する場合,労働者の過半数で組織する労働組合又は労働者の過半数代表者の同意を得なければならない。
雇用契約と業務委託契約では労働法上の扱いが異なるため,契約の名称だけでなく,実際の指揮命令関係その他の就業実態を確認する必要がある。

第4 制度の沿革

1 60歳定年の努力義務から義務化まで

高年齢者雇用安定法は,昭和46年法律第68号として制定された中高年齢者等の雇用の促進に関する特別措置法を前身とする。
昭和61年改正により現在の題名となり,昭和61年10月1日から60歳定年が努力義務とされた。

平成6年改正により,定年を定める場合に60歳を下回ることができないという規制が設けられ,平成10年4月1日に施行された。
これにより,60歳定年は努力義務から法的な最低年齢へ移行した。

2 65歳までの雇用確保措置

平成2年改正により,定年後の再雇用が努力義務とされ,平成12年10月1日から定年の引上げ,継続雇用制度の導入等による高年齢者雇用確保措置が努力義務とされた。

平成16年改正により,平成18年4月1日から高年齢者雇用確保措置が法的義務となった。
対象年齢は厚生年金の支給開始年齢に合わせて段階的に引き上げられ,平成25年度に65歳となった。

3 希望者全員の継続雇用

平成24年改正により,継続雇用制度の対象者を労使協定の基準で限定できる仕組みは,平成25年4月1日から廃止された。
ただし,改正前の労使協定による基準には12年間の経過措置が設けられ,その経過措置が令和7年3月31日に終了したため,現在は希望者全員を対象とする原則が全面的に適用される。

4 70歳までの就業機会

令和2年改正により,令和3年4月1日から,70歳までの就業機会を確保する措置が事業主の努力義務となった。
令和8年4月1日から適用されている高年齢者等職業安定対策基本方針も,65歳までの雇用確保と70歳までの就業確保を高年齢者雇用対策の基礎としている。

第5 高年齢雇用継続給付

1 制度の対象

高年齢雇用継続給付は,高年齢者雇用安定法ではなく雇用保険法に基づく給付である。
60歳到達時等と比べて賃金が75%未満に低下した状態で働き続ける60歳以上65歳未満の一定の雇用保険一般被保険者が対象となる。

2 最大支給率

60歳に達した日又は雇用保険の被保険者期間が5年に達した日が令和7年4月1日以後である者については,各月に支払われた賃金の10%が支給率の上限となる。
その日が令和7年3月31日以前である者については,従前どおり15%が上限となる。

3 賃金自体の保障とは別の制度である

高年齢雇用継続給付は,賃金が低下した場合に雇用保険から支給される給付であり,事業主が定年前賃金の一定割合を支払わなければならないことを意味しない。
継続雇用後の賃金の適法性は,労働契約,労働協約,就業規則,短時間・有期雇用労働法その他の関係法令に照らして別途判断される。

第6 継続雇用制度と個別の労働契約

1 津田電気計器事件最高裁判決

津田電気計器事件の最高裁平成24年11月29日第一小法廷判決(平成23年(受)第1107号)は,当時の継続雇用基準を満たしていた労働者について,使用者が評価を誤って再雇用を拒否した事案である。
最高裁は,雇用継続への合理的な期待があり,雇用を終了させることが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当でないとして,就業規程に基づき再雇用されたのと同様の雇用関係が存続すると判断した。

2 判決の射程

同判決は,当時の法制度の下で,使用者が自ら設けた継続雇用基準を労働者が満たしていたという具体的事実を前提とする。
高年齢者雇用安定法9条に違反すれば常に労働契約が成立するという一般論を示したものではなく,契約上の地位の有無は,就業規則,継続雇用規程,労使協定,提示された労働条件及び更新経過等を踏まえて判断する必要がある。

第7 統計から見た企業の対応

1 令和4年就労条件総合調査

令和4年就労条件総合調査は,常用労働者30人以上の民営企業から無作為抽出した6387社を対象とする標本調査であり,有効回答は3757社であった。
同調査によれば,一律定年制を定めている企業のうち,定年年齢を60歳とする企業は72・3%,65歳とする企業は21・1%,65歳以上とする企業は24・5%であった(同調査概況12頁・第15表)。

65歳以上の24・5%は,65歳の21・1%を含む再掲値である。
したがって,これらを相互に足してはならない。

2 令和7年高年齢者雇用状況等報告

令和7年6月1日現在の高年齢者雇用状況等報告は,常時雇用する労働者が21人以上の企業23万7739社の報告に基づく。
65歳までの高年齢者雇用確保措置を実施済みの企業は99・9%であり,措置内容は継続雇用制度の導入が65・1%,定年の引上げが31・0%であった。

70歳までの高年齢者就業確保措置を実施済みの企業は34・8%であり,定年制の廃止を含む65歳以上定年企業は34・9%であった。

3 二つの統計は分母が異なる

令和4年就労条件総合調査の数値は標本調査による推計値であり,定年年齢の割合は一律定年制を定める企業を分母とする。
これに対し,令和7年高年齢者雇用状況等報告は21人以上規模の企業からの報告を集計したものであり,措置の実施状況を示す。
調査年,対象企業,分母及び調査事項が異なるため,数値を単純に時系列比較することはできない。

第8 関連記事

定年の定めがなかった会社が就業規則で定年制を新たに設け,既存の従業員にも適用できるかについては,就業規則による定年制の新設――既存の従業員に適用できるか,労働契約法10条と合理性の判断要素で整理している。

高年齢者雇用安定法の全体像とは別に,定年後再雇用の更新,勤務日数及び賃金減額をめぐる裁判例は,定年後再雇用の更新・勤務日数・賃金減額に関する裁判例で整理している。

定年後再雇用における職務内容と賃金の目安については,定年前後で業務内容が変わらない再雇用者の賃金水準を参照されたい。
諸手当を含む待遇差については,定年後再雇用と昇給・家族手当・住宅手当で扱っている。

有期契約の更新一般は有期労働契約に関するメモ書き,待遇差の考え方と令和8年10月1日からの対応は改正同一労働同一賃金ガイドラインに基づく企業対応,労使協定と労働協約の違いは労働協約に関するメモ書きを参照されたい。

第9 出典・参考資料

1 法令

e-Gov法令検索・高年齢者等の雇用の安定等に関する法律
e-Gov法令検索・雇用保険法

2 裁判例

最高裁平成24年11月29日第一小法廷判決・平成23年(受)第1107号

3 法定指針・基本方針

高年齢者雇用確保措置の実施及び運用に関する指針(令和7年厚生労働省告示第84号)
高年齢者就業確保措置の実施及び運用に関する指針(令和2年厚生労働省告示第351号)
高年齢者等職業安定対策基本方針(令和8年厚生労働省告示第132号)

4 行政資料

厚生労働省・高年齢者雇用安定法Q&A(高年齢者雇用確保措置関係)
厚生労働省・高年齢者雇用安定法の改正―70歳までの就業機会確保
厚生労働省・高年齢者雇用安定法の主な改正内容
厚生労働省・令和7年4月1日から高年齢雇用継続給付の支給率を変更します

5 統計

厚生労働省・令和4年就労条件総合調査の概況
厚生労働省・令和7年「高年齢者雇用状況等報告」の集計結果