自賠責保険の支払基準(令和2年4月1日以降の交通事故に適用されるもの)

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目次
第1部 自賠責保険の支払基準
第2部 関連するメモ書き
1 支払基準の改正経緯等
2 自賠責保険の被害者請求をすることを前提として,加害者との間で示談をする場合の取扱い
3 政府保障事業
4 無保険車傷害特約
5 整骨院の施術費
6 自賠責保険の被害者請求と遅延損害金
第3部 関連記事その他

第1部 自賠責保険の支払基準
・ 令和元年12月12日金融庁告示・国土交通省告示第3号による改正後の,自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準(令和2年4月1日以降の交通事故に適用されるもの)は以下のとおりです(改正部分は赤文字表記です。また,自賠責保険の支払基準の根拠は自賠法16条の3です。)。
・ 平成14年4月から令和2年3月までに発生した交通事故の場合,休業損害は1日につき5700円であり,通院慰謝料は1日につき4200円となります。

第1 総則
1 自動車損害賠償責任保険の保険金等の支払は、自動車損害賠償保障法施行令(昭和30年政令第286号)第2条並びに別表第1及び別表第2に定める保険金額を限度としてこの基準によるものとする。
2 保険金額は、死亡した者又は傷害を受けた者1人につき、自動車損害賠償保障法施行令第2条並びに別表第1及び別表第2に定める額とする。ただし、複数の自動車による事故について保険金等を支払う場合は、それぞれの保険契約に係る保険金額を合算した額を限度とする。

第2 傷害による損害
   傷害による損害は、積極損害(治療関係費、文書料その他の費用)、休業損害及び慰謝料とする。
1 積極損害
(1) 治療関係費
① 応急手当費
    応急手当に直接かかる必要かつ妥当な実費とする。
② 診察料
    初診料、再診料又は往診料にかかる必要かつ妥当な実費とする。
③ 入院料
    入院料は、原則としてその地域における普通病室への入院に必要かつ妥当な実費とする。ただし、被害者の傷害の態様等から医師が必要と認めた場合は、上記以外の病室への入院に必要かつ妥当な実費とする。
④ 投薬料、手術料、処置料等
    治療のために必要かつ妥当な実費とする。
⑤ 通院費、転院費、入院費又は退院費
    通院、転院、入院又は退院に要する交通費として必要かつ妥当な実費とする。
⑥ 看護料
ア  入院中の看護料
     原則として12歳以下の子供に近親者等が付き添った場合に1日につき4,200円とする。
イ 自宅看護料又は通院看護料
     医師が看護の必要性を認めた場合に次のとおりとする。ただし、12歳以下の子供の通院等に近親者等が付き添った場合には医師の証明は要しない。
(ア) 厚生労働大臣の許可を受けた有料職業紹介所の紹介による者
    立証資料等により必要かつ妥当な実費とする。
(イ) 近親者等
    1日につき2,100円とする。
ウ 近親者等に休業損害が発生し、立証資料等により、ア又はイ(イ)の額を超えることが明らかな場合は、必要かつ妥当な実費とする。
⑦ 諸雑費
     療養に直接必要のある諸物品の購入費又は使用料、医師の指示により摂取した栄養物の購入費、通信費等とし、次のとおりとする。
ア  入院中の諸雑費
   入院1日につき1,100円とする。立証資料等により1日につき1,100円を超えることが明らかな場合は、必要かつ妥当な実費とする。
イ 通院又は自宅療養中の諸雑費
   必要かつ妥当な実費とする。
⑧ 柔道整復等の費用
   免許を有する柔道整復師、あんま・マッサージ・指圧師、はり師、きゅう師が行う施術費用は、必要かつ妥当な実費とする。
(山中注)整骨院の保険外施術費は支払対象外です。

⑨ 義肢等の費用
ア 傷害を被った結果、医師が身体の機能を補完するために必要と認めた義肢、歯科補てつ、義眼、眼鏡(コンタクトレンズを含む。)、補聴器、松葉杖等の用具の制作等に必要かつ妥当な実費とする。
イ アに掲げる用具を使用していた者が、傷害に伴い当該用具の修繕又は再調達を必要とするに至った場合は、必要かつ妥当な実費とする。
ウ ア及びイの場合の眼鏡(コンタクトレンズを含む。)の費用については、50,000円を限度とする。
⑩ 診断書等の費用
   診断書、診療報酬明細書等の発行に必要かつ妥当な実費とする。
(山中注)警察用の診断書作成にかかった費用は支払対象外です。

(2) 文書料
   交通事故証明書、被害者側の印鑑証明書、住民票等の発行に必要かつ妥当な実費とする。
(3) その他の費用
(1) 治療関係費及び(2)文書料以外の損害であって事故発生場所から医療機関まで被害者を搬送するための費用等については、必要かつ妥当な実費とする。
2 休業損害
(1) 休業損害は、休業による収入の減少があった場合又は有給休暇を使用した場合に1日につき原則として6,100円とする。ただし、家事従事者については、休業による収入の減少があったものとみなす。
(2) 休業損害の対象となる日数は、実休業日数を基準とし、被害者の傷害の態様、実治療日数その他を勘案して治療期間の範囲内とする。
(3) 立証資料等により1日につき6,100円を超えることが明らかな場合は、自動車損害賠償保障法施行令第3条の2に定める金額を限度として、その実額とする。
3 慰謝料
(1) 慰謝料は、1日につき4,300円とする。
(2) 慰謝料の対象となる日数は、被害者の傷害の態様、実治療日数その他を勘案して、治療期間の範囲内とする。
(山中注)「慰謝料の対象となる日数」につき,治療期間(事故から完治日又は症状固定日まで)の全日数と,実通院日数(入院日数+実際に通院した日数)の二倍のいずれか少ない方の数値が対象となります(交通事故サポートセンターHP「自賠責保険のしくみと慰謝料計算方法」参照)から,2日に1回以下の通院ペースの場合,1回につき8600円が自賠責保険基準の通院慰謝料となります。
(3) 妊婦が胎児を死産又は流産した場合は、上記のほかに慰謝料を認める。

第3 後遺障害による損害
    後遺障害による損害は、逸失利益及び慰謝料等とし、自動車損害賠償保障法施行令第2条並びに別表第1及び別表第2に定める等級に該当する場合に認める。
    等級の認定は、原則として労働者災害補償保険における障害の等級認定の基準に準じて行う。
1 逸失利益
    逸失利益は、次のそれぞれに掲げる年間収入額又は年相当額に該当等級の労働能力喪失率(別表Ⅰ)と後遺障害確定時の年齢における就労可能年数のライプニッツ係数(別表Ⅱ-1)を乗じて算出した額とする。ただし、生涯を通じて全年齢平均給与額(別表Ⅲ)の年相当額を得られる蓋然性が認められない場合は、この限りでない。
(1) 有職者
    事故前1年間の収入額と後遺障害確定時の年齢に対応する年齢別平均給与額(別表Ⅳ)の年相当額のいずれか高い額を収入額とする。ただし、次の者については、それぞれに掲げる額を収入額とする。
① 35歳未満であって事故前1年間の収入額を立証することが可能な者
    事故前1年間の収入額、全年齢平均給与額の年相当額及び年齢別平均給与額の
年相当額のいずれか高い額。
② 事故前1年間の収入額を立証することが困難な者
ア 35歳未満の者
    全年齢平均給与額の年相当額又は年齢別平均給与額の年相当額のいずれか高い額。
イ 35歳以上の者
    年齢別平均給与額の年相当額。
③ 退職後1年を経過していない失業者(定年退職者等を除く。)
    以上の基準を準用する。この場合において、「事故前1年間の収入額」とあるのは、「退職前1年間の収入額」と読み替えるものとする。
(2) 幼児・児童・生徒・学生・家事従事者
    全年齢平均給与額の年相当額とする。ただし、59歳以上の者で年齢別平均給与額が全年齢平均給与額を下回る場合は、年齢別平均給与額の年相当額とする。
(3) その他働く意思と能力を有する者
    年齢別平均給与額の年相当額とする。ただし、全年齢平均給与額の年相当額を上限とする。


2 慰謝料等
(1) 後遺障害に対する慰謝料等の額は、該当等級ごとに次に掲げる表の金額とする。
① 自動車損害賠償保障法施行令別表第1の場合
第1級      第2級
1,650万円 1,203万円
② 自動車損害賠償保障法施行令別表第2の場合
第1級       第2級     第3級      第4級      第5級
1,150万円 998万円 861万円 737万円 618万円
第6級             第7級         第8級         第9級          第10級
512万円    419万円 331万円 249万円 190万円
第11級        第12級    第13級    第14級
136万円   94万円    57万円    32万円
(2)① 自動車損害賠償保障法施行令別表第1の該当者であって被扶養者がいるときは、第1級については1,850万円とし、第2級については1,373万円とする。
② 自動車損害賠償保障法施行令別表第2第1級、第2級又は第3級の該当者であって被扶養者がいるときは、第1級については1,350万円とし、第2級については1,168万円とし、第3級については1,005万円とする。
(3) 自動車損害賠償保障法施行令別表第1に該当する場合は、初期費用等として、第1級には500万円を、第2級には205万円を加算する。


第4 死亡による損害
    死亡による損害は、葬儀費、逸失利益、死亡本人の慰謝料及び遺族の慰謝料とする。
    後遺障害による損害に対する保険金等の支払の後、被害者が死亡した場合の死亡による損害について、事故と死亡との間に因果関係が認められるときには、その差額を認める。
1 葬儀費
   葬儀費は、100万円とする。
2 逸失利益
(1) 逸失利益は、次のそれぞれに掲げる年間収入額又は年相当額から本人の生活費を控除した額に死亡時の年齢における就労可能年数のライプニッツ係数(別表Ⅱ-1)を乗じて算出する。ただし、生涯を通じて全年齢平均給与額(別表Ⅲ)の年相当額を得られる蓋然性が認められない場合は、この限りでない。
① 有職者
    事故前1年間の収入額と死亡時の年齢に対応する年齢別平均給与額(別表Ⅳ)の年相当額のいずれか高い額を収入額とする。ただし、次に掲げる者については、それぞれに掲げる額を収入額とする。
ア 35歳未満であって事故前1年間の収入額を立証することが可能な者
    事故前1年間の収入額、全年齢平均給与額の年相当額及び年齢別平均給与額の年相当額のいずれか高い額。
イ 事故前1年間の収入額を立証することが困難な者
(ア) 35歳未満の者
    全年齢平均給与額の年相当額又は年齢別平均給与額の年相当額のいずれか高い額。
(イ) 35歳以上の者
    年齢別平均給与額の年相当額。
ウ 退職後1年を経過していない失業者(定年退職者等を除く。)
    以上の基準を準用する。この場合において、「事故前1年間の収入額」とあるのは、「退職前1年間の収入額」と読み替えるものとする。
②  幼児・児童・生徒・学生・家事従事者
    全年齢平均給与額の年相当額とする。ただし、59歳以上の者で年齢別平均給与額が全年齢平均給与額を下回る場合は、年齢別平均給与額の年相当額とする。
③  の他働く意思と能力を有する者
    年齢別平均給与額の年相当額とする。ただし、全年齢平均給与額の年相当額を上限とする。
(2) (1)にかかわらず、年金等の受給者の逸失利益は、次のそれぞれに掲げる年間収入額又は年相当額から本人の生活費を控除した額に死亡時の年齢における就労可能年数のライプニッツ係数(別表Ⅱ-1)を乗じて得られた額と、年金等から本人の生活費を控除した額に死亡時の年齢における平均余命年数のライプニッツ係数(別表Ⅱ-2)から死亡時の年齢における就労可能年数のライプニッツ係数を差し引いた係数を乗じて得られた額とを合算して得られた額とする。ただし、生涯を通じて全年齢平均給与額(別表Ⅲ)の年相当額を得られる蓋然性が認められない場合は、この限りでない。
    年金等の受給者とは、各種年金及び恩給制度のうち原則として受給権者本人による拠出性のある年金等を現に受給していた者とし、無拠出性の福祉年金や遺族年金は含まない。
① 有職者
    事故前1年間の収入額と年金等の額を合算した額と、死亡時の年齢に対応する年齢別平均給与額(別表Ⅳ)の年相当額のいずれか高い額とする。ただし、35歳未満の者については、これらの比較のほか、全年齢平均給与額の年相当額とも比較して、いずれか高い額とする。
② 幼児・児童・生徒・学生・家事従事者
    年金等の額と全年齢平均給与額の年相当額のいずれか高い額とする。ただし、59歳以上の者で年齢別平均給与額が全年齢平均給与額を下回る場合は、年齢別平均給与額の年相当額と年金等の額のいずれか高い額とする。
③ その他働く意思と能力を有する者
    年金等の額と年齢別平均給与額の年相当額のいずれか高い額とする。ただし、年齢別平均給与額が全年齢平均給与額を上回る場合は、全年齢平均給与額の年相当額と年金等の額のいずれか高い額とする。
(3) 生活費の立証が困難な場合、被扶養者がいるときは年間収入額又は年相当額から35%を、被扶養者がいないときは年間収入額又は年相当額から50%を生活費として控除する。
3 死亡本人の慰謝料
    死亡本人の慰謝料は、400万円とする。
4 遺族の慰謝料
    慰謝料の請求権者は、被害者の父母(養父母を含む。)、配偶者及び子(養子、認知した子及び胎児を含む。)とし、その額は、請求権者1人の場合には550万円とし、2人の場合には650万円とし、3人以上の場合には750万円とする。
    なお、被害者に被扶養者がいるときは、上記金額に200万円を加算する。

第5 死亡に至るまでの傷害による損害
    死亡に至るまでの傷害による損害は、積極損害〔治療関係費(死体検案書料及び死亡後の処置料等の実費を含む。)、文書料その他の費用〕、休業損害及び慰謝料とし、「第2 傷害による損害」の基準を準用する。ただし、事故当日又は事故翌日死亡の場合は、積極損害のみとする。

第6 減額
1 重大な過失による減額
    被害者に重大な過失がある場合は、次に掲げる表のとおり、積算した損害額が保険金額に満たない場合には積算した損害額から、保険金額以上となる場合には保険金額から減額を行う。ただし、傷害による損害額(後遺障害及び死亡に至る場合を除く。)が20万円未満の場合はその額とし、減額により20万円以下となる場合は20万円とする。
減額適用上の 減 額 割 合
被害者の過失割合    後遺障害又は死亡に係るもの   傷害に係るもの
7割未満                      減額なし                                         減額なし
7割以上8割未満              2割減額             2割減額
8割以上9割未満        3割減額                                   2割減額
9割以上10割未満           5割減額            2割減額
2 受傷と死亡又は後遺障害との間の因果関係の有無の判断が困難な場合の減額被害者が既往症等を有していたため、死因又は後遺障害発生原因が明らかでない場合等受傷と死亡との間及び受傷と後遺障害との間の因果関係の有無の判断が困難な場合は、死亡による損害及び後遺障害による損害について、積算した損害額が保険金額に満たない場合には積算した損害額から、保険金額以上となる場合には保険金額から5割の減額を行う。

附 則
    この告示は、平成十四年四月一日から施行し、同日以後に発生する自動車の運行による事故に係る自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払から適用する。
附 則 (平成二十二年金融庁・国土交通省告示第一号)
    この告示は、平成二十二年四月一日から施行し、同日以後に発生する自動車の運行による事故に係る自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払から適用する。
附 則 (令和元年金融庁・国土交通省告示第三号)
    この告示は、令和二年四月一日から施行し、同日以後に発生する自動車の運行による事故に係る自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払から適用する。


第2部 関連するメモ書き
1 支払基準の改正経緯等

(1) 改正内容の概要については,令和元年11月2日締切のパブリックコメントに際して掲載された,「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準の一部を改正する告示案について」のとおりであって,リンク先によれば,改正の背景は以下のとおりです(年3%の法定利率は民法404条2項で定められています。)。
    自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準(平成 13 年金融庁・国土交通省告示第1号。以下「支払基準」という。)は、自動車損害賠償保障法(昭和 30 年法律第 97 号)第 16 条の3第1項(第 23 条の3第1項において準用する場合を含む。)の規定に基づき、定められている。
    民法の一部を改正する法律(平成 29 年法律第 44 号)の施行(令和2年4月1日)により、法定利率が年5パーセントから年3パーセントとなる。支払基準においては、現行の法定利率(年5パーセント)を前提としたライプニッツ係数(※)を用いているところ、法定利率の変更に合わせて、同係数を変更する必要がある。
   また、平均余命年数、物価水準及び賃金水準の変動や近年の保険金等の支払の実態を支払基準に反映させる必要がある。
※ ライプニッツ係数:逸失利益の現在価額を算定するため中間利息を控除する係数。
(2)ア 自賠責保険の支払基準の改正案につき,令和元年11月2日締切のパブリックコメントで提出された意見は1件だけでしたから,改正案に対する修正はありませんでした(「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準の一部を改正する告示案に係る意見募集の結果について」参照)。
イ 重次法律事務所HP「自賠責保険の支払基準改正の告示(2019.10.4)」では,自賠責保険の支払基準の改正案の内容について詳しく説明されています。
(3)  損害賠償額の算定に当たり,被害者の将来の逸失利益を現在価額に換算するために控除すべき中間利息の割合は,民事法定利率によらなければなりません(最高裁平成17年6月14日判決)。

2 自賠責保険の被害者請求をすることを前提として,加害者との間で示談をする場合の取扱い
(1) 被害者請求権の成立には,自賠法3条による被害者の保有者に対する損害賠償債権が成立していることが要件となっており,また,当該損害賠償債権が消滅すれば,被害者請求権も消滅します(最高裁平成12年3月9日判決参照)。
   そのため,自賠責保険の被害者請求をすることを前提として,加害者との間で示談をする場合,自賠法3条に基づく損害賠償請求権を放棄したり,加害者との間での清算条項を入れたりすることはできませんから,「原告は,本件事故に関して,被告が被保険者となっている自賠責保険に対する被害者請求により損害賠償金の支払を受けることができた場合,被告に対し,人損部分に関する損害賠償請求はしないものとする。」といった条項を入れるにとどめた方がいいです。
(2)ア 加害者に対しては,訴訟基準の損害額×加害者の過失割合-自賠責保険からの支払額しか請求できませんから,例えば,加害者に35%の過失がある場合において,傷害部分の訴訟基準の損害額が300万円,傷害部分の自賠責保険基準の損害額が200万円の場合,300万円×0.35-120万円(自賠責保険の限度額)=-25万円となる結果,和解条項にかかわりなく,傷害部分に関する損害賠償請求をすることはできません。
  また,14級の後遺障害があるときにおいて,後遺障害部分の訴訟基準の損害額が224万5000円(慰謝料が110万円,逸失利益が114万5000円(年収500万円×労働能力喪失率5%×労働能力喪失期間5年に対応するライプニッツ係数4.58=500万円×0.229))であるとした場合,224万5000円×0.35-75万円=3万5750円となる結果,和解条項がなかったとしても,後遺障害部分に関する損害賠償請求は3万5750円しかできません。
イ 12級以上の後遺障害が残る可能性がある場合,「訴訟基準の損害額×加害者の過失割合」と「自賠責保険からの支払額」をちゃんと比較してから,人損部分に関する損害賠償請求はしないということを表明するかどうかを決める必要があります。
3 政府保障事業
(1) 政府保障事業は,以下のような事故により,自賠責保険又は自賠責共済からの保険金の支払を受けられない被害者を救済するための制度です。
① ひき逃げ事故
② 泥棒運転(盗難車)による事故
③ 自賠責保険,自賠責共済が付保されていない自動車による事故
(2) 平成19年4月1日以降に発生した交通事故については,自賠責と同じ基準で重過失減額が行われています。
(3)ア 政府保障事業を利用した場合,①健康保険や労災保険等の社会保険から給付を受けるべきときは,それらの社会保険から実際には給付を受けていなくともその金額を控除した分しか支払を受けることができませんし,②自賠責保険の被害者請求よりも時間がかかります(弁護士法人心名古屋法律事務所HPの「政府保障事業について」参照)。
イ おとなの自動車保険HPの「ひき逃げされたら、私はどうなるの?」によれば,ひき逃げ事故で平均4カ月程度,無保険事故で7カ月前後の期間がかかるとのことです。
(4) 自動車損害賠償保障法72条1項後段の規定による損害のてん補額の算定に当たり,被害者の過失をしんしゃくすべき場合であって,国民健康保険法58条1項の規定による葬祭費の支給額を控除すべきときは,被害者に生じた現実の損害の額から過失割合による減額をし,その残額からこれを控除します(最高裁平成17年6月2日判決)。
(5) 以下の資料を掲載しています。
 自動車損害賠償保障事業委託業務実施の手引き(平成27年10月)
→ ひき逃げ事故及び無保険事故に対する政府保障事業に関する業務委託(自動車損害賠償保障法施行令22条参照)及び自動車損害賠償保障事業業務委託契約準則のマニュアルです。
4 無保険車傷害特約
(1)ア 無保険車傷害特約に加入していた場合において後遺障害が残ったときは,政府保障事業とは別に保険金を支払ってもらうことができます。
イ 無保険車傷害特約から入通院の治療費,慰謝料及び休業損害を支払ってもらうことはできません。
(2)ア 被保険者及びその家族は,他の車に搭乗中又は歩行中に無保険車との交通事故又はひき逃げ事故にあったときでも無保険車傷害特約の支払対象となります(保険スクエア バン!HP「無保険車傷害保険(特約)とは|補償対象や人身傷害補償保険との違いを解説」参照)
    そのため,以下のいずれかの場合,無保険車傷害特約から保険金を支払ってもらえます(そんぽ協会HPの「問13 無保険車傷害保険は、どのような保険ですか。」参照)。
① 人身傷害保険から保険金の支払いを受けることができない場合
② 自賠責保険と無保険車傷害保険の保険金額の合計額が、人身傷害保険の保険金額より多い場合
イ 人身傷害保険の支払条件を満たしている場合(例えば,歩行中も支払対象になっている場合),ひき逃げ事故についても人身傷害補償保険からの支払があります(三井ダイレクト損保HPの「ひき逃げにあった場合の自動車保険の補償」参照)。
(3) 令和3年版 犯罪白書「3 ひき逃げ事件」には,「全検挙率は,平成16年には25.9%を記録したが,翌年から上昇し続けており,令和2年は70.2%であった。死亡事故に限ると,検挙率は,おおむね90%を超える高水準で推移している。」と書いてあります。
(4) 自家用自動車総合保険契約の記名被保険者の子が,胎児であった時に発生した交通事故により出生後に傷害を生じ,その結果,後遺障害が残存した場合には,当該子又はその父母は,当該傷害及び後遺障害によってそれぞれが被った損害について,同契約の無保険車傷害条項が被保険者として定める「記名被保険者の同居の親族」に生じた傷害及び後遺障害による損害に準ずるものとして,同条項に基づく保険金の請求をすることができます(最高裁平成18年3月28日判決)。
5 整骨院の施術費
(1) 私の経験上,自賠責保険の被害者請求の場合,整骨院の施術費は整形外科の治療費と同様に,緩い基準でその必要性が認められていると感じています。
(2) 交通事故に基づく損害賠償請求訴訟において,整骨院の施術費が損害として認められるかどうかにつき,「令和3年度大阪地方裁判所第15民事部と大阪弁護士会交通事故委員会との懇談会」には以下の記載があります(月刊大阪弁護士会2022年5月号23頁及び24頁)。
    整骨院の施術は、一般に、医師が医学的判断に基づいて治療方法の一つとして選択した場合には必要性・相当性が認められやすいから、裁判所もまず医師の指示の有無を確認する。ただし、医師の指示書が提出されていれば直ちに施術費を認めるというものではなく、患者側から整骨院施術を希望して医師がそれを追認したにすぎないかどうかなどといった整骨院施術に至った経過や治療経過等も見て判断する。
    整骨院の施術の必要性や相当性を判断するに当たっては、医師の指示の有無のほか、次の各点を考慮することになると考えられる。①受傷の結果。整骨院施術に適応がある受傷結果か。捻挫などであれば整骨院施術による症状の緩和がある程度見込まれると考えられるが、骨折であれば整骨院施術は禁忌であり[報告者注:柔道整復師法17条]、相当性が否定されるであろう。②受傷の程度。整骨院施術は主として寛解までの間の症状(痛み等)の緩和を目的とするものであり、事故態様等から緩和を必要とする程度の症状が出現するような受傷であったかを検討することになる。③整形外科の治療内容・頻度。整形外科で濃密な治療を受けながら整骨院でも重ねて治療を受けることは、必要性に疑いがあり施術費を否定する方向に働くと考えられる。④整骨院施術の効果の有無。施術により症状の緩和が現れているか。整形外科の診療録上の自覚症状の推移を見て改善が見られるか、通院の頻度がどのように推移しているのかなどを考慮することがある。
    整骨院施術費を割合的に認める場合は、前述の観点から見た整骨院施術の必要性の程度と、施術の頻度とが釣り合っているかを検討し、余りに頻回ということであれば、その頻度などを考慮して割合的に施術費を認めるというのは実情であろうと考えられる。
6 自賠責保険の被害者請求と遅延損害金
(1)ア 自賠法16条1項に基づく被害者の自賠責保険会社に対する直接請求権は,被害者が保険会社に対して有する損害賠償請求権であって,保有者の保険金請求権の変形ないしそれに準ずる権利ではありませんから,自賠責保険会社の被害者に対する損害賠償債務は商法514条所定の「商行為によって生じた債務」には当たりません。
    そのため,自賠責保険会社の遅延損害金の利率は,令和2年3月31日以前に発生した交通事故の場合,民法419条1項本文・404条に基づき,年5%となります(最高裁昭和57年1月19日判決参照)。
イ 令和2年4月1日以降に発生した交通事故の場合,遅延損害金の利率は年3%となります。
(2)ア 自賠責保険会社は,自賠法16条1項に基づく損害賠償額の支払の請求があった後,当該請求に係る自動車の運行による事故及び当該損害賠償額の確認をするために必要な期間が経過するまでは,遅滞の責任を負いません(自賠法16条の9第1項)。
    そのため,その限度で,最高裁昭和61年10月9日判決(先例として,最高裁昭和39年5月12日判決)の判断内容は修正されています。
イ 自賠法16条の9第1項にいう「当該請求に係る自動車の運行による事故及び当該損害賠償額の確認をするために必要な期間」とは,保険会社において,被害者の損害賠償額の支払請求に係る事故及び当該損害賠償額の確認に要する調査をするために必要とされる合理的な期間をいい,その期間については,事故又は損害賠償額に関して保険会社が取得した資料の内容及びその取得時期,損害賠償額についての争いの有無及びその内容,被害者と保険会社との間の交渉経過等の個々の事案における具体的事情を考慮して判断されます(最高裁平成30年9月27日判決)。
(3) 実務上,自賠責保険会社に対して遅延損害金を請求する場合,訴訟提起する必要がありますものの,逸失利益が小さくなる65歳以上の年金受給者の場合を除き,遅延損害金を付けなくても,「支払基準」で計算される損害額が保険金額を超えることが多いですから,訴訟提起する実益がありません。
    また,自賠責保険会社に対して訴訟提起した場合,「支払基準」に基づく過失相殺ではなく,実際の過失割合通りに過失相殺されます(最高裁平成24年10月11日判決。なお,先例として,最高裁平成18年3月30日判決参照)から,被害者の過失が大きい場合,訴訟提起する実益がありません。
(4) 自賠責保険金が支払時における交通事故の損害金の元本及び遅延損害金の全部を消滅させるに足りないときは,遅延損害金の支払債務にまず充当されます(最高裁平成16年12月20日判決)。


第3部 関連記事その他
1(1) 国土交通省HPの「統計情報」に,自賠責保険(共済)の損害別支払保険金(共済金)の推移(会計年度)等が載っています。
(2) 金融庁HPの「自動車損害賠償責任保険審議会」に,自賠責保険審議会の議事録・資料等が載っています。
(3) 日本損害保険協会HPに「自動車損害賠償責任保険約款」が載っています。
(4) 交通事故トラブル解決ガイド「ライプニッツ係数・ホフマン係数(年2%~5%の利率別)」が載っています。
(5) 損害保険料率算出機構HP「刊行物」に,自賠責保険(共済)損害調査のしくみ,自動車保険の概況,火災保険・地震保険の概況,傷害保険の概況とかが載っています。
2 最高裁平成12年3月9日判決(先例として,最高裁平成元年4月20日判決からすれば,被害者請求をしないまま人損部分に関して損害賠償請求訴訟を提起し,当該訴訟において人損部分の損害賠償金を回収して損害賠償請求権が消滅した場合,訴訟終了後に被害者請求をすることはできないと思います。
3  交通事故による車両損傷を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権の民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)724条前段所定の消滅時効は,身体傷害を理由とする損害が生じた場合であっても,被害者が上記車両損傷を理由とする損害を知った時から進行します(最高裁令和3年11月2日判決)。
4(1) 国民健康保険法による保険者は,被保険者に保険給付を行なったときは,同法64条1項に基づき,その給付の価額の限度において被保険者の第三者に対して有する損害賠償請求権を当然に取得します(最高裁昭和42年10月31日判決)。
(2) 被害者請求は,国民健康保険の求償及び労災保険の求償に優先して行使できると解されています(老人保健法に関する最高裁平成20年2月19日判決,及び労災保険法に関する最高裁平成30年9月27日判決)。
(3)  被害者の有する自賠法16条1項に基づく請求権の額と労災保険法12条の4第1項により国に移転した上記請求権の額の合計額が自賠責保険金額を超える場合であっても自賠責保険会社が国に対してした損害賠償額の支払は有効な弁済に当たります(最高裁令和4年7月14日判決)。
5(1) 国民健康保険の被保険者である交通事故の被害者が,保険者から療養の給付を受けるのに先立って、自動車損害賠償保障法16条1項の規定に基づき損害賠償額の支払を受けた場合には,保険会社が支払に当たって算定した損害の内訳のいかんにかかわらず,右被保険者の第三者に対する損害賠償請求権は右支払に応じて消滅し,右保険者は,国民健康保険法64条1項の規定に基づき,療養の給付の時に残存する額を限度として損害賠償請求権を代位取得します(最高裁平成10年9月10日判決)。
(2) 療養の給付とは,保険証を持って医療機関等にかかった際に,現物給付(窓口負担分以外のお金を窓口で支払わなくても受けられる医療)を受けることをいいます(東京都後期高齢者医療広域連合HP「療養の給付と療養費の違いはなんですか?」参照)。
6 令和2年3月31日までに発生した治療費の消滅時効は,民法170条1号に基づき公立病院の治療費も含めて3年でした(最高裁平成17年11月21日判決)ところ,令和2年4月1日以降に発生した治療費の消滅時効は5年になっています(民法166条1項1号)。
7 車両損傷を理由とする損害と身体傷害を理由とする損害とは,これらが同一の交通事故により同一の被害者に生じたものであっても,被侵害利益を異にするものであり,車両損傷を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権は,身体傷害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権とは異なる請求権です(最高裁令和3年11月2日判決)。
8  以下の記事も参照してください。
・ 「自動車損害賠償保障法及び関係政省令の改正等に伴う事務の実施細目について」と題する,国土交通省自動車交通局保障課長の通知(平成14年3月11日付)
・ 昭和48年9月1日付の,日本損害保険協会及び日弁連交通事故相談センターの覚書(交通事故損害賠償に関するもの)
 損益相殺
 東京地裁民事第27部(交通部)
 弁護士費用特約

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