目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 根拠条文と期間1 民法724条・724条の22 人身損害と物損の期間の違い3 改正前の事故との関係第3 「損害及び加害者を知った時」の基本的な考え方1 最高裁の定式2 予見可能な損害は最初に知った時にまとめて進行する第4 人身損害の起算点1 傷害部分(治療費・休業損害・傷害慰謝料)2 後遺障害部分3 死亡による損害第5 物損は人身損害と別に進行する1 最高裁令和3年11月2日判決2 事案と帰結3 現行法の下での意味第6 弁護士費用と遅延損害金1 弁護士費用の起算点2 実務上の注意第7 加害者が分からないとき1 加害者を知るまで5年・3年は進行しない2 20年の期間は進行する第8 日付で見る計算例1 設例2 読み方第9 時効の完成を防ぐ手段1 完成猶予・更新の事由2 保険会社との交渉中の注意3 自賠責保険の時効は別に管理する第10 関連記事第11 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 公的資料
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象
本記事は,交通事故の被害者が加害者(運転者又は運行供用者)に対して持つ損害賠償請求権について,消滅時効がいつから進行し,何年で完成するかを,損害の種類ごとに整理するものである。
調査基準日は令和8年9月19日である。
自賠責保険会社に対する被害者請求の時効は自賠責保険の被害者請求・加害者請求の消滅時効―3年の起算点,時効中断申請書及び時効完成後の回収方法で,不法行為一般の起算点の考え方は不法行為の損害賠償請求権の消滅時効―3年・5年・20年と「損害及び加害者を知った時」の意義で扱う。
消滅時効の全体像は消滅時効に関するメモ書きにまとめている。
2 結論
交通事故の損害賠償請求権の時効は,一つの事故について一本で進むのではなく,損害の種類ごとに別々に進行する。
現行民法の下では,ケガや死亡による損害(人身損害)は損害及び加害者を知った時から5年,車両の損傷などの物損は損害及び加害者を知った時から3年であり,いずれも事故の時から20年を経過すると時効によって消滅する(民法724条・724条の2)。
損害の種類ごとの起算点の目安は,次のとおりである。
①治療費・休業損害・傷害慰謝料などの傷害部分は,事故日(加害者を知った日)から進行すると考えて管理するのが安全である。
②後遺障害部分は,遅くとも症状固定の診断を受けた時から進行し,自賠責保険の等級認定や異議申立ての結果を待っても起算点は後にずれない(最高裁平成16年12月24日判決)。
③物損は,人身損害と同じ事故で生じたものでも,車両の損傷を知った時(通常は事故日)から別に進行する(最高裁令和3年11月2日判決)。
④死亡による損害は,遺族が死亡の事実と加害者を知った時から進行すると考えられる。
⑤弁護士費用は,弁護士に訴訟を委任し報酬の支払を約束した時から進行する(最高裁昭和45年6月19日判決)。
実務上最も危ないのは物損である。
人身損害の症状固定を待って示談交渉をしている間に,事故から3年で物損の請求権だけが時効にかかることがあり,令和3年判決はまさにその事案である。
加害者が分からない場合は,加害者の氏名・住所を知るまで5年(物損は3年)の時効は進行しないが,事故の時から20年の期間は進行する。
第2 根拠条文と期間
1 民法724条・724条の2
民法724条は,「不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。」とした上で,1号で「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。」,2号で「不法行為の時から二十年間行使しないとき。」と定める。
民法724条の2は,人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効について,前条1号の「三年間」を「五年間」と読み替えている。
交通事故で運行供用者の責任を定める自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)3条の請求権についても,同法4条が「自己のために自動車を運行の用に供する者の損害賠償の責任については、前条の規定によるほか、民法(明治二十九年法律第八十九号)の規定による。」と定めているから,民法724条・724条の2が適用される。
したがって,運転者に対する民法709条の請求権と,運行供用者に対する自賠法3条の請求権のいずれについても,期間の数え方は同じである。
2 人身損害と物損の期間の違い
損害の種類知った時からの期間事故の時からの期間人身損害(傷害・後遺障害・死亡)5年(民法724条1号・724条の2)20年(民法724条2号)物損(車両・積荷・代車料・評価損等)3年(民法724条1号)20年(民法724条2号)
人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権については,債務不履行構成でも「知った時から5年・権利を行使することができる時から20年」となる(民法166条1項・167条)。
もっとも,通常の交通事故では被害者と加害者の間に契約関係がないから,不法行為構成が前提となる。
構成ごとの期間の組合せは人身損害の消滅時効の特則―民法167条・724条の2と債務不履行構成・不法行為構成の選び方で扱う。
(続きを読む...)交通事故の損害賠償請求権の時効はいつから進行するか―症状固定,物損の別進行及び弁護士費用(AI作成)