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買手カルテルを疑った原材料供給者の初動―証拠保全、価格低下の損害立証と独禁法25条・民法709条(AI作成)

第1 結論

複数の買手が原材料の購入価格、購入予定者又は購入先を協調して決め、その取引分野の競争を実質的に制限している疑いがあるとき、供給者は、違反の有無だけでなく、どの取引でいくらの売上・利益を失ったかを別に調べる必要がある。値下げ要求が複数社から届いたことや、価格が同時に下がったことだけで、買手間の合意と損害額が確定するわけではない。

初動では、①取引ごとの価格・数量・仕様と交渉経過を保存する、②買手間の協調を示す事情と需給による通常の価格変動を分ける、③公正取引委員会への申告と民事請求を別の手続として設計する。買手側から共同購入の適法性を審査する場合は、共同購入・購入価格カルテルと独占禁止法を参照されたい。

第2 買手側の協調と単独の値下げ要求を分ける

原材料をまとめて購入して物流費や事務費を下げる共同購入は、それ自体が直ちに違法とはならない。他方、競争する買手が各社の個別取引にも共通の購入価格、交渉上限又は購入予定者を決め、供給者の販売先の選択や価格交渉を実質的に制約する場合は、独占禁止法2条6項・3条の不当な取引制限が問題となる。合意内容、参加者、対象商品、地域、期間、買手の購入シェア、供給者の代替販売先を確かめる。

単独の買手による厳しい値下げ要求は、買手間の合意とは別問題である。取引上優越した地位を利用した不利益な取引条件の設定等に当たるかは、取引依存度、代替取引先、要求の内容、協議の実態などを踏まえて別途検討する。低い購入価格だけから違反を断定しない。不公正な取引方法に関する実務メモも参照されたい。

公取委の平成20年度年次報告には、地方公共団体が売却する溶融メタル等について、購入予定者を決め、他社が購入できるよう協力し、購入価格の上昇を防止したと認定された事例がある。これは購入側の協調に対する行政認定例である。ただし、購入予定者の割当てを伴う事案であり、共通の交渉目標だけを設けた事案や、供給者の損害額を直接証明する先例として扱うことはできない。

第3 最初に保全する資料

1 取引と価格の時系列

見積依頼、見積書、発注書、契約書、請求書、納品書、入金記録、値引き・リベートの明細を、取引日、買手、品目、品質、数量、納期、運送条件ごとに整理する。名目単価が同じでも、運賃負担、歩留まり、支払期間などが異なれば実質的な対価は異なる。原本の保管場所、作成者、取得日も記録し、後で作った一覧と当時の原資料を分けて残す。

交渉メール、議事録、担当者の面談記録、買手から示された共通の目標額、他社の方針への言及、突然の同型の条件変更も保存する。担当者の記憶は、日時・発言者・発言内容・同席者を分けて早期に記録する。競争事業者との接触を新たに作って合意の有無を探ることは、情報交換自体のリスクを生じさせるため避ける。

2 価格を動かす別の要因

原材料の需給、為替、燃料費、輸送費、品質変更、供給余力、代替品、輸入、需要減少を同じ期間について保存する。価格が下がった時期が疑われる協調の時期と重なっても、これらの要因で説明できる部分を除かなければ、協調による価格低下とはいえない。契約更新時期や取引数量が異なる供給者の価格を、そのまま比較しない。

第4 損害をどう組み立てるか

中心となる検討は、影響を受けた取引について、実際に得た対価と、疑われる協調がなければ競争下で得られたと考えられる対価との差である。取引ごとの数量を掛け合わせる前に、比較する価格の品質、数量、納期、運賃負担をそろえる。受注できなかった取引を請求に含めるなら、受注できた蓋然性、供給能力、回避できた費用を別に検討し、単価差による損害と二重計上しない。

比較材料には、協調前後の自社価格、影響を受けていない買手との取引、類似商品の取引、原価・市況の推移がある。いずれも「協調がなければ同じ条件で売れた」と当然に示すものではない。原材料の市況が変わった場合は、その変動を調整し、必要に応じて経済分析を用いる。行政上の課徴金額や他事件の「何%」という数値を、自社の損害率に転用しない。

買手間の合意が疑われても、供給者が現実に値下げに応じなかった取引や、別の買手に同条件以上で販売できた取引では、主張する損害との因果関係を個別に説明する必要がある。反対に、価格抑制だけでなく取引数量の減少があれば、その原因と利益への影響を別に立証する。

第5 公取委への申告と民事請求

1 公取委への申告

独占禁止法45条1項により、違反する事実があると思料するときは、誰でも公取委に報告し、措置を求められる。公取委の申告案内は、日時、場所、行為者、共同行為者、相手方、行為の方法等をできる限り具体的に示した書面と、手元の資料を求めている。申告は行政調査の端緒になり得るが、公取委が申告者の希望どおりに処分することや、民事紛争の仲介をすることは保証されない。

2 独禁法25条と民法709条

独占禁止法25条は、3条違反等をした事業者の被害者に対する損害賠償責任を定め、事業者は故意・過失がなかったことを証明しても免責されない。ただし、同法26条1項により、この請求権を裁判上主張できるのは、排除措置命令、又は排除措置命令がない場合の所定の課徴金納付命令が確定した後である。同条2項には、その確定日から3年の消滅時効が定められている。

民法709条に基づく請求は、独禁法25条の命令確定を待つ請求と区別する。違法行為、故意・過失、損害、因果関係等を具体的に主張立証し、適用される消滅時効も別途点検する。公取委の行政判断がまだない段階で民事請求を検討するときも、違反の疑いを確定事実として書かない。両請求を検討する場合は、同一損害の二重回収を前提にしない。

第6 公取委資料と訴訟上の立証

公取委の資料提供通達は、命令確定後、被害者等からの求めに応じた命令書の謄本等の提供や、提訴後に裁判所から文書送付嘱託があった場合の関係資料の提出を定める。提出に当たっては事業者の秘密、事件処理上の支障、個人のプライバシーに配慮する。したがって、申告すれば調査資料一式を受け取れるわけではない。

独禁法25条の訴えでは、裁判所は同法84条により、公取委に損害額について意見を求めることができる。これは裁判所が「できる」と定めた手続であり、公取委の意見が常に出されることや、その意見だけで損害額が決まることを意味しない。手元資料で、対象取引、競争があった場合の価格、損害との因果関係を組み立てておく必要がある。

第7 弁護士が最初に確認する事項

  • 買手間で何が共有され、誰が、いつ、どの取引について合意したと疑うのか。
  • 供給者が他の買手へ売れる範囲と、買手側の購入シェアを示す資料はあるか。
  • 値下げの対象となった契約、品目、期間、数量、実際の対価を特定できるか。
  • 同期した値下げを説明し得る市況・原価・品質・納期の変化を把握したか。
  • 公取委への申告、民法709条の請求、命令確定後の独禁法25条の請求を混同していないか。
  • 取引関係の継続、資料の秘密管理、時効を含む日程を検討したか。

第8 一次資料と本稿の限界

本稿は、独占禁止法2条6項・3条・25条・26条・45条・84条、公取委の溶融メタル等の購入調整に関する年次報告、申告案内、損害賠償訴訟への資料提供通達を確認して作成した。

損害計算と証拠保全の記述は、これらの一次資料を踏まえた実務上の検討手順であり、特定事件における違反や損害を認定したものではない。買手カルテルに関する個別の損害賠償裁判例を網羅的に検証した記事ではないため、具体的な請求では対象市場、契約、時期、証拠と最新の法令・裁判例を改めて確認する。