第1 この記事が扱う通達
1 通達の書誌
この記事が対象とするのは,令和6年1月5日付け警察庁丁捜二発第2号「知能犯罪に関する告訴・告発の適正かつ合理的な取扱いの推進について(通達)」である。
警察庁刑事局捜査第二課長から,警視庁刑事部長及び各道府県警察本部長に宛てて発出された課長通達であり,警察大学校教務部長並びに各管区警察局広域調整部(総務監察・広域調整部)長に参考送付されている。
原議保存期間は5年(令和11年3月31日まで),有効期間は一種(令和11年3月31日まで)である。
本文は4頁で,「1 基本的な考え方」から「7 適時適切な評価と士気の高揚」までの7項からなる。
2 警察庁ウェブサイトの掲載は概要1頁である
警察庁ウェブサイトの「警察庁の施策を示す通達(刑事局)」に掲げられている本通達のPDFは,「(概要)」と題する1頁の文書であり,全文ではない。
この記事は,全文4頁に基づいて内容を示す。
掲載の様式は,同じ刑事局の通達であっても発出した課によって異なる。
刑事企画課の通達を収める刑事企画課用のフォルダには,令和6年3月26日通達,令和6年3月22日通達及び平成31年3月27日付けの2通達のいずれについても全文が掲載されている。
これに対し,捜査第二課の通達を収める捜査第二課用のフォルダには,本通達のほか,令和7年3月17日付け丁捜二発第14号「経済的不正の追及の強化について(通達)」及び令和7年3月18日付け丁捜二発第16号「構造的知能暴力事件をはじめとする構造的不正に対する取組の強化等について(通達)」が掲げられているが,いずれも概要1頁だけである。
この記事では,捜査第二課の課長通達については全文を公表しない取扱いになっていると整理する。
通達は,著作権法(昭和45年法律第48号)13条2号により,同章の規定による権利の目的となることができない著作物である。
同号は「国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人……又は地方独立行政法人……が発する告示、訓令、通達その他これらに類するもの」と定めている。
3 この記事の射程
この記事は,人工知能を用いて作成したものであり,本通達の全文,発出の経緯,令和6年3月26日通達との関係,都道府県警察の例規に現れた「3か月」の取扱い及び本通達を援用する際の限定を扱う。
調査の基準日は令和8年9月9日であり,法令は同日現在の条文による。
告訴・告発一般の受理体制,すなわち告訴・告発センターの設置及び体制,都道府県警察の例規の横断的な比較並びに受理されない場合に制度上とり得る対応は,別の記事である令和6年警察庁通達に基づく告訴・告発の取扱いで扱っているので,この記事では繰り返さない。
この記事は,個別の事件処理の手引ではない。
第2 通達の全文
以下は本通達の全文である。
原文の読点は「、」であるから,そのまま用いる。
半角括弧と全角括弧の混在及び半角の句点は,PDFの文字情報の状態をそのまま再現せず,全角に統一した。
記3(3)の「カ」は,PDFの文字情報では漢字の「力」として抽出されるが,該当箇所を画像で確認したところ片仮名の「カ」であった。
警察庁丁捜二発第2号
令和6年1月5日警察庁刑事局捜査第二課長
警視庁刑事部長
各道府県警察本部長殿
(参考送付先)
警察大学校教務部長
各管区警察局広域調整部(総務監察・広域調整部)長原議保存期間 5年(令和11年3月31日まで)
有効期間 一種(令和11年3月31日まで)知能犯罪に関する告訴・告発の適正かつ合理的な取扱いの推進について(通達)
告訴・告発については、これまでも「知能犯罪に関する告訴・告発の取扱いについて(通達)」(平成31年2月4日付け警察庁丁捜二発第17号。以下「旧通達」という。)により、その適正な取扱いを推進してきたところである。
一方、その取扱状況において、未処理事件数や受理後1年以上が経過した長期未処理事件の割合が依然として高水準で推移し、また、警察署が取り扱う告訴告発事件に係る捜査方針や処理方針について、警察本部の関与が限定的であること等により斉一的な対応が取られていない現状があることに鑑み、今般、「警戒の空白を生じさせないために当面取り組むべき組織運営上の重点について(通達)」(令和5年7月3日付け警察庁丙企画発第29号ほか)における「限られた人的リソースの有効活用の観点から業務の実施方法等の見直しを検討するべき事項」として、「業務上過失事件等の捜査の加速化」の項目の中で、各都道府県警察は、警察庁における告訴告発事件の合理的な処理方策の検討結果を踏まえ、業務の実施方法を点検し、必要な見直しを行うこととされている。
以上を踏まえ、告訴・告発の適正かつ合理的な取扱いを下記により推進することとしたので、各都道府県警察においては、実効ある諸対策を講じられたい。
なお、旧通達は廃止する。
記
1 基本的な考え方
告訴・告発は、国民が警察を最後の拠り所として犯人の処罰を求めてくるものであり、警察捜査に対する期待や関心が高いことから、その受理・処理が適正に行われないことにより、結果として警察に対する国民の信頼が損なわれることのないよう、告訴・告発相談から受理後の処理に至るまでの各段階において、その取扱いが迅速かつ適正なものである必要がある。
また、迅速かつ適正な取扱いの確保を前提とした上で、警察組織内部の限られた人的リソースの有効活用の観点からは、告訴・告発に係る専門性の高さを踏まえた人材の質的向上や、警察本部の指導・管理の強化等を含めた事件処理の見通しを早い段階で立てること等による業務の実施方法の合理化・効率化が不可欠である。
この点、人材の質的向上や警察本部の指導・管理の強化等による業務の実施方法の合理化・効率化は、告訴・告発に係る組織的対応力の強化に繋がり、取扱いの更なる迅速化・適正化が期待されることから、各都道府県警察においては、積極的な検討を行う必要がある。2 迅速かつ適正な取扱いの推進
告訴・告発の取扱いにおける迅速性・適正性の確保のため、相談から受理後の処理に至るまでの各段階において、以下の点に留意すること。
(1) 告訴・告発相談については、相談者の立場に立って誠実に対応し、要件を充足しているものについては、迅速に受理すること。
(2) 告訴・告発の要件検討に際しては、複雑な事案で一定の財務捜査を経なければ事件性が判然としないなど特別な事情がある場合を除き、最初の相談日から3か月以内に受理又は不受理の判断を行うよう努めること。
(3) 告訴・告発受理後は、告訴人・告発人の立場を考慮し、速やかに捜査を行い迅速に処理すること。
3 警察本部による指導・管理の強化等
(1) 捜査の進捗状況等の把握・管理
本部捜査第二課は、警察署が取り扱う告訴・告発について、相談の有無、受理・不受理の別、捜査の進捗状況等の把握・管理に努めること。
(2) 警察署に対する指導の強化
本部捜査第二課は、引き続き、告訴専門官を中心とした専門指導体制の充実・強化を図るとともに、本部告訴・告発センター等と緊密に連携し、警察署における告訴・告発の相談段階からその内容を把握し、例えば特段の事情もないのに、捜査によらなければ解明できないような事項についてまで相談者に疎明資料の提出を求め、それがなされないことを理由に受理を拒むといった不適切な対応がなされていないか確認すること。
また、事実関係が複雑で、受理に当たって慎重な検討を要すると認められる案件については、当該警察署において迅速かつ適正な取扱いが確保されるよう、その擬律判断、疎明資料、受理の可否等についてきめ細かな指導を行うこと。加えて、本部捜査第二課は、警察署が取り扱う告訴・告発について、その受理及び処理が合理的かつ効率的に行われるよう、(1)にて把握した捜査の進捗状況等や、各都道府県警察本部・警察署の捜査体制、告訴・告発の受理件数等の実情に応じ、捜査方針の樹立、早期処理に至るための各段階における必要十分な捜査事項等について現地指導等を含めた具体的な指導、地検協議の支援等を積極的に行うこと。
(3) 柔軟な捜査応援の実施
本部捜査第二課は、未処理事件が滞留している警察署に対しては、必要に応じて本部捜査員を派遣して集中的に捜査するなど、効率的かつ迅速な処理が可能となるような措置を講じること。
また、警察署が取り扱う告訴・告発について、捜査員を集約して集中的に捜査をすることが業務の合理化・効率化の観点から有効と認められる場合には、各都道府県警察本部・警察署の捜査体制等の実情を踏まえつつ、捜査員の応援派遣を積極的に検討すること。
例えば、以下のような事案については、捜査員を集約して集中的に捜査することが有効と考えられる。
ア 時効が切迫している事案
イ 大きな社会的反響が予想される事案
ウ 財務捜査が求められる事案
エ 被害額が大きい事案
オ 被疑者又は関係者が多数存在する事案
カ その他警察署が単独では処理できないと思われる事案(4) その他業務の合理化・効率化に資する取組の推進
本部捜査第二課は、告訴・告発の受理及び処理に関し、警察署と本部捜査第二課との間での調整等が円滑となるよう、警察署及び本部捜査第二課がそれぞれ行うべき業務等を警察署と事前に共有するなど、業務の合理化・効率化に資するような取組を推進すること。
4 警察署における対応
警察署における告訴・告発相談に対しては、刑事課の係長以上の者が対応し、刑事課長が要件充足性を適正に見極め、警察署長指揮の下、受理又は不受理の判断をすること。
刑事課長は、知能犯捜査係の業務負担状況を的確に把握し、事実関係が複雑な案件については、知能犯捜査経験が豊富な捜査員を充てるなど、捜査員の過重な負担を解消するとともに、捜査体制を適宜見直し、必要な捜査項目を的確に抽出した上で、合理的かつ迅速な捜査指揮に努めること。
知能犯捜査員は、告訴・告発の取扱いは知能犯捜査の原点であるという認識に立ち、告訴・告発に係る事案の的確な見極めと事案に応じた適切な事件化等の対応を通じ、知能犯捜査の知識・技能の向上に努めること。
5 警察庁との緊密な連携
都道府県警察は、大きな社会的反響が予想される事案や全国的に波及する事案等の告訴・告発について、相談を受理した段階で、速やかに警察庁に報告すること。
6 検察庁との連携
告訴・告発の処理に関して、検察庁との検討会を適宜開催するなど、検察庁と連携して効率的に対応すること。
検察庁との検討会においては、特に難解な事案や捜査を尽くしても進展が望めないような事案について、案件ごとに具体的な処理方針や必要な捜査事項を十分に打ち合わせるとともに、必要に応じて捜査第二課長自らが検察庁と協議するなど、早期処理の実現のために必要な対応を行うこと。
7 適時適切な評価と士気の高揚
告訴・告発の評価に関しては、相談の取扱状況、事件受理・処理件数及び事件処理の困難性等の検挙功労を総合的に勘案するとともに、地道な努力により長期未処理事件を解決するなどの潜在的な功労も見逃すことなく、迅速適正な取扱いの推進に寄与したと認められる警察署や捜査員を積極的に賞揚すること。
第3 発出の経緯と位置付け
1 廃止された旧通達
本通達は,「知能犯罪に関する告訴・告発の取扱いについて(通達)」(平成31年2月4日付け警察庁丁捜二発第17号)を旧通達とし,末尾で「なお、旧通達は廃止する。」と定めている。
告訴・告発一般の系列は,平成24年12月6日付け丙刑企発第103号ほかから,平成31年3月27日付け丙刑企発第41号ほか及び同日付け丁刑企発第44号ほかを経て,令和6年3月26日付け丙刑企発第39号ほかに至っている。
知能犯罪の系列は,これとは日付も発番も異なる別系統であり,平成31年2月4日付け丁捜二発第17号から本通達に引き継がれた。
旧通達の全文は,警察庁ウェブサイトの通達一覧には掲げられていない。
2 発出の理由
前文は,発出の理由として次の2点を挙げている。
第1に,取扱状況において「未処理事件数や受理後1年以上が経過した長期未処理事件の割合が依然として高水準で推移し」ていることである。
第2に,「警察署が取り扱う告訴告発事件に係る捜査方針や処理方針について、警察本部の関与が限定的であること等により斉一的な対応が取られていない現状がある」ことである。
3 平成14年までの統計に見る長期未処理
長期未処理の問題は,本通達が初めて指摘したものではない。
平成15年版警察白書は「知能犯捜査部門における告訴・告発の取扱い状況」という項目を設け,表3-1から表3-3までで具体的な数値を掲げていた。
以下の数値は,同白書が公表している各表のExcel形式ファイルによる。
平成10年から平成14年までの受理件数は,順に2,478件,2,372件,3,449件,3,319件,3,035件である。
同じ期間の処理件数は,順に2,554件,2,428件,2,713件,3,167件,3,339件である。
同じ期間の未処理件数は,順に3,015件,2,975件,3,715件,3,867件,3,563件である。
平成14年の未処理3,563件の内訳は,受理後1年未満が1,569件(44.0%),受理後1年以上が1,994件(56.0%)であった。
同じ年の処理3,339件の内訳は,受理後1年未満が2,041件(61.1%),受理後1年以上が1,298件(38.9%)であった。
未処理事件の過半数が受理後1年以上のものであるという状態は,遅くとも平成14年には現れていたことになる。
本通達が「依然として高水準で推移し」と述べているのは,この経緯を踏まえたものと考えられる。
もっとも,平成15年版警察白書と同じ形式の表を,その後の版で確認することはできなかった。
したがって,現在の受理件数,処理件数及び未処理件数は,この記事では確認できていない。
4 上位方針との関係
本通達は,「警戒の空白を生じさせないために当面取り組むべき組織運営上の重点について(通達)」(令和5年7月3日付け警察庁丙企画発第29号ほか)における「限られた人的リソースの有効活用の観点から業務の実施方法等の見直しを検討するべき事項」のうち,「業務上過失事件等の捜査の加速化」の項目に位置付けられている。
その項目の中で,各都道府県警察は「警察庁における告訴告発事件の合理的な処理方策の検討結果を踏まえ、業務の実施方法を点検し、必要な見直しを行うこと」とされている。
この上位方針は,被害者保護からではなく,限られた人的リソースの有効活用から出ている。
本通達の「1 基本的な考え方」が「迅速かつ適正な取扱いの確保を前提とした上で」とわざわざ断っているのは,このためであると考えられる。
なお,丙企画発第29号ほかの原文は,警察庁ウェブサイトの長官官房の通達一覧には掲げられておらず,この記事では確認できていない。
同じ令和5年7月3日付けで発出された「警戒の空白を生じさせないための組織運営の指針」(警察庁乙官発第4号ほか)は,都道府県警察が公表する県の版により内容を確認することができ,部門を超えたリソースの重点化及び能率的でメリハリのある組織運営を掲げている。
同じ方針の下で組織された部門の例としては,匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)対策の警察組織がある。
第4 基本的な考え方(記1)
記1は,前段で告訴・告発の位置付けを次のように述べている。
告訴・告発は、国民が警察を最後の拠り所として犯人の処罰を求めてくるものであり、警察捜査に対する期待や関心が高いことから、その受理・処理が適正に行われないことにより、結果として警察に対する国民の信頼が損なわれることのないよう、告訴・告発相談から受理後の処理に至るまでの各段階において、その取扱いが迅速かつ適正なものである必要がある。
後段は,「迅速かつ適正な取扱いの確保を前提とした上で」,警察組織内部の限られた人的リソースの有効活用の観点から,①告訴・告発に係る専門性の高さを踏まえた人材の質的向上,②警察本部の指導・管理の強化等を含めた事件処理の見通しを早い段階で立てること等による業務の実施方法の合理化・効率化が不可欠であるとする。
そのうえで,これらが告訴・告発に係る組織的対応力の強化に繋がり,取扱いの更なる迅速化・適正化が期待されるとして,各都道府県警察に積極的な検討を求めている。
第5 迅速かつ適正な取扱いの推進(記2)
1 相談段階の対応
記2(1)は,相談段階の対応について次のとおり定めている。
告訴・告発相談については、相談者の立場に立って誠実に対応し、要件を充足しているものについては、迅速に受理すること。
なお,被害の届出については別の通達があり,犯罪捜査規範61条が受理義務を定めていることを含め,被害者に関する犯罪捜査規範の主な条文と警察の対応で整理している。
2 最初の相談日から3か月以内
記2(2)は,受理又は不受理の判断について次のとおり定めている。
告訴・告発の要件検討に際しては、複雑な事案で一定の財務捜査を経なければ事件性が判然としないなど特別な事情がある場合を除き、最初の相談日から3か月以内に受理又は不受理の判断を行うよう努めること。
(1) 概要と全文の差
警察庁ウェブサイトの概要は,この部分を「特別な事情がある場合を除き、最初の相談日から3か月以内に受理又は不受理の判断を行うよう努めること」と要約しており,例外事由の例示を掲げていない。
全文は,例外事由を「複雑な事案で一定の財務捜査を経なければ事件性が判然としない」という水準で例示している。
この例示に照らせば,単に事案が複雑であること又は担当者が多忙であることは,例外として掲げられた水準には達しないと考えられる。
(2) 起算点
起算点は,告訴状の提出日でも受理日でもなく,「最初の相談日」である。
したがって,いつ最初に相談したかを記録しておくことが,期間を主張する際の前提になる。
(3) 努力義務であること
この定めは「行うよう努めること」であって,期限を定めたものではない。
3か月を経過したことが,それだけで違法又は義務違反となるわけではない。
3 受理後の処理
記2(3)は,受理後の処理について次のとおり定めている。
告訴・告発受理後は、告訴人・告発人の立場を考慮し、速やかに捜査を行い迅速に処理すること。
第6 警察本部による指導・管理の強化(記3)
1 捜査の進捗状況等の把握・管理
記3(1)により,本部捜査第二課は,警察署が取り扱う告訴・告発について,相談の有無,受理・不受理の別及び捜査の進捗状況等の把握・管理に努めるものとされている。
把握・管理の対象に「相談の有無」が含まれているから,受理後の事件に限られない。
2 警察署に対する指導の強化
記3(2)は,本部捜査第二課が,告訴専門官を中心とした専門指導体制の充実・強化を図るとともに,本部告訴・告発センター等と緊密に連携し,警察署における告訴・告発の相談段階からその内容を把握するものとしたうえ,確認すべき不適切な対応の例を次のように挙げている。
例えば特段の事情もないのに、捜査によらなければ解明できないような事項についてまで相談者に疎明資料の提出を求め、それがなされないことを理由に受理を拒むといった不適切な対応がなされていないか確認すること。
警察庁ウェブサイトの概要は,この部分を「不適切な対応がなされていないか確認すること」とだけ要約しており,例示を掲げていない。
この記事では,警察庁が不適切な対応の類型を具体的に示した点に,この一文の意味があると整理する。
記3(2)は,さらに,事実関係が複雑で受理に当たって慎重な検討を要すると認められる案件について,当該警察署において迅速かつ適正な取扱いが確保されるよう,その擬律判断,疎明資料,受理の可否等についてきめ細かな指導を行うことを求めている。
加えて,本部捜査第二課は,受理及び処理が合理的かつ効率的に行われるよう,把握した捜査の進捗状況等や,各都道府県警察本部・警察署の捜査体制,告訴・告発の受理件数等の実情に応じ,捜査方針の樹立,早期処理に至るための各段階における必要十分な捜査事項等について現地指導等を含めた具体的な指導及び地検協議の支援等を積極的に行うものとされている。
3 柔軟な捜査応援
記3(3)は,未処理事件が滞留している警察署に対して,必要に応じ本部捜査員を派遣して集中的に捜査するなど,効率的かつ迅速な処理が可能となるような措置を講じることを求めている。
そのうえで,捜査員を集約して集中的に捜査することが有効と考えられる事案として,次の6類型を挙げている。
①時効が切迫している事案
②大きな社会的反響が予想される事案
③財務捜査が求められる事案
④被害額が大きい事案
⑤被疑者又は関係者が多数存在する事案
⑥その他警察署が単独では処理できないと思われる事案
これらは,捜査員を集約すべき場合として通達自身が掲げたものである。
したがって,警察署単独では処理が困難であるという事情は,本通達の下では,捜査を進めない理由ではなく,本部捜査員の応援派遣を検討すべき理由として位置付けられていることになる。
4 その他業務の合理化・効率化に資する取組
記3(4)は,警察署と本部捜査第二課との間での調整等が円滑となるよう,それぞれが行うべき業務等を警察署と事前に共有するなどの取組を推進することを求めている。
第7 警察署における対応(記4)
記4は,警察署における取扱いについて3つの段落を置いている。
第1に,告訴・告発相談に対しては,刑事課の係長以上の者が対応し,刑事課長が要件充足性を適正に見極め,警察署長指揮の下,受理又は不受理の判断をするものとされている。
相談への対応者,要件充足性を見極める者及び受理・不受理の判断をする者が,通達上,段階的に定められていることになる。
第2に,刑事課長は,知能犯捜査係の業務負担状況を的確に把握し,事実関係が複雑な案件については知能犯捜査経験が豊富な捜査員を充てるなど,捜査員の過重な負担を解消するとともに,捜査体制を適宜見直し,必要な捜査項目を的確に抽出した上で,合理的かつ迅速な捜査指揮に努めるものとされている。
第3に,知能犯捜査員は,「告訴・告発の取扱いは知能犯捜査の原点であるという認識に立ち」,事案の的確な見極めと事案に応じた適切な事件化等の対応を通じ,知能犯捜査の知識・技能の向上に努めるものとされている。
第8 警察庁及び検察庁との連携(記5・記6)
1 警察庁との緊密な連携
記5は,都道府県警察が,大きな社会的反響が予想される事案や全国的に波及する事案等の告訴・告発について,「相談を受理した段階で、速やかに警察庁に報告すること。」としている。
報告すべき時点が受理後ではなく相談段階とされている点で,令和6年3月26日通達には対応する定めがない。
2 検察庁との連携
記6は,告訴・告発の処理に関して,検察庁との検討会を適宜開催するなど,検察庁と連携して効率的に対応することを求めている。
そのうえで,検討会においては,特に難解な事案や捜査を尽くしても進展が望めないような事案について,案件ごとに具体的な処理方針や必要な捜査事項を十分に打ち合わせるとともに,「必要に応じて捜査第二課長自らが検察庁と協議するなど、早期処理の実現のために必要な対応を行うこと」としている。
記3(2)が本部捜査第二課による「地検協議の支援」を掲げていることと併せると,検察庁との協議は,本通達において早期処理の手段として位置付けられている。
第9 適時適切な評価と士気の高揚(記7)
記7は,告訴・告発の評価に関し,相談の取扱状況,事件受理・処理件数及び事件処理の困難性等の検挙功労を総合的に勘案するとともに,「地道な努力により長期未処理事件を解決するなどの潜在的な功労も見逃すことなく」,迅速適正な取扱いの推進に寄与したと認められる警察署や捜査員を積極的に賞揚することを求めている。
長期未処理事件を解決したことが検挙功労として評価されにくいという実情を前提とした定めであると考えられる。
第10 令和6年3月26日通達との関係
令和6年3月26日付け警察庁丙刑企発第39号ほか「告訴・告発への適切な対応及び指導・管理の徹底について(通達)」は,刑事局長,生活安全局長,交通局長,警備局長及びサイバー警察局長の5局長連名で発出された局長通達であり,告訴・告発一般を対象として,告訴・告発センターの設置及び体制並びに警察本部事件主管課の事務を定めている。
本通達との関係は,次のとおりである。
第1に,時系列では,令和6年1月5日付けの本通達の方が先に発出されている。
本通達は,令和6年3月26日通達を引用していない。
第2に,発出主体と対象が異なる。
本通達は捜査第二課長の課長通達で対象は知能犯罪であり,令和6年3月26日通達は5局長連名の局長通達で対象は告訴・告発一般である。
第3に,定め方の具体性が異なる。
令和6年3月26日通達は,受理・不受理の判断について「可能な限り迅速に」と定めるにとどまるのに対し,本通達は「最初の相談日から3か月以内」という日数による目途を示している。
また,本通達には,不適切な対応の例示,集中捜査が有効な6類型,相談段階での警察庁への報告及び検察庁との協議に関する定めがあるが,令和6年3月26日通達には対応する定めがない。
第4に,令和6年3月26日通達が定める告訴・告発センターは,本通達においても「本部告訴・告発センター等」として現れる。
また,両通達は,いずれも令和11年3月31日までを有効期間としている。
第11 都道府県警察の例規に見る「3か月」
「3か月」という目途は,知能犯罪に限られない形で,複数の都道府県警察の例規に現れている。
以下は,各例規の原文で確認したものである。
富山県警察「告訴・告発取扱要綱の制定について(例規通達)」(平成25年5月1日施行)は,第4の4(2)で「告訴等については、原則として最初の相談日から3か月以内に受理の可否を判断すること。」と定めている。
同要綱は,第4の3(2)アで「告訴等事件は、おおむね受理から3か月を目途に捜査を遂げ、事件を検察官に送付又は送致するものとする。ただし、事件が複雑な場合等やむを得ないときは、この限りでない。」とも定めており,受理までと受理後の双方に目途を置いている。
なお,同要綱には「告訴専門官」の語も現れる。
千葉県警察「告訴・告発事件取扱規程の運用について」(平成27年1月15日例規(刑)第1号)は,直ちに受理又は不受理の判断をすることができない場合であっても警察相談として受理した上,「原則として、告訴・告発申出等を行った日から3月以内に受理又は不受理の判断をすること」と定めている。
同要領は,捜査についても「原則として、事件受理日から6月以内に捜査を終結して送致(付)すること」とし,さらに「受理後2年を経過した告訴・告発事件及び捜査を完遂できずに公訴時効完成日以前1年となった告訴・告発事件については、県本部事件主管課長に報告の上、千葉地方検察庁とその処理方法を協議するものとする。」と定めている。
これらの例規は,いずれも本通達より前に制定されたものであり,本通達を受けて作られたものではない。
そうすると,本通達の「3か月」は,知能犯罪の分野で新たに設けられた基準というよりも,既に複数の都道府県警察の例規に現れていた目途を,警察庁の通達のレベルで確認したものと考えられる。
なお,警視庁「告訴及び告発の取扱いについて」(平成15年4月1日通達甲(副監.刑.2.資)第15号)は,「要件の整った告訴等について、民事事件絡みであることを理由に、受理を回避しないこと。」及び「告訴状等の原本は預からないこと。」と定めている。
これらは期間の定めではないが,受理段階の取扱いに関する規律である。
都道府県警察の例規の横断的な比較は,令和6年警察庁通達に基づく告訴・告発の取扱いで扱っている。
第12 この通達を援用する際の限定
1 課長通達であること
本通達は,刑事局捜査第二課長が発出した課長通達(丁)であり,局長通達(丙)ではない。
2 対象が知能犯罪に限られること
本通達の対象は,捜査第二課が所管する知能犯罪に関する告訴・告発である。
暴行,傷害等の粗暴犯や交通事件には及ばない。
もっとも,「3か月」という目途自体は,前記第11のとおり,複数の都道府県警察の例規において犯罪類型を限定しない形で置かれている。
3 努力義務であること
「3か月以内に受理又は不受理の判断を行うよう努めること」は努力義務であり,期限ではない。
また,例外事由が明示されている。
4 私人に受理を求める権利を与えるものではないこと
通達は警察組織の内部規範であって,これに違反する取扱いがされたことから直ちに私人の側に受理を求める請求権が生ずるものではない。
この点について,最高裁判所第三小法廷平成2年2月20日判決(平成1年(オ)第825号・損害賠償請求事件・集民159号161頁)は,次のとおり判示している。
犯罪の捜査及び検察官による公訴権の行使は、国家及び社会の秩序維持という公益を図るために行われるものであって、犯罪の被害者の被侵害利益ないし損害の回復を目的とするものではなく、また、告訴は、捜査機関に犯罪捜査の端緒を与え、検察官の職権発動を促すものにすぎないから、被害者又は告訴人が捜査又は公訴提起によって受ける利益は、公益上の見地に立って行われる捜査又は公訴の提起によって反射的にもたらされる事実上の利益にすぎず、法律上保護された利益ではないというべきである。
したがって、被害者ないし告訴人は、捜査機関による捜査が適正を欠くこと又は検察官の不起訴処分の違法を理由として、国家賠償法の規定に基づく損害賠償請求をすることはできないというべきである(最高裁昭和二五年(オ)第一三一号同二七年一二月二四日大法廷判決・民集六巻一一号一二一四頁参照)。
同判決の判示事項は「犯罪の被害者ないし告訴人からの捜査の不適正又は不起訴処分の違法を理由とする国家賠償請求の可否」であり,参照法条は国家賠償法1条1項である。
上告は棄却されており,原審は名古屋高等裁判所平成元年3月29日判決(昭和63年(ネ)第556号)である。
同判決が参照判例として掲げる最高裁判所大法廷昭和27年12月24日判決(昭和25年(オ)第131号・民集6巻11号1214頁)は,検察官のした不起訴処分に対する民事訴訟又は行政訴訟の提起が許されないとしていたものである。
被害者側から見た刑事手続上の権利の全体像は,刑事手続及び少年審判における被害者の権利で扱っている。
5 不受理をめぐる裁判例
告訴・告発の不受理そのものを違法とした裁判例は,この記事の確認範囲では発見することができなかった。
裁判所ウェブサイトの裁判例検索において,「告訴・告発センター」,「告訴専門官」及び「告訴不受理」はいずれも該当がなかった。
裁判所ウェブサイトにはすべての判決等が掲載されているわけではないから,これは裁判例が存在しないことを意味するものではなく,裁判所ウェブサイト未掲載であるということにとどまる。
本通達の意義は,訴訟上の請求権を根拠付ける点にあるのではなく,①警察官が内部規範に沿って対応すべきものとされていること,②本部捜査第二課という上位のラインが把握・管理及び指導の役割を負っていること,③不適切な対応の類型が具体的に示されていること,に求められると考えられる。
警察職員の職務執行そのものに対する不服の申出については,公安委員会への苦情申出で扱っている。
第13 この記事で確認できなかった事項
次の各点は,令和8年9月9日現在,この記事では確認できていない。
①「警戒の空白を生じさせないために当面取り組むべき組織運営上の重点について(通達)」(令和5年7月3日付け警察庁丙企画発第29号ほか)の原文。
したがって「業務上過失事件等の捜査の加速化」の項目の内容は,本通達が引用する限度でしか確認していない。
②廃止された旧通達(平成31年2月4日付け警察庁丁捜二発第17号)の原文。
したがって新旧の対照はできていない。
③平成14年分より後の,告訴・告発の受理件数,処理件数及び未処理件数。
④裁判所ウェブサイトに掲載されていない裁判例のうち,告訴・告発の不受理に関するもの。
出典
法令
①著作権法(昭和45年法律第48号)13条2号
②国家賠償法(昭和22年法律第125号)1条1項
③犯罪捜査規範(昭和32年国家公安委員会規則第2号)61条
裁判例
①最高裁判所第三小法廷平成2年2月20日判決(平成1年(オ)第825号・損害賠償請求事件・集民159号161頁)
https://www.courts.go.jp/hanrei/62645/detail2/index.html
②最高裁判所大法廷昭和27年12月24日判決(昭和25年(オ)第131号・民集6巻11号1214頁)
警察庁の通達(行政組織の内部規範)
①警察庁刑事局捜査第二課長「知能犯罪に関する告訴・告発の適正かつ合理的な取扱いの推進について(通達)」(令和6年1月5日付け警察庁丁捜二発第2号)。
この記事は全文4頁による。
警察庁ウェブサイトの掲載分は概要1頁である。
https://www.npa.go.jp/laws/notification/keiji/souni/souni20240105.pdf
②警察庁刑事局長ほか「告訴・告発への適切な対応及び指導・管理の徹底について(通達)」(令和6年3月26日付け警察庁丙刑企発第39号ほか)
https://www.npa.go.jp/laws/notification/keiji/keiki/3kokusokokuhatu.pdf
③警察庁刑事局長「迅速・確実な被害の届出の受理等について(通達)」(令和6年3月22日付け警察庁丙刑企発第35号)
https://www.npa.go.jp/laws/notification/keiji/keiki/2zinnsokutekikakun.pdf
④警察庁刑事局長ほか「告訴・告発の受理体制及び指導・管理の強化について」(平成31年3月27日付け警察庁丙刑企発第41号ほか。令和6年3月26日通達により廃止)
https://www.npa.go.jp/laws/notification/keiji/keiki/009.pdf
⑤警察庁刑事局刑事企画課長ほか「告訴・告発の受理体制及び指導・管理の強化に係る具体的留意事項について」(平成31年3月27日付け警察庁丁刑企発第44号ほか。令和6年3月26日通達により廃止)
https://www.npa.go.jp/laws/notification/keiji/keiki/010.pdf
⑥警察庁「警察庁の施策を示す通達(刑事局)」
https://www.npa.go.jp/laws/notification/keiji.html
都道府県警察の例規等
①富山県警察「告訴・告発取扱要綱の制定について(例規通達)」(平成25年5月1日施行)
https://police.pref.toyama.jp/documents/2477/kokusokokuhatsutoriatukaiyoukou.pdf
②千葉県警察「告訴・告発事件取扱規程の運用について」(平成27年1月15日例規(刑)第1号)
https://www.police.pref.chiba.jp/content/common/000008186.pdf
③警視庁「告訴及び告発の取扱いについて」(平成15年4月1日通達甲(副監.刑.2.資)第15号)
https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/about_mpd/johokoukai_portal/kunrei/kunrei_keiji.files/001_01.pdf
④奈良県警察が公表する「警戒の空白を生じさせないための組織運営の指針」(令和5年7月3日付け警察庁乙官発第4号ほかの県の版)
https://www.police.pref.nara.jp/cmsfiles/contents/0000005/5773/01_keikakinokuuhakuwoumanai_shishin.pdf
統計・白書
①警察庁「平成15年版警察白書」第3章「知能犯捜査部門における告訴・告発の取扱い状況」
https://www.npa.go.jp/hakusyo/h15/html/E3008000.html
②同表3-1「最近5年間の告訴・告発受理処理状況(平成10~14年)」のExcel形式ファイル
https://www.npa.go.jp/hakusyo/h15/excel/H0300100.xls
③同表3-2「期間別処理状況(平成14年)」のExcel形式ファイル
https://www.npa.go.jp/hakusyo/h15/excel/H0300200.xls
④同表3-3「期間別未処理状況(平成14年)」のExcel形式ファイル
https://www.npa.go.jp/hakusyo/h15/excel/H0300300.xls
⑤警察庁「令和5年版犯罪被害者白書」第3章(施策番号126「告訴への適切な対応」)
https://www.npa.go.jp/hanzaihigai/whitepaper/2023/zenbun/chapter3/s3_1.html