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損害賠償・過失割合

交通事故の損害賠償請求権の時効はいつから進行するか―症状固定,物損の別進行及び弁護士費用(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 根拠条文と期間1 民法724条・724条の22 人身損害と物損の期間の違い3 改正前の事故との関係第3 「損害及び加害者を知った時」の基本的な考え方1 最高裁の定式2 予見可能な損害は最初に知った時にまとめて進行する第4 人身損害の起算点1 傷害部分(治療費・休業損害・傷害慰謝料)2 後遺障害部分3 死亡による損害第5 物損は人身損害と別に進行する1 最高裁令和3年11月2日判決2 事案と帰結3 現行法の下での意味第6 弁護士費用と遅延損害金1 弁護士費用の起算点2 実務上の注意第7 加害者が分からないとき1 加害者を知るまで5年・3年は進行しない2 20年の期間は進行する第8 日付で見る計算例1 設例2 読み方第9 時効の完成を防ぐ手段1 完成猶予・更新の事由2 保険会社との交渉中の注意3 自賠責保険の時効は別に管理する第10 関連記事第11 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 公的資料
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,交通事故の被害者が加害者(運転者又は運行供用者)に対して持つ損害賠償請求権について,消滅時効がいつから進行し,何年で完成するかを,損害の種類ごとに整理するものである。
調査基準日は令和8年9月19日である。
自賠責保険会社に対する被害者請求の時効は自賠責保険の被害者請求・加害者請求の消滅時効―3年の起算点,時効中断申請書及び時効完成後の回収方法で,不法行為一般の起算点の考え方は不法行為の損害賠償請求権の消滅時効―3年・5年・20年と「損害及び加害者を知った時」の意義で扱う。
消滅時効の全体像は消滅時効に関するメモ書きにまとめている。

2 結論

交通事故の損害賠償請求権の時効は,一つの事故について一本で進むのではなく,損害の種類ごとに別々に進行する。
現行民法の下では,ケガや死亡による損害(人身損害)は損害及び加害者を知った時から5年,車両の損傷などの物損は損害及び加害者を知った時から3年であり,いずれも事故の時から20年を経過すると時効によって消滅する(民法724条・724条の2)。

損害の種類ごとの起算点の目安は,次のとおりである。
①治療費・休業損害・傷害慰謝料などの傷害部分は,事故日(加害者を知った日)から進行すると考えて管理するのが安全である。
②後遺障害部分は,遅くとも症状固定の診断を受けた時から進行し,自賠責保険の等級認定や異議申立ての結果を待っても起算点は後にずれない(最高裁平成16年12月24日判決)。
③物損は,人身損害と同じ事故で生じたものでも,車両の損傷を知った時(通常は事故日)から別に進行する(最高裁令和3年11月2日判決)。
④死亡による損害は,遺族が死亡の事実と加害者を知った時から進行すると考えられる。
⑤弁護士費用は,弁護士に訴訟を委任し報酬の支払を約束した時から進行する(最高裁昭和45年6月19日判決)。

実務上最も危ないのは物損である。
人身損害の症状固定を待って示談交渉をしている間に,事故から3年で物損の請求権だけが時効にかかることがあり,令和3年判決はまさにその事案である。
加害者が分からない場合は,加害者の氏名・住所を知るまで5年(物損は3年)の時効は進行しないが,事故の時から20年の期間は進行する。

第2 根拠条文と期間
1 民法724条・724条の2

民法724条は,「不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。」とした上で,1号で「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。」,2号で「不法行為の時から二十年間行使しないとき。」と定める。
民法724条の2は,人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効について,前条1号の「三年間」を「五年間」と読み替えている。

交通事故で運行供用者の責任を定める自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)3条の請求権についても,同法4条が「自己のために自動車を運行の用に供する者の損害賠償の責任については、前条の規定によるほか、民法(明治二十九年法律第八十九号)の規定による。」と定めているから,民法724条・724条の2が適用される。
したがって,運転者に対する民法709条の請求権と,運行供用者に対する自賠法3条の請求権のいずれについても,期間の数え方は同じである。

2 人身損害と物損の期間の違い
損害の種類知った時からの期間事故の時からの期間人身損害(傷害・後遺障害・死亡)5年(民法724条1号・724条の2)20年(民法724条2号)物損(車両・積荷・代車料・評価損等)3年(民法724条1号)20年(民法724条2号)

人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権については,債務不履行構成でも「知った時から5年・権利を行使することができる時から20年」となる(民法166条1項・167条)。
もっとも,通常の交通事故では被害者と加害者の間に契約関係がないから,不法行為構成が前提となる。
構成ごとの期間の組合せは人身損害の消滅時効の特則―民法167条・724条の2と債務不履行構成・不法行為構成の選び方で扱う。

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別冊判例タイムズ39号(過失相殺率の認定基準・全訂6版)の改訂点-自転車同士の事故の新設,新しい事故類型,基本の過失相殺率の変更及び高齢者の年齢(AI作成)

目次第1 本記事の対象と改訂点の要約1 対象とする資料2 改訂点の要約第2 全訂6版を使うときの前提1 過失割合ではなく被害者の過失相殺率を定める2 基準ごとの前提条件を確かめる3 基準の番号が変わった第3 自転車同士の事故(第6章)の新設1 新設の経緯2 基準の作り方3 主な基本の過失相殺率4 類型化の限界第4 四輪車同士の事故(第3章)の改訂1 押しボタン式歩行者用信号のある交差点(【Ⅲ-9】)2 道路外から道路に進入する車両(【Ⅲ-50】)3 狭路等のすれ違いが困難な道路における事故(【Ⅲ-53】)4 発進車と後続直進車の事故(【Ⅲ-57】)5 転回車と直進車の事故(【Ⅲ-59】)第5 単車・自転車と四輪車の事故(第4章・第5章)の改訂1 丁字路交差点の出合い頭事故(単車と四輪車)2 丁字路交差点の出合い頭事故(自転車と四輪車等)3 自転車が時速15キロメートル程度を大幅に超える速度で走行していた場合第6 歩行者,高速道路及び駐車場の事故の改訂1 路上横臥者の事故(【Ⅰ-47】,【Ⅰ-48】)2 高速道路上の事故の視認不良3 駐車場内の事故第7 修正要素の「高齢者」の年齢の引上げ1 おおむね65歳以上からおおむね70歳以上へ2 引上げの根拠とされた道路交通法の規定3 65歳以上70歳未満の者の扱い第8 実務上の注意点1 相手方の提示が全訂5版の数値のままでないかを確かめる2 自転車の事故は複数の基準を見比べる3 被害者の過失が大きい事故では請求の順序も検討する第9 関連記事第10 出典1 法令2 文献
第1 本記事の対象と改訂点の要約
1 対象とする資料

本記事は,令和8年3月30日に発行された別冊判例タイムズ39号『民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準〔全訂6版〕』(以下「全訂6版」という)が,前版である別冊判例タイムズ38号(全訂5版。以下「全訂5版」という)から何を変えたかを整理するものである。
全訂6版は,菊池憲久・堂薗幹一郎・伊東智和の3名の編であり,はしがきによれば,令和5年度及び令和6年度に東京地方裁判所民事第27部(交通部)に在籍した裁判官が中心となって検討及び執筆をしたものである(全訂6版2頁)。
同書は,昭和50年の別冊判例タイムズ1号以来,平成3年,平成9年,平成16年及び平成26年に改訂されており,全訂6版は全訂5版から約11年ぶりの全訂版となる(同書1頁)。

本記事は,全訂6版のはしがき(1頁~2頁),序章「改訂のポイント」(24頁~28頁),用語集及び改訂に関係する各基準の頁を原本で確認し,令和8年9月19日現在の道路交通法及び同法施行令の条文をe-Gov法令検索で確認した上で,AIを用いて整理したものである。
全訂6版は596頁に及ぶので,本記事は改訂された箇所に対象を絞り,改訂されていない基準の内容は扱わない。
東京地方裁判所民事第27部の担当事件や全訂6版の位置付けは,東京地裁民事第27部(交通部)―担当事件,新受件数,共通書式及び証拠提出で触れている。

2 改訂点の要約

全訂6版の改訂点は,次のとおりである。
①自転車同士の事故に関する章(第6章)を新設した(はしがき2頁,26頁~27頁)。
②第3章,第4章,第5章及び第8章に,新しい事故類型の基準を設けた(【Ⅲ-53】,【Ⅲ-57】,【Ⅳ-58】~【Ⅳ-65】,【Ⅳ-70】,【Ⅴ-58】~【Ⅴ-65】,【Ⅷ-3】,【Ⅷ-5】,【Ⅷ-6】。はしがき2頁)。
③押しボタン式歩行者用信号のある交差点で交差道路から進入した車両の基本の過失相殺率を30%から20%に下げた(【Ⅲ-9】。25頁)。
④道路外から道路に進入する車両と直進車の事故について,右折と左折の基準を統合し,直進車の基本の過失相殺率を20%から10%に下げた(【Ⅲ-50】。25頁)。
⑤転回中の事故と転回終了直後の事故の基準を統合した(【Ⅲ-59】。25頁)。
⑥高速道路上の事故で,追突車側の視認不良の修正率を-10%から-10%~-30%に広げた(27頁)。
⑦修正要素の「高齢者」の意味を,おおむね65歳以上からおおむね70歳以上に引き上げた(28頁)。
⑧路上横臥者の事故で,泥酔して横臥していた場合には児童・高齢者等の修正要素を適用しないこととした(【Ⅰ-47】,【Ⅰ-48】。24頁)。
⑨自転車が時速15キロメートル程度を大幅に超える速度で走行していた場合の扱いを定めた(25頁~26頁)。
⑩各章の冒頭にあった用語の説明を序章の用語集にまとめ,基準の番号を「章番号+章ごとの通し番号」に改めた(28頁)。

第2 全訂6版を使うときの前提
1 過失割合ではなく被害者の過失相殺率を定める

全訂6版は,各当事者の「過失割合」ではなく,被害者(損害賠償請求権の権利者)の「過失相殺率」の判断基準を定めるものである(はしがき1頁)。
過失相殺率を定めるに当たっては,事故当事者の純粋な過失割合だけでなく,被害者の要保護性,危険責任の原則及び優者危険負担の原則の観点も考慮すべきであるという考え方によっているからである(同頁,22頁~23頁)。
そのため,事故車両の種別が異なるだけで他の事故態様が同じであっても,過失相殺率が異なることがある(はしがき1頁)。

2 基準ごとの前提条件を確かめる

全訂6版の各基準は,典型的な事故態様を前提として基本の過失相殺率を定めたものであり,基準ごとに適用の前提となる条件を設けている(はしがき1頁)。
前提条件を誤ったまま基準を当てはめると,同書が想定する過失相殺率とは異なる結果になりかねないとされている(はしがき1頁)。
また,実際の事故態様は千差万別であるから,事故態様や個別事情を捨象して機械的に当てはめるのではなく,基本の過失相殺率と修正要素の背景にある考え方を理解して柔軟に用いることが望まれるとされている(はしがき1頁~2頁)。

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交通事故の既払金は元本と遅延損害金のどちらに充当されるか―自賠責保険金と任意保険の支払の違い(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 弁済の充当に関する民法の規定1 元本・利息・費用の充当順序(民法489条)2 指定充当(民法488条)との関係3 合意による充当(民法490条)4 改正前の条番号と経過措置第3 自賠責保険金は遅延損害金に先に充当される1 最高裁平成16年12月20日判決2 最高裁大法廷平成27年3月4日判決による変更の範囲3 自賠責保険会社自身の遅延損害金との区別4 元本充当の合意・指定の主張を退けた下級審裁判例第4 任意保険会社の内払・一括払と元本充当1 任意保険金の支払と黙示の合意2 元本充当と遅延損害金の免除の区別3 一括払の場合4 裁判所HPで確認できた下級審裁判例第5 社会保険給付・人身傷害保険金・無保険車傷害保険金との違い1 労災保険給付・公的年金給付2 人身傷害保険金3 無保険車傷害保険金第6 計算例1 前提2 遅延損害金に先に充当する場合(自賠責保険金)3 元本に充当するが遅延損害金は残る場合4 元本に充当し,その元本に対する遅延損害金を免除する場合5 比較第7 示談・請求書面での実務上の注意1 既払金の内訳を確認する2 人損と物損を分ける3 請求書面での書き方第8 関連記事第9 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 文献
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,交通事故の被害者が加害者に損害賠償を請求する場面で,既に支払を受けた金銭(既払金)を損害金の元本と遅延損害金のどちらに充当するかを扱う。
対象は,自賠責保険金,任意保険会社の内払・一括払,労災保険給付・公的年金給付,人身傷害保険金及び無保険車傷害保険金である。
調査基準日は令和8年9月19日であり,条文はe-Gov法令検索で,裁判例は裁判所HPの裁判例検索で確認した。

遅延損害金がいつから発生するか(起算日)と,何%で計算するか(利率)は,それぞれ不法行為・交通事故の遅延損害金はいつから発生するかと遅延損害金の利率は年3%か年5%かで扱う。
遅延損害金全体の概要は遅延損害金に関するメモ書きを参照されたい。

2 結論

結論は次のとおりである。
① 民法は,元本のほか利息等を支払うべき場合に,全部を消滅させるのに足りない給付がされたときは,費用,利息,元本の順に充当すると定めている(民法489条1項。改正前は491条1項)。
② 自賠責保険金が,支払時の損害金の元本及び遅延損害金の全部を消滅させるに足りないときは,遅延損害金にまず充当される(最高裁平成16年12月20日判決)。
③ 最高裁大法廷平成27年3月4日判決は平成16年判決を変更したが,変更の対象は遺族補償年金についての判断と抵触する限度であり,自賠責保険金を遅延損害金に先に充当するという部分は変更の対象になっていないと考えられる。
④ 任意保険会社の支払(内払・一括払)は,当事者間の合意によって元本に充当されることがあり,最高裁平成22年9月13日判決の事案では,元本に充当し,その元本に対する遅延損害金を免除する旨の黙示の合意が認定されていた(下級審の例は第4の4)。
⑤ 労災保険給付・公的年金給付は遅延損害金ではなく損害の元本と調整し,人身傷害保険金を支払った保険会社は損害金元本の請求権だけを代位取得し,無保険車傷害保険金は損害元本から自賠責保険金等の全額を差し引いて算定する。
⑥ どの充当方法によるかで,残る元本と遅延損害金の額が変わるから,示談案や請求書面では,既払金の支払者,支払日,金額及び充当先を一つずつ確認する必要がある。

第2 弁済の充当に関する民法の規定
1 元本・利息・費用の充当順序(民法489条)

民法489条1項は,次のとおり定めている。
「債務者が一個又は数個の債務について元本のほか利息及び費用を支払うべき場合(債務者が数個の債務を負担する場合にあっては、同一の債権者に対して同種の給付を目的とする数個の債務を負担するときに限る。)において、弁済をする者がその債務の全部を消滅させるのに足りない給付をしたときは、これを順次に費用、利息及び元本に充当しなければならない。」

条文の文言は「利息」であるが,最高裁平成16年12月20日判決は,不法行為に基づく損害賠償債務の遅延損害金について,改正前の民法491条1項を参照して,遅延損害金にまず充当されると判断している(第3の1)。
不法行為に基づく損害賠償債務は,催告を要せず損害の発生と同時に遅滞に陥るから(最高裁昭和37年9月4日判決),交通事故の場合,事故日から支払日までの遅延損害金が既払金の支払時点で既に発生していることになる。

2 指定充当(民法488条)との関係

民法488条は,同種の給付を目的とする数個の債務がある場合に,弁済をする者が給付の時に充当すべき債務を指定でき(1項),弁済をする者が指定しないときは弁済を受領する者が指定できる(2項)と定めている。
ただし,同条1項は,指定充当ができる場面から「次条第一項に規定する場合」を除いている。
したがって,元本のほか遅延損害金を支払うべき場合に,弁済をする者が一方的に「元本に充当する」と指定しても,民法489条1項の順序を変えることはできない。

民法489条2項は,費用,利息又は元本のいずれかの全てを消滅させるのに足りない給付をしたときについて,488条を準用している。
これは,例えば複数の債務の遅延損害金の一部だけを消滅させる給付がされた場合に,どの債務の遅延損害金に充てるかを決める規定であり,元本と遅延損害金の順序そのものを変える規定ではない。

3 合意による充当(民法490条)

民法490条は,次のとおり定めている。

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遺族補償年金・遺族厚生年金と遅延損害金―不法行為時に塡補されたとみる最高裁大法廷平成27年3月4日判決(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 対象2 結論第2 三つの最高裁判決の流れ1 最高裁平成16年12月20日判決(遅延損害金への先充当)2 最高裁平成22年9月13日判決(傷害・後遺障害事案)3 最高裁平成22年10月15日判決と補足意見4 最高裁大法廷平成27年3月4日判決(死亡事案・判例変更)第3 損益相殺的調整の対象と範囲1 調整の相手は同性質・相互補完性のある損害の元本2 慰謝料・遅延損害金とは調整しない3 口頭弁論終結時までに支給され又は支給が確定したもの4 受給権者である相続人の損害からだけ控除する5 「特段の事情」第4 遺族厚生年金はどうなるか1 平成16年判決は遺族厚生年金も遅延損害金に先充当していた2 平成27年判決が直接判断したのは遺族補償年金3 平成22年9月13日判決は公的年金給付を含む4 遺族厚生年金にも同じ考え方が及ぶと考えられる理由5 最高裁の直接の判断の有無(調査結果)6 平成27年判決後の下級審裁判例(裁判所HP掲載分)第5 自賠責保険金は変更されていない第6 計算例1 設例2 平成27年判決の方法(元本と調整)3 平成16年判決の方法(遅延損害金に先に充当)4 差額の意味第7 実務上の確認事項1 遺族厚生年金を元本と調整するときの主張2 労災保険給付と損益相殺全般第8 関連記事第9 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 文献
第1 本記事の対象と結論
1 対象

本記事は,被害者が不法行為(交通事故,過労死等)によって死亡し,その相続人が労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)に基づく遺族補償年金又は厚生年金保険法に基づく遺族厚生年金を受け取った場合に,加害者に対する損害賠償請求の遅延損害金がどう計算されるかを扱う。
調査基準日は令和8年9月19日である。
判決の内容は,裁判所HPに掲載された各判決の全文で確認した文言に基づいて説明する。

2 結論

①遺族補償年金は,逸失利益等の消極損害の元本との間で損益相殺的な調整を行い,遅延損害金との間では調整しない(最高裁大法廷平成27年3月4日判決)。
②遺族補償年金によって塡補される損害は,支給の著しい遅滞等の特段の事情のない限り,不法行為の時に塡補されたものと法的に評価される。
③その結果,遺族補償年金に相当する元本部分については,事故日(死亡日)から年金の支給日までの遅延損害金は発生しない。
④遺族補償年金の支払を受けたときはまず遅延損害金に充当されるとした最高裁平成16年12月20日判決は,平成27年判決と抵触する限度で変更された。
⑤遺族厚生年金については,最高裁が死亡事案で不法行為時塡補を直接判断した判決は,裁判所HPで確認できた限りでは見当たらない。
⑥もっとも,傷害・後遺障害事案では公的年金給付(障害基礎年金・障害厚生年金)も不法行為時に塡補されたとされており(最高裁平成22年9月13日判決),遺族厚生年金にも同じ考え方が及ぶと考えられる。
⑦裁判所HPに掲載された平成27年判決後の下級審裁判例には,遺族厚生年金を逸失利益等から控除した後の額に死亡日から遅延損害金を認めたものがあり,遺族厚生年金を遅延損害金に先に充当したものは確認した範囲では見当たらなかった(第4の6)。
⑧自賠責保険金については,遅延損害金にまず充当するという平成16年判決の判断は変更されていない。

第2 三つの最高裁判決の流れ
1 最高裁平成16年12月20日判決(遅延損害金への先充当)

最高裁判所第二小法廷平成16年12月20日判決(平成16年(受)第525号,集民215号987頁)は,平成11年2月24日の交通事故で会社員が死亡した事案である。
相続人は,自賠責保険から3,000万3,800円の支払を受け,父は遺族補償年金合計279万7,033円及び遺族厚生年金合計265万4,342円の支給を受けていた。
判決は,これらを「本件自賠責保険金等」と総称した上で,「本件自賠責保険金等が支払時における損害金の元本及び遅延損害金の全部を消滅させるに足りないときは,遅延損害金の支払債務にまず充当されるべきものであることは明らかである(民法491条1項参照)。」と判示した。
ここでいう民法491条1項は改正前の条番号であり,現行法では489条1項(元本・利息・費用の充当)に当たる。

同判決の判示事項は,遺族厚生年金を控除すべき損害の範囲である。
判決は,遺族厚生年金は,被害者が支給を受けるべき障害基礎年金等に係る逸失利益だけでなく,給与収入等を含めた逸失利益全般との関係で控除すべきであるとした。
また,遺族厚生年金等の控除は,現にその支給を受ける受給権者についてのみ行うべきであるとして,受給権者でない相続人の損害からも控除した原審を破棄した。

2 最高裁平成22年9月13日判決(傷害・後遺障害事案)

最高裁判所第一小法廷平成22年9月13日判決(平成20年(受)第494号,民集64巻6号1626頁)は,通勤途上の交通事故で傷害を受け,右大腿切断等の後遺障害が残った事案である。
被害者は,労災保険法に基づく療養給付・休業給付・障害年金のほか,国民年金法に基づく障害基礎年金及び厚生年金保険法に基づく障害厚生年金の支給を受けていた。
原審は,療養給付・休業給付は元本と調整したが,年金給付は遅延損害金にまず充当すべきであるとしていた。

(1) 調整の対象は損害の元本

判決は,労災保険給付や公的年金制度に基づく年金給付について,「てん補の対象となる特定の損害と同性質であり,かつ,相互補完性を有する損害の元本との間で,損益相殺的な調整を行うべきものと解するのが相当である。」とした。

(続きを読む...)遺族補償年金・遺族厚生年金と遅延損害金―不法行為時に塡補されたとみる最高裁大法廷平成27年3月4日判決(AI作成)

不法行為・交通事故の遅延損害金はいつから発生するか―事故日起算,弁護士費用及び損害費目ごとの起算日(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 不法行為は催告不要で損害発生と同時に遅滞となる1 最高裁昭和37年9月4日判決2 民法412条3項との関係3 遅滞の時期は利率の決め手にもなる第3 弁護士費用も不法行為の時から遅延損害金が発生する1 最高裁昭和58年9月6日判決の判示2 弁護士費用特約で支払われた場合第4 損害費目ごとに起算日を分けない1 同一の身体傷害による損害賠償請求権は一個である2 費目ごとに起算日を分けないのが実務の原則3 物損と人損が同じ事故で生じた場合第5 類型別の起算日一覧1 一覧表2 原則と異なる類型の補足第6 債務不履行に基づく損害賠償との対比1 債務不履行は履行の請求を受けた時から遅滞となる2 同じ事故でも請求の根拠によって起算日が変わる3 契約上の金銭債務第7 請求の趣旨の書き方1 交通事故の損害賠償請求2 債務不履行構成の場合3 離婚慰謝料第8 計算例1 計算の方法2 元本1,000万円の場合3 弁護士費用を加えた場合4 起算日を誤った場合の差第9 関連記事第10 出典・参考資料1 法令2 裁判例
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,交通事故その他の不法行為に基づく損害賠償請求について,遅延損害金がいつから発生するか(遅滞の時期・起算日)を整理するものである。
調査基準日は令和8年9月19日であり,条文はe-Gov法令検索の現行条文,裁判例は裁判所HPの裁判例検索で確認したものを使う。

遅延損害金の利率(年3%か年5%か),自賠責保険の被害者請求,既払金の充当,遺族補償年金との調整,人身傷害保険,離婚慰謝料,重利及び課税は,それぞれ別の記事で扱う。
本記事では,これらの論点について起算日に関係する範囲で要点だけを示し,詳細は各記事へのリンクに委ねる。
全体の見取り図は,ハブ記事である遅延損害金に関するメモ書きにある。

2 結論

結論は,次の①~⑦のとおりである。

① 不法行為に基づく損害賠償債務は,催告を要することなく,損害の発生と同時に遅滞に陥る(最高裁昭和37年9月4日判決)。
② したがって,交通事故の損害賠償では,事故日から遅延損害金が発生するのが原則であり,請求の趣旨も「事故日から支払済みまで」と書く。
③ 弁護士費用の賠償債務も,不法行為の時に発生し,かつ,遅滞に陥る(最高裁昭和58年9月6日判決)。
④ 同一事故により生じた同一の身体傷害を理由とする財産上の損害と精神上の損害の賠償請求権は一個である(最高裁昭和48年4月5日判決)ので,治療費,休業損害,後遺障害逸失利益,慰謝料等の費目ごとに起算日を分けないのが実務の原則である。
⑤ 物損と人損の損害賠償請求権は別個の請求権である(最高裁令和3年11月2日判決)が,いずれも事故日から遅延損害金が発生する。
⑥ これに対し,債務不履行に基づく損害賠償債務は期限の定めのない債務であり,履行の請求を受けた時に遅滞に陥る(民法412条3項,最高裁昭和55年12月18日判決)。
⑦ 離婚慰謝料(離婚成立時),自賠責保険の被害者請求(請求後の「必要な期間」経過時),政府保障事業のてん補金(平成22年4月1日以後の事故は請求後の「必要な期間」経過時)等は,原則と異なる時点から遅滞となるので,第5の一覧表で確認する。

第2 不法行為は催告不要で損害発生と同時に遅滞となる
1 最高裁昭和37年9月4日判決

最高裁判所第三小法廷昭和37年9月4日判決(昭和34年(オ)第117号,民集16巻9号1834頁)は,国道上に置かれた枕木に原動機付自転車が激突して通行人が死亡した事故について,道路管理者の賠償責任が問われた事案である。
同判決は,損害賠償債務の履行遅滞による損害金の起算点について,「右賠償債務は、損害の発生と同時に、なんらの催告を要することなく、遅滞に陥るものと解するのが相当である。」と判示した。
裁判所HPの判示事項も「不法行為に基づく損害賠償債務の遅滞の時期」とされており,この判決が不法行為の遅滞時期に関する基本的な先例である。

2 民法412条3項との関係

民法412条は,債務の履行期と履行遅滞について,確定期限・不確定期限・期限の定めのない債務の3つに分けて定めている。
同条3項は,「債務の履行について期限を定めなかったときは、債務者は、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。」と定める。
不法行為に基づく損害賠償債務には期限の定めがないから,同項をそのまま当てはめれば,被害者が請求した時から遅滞となりそうである。
しかし,最高裁昭和37年9月4日判決は,催告を要せず損害の発生と同時に遅滞に陥るとしており,不法行為については同項の原則によらない扱いが確立している。

3 遅滞の時期は利率の決め手にもなる

金銭債務の遅延損害金の利率について,民法419条1項本文は,「債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって定める。」と定める。
不法行為では遅滞の時点が不法行為(損害発生)の時であるから,交通事故の遅延損害金の利率は,原則として事故日の法定利率で決まる。

(続きを読む...)不法行為・交通事故の遅延損害金はいつから発生するか―事故日起算,弁護士費用及び損害費目ごとの起算日(AI作成)

被害者の過失が大きい交通事故の請求順序-自賠責の重大な過失による減額,被害者請求及び訴訟の比較と計算例(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論の要約1 対象とする場面2 結論の要約第2 訴訟と自賠責保険では過失の扱いが違う1 訴訟では過失割合どおりに減額される2 自賠責保険の「重大な過失による減額」3 保険金額の上限第3 計算例で比べる1 死亡事故で被害者の過失が8割の場合2 傷害だけの事故で被害者の過失が75%の場合3 被害者の過失が7割未満の場合第4 請求の順序1 まず被害者請求で自賠責保険からの支払を受ける2 訴訟では支払基準の有利さを使えない3 訴訟を起こす実益を計算で確かめる4 人身傷害保険がある場合5 労災保険給付を受ける場合第5 相談を受けたときの確認事項第6 出典1 法令・告示2 裁判例3 文献
第1 本記事の対象と結論の要約
1 対象とする場面

本記事は,交通事故の被害者側にも大きな過失がある事故,特に被害者の過失割合が7割前後又はそれ以上と見込まれる事故で,どの順序で何を請求するかを扱う。
このような事故では,自賠責保険に請求するか,加害者に対して訴訟を起こすかによって,受け取れる金額が大きく変わることがある。
自賠責保険は,訴訟のように過失割合に応じて損害額を減らすのではなく,被害者に重大な過失がある場合にだけ一定の割合で減額する取扱いをしているからである。

本記事は,令和8年9月19日現在の自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という),同法施行令,自賠責保険の支払基準の告示及び裁判所ウェブサイト掲載の最高裁判決に基づき,AIを用いて整理したものである。
下級審裁判例は,判例秘書で判決本文を確認したものに限って紹介する。

2 結論の要約

①訴訟では,裁判所が認定した過失割合のとおりに損害額が減額される(民法722条2項)。
②自賠責保険の支払基準では,被害者の過失割合が7割未満であれば減額されず,7割以上でも後遺障害・死亡は2割から5割,傷害は2割の減額にとどまる。
③自賠責保険会社に対する請求を訴訟で行うと,裁判所は支払基準によらずに損害額と過失割合を認定する(最高裁判所第一小法廷平成18年3月30日判決,最高裁判所第一小法廷平成24年10月11日判決)。
④そのため,被害者の過失が大きい事故では,まず訴訟外で自賠法16条1項の被害者請求をして支払基準による支払を受け,その後に訴訟を起こす実益があるかを計算して判断する順序が考えられる。
⑤被害者請求の権利は,損害及び保有者を知った時から3年で時効によって消滅する(自賠法19条)。

第2 訴訟と自賠責保険では過失の扱いが違う
1 訴訟では過失割合どおりに減額される

民法722条2項は,「被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。」と定める。
訴訟では,裁判所が損害額と過失割合を認定し,損害額に(1-被害者の過失割合)を掛けた額が賠償額の基本になる。
被害者の過失が8割であれば,損害額の2割しか請求できない。

過失割合の目安には,東京地方裁判所民事第27部の裁判官が執筆した別冊判例タイムズ『民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準』が広く用いられており,令和8年3月30日に全訂6版(別冊判例タイムズ39号)が発行されている。
同書の位置付けは,東京地裁民事第27部(交通部)―担当事件,新受件数,共通書式及び証拠提出でも触れている。
全訂6版の主な改訂点は,別冊判例タイムズ39号(過失相殺率の認定基準・全訂6版)の改訂点-自転車同士の事故の新設,新しい事故類型,基本の過失相殺率の変更及び高齢者の年齢で整理している。

2 自賠責保険の「重大な過失による減額」

自賠法16条の3第1項は,保険会社は保険金等を支払うときは,国土交通大臣及び内閣総理大臣が定める支払基準に従って支払わなければならないと定める。
その支払基準(平成13年金融庁・国土交通省告示第1号)の第6は,被害者に重大な過失がある場合の減額を次のように定めている。

被害者の過失割合後遺障害又は死亡に係るもの傷害に係るもの7割未満減額なし減額なし7割以上8割未満2割減額2割減額8割以上9割未満3割減額2割減額9割以上10割未満5割減額2割減額

減額は,積算した損害額が保険金額に満たない場合には積算した損害額から,保険金額以上となる場合には保険金額から行う(支払基準第6の1)。
また,傷害による損害額(後遺障害及び死亡に至る場合を除く。)が20万円未満の場合はその額とし,減額により20万円以下となる場合は20万円とする(同)。

このほか,支払基準第6の2は,既往症等があるため受傷と死亡又は後遺障害との間の因果関係の有無の判断が困難な場合に,死亡又は後遺障害による損害について5割の減額を行うと定めている。
支払基準の全体は,自賠責保険の支払基準――令和2年4月1日以降の交通事故に適用される告示の全文,別表及び改正経緯で扱っている。

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外国人が交通事故の当事者になったときの損害賠償-在留資格別の休業損害・逸失利益・慰謝料,準拠法及び自賠責(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論の要約1 対象とする場面2 結論の要約第2 日本で起きた事故の裁判管轄と準拠法1 日本の裁判所に訴えることができるか2 どの国の法律が適用されるか3 外国法が適用される場合の制限4 被害者が死亡した場合の相続第3 外国人被害者の損害額の考え方1 実費の損害は日本人と同様に考える2 在留資格による区分3 一時的に滞在する外国人の逸失利益(最高裁平成9年判決)4 基礎収入をめぐる実務上の争点5 慰謝料6 短期滞在の被害者が日本で治療を続ける場合第4 訴訟と示談で気を付けること1 立証と手続の負担2 自賠責保険の支払基準は国籍で区別していない3 社会保障制度との関係第5 日本人が外国で交通事故に遭った場合1 日本人同士の事故2 事故地の法律が適用される場合3 日本人が外国で加害者になった場合と外国判決の執行第6 相談を受けたときの確認事項第7 出典1 法令・告示2 裁判例3 統計資料4 文献
第1 本記事の対象と結論の要約
1 対象とする場面

本記事は,交通事故の当事者の一方又は双方が外国人である事故と,日本人が外国で交通事故に遭った事故(いわゆる渉外交通事件)を対象とする。
日本で起きた事故については,どの国の裁判所で訴えることができるか,どの国の法律が適用されるか,被害者が外国人であることで損害額の算定がどう変わるかが問題になる。
外国で起きた事故については,日本の裁判所に訴えることができるか,事故地の法律が適用されるか,外国判決を日本で執行できるかが問題になる。

本記事は,令和8年9月19日現在の法令,裁判所ウェブサイト掲載の最高裁判決,自賠責保険の支払基準の告示及び日弁連交通事故相談センター東京支部編『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準』上巻(基準編)2026年版(以下「赤い本」という)の「第12 渉外交通事件」(429頁~452頁)に基づき,AIを用いて整理したものである。
赤い本の同章が紹介する下級審裁判例は,いずれも裁判所ウェブサイトには掲載されていない。
そのため,本記事で紹介する下級審裁判例は,判例秘書で判決本文を確認したものに限っている。

2 結論の要約

①日本国内で起きた交通事故の損害賠償請求は,当事者が外国人同士であっても,日本の裁判所に訴えることができる(民事訴訟法3条の3第8号)。
②準拠法は原則として事故地の法である(法の適用に関する通則法17条)が,当事者が同じ国に常居所を有していた場合等には,より密接な関係がある地の法による(同法20条)。
③被害者が外国人であることで大きく変わるのは,休業損害・逸失利益の基礎収入と,慰謝料の額である。治療費等の実費は日本人と同様に考えられる。
④「永住者」「日本人の配偶者等」「永住者の配偶者等」「定住者」及び特別永住者は,日本人と同じに算定するというのが赤い本の基準である。
⑤一時的に日本に滞在する外国人の逸失利益は,日本での就労可能期間は日本での収入等を,その後は出国先での収入等を基礎とするのが最高裁判例の枠組みである(最高裁判所第三小法廷平成9年1月28日判決)。
⑥自賠責保険の支払基準には国籍や在留資格で区別する規定がなく,被害者の過失が大きい事案では,自賠責保険からの支払が訴訟で認められる額を上回ることがある。

第2 日本で起きた事故の裁判管轄と準拠法
1 日本の裁判所に訴えることができるか

民事訴訟法3条の3第8号は,不法行為に関する訴えについて,「不法行為があった地が日本国内にあるとき」は日本の裁判所に訴えを提起することができると定める。
したがって,日本国内で起きた交通事故であれば,被害者又は加害者が外国人であっても,また双方が外国人であっても,日本の裁判所に損害賠償請求の訴えを起こすことができる(赤い本429頁)。

もっとも,日本の裁判所に管轄権があることは,外国人の本国の裁判所に管轄権がないことを意味しない。
赤い本429頁は,本国の裁判所にも訴えが提起され,どちらの国の裁判所が優先的に裁判権を行使するかが争いになる余地もあるとしている。

2 どの国の法律が適用されるか

法の適用に関する通則法(以下「通則法」という)17条本文は,不法行為によって生ずる債権の成立及び効力は,「加害行為の結果が発生した地の法による」と定める。
赤い本429頁は,交通事故の場合の結果発生地は事故発生地と同じ意味であり,事故後に治療費や休業損害が生じた地ではないとしている。
そのため,日本国内の事故には,原則として日本法が適用される。

ただし,通則法20条は,不法行為の当時において当事者が法を同じくする地に常居所を有していたこと,当事者間の契約に基づく義務に違反して不法行為が行われたことその他の事情に照らして,明らかにより密接な関係がある他の地があるときは,その地の法によると定める。
赤い本429頁は,例として,同じ外国に常居所を有する外国人同士が日本で同乗中に事故を起こした場合や,加害者と被害者の間に運送契約等の契約関係がある場合を挙げ,その外国の法が準拠法になることもあり得るとしている。
また,通則法21条は,不法行為の当事者が,不法行為の後に,適用すべき法を変更することができると定めている。
ただし,第三者の権利を害することとなるときは,その変更を第三者に対抗することができない(同条ただし書)。

(続きを読む...)外国人が交通事故の当事者になったときの損害賠償-在留資格別の休業損害・逸失利益・慰謝料,準拠法及び自賠責(AI作成)

交通事故の将来介護費と公的給付――日額,平均余命,余命短縮,定期金及び年金・労災・介護保険・NASVA介護料の控除(AI作成)

目次第1 この記事の対象1 重い後遺障害が残った場合に問題となる費目2 関連記事との役割分担第2 近親者介護と職業介護の日額1 日額は介護の内容と担い手から個別に認定される2 家族介護から職業介護への切替え3 自宅介護か施設介護か第3 算定期間と中間利息の控除1 終期は平均余命による2 中間利息の控除の根拠と法定利率3 計算例4 高齢被害者の将来介護費第4 余命短縮の主張1 加害者側が余命短縮を主張する根拠2 千葉地方裁判所佐倉支部平成18年9月27日判決の判断3 余命をめぐる立証の視点第5 被害者が別の原因で死亡した場合と定期金による賠償1 死亡後の介護費は請求できない2 定期金による賠償3 将来介護費を定期金で認めた下級審第6 公的給付を差し引くかどうか1 判断の枠組み2 障害年金3 労災保険の介護(補償)等給付4 介護保険5 障害者総合支援法の障害福祉サービス6 NASVAの介護料7 給付ごとの整理第7 示談書で将来介護費を扱うときの注意1 費目と算定の前提を特定する2 賠償を先に受けることによる給付への影響3 被害者本人に意思能力がない場合4 期間制限第8 出典1 法令2 裁判例3 公的機関の資料4 書籍
第1 この記事の対象
1 重い後遺障害が残った場合に問題となる費目

交通事故で遷延性意識障害,高次脳機能障害又は脊髄損傷などの重い後遺障害が残り,常時又は随時の介護が必要になった場合,症状固定後の介護に要する費用は将来介護費として加害者に請求することになる。
本記事は,将来介護費の日額,算定期間,中間利息の控除,余命短縮の主張,被害者が別の原因で死亡した場合,定期金による賠償,及び障害年金・労災保険・介護保険・障害福祉サービス・NASVA(独立行政法人自動車事故対策機構)の介護料を損害額から差し引くかどうかについて,法令,裁判例及び公的機関の資料をAIで調査して整理したものである。
調査の基準日は令和8年9月16日であり,法令は同日にe-Gov法令検索で確認できた条文による。

2 関連記事との役割分担

装具や車椅子などの将来の買替費用は交通事故で装具が必要になったときの費用で,示談書に労災保険給付や障害年金との関係をどう書くかは労災保険又は障害年金を支給される可能性がある事案における示談で,死亡事故の損害項目全般は交通死亡事故の損害額で,それぞれ扱っている。
本記事は,これらと重ならない範囲で,将来介護費そのものの算定と,公的給付を差し引くかどうかの判断に重心を置く。
後遺障害等級の号数の読み方は後遺障害等級の号数対照で扱っている。

第2 近親者介護と職業介護の日額
1 日額は介護の内容と担い手から個別に認定される
(1) 実務書の目安の位置付け

公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部編『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準 上巻(基準編)2026年版』(いわゆる赤い本。以下「赤い本2026年版基準編」という。)29頁は,将来介護費について,医師の指示又は症状の程度により必要があれば被害者本人の損害として認めるとした上で,職業付添人は実費全額,近親者付添人は1日につき8000円とし,ただし具体的看護の状況により増減することがあるとしている。
この基準額は裁判所を拘束する法令ではなく,後記(3)のとおり,重い後遺障害の事案で実際に認定される日額は,介護の内容と担い手に応じて基準額から大きく離れることが多い。
本記事では,裁判所ウェブサイトで判決全文を確認できる裁判例の認定額を(2)で示し,赤い本2026年版基準編が紹介する裁判例の類型を(3)で示す。
大阪地裁の算定基準の全体像は医療関係者から見た大阪地裁の交通損害賠償の算定基準で扱っている。

(2) 裁判例に現れた日額

千葉地方裁判所佐倉支部平成18年9月27日判決は,症状固定時38歳で遷延性意識障害等(後遺障害等級1級3号)の被害者について,病院での家族による介護の補助を日額6500円,自宅での家族介護を日額1万円とし,母が67歳になった後の期間は,職業介護人と家族による介護を併せて日額2万7000円と認定した。
名古屋地方裁判所平成14年1月28日判決は,事故当時18歳で遷延性意識障害等(同じく1級3号)の被害者について,寝返りや車椅子への移乗を独力でできることなどを考慮し,家族介護を日額5500円,職業付添人による介護を日額1万円と認定した。
最高裁判所第一小法廷平成11年12月20日判決の原審は,寝たきりの被害者について,入院費を含む職業付添人の介護費用を日額1万7260円として算定していた。
佐倉支部判決と名古屋地裁判決はいずれも改正前民法の下で年5%の中間利息を控除した事案であり,同じ1級の後遺障害でも,残された動作能力,医療的ケアの有無及び介護の担い手によって日額が大きく異なることが分かる。

(3) 赤い本2026年版基準編が紹介する裁判例の類型

赤い本2026年版基準編が紹介する遷延性意識障害等の1級の事案では,介護を担う近親者(多くは母)が67歳に達するまでは近親者介護に職業介護人を加えた体制,その後は職業介護人を中心とする体制として,期間ごとに日額を分けて平均余命まで算定する例が多い。
例えば,同書29頁は,固定時8歳の男児について,祖母が67歳に達するまでの11年間を近親者介護に職業付添人1名を加えた日額1万6000円,以降を職業付添人2名の日額2万4000円とした大阪地方裁判所平成19年7月26日判決(交民40巻4号976頁)を,同書30頁は,母が67歳に達するまでの9年間を日額1万8000円,その後平均余命までの46年間を職業介護人2名体制の日額2万8000円とした仙台高等裁判所平成23年2月4日判決(自保ジャーナル1842号1頁)を紹介している。

他方,介護を要する後遺障害として2級以上の認定がなくても,随時の看視や声掛けが必要であれば介護費が認められることがあり,赤い本2026年版基準編35頁~36頁は,高次脳機能障害(3級3号)等(併合1級)の被害者について随時介護を要する程度のものとして平均余命期間59年間,日額6000円を認めた東京地方裁判所平成16年7月13日判決(交民37巻4号955頁)などを,同書37頁は,5級の高次脳機能障害の被害者について日額2000円から4000円程度を認めた例を紹介している。
脊髄損傷では,同書38頁が,妻が稼働しながら介護しているのは経済的負担を考慮しているにすぎず本来は職業介護人による介護を希望しているとして,職業付添人による介護を前提に原審の日額1万2000円を1万6000円に増額した大阪高等裁判所平成16年6月10日判決(自保ジャーナル1550号2頁)を紹介している。
これらの裁判例は,後遺障害等級そのものよりも,常時介護か随時の看視で足りるか,家族がどこまで担えるか,家族の年齢や健康状態がどうかという具体的な介護の状況によって日額が決まっていることを示している。

2 家族介護から職業介護への切替え
(1) 介護者の年齢で期間を区切る算定

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会社役員・個人事業主・開業医の交通事故の損害賠償-役員報酬の労務対価部分,企業損害及び基礎収入の立証(AI作成)

目次第1 誰の損害として何を請求するかを先に分ける第2 会社役員の基礎収入は労務対価部分に限られる1 役員報酬には労務対価部分と利益配当的部分がある2 代表取締役は税務上の使用人兼務役員になれない3 後遺障害と死亡の逸失利益でも同じ区別をする第3 「事故後も役員報酬が減っていない」という反論への対応1 定期同額給与と期中の改定事由2 役員の入院による減額は臨時改定事由になり得る3 報酬が減っていないときに確認する事実第4 会社自体の損害(企業損害)1 最高裁昭和43年11月15日判決2 判決の射程と立証すべき事実3 会社が現実に負担した費用と逸失利益を分ける4 赤い本が紹介する企業損害の裁判例第5 会社が休業中も報酬を払い続けた場合1 役員本人の休業損害として請求しにくい理由2 会社の損害として組み立てる方法第6 個人事業主の基礎収入1 確定申告書を出発点に実収入と本人の寄与を示す2 青色申告特別控除と青色事業専従者給与の扱い3 休業中の固定費と代替労働力第7 開業医と医療法人の理事長1 租税特別措置法26条の概算経費2 医療法人は剰余金の配当をしてはならない第8 税金,損害額の立証困難及び請求の整理1 逸失利益から税金を控除しない2 損害額の立証が難しいときの民事訴訟法248条3 二重計上を避ける整理表4 期間制限を請求主体ごとに管理する第9 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 国税庁の通達・解説資料4 文献
第1 誰の損害として何を請求するかを先に分ける

会社役員,個人事業主又は開業医が交通事故で負傷し,又は死亡したときは,被害者本人の損害と,被害者が経営する会社や事業の損害が一つの事故から同時に生じる。
役員報酬のうち労務の対価といえる部分,会社の利益の減少,会社が負担した外注費,休業中も支払い続けた報酬は,請求する主体も立証資料も異なる。

これらを「事業の損害」として一括して示談案や訴状に並べると,同じ労務の価値を二度数えたり,逆に会社の請求を落としたりしやすい。
本記事では,役員本人の休業損害・逸失利益,会社自体の損害(企業損害),会社が現実に負担した費用及び報酬の継続支払を別の請求として扱い,最後に整理表で重なりを点検する方法を基本とする。

本記事は,令和8年9月16日現在の法令,裁判所ウェブサイト掲載の最高裁判決,国税庁の公表資料及び日弁連交通事故相談センター東京支部編『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準』上巻(基準編)2026年版(以下「赤い本」という)に基づき,AIを用いて整理したものである。
会社員・家事従事者・自営業者に共通する後遺障害逸失利益の計算は,交通事故の後遺障害逸失利益-減収のない会社員・家事従事者・自営業者の立証と計算で扱っており,本記事はそこで対象外とした役員報酬と法人自体の損害を中心に説明する。

第2 会社役員の基礎収入は労務対価部分に限られる
1 役員報酬には労務対価部分と利益配当的部分がある
(1) 赤い本の基準

赤い本96頁は,休業損害について,「会社役員の報酬については、労務提供の対価部分は休業損害として認容されるが、利益配当の実質をもつ部分は消極的である」としている。
後遺障害による逸失利益(同書121頁)と死亡による逸失利益(同書187頁)でも,同じ趣旨の基準が示されている。
これは実務書の算定基準であり法令ではないが,役員報酬の全額が当然に基礎収入になるわけではないという出発点は,相手方保険会社の提示でもほぼ共通して問題になる。

(2) 労務対価部分を示す事情と資料

労務対価部分の割合は,法律や通達で一律に決まっていない。
赤い本96頁~98頁・121頁~122頁に紹介された裁判例では,会社の規模,被害者の実際の業務内容,他の役員や従業員の報酬との比較,事故後の売上・利益の推移,報酬額の決め方等を考慮して,報酬の全額を労務対価とした例も,一定割合に限った例もある。

被害者側では,次の資料を対応させて,報酬が何の対価として支払われていたかを具体的に示すことが考えられる。
①役員報酬を決めた株主総会・取締役会の議事録と,報酬額の推移。
②法人税申告書に添付する勘定科目内訳明細書のうち役員給与等の内訳書,源泉徴収票。
③事故前の業務日報,現場の出面表,受注・納品の記録,取引先とのやり取り等,本人が担っていた作業を示す資料。
④他の役員・従業員の報酬と職務内容,同業同規模の会社の水準を示す資料。
⑤決算書による事故前数期の売上・利益の推移と,配当の有無。
⑥法人事業概況説明書。

日弁連交通事故相談センター東京支部編『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準』下巻(講演録編)2026年版(以下「赤い本下巻」という)218頁の損害賠償請求調査事項整理票も,会社役員等の休業損害の資料として,「法人事業概況説明書、源泉徴収票、法人の確定申告書及び添付書類、決算報告書」を挙げている。

一人会社や家族経営の会社では,本人が現場作業から営業・経理まで担っていることが多い一方,会社の利益を報酬の形で受け取っているとの反論も出やすい。
帳簿上の区分だけで結論を出さず,事故前の一日の業務を具体的に再現できる資料を優先して集める方法が考えられる。

2 代表取締役は税務上の使用人兼務役員になれない
(1) 法人税法の定義

法人税法34条6項は,使用人としての職務を有する役員(使用人兼務役員)を,役員のうち「部長、課長その他法人の使用人としての職制上の地位を有し、かつ、常時使用人としての職務に従事するもの」と定める。

(続きを読む...)会社役員・個人事業主・開業医の交通事故の損害賠償-役員報酬の労務対価部分,企業損害及び基礎収入の立証(AI作成)

交通事故の仮払い仮処分-要件,申立書,必要資料及び自賠責の仮渡金との違い(AI作成)

目次第1 交通事故の仮払い仮処分の位置付け1 仮の地位を定める仮処分である2 仮差押え,自賠責の仮渡金及び内払いとは異なる第2 申立てが認められる二つの要件1 被保全権利を疎明する2 著しい損害又は急迫の危険を疎明する3 「証明」ではなく「疎明」である第3 誰を相手にどの裁判所へ申し立てるか1 運転者,運行供用者,使用者等の責任根拠を分ける2 保険会社を相手にするには直接請求権の根拠が要る3 本案の管轄裁判所を確認する第4 申立書と疎明資料1 申立書には求める給付と二つの要件を書く2 事故責任,因果関係及び損害を示す資料3 現在の資金不足を示す資料4 想定される反論を先に点検する第5 仮払いを求める金額と期間1 法律上の一律の割合又は期間はない2 必要額は月別の不足額から組み立てる第6 審理,担保,費用及び命令後の手続1 申立て後に書面審査と債権者面接が行われることがある2 原則として相手方が参加できる審尋を経る3 担保額は事案ごとに裁判所が決める4 発令後の執行には2週間の制限がある第7 仮処分の前に比較する早期支払の方法1 低負担の方法を先に確認する2 中間段階で不足額と争点を固定する3 高負担の仮処分へ進む条件を確認する第8 取消し,返還,本案訴訟及び期間制限1 本案の訴えを求められたときは期間管理が要る2 却下・異議等には2週間の不変期間がある3 命令が取り消されると返還が問題になる4 損害賠償請求権と自賠責請求権の時効を別に管理する第9 申立てへ進む条件と見送る条件1 申立てを具体化しやすい条件2 仮処分を見送って再評価する条件3 相談時に確認する事項第10 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 裁判所の手続案内4 文献5 関連記事
第1 交通事故の仮払い仮処分の位置付け
1 仮の地位を定める仮処分である

交通事故の被害者が示談成立又は本案判決の確定前に治療費,休業による生活費その他の金銭の支払を求める「仮払い仮処分」は,独立した名称の手続ではなく,民事保全法23条2項の仮の地位を定める仮処分として申し立てるものである。
同項は,争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるために必要なとき,仮処分命令を発することができると定め,同法24条は必要な給付を命ずることを認めている。
本記事は,令和8年9月13日現在の法令及び公表資料に基づき,人身事故の被害者が金銭の仮払いを求める場合の要件,資料,手続及びリスクを説明するものである。

2 仮差押え,自賠責の仮渡金及び内払いとは異なる

仮払い仮処分と混同しやすい手続は,次のとおりである。
① 仮差押えは,将来の強制執行が不可能又は著しく困難になるおそれがあるときに債務者の財産を保全する手続であり,申立人へ直ちに金銭を給付する手続ではない。
② 自動車損害賠償保障法17条の仮渡金は,自賠責保険会社に対して法定額を請求する制度であり,裁判所が個別の生活状況を審理して命ずる仮処分ではない。
③ 加害者側又は任意保険会社による内払いは,交渉又は保険契約上の取扱いによる支払であり,裁判所の命令に基づく支払ではない。
したがって,当座の資金が必要な場合も,各制度の根拠,相手方,金額の決め方及び返還・精算の有無を分けて検討する必要がある。

第2 申立てが認められる二つの要件
1 被保全権利を疎明する

民事保全法13条により,申立人は,保全すべき権利又は権利関係と保全の必要性の双方を疎明しなければならない。
被保全権利は,加害者等に対する損害賠償請求権であり,民法709条,自動車損害賠償保障法3条その他の責任根拠,事故態様,受傷との因果関係,損害額及び既払金を示す必要がある。
請求総額だけを掲げるのではなく,仮払いを求める時点までに発生した治療費,介護費,休業損害等と,近い将来に支出時期が到来する費用を分け,過失相殺等を考慮しても請求額を上回る権利があることを資料で示すことになる。

2 著しい損害又は急迫の危険を疎明する

損害賠償請求権が存在するだけでは足りず,本案判決を待つと著しい損害又は急迫の危険が生じることを具体的に示す必要がある。
例えば,治療又は介護を継続できない危険,休業により住居費・食費等を賄えない状況,家族を含む収入・預貯金・利用可能な給付の不足,支払期限が迫った費用及び既払金の使途を,月別の収支と資料に結び付けて説明する。
将来の不安を抽象的に述べるだけでなく,何の費用が,いつ,いくら不足し,支払われなければどのような不利益が生じるかを特定することが重要である。

3 「証明」ではなく「疎明」である

民事保全では本案訴訟の証明より低い段階の「疎明」が用いられるが,仮払いは相手方から金銭を移転させるため,資料が粗くてもよいという意味ではない。
東京地方裁判所の案内は,即時に取り調べることができる証拠で疎明し,一般には書証を用いると説明している。
事故責任,因果関係,損害額又は資金不足に大きな争いがあるときは,短い審理で裁判所が判断できるよう,争点ごとに中核資料を絞る必要がある。

第3 誰を相手にどの裁判所へ申し立てるか
1 運転者,運行供用者,使用者等の責任根拠を分ける

申立ての相手方は,請求の根拠となる損害賠償債務を負う者である。
運転者の不法行為責任,車両の運行供用者の責任,事業執行中の事故における民法715条の使用者責任又は複数の行為者に関する民法719条の共同不法行為責任等について,誰にどの要件が当てはまるかを個別に整理する。
支払能力だけで相手方を選ぶことはできず,複数人を相手にするときも各人の責任根拠と申立ての利益を示す必要がある。

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交通事故の後遺障害逸失利益-減収のない会社員・家事従事者・自営業者の立証と計算(AI作成)

第1 減収の有無や後遺障害等級だけでは決まらない
第2 計算式と基礎収入を確認する
1 計算の前提を四つに分ける
2 職業に応じて基礎収入の資料を選ぶ

第3 減収のない会社員の立証
1 給与が維持された理由と将来の不利益
2 本人の記録から始め,勤務先への依頼を絞る
3 昇給・定年・再雇用は期間と根拠を示す

第4 家事従事者・兼業主婦の立証
1 無償の家事労働にも財産的価値がある
2 パート収入に家事労働分を単純加算しない
3 家族の人数ではなく実際の分担を記録する

第5 自営業者の実収入と本人の寄与
1 確定申告書と帳簿・入金を対応させる
2 事業全体の収益を本人の利益と同一視しない
3 固定費を将来の逸失利益へ一律加算しない

第6 12級・14級の喪失率と期間
1 等級別の率表と民事上の評価を区別する
2 67歳まで・5年・10年という目安の限界

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自賠責保険の後遺障害等級認定への異議申立て-認定理由・追加資料・紛争処理の選び方(AI作成)

第1 対象,基準日及び最初の判断1 この記事の対象と適用時点2 最初に確認する三つの事項3 異議申立てを選ぶ場面第2 認定理由と提出済み資料を確認する1 書面による理由の確認2 事前認定と被害者請求の提出経路3 手元資料の照合第3 異議申立書と追加資料の組み立て1 認定理由と反論を一対一にする2 低負担の資料から確認する3 高負担の資料へ進む条件4 書式と提出記録第4 争点別に資料を対応させる1 事故との因果関係2 症状の存在と一貫性3 障害の程度と等級第5 異議申立て,紛争処理及び訴訟の選択1 保険会社等への異議申立て2 自賠責保険・共済紛争処理機構3 訴訟4 国土交通大臣への申出第6 時効と手続中の期限管理1 自賠責保険に対する直接請求権2 加害者等に対する損害賠償請求権3 紛争処理申請と時効第7 公表事例,統計及び中止基準1 変更例と変更されなかった例2 令和7年度統計の読み方3 追加調査又は申立てを止める基準第8 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 所管行政機関の解説・運用資料4 制度運営主体・指定紛争処理機関の資料5 統計・裁判所の手続案内

自賠責保険の後遺障害等級が非該当となり,又は想定より低い等級となった場合,最初に確認すべきものは認定結果の結論だけではなく,その判断理由である。
異議申立てでは,その理由が否定した事実又は評価を特定し,判断を動かし得る資料を対応させる必要がある。

また,資料を集めている間にも,自賠責保険に対する請求権と加害者等に対する損害賠償請求権の時効は別々に進行し得る。
本記事は,認定理由の確認から追加資料,異議申立て,自賠責保険・共済紛争処理機構及び訴訟までを,手続選択の順に整理する。

第1 対象,基準日及び最初の判断

1 この記事の対象と適用時点

本記事は,交通事故の被害者が,自賠責保険又は共済の後遺障害等級について,非該当又は認定等級を争う場面を対象とする。
調査基準日は令和8年9月8日であり,同日現在の自動車損害賠償保障法,民法及び各機関の公式案内を確認している。

個別の障害が何級に当たるかは,障害の部位,画像,検査方法,症状の推移及び既往症等によって異なるため,本記事だけで判断できない。
また,事故日が古い事案では改正前の時効規定又は経過措置が適用されることがあるため,現在の条文だけを当てはめないよう注意を要する。

2 最初に確認する三つの事項

第一に,後遺障害等級認定票その他の通知書から,非該当又は当該等級とされた具体的な理由を確認する。
第二に,提出済み資料の控えと認定理由を照合し,資料の不足,事実の誤認又は資料評価の相違のどれを問題とするかを決める。

第三に,自賠責保険に対する請求権及び加害者等に対する損害賠償請求権の期限を別々に確認する。
期限が近い場合は,医学資料の追加より先に,時効の完成猶予又は更新のために必要な対応を検討する。

3 異議申立てを選ぶ場面

保険会社又は共済組合への異議申立ては,自賠責の支払判断を再検討してもらうことが目的であり,認定理由に対応する未提出資料又は具体的な評価上の問題がある場合に適している。
これに対し,新しい資料がなく,既に主要な反論も審査されている場合は,同じ内容を反復する前に,紛争処理又は訴訟へ進む目的と費用を検討する必要がある。

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交通事故の慰謝料に税金はかかるか-確定申告・医療費控除・死亡時の取扱い(AI作成)

第1 交通事故の慰謝料は原則として所得税非課税である
第2 自営業者の休業損害と事業の補償は分ける

1 けがで働けないことへの補償
2 商品損害・必要経費の補填等

第3 非課税でも確定申告をする場合がある
第4 医療費控除から差し引く金額

1 治療費の補填と慰謝料を区別する
2 医療費控除の計算例

第5 示談や入金が翌年以降になる場合

1 支払った年と補填される医療費を対応させる
2 見込額と確定額が違ったときの訂正

第6 死亡に対する賠償金と未収金の相続
第7 示談書に内訳がないときの確認
出典

1 法令
2 国税庁の法令解釈通達
3 国税庁の解説・質疑応答・手続案内

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交通事故の慰謝料はいつもらえるか-治療中の自賠責被害者請求・仮渡金・示談成立後の支払と時効(AI作成)

第1 交通事故の慰謝料を受け取る時期の結論

1 最終的な慰謝料は示談成立後に受け取るのが基本である
2 治療中でも受け取れるお金がある

第2 最終的な慰謝料が治療終了後になる理由

1 入通院慰謝料は治療経過を確認して計算する
2 後遺障害慰謝料は症状固定後の認定が前提となる
3 治療中の全面示談には清算条項の問題がある

第3 治療中に利用できる自賠責の被害者請求

1 総損害額が確定する前でも請求できる
2 傷害の支払限度額120万円は慰謝料だけの枠ではない
3 請求から支払までには損害調査がある
4 必要書類と既払額を先に確認する

第4 当座の費用を受け取る仮渡金

1 仮渡金は自賠責の前払制度である
2 傷害の仮渡金は5万円・20万円・40万円である
3 被害者請求との違いと最終精算

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保険会社から届いた交通事故の示談案の見方――慰謝料・休業損害・逸失利益・既払金・過失割合・清算条項の確認(AI作成)

第1 この記事の対象と示談案を開いたときの三つの確認

1 対象は人身事故の最終示談案である

2 最終支払額だけでは示談案の評価はできない

3 署名を保留しても時効の確認は別に必要である

第2 示談案は四つの層に分けて読む

1 認定損害額,過失相殺,既払金及び今回支払額を区別する

2 簡単な検算例

第3 慰謝料欄の見方

1 傷害,後遺障害及び死亡のどの慰謝料かを分ける

2 自賠責保険の支払基準と民事賠償額を同一視しない

3 期間と実通院日数を資料で照合する

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交通事故の被害者が自己破産した場合の損害賠償請求権の帰属(AI作成)

第1 この記事の対象と結論

1 この記事が扱う問題

2 開始前の事故であれば原則として破産財団に属すること

3 開始後の事故であれば原則として破産者に属すること

第2 破産財団への帰属と破産管財人の権限

1 破産法34条の固定主義

2 「管財人に帰属する」の正確な意味

第3 損害項目ごとの帰属

1 費目別に整理する理由

2 後遺障害逸失利益

3 将来介護費

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通院日数が少ない場合の入通院慰謝料――裁判基準の実通院日数3倍・3.5倍を使う条件と治療中断の扱い(AI作成)

目次

第1 通院日数が少ない場合の結論と記事の範囲

1 原則は通院期間であり,倍率による短縮は例外であること

2 通院期間,実通院日数及び相当な治療期間を区別すること

3 裁判基準は法定額ではないこと

第2 別表Ⅰの3.5倍と別表Ⅱの3倍

1 別表Ⅰで3.5倍を検討する場合

2 別表Ⅱで3倍を検討する場合

3 「長期」と通院頻度に固定した数値基準はないこと

第3 2016年改訂が機械的な3倍計算を改めた理由

1 改訂前の記載と短期通院事案のずれ

2 「目安とすることもある」が示す裁量

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交通事故の慰謝料の種類と三つの算定基準――入通院・後遺障害・死亡の早見表,示談金との違い及び計算例(AI作成)

第1 この記事が扱う交通事故慰謝料の範囲

1 慰謝料は精神的損害に対する賠償であること

2 三つの種類と三つの算定基準を分けること

第2 慰謝料と示談金の違い

1 示談金は慰謝料を含む合意額であること

2 示談金を構成する主な損害項目

3 損害額,示談額及び最終振込額の違い

第3 交通事故慰謝料の三つの種類

1 入通院慰謝料

2 後遺障害慰謝料

3 死亡慰謝料

第4 自賠責基準,任意保険基準及び裁判実務上の目安

1 自賠責保険の支払基準

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登録自動車の廃車手続の必要書類と手続終了後の書類(AI作成)

第1 本記事の対象と廃車手続の区分

1 対象となる登録自動車

2 永久抹消,一時抹消及び解体届出の違い

3 最初に確認する事項

第2 永久抹消登録の必要書類

1 申請期限と解体報告記録

2 通常の解体車の提出書類

3 使用済自動車引取証明書

4 登録上の住所・氏名が異なる場合

5 所有権留保,相続及び書類紛失

第3 一時抹消登録の必要書類

1 一時抹消を利用する場面

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交通事故の入通院慰謝料に影響する他覚所見――画像・神経学的検査・可動域所見の具体例(AI作成)

目次

第1 他覚所見と入通院慰謝料の関係

1 この記事の対象

2 別表Ⅰと別表Ⅱの違い

3 他覚所見が作用する四つの場面

第2 他覚所見の意味と証拠価値

1 自覚症状との違い

2 画像だけが他覚所見ではない

3 所見から慰謝料評価までの四段階

第3 画像・外表・手術で確認される所見

1 骨・関節の所見

2 軟部組織・脊髄・神経根の所見

3 創傷・腫脹・手術所見

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過失相殺と素因減額が併存する場合の人身傷害保険会社の代位の範囲――最高裁令和7年7月4日判決(AI作成)

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第1 この記事が扱う問題と最高裁令和7年7月4日判決

1 対象と射程
2 事案及び原審の判断

第2 前提となる二つの法理

1 素因減額
2 過失相殺がされる場合の代位範囲――裁判基準差額説
3 保険法25条と約款との関係

第3 最高裁令和7年7月4日判決の判断

1 判旨
2 限定支払条項の位置付け
3 補足意見
4 「限度として」の意味

第4 判決前の裁判例及び学説の状況

1 裁判例
2 学説
3 平成24年最高裁判決の調査官解説との関係

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高次脳機能障害で後遺障害等級7級4号を認定してもらうための具体的な主張立証方法(AI作成)

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目次

第1 本稿の射程と7級4号の法的座標

1 本稿の射程

(1) 一般的な実務情報であること
(2) 認定対象を3層に分けること

2 7級4号の文言と判断枠組み

(1) 現行の等級文言
(2) 4能力による具体化
(3) 労災認定基準を参照した2つの構成

3 9級10号との分水嶺

(1) 症状の重さだけでなく能力数を示すこと
(2) 援助の頻度と内容を示すこと
(3) 日常生活の自立と労務制限を混同しないこと

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交通事故のインプラント治療費はどこまで損害になるか―赤い本講演録2025の論評(AI作成)

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◯対象とするのは,「赤い本」(民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準,日弁連交通事故相談センター東京支部発行)2025年(令和7年)版下巻(講演録編)に収録された講演「インプラント治療に関する費用」(東京地方裁判所民事第27部・62期の佐藤康行裁判官講述,令和6年9月14日)です。
目次

第1 はじめに
第2 本講演の位置付けと全体評価

1 本講演の対象
2 全体的な評価

第3 インプラント治療の要否の判断基準について

1 二段階の判断枠組み

(1) 医学的な必要性・合理性・相当性
(2) 報酬額の社会的な相当性

2 他の治療方法との比較

(1) ブリッジ・義歯との比較
(2) 生存率に関する知見の意味

3 原状回復の原則について

(1) 本講演が示す考え方

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人身傷害保険の死亡保険金請求権は相続財産であると判示した最高裁令和7年10月30日判決の解説(AIリライト)

第1 結論

1 死亡保険金請求権は被保険者の相続財産に属する
2 近親者の存在は死亡保険金の額に影響しない

第2 事案の概要

1 自損事故による被保険者の死亡と子の相続放棄
2 訴訟の経過

第3 死亡保険金請求権の相続財産性(争点1)

1 保険会社の主張―法定相続人への原始的帰属
2 最高裁の判断とその理由

(1) 人身傷害保険は損害填補を目的とする
(2) 「法定相続人とする」との定めは注意的規定にすぎない

3 対比される先例―生命保険金は受取人の固有財産
4 学説上の位置づけ

第4 近親者が存在する場合の死亡保険金額(争点2)

1 保険会社の主張―近親者分の控除

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交通死亡事故の損害額(AIリライト)

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目次

第1 総論

1 死亡による損害の全体像
2 このメモの読み方

第2 葬式費用等の積極損害

1 葬式費用

(1) 葬式費用は相当な範囲で損害となること
(2) 実務上の水準

2 墓碑・仏壇の費用

第3 死亡による逸失利益

1 逸失利益の基本的な算定方法
2 年金の逸失利益性

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遅延損害金に関するメモ書き

目次
1 総論
2 労災保険の遺族補償年金等の場合,不法行為時から当該年金の支給日までの遅延損害金は発生しないこと(遺族厚生年金については(4))
3 自賠責保険の被害者請求と遅延損害金
4 任意保険・人身傷害保険等の保険金と遅延損害金
5 関連記事その他

この記事の論点ごとの詳しい説明は,次の記事にまとめています。
・ 不法行為・交通事故の遅延損害金はいつから発生するか―事故日起算,弁護士費用及び損害費目ごとの起算日
・ 遅延損害金の利率は年3%か年5%か―令和2年4月1日の経過措置,商事法定利率の廃止及び3年ごとの見直し
・ 遺族補償年金・遺族厚生年金と遅延損害金―不法行為時に塡補されたとみる最高裁大法廷平成27年3月4日判決
・ 自賠責保険の被害者請求と遅延損害金―自賠法16条の9の「必要な期間」,利率及び訴訟提起の実益
・ 交通事故の既払金は元本と遅延損害金のどちらに充当されるか―自賠責保険金と任意保険の支払の違い
・ 労災保険給付と自賠責保険の直接請求が競合する場合―最高裁平成30年9月27日判決と国への支払の効力
・ 人身傷害保険金を受け取った後も加害者に遅延損害金を請求できるか―最高裁平成24年2月20日判決と保険代位の範囲
・ 離婚慰謝料の遅延損害金はいつから発生するか―離婚成立時とした最高裁令和4年1月28日判決と請求の趣旨の書き方
・ 不法行為の遅延損害金は元本に組み入れられるか―民法405条の重利を否定した最高裁令和4年1月18日判決
・ 損害賠償金の遅延損害金に税金はかかるか―雑所得となる場合と非課税となる場合

1 総論
(1) 不法行為に基づく損害賠償債務は,損害の発生と同時に,なんらの催告を要することなく,遅滞に陥ります(最高裁平成7年7月14日判決(平成4年(オ)第685号,交通事故民事裁判例集28巻4号963頁。判例秘書に掲載)。なお,先例として,最高裁昭和37年9月4日判決)。
(2)  不法行為と相当因果関係に立つ損害である弁護士費用の賠償債務は,当該不法行為の時に履行遅滞となります(最高裁昭和58年9月6日判決)。
(3) 同一事故により生じた同一の身体傷害を理由とする損害賠償債務は一個と解すべきであって,一体として損害発生の時に遅滞に陥るものであり,個々の損害費目ごとに遅滞の時期が異なるものではありません(最高裁昭和58年9月6日判決参照。同一事故により生じた同一の身体傷害を理由とする財産上の損害と精神上の損害の賠償請求権が一個であることにつき,最高裁昭和48年4月5日判決)から,同一の交通事故によって生じた身体傷害を理由として損害賠償を請求する事件において,個々の遅延損害金の起算日の特定を問題にする余地はありません(最高裁平成7年7月14日判決(平成4年(オ)第685号,交通事故民事裁判例集28巻4号963頁。判例秘書に掲載))。
起算日の考え方と類型別の一覧は,不法行為・交通事故の遅延損害金はいつから発生するかを参照してください。

2 労災保険の遺族補償年金等の場合,不法行為時から当該年金の支給日までの遅延損害金は発生しないこと(遺族厚生年金については(4))
(1) 被害者が不法行為によって死亡した場合において,その損害賠償請求権を取得した相続人が遺族補償年金の支給を受け,又は支給を受けることが確定したときは,制度の予定するところと異なってその支給が著しく遅滞するなどの特段の事情のない限り,その塡補の対象となる損害は不法行為の時に塡補されたものと法的に評価して損益相殺的な調整が行われます(最高裁大法廷平成27年3月4日判決。なお,先例として,最高裁平成22年9月13日判決等参照)。
(2) 最高裁大法廷平成27年3月4日判決の事案では,事実審の口頭弁論終結時までに支給され,又は支給を受けることが確定した遺族補償年金が損益相殺的な調整の対象となりました(なお,上告人の一人には労災保険法に基づく葬祭料も支給されていましたが,同判決が判断の対象としたのは遺族補償年金です。)。
(3) 遺族補償年金が支払時における損害金の元本及び遅延損害金の全部を消滅させるに足りないときは,遅延損害金の支払債務にまず充当されるべきものであることは明らかである(民法491条1項参照)と判示した最高裁平成16年12月20日判決は,最高裁大法廷平成27年3月4日判決によって,これと抵触する限度で変更されました(民法491条1項は改正前の条番号で,現行民法の489条1項に当たります。)。
(4) 最高裁平成16年12月20日判決は,死亡事案において,厚生年金保険法に基づく遺族厚生年金が損害賠償債務の元本及び遅延損害金の全部を消滅させるに足りないときは,事故の日から上記年金の支払日までの間に発生した遅延損害金の支払債務にまず充当されるべきものであることは明らかであると判示しているものの,最高裁大法廷平成27年3月4日判決の判断内容からすれば,遺族厚生年金についても,不法行為時から当該年金の支給日までの遅延損害金は発生しないことになると思います。

(続きを読む...)遅延損害金に関するメモ書き

損益相殺とは―労災保険給付・年金・保険金の控除と計算順序(AIリライト)

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目次

第1 損益相殺と損益相殺的な調整

1 損益相殺の意味
2 控除の可否を判断する順序

第2 労災保険給付と損害項目との対応

1 同一の事由に当たる主な組合せ
2 慰謝料から労災保険給付を控除することはできない
3 時的範囲と人的範囲

(1) 現実に支給された額又は支給が確定した額
(2) 給付を受ける者の損害賠償債権との調整

第3 労災保険給付と損害賠償の先後関係

1 労災保険給付が先に行われた場合の求償
2 損害賠償が先に行われた場合の控除
3 使用者による損害賠償と労災保険法附則64条

(続きを読む...)損益相殺とは―労災保険給付・年金・保険金の控除と計算順序(AIリライト)