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自賠責保険の支払基準――令和2年4月1日以降の交通事故に適用される告示の全文,別表及び改正経緯(AIリライト)

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第1 支払基準の位置付けと効力

1 自賠法16条の3に基づく告示であること

自賠責保険の支払基準の正式名称は「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」であり,平成13年12月21日金融庁・国土交通省告示第1号として定められている。その根拠は自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)16条の3第1項であり,同項は「保険会社は、保険金等を支払うときは、死亡、後遺障害及び傷害の別に国土交通大臣及び内閣総理大臣が定める支払基準(以下「支払基準」という。)に従つてこれを支払わなければならない。」と定める。同条2項は,支払基準を定め又は変更する場合には「公平かつ迅速な支払の確保の必要性を勘案して」これを定めなければならないとしており,支払基準が個別事案における損害の完全な填補ではなく,画一的で迅速な支払を目的とする基準であることが条文上も示されている。

自賠責保険の支払基準は,平成13年改正(平成14年4月1日施行)まで法律上の根拠を持たない通達にすぎなかった。同改正で政府再保険が廃止されるとともに自賠法16条の3が新設され,支払基準が法定化されたうえで告示として制定された経緯がある(北河隆之『交通事故損害賠償法 第3版』(弘文堂,2023年)35頁,418頁)。同告示の実施細目は,「自動車損害賠償保障法及び関係政省令の改正等に伴う事務の実施細目について」と題する国土交通省自動車交通局保障課長の通知(平成14年3月11日付け国自保第2358号)に定められている。

2 支払基準は保険会社を拘束するが裁判所を拘束しないこと

自賠法16条の3第1項が拘束するのは保険会社であって,裁判所ではない。最高裁判所第一小法廷平成18年3月30日判決(平成17年(受)第1628号損害賠償請求事件,棄却,民集60巻3号1242頁)は,判示事項を「自動車損害賠償保障法16条1項に基づいて損害賠償額の支払を請求する訴訟において裁判所が同法16条の3第1項が規定する支払基準によることなく損害賠償額を算定して支払を命じることの可否」とし,その裁判要旨において「自動車損害賠償保障法16条1項に基づいて被害者が保険会社に対して損害賠償額の支払を請求する訴訟において,裁判所は,同法16条の3第1項が規定する支払基準によることなく損害賠償額を算定して支払を命じることができる。」と判示した。

同じ結論は,加害者側から保険金の支払を請求する場面についても示されている。最高裁判所第一小法廷平成24年10月11日判決(平成23年(受)第289号自賠責保険金請求事件,破棄自判,集民241号75頁)は,「自動車損害賠償保障法15条所定の保険金の支払を請求する訴訟において,裁判所は,同法16条の3第1項が規定する支払基準によることなく保険金の額を算定して支払を命じることができる。」と判示した。同事件では,原審が支払基準に含まれる重過失減額の割合を適用して保険金額を算定していたが,最高裁判所はこれを破棄したうえで自ら判断を示している。

したがって,支払基準は,訴訟外で保険会社が保険金等を支払う場面の基準として機能するにとどまる。訴訟になれば,裁判所は自ら相当と認める損害額及び過失割合に基づいて支払を命じることになるから,支払基準による金額と裁判所が認定する金額とが一致するとは限らない。この違いは,医療関係者から見た大阪地裁の交通損害賠償の算定基準で扱う裁判所の算定基準と支払基準とを対比すると分かりやすい。

3 支払の限度となる保険金額

支払基準の第1は「自動車損害賠償保障法施行令(昭和30年政令第286号)第2条並びに別表第1及び別表第2に定める保険金額を限度としてこの基準によるものとする。」と定めており,支払基準による算定額がそのまま支払われるわけではなく,政令が定める保険金額が上限となる。自動車損害賠償保障法施行令(以下「自賠令」という。)2条1項は,被害者一人につき,傷害による損害を120万円,死亡による損害を3000万円(死亡に至るまでの傷害による損害は別枠で120万円),介護を要する後遺障害による損害を別表第一の第1級4000万円・第2級3000万円,その他の後遺障害による損害を別表第二の第1級3000万円から第14級75万円までと定める。同条2項は,既に後遺障害のある者が同一部位について程度を加重した場合には,加重後の等級に応ずる金額から既にあった後遺障害の等級に応ずる金額を控除した額を保険金額とする旨を定めている。

これらの限度額は,国土交通省が公開する自賠責保険(共済)の限度額と補償内容にも整理されている。傷害の120万円と後遺障害の限度額とは別枠であるから,治療費と休業損害と傷害慰謝料の合計が120万円を超えても,超過部分が後遺障害の枠から支払われることはない。

4 責任共済及び政府保障事業への広がり

支払基準は,自賠法23条の3第1項が16条の3を責任共済の契約について準用しているため,各共済の共済金等の支払にも同じ内容で適用される。告示の名称に「自動車損害賠償責任共済の共済金等」が含まれているのはこのためである。

これに対し,ひき逃げ事故及び無保険車による事故について政府が損害を填補する政府保障事業には,別建ての告示である自動車損害賠償保障事業が行う損害の塡補の基準(平成19年国土交通省告示第415号)がある。同基準は,看護料,諸雑費,休業損害,慰謝料等の金額を支払基準と同額に定める一方で,自賠法73条により他の法令による給付額及び損害賠償責任者からの支払額を控除する点が異なる。

第2 支払基準の全文

1 第1 総則

以下に掲げるのは,令和元年金融庁・国土交通省告示第3号による改正後の支払基準の本文であり,令和2年4月1日以後に発生した自動車の運行による事故に係る保険金等の支払に適用される。国土交通省が公開する支払基準のPDFと全文を照合した。

第1 総則

1 自動車損害賠償責任保険の保険金等の支払は、自動車損害賠償保障法施行令(昭和30年政令第286号)第2条並びに別表第1及び別表第2に定める保険金額を限度としてこの基準によるものとする。

2 保険金額は、死亡した者又は傷害を受けた者1人につき、自動車損害賠償保障法施行令第2条並びに別表第1及び別表第2に定める額とする。ただし、複数の自動車による事故について保険金等を支払う場合は、それぞれの保険契約に係る保険金額を合算した額を限度とする。

第1の2ただし書は,複数の自動車が関与する事故について保険金額を合算する旨を定めるものであり,共同不法行為の事案で自賠責の枠が広がる根拠となる。

2 第2 傷害による損害

第2 傷害による損害

傷害による損害は、積極損害(治療関係費、文書料その他の費用)、休業損害及び慰謝料とする。

1 積極損害

(1) 治療関係費

① 応急手当費 応急手当に直接かかる必要かつ妥当な実費とする。

② 診察料 初診料、再診料又は往診料にかかる必要かつ妥当な実費とする。

③ 入院料 入院料は、原則としてその地域における普通病室への入院に必要かつ妥当な実費とする。ただし、被害者の傷害の態様等から医師が必要と認めた場合は、上記以外の病室への入院に必要かつ妥当な実費とする。

④ 投薬料、手術料、処置料等 治療のために必要かつ妥当な実費とする。

⑤ 通院費、転院費、入院費又は退院費 通院、転院、入院又は退院に要する交通費として必要かつ妥当な実費とする。

⑥ 看護料

ア 入院中の看護料 原則として12歳以下の子供に近親者等が付き添った場合に1日につき4,200円とする。

イ 自宅看護料又は通院看護料 医師が看護の必要性を認めた場合に次のとおりとする。ただし、12歳以下の子供の通院等に近親者等が付き添った場合には医師の証明は要しない。

(ア) 厚生労働大臣の許可を受けた有料職業紹介所の紹介による者 立証資料等により必要かつ妥当な実費とする。

(イ) 近親者等 1日につき2,100円とする。

ウ 近親者等に休業損害が発生し、立証資料等により、ア又はイ(イ)の額を超えることが明らかな場合は、必要かつ妥当な実費とする。

⑦ 諸雑費 療養に直接必要のある諸物品の購入費又は使用料、医師の指示により摂取した栄養物の購入費、通信費等とし、次のとおりとする。

ア 入院中の諸雑費 入院1日につき1,100円とする。立証資料等により1日につき1,100円を超えることが明らかな場合は、必要かつ妥当な実費とする。

イ 通院又は自宅療養中の諸雑費 必要かつ妥当な実費とする。

⑧ 柔道整復等の費用 免許を有する柔道整復師、あんま・マッサージ・指圧師、はり師、きゅう師が行う施術費用は、必要かつ妥当な実費とする。

⑨ 義肢等の費用

ア 傷害を被った結果、医師が身体の機能を補完するために必要と認めた義肢、歯科補てつ、義眼、眼鏡(コンタクトレンズを含む。)、補聴器、松葉杖等の用具の制作等に必要かつ妥当な実費とする。

イ アに掲げる用具を使用していた者が、傷害に伴い当該用具の修繕又は再調達を必要とするに至った場合は、必要かつ妥当な実費とする。

ウ ア及びイの場合の眼鏡(コンタクトレンズを含む。)の費用については、50,000円を限度とする。

⑩ 診断書等の費用 診断書、診療報酬明細書等の発行に必要かつ妥当な実費とする。

(2) 文書料 交通事故証明書、被害者側の印鑑証明書、住民票等の発行に必要かつ妥当な実費とする。

(3) その他の費用 (1)治療関係費及び(2)文書料以外の損害であって事故発生場所から医療機関まで被害者を搬送するための費用等については、必要かつ妥当な実費とする。

2 休業損害

(1) 休業損害は、休業による収入の減少があった場合又は有給休暇を使用した場合に1日につき原則として6,100円とする。ただし、家事従事者については、休業による収入の減少があったものとみなす。

(2) 休業損害の対象となる日数は、実休業日数を基準とし、被害者の傷害の態様、実治療日数その他を勘案して治療期間の範囲内とする。

(3) 立証資料等により1日につき6,100円を超えることが明らかな場合は、自動車損害賠償保障法施行令第3条の2に定める金額を限度として、その実額とする。

3 慰謝料

(1) 慰謝料は、1日につき4,300円とする。

(2) 慰謝料の対象となる日数は、被害者の傷害の態様、実治療日数その他を勘案して、治療期間の範囲内とする。

(3) 妊婦が胎児を死産又は流産した場合は、上記のほかに慰謝料を認める。

3 第3 後遺障害による損害

第3 後遺障害による損害

後遺障害による損害は、逸失利益及び慰謝料等とし、自動車損害賠償保障法施行令第2条並びに別表第1及び別表第2に定める等級に該当する場合に認める。

等級の認定は、原則として労働者災害補償保険における障害の等級認定の基準に準じて行う。

1 逸失利益

逸失利益は、次のそれぞれに掲げる年間収入額又は年相当額に該当等級の労働能力喪失率(別表Ⅰ)と後遺障害確定時の年齢における就労可能年数のライプニッツ係数(別表Ⅱ-1)を乗じて算出した額とする。ただし、生涯を通じて全年齢平均給与額(別表Ⅲ)の年相当額を得られる蓋然性が認められない場合は、この限りでない。

(1) 有職者 事故前1年間の収入額と後遺障害確定時の年齢に対応する年齢別平均給与額(別表Ⅳ)の年相当額のいずれか高い額を収入額とする。ただし、次の者については、それぞれに掲げる額を収入額とする。

① 35歳未満であって事故前1年間の収入額を立証することが可能な者 事故前1年間の収入額、全年齢平均給与額の年相当額及び年齢別平均給与額の年相当額のいずれか高い額。

② 事故前1年間の収入額を立証することが困難な者 ア 35歳未満の者 全年齢平均給与額の年相当額又は年齢別平均給与額の年相当額のいずれか高い額。イ 35歳以上の者 年齢別平均給与額の年相当額。

③ 退職後1年を経過していない失業者(定年退職者等を除く。) 以上の基準を準用する。この場合において、「事故前1年間の収入額」とあるのは、「退職前1年間の収入額」と読み替えるものとする。

(2) 幼児・児童・生徒・学生・家事従事者 全年齢平均給与額の年相当額とする。ただし、59歳以上の者で年齢別平均給与額が全年齢平均給与額を下回る場合は、年齢別平均給与額の年相当額とする。

(3) その他働く意思と能力を有する者 年齢別平均給与額の年相当額とする。ただし、全年齢平均給与額の年相当額を上限とする。

2 慰謝料等

(1) 後遺障害に対する慰謝料等の額は、該当等級ごとに次に掲げる表の金額とする。

(2)① 自動車損害賠償保障法施行令別表第1の該当者であって被扶養者がいるときは、第1級については1,850万円とし、第2級については1,373万円とする。② 自動車損害賠償保障法施行令別表第2第1級、第2級又は第3級の該当者であって被扶養者がいるときは、第1級については1,350万円とし、第2級については1,168万円とし、第3級については1,005万円とする。

(3) 自動車損害賠償保障法施行令別表第1に該当する場合は、初期費用等として、第1級には500万円を、第2級には205万円を加算する。

第3の2(1)①が掲げる自賠令別表第一(介護を要する後遺障害)の場合の慰謝料等の額は,次のとおりである。

等級第1級第2級
慰謝料等1,650万円1,203万円

第3の2(1)②が掲げる自賠令別表第二の場合の慰謝料等の額は,次のとおりである。

等級第1級第2級第3級第4級第5級第6級第7級
慰謝料等1,150万円998万円861万円737万円618万円512万円419万円
等級第8級第9級第10級第11級第12級第13級第14級
慰謝料等331万円249万円190万円136万円94万円57万円32万円

後遺障害等級の認定は「原則として労働者災害補償保険における障害の等級認定の基準に準じて行う」とされているため,等級を争う場面では労災の認定基準及び医学的所見の整え方が中心となる。当ブログでは,高次脳機能障害で後遺障害等級7級4号を認定してもらうための具体的な主張立証方法後遺障害12級相当の手関節可動域制限に伴う弊害及び代償動作の包括的解説及び動揺関節の立証手段としてのストレスレントゲン撮影で個別の類型を扱っている。

4 第4 死亡による損害

第4 死亡による損害

死亡による損害は、葬儀費、逸失利益、死亡本人の慰謝料及び遺族の慰謝料とする。

後遺障害による損害に対する保険金等の支払の後、被害者が死亡した場合の死亡による損害について、事故と死亡との間に因果関係が認められるときには、その差額を認める。

1 葬儀費 葬儀費は、100万円とする。

2 逸失利益

(1) 逸失利益は、次のそれぞれに掲げる年間収入額又は年相当額から本人の生活費を控除した額に死亡時の年齢における就労可能年数のライプニッツ係数(別表Ⅱ-1)を乗じて算出する。ただし、生涯を通じて全年齢平均給与額(別表Ⅲ)の年相当額を得られる蓋然性が認められない場合は、この限りでない。

① 有職者 事故前1年間の収入額と死亡時の年齢に対応する年齢別平均給与額(別表Ⅳ)の年相当額のいずれか高い額を収入額とする。ただし、次に掲げる者については、それぞれに掲げる額を収入額とする。ア 35歳未満であって事故前1年間の収入額を立証することが可能な者 事故前1年間の収入額、全年齢平均給与額の年相当額及び年齢別平均給与額の年相当額のいずれか高い額。イ 事故前1年間の収入額を立証することが困難な者 (ア) 35歳未満の者 全年齢平均給与額の年相当額又は年齢別平均給与額の年相当額のいずれか高い額。(イ) 35歳以上の者 年齢別平均給与額の年相当額。ウ 退職後1年を経過していない失業者(定年退職者等を除く。) 以上の基準を準用する。この場合において、「事故前1年間の収入額」とあるのは、「退職前1年間の収入額」と読み替えるものとする。

② 幼児・児童・生徒・学生・家事従事者 全年齢平均給与額の年相当額とする。ただし、59歳以上の者で年齢別平均給与額が全年齢平均給与額を下回る場合は、年齢別平均給与額の年相当額とする。

③ その他働く意思と能力を有する者 年齢別平均給与額の年相当額とする。ただし、全年齢平均給与額の年相当額を上限とする。

(2) (1)にかかわらず、年金等の受給者の逸失利益は、次のそれぞれに掲げる年間収入額又は年相当額から本人の生活費を控除した額に死亡時の年齢における就労可能年数のライプニッツ係数(別表Ⅱ-1)を乗じて得られた額と、年金等から本人の生活費を控除した額に死亡時の年齢における平均余命年数のライプニッツ係数(別表Ⅱ-2)から死亡時の年齢における就労可能年数のライプニッツ係数を差し引いた係数を乗じて得られた額とを合算して得られた額とする。ただし、生涯を通じて全年齢平均給与額(別表Ⅲ)の年相当額を得られる蓋然性が認められない場合は、この限りでない。

年金等の受給者とは、各種年金及び恩給制度のうち原則として受給権者本人による拠出性のある年金等を現に受給していた者とし、無拠出性の福祉年金や遺族年金は含まない。

① 有職者 事故前1年間の収入額と年金等の額を合算した額と、死亡時の年齢に対応する年齢別平均給与額(別表Ⅳ)の年相当額のいずれか高い額とする。ただし、35歳未満の者については、これらの比較のほか、全年齢平均給与額の年相当額とも比較して、いずれか高い額とする。

② 幼児・児童・生徒・学生・家事従事者 年金等の額と全年齢平均給与額の年相当額のいずれか高い額とする。ただし、59歳以上の者で年齢別平均給与額が全年齢平均給与額を下回る場合は、年齢別平均給与額の年相当額と年金等の額のいずれか高い額とする。

③ その他働く意思と能力を有する者 年金等の額と年齢別平均給与額の年相当額のいずれか高い額とする。ただし、年齢別平均給与額が全年齢平均給与額を上回る場合は、全年齢平均給与額の年相当額と年金等の額のいずれか高い額とする。

(3) 生活費の立証が困難な場合、被扶養者がいるときは年間収入額又は年相当額から35%を、被扶養者がいないときは年間収入額又は年相当額から50%を生活費として控除する。

3 死亡本人の慰謝料 死亡本人の慰謝料は、400万円とする。

4 遺族の慰謝料 慰謝料の請求権者は、被害者の父母(養父母を含む。)、配偶者及び子(養子、認知した子及び胎児を含む。)とし、その額は、請求権者1人の場合には550万円とし、2人の場合には650万円とし、3人以上の場合には750万円とする。

なお、被害者に被扶養者がいるときは、上記金額に200万円を加算する。

死亡事案では,遺族の慰謝料の請求権者の範囲が父母・配偶者・子に限定されている点,及び死亡本人の慰謝料と遺族の慰謝料とが別枠で加算される点が,裁判基準による死亡慰謝料の考え方と異なる。死亡事故の損害項目全体の整理は,交通死亡事故の損害額を参照されたい。

5 第5 死亡に至るまでの傷害による損害

第5 死亡に至るまでの傷害による損害

死亡に至るまでの傷害による損害は、積極損害〔治療関係費(死体検案書料及び死亡後の処置料等の実費を含む。)、文書料その他の費用〕、休業損害及び慰謝料とし、「第2 傷害による損害」の基準を準用する。ただし、事故当日又は事故翌日死亡の場合は、積極損害のみとする。

6 第6 減額

第6 減額

1 重大な過失による減額

被害者に重大な過失がある場合は、次に掲げる表のとおり、積算した損害額が保険金額に満たない場合には積算した損害額から、保険金額以上となる場合には保険金額から減額を行う。ただし、傷害による損害額(後遺障害及び死亡に至る場合を除く。)が20万円未満の場合はその額とし、減額により20万円以下となる場合は20万円とする。

2 受傷と死亡又は後遺障害との間の因果関係の有無の判断が困難な場合の減額

被害者が既往症等を有していたため、死因又は後遺障害発生原因が明らかでない場合等受傷と死亡との間及び受傷と後遺障害との間の因果関係の有無の判断が困難な場合は、死亡による損害及び後遺障害による損害について、積算した損害額が保険金額に満たない場合には積算した損害額から、保険金額以上となる場合には保険金額から5割の減額を行う。

第6の1が掲げる減額割合の表は,次のとおりである。

被害者の過失割合後遺障害又は死亡に係るもの傷害に係るもの
7割未満減額なし減額なし
7割以上8割未満2割減額2割減額
8割以上9割未満3割減額2割減額
9割以上10割未満5割減額2割減額

7 附則

附 則

この告示は、平成十四年四月一日から施行し、同日以後に発生する自動車の運行による事故に係る自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払から適用する。

附 則(平成二十二年金融庁・国土交通省告示第一号)

この告示は、平成二十二年四月一日から施行し、同日以後に発生する自動車の運行による事故に係る自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払から適用する。

附 則(令和元年金融庁・国土交通省告示第三号)

この告示は、令和二年四月一日から施行し、同日以後に発生する自動車の運行による事故に係る自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払から適用する。

いずれの附則も,適用の基準時を保険金等の支払時ではなく事故の発生時としている。したがって,令和2年3月31日までに発生した事故については,支払が令和2年4月1日以後であっても改正前の支払基準が適用される。平成14年4月から令和2年3月までに発生した事故については,休業損害が1日につき5700円,傷害慰謝料が1日につき4200円である。

第3 支払基準が引用する別表

1 別表Ⅰ 労働能力喪失率表

支払基準は逸失利益の算定を別表に委ねているため,別表を見なければ計算ができない。国土交通省は,別表を各種資料のページで個別のPDFとして公開している。

別表Ⅰの労働能力喪失率表は,自賠令別表第一については第1級及び第2級とも100/100とし,自賠令別表第二については第1級から第3級までを100/100,第4級を92/100,第5級を79/100,第6級を67/100,第7級を56/100,第8級を45/100,第9級を35/100,第10級を27/100,第11級を20/100,第12級を14/100,第13級を9/100,第14級を5/100と定める。この表は令和元年改正の対象外であり,平成13年の告示制定時から変更されていない。

2 別表Ⅱ-1 就労可能年数とライプニッツ係数表

別表Ⅱ-1は,令和元年改正によって法定利率年3パーセントを前提とする係数に改められた。

別表Ⅱ-1 就労可能年数とライプニッツ係数表

同表の注は,就労可能年数の定め方を明示している。すなわち,18歳未満の有職者及び家事従事者並びに18歳以上の者については,52歳未満の者は67歳とその者の年齢との差に相当する年数とし,52歳以上の者は「第22回生命表(完全生命表)」による男又は女の平均余命のうちいずれか短い平均余命の2分の1の年数(1年未満の端数は切上げ)とする。また,18歳未満の者(有職者及び家事従事者を除く。)については,就労可能年数を67歳とその者の年齢との差から18歳とその者の年齢との差を控除して求め,ライプニッツ係数も同様に,67歳までの年数に対応する係数から18歳までの年数に対応する係数を控除して求める。国土交通省が公開する就労可能年数とライプニッツ係数表でも同じ内容を確認できる。

3 別表Ⅱ-2 平均余命年数とライプニッツ係数表

別表Ⅱ-2は,年金等の受給者の逸失利益を算定する際に用いる表であり,平均余命年数は「第22回生命表(完全生命表)」による年数(1年未満の端数は切下げ)とされている。

別表Ⅱ-2 平均余命年数とライプニッツ係数表

国土交通省が公開する平均余命年数とライプニッツ係数表も同じ表である。

4 別表Ⅲ及び別表Ⅳ 平均給与額

別表Ⅲの全年齢平均給与額(平均月額)は男409,100円,女298,400円であり,別表Ⅳは18歳から73歳以上までの年齢別平均給与額(平均月額)を男女別に掲げる。いずれも,平成30年賃金構造基本統計調査第1表産業計(民営+公営)により求めた企業規模10人から999人まで・学歴計の男女別の平均給与額(臨時給与を含む。)を,その後の賃金動向を反映するため1.003倍し,100円未満の端数を四捨五入したものである。

別表Ⅲ 全年齢平均給与額及び別表Ⅳ 年齢別平均給与額

これらは平均月額であるから,支払基準にいう「年相当額」を求めるには12倍する必要がある。国土交通省が公開する全年齢平均給与額のPDFに,別表Ⅲと別表Ⅳの双方が収録されている。

5 後遺障害等級表

支払基準が前提とする後遺障害等級表は,自賠令別表第一及び別表第二であり,国土交通省が公開するPDFの表題には「平成22年6月10日以降発生の事故に適用」と付記されている。別表第一の備考は「各等級の後遺障害に該当しない後遺障害であって、各等級の後遺障害に相当するものは、当該等級の後遺障害とする。」と定めており,いわゆる相当等級の根拠となる。

第4 支払基準の解釈及び運用上の留意点

1 慰謝料の対象となる日数

支払基準第2の3(2)は,慰謝料の対象となる日数を「被害者の傷害の態様、実治療日数その他を勘案して、治療期間の範囲内とする」と定めるにとどまり,具体的な計算方法を書いていない。国土交通省の自賠責保険(共済)の限度額と補償内容も,「1日4,300円が支払われ、対象日数は被害者の傷害の状態、実治療日数などを勘案して治療期間内で決められます。」と説明するにとどまる。

実務では,治療期間(事故日から完治日又は症状固定日まで)の全日数と,実通院日数(入院日数に実際に通院した日数を加えた日数)の二倍とを比較し,少ない方を対象日数とする運用が行われている。この二倍という取扱いは,交通事故サポートセンターHP「自賠責保険のしくみと慰謝料計算方法」などで説明されているが,告示にも国土交通省の説明にも明文の根拠はなく,損害保険料率算出機構における損害調査の運用として定着したものと整理するのが正確である。この運用によれば,二日に一回以下の通院ペースの場合,通院一回当たりの傷害慰謝料は8600円に相当することになる。

2 柔道整復等の費用

支払基準第2の1(1)⑧は,免許を有する柔道整復師,あんま・マッサージ・指圧師,はり師,きゅう師が行う施術費用を「必要かつ妥当な実費」とする。健康保険を使わない自費の施術であることのみを理由として支払の対象から外れるわけではなく,支払の可否は施術の有効性及び相当性によって判断される。自賠責保険には柔道整復の施術料金についての算定基準が存在しないため,実務上は健康保険の療養費の算定基準や労災保険の柔道整復師施術料金算定基準が事実上のものさしとして援用されることがある(髙津陽介『柔道整復師が知っておくべき法的知識Q&A』(日本法令,2022年)149頁~167頁)。

他方,同⑧が挙げるのは免許を有する施術者による施術であるから,免許を要しない整体,カイロプラクティック,リラクゼーション等の費用は同⑧の対象ではない。施術費をめぐる健康保険及び広告規制の問題は,整骨院・接骨院と交通事故の施術費で詳しく扱っている。

なお,あん摩マツサージ指圧師,はり師,きゆう師等に関する法律19条1項(視覚障害者以外の者を対象とするあん摩マツサージ指圧師の養成施設等の新設等の不認定)については,最高裁判所第二小法廷令和4年2月7日判決(令和3年(行ツ)第73号非認定処分取消請求事件,棄却,民集76巻2号101頁)が,同項は憲法22条1項に違反しないと判示している(意見がある。)。

3 診断書等の費用及び文書料

支払基準第2の1(1)⑩は診断書及び診療報酬明細書等の発行費用を,同(2)は交通事故証明書,被害者側の印鑑証明書,住民票等の発行費用を,それぞれ「必要かつ妥当な実費」とする。いずれも「必要かつ妥当」という限定が付されているため,損害の立証に必要な範囲を超える文書の取得費用まで当然に支払われるものではなく,どの資料の取得費用が支払われるかは,被害者請求における損害調査の過程で何が求められたかに左右される。次の投稿は,この点についての実務家の指摘である。

被保険者本人が支出した診療録及び画像記録の取得費用が弁護士費用特約の対象となるかという別の論点については,被保険者本人が支出した診療録,画像記録その他の資料取得費が弁護士費用特約の「弁護士・損害賠償請求等費用」に当たり得るかで検討している。

4 休業損害の日額及びその上限

支払基準第2の2(3)は,立証資料等により1日につき6100円を超えることが明らかな場合には,「自動車損害賠償保障法施行令第3条の2に定める金額」を限度として実額によるとする。自賠令3条の2は,「法第十六条の二の政令で定める損害は、被害者が療養のため労働することができないことによる損害とし、同条の政令で定める額は、一日につき一万九千円とする。」と定めており,休業損害の日額の上限は1万9000円である。告示の文言だけを読むと上限額が分からないため,この条文まで確認する必要がある。

5 重大な過失による減額

自賠責保険では民法722条2項による過失相殺は行われず,これに代わるものとして重大な過失による減額の取扱いがある。被害者の過失割合が7割未満であれば減額はなく,7割以上であって初めて,後遺障害又は死亡に係るものについては2割から5割,傷害に係るものについては一律2割の減額がされる。過失割合に応じて損害額を按分する過失相殺と比べると,被害者に有利な取扱いである(北河隆之『交通事故損害賠償法 第3版』(弘文堂,2023年)420頁)。

もっとも,この取扱いはあくまで保険会社が支払をする場面の基準であって,訴訟では前記の最高裁判所平成24年10月11日判決のとおり,裁判所が自ら認定した過失割合による過失相殺が行われる。過失割合が7割を超えるような事案では,訴訟を提起すると,重過失減額よりも重い過失相殺がされて結果的に受領額が減ることがあり得るため,手続の選択に当たって検討を要する。

6 因果関係の判断が困難な場合の減額

支払基準第6の2は,被害者が既往症等を有していたため受傷と死亡又は後遺障害との間の因果関係の有無の判断が困難な場合に,死亡による損害及び後遺障害による損害について一律5割の減額を行うと定める。訴訟における素因減額が事案ごとに減額割合を判断するのと異なり,支払基準では割合が5割に固定されている点に特徴がある。訴訟における素因減額の要件及び判断枠組みは,素因減額の要件・判例・主張立証と計算方法で扱っている。

第5 改正の経緯

1 平成13年告示による法定化

現行の支払基準は,平成13年12月21日金融庁・国土交通省告示第1号として制定され,平成14年4月1日以後に発生した事故から適用された。それまでの支払基準は通達にすぎず,これに法律上の根拠を与えたのが自賠法16条の3の新設である。

2 平成22年改正

平成22年金融庁・国土交通省告示第1号による改正は,金融庁監督局保険課及び国土交通省自動車交通局保障課が公表した改正案の概要によれば,「支払基準では、保険金等の額の算定に、厚生労働省が5年に1度公表する生命表による平均余命を用いており、最新の生命表に合わせた所要の改正を行うもの」であり,改正の内容は「支払基準別表Ⅱ-1(就労可能年数とライプニッツ係数表)及び別表Ⅱ-2(平均余命年数とライプニッツ係数表)について、最新の生命表による平均余命を用いたものに改める」ことに尽きる。金額の改定はされておらず,平成22年2月に公布され,同年4月1日から施行された。

3 令和元年改正の内容

令和元年改正は,令和元年12月12日付け官報(号外第183号)に「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準の一部を改正する件(金融庁・国土交通三)」として掲載された令和元年金融庁・国土交通省告示第3号によるものであり,同日付けで公布され,令和2年4月1日から施行された。同じ官報には,政府保障事業の「自動車損害賠償保障事業が行う損害のてん補の基準の一部を改正する件(国土交通九〇一)」も掲載されている。

改正の理由は,金融庁が公表した「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」の一部改正案の公表についてに示されている。すなわち,民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)の施行(令和2年4月1日)により法定利率が年5パーセントから年3パーセントとなるため,従来の年5パーセントを前提としたライプニッツ係数を変更する必要があること,並びに平均余命年数,物価水準及び賃金水準の変動並びに近年の保険金等の支払の実態を支払基準に反映させる必要があることである。

告示の改め文によって改正された項目は,次の13項目である。①入院中の看護料を4100円から4200円に,②近親者等による自宅看護料及び通院看護料を2050円から2100円に,③休業損害を5700円から6100円に,④傷害慰謝料を4200円から4300円に,⑤第3の1(2)の「58歳以上」を「59歳以上」に,⑥自賠令別表第一の後遺障害慰謝料を第1級1600万円から1650万円に及び第2級1163万円から1203万円に,⑦自賠令別表第二の後遺障害慰謝料を第1級1100万円から1150万円に,第2級958万円から998万円に,第3級829万円から861万円に,第4級712万円から737万円に,第5級599万円から618万円に,第6級498万円から512万円に,第7級409万円から419万円に,第8級324万円から331万円に,第9級245万円から249万円に,第10級187万円から190万円に,第11級135万円から136万円に及び第12級93万円から94万円に,⑧被扶養者がいる場合の自賠令別表第一の額を第1級1800万円から1850万円に及び第2級1333万円から1373万円に,⑨被扶養者がいる場合の自賠令別表第二の額を第1級1300万円から1350万円に,第2級1128万円から1168万円に及び第3級973万円から1005万円に,⑩葬儀費を100万円に,⑪第4の2(1)②及び(2)②の「58歳以上」を「59歳以上」に,⑫死亡本人の慰謝料を350万円から400万円に,⑬別表Ⅱ-1から別表Ⅳまでを全面改正した,というものである。

このうち⑩は,単なる増額ではなく規定の建て付けそのものの変更である。改正前の第4の1は「(1) 葬儀費は、60万円とする。(2) 立証資料等により60万円を超えることが明らかな場合は、100万円の範囲内で必要かつ妥当な実費とする。」という二段構えであったが,令和元年改正は第4の1を全部改め,立証を要しない一律100万円とした。したがって,令和2年4月1日以後に発生した事故では,葬儀費については実費の立証を要しない代わりに,100万円を超える実費を主張する余地も支払基準上はない。

4 据え置かれた項目

令和元年改正で据え置かれた項目を確認しておくことも,改正前後の比較には有用である。入院中の諸雑費1日1100円,眼鏡(コンタクトレンズを含む。)の5万円の限度額,後遺障害慰謝料のうち第13級57万円及び第14級32万円,遺族の慰謝料(請求権者1人550万円,2人650万円,3人以上750万円及び被扶養者がいる場合の200万円の加算),生活費控除率(被扶養者がいるとき35パーセント,いないとき50パーセント),自賠令別表第一該当時の初期費用等(第1級500万円,第2級205万円),第6の重大な過失による減額の割合,因果関係の判断が困難な場合の5割減額,及び別表Ⅰの労働能力喪失率表は,いずれも改正されていない。

5 パブリックコメントの結果

改正案は令和元年10月4日から同年11月2日まで意見募集に付され,その結果は金融庁の「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」の一部改正案に対するパブリックコメントの結果等についてで公表された。寄せられた意見は「就労可能年数を、少なくとも健康寿命の男性72歳、女性74歳に変更すべきである。」という1件であり,これに対して金融庁及び国土交通省は「判例実務において、就労可能年数は、67歳までが基本とされております。このことを踏まえ、改正後の自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準においても、就労可能年数を、67歳までとしております。」と回答し,改正案は修正されずに告示された。なお,改正案の内容については,重次法律事務所HP「自賠責保険の支払基準改正の告示(2019.10.4)」でも解説されている。

第6 法定利率と別表Ⅱの関係

1 令和2年4月1日の引下げ

別表Ⅱ-1及び別表Ⅱ-2のライプニッツ係数は,中間利息控除の利率として法定利率を用いる。民法404条2項は「法定利率は、年三パーセントとする。」と定め,同条3項は「法定利率は、法務省令で定めるところにより、三年を一期とし、一期ごとに、次項の規定により変動するものとする。」と定めている。平成29年改正前の年5パーセントから年3パーセントへの引下げが令和2年4月1日に施行されたことに合わせて,別表Ⅱが改められたものである。

2 令和8年4月1日以降の据置き

法定利率は変動制であるが,令和8年4月1日以降も年3パーセントのまま据え置かれた。法務省が公表する令和8年4月1日以降の法定利率についてによれば,第3期(令和8年4月1日から令和11年3月31日まで)における基準割合は年0.4パーセントと告示され(民法第四百四条第五項の規定に基づき、令和八年四月一日から令和十一年三月三十一日までの期における基準割合を告示する件・令和7年法務省告示第73号),第1期の基準割合0.7パーセントからの変動が1パーセント未満であるため,法定利率は年3パーセントのまま変動しないこととなった。

したがって,支払基準の別表Ⅱが用いる年3パーセントのライプニッツ係数を改める必要は当面生じない。法定利率が次に変動し得るのは令和11年4月1日であるから,本記事が扱う支払基準は,少なくとも令和11年3月31日までは同じ内容で運用される見込みである。遅延損害金の利率としての法定利率の扱いは,遅延損害金に関するメモ書きを参照されたい。

第7 請求手続及び期間制限

1 加害者請求,被害者請求及び一括払

自賠責保険の保険金等を受け取る経路には,加害者側が被害者に賠償金を支払った後に保険会社へ請求する加害者請求(自賠法15条)と,被害者が保険会社に対して直接請求する被害者請求(同法16条1項)とがある。自賠法15条は「被保険者は、被害者に対する損害賠償額について自己が支払をした限度においてのみ、保険会社に対して保険金の支払を請求することができる。」と定め,同法16条1項は「第三条の規定による保有者の損害賠償の責任が発生したときは、被害者は、政令で定めるところにより、保険会社に対し、保険金額の限度において、損害賠償額の支払をなすべきことを請求することができる。」と定める。いずれの場合も,支払の前提となる責任原因は,同法3条の運行供用者責任である。

実際には,加害者が任意保険にも加入している場合,任意保険会社が自賠責保険の保険金を含めて一括して支払う一括払制度が用いられることが多い。国土交通省の「交通事故にあったときには」も,任意保険会社が「被保険者に対して支払責任を負う限度において、加害者に代わって自賠責保険の保険金を含めてお支払いすることがあります」と説明している。一括払と示談代行の関係は,任意保険の示談代行とはで扱っている。

2 仮渡金

自賠法17条1項は,被害者が保険会社に対し,損害賠償額の支払のための仮渡金を請求できると定める。その金額は自賠令5条が定めており,死亡した者は290万円,同条2号に掲げる重い傷害を受けた者は40万円,同条3号に掲げる傷害を受けた者は20万円,11日以上医師の治療を要する傷害を受けた者は5万円である。仮渡金の額が支払うべき損害賠償額を超えた場合には,保険会社はその超えた金額の返還を請求することができる(同条3項)。

3 時効

自賠法19条は「第十六条第一項及び第十七条第一項の規定による請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び保有者を知つた時から三年を経過したときは、時効によつて消滅する。」と定める。国土交通省の「交通事故にあったときには」は,被害者請求の起算点について,傷害は事故の発生,後遺障害は症状固定,死亡は死亡とし,加害者請求については損害賠償金を支払った時からとしている。消滅時効一般の問題は,消滅時効に関するメモ書きで扱っている。

第8 支払基準に関する最高裁判所の判例

1 保険金額を超える場合の優劣及び履行期

最高裁判所第一小法廷平成30年9月27日判決(平成29年(受)第659号保険金請求事件,民集72巻4号432頁)は,二つの点を判示している。第一は,交通事故の被害者が労働者災害補償保険法に基づく給付を受けてもなお填補されない損害について自賠法16条1項に基づく請求権を行使する場合,他方で同法12条の4第1項により国に移転した請求権が行使され,被害者の請求権の額と国に移転した請求権の額との合計額が自賠責保険の保険金額を超えるときであっても,被害者は,国に優先して保険金額の限度で損害賠償額の支払を受けることができる,という点である。

第二は,自賠法16条の9第1項にいう「当該請求に係る自動車の運行による事故及び当該損害賠償額の確認をするために必要な期間」の意義であり,同判決は,これを「保険会社において、被害者の損害賠償額の支払請求に係る事故及び当該損害賠償額の確認に要する調査をするために必要とされる合理的な期間をいい、その期間については、事故又は損害賠償額に関して保険会社が取得した資料の内容及びその取得時期、損害賠償額についての争いの有無及びその内容、被害者と保険会社との間の交渉経過等の個々の事案における具体的事情を考慮して判断すべきである。」とした。被害者請求に対する保険会社の遅滞の有無を争う場面で参照される判断である。労災保険給付との調整の実務は,労災保険又は障害年金を支給される可能性がある事案における示談及び損益相殺とはで扱っている。

2 健康保険の保険者による代位

最高裁判所第一小法廷平成10年9月10日判決(平成6年(オ)第651号求償金事件,破棄差戻し,集民189号819頁)は,「国民健康保険の被保険者である交通事故の被害者が、保険者から療養の給付を受けるのに先立って、自動車損害賠償保障法一六条一項の規定に基づき損害賠償額の支払を受けた場合には、保険会社が支払に当たって算定した損害の内訳のいかんにかかわらず、右被保険者の第三者に対する損害賠償請求権は右支払に応じて消滅し、右保険者は、国民健康保険法六四条一項の規定に基づき、療養の給付の時に残存する額を限度として損害賠償請求権を代位取得する。」と判示した。

国民健康保険法64条1項は,保険者が「その給付の価額(当該保険給付が療養の給付であるときは、当該療養の給付に要する費用の額から当該療養の給付に関し被保険者が負担しなければならない一部負担金に相当する額を控除した額とする。…)の限度において、被保険者が第三者に対して有する損害賠償の請求権を取得する」と定めている。ここでいう療養の給付とは,被保険者証を提示して医療機関で診療を受ける現物給付をいい,被保険者が費用の全額を支払った後に払戻しを受ける療養費とは区別される。自賠責保険から先に支払を受けると,その後に給付を受ける保険者の代位できる範囲が縮減される関係にあるため,健康保険を使う順序は実際上の意味を持つ。詳しくは交通事故でも健康保険は使えるを参照されたい。

第9 損害額の算定に関連する最高裁判所の判例

1 一部請求と過失相殺

最高裁判所第一小法廷昭和48年4月5日判決(昭和43年(オ)第943号損害賠償請求事件,棄却,民集27巻3号419頁)は,二つの点を判示している。第一に,「同一事故により生じた同一の身体傷害を理由として財産上の損害と精神上の損害との賠償を請求する場合における請求権および訴訟物は、一個である。」とした。第二に,「不法行為に基づく一個の損害賠償請求権のうちの一部が訴訟上請求されている場合に、過失相殺をするにあたつては、損害の全額から過失割合による減額をし、その残額が請求額をこえないときは右残額を認容し、残額が請求額をこえるときは請求の全額を認容することができるものと解すべきである。」とした。いわゆる外側説を採用したものである。

2 労働能力の一部喪失と財産上の損害

最高裁判所第三小法廷昭和56年12月22日判決(昭和54年(オ)第354号損害賠償事件,破棄差戻し,民集35巻9号1350頁)は,「交通事故による後遺症のために身体的機能の一部を喪失した場合においても、後遺症の程度が比較的軽微であつて、しかも被害者が従事する職業の性質からみて現在又は将来における収入の減少も認められないときは、特段の事情のない限り、労働能力の一部喪失を理由とする財産上の損害は認められない。」と判示した。自賠責保険の支払基準が等級ごとの労働能力喪失率を機械的に適用するのに対し,訴訟では減収の有無が問題とされ得ることを示す判例である。

3 車両損傷を理由とする損害賠償請求権

最高裁判所第三小法廷令和3年11月2日判決(令和2年(受)第1252号損害賠償請求事件,民集75巻9号3643頁)は,「交通事故の被害者の加害者に対する車両損傷を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権の民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)724条前段所定の消滅時効は、同一の交通事故により同一の被害者に身体傷害を理由とする損害が生じた場合であっても、被害者が、加害者に加え、上記車両損傷を理由とする損害を知った時から進行する。」と判示した。車両損傷を理由とする損害と身体傷害を理由とする損害とは被侵害利益を異にするから,消滅時効の起算点も別に判断されることになる。もっとも,自賠責保険は人身損害のみを対象とするから,車両損傷は支払基準の適用対象外である。物損の処理は物損事故の示談で扱っている。

第10 自賠責保険をめぐる令和8年の動き

1 基準料率の引上げ

支払基準が被害者に支払われる額の基準であるのに対し,自動車ユーザーが負担する保険料の基準は基準料率であり,両者は別の制度である。第152回自動車損害賠償責任保険審議会(令和8年4月17日)では,令和7年度の料率検証結果として,診療費の増加並びに賃金及び物価の上昇を背景に純保険料率及び付加保険料率のいずれにおいても収入が不足していること,現行料率の算出時に使用した滞留資金残高7239億円と比べて2025年度末時点の滞留資金が5215億円と約2000億円少ないことが報告され,令和8年度から収入と支出が見合う料率水準とすることが適当であるとの方向性が示された。

これを受けて,第153回自動車損害賠償責任保険審議会(令和8年4月30日)では,全車種等の平均で6.2パーセントの引上げとなる新たな基準料率を本年11月1日から使用可能とすることが了承された。自賠責保険料は2013年度以降引下げ改定が続いてきたから,この改定はその基調の転換に当たる。損害保険料率算出機構の自賠責保険基準料率のページでも基準料率の届出状況を確認できる。

2 賦課金及び繰戻し

第152回審議会では,一般会計から自動車安全特別会計への繰戻しについての報告もされ,委員から,賦課金は安定財源として導入されたものであることを踏まえた周知を求める意見のほか,「賦課金について、被害者保護支援事業の充実・安定的継続を前提としつつ、全額繰戻しという大きな環境変化を踏まえ、見直し(引下げ・廃止を含む)を前提に検討するよう強く要望したい」との意見が出された。賦課金の根拠は自賠法78条(自動車事故対策事業賦課金)であり,被害者保護増進等事業の内容は同法77条の2に定められている。

3 業界共同システムの導入

第153回審議会では,自賠責保険の引受け及び契約管理に係る業界共同システムである「One-JIBAI」並びに損害調査業務に係る業界共同システムである「s-JIBAI」の導入に伴う自賠責保険普通保険約款の一部変更等が了承された。約款の現行版は,日本損害保険協会HPの「自動車損害賠償責任保険約款」及び国土交通省が公開する自動車損害賠償責任保険普通保険約款で確認できる。

第11 関連資料及び関連記事

1 三つの算定基準

交通事故の損害額の算定基準としては,本記事が扱う自賠責保険の支払基準のほか,各保険会社が定める任意保険の支払基準,及び裁判実務で用いられる基準がある。裁判実務で用いられる基準を整理した刊行物として,日弁連交通事故相談センター本部編『交通事故損害額算定基準』(通称・青本)と,同センター東京支部編『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準』(通称・赤い本)とがある。青本は隔年で改訂され,当センターの刊行物について(青本及び赤い本)によれば最新版は令和8年2月発行の30訂版である。赤い本の講演録を素材とした検討は,交通事故のインプラント治療費はどこまで損害になるかで行っている。

2 統計及び刊行物

自賠責保険の運用状況を調べる資料としては,国土交通省HPの「統計情報」に自賠責保険(共済)の損害別支払保険金(共済金)の推移(会計年度)等が,金融庁HPの「自動車損害賠償責任保険審議会」に審議会の議事録及び資料が,損害保険料率算出機構HP「刊行物」に自賠責保険(共済)損害調査のしくみ等が掲載されている。ライプニッツ係数及びホフマン係数を利率別に一覧できる資料としては,交通事故トラブル解決ガイド「ライプニッツ係数・ホフマン係数(年2%~5%の利率別)」がある。

自動運転車に係る損害賠償責任については,国土交通省HPの「「自動運転における損害賠償責任に関する研究会」の報告書を公表します!」(平成30年3月20日付け)に,研究会報告書の概要版及び全体版が掲載されている。

3 関連する当ブログの記事

自賠責保険及びその周辺の実務については,昭和48年9月1日付けの日本損害保険協会及び日弁連交通事故相談センターの覚書(交通事故損害賠償に関するもの)人身傷害保険の補償範囲と請求順序任意保険が適用されない場合弁護士費用特約東京地裁民事第27部(交通部)及び交通事故のカテゴリーの各記事で扱っている。山中理司法律事務所の交通事故サイトにも弁護士費用特約の解説がある。

出典・参考資料

1 法令

自動車損害賠償保障法(昭和30年法律第97号)3条,13条,15条,16条,16条の2,16条の3,16条の9,17条,19条,23条の3,23条の5,23条の6,77条の2,78条

自動車損害賠償保障法施行令(昭和30年政令第286号)2条,3条の2,5条

民法(明治29年法律第89号)404条

国民健康保険法(昭和33年法律第192号)64条

2 告示等

① 自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準(平成13年金融庁・国土交通省告示第1号)――国土交通省公開PDF

② 自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準の一部を改正する件(令和元年金融庁・国土交通省告示第3号)――令和元年12月12日付け官報(号外第183号)

③ 自動車損害賠償保障事業が行う損害の塡補の基準(平成19年国土交通省告示第415号)――国土交通省公開PDF

④ 民法第四百四条第五項の規定に基づき、令和八年四月一日から令和十一年三月三十一日までの期における基準割合を告示する件(令和7年法務省告示第73号)――法務省「令和8年4月1日以降の法定利率について」

⑤ 別表Ⅰ労働能力喪失率表,別表Ⅱ-1就労可能年数とライプニッツ係数表,別表Ⅱ-2平均余命年数とライプニッツ係数表,別表Ⅲ及び別表Ⅳ全年齢平均給与額及び年齢別平均給与額後遺障害等級表

3 裁判例

最高裁判所第一小法廷平成18年3月30日判決(平成17年(受)第1628号損害賠償請求事件,民集60巻3号1242頁)

最高裁判所第一小法廷平成24年10月11日判決(平成23年(受)第289号自賠責保険金請求事件,集民241号75頁)

最高裁判所第一小法廷平成30年9月27日判決(平成29年(受)第659号保険金請求事件,民集72巻4号432頁)

最高裁判所第一小法廷平成10年9月10日判決(平成6年(オ)第651号求償金事件,集民189号819頁)

最高裁判所第一小法廷昭和48年4月5日判決(昭和43年(オ)第943号損害賠償請求事件,民集27巻3号419頁)

最高裁判所第三小法廷昭和56年12月22日判決(昭和54年(オ)第354号損害賠償事件,民集35巻9号1350頁)

最高裁判所第三小法廷令和3年11月2日判決(令和2年(受)第1252号損害賠償請求事件,民集75巻9号3643頁)

最高裁判所第二小法廷令和4年2月7日判決(令和3年(行ツ)第73号非認定処分取消請求事件,民集76巻2号101頁)

4 公的資料

① 金融庁「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」の一部改正案の公表について(令和元年10月4日)及び同一部改正案に対するパブリックコメントの結果等について(令和元年12月12日)

② 金融庁監督局保険課・国土交通省自動車交通局保障課「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準の一部改正案について」(平成22年1月)

第152回自動車損害賠償責任保険審議会議事要旨(令和8年4月17日)及び第153回自動車損害賠償責任保険審議会議事要旨(令和8年4月30日)

④ 国土交通省自賠責保険・共済の限度額と補償内容各種資料及び「交通事故にあったときには」

「自動車損害賠償保障法及び関係政省令の改正等に伴う事務の実施細目について」(平成14年3月11日付け国自保第2358号)

5 文献

① 髙津陽介『柔道整復師が知っておくべき法的知識Q&A』(日本法令,2022年)149頁~167頁,178頁

② 坂東総合法律事務所編『実務家が陥りやすい 交通事故事件の落とし穴』(新日本法規出版,2020年)174頁~177頁

③ 北河隆之『交通事故損害賠償法 第3版』(弘文堂,2023年)35頁,418頁~420頁

6 ウェブ資料

公益財団法人日弁連交通事故相談センター「当センターの刊行物について(青本及び赤い本)」

損害保険料率算出機構「刊行物」及び自賠責保険基準料率

日本損害保険協会「自動車損害賠償責任保険約款」

重次法律事務所HP「自賠責保険の支払基準改正の告示(2019.10.4)」

交通事故サポートセンターHP「自賠責保険のしくみと慰謝料計算方法」

交通事故トラブル解決ガイド「ライプニッツ係数・ホフマン係数(年2%~5%の利率別)」