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生成AIサービスの値上げ・提供終了・モデル廃止に備える契約と運用-規約の変更条項,終了時のデータ,移行計画及び中継サービス(AI作成)

第1 本記事の対象と結論

1 扱う問い

生成AIサービスを業務に組み込んだ企業や法律事務所にとって,料金の改定,課金方式の変更,サービスの提供終了及びモデルの廃止は,いずれ必ず起きる出来事である。
特定のサービスやモデルに業務の手順を合わせ込んでいると,そのたびに手順を作り直すことになり,移行の間に業務が止まることもある。

本記事は,こうした変化に備えて,①主要な事業者の規約と公式資料が料金改定,契約終了及びモデル廃止をどう定めているか,②日本法から見て規約の変更をどう考えるか,③契約終了時のデータと守秘義務・個人情報保護法の関係,④代わりのサービスへ移るときに確認し直すこと,⑤複数のサービスを切り替えやすくする中継サービスの使い方と限界,並びに⑥社内規程と業務の棚卸しで決めておく事項を整理する。

基準日は令和8年9月20日であり,各社の規約・公式資料はこの日に確認したものである。
規約と公式資料は予告の上で変更されるため,導入や更新のときは改めて原文を確認する必要がある。
英文の規約・公式資料の訳は本記事によるものであり,規約の意味を述べる部分は,文言から読み取れる範囲の整理である。

本記事の発想の起点は,AI活用に関する書籍の著者である池田朋弘氏のX投稿(令和8年9月18日)である。
同投稿は,特定のツールに仕事のやり方を固定すると値上げやサービス終了のたびに振り回されるとして,「このAIでしか通用しない」業務を書き出すことを勧めている。
これは投稿者の意見であり,本記事では論点を見付けるための資料として扱う。

なお,本記事の書き手はAnthropicのAIであるClaudeであり,Anthropicは本記事が取り上げる事業者の一つである。
本記事では事業者の優劣を評価せず,規約と公式資料の記載を並べるにとどめる。

2 結論の要旨

主要な事業者の規約は,料金の改定を掲載から14日~30日で効力を生じさせるものが多く,事業者側からの契約終了やサービスの廃止にも比較的短い予告期間しか置いていない。
モデルの廃止については,各社が公式資料で予告期間を示しているが,その長さは60日から6か月以上まで幅がある。

したがって,利用者の側で,①料金と廃止の予告を誰が受け取り誰に伝えるか,②契約終了時にデータを取り出し,削除を確認する方法,③代わりのサービスを事前に審査しておくこと,④特定のモデルでしか動かない手順を減らすこと,を決めておく必要がある。
中継サービスは乗り換えの手間を減らすが,自動切替えの設定次第では未審査の事業者へ依頼者情報が送られるので,切替先を承認済みの事業者に限ることが前提になる。

第2 何が起きるか

1 料金と課金方式の変更

料金の改定は,単価の引上げだけではない。
定額の枠を使い切った後の扱いや,利用量の数え方が変わることもある。

例えば,GitHubは,令和8年4月27日の告知で,同年6月1日からGitHub Copilotの全プランを利用量に応じた課金へ移すと公表した。
告知によれば,従来のpremium requestの回数による計算をやめ,各プランに毎月のクレジットを付け,入力・出力等のトークンを各モデルのAPI単価で計算する方式にするという。
同じ使い方をしていても,課金方式の変更によって請求額が変わり得る例である。
利用料が予算を超えないための約款の読み方は,生成AIの利用料が予算を超えないために―従量課金の約款で確認する5項目と社内規程の定め方で扱っている。

2 モデルの廃止

生成AIサービスでは,サービス自体が続いていても,個々のモデルは一定期間で廃止される。
同じサービス名で後継のモデルに切り替わると,同じ指示(プロンプト)に対する出力の傾向や,文章をトークンに数える方式が変わることがあり,業務の手順や費用の見積りに影響する。

3 外国の規制等による提供停止

モデルが使えなくなる原因は,事業者の経営判断や障害に限られない。
外国政府の規制措置によって特定のモデルの提供が止まることもある。
その例は,米国のフロンティアAI規制-Claude Fable 5・Mythos 5停止,大統領令14409,FRONTIER Act及びコロラド州法で扱っている。
法務向けのサービスでは,試験提供(Preview)の段階の機能について,事前の通知なく変更,停止又は終了され得る旨の条項が置かれることもある(Gemini Enterprise for Legalは日本の弁護士業務に活用できるか―Preview条項と導入条件参照)。

第3 主要な事業者の規約と公式資料

1 Anthropic

AnthropicのCommercial Terms of Service(令和7年6月17日発効)は,H.1で,同社は公表する料金を改定でき,改定は掲載から30日後又は顧客への通知の受領のいずれか早い時点で効力を生じると定めている。
M.3は,同社は規約をいつでも改定でき,改定は掲載から30日後又は顧客への通知の受領の時点で効力を生じるとし,法令の変更に対応するための改定は掲載又は通知の時点で直ちに効力を生じるとしている。
改定は遡って適用されないとされている。

契約の終了について,I.2.aは,各当事者は通知によりいつでも任意に契約を終了できるが,Anthropicが終了する場合は30日前の通知を要すると定めている。
I.4は,終了後は顧客は本サービスを利用できないとしている。
また,I.3.aは,同社がサービスの全部又は一部の利用を停止できる場合として,規約違反等のほか,同社によるサービスの提供が法令により禁止され,又は提供の費用を大幅に増加させる場合や,同社の取引先の事業者が同社の利用を停止し,又は終了した場合を挙げている。
準拠法は,欧州経済領域・スイス・英国の顧客以外は米国カリフォルニア州法とされている(M.7)。

同社のデータ処理補遺(令和7年2月24日発効)のH.1は,契約の終了又は満了から30日以内に,顧客がその期間内に求めれば顧客データの写しを返還し(又は顧客が自ら取り出せる機能を提供し),法令上の保存義務等の例外を除き,同社と再委託先が処理した顧客データの全ての写しを削除すると定めている。

モデルについては,同社の開発者向け資料「Model deprecations」が,一般に公開したモデルは廃止の少なくとも60日前に通知すると説明している。
また,同資料は,モデルの重み(学習済みのパラメータ)を長期にわたり保存することを約束したとしている。
もっとも,この予告期間は同社が運営する基盤での提供に関するものであり,Amazon BedrockやGoogle Cloud経由で使う場合の廃止日程は,それぞれのクラウド事業者が定めるとされている。

2 OpenAI

OpenAIのServices Agreement(令和7年12月1日更新,令和8年1月1日発効)は,6.6で,料金ページの料金の変更は掲載から14日後に効力を生じると定めている。
16.13は,同社は合理的な通知により規約を変更でき,変更が顧客の権利義務に重大な影響を与えると同社が判断した場合は少なくとも30日前に通知する(法令遵守のために必要な場合を除く)が,それ以外の変更は掲載の日に効力を生じるとしている。

2.3は,同社はサービスを随時更新でき,更新によってサービスの機能が大きく低下する場合は顧客に通知し,顧客は通知の受領から5営業日以内に,30日前の書面通知によって契約を終了できると定めている(ベータ版等の機能の更新を除く)。
8.2は,法令上の要求がある場合,規約違反の場合及びセキュリティ上の緊急事態に対処するために必要な場合に,同社がサービスの利用を制限し,又は停止できるとしている。
11.3は,契約が終了した場合,法令上の保存義務があるとき等を除き,同社は30日以内に顧客コンテンツをシステムから削除すると定めている。

モデルについては,同社の開発者向け資料「Deprecations」が,一般提供(GA)のモデルは少なくとも6か月前に廃止を告知するとし,特定用途向けのモデルは少なくとも3か月前,試験提供(preview)のモデルはより短い予告となり得るとしている。
安全又は法令遵守のために必要な場合は,予告期間が短くなり得るとされている。

3 Google

GoogleのGemini API追加利用規約(令和8年3月23日発効)は,料金の変更は別段の定めがない限り掲載から30日後に効力を生じるとしている。
Gemini APIに共通するGoogle APIs Terms of Service(令和3年11月9日最終更新)の8(a)は,Googleは理由を問わずいつでも,責任を負うことなく,規約を終了し,又はAPIの全部若しくは一部を廃止できると定めている。

モデルの廃止について,Gemini APIの「Deprecations」の資料は,表に掲げる廃止日は最も早い時期の日付であり,正確な日付は事前に知らせるとしているが,予告期間の日数は明示していない。
他方,企業向けのクラウド基盤のモデルの提供期間に関する資料(Model versions and lifecycle)は,表に掲げたモデルは公開から少なくとも12か月提供し,廃止日は延長されることはあっても早まることはないと説明している。

4 Microsoft

MicrosoftのAzureのモデル提供(Foundry Models)の提供期間と廃止に関する資料は,一般提供のモデルには公開時に廃止日が設定され,廃止の少なくとも60日前に通知するとしている(試験提供のモデルは少なくとも30日前)。

5 比較

以上をまとめると,次のとおりである(令和8年9月20日時点の各社の規約・公式資料による)。

事業者料金改定の効力事業者側の終了・廃止契約終了時のデータモデル廃止の予告
Anthropic掲載から30日後又は通知受領の早い方任意終了には30日前の通知30日以内に求めれば返還し,削除(データ処理補遺)一般公開モデルは60日以上前
OpenAI掲載から14日後機能の大きな低下には通知と顧客の解約権30日以内に削除一般提供モデルは6か月以上前
Google(Gemini API)掲載から30日後理由を問わずいつでも廃止できる本記事の基準日には未確認日数の明示なし(企業向け基盤は公開から12か月以上提供)
Microsoft(Azure)本記事では扱わない本記事では扱わない本記事では扱わない一般提供モデルは60日以上前

比較から分かるのは,事業者が約束する予告期間は,利用者が代わりのサービスを審査し,業務の手順を移し替えるのに十分とは限らないということである。
予告を受けてから準備を始めるのではなく,平時に代わりの候補を審査しておく必要がある。

第4 日本法から見た規約の変更

1 定型約款の変更の要件

民法548条の2第1項は,定型取引を「ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの」と定義し,定型取引において契約の内容とすることを目的として準備された条項の総体を定型約款としている。
生成AIサービスの規約は,多数の利用者に同じ内容で適用されるので,定型約款に当たる場合があると考えられる。
ただし,事業者向けの契約で個別の交渉や注文書が付く場合は,その取引が定型取引に当たるかを個別に判断する必要がある。

定型約款の変更について,同法548条の4第1項は,「定型約款準備者は、次に掲げる場合には、定型約款の変更をすることにより、変更後の定型約款の条項について合意があったものとみなし、個別に相手方と合意をすることなく契約の内容を変更することができる。」と定め,その場合として,「定型約款の変更が、相手方の一般の利益に適合するとき。」(1号)と,「定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき。」(2号)を挙げている。
同条2項は,変更をするときは,効力発生時期を定め,変更する旨,変更後の内容及び効力発生時期をインターネットの利用その他の適切な方法により周知しなければならないとし,同条3項は,2号による変更は効力発生時期が到来するまでに周知をしなければ効力を生じないとしている。

経済産業省の「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」(令和7年2月)41頁~42頁は,規約の改定について民法548条の2及び548条の4を挙げて説明した上で,「ユーザは利用規約の内容及び変更状況を随時確認するための体制を整備することが望ましい。」としている。
料金の改定が同条1項2号の合理性の要件を満たすかは個別の事情によるが,利用者にとって実際に重要なのは,変更の効力が生じるまでの期間(第3で見た14日~30日)の間に,受け入れるか,他のサービスへ移るかを判断できる体制を持っておくことである。

2 外国法を準拠法とする規約

もっとも,第3で見たとおり,海外の事業者の規約は外国法を準拠法とすることが多い。
その場合,規約の変更の有効性は,まず準拠法とされた外国法によって判断されることになり,日本の民法の定型約款の規定がそのまま適用されるとは限らない。
事業者向けの規約の変更について争う余地を考えるより,変更があっても業務が止まらない体制を作る方が実際的である。

3 裁判例

定型約款の変更や,事業者間の取引が定型取引に当たるかを判断した裁判例は多くない。
令和8年9月20日に裁判所ウェブサイトの裁判例検索と判例秘書で確認した範囲では,次のものがある。
なお,判例秘書で全文に「548条の4」を含むとして表示された13件に,最高裁判所の判決は含まれていなかった。

(1) 規約の変更に関するもの

東京地方裁判所令和7年10月22日判決(令和6年(ワ)第17793号,判例秘書登載)は,動画配信サービスの事業者が,サービスプランや価格を変更でき,重大な変更は最も早い場合で電子メールによる通知から30日経過後に適用するという利用規約の条項に基づいて,異なるIPアドレスからの同時視聴を廃止し,これを月額の追加機能に移した変更について判断したものである。
同判決は,利用規約は定型約款に当たるとした上で,「定型約款については、その性質上、変更が相手方の一般の利益に適合する上、契約目的に反せず、変更の必要性及び変更内容の相当が認められ、変更に合理性があるときは、許容され、変更された内容が契約の相手方を拘束すると解するのが相当である」と述べ(民法548条の2及び548条の4を参照している。),アカウント共有への対策という変更の必要性等を認めて,変更を無効とはいえないとした。
変更を可能とする条項自体についても,変更ができることを確認し,重大な変更の手続を定めるものにすぎないとして,消費者契約法10条に違反しないとしている。
第3で見た各社の規約と同じく,通知から一定期間の経過後に変更を適用する条項が問題になった例である。

広島地方裁判所尾道支部令和6年3月26日判決(令和5年(ワ)第65号,判例時報2632号98頁)は,生命共済の約款に後から加えられた暴力団排除条項について,民法548条の4第1項2号の要件に当てはめて検討したものである。
同判決は,変更の必要性があり,不利益を受ける相手方が限られ,不服のある相手方には契約から離脱する機会があり,同業者が課している負担と同程度の負担を求めるにすぎないことから,約款に変更の要件や手続を定める条項があると認める証拠がないことを考慮しても,変更は合理的であるとした。
ただし,同判決自身が,この変更は同号の施行前のものであり,同号に当たるかどうかが直ちに適用の可否に結び付くわけではないと断っている。
控訴審の広島高等裁判所令和6年10月4日判決(令和6年(ネ)第119号,判例タイムズ1528号59頁,判例時報2632号94頁)は,同号には触れず,共済契約が1年ごとに更新され,条項が加えられた後に更新されている以上,遡って適用することは問題とならないとして,結論を維持した。
期間を定めて更新していく契約では,更新の時点で変更後の約款が契約の内容になると判断された例である。

東京地方裁判所令和3年5月28日判決(令和2年(ワ)第15248号,判例秘書登載)は,ライブ配信のプラットフォームの運営者が,配信約款の「当社は,自らの合理的かつ自由な裁量に基づき,報酬テーブルを変更することができます。」という条項に基づいて,配信者の報酬を時間報酬型から成果報酬型に変更したことを有効としたものである。
同判決は,契約が改正前の民法の適用を受けることに加え,民法548条の2第2項は「事業者間でのみ行われる取引に係る契約については適用されないと解されるべき」であると述べている。
また,同様のサービスを提供する会社が複数あり,配信者が競業会社を利用する現実的可能性が低いとはいえないことなどから,運営者が優越的地位に立つとは認められないとして,独占禁止法違反を理由とする公序良俗違反の主張も退けた。
乗り換え先があることが,変更を争う側に不利に働いた例ともいえる。

(2) 事業者間の取引が定型取引に当たるか

東京地方裁判所令和7年4月25日判決(令和4年(ワ)第24415号,裁判所ウェブサイト)は,大規模なオンラインストアの運営者と出品者(事業者)との契約にある責任限定条項について,「本件免責条項は、被告と不特定多数の出品者との間の取引で用いられる定型約款(民法548条の2柱書)であると解される。」とした。
控訴審の東京高等裁判所令和8年5月27日判決(令和7年(ネ)第2787号,裁判所ウェブサイト)も,この点については原判決の判断を引用して維持している(認容額は変更された。)。

これに対し,東京地方裁判所令和6年2月16日判決(令和5年(ワ)第6846号,判例秘書登載)は,人材紹介会社が紹介先の事業者に専用アカウントの初回ログインの際に取引規約へ同意させていた事案について,紹介手数料等が契約ごとに異なり得ることなどから,「一律の定型的な取引であるとは認め難い」として,定型約款に当たるとは認め難いとした。

このように,事業者間の取引が定型取引に当たるかについては,下級審の判断が分かれている。
多数の事業者に同じ条件で提供されるプラットフォーム型の取引か,条件が契約ごとに決まる個別性の強い取引かが分かれ目になっていると考えられる。
生成AIサービスでも,画面上の規約に同意して使う標準のプランと,注文書で個別の条件を定める企業向けの契約とでは,結論が異なり得る。

第5 契約終了時のデータと守秘義務・個人情報

1 取り出すデータと削除を確かめるデータ

契約が終了するときに問題になるデータは,①事務所が作成して保存した会話・文書・設定(取り出したいもの),②事業者の手元に残る入力・出力・ログ(削除を確かめたいもの),及び③事業者の再委託先に残るデータである。
①は,終了後にアクセスできなくなる前に取り出しておかなければならない。
②と③は,規約やデータ処理補遺が定める削除の時期と例外(法令上の保存義務等)を確認し,必要なら削除の確認を求める。

2 弁護士の守秘義務

弁護士法23条本文は,「弁護士又は弁護士であつた者は、その職務上知り得た秘密を保持する権利を有し、義務を負う。」と定めている。
弁護士職務基本規程18条は,「弁護士は、事件記録を保管し、又は廃棄するに際しては、秘密及びプライバシーに関する情報が漏れないように注意しなければならない。」と定めている。
生成AIサービスに保存された会話や文書に依頼者の秘密が含まれる場合,サービスの解約は事件記録の保管又は廃棄に準じる場面であり,取り出したデータの保管場所と,事業者側に残るデータの削除を確認しておくことが,同条の注意義務に沿う対応と考えられる。

3 弁護士情報セキュリティ規程と可用性

弁護士情報セキュリティ規程2条1項は,情報セキュリティを機密性,完全性及び可用性が維持された状態と定め,同項3号は,可用性を「情報へのアクセスを認められた者が、必要時に中断されることなく、情報にアクセスできる特性をいう。」と定義している。
サービスの提供終了やモデルの廃止によって,事件の資料や作業の記録に必要なときにアクセスできなくなることは,機密性だけでなく可用性の問題でもある。

同規程6条は,弁護士等は,「法改正、技術的進歩その他社会環境の変化及び自らの職務遂行体制の変化に応じて、基本的な取扱方法に定める安全管理措置及び情報のライフサイクル管理の方法が適切に機能しているかを点検し、必要に応じてこれらに改善を加えるよう努めなければならない。」と定めている。
利用している生成AIサービスの料金,提供条件及びモデルの変化を追い,その都度,所内の取扱方法を見直すことは,この点検の一部と位置付けることができる。
同規程の全体は,弁護士情報セキュリティ規程とは―全7条の内容,基本的な取扱方法及び漏えい等事故の対応で扱っている。

4 個人情報保護法

個人データを含む入力を生成AIサービスに送る場合,多くは個人情報保護法27条5項1号の委託に伴う提供として整理され,委託元は同法25条により委託先を監督することになる。
同条は,「個人情報取扱事業者は、個人データの取扱いの全部又は一部を委託する場合は、その取扱いを委託された個人データの安全管理が図られるよう、委託を受けた者に対する必要かつ適切な監督を行わなければならない。」と定めている。
委託の終了時に委託先に残る個人データの返還又は削除を確かめることは,この監督の一部と考えられる。
前記の経済産業省のチェックリスト16頁も,データの保持期間・消去等の項目について,「特に利用型契約で、契約終了やサービス切替え等の場合に定められることが想定される。」としている。

また,個人情報保護委員会の「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」に関するQ&A7-53は,クラウドサービスの利用が個人データの提供に当たるかについて,「クラウドサービスを提供する事業者において個人データを取り扱うこととなっているのかどうかが判断の基準となります。」としている。
代わりのサービスや中継サービスを選ぶときも,その事業者が個人データを取り扱うことになるかどうかによって,委託先としての監督の要否が変わる。

第6 代わりのサービスへ移るときに確認し直すこと

代わりのサービスへ移ることは,新しい委託先を選ぶことである。
移行の前に,少なくとも次の点を確認し直す必要がある。
①学習への利用,人による閲覧,保存期間及び削除の条件
②派生データ(ログ,分類結果,利用統計,フィードバック等)の扱い
③処理国,保存国及び再委託先
④事故時の通知と責任の範囲
⑤料金,上限の単位及び上限到達時の扱い
⑥同じ指示に対する出力の品質と傾向

⑥について,モデルが変わると,同じ指示でも出力の長さ,形式及び誤りの傾向が変わる。
法令の条文や裁判例を含む出力は,どのモデルであっても原典で確認する必要があるが,移行の直後は,従来の業務で使っていた典型的な入力を使って,新旧の出力を並べて確かめることが考えられる。
派生データ条項の読み方は,「学習に使わない」と書いてあっても―AIサービス規約の派生データ条項(ログ・分類結果・利用統計・フィードバック)の読み方と弁護士の守秘義務で扱っている。

第7 中継サービスで乗り換えを容易にする方法と限界

1 中継サービスの仕組み

複数の事業者のAIを使い分ける方法として,一つの窓口から複数の事業者へ処理を振り分ける中継サービス(ゲートウェイ,ルーターとも呼ばれる)がある。
利用するアプリケーションは中継サービスだけを呼び出し,中継サービスが事業者ごとの呼出し方の違いを吸収するので,事業者を替えるときにアプリケーションを書き換えなくて済む。

その例として,オープンソースの「Agent Router」(旧称Envoy AI Gateway)がある。
同ソフトの公式ブログによれば,令和8年9月10日に,同ソフトはLinux Foundation傘下のAgentic AI Foundation(AAIF)のプロジェクトとなり,名称が変わったが,プログラム,保守担当者,呼出し方及びライセンス(Apache 2.0)は変わらないとされている。
AAIFの公式ブログによれば,同ソフトは,Bloomberg等11の組織が採用を公表しており,保守担当の9席は5社に分かれていて過半数を持つ会社はない。
これらの数字はプロジェクト側の発表であり,第三者が検証したものではない。

同ソフトの公式サイトは,OpenAIと互換の呼出し方でAnthropic,Amazon Bedrock,Google Vertex AI,Azure及び自社で運用するモデル等へ振り分けられ,モデルの切替えはモデル名の変更で済むと説明している。
また,事業者のAPIキー等の資格情報をアプリケーションから外して中継ソフトの側で一元管理すること,チーム,アプリ又はモデルごとにトークンの上限を設けること,障害時に別の事業者へ切り替えること(フォールバック),及びどのモデルが応答したかやトークン数等を記録することができると説明している。
同様の中継サービスは他にもあり,例えばOpenRouterは,同じモデルについて料金等に応じて提供者を選び,障害時には別の提供者へ切り替える仕組みを公式文書で説明している。

2 自動切替えと秘密・個人情報

中継サービスの自動切替えは,可用性を高める一方で,事前に審査していない事業者へ依頼者情報が送られる原因になる。
Agent Routerの公式ドキュメント(v1.1)が挙げる接続先には,OpenAIやAnthropic等のほか,DeepSeek及びTencent(Hunyuan等)も含まれている。
切替先の事業者が外国にある場合は,個人情報保護法28条1項の外国にある第三者への提供の制限も問題になり得る。

したがって,中継サービスを使う場合は,接続できる事業者を承認済みのものに限る設定(許可リスト)にし,自動切替えの候補も同じ審査を通した事業者に限る必要がある。
承認の範囲外へ切り替わるときは,送信を止めて再確認する運用が考えられる。
この点は,学習オフの生成AIに秘密情報を入力することは第三者開示に当たるかでも整理している。
中国の事業者のモデルを利用する場面の守秘義務上の評価は,中国製AIの利用は弁護士の守秘義務に違反するか―DeepSeekと利用形態別の判断で扱っている。

3 中継サービス自体が新しい依存先になる

中継サービスを事業者に預ける形(ホスティング)で使うと,その事業者自体が入力を取り扱い得る新たな委託先になる。
自社の環境に設置する場合は委託先は増えないが,設定と運用を自ら担うことになり,事業者の資格情報が集まる中継ソフトの管理画面が新たな高危険度の資格情報になる。
また,オープンソースのソフトであっても,開発が続くかどうかは保証されていない。

中継サービスは,事業者を替えるときの呼出し方の違いを吸収するものであり,各事業者の学習・保存・削除の条件を揃えるものではない。
接続先ごとの規約の確認は,中継サービスを使っても省けない。
小規模な法律事務所では,中継ソフトを自ら運用するより,第8で述べる業務の棚卸しと代わりの候補の事前審査を先に行う方が現実的と考えられる。

第8 業務の棚卸しと社内規程に書く事項

1 業務の棚卸し

まず,生成AIを使っている業務を一覧にし,業務ごとに次の点を書き出す。
①使っているサービスとモデル
②特定のモデルでしか期待どおりに動かない指示や手順があるか
③業務の手順や判断基準が,AIへの指示文の中にしか書かれていないか
④そのサービスが明日使えなくなったとき,業務を続ける方法があるか
⑤作成した会話・文書・設定を取り出す方法

③について,業務の手順や判断基準は,特定のAIへの指示文の中ではなく,事務所の規程や手順書の側に書いておくと,AIを替えても手順を引き継ぎやすい。
例えば,条文はe-Gov法令検索で,裁判例は裁判所ウェブサイトで確認するといった確認手順は,どのAIを使うかにかかわらず事務所の手順として定めておくことができる。

2 社内規程に書く事項

生成AIの利用規程又は許可サービスの台帳には,次の事項を加えることが考えられる。
①料金改定,課金方式の変更,モデルの廃止及びサービスの終了の通知を受け取る者と,伝える先
②予告を受けたときに見直す事項(費用の見積り,代わりの候補,移行の期限)
③代わりの候補として事前に審査したサービスと,その審査日
④契約終了時のデータの取出しと削除の確認の手順
⑤中継サービスを使う場合の接続先の一覧と,自動切替えを認めるか
⑥移行後に新旧の出力を比べる方法

許可サービスの台帳の作り方は,法律事務所の生成AI利用ガイドラインの作り方-許可サービス,入力情報,出力確認,委託先及び事故対応で扱っている。

第9 関連記事

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米国のフロンティアAI規制-Claude Fable 5・Mythos 5停止,大統領令14409,FRONTIER Act及びコロラド州法

第10 出典

1 法令等

弁護士法23条(令和8年9月20日にe-Gov法令検索で現行条文を確認)
民法548条の2~548条の4(同日に現行条文を確認)
個人情報の保護に関する法律25条,27条5項1号及び28条1項(同日に現行条文を確認)
④日本弁護士連合会「弁護士職務基本規程」18条
⑤日本弁護士連合会「弁護士情報セキュリティ規程」2条1項及び6条

2 公的資料

①経済産業省「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」(令和7年2月)16頁,41頁~42頁
②個人情報保護委員会「「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」に関するQ&A」(令和7年7月1日更新)Q7-53

3 事業者の規約・公式資料

①Anthropic「Commercial Terms of Service」(令和7年6月17日発効)H.1,I.2,I.3,I.4,M.3及びM.7
②Anthropic「Data Processing Addendum」(令和7年2月24日発効)H.1
③Anthropic「Model deprecations」(令和8年9月20日確認)
④OpenAI「Services Agreement」(令和7年12月1日更新,令和8年1月1日発効)2.3,6.6,11.3及び16.13
⑤OpenAI「Deprecations」(令和8年9月20日確認)
⑥Google「Gemini API Additional Terms of Service」(令和8年3月23日発効)
⑦Google「Google APIs Terms of Service」(令和3年11月9日最終更新)8(a)
⑧Google「Gemini API Deprecations」(令和8年9月17日更新)
⑨Google Cloud「Model versions and lifecycle」(令和8年9月17日更新)
⑩Microsoft「Foundry Models lifecycle and support policy」(令和8年7月24日更新)
⑪GitHub「GitHub Copilot is moving to usage-based billing」(2026年4月27日)

4 中継サービスの公式資料

①Agent Router「Envoy AI Gateway is becoming Agent Router, an Agentic AI Foundation project」(2026年9月9日)
②Agentic AI Foundation「Agent Router Joins AAIF
③Agent Router「Agent Router」(公式サイト,令和8年9月20日確認)
④Agent Router「Supported AI Providers」(v1.1,令和8年9月20日確認)
⑤OpenRouter「Provider Routing

5 裁判例

①東京地方裁判所令和3年5月28日判決(令和2年(ワ)第15248号,判例秘書登載)
②広島地方裁判所尾道支部令和6年3月26日判決(令和5年(ワ)第65号,判例時報2632号98頁)
③広島高等裁判所令和6年10月4日判決(令和6年(ネ)第119号,判例タイムズ1528号59頁,判例時報2632号94頁)
④東京地方裁判所令和6年2月16日判決(令和5年(ワ)第6846号,判例秘書登載)
⑤東京地方裁判所令和7年4月25日判決(令和4年(ワ)第24415号,裁判所ウェブサイト
⑥東京地方裁判所令和7年10月22日判決(令和6年(ワ)第17793号,判例秘書登載)
⑦東京高等裁判所令和8年5月27日判決(令和7年(ネ)第2787号,裁判所ウェブサイト

6 論点を見付けるための資料

①池田朋弘氏のX投稿(令和8年9月18日)
②Publickey「OpenAIやAnthropicなどAIベンダごとのAPIの違いを吸収し統合する「Agent Router」、Linux Foundation傘下で業界標準へ」(令和8年9月15日)