遅延損害金に関するメモ書き


目次
1 総論
2 労災保険及び厚生年金保険の場合,不法行為時から当該年金の支給日までの遅延損害金は発生しないこと
3 自賠責保険の被害者請求と遅延損害金
4 関連記事その他

 総論
(1) 不法行為に基づく損害賠償債務は,損害の発生と同時に,なんらの催告を要することなく,遅滞に陥ります(最高裁平成7年7月14日判決(判例秘書に掲載)。なお,先例として,最高裁昭和37年9月4日判決)。
(2)  不法行為と相当因果関係に立つ損害である弁護士費用の賠償債務は,当該不法行為の時に履行遅滞となります(最高裁昭和58年9月6日判決)。
(3) 同一事故により生じた同一の身体傷害を理由とする損害賠償債務は一個と解すべきであって,一体として損害発生の時に遅滞に陥るものであり,個々の損害費目ごとに遅滞の時期が異なるものではありません(最高裁昭和58年9月6日判決参照)から,同一の交通事故によって生じた身体傷害を理由として損害賠償を請求する事件において,個々の遅延損害金の起算日の特定を問題にする余地はありません(最高裁平成7年7月14日判決(判例秘書に掲載))。

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労災保険及び厚生年金保険の場合,不法行為時から当該年金の支給日までの遅延損害金は発生しないこと
(1) 被害者が不法行為によって死亡した場合において,その損害賠償請求権を取得した相続人が遺族補償年金の支給を受け,又は支給を受けることが確定したときは,制度の予定するところと異なってその支給が著しく遅滞するなどの特段の事情のない限り,その塡補の対象となる損害は不法行為の時に塡補されたものと法的に評価して損益相殺的な調整が行われます(最高裁大法廷平成27年3月4日判決。なお,先例として,最高裁平成22年9月13日判決等参照)。
(2) 最高裁大法廷平成27年3月4日判決の事案では,葬祭料の他,事実審の口頭弁論終結時までの遺族補償年金が損益相殺の対象となりました。
(3) 遺族補償年金が支払時における損害金の元本及び遅延損害金の全部を消滅させるに足りないときは,遅延損害金の支払債務にまず充当されるべきものであることは明らかである(民法491条1項参照)と判示した最高裁平成16年12月20日判決は,最高裁大法廷平成27年3月4日判決によって変更されました。
(4) 最高裁平成16年12月20日判決は,死亡事案において,厚生年金保険法に基づく遺族厚生年金が損害賠償債務の元本及び遅延損害金の全部を消滅させるに足りないときは,事故の日から上記年金の支払日までの間に発生した遅延損害金の支払債務にまず充当されるべきものであることは明らかであると判示しているものの,最高裁大法廷平成27年3月4日判決の判断内容からすれば,遺族厚生年金についても,不法行為時から当該年金の支給日までの遅延損害金は発生しないことになると思います。

3 自賠責保険の被害者請求と遅延損害金
(1)ア 自賠法16条1項に基づく被害者の自賠責保険会社に対する直接請求権は,被害者が保険会社に対して有する損害賠償請求権であって,保有者の保険金請求権の変形ないしそれに準ずる権利ではありませんから,自賠責保険会社の被害者に対する損害賠償債務は商法514条所定の「商行為によって生じた債務」には当たりません。
    そのため,自賠責保険会社の遅延損害金の利率は,令和2年3月31日以前に発生した交通事故の場合,民法419条1項本文・404条に基づき,年5%となります(最高裁昭和57年1月19日判決参照)。
イ 令和2年4月1日以降に発生した交通事故の場合,遅延損害金の利率は年3%となります。
(2)ア 自賠責保険会社は,自賠法16条1項に基づく損害賠償額の支払の請求があった後,当該請求に係る自動車の運行による事故及び当該損害賠償額の確認をするために必要な期間が経過するまでは,遅滞の責任を負いません(自賠法16条の9第1項)。
    そのため,その限度で,最高裁昭和61年10月9日判決(先例として,最高裁昭和39年5月12日判決)の判断内容は修正されています。
イ 自賠法16条の9第1項にいう「当該請求に係る自動車の運行による事故及び当該損害賠償額の確認をするために必要な期間」とは,保険会社において,被害者の損害賠償額の支払請求に係る事故及び当該損害賠償額の確認に要する調査をするために必要とされる合理的な期間をいい,その期間については,事故又は損害賠償額に関して保険会社が取得した資料の内容及びその取得時期,損害賠償額についての争いの有無及びその内容,被害者と保険会社との間の交渉経過等の個々の事案における具体的事情を考慮して判断されます(最高裁平成30年9月27日判決)。
(3) 実務上,自賠責保険会社に対して遅延損害金を請求する場合,訴訟提起する必要がありますものの,逸失利益が小さくなる65歳以上の年金受給者の場合を除き,遅延損害金を付けなくても,「支払基準」で計算される損害額が保険金額を超えることが多いですから,訴訟提起する実益がありません。
    また,自賠責保険会社に対して訴訟提起した場合,「支払基準」に基づく過失相殺ではなく,実際の過失割合通りに過失相殺されます(最高裁平成24年10月11日判決。なお,先例として,最高裁平成18年3月30日判決参照)から,被害者の過失が大きい場合,訴訟提起する実益がありません。
(4) 自賠責保険金が支払時における交通事故の損害金の元本及び遅延損害金の全部を消滅させるに足りないときは,遅延損害金の支払債務にまず充当されます(最高裁平成16年12月20日判決)。

4 関連記事その他
(1)ア  離婚に伴う慰謝料として夫婦の一方が負担すべき損害賠償債務は,離婚の成立時に遅滞に陥ります(最高裁令和4年1月28日判決)。
イ 令和2年4月1日以降の民法404条(法定利息)2項は「法定利率は、年三パーセントとする。」と定めていますし,「離婚に伴う慰謝料として夫婦の一方が負担すべき損害賠償債務は,離婚の成立時に遅滞に陥る。」と判示した最高裁令和4年1月28日判決の主文1項には「上告人は,被上告人に対し,20万円に対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。」と書いてあります。
    そのため,請求の趣旨に記載する遅延損害金については%表示でいいと思います。
(2)ア 「実務に役立つ交通事故判例-東京地裁民事第27部裁判例から」327頁には,東京地裁交通部の取扱いとして,「自賠責保険の損害賠償額については遅延損害金から充当され,対人賠償責任保険からの支払いは,損害費目との結び付きが明確であれば元本に充当する黙示の合意を認めている。」と書いてあります。
イ 二弁フロンティア2022年4月号「【前編】交通事故訴訟の最新の運用と留意点~東京地裁民事第27部(交通部)インタビュー~」には「民事交通訴訟では、共同不法行為者間の求償債務が問題となることもありますが、この求償債務については、期限の定めのない債務とみて、遅延損害金の起算日を求償金支払催告日の翌日とした判例(最高裁平成10年9月10日第一小法廷判決・民集52巻6号1494頁)がありますので、催告日の翌日の法定利率によって遅延損害金を算定することとなります。」と書いてあります。
(3) 不法行為に基づく損害賠償債務の遅延損害金は,民法405条の適用又は類推適用により元本に組み入れることはできません(最高裁令和4年1月18日判決)。
(4) 損害賠償金に係る遅延損害金は雑所得となるものの,弁護士費用賠償金に係る遅延損害金は,被害者において支出を余儀なくされる弁護士費用の一部に充てられるものですから,非課税所得となります(国税不服審判所平成22年4月22日裁決)。
(5) 以下の記事も参照してください。
・ 共同不法行為に関するメモ書き
・ 自賠責保険の支払基準(令和2年4月1日以降の交通事故に適用されるもの)


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