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交通事故の後遺障害が非該当になったとき|異議申立て・紛争処理申請・訴訟の選び方(AI作成)

第1 非該当後に選べる手続

1 非該当と民事請求の関係

自賠責保険の後遺障害等級が非該当になっても,それだけで加害者等に対する損害賠償請求ができなくなるわけではない。
保険会社への異議申立て,自賠責保険・共済紛争処理機構への紛争処理申請,民事訴訟という選択肢があるが,どの手続でも希望する結果が得られるとは限らない。
本記事では,通知の理由と提出済み資料を確認し,反論できる点と時効を分けて検討する(国土交通省「よくあるご質問」の不服がある場合の説明も参照)。

本記事は,令和8年8月30日現在の法令と公開資料に基づき,非該当通知後の手続選択を扱う。
初回申請の準備と診断書の記載事項については,交通事故の後遺障害診断書を参照されたい。

2 三つの手続をどう選ぶか

手続判断を求める先・対象検討する場面制約
保険会社への異議申立て保険会社・共済組合の支払判断の再検討未提出資料,事実の誤認,資料評価への反論を具体化できる不認定理由と反論の根拠を対応させる
紛争処理申請自賠責保険・共済紛争処理機構による支払判断の適否の審査自賠責の判断を第三者機関に検討してもらいたい受理条件があり,処理後の機構への再申請はできない
民事訴訟裁判所による加害者等又は自賠責保険会社への請求の判断後遺障害,因果関係,損害等について司法判断を求めたい請求相手・法的根拠・立証・費用を検討する

「検討する場面」は,国土交通省及び機構のFAQを踏まえた本記事の整理である。
三つの手続を必ずこの順序ですべて経る必要はなく,時効が迫っている場合は,異議申立ての結果を待つ前に請求権を保全する方法を検討する。
機構への申請と時効の関係には条件付きの特則があるため,第6で説明する。

第2 通知理由と提出資料の確認

1 被害者側で最初にそろえる資料

被害者側では,まず手元にある①結果通知書と理由の別紙,②後遺障害診断書,③提出した診療記録・画像・検査結果の控え,④過去の異議申立書と回答書を確認する。
事前認定の場合は,任意保険会社に提出資料と回答内容を確認し,手元にあるだけで審査には出ていない資料を区別する。

不足資料は,何を証明したいのかを決めてから取得可否を調べるのが合理的である。
例えば,被害者本人の診療記録が必要であれば,医療機関に対象期間・記録の種類・保存の有無・取得方法・費用を確認し,既に持っている記録で足りるかを先に検討する。
これは資料収集の進め方に関する提案であり,保険会社の内部資料や第三者の資料を当然に入手できるという意味ではない。

2 詳細説明を求める制度と30日の意味

自賠法16条の4・16条の5には,支払・不払に関する所定の書面交付と,その後に詳細な説明を求める制度がある。
説明事項には後遺障害等級を判断した理由等が含まれるが,法16条の5は,同法16条の4第2項又は第3項の書面交付後の請求を対象とする。
任意保険会社から届いた事前認定の連絡も同じ法定通知であると決めつけず,通知の名義と根拠を確かめた上で,この制度を利用できるかを検討する(支払適正化命令7条)。

法16条の5に基づく説明又は説明しない旨と理由の書面交付は,原則として説明請求から30日以内である。
ただし,第三者の権利利益を不当に害するおそれ等の正当な理由による説明の全部・一部の拒否や,正当な事務処理上の困難等がある場合に期間内に理由と説明等の期限を通知する例外がある。
この30日は,初回の認定や異議申立ての審査を終える期限ではなく,内部記録のすべての開示を保障するものでもない。

支払基準違反や法定の説明等の不履行については,自賠法16条の7・16条の8に国土交通大臣への申出等の制度がある。
これは等級の取消しを求める一般的な行政不服申立てではなく,等級判断への反論と説明手続の不備を分けて検討する場面である。

第3 保険会社への異議申立て

1 新資料がない場合と異議の書き方

新資料がないことだけを理由に,異議申立て自体ができないと一律に判断することはできない。
損保ジャパンの「自賠責保険 請求のご案内」14頁は,異議の内容と根拠等を書面で示し,新資料がある場合には併せて提出するよう案内している。
もっとも,受付が可能なことと判断が変わることは別であり,従前の資料を使う場合も,見落としや評価の問題を具体的に示すという進め方が考えられる。

申立書では,①争う通知と判断,②その判断が適切でないと考える理由,③根拠資料の名称と該当箇所を対応させる構成が考えられる。
新しい資料を付ける場合は,従前の資料との違いと,どの不認定理由を補うものかも記載する。
実際の用紙と提出先は,請求先の保険会社の案内を確認する(損保ジャパンの異議申立てに関するFAQ)。

2 追加資料を集める前に確認すること

確認したい問題被害者側で先に確認するもの次に検討すること
資料が審査に届いていない提出控え・送付記録・保険会社の回答未提出の既存資料を特定する
症状の経過が正確に伝わっていない診療記録・診断書の該当箇所記載の欠落や不一致の理由を医師に確認する
事故との関係が争われている不認定理由・事故前後の記録相手方の根拠と反論に必要な説明を分ける
既存資料の評価が争われている問題となった検査・画像等医学的説明が必要な点と法律上の評価を分ける

この表は,資料と争点を対応させるための整理であり,特定の検査を受ければ等級が認められるという基準ではない。
追加検査や意見書については,既存資料で説明できない点を特定し,医学的必要性と説明可能な範囲を医師に確認してから検討する。
症状別の詳説は,むち打ち症の症状固定時期神経伝導検査・針筋電図高次脳機能障害の主張立証を参照されたい。

第4 紛争処理機構への申請

1 対象となる事案と新資料の扱い

機構のFAQは,後遺障害非該当も申請対象となると案内している。
審査の中心は自賠責の支払判断の適否であり,示談金を双方の希望額の中間に調整する手続とは異なる。
示談済み,自賠責の支払額に影響しない事案,既に機構が処理した事案等には受理の制限があり,人身傷害保険独自の認定だけを争うものも直接の対象とは区別される(業務規程3条・5条,機構FAQ)。

被害者請求が未実施でも,保険会社等の承認を得た事前認定の判断を示談代行者が通知した事案は,対象となる場合がある。
したがって,被害者請求への切替えが常に申請の前提となるわけではない(業務規程2条2号・5条1項8号)。

機構は,保険会社等に未提出の新資料を伴う申請の受付制限を令和5年8月に廃止したと公表している。
現在のFAQは,新しい医学資料がある場合に保険会社への異議申立てを案内する一方,先に機構の判断を求めたいとの希望があれば,新資料も受け付けて紛争処理を行うとしている。
受付と認定変更を区別し,一回の審査機会をどの資料で利用するかを検討することになる(令和6年4月15日付トップメッセージ,機構FAQ)。

同メッセージには,過去の新資料受付制限で不利益を受けた可能性がある申請者への相談対応も案内されている。
これは通常の再申請を無制限に認める説明ではなく,過去の制限に関係する事案の対応である。

2 申請書類と提出方法

申請書類一覧の基本書類は,①紛争処理申請書,②別紙,③同意書,④交通事故証明書,⑤保険会社・共済組合からの通知書である。
代理申請では委任状等も必要となるが,受任者が弁護士の場合には委任者の印鑑証明書を省略できる旨が,同一覧に明記されている。
申請書には,未提出の新資料の有無や他機関の手続の状況を記載する欄もある。

申請方法にはフォーム入力方式,書類アップロード方式及び郵送があり,CD・DVD等のデータは郵送する案内となっている。
ただし,公開業務規程4条3項の参考資料の郵送という文言とオンライン案内には表記差があり,記入要領等には印鑑証明書の省略例外が明記されていない。
実際の申請では,最新の一覧・様式を照合し,送付方法が明確でない資料は機構に指定方法を確認することになる。

3 費用,結果の効力及び再申請

審査は原則として書面で行われ,調停費用も原則として機構が負担する。
ただし,資料の取得費用や通信費等まで全て無料になるわけではなく,当事者の求めによる鑑定等の特別手続の費用には例外がある(支払適正化命令26条,業務規程15条・19条,申請書類一覧)。

機構の「紛争処理のしくみ」によれば,保険会社・共済組合は約款上,結果に従う扱いである。
他方,被害者が訴訟で争うことは妨げられず,国土交通省のFAQには,新たな立証資料を添えた保険会社への再度の異議申立ても示されている。
機構自身への処理後の再申請ができないことから,その後の経路が全て閉ざされるとはいえない。

処理前の取下げ後の再申請は,処理後の再申請とは区別される。
また,結果について説明を求める規程はあるが,機構の保管資料の閲覧・謄写は認めない規程であるため,提出書面と添付資料の控えは提出前に残しておく(機構FAQ,業務規程16条2項・18条・20条)。

4 他のADRや訴訟との関係

他のADRであっせん等が進行している場合は,中断・中止・終結等の条件を確認する必要があり,訴訟係属中の申請の受理も個別判断となる。
国土交通省のFAQには,裁判で等級や因果関係が争われている場合に自賠責の認定が留保されることがあるとの説明もあり,並行申請が解決を早めるとは限らない。

自賠法23条の15には,機構で紛争処理が実施されていること等と当事者の共同申立てを条件に,裁判所が4か月以内の期間を定めて訴訟を中止できる制度がある。
機構への申請だけで訴訟が自動的に止まるものではない。

第5 訴訟と追加調査を選ぶ基準

1 請求相手と立証事項

加害運転者等への民法709条による請求,運行供用者への自賠法3条による請求,自賠責保険会社への同法16条による被害者請求では,相手方と要件が異なる。
自賠責保険会社への請求には保険金額の限度もあるため,非該当通知の取消しだけを求めるのではなく,誰にどの損害の支払を求めるのかを具体化することになる。

被害者側では,事故との因果関係,症状の残存・程度,損害とその根拠資料を対応させることが出発点となる。
相手方が何を否定しているかを通知や回答から特定し,医学的な評価の問題と,請求の法的要件・損害額の問題を分けて検討する。
個々の要件と証明責任は請求の根拠によって異なるため,全ての争点を被害者側が同じ方法で証明するものとして扱わない。

2 裁判所の判断が増額につながるとは限らない

最高裁平成18年3月30日第一小法廷判決(平成17年(受)第1628号,民集60巻3号1242頁)は,自賠法16条の被害者請求訴訟において,裁判所が支払基準によらず損害額を算定できるとした。
死亡被害者の相続人による請求で保険会社の上告を棄却した事件であり,非該当の判断が裁判で容易に変わると述べた判例ではない。

最高裁平成24年10月11日第一小法廷判決(平成23年(受)第289号,集民241号75頁)は,裁判所の損害額・過失割合の認定によれば既払額で足りるとして,追加支払を認めた原審判断を破棄した。
任意共済の保険者から自賠責保険者への自賠法15条の請求であり,被害者の非該当争いとは異なるが,独立した裁判判断が常に増額をもたらすわけではないことを示す点で参考となる。

3 追加費用をかける条件と見送る条件

本記事では,高額な意見書や鑑定を先行させず,通知と既存資料の点検後に,なお残る争点を解決できるかで追加調査を選ぶことを基本とする。
依頼前に,①確認したい事実,②専門家が判断できる範囲,③どの結果なら請求方針が変わるか,④費用と所要期間を具体化すれば,必要な調査を絞りやすい。

取得できる資料も具体的な反論も見いだせず,追加手段で何が変わるかを説明できない段階では,同じ内容の申立ての反復や高額な調査の先行を見送る判断も考えられる。
これは費用配分に関する実務上の提案であり,権利の放棄や時効保全の放置を勧めるものではない。
訴訟についても,争点を支える証拠,追加して得られる支払の見通し,費用及び負担を比較して判断する。

後遺障害の争いを継続するかという判断とは別に,治療費・休業損害・入通院慰謝料等の検討も残る。
示談案が届いている場合は,金額だけでなく清算する損害の範囲を確認し,保険会社から届いた交通事故の示談案の見方も参照されたい。

第6 異議申立て中の時効管理

1 自賠責への請求と加害者等への請求

請求現行法の基本的な規律根拠
自賠責保険会社への被害者請求被害者又は法定代理人が損害及び保有者を知った時から3年自賠法19条
生命・身体侵害の不法行為による損害賠償請求損害及び加害者を知った時から5年民法724条1号・724条の2
不法行為の長期の時効不法行為の時から20年民法724条2号

請求先ごとに起算点と完成猶予・更新の事情を確認し,等級結果の通知日から一律に数えない。
旧事故では法改正の経過措置も関係するため,表の年数だけで期限を計算することはできない。

最高裁平成16年12月24日第二小法廷判決(平成14年(受)第1355号,集民215号1109頁)は,非該当後の異議申立てで等級が認定された事案で,遅くとも症状固定の診断時から損害賠償請求権の時効が進行すると判断した。
改正前民法の3年時効の事件であり,最高裁は時効援用の権利濫用をいう再抗弁の審理のため差し戻しているため,現行の5年を判示したものでも,被害者の請求を最終的に棄却したものでもない。
それでも,異議の結果が届くまで起算点の確認を先送りできないことを示している。

2 機構への申請と条件付きの完成猶予

機構のFAQは,申請に時効更新の効力はないと案内しているが,自賠法23条の14には条件付きの完成猶予の特則がある。
同条1項は,解決の見込みがないことを理由に機構が紛争処理を打ち切り,申請当事者がその通知を受けた日から1か月以内に紛争処理の目的となった請求について提訴したとき,完成猶予については申請時に提訴したものとみなす。

通常の審査結果に不満がある場合,不受理となった場合,自ら取り下げた場合が,この打切りに当然に当たるわけではない。
対象請求と当事者,打切り理由,通知受領日,提訴日をそれぞれ確認することになり,申請だけで期限管理が不要になる制度ではない。
同条2項・3項には,機構の指定の失効・取消しの場合の特則もある。

3 期限が近い場合の保全

民法147条・150条・152条は,裁判上の請求等,催告,権利の承認による完成猶予又は更新を定める。
催告による完成猶予は6か月であり,その間に再び催告しても同じ効果を重ねることはできない。

交渉が続いていることや異議申立書を送ったことだけから,時効対応が済んだとは判断できない。
どの相手に対するどの請求を保全するのかを分け,承認の有無・内容や裁判上の手続を確認した上で保全方法を選ぶことになる。

第7 異議申立ての統計を成功率に読み替えない

損害保険料率算出機構の「自動車保険の概況」2025年度版30頁~31頁に掲載された,2024年度の後遺障害専門部会の審査件数は次のとおりである。
対象は高次脳機能障害・非器質性精神障害を除く区分であり,冊子の該当箇所はPDF上の32頁~33頁に当たる。

審査結果件数
等級変更あり1,063
等級変更なし9,308
再調査175
その他55
合計10,601

同資料30頁の注記では,新資料の提出等により追加支払ができる異議申立事案などは審査会の対象から除かれている。
また,この表は非該当から認定に変わった事案だけの集計ではなく,等級変更の方向も分からない。
したがって,これらの件数を異議申立て全体の成功率や個人の認定確率へ読み替えず,個別の見通しは不認定理由と反論資料から検討することになる。

第8 出典

1 法令

自動車損害賠償保障法(e-Gov法令検索,令和8年4月1日施行版。3条,15条・16条,16条の3~16条の5,16条の7・16条の8,19条,23条の14・23条の15)。
民法(e-Gov法令検索,令和8年6月24日施行版。147条,150条,152条,709条,724条・724条の2)。
自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払の適正化のための措置に関する命令(e-Gov法令検索,令和6年4月1日施行版。7条・26条)。

2 裁判例

最高裁平成16年12月24日第二小法廷判決(平成14年(受)第1355号,集民215号1109頁,判決PDF1頁~3頁)。
最高裁平成18年3月30日第一小法廷判決(平成17年(受)第1628号,民集60巻3号1242頁,判決PDF1頁~2頁)。
最高裁平成24年10月11日第一小法廷判決(平成23年(受)第289号,集民241号75頁,判決PDF1頁~4頁)。

3 紛争処理機構の規程・運用案内・様式

①自賠責保険・共済紛争処理機構「法律・定款・規程」掲載の業務規程抜粋(2条~5条,15条・16条,18条~20条)。
②同機構「よくある質問」及び「紛争処理のしくみ」(受付・審査・結果等の運用案内)。
③同機構「トップメッセージ(理事長)」(令和6年4月15日付,現在の注記を含む)。
④同機構「申請方法」及び「申請書類一覧」
⑤同機構紛争処理申請書記入要領送付資料チェックリスト(各PDF1頁,令和8年8月30日に配布を確認)。

4 所管行政機関の運用資料

国土交通省「よくあるご質問」の不服がある場合のQ1~Q6及び国土交通大臣への申出の関連回答である。
法令そのものではなく,所管行政機関による制度・運用の説明として参照した。

5 保険会社の請求案内

①損害保険ジャパン「自賠責保険 請求のご案内」令和8年6月改定版13頁~14頁(PDF15頁~16頁)。
②同社「自賠責保険の支払内容・後遺障害等級認定に不満がある場合」の回答。

6 統計

損害保険料率算出機構「自動車保険の概況」2025年度版30頁~31頁(PDF32頁~33頁),図9及び対象事案の注記を参照した。
版の年度と集計対象の2024年度を区別している。