メインコンテンツへスキップ

刑事・恩赦

量刑相場に従う必要はあるのか―裁判員裁判と量刑分布グラフ(AI作成)

目次

第1 量刑相場は参考となるが刑期を自動的に決めるものではない第2 最高裁平成26年7月24日判決で問題となった量刑第3 最高裁は過去の量刑傾向をどのように位置付けたか第4 量刑分布グラフは何を示しているのか第5 統計表・検索結果・教材の架空例を区別する第6 求刑を超えたことだけが問題だったのか第7 裁判員の意見と裁判官の専門性をどう考えるか第8 出典
第1 量刑相場は参考となるが刑期を自動的に決めるものではない

刑事裁判の量刑相場とは,同じような犯罪について,これまでどの程度の刑が言い渡されてきたかという傾向を指して用いられる言葉である。
過去の裁判例を集めただけで,それが直ちに法律上の基準になるわけではない。
一方,裁判ごとの公平性を保つためには,従来の量刑傾向を視野に入れ,当該事件の事情をどのように評価して刑を決めたかを説明することが重要となる。

裁判員裁判についても,過去の刑期に機械的に合わせるという理解と,市民の判断だから過去の傾向を考慮しなくてよいという理解は,いずれも適切でない。
最高裁平成26年7月24日第一小法廷判決は,おおまかな量刑傾向を裁判体の共通認識・評議の出発点とすることを求め,従来の傾向から踏み出す判断についても検討している。
以下では,この判決原文と司法研修所の公開教材を基に,量刑分布グラフの意味と限界を説明する。

第2 最高裁平成26年7月24日判決で問題となった量刑

この判決は,平成25年(あ)第689号の傷害致死被告事件について,第一小法廷がした判決である。
第1審は,被告人2人に対するそれぞれ懲役10年の求刑に対し,それぞれ懲役15年を言い渡し,控訴審はこれを維持した。
最高裁は両判決を破棄し,被告人Aを懲役10年,被告人Bを懲役8年とした。

裁判の段階等被告人A被告人B検察官の求刑懲役10年懲役10年第1審の判決懲役15年懲役15年最高裁が言い渡した刑懲役10年懲役8年

ここに示す刑名と刑期は,当時の事件におけるものである。
特定の犯罪について現在も同じ刑期になるという意味の量刑一覧ではない。
事案と各審の判断は,最高裁判決原文の1頁~3頁,結論は1頁で確認できる。

第3 最高裁は過去の量刑傾向をどのように位置付けたか

最高裁は,裁判例の集積自体が直ちに法規範性を帯びるものではないとしつつ,量刑の目安となる意義を認めた。
量刑要素を客観的に適切に評価し,結果が公平性を損なわないことが必要であり,従来の量刑傾向を視野に入れることは,判断過程が適切であったことを担保する重要な要素となる,という説明である。

裁判員制度が国民の視点を取り入れる制度である以上,制度導入前の先例の集積に変化が生じ得ることは想定されている。
このため,導入前の量刑傾向を厳密に調査・分析したり,それに従ったりすることまで求められているわけではない。
しかし,他の裁判との公平性を保つ必要はあり,おおまかな傾向を共通認識としたうえで,当該事件にふさわしい評議を深めることが求められる。

この事件では,最高裁は,第1審の情状に関する評価が誤りであるとまではしていない。
それでも,従来の量刑傾向から踏み出す量刑をするための具体的・説得的な根拠の示し方や,実際に選択された刑の重さを問題とした。
情状の存在や評価と,それを最終的な刑期へ結び付ける説明を,分けて読む必要がある。
以上は判決原文3頁~6頁による。

第4 量刑分布グラフは何を示しているのか

司法研修所刑事裁判教官室の公開教材「プラクティス刑事裁判」(平成30年9月版)は,量刑検索システムについて,検索条件に応じた同種事例のおおまかな量刑傾向を視覚的に示すものとして説明している。
グラフは比較のための資料であり,棒の高さだけで当該事件の刑が決まるわけではない。

グラフを読むときには,どのような条件で事例が集められたのかを先に確認する必要がある。

(続きを読む...)量刑相場に従う必要はあるのか―裁判員裁判と量刑分布グラフ(AI作成)

裁判員を辞退できる事情と質問票の書き方―仕事・育児・介護・病気(AI作成)

目次

第1 裁判員の辞退は事情を伝えて裁判所の判断を受ける手続である第2 名簿記載通知の調査票と具体的な事件の質問票を区別する第3 仕事を理由に辞退を希望するときに整理する事情第4 育児・介護・病気を理由に辞退を希望するとき第5 質問票を書く前に日程・支障・代替可能性を分けて整理する第6 診断書などの資料が必要か第7 辞退を申し出た後と急な事情変更への対応第8 関連する制度と出典
第1 裁判員の辞退は事情を伝えて裁判所の判断を受ける手続である

裁判員候補者として通知を受けても,理由なく自由に辞退できるわけではない。
一方,仕事,育児,介護,病気などの事情によって,辞退が認められる場合がある。
大切なのは,「忙しい」「参加できない」とだけ書くのではなく,どのような支障が生じるのか(質問票では,知らされた裁判日程との関係)を,届いた調査票・質問票の案内に沿って具体的に伝えることである。

辞退を希望する旨を書いたことと,裁判所が辞退を認めたことは別である。
既に選任手続期日の知らせを受けている場合には,質問票を返送しただけで出席が不要になったと自己判断せず,裁判所からの連絡を確認する必要がある。
本記事は令和8年11月1日に確認した裁判所の公開案内に基づき,事情の整理方法を説明するものである。

第2 名簿記載通知の調査票と具体的な事件の質問票を区別する

裁判員候補者名簿に記載された旨の通知は,その時点で特定の裁判に出席することが決まったという知らせではない。
この段階の調査票と,具体的な事件の裁判員候補者となった後の質問票は,確認する時期と内容が異なる。

書類・段階整理する内容注意点名簿記載通知と調査票裁判員になれない職業や,年間を通じた辞退希望など,調査票が尋ねている事情通知だけで特定の裁判への参加が決まるわけではない具体的な事件の質問票知らされた選任手続期日・裁判日程を前提とする辞退事由などその日程と支障の関係を具体的に記載する選任手続当日辞退事由等についての裁判所からの質問への回答事前に申し出なかった事情も,必要があれば伝える

調査票の段階で辞退を希望しなかった場合でも,その後の質問票や選任手続で辞退を申し出ることはできる。
事情が変化した場合も,以前の回答をそのままにせず,届いた書類に記載された裁判所へ相談することが重要である。
詳しい流れは裁判所の「裁判員の選ばれ方」と「裁判員制度Q&A」2-2・3-2で確認できる。

第3 仕事を理由に辞退を希望するときに整理する事情

仕事が忙しいという事情だけで,直ちに辞退できるわけではない。
重要な仕事があり,自分で処理しなければ事業に著しい損害が生じるおそれがある場合などについて,裁判所が具体的な事情を踏まえて判断する。
自営業者であることや繁忙期であることだけで,結論が自動的に決まるものでもない。

裁判所のQ&Aは,参加する期間,事業所の規模,担当職務の代替性,仕事の日時を変更できる可能性,事業への影響を,判断の観点として挙げている。
これを踏まえると,次のように事実を分けて整理すると伝わりやすい。

①裁判の日程と重なる仕事は何か,それをいつ,どこで行う必要があるのか。
②その仕事について,本人が担当しなければならない理由は何か。
③代わりの人に依頼したり,日時を変更したりできるか,できない場合は具体的に何が妨げとなるか。
④本人が不在になると,事業にどのような影響が生じるのか。

この整理は,辞退が認められることを保証する文例ではない。
実際の事情を正確に伝えるためのものであり,裁判所の判断に合わせて架空の損害や代替不能の事情を書き加えるものではない。
根拠となる案内は裁判所「裁判員制度Q&A」3-3「仕事を理由とする辞退」である。

第4 育児・介護・病気を理由に辞退を希望するとき

育児や介護については,子どもや要介護の親族等がいることだけでなく,必要な世話の内容,裁判の日程中に本人が行う必要性,代わりに対応できる人の有無などを具体的に伝える。

(続きを読む...)裁判員を辞退できる事情と質問票の書き方―仕事・育児・介護・病気(AI作成)

梅澤利昭裁判官の判決―弥富市の入札情報漏えい事件(AI作成)

目次

第1 判決の概要と一次資料第2 どのような入札情報が漏えいしたのか第3 量刑で重視された不利な事情第4 執行猶予が付された理由第5 公表された判決から分かる範囲第6 出典及び関連記事
第1 判決の概要と一次資料

名古屋地方裁判所刑事第3部の令和8年6月23日判決(令和8年(わ)第400号)は,弥富市が発注した公共工事の入札情報を,業者団体の会長を介して業者側へ漏らした事案について,被告人を懲役2年に処し,この裁判が確定した日から3年間,その刑の執行を猶予するとした。
判決末尾には,裁判官として梅澤利昭の氏名が記載されている。

裁判所が公開している判決全文は2頁であり,認定事実と量刑理由を読むことができる。
本記事は,その記載に基づき,どの情報が教示され,どの事情が量刑で考慮されたのかを整理する。

◯本記事は,人工知能が作成したものである。

第2 どのような入札情報が漏えいしたのか

被告人は,弥富市の建設部長として,一般競争入札の入札参加資格の審査や,指名競争入札の指名業者の審査などに従事していた。
対象となったのは,弥富まちなか交流館リニューアル工事の一般競争入札を含む3件の公共工事の入札である。

判決が認定したのは,被告人が団体の会長らと共謀の上,入札に関する秘密情報を会長に電話で教示し,会長が業者側に伝達し,業者側に予定価格に近似した金額で入札させて工事を落札させたという事実である。
情報には,予定価格と同額となる設計金額又はこれに近似した金額と,入札参加業者又は指名業者が含まれていた。
判決は,これをもって,入札等に関する秘密を教示するとともに,偽計を用いて,公の入札等で契約を締結するためのものの公正を害すべき行為を行ったとしている。
裁判所の書誌に記載された事件名は,入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律違反,公契約関係競売入札妨害である。

判決によれば,情報を受けた会長は,地元の建設業者らで構成される団体の長として,同市発注の建築工事案件に関する受注調整等を行っていた者である。
教示は令和7年5月14日で,各入札は同月20日から同年6月3日までの間に執行されたと認定されている。

第3 量刑で重視された不利な事情

判決は,被告人が建設部長として入札の公正を守るべき立場にありながら,地元の建設業者らで構成される団体からの求めに応じて秘密情報を入札前に教えた点を,職務に反した悪質な犯行としている。
3件の入札では,情報を入手した建設業者側が予定価格に非常に近接する価格で落札しており,そのうち弥富まちなか交流館リニューアル工事の予定価格は6億円を超えていた。

動機についても,良好な関係を築いていた建設業者側に一定の利益を確保させたい,入札が不調になって上司からの評価が下がることを避けたいというものであり,酌むべき点はないとされた。
長年にわたり市発注の入札に関する秘匿性の高い情報を漏らし続ける中で本件犯行に及んだことについても,その意思決定は厳しい非難に値するとされている。

判決は,落札価格の近接と工事の規模から入札の公正が害された程度は大きいとし,動機や意思決定の点も併せて,本件の犯情は悪く,被告人の刑事責任を軽視することはできないとした。

第4 執行猶予が付された理由

判決は,不利な事情と併せて,被告人が事実を全面的に認めていることや,市と市民の信頼を損ねたことについて反省の態度を示していることも考慮している。
前科がないことと,自業自得とはいえ相応の社会的制裁を受けたことなども挙げ,刑の執行を猶予するのが相当であるとした。

主文の執行猶予期間は,この裁判が確定した日から3年間である。
判決の言渡し日を起算点とする記載ではないため,判決日と主文に記載された起算点を区別して読む必要がある。

第5 公表された判決から分かる範囲

公開PDFでは,証拠の標目と法令の適用が省略されている。
そのため,公表された2頁を読むだけで,全ての証拠の内容や法令適用の詳細まで確認できるわけではない。

(続きを読む...)梅澤利昭裁判官の判決―弥富市の入札情報漏えい事件(AI作成)

セルフレジの精算漏れは犯罪になるか―店舗の対応,合理的配慮及び防犯カメラの注意点(AI作成)

目次

第1 セルフレジで分けて考える問題第2 精算忘れと窃盗罪の故意1 未精算という結果だけで犯罪は決まらない2 法律を知らなかった場合との違い第3 意図的な不正精算では行為と仕組みを確認する第4 不足した代金と払い過ぎた金額の精算1 売買契約の内容を確認する2 不当利得の返還が問題となる場合第5 店舗が精算漏れを疑ったときの対応1 記録を照合し,事情を確認する2 私人による現行犯逮捕と引渡し3 誤認や過剰な対応による損害賠償第6 障害のある利用者への合理的配慮第7 防犯カメラと顔識別データの運用1 従来型カメラと顔識別機能を区別する2 保存期間と安全管理3 他店との共同利用と登録基準第8 関連記事と出典1 関連記事2 法令と公的機関の資料
第1 セルフレジで分けて考える問題

セルフレジで商品を登録し忘れた場合には,商品を持ち出したという事実と,未精算と知りながら持ち出したのかという問題を分けて考える必要がある。
また,刑事責任の有無と,不足した代金や払い過ぎた金額をどう精算するかという民事の問題も別である。

本記事は,令和8年10月27日を基準に,日本の法律と公的機関の資料に基づき,商品の精算漏れ,不正精算,店舗の対応,合理的配慮及び防犯カメラの運用を整理する。
個別の店舗の仕組みや利用者の行動によって判断が変わるため,レシート,操作記録,映像等の具体的な資料を確認することが大切である。

第2 精算忘れと窃盗罪の故意
1 未精算という結果だけで犯罪は決まらない

刑法235条は,他人の財物を窃取した者について,10年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金を定めている。
他方,同法38条1項は,罪を犯す意思がない行為は,法律に特別の規定がある場合を除き,罰しないとしており,235条には不注意による窃盗を処罰する規定はない。

したがって,実際に精算を忘れ,未精算であることを認識しないまま商品を持ち出した場合と,未精算と知りながら持ち出した場合は区別する必要がある。
商品がレジに登録されていないという結果だけで,窃盗罪の成立が当然に決まるわけではない。

もっとも,「忘れていた」と説明しただけで故意が否定されると決まるものでもない。
商品の登録状況や一連の操作,店員とのやり取り,持ち出し前後の行動等を,記録と照らして確認する必要がある。

2 法律を知らなかった場合との違い

刑法38条3項は,法律を知らなかったとしても,そのことによって罪を犯す意思がなかったとすることはできないと定めている。
「未精算だとは気付かなかった」という事実の認識の問題と,「この行為が犯罪になるとは知らなかった」という説明は,同じではない。

第3 意図的な不正精算では行為と仕組みを確認する

セルフレジを利用した不正行為であっても,窃盗,詐欺,電子計算機使用詐欺のどれに当たるかを,機械を操作したという一点だけで決めることはできない。
店員を欺いたのか,商品の交付や占有の移転がどのように行われたのか,機械に入力した情報によってどのような記録が作られたのかを分けて検討する必要がある。

刑法246条1項は,人を欺いて財物を交付させる行為を,同条2項は同じ方法で財産上不法の利益を得る行為等を処罰する。
同法246条の2は,電子計算機に虚偽の情報や不正な指令を与えて財産権の得喪・変更に係る不実の電磁的記録を作るなどし,財産上不法の利益を得る行為等を処罰する規定である。

例えば,別の商品のバーコードを読み取らせたという事情があっても,それだけで電子計算機使用詐欺罪の全ての要件を満たすと断定することはできない。
実際の決済や債権処理の仕組み,店員の関与,商品の持出しの状況を確認し,各罪の要件に当てはめることになる。

他人名義のクレジットカードを利用した場合の問題は,家族や交際相手のクレジットカードを使うと犯罪になるか―名義人の承諾と詐欺罪,承諾の範囲を超えた利用及び名義人の支払責任を参照されたい。

第4 不足した代金と払い過ぎた金額の精算
1 売買契約の内容を確認する

民法522条1項は,契約の申込みに対して相手方が承諾をしたときに契約が成立すると定め,同法555条は,財産権を移転する約束と,これに対して代金を支払う約束によって売買が効力を生ずるとしている。
セルフレジについても,どの商品を,いくらで売買する合意がされたのかを確認する必要がある。

どの画面操作の時点で契約が成立するかを,全ての店舗について一律に決めることはできない。

(続きを読む...)セルフレジの精算漏れは犯罪になるか―店舗の対応,合理的配慮及び防犯カメラの注意点(AI作成)

大野病院事件の無罪判決と医療行為の刑事責任―医学的準則の一般性,医師法21条の異状及び立件送致の推移(AI作成)

目次

第1 本記事の対象と結論1 対象と資料2 結論の要旨第2 事件の経過と起訴1 判決が認定した経過2 公訴事実と求刑第3 業務上過失致死についての判断1 予見可能性と結果回避可能性は認めた2 医学的準則は一般性又は通有性を要する3 中止義務を立証するために必要とされた事項4 鑑定と証言の評価第4 医師法21条についての判断1 判決の解釈2 最高裁平成16年判決との関係3 平成31年の通知と質疑応答集第5 事件の後の数字1 警察への届出と立件送致2 起訴件数の全国統計は確認できない3 産婦人科医の数と新規の入会者第6 事件の後の制度1 産科医療補償制度2 死因究明の検討と大綱案3 医療事故調査制度第7 実務での使い方1 病院・医師から相談を受けたとき2 患者・遺族から相談を受けたとき第8 関連記事第9 出典1 裁判例2 法令3 国会会議録4 行政資料・統計
第1 本記事の対象と結論
1 対象と資料

本記事は,福島県立大野病院で帝王切開の手術中に患者が死亡し,執刀した産婦人科医が業務上過失致死と医師法違反で起訴された事件(以下「大野病院事件」という。)を扱う。
判決は,福島地裁平成20年8月20日判決(平成18年(わ)第41号,判例秘書の判例番号 L06350366)であり,裁判所HPには掲載されていないため,判例秘書で判決の本文を確認した。
判決書の末尾には「平成20年9月17日」の日付があるが,本記事では判例秘書の書誌の判決日付(平成20年8月20日)によった。
事件の前後の数字と制度は,警察庁の集計を載せた厚生労働省の検討部会の資料,国会会議録,厚生労働省の統計及びe-Gov法令検索の条文で確認した。
本記事の基準日は令和8年10月25日である。

2 結論の要旨

①判決は,癒着胎盤と認識した後も胎盤の剥離を続けた医師について,大量出血の予見可能性と結果回避可能性を認めながら,剥離を中止すべき注意義務の証明がないとして,業務上過失致死を無罪とした。
②その理由として,刑罰を科す基準となる医学的準則は,その科目の臨床に携わる医師が当該場面に直面した場合に,ほとんどの者がその基準に従った医療措置を講じているといえる程度の一般性又は通有性を備えたものでなければならないとした。
③医師法21条の「異状」については,法医学的にみて普通と異なる状態で死亡していると認められる状態をいい,診療中の患者が診療を受けている当該疾病によって死亡したような場合は異状の要件を欠くとしたうえ,本件の死亡は過失のない診療行為をもってしても避けられなかった結果であるとして,医師法違反も無罪とした。
④警察庁の集計では,平成9年から平成23年までの間,医療事故の立件送致数は平成18年の98件が最も多く,平成23年は54件であった。
もっとも,医療事故について検察庁が公判請求をした件数の全国統計は,平成19年の国会答弁で「ございません」とされ,医療事故に限った全国の起訴件数を公表した資料も本記事の作成時に確認できなかったので,事件の後に起訴が減ったことを公的な統計で確かめることはできない。
⑤事件の後,産科医療補償制度が始まり,医療事故調査制度も設けられたが,医師法21条の文言は,平成20年の大綱案が掲げた当時の条文と現行の条文とで変わっていない。

第2 事件の経過と起訴
1 判決が認定した経過

判決によれば,患者は帝王切開の手術歴が1回ある全前置胎盤の妊婦であり,平成16年12月17日,同病院の産婦人科の一人医長であった医師の執刀で帝王切開を受けた。
児の娩出後,臍帯を牽引しても胎盤が剥離しなかったため,医師は手で胎盤を剥がし始め,途中からクーパー(手術用の鋏)も使って剥離を終えた。
胎盤の剥離中から出血が増え,医師は輸血の到着を待って子宮を摘出したが,患者は同日午後7時1分に死亡し,手術全体の総出血量(羊水を含む量)は2万0445mlであった。

判決は,同病院の安全管理マニュアルでは,医療過誤による死亡若しくは障害の発生又はその疑いがあるときは病院長が警察署へ届け出ることとされていたこと,病院長は医療準則に反する行為はなかったと判断して届出をしなかったこと,医師はこのマニュアルの定めを知らず,自ら届出もしなかったことを認定している。

2 公訴事実と求刑

公訴事実の第1(業務上過失致死)は,胎盤が子宮に癒着していると認識した時点で,直ちに剥離を中止して子宮摘出手術等に移行すべき注意義務があるのに,クーパーを用いて漫然と剥離を続けた過失により,大量出血させて失血死させたというものである。
公訴事実の第2(医師法違反)は,死体を検案して異状があると認めたのに,24時間以内に所轄警察署へ届け出なかったというものである。
求刑は禁錮1年及び罰金10万円であった。

医師は平成18年に逮捕され,同年3月10日に公判請求された。
平成18年3月17日の衆議院厚生労働委員会で,法務省刑事局長は「福島地検は、本年三月十日、福島県立大野病院の医師一名を業務上過失致死及び医師法違反により福島地裁に公判請求したものと承知をしております。」と答弁している。
このように,起訴されたのは業務上過失致死だけでなく,医師法21条の届出義務違反を含んでいた。

第3 業務上過失致死についての判断
1 予見可能性と結果回避可能性は認めた

(続きを読む...)大野病院事件の無罪判決と医療行為の刑事責任―医学的準則の一般性,医師法21条の異状及び立件送致の推移(AI作成)

受刑者の丸刈りと髪型の自己決定権―東京弁護士会の令和8年1月勧告を読む(AI作成)

目次

第1 東京弁護士会は何を勧告したか第2 申立人の説明と弁護士会の認定を分ける第3 法律は丸刈りを直接定めているのか第4 髪型の自己決定権と性別による区別第5 勧告から分かることと分からないこと第6 調髪について相談するときの資料第7 資料と参照箇所
第1 東京弁護士会は何を勧告したか

東京弁護士会は,令和8年1月26日,受刑者の意思に反する丸刈りの調髪について,東京拘置所長宛てに人権救済の勧告をした。対象事件は令和3年東人権第10号であり,勧告書の発信番号は「東弁2025人権第565号」である。事件番号と発信番号は異なる。東京弁護士会の公表一覧は翌27日付けで掲載している。

勧告の内容は,髪型の基準について性別による区別をなくし,受刑者の性別を問わず適用される合理的な基準へ改めることを,法務大臣に上申するよう求めるものである。東京弁護士会自身が訓令を改正したという意味ではない。勧告書1頁

本記事は,この勧告の対象と理由を公表原文に沿って整理する。勧告後に全国の施設の運用が変わったかという問題とは分けて読む必要がある。

第2 申立人の説明と弁護士会の認定を分ける

勧告書には,令和3年3月26日に職員5名から拒絶に反してバリカンで頭髪を刈られたという申立人の説明が記載されている。他方,施設の回答は,調髪の実施を認めつつ,その他の事情については関連記録がなく回答できないというものであった。

東京弁護士会は,申立てと双方の回答を踏まえ,意思に反する調髪が行われたと認定した。「申立人が述べた具体的な行為態様」と「調査を経て弁護士会が認定した事実」を同じものとして引用しないことが重要である。裁判所がこれらの事実を認定した判決として紹介することもできない。勧告書1~2頁

第3 法律は丸刈りを直接定めているのか

刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律60条1項は,受刑者の調髪とひげそりについて法務省令に委ねている。同条の条文自体が,頭髪を何センチメートルにするかを定めているわけではない。

同条2項は,自費による調髪を希望する受刑者について,刑事施設の長が処遇上適当と認める場合に許すことができるとする。希望を申し出れば当然に許可されるという条文ではない。また,3項は受刑者以外の被収容者の申出を別に規定している。受刑者についての勧告を,未決拘禁者等を含む全ての被収容者にそのまま当てはめることは避けるべきである。

勧告書3~5頁は,法律,法務省令及び法務大臣の訓令を順に示し,男性受刑者の髪型の基準と例外を検討している。そこで問題とされたのは,調髪一般の必要性だけでなく,男性の髪型を原則としてごく短い形に限る基準の合理性である。勧告書が引用する規則・訓令は勧告当時の制度説明として読む必要があり,その引用だけから現在の改正状況を判断することはできない。勧告書3~5頁

第4 髪型の自己決定権と性別による区別

東京弁護士会は,髪型が自尊心や美的意識と結び付くことを指摘し,髪型を決める自由を憲法13条の自己決定権として捉えた。その上で,受刑者についても,矯正処遇の目的に反しない限り保障されると述べている。

勧告は,男性に対する短い髪型の強制が施設管理や矯正処遇のために必要かを問い,女性に一定の髪型の自由が認められていることも比較材料にしている。以上は東京弁護士会の法的評価であり,同じ内容の裁判所の判示が示されたものではない。勧告書5~6頁

この区別を保つと,検討する問いも明確になる。施設側が挙げる衛生・安全上の理由は何か。その理由は本人の希望する髪型にも当てはまるか。より制限の小さい方法で目的を達成できるか。性別による一律の区別を維持する根拠は何か。これらを分けて確かめることが,勧告の問題提起を具体的な処遇の検討につなげる方法となる。

第5 勧告から分かることと分からないこと

この公表資料から分かるのは,東京弁護士会が調査を経て人権侵害と評価し,基準の見直しを上申するよう求めたことである。勧告書の公表をもって,損害賠償を命じる判決が出た,訓令が改正された,又は全ての調髪が違法と確定したと説明することはできない。

また,勧告書2~3頁が紹介する令和2年1月16日の不服審査の議事要旨は,本件の令和3年3月の調髪より前の別事案である。その議事要旨に記載された結論や委員の意見を,本件についての行政判断と取り違えないようにする。

記事,見出し又は要約を読む際も,「誰の判断か」「どの事案か」「何を求めたか」「その後に何が実施されたか」を別々に確認すると,勧告の意義を過大にも過小にも捉えずに済む。

第6 調髪について相談するときの資料

具体的な相談では,少なくとも次の事項を記録しておくと,事実関係と制度の問題を分けて説明しやすい。

1 施設名,調髪の日,刑の執行状況及び本人が希望した髪型。

2 希望や拒否を伝えた日時・方法と,施設から説明された理由。

3 実施された調髪の内容,身体への働き掛けの有無及びその記録。

4 自費による調髪の申出の有無,申出書,回答書及び回答日。

5 根拠として示された規則・訓令・施設内の基準の名称と適用時点。

これは資料整理のための提案であり,特定の救済手続の法定書式や成立要件を示すものではない。人権救済の申立て,施設内外の不服申立て及び訴訟では,求める結果も確認すべき要件も異なる。まず事実の記録を保ち,利用する手続ごとに対象,期限及び必要資料を確認することになる。

第7 資料と参照箇所

- 東京弁護士会「人権救済申立事件の公表(2025年度)」:事件の同定と掲載日。

(続きを読む...)受刑者の丸刈りと髪型の自己決定権―東京弁護士会の令和8年1月勧告を読む(AI作成)

東名高速あおり運転事件の控訴審判決と裁判員法6条―公判前整理手続での見解表明,差戻し後の懲役18年及び上告棄却(AI作成)

目次

第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 事案と審級の経過1 公訴事実の要旨2 審級の経過第3 危険運転致死傷罪の成否についての判断1 自車を停止させた行為は危険運転行為に当たらない2 妨害運転と死傷結果との因果関係第4 控訴審が第1審判決を破棄した理由1 公判前整理手続での見解表明の経過2 法令の解釈と法令の適用の区別(裁判員法6条)3 見解の変更と不意打ち4 破棄と差戻し第5 差戻し後の審理と上告棄却1 差戻し後の第1審2 差戻し後の控訴審3 上告棄却第6 その後の法改正第7 実務上の意味1 公判前整理手続で裁判所の見解が示されたとき2 見解が変わったときの手当て3 差戻し後の審理第8 よくある質問1 東京高裁は被告人を無罪にしたのか2 なぜ懲役18年の判決が破棄されたのか3 現在の法律では前方での停止も処罰されるのか第9 関連記事第10 出典・参考資料1 裁判例2 法令3 報道・その他
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,平成29年6月5日に東名高速道路で起きたあおり運転による死傷事件(以下「東名事件」という。)の刑事裁判について,東京高裁令和元年12月6日判決(平成31年(う)第201号)を中心に,第1審から最高裁の上告棄却までの経過を整理するものである。
第1審,控訴審及び差戻し後の控訴審の各判決は裁判所HPの判決全文で確認し,差戻し後の第1審判決は判例秘書と差戻し後の控訴審判決の記載で確認した。
最高裁の上告棄却は,報道で確認したものである。
基準日は令和8年10月25日であり,被告人と被害者の氏名は記載しない。

2 結論

横浜地裁の裁判員裁判は危険運転致死傷罪の成立を認め,被告人を懲役18年とした。
東京高裁令和元年12月6日判決は,危険運転致死傷罪の成立を認めた第1審の法令適用に誤りはないとしつつ,第1審の裁判所が公判前整理手続で構成裁判官だけの合議により危険運転致死傷罪は成立しないとの見解を示し,その後に見解を変更して有罪としたことを,裁判員法6条に違反し,被告人に不意打ちを与える訴訟手続の法令違反であるとして,第1審判決を破棄し,横浜地裁に差し戻した。
差戻し後の横浜地裁も懲役18年とし,東京高裁は被告人の控訴を棄却した。
報道によれば,最高裁は令和8年1月19日付で上告を棄却する決定をし,懲役18年とした差戻し後の判決が確定することとなった。

第2 事案と審級の経過
1 公訴事実の要旨

東京高裁令和元年12月6日判決によれば,危険運転致死傷の公訴事実の要旨は,次のとおりである。
被告人は,東名高速道路のパーキングエリアで駐車方法を非難されたことに憤慨し,被害車両を停止させようと考えた。
そして,被害車両の通行を妨害する目的で,時速約100kmで被害車両を追い越してその直前の車両通行帯に車線変更し,減速して著しく接近させ,同様の接近行為を更に2回繰り返した。
最後は時速約63kmで被害車両の直前に車線変更して減速・接近した上,自車を停止させ,被害車両を停止させることを余儀なくさせた。
その約2分後,後方から進行してきた大型貨物自動車が被害車両に追突し,被害車両に乗っていた2人が死亡し,その子ら2人が負傷した。

被告人は,停止後に高速道路上で被害者の胸ぐらをつかむなどした暴行のほか,別の機会の強要未遂2件と器物損壊1件でも起訴されていた。

2 審級の経過
審級裁判結論第1審横浜地裁平成30年12月14日判決(平成29年(わ)第1680号)懲役18年(求刑懲役23年)控訴審東京高裁令和元年12月6日判決(平成31年(う)第201号)第1審判決を破棄し,横浜地裁に差戻し差戻し後の第1審横浜地裁令和4年6月6日判決(令和2年(わ)第1号)懲役18年(求刑懲役18年)差戻し後の控訴審東京高裁令和6年2月26日判決(令和4年(う)第1046号)控訴棄却上告審最高裁第一小法廷令和8年1月19日決定(報道による)上告棄却

第1審と差戻し後の第1審は,いずれも裁判員裁判である。
控訴審判決は東京高裁第10刑事部の判決であり,判決書の署名欄によれば,裁判長は朝山芳史裁判官である。
差戻し後の控訴審判決は,判決書によれば,東京高裁第3刑事部の判決である。

第3 危険運転致死傷罪の成否についての判断
1 自車を停止させた行為は危険運転行為に当たらない

事件当時の自動車運転処罰法2条4号は,「人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為」を危険運転行為としていた。
第1審は,被告人の一連の妨害運転は実行行為に当たるが,被害車両の直前で自車を停止させた行為(以下「直前停止行為」という。)は実行行為に含まれないとした。
東京高裁も,速度が零となる直前停止行為が類型的に速度の要件に当たらないことは,立法趣旨と法文の文理に照らして明らかであり,高速道路上で行われた場合でも異ならないとして,この判断を是認した。

(続きを読む...)東名高速あおり運転事件の控訴審判決と裁判員法6条―公判前整理手続での見解表明,差戻し後の懲役18年及び上告棄却(AI作成)

乳腺外科医事件の最高裁令和4年2月18日判決―せん妄の見解,DNA定量検査の信頼性と差戻し後の無罪(AI作成)

目次

第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 事案と審級の経過1 最高裁判決が示す事実関係2 審級の経過第3 第1審と控訴審の判断の分かれ目1 第1審判決(無罪)2 控訴審の審理3 控訴審判決(懲役2年)第4 最高裁はなぜ控訴審判決を破棄したのか1 上告理由と職権調査2 せん妄に関する見解3 DNA定量検査の信頼性4 審理不尽による破棄と差戻し第5 差戻し後の控訴審判決1 判決の内容2 判決の確定第6 実務上の意味1 控訴審で事実取調べ請求を全部却下されたとき2 専門家の見解が一般的なものかを争う3 DNA型鑑定は型の一致と付着の量・経路を分けて検討する4 無罪が確定した場合の補償第7 医療界の反応第8 よくある質問1 最高裁は無罪を言い渡したのか2 最高裁はDNA型鑑定を信用できないとしたのか3 控訴審判決をした裁判体はどこか第9 関連記事第10 出典・参考資料1 裁判例2 法令3 その他の資料
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,手術後の女性患者に対する準強制わいせつ罪で起訴された乳腺外科医の刑事事件(以下「乳腺外科医事件」という。)について,最高裁令和4年2月18日判決(令和2年(あ)第1026号)を中心に,第1審から差戻し後の控訴審までの経過を整理するものである。
最高裁判決は裁判所HPの判決全文で確認し,第1審判決は判例秘書の書誌で,控訴審及び差戻し後の控訴審の各判決は判例秘書の書誌,判示事項及び本文の一部(主文,署名欄等)で確認した。
基準日は令和8年10月25日である。
被害を訴えた女性と被告人の氏名は記載しない。

2 結論

第1審の東京地裁は無罪とし,控訴審の東京高裁は第1審判決を事実誤認を理由に破棄して懲役2年の実刑とした。
最高裁は,弁護人の上告趣意は刑訴法405条の上告理由に当たらないとしつつ,職権で,控訴審判決には審理不尽の違法があるとして破棄し,事件を東京高裁に差し戻した。
最高裁は,控訴審のせん妄に関する判断は医学的に一般的とはいえない疑いのある医師の見解に依拠したもので,第1審判決の判断の不合理性を適切に指摘していないとした。
その上で,Aの証言の信用性を支え得るDNA定量検査の結果の信頼性に不明確な部分が残るのに,その点に関する当事者の事実取調べ請求を全て却下して審理を尽くさなかったことを,審理不尽の違法とした。
差戻し後の東京高裁令和7年3月12日判決は検察官の控訴を棄却し,第1審の無罪判決が維持された。

第2 事案と審級の経過
1 最高裁判決が示す事実関係

最高裁判決によれば,被告人は,自身が執刀した右乳腺腫瘍摘出手術の患者である女性(以下「A」という。)に対し,平成28年5月10日午後2時55分頃から午後3時12分頃までの間,病室のベッド上で,着衣をめくって左乳房を露出させた上,左乳首をなめるなどしたとして,準強制わいせつ罪で起訴された。
手術は全身麻酔の下で午後2時から午後2時32分まで行われ,麻酔は午後2時42分に終了した。
Aは,午後3時12分頃から午後3時22分頃にかけて,スマートフォンで上司に被害を訴えるメッセージを送信した。
通報を受けて臨場した警察官は,午後5時37分頃,Aの左乳首付近を蒸留水で湿らせたガーゼで拭き取った。

警視庁科学捜査研究所(以下「科捜研」という。)は,このガーゼを用いてアミラーゼ鑑定とDNA型鑑定を行った。
アミラーゼ鑑定は検査開始から1時間後に陽性を示し,DNA型鑑定で検出された男性1人分のDNA型は被告人のものと一致した。
DNA型鑑定の準備として行われたリアルタイムPCRによるDNA定量検査では,抽出液中のDNAの濃度が1.612ng/µlと測定された。

準強制わいせつ罪を1項に定めていた刑法178条は,令和5年法律第66号(令和5年7月13日施行)により削除され,現在は,心身の障害や意識が明瞭でない状態等に乗じたわいせつな行為が不同意わいせつ罪(刑法176条1項)の対象となっている。
本件は,平成29年法律第72号による改正前の刑法178条1項が適用された事件である。

2 審級の経過
審級裁判結論第1審東京地裁平成31年2月20日判決(平成28年(刑わ)第2019号)無罪控訴審東京高裁令和2年7月13日判決(平成31年(う)第624号)第1審判決を破棄し,懲役2年上告審最高裁令和4年2月18日判決(令和2年(あ)第1026号)原判決を破棄し,東京高裁に差戻し差戻し後の控訴審東京高裁令和7年3月12日判決(令和4年(う)第429号)検察官の控訴を棄却(第1審の無罪を維持)

控訴審判決は東京高裁第10刑事部の判決であり,判例秘書の本文の署名欄によれば,裁判長は朝山芳史裁判官である。
差戻し後の控訴審判決は,判例秘書の本文の署名欄によれば,東京高裁第8刑事部の判決である。

第3 第1審と控訴審の判断の分かれ目
1 第1審判決(無罪)

(続きを読む...)乳腺外科医事件の最高裁令和4年2月18日判決―せん妄の見解,DNA定量検査の信頼性と差戻し後の無罪(AI作成)

国選弁護人だと保釈されにくいのか―保釈率27.4%と70.7%を因果関係と読めない理由(AI作成)

目次

第1 結論―統計の差だけでは弁護人の効果を比較できない第2 令和6年の国選弁護人の有無別統計第3 「国選なし」は「私選あり」と同じではない第4 因果関係を示さない四つの理由1 事件構成が異なる2 資力及び選任条件が異なる3 保釈請求の有無が分からない4 個別の弁護活動及び判断理由が分からない第5 国選弁護人選任率は罪名によっても異なる第6 国選弁護人と私選弁護人の役割第7 個別の保釈請求で確認すべき事項第8 統計の限界と適切な使い方第9 一次資料及び関連記事1 一次資料2 関連記事
第1 結論―統計の差だけでは弁護人の効果を比較できない

令和6年の地方裁判所通常第一審では,国選弁護人が選任された区分の保釈率は27.4%,国選弁護人が選任されなかった区分の保釈率は70.7%である。

しかし,この差から「私選弁護人なら70.7%の割合で保釈される」「国選弁護人は私選弁護人より能力が低い」と結論付けることはできない。
表の「国選弁護人が選任されなかった人員」は「私選弁護人が選任された勾留被告人」と同じ集団ではなく,事件の内容,資力,勾留の有無,保釈請求の有無等の条件もそろっていないからである。

裁判所の刑事事件Q&Aも,国選弁護人と私選弁護人とで弁護人としての役割に違いはないと説明している。
統計上の関連と,制度上の役割又は個々の弁護活動の評価は分けて考える必要がある。

第2 令和6年の国選弁護人の有無別統計

令和8年9月の開示文書の表7によれば,令和6年の人員は次のとおりである。

区分終局人員勾留人員勾留率保釈人員保釈率国選弁護人が選任された人員4万410人3万124人74.5%8254人27.4%国選弁護人が選任されなかった人員7148人3823人53.5%2702人70.7%

表7の保釈率の分母は勾留人員である。
したがって,27.4%は8254人を3万124人で割った値であり,70.7%は2702人を3823人で割った値である。
保釈請求をした被告人又は保釈請求件数を分母にした許可率ではない。

第3 「国選なし」は「私選あり」と同じではない

表7の区分は,「国選弁護人が選任された人員」と「国選弁護人が選任されなかった人員」である。
後者を,注記等による裏付けなく「私選弁護人が選任された人員」と読み替えることはできない。

また,二つの集団は,国選か私選かだけが異なる比較実験ではない。
国選弁護人の選任には,手続段階,事件類型,法定刑,資力,弁護人の有無その他の制度上・事実上の条件が関係する。
終局人員のうち勾留された割合自体も,国選あり74.5%,国選なし53.5%と異なる。

このように入口の集団が異なる以上,その後の保釈率の差を弁護人の選任形態だけの効果と説明することはできない。

第4 因果関係を示さない四つの理由
1 事件構成が異なる

罪名,事件の重大性,共犯関係,認否,証拠関係等の構成が二つの集団で同じとは限らない。
重い事件又は身柄拘束の必要性が問題となりやすい事件が一方に多ければ,弁護活動とは別に保釈率へ影響する。

2 資力及び選任条件が異なる

国選弁護人制度は,資力や私選弁護人の選任状況等と関係する。
表7は,資力,保証金の調達可能性,家族・監督者による支援等を調整していない。

3 保釈請求の有無が分からない

表7の保釈率の分母は勾留人員であり,保釈請求をした人ではない。
各区分で,何人が保釈を請求したか,何回請求したか,どの時期に請求したかは表から分からない。

(続きを読む...)国選弁護人だと保釈されにくいのか―保釈率27.4%と70.7%を因果関係と読めない理由(AI作成)

罪名別の勾留率・保釈率―窃盗・詐欺・覚醒剤・交通事件・入管法違反の令和6年統計(AI作成)

目次

第1 罪名別の勾留率・保釈率を読む前提第2 令和6年の主要罪名別比較第3 窃盗・詐欺・強盗・恐喝第4 交通事件―勾留率と保釈率を別々に読む第5 覚醒剤事犯―勾留率98.6%,保釈率29.4%第6 入管法違反―保釈率2.2%の限界第7 刑事訴訟法上は罪名だけで決まらない第8 統計利用上の限界第9 一次資料及び関連記事1 一次資料2 関連記事
第1 罪名別の勾留率・保釈率を読む前提

令和8年9月の開示文書の表2は,地方裁判所の通常第一審で終局した人員を罪名別に分け,勾留人員と保釈人員を示している。
令和6年の全体では,終局人員4万7558人,勾留人員3万3947人,保釈人員1万956人であり,勾留率は71.4%,保釈率は32.3%である。

この表の勾留率は終局人員を分母とし,保釈率は勾留人員を分母とする。
保釈率は,保釈請求をした人のうち許可された割合ではない。
罪名別の数字を比較するときも,この分母の違いを維持する必要がある。

第2 令和6年の主要罪名別比較

表2から,終局人員,勾留率及び保釈率を抜き出すと次のとおりである。

罪名終局人員勾留率保釈率傷害1778人88.5%36.8%業務上過失致死傷(注)3948人6.4%68.9%窃盗・常習累犯窃盗1万2172人84.8%21.0%強盗・強盗致死傷433人97.2%8.8%詐欺3308人83.6%31.8%恐喝286人95.8%48.9%覚醒剤取締法違反4876人98.6%29.4%道路交通法違反5659人21.2%45.6%出入国管理及び難民認定法違反2176人98.2%2.2%

(注)表2の罪名欄の表記であり,同表の注記によれば,平成19年以降は自動車運転過失致死傷を,平成26年以降は自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律5条の過失運転致死傷を含む。

表の差は大きいが,罪名だけが原因で差が生じたことを示すものではない。
罪名ごとに,身柄事件となる事案の構成,証拠関係,共犯者の有無,住居・在留・就労状況,保釈請求の有無等が異なり得るからである。

第3 窃盗・詐欺・強盗・恐喝

令和6年の保釈率は,窃盗・常習累犯窃盗が21.0%,詐欺が31.8%,強盗・強盗致死傷が8.8%,恐喝が48.9%である。
同じ財産犯又は経済的被害を伴う犯罪であっても,表の割合はそろわない。

しかし,例えば「詐欺なら31.8%の確率で保釈される」「恐喝の方が強盗より保釈されやすい」と個別事件に当てはめることはできない。
表2は,起訴事実の内容,被害額,組織性,共犯関係,被害弁償,前科,認否,保釈請求の内容又は保釈条件を調整していないからである。

個別事件では,罪証隠滅又は逃亡のおそれを基礎付ける事情と,関係者への接触禁止,住居・監督体制その他の条件で危険を抑えられるかを具体的に検討する必要がある。

第4 交通事件―勾留率と保釈率を別々に読む

業務上過失致死傷(過失運転致死傷を含む。)の勾留率は6.4%,保釈率は68.9%であり,道路交通法違反の勾留率は21.2%,保釈率は45.6%である。

ここで,保釈率の分母になるのは,そもそも勾留された人だけである。
業務上過失致死傷では終局人員の多くが勾留されていないため,保釈率68.9%を終局人員全体の68.9%が保釈されたという意味に読んではならない。

交通事件でも,酒気帯び・無免許・ひき逃げの有無,前科,事故後の行動,住居・就労,認否等によって個別事情は異なる。
罪名欄の大分類だけから身柄見通しを断定することはできない。

第5 覚醒剤事犯―勾留率98.6%,保釈率29.4%

表8は,覚醒剤事犯とそれ以外の事件を分けている。
令和6年の覚醒剤事犯は,終局人員4876人,勾留人員4806人,勾留率98.6%,保釈人員1414人,保釈率29.4%であり,全通常第一審事件に占める割合は10.3%である。

これに対し,覚醒剤事犯以外の事件は,終局人員4万2682人,勾留率68.3%,保釈率32.7%である。

「覚醒剤事犯でも勾留人員の約3割が保釈された」という表現はできる。

(続きを読む...)罪名別の勾留率・保釈率―窃盗・詐欺・覚醒剤・交通事件・入管法違反の令和6年統計(AI作成)

保釈はいつ認められるか―初公判前74.9%と自白・否認別統計の正しい読み方(AI作成)

目次

第1 保釈は起訴後いつ認められるのか第2 令和6年の保釈時期―全体・自白・否認別第3 74.9%と24.2%は分母が違う第4 「否認すると保釈されない」とはいえない第5 第1回公判前であることと最高裁判例第6 保釈請求から実際の釈放までに確認する事項第7 この統計から個別事件の結果を予測できない理由第8 一次資料及び関連記事1 一次資料2 関連記事
第1 保釈は起訴後いつ認められるのか

令和6年に地方裁判所の通常第一審で保釈された1万956人のうち,8209人(74.9%)は第1回公判期日前に保釈されている。
ただし,この74.9%は「勾留された被告人全体のうち初公判前に保釈された割合」ではなく,「最終的に保釈された被告人のうち初公判前に保釈された割合」である。

刑事訴訟法88条は,勾留されている被告人について,被告人本人,弁護人等が保釈を請求できると定めている。
したがって,保釈は起訴後,第1回公判期日前にも請求できる。
反対に,起訴前の被疑者勾留については刑事訴訟法上の保釈制度はない。

実際にいつ判断され,いつ釈放されるかは,請求の時期,検察官の意見,裁判所の審理,保釈保証金の納付,不服申立ての有無等によって異なる。
統計上の割合を,個別事件の所要日数又は保釈の見込みに置き換えることはできない。

第2 令和6年の保釈時期―全体・自白・否認別

令和8年9月の開示文書の表6は,地方裁判所の通常第一審で終局した事件について,勾留人員,保釈人員及び保釈の時期を自白・否認別に集計している。
令和6年欄は次のとおりである。

区分勾留人員保釈人員保釈率全体3万3947人1万956人32.3%自白2万9105人9913人34.1%否認3596人984人27.4%

保釈された人員を,釈放の日と第1回公判期日との前後で分けると,次のとおりである。

区分第1回公判前第1回公判と同日第1回公判後全体8209人・74.9%111人・1.0%2578人・23.5%自白7779人・78.5%98人・1.0%2036人・20.5%否認430人・43.7%13人・1.3%541人・55.0%

表6の時期別割合の分母は,各区分の保釈人員である。
全体の74.9%は8209人を1万956人で割った値であり,自白の78.5%は7779人を9913人で,否認の43.7%は430人を984人で割った値である。

なお,表6の自白・否認は終局段階の区分である。
起訴時の認否がその後一度も変わらなかったことまで示す統計ではない。

第3 74.9%と24.2%は分母が違う

初公判前に保釈された8209人を,保釈人員1万956人ではなく,勾留人員3万3947人で割ると24.2%になる。
この24.2%は,開示文書に印字された割合ではなく,本記事が表6の人数から計算した値である。

したがって,次の二つは別の質問に答える数字である。

①74.9%:保釈された人のうち,第1回公判前に保釈された人の割合
②24.2%:勾留された人のうち,第1回公判前に保釈された人の割合(本記事による計算)

また,令和6年の保釈率32.3%の分母は勾留人員であって,保釈請求をした人又は保釈請求件数ではない。
32.3%の残りを「保釈請求の却下率」と説明することもできない。

第4 「否認すると保釈されない」とはいえない

表6では,否認区分の保釈率は27.4%であり,自白区分の34.1%より低い。
また,保釈された否認区分984人のうち,第1回公判後の保釈が541人(55.0%)を占める。

(続きを読む...)保釈はいつ認められるか―初公判前74.9%と自白・否認別統計の正しい読み方(AI作成)

夜間・休日の弁護人接見と差入れの新しい申合せ―令和8年6月1日からの土日の面会,30枚の文書の差入れ及び予約の締切(AI作成)

目次

第1 新しい申合せの概要1 法務省矯正局長の通達と申合せ2 法律上の位置付け3 対象となる施設と人第2 被疑者との夜間・休日の面会1 夜間の面会2 休日の面会第3 被告人との夜間・休日の面会1 夜間の面会2 休日の面会第4 夜間・休日の文書等の差入れ1 差入れができる文書等2 枚数の上限と引渡し3 差入れ拒否を違法とした裁判例第5 予約と例外的措置1 予約の方法と締切2 例外的措置第6 少年鑑別所・少年院と再審請求1 少年鑑別所2 少年院と再審請求人3 関連記事第7 出典
第1 新しい申合せの概要
1 法務省矯正局長の通達と申合せ
(1) 令和8年6月1日からの取扱い

法務省矯正局長は,令和8年5月1日付け法務省矯成第649号通達「夜間及び休日の未決拘禁者等と弁護人等との面会等の取扱いについて」を,矯正管区長及び矯正施設の長に宛てて発出した。
通達は,法務省と日本弁護士連合会との間で新たな申合せ(以下「新申合せ」という。)が行われたとして,令和8年6月1日以降は新申合せに留意して未決拘禁者等と弁護人等との面会等を実施するよう求めている。
新申合せの全文は通達の別添として法務省のウェブサイトに掲載されており,新申合せ自体も第13項で令和8年6月1日から施行するとしている。

(2) 平成19年の申合せと通達の廃止

従前の取扱いは,平成19年3月13日付けの「夜間及び休日の未決拘禁者と弁護人等との面会等に関する申合せ」と,これを踏まえた同年5月25日付け法務省矯成第3246号通達によっていた。
新しい通達は平成19年の通達を令和8年5月31日限りで廃止し,新申合せも第14項で平成19年の申合せを同日限りで廃止するとしている。
平成19年の申合せと通達の本文は,法務省のウェブサイトでは確認できなかったため,本記事は従前の取扱いとの比較ではなく,令和8年6月1日以降の新申合せの内容を説明する。

2 法律上の位置付け
(1) 刑事収容施設法118条

刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律118条1項は,未決拘禁者の弁護人等との面会の日及び時間帯を,日曜日その他政令で定める日以外の日の刑事施設の執務時間内とする。
政令で定める日は,土曜日,国民の祝日に関する法律に規定する休日,1月2日,1月3日及び12月29日から12月31日までの日である(同法施行令2条1項)。
同法118条3項は,弁護人等からこれによらない面会の申出がある場合においても,刑事施設の管理運営上支障があるときを除き,刑事施設の長はこれを許すものとすると定める。
夜間・休日の面会に関する新申合せは,この3項の運用について,法務省と日本弁護士連合会が手続と判断の基準を定めたものと考えられる。

(2) 申合せに当たらない場合の扱い

通達は,新申合せの予約が行われていない場合においても,弁護人等が未決拘禁者等との面会等の申出をしたときは,職員配置等が可能な限り,できるだけ実施するよう求めている。
新申合せの要件に当たらない面会の申出であっても,刑事収容施設法118条3項によれば,刑事施設の管理運営上支障があるときを除き,刑事施設の長は面会を許すものとされている。

3 対象となる施設と人
(1) 刑事施設・少年鑑別所・少年院

新申合せが対象とするのは,刑事施設のほか,少年鑑別所及び少年院における面会と文書等の差入れである(新申合せ前文)。
通達の宛先は矯正管区長と矯正施設の長であり,警察署の留置施設は新申合せの対象として書かれていない。
留置施設の被留置者と弁護人等との面会は,刑事収容施設法220条が別に定めており,同条3項は,留置施設の管理運営上支障があるときを除き,留置業務管理者は日時の定めによらない面会を許すものとすると規定している。

(2) 「弁護人等」と時間帯の定義

「弁護人等」には,弁護人のほか,弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者が含まれる(新申合せ1項ケ)。
執務時間は午前8時30分から午後5時までであり,「夜間」は平日の執務時間終了時以後午後8時までの時間をいう(新申合せ1項ウ・エ)。

第2 被疑者との夜間・休日の面会
1 夜間の面会

(続きを読む...)夜間・休日の弁護人接見と差入れの新しい申合せ―令和8年6月1日からの土日の面会,30枚の文書の差入れ及び予約の締切(AI作成)

刑事判決書の電子交付は8400円?―閲覧・謄写,紙の謄本との違い(AI作成)

目次

第1 8400円は何の費用か第2 紙の謄本,証明付きの提供,閲覧・謄写の違い1 取得方法ごとの根拠と費用2 閲覧・謄写と証明付きの提供は別の手続第3 電子データの提供が高額な理由第4 施行時期と適用対象の確認1 施行時期2 経過措置と段階的な対象拡大第5 判決書の取得前に確認する事項第6 よくある疑問1 判決のPDFを見るだけでも8400円か2 電子データでの提供が始まれば紙は選べなくなるのか3 第三者も8400円を払えば取得できるのか第7 関連記事第8 出典
第1 8400円は何の費用か

令和7年法律第39号による改正後の刑事訴訟法46条2項は,裁判書が電磁的記録である場合等に,その内容と同一であることの証明がされた書面又は電磁的記録の提供を請求する制度を設けている。
同法による改正後の刑事訴訟法施行法10条2項は,その費用を,当分の間,書面については用紙1枚につき60円,電磁的記録については1件につき8400円と定めている。

したがって,8400円は,同一であることの証明がされた電子データとして裁判書の提供を受ける場合の費用である。
刑事記録の閲覧,裁判所のウェブサイトに掲載された判決の閲覧又はオンラインでの証拠開示について,一律に8400円がかかる制度ではない。

また,46条2項と施行法10条2項を定める改正規定は,刑事手続の電子化に関する主要規定と同じく,令和9年3月31日までの間において政令で定める日から施行される。
令和8年10月23日現在,その施行日を定める政令は,e-Gov法令検索では確認できない。
適用時期と対象事件については,第4で説明する。

第2 紙の謄本,証明付きの提供,閲覧・謄写の違い
1 取得方法ごとの根拠と費用

刑事判決書の内容を手元に置く方法は,次のように根拠と費用が異なる。

取得方法根拠費用・注意点紙の裁判書の謄本・抄本の交付刑事訴訟法46条(改正後は46条1項)刑事訴訟法施行法10条1項により用紙1枚につき60円電磁的記録である裁判書について,同一であることの証明がされた書面の提供改正後の刑事訴訟法46条2項改正後の施行法10条2項により用紙1枚につき60円電磁的記録である裁判書について,同一であることの証明がされた電磁的記録の提供改正後の刑事訴訟法46条2項改正後の施行法10条2項により1件につき8400円弁護人による訴訟記録の閲覧・謄写刑事訴訟法40条,改正後の40条の246条2項の提供請求とは別の制度であり,8400円の対象ではない。方法によっては裁判長の許可を要する

例えば,証明付きの書面で10枚の提供を受ける場合,用紙代の計算は1枚60円として600円となる。
これは上の表の単価だけを計算した例であり,郵送等の付随費用や具体的な請求方法まで定めたものではない。

2 閲覧・謄写と証明付きの提供は別の手続

弁護人による閲覧・謄写について,改正後の刑事訴訟法40条2項は,証拠物の謄写,電磁的記録を複写する方法による謄写及び書類等を電磁的記録として記録する方法による謄写に,裁判長の許可を要するとしている。
また,改正後の40条の2は,裁判所のファイルに記録された訴訟に関する書類又は証拠物を,裁判長の許可を受けて,裁判所の規則で定める電磁的方法により閲覧・謄写する制度である。

閲覧・謄写によって判決書の内容を確認・保存できても,それは同一であることの証明がされた裁判書の提供とは異なる。
『自由と正義』令和8年10月号の野上小夜子論稿も,同一事項の証明がされた判決書が必要な場合は,閲覧・謄写ではなく裁判書の提供請求が必要になると説明している(同号24頁)。
証明付きの裁判書の提供を求める46条2項と,閲覧・謄写を定める40条・40条の2を同じ手続として扱うと,費用と許可の要否を取り違えることになる。

起訴後の被告人側による記録入手の全体像は,刑事裁判係属中の,起訴事件の刑事記録の入手方法(加害者である被告人側)で説明している。

第3 電子データの提供が高額な理由

令和7年4月1日の衆議院法務委員会で,森本宏法務省刑事局長は,裁判書等の電子データを提供する場合には,セキュリティー確保の観点から,請求者が持参した記録媒体を検察庁や裁判所の電子機器に接続することはできないと答弁している。
その上で,無限定な拡散を防止するセキュリティー措置を講じることができる記録媒体を提供する側で用意する必要があり,8400円は,1件当たりの人件費と記録媒体の購入費用を含む物件費を積算して定めたと説明している。

同じ答弁では,記録媒体にコピーガード等の機能が必要であることが電磁的記録の費用が高い理由として挙げられ,請求者は利用目的や費用を考慮して,電子データと書面のどちらの提供を請求するかを自由に選択できるとされている。
また,例えば100枚であれば書面では6000円となるため,その程度以上の分量であれば,データで受け取る方が使いやすいと考える者もいるのではないかとの見通しも述べられている。

ただし,これらは法案審議時の政府の説明である。
具体的に使用される媒体の種類,保存・印刷の可否及び請求の手順は,法律の条文から確定することはできない。
実際に請求するときは,裁判書を保管する裁判所等の案内を確認する必要がある。

(続きを読む...)刑事判決書の電子交付は8400円?―閲覧・謄写,紙の謄本との違い(AI作成)

保釈率の読み方―勾留率・保釈許可率との違いと令和6年の統計(AI作成)

目次

第1 勾留率・保釈率・保釈許可率を区別する1 令和6年の地裁通常第一審の人員2 保釈率から保釈請求の却下率は分からない3 集計対象と表の違い第2 初公判前の保釈は何を分母にした割合か第3 外国人の保釈率は表の対象範囲を確認する1 表4は通訳翻訳人が付いた外国人事件の人員2 表5の外国人区分は別の人員である第4 国選弁護人の有無による差をどう読むか第5 古い保証金額の分布を現在の相場にしない第6 出典と関連記事1 出典2 関連記事第7 よくある質問1 保釈率32.3%は保釈請求の許可率か2 初公判前74.9%は勾留された人全体の割合か3 「国選弁護人なし」は「私選弁護人あり」か4 表4と表5の外国人は同じ集団か

保釈率を読むときは,何人を分母にした割合かを確認する必要がある。
保釈率が3割程度であることは,保釈請求の約7割が却下されたことを意味しない。
本記事では,令和8年9月の開示文書として公開された最高裁判所の統計資料と,法務省の令和7年版犯罪白書を基に,令和6年の地方裁判所の通常第一審の数値を整理する。

第1 勾留率・保釈率・保釈許可率を区別する
1 令和6年の地裁通常第一審の人員

開示資料の表2では,令和6年の総数について,終局人員が47,558人,勾留人員が33,947人,保釈人員が10,956人とされている。
この表の勾留率は,終局人員を分母にした33,947人÷47,558人であり,71.4%である。
保釈率は,勾留人員を分母にした10,956人÷33,947人であり,32.3%である。
法務省の令和7年版犯罪白書第2編第3章第3節6も,令和6年の地裁の勾留率を71.4%,保釈率を32.3%としている。

2 保釈率から保釈請求の却下率は分からない

上記の保釈率の分母は,保釈請求をした被告人や,裁判所が処理した保釈請求の件数ではない。
したがって,32.3%を保釈請求の許可率に置き換えたり,その残りを却下率と説明したりすることはできない。
保釈許可率や保釈請求率を別途引用する場合も,請求・処理・許可のどの人員を数えたか,実人員か延べ人員か,表の計算式と注記を確認する必要がある。

3 集計対象と表の違い

本記事の中心となる数値は,地裁の通常第一審についての終局人員の統計である。
捜査段階の勾留請求の認容率や,現在勾留されている被告人全体のある時点の状態を表す数値としては扱わない。
開示資料の表1には令和6年の勾留率60.3%,保釈率32.4%という別の数値が掲載されており,表2の総数と同じ数値ではない。
本記事では,人員と算式を確認でき,犯罪白書の説明とも一致する表2及び表5を基準とし,表1の系列とは接続しない。

罪名別の数字も同じ分母で比較する必要がある。
令和6年の主要罪名について,終局人員,勾留率及び保釈率を一覧化したものは,罪名別の勾留率・保釈率―窃盗・詐欺・覚醒剤・交通事件・入管法違反の令和6年統計を参照されたい。
罪名別の割合は,個別事件の保釈見込みを示す確率ではない。

第2 初公判前の保釈は何を分母にした割合か

開示資料の表6では,令和6年の保釈人員10,956人のうち,第1回公判期日前の保釈人員が8,209人であり,保釈人員に占める割合は74.9%である。
同じ8,209人を勾留人員33,947人で割ると24.2%になる。
表6の角括弧内の割合は保釈人員を分母とし,丸括弧内の割合は勾留人員を分母としているため,両者を混同してはならない。
「保釈された人のうち初公判前に保釈された割合」と「勾留された人のうち初公判前に保釈された割合」は,別の質問に答える統計である。
また,終局した事件の集計から,個別の被告人が初公判前に保釈される確率をそのまま算出することはできない。

自白・否認別の保釈率,第1回公判前・同日・公判後の人員,74.9%と24.2%の分母の違い及び最高裁決定との関係は,保釈はいつ認められるか―初公判前74.9%と自白・否認別統計の正しい読み方で詳しく説明している。

第3 外国人の保釈率は表の対象範囲を確認する

(続きを読む...)保釈率の読み方―勾留率・保釈許可率との違いと令和6年の統計(AI作成)

共犯者の供述だけで有罪にできるか―補強法則・検面調書・信用性の区別(AI作成)

目次

第1 本人が否認していても,共犯者の供述が証拠となる場合がある1 補強法則が適用されないことと,供述を信用できることは別問題である2 同じ供述でも,誰に対して使うかによって整理が変わる第2 補強法則と昭和33年大法廷判決1 本人の自白だけで有罪とすることはできない2 多数意見は,共犯者の供述を他の被告人の「本人の自白」とは扱わなかった3 少数意見が指摘した責任転嫁等の危険第3 供述を証拠として使えるかは別に審査する1 検面調書では刑訴法321条と322条を分ける2 黙秘・証言拒絶と弁論分離第4 信用性を争う際の確認事項1 供述者自身の利害と供述の変遷2 複数人の供述の一致と情報源の独立性3 客観的記録との対応を確かめる第5 裁判の併合や担当検察官の一本化とは区別する第6 参照資料と確認範囲1 法令及び裁判例2 大阪地検の開示文書
第1 本人が否認していても,共犯者の供述が証拠となる場合がある
1 補強法則が適用されないことと,供述を信用できることは別問題である

共犯者が「一緒に犯行をした」と述べ,本人は「関与していない」と争う場合,共犯者の供述しかないという理由だけで,当然に有罪認定が禁止されるわけではない。
最大判昭和33年5月28日の多数意見は,共犯者・共同被告人の供述について,他の被告人との関係では本人の自白に対する補強法則は適用されないとした。
もっとも,証拠として使えること,法律上別の証拠による補強を要すること,内容を信用できることは,それぞれ別の問題である。
補強法則が適用されないことから,供述の信用性まで認められるわけではない。

本記事は令和8年10月22日を確認基準日とし,この区別と弁護活動で確認すべき事項を整理する。
共犯者の供述をめぐる結論は,供述の形式,立証しようとする事実及び個別事件の証拠関係によって異なる。

2 同じ供述でも,誰に対して使うかによって整理が変わる

例えば,Aが「Bと相談して盗んだ」と述べた場合,A自身の犯罪を認める部分をAの有罪認定に用いる問題と,Bの関与を認定するために用いる問題を分ける必要がある。
前者では本人の自白に対する補強法則が問題となり,後者では共犯者の供述としての証拠能力・信用性が問題となる。
同じ事件の供述であっても,その証明対象を明示せずに「自白だから補強が必要」「共犯者の供述だから信用できる」と処理することはできない。

第2 補強法則と昭和33年大法廷判決
1 本人の自白だけで有罪とすることはできない

憲法38条3項は,本人の自白が自己に不利益な唯一の証拠である場合の有罪認定等を禁じ,刑訴法319条2項は公判廷の内外を問わず本人の自白について補強法則を定めている。
自白が任意になされたかという同条1項の問題とも区別を要する。
任意性が認められた本人の自白であっても,それだけで有罪とすることはできない。

2 多数意見は,共犯者の供述を他の被告人の「本人の自白」とは扱わなかった

最大判昭和33年5月28日・昭和29年(あ)第1056号・刑集12巻8号1718頁の多数意見は,共犯者・共同被告人の供述について,他の被告人との関係で独立の証明力を認め,憲法38条3項の本人の自白には当たらないとした。
したがって,共犯者の供述について,刑訴法319条2項による補強を欠くという主張だけで証明力を否定できるわけではない。

ただし,同判決の具体的事件には,他の証言,鑑定,押収物等も現れている。
同判決を「裏付けのない一つの言い分を無条件に信用した判決」と要約するのは適切でない。
判例の規範と,当該事件にどのような証拠があったかは分けて読む必要がある。

3 少数意見が指摘した責任転嫁等の危険

同判決の6裁判官の少数意見は,共犯者の供述にも,自分の責任を軽くするため他人へ責任を転嫁する危険等があることを重視した。
自白した者自身については補強を要する一方,その供述によって否認する者を処罰できるという扱いへの批判も示している。
これは多数意見の結論とは区別して紹介すべき意見であり,少数意見を判例の結論として引用することはできない。
他方で,そこで示された危険を,具体的な供述の信用性を点検する視点として用いることはできる。

第3 供述を証拠として使えるかは別に審査する

(続きを読む...)共犯者の供述だけで有罪にできるか―補強法則・検面調書・信用性の区別(AI作成)

新名神6人死亡事故の拘禁刑7年判決―罪名・法定刑と出口博章裁判官(AI作成)

目次

第1 判決の概要と確認できる範囲第2 事故から判決まで第3 なぜ拘禁刑7年なのか1 過失運転致死傷罪の法定刑2 本件の量刑理由をどこまで説明できるか第4 危険運転致死罪との違い1 結果の重大性と犯罪の成立要件2 本件で危険運転致死罪が適用されなかった理由第5 事故当時の法律と令和8年改正を分ける第6 出口博章裁判官について第7 よくある質問1 新名神6人死亡事故の判決を担当した裁判官は誰か2 拘禁刑7年は,裁判官が法律上の上限より軽くした刑なのか3 危険運転致死罪が適用されなかった理由は分かるか4 判決は確定しているか第8 出典と資料の確認範囲1 事件の報道2 法令・公的資料3 未確認の資料・事項
第1 判決の概要と確認できる範囲

令和8年10月20日,新名神高速道路で6人が死亡した事故について,津地方裁判所の出口博章裁判官が,過失運転致死の罪に問われた元トラック運転手に拘禁刑7年を言い渡したと報じられた。
共同通信の配信記事とテレビ新広島の報道は,検察官の求刑も7年であり,判決がその求刑と同じ刑であったと伝えている。

本記事は,令和8年10月21日現在に確認した報道,e-Govの法令本文及び法務省の解説を基に,事件の概要と法律上の区別を整理するものである。
本件判決の原文,事件番号,控訴の有無及び判決の確定状況は確認できていないため,報道された内容を判決原文から直接確認した事実として記載しない。

項目確認内容判決日・裁判所報道によれば令和8年10月20日・津地方裁判所担当裁判官報道によれば出口博章裁判官罪名・言渡刑報道によれば過失運転致死・拘禁刑7年求刑報道によれば拘禁刑7年判決原文・事件番号未確認控訴・確定状況未確認
第2 事故から判決まで

報道によれば,事故は令和8年3月,三重県亀山市の新名神高速道路で発生し,大型トラックが渋滞の車列に追突して6人が死亡した。
スマートフォンを見ながら運転したことが問題となった事件である。

時点報道で確認できる経過令和8年3月新名神高速道路で事故が発生し,6人が死亡判決前の公判検察官が拘禁刑7年を求刑令和8年10月20日津地裁が拘禁刑7年を言い渡したと報道

起訴状や判決原文は未確認であり,起訴された全ての訴因・適用条文,争点の全体及び証拠の評価を,この時系列だけから再現することはできない。

第3 なぜ拘禁刑7年なのか
1 過失運転致死傷罪の法定刑

自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律5条は,自動車の運転上必要な注意を怠り,その結果として人を死傷させた場合の法定刑を,7年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金としている。
共同通信は,本件の拘禁刑7年を,起訴された過失運転致死罪の法定刑の上限に当たるものと報じている。

法定刑は,法律が定めた刑の範囲である。
これに対し,求刑は検察官が裁判所に求める刑であり,言渡刑は裁判所が判決で言い渡す刑である。
本件では報道上いずれも7年であるが,それぞれ意味が異なる。

2 本件の量刑理由をどこまで説明できるか

報道では,事故結果の重大性や運転態様を踏まえ,過失運転致死の事案の中でも重い部類として評価した旨が伝えられている。
ただし,判決原文を確認していない以上,裁判所が採用した全ての量刑事情や,判決理由の正確な文言までは確認できない。

刑の重さを検討する際には,言渡刑の年数だけでなく,適用された罪名,法律上選択できる刑の範囲及び認定された事情を分けて読む必要がある。
この一般的な整理と,本件の判決内容の確認状況とは区別する。

第4 危険運転致死罪との違い
1 結果の重大性と犯罪の成立要件

過失運転致死傷罪と危険運転致死傷罪は,法律上の成立要件が異なる。
法務省の法改正Q&A・A1は,危険運転致死傷罪について,重大な死傷結果を生じさせる危険性が類型的に極めて高い運転行為を,法律に限定して列挙する制度として説明している。

死亡結果が重大であることだけから,直ちに危険運転致死罪に当たるとはいえない。
どの危険運転の類型が問題となり,その要件を満たす事実がどの証拠によって認定できるかを検討する必要がある。

(続きを読む...)新名神6人死亡事故の拘禁刑7年判決―罪名・法定刑と出口博章裁判官(AI作成)

松川事件の最高裁判決―無罪確定と長文の少数意見の読み方(AI作成)

目次

第1 松川事件の最高裁判決を読む際の要点第2 第一次上告審と第二次上告審の違い1 昭和34年8月10日の破棄差戻し2 昭和38年9月12日の上告棄却第3 370頁の判決文の構成1 多数意見は1頁から34頁2 斎藤朔郎裁判官の補足意見は34頁から39頁3 下飯坂潤夫裁判官の少数意見は39頁から370頁第4 自白・事実認定と刑訴法411条の適用を読み分ける1 証拠評価だけを切り出さない2 個別意見の長さと裁判所の結論を混同しない第5 よくある疑問1 「上告棄却」なのに,なぜ無罪確定なのか2 下飯坂裁判官の少数意見が最高裁の判断なのか3 昭和38年判決は国家賠償請求の判決なのか第6 原資料と関連記事1 裁判所の公開原文2 少数意見の種類と最高裁の審理過程
第1 松川事件の最高裁判決を読む際の要点

松川事件の第二次上告審である最高裁第一小法廷昭和38年9月12日判決は,上告を棄却した判決である。
無罪とした原判決に対する上告が棄却されたため,無罪判決が確定した。
裁判所が公開する判決全文はPDFで370頁あるが,その大部分を占める下飯坂潤夫裁判官の少数意見は,原判決を破棄して差し戻すべきであるという立場である。

したがって,長い文章の方を最高裁の結論と受け取ると,判断の方向を取り違える。
まず主文を確認し,次に多数意見と各裁判官の個別意見の区切りを確かめてから,自白の信用性やアリバイに関する記述を読む必要がある。
以下の頁数は,裁判所の公開PDFの先頭から数えた実頁を指す。

第2 第一次上告審と第二次上告審の違い
1 昭和34年8月10日の破棄差戻し

最高裁大法廷昭和34年8月10日判決(https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-57786.pdf)の主文は,被告人らに関する原判決部分を破棄し,事件を仙台高等裁判所に差し戻すというものである。
この段階で,最高裁が自ら無罪を言い渡したわけではない。
同判決の主文は公開PDF1頁で確認できる。

2 昭和38年9月12日の上告棄却

最高裁昭和38年9月12日判決の裁判例情報(https://www.courts.go.jp/hanrei/57787/detail2/index.html)は,事件番号を昭和36年(あ)第2378号,事件名を汽車顛覆致死等被告事件(松川事件),原審裁判年月日を昭和36年8月8日と表示している。
法廷は第一小法廷であり,昭和34年の大法廷判決と区別する必要がある。

昭和38年判決の主文は,公開PDF1頁の「本件上告を棄却する。」である。
無罪判決の確定という事件の結果と,最高裁自身が無罪の主文を言い渡したかという手続上の問題は,区別して説明するのが正確である。

第3 370頁の判決文の構成
1 多数意見は1頁から34頁

多数意見の理由は,判例違反,法令違反,実行行為についての事実誤認,自白,工具,アリバイ等の問題を検討している。
34頁では,上告適法の理由に当たらず,刑訴法411条を適用すべきものとも認められないとして,上告棄却の結論につなげている。

自白については,裁判例情報の裁判要旨も,被告人と実行行為を結び付ける証拠が自白のほかになく,その自白に事実に反する点や不合理・不自然な点があって信用性に疑いがある場合には,有罪の証拠とすることが許されないという判断を掲げている。
少数意見だけでなく,多数意見にも証拠評価に関する検討がある。

2 斎藤朔郎裁判官の補足意見は34頁から39頁

斎藤朔郎裁判官の補足意見は,多数意見に付加された説明である。
捜査中の自白と公判廷の自白について,裁判所がその真実性を確かめる手段の違いなどを論じている。
39頁では,合理的な疑いが残る場合の判断と,真犯人まで証明する必要があるかという問題に触れている。

3 下飯坂潤夫裁判官の少数意見は39頁から370頁

下飯坂潤夫裁判官の少数意見は,39頁で始まり,原判決の審理・証拠評価を批判する。

(続きを読む...)松川事件の最高裁判決―無罪確定と長文の少数意見の読み方(AI作成)

刑事控訴審・上告審の終局区分別統計―平成12年~令和7年の破棄・棄却の推移と控訴審の破棄自判に関する最高裁判例(AI作成)

目次

第1 この記事の対象と基準日第2 刑事上訴審の終局区分別統計1 統計の単位と範囲2 高等裁判所(控訴審)の推移3 最高裁判所(上告審)の推移4 統計を読むときの限界5 最高裁が破棄自判無罪とした例(平成29年3月10日判決)第3 控訴審の破棄自判と上訴に関する最高裁判例1 無罪判決に対する検察官上訴2 第1審無罪判決を控訴審が破棄して有罪とする場合3 原判決が破棄された場合の未決勾留日数第4 関連記事第5 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 統計4 その他の資料
第1 この記事の対象と基準日

この記事は,高等裁判所(控訴審)及び最高裁判所(上告審)における刑事訴訟事件の終局区分別既済人員を,司法統計年報に基づき平成12年から令和7年まで一覧にするものである。
あわせて,控訴審が原判決を破棄して自判する場合及び上訴に関する最高裁判例を整理する。

数値の基準日は令和8年9月18日であり,同日時点で裁判所ウェブサイトに掲載されている司法統計年報(刑事編)平成27年版から令和7年版まで,及び平成12年から平成27年までを集計した推移表PDFによる。
令和8年10月18日に,本記事の全ての表の数値を,司法統計年報の各年版の第3表・第6表と照合した。

この記事で示す割合は,その年に終局した被告人の総数を分母とする全国の集計値であり,個別の事件で控訴又は上告が認められる見込みを示すものではない。

第2 刑事上訴審の終局区分別統計
1 統計の単位と範囲
(1) 既済人員という単位

以下の数値は,司法統計年報(刑事編)の「刑事訴訟事件の種類及び終局区分別既済人員」の表(高等裁判所は第6表,最高裁判所は第3表)による。
単位は事件数ではなく,その年に終局した被告人の人数(既済人員)である。

(2) 高等裁判所の数値の範囲

高等裁判所の平成28年以降の数値は「控訴審」の行であり,再審を含まない。
平成27年の第6表では,控訴審の総数は6078人で後記の推移表PDFの値と一致し,再審は0人であった。

(3) 最高裁判所の数値の範囲

最高裁判所の平成28年以降の数値は「上告審」の行(第一審判決に対するもの及び第二審判決に対するもの)の合計であり,非常上告及び再審を含まない。
平成27年の第3表では,上告審の合計は1891人で後記の推移表PDFの値と一致した。
第一審判決に対するもの(跳躍上告)は,平成27年に1人(上告棄却)であり,平成28年以降は,平成30年に2人(上告棄却),令和4年に1人(上告棄却),令和6年に1人(取下げ)で,それ以外の年は0人である。

(4) 数値の出所と検算

平成12年から平成27年までの数値は,司法統計年報を基に作成した刑事訴訟事件の終局区分別既済人員の推移表(高裁及び最高裁)(平成12年から平成27年まで)を基にし,各年版の司法統計年報の第3表・第6表と照合した。
平成16年,平成19年及び平成20年の最高裁判所の総数及び上告棄却は,推移表が第一審判決に対するもの(跳躍上告)を含んでいなかったため,これを加えた司法統計年報の値によっている。
平成28年から令和7年までの数値は,裁判所ウェブサイトに掲載されている各年の司法統計年報(刑事編)のExcelファイルから転記した。
各行について,内訳の合計が総数と一致することを確認している。

2 高等裁判所(控訴審)の推移
(1) 年次別の終局区分

① 総数及び破棄自判の内訳

年総数破棄自判・有罪破棄自判・無罪破棄自判・その他令和7年5,04036390令和6年4,928385120令和5年4,639371160令和4年4,82038060令和3年5,331484150令和2年5,332470120令和元年5,828494220平成30年5,710518311平成29年6,098547250平成28年5,910623240平成27年6,078549210平成26年5,890537110平成25年6,108547110平成24年6,618554150平成23年7,005669100平成22年6,856719210平成21年7,258792200平成20年7,962998130平成19年8,4221,159170平成18年9,3441,454200平成17年9,2641,203120平成16年9,1701,250220平成15年8,8751,288120平成14年8,3471,261210平成13年7,6291,17890平成12年7,186992120平成28年~令和7年の合計53,6364,6351721平成12年~平成27年の合計122,01215,1502470

② 破棄差戻し・移送,控訴棄却,取下げ及びその他

年破棄差戻し・移送控訴棄却取下げその他令和7年133,83580317令和6年203,67181921令和5年193,41378931令和4年253,57880625令和3年143,83695725令和2年253,85094827令和元年144,28598429平成30年264,16393932平成29年154,49298237平成28年224,1471,06430平成27年194,3211,14424平成26年104,1411,15239平成25年114,3341,18124平成24年114,7451,25142平成23年64,9411,35326平成22年104,7081,36434平成21年124,8921,50834平成20年205,3101,57744平成19年125,6031,59536平成18年165,8511,95845平成17年156,0591,94134平成16年135,9681,88829平成15年105,8111,73321平成14年105,3881,64126平成13年74,9141,50516平成12年34,7471,40131平成28年~令和7年の合計19339,2709,091274平成12年~平成27年の合計18581,73324,192505

(続きを読む...)刑事控訴審・上告審の終局区分別統計―平成12年~令和7年の破棄・棄却の推移と控訴審の破棄自判に関する最高裁判例(AI作成)

猪苗代湖の遊泳禁止・ボート航行ルール―事故当時と2026年の規制の違い(AI作成)

目次

第1 事故当時の区分と現在の利用ルールを分ける1 「遊泳禁止」と「ボートの航行禁止」は同じではない2 確認する時点と資料第2 事故当時の利用区分と最高裁の判断1 利用区分の周知と実際の利用状況2 遊泳禁止区域であれば操縦者は免責されるのか第3 2026年の航行規制と自主ルール1 乗り物と区域の組合せで確認する2 期間・例外とトーイングの順番待ち第4 中田浜の区域図を読むときの注意1 現行図の色と水域番号2 最新資料と現地表示を併せて確認する第5 よくある質問1 動力船航行禁止区域なら泳いでもよいのか2 サップもボートと同じ規制を受けるのか3 ルールブックに書いてあることにはすべて罰則があるのか4 2026年の区域図で令和2年の事故を判断できるのか第6 出典・関連記事1 福島県の現行資料2 事故当時の資料・刑事判決
第1 事故当時の区分と現在の利用ルールを分ける
1 「遊泳禁止」と「ボートの航行禁止」は同じではない

猪苗代湖ボート事故を理解するには,人が泳ぐことの規制,動力船が航行することの規制及び各浜の自主ルールを区別する必要がある。
「遊泳禁止区域だった」という説明だけから,ボートが自由に航行できたことや,操縦者が見張りをしなくてよいことを導くことはできない。

本記事は,令和2年9月6日の事故当時についての運輸安全委員会の調査報告書及び最高裁令和8年10月16日判決と,福島県が公表する令和8年7月改訂のルールブック等を基に,令和8年10月17日時点の資料を整理するものである。
現在の航行区域図を,そのまま令和2年当時の規制や事故現場の適法性を示す資料として使うことはできない。

2 確認する時点と資料
時点確認する資料と内容令和2年の事故当時事故調査報告書の利用区分・周知状況と,刑事判決の認定を確認する。令和6年7月1日以降河川法に基づく船舶の通航方法・区域の規制が施行された時点として区別する。令和8年7月1日以降一部区域の変更を反映した県の区域図・ルールブックを確認する。

福島県の案内は,河川法に基づく航行区域の規制と,各浜で自主的に定める詳細な利用ルールを区別している。
最新版の入口は,福島県「猪苗代湖を利用される皆様へ」である。

福島県の案内:https://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/41045a/inawashiroko-riyou.html

第2 事故当時の利用区分と最高裁の判断
1 利用区分の周知と実際の利用状況

運輸安全委員会の事故調査報告書は,事故当時,中田浜のゾーニングや利用ルールが利用者・事業者に十分周知されず,プレジャーボート,水上オートバイ,被引浮体のえい航等が混在していたと分析している。
当時の利用区分や周知状況については,報告書の本文23~26頁,原因及び再発防止については本文55~59頁を参照されたい。

同報告書は,船首方の見通しを確保した見張り,十分な減速,船舶の航行ルートと水上レジャーの利用区域の分離,利用区分の明確な表示等を再発防止策として示した。
これは事故調査における分析・再発防止の提言であり,刑事判決の認定や現在の規制そのものとは区別して読む必要がある。

事故調査報告書:https://jtsb.mlit.go.jp/ship/rep-acci/2022/MA2022-8-2_2020tk0008.pdf

2 遊泳禁止区域であれば操縦者は免責されるのか

最高裁令和8年10月16日判決は,本件地点周辺が湖上に浮かぶ人の存在を想定できる水域である以上,浮遊物を視認した場合には人でないかを確認すべき注意義務があるとした第1審の判断を正当とした。
その上で,被告人が被害者らを浮遊物として視認できたかを検討した。

したがって,本判決を「遊泳禁止区域なら操縦者は責任を負わない」と理解することはできない。
他方で,本判決は,あらゆる水域・事故について刑事責任を一律に認めたものでも,被害者側の民事上の過失割合を判断したものでもない。

判決全文5~8頁:https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-97176.pdf
三審級の判断と証拠評価は,猪苗代湖ボート事故の最高裁判決の解説で整理している。

第3 2026年の航行規制と自主ルール
1 乗り物と区域の組合せで確認する

令和8年7月改訂のルールブックは,機関を用いて推進する船舶を動力船とし,水上オートバイ,モーターボート,電動のサップ及び電動付ボートを例示している。
これに対し,動力船以外の船舶を非動力船とし,サップ,カヌー,手こぎボート,ウィンドサーフィン等を例示している。

(続きを読む...)猪苗代湖の遊泳禁止・ボート航行ルール―事故当時と2026年の規制の違い(AI作成)

猪苗代湖ボート事故の最高裁判決―逆転無罪を破棄した理由と禁錮2年(AI作成)

目次

第1 事案と判決の概要1 本記事の対象と資料2 事故の概要3 三つの審級の結論第2 争点と第1審判決の判断構造1 争点は過失の有無2 死角と視認可能性3 四つの事情を積み重ねた推認第3 仙台高裁はなぜ無罪としたのか1 無罪とした理由2 原判決の付言第4 最高裁はなぜ逆転無罪を破棄したのか1 上告理由と職権調査2 刑訴法382条の事実誤認の意味3 注意義務の前提4 航路の認定と位置情報5 条件の差と「一連の過程」の認定6 結論と自判第5 実務上の意味1 有罪から無罪への破棄にも同じ基準が及ぶ2 控訴趣意書・答弁書での示し方3 過失犯の立証と訴因の組立て4 禁錮刑が維持された理由第6 出典・関連記事1 裁判例2 法令3 関連記事第7 よくある質問1 猪苗代湖ボート事故はなぜ無罪になったのか2 最高裁はなぜ逆転無罪を破棄したのか3 遊泳禁止区域であれば操縦者は責任を負わないのか4 最高裁は事件を差し戻したのか5 被告人は現在どうなっているのか6 事故で何人が亡くなり,何人が負傷したのか7 事故当時と現在の遊泳・航行ルールは同じか
第1 事案と判決の概要
1 本記事の対象と資料

令和8年10月16日,最高裁は,猪苗代湖ボート事故で被告人を無罪とした仙台高裁判決を破棄し,被告人の控訴を棄却して,禁錮2年の第1審判決を維持した。
高裁が一度無罪とした理由と,最高裁がその判断を覆した理由は異なるため,三審級の結論と証拠の評価を分けて読む必要がある。

仙台高裁は,被害者らを人として発見できたと認めるには疑いが残るとして無罪とした。
これに対し,最高裁は,第1審が複数の事情から視認可能性を推認した構造を高裁が分断して検討し,第1審の認定が不合理であることを十分に示していないと判断した。
詳しくは本記事の第3・第4及び第7のよくある質問で説明する。

本記事は,猪苗代湖で起きたプレジャーモーターボートの事故について,最高裁令和8年10月16日判決(令和7年(あ)第137号,業務上過失致死傷被告事件,最高裁判所第二小法廷)の判決全文を読み,控訴審が第1審の事実認定を覆すための基準を整理するものである。
資料は,裁判所ウェブサイトに掲載された同判決の全文(8頁)及び別紙図面並びに第1審判決と原判決の全文であり,令和8年10月17日に確認した。
同日時点で,裁判所ウェブサイトの同判決の詳細ページは,判示事項だけを掲げ,裁判要旨欄,参照法条欄及び判例集等巻・号・頁欄は空欄である。

2 事故の概要

第1審判決が認定した犯罪事実の要旨は,船長として本件船(プレジャーモーターボート)を操船していた被告人が,令和2年9月6日午前10時58分頃,猪苗代湖の中田浜湾内を時速約15ないし20kmで航行するに当たり,針路前方左右の見張りを厳に行わなかった過失により,ザップボードに乗るためにライフジャケットを着用して湖上に浮かんでいた被害者らに気付かないまま,船の後部の回転中のプロペラを接触させたというものである。
この事故により,当時8歳の被害者1名が死亡し,当時35歳の被害者1名が加療約237日間を要する両下腿不全切断等の傷害を,当時8歳の被害者1名が加療約142日間を要する傷害を負った。

3 三つの審級の結論
審級裁判所・裁判年月日・事件番号結論第1審福島地裁令和5年3月24日判決(令和3年(わ)第151号)過失を認め,禁錮2年の実刑(求刑は禁錮3年6月)控訴審(原審)仙台高裁令和6年12月16日判決(令和5年(う)第68号,第1刑事部)事実誤認を理由に第1審判決を破棄し,無罪上告審最高裁令和8年10月16日判決(令和7年(あ)第137号,第二小法廷)原判決を破棄し,被告人の控訴を棄却(第1審判決を維持)

第1審の裁判長は三浦隆昭裁判官,原審の裁判長は渡邉英敬裁判官である。
最高裁の裁判体は,裁判長裁判官高須順一,裁判官三浦守,裁判官岡村和美及び裁判官尾島明であり,判決は裁判官全員一致の意見によるもので,個別意見は付されていない。

第2 争点と第1審判決の判断構造
1 争点は過失の有無

第1審で,被告人は,事故の地点の周辺が船舶航行区域又はこれに近接する区域であったこと等から,人が目印や特段の動きもなく浮かんでいることを具体的に想定できず,衝突を回避できる地点で被害者らを人として発見することはできなかったと主張して,過失を争った。
第1審判決は,水面利用区分の明確な線引きや周知がされておらず,複数の水上バイクやトーイングボートが湾内を航行していたこと等から,事故の地点の周辺は湖上に浮かんでいる人の存在を想定できる水域であったと認定した。
その上で,被告人には,針路前方左右の見張りを厳に行い,針路上に浮遊物を視認した場合には人でないかを確認すべき注意義務があったとした。

2 死角と視認可能性

本件船は,増速の過程で一時的に船首部が持ち上がり,操縦席からの船首方の見通しが悪くなる性質を持ち,事故の直前には被害者らが船の死角に入っていた。
そのため,第1審判決の結論は,被害者らが死角に入るまでの間に,被告人が被害者らを「浮遊物として」視認できたかどうかにかかっていた。

3 四つの事情を積み重ねた推認

最高裁は,第1審判決の事実認定の判断構造を,次の四つの事情を積み重ねたものと理解した。
①実況見分で,被告人自身が約223m先の事故の地点に浮かぶマネキンを浮遊物として現に視認できたこと
②船が停泊状態にあったときに撮影された映像に,被害者らと推認される浮遊物が船の左前方に映っており,その時点で被害者らが死角に入っていなかったこと

(続きを読む...)猪苗代湖ボート事故の最高裁判決―逆転無罪を破棄した理由と禁錮2年(AI作成)

検務事務とは―勾留期間の計算,判決確定日,証拠品の還付,罰金の徴収,犯歴及び記録保管(AI作成)

目次

第1 検務事務の意味と本記事の資料1 検務事務とは2 事務の準則と担当部門3 資料の性質と基準日第2 事件事務1 事件の受理と事件番号2 事件処理の種類第3 令状事務と勾留期間の計算1 被疑者の勾留期間2 被告人の勾留期間と起算日3 保釈取消し後の残勾留期間の計算4 釈放と収容5 被害者の個人特定事項の秘匿第4 証拠品事務1 証拠品と押収2 領置番号,符号及び領置票3 立会封金と保管4 還付と還付公告5 国庫に帰属した証拠品の処分第5 執行事務1 裁判結果の把握2 判決確定日の数え方3 執行指揮をする検察官4 刑の起算日と未決勾留日数の通算5 呼出し,収容状及び執行停止第6 徴収事務1 徴収金の種類2 労役場留置の日数3 納付告知から強制執行まで第7 犯歴事務1 犯歴の把握方法2 刑の執行状況と市区町村長への通知3 前科照会と前科調書第8 記録事務1 保管・保存される記録の種類2 保管期間3 閲覧,謄本及び廃棄第9 弁護人・関係者が確認したい事項第10 関連記事第11 出典1 資料2 法令(令和8年10月17日時点のe-Gov法令検索の現行条文)
第1 検務事務の意味と本記事の資料
1 検務事務とは

検務事務とは,事件の受理から捜査,公判,刑の執行に至るまでの刑事手続に関連して生ずる様々な事務の総称である(法務総合研究所『六訂 検務事務入門』(令和6年3月)本文1頁(PDF9頁))。
同書は,検察庁の事務を検察事務と検察行政事務に大別し,検察事務を,その中核をなす捜査及び公判に関する事務と,検務事務とに分けている。
起訴・不起訴を決めるのは検察官であるが,事件の受理から刑の執行,罰金の徴収,前科の把握及び記録の保管までの手続を事務の面で支えるのが検務事務である。

同書は,検務事務を次の10種類に分けている(本文1頁~2頁(PDF9頁~10頁))。
① 事件事務(事件の受理及び処理に関する事務)
② 令状事務(令状の請求及び執行に関する事務)
③ 証拠品事務(証拠品の受入れ,保管及び処分に関する事務)
④ 執行事務(死刑及び自由刑の執行に関する事務)
⑤ 徴収事務(罰金,科料等の徴収金の徴収に関する事務)
⑥ 犯歴事務(犯歴の把握及び調査に関する事務)
⑦ 記録事務(刑事確定訴訟記録,裁判書原本等の管理に関する事務)
⑧ 恩赦事務
⑨ 統計事務
⑩ 報告事務(事件報告,統計報告等の法務大臣等に対する報告)

2 事務の準則と担当部門

検務事務の取扱手続は,法務大臣訓令で大綱が定められ,各庁の訓令・通達で詳細が定められている(本文3頁(PDF10頁))。
同書は,大臣訓令として,事件事務規程,証拠品事務規程,執行事務規程,徴収事務規程,犯歴事務規程,記録事務規程,恩赦上申事務規程等の12の規程を挙げている。

地方検察庁及び区検察庁の検務部門には,平成13年4月の組織改編により,検務監理官を始めとする統括検務官,検務専門官等の専門官制が導入された(本文2頁(PDF10頁))。
検務事務を担当する部門の構成は,部の置かれた庁(部制庁)か否か等,庁の規模によって異なる。
検察事務官の職務全体については,検察事務官とはを参照されたい。

同書は,被疑者の身柄を法定の期間又は時間を超えて拘束したり,押収した証拠品を紛失したりする過誤は絶対に許されないとして,検務事務に従事する職員に,刑事訴訟法を中心とする刑事関係法規と各種の訓令・通達の習得を求めている(本文4頁(PDF11頁))。

3 資料の性質と基準日

『六訂 検務事務入門』は,法務総合研究所が検察事務官初等科研修の教材として作成した資料である。
昭和60年2月の初版から,平成2年3月の改訂版,平成7年3月の三訂版,平成14年3月の四訂版及び平成26年3月の五訂版を経て,令和6年3月に六訂版が発行された(奥付)。
六訂版のはしがきは,五訂版を基に,その後の検務関係事務規程の改正に伴って関連部分を書き改めたものと説明している。

本記事は,同書の記載を基本とし,法令の条文は令和8年10月17日時点のe-Gov法令検索の現行条文で確認した。
同書は令和6年3月の資料であるため,その後の次の変更に注意する必要がある。

(続きを読む...)検務事務とは―勾留期間の計算,判決確定日,証拠品の還付,罰金の徴収,犯歴及び記録保管(AI作成)

DNA型鑑定とは―仕組み・費用・精度と裁判での扱い(AI作成)

目次

第1 DNA型鑑定とは何か1 DNA鑑定とDNA型鑑定は違うものか2 個人識別と血縁鑑定の違い第2 鑑定の仕組みと検体1 STR型検査の基本的な流れ2 どのような検体を使うか第3 DNA鑑定の費用と期間1 DNA鑑定の費用はいくらか2 結果は何日で出るか第4 DNA鑑定は信用できるか1 一般的な識別能力と個別の結果を分ける2 微量な試料と混合試料の注意点3 再鑑定のために何を残すか第5 日本ではDNA鑑定は禁止されているか第6 鑑定結果は裁判でどのように扱われるか第7 親子・兄弟関係と相続は鑑定だけで変わるか第8 依頼前と結果受領後に確認すること第9 関連記事第10 出典
第1 DNA型鑑定とは何か

DNA型鑑定は,DNAのうち人によって違いがある部分を調べ,資料の由来が同じ人物かどうか,生物学的な血縁関係があるかどうかを検討する鑑定である。
刑事事件の個人識別だけでなく,親子・兄弟姉妹などの血縁鑑定や,身元不明者の確認にも利用される。

本記事では,令和8年10月16日に確認した警察庁の指針,学会の指針,大学の解説,裁判例及び鑑定機関の料金表示を基に,依頼する前と結果を読む際の注意点を整理する。
鑑定結果が示す科学的な情報と,犯罪の成否や法律上の親子関係という法的な結論は,分けて考える必要がある。

1 DNA鑑定とDNA型鑑定は違うものか

「DNA鑑定」と「DNA型鑑定」は,個人識別や血縁関係の確認という文脈では重なる意味で使われる。
千葉大学の解説は,DNA全体の塩基配列を調べるのではなく,多型のある部分の型を調べることから,DNA型鑑定と呼んでいる。

ただし,DNAという語を使う検査がすべて同じ目的・方法であるわけではない。
警察庁の指針が対象とするDNA型鑑定は,遺伝病等の特定の遺伝形質の有無や内容を分析する鑑定ではない。
体質や疾患に関する遺伝子検査と,個人識別のための鑑定を混同しないことが大切である。

2 個人識別と血縁鑑定の違い
目的比較するもの結果を読むときの注意個人識別現場等の資料と対照資料のDNA型同じ人物由来かという問題と,いつ・どのように付着したかという問題を分ける親子鑑定親子とされる人のDNA型と遺伝様式生物学的な関係を評価するもので,戸籍を自動的に変更するものではない兄弟姉妹等の血縁鑑定想定される続柄に応じた複数人のDNA型親子鑑定と同じ検査条件・判断の確かさになるとは限らない
第2 鑑定の仕組みと検体
1 STR型検査の基本的な流れ

STRは,短い塩基配列の繰り返し回数に個人差がある部分である。
代表的なSTR型検査では,資料からDNAを取り出し,PCRで対象部分を増幅し,電気泳動等によって型を調べ,対照資料と比較する。
検査する領域や使用機器は方法によって異なり,古い解説の座位数や製品名を,すべての現在の鑑定に当てはめることはできない。

型が一致した場合も,一致という言葉だけで評価を終えず,検査できた範囲と,その型が集団内に現れる頻度等を確認する。
日本DNA多型学会の2019年指針も,異同識別では偶然に同じ型を持つ確率等を計算し,評価することを勧めている。

2 どのような検体を使うか

口腔内細胞,血液・血痕,唾液,毛根鞘の付いた毛髪,骨,歯などが鑑定の対象となり得る。
ただし,対象となり得ることと,その検体から十分な情報を得られることは同じではない。
資料の量,劣化,保管状況,他人由来のDNAの混入などが結果に影響する。

使用済みの物から検査できる場合でも,その物が誰のものか,誰が使用したか,誰が採取・保管したかを確認しなければならない。
検査の技術的な可否とは別に,所持品の取得や検体の提供について,同意・権限等の問題が生じる。

第3 DNA鑑定の費用と期間
1 DNA鑑定の費用はいくらか

費用は鑑定の目的と条件によって異なる。

(続きを読む...)DNA型鑑定とは―仕組み・費用・精度と裁判での扱い(AI作成)

検察審査会に選ばれたら―通知・質問票,辞退,任期,日当及び選ばれる確率(AI作成)

目次

第1 通知が届いたら,まずどの段階かを確認する1 候補者になった通知と,検察審査員に選ばれた通知は違う2 検察審査会は,不起訴処分の当否を審査する第2 誰が選ばれ,選ばれる確率はどのくらいか1 選挙権を有する人からくじで選ぶ2 公式案内の「約1万4000分の1」は,全国の概算である3 法律の知識や特別な経験がなくても参加できる第3 候補者名簿の通知と質問票にはどう対応するか1 名簿への記載通知は例年11月に送られる2 質問票には,資格や辞退に関係する事情を正確に記載する3 質問票を返さなければ,選ばれなくなるわけではない第4 検察審査会を辞退できるか1 原則として参加する義務があり,法律上の辞退事由がある2 候補者の段階では,質問票等で事情を申し出る3 選ばれた後に出席できない日ができたら,事務局に連絡する第5 任期,開催回数及び日当はどうなっているか1 任期は6か月で,3か月ごとに約半数が交代する2 日当の上限は1日8750円で,旅費等も別に扱われる3 初回の通知で集合日時と持参品を確認する第6 秘密やSNSについて何に注意するか1 会議の内容や他の人の意見を漏らしてはならない2 経験を話す場合も,秘密に当たる内容を含めない第7 主な参照資料
第1 通知が届いたら,まずどの段階かを確認する
1 候補者になった通知と,検察審査員に選ばれた通知は違う

検察審査会から通知が届いたときは,「候補者名簿に記載された段階」なのか,「検察審査員又は補充員に選ばれた段階」なのかを,書面の表題と内容で確認する。
候補者名簿に記載されたという通知だけで,直ちに検察審査会に出向く必要が生じるわけではない。
本稿は,令和8年10月15日に確認した裁判所の案内及び検察審査会法に基づくものであり,具体的な提出日・集合日時・持参品は,届いた通知に従って確認されたい。

届いた書面等主な意味最初に確認すること候補者名簿への記載通知検察審査員・補充員を選ぶ母集団に入ったという通知自分の群,通知の説明,質問票の送付時期質問票資格や辞退事由等を調べるための書面回答方法,返送期限,記載すべき事情選定結果・招集に関する通知検察審査員又は補充員に選ばれた後の連絡任期,日時,場所,持参品,連絡先
2 検察審査会は,不起訴処分の当否を審査する

検察審査会は,くじで選ばれた11人の市民が,検察官の不起訴処分が適切かを審査する機関である。
補充員は,検察審査員に欠員が生じた場合等に備えて選ばれる。
補充員も検察審査会議に出席する必要がある。
裁判で有罪・無罪や刑を裁判官とともに決める裁判員とは,役割が異なる。
制度そのものは,検察審査会とは―役割,裁判員との違い,申立てと強制起訴の流れ(AI作成)で説明している。

第2 誰が選ばれ,選ばれる確率はどのくらいか
1 選挙権を有する人からくじで選ぶ

検察審査員は,その検察審査会の管轄区域内で衆議院議員の選挙権を有する人の中から,くじで選ばれる(検察審査会法4条)。
令和5年第1群以降は,18歳・19歳の人も選ばれる対象となっている。
法律に詳しい人だけを選ぶ制度ではなく,応募すれば誰でもなれる制度でもない。
資格の制限,特定の職業に関する就職禁止,事件との関係による除斥などの規定がある(同法5条から7条まで)。

候補者名簿は各検察審査会で4つの群に分け,各群100人とする仕組みである(同法9条2項)。
最終的な選定では,質問票等により資格や辞退事由を確認する。
候補者の人数から機械的に割り算をして,自分が選ばれる確率を断定することは適切でない。

2 公式案内の「約1万4000分の1」は,全国の概算である

裁判所のQ&Aでは,検察審査員又は補充員に選ばれる人数は全国で年間約7300人,選挙権を有する人全体に対する確率は約1万4000分の1,約0.007%と説明されている。
これは全国の選挙権者を基にした概算であり,既に候補者通知が届いた人が,その後に選ばれる確率を示すものではない。
また,特定の年・地域・個人について同じ確率を保証する数字でもない。

3 法律の知識や特別な経験がなくても参加できる

裁判所の案内では,検察審査員に法律の知識や特別な経験は必要ないとされている。
必要に応じて,弁護士である審査補助員から法律上の助言を受ける仕組みがある。
一人だけで結論を決めるのではなく,資料を読み,他の検察審査員と話し合って判断する。

(続きを読む...)検察審査会に選ばれたら―通知・質問票,辞退,任期,日当及び選ばれる確率(AI作成)

検察審査会とは―役割,裁判員との違い,申立てと強制起訴の流れ(AI作成)

目次

第1 検察審査会は何をするところか1 不起訴処分が適切かを市民が審査する2 裁判員とは何が違うか3 知りたい内容に応じた案内第2 誰が,どこに審査を申し立てられるか1 被害者,告訴・告発をした者などが申し立てられる2 不起訴処分をした検察官が所属する検察庁に対応する審査会へ提出する3 申立て自体は無料で,弁護士への依頼は必須ではない第3 申立書には何を書き,何に注意するか1 不起訴処分と不服の理由を具体的に示す2 固定の申立期限がなくても,公訴時効に注意する3 審査が終わるまでの全国一律の所要期間は示せない第4 議決後はどうなるか―3つの議決と強制起訴1 最初の審査の議決は3種類である2 起訴相当の後に,再び審査する場合がある3 強制起訴には法的な効力があるが,有罪を確定させるものではない第5 よくある疑問と統計の読み方1 議決後に,同じ事件を何度でも申し立てられるか2 起訴につながる確率は,どの数字を見るかで違う3 議決書や関係記録は,すべて公開されるか第6 主な参照資料
第1 検察審査会は何をするところか
1 不起訴処分が適切かを市民が審査する

検察審査会は,検察官が事件を起訴しなかった判断の当否を,くじで選ばれた11人の市民が審査する機関である。
検察事務の改善について建議・勧告をする役割もあり,検察官から独立して職権を行う。
全国に165か所設置されている。
本稿は,令和8年10月15日に確認した裁判所の制度案内及び検察審査会法に基づき,制度の全体像を説明する。

不起訴になった事件について,申立てを受けて審査するほか,過半数の議決により職権で審査することもできる。
被害者等に代わって損害賠償を請求する機関ではなく,不起訴処分の審査と民事上の損害賠償請求は別の手続である。

2 裁判員とは何が違うか

検察審査会と裁判員制度は,市民が刑事司法に参加する点では共通するが,判断する段階と内容が違う。
検察審査会は不起訴処分の当否を審査し,裁判員は起訴後の一定の刑事裁判で裁判官とともに有罪・無罪や刑を判断する。

比較事項検察審査会裁判員制度判断する段階検察官が不起訴にした後検察官等が起訴した後の裁判主な判断対象不起訴処分の当否対象事件の有罪・無罪及び刑参加の形検察審査員11人で審査する裁判員が裁判官とともに審理・評議する任期・担当検察審査員の任期は6か月選ばれた事件の裁判を担当する

検察審査会の「起訴相当」や「起訴議決」は,有罪判決ではない。
起訴後の有罪・無罪は,裁判所が証拠に基づいて判断する。

3 知りたい内容に応じた案内

候補者の通知や質問票が届いた人は,検察審査会に選ばれた場合の通知・辞退・日当等の説明(AI作成)を参照されたい。
以下では,不起訴処分に不服がある人に向けて,申立てと議決後の流れを説明する。

第2 誰が,どこに審査を申し立てられるか
1 被害者,告訴・告発をした者などが申し立てられる

申立てができるのは,告訴又は告発をした者,請求を待って受理すべき事件について請求をした者,犯罪により害を被った者である。
被害者が死亡した場合には,その配偶者,直系の親族又は兄弟姉妹も申し立てることができる(検察審査会法2条2項)。
事件に関心を持ったというだけで,誰でも申立人になれるわけではない。
また,内乱に関する罪や独占禁止法違反の罪に係る事件は,審査の対象から除かれる(同法30条ただし書)。

被害者は,告訴をしていなくても,法律上の申立適格があれば申し立てることができる。
一方,被疑者本人が自分に対する不起訴理由を争うための制度ではない。
申立ての対象や申立人の範囲に迷う場合は,事務局に事情を説明して確認することが有用である。

2 不起訴処分をした検察官が所属する検察庁に対応する審査会へ提出する

原則として,不起訴処分をした検察官が所属する検察庁の所在地を管轄する検察審査会に申し立てる(検察審査会法30条)。
複数の検察審査会が置かれている地域もあるため,名称と提出先は,裁判所の全国検察審査会一覧で確認されたい。

(続きを読む...)検察審査会とは―役割,裁判員との違い,申立てと強制起訴の流れ(AI作成)

検察庁の弁護人選任届・証拠開示等システムとは―一括登録,事件単位登録及び事件別サイト(AI作成)

目次

第1 検察庁のシステムで何が変わるか第2 二つのサイトを区別する1 弁護人選任届提出用サイト2 事件別サイト第3 一括登録と事件単位登録第4 一括登録の日程第5 登録できるメールアドレス第6 すべての証拠がオンラインになるわけではない第7 法律上の証拠開示とシステム操作を分ける第8 受領・提出時の確認事項第9 よくある質問1 一括登録をすれば全国の証拠を閲覧できますか2 事件単位登録はいつから利用できますか3 すべての証拠をダウンロードできますか4 裁判所のLinKageCourtsと同じアカウントですか第10 関連記事第11 出典
第1 検察庁のシステムで何が変わるか

検察庁は,刑事手続のデジタル化に対応するため,Microsoft SharePointを用いた「弁護人選任届提出及び証拠開示等システム(仮称)」を準備している。
このシステムは,弁護人選任届をオンラインで提出する入口と,個別事件について証拠を受領し,弁護側の意見書・証拠等を提出する入口を分けている。

日弁連会員向け資料によれば,弁護士の登録方法には,日弁連を通じてあらかじめ全国利用のアカウントを登録する一括登録と,個別事件の発生後に担当検察庁で登録する事件単位登録が予定されている。
もっとも,アカウント登録が済んだことと,特定事件の事件別サイトを利用できることは同じではない。

第2 二つのサイトを区別する
1 弁護人選任届提出用サイト

弁護人選任届提出用サイトは,検察庁へ弁護人選任届を電子的に提出するための入口である。
一括登録を済ませた弁護士は,全国の検察庁に対する選任届提出用サイトを利用できる予定である。

ただし,選任届の提出に利用できることから,直ちに個別事件の証拠へアクセスできるわけではない。
選任届を提出した事件について,検察官又は検察事務官による確認と事件別サイトへの招待が必要となる。

2 事件別サイト

事件別サイトは,個別事件ごとに開設されるSharePoint上の領域である。
弁護人は,招待を受けた事件別サイトで,開示証拠の受領・閲覧・ダウンロード,弁護側の意見書・証拠その他の資料の提出等を行う予定である。

事件別サイトは,検察官又は検察事務官からの招待によって利用できる。
一括登録済みであっても,全事件の事件別サイトが一覧で自動的に利用可能になるわけではない。

第3 一括登録と事件単位登録
項目日弁連を通じた一括登録担当検察庁での事件単位登録利用開始の考え方施行前に登録を準備する事件発生後に個別登録する利用範囲全国の弁護人選任届提出用サイト原則として登録対象の事件申請先日弁連当該事件を担当する検察庁本人確認日弁連が登録情報を確認する弁護士記章その他の本人確認資料による事件別サイト個別事件ごとに別途招待が必要登録対象事件について招待を受ける所要期間月次処理のため余裕が必要原則として当日又は翌開庁日の処理が想定される

一括登録は,今後の事件に備えて共通アカウントを準備する手続である。
事件単位登録は,必要な事件が生じた後に,その事件について利用できる状態を整える手続である。

緊急事件で一括登録の反映を待てない場合には,事件単位登録を利用し,併せて一括登録情報の変更・更新を行うことが想定されている。
登録方法と事件への招待は別工程として記録する必要がある。

第4 一括登録の日程

日弁連会員向け案内では,令和8年10月から一括登録の受付が開始されている。
令和8年11月30日までの初回受付分については,令和9年1月以降,検察庁から招待メールを順次送る予定とされている。

初回期限後も一括登録を申し込むことはできる。
その場合,毎月1日までの申込分を日弁連が同月15日頃に検察庁へ提供し,検察庁が月末までに登録する流れが示されており,申込みから利用可能となるまで最大約2か月を要する場合がある。

したがって,一括登録を選ぶ場合は,事件の期限が迫ってから申し込むのではなく,利用開始前に余裕をもって登録する必要がある。
登録完了予定だけでなく,実際に招待メールを受信し,ログインできることまでを確認する。

(続きを読む...)検察庁の弁護人選任届・証拠開示等システムとは―一括登録,事件単位登録及び事件別サイト(AI作成)

LinKageCourtsとは―刑事・少年事件の電子申立て,利用者登録,GビズIDとLinKageID(AI作成)

目次

第1 LinKageCourtsの位置付け第2 LinKageCourtsで予定されている手続第3 二つの利用者登録方法第4 GビズIDを利用する場合1 GビズIDプライムを事前に取得する2 事務職員へ権限を付与する第5 LinKageIDを利用する場合第6 mints・TreeeS及び検察庁システムとの違い1 mints・TreeeSとの違い2 検察庁システムとの違い3 警察システムとの違い第7 法律事務所で準備する事項第8 よくある質問1 LinKageCourtsはいつから登録できますか2 GビズIDは必須ですか3 GビズIDを持っていれば直ちに利用できますか4 mintsと同じシステムですか第9 関連記事第10 出典
第1 LinKageCourtsの位置付け

LinKageCourtsは,刑事事件及び少年事件について,裁判所への電子申立て,裁判所からの通知・送達,証拠等のデータ提出,訴訟記録の閲覧・謄写その他の手続をオンラインで行うための裁判所の利用者向けシステムである。
日弁連会員向け資料によれば,弁護士の利用者登録は令和9年3月上旬から開始される予定である。

刑事手続デジタル化の主要規定が施行されても,利用者登録,弁護士資格の確認及び個別事件の対象判定が完了しなければ,直ちにすべての機能を利用できるわけではない。
法令上の施行日,対象事件の拡大時期,システムの利用者登録及び個別事件へのアクセス権限を分けて確認する必要がある。

第2 LinKageCourtsで予定されている手続

LinKageCourtsでは,刑事・少年事件に関する次の手続が予定されている。

① 裁判所への申立書その他の書類の電子提出。
② 証拠その他の資料のデータ提出。
③ 裁判所からの通知,送達及び文書の受領。
④ 許可された訴訟記録のオンライン閲覧・謄写。
⑤ 証明書の交付申請その他の事件関係手続。

これらは同じシステム上の機能であっても,個別の法的根拠,利用開始時期及び対象事件は同一とは限らない。
例えば,記録が電子化されていることと,その記録を特定の利用者がオンラインで閲覧できることは別の問題である。

改正後の刑事訴訟法40条の2は,裁判所のファイルに記録された訴訟に関する書類又は証拠物について,弁護人が裁判長の許可を受けて,裁判所の規則で定める電磁的方法により閲覧・謄写する制度を設けている。
LinKageCourtsの利用者登録,個別事件へのアクセス権限及び記録の閲覧・謄写の許可は,同じものではない。
改正後の40条3項の謄写禁止は40条の2による謄写にも準用されるため,画面で閲覧できる記録をすべてダウンロードできるとは限らない。

また,裁判書の内容を閲覧・謄写することと,改正後の46条2項により内容と同一であることの証明がされた裁判書の提供を請求することも別の手続である。
証明付きの電子データによる提供の費用(1件8400円)と紙の謄本との違いは,刑事判決書の電子交付は8400円?―閲覧・謄写,紙の謄本との違い(AI作成)で説明している。

第3 二つの利用者登録方法

弁護士がLinKageCourtsを利用するための登録方法には,GビズIDを連携する方法と,LinKageIDを直接取得する方法が予定されている。

項目GビズIDを利用する方法LinKageIDを利用する方法登録の入口GビズIDプライムを取得し,LinKageCourtsと連携するLinKageCourtsへ直接利用者登録する登録開始予定令和9年3月上旬令和9年3月上旬事務職員による代理操作GビズIDメンバーを利用して可能となる予定予定されていない弁護士資格の確認GビズIDとは別に必要登録時に必要事前準備GビズIDプライムは事前取得できるLinKageCourtsの登録開始後に手続する

GビズIDを取得しただけでは,弁護士資格の確認が完了したことにはならない。
また,令和8年10月15日現在,GビズIDのサービス一覧にLinKageCourtsが表示されていなくても,利用者登録開始前であることと矛盾しない。

第4 GビズIDを利用する場合
1 GビズIDプライムを事前に取得する

GビズIDは,複数の行政サービスへ共通してログインするための認証基盤である。
LinKageCourtsでは,GビズIDプライムを取得した弁護士が,サービスとの連携を行う方法が予定されている。

マイナンバーカードを利用するオンライン申請と,書面を用いる申請では,発行までに要する期間が異なる。

(続きを読む...)LinKageCourtsとは―刑事・少年事件の電子申立て,利用者登録,GビズIDとLinKageID(AI作成)

刑事手続デジタル化はいつから始まるか―令和9年3月から7月までの地域・罪名別スケジュール(AI作成)

目次

第1 刑事手続デジタル化は一斉には始まらない第2 法律の施行日と対象事件の拡大日は異なる第3 令和9年3月から7月までの四段階第4 誰の電子申立てが義務になるか1 検察官2 司法警察職員3 弁護人及び被告人第5 個別事件で確認する順序第6 よくある質問1 刑事手続のデジタル化はいつからですか2 令和9年3月から全国の事件が対象になりますか3 紙で提出することはできなくなりますか4 すべての証拠をオンラインで受け取れますか第7 関連記事第8 出典
第1 刑事手続デジタル化は一斉には始まらない

刑事手続のデジタル化を定める「情報通信技術の進展等に対応するための刑事訴訟法等の一部を改正する法律」(令和7年法律第39号)は,令和7年5月16日に成立し,同月23日に公布された。
しかし,同法の規定は一度に全面施行されるのではなく,規定ごとに施行時期が異なる。

書類の電子化,電子令状,電子的な申立て・通知・送達及び証拠のオンライン授受等の主要規定は,令和9年3月31日までの間において政令で定める日に施行される。
さらに,主要規定の施行後も,電子的な方法の対象となる事件は,地域と罪名に応じて令和9年7月12日まで段階的に拡大される予定である。

したがって,「刑事手続デジタル化はいつからか」という質問には,法律上の施行日だけでなく,当該事件が対象事件となる日も確認しなければ答えられない。
本記事は,令和8年10月15日現在の日弁連会員向け資料に基づき,その判断順序を整理する。

第2 法律の施行日と対象事件の拡大日は異なる

法律の施行日は,改正規定が法的効力を持つ日である。
これに対し,対象事件の拡大日は,施行された規定のうち電子的な方法に関する部分が,どの地域・罪名の事件へ適用されるかを判断するための日である。

令和9年3月までに主要規定が施行される予定であっても,その日から全国の全事件で弁護人が同じ方法により電子申立てを行うわけではない。
施行段階,事件の地域,罪名,起訴前か起訴後か,公訴提起が紙でされたか電子的にされたかを分けて確認する必要がある。

また,裁判所の事件管理システム,検察庁の弁護人選任届・証拠開示等システム及び警察の告訴告発等システムは別のシステムである。
一つのシステムで利用者登録が済んだことから,他のシステムも利用できるとは限らない。

第3 令和9年3月から7月までの四段階

日弁連会員向け資料が示す段階的施行の予定は,次のとおりである。
第1段階の開始日は「令和9年3月」とされているため,具体的な政令日が公表されたときは,その日を改めて確認する必要がある。

段階期間全事件が対象となる地域覚醒剤単純使用・所持事件が対象となる地域第1段階令和9年3月の主要規定施行日から同年5月9日までなし東京・神奈川・埼玉・千葉第2段階令和9年5月10日から同年6月13日まで東京・神奈川・埼玉・千葉大阪・愛知・広島・福岡・宮城・北海道・香川を追加第3段階令和9年6月14日から同年7月11日まで前記11地域全国第4段階令和9年7月12日以降全国全国

第2段階では,東京都,神奈川県,埼玉県及び千葉県の全事件が対象となる。
これに加え,大阪府,愛知県,広島県,福岡県,宮城県,北海道及び香川県では,覚醒剤の単純使用・所持事件が対象となる。

第3段階では,これら11地域の全事件が対象となり,それ以外の地域でも覚醒剤の単純使用・所持事件が対象となる。
第4段階に入る令和9年7月12日以降は,全国の全事件が対象となる予定である。

第4 誰の電子申立てが義務になるか
1 検察官

対象事件については,検察官による裁判所への申立て等は電子的な方法によることが原則となる。
対象事件かどうかは,前記の段階,地域及び罪名によって判断する。

2 司法警察職員

司法警察職員による裁判所への申立て等については,電子的な方法を利用できるとしても,検察官と同じ範囲で直ちに電子的方法が義務になるわけではない。
警察のシステムの詳細は令和8年10月15日現在では十分に公表されていないため,実際の受付方法は対象事件と担当機関の案内を確認する必要がある。

(続きを読む...)刑事手続デジタル化はいつから始まるか―令和9年3月から7月までの地域・罪名別スケジュール(AI作成)

ロシアFSB(連邦保安局)が外国人記者をスパイ容疑で拘束する国内法上の根拠―刑法276条と刑事手続(AI作成)

目次

第1 結論1 国内法上の根拠は四つの段階に分かれる2 記者であることだけでは刑事免責にならない第2 外国人に適用される刑法276条1 ロシア国民の国家反逆罪とは主体が異なる2 国家秘密だけが対象とは限らない3 法定刑と自首等による免責第3 FSBが捜査を担当する根拠1 FSB法13条の権限2 刑事訴訟法151条の捜査管轄第4 最初の拘束から裁判所の勾留決定まで1 刑事訴訟法91条の拘束要件2 拘束記録,弁護人及び通知3 48時間と裁判所の勾留決定第5 取材の自由と刑事責任の境界1 情報収集権にも法律上の限定がある2 マスメディア法51条とスパイ罪を混同しない第6 国家秘密事件で公開情報が少なくなる理由1 非公開審理の法的根拠2 発表,主張,裁判所の認定及び不明点を分ける第7 ゲルシュコビッチ事件から分かること1 ロシア検察の発表2 反対見解とその後の経過第8 外国での記者拘束報道を読むときの確認事項1 法令と個別事件の立証を分ける2 日本の弁護士実務への示唆第9 出典及び関連記事
第1 結論
1 国内法上の根拠は四つの段階に分かれる

ロシア連邦保安局(FSB)が外国人記者をスパイ容疑で拘束する国内法上の根拠は,①ロシア刑法276条が外国人又は無国籍者によるスパイ行為を犯罪とすること,②FSB法13条及び刑事訴訟法151条がこの犯罪の捜査をFSBの権限とすること,③刑事訴訟法91条及び92条が被疑者の一時的な拘束の要件と手続を定めること,④同法108条が裁判所の決定による勾留を定めることにある。
報道で一括して「拘束」又は「逮捕」と表現されても,ロシア法上の最初の身柄拘束(задержание)と,裁判所が選択する身柄拘束処分(заключение под стражу)は別の段階である。

2 記者であることだけでは刑事免責にならない

ロシア憲法29条とマスメディア法47条は,情報を適法な方法で探索し,取得し,伝達する自由及び記者の取材権を定めている。
しかし,同条は国家秘密等を含む文書へのアクセスを例外とし,記者という身分そのものに刑法276条の適用を排除する免責を与えていない。
したがって,国内法上の権限があることと,個別事件で犯罪の要件が証拠により立証されたことは分けて考える必要がある。

第2 外国人に適用される刑法276条
1 ロシア国民の国家反逆罪とは主体が異なる

ロシア刑法276条は,外国人又は無国籍者が同条所定の行為をした場合をスパイ罪としている。
これに対し,刑法275条の国家反逆罪はロシア国民を主体とし,スパイ行為,国家秘密の提供,敵側への移行及び外国の国家・組織等への援助を処罰対象とする。
外国人記者の事件で276条が示されるのは,職業が記者だからではなく,被疑者が外国人又は無国籍者であるという主体要件による。

2 国家秘密だけが対象とは限らない

刑法276条は,第一に,外国国家,国際機関若しくは外国組織又はその代表者へ渡す目的で,国家秘密に当たる情報を伝達し,収集し,窃取し,又は保管する行為を対象とする。
第二に,外国情報機関又はその利益のために行動する者の指示に基づき,ロシア連邦の安全に反して利用するための「その他の情報」を伝達し,又は収集する行為も対象とする。
第三に,武力紛争,軍事行動その他ロシア連邦が武器・軍事装備を用いる行動の状況下では,ロシア軍等に不利に利用され得る情報を敵へ渡す目的で伝達し,収集し,窃取し,又は保管する行為も定める。
このため,問題となる情報が形式上の国家秘密に指定されているかだけでなく,情報の種類,収集又は伝達の態様,依頼者,目的及び利用先が条文上のどの類型に当たると主張されているかを確認しなければならない。

3 法定刑と自首等による免責

刑法276条の法定刑は10年以上20年以下の自由剥奪である。
刑法15条5項は,10年を超える自由剥奪刑等が定められた故意犯を特に重大な犯罪に分類しているため,276条は刑事訴訟法108条が勾留の対象とする犯罪類型に入る。
また,刑法275条の注記3は276条にも適用され,任意かつ適時の当局への申告その他の方法でロシア連邦の利益に対するさらなる損害の防止に寄与し,かつ他の犯罪が成立しない場合には刑事責任を免れると定める。

第3 FSBが捜査を担当する根拠
1 FSB法13条の権限

FSB法13条は,FSBに対し,スパイ行為を発見し,予防し,阻止し,解明するための捜索・捜査活動を行う権限を与える。
同条は,法令によりFSBの管轄とされた犯罪について,照会及び予備捜査を行い,法令に従って拘置施設を使用する権限も定めている。
ただし,FSB法13条だけで身柄拘束の全要件が完結するわけではなく,刑事手続上の拘束は刑事訴訟法の要件に従う。

2 刑事訴訟法151条の捜査管轄

ロシア刑事訴訟法151条2項2号は,刑法275条から280条の2までの犯罪等について,FSBの捜査官が予備捜査を担当すると定めており,276条もこの範囲に含まれる。

(続きを読む...)ロシアFSB(連邦保安局)が外国人記者をスパイ容疑で拘束する国内法上の根拠―刑法276条と刑事手続(AI作成)

不起訴理由の違いと確認方法―罪とならず・嫌疑なし・嫌疑不十分・起訴猶予,処分通知と理由告知(AI作成)

目次

第1 不起訴の結果と理由を分けて確認する1 不起訴は無罪判決とは異なる2 一人の一事件でも処分を一括りにしない第2 主要な不起訴理由の違い1 四つの区分の比較2 罪とならずと証拠の不足は別の問題である3 起訴猶予と示談の関係4 不起訴理由は四種類だけではない第3 処分の告知・通知は立場により異なる1 被疑者への不起訴処分の告知2 告訴人・告発人等への処分通知3 告訴人・告発人等が不起訴理由を知りたい場合4 被害届を提出した被害者等への情報提供第4 担当検察庁へ確認するときの準備と伝え方1 事件の特定情報を整理する2 求める内容を立場に合わせて伝える3 請求・回答の経過を残す第5 不起訴と民事責任・刑事記録の取得1 不起訴だけで民事賠償の結論は決まらない2 通知書の取得と捜査記録の開示を分ける第6 説明を受けても納得できないとき第7 関連記事第8 出典
第1 不起訴の結果と理由を分けて確認する
1 不起訴は無罪判決とは異なる

不起訴は,検察官が公訴を提起しない処分であり,裁判所が審理して言い渡す無罪判決とは異なる。
同じ不起訴でも,犯罪が成立しない場合,証拠がない又は足りない場合,犯罪の嫌疑が認められても訴追を必要としないと判断された場合などがある。
「不起訴になった」という結果だけで,どの理由による処分かを決めつけないことが大切である。

検察庁の「捜査について」と事件事務規程75条は,不起訴の理由を区別して説明している。
本記事は令和8年10月14日時点で確認した刑事訴訟法,事件事務規程及び検察庁の公表資料に基づき,主要な理由と結果の確認方法を整理する。
具体的な事件では,処分をした検察庁,対象となった被疑事実及び実際の告知・通知内容を確認する必要がある。

2 一人の一事件でも処分を一括りにしない

複数の被疑事実又は罪名がある場合は,どの事実について,いつ,どのような処分がされたのかを分けて確認する。
一部が不起訴でも,別の事実について起訴されたり,捜査が続いたりする場合がある。
釈放されたこと,呼出しがしばらくないこと又は警察の聴取が終わったことだけから,不起訴処分の存在を推測することはできない。

第2 主要な不起訴理由の違い
1 四つの区分の比較

次の表は,事件事務規程75条2項16号・17号・18号・20号の主要な区分を要約したものである。
これらは検察官の不起訴裁定の主文の区分であり,民事責任の有無を決める分類ではない。

裁定の主文規程が定める内容の要旨確認の着眼点罪とならず犯罪の構成要件に該当しない,又は犯罪成立を阻却する事由が証拠上明確である場合。ただし刑事未成年・心神喪失の区分を除く。認定された事実と,犯罪成立に関する法律上の評価を分ける。嫌疑なし被疑者が行為者でないことが明白,又は犯罪の成否を認定すべき証拠がないことが明白である場合。行為者の特定に関する問題か,証拠の不存在に関する問題かを確かめる。嫌疑不十分犯罪の成立を認定すべき証拠が不十分である場合。どの要件に関する証拠が足りないのかを,得られた説明と資料から確認する。起訴猶予被疑事実が明白な場合に,性格・年齢・境遇,犯罪の軽重・情状,犯罪後の情況から訴追を必要としないと判断する場合。示談,弁償等の事情と,犯罪成立・証拠に関する判断を混同しない。
2 罪とならずと証拠の不足は別の問題である

「罪とならず」は,認定される事実が構成要件に該当しない場合など,犯罪の成立に関する区分である。
これに対し,「嫌疑不十分」は,犯罪の成立を認定するための証拠が不十分であるという区分である。
交通事故でも,注意義務違反がないと判断された場合と,事故態様等の証拠が足りない場合を,同じ説明に置き換えるべきではない。

「嫌疑なし」も,単に「有罪にする証拠が十分でない」という意味の言換えではない。
規程が区別する主文と,担当者から説明された具体的な内容を対応させて読む必要がある。
理由の表示だけから,通知書に書かれていない事実認定まで推測しないことが重要である。

3 起訴猶予と示談の関係

刑事訴訟法248条は,犯人の性格,年齢及び境遇,犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により,訴追を必要としないときは公訴を提起しないことができると定める。
事件事務規程の起訴猶予の区分も,これらの事情を判断要素としている。
示談や被害弁償は事件によって判断資料となるが,示談したことだけで必ず起訴猶予になるという一律の基準ではない。

否認している被疑者の意見書では,犯罪が成立しないという主張又は証拠が不足するという主張と,情状に関する説明を区別することが有用である。

(続きを読む...)不起訴理由の違いと確認方法―罪とならず・嫌疑なし・嫌疑不十分・起訴猶予,処分通知と理由告知(AI作成)

即決裁判手続に同意してよいか―対象事件,弁護人,同意撤回と上訴制限(AI作成)

目次

第1 同意の前に通常の裁判との違いを確認する第2 対象事件と検察官による説明1 どの事件で申し立てることができるか2 説明を受けてから本人が判断する第3 弁護人の選任と証拠の確認1 在宅事件でも問題となる特別の国選選任2 弁護人の意見留保と後の同意確認3 証拠を見る前に結論を急がない第4 公判での判断と同意の撤回1 有罪の陳述と裁判所の決定2 判決前には同意又は有罪の陳述を撤回できる第5 証拠調べ,刑及び上訴制限1 伝聞法則の特則と証拠への異議2 拘禁刑の場合は全部の執行猶予が必要である3 罪となるべき事実の誤認を後から争うことに制限がある第6 最高裁判決が示す手続保障と意思疎通1 法廷意見の判断2 補足意見と弁護人の説明第7 同意前の確認事項と出典
第1 同意の前に通常の裁判との違いを確認する

即決裁判手続は,明白かつ軽微な事件について,簡略な証拠調べにより,できる限り即日に判決を言い渡すための刑事裁判の手続である。
拘禁刑を言い渡す場合には全部の執行猶予が必要である一方,判決に示された罪となるべき事実の誤認を理由とする控訴には制限がある。
早く終わることだけで同意を決めず,認める犯罪事実,証拠,刑の見通し及び上訴制限を弁護人と確認する必要がある。

本記事は,令和8年10月14日現在の刑事訴訟法350条の16から350条の29まで等を基準に説明する。
罰金又は科料を公判前に書面で科す略式手続や,交通事件即決裁判手続法の制度とは異なる。
略式命令に対する正式裁判請求は,刑事事件の略式手続を参照されたい。

比較する点略式手続刑訴法の即決裁判手続基本となる審理公判前の書面審理公判期日を開く意思の確認被疑者が略式手続に異議がない旨を書面で示す本人の同意と弁護人の関与。有罪の陳述も必要刑100万円以下の罰金又は科料。付随処分等もあり得る拘禁刑なら全部の執行猶予が必要不服申立て告知から14日以内の正式裁判請求罪となるべき事実の誤認を理由とする控訴に制限
第2 対象事件と検察官による説明
1 どの事件で申し立てることができるか

刑事訴訟法350条の16第1項は,事案が明白かつ軽微であること,証拠調べが速やかに終わる見込みその他の事情を考慮し,相当と認めるとき,検察官が起訴と同時に書面で申し立てることができると定めている。
死刑,無期又は短期1年以上の拘禁刑に当たる事件は対象から除かれる。
犯罪の名称だけで対象と決めず,適用条文,法定刑,事実関係及び証拠関係を確認する必要がある。

検察官が適切と考えるだけで手続が確定するわけではない。
本人の同意,弁護人の関与及び裁判所の判断が必要であり,裁判所は手続によることができない又は相当でない事件を通常の審判と区別する。

2 説明を受けてから本人が判断する

同条2項は,被疑者が即決裁判手続によることに同意しなければ,検察官は申し立てることができないと定めている。
同条3項は,同意の確認を書面で行い,制度を理解させるために必要な事項を説明し,通常の手続で審判を受けることができる旨を告げることを求めている。
弁護人がいない場合には,次条の国選選任に関する説明も含まれる。
本人が同意し,弁護人が同意又は意見留保をするときは,同条5項により,それぞれ書面でその旨を明らかにする必要がある。

本人は,何の犯罪事実を認めるのか,争いたい点が残っているか,判決後にどの不服を主張できなくなるかを確認する。
手続への同意と,犯罪事実を認めることは区別して説明を受ける必要がある。
署名を求められた書面が分からない場合には,内容と効果を弁護人に相談してから判断することが大切である。

第3 弁護人の選任と証拠の確認
1 在宅事件でも問題となる特別の国選選任

刑事訴訟法350条の17は,即決裁判手続への同意の確認を求められた被疑者が,同意するかどうかを明らかにしようとする場合の国選選任を定めている。
貧困その他の事由で弁護人を選任できないときは,その請求により裁判官が弁護人を付す必要があるが,本人以外の者が選任した弁護人がいる場合は除かれる。
同条2項は37条の3を準用しており,資力申告等の手続も確認しなければならない。

この制度は,勾留状の発付を前提とする一般の被疑者国選弁護とは根拠が異なる。

(続きを読む...)即決裁判手続に同意してよいか―対象事件,弁護人,同意撤回と上訴制限(AI作成)

刑事裁判の証拠開示をどう進めるか―証拠一覧表,類型証拠,主張関連証拠と開示裁定(AI作成)

目次

第1 最初に事件の手続段階と求める資料を確認する1 一般の事前閲覧と整理手続の開示を区別する2 裁判所の記録をコピーする手続とは別である第2 証拠一覧表の交付を求める1 請求できる時期と一覧表の範囲2 記載事項と記載しないことができる例外3 新たに保管された証拠と一覧表の更新第3 一覧表から証拠本体の開示請求につなげる1 類型証拠開示では請求証拠との関係を示す2 主張関連証拠開示では予定主張との関係を示す3 請求と回答を対応させて管理する第4 開示されない場合の裁判所への請求1 開示裁定の対象と即時抗告2 裁判所による提示命令との違い第5 整理手続の終了と開示証拠の利用に注意する1 追加証拠の請求が制限される2 取得後の目的外提供とオンライン利用第6 出典
第1 最初に事件の手続段階と求める資料を確認する

刑事裁判の証拠開示では,検察官が裁判で使う証拠を知ること,検察官の保管証拠の一覧表を受け取ること,請求されていない証拠の内容を確認することを分けて考える必要がある。
一覧表に資料が載っていることだけで,その資料の本体を閲覧・謄写できるわけではない。
反対に,検察官が取調べを請求していないことだけで,開示を求める余地がなくなるわけでもない。

本記事は,令和8年10月14日現在の刑事訴訟法に基づき,通常の刑事裁判における証拠開示の進め方を説明する。
とくに公判前整理手続又は期日間整理手続に付された事件の制度を扱い,捜査中の資料取得,被害者の記録閲覧及び再審請求における開示と区別する。
実際の請求では,担当弁護人が事件の段階,争点,保有者及び対象資料を確認することが出発点となる。

1 一般の事前閲覧と整理手続の開示を区別する

刑事訴訟法299条1項は,証拠書類又は証拠物の取調べを請求する当事者が,あらかじめ相手方に閲覧する機会を与えることなどを定めている。
これは,検察官が保管する資料をすべて開示するという規定ではない。
公判前整理手続等に付された事件では,これに加えて,検察官請求証拠の開示,証拠一覧表の交付,類型証拠開示及び主張関連証拠開示の仕組みを使い分ける。

求めるもの根拠・対象確認すること請求される証拠の事前閲覧299条1項取調べ請求の対象と閲覧機会検察官請求証拠の開示316条の14第1項書証・証拠物又は人証に応じた開示方法保管証拠の一覧表同条2項~5項請求時期,記載事項,追加交付類型証拠の本体316条の15類型,特定の請求証拠との関係,必要性主張関連証拠の本体316条の20明示した予定主張との関連性,必要性裁判所による開示命令316条の26法律上開示すべき証拠と不開示の理由
2 裁判所の記録をコピーする手続とは別である

弁護人が刑事訴訟法40条により裁判所の訴訟記録を閲覧・謄写することと,検察官の保有証拠の開示を受けることは別の手続である。
裁判所に提出されていない資料を調べたい場合,裁判所の記録をコピーするだけでは必要な情報に届かないことがある。
取得経路と利用上の注意は,起訴事件の刑事記録の入手方法(被告人側)を参照されたい。

第2 証拠一覧表の交付を求める
1 請求できる時期と一覧表の範囲

刑事訴訟法316条の14第2項は,同条1項の開示をした後,被告人又は弁護人から請求があったときは,検察官が保管する証拠の一覧表を速やかに交付しなければならないと定めている。
最初の一覧表は請求による制度であり,起訴されればどの事件でも自動的に届くものではない。
期日間整理手続では,同法316条の28第2項による準用も確認する。

条文上の対象は検察官が保管する証拠である。
警察その他の機関に資料があると考える場合には,誰が何を保管しているか,送致又は引継ぎがされているかを具体的に確認し,一覧表にないことだけで不存在と判断しない。
一覧表の記載事項から内容が分からないときは,対象を識別するための確認と,証拠本体の開示請求を区別して行うことが有用である。

2 記載事項と記載しないことができる例外

同条3項は,証拠物では品名と数量,署名又は押印のある供述録取書では標目・作成年月日・供述者氏名,その他の証拠書類では標目・作成年月日・作成者氏名を記載事項としている。
証拠の内容全文や検察官の評価を一覧表へ記載する制度ではない。

同条4項には,一定の事項の記載により,人への加害等,名誉又は社会生活の平穏への著しい侵害,犯罪の証明又は捜査への支障のおそれがある場合の非記載の例外がある。
一覧表が短いという理由だけで違反と決めず,記載すべき事項,例外の理由及び別の資料から判明している証拠との対応を検討する必要がある。

(続きを読む...)刑事裁判の証拠開示をどう進めるか―証拠一覧表,類型証拠,主張関連証拠と開示裁定(AI作成)

刑の執行停止と執行延期―病気・高齢・家族介護の場合の申出と必要資料(AI作成)

目次

第1 病気や家族事情がある場合の刑の執行1 執行停止と執行延期を区別する2 勾留の執行停止,執行猶予,仮釈放との違い第2 必要的な刑の執行停止1 心神喪失の状態と回復までの停止2 停止後の引渡しと留置期間第3 裁量による刑の執行停止1 刑事訴訟法482条の八つの事由2 本人の病気と医療資料3 高齢,妊娠・出産と家族の保護第4 執行延期の申立て1 申立書の提出と事情の調査2 延期を求める期間とその理由第5 申出から判断までの実務1 執行担当部署へ早期に連絡する2 提出しただけで不出頭としてよいわけではない第6 停止後の刑期,時効及び再開1 施設外の停止期間は通常,刑期に算入されない2 法令による停止と執行延期の時効への影響3 停止事由がなくなった場合第7 懲役・禁錮の事件に関する注意1 旧刑名の確定裁判も残る2 申出の準備で確認する事項第8 関連記事第9 出典
第1 病気や家族事情がある場合の刑の執行
1 執行停止と執行延期を区別する

刑事裁判が確定して実刑を執行する段階でも,本人の病状,年齢,妊娠・出産又は家族の保護の事情によって,刑の執行停止を検討すべき場合がある。
また,収容前にやむを得ない事情がある場合には,執行事務規程に基づく執行延期が問題となる。

ただし,刑の執行停止と執行延期は,根拠,要件及び効果が異なる。
申出をしただけで呼出しや収容の手続が当然に止まる制度ではないので,資料の準備とともに,検察庁の執行担当部署へ現在の取扱いを確認する必要がある。

本記事は,令和8年10月14日現在の刑事訴訟法,刑法及び法務省の執行事務規程に基づき,拘禁刑・拘留等の執行を対象として説明する。
規程は令和8年3月23日改正・同年5月21日施行の公表版を参照している。

2 勾留の執行停止,執行猶予,仮釈放との違い

裁判所が未決勾留の執行を一時的に止める「勾留の執行停止」と,確定した刑の執行を検察官の指揮によって止める「刑の執行停止」は別の制度である。
また,判決で言い渡される執行猶予や,受刑中の行政処分としての仮釈放とも異なるため,本人がどの段階にいるかを先に確認すべきである。

制度主な根拠判断の枠組み必要的な刑の執行停止刑事訴訟法480条・481条,執行事務規程30条心神喪失の状態がある場合,回復まで執行を停止する裁量による刑の執行停止刑事訴訟法482条,執行事務規程31条法定事由があり,停止が相当と認められる場合に行う執行延期執行事務規程20条申立書を提出させ,調査の上,やむを得ない事情があると認める場合に行う
第2 必要的な刑の執行停止
1 心神喪失の状態と回復までの停止

刑事訴訟法480条は,拘禁刑又は拘留の言渡しを受けた者が心神喪失の状態にあるとき,その状態が回復するまで執行を停止すると定めている。
指揮するのは,刑の言渡しをした裁判所に対応する検察庁の検察官又は本人の現在地を管轄する地方検察庁の検察官である。

執行事務規程30条は,刑事施設の長又は本人の関係人から上申があった場合の審査,刑の執行停止書の作成及び収容中の者についての釈放指揮を定めている。
精神疾患の診断名だけで直ちに480条の要件を満たすと結論付けず,現在の状態を具体的に説明する医療資料を準備すべきである。

2 停止後の引渡しと留置期間

刑事訴訟法481条は,480条に基づく停止後,本人を看護義務者等へ引き渡し,病院その他の適当な場所に入れさせる旨を定めている。
その処分があるまで刑事施設に留置する期間は,刑期に算入される。

この例外的な刑期算入を,施設から釈放された後の停止期間全体に広げることはできない。
停止の指揮とともに,入院先,受入れの可否,移送及び看護・生活支援の体制を確認する必要がある。

第3 裁量による刑の執行停止
1 刑事訴訟法482条の八つの事由

刑事訴訟法482条は,次の事由があるときに執行を停止することができると定めている。
執行事務規程31条は,その事由があり,刑の執行を停止するのが相当と認められる場合に,刑の執行停止書を作成するとしている。

①刑の執行によって,著しく健康を害し,又は生命を保つことのできないおそれがあるときである。
②年齢が70歳以上であるときである。

(続きを読む...)刑の執行停止と執行延期―病気・高齢・家族介護の場合の申出と必要資料(AI作成)

執行猶予の取消しと期間満了―全部・一部猶予,効力継続,取消請求の期限と弁護対応(AI作成)

目次

第1 執行猶予の期間が満了したときの確認事項1 満了日だけでは判断できない場合がある2 全部猶予と一部猶予の基本的な違い第2 刑の全部の執行猶予の取消し1 必要的取消しと裁量的取消し2 保護観察中の遵守事項違反第3 刑の一部の執行猶予の取消し1 出所後の猶予期間だけが対象ではない2 罰金と保護観察の遵守事項違反第4 猶予期間満了後の効力継続1 全部執行猶予の場合2 一部執行猶予の場合3 資格制限と刑の執行の扱いは同じではない第5 取消請求の期限と裁判所の手続1 2か月の期限が適用される取消請求2 意見を聴く手続と口頭弁論3 取消決定への即時抗告第6 令和7年6月1日前後の経過措置1 効力継続制度は猶予の言渡日を確認する2 懲役・禁錮が残る事件第7 取消請求への対応で整理する資料1 時系列と取消事由の確認2 他の執行猶予中の刑も確認する第8 関連記事第9 出典
第1 執行猶予の期間が満了したときの確認事項
1 満了日だけでは判断できない場合がある

執行猶予の期間が過ぎた場合,刑の全部の執行猶予では原則として刑の言渡しが効力を失い,刑の一部の執行猶予では原則として実刑部分を刑期とする刑に減軽される。
しかし,令和7年6月1日以後に執行猶予の言渡しを受けた事件には,再犯について公訴が提起されている場合の「効力継続期間」の制度があるため,満了日を過ぎたという事実だけでは結論を出せない。

本記事は,令和8年10月14日現在の刑法,刑事訴訟法及び令和4年法律第68号に基づき,取消し,期間満了及び取消請求への対応を説明する。
最初に確認するのは,①全部猶予か一部猶予か,②猶予の言渡日・判決確定日・猶予期間の起算日,③再犯の行為日と起訴の有無,④再犯に対する裁判の内容・確定日,⑤取消請求の根拠条項と請求日である。

2 全部猶予と一部猶予の基本的な違い
確認事項全部執行猶予一部執行猶予通常の期間満了の効果刑の言渡しが効力を失う実刑部分を刑期とする刑に減軽され,実刑部分の終了日等に刑の執行を受け終わったものとされる効力継続の対象となる再犯の期間全部猶予の期間内一部猶予の言渡し後から猶予期間満了まで。実刑部分の執行中も含む効力継続期間の資格法令等への適用刑法27条3項の規定に従い,刑の言渡しが効力を失っているものとみなす刑法27条の7第3項の規定に従い,減軽され,実刑部分の終了日等に執行を受け終わったものとみなす

一部執行猶予の猶予期間は,原則として実刑部分の執行を終わった日又はその執行を受けることがなくなった日から進行する(刑法27条の2第2項)。
ただし,その時点で他に執行すべき拘禁刑がある場合は,その刑の執行を終わった日又は執行を受けることがなくなった日から起算する特則がある(同条3項)。
これに対し,取消しや効力継続の原因となる再犯については,猶予期間の起算前に当たる言渡し後の期間も問題となるので,二つの期間を同じものとして扱ってはならない。

第2 刑の全部の執行猶予の取消し
1 必要的取消しと裁量的取消し

刑法26条は,全部執行猶予の必要的取消しを定めている。
例えば,猶予期間内に更に罪を犯し,拘禁刑以上の刑に処せられ,その刑の全部について執行猶予の言渡しがない場合には,元の全部執行猶予を取り消さなければならない。

他方,刑法26条の2は,猶予期間内の再犯で罰金に処せられた場合等について,取り消すことができると定めている。
罰金となった再犯を,拘禁刑以上の実刑となった再犯と同じ必要的取消しとして説明するのは正確でない。

両条は,猶予の言渡し前の他の罪に関する処罰や,既に処罰されていた事実の発覚についても定めている。
取消事由の判断には,前後の判決主文,行為日,言渡日及び確定日を照合し,必要的取消しの例外も含め,請求の根拠となる号ごとに要件を確認する必要がある。

2 保護観察中の遵守事項違反

全部執行猶予については,保護観察に付された者が遵守すべき事項を遵守せず,その情状が重いときに,裁量的取消しの対象となる(刑法26条の2第2号)。
単に違反があったという事実と,「その情状が重い」という評価を分けて検討すべきである。

この事由による取消請求は,保護観察所の長の申出に基づいて検察官が行う(刑事訴訟法349条2項)。
対応を検討する際には,指摘された遵守事項の内容,違反の具体的事実,本人への指導状況及びその後の生活状況を整理することになる。

第3 刑の一部の執行猶予の取消し
1 出所後の猶予期間だけが対象ではない

刑法27条の4第1号は,一部執行猶予の言渡し後に更に罪を犯し,拘禁刑以上の刑に処せられた場合の必要的取消しを定める。
全部執行猶予の刑法26条第1号とは異なり,「その刑の全部について執行猶予の言渡しがないとき」という限定は置かれていない。

また,再犯の時期は,出所後の猶予期間だけに限定されない。

(続きを読む...)執行猶予の取消しと期間満了―全部・一部猶予,効力継続,取消請求の期限と弁護対応(AI作成)

接見禁止とは―家族の面会・手紙と一部解除の進め方(AI作成)

目次

第1 接見禁止の意味と弁護士の接見との違い1 家族との面会や手紙を制限する裁判2 弁護士との面会まで禁止する制度ではない第2 会えないときに最初に確認すること1 逮捕中なのか,勾留中なのか2 裁判の禁止範囲と施設の受付条件3 起訴や初公判で当然に解除されると考えない第3 面会・手紙・差入れは別々に確認する1 面会の禁止と手紙の禁止2 差入れが可能かは物品ごとに確認する第4 一部解除を求める際の進め方1 弁護人に具体的な希望を伝える2 取消し・変更の申出と準抗告等を区別する3 解除後は裁判の内容と実際の面会を確認する第5 最高裁令和7年8月14日決定が示したこと1 否認と抽象的な危険だけで一括して説明しない2 家族なら必ず解除されるとした決定ではない第6 関連する手続と資料第7 出典
第1 接見禁止の意味と弁護士の接見との違い
1 家族との面会や手紙を制限する裁判

接見禁止とは,勾留されている被疑者又は被告人について,裁判官又は裁判所が,弁護人等以外の者との面会や,書類その他の物のやり取りを制限する裁判をすることである。
刑事訴訟法81条は,逃亡し又は罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある場合に,接見の禁止,書類その他の物の検閲,授受の禁止又は差押えを認めている。
被疑者の勾留の請求を受けた裁判官は,刑事訴訟法207条1項により,保釈を除き,その処分に関して裁判所又は裁判長と同じ権限を有する。

禁止の対象と範囲は,個別の裁判の内容による。
家族の面会だけが問題となっているのか,手紙の発受や物の授受も制限されているのか,特定の相手が対象から除外されているのかを分けて確認する必要がある。
本記事は,令和8年10月14日に確認した刑事訴訟法と公開資料に基づき,通常の刑事事件で家族が対応する際の確認事項を説明する。

2 弁護士との面会まで禁止する制度ではない

刑事訴訟法39条1項の弁護人又は弁護人となろうとする者との接見交通は,家族との一般面会とは異なる。
同項に該当する弁護士は,立会人なく接見し,書類又は物の授受をすることができる。
刑事訴訟法81条の接見禁止は,同法39条1項に規定する者以外の者を対象とするため,家族との接見禁止が付いていることを理由に,弁護人との接見まで禁止されるわけではない。

他方,刑事訴訟法39条3項には,捜査のため必要があるときに,公訴提起前に限って,弁護人等との接見の日時・場所・時間を指定できる制度がある。
これは家族との接見禁止とは別の制度であり,防御の準備をする権利を不当に制限する指定は許されない。
家族が本人の状況を早く確認したい場合は,まず弁護士による接見を依頼することが重要である。
弁護人が拘置所等で夜間・休日に接見できる場合と予約の締切は,夜間・休日の弁護人接見と差入れの新しい申合せ―令和8年6月1日からの土日の面会,30枚の文書の差入れ及び予約の締切で扱っている。

第2 会えないときに最初に確認すること
1 逮捕中なのか,勾留中なのか

逮捕直後に家族が面会できないことと,勾留後に接見禁止の裁判がされていることは,同じではない。
東京弁護士会の「家族にできること」は,逮捕中は家族の面会が認められることがまれである一方,勾留中は原則として家族や友人も面会でき,接見禁止が付いているかどうかは留置先の職員に問い合わせて確認できると説明している。

本人の氏名,収容先,逮捕中か勾留中か,起訴の有無,担当弁護人を確認する。
「被疑者だから家族とは一切会えない」と一括りにせず,勾留の有無と,接見禁止の有無を分ける必要がある。
逮捕から勾留までの期間や勾留期間の詳しい説明は,被疑者及び被告人の勾留(AIリライト)を参照されたい。

2 裁判の禁止範囲と施設の受付条件

面会できない理由には,裁判による接見禁止のほか,受付時間,面会回数,必要書類等の施設の取扱いもある。
裁判の内容については弁護人を通じて確認し,当日の受付条件については収容先の施設に確認する。
警察署の留置施設と拘置所の取扱いを同じと考えず,実際に収容されている施設に問い合わせることが必要である。

確認対象主な確認先確認する内容本人の状況弁護人・収容先逮捕中か勾留中か,収容先,起訴の有無接見禁止の裁判弁護人・裁判所禁止対象者,面会・手紙・物品の範囲,除外された相手面会の受付収容先受付時間,必要書類,人数・回数等の条件一部解除後弁護人・収容先解除内容が施設に伝わったか,実際に利用できる範囲
3 起訴や初公判で当然に解除されると考えない

(続きを読む...)接見禁止とは―家族の面会・手紙と一部解除の進め方(AI作成)

会社の帳簿・会計データが押収されたら―還付・複写の申入れと申告・税務調査への対応(AI作成)

目次

第1 何を確保する必要があるかを分ける第2 物とデータの所在を一覧にする第3 還付・仮還付とデータの複写を検討する1 紙の原本や会社所有の媒体2 記録を移転した媒体や提供命令によるデータ第4 税理士が必要とする資料を具体化する第5 税務上の保存要件を別に確認する第6 会社・弁護士・税理士の役割と申入れ第7 関連記事と根拠資料
第1 何を確保する必要があるかを分ける

会社の帳簿やパソコンが押収され,申告や税務調査の準備に支障が出たときは,紙の原本,記録媒体及び必要な会計データを分けて整理する。
原本の返還を求めること,媒体を返してもらうこと,必要なデータを複写することは,同じ手続・同じ要件とは限らない。
本記事は令和8年10月14日に確認した刑事訴訟法,証拠品事務規程及び国税庁の資料を基に,会社・弁護士・税理士の確認順序を示す。

対象は刑事捜査に伴う押収等であり,税務調査での帳簿書類の預かりと同一の手続として説明するものではない。
刑事事件への対応と,申告期限・税務調査への対応を並行して管理する必要がある。

第2 物とデータの所在を一覧にする

会社は,交付された目録,提出書類及び実際の業務への影響を,対象物ごとに整理する。
押収物の符号と会社の管理番号を対応させ,警察から検察へ送致・移送された場合も,現在の担当・保管先を確認する。

対象確認する資料確保したい内容紙の帳簿・伝票押収品目録,対象年度,原本・控えの別原本の還付又は必要部分の複写の相談会社のパソコン・媒体機器番号,所有者,使用者,押収の根拠媒体自体と必要なデータを分けた申入れ提供命令で移転された記録命令の名宛人,提供方法,対象期間・範囲取得方法に対応した複写等の要件確認会社に残るデータ・控え保存先,取得日時,対象範囲,欠けた期間原資料との対応,税理士に渡せる範囲

最後の列は確認・相談する事項であり,各方法が当然に認められることを示すものではない。
会社に残る別の控えを使用する場合も,原本と同じ範囲・同じ版かを確認する。

第3 還付・仮還付とデータの複写を検討する
1 紙の原本や会社所有の媒体

刑事訴訟法123条1項は,留置の必要がない押収物について,事件の終結を待たずに還付することを定める。
同条2項には,所有者,所持者,保管者又は差出人の請求による仮還付があり,捜査機関の押収には222条1項の準用を確認する。
原物を保持する必要,鑑定・解析の状況,代替資料で足りる範囲と,会社の具体的な業務上の支障を整理する。

仮還付を受ける場合は,再提出できる状態を維持する方法を確認する。
原本の廃棄,媒体の初期化又はデータの上書きが許されるとは扱わず,保管場所,使用方法及び変更が必要なときの連絡先を決める。
検察庁の取扱いでは,本還付へ切り替わったことを示す通知も別に確認する。

2 記録を移転した媒体や提供命令によるデータ

123条3項は,所定の方法で記録を移転した上で差し押さえた媒体等について,留置の必要がなく,差押え又は提供命令を受けた者と媒体の所有者等が異なる場合の媒体交付又は複写を定める。
物理的な媒体の一般的な差押えに,この要件を確かめずそのまま当てはめることはできない。

123条の2第1項は,所定の提供命令によって移転させた記録について,命令を受けた者に保管させない理由がなくなった場合の複写を定める。
222条1項の準用と命令・提供の具体的方法を確認し,誰がどの規定に基づき何を求めるかを示す。
現行証拠品事務規程60条・61条の2も,事件終結前の媒体交付や複写の取扱いを定めている。

会社が全ての記録の複写を無条件に受けられる制度ではない。
必要な勘定,取引先,対象期間,ファイル形式等を具体化し,法定の交付・複写の請求と事実上の相談を区別する。

第4 税理士が必要とする資料を具体化する

(続きを読む...)会社の帳簿・会計データが押収されたら―還付・複写の申入れと申告・税務調査への対応(AI作成)

任意提出書・所有権放棄書に署名する前に―還付請求権,会社財産と帳簿保存の確認(AI作成)

目次

第1 提出することと権利を放棄することを分ける第2 書面が何を意味するか確認する1 任意提出,所有権放棄,還付請求権放棄2 媒体の所有権とデータに関する権利第3 会社の担当者は所有者と権限を確認する第4 帳簿や証拠を保存する必要を先に伝える第5 署名前と署名後の対応1 その場で残す確認記録2 既に署名した場合第6 関連記事と根拠資料
第1 提出することと権利を放棄することを分ける

警察や検察から物や帳簿の提出を求められたときは,何を提出するかと,後で返してもらう権利をどう扱うかを分けて確認する必要がある。
「捜査に協力する」という意思と,「この物はいらない」という意思を,一つの署名で曖昧にしないことが重要である。
本記事は令和8年10月14日に確認した刑事訴訟法,証拠品事務規程及び国税庁の公表資料を基に,署名前の確認事項を説明する。

刑事訴訟法221条は,所有者,所持者又は保管者が任意に提出した物等を,捜査機関が領置できると定める。
任意提出という取得方法だけから,提出者が所有権まで放棄したと扱うことはできない。
同法222条1項による123条等の準用を確認し,留置の必要性と還付・仮還付の要件を別に検討する。

第2 書面が何を意味するか確認する
1 任意提出,所有権放棄,還付請求権放棄

書面の表題だけで判断せず,処分意見欄,定型文,手書きの追記,対象物の目録まで読む。
「返してください」「被害者に返してください」「いりません」という文言は,誰のどの権利をどう扱う意思なのかを確認する必要がある。

書面・意思表示確認する対象署名前に確かめること任意提出捜査機関へ物を提出すること提出する物,提出者の立場,押収品目録,返還希望の記録所有権放棄物に対する所有権真の所有者,会社財産か,署名者の権限,放棄する品目・数量還付請求権放棄提出者等が還付を求める権利所有権放棄との違い,第三者所有物の取扱い,書面の具体的文言

法務総合研究所の平成25年教材は,差出人が所有者でない場合の還付請求権放棄と,所有者の所有権放棄を区別して説明している。
これは,提出者が他人の所有権まで処分できることを意味しない。
第三者から預かった物やリース物件は,所有者との関係を明らかにしてから判断する。

令和6年3月の研修教材『六訂 検務事務入門』も,差出人が還付を希望しないときは,差出人が所有者でなければ所有者に還付し,差出人が所有者であれば所有権放棄書を徴すると説明し,所有権放棄によってその証拠品は国庫に帰属するとしている(本文47頁)。
国庫に帰属した証拠品は,有価物であれば売却され,無価物であれば廃棄される(同書本文50頁~51頁)。
所有権を放棄した後は返還を求めることができなくなると考え,帳簿やデータ等で後日必要になり得る物は,署名する前に必要な範囲と保存の方法を担当者に伝えておく必要がある。

現行の証拠品事務規程44条は,所有権放棄の申立てがあるときの放棄書の徴収を定め,供述調書への録取で代える場合も認める。
独立した放棄書に署名していないことだけで,放棄の意思が記録されていないと決め付けない。
供述調書等を確認する機会には,対象物と処分に関する発言が正しく記載されているかも確認する。

2 媒体の所有権とデータに関する権利

記録媒体の所有権と,電磁的記録の複写等を受ける権利は同じではない。
現行規程44条の2は,刑事訴訟法123条3項・123条の2等に基づく媒体交付又は複写の許可を受ける権利について,別の放棄書を定めている。
パソコンやUSBメモリを返してもらう希望と,会計データを確保する希望を分けて伝えることが必要である。

第3 会社の担当者は所有者と権限を確認する

会社の担当者が対応するときは,自分の私物,会社所有物,顧客からの預り物を区別する。
取得資料,固定資産台帳,契約書,管理番号等で,物と所有者の対応を確認する。
法人名,代表者,署名する担当者,社内の決裁権限及び委任の範囲を整理し,捜査機関にも実際の立場を伝える。

(続きを読む...)任意提出書・所有権放棄書に署名する前に―還付請求権,会社財産と帳簿保存の確認(AI作成)

被害回復給付金とは―没収・追徴された犯罪被害財産の支給申請,期限と被害回復分配金との違い(AI作成)

目次

第1 被害回復給付金は,検察官が行う別の申請手続である第2 被害回復分配金との違い第3 誰が申請できるか,対象となる被害は何か1 支給対象の犯罪行為による財産被害を確認する2 既に回復した被害と除外事由を確認する第4 公告と申請期限を先に確認する1 通知が来ても,申請は別に必要である2 「被害に遭った日から30日」ではない第5 申請書と証拠をどのように準備するか第6 被害者が死亡した場合の申請と届出第7 いくら支払われるか,追加支給はあるか第8 給付金を受けると,損害賠償請求権はどうなるか第9 裁定などに不服がある場合1 検察庁の長への審査申立て2 取消訴訟の期限にも特則がある第10 出典と関連記事
第1 被害回復給付金は,検察官が行う別の申請手続である

被害回復給付金は,犯罪被害財産の没収・追徴によって得られた資金や,外国から譲与された犯罪被害財産等を,法律に定める手続によって被害者等へ支給する制度である。
銀行口座の残存資金から支払われる「被害回復分配金」と名称が似ているが,原資,手続を行う機関及び申請先が異なる。
警察への被害届,銀行への被害申告又は被害回復分配金の申請だけで,被害回復給付金の申請まで済むわけではない。

本記事では,令和8年10月14日時点の施行中の「犯罪被害財産等による被害回復給付金の支給に関する法律」と施行規則を基に,国内の犯罪被害財産を原資とする通常の支給手続を中心に説明する。
外国から譲与された財産にも同法の別の手続があるため,実際の公告がどの手続についてのものかを確認する必要がある。

詐欺送金の直後には,まず被害の拡大を止め,金融機関と警察に連絡する。
その段階の対応は,詐欺で送金してしまった直後の対応―組戻し・口座凍結・被害回復分配金・銀行補償の違い(AI作成)で整理している。
被害回復給付金については,これとは別に,検察庁の公告,支給対象の犯罪行為及び申請期限を確認する。

第2 被害回復分配金との違い
確認事項被害回復給付金被害回復分配金主な原資犯罪被害財産の没収・追徴によって得られた資金等振り込め詐欺救済法の手続により消滅した預金等債権に相当する資金手続・申請先公告に記載された検察官・検察庁対象口座の金融機関期限の確認支給手続開始の公告に記載された申請期間金融機関・預金保険機構の公告に記載された申請期間全額回復の保証原資と認められた被害額等によって支給額が定まり,全額回復が保証されるものではない残存資金等に左右され,全額回復が保証されるものではない

被害回復分配金は,金融庁の制度案内及び対象口座の公告により確認する。
同じ被害について複数の回収手続が進むこともあるが,既に補塡・賠償を受けた金額は,被害回復給付金の被害額の認定に関わる。
銀行からの支払,犯人からの弁償及び他の回収額を記録し,申請時と申請後の報告に反映させる必要がある。

第3 誰が申請できるか,対象となる被害は何か
1 支給対象の犯罪行為による財産被害を確認する

国内の犯罪被害財産支給手続では,支給対象犯罪行為によって財産を失った被害者と,その一般承継人が基本的な支給対象である(同法3条)。
被害者には法人も含まれる。
申請する会社では,送金した名義だけでなく,誰の財産が失われたのか,申請人の法人名と代表者,代理人の権限及び被害を示す資料を整理する。

逮捕,起訴又は有罪判決があったことだけで,すべての被害について給付金が支払われるわけではない。
検察官が法律に従って定めた「支給対象犯罪行為の範囲」に,自分の被害が含まれているかを公告等で確認する(同法5条・7条)。
支給手続が開始されるかどうかについても,資金の保管や手続に要する費用等に関する法律上の条件がある(同法6条)。

従業員による会社の物品の窃盗・横領のような財産に対する罪の被害では,犯人が物品を売却して得た代金等は,原則として没収・追徴の対象とならない(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律13条2項,16条1項ただし書)。
犯罪被害財産を没収・追徴できるのは,犯罪行為が団体の活動として組織により行われたときその他犯罪の性質に照らし被害回復のための請求権の行使が困難と認められるとき,犯罪被害財産の取得・処分等についての事実の仮装や隠匿が行われたとき,又は情を知って犯罪被害財産を収受する行為が行われたときに限られる(同法13条3項,16条2項)。
そのため,この種の被害では,被害回復給付金の手続が始まることを前提にせず,犯人や買取業者に対する民事上の請求,被害弁償の交渉及び預金の仮差押え等を並行して検討する必要がある。
会社が従業員に対して進める手続は,会社備品を盗んで転売した社員への対応―証拠保全,懲戒解雇と預金仮差押えを並行して進める方法(AI作成)で説明している。

2 既に回復した被害と除外事由を確認する

損害の全部について,被害者又はその一般承継人以外の者から補塡又は賠償を受けた者は,支給対象から除かれる。
また,犯罪への加功,不正な利益を得る目的又は不法な原因による財産の提供など,支給することが社会通念上適切でない場合にも除外事由がある(同法4条)。

(続きを読む...)被害回復給付金とは―没収・追徴された犯罪被害財産の支給申請,期限と被害回復分配金との違い(AI作成)

再審請求前に刑事記録・証拠品の保存を求めるには―請求先,対象,保存期間と開示との違い(AI作成)

目次

第1 再審の準備では,開示と並行して保存を確認する第2 刑事確定訴訟記録の再審保存を請求する1 請求先は保管検察官である2 再審を請求する予定の段階でも請求できる3 請求書には事件と保存の必要性を具体化する第3 証拠品の保管は,記録とは別に確認する1 証拠品事務規程の対象を確かめる2 記録担当と証拠品担当の連絡を求める第4 保存の決定,期間と延長を管理する1 記録の保存に関する通知を受ける2 保存期間の満了前に延長を検討する第5 保存と閲覧・開示は別の手続である第6 保管状況の回答を分けて記録する第7 出典と説明の範囲
第1 再審の準備では,開示と並行して保存を確認する

再審のために必要な資料があると考えても,所在の調査や開示の協議が続いている間に,保管期間が満了するおそれがある。
そのため,資料の内容を見せてもらう手続と,資料を失わせないための保存の手続を分けて進めることが重要である。

刑事確定訴訟記録法3条2項は,再審の請求をしようとする者にも,保管記録の再審保存を請求することを認めている。
再審請求書を裁判所に提出してからでなければ保存を求められない,という制度ではない。
ただし,記録についての法定の保存請求と,検察庁が保管する証拠品についての申入れでは,根拠と対象が異なる。

第2 刑事確定訴訟記録の再審保存を請求する
1 請求先は保管検察官である

刑事確定訴訟記録法2条1項による保管検察官は,原則として,当該被告事件について第一審の裁判をした裁判所に対応する検察庁の検察官である。
上訴審の裁判所や,現在の居住地の検察庁を,当然の請求先と考えることはできない。
まず,確定判決,第一審の事件番号,被告人の氏名,訴訟の終結時期等を伝え,現在の記録の保管先と担当窓口を確認する。

2 再審を請求する予定の段階でも請求できる

同法3条2項の請求者は,再審の請求をしようとする者,再審の請求をした者,又は刑事訴訟法440条1項により選任された弁護人である。
単に事件に関心がある第三者全員に,この請求権が認められているわけではない。
弁護士が請求する場合は,再審のための弁護人選任関係を整理しておく必要がある。

保管検察官は,再審の手続のため保存の必要があると認めるときは,保存すべき期間を定め,通常の保管期間満了後も再審保存記録として保存する(同条1項)。
請求しただけで,必要性の判断を経ずに無期限の保存が決まるものではない。

3 請求書には事件と保存の必要性を具体化する

刑事確定訴訟記録法施行規則5条は,様式第1号の再審保存請求書を保管検察官に提出することを定めている。
その所定様式を用いることを前提に,対象事件,請求者の資格,保存を必要とする記録,必要性を説明する資料を整理する。
以下は,理由の説明を具体化するための例であり,所定様式の代わりとなる書式ではない。

整理する事項記載・添付を検討する内容事件の特定第一審の裁判所・事件番号,被告人の氏名,確定裁判の日付,罪名等保存対象当該事件の保管記録を特定し,特に確認を要する鑑定書,供述調書,写真等があれば明示する保存の必要性確定判決のどの認定を,どの資料により検証する予定かを説明する必要な期間鑑定準備,資料調査等の予定と,保存を希望する期間の理由を説明する連絡事項現在の保管期間の満了日,決定・通知の連絡先,関連する証拠品の担当との連絡を確認する

例えば,「確定判決の認定に用いられた鑑定の検証を予定しており,原資料と検証に必要な記録の照合を要する。対象事件の保管記録について,再審の手続のための保存を請求する。保存を必要とする期間及びその理由は添付資料のとおりである。」と説明し,具体的な調査予定や資料を添えることが考えられる。
対象が一部の書類だけで足りるか,関連する記録も必要かは,事件に即して検討する。

第3 証拠品の保管は,記録とは別に確認する
1 証拠品事務規程の対象を確かめる

証拠品事務規程89条1項は,再審の請求が行われることが予測されるとき,同規程88条1項に規定する証拠品を期間を定めて保管することを定める。
88条1項の対象には,原判決に係る被告事件の証拠品で,没収の裁判,所有権放棄又は刑事訴訟法499条3項により国庫に帰属したものが含まれる。
また,電磁的記録に係る権利が放棄された記録媒体等についても,同項の定めがある。

(続きを読む...)再審請求前に刑事記録・証拠品の保存を求めるには―請求先,対象,保存期間と開示との違い(AI作成)

少年事件の試験観察とは―期間・補導委託・保護者と付添人の準備(AI作成)

目次

第1 試験観察とは1 最終処分を決める前に改善状況を観察する2 保護観察や少年院送致との違い第2 期間と日程を確認する1 全国共通の月数を前提にしない2 生活の変化や実施できない事情を伝える第3 補導委託とは1 試験観察に併せて民間の人や施設に指導を委ねる2 本人と家族が確認する事項第4 保護者と付添人が準備すること1 本人の説明と具体的な生活上の課題を整理する2 誰が何を続けられるかを具体化する第5 改善状況の記録と報告1 開始時の計画と実際の経過を分ける2 反省の表明と再非行を防ぐ対応を結び付ける第6 よくある質問1 試験観察は何か月続くか2 試験観察になれば少年院に行かないのか3 試験観察と保護観察は同じか4 全員が補導委託を受けるか第7 出典・関連記事
第1 試験観察とは
1 最終処分を決める前に改善状況を観察する

試験観察は,家庭裁判所が少年に対する処分を直ちに決めることが困難な場合に,少年を適当な期間,家庭裁判所調査官の観察に付すものである。
裁判所の試験観察の案内は,調査官が更生のための助言や指導を与えながら,少年が問題点を改善していこうとしているかを観察し,その結果等も踏まえて裁判官が最終的な処分を決めると説明している。
単に次の審判まで待つ期間と捉えず,具体的な課題への対応と,その実施状況を確認する期間として理解することが大切である。

本記事は,令和8年10月14日に確認した裁判所の公開案内を基に,試験観察と補導委託の基本,少年本人・保護者・付添人の準備を説明する。
後掲の記録表は事情を整理するための例であり,裁判所が一律に指定する提出書式や,処分結果を保証する方法ではない。
送致から調査・審判までの全体像は,少年事件の流れと保護者の対応を参照されたい。

2 保護観察や少年院送致との違い

試験観察は,最終的な処分を判断するために調査官が観察する段階である。
これに対し,裁判所の処分の種類の案内が説明する保護観察は,保護処分として,社会内で生活しながら保護観察官・保護司の指導等を受けるものである。
名称が似ていても,手続の段階と担当者を混同しないことが必要である。

少年院送致も,試験観察とは異なる保護処分である。
試験観察が始まったことだけで,その後の保護観察,少年院送致その他の結論が決まったと受け止めることはできない。
保護観察の詳しい説明は,保護観察制度を参照されたい。

第2 期間と日程を確認する
1 全国共通の月数を前提にしない

裁判所の試験観察の公開案内は,期間を「適当な期間」と説明し,すべての事件に共通する月数を示していない。
本記事でも,一律に何か月で終了するという目安は示さない。
具体的な日程は,現在の決定や担当者の説明に基づき,次回の面接・審判の予定,確認する課題及び連絡方法を確かめる必要がある。

面接の日程と,試験観察全体の見通しは分けて確認するとよい。
本人・保護者だけで終了日や次回の出席の要否を判断せず,不明点や予定に支障がある事情を担当者と付添人に伝えることが重要である。

2 生活の変化や実施できない事情を伝える

通学・就労,住居,家族の支援状況等が変わった場合は,開始時の計画をそのまま続けられるかを確認する。
うまくいった事実だけでなく,欠席,支援者の不在,連絡上の困難等も,いつから何が変わったかを整理することが有用である。
実施できない約束を繰り返すより,原因と代わりの対応を付添人等と検討し,担当者へ具体的に伝える準備をしたい。

第3 補導委託とは
1 試験観察に併せて民間の人や施設に指導を委ねる

裁判所の補導委託の案内によれば,試験観察を行う際,民間の人や施設に指導を委ねて観察することがある。

(続きを読む...)少年事件の試験観察とは―期間・補導委託・保護者と付添人の準備(AI作成)

公営競技・パチンコと賭博罪―適法性の根拠と国会答弁の射程(AI作成)

目次

第1 公営競技とパチンコの説明は同じではない第2 賭博罪と二つの根拠規定第3 公営競技が認められる法的根拠1 競馬法に従った競馬と勝馬投票券の販売2 スポーツ振興投票についての政府答弁第4 パチンコ営業についての規制と政府説明1 風営法の許可と営業規制2 平成14年と平成30年の答弁の表現第5 国会答弁から断定できないこと1 いわゆる三店方式の全体を一括して評価するものではない2 私人の賭け事の金額基準にはならない第6 出典と関連記事
第1 公営競技とパチンコの説明は同じではない

公営競技が法律に基づいて行われる理由と、パチンコ営業が賭博罪に当たらないと説明される理由は、区別して理解する必要がある。

競馬やスポーツ振興投票について、政府は、それぞれの法律に従って行われる限り、刑法35条の法令による行為として違法性が阻却されると説明している。一方、パチンコについての平成30年の法務省答弁は、風営法の範囲内で適法に行われる営業について、刑法185条ただし書の一時の娯楽に供する物の例外を挙げた。

これらの説明は、少額の賭け事一般を許容するものではない。また、許可された営業の名称を用いれば、規制に反した営業形態まで適法になるという意味でもない。

第2 賭博罪と二つの根拠規定

刑法185条は、賭博を罰金又は科料の対象としつつ、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまる場合を例外としている。同法35条は、法令又は正当な業務による行為を罰しないと定める。

「法律に基づく事業として認められること」と「185条ただし書に当たること」は、適用される根拠が異なる。個々の制度の説明では、どちらが挙げられているかを確認する必要がある。

金銭を賭ける麻雀、テンピンの意味、常習性の判断については、賭け麻雀と賭博罪―テンピン・一時の娯楽・常習性の判断を参照されたい。公営競技やパチンコ営業についての説明を、そのまま私的な賭け麻雀に当てはめることはできない。

第3 公営競技が認められる法的根拠
1 競馬法に従った競馬と勝馬投票券の販売

平成14年3月28日の参議院経済産業委員会で、法務省は、競馬などが形式的には賭博罪等に該当し得ることを前提に、法律が主催者・目的・監督・制限・罰則を定め、その枠内で行われるため、法令行為として違法性が阻却されると説明した。

競馬法1条は、畜産の振興と地方財政の改善という制度の趣旨を定め、1条の2は日本中央競馬会又は都道府県等による競馬を規定し、6条は中央競馬の勝馬投票券の発売について定めている。適法性を検討する際には、法律上認められた主催者と行為の範囲が重要である。

出典は、第154回国会・参議院経済産業委員会第5号の発言12・16である。同答弁は、条例だけで刑法上の賭博罪の成立範囲を限定することはできないとも説明している。

2 スポーツ振興投票についての政府答弁

平成30年6月14日の参議院法務委員会で、法務省は、totoの販売が賭博又は富くじに関する行為に該当し得るとしても、スポーツ振興投票の実施等に関する法律に従って行われる限り、刑法35条の法令行為として違法性が阻却されると説明した。

出典は、第196回国会・参議院法務委員会第17号の発言38である。「競技を利用した賭け」であることだけで、誰でも同種の投票券を販売できるという説明ではない。

第4 パチンコ営業についての規制と政府説明
1 風営法の許可と営業規制

風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律2条1項4号は、まあじゃん屋、ぱちんこ屋等を風俗営業として位置づける。同法3条の営業許可に加え、20条の遊技料金・賞品等の規制、23条の禁止行為が問題となる。

23条1項は、対象となるぱちんこ屋等について、現金又は有価証券を賞品として提供すること、客に提供した賞品を買い取ることなどを禁止する。他方、まあじゃん屋については、同条2項が遊技の結果に応じて賞品を提供することを禁止する。営業区分ごとの規制を混同してはならない。

2 平成14年と平成30年の答弁の表現

平成14年3月28日の参議院経済産業委員会では、警察庁が、風営法で認められた範囲内で営まれるパチンコ営業について、賭博罪に当たる行為を行っているとの評価を受けないと説明した。

平成30年6月14日の参議院法務委員会では、法務省が、適法な規制の範囲内で行われるパチンコ営業について、刑法185条の賭博に該当する場合であっても、同条ただし書の例外に該当すると説明した。同会議録の発言30・32・34・36が、定義と説明の範囲を確認する手がかりとなる。

このように、担当機関・時点・質問の内容によって説明の表現が異なる。本記事は、これらの政府説明を紹介するものであり、すべてのパチンコ営業の個別行為について、裁判所の判断が確定しているという趣旨ではない。

第5 国会答弁から断定できないこと
1 いわゆる三店方式の全体を一括して評価するものではない

賞品の提供と第三者による買取りなど、いわゆる三店方式について検討する場合は、営業者と買取業者との関係、実際の行為、風営法の禁止行為との関係などを確認する必要がある。ここで挙げた答弁だけで、その全体の適法性を一律に断定することはできない。

2 私人の賭け事の金額基準にはならない

競馬等に関する法令行為の説明は、主催者・事業・監督等を法律が定めていることを前提とする。パチンコの答弁も、規制の範囲内の適法な営業を対象とする。いずれも「一定額以下なら金銭を賭けてもよい」という一般的な金額基準を示していない。

(続きを読む...)公営競技・パチンコと賭博罪―適法性の根拠と国会答弁の射程(AI作成)

刑事事件とは―民事事件との違い,手続の流れと立場別の対応(AI作成)

目次

第1 刑事事件と民事事件の違い1 何を決める手続か2 同じ出来事について両方が問題となる場合第2 刑事事件の流れ―逮捕されない経路もある1 捜査の開始と身柄・在宅の分岐2 送致と検察官の判断3 起訴後の公判と略式手続4 判決,上訴と記録の確認第3 立場別に最初に確認する事項1 疑いをかけられた本人2 家族が逮捕・勾留された場合3 被害者・参考人第4 弁護士に相談する場面と準備するもの第5 よくある疑問1 逮捕・送検されたら有罪になるのか2 在宅事件なら軽い処分で終わるのか3 刑事事件の判決書はインターネットで読めるのか第6 主な一次資料

刑事事件とは,犯罪の疑いについて捜査を行い,起訴するかどうか,有罪か無罪か,どのような刑罰を科すかなどを扱う事件である。逮捕される事件だけを意味するわけではなく,身柄を拘束せずに捜査が進む事件もある。

警察から連絡を受けた人,家族が逮捕された人,被害を受けた人では,確認すべき事項が異なる。本記事では,主に成人の刑事事件について,民事事件との違いと手続の分岐を整理し,それぞれの場面に応じた詳しい解説を案内する。少年事件は家庭裁判所での手続などが異なるため,同じ流れをそのまま当てはめない。

第1 刑事事件と民事事件の違い
1 何を決める手続か

刑事手続では,犯罪の疑いを捜査し,検察官が起訴・不起訴を判断し,起訴された事件について裁判所が有罪・無罪や刑罰を判断する。捜査の対象となる人を被疑者,起訴された人を被告人という。

民事手続では,貸金の返還,損害賠償などの権利・義務に関する紛争を扱う。刑事事件の被害者が当然に刑事裁判の原告になるわけではなく,損害の回復には民事上の請求や被害者のための制度も検討する必要がある。

比較する点刑事事件民事事件主な問題犯罪の成立,有罪・無罪,刑罰お金の支払などの権利・義務手続を進める者捜査機関が捜査し,原則として検察官が起訴する請求する当事者が訴えを起こすなどして進める裁判の結論の例有罪判決,無罪判決,略式命令支払を命じる判決,請求棄却,和解
2 同じ出来事について両方が問題となる場合

例えば,人を負傷させた出来事については,刑事責任と,被害者への治療費・慰謝料などの損害賠償責任が併せて問題となり得る。刑事処分の結果と民事上の賠償額は,別々の要件と手続に基づいて検討する。

示談や被害弁償は刑事処分・量刑の判断で考慮され得るが,示談が成立すればすべての事件で必ず不起訴になるという関係ではない。親告罪における告訴取消しの効果など,罪名や手続段階によって確認すべき点も異なる。詳しくは被害弁償は刑事処分・量刑にどう影響するかを参照されたい。

第2 刑事事件の流れ―逮捕されない経路もある
1 捜査の開始と身柄・在宅の分岐

被害の申告などをきっかけに,警察や検察が事情聴取,資料の収集などの捜査を行う。被疑者の身柄を拘束して進める事件と,拘束せずに進める在宅事件がある。身柄を拘束されているかどうかと,犯罪が成立するかどうかは別の問題である。

逮捕と勾留も別の手続である。逮捕後に必ず勾留されるわけではなく,釈放後に在宅で捜査が続くこともある。身柄手続には期間の制限があり,起訴前と起訴後では勾留の制度が異なる。

身柄を拘束されていない事件の進み方や,連絡がない場合の処分確認については,在宅事件とは―身柄事件との違い,捜査から処分までの流れと結果の確認を参照されたい。

被疑者の逮捕/被疑者及び被告人の勾留

2 送致と検察官の判断

警察から検察官へ事件を送ることを送致といい,一般に送検とも呼ばれる。送致されたこと自体が,起訴又は有罪の決定を意味するわけではない。検察官は必要な捜査を行い,証拠と事情を検討して起訴・不起訴を判断する。

不起訴には,嫌疑がない場合,嫌疑が不十分な場合,起訴猶予などがある。不起訴は裁判所が言い渡す無罪判決とは異なる。処分の有無や理由を確認する方法も,確認する人の立場によって異なる。

検察庁から連絡を受けた場合の確認事項は,検察庁から呼び出されたら―理由・持ち物・日程変更と当日の流れで整理している。

3 起訴後の公判と略式手続

起訴には,公開の法廷で審理する公判請求と,一定の要件の下で書面審理を求める略式命令請求がある。略式命令請求も起訴であり,不起訴ではない。略式手続では,簡易裁判所が100万円以下の罰金又は科料を科すことができる。

公判では,起訴された事実について証拠を調べ,検察官・弁護人の意見や被告人の陳述などを経て,裁判所が判断する。検察官の求刑は検察官の意見であり,裁判所の判決そのものではない。

刑事事件の略式手続には,略式命令と正式裁判請求の詳しい説明がある。起訴後に勾留されている場合の釈放については,被告人の保釈を参照されたい。保釈は起訴前の被疑者を対象とする制度ではない。

4 判決,上訴と記録の確認

第一審の判決に対する控訴など,不服申立てには手続と期間の定めがある。判決書や略式命令を受け取った場合は,告知・言渡しの時期と書面の内容を確認し,必要な相談を早めに行う。刑事事件の上訴・不服申立ても参照されたい。

事件の進み方をまとめると,「捜査〔身柄を拘束する場合/拘束しない場合〕→検察官の処分〔不起訴/起訴〕→起訴の場合の裁判〔公判/略式〕→確定又は不服申立て」という分岐になる。すべての事件が「逮捕→有罪判決」と進むわけではない。

第3 立場別に最初に確認する事項
1 疑いをかけられた本人

(続きを読む...)刑事事件とは―民事事件との違い,手続の流れと立場別の対応(AI作成)

在宅事件とは―身柄事件との違い,捜査から処分までの流れと結果の確認(AI作成)

目次

第1 在宅事件と身柄事件の違い1 「在宅」は身体拘束の有無を示す2 身柄拘束の期間と捜査の期間を混同しない第2 捜査から処分までの流れ1 警察の捜査と事件の送致2 検察官の捜査と呼出し3 起訴・不起訴とその後第3 連絡がないときの確認事項1 経過を時系列で整理する2 問い合わせと処分通知は別の問題である第4 処分結果の確認方法は立場によって異なる1 被疑者が不起訴の告知を求める場合2 告訴人・告発人等への通知と理由の告知3 被害者等の通知制度と記録の入手第5 相談するときに伝える事項第6 主な一次資料

在宅事件とは,被疑者の身柄を拘束せずに捜査を進める刑事事件である。逮捕されなかった場合のほか,逮捕後に釈放されて捜査が続く場合もある。在宅という区分は,無罪・不起訴や軽い処分を意味するものではない。

警察で取調べを受けた後に連絡がないときは,送致の有無,担当機関,処分が出たかどうかを分けて確認する。本記事では,呼出し当日の持ち物ではなく,在宅事件の進行と結果の確認方法を扱う。

民事事件との違いや,身柄事件を含む全体の流れは,刑事事件とは―民事事件との違い,手続の流れと立場別の対応を参照されたい。

第1 在宅事件と身柄事件の違い
1 「在宅」は身体拘束の有無を示す

検察庁の案内は,身柄を拘束せずに進める在宅事件と,逮捕・勾留によって拘束して進める身柄事件を区別している。文字どおり自宅に待機することを命じる制度という意味ではない。

身柄を拘束するかどうかと,起訴するかどうかは別の判断である。在宅のまま公判請求や略式命令請求をされる場合もある。逆に,釈放された後に捜査が続くこともあり,釈放だけで不起訴になったと判断することはできない。

2 身柄拘束の期間と捜査の期間を混同しない

逮捕・勾留には法律上の期間の制限がある。しかし,その期間を在宅事件の捜査全体の終了期限に読み替えることはできない。捜査事項や証拠収集の状況などが異なるため,「警察で聴取されてから必ず何か月で終わる」という一律の期限を置かない。

時間が経過したことだけから不起訴を推測せず,分かっている経過を整理して担当機関に確認する。在宅で進んでいることは,その後の逮捕・勾留の可能性がなくなったという保証でもない。

被疑者の逮捕/被疑者及び被告人の勾留

第2 捜査から処分までの流れ
1 警察の捜査と事件の送致

警察は,事情聴取,供述調書の作成,資料の収集などを行う。事件を検察官に送る送致と,被疑者を起訴することは別である。「書類送検」と聞いた場合も,それだけで起訴や有罪が決まったという意味ではない。

警察での聴取が終わったという説明を受けた場合は,担当警察署・担当者,送致の有無,送致先の検察庁など,確認できる事項を記録する。これらは問い合わせの際の手がかりであり,すべての段階で同じ情報が直ちに分かるとは限らない。

2 検察官の捜査と呼出し

検察官は,必要に応じて被疑者や被害者・参考人から事情を聞き,証拠を検討する。警察で供述した後に検察庁で改めて聴取されることもある。呼出しだけから,処分の種類や結果を決めつけない。

連絡の理由,持ち物,日程変更,当日の流れは,検察庁から呼び出されたらを参照されたい。被疑者の取調べにおける権利や調書の確認は,警察及び検察の取調べで扱っている。

刑事訴訟法198条1項は,逮捕・勾留されていない被疑者について,取調べのための出頭を拒み,出頭後も退去できると定める。同条2項は,自己の意思に反して供述する必要がない旨の告知を定める。裁判所の召喚など,別の根拠に基づく手続と混同せず,通知の発出者と内容を確認する必要がある。

3 起訴・不起訴とその後

検察官は,証拠と事情を検討し,起訴・不起訴を判断する。不起訴には嫌疑なし,嫌疑不十分,起訴猶予などがある。起訴には公判請求と略式命令請求があり,略式命令請求も刑事裁判を求める起訴である。

略式手続について説明を受けた場合は,同意の意味と,略式命令が出た後の手続を確認する。刑事事件の略式手続を参照されたい。刑事事件全体の流れを知りたい場合は,裁判所の刑事事件の案内も参考になる。

第3 連絡がないときの確認事項
1 経過を時系列で整理する

まず,出来事の年月日,最後に聴取を受けた日,その際の説明,提出した資料,担当機関と連絡先を整理する。弁護人がいる場合は,照会の方法や,捜査機関との連絡状況を弁護人に確認する。

整理する事項確認する内容警察での経過担当警察署・担当者,最後の聴取日,送致に関する説明検察庁での経過担当検察庁・担当者,事件番号が分かればその番号,呼出しや処分に関する連絡書面と資料受け取った通知,提出書類,受領した記録,次回の日程現在知りたいこと捜査中か,送致済みか,処分が出たか,不起訴の告知を求めたいか
2 問い合わせと処分通知は別の問題である

担当機関への問い合わせは,現在の進行状況を確認するためのものでもある。既に不起訴処分が出た場合の告知や,告訴人等への処分通知とは,根拠と対象が異なる。連絡が来るのを待つことと,法律上の請求をすることを区別する。

第4 処分結果の確認方法は立場によって異なる

(続きを読む...)在宅事件とは―身柄事件との違い,捜査から処分までの流れと結果の確認(AI作成)

弁護人選任届の書式・書き方・提出先―被疑者用・被告人用と家族による選任(AI作成)

目次

第1 弁護人選任届とは1 依頼契約・選任届・国選請求を分ける2 書式の利用前に確認すること第2 被疑者用・被告人用・家族による選任の記載例1 起訴前に被疑者本人が選任する場合2 起訴後に被告人本人が選任する場合3 家族等が本人とは独立して選任する場合第3 弁護人選任届の書き方と各欄の意味1 宛先・本人・事件を特定する2 選任する弁護士と連絡先を書く3 日付・選任権者・署名押印を点検する第4 提出先を起訴前後で確認する1 法令上の提出先と実務上の窓口2 勾留を扱う裁判所への書面と区別する第5 家族は誰でも選任できるのか1 本人とは独立して選任できる者2 費用負担・書面の持参・本人の代書との違い第6 署名押印・記名押印・指印・代書1 起訴前と起訴後の違い2 署名又は押印ができない場合第7 起訴後・控訴後に選任届を出し直す場面1 起訴前の選任が第一審にも効力を持つ条件2 起訴後は審級ごとに選任する第8 よくある質問1 選任届を出す前は接見できないのか2 FAX・郵送・電子提出でよいのか3 原本を郵送した日に申立てをしてよいのか第9 関連記事・法令の出典1 目的別の関連記事2 法令と確認時点
第1 弁護人選任届とは

弁護人選任届は,誰が,どの事件について,誰を私選弁護人に選任したかを示す書面である。まず,起訴前の被疑者の事件か,起訴後の被告人の事件かを確認し,選任権者,提出先及び署名押印の方式を選ぶ必要がある。
本記事は,紙の選任届の参考書式と記載例を示すものである。裁判所の公式書式ではなく,担当機関が現行様式を指定している場合は,その様式を確認して使用されたい。

1 依頼契約・選任届・国選請求を分ける

弁護士との委任契約は,依頼する業務や費用等を定めるものである。刑事手続上の選任届と同じ書類ではないため,委任契約書を作成しただけで,捜査機関や裁判所への届出まで済んだと扱ってはならない。
国選弁護人は,裁判所又は裁判官が付する弁護人である。本記事の私選の選任届を提出することが,国選弁護人の選任請求になるわけではない。

2 書式の利用前に確認すること

通常の私選事件として選任する場合と,当番弁護士が勾留前の法律援助を利用して国選への移行を希望する場合は,処理が異なる。
勾留前援助中の提出要否や国選への切替えは,72時間援助中の弁護人選任届を確認し,所属弁護士会及び法テラス地方事務所の現行手順に従う必要がある。

第2 被疑者用・被告人用・家族による選任の記載例
1 起訴前に被疑者本人が選任する場合

起訴前の参考例は,次のとおりである。「検察官又は司法警察員」をそのまま並記して提出するのではなく,事件を取り扱う機関と担当者を確認し,宛先を確定する。

弁護人選任届
○○警察署 司法警察員 ○○殿〔又は,事件を取り扱う検察官の宛先〕
被疑者氏名 ○○○○
罪名・事件の表示 ○○被疑事件
上記被疑者に対する被疑事件につき,下記の者を弁護人に選任する。
弁護士氏名 ○○○○
所属弁護士会 ○○弁護士会
事務所名・所在地 ○○法律事務所 ○○市○○
電話・FAX ○○
令和○年○月○日
被疑者 〔本人が署名〕 印
弁護人 〔弁護士が署名〕 印

被疑者欄の氏名を印字しただけで,署名欄まで完成したと扱ってはならない。起訴前は,選任権者と弁護人の双方の署名押印を原則として点検する。署名又は押印ができない場合は,第6の代書・指印を確認する。

2 起訴後に被告人本人が選任する場合

起訴後は,事件が係属する裁判所と事件番号を確認する。被疑者用の宛先を残したまま使用せず,被告人及び被告事件の表示に改める。

弁護人選任届
○○地方裁判所 刑事第○部 御中

(続きを読む...)弁護人選任届の書式・書き方・提出先―被疑者用・被告人用と家族による選任(AI作成)

特定少年とは―18歳・19歳の少年事件,逆送・保護処分・実名報道(AI作成)

目次

第1 特定少年は18歳・19歳の少年である1 民法の成年年齢との違い2 年齢を判断する時点を分ける第2 17歳以下との主な違い第3 逆送と原則逆送の対象1 逆送は家裁から検察官に送る決定である2 拡大された原則逆送と例外第4 特定少年の保護処分1 三つの保護処分2 保護観察と遵守事項違反3 少年院への収容期間第5 実名報道はいつから問題となるか1 逮捕や逆送だけで禁止が外れるわけではない2 適用除外は報道義務や記録公開を意味しない第6 刑事裁判と不服申立ての注意第7 関連記事及び出典
第1 特定少年は18歳・19歳の少年である

特定少年とは,少年法上の「18歳以上の少年」をいう。少年法の少年は20歳未満であるため,特定少年に当たるのは18歳・19歳の者である。民法上は成年であっても,少年法の対象から一律に外れるわけではない。
令和4年4月1日に施行された改正では,少年事件を家庭裁判所に送り,調査の上で処分を判断する枠組みを維持しながら,特定少年について逆送,保護処分,刑事手続,推知報道等の特例を設けた。
本記事は,令和8年10月11日に確認した少年法と公式資料に基づき,17歳以下と異なる主要な取扱いを整理する。呼出しや調査官面接を含む一般的な流れは,少年事件の流れと保護者の対応を参照されたい。

1 民法の成年年齢との違い

契約等について民法上の成年となる年齢と,少年事件の対象年齢とは,別の法律による区分である。「18歳だから最初から成人と同じ刑事裁判になる」「親の関与がすべてなくなる」という理解はいずれも適切ではない。
少年法2条の保護者には,法律上監護教育の義務を負う者のほか,少年を現に監護する者も含まれる。18歳・19歳でも,実際に監護する家族が関係者として関与する場合がある。ただし,不服申立てなどには特定少年についての特例がある。

2 年齢を判断する時点を分ける
確認する問題主に確認する年齢・時点特定少年としての保護処分審判・処分の時点で18歳・19歳か拡大された原則逆送の対象罪を犯した時に18歳・19歳か。故意の犯罪で被害者が死亡した場合は16歳以上という別の基準もある推知報道禁止の適用除外18歳・19歳の時に犯した罪か,その罪について公訴が提起されたか

例えば,17歳の時の行為について18歳で保護処分を受ける場合には,保護処分に特定少年の規定が問題となる。一方,その行為について,行為時に特定少年であったことを要件とする原則逆送の拡大や報道の適用除外が,18歳になっただけで適用されるわけではない。
行為時,家裁で判断する時,起訴時,報道時の年齢を一つにまとめないことが重要である。審理中に20歳になる場合には,年齢超過による検察官送致の規定も問題となる。

第2 17歳以下との主な違い
項目特定少年の主な取扱い家庭裁判所への送致犯罪の嫌疑がある事件を家裁に送る基本的な枠組みは維持されるぐ犯将来罪を犯すおそれがあることを理由とするぐ犯の規定は適用されない逆送原則逆送の対象事件が拡大され,罰金以下の罪も刑事処分が相当なら逆送の対象となり得る保護処分6か月の保護観察,2年の保護観察,少年院送致。犯情の軽重を考慮した限度がある刑事手続・刑少年の刑事事件に関する一部の特例が適用されない推知報道特定少年の時に犯した罪について起訴された場合に適用除外となる。ただし略式手続の請求がある場合を除く

「特定少年」と「犯罪少年」は同じ分類ではない。前者は年齢に着目した特例の対象であり,後者は罪を犯した少年を指す。特定少年であることだけで,逆送や少年院送致が決まるわけではない。

第3 逆送と原則逆送の対象
1 逆送は家裁から検察官に送る決定である

逆送は,家庭裁判所が,保護処分ではなく刑事処分を相当と認めて事件を検察官へ送致することである。特定少年については,少年法62条1項により,罰金以下の刑に当たる罪も逆送の対象となり得る。
逆送そのものは,有罪判決や刑罰の言渡しではない。逆送後には検察官による手続を経て,起訴された場合に刑事裁判等が行われる。家裁段階の付添人と逆送後の弁護人の担当・費用を確認する必要がある。役割,選任の時期,費用と援助制度は,少年事件の弁護士・付添人を参照されたい。

2 拡大された原則逆送と例外

特定少年に係る原則逆送対象事件は,少年法62条2項の次の二つである。
①故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪で,罪を犯した時に16歳以上の少年に係る事件。
②死刑,無期又は短期1年以上の拘禁刑に当たる罪で,罪を犯した時に特定少年に係る事件。ただし①に該当する事件を除く。
ここでいう短期とは,法定刑の下限である。個別事件で予想される刑や,実際に言い渡された刑が1年以上かという意味ではない。罪名だけでなく,行為時に適用される法令と法定刑を確認する必要がある。
原則逆送には例外がある。家庭裁判所が,動機,態様,結果,犯行後の状況,性格,年齢,行状,環境その他の事情を調査し,刑事処分以外の措置を相当と認めるときには,逆送しないことができる。したがって,「対象罪なら必ず刑事裁判」という説明は正確ではない。

第4 特定少年の保護処分
1 三つの保護処分

少年法64条は,特定少年の保護処分を,①6か月の保護観察,②2年の保護観察,③少年院送致とする。処分は犯情の軽重を考慮して相当な限度を超えない範囲内で行われる。罰金以下の刑に当たる罪では,保護処分として行うことができるのは6か月の保護観察に限られる。
非行事実が認められない場合等の不処分や,審判不開始という決定までなくなったわけではない。すべての特定少年に三つのいずれかの保護処分が必ず科されるという意味ではない。

2 保護観察と遵守事項違反

(続きを読む...)特定少年とは―18歳・19歳の少年事件,逆送・保護処分・実名報道(AI作成)

少年事件の弁護士・付添人―役割,選任の時期,費用と援助制度(AI作成)

目次

第1 少年事件で弁護士に相談する時期1 捜査段階の弁護人と家裁段階の付添人2 逮捕された場合と在宅の場合第2 付添人は何をするのか1 非行事実と手続上の権利を確認する2 生活環境を整え,調査・審判に対応する3 身柄拘束と決定への対応第3 付添人の選任と国選の範囲1 私選付添人2 国選付添人は全事件に自動的に付く制度ではない第4 費用と援助制度の確認方法1 私選の見積りで確認すること2 日弁連委託援助と法テラス第5 相談前に整理しておくもの第6 関連記事及び出典
第1 少年事件で弁護士に相談する時期

少年事件では,警察・検察による捜査の段階と,家庭裁判所で調査・審判を受ける段階とで,弁護士の立場が異なる。家庭裁判所に送られるまで相談できないわけではない。逮捕されたとき,取調べへの対応に迷うとき,事実関係を争うときは,早い段階で少年事件を扱う弁護士へ相談することが重要である。
事件全体の流れと家庭裁判所からの呼出しへの対応は,少年事件の流れと保護者の対応で説明している。本記事では,誰にどの段階の活動を依頼し,費用制度をどう確認するかを整理する。

1 捜査段階の弁護人と家裁段階の付添人
段階弁護士の立場と主な活動警察・検察の捜査弁護人として,面会,取調べへの助言,証拠の確認,身柄拘束への対応等を行う家庭裁判所の調査・審判付添人として,非行事実に関する意見,生活環境の調整,調査・審判への対応等を行う逆送後の刑事手続弁護人として,起訴や刑事裁判に対応する。家裁段階の付添人の選任と区別して確認する

同じ弁護士が継続して担当する場合でも,家裁送致後の付添人活動をどこまで依頼するか,選任の届出や費用の扱いを確認する必要がある。捜査段階で国選弁護人が選任されていたことだけで,家裁段階にも同じ条件の国選付添人が自動的に付くと考えてはならない。
14歳未満の触法少年に関する警察の調査は,犯罪少年の捜査と同じ手続ではない。年齢と現在の手続を相談時に伝える必要がある。

2 逮捕された場合と在宅の場合

逮捕された場合には,所在する警察署等,逮捕の日時,疑われている行為,すでに弁護士が付いているかを確認する。本人は弁護士との面会を求めることができ,家族からも弁護士会等に相談できる。当番弁護士制度の初回接見と,その後の継続的な依頼とは区別して確認するとよい。
在宅で捜査を受けている場合にも,呼出しの日時,提出を求められているもの,取調べの状況を相談できる。身柄拘束がないから弁護士の必要性が低いと一律に判断せず,事実を争っているか,学校・職場への影響があるか,保護者だけで対応できるかを検討する。
東京弁護士会の少年事件の案内も,身柄拘束の有無を問わず,少年の権利を守り,更生を支える弁護士の活動を説明している。

第2 付添人は何をするのか
1 非行事実と手続上の権利を確認する

付添人は,少年の言い分を聴き,事件記録や証拠を確認し,非行事実について裁判所に意見を述べる。事実関係に争いがある場合には,どの点を認め,どの点を争っているのか,供述や証拠に問題がないかを整理する。
少年事件を更生のための手続と説明することは,事実を争う権利をなくすことを意味しない。反省文の提出や謝罪を急ぐ前に,本人の認識と記録の内容の違いを弁護士に伝える必要がある。
本人と保護者の説明に相違がある場合にも,無理に言葉を合わせるのではなく,直接見聞きした事実,伝聞,推測を区別することが大切である。

2 生活環境を整え,調査・審判に対応する

付添人は,家庭の見守り,通学・就労,交友関係,福祉や医療の支援等について,本人・保護者と対応を検討し,必要に応じて関係先と調整する。被害回復に向けた対応も活動の一つであるが,示談が成立すれば必ず審判不開始や不処分になるというものではない。
調査官面接や審判で伝えるべき事情,すでに行った対応,今後実行できる計画を整理し,適切な処分に関する意見を述べる。抽象的な「今後は気を付ける」という約束だけでなく,誰が,何を,いつから行うかを説明できるようにすることが有用である。
裁判所の「少年審判に関係する人たち」は,裁判官,調査官,書記官,付添人等の役割を区別して説明している。付添人は裁判所の調査官とは異なる立場で活動する。

試験観察中の対応と記録の詳しい例は,試験観察と保護者・付添人の準備を参照されたい。

生活環境の調整は,課題に対応する計画を立てることと,その計画が実際に機能していることを分けて整理すると,説明しやすい。
次の表は準備の例であり,すべての少年に共通する課題又は裁判所指定の提出項目ではない。

課題との関係具体的な対応実施の確認と継続する担当者欠席や生活時間の乱れ本人・学校と相談し,登校や生活時間の支援を組み立てる計画と実際の登校状況を分け,支援を担う人と連絡方法を示す日中の活動や就労本人の状況に合う活動・就労を関係先と検討する未確定の予定と決定済みの活動,開始日と実績を分ける問題が起きた交友・行動非行が起きた場面を整理し,回避方法と相談先を検討する実施できた対応,残る困難,次の対応を具体化する家族による見守り家族の勤務や生活事情を踏まえ,無理のない分担を決める担当者,時間帯,不在時の対応と継続可能な範囲を示す

『家庭裁判所調査官執務必携』の研究部分は,非行についての評価と反省を並べるだけで処遇の理由を十分に説明したことにはならないという問題を指摘する(PDF108頁)。
準備では,反省の表明と,具体的な課題に対する対応,その効果及び継続の見通しを結び付けて説明することが有用である。
これは平成20年の研究資料を参考にした準備上の提案であり,一律の処分基準又は結果の保証ではない。

3 身柄拘束と決定への対応

少年鑑別所への送致による観護措置は,少年院送致という最終的な保護処分と異なる。付添人への相談では,決定の種類,告知された日,収容先,手元の書類を伝える必要がある。

(続きを読む...)少年事件の弁護士・付添人―役割,選任の時期,費用と援助制度(AI作成)

少年事件とは―逮捕・家裁送致・少年審判の流れと保護者の対応(AI作成)

目次

第1 家庭裁判所から連絡が来たときの確認事項1 呼出状・同封書類を確認する2 少年事件の対象と年齢第2 送致から調査・審判・処分までの流れ1 逮捕・在宅捜査から家裁送致まで2 家庭裁判所での一般的な進行3 少年鑑別所と少年院は異なる4 試験観察が行われる場合第3 家庭裁判所調査官の面接1 何を調べるのか2 本人と保護者が準備すること第4 少年審判では何が行われるか1 出席者と確認される事項2 非公開と関係者の参加第5 処分の種類と不服がある場合1 主な処分等2 不服申立ては決定の種類を確認する第6 保護者の対応と付添人への相談1 保護者は生活環境への対応を整理する2 弁護士である付添人に相談する第7 少年事件でよくある疑問1 家裁に送られると必ず少年審判や少年院送致になるか2 事件は何日で終わるか3 18歳なら成人と同じ手続になるか第8 関連記事及び出典1 関連記事2 出典

少年事件とは,20歳未満の少年について,非行の有無と,更生のために必要な処分等を家庭裁判所が判断する手続である。18歳・19歳も特定少年として少年法の対象となる。
警察・検察による捜査と,家裁の調査・審判は別の段階である。逮捕された場合と在宅で捜査を受ける場合の違いを確認し,現在どの段階にあるかを把握することが重要である。
家裁から通知が届いた方は呼出状と期日請書の確認へ,捜査中の方は家裁送致前の流れへ進むとよい。

第1 家庭裁判所から連絡が来たときの確認事項

少年事件で家庭裁判所から呼出しを受けた場合には,まず通知された手続が,家庭裁判所調査官の面接なのか,少年審判の期日なのかを確認する必要がある。
捜査機関から家庭裁判所へ送致されたことだけで,少年院送致などの処分が決まったわけではない。家庭裁判所は,非行の有無を確認し,少年の生活環境等も調べた上で,必要な対応を判断する。
本記事は,令和8年10月11日に確認した裁判所の公式資料を基に,少年本人と保護者が手続の流れを理解するための概要を説明するものである。

1 呼出状・同封書類を確認する
確認項目確認する内容裁判所と担当者本庁・支部の別,事件番号,担当係・調査官,連絡先日時・場所面接か審判か,集合時刻,来庁場所,通知に指定された出席者提出・持参書類質問票,期日請書などが同封されている場合は,記載方法と返送期限。持参物は通知の指定を確認する連絡が必要な事情病気,日程の支障,住所・連絡先の変更,通知内容の不明点

期日請書等の書式,提出方法,返送の要否は,すべての裁判所・事件で同じと考えず,同封の説明に従って確認する。期日請書が同封されている場合は,指定された期日に出席することを裁判所に知らせる書類として,対象となる期日,本人・保護者の記載欄,返送期限と方法を確認する。
来庁できない事情があるときは,通知に記載された担当者へ早めに連絡することが重要である。本人や保護者の判断だけで,指定された期日を欠席したり,別の日へ変更したりしないようにしたい。

2 少年事件の対象と年齢

裁判所の少年事件とはによれば,少年法の少年は20歳未満の者であり,18歳・19歳の者も特定少年として適用対象となる。
ただし,特定少年には17歳以下と異なる取扱いがある。14歳未満の触法少年の事件についても,警察からの送致一般と同じ扱いではなく,児童福祉機関を経る仕組みがある。
民法上の成年年齢と少年法上の対象年齢を混同せず,年齢と事件の内容に応じた説明を確認する必要がある。

年齢による区分は次のとおりである。14歳未満の触法少年と14歳未満のぐ犯少年は,児童相談所長等から送致を受けた場合に家裁の審判の対象となる。特定少年にはぐ犯の規定が適用されない。
14歳未満の行為,行為時と審判時で年齢が異なる事件は,現在の年齢だけで処理を決めずに確認する必要がある。

14歳未満:刑罰法令に触れる行為をした触法少年等について,児童福祉機関を経る仕組みがある。
14歳から17歳:犯罪少年・ぐ犯少年の事件が対象となる。
18歳・19歳:特定少年として,逆送・保護処分・報道等の特例がある。詳しくは特定少年とは―18歳・19歳の少年事件,逆送・保護処分・実名報道を参照されたい。

第2 送致から調査・審判・処分までの流れ
1 逮捕・在宅捜査から家裁送致まで

14歳以上の犯罪少年の事件では,警察・検察による捜査を経て,犯罪の嫌疑がある事件が家庭裁判所へ送られる。成人の事件と同じように,検察官の不起訴処分だけで終了すると考えてはならない。
17歳以下については,罰金以下の刑に当たる罪を警察から家裁へ直接送致する仕組みがあり,すべての事件が同じ経路をたどるわけではない。特定少年にはこの直接送致の規定が適用されず,罰金以下の罪でも検察官を経て家裁へ送られる。少年法41条・42条・67条と裁判所の手続案内を参照されたい。

逮捕・勾留を伴う事件では,身柄拘束への対応,弁護士との面会,家裁送致後の観護措置の判断が問題となる。在宅事件では,自宅で生活しながら取調べや家裁の呼出しに対応することがある。在宅であることだけで,家裁送致や保護処分がなくなるわけではない。
逮捕されていない場合にも弁護士へ相談できる。取調べの対応,事実関係の争い,身柄の問題は,少年事件の弁護士・付添人―役割,選任の時期,費用と援助制度を参照し,早い段階で相談するとよい。

2 家庭裁判所での一般的な進行
段階主な内容家庭裁判所が事件を受理警察・検察等から送致された事件を受け付け,記録等を確認する調査・必要な措置調査官が面接等を行い,生活環境や非行の背景を調べる。事件によっては観護措置が問題となる審判を開くかの判断調査等による教育的な働きかけを経て審判不開始となる場合もあり,すべての事件で審判が開かれるわけではない少年審判非行事実,生活状況,更生のための対応等について確認する処分等の判断保護処分,不処分,検察官送致等を判断する。必要に応じて試験観察を行う場合もある

この表は全事件が同じ順序・期間で進むことを示すものではない。
家庭裁判所の手続の概要と各段階の説明を参照し,通知された手続の位置付けを確認するとよい。

3 少年鑑別所と少年院は異なる

事件の受理で説明される,少年鑑別所への送致による観護措置は,少年院送致という最終的な保護処分とは異なる。
少年鑑別所では,処分の判断に必要な面接や心理検査等が行われる。収容されたこと自体を,少年院送致が確定したという意味で受け止めないようにしたい。
身柄の拘束がある場合や,措置に不服がある場合は,通知された決定の内容を確認し,少年事件を扱う弁護士へ早期に相談することが重要である。

4 試験観察が行われる場合

裁判所は直ちに処分を決めることが難しい場合,少年を一定期間,調査官の観察に付すことがある。
これを試験観察という。少年の生活や行動の改善を観察し,その結果も踏まえて処分を判断するものであり,それ自体を最終処分と混同しないようにしたい。

(続きを読む...)少年事件とは―逮捕・家裁送致・少年審判の流れと保護者の対応(AI作成)

検察庁から呼び出されたら―理由・持ち物・日程変更と当日の流れ(AI作成)

目次

第1 最初に確認すること第2 本物の連絡かを確かめる第3 どの立場で呼ばれるのか1 被疑者としての取調べ2 被害者・目撃者等の事情聴取第4 日程が合わないとき第5 持ち物・服装・所要時間第6 当日の事情聴取と供述調書1 確認した事実と推測を分ける2 被疑者の供述拒否権と調書の確認第7 呼出し後の処分結果と記録第8 関連する手続と相談第9 よくある質問1 検察庁から呼び出されたらどうなる?2 呼出しを断ったり,途中で帰ったりできる?第10 出典・参考資料
第1 最初に確認すること

検察庁から呼出し・来庁依頼の連絡を受けたときは,まず,連絡元と担当者,自分の立場,指定日時・場所,持参物を確認する。呼ばれたことだけで,起訴・不起訴や逮捕の有無を判断することはできない。
本記事は,刑事事件の捜査のために検察庁への来庁を求められた場合の確認事項を説明する。裁判所の召喚,刑の執行に関する呼出し,少年事件の家庭裁判所手続などは,書面の種類と根拠が異なるため同じものとして扱わない。法令・公式案内は令和8年10月11日に確認した。

確認事項担当者に確認する内容連絡元検察庁名,部署,担当者名,折り返しの連絡方法。自分の立場被疑者としての取調べか,被害者・目撃者等の事情聴取か。分からなければ尋ねる。日時・場所庁舎の住所,受付場所,集合時刻,所要時間の目安,付き添い等の相談先。持参物呼出状,本人確認書類,印鑑,事件の資料など,具体的に指定された物。

連絡内容,担当者,確認した日時をメモしておくと,日程調整や弁護士への相談で事情を説明しやすい。連絡元が不審な場合は,第2の方法で公式窓口を確認する。

第2 本物の連絡かを確かめる

検察庁は,検察官や検察事務官を装った詐欺について公式に注意喚起している。電話等で銀行口座への送金や預金口座の変更を求めたり,検察庁の庁舎外で現金・キャッシュカード等を受け取ったりすることはないと説明している。
捜査費,保釈金,身の潔白を証明するための資金などの名目で送金を求められた場合は,その要求に応じず,最寄りの検察庁又は警察署に連絡する。

相手が実在する職員の氏名を名乗ったことだけで,正規の連絡と判断しない。公式の各検察庁案内から連絡先を自分で確認し,担当部署等へ照会する。検索先が正しい公式ドメイン「kensatsu.go.jp」であることも確認する。検察庁は偽サイトへの入力にも注意を求めている。

第3 どの立場で呼ばれるのか
1 被疑者としての取調べ

刑事訴訟法198条1項は,検察官・検察事務官・司法警察職員が,捜査の必要に応じて被疑者の出頭を求め,取調べをすることができると定めている。
警察で既に話をしていても,検察官が自ら供述を確認し,証拠の不足や食い違いを調べるために呼ぶことがある。検察官は収集した証拠等を検討して処分を判断するため,呼出しを「起訴が決まった通知」と受け取るのは適切ではない。

逮捕又は勾留されていない被疑者は,出頭を拒み,出頭後も退去できると同項ただし書が定める。しかし,出頭拒否の自由があることと,個別事件で逮捕の理由・必要性が認められるかは別問題である。不出頭の回数だけで逮捕の有無が決まるわけではない。具体的な判断は,呼出しへの不出頭と逮捕の必要性を参照し,不安がある場合は弁護士に相談されたい。

2 被害者・目撃者等の事情聴取

刑事訴訟法223条1項は,被疑者以外の者についても,捜査の必要に応じて出頭を求めて取調べ等をすることを認めている。被害者,目撃者その他の事件関係者が,事実関係の確認のために呼ばれる場合がある。
同条2項は,198条1項ただし書の出頭拒否・退去に関する規定などを準用している。ただし,裁判官による証人尋問や裁判所の召喚は別の制度である。捜査機関への任意の来庁依頼と,裁判所が命じる手続を混同しない。

自分が何を確認するために呼ばれているのか不明な場合は,担当者に確認する。付き添い,通訳,体調や障害に応じた配慮が必要な場合も,来庁前に相談する。希望が全てそのまま認められると断定せず,実施方法を確認することが大切である。

第4 日程が合わないとき

指定日に行けない場合は,そのまま放置せず,理由と来庁できる候補日時を担当者に事前に伝える。横浜地検の来庁依頼案内は,日時を変更できる場合があるとして,事前連絡を求めている。
これは,どの種類の呼出しでも自由に日時を変更できるという意味ではない。書面の種類と事件の手続を確かめ,担当者から回答を得る必要がある。

道路交通法違反の三者即日処理については,公式FAQが,日時の変更は原則できず,どうしても都合がつかない場合は呼出状等の連絡先に相談すると説明している。一般の事情聴取の日程調整と,同じ扱いにしない。
日程が変更されたときは,新しい日時・場所・連絡した担当者を記録し,持参物も変わらないか確認する。

第5 持ち物・服装・所要時間

持ち物は,受け取った書面と担当者の指定を優先して確認する。横浜地検の案内は,来庁依頼の書面と記載された物を持参し,通常は本人確認書類と印鑑を持参するよう説明している。同庁の印鑑の案内では,インク浸透印は不可とされる。
これを全国一律の持参要件とせず,呼出状の記載や担当者の指示で確認する。三者即日処理の赤切符・呼出状・本人確認書類・印鑑の案内も,その手続を受ける場合の説明である。

項目来庁前に整理すること本人確認・呼出書面書面の原本や指定された本人確認書類を用意する。事件に関する資料提出を求められた物を確認する。資料の一覧を作り,原本・写しのどちらが必要か尋ねる。体調・配慮服薬,休憩,通訳,付き添い等の相談が必要なら担当者へ伝える。移動・時間庁舎の場所と交通手段を確認し,遅れそうな場合の連絡先を控える。

服装を理由に処分が決まるという根拠はなく,清潔で移動・待機に支障のない服装を選ぶという実務上の準備と考えればよい。服装で有利な処分を得られると期待するのは適切ではない。
所要時間は事件の内容,確認事項,待ち時間等で変わるため,担当者に目安を尋ねる。三者即日処理の公式FAQにある2~4時間という目安を,一般の検察官の取調べ全ての所要時間として用いない。

(続きを読む...)検察庁から呼び出されたら―理由・持ち物・日程変更と当日の流れ(AI作成)

事後強盗と「窃盗の機会」の終了―発見・追跡,現場離脱と再侵入の確認事項(AI作成)

目次

第1 窃盗の後の脅迫でも事後強盗とは限らない第2 条文の目的と機会の継続を分けて確認する第3 最高裁平成16年12月10日判決1 現場を離れた後,改めて盗むために戻った事案2 最高裁が重視した事情第4 30分・1キロメートルを一律の基準にしない第5 弁護人が整理する時系列と証拠第6 機会を否定した後にも確認する事項第7 出典と確認範囲第8 関連記事
第1 窃盗の後の脅迫でも事後強盗とは限らない

窃盗の後に逮捕を免れるため脅迫をした場合でも,時間的に後であるというだけで事後強盗罪が成立するわけではない。先行する窃盗の機会が続いているかを確認する必要がある。

最高裁平成16年12月10日第二小法廷判決は,発見・追跡されることなく一度現場を離れた窃盗犯人が,改めて盗むため戻った際に脅迫した事案で,窃盗の機会の継続を否定した。本記事は,この判決と刑法238条を基に,現場離脱から脅迫までの事実をどう整理するかを説明する。

第2 条文の目的と機会の継続を分けて確認する

刑法238条は,窃盗が,取得した財物の取返しを防ぎ,逮捕を免れ,又は罪跡を隠滅するために暴行・脅迫をした場合を,強盗として扱う。財物の取返防止,逮捕免脱及び罪跡隠滅は,条文に定められた目的である。

もっとも,逮捕免脱目的があったことと,先行窃盗の機会が続いていたことは別の確認事項である。以下の最高裁判決でも,逮捕を免れるための脅迫であった事実は認定されているが,機会の継続は否定されている。

実務では,まずどの窃盗を先行行為として問題にしているかを特定し,次に暴行・脅迫までの出来事を時系列に並べ,その間の発見・追跡状況を検討する。その上で,目的,暴行・脅迫の内容等のほかの成立要件を確認する。機会の継続が認められれば,それだけで犯罪の全要件が満たされるという関係にはない。

第3 最高裁平成16年12月10日判決
1 現場を離れた後,改めて盗むために戻った事案

判決原文によると,被告人は住宅で財布等を盗み,誰からも発見・追跡されることなく,自転車で約1キロメートル離れた公園へ向かった。そこで盗んだ現金が少ないと考え,再度盗みに入るため引き返した。最初の侵入から約30分後に玄関扉を開けた際,家人がいることに気付き,その後,家人に発見され,逮捕を免れるためナイフを示して脅迫した。

原審は,盗品を持ったまま当初の窃盗の目的を達成するため同じ家へ戻ったこと等から,窃盗の機会が続いていたとした。

2 最高裁が重視した事情

最高裁は,発見・追跡されずに一旦現場を離れ,ある程度の時間を過ごす間に,被害者等から容易に発見され,財物を取り返されたり逮捕されたりし得る状況がなくなったと判断した。その後,再度窃盗をする目的で現場へ戻っても,その際の脅迫は,先行窃盗の機会の継続中に行われたとはいえないとした。

最高裁は,事後強盗罪を認めた原判決を破棄して東京高裁へ差し戻した。事後強盗罪の否定を,住宅への侵入や脅迫等について一切の刑事責任がないという結論へ広げることはできない。

第4 30分・1キロメートルを一律の基準にしない

この判決に現れる約30分,約1キロメートルという数字は,認定された事実の一部である。「30分を過ぎれば終了する」「1キロメートル離れれば終了する」という一般的な線引きを判示したものではない。

また,盗品を所持していたことや,同じ住宅へ戻ったことだけで,機会が当然に継続するともいえない。判決では,それらの事情があっても,その間に容易な発見・取返し・逮捕の可能な状況がなくなった点が重視されている。

同じ場所へ戻った場合には,「逃走・追跡が続く中で戻った」のか,「接触が途切れた後,別の窃盗をするため戻った」のかを分けて事実を確認する。ただし,後者という説明があるだけで結論を決めず,途中の発見・追跡の有無と整合するかを確認する必要がある。

第5 弁護人が整理する時系列と証拠

以下は,判決の判断に対応する事実を整理するための実務上の確認事項である。判決が一律の証拠収集義務や,証拠の優先順位を定めたものではない。

確認する事項照合する資料と注意点先行窃盗の内容と時点対象財物,取得行為,現場からの離脱を特定する。複数の窃盗が問題になる場合は,各行為を分ける。発見・追跡の開始と中断被害者・目撃者の供述,防犯映像等を突き合わせる。現場を出たことと,発見・追跡され得る状況の終了を同じ意味にしない。離脱後の場所と行動移動経路,滞在場所,滞在時間を記録する。映像等に写っていない時間は,そのことだけで追跡がなかったと認定しない。現場へ戻った経緯戻る意思が生じた時点,目的,それを裏付ける行動や供述を確認する。盗品を持っていた事実だけで継続を決めない。暴行・脅迫時の状況相手方,場所,発言,凶器,制止・追跡の状況を特定する。逮捕免脱等の目的と,先行窃盗とのつながりを分けて検討する。

時系列表では,窃盗,離脱,滞在,再接触,暴行・脅迫の各時点に,根拠資料と反対資料を付す。映像の時刻と供述上の時刻が食い違うときは,どの時刻が確認できるかを明示する。「逃走中」「取り押さえられた」といったまとめた表現だけでは,途中に機会が終了したかを検討しにくい。

第6 機会を否定した後にも確認する事項

事後強盗罪の成立を否定する場合も,先行する窃盗,脅迫,暴行又は住居侵入等の成否は,それぞれの要件に従って検討する必要がある。最高裁の差戻し判決から,他の罪の成立・不成立まで一律に決めることはできない。

また,先行窃盗が既遂か未遂か,途中で加わった者にどの責任が生じるかは,窃盗の機会の終了とは別の論点である。刑法243条は238条の罪の未遂を処罰するが,未遂や共犯の具体的な成立判断を,今回の最高裁判決が直接示したものではない。

令和元年司法試験刑事系第1問の公式資料は,事後強盗に加わった者の責任や目的・認識の違いを検討するための参考になる。ただし,複数の理論構成を認める試験資料から,特定の共犯構成が最高裁の確立した判断であると扱うことはできない。

第7 出典と確認範囲

1 e-Gov法令検索「刑法」(235条,236条,238条,243条。令和8年10月9日確認。235条・236条の自由刑は拘禁刑の表記である。)

2 最高裁平成16年12月10日第二小法廷判決(平成16年(あ)第92号,刑集58巻9号1047頁。裁判所公開の判決原文全2頁を確認。)

(続きを読む...)事後強盗と「窃盗の機会」の終了―発見・追跡,現場離脱と再侵入の確認事項(AI作成)

公判前整理手続終了後の訴因変更への弁護対応―変更の契機,審理計画及び追加証拠を確認する(AI作成)

目次

第1 四つの問題を分けて検討する第2 裁判例は整理手続後の変更を一律に禁止していない1 東京高裁平成20年11月18日判決2 大阪地裁平成31年2月13日判決第3 変更の契機と審理計画への影響を具体化する1 整理段階と公判で明らかになった事項を対照する2 追加期日の数だけでなく防御のやり直しを確認する第4 変更への異議と防御準備の請求を分けて示す第5 追加証拠は別に請求理由を示す第6 記録に残す事項第7 関連記事及び出典1 関連記事2 出典と確認範囲

公判前整理手続が終わった後に検察官から訴因変更を請求された場合,弁護人は,公訴事実の同一性,整理手続の趣旨との関係,変更後の防御準備及び追加証拠の請求を分けて検討する必要がある。整理手続後であることだけで変更が一律に禁止されるわけではなく,同一性があることだけで時期の問題が解消するわけでもない。

第1 四つの問題を分けて検討する

刑事訴訟法312条1項は,検察官の請求による訴因又は罰条の追加・撤回・変更について,公訴事実の同一性を害しない限度という枠を定めている。他方,同法316条の32は,整理手続終了後の証拠調べ請求を制限する規定である。訴因変更請求と証拠調べ請求は対象が異なる。

検討対象判断の中心公訴事実の同一性変更前後の事実を比較し,312条1項の範囲内かを確認する。準備期間を設けても,同一性を欠く変更の問題は解消しない。整理手続終了後の変更の許否変更が必要となった経緯,整理段階の争点,追加的な証拠調べ及び審理計画への影響を確認する。変更後の防御準備変更により防御に実質的な不利益を生ずるおそれと,312条7項による停止の請求・必要期間を確認する。追加証拠の請求316条の32第1項の「やむを得ない事由」により整理手続中に請求できなかったかを,証拠ごとに確認する。

以下は令和8年10月9日現在の施行済み条文を基準とする。令和元年司法試験当時は,防御準備のための公判手続停止は312条4項に置かれていた。現在の同条7項との項番号の違いに注意を要する。

第2 裁判例は整理手続後の変更を一律に禁止していない
1 東京高裁平成20年11月18日判決

東京高裁平成20年11月18日判決(平成20年(う)第1744号,高刑集61巻4号6頁)は,整理手続で充実した争点整理や審理計画を策定した趣旨を没却するような訴因変更請求は許されないとした。

その上で,同判決は,整理手続では争点とされていなかった事項について,公判の証人尋問等で明らかとなった事実関係により変更の必要が生じたこと,追加的な証拠調べが限定されていたこと及び審理計画を大幅に変更する必要がなかったことを踏まえ,変更を許可した原審に訴訟手続の法令違反は認められないと判断した。

同判決の主文は原判決破棄・自判であるが,訴因変更の許可を違法とした結果ではない。理由の第1では訴因変更に関する控訴理由を退けている。主文だけから,各争点についての判断を読み替えないことが重要である。

2 大阪地裁平成31年2月13日判決

大阪地裁平成31年2月13日判決の原文(平成29年(わ)第2955号)は,手続の経過等に照らして特段の理由なく整理手続の制度趣旨を損なう訴因変更は許されないとした。その事件では,審理経過と新たな訴因の内容等から制度趣旨を損なわないと判断し,変更の許可を認めている。

いずれも下級審の判断であり,判決が実際に検討した手続経過と変更内容を離れて,整理手続後の訴因変更一般についての最高裁の確定的な基準として説明するものではない。

第3 変更の契機と審理計画への影響を具体化する
1 整理段階と公判で明らかになった事項を対照する

弁護人は,起訴状,検察官の証明予定事実,予定主張,開示証拠及び争点・証拠の整理結果を対照し,変更対象となる事項がいつ,どの資料や供述から明らかになったかを時系列で整理する。刑事訴訟法316条の24は,整理手続終了時に争点・証拠の整理結果を確認することを求めているため,その確認内容は出発点となる。

公判で初めて供述されたというだけで,整理段階では把握できなかったと即断しない。既に開示された証拠に同じ情報があったか,釈明や追加調査の契機があったかを確認する。逆に,公判での証拠調べにより初めて変更の必要が具体化したなら,その違いを示す。これは変更の経緯を説明するための実務上の整理であり,特定の事情一つだけで許否を決める法定要件ではない。

2 追加期日の数だけでなく防御のやり直しを確認する

変更前後の訴因を並べ,追加又は入替えとなる構成要件事実,従前の争点との関係及び既に行った反対尋問の前提を確認する。必要となる証人の再尋問,資料の収集,専門的な検討,主張の修正及び弁論準備を具体化し,従前の審理計画のどこに影響するかを示す。

双方から追加証拠の請求がないことは,審理計画への影響を判断する一事情となる。しかし,追加証拠がなくても,既存証拠の評価や法的主張を組み直す準備が必要な場合はある。「追加証拠なし」と「防御上の負担なし」を同一視しない。

東京高裁判決が,追加的な証拠調べは1期日で終了し得る程度であると評価したことも,その事件における判断である。「1期日以内なら必ず変更を許す」という共通の上限や安全基準ではない。

第4 変更への異議と防御準備の請求を分けて示す

変更の不許可を求める場合は,同一性を争うのか,整理手続の趣旨を損なう経過を問題にするのかを明らかにし,対応する事実と資料を示す。同時に,変更が許可される場合に必要な防御準備を具体化しておく。

刑事訴訟法312条7項は,追加又は変更により防御に実質的な不利益を生ずるおそれがあると裁判所が認めるとき,被告人又は弁護人の請求により,必要な期間公判手続を停止しなければならないと定める。請求主体,不利益のおそれ及び準備に必要な期間を省略しない。

停止の請求をしたことと,変更に同意したこととは区別して示す。必要な期間を求める際は,新しい防御対象に対して未了の作業,資料取得や証人との調整の見込み,次の期日までにできることを説明する。詳しい整理は,訴因変更後の防御準備と公判手続の停止を参照されたい。

第5 追加証拠は別に請求理由を示す

刑事訴訟法316条の32第1項による制限は,検察官にも被告人又は弁護人にも及ぶ。訴因変更が許可されたことから,新たな証拠の請求が全て当然に許されるとはいえない。

変更に対応して追加証拠を請求する弁護人は,証拠の立証趣旨に加え,整理手続中にはなぜ請求できなかったか,変更のどの点に対応して必要性が生じたかを説明する。既に保有していた証拠であっても,新しい訴因との関係で必要性が生じたという事情を,単なる提出忘れと分けて示す必要がある。ただし,訴因変更があったという事実だけで「やむを得ない事由」を一律に満たすわけではない。

同条2項は,裁判所が必要と認めるときの職権による証拠調べを妨げない。当事者による請求の制限と裁判所の職権を区別し,職権で取り調べる可能性を理由に請求理由の説明を省略しない。

(続きを読む...)公判前整理手続終了後の訴因変更への弁護対応―変更の契機,審理計画及び追加証拠を確認する(AI作成)

刑事弁護で行為・客体・認識の時点を整理する方法―権利行使,払戻し,目的変更及び早すぎた結果(AI作成)

目次

第1 行為ごとの確認表を作る理由第2 行為の記録と法律上の評価を分ける1 行為の動詞を一つずつ取り出す2 不明点を後の出来事で埋めない第3 権利があることと行使方法の適法性を分ける1 債権回収の方法を独立して確認する2 預金債権と払戻時の告知義務を分ける第4 預金債権,現金及び交付後の財産を区別する第5 途中で目的が変わった場合は関係を点検し直す第6 早すぎた結果では着手・因果関係・故意を別に確認する1 クロロホルム事件の判断を分解する2 四つの問いを独立させる第7 弁護人が検討を閉じるための確認事項第8 関連記事第9 出典・確認範囲
第1 行為ごとの確認表を作る理由

刑事事件では,一連の出来事を「金を使い込んだ」「人を死亡させた」という結論だけでまとめると,途中で変わった相手方,財産,権限又は認識を落としやすい。事情聴取や記録検討では,まず実際の行為を分け,その後に各犯罪の要件へ対応させる必要がある。
本記事では,権利の存在と行使方法,口座内の預金債権と払戻後の現金,後から生じた目的,予定より早い結果を区別するための確認手順を示す。確認表は検討漏れを減らすための整理方法であり,表を埋めるだけで犯罪の成否が決まるものではない。

第2 行為の記録と法律上の評価を分ける
1 行為の動詞を一つずつ取り出す

請求する,振り込ませる,払戻しを求める,受領する,交付する,費消する,暴行する,搬送するという動詞を,行為者と時点ごとに分ける。同じ金額でも,同じ財産又は同じ被害者とは限らない。
行為を細分化する段階では,直ちに別罪と数えない。事実上の動作を分けることと,刑法上の実行行為又は罪数を決めることは,別の判断である。

確認欄記録する内容主体・相手方誰が誰に対して行ったか。本人,代理人,受託者等の地位行為・時点実際にしたこと,開始・終了時刻,前後の行為とのつながり客体・帰属現金,預金債権,物等の区別と,権利・占有・管理権限の所在表示・認識告げたこと,告げなかったこと,各人が当時知っていた事実効果・証拠権利や占有の変化,結果,裏付け資料及び反対方向の資料
2 不明点を後の出来事で埋めない

後から得た鑑定結果や説明を,行為当時の認識へ書き戻さない。供述がいつされたかと,供述対象の出来事がいつ起きたかも別欄に置く。
資料をまだ見ていない場合は未確認と記録する。探した範囲で資料が見つからなかった場合には,検索先・対象・日時を残す。検索未発見だけで,資料又は事実が存在しないと結論付けない。

第3 権利があることと行使方法の適法性を分ける
1 債権回収の方法を独立して確認する

最高裁昭和30年10月14日判決は,権利の実行でも,権利の範囲や社会通念上一般に忍容すべき方法の程度を逸脱すれば,恐喝罪が成立することがあるとした。
したがって,債権が実在することを確認しても,回収方法の検討は終わらない。債権の発生原因,元本,弁済,期限等と,要求内容,発言,威圧的な態度,相手方の畏怖,交付との関係を分ける。同判決の事案では,債権額のいかんにかかわらず交付額全体について恐喝罪を認めているが,個別事件の被害額は具体的な構成と事実に即して検討する。

2 預金債権と払戻時の告知義務を分ける

最高裁平成8年4月26日判決は,振込依頼人と受取人との原因関係の有無にかかわらず,受取人と銀行との間に振込金額相当の普通預金契約が成立するとした。
一方,最高裁平成15年3月12日決定は,誤振込みを知った受取人が,銀行窓口係員へその事実を告げずに払戻しを受けた場合の詐欺罪を認めた。銀行が組戻しや照会等の措置を講ずる上で誤振込みの有無が重要であることを踏まえ,受取人の信義則上の告知義務を検討している。
権利の存在と,その行使過程の表示・不告知は別問題である。ただし,この決定は誤振込みの事案である。犯罪によって入金させた場合その他の原因に,告知義務や詐欺罪成立の結論を当然に広げない。どの事情が相手方の判断に重要か,告知義務の根拠は何かを改めて示す必要がある。

第4 預金債権,現金及び交付後の財産を区別する

口座への入金,銀行からの現金受領,第三者への交付を一つの「金銭移動」にまとめない。銀行に対する請求権と,銀行から受け取る現金では,客体と支配関係を別に確認する必要がある。
刑法246条は財物を交付させる詐欺と財産上の利益を得る詐欺を区別し,同法252条は自己の占有する他人の物の横領を定めている。どの段階の何を対象とするかを決めずに,条文番号だけを当てはめることはできない。
委託に基づく金銭の管理を検討するときは,委託内容,口座名義,払戻権限,受領後の保管方法,送金・交付先,流用の意思が外部へ現れた行為を対応させる。口座名義又は出金の事実だけで,他人性,占有,横領行為及び故意のすべてを認定しない。
記録を集める際は,通帳・取引明細,委託に関する契約書や連絡,払戻請求に関する資料,入出金後の使途を分ける。入金額,請求額,受領額及び流用額が異なる場合には,差額と各構成の客体額を明示する。資料の取得は,依頼者が適法に取得できる範囲や,事件の段階に応じた開示・照会等の手続による。

第5 途中で目的が変わった場合は関係を点検し直す

後から別の財産を取得する意思が生じた場合には,当初の目的,追加の目的が生じた時点,その後の行為を分ける。前の行為が作った状態を利用したことと,前の行為の時点から追加の目的を持っていたことは,同じ事実ではない。
確認するのは,追加された財産の客体・占有,取得の手段,行為時の認識,先行行為との連続性及び被害者である。その上で,各犯罪の成立を検討し,別罪,同一犯罪としての評価,吸収等の関係へ進む。刑法45条・54条の処理も,成立する犯罪と行為の関係を確定してから検討する。
「同じ被害者だからすべて吸収される」「後から思い付いたから必ず別罪になる」というどちらの結論も,それだけでは根拠にならない。先行する暴行・脅迫を利用したと主張する場合には,その継続や取得との関係を,映像,発言,位置,時間経過等の資料へ結び付ける。

第6 早すぎた結果では着手・因果関係・故意を別に確認する

(続きを読む...)刑事弁護で行為・客体・認識の時点を整理する方法―権利行使,払戻し,目的変更及び早すぎた結果(AI作成)